説明

ムラサキイガイを利用した土壌改良方法

【課題】発電所の冷却水取水管・ブイ・魚網などに付着するムラサキイガイの処理を兼ねた、重油等で汚染された土壌の改善方法を提供する。
【解決手段】ムラサキイガイを中心とした付着物を破砕・脱水・乾燥・抽出して、消化腺に含まれるホモジネート液が混入した顆粒物とし、これを散布・注入することで、重油等に汚染された土壌を改善することができ、ムラサキガイの殻や身は、残渣として分離し、肥料化・浄化剤とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムラサキイガイによる重油の乳化・分解作用を利用した土壌改良法に関する。
【背景技術】
【0002】
ムラサキイガイは、イガイ目・イガイ科に属する二枚貝の一種であり、原産地は地中海沿岸であるが、船舶の底に付着するなどして世界中に分布を広げている。繁殖力が強く、足糸も強靭で容易に剥がすこともできず、駆除が不可能なほど各地に定着し、カキなどの養殖筏や発電所の取水設備などにも大量に付着し、被害を与えている。
岸壁・発電所・船底・魚網などに付着するムラサキイガイ等の量は、多量であり、一発電所当たり年間約140トンと言われ、その除去・回収が課題となっている。その殆どは埋設処理されており、その費用は推定ではあるが、年間6億円から20億円必要とも言われている。
【0003】
一方、本発明者は、漁港岸壁、漁網、さらには発電所等のプラントに付着するムラサキイガイを研究する過程で、油汚染がある環境でムラサキイガイが生息していることを見出し、さらにムササキイガイの消化腺から作成したホモジネート液は、重油の乳化・分解に強い活性があることを見出している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、石油タンカー等の不慮の事故により海洋・土壌等が大規模に汚染されたことなどから、環境汚染対策の一つとして、2002年には、工場跡地での重金属類や有機化合物による土壌汚染や地下水汚染の有無の確認や浄化が要求されるようになった。さらには、2006年に油汚染対策ガイドラインが公表され、油汚染による悪臭や井戸水の油膜の発生防除の対策も急務となっている。その油汚染に関しては、物理化学的な方法や、生物的な除去方法が種々提案されてはいるが、費用対効果の面から良い油除去方法や除去剤の開発の必要性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は、ムラサキイガイの消化腺から作成したホモジネート液が、重油の乳化・分解に強い活性があることを利用し、重油等で汚染された土壌の改善に工業的に利用できないかを検証し、その手法を確立した。すなわち、従来費用をかけて埋め立て処理をしていた厄介者であるムラサキイガイ等を利用して、重油等に汚染された土壌の改善に利用しようとするものである。
【0006】
本発明は、ムラサキイガイの殻以外の軟体部(消化腺・鰓・生殖巣等を含む)に含まれる重油分解成分で分解するには、個々のムラサキイガイにおいての分離作業が必要であったが、この分離作業を省略し、ムラサキイガイをそのまま粉砕することにより、液体成分とその乾燥顆粒物を生成し、重油等に汚染された土壌に必要量を散布・注入することで、土壌改善を行うものである。
【発明の効果】
【0007】
従来は埋め立て処分により処理してきた発電所等のプラントの厄介者であるムラサキイガイ等の一般廃棄物を、重油等に汚染された土壌改良の為の液体物または顆粒物に変え、汚染土壌等に適量に散布・注入することが出来る。つまり、プラント付着物の回収物を埋め立てるだけでなく、土壌改良の為の顆粒物に変えることで、無駄を無くし地球環境への配慮と循環型社会の構築を行うことが出来る。
【0008】
本発明は以下の点に特徴を有する。
(1)発電所冷却水の取水管・ブイ・魚網などに付着している厄介者である付着生物であるムラサキイガイを利用する。
(2)殻が薄く潰しやすい為、破砕処理がしやすいムラサキイガイ等の二枚貝の消化腺を含む軟体部から得られる液体成分とその乾燥顆粒物を生成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、発電所冷却水の取水管・ブイ・漁網などに付着する付着生物のムラサキイガイを利用する。さらに、ムラサキイガイに加え、少量のホヤ、カキやフジツボなどの付着生物も利用することができる。
【0010】
付着した付着生物と海岸漂着物(例えばビニール袋等)が混入している為、浮遊性(比重)の違いにより分別する。更に枠が5〜8cm間隔で縦棒が入った櫛で選別する。
【0011】
選別されたムラサキイガイを中心とした付着物を破砕機(ハンマー・大型ミキサー・大型ミル又はプレス機)に投入することで破砕する。破砕により、消化腺を含む軟体部から液体成分を生成し、さらにその液体成分から乾燥顆粒物を生成する。
【0012】
ムラサキイガイの場合、二枚貝の中でも薄い殻を有しており、大型ミルや大型プレス機等で破壊・脱水することができる。
【0013】
脱水した後、液体成分をエキスとして抽出・乾燥し、油分解製剤を得ることができる。殻や身は残渣として、分離し、肥料化・浄化剤とするか、あるいは廃棄する。
廃棄する場合においても、従来のムラサキイガイ全量を廃棄することに比べれば、減容化することが出来る。
【実施例】
【0014】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0015】
実験室レベルでの実証方法として、30mgのC重油を含むリン酸緩衝液6mlに、以下に説明するムラサキイガイの消化腺ホモジネート液を1ml、無菌的に添加し、時間経過に対して、同じく以下に説明する方法で重油分解率を測定した。
【0016】
ムラサキイガイの消化腺ホモジネート液の作製には、ムラサキイガイを採取後、消化腺を切除。リン酸緩衝液を湿重量の6倍量加えた。氷冷下でホモジナイズする為、一分間15,000rpmで攪拌した。その後、2,500xgで4℃、10分間の遠心分離を行って大まかな固体成分を除去し、更に4℃で約18,000xgで15分回の遠心分離を2回行うことにより細かな不溶性成分の除去を行った。最後に孔径0.2μmのメンブレンフィルターにてろ過減菌処理を行ったものを消化腺ホモジネート液とした。
【0017】
重油分解率の測定方法には、試料を48時間振盪後、クロロホルムを添加し2〜3分間、振盪し、重油成分が溶解したクロロホルム液を抽出するという操作を4〜5回繰り返す。そのようにして得た抽出液をロータリーエバポレーターで乾固し、乾固部を再度クロロホルムに溶解させ、秤量瓶に移し、80℃で5時間乾燥させる。その後重量を測定し、重油分解率を算出した。
【0018】
その結果、消化腺ホモジネート液により分離された重油は、試料Aで、分解率14.9%、Bで9.3%、Cで13.9%、Dで12.9%、Eで13.8%となり、平均すると、13.0%の分解率となった。
【0019】
以上より、消化腺ホモジネート液による分解率を約13%と仮定すれば、ムラサキイガイの1個体から重油約3.9mgが分解できる成分の粗精製が可能となる。つまり、1,000個体で、3.9gもの重油が分解可能となる。ムラサキイガイ1個体の湿重量を15gと、また1発電所からの年間廃棄量を100tと仮定すると、約26kgの重油を分解できる成分が作製でき、1%の重油汚染土であれば2.6tの土壌を処理できることになる。さらに、ムラサキイガイの成分には窒素やミネラル成分が多く含まれている事から、土着のものや新たに投入する重油分解微生物と組み合わせれば、それらの生育の促進効果も得られ、重油分解に関しての相乗効果も発揮できる。
【0020】
消化腺ホモジネート液中のタンパク質を、硫酸アンモニウムによる塩析法で分画した。硫酸アンモニウムはあらかじめ乳鉢により細かく砕いたものを用いた。また硫酸アンモニウムを消化腺ホモジネート液に添加する際には、氷冷下にてスターラーで攪拌した試料中に少量ずつ添加し、完全に溶解させた。その後、氷中に30分間放置した後、12,000xg、4℃、15分間の遠心分離を行うことにより沈殿を集め、同飽和硫酸アンモニウム濃度のリン酸緩衝液により沈殿を一度洗い洗浄し、再度、遠心分離を行った。それによって得られた沈殿に、その湿重量の5倍重のリン酸緩衝液を加えて沈殿を溶解させた。
【0021】
上記の特性を有する消化腺ホモジネート液を、必要量、土壌中へ撒布することにより土壌改善が行えるが、本発明の重油類の分解浄化工法においては、ムラサキイガイからの液体成分とその乾燥顆粒物作製時には、殻等の分別廃棄を行わなくても良く、管理が簡略化できる。
【0022】
具体的には、発電所冷却水の取水管・ブイ・魚網などに付着する付着生物は殆どがムラサキイガイであり、一部、ブイ・魚網にはムラサキイガイに加え、少量のホヤ、カキやフジツボが付着している。これらのムラサキイガイを中心とした付着生物を従来通り分別せず、付着生物と海岸漂着物(例えばビニール袋等)を合わせて回収する。
【0023】
混入している海岸漂着物は、浮遊性(比重)の違いにより分別する。更に枠が5〜8cm間隔で縦棒が入った櫛で選別する。
【0024】
選別されたムラサキイガイを中心とした付着物を破砕機(ハンマー・大型ミキサー又は大型ミル・大型プレス機)に投入することで破砕・脱水する。破砕により、消化腺等の軟体部に含まれる重油分解成分が混入した液体成分を生成する。
【0025】
ムラサキイガイの場合、二枚貝の中でも薄い殻を有しており、大型ミル、大型プレス機で破壊・脱水が可能となっている。
【0026】
脱水して得た液体成分をエキスとして濃縮・乾燥し、油分解製剤を得ることが出来る。殻や身は残渣として、分離し、肥料化・浄化剤とするか、廃棄することも出来るが、廃棄する場合においても、従来のムラサキイガイ全量を廃棄することに比べれば、減容化することが出来る。更に、エキス分を抽出した場合には、廃棄分は、従来に比べて減容化することが出来、廃棄物処理の工程数も軽減することが出来る。
【0027】
液体成分又は乾燥成分を汚染土壌に散布・注入することで、それらに含まれる重油乳化成分により、重油が乳化・分解され、土壌改善となる。
【0028】
乾燥した身(消化腺を含む軟体部)でも乳化・分解が起こることを確認している。さらに,リン酸緩衝液でなく,水道水でも乳化・分解が起こることを確認しており,簡易な土壌改善法に資することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
従来費用をかけて埋め立て処理していたムラサキイガイなどの付着生物などを、簡単な分別と破砕処理により、重油汚染の土壌改善に利用可能な顆粒物等とし、この顆粒物等を使用することで、油汚染した土壌浄化を行うことができる。
従って、本発明の方法は、ムラサキイガイの処理を兼ねた土壌改善法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重油類に汚染された土壌を生物が持つ成分の分解能により分解浄化する重油類の分解浄化工法であって、
前記生物として、海生付着生物の消化線に含まれる重油乳化及び分解成分を採用し、
前記乳化及び分解成分は海生付着生物を破砕することにより得られる液体成分とその乾燥顆粒物であることを特徴とする、汚染土壌を浄化する工法
【請求項2】
前記海生付着生物はムラサキイガイ、イガイ及び又はムラサキインコガイからなることを特長とした請求項1記載の汚染土壌を浄化する工法
【請求項3】
請求項1から2に記載の海生付着生物を汚染土壌に散布又は注入することを特徴とする汚染土壌を浄化する工法
【請求項4】
請求項1から2に記載の液体成分とその乾燥顆粒物を重油類に汚染された汚染土壌に散布又は注入することを特長とする汚染土壌を浄化する工法


【公開番号】特開2009−11906(P2009−11906A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174876(P2007−174876)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】