説明

メタルハライドランプ

【課題】 放電空間に本質的に水銀を含まないメタルハライドランプにおいて、過度のナトリウムの抜けを防止しつつ、安定時の点灯電圧の低下を抑止する。
【解決手段】 本発明のメタルハライドランプは、放電空間111を形成する発光管部11、その発光管部11の両端に形成された封止部121、122とを有する透光性の気密容器1の放電空間111に、水銀は含まず、ナトリウム及びスカンジウムを含む金属ハロゲン化物および希ガスが封入されている。封止部121、122には、その内部に金属箔21、22が封着され、その一端には一対の電極31、32が接続されており、他端は、放電空間111内で所定の電極間距離を保って対向配置されている。気密容器1には、その全体を包囲するように添加量が500ppm以上、2500ppm以下のAlを含む一又は複数の金属酸化物が添加された透光性の外管7が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前照灯等に使用される放電空間に本質的に水銀を含まないメタルハライドランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、放電バルブは、Hg,NaI,ScIおよびXeガスを封止した、発光管に相当するアークチューブを囲繞するように、金属酸化物が添加された外管に相当する円筒形状のシュラウドガラスを溶着一体化したアークチューブ本体を備えている。そのシュラウドガラスは、金属酸化物の総添加量が4000〜7000ppmの範囲で構成されている。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開2002−367562公報(第2〜5頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1は、水銀が封入された放電バルブにおいて、金属酸化物を好適な量だけ添加することで、ナトリウムのアークチューブ外への通り抜けを抑制できると記載されている。また、請求項2には、Alを1500ppm以上、CeOを2500ppm以上含むことで、発光色の変化や光束の低下等を防止できると記載されている。ここで、シュラウドガラスに添加された金属酸化物の中で、Alは、主にナトリウムの外部への通り抜けを抑制すると記載されている。
【0004】
しかしながら、本発明者等の実験により、水銀を封入しないメタルハライドランプ(以後、水銀フリーランプ)において、点灯中にランプ安定時の点灯電圧が著しく低下するという現象が発生していることがわかった。さらに本発明者等の実験によれば、このランプ安定時の電圧低下の現象について追求した結果、点灯中の金属ハロゲン化物の比率が大きく関係していることがわかった。なお、この電圧低下の現象は、水銀入りのメタルハライドランプ(水銀入りランプ)でも発生していた可能性はあるが、水銀入りランプでは安定点灯時の電圧が水銀フリーランプよりも2倍近く高いため、電圧が低下しても定電力点灯時の電流増加の影響は少ないことから、ランプ安定時の点灯電圧の低下が課題視されることはなかった。
【0005】
本発明の目的は、放電空間に本質的に水銀を含まない条件において、過度のナトリウムの抜けを防止しつつ、安定時の点灯電圧の低下を抑止するメタルハライドランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のメタルハライドランプは、放電空間を形成する発光管部、該発光管部の両端に形成された封止部とを有する透光性の気密容器と、前記放電空間にナトリウム及びスカンジウムを含む金属ハロゲン化物および希ガスが封入され、かつ本質的に水銀を含まない放電媒体と、前記封止部の内部に封着された金属箔と、一端は前記金属箔に接続され、他端は前記放電空間内で所定の電極間距離を保って対向配置された一対の電極と、前記気密容器を包囲して取り付けられ、添加量が500ppm以上、2500ppm以下のAlを含む一又は複数の金属酸化物が添加された透光性の外管と具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放電空間に本質的に水銀を含まない条件において、過度のナトリウムの抜けを防止しつつ、安定時の点灯電圧の低下を抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(第1の実施の形態)
以下に、本発明の実施の形態のメタルハライドランプについて図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態であるメタルハライドランプの全体図である。
【0009】
気密容器1は、例えば、透光性の石英ガラスからなり、ほぼ楕円形の形状の発光管部11とその長手方向の両端部に発光管部11と同材料で形成された封止部121、122からなる。発光管部11の内部には、その長手方向にほぼ円柱状の放電空間111が形成されており、放電空間111には、放電媒体として金属ハロゲン化物であるヨウ化ナトリウム、ヨウ化スカンジウム、ヨウ化亜鉛、および希ガスであるキセノンが封入されている。ヨウ化ナトリウムに含有されている金属ナトリウムおよびヨウ化スカンジウムに含有されている金属スカンジウムは、主に発光金属として作用し、ヨウ化亜鉛に含まれている金属亜鉛は、主に水銀に代わるランプ電圧形成媒体として作用し、キセノンは、主に始動ガスとして作用する。また、ハロゲン化物としては、他のハロゲン化物よりも反応性が低いヨウ素が最も好適である。
【0010】
ここで、発光管部11に封入される放電媒体には、水銀は本質的に含まれていない。この「本質的に水銀を含まない」とは、水銀を全く含まないか、または1ccあたり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀量が存在していても許容するという意味である。つまり、従来の水銀入りのショートアーク形ランプのように、水銀蒸気によってメタルハライドランプの電圧を所要に高くする場合、1ccあたり20〜40mg、場合によっては50mg以上封入しており、この水銀量と比較すれば、2mg未満の水銀量は圧倒的に少なく、本質的に水銀が含まれないと言える。
【0011】
圧潰形成された板状の封止部121、122の内部には、例えばモリブデンからなる金属箔21、22が封着されている。放電空間111側の金属箔21、22の一端部には、直径が異なる大径部311、321と小径部312、322とが一体に形成され、かつ例えばタングステンからなる電極31、32の一端が、金属箔21、22とほぼ一体になるように抵抗溶接により接続され、電極31、32の他端は、発光管部11付近の封止部121、122を通って、放電空間111に延出し、所定の電極間距離を保って、その先端同士が対向するように配置されている。ここで、電極31、32の大径部311、321は放電空間111に、小径部312、322は封止部121、122内にそれぞれ位置している。
【0012】
電極31、32の金属箔21、22と近接する軸部分には、金属導線を数回、回巻して形成したコイル41、42が、その外周面と接触するように接続されている。このコイル41、42は、金属箔21、22側の端部から放電空間111に向けて所定距離巻かれ、コイル41、42の他端は封止部121、122に内在している。
【0013】
金属箔21、22において、電極31、32の接続部分に対して反対側の端部には、導入導体51、52が溶接等により接続されており、この導入導体52の他端は、封止部122の外部に延出し、L字状に形成された給電端子53の一端とほぼ直角になるように接続されている。この給電端子53の他端は、導入導体51の方向、かつ封止部121、122とほぼ平行に延出している。そして、封止部121、122と平行する給電端子53には、絶縁チューブ6が取着されている。
【0014】
これらを備えた気密容器1の外側には、石英ガラスからなる筒状で透光性の外管7が、その長手方向に包囲するように取り付けられている。この外管7には、Al、CeO及びTiOが添加されている。Al(酸化アルミニウム)は主としてナトリウムの外管7の外部への抜け防止に寄与し、CeO(酸化セリウム)及びTiO(酸化チタン)は主として紫外線の遮断に寄与する。この外管7の長手方向の両端部には、縮径部71が形成されており、縮径部71は封止部122の発光管部11方向に対して反対側の端部付近をガラス溶着し、図示していないもう一方の縮径部は、封止部121の発光管部11方向に対して反対側の端部付近をガラス溶着している。
【0015】
気密容器1を内部に包囲した状態の外管7は、その外周面を挟持するように形成された固定金属具8を介して、ソケット9に接続されている。このソケット9の気密容器1が接続される場所に対して反対の方向には、金属端子91がその外周面に沿って形成されており、この金属端子91は、給電端子53とソケット9内部で電気的に接続されている。また、図示していないが、発光管部11に対して反対方向に延出していた導入導体51は、ソケット9内部を通って、ソケット9の底部部分に位置している。
【0016】
図2は、図1のメタルハライドランプの仕様の例について説明するための発光管部付近の拡大図である。発光管部11の内径Aは2.6mm、外径Bは6.0mm、長手方向の最大長Cは6.5mm、電極間距離Dは4.2mmである。外管7の内径Eは7.0mm、外管7には金属酸化物としてAl、CeO及びTiOが含まれ、CeO及びTiOの総添加量が7000ppmである。発光管部11には、放電媒体として金属ハロゲン化物であるヨウ化スカンジウム−ヨウ化ナトリウム−ヨウ化亜鉛−ヨウ化インジウムが0.8mgと希ガスであるキセノンが10atmそれぞれ封入されており、水銀は一切含まれていない。また、気密容器1と外管7により形成されている空間は、大気雰囲気の状態になっている。
【0017】
図3は、図2のランプ仕様において、Alの添加量を300ppm〜3000ppmに変化させ、日本電球工業会に定められている自動車前照灯用メタルハライドランプの寿命試験条件であるEU120分モードでの1000時間点滅点灯試験を行った後の安定時電圧の変化を示す図であり、図4は図3をグラフに表した図である。ここで、変化前の安定時の電圧は42Vであった。
【0018】
Alの添加量が2500ppmにおいて、安定時電圧がほとんど変化していないことがわかる。Alの量が2500ppm以下よりも少なくなると、安定時電圧が上昇する結果が得られているが、特に500ppmよりも少なくなると急激に電圧の変化の割合が高くなっているのがわかる。Alの量が2500ppmよりも多くなると、安定時電圧が点灯初期の安定時電圧よりも低くなっている。
【0019】
Alの添加量を変えると安定時の電圧が変化したことから、ナトリウム抜けが電圧の変化と関係していることがわかった。ここで、ナトリウム抜けと電圧の変化の関係を下記のように推測する。
【0020】
まず第1に、点灯時のアーク幅の大小はナトリウムの量が関係し、発光管内に蒸気化するナトリウムが増えるとアークの幅が大きくなり、ナトリウムが少なくなるとアークの幅が小さくなる。アークの幅が小さくなると、アークの周方向の断面積が小さくなるために電流が流れにくい状態となる。そして、メタルハライドランプは定電力制御されているため、電流の減少に伴い初期の点灯電圧よりも高くなったと考えられる。
【0021】
第2に、水銀を封入しないメタルハライドランプは、金属ハロゲン化物の蒸気圧とXeの蒸気圧によって電圧が形成されている。その中で金属ハロゲン化物の蒸気圧は、ナトリウムのハロゲン化物とスカンジウムのハロゲン化物がそのほとんどを占めている。そして、本発明の実験過程によって、全体の蒸気圧とスカンジウムの蒸気圧との割合が電圧に大きく関係していることがわかった。すなわち、ナトリウムとスカンジウムの全蒸気圧に対して、スカンジウムの蒸気圧の方がナトリウムの蒸気圧よりも割合が高くなった場合に、電圧が上昇する現象が発生した。
【0022】
すなわち、Alの添加量を多くするとナトリウム抜けは少なくなるが、安定時の電圧は低くなってしまい、反対にAlの添加量を少なくするとナトリウム抜けは多くなるが、電圧の減少は抑制できる。ここで、ナトリウムとスカンジウムの減少について説明しておくと、ナトリウムは発光管外部に抜けたり、石英ガラスと反応したりすることで封入量が減少し、スカンジウムはナトリウムほど多くはないものの発光管外部に抜けたり、石英ガラスと反応することで封入量が減少する。このナトリウムの減少量を調節することで、点灯時の電圧の低下を抑制できたと考えられる。
【0023】
次に、Alの添加量について説明する。水銀を封入しないメタルハライドランプでは、その点灯回路の各素子は、回路の大型化やコスト上昇を避けるため、大きな電流の増加に耐えられるほどの耐久性を持たせないで設計される。また、電極については、電極と封止部との封着性等の問題から、直径の大きな電極は使用できず、熱による電極の溶融とのバランスをとれるような直径で設計されている。したがって、初期点灯時の電流値に対して、点灯時間経過後の電流値の増加がもたらす弊害は大きく、外管7のAlの添加量は電流値が増加していない2500ppm以下であることがよい。
【0024】
また、図4よりAlの添加量が500ppmよりも少なくなると、急激に電圧が上がることがわかる。過度な電圧の上昇は、点灯中の電流が大きく下がることになり、電極温度の低下によるちらつきや過度のナトリウム抜けによる発光色の変化、寿命の低下等の弊害が起こる恐れがある。したがって、Alの下限値は500ppm以上がよい。
【0025】
ここで、外管7にはAlのほかに、CeO及びTiOの金属酸化物が添加されている。これらの金属酸化物は、前述したように主にUVカットの作用をするため、CeO及びTiOの金属酸化物が少なくなると、人体に有害な紫外線の遮断作用を得ることができず、実用的ではない。逆に、総添加量が多すぎると外管7を加工した後、表面に凹凸が生じるようになり、配光特性等に影響を与えることになる。したがって、外管7に添加される金属酸化物の総添加量は、5500ppm以上、10000ppm以下が望ましい。
【0026】
本実施の形態では、放電空間に本質的に水銀を含まないランプにおいて、外管7のAlの添加量を500ppm以上、2500ppm以下とすることで、過度のナトリウム抜けを防止しつつ、点灯中の安定時電圧の減少を抑制することができる。
【0027】
また、外管7に含まれたAl(ただし、500ppm以上、2500ppm以下)、CeO及びTiOの金属酸化物の総添加量を5500ppm以上、10000ppm以下とすることで、紫外線の透過量を低減するメタルハライドランプを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のメタルハライドランプの第1の実施の形態について説明するための全体図。
【図2】図1のメタルハライドランプの仕様について説明するための発光管部付近の拡大図。
【図3】図2のランプ仕様において、Alの添加量を変化させて寿命試験を行い、電圧の変化を測定した図。
【図4】図3をグラフに表した図。
【符号の説明】
【0029】
1 気密容器
11 発光管部
111 放電空間
121、122 封止部
21、22 金属箔
31、32 電極
41、42 コイル
51、52 導入導体
53 給電端子
6 絶縁チューブ
7 外管
8 固定金属具
9 口金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間を形成する発光管部、該発光管部の両端に形成された封止部とを有する透光性の気密容器と、
前記放電空間にナトリウム及びスカンジウムを含む金属ハロゲン化物および希ガスが封入され、かつ本質的に水銀を含まない放電媒体と、
前記封止部の内部に封着された金属箔と、
一端は前記金属箔に接続され、他端は前記放電空間内で所定の電極間距離を保って対向配置された一対の電極と、
前記気密容器を包囲して取り付けられ、添加量が500ppm以上、2500ppm以下のAlを含む一又は複数の金属酸化物が添加された透光性の外管と
を具備していることを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記外管は少なくともCeOの金属酸化物を含み、Alを含めた金属酸化物の総添加量が5500ppm以上、10000ppm以下であることを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−134655(P2006−134655A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320897(P2004−320897)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】