説明

メソトリオンの多形体を調製する方法

メソトリオン水溶液からのメソトリオンの多形体の結晶化を選択的に制御して熱力学的に安定な形態1または動力学的に安定な形態2を得る方法であって、メソトリオン水溶液のpHをある値に調節し、熱力学的に安定な形態1または動力学的に安定な形態2を最終的に得る操作を含む方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソトリオンの多形体の結晶化を選択的に制御する方法に関する。本発明はさらに、pHを利用して多形体の形成を制御することに関する。本発明はさらに、1つの多形体を別の多形体に変換する方法に関する。本発明はさらに、メソトリオンの1つの特別な多形体に関する。
【背景技術】
【0002】
作物の生長を妨げる雑草その他の植物から作物を保護することは、農業に常につきまとう問題である。この問題に対処するため、合成化学の分野の研究者は、そのような望ましくない生長を制御するのに有効な多彩な化合物と化学組成物を製造してきた。多くのタイプの化学的除草剤が文献に開示されており、多くのものが市販されている。市販されている除草剤と、まだ開発中のいくつかの除草剤が、イギリス作物保護協会によって2003年に発売された『The Pesticide Manual』、第13版に記載されている。
【0003】
多数の除草剤は作物用植物に損害も与える。したがって生長中の作物に混ざった雑草を制御するには、雑草を殺す一方で、作物には損害を与えないように選択されたいわゆる“選択的”除草剤を使用する必要がある。実際には、特定の散布量で雑草をすべて殺す一方で作物は損害を受けないという点で十分に選択的な除草剤はほとんど存在していない。たいていの選択的除草剤を使用するとき、実際には、雑草の大半を許容できる程度に制御するのに十分な除草剤を散布することと、作物に最小限の損害しか与えないことの間のバランスが問題になる。知られている1つの選択的除草剤はメソトリオン(2-(4-メチルスルホニル-2-ニトロベンゾイル)シクロヘキサン-1,3-ジオン)である。
【0004】
ある有機化合物には結晶構造が1つしかないのに対し、別の有機化合物には結晶構造が2つ以上ある(多形体として知られる)ことが知られている。所定の化合物に関して異なる多形体の数を予測することはできず、その物理的、化学的、生物学的な性質を予測することもできない。
【0005】
メソトリオンの結晶化は主として水溶液中でpHをシフトさせることによってなされ、そのことによって可溶性の塩が不溶性の遊離酸へと変換されるために高収率になる。メソトリオンは2つの多形体で存在していることが最近発見された。すなわち、形態1として知られる熱力学的に安定な形態と、形態2として知られる準安定な形態である。
【0006】
水溶液中の結晶化では、形態1と形態2の間にサイズの大きな違いが見られた。これは、形態2の存在を調べるのに非常に役立つ方法である。2つの多形体の粉末XRDのパターンとデータもはっきりと異なっており、それを図1と図2に示してある。図3では2つの多形体の赤外線スペクトルを比較してあるが、パターンにはっきりとした違いがあることがわかる。したがって結晶構造にもはっきりとした違いがある。さらに、2つの多形体は、固体13C NMRの測定結果に顕著な違いを生じさせる(図4A、図4B、図4C)。
【0007】
形態1は、市販されている組成物で現在使用されている多形体である。しかし結晶のサイズが理由で、農業化学的に許容できる組成物にする際には粉砕して結晶サイズを小さくする必要がある。形態2は、農業化学的に許容できる組成物にするのにすでに適したサイズになっていると考えられる。しかし形態2は熱力学的に不安定であり、徐々に形態1に変換されるであろう。その結果、形態2から調製されるあらゆる組成物は不安定になり、凝集して沈澱するであろう。
【0008】
形態1は農業化学的に許容できる組成物を調製するのに現在利用されている形態であるが、製造中にメソトリオンを水溶液中で再結晶させるとき、形態2が容易に生成するというさらに別の問題が存在している。形態2は非常に細かいため、濾過することが難しく、系からそれを除去しようして製造時間にロスが生じる。再結晶の間に得られる形態2を形態1に変換できないのであれば、形態2を廃棄せねばならず、その結果として収量が減り、製造プロセスが非効率になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の第1の目的は、得られる多形体と多形体の安定性を選択的に制御する方法を提供することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、形態2の多形体を形態1の多形体へと簡単に変換する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明により、メソトリオン水溶液からのメソトリオンの多形体の結晶化を選択的に制御して熱力学的に安定な形態1または動力学的に安定な形態2を得る方法であって、メソトリオン水溶液のpHをある値に調節し、熱力学的に安定な形態1または動力学的に安定な形態2を最終的に得る操作を含む方法が提供される。
【0012】
メソトリオン溶液のpHをまず最初に7以上の値まで上昇させる。適した値は10以上であり、12以上であることが好ましい。pHは、適切な塩基(例えばNaOH、ピリジン、トリエチルアミン、Mg(OH)2、NH4OHなど)を添加して上昇させることができる。塩基を添加するとメソトリオンの塩が形成される。その塩は溶解度が大きいためにメソトリオンを完全に溶かすことができ、溶液中にメソトリオンが残らない。
【0013】
本発明の一実施態様では、pHを3.0以下に調節する。すると熱力学的に安定な形態1のメソトリオンが得られる。pHは2.5以下に調節することが好ましく、2±0.5にすることがより好ましい。
【0014】
本発明の第2の実施態様では、pHを3.0よりも大きな値に調節する。すると動力学的に安定な形態2のメソトリオンが得られる。pHは約3.0と約5.5の間の値に調節することが好ましく、3.5と5.5の間の値がより好ましい。pHの上限値は、どのようなメソトリオン塩が溶液中に存在しているかによって異なる。
【0015】
pHの調節は、メソトリオン溶液に酸を添加して実現することが好ましい。酸は、HCl、H2SO4、HNO3などからなるグループの中から選択することが好ましい。その中でもHClが好ましい。
【0016】
場合によっては、溶液のpHを小さくした後に形態1の種結晶をその溶液に添加して形態1の結晶化を支援するとよい。
【0017】
いくつかの場合には、例えばpHを3.0またはそれよりもわずかに小さな値にして温度を上げると形態1を結晶化しやすくすることができる。さらに、塩および/または溶媒の存在によって形態1を結晶化しやすくすることができる。
【0018】
この方法は、25℃以上の温度で実施することが好ましい。この温度は40℃以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の特徴により、形態2のメソトリオンを形態1のメソトリオンに変換する方法であって、形態2のメソトリオン懸濁液のpHを小さくして3.0以下にする操作を含む方法が提供される。pHは2.5以下に調節することが好ましく、2±0.5にすることがより好ましい。
【0020】
本発明のこの特徴に関する一実施態様では、形態2のメソトリオンをあらかじめ分離した後に適切な溶媒(例えば水)の中に再び懸濁させてある。
【0021】
本発明のこの特徴に関する第2の実施態様では、形態2のメソトリオンが形成されてはいるが、分離されていない。したがって形態2のメソトリオンはすでに母液中に懸濁されている。
【0022】
形態2のメソトリオン懸濁液のpHをまず最初に大きくして7以上にする。この値は10以上が好ましく、12以上がより好ましい。pHは適切な塩基(例えばNaOH)を添加して大きくすることができる。塩基の添加によりメソトリオンの塩が形成される。この塩は溶解度が大きいため、形態2のメソトリオンが溶液になる。
【0023】
pHを小さくするには、メソトリオン懸濁液に酸を添加するとよい。酸は、HCl、H2SO4、HNO3などからなるグループの中から選択することが好ましい。その中でもHClが好ましい。
【0024】
場合によっては、形態2のメソトリオン懸濁液のpHを小さくした後、その懸濁液に形態1の種結晶をいくつか添加して形態1の結晶化を支援することが好ましい。
【0025】
いくつかの場合には、例えばpHを3.0またはそれよりもわずかに小さな値にして温度を上げると形態1を結晶化しやすくすることができる。さらに、塩および/または溶媒の存在によって形態1を結晶化しやすくすることができる。
【0026】
この方法は25℃以上の温度で実施することが好ましい。この温度は40℃以上であることが好ましい。
【0027】
すでに説明したように、pHを利用して特定の1つの多形体が他の多形体よりも多く形成されるようにできること、またはpHを利用して1つの多形体から別の多形体への変換を制御できることがわかったことから本発明が生まれた。したがって本発明のさらに別の特徴により、pHを利用してメソトリオンの多形体の結晶化を制御する方法が提供される。
【0028】
形態2のメソトリオンの存在についてはこれまで報告されたことがない。したがって本発明のさらに別の特徴により、図2に示した粉末X線回折パターンおよびデータと、図4Bおよび図4Cに示した13C NMRのデータを特徴とするメソトリオンの多形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下の実施例を参照して本発明をこれからさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0030】
これは、すでに分離された形態2のメソトリオンを溶媒の存在下で形態1のメソトリオンに変換する場合の一例である。形態2の10%水溶液を作ってpHを2〜6の範囲のさまざまな値にした。種を添加する場合には、形態2のメソトリオンの濃度に対する形態1の種の濃度を2%にした。ここでの実験では、キシレン:メソトリオンを1:5の比にした。表に示した時間が経過したときにサンプルの多形体を分析した。実際の変換時間は表に示した値よりも短い可能性がある。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【実施例2】
【0032】
これは、形態2のメソトリオンを形態1のメソトリオンに変換する場合の一例である。形態2を上記の方法でプラントにおいて製造した。結晶化装置からの形態2のスラリーのサンプルを採取し、実験室に運んで溶液のpHを2.0に調節し、撹拌しながら40〜50℃に加熱した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【実施例3】
【0034】
これは、すでに分離してある形態2のメソトリオンを濾液の中に入れ、さまざまな量のTEAとNaClを添加し、pHを2.0に調節し、40〜50℃に加熱することによって形態1のメソトリオンに変換する場合の一例である。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【実施例4】
【0036】
これは、すでに分離してある形態2のメソトリオンを濾液の中に入れ、pHを2.0に調節し、40〜50℃に加熱することによって形態1のメソトリオンに変換する場合の一例である。
【0037】
【表4】

【実施例5】
【0038】
粗エノラート溶液からのメソトリオンの分離
【0039】
プラントで製造したメソトリオン・エノラート懸濁液を濾過して過剰な固体エノラートをすべて除去した。50mlの濾液を反応フラスコの中に入れ、40℃に加熱した。pHプローブをその反応フラスコの中に入れてpHをモニターし、10%塩酸を制御しながら20分間かけて添加して(5分間かけて添加することもでき、それでも形態1が分離される)pHを2.8まで小さくした。結晶を20分間にわたって撹拌した後、減圧下での濾過によって分離し、水で洗浄し、フィルタ上で減圧乾燥させた。生成物の多形体をFT-IRとPXRDによって調べると、メソトリオンの形態1であることが確認された。
【実施例6】
【0040】
実験室で調製したエノラート溶液からのメソトリオンの分離
【0041】
濾液を反応フラスコの中に入れ、撹拌し、メソトリオンの結晶を添加した。得られたスラリーのpHを測定し、48%水酸化ナトリウムを添加して値を10.5まで上昇させた。このスラリーを60分間にわたって撹拌し、過剰な結晶を濾過によって除去した。
【0042】
20mlのエノラート溶液を反応フラスコの中に入れ、撹拌し、40℃に加熱した。pHプローブを溶液の中に入れ、10%塩酸を制御しながら20分間かけて添加してpHを2.6まで小さくした。得られた結晶をさらに60分間にわたって撹拌した後、減圧下での濾過によって回収し、水で洗浄し、フィルタ上で減圧乾燥させた。FT-IRとPXRDにより、結晶の多形体が形態1であることが明らかになった。
【実施例7】
【0043】
純粋なメソトリオンの多形安定性
【0044】
1.6gの再結晶化したメソトリオン結晶を水(30ml)とともに反応フラスコの中で撹拌し、水酸化ナトリウムを添加してpHの値を12まで上昇させた。1.5mlの10%塩酸を15分間かけて添加して溶液のpHを1〜4の範囲まで小さくした。この懸濁液を撹拌した。光学顕微鏡とFT-IRにより、結晶の多形体が形態2であることが明らかになった。pH値が2.5未満では、1時間以内に形態2が形態1に変換された。pH値が3では、形態2は安定であったが、形態1の種を入れると4時間かかって形態1に変換された。pHの値が3.5〜4では、懸濁液を40℃に加熱して1重量%の形態1の種を添加しても形態2の結晶が形態1に変換されることはなかった。その後3週間にわたって定期的に懸濁液中の多形体を調べたが、常に形態2が見いだされた。3週間後に定期的なモニターを止めてサンプルを数ヶ月後に取り出すと、結晶は相変わらず形態1に変換されていなかった。
【実施例8】
【0045】
0.05%ローダサーフDA630溶液中での形態2のメソトリオンの安定化
【0046】
反応フラスコの中で、0.2gの形態2のメソトリオン結晶を0.05%のローダサーフDA630(15ml)とともに撹拌した。pHプローブをこの系の中に入れ、0.6mlの10%水酸化ナトリウム溶液を添加してpHの値を11.5まで上昇させた。形態2のメソトリオンを0.74g添加してこの溶液のpHの値を5.5まで小さくした。メソトリオンの多形体を顕微鏡とFT-IRによって定期的にモニターした。10日後、メソトリオンは大半がまだ形態2であった。形態1が核化していたが、成長はしていなかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】形態1に関する粉末XRDのパターンとデータ。
【図1B】形態1に関する粉末XRDのパターンとデータ。
【図2A】形態2に関する粉末XRDのパターンとデータ。
【図2B】形態2に関する粉末XRDのパターンとデータ。
【図3】2つの多形体の赤外線スペクトルの比較。
【図4A】2つの多形体に関する固体13C NMRの測定結果。
【図4B】2つの多形体に関する固体13C NMRの測定結果。
【図4C】2つの多形体に関する固体13C NMRの測定結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソトリオン水溶液からのメソトリオンの多形体の結晶化を選択的に制御して熱力学的に安定な形態1または動力学的に安定な形態2を得る方法であって、メソトリオン水溶液のpHをある値に調節し、熱力学的に安定な形態1または動力学的に安定な形態2を最終的に得る操作を含む方法。
【請求項2】
上記メソトリオン水溶液のpHをまず最初に7以上の値まで上昇させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
pHを3.0以下に調節して熱力学的に安定な形態1のメソトリオンを得る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
pHを3.0よりも大きな値に調節して動力学的に安定な形態2のメソトリオンを得る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
酸を上記メソトリオン水溶液に添加してpHを小さくする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
pHを調節した後に上記メソトリオン水溶液に形態1の種結晶を添加して形態1の結晶化を支援する、請求項1〜3と5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
25℃以上の温度で実施する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
形態2のメソトリオンを形態1のメソトリオンに変換する方法であって、形態2のメソトリオン懸濁液のpHを小さくして3.0以下にする操作を含む方法。
【請求項9】
形態2のメソトリオンをあらかじめ分離した後、適切な溶媒中に再び懸濁させる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
形態2のメソトリオンがすでに形成されていて、母液中にすでに懸濁されている、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
形態2の懸濁液のpHをまず最初に7以上に上昇させる、請求項8〜10いずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記メソトリオン懸濁液に酸を添加することによってpHを小さくする、請求項8〜11いずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
形態2の懸濁液のpHを小さくした後、その形態2の懸濁液に形態1の種結晶を添加して形態1の結晶化を支援する、請求項8〜12いずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
25℃以上の温度で実施する、請求項8〜13いずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
pHを利用してメソトリオンの多形体の結晶化を制御する方法。
【請求項16】
図2に示した粉末X線回折パターンとデータを特徴とするメソトリオンの多形体。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公表番号】特表2008−510777(P2008−510777A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528954(P2007−528954)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003069
【国際公開番号】WO2006/021743
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】