説明

メソポーラス構造体の製造方法

【課題】テンプレート法により形成されるメソポーラス体の細孔内に、微粒子を配置してなるメソポーラス構造体の製造方法において、効率的に細孔内に配置できるようにする。
【解決手段】微粒子20との間で静電引力を発揮する性質とテンプレートと疎水性相互作用により引き合う性質とを有する有機溶媒を、テンプレートとともに混合した水溶液を作製し、この水溶液にメソポーラス体10の原料を溶解して加熱することにより、テンプレート、有機溶媒およびメソポーラス体10の原料を含むメソポーラス前駆体を形成した後、メソポーラス前駆体を沈殿物として分離して、これを再度、水中に分散させ、この分散液に微粒子20を添加することにより、有機溶媒と微粒子20との静電引力を利用して、微粒子20をメソポーラス前駆体の細孔中に内包させ、続いて、焼成によりメソポーラス前駆体中のテンプレートを焼失させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラス体の細孔内に微粒子を配置してなるメソポーラス構造体の製造方法に関し、たとえば、自動車用排気浄化用、燃料電池用、環境浄化用に用いる触媒構造体や吸着剤、磁性材料、電極材料、オプトエレクトロニクスデバイス、生物的・化学的センサーなどに用いる構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の排ガス等に含まれるHC、CO、NOx等の有害成分を浄化するための触媒としては、Pt、Pd、Rh等の貴金属が使用されている。これらの触媒用貴金属は、排ガスとの接触面積を高めるために、粒子として、アルミナ等の担体の表面に担持され、有害成分を浄化している。
【0003】
近年、自動車等の排出ガス規制は、さらに厳しくなる一方であり、排ガス浄化用触媒には、有害成分の浄化をより高効率で行うことが望まれている。同様に、燃料電池用の触媒や環境浄化用の触媒においても、さらに浄化性能、機能を向上させる必要があり、より高活性な触媒の開発が期待されている。
【0004】
貴金属触媒の効率向上対策の一つとして、貴金属粒子を微粒子化して、有害成分等との接触面積を大きくするために、接触面積の大きいナノメートルオーダの貴金属粒子の開発が進んでおり、その一つとして、より高活性であり且つ複数種類の物質に対して活性を示し、同時に少量で効果的に浄化させることのできる触媒粒子が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
このものは、ナノメートルオーダの平均粒子径(一次粒子径)を持つ一種の単体微粒子または二種以上の固溶体微粒子である基粒子と、この基粒子の表面の少なくとも一部を被覆するように配置された触媒金属と、よりなる触媒粒子、すなわちナノ複合触媒粒子からなる微粒子を提供するものである。
【0006】
このようなナノ複合触媒粒子によれば、ナノメートルオーダの基粒子の表面に触媒金属を配置するというナノメートルオーダでの立体構造を有しているため、比表面積が大きく、高い触媒活性を実現することができる。
【0007】
しかしながら、実際に上記ナノ複合触媒粒子を用いて排ガスを浄化しようとする際、従来の担持方法では、担体に対してナノ複合触媒粒子を分散性よく担持させることができず、ナノ複合触媒粒子の持つ本来の性能を出し切ることができない。
【0008】
そこで、メソポーラス体の細孔内に、当該細孔の径よりも小さい平均粒子径を持つ微粒子としてのナノ複合触媒粒子を、配置するようにしたメソポーラス構造体が提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
ここで、メソポーラス体は、学術的に、径が5nm以上50nm未満の細孔を持つものと定義されており、ナノ複合触媒粒子を分散性よく担持できるだけの大きな細孔径と、大きな単位重量あたりの細孔容積を持つものである。このようなメソポーラス体は、一般にはテンプレートを鋳型として用いるテンプレート法により、金属酸化物などを用いて形成される。
【0010】
このテンプレート法は、具体的には、次のようなものである。界面活性剤よりなるテンプレートの水溶液に、金属酸化物などからなるメソポーラス体の原料を溶解させ、これを加熱する。すると、加水分解により、テンプレートの周囲を取り囲むようにメソポーラス体の原料が付着する。
【0011】
そして、この原料が付着したテンプレートは、界面活性剤の性質によって凝集し、凝集体すなわち自己組織体構造となり、沈殿する。そして、この沈殿物を分離して乾燥し、焼成することにより、当該沈殿物中のテンプレートを焼失させる。それにより、テンプレートが焼失した部分の空間が細孔となってメソポーラス体が形成される。
【0012】
そして、上記特許文献2に記載の製造方法においては、ナノ複合基粒子としての微粒子の原料を含む水溶液に界面活性剤を混合することで、微粒子が界面活性剤により包み込まれた逆ミセルの状態を形成した混合液を作製し、この混合液を、メソポーラス体の細孔内に含浸させた後、メソポーラス体を乾燥・焼成することでメソポーラス構造体を製造するようにしている。
【特許文献1】特開2003−80077号公報
【特許文献2】特開2005−15275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献2に記載の製造方法では、微粒子を界面活性剤により包み込んだ逆ミセルの状態としているため、この逆ミセルの状態では元々の微粒子の径よりも大きくなってしまう。
【0014】
そのため、この微粒子を含む逆ミセルが、メソポーラス体の細孔内に入り込みにくくなる可能性が生じ、メソポーラス体の細孔内に効率よく、微粒子を配置させることが困難になる。
【0015】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、テンプレート法により形成されるメソポーラス体の細孔内に、微粒子を配置してなるメソポーラス構造体の製造方法において、微粒子を逆ミセル状態とすることなく、効率的に細孔内に配置できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、メソポーラス体の細孔内にテンプレートが残存しているメソポーラス体の前駆体において、細孔内にテンプレートとともに微粒子と親和性を有する有機物を添加しておけば、静電引力を活用して効果的に細孔内へ微粒子を内包できると考えた。
【0017】
具体的には、微粒子との間で静電引力を発揮する性質とテンプレートの疎水部と引き合う性質を有する有機溶媒を、テンプレートとともに混合した水溶液を作製し、この水溶液にメソポーラス体の原料を添加すればよいと考えた。
【0018】
そうすれば、有機溶媒とテンプレートとが疎水性相互作用により一体化し、有機溶媒を含むテンプレートが細孔の鋳型として形成され、そこへ有機溶媒との静電引力により微粒子が引き込まれやすくなるため、微粒子を効率的に細孔内に導入することができると考えられる。
【0019】
そして、このような本発明者が考え出した知見に基づいて、実験検討を行った結果、後述する実施例に示すように、微粒子を逆ミセル状態とすることなく、効率的に細孔内に配置できることがわかった。
【0020】
すなわち、本発明は、微粒子(20)との間で静電引力を発揮する性質とテンプレートと疎水性相互作用により引き合う性質とを有する有機溶媒を、テンプレートとともに混合した水溶液を作製し、この水溶液にメソポーラス体(10)の原料を溶解して加熱することにより、テンプレート、有機溶媒およびメソポーラス体(10)の原料を含むメソポーラス前駆体を形成した後、メソポーラス前駆体を沈殿物として分離して、これを再度、水中に分散させ、この分散液に微粒子(20)を添加することにより、有機溶媒と微粒子(20)との静電引力を利用して、微粒子(20)をメソポーラス前駆体の細孔中に内包させ、続いて、焼成によりメソポーラス前駆体中のテンプレートを焼失させることを特徴としている。
【0021】
それによれば、テンプレートの焼失に伴い、メソポーラス体(10)の細孔(11)内には上記静電引力によって引き込まれた微粒子(20)が残り、結果的に細孔(11)内に微粒子(20)が配置されることになるため、微粒子(20)を逆ミセル状態とすることなく、効率的に細孔(11)内に配置することができる。
【0022】
ここで、微粒子(20)が添加されたメソポーラス前駆体の分散液に対して、撹拌することにより、微粒子(20)をメソポーラス前駆体の細孔中へ内包させるようにしてもよいが、さらに検討を進めた結果、微粒子(20)をメソポーラス前駆体の細孔中へ内包させる際に、メソポーラス前駆体の分散液を亜臨界水とすれば、微粒子(20)の細孔内への内包が促進されることを実験的に見出した。
【0023】
ここで、亜臨界水とは、一般的な水の状態図にも示されるように、臨界点近傍の温度、圧力の低い熱水のことであり、水溶液が低粘度化することによって、優れた浸透力と激しい加水分解作用を発揮するものである。
【0024】
水をこのような亜臨界水の状態とするためには、水に対して加熱および加圧を行い、亜臨界領域の高温高圧雰囲気とする必要がある。具体的には、水熱合成処理や、水に超音波を照射し、それにより発生する気泡の破裂によって起こる衝撃エネルギーを利用する超音波照射や、水にマイクロ波を照射したときの衝撃を利用するマイクロ波照射が、知られている。
【0025】
また、テンプレートとしては、両親媒性すなわち疎水性のポリアルキレンオキサイドと親水性のポリアルキレンオキサイドの両方を持つポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーが好ましい。そして、このポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーの分子量が1000以上であることが好ましい。
【0026】
具体的には、ブロックコポリマーは、親水性のポリアルキレンオキサイドが疎水性ポリアルキレンオキサイドの向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー、親水性のポリアルキレンオキサイドの末端に疎水性のポリアルキレンオキサイドが共有結合したジブロックコポリマーのなかから選択されたものを採用することができる。
【0027】
親水性のポリアルキレンオキサイドには、ポリエチレンオキサイドを使用し、疎水性のポリアルキレンオキサイドには、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリヒドロキシ酸から選択されたものを採用することができる。
【0028】
また、疎水性のポリアルキレンオキサイドが、ポリヒドロキシ酸であるときには、このヒドロキシ酸が、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸から選択されたものであると効果的である。
【0029】
ここで、親水性のポリアルキレンオキサイドは、ブロックコポリマーを水溶液に溶解させる働きと、メソポーラス体(10)を形成する原料を反応し、メソポーラス体(10)の骨格を形成する働きがある。また、疎水性のポリアルキレンオキサイドは、メソポーラス体(10)の鋳型としての働きがある。
【0030】
そのため、両者が一体化することは、メソポーラス体(10)を形成するために、必要不可欠であることは言うまでもないが、水溶液に溶解するためには、親水性のポリアルキレンオキサイドの含量は30%以上60%以下が望ましい。
【0031】
また、テンプレートとして、上記した両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いる場合には、有機溶媒として、疎水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性および親水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性を持つものを用いることが好ましい。
【0032】
具体的にそのような有機溶媒としては、分子構造中に、疎水性のポリアルキレンオキサイドに溶解性を持つ骨格として環状エーテル類、グリコールジエーテル類、ベンゼン類、エステル類、ケトン類、アルカン類の中から選ばれた少なくとも1種以上の骨格を有し、且つ、親水性のポリアルキレンオキサイドに溶解性を持つ骨格としてアルキレンオキサイド類、アルコール類、カルボン酸類、エステル類、アミノ酸類の中から選ばれた少なくとも1種以上の骨格を有するもの、を用いることができる。
【0033】
また、テンプレートと有機溶媒とを混合してなる水溶液中におけるテンプレートと有機溶媒との重量比としては、テンプレートを1としたとき有機溶媒が2.5以下となるようにすることが好ましい。
【0034】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るメソポーラス構造体100の概略構成を示す図であり、(a)は、斜視図、(b)は断面図である。また、図2は、本実施形態に係る微粒子20の模式的な構成を示す図である。
【0036】
図1において、メソポーラス体10は、径が5nm以上50nm未満の細孔11を持つものである。図示例では、細孔11は六角形の穴形状を有しているが、これに限定されるものではなく、それ以外にも、たとえば、細孔11の穴形状は、円形、四角形などであってもよい。
【0037】
このメソポーラス体10は金属酸化物からなり、この金属酸化物を構成する金属としては、具体的にはCe、Zr、Al、Ti、Si、Mg、W、Fe、Sr、Y、Nb、Pなどから選ばれる一種の単体、または二種以上の固溶体が挙げられる。本例では、メソポーラス体10は、シリカからなる。
【0038】
そして、メソポーラス体10の細孔11内には、微粒子20が配置されている。この微粒子20は、メソポーラス体10の細孔11の内壁に一部分が含有されるか、もしくは細孔11の内壁の表面に吸着している形態で配置されている。
【0039】
この微粒子20は、一次粒子の平均粒子径がメソポーラス体10の細孔11の直径よりも小さいものであり、たとえば、1nm〜50nm程度の平均粒子径を持つものである。また、たとえば、微粒子20の平均粒子径は細孔11の直径の80%以下程度小さいものとする。
【0040】
この微粒子20は、図2(a)に示されるように、単一の粒子であってもよいし、図2(b)に示されるように、芯部21の外周面に、被覆層22が形成されているものであってもよい。
【0041】
図2(a)に示されるような微粒子20としては、たとえば、CeやCe−Zr、Ti、Zrなどの金属酸化物が挙げられる。また、図2(b)に示されるような微粒子20としては、上記特許文献1に記載のナノ複合触媒粒子が挙げられる。
【0042】
詳細は、上記特許文献1に譲るが、本実施形態におけるナノ複合触媒粒子としては、たとえば、Ce、Zr、Al、Ti、Siなど金属酸化物からなる芯部21の表面に、具体的に、Pt、Pd、Rh、Ir、Ruなどの貴金属または金属酸化物からなる被覆層22が付着したものにできる。
【0043】
このように、本実施形態のメソポーラス構造体100は、径が5nm以上50nm未満の細孔11を持つメソポーラス体10の、当該細孔11内に、細孔11の径よりも小さい平均粒子径を持つ微粒子20を配置してなる。また、このメソポーラス構造体100は全体として1.0μmかそれ以下の大きさのものである。
【0044】
次に、このメソポーラス構造体100の製造方法について述べる。本製造方法は、従来のテンプレートを鋳型としてメソポーラス体10を形成するテンプレート法を応用したものである。
【0045】
まず、テンプレートと、微粒子20との間で静電引力を発揮する性質およびテンプレートと疎水性相互作用により引き合う性質を有する有機溶媒とを混合した酸性(たとえばpHが1程度)の水溶液を作製する。
【0046】
テンプレートとしては、一般的な両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを採用できる。このものの分子量としては1000以上が好ましい。また、このものにおいて、水溶液に溶解するためには、親水性のポリアルキレンオキサイドの含量は30%以上60%以下が望ましい。
【0047】
望ましくは、そのようなブロックコポリマーとしては、親水性のポリアルキレンオキサイドが疎水性ポリアルキレンオキサイドの向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー、親水性のポリアルキレンオキサイドの末端に疎水性のポリアルキレンオキサイドが共有結合したジブロックコポリマーのなかから選択されたものを採用することができる。
【0048】
親水性のポリアルキレンオキサイドには、ポリエチレンオキサイドを使用し、疎水性のポリアルキレンオキサイドには、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリヒドロキシ酸から選択されたものを採用することができる。また、ヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸であると効果的である。
【0049】
具体的なブロックコポリマーとしては、たとえば、ポリ(エチレンオキサイド)(EOx)のような親水性のポリ(アルキレンオキサイド)がポリプロピレンオキサイド(POx)のような疎水性ポリ(アルキレンオキサイド)の向かい合っている端に直線状に共有結合したトリブロックコポリマー(EOx−POx−EOx)、または、ポリ(エチレンオキサイド)がポリ(ブチレンオキサイド)(BOy)に直線状に共有結合したジブロックコポリマー(EOx−BOy)、または、ポリ(エチレンオキサイド)がポリ(乳酸)(LA)に直線状に共有結合したジブロックコポリマー(EOx−LA)などが挙げられる。ここで、xおよびyは各ポリマーの重合度を示す。たとえば、EO20−PO70−EO20の場合、EOの重合度は20、POの重合度は70であることを示す。
【0050】
また、有機溶媒としては、分子構造中に、微粒子20との間で静電引力を発揮する性質を発揮する骨格部分と、テンプレートと疎水性相互作用により引き合う性質を発揮する骨格部分とを有するものを用いる。
【0051】
前者の骨格部分(以下、静電引力骨格という)は、たとえば微粒子20が金属酸化物である場合には、微粒子20の水酸基と静電引力を発揮する水酸基やカルボキシル基などを持つ骨格である。また、後者の骨格(以下、疎水性骨格という)は、テンプレートの疎水部と親和性を持つもので、疎水性を持つ骨格である。
【0052】
具体的に、そのような有機溶媒としては、テンプレートとしての上記両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーにおける疎水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性を持つ疎水性骨格および親水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性を持つ静電引力骨格の両骨格を、分子構造中に有するものが用いられる。
【0053】
ここにおいて、疎水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性を持つ骨格としては、環状エーテル、グリコールジエーテル、ベンゼン、エステル、ケトン、アルカンなどの骨格が挙げられ、一方、親水性のポリアルキレンオキサイドに溶解性を持つ骨格としてアルキレンオキサイド、アルコール、カルボン酸、エステル、アミノ酸などの骨格が挙げられる。
【0054】
たとえば、本実施形態の有機溶媒としては、オレイン酸、マレイン酸、ラウリン酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールモノステアラート、ポリビニルアルコールなどが用いられる。たとえば、オレイン酸の分子構造においては、疎水性骨格はCHが鎖状に結合している部分であり、静電引力骨格は末端のCOOHである。
【0055】
また、テンプレートと有機溶媒とを混合してなる水溶液中におけるテンプレートと有機溶媒との重量比としては、テンプレートを1としたとき有機溶媒が2.5以下となるようにすることが好ましい。
【0056】
こうして、テンプレートと有機溶媒との混合水溶液を作製した後、この水溶液に対し、オルトテトラケイ酸エチル(TEOS)などのメソポーラス体10の原料を添加し、加熱および加圧を行って、水溶液中において、メソポーラス体の前駆体であるメソポーラス前駆体を形成する。
【0057】
ここで、メソポーラス前駆体とは、メソポーラス体の原料成分の加水分解によって、テンプレートと有機物との自己組織化ミセルの周囲を取り囲むように原料成分が付着した凝集体のことである。本実施形態では、有機溶媒の疎水性骨格が発揮する性質によって、テンプレートと有機溶媒が引き合うことにより、鋳型としての自己組織化ミセルが形成される。
【0058】
そして、この凝集したメソポーラス前駆体が水溶液中にて沈殿することにより、テンプレート、有機物およびメソポーラス体の原料を含むメソポーラス前駆体としての沈殿物が形成される。
【0059】
次に、このメソポーラス前駆体としての沈殿物を分離して、再度水に分散させる。続いて、このメソポーラス前駆体の分散液に対して、微粒子20が分散した水溶液を添加して混合し、当該メソポーラス前駆体の分散液中に微粒子20を拡散させる。なお、微粒子20は、テンプレートに対する微粒子20のモル比(微粒子/テンプレート)が20以下、より好ましくは10以下となるように混合することが望ましい。
【0060】
その後、この微粒子20が添加された分散液に対して、攪拌などを行うことにより、メソポーラス前駆体の細孔内に微粒子20が内包された沈殿物を形成する。本実施形態では、鋳型中の有機溶媒の静電引力骨格が発揮する性質によって、鋳型中に微粒子20が静電引力によって引き込まれるため、メソポーラス前駆体の細孔内に微粒子20を効率的に取り込むことが可能となる。
【0061】
このとき、撹拌に代えて、当該分散液に対し加熱および加圧を行って当該分散液中の水を亜臨界水状態とすることにより、メソポーラス前駆体の細孔内に微粒子20が内包された沈殿物を形成してもよい。
【0062】
この分散液の水を亜臨界状態とする亜臨界水処理は、分散液に対して、水熱合成処理、超音波照射、もしくはマイクロ波照射を行うことによりなされる。水熱合成では、耐圧容器に分散液を入れ、たとえば180℃程度に加熱する。
【0063】
また、超音波照射では、一般的な超音波発生器を用いて分散液に超音波を照射し、それにより発生する気泡の破裂によって起こる衝撃エネルギーにより分散液中に局所的に亜臨界水状態を形成する。
【0064】
また、マイクロ波照射では、市販されているマイクロウェーブ装置などを用いて、たとえば通常の電子レンジなどで発生されるものと同様のマイクロ波を、分散液に照射し、その衝撃を利用して局所的に亜臨界水状態を形成する。このように分散液を亜臨界水状態とすることにより、水の低粘度化がなされ、分散液中にて、細孔へ微粒子20が侵入しやすくなる。
【0065】
こうして、分散液において、メソポーラス前駆体の細孔内に微粒子20が内包された沈殿物を形成し、この沈殿物を再度分離して乾燥し、焼成することにより、メソポーラス前駆体中のテンプレートを焼失させる。
【0066】
それにより、テンプレートが焼失した部分の空間が細孔11となり、細孔11内には微粒子20が残存するため、上記図1に示されるようなメソポーラス構造体100ができあがる。
【0067】
このように、本実施形態によれば、テンプレート法により形成されるメソポーラス体10の細孔11内に、微粒子20を配置してなるメソポーラス構造体100の製造方法において、微粒子20を逆ミセル状態とすることなく、効率的に細孔11内に配置することができる。
【0068】
次に、限定するものではないが、本発明のメソポーラス構造体100の製造方法について、以下の各実施例および比較例を参照して、より具体的に説明する。なお、以下の各実施例によって作製されるメソポーラス構造体は、各種の触媒として適用が可能なものである。
【0069】
(実施例1)
本例では、テンプレートとして、EO20−PO70−EO20を用い、微粒子として、酸素吸蔵放出機能を有する粒径が約4nmのCe酸化物を用いた。
【0070】
まず、純水に塩酸を加えてpHを1以下とした。その後、このpH1以下となった水に対して、EO20−PO70−EO20を混合し、さらに撹拌しながら、上記静電引力骨格および疎水性骨格を有する有機溶媒として、オレイン酸を添加し、水溶液を作製した。ここで、水とEO20−PO70−EO20とオレイン酸の重量比は、30:1:1の割合である。
【0071】
これを十分に混合した後に、当該水溶液に対して、オルトテトラケイ酸エチル(TEOS)を、テンプレートに対して2:1の重量比で添加し、この水溶液を室温下において10時間以上攪拌した。
【0072】
その後、この水溶液を耐圧容器に移し、120℃で24時間、水熱合成処理を行い、沈殿物を得た後、耐圧容器から取り出し、遠心分離等を行うことにより沈殿物を抽出した。これを再度純水中に再分散させてメソポーラス前駆体の分散液を作製した後、この分散液に対し、粒径が約4nmのCe酸化物を混合した。
【0073】
これにより、細孔中にテンプレート、オレイン酸およびCe酸化物が内包されたメソポーラス前駆体を形成した。その後、これを沈殿物として分離して乾燥し、600℃で焼成することによってテンプレートを焼失させた。それにより、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0074】
(実施例2)
有機溶媒として、マレイン酸を使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0075】
(実施例3)
有機溶媒として、ラウリン酸を使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0076】
(実施例4)
有機溶媒として、ポリアクリル酸を使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0077】
(実施例5)
有機溶媒として、メタクリル酸を使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0078】
(実施例6)
有機溶媒として、ポリビニルピロリドンを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0079】
(実施例7)
有機溶媒として、ポリエチレングリコールモノステアラートを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0080】
(実施例8)
有機溶媒として、ポリビニルアルコールを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0081】
(比較例1)
pHを1以下とした水中にテンプレートEO20−PO70−EO20を混合し、撹拌しながら、オルトテトラケイ酸エチル(TEOS)を添加した。水とEO20−PO70−EO20とTEOSの重量比は、120:4:8の割合である。
【0082】
その後、この水溶液を耐圧容器に移し、120℃で24時間、水熱合成処理を行い、沈殿物を得たのち、遠心分離等を行うことにより沈殿物を抽出した。これを再度純水中に再分散させたのち、粒径が約4nmのCe酸化物を混合した。
【0083】
その後、これを乾燥し、600℃で焼成することによってテンプレートを焼失させ、シリカよりなるメソポーラス体の細孔に粒径が約4nmのCe酸化物よりなる微粒子を配置してなるメソポーラス構造体を得た。
【0084】
上記各実施例および有機溶媒を用いない上記比較例にて作製したメソポーラス構造体の細孔形状、微粒子の細孔内への配置状態を確認するためにTEM観察を実施した。
【0085】
上記各実施例においては、径が9〜12nmの配列した細孔が観察できたが、上記比較例で作製したメソポーラス構造体では、細孔内に内包されずに凝集した微粒子が多く観察された。
【0086】
また、上記各実施例において、イオンミリング法によってメソポーラス構造体の断面出しを行い、さらに、これをTEM観察したところ、メソポーラス構造体の細孔内に内包されている微粒子が観察され、微粒子が実際に細孔内に配置されていることを確認することができた。一方、上記比較例においては、細孔内に微粒子の存在は、実質的に見られなかった。
【0087】
また、テンプレートとして、上記実施形態では、トリブロックコポリマー(EOx−POx−EOx)などの一般的な両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを挙げたが、テンプレート法に採用できるものならば、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態に係るメソポーラス構造体の概略構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図2】上記実施形態に係る微粒子の模式的な構成を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
10…メソポーラス体、11…細孔、20…微粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンプレートを鋳型として形成されるメソポーラス体(10)の細孔(11)内に、前記細孔(11)の径よりも小さい平均粒子径を持つ微粒子(20)を配置してなるメソポーラス構造体の製造方法において、
前記微粒子(20)との間で静電引力を発揮する性質と前記テンプレートと疎水性相互作用により引き合う性質とを有する有機溶媒を、前記テンプレートとともに混合した水溶液を作製し、
前記水溶液に前記メソポーラス体(10)の原料を溶解して加熱することにより、前記テンプレート、前記有機溶媒および前記メソポーラス体(10)の原料を含むメソポーラス前駆体を形成した後、
前記メソポーラス前駆体を沈殿物として分離して、これを再度水中に分散させ、この分散液に前記微粒子(20)を添加することにより、前記メソポーラス前駆体中に存在する前記有機溶媒と前記微粒子(20)との静電引力を利用して、前記微粒子(20)を前記メソポーラス前駆体の細孔中に内包させ、
続いて、前記メソポーラス前駆体を焼成して前記メソポーラス前駆体中の前記テンプレートを焼失させることを特徴とするメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項2】
前記微粒子(20)が添加された前記分散液に対して、水熱合成処理、超音波照射、もしくはマイクロ波照射を行って、前記水溶液中の水を亜臨界水状態とすることにより、前記微粒子(20)を前記メソポーラス前駆体の細孔中へ内包させることを特徴とする請求項1に記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項3】
前記テンプレートとして、両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いることを特徴とする請求項1または2に記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーの分子量が1000以上であることを特徴とする請求項3に記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーが、親水性のポリアルキレンオキサイドの含量が30%以上60%以下のものであることを特徴とする請求項3または4に記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項6】
前記ブロックコポリマーは、親水性のポリアルキレンオキサイドが疎水性ポリアルキレンオキサイドの向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー、親水性のポリアルキレンオキサイドの末端に疎水性のポリアルキレンオキサイドが共有結合したジブロックコポリマーから選択された1種または2種以上のブロックポリマーであることを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項7】
前記親水性のポリアルキレンオキサイドが、ポリエチレンオキサイドであることを特徴とする請求項6に記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項8】
前記疎水性のポリアルキレンオキサイドが、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイド、およびポリヒドロキシ酸の中から選択されたものであることを特徴とする請求項6に記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項9】
前記疎水性のポリアルキレンオキサイドが、ポリヒドロキシ酸であり、このヒドロキシ酸が、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、およびクエン酸の中から選択されたものであることを特徴とする請求項8に記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項10】
前記有機溶媒として、疎水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性および親水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性を持つものを、用いることを特徴とする請求項3ないし9のいずれか1つに記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒として、分子構造中に、疎水性のポリアルキレンオキサイドに溶解性を持つ骨格として環状エーテル類、グリコールジエーテル類、ベンゼン類、エステル類、ケトン類、アルカン類の中から選ばれた少なくとも1種以上の骨格を有し、且つ、親水性のポリアルキレンオキサイドに溶解性を持つ骨格としてアルキレンオキサイド類、アルコール類、カルボン酸類、エステル類、アミノ酸類の中から選ばれた少なくとも1種以上の骨格を有するもの、を用いることを特徴とする請求項10に記載のメソポーラス構造体の製造方法。
【請求項12】
前記水溶液中における前記テンプレートと前記有機溶媒との重量比を、前記テンプレートを1としたとき前記有機溶媒が2.5以下となるようにすることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載のメソポーラス構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−127234(P2008−127234A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312639(P2006−312639)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】