説明

メタクリル系重合硬化物の製造方法及びメタクリル系重合硬化性組成物

【課題】溶解性に優れ、保存時においても溶解物の析出を抑制し均一性を保持することができるメタクリル系重合硬化性組成物を提供し、これを用いて、透明性に優れ外観欠陥のない重合硬化物を収率よく得ることができ、鋳型を用いた重合において鋳型の汚染を抑制し、重合硬化物の高温離型性に優れ、効率よくメタクリル系重合硬化物を製造することができるメタクリル系重合硬化物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】メタクリル酸メチル60〜100質量%及びこれと共重合可能な単量体0〜40質量%を含有する単量体成分100質量部と、特定のリン酸エステル0.005〜0.5質量部と、特定のポリエチレングリコール誘導体と特定の化合物の特定量との少なくとも一方の特定量とを含むメタクリル系重合硬化性組成物を、ラジカル重合開始剤の存在下、鋳型内で重合硬化し、重合硬化物を70〜110℃の温度下で離型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れ、外観欠陥が抑制されたメタクリル系重合硬化物の製造方法及びメタクリル系重合硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂の成形体であるメタクリル系樹脂板の製造方法としては鋳型製板方法や押出製板方法等がある。溶融成形する押出製板方法で得られるメタクリル系樹脂板と比較して、鋳型製板方法で得られるメタクリル系樹脂板は光学歪が少なく、分子量の設定範囲も広く、耐薬品性、加工性、機械的強度等を高めることができるため多くの分野に使用されている。
【0003】
従来のメタクリル系樹脂板の鋳型製板方法には、鋳型からの離型性向上のために様々な離型剤が用いられている。例えば、成形金型内での加圧・加熱条件下で炭素数が8〜13のアルキルリン酸エステルのモノエステルをメタクリル系樹脂に添加することによって樹脂の離型性が向上することが報告されている(特許文献1)。また、ガラスや金属からなる鋳型内での重合時に炭素数が8〜18の有機リン酸エステルのジエステルをメタクリル系樹脂に添加することによって樹脂の離型性が向上することが報告されている(特許文献2)。しかしながら、これらの方法では、鋳型を汚染することがあるという欠点がある。さらに、2−エチルヘキシルアシッドフォスフェートおよびスルホ琥珀酸エステル塩を添加することによって重合後の高温離型性に優れ、且つ、鋳型を繰り返し使用しても鋳型を汚染しないメタクリル系樹脂組成物が報告されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では、アクリル系架橋重合体からなる層を被覆したメタクリル系樹脂組成物の離型性が良好でない場合があるという欠点がある。さらに、ポリエチレングリコールアルキルオキシエチレンエーテルを添加することによって重合後の高温離型性に優れ、且つ、鋳型を繰り返し使用しても鋳型を汚染しないメタクリル系樹脂組成物が報告されている(特許文献4)。しかしながら、この方法においては、ポリエチレングリコールアルキルオキシエチレンエーテルのアルキル基の炭素数が12〜18の範囲では、離型性は良好であるが、メタクリル酸メチルまたは他の共重合可能な単量体に対する溶解性が低く、該単量体混合物との溶液を調製するにはポリエチレングリコールアルキルオキシエチレンエーテルを加熱溶融して溶解する必要があり、さらに、該溶液を低温下で保管するとポリエチレングリコールアルキルオキシエチレンエーテルが析出し、不均一系になる場合がある。
【特許文献1】特許第2571787号公報
【特許文献2】特開昭58−84807号公報
【特許文献3】特開2001−172462号公報
【特許文献4】特開2005−162820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、各化合物が溶解性に優れ、保存時においても溶解物の析出を抑制し均一性を保持することができるメタクリル系重合硬化性組成物を提供することにある。更に、これを用いて、メタクリル系樹脂の特徴である優れた光学的性質や機械的性質を維持し、透明性に優れ、外観欠陥のない重合硬化物を収率よく得ることができ、鋳型を用いた重合において鋳型汚染物質の発生を抑制し、鋳型を反復使用しても鋳型の汚染を抑制することができ、このため、重合硬化物の高温離型性に優れ、効率よくメタクリル系重合硬化物を製造することができるメタクリル系重合硬化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は鋭意検討を進めた結果、メタクリル酸メチルを主成分として含有する単量体成分と、またはこの単量体成分とメタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体とを加えた重合性成分と、スルホ琥珀酸エステル塩と、特定のリン酸エステルと、特定のポリエチレングリコール誘導体あるいは特定の化合物とを特定の割合で含有するメタクリル系重合硬化性組成物は、前記各化合物の溶解性に優れ、保存時においてもこれらの溶解物の析出を抑制することができ均一性を保持することができることの知見を得た。そして、均一性を有するメタクリル系重合硬化性組成物を用いて鋳型内で重合硬化することによって、メタクリル系樹脂の特徴である優れた光学的性質や機械的性質を維持し、透明性に優れ、表面欠陥が抑制されたメタクリル系重合硬化物を収率よく得ることができ、しかも、鋳型を用いた重合において鋳型汚染物質の発生を抑制し、鋳型を反復使用しても鋳型の汚染を抑制することができ、このため、重合硬化物を高温で離型することが可能であって、効率よくメタクリル系重合硬化物を製造することができることを見い出した。これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、メタクリル酸メチル60〜100質量%及びこれと共重合可能な単量体0〜40質量%を含有する単量体成分50〜100質量部と、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体0〜50質量部とを含む重合性成分100質量部、スルホ琥珀酸エステル塩0.005〜0.5質量部、一般式(1)で表されるリン酸エステル0.005〜0.5質量部、及び、合計量がスルホ琥珀酸エステル塩の0.5〜50倍量である一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物との少なくとも一方を含むメタクリル系重合硬化性組成物を、ラジカル重合開始剤の存在下、鋳型内で重合硬化し、重合硬化物を70〜110℃の温度下で鋳型から離型するメタクリル系重合硬化物の製造方法に関する。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、kは1または2の整数を表す。)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、iは2≦i≦46を満たす整数を表す。)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、l、m、n、oは2×(n+2)≦m+o+l≦50、1≦n≦18を満たす整数を表す。)
また、本発明は、メタクリル酸メチル60〜100質量%及びこれと共重合可能な単量体0〜40質量%を含有する単量体成分50〜100質量部と、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体0〜50質量部とを含む重合性成分100質量部、スルホ琥珀酸エステル塩0.005〜0.5質量部、一般式(1)で表されるリン酸エステル0.005〜0.5質量部、及び、合計量がスルホ琥珀酸エステル塩の0.5〜50倍量である一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物との少なくとも一方を含むメタクリル系重合硬化性組成物に関する。
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、R1は炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、kは1または2の整数を表す。)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、iは2≦i≦46を満たす整数を表す。)
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、l、m、n、oは2×(n+2)≦m+o+l≦50、1≦n≦18を満たす整数を表す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明のメタクリル系重合硬化性組成物は、各化合物が溶解性に優れ、保存時においても溶解物の析出を抑制し均一性を保持することができる。また、本発明のメタクリル系重合硬化物の製造方法は、メタクリル系樹脂の特徴である優れた光学的性質や機械的性質を維持し、透明性に優れ、外観欠陥が抑制された重合硬化物を収率よく得ることができ、鋳型を用いた重合において鋳型汚染物質の発生を抑制し、鋳型を反復使用しても鋳型の汚染を抑制することができ、重合硬化物の高温離型性に優れ、効率よくメタクリル系重合硬化物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のメタクリル系重合硬化物の製造方法は、メタクリル酸メチル60〜100質量%及びこれと共重合可能な単量体0〜40質量%を含有する単量体成分100質量部と、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体0〜50質量部とを含む重合性成分100質量部、スルホ琥珀酸エステル塩0.005〜0.5質量部、一般式(1)
【0021】
【化7】

【0022】
(式中、R1は炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、kは1または2の整数を表す。)で表されるリン酸エステル0.005〜0.5質量部、及び、合計量がスルホ琥珀酸エステル塩の0.5〜50倍量である一般式(2)
【0023】
【化8】

【0024】
(式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、iは2≦i≦46を満たす整数を表す。)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)
【0025】
【化9】

【0026】
(式中、l、m、n、oは2×(n+2)≦m+o+l≦50、1≦n≦18を満たす整数を表す。)で表される化合物との少なくとも一方を含むメタクリル系重合硬化性組成物を、ラジカル重合開始剤の存在下、鋳型内で重合硬化し、重合硬化物を70〜110℃の温度下で鋳型から離型する方法である。
【0027】
本発明のメタクリル系重合硬化物の製造方法に用いるメタクリル系重合硬化性組成物は、メタクリル酸メチル60〜100質量%及びこれと共重合可能な単量体0〜40質量%を含有する単量体成分100質量部と、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体0〜50質量部とを含む重合性成分100質量部、スルホ琥珀酸エステル塩0.005〜0.5質量部、一般式(1)で表されるリン酸エステル0.005〜0.5質量部、及び、合計量がスルホ琥珀酸エステル塩の0.5〜50倍量である一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物との少なくとも一方を含む。
【0028】
上記メタクリル系重合硬化性組成物に含有される単量体成分は、メタクリル酸メチル(以下、適宜「MMA」という。)と、必要に応じてこれと共重合可能な単量体(以下、「その他の単量体」という。)とを含む。
【0029】
その他の単量体としては、具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のシクロアルキル基、ベンジル基を含むアルキル基の炭素数2〜12のメタクリル酸エステル類;メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸1−メンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチルなどの炭素数8〜20の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、イソプロペニルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の多価不飽和化合物等を挙げることができる。これらは1種を単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0030】
これらのその他の単量体の単量体成分中の含有量は、0〜40質量%以下である。単量体成分中のその他の単量体の含有量が40質量%以下であると、良好な耐候性、透明性を有する重合硬化物が得られる。更に、その他の単量体の単量体成分中の含有量は、10質量%以下であることが、重合硬化物においてメタクリル樹脂本来の物性を損なわないことから好ましい。また、単量体成分として、その他の単量体を含まないMMAの含有量が100質量%であるものも使用することができる。
【0031】
上記メタクリル系重合硬化性組成物が含有する重合性成分は、上記単量体成分に加え、必要に応じてMMA単位を主成分とする重合体を含む。MMA単位を主成分とする重合体としては、重合体中にMMA単位を、例えば、60質量%以上含む共重合体を挙げることができ、MMA単位を90質量%以上含むことが好ましく、また、MMA単位を100質量%含むホモポリマーであってもよい。
【0032】
MMAを主成分とする重合体中に含まれるMMA単位以外の単位としては、上記単量体成分を構成するMMAと共重合可能なその他の単量体として例示したものと同様の単量体の単位を、具体的に挙げることができる。
【0033】
MMA単位を主成分とする重合体は、MMAと必要に応じてこれと共重合可能な単量体とを懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の方法により重合して得ることができる。
【0034】
上記MMA単位を主成分とする重合体と単量体成分を含有する重合性成分としては溶解状態であることが好ましく、MMA単位を主成分とする重合体が単量体成分に溶解している状態であることが好ましい。このため、MMA単位を主成分とする重合体の重合性成分中の含有量は、MMAとその他の単量体を含む単量体成分50〜100質量部に対し50質量部以下である。MMA単位を主成分とする重合体が50質量部以下であると、重合性成分においてMMA単位を主成分とする重合体はこれに含まれる単量体成分に均一な状態を保持して溶解される。上記単量体成分にMMA単位を主成分とする重合体を加えると、ベルト面とガスケットから構成される鋳型を用いて硬化物を製造する際、鋳型に注入した状態においてベルト面とガスケットとの間から重合硬化性組成物の混合物の漏洩を抑制するような粘度を有するものとすることができ、好ましい。
【0035】
このような重合性成分を調製するには、単量体成分を構成するMMAと、必要に応じてその他の共重合可能な単量体と、MMA単位を主成分とする重合体とを加えて混合することにより得られる。またMMAの一部を重合させて得ることができる。得られる重合性成分は、MMA単位を主成分とする重合体の存在により粘稠な液状物となり、シラップ状となる。
【0036】
上記メタクリル系重合硬化性組成物が含有するスルホ琥珀酸エステル塩としては、鋳型の汚染物質の発生を抑制し、鋳型からの離型を容易とするものである。スルホ琥珀酸エステル塩としては、具体的には、スルホ琥珀酸ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウム、スルホ琥珀酸ジヘキシルナトリウム、スルホ琥珀酸ジブチルナトリウム等の塩を挙げることができる。これらのスルホ琥珀酸エステルと塩を形成するイオンとしては、ナトリウムイオン多用されるが、カリウムイオンなどナトリウムイオン以外のものも使用できる。これらのスルホ琥珀酸エステル塩は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
スルホ琥珀酸エステル塩のメタクリル系重合硬化性組成物中の含有量は、重合性成分100質量部に対して0.005〜0.5質量部である。スルホ琥珀酸エステル塩の含有量が0.005質量部以上であれば、鋳型からの良好な離型性を示し、0.5質量部以下であれば、鋳型の汚染を抑制することができる。
【0038】
上記メタクリル系重合硬化性組成物が含有する一般式(1)で表されるリン酸エステルは、式(1)中、R1は炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基を表し、kは1または2の整数を表すものである。R1のアルキル基の炭素数が2以上であると鋳型を汚染する物質の生成が抑制される。また、R1のアルキル基の炭素数が8以下であると硬化物において高温においても優れた離型性を有する。
【0039】
このような一般式(1)で表されるリン酸エステルとしては、例えば、リン酸モノエチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸モノブチルエステル、リン酸ジブチルエステル、リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル、リン酸ジ2−エチルヘキシルエステル等を挙げることができる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
上記一般式(1)で表されるリン酸エステルのメタクリル系重合硬化性組成物中の含有量は、重合性成分100質量部に対して、0.005〜0.5質量部の範囲である。上記リン酸エステルの含有量が0.005質量部以上であると、重合硬化物を鋳型から高温で離型する際の離型性が良好となる。0.5質量部以下であると、得られる重合硬化物において吸水性が上昇するのを抑制することができ、外観性に優れたものとなる。
【0041】
上記メタクリル系重合硬化性組成物が含有する一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体は、式(2)中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基を表し、iは2≦i≦46を満たす整数を表すものである。式中、iが2以上であると、鋳型の汚染を抑制することができ、46以下であると、単量体成分への溶解性に優れたものとなる。
【0042】
このような一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体としては、例えば、ポリエチレングリコール(10)モノドデシルエーテル、ポリエチレングリコール(20)モノドデシルエーテル、ポリエチレングリコール(30)モノドデシルエーテル、ポリエチレングリコール(10)モノテトラデシルエーテル、ポリエチレングリコール(10)モノヘキサデシルエーテル、ポリエチレングリコール(10)モノオクタデシルエーテル、ポリエチレングリコール(30)モノオクタデシルエーテル、ポリエチレングリコール(5)、ポリエチレングリコール(9)、ポリエチレングリコール(23)、ポリエチレングリコール(34)、ポリエチレングリコール(45)、ポリエチレングリコール(10)モノステアレート、ポリエチレングリコール(15)モノステアレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマー、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート、ポリエチレングリコールソルビタンモノステアレート、ポリエチレングリコール(10)モノメチルエーテル、ポリエチレングリコール(20)モノメチルエーテル、ポリエチレングリコール(10)ジメチルエーテル、等を挙げることができる。これらのポリエチレングリコール誘導体の記載における括弧内の数字はエチレングリコール単位の数を表す。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0043】
上記メタクリル系重合硬化性組成物が含有する一般式(3)で表される化合物は、式(3)中、l、m、n、oは2×(n+2)≦m+o+l≦50、1≦n≦18を満たす整数を表すものである。l、m、n、oが前記関係式を満たす場合、単量体成分への良好な溶解性を有し、得られる重合硬化物において良好な離型性を有する。
【0044】
このような一般式(3)で表される化合物としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール(8)グリセリルエーテル、ポリオキシエチレングリコール(15)グリセリルエーテル、ポリオキシエチレングリコール(20)グリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(22)ソルビトールエーテル等を挙げることができる。これらの化合物における括弧内の数字は、エチレングリコール単位の数を表す。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0045】
上記一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物のメタクリル系重合硬化性組成物中のこれらの合計の含有量は、スルホ琥珀酸エステル塩の0.5〜50倍量の範囲である。これらの含有量がこの範囲であれば、いずれか一方のみを含有するものであっても、また、両者を含有するものであってもよい。上記ポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物の含有量がスルホ琥珀酸エステル塩の0.5倍量以上であると、鋳型の汚染を抑制することができ、含有量が50倍量部以下であると、得られる重合硬化物においてメタクリル系樹脂本来の物性が損なわれないものとなる。
【0046】
上記メタクリル系重合硬化性組成物には、上記成分を阻害しない範囲において、必要に応じて、着色に用いられる染料、顔料;酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤;難燃剤、耐衝撃性改質剤等を含有させることができる。また、必要に応じてn−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン等を分子量調節剤として含有させることもできる。
【0047】
本発明のメタクリル系重合硬化物の製造方法に用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物等を挙げることができる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
これらのラジカル重合開始剤の使用量としては、例えば、単量体成分100質量部に対して0.005〜0.5質量部とすることができる。
【0049】
本発明のメタクリル系重合硬化物の製造方法としては、上記メタクリル系重合硬化性組成物を調製し、これにラジカル重合開始剤を加え、減圧脱泡し、これを鋳型内に注ぐ方法を挙げることができる。
【0050】
上記メタクリル系重合硬化性組成物を調製する方法として、MMA、必要に応じてその他の単量体、必要に応じてMMA単位を主成分とする重合体を含有する重合性成分に、スルホ琥珀酸エステル塩、一般式(1)で表されるリン酸エステル、一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物との少なくとも一方を所定量計量し適宜容器内で混合攪拌する方法を挙げることができる。
【0051】
上記重合性成分の調製方法として、単量体成分を構成するMMAと、必要に応じてその他の共重合可能な単量体に、別途、予め、MMAと必要に応じてこれと共重合可能な単量体とを懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の方法により重合して得られたMMA単位を主成分とする重合体を加えて混合する方法を挙げることができ、このとき必要に応じて、例えば、50〜85℃に加温することができる。得られる重合性成分は、MMA単位を主成分とする重合体の存在により粘稠な液状物となり、シラップ状となる。
【0052】
また、重合性成分の調製方法として、単量体成分のMMA、またはMMAとその他の単量体の一部を重合させてMMA単位を主成分とする重合体を上記重合性成分中の含有量の範囲で含有するシラップとし、これを重合性成分として用いることもできる。単量体成分の一部を重合してシラップとするには、冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応機に、MMA、またはMMAとその他の共重合可能な単量体とを所定量計量し、撹拌しながら加熱し、ラジカル重合開始剤の一部を加え、所定の温度に保持した後、冷却する方法によることができる。
【0053】
このようなシラップ状の重合性成分に、スルホ琥珀酸エステル塩、一般式(1)で表されるリン酸エステル、一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物との少なくとも一方を添加、攪拌、混合し、必要に応じ添加剤を添加することができる。添加剤は、メタクリル系重合硬化性組成物にラジカル重合開始剤を添加し、鋳型に注入する直前までの間に添加混合することもできる。
【0054】
上記メタクリル系重合硬化性組成物にラジカル重合開始剤を加えるには、適宜混合攪拌すればよい。ラジカル重合開始剤とメタクリル系重合硬化性組成物とを混合し、脱泡し、鋳型内に注入する。
【0055】
本発明のメタクリル系重合硬化物の製造方法に用いる鋳型としては、例えば、一定間隔、具体的には、0.5〜15mmの範囲を有して対向して設けられる1対の板状体と、この一定間隔を閉塞するように設けられるガスケットで構成されたものを挙げることができ、これらを固定状態として、または移動状態として使用することができる。1対の板状体の材質としては、例えば、強化ガラス、クロムメッキ板、ステンレス板等を挙げることができ、これらのうち金属製が汚染物質の付着を抑制することができるため好ましい。ガスケットの材質としては、軟質塩化ビニル等を挙げることができる。
【0056】
移動状態として用いる鋳型としては、ベルト面が一定間隔を保持して対向して配置され同一方向へ同一速度で走行する2枚のエンドレスベルトにおける1対のベルト面と、1対のベルト面の両側端部の一定間隔を閉塞するように配置される1対のガスケットとで構成されるものを挙げることができる。
【0057】
上記鋳型を用いて注入した単量体成分を重合する温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類により異なるが、例えば、40〜170℃とすることができ、第1段階を40〜90℃、第2段階を100〜140℃などの2段階とすることが好ましい。鋳型内の圧力としては、例えば、エンドレスベルトを用いた場合、0MPa(常圧)〜0.1MPaとすることが好ましい。硬化時間としては、使用するラジカル重合開始剤、温度、圧力、硬化物の形状などの条件によって適宜選択することができ、例えば、30分などとすることができる。
【0058】
重合硬化後、重合硬化物を鋳型から取り出す際の温度(以下「離型温度」という)は、70℃以上であることが好ましく、より好ましくは、75℃以上、更に好ましくは、80℃以上である。離型温度が70℃以上であると、重合硬化物表面に小さなキズが発生するのを抑制することができる。また、離型温度が110℃以下であると、重合硬化物表面にスジ状の欠損が発生するのを抑制し、メタクリル系重合硬化物の優れた透明性、光学特性を保つことができる。
【0059】
このようなメタクリル系重合硬化物の製造方法は、板状、フィルム状、塊状などいずれの形状の重合硬化物の製造にも適用することができるが、上記エンドレスベルトを用いた鋳型による場合は板状であることが好ましい。板状である場合、その厚さは0.5〜15mmの範囲内であることが好ましい。
【0060】
本発明のメタクリル系重合硬化物の製造方法を適用することができるメタクリル系重合硬化物の製造装置の一例として、図1に示すメタクリル系樹脂板状体の製造装置を挙げることができる。図1に示すメタクリル系樹脂板状体の製造装置には、2枚のステンレス製エンドレスベルト10、10’、例えば、全長100m、厚さ1.5mm、幅1.5mのものが、プーリ11、12間、プーリ11’、12’間にそれぞれ懸架され、ベルト面が対向して設けられる。エンドレスベルト10、10’はそれぞれ主プーリ11、11’によって油圧で張力が与えられ、対向するベルト面間が一定間隔、例えば、0.5〜15mmを有するように配置される。エンドレスベルトは主プーリ12、12’の回転により対向するベルト面が、それぞれ図において左から右方向へと一定速度、例えば、1.5m/min等で走行し、エンドレスに搬送されるようになっている。このようなエンドレスベルトの両側端部には、ポリ塩化ビニル製等の1対のガスケット13が供給される。1対のガスケット13は、ベルト面が保持する一定間隔を閉塞するように配置され、エンドレスベルト10、10’の対向する1対のベルト面と共に鋳型を形成する。
【0061】
エンドレスベルトの図上の左端のベルト面が対向する直前の位置に、ポンプ14の作動によりメタクリル系重合硬化性組成物をエンドレスベルト10’上に供給するノズル15が設けられ、その下流のベルト面が対向する位置に加熱手段が設けられる。加熱手段には、例えば、80℃の温水スプレーによる加熱部16、16’、遠赤外線ヒータによる加熱部17、17’が設けられ、対向する1対のベルト面と1対のガスケット間においてメタクリル系重合硬化性組成物が重合硬化されるようになっている。
【0062】
上記本発明の製造方法により得られるメタクリル系重合硬化物には、耐擦傷性を向上させるためのハードーコート被膜を設けたものが好ましい。ハードコート被膜の厚さとしては、10〜30μmの範囲が好ましい。ハードコート被膜の厚さが10μm以上であると得られるメタクリル系重合硬化物において優れた耐擦傷性を有するものとなり、30μm以下であると切断時の割れ等の発生を抑制することができ、加工性に優れたものとなる。
【0063】
ハードコート被膜の材質としては、具体的には、2つ以上のアクリロイル基、メタクリロイル基を含んだ架橋性成分を紫外線等の活性エネルギー線を照射して得られる硬化物や、シリコン系、メラミン系の架橋性成分を加熱して得られる硬化物などを挙げることができる。
【0064】
上記2つ以上のアクリロイル基、メタクリロイル基を含んだ架橋性成分から得られる硬化物としては、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性化合物(a−1)100質量部に、光重合開始剤(a−2)0.1〜10質量部を加え、紫外線を照射して得られるものが、硬化速度の点から好ましい。光重合開始剤の存在量が0.1質量部以上であると、重合性化合物(a−1)の硬化性が向上し、10質量部以下であると硬化後の被膜の着色を抑制することができる。
【0065】
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性化合物(a−1)としては、(メタ)アクリロイルオキシ基を結合する残基が、炭化水素またはその誘導体であり、その分子内にはエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合等を含むものを挙げることができる。なお、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシ及び/又はメタクリロイルオキシを意味する。
【0066】
2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性化合物(a−1)としては、例えば、1モルの多価アルコールと、2モル以上の(メタ)アクリル酸またはこれらの誘導体とから得られるエステル化物;多価アルコールと、多価カルボン酸またはこの無水物と、(メタ)アクリル酸またはこれらの誘導体とから得られる、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する線状のエステル化物等を挙げることができる。
【0067】
上記1モルの多価アルコールと、2モル以上の(メタ)アクリル酸とから得られるエステルとしては、具体的には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0068】
上記多価アルコールと、多価カルボン酸またはこの無水物と、(メタ)アクリル酸とから得られる1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する線状のエステル化物を得るためのこれらの好ましい組合わせとしては、具体的には、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。
【0069】
重合性化合物(a−1)の他の例としては、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の3量化により得られるポリイソシアネートと、活性水素を有するアクリルモノマー、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等とを、ポリイソシアネート1モル当たりアクリレート3モル以上を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート;公知のエポキシポリアクリレート;公知のウレタンポリアクリレート等を挙げることができる。これらの重合性化合物は、1種を単独で、または2種以上を混合して使用することもできる。
【0070】
上記光重合開始剤(a−2)としては、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
ハードコート被膜には、目的に応じて種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、界面活性剤、レベリング剤、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、難燃剤、可塑剤等を挙げることができる。添加剤の含有量は、得られる硬化膜の物性が損なわれない範囲内で適宜選択できるが、重合性化合物(a−1)と光重合開始剤(a−2)の合計100質量部当たり、10質量部以下であることが好ましい。
【0072】
このようなハードコート被膜を成形する方法として、重合性化合物(a−1)と、光重合開始剤(a−2)と、必要に応じて上記添加剤とを含有する塗工液を調製し、この塗工液を用いてフィルムカバー法、流延法、ローラーコート法、バーコート法、噴霧コート法、エアーナイフコート法等により、好ましくはフィルムカバー法、エアーナイフ法等によりメタクリル系重合硬化物上に未硬化膜を形成する。その後、未硬化膜に活性エネルギー線を照射して硬化する方法を挙げることができる。重合性化合物(a−1)を硬化する活性エネルギー線としては、紫外線、電子ビーム等を挙げることができる。
【0073】
また、本発明のメタクリル系重合硬化物を上記移動状態の鋳型を用いて製造する場合、鋳型を構成する所定の間隔をもって対向して走行する1対のベルト面を有するエンドレスベルトの片面または両面に、上記方法により調製したハードコート被膜用塗工液を用いて塗工膜を形成し、活性エネルギー線を照射して硬化させ、ハードコート被膜を成形する。ハードコート被膜は、鋳型中に本発明のメタクリル系重合硬化性組成物の注入前に、鋳型表面において硬化されることが好ましい。メタクリル系重合硬化性組成物の鋳型への注入前にハードコート被膜が硬化されると、ハードコート被膜とメタクリル系重合硬化物との密着性が良好となる。鋳型表面に成形したハードコート被膜上、またはハードコート被膜間に、本発明のメタクリル系重合硬化性組成物とラジカル重合開始剤との混合物を注入して重合を行い、鋳型から離型することにより、その表面にハードコート被膜を有するメタクリル系重合硬化物を得ることができる。
【0074】
また、本発明のメタクリル系重合硬化性組成物は、メタクリル酸メチル60〜100質量%及びこれと共重合可能な単量体0〜40質量%を含有する単量体成分50〜100質量部と、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体0〜50質量部とを含む重合性成分100質量部、スルホ琥珀酸エステル塩0.005〜0.5質量部、一般式(1)で表されるリン酸エステル0.005〜0.5質量部、及び、合計量がスルホ琥珀酸エステル塩0.5〜50倍量である一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物との少なくとも一方を含むものである。具体的には、上記メタクリル系重合硬化物の製造方法において用いるメタクリル系重合硬化性組成物と同様のものを挙げることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。ここで、実施例、比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。なお、ポリエチレングリコールの記載における括弧内の数字は、ポリエチレングリコールのエチレングリコール単位の数を表す。
[スルホ琥珀酸エステル塩]
A−OT:スルホ琥珀酸ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウム(三井サイテック社製)
[化合物A(一般式(1)で表されるリン酸エステル)]
JP−502:リン酸ジエステルとリン酸モノエステルの55:45の混合物(城北化学社製)
JP−504:リン酸ジブチルエステルとリン酸モノブチルエステルの60:40の混合物(城北化学社製)
JP−508:リン酸ジ2−エチルヘキシルエステルとリン酸モノ2−エチルヘキシルエステルの50:50の混合物(城北化学社製)
[化合物B(一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体)]
PEG400:ポリエチレングリコール(9)(日本油脂社製)
PEG600:ポリエチレングリコール(14)(日本油脂社製)
PEG2000:ポリエチレングリコール(45)(日本油脂社製)
ノニオンT−208.5:ポリエチレングリコール(9)ドデシルエーテル(日本油脂社製)
[化合物C(一般式(3)で表される化合物)]
ユニオックスG−450:ポリオキシエチレングリコール(8)グリセリルエーテル(日本油脂社製、l+m+o=8、n=1)
ユニオックスG−750:ポリオキシエチレングリコール(15)グリセリルエーテル(日本油脂社製、l=5、m=5、o=5、n=1)
ブラウノンGL−20:ポリオキシエチレングリコール(20)グリセリルエーテル(青木油脂社製、l+m+o=20、n=1)
ブラウノン240:ポリオキシエチレングリコール(22)ソルビトールエーテル(青木油脂社製、l+m+o=22、n=4)
[その他]
PEG4000:ポリエチレングリコール(90)(日本油脂社製)。
【0076】
実施例における物性は以下の方法により行い、以下の基準に基づいて評価を行った。
[高温離型性]
板状のメタクリル系重合硬化物を重合した後、鋳型から各実施例記載の温度で重合硬化物を離型した。離型性を下記の基準により評価した。
○:鋳型から板状物を離型する際、なめらかに離型できる。
×:鋳型から板状物を離型する際、途中に引っ掛かりがあり、表面欠陥を生ずる。
【0077】
[板状物外観]
鋳型から取り出した板状のメタクリル系重合硬化物の外観を、暗所の照明下で観察した。外観を以下の基準により評価した。
○:外観欠陥がない。
×:板表面に、離型時、または重合時についた線状の模様が見られる。
【0078】
[鋳型汚染性]
板状のメタクリル系重合硬化物の重合を、途中で鋳型を洗浄することなく同一鋳型で繰り返し10回重合した後に、暗所の照明下で鋳型表面の汚染状況を観察した。鋳型の汚染を以下の基準により評価した。
○:汚染なし。
×:汚染有り。
【0079】
[メタクリル系重合硬化性組成物の溶解性]
スルホ琥珀酸エステル塩、化合物A、化合物Bまたは化合物Cを、表1に記載した添加量にしたがってMMAに添加した後、該MMAを25℃に調整し、30分攪拌した後の溶解性を観察した。
○:溶液が透明で、不溶物が見られない。
×:不溶物が見られる。
【0080】
[実施例1]
MMA100質量部を供給し、攪拌しながらA−OT;0.05質量部、化合物AとしてJP−502;0.05質量部、化合物BとしてPEG400;0.05質量部、ラジカル重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシピバレート;0.22質量部、酸化防止剤として2,4−ジメチル−6−ターシャリーブチルフェノール;0.005質量部を添加したところ、PEG400は速やかに溶解した。その後、ポリ塩化ビニル製ガスケットを介して2.5mmの間隔で対向する2枚のSUS304板で形成した鋳型に注入した。82℃の温水中に30分間浸漬し重合硬化させた後、130℃の空気加熱炉中で30分間熱処理し、100℃に冷却した後、型枠を脱枠して板厚約2mmの板状のメタクリル系重合硬化物を得た。この板状物の製造を、鋳型を洗浄せず10回繰り返したところ、毎回の高温離型性は良好であり、得られた樹脂板の表面の外観は良好であった。鋳型の汚染も確認されなかった。
【0081】
[実施例2]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応機に、MMA100質量部を供給し、撹拌しながら加熱し内温が80℃になった時点で2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.05質量部を添加し、更に内温90℃まで加熱し13分間保持した後、室温まで冷却して重合率約26質量%、20℃における粘度2Pa・sのシラップを得た。
【0082】
次いで、このシラップ90質量部に、MMA10質量部を混合して重合性成分100質量部を調製した。この重合性成分を実施例1のMMA100質量部の代わりに使用した他は、実施例1と同様にして、板状のメタクリル系重合硬化物の製造を行った。PEG400は速やかに溶解し、さらに毎回の高温離型性は良好であり、得られた板状物の外観は良好であった。鋳型の汚染も確認されなかった。
【0083】
[実施例3]
図1に示すメタクリル系樹脂板状体の製造装置を使用した。ベルト面が対向して同一方向へ同一速度で走行する幅1200mm、厚さ1mmの鏡面仕上げしたSUS304製エンドレスベルトと、その対向する面の両側端部に配置されるポリ塩化ビニル製ガスケットとで構成され、2枚のエンドレスベルトの間隙が予め3.8mmの厚みになるように設定された鋳型を用い、これに定量ポンプを用いて、化合物BとしてPEG400を0.05質量部の替わりにPEG2000を0.25質量部を用いた他は、実施例2と同様にしてメタクリル系重合硬化性組成物を得た。PEG2000は速やかに溶解した。得られたメタクリル系重合硬化性組成物を用いた他は、実施例2と同様に重合開始剤との混合物とし、それを一定流量でセルに注入した。ベルトの移動と共に78℃の温水シャワーで30分間重合硬化させた後、遠赤外線ヒーターで135℃の熱処理を20分間行い、送風により10分間かけて100℃に冷却後、ベルトから重合硬化物を離型して板厚約3mmの板状のメタクリル系重合硬化物を得た。この製造操作の途中にベルトの洗浄を行うことなく10周繰り返したところ、毎回の高温離型性は良好であり、得られた板状物の表面の外観は良好であった。鋳型であるエンドレスベルトの汚染も確認されなかった。
【0084】
[実施例4〜12、比較例1〜7]
スルホ琥珀酸エステルナトリウム塩、化合物A、化合物B、化合物Cの種類、添加量を、表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様に板状物を製造し、物性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
[実施例13]
重合性化合物(a−1)としてヘキサメチレンジイソシアネートの3量体からなるトリイソシアネート1モルに対し3モルの3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートを反応して得られるウレタン化合物(商品名:NKエステルU−6HA、新中村化学工業社製)30部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製)60部と、ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亜合成社製)10部と、光重合開始剤(a−2)としてベンゾインエチルエーテル1.5部とを混合溶解して、ハードコート被膜用塗工液を調製した。
【0087】
次いで、鋳型となる鏡面を有するSUS304板の鏡面上にこのハードコート被膜用塗工液を塗布し、厚さ12μmのPETフィルムを被せ、JIS硬度40°のゴムロールを用い、過剰な硬化性組成物をしごき出しながら気泡を含まないように圧着させて、その厚みを22μmとした。次いで、このPETフィルム面を上にして、出力40Wの蛍光紫外線ランプ(東芝社製FL40BL)の下20cmの位置を0.3m/minのスピードで通過させて、硬化を行った。そして、SUS304板上にその硬化塗膜を残して、PETフィルムを剥離した。次いで、SUS304板の硬化塗膜面を上にして、出力30Wの高圧水銀灯の下20cmの位置を0.3m/minのスピードで通過させて、塗膜をさらに硬化させ、膜厚20μmの硬化したハードコート被膜を得た。
【0088】
このセルに、化合物BとしてのPEG400を0.05質量部の替わりに化合物CとしてのユニオックスG−750を0.05質量部を用いた他は、実施例2と同様にしてメタクリル系重合硬化性組成物を得た。ユニオックスG−750は速やかに溶解した。得られたメタクリル系重合硬化性組成物を用いた他は実施例1と同様に板状のメタクリル系重合硬化物の製造を行った。毎回の高温離型性は良好であり、得られた板状物の表面の外観は良好であった。鋳型の汚染も確認されなかった。
【0089】
[実施例14〜17、比較例7〜10]
スルホ琥珀酸エステルナトリウム塩、化合物A、化合物B、化合物Cの種類、添加量を、表2に示すように変えたこと以外は実施例13と同様に板状物を製造し、物性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0091】
鋳型からの離型が容易で、透明性に優れ、外観欠陥のないメタクリル系重合硬化物が容
易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明のメタクリル系重合硬化物の製造方法を使用するメタクリル系重合硬化物の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0093】
10、10’ エンドレスベルト
11、11’、12、12’ プーリ
13 ガスケット
14 ポンプ
15 ノズル
16、16’、17、17’ 加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル60〜100質量%及びこれと共重合可能な単量体0〜40質量%を含有する単量体成分50〜100質量部と、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体0〜50質量部とを含む重合性成分100質量部、
スルホ琥珀酸エステル塩0.005〜0.5質量部、
一般式(1)で表されるリン酸エステル0.005〜0.5質量部、及び、
合計量がスルホ琥珀酸エステル塩の0.5〜50倍量である一般式(2)で表されるポリエチレングリコール誘導体と一般式(3)で表される化合物との少なくとも一方を含むメタクリル系重合硬化性組成物を、
ラジカル重合開始剤の存在下、鋳型内で重合硬化し、重合硬化物を70〜110℃の温度下で鋳型から離型するメタクリル系重合硬化物の製造方法。
【化1】

(式中、R1は炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、kは1または2の整数を表す。)
【化2】

(式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、iは2≦i≦46を満たす整数を表す。)
【化3】

(式中、l、m、n、oは2×(n+2)≦m+o+l≦50、1≦n≦18を満たす整数を表す。)
【請求項2】
鋳型が、ベルト面が一定間隔を保持して対向して配置され同一方向へ同一速度で走行する2枚のエンドレスベルトにおける1対のベルト面と、1対のベルト面の両側端部の一定間隔を閉塞するように配置される1対のガスケットとで構成されたものである請求項1に記載のメタクリル系重合硬化物の製造方法。
【請求項3】
メタクリル酸メチル60〜100質量%及びこれと共重合可能な単量体0〜40質量%を含有する単量体成分50〜100質量部と、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体0〜50質量部とを含む重合性成分100質量部、
スルホ琥珀酸エステル塩0.005〜0.5質量部、
一般式(1)で表されるリン酸エステル0.005〜0.5質量部、及び、
合計量がスルホ琥珀酸エステル塩の0.5〜50倍量である一般式(2)で表されるポリエチレングリコール化合物と一般式(3)で表される化合物との少なくとも一方を含むメタクリル系重合硬化性組成物。
【化4】

(式中、R1は炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、kは1または2の整数を表す。)
【化5】

(式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいアルキル基、iは2≦i≦46を満たす整数を表す。)
【化6】

(式中、l、m、n、oは2×(n+2)≦m+o+l≦50、1≦n≦18を満たす整数を表す。)

【図1】
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【公開番号】特開2007−277454(P2007−277454A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107492(P2006−107492)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】