説明

メタンハイドレート分解方法及び装置

【課題】メタンハイドレート層から、低電力で安全に、しかも効率よくMHからメタンを採取することを可能とする。
【解決手段】メタンハイドレート堆積物層の周辺圧力を所定圧力に減圧し、電解質溶液を注入した上で、内部に挿入した複数の電極間に通電処理を行い、メタンハイドレート堆積物の温度を上昇させ、メタンハイドレートをメタンと水分に分解するとともに、分離したメタンを優先的に排出することにより、メタンハイドレート堆積物の層における水分の浸透率値を維持しながら、通電処理を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタンハイドレート堆積物からメタンガスを分離生産する方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本近海に存在するメタンハイドレート(以下、MH)は、低温かつ高圧の条件下で、水分子が立体の網状構造を作り、内部の隙間にメタン分子が入り込み氷状の結晶の状態となっているもので、わが国の年間天然ガス消費量の約100年分にも相当する資源量が試算されており、将来の国産エネルギーとしての開発が期待されている。
現在検討されているMH貯留層からのメタンガスの回収法には、熱刺激法、減圧法、インヒビター圧入法等が挙げられるが、いずれも原位置でMHをガスと水とに分離分解させてガスを生産する方法である。
在来型エネルギー資源である石油・天然ガスとは異なり、MHは固体であり流動性を持たないことが特徴である。そのため、MHはガスや水の流動を妨げる物質として取り扱われ、その存在下での貯留層における流体の流れ易さを表す浸透率値の大小が、ガスの生産性を評価する上で重要な因子となる。
【0003】
熱刺激法の1つである熱水圧入法は、特許文献1、特許文献2にみられるように、熱水を圧入して貯留層の温度を上昇させることにより、MHの分解を促進させる方法であり、他の回収法と比較して高いガスの生産性が期待されている。
しかし、堆積層内部での熱水の温度低下、分解により生成したメタンガスと水が、MHが未分解かつ低温の下流区域に流入することに起因するMHの成長・再生成が促進され、結果として著しく浸透性が低下し、熱水圧入の継続が不可能となることが懸念される。
【0004】
またMH層の圧力を減圧し、分解領域に維持する減圧法は、急激な減圧処理によるハイドレートの分解とそれに伴う吸熱反応により、氷、もしくはMHの再生成を生じ、著しく浸透率が低下する。
【0005】
一方、熱刺激法とは異なる熱攻法(加熱法)として、特許文献3には、2本の坑井の間で通電を行い、貯留層を通電加熱することが提案されているが、発明者による実験の結果では、たとえ、坑井間5cmを模擬した実験においても、通電前に予めMHコア堆積物に海水濃度の食塩水を電解質溶液として通水しなければ、AC200Vでの通電加熱はほとんど行われなかった。
【0006】
この原因としては、次の二つが考えられる。
まず、第一にメタンハイドレート胚胎状態直後は、堆積物の孔隙内には残留水とガス、およびメタンハイドレートが存在するが、通電に必要な水の量が非常に少ないため、電気抵抗が大きく通電不能である。
次にメタンハイドレート堆積物を脱イオン水・蒸留水にて飽和操作した場合、孔隙は脱イオン水・蒸留水などで満たされるが、脱イオン水・蒸留水の電気抵抗が非常に大きい(1.67x10Ωm)ため、印加電圧AC200Vでの通電電流は50μA未満となり、通電加熱が効果的に行われなかったことが考えられる。
たしかに、1000V以上の高電圧を印加すれば、通電加熱が行われる可能性はあるが、このような高電圧では坑井に進入させた電極間で放電が発生する可能性があり、爆発等の危険性が高まってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−30378号公報
【特許文献2】特開2005−213824号公報
【特許文献3】米国特許第3916993号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低電圧、低電力でも、MHの効果的な通電加熱を可能にすることにより、上述した従来のMH分解方法と比較して、長時間にわたって高効率なMH分解を可能にするとともに、安全なMH分解方法及びそのための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、減圧法によりMH堆積物の層を分解領域に減圧した上で、電解質溶液及びMHから分離した水分を、通電加熱用の電極間で維持し、MH堆積物における流体の流れやすさを表す浸透率値の増加を図るようにすれば、低電圧の通電でも、長期にわたってMH堆積物の昇温、分解を促進し、MH堆積物からの高効率なメタンガス生産を行うことができるとの知見に基づき、次のようなメタンハイドレート分解方法を開発した。
【0010】
メタンハイドレート堆積物層の周辺圧力を所定圧力に減圧する工程と、前記メタンハイドレート堆積物層に電解質溶液を注入する工程と、前記メタンハイドレート堆積物層に挿入した複数の電極間に通電処理を行う工程と、前記通電処理によりメタンハイドレート堆積物の温度を上昇させ、メタンハイドレートをメタンと水分に分解する工程と、前記メタンハイドレートを分解する工程で分解したメタンを優先的に排出し、前記メタンハイドレート堆積物の層における前記電解質溶液及びメタンハイドレートを分解する工程で発生した水分の浸透率値を維持した上で前記通電処理を継続する工程とからなるメタンハイドレートの分解方法。
【0011】
さらに、このメタンハイドレートの分解方法を、自動的かつ効率的に実現するため、次のようなメタンハイドレートの分解装置を開発した。
すなわち、メタンハイドレート堆積物層に達している複数の坑井を介し、メタンハイドレート堆積物層の周辺圧力を所定圧力に減圧する減圧装置と、前記複数の坑井を介し、前記メタンハイドレート堆積物層に電解質溶液を注入する電解質溶液注入装置と、前記複数の坑井に連通するとともに、メタンハイドレート堆積物層の上部あるいは中間高さから、分解したメタンを排出するメタン排出通路に設けた排出弁と、前記複数の坑井のそれぞれを介して、前記メタンハイドレート堆積物の層に挿入した複数の坑井電極と、前記複数の坑井電極間に所定電圧及び所定電流の電力を印加する電源装置と、前記ポンプ、前記電解質溶液注入装置、排出弁及び前記電源装置による電力印加を制御する制御装置とからなるメタンハイドレートの分解装置。
【0012】
上記のメタンハイドレートの分解をより低電力で行えるよう、上記のメタンハイドレート分解装置において、複数の電極を、ひとつの坑井電極と、これを中心とした正三角形の頂点のそれぞれに配置した坑井電極とから構成し、前記中心に位置する坑井電極と、正三角形の頂点に配置した各坑井電極との間で、交互に前記所定電圧を印加するようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明のメタンハイドレート分解方法によれば、MH堆積物層を所定圧力に減圧し、電解質溶液の存在下で、このMH堆積物層に挿入した複数の電極間に低電圧を印加することにより、初期の通電加熱をスムースに開始させることによりMH堆積物の温度を上昇させ、MHをメタンと水分に分解するとともに、分離したメタンをMH堆積層から優先的に排出し、MH堆積物の層における電解質溶液と、MHを分解する工程で発生した水分を維持し、浸透率値を維持した上で効率的な通電処理を長時間にわたり継続することができる。
【0014】
本発明のメタンハイドレート分解装置によれば、上記のメタンハイドレート分解方法を効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるメタンハイドレート分解装置の全体構成を示した図である。
【図2】本発明によるメタンハイドレートからのガス生産を行うまでの坑井の作業工程を示した図である。
【図3】本発明によるメタンハイドレートの分解性能を検証するための実験装置の全体構成を示した図である。
【図4】メタンハイドレートの分解平衡温度圧力相図(a)と、キセノンハイドレートの分解平衡温度圧力相図(b)を対比した図である。
【図5】実験で使用したキセノンハイドレートの分解平衡圧力条件において、交流通電(300mA)を行った際の、各ハイドレート飽和率に対するコア温度(a)、コア電気比抵抗(b)、放出ガス量(c)、排出水(d)の時間変化(横軸経過時間)の実験結果を示した図である。
【図6】本発明による別の実施例の全体構成を示した図である。
【図7】別の実施例を水平坑井に適用した場合の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施例1)
図1に、メタンハイドレート採取プラントの全体構成が示されており、図2にこのようなプラントを構築し、ガス生産を行うまでの工程(a)〜(g)が示されている。
2図(a)の工程では、まず、MH堆積層に到る坑井1を複数掘削し、坑井開口部を抗口装置2により封じることで、海水の流入を防ぐ。抗口装置2上部には海中管3が海上まで伸びており、その先には配管導入口4及びメタンガス回収弁5が設置されている。
【0017】
2図(b)の工程で、掘削孔の壁をセメントによるケーシング6を行うことで、壁全体を電気的に絶縁体とした上で、掘削段階で堆積層中からの地層水が坑井に流れ込み、地層圧に相当する高さ(初期水頭圧:約9.0MPa)まで坑井内が水で満たされる。
【0018】
2図(c)、(d)の工程で、パーフォレーション7により壁と堆積物の一部に孔と亀裂を形成させた後、減圧装置としての抗底ポンプ8により坑井内の水を汲み上げ、水頭圧を下げる(減圧時水頭圧:約4.0MPa)ことで減圧を行う。
この減圧操作により、堆積層中のMHが一部分解し、パーフォレーション7部を通じてガスが放出されることがあるが、それに伴う吸熱作用によるコア温度の低下は、後述する工程(g)の通電加熱により補償され、分解速度を維持することができる。
【0019】
2図(e)の工程で、電解質溶液注入装置としての送水ポンプ9により、電解質溶液である海水を坑井内に注入し、初期水頭圧まで海水を充填することで、堆積層中に海水を圧入した後、送水ポンプ9を切り離す。
【0020】
次に2図(f)の工程で、再度抗底ポンプ8により坑井内の海水を汲み上げ水頭圧を下げる(減圧時水頭圧:約4.0MPa)ことで減圧を行った上で、抗底ポンプ8を坑井から引き抜き、坑井電極10をパーフォレーション7部に対応するよう挿入する。
【0021】
2図(g)の工程で複数の坑井1のそれぞれに挿入した坑井電極10に、配管導入口4を介して、電力供給装置11からの電力を供給し、MHの分解及び採取を開始する。
【0022】
例えば、坑井電極10の直径を5.04センチメートル、長さを1.0m程度とし、これら2つの電極間の距離を3mとした場合、50Hz交流10A〜40A(100V〜500V)を通電すると、内部温度が上昇し、坑井電極10周辺でハイドレートの分解が進行する。
なお、その際、分解の進行に伴う吸熱作用は、坑井電極10への通電により補償される。
【0023】
MHの分解に伴い、MHは、メタンガスと水分に分離され、比重の小さいメタンガスは、坑井1内を上昇する。そこで、MHの分解開始に合わせて、海中管3上部のメタン排出通路に設けたメタンガス回収弁5を開くことにより、メタンガスを採取することができる。
このように、メタンガスを坑井1の上端から優先的に採取することにより、MHの分解で生じた水分が堆積層内の孔隙を補填し、坑井1の周辺の電気抵抗が減少するとともに浸透率が維持もしくは増加し、さらには、通電当初からMH層に気相が残存する場合は、これをも排除して浸透率を増加させることができる。
【0024】
この実施例では、坑井1上端から、メタンガス回収弁5を介して、メタンガスを採取するようにしたが、MH堆積物層の中間部分に、メタン抽出用の配管を別途設けてもよく、要は、MH堆積物層において、電解質溶液及び分離した水分が十分に流動する程度に浸透率を維持すればよい。
【0025】
以上のとおり、本発明においては、電解質溶液を通水した後、MH平衡分解圧力まで圧力を減圧し通電することで堆積層の温度を昇温し、MHを分解させた後、堆積物の浸透率の減少を防止し、さらには浸透率を増加させる。
すなわち、本発明においては、通電によりMHが分解して生成した水が、下方に滞留し新たな通電領域を生成することで、MH堆積層の通電領域の増加すなわち通電・昇温領域の増加とMHの分解を促進し、MH分解に伴うメタンガス生産量を増加させることができる。
本発明は、MH堆積物の通電加熱は、所定深度で水平方向に坑井を延ばした水平抗井にも適用可能である。
【0026】
なお、メタンガス回収弁5、抗底ポンプ8、電力供給装置11等は、坑井1の適当な箇所に設置した圧力センサーや温度センサー、さらには電解質溶液及び分離した水分の浸透率を検出するための溶液電気抵抗センサーの検出値を監視しながら、オペレータが、制御盤に設けた調整器により最適な値に調整するようにしてもよいし、これらの検出値に基づいて、図示しないマイクロコンピュータ等の制御装置によりシーケンシャルに制御してもよい。
【0027】
ところで、本発明者らは、ごく一般的なMH堆積層である、深度1000m以上の海底地下におけるMH堆積層からのメタンガス生産をシミュレーションするため、図3にみられるようにキセノンガスハイドレート(以下、XHという。)及び静水圧型コアホルダー12を用いた実験装置を用いて実験を行った。
なお、MHの分解平衡温度圧力相図(a)を示す図4(a)を参照すれば、MH堆積物の場合は、圧力9MPaから4MPaまでの減圧は、平衡温度12.1℃から4.2℃までの温度変化に相当する。
一方、XHの分解平衡温度圧力相図を示す図4(b)を参照すれば、XH堆積物の場合は、圧力0.9MPaから0.4MPaまでの圧力変化は、平衡温度17.7℃から9.7℃までの温度変化に相当する。
したがって、XH堆積物を用いることで、MH堆積物と比較して約10分の1の圧力変化で、同程度の平衡温度変化の効果を調べることができる。
【0028】
さて、この実験装置では静水圧型コアホルダー12内にXH堆積物を作製し、コアに通水することでコアの浸透率を測定し、背圧制御弁13を制御することでコア圧を減圧する。XH堆積物を作製する際は、最初に、コアホルダー12内部のラバースリーブ14中に含水比を制御した豊浦標準砂を直径5.08cmφ×長さ12cmに整形した堆積物を装填する。拘束圧制御装置15を用いて、ラバースリーブ14とエンドキャップ16,17を介し、拘束圧を拘束圧圧力計18にてモニタし、堆積物19に拘束圧5MPaを印加する。キセノンガスボンベ20からガス流量制御器21を通じて堆積物18にキセノンガスを流し、背圧制御弁13を制御してコア内圧をコア圧力計22によってモニタし0.9MPaまで昇圧する。その後、コア熱電対23の出力をモニタし、ジャケット型コア温度制御器24により、コア温度を1℃まで冷却し、堆積物の孔隙内にキセノンガスハイドレートを胚胎させ、キセノンガスハイドレート堆積物19を得る。その後、ジャケット型コア温度制御器24により、コア温度を9℃まで昇温する。
【0029】
温度9℃、圧力0.9MPaを維持した状態で、コア下部に位置するコア片端のエンドキャップ16からコア内液体圧入装置25により蒸留水を圧入し、差圧計26によりコア入口圧と出口圧の圧力差を測定し浸透率Kwを計測する。次にNaCl3.5%で海水を模した電解質溶液を蒸留水の代わりにコア内液体圧入装置25により圧入し、浸透率Keを計測する。その後、圧力を0.4MPaまで減圧し、キセノンガスハイドレート生成分解における温度・圧力平衡状態を維持する。
コア両端のエンドキャップ16,17を電極として、交流電力供給装置27により50Hz交流100mA〜500mA(交流電圧20V〜600V)を通電することで、コアの内部温度が1℃〜40℃増加し、ハイドレートの分解が順調に進行し、キセノンガスは、コアホルダー12の溶液圧入側と反対側の背圧制御弁13を通して配管から一部分解水とともに排出される。排出されたガスおよび水はガス積算流量計28および水積算記録計29にてそれぞれ排出量が測定される。残留した水分は内部に保持され、MH分解領域へと浸透するので、電気抵抗は徐々に減少し、浸透率は徐々に増加する。
【0030】
ハイドレート飽和率の異なるXH堆積物を分解平衡温度・圧力条件下において交流(50Hz)による定電流通電(AC300mA)を行った場合、入力電力・コア電気抵抗はハイドレート飽和率が高いほど大きい。
しかし、電解質溶液が浸透した状態で、上述のように通電を行い、コア温度上昇にともないハイドレートが分解すると、入力電力・コア電気抵抗は時間と共に減少し、一定値に漸近する。これは、ハイドレートの分解によって生成した水がコアの中に滞留し、通電領域を増加させるためである。すなわち、通電によるハイドレートの分解によって生成した水が、通電効率と加熱効率を増加させていることがわかる。
【0031】
なお、図5は、XH分解平衡圧力条件において、交流通電(300mA)を行った際の、各ハイドレート飽和率に対するコア温度(a)、コア電気比抵抗(b)、放出ガス量(c)、排出水(d)の時間変化(横軸経過時間)の実験結果を示している。
特に、XH飽和率が10%以上の場合、XHの分解にともない、コア温度が上昇し、ガス放出量が増加し、コア電気抵抗は減少し、入力電気抵抗も減少しているが、このことから、XHの分解にともない生成した水がコア内部に滞留し、通電領域を増加させたことが確認できる。
【0032】
ハイドレート分解にともない放出されるガスと水の産出挙動に関しては、コア排出口を上部・下部・水平方向に変えることで、重力の効果を評価した。
すなわち、排出口が下部の場合、コア内部の残留水が最初に排出されてしまうため、コア内部の電気抵抗が増加し、加熱効率が下がり、ガスの生産量も減少する。
しかしながら、排出口が、実験例のように上部、あるいは水平位置に設けられた場合は、顕著な電気抵抗の増加、ガス・水生産比の変化は観察されない。
排出口が上部・水平の場合、ハイドレート分解に伴い生成した水が、下方に滞留することで、堆積物の電気抵抗が減少し、通電効率・加熱効率が上昇することを意味しており、この実験結果は、ハイドレート飽和率の異なる堆積物の通電実験結果と符合する。
【0033】
以上の実験結果を踏まえ、例えば、直径5.08cm(2インチ)、長さ1.0m(約3.0フィート)で間隔が3mの2本の電極により、実際のハイドレート坑井の通電加熱を行う場合を想定すると、AC25A(300V)の通電でMHの分解を維持するのに必要な電力を十分に低減することが可能になる。
【0034】
(実施例2)
二本の坑井間の通電加熱では、坑井間と坑井電極の長さによって通電・加熱領域が制約され、その範囲は坑井間距離×坑井電極の長さで限定される面に相当する。広範囲のMH堆積層を低電力で効果的に通電加熱する必要も想定し得る。
そこで、実施例2では図6に見られるように電極の通電領域を長さ1m(約3フィート)に限定し、ひとつの坑井電極30を中心とした、1辺10.0mの正三角形の頂点に坑井を3つの坑井電極31a〜31cを配置した上で、実施例1と同様の中心の坑井電極28と、正三角形の頂点に配置された3つの坑井電極31a〜31cのそれぞれとの間で電力供給装置32により通電加熱を行った後、坑井電極31a、31b、31cの間でそれぞれ通電加熱を行うようにすれば、坑井電極7を中心とした直径8.67mの領域を深さ方向に均一にMH堆積層を分解することが可能である。
なお、前述した第2図(a)〜(g)の工程は、この実施例でも同様である。
この実施例では、坑井電極30と坑井電極31a〜31cのそれぞれとの間の通電加熱に関しては、AC25A(800V)程度で、また、坑井電極31a、31b、31c間でのそれぞれ通電加熱に関しては、AC15〜25A(700〜1000V)程度で、MHの分解を維持することが可能である。
【0035】
さらにこれら各坑井を、図7に示すように水平坑井により上下方向の複数箇所で相互に連結し、各水平坑井の位置毎に、通電加熱を行えば、採掘するMH層の厚さが大きく、MH層が層方向に広範囲に分布していたとしても、順次、ハイドレートの分解を促進することが可能である。
この場合も、実施例1と同様に、オペレータが、制御盤に設けた調整器により最適な値に調整するようにしてもよいし、これらの検出値に基づいて、マイクロコンピュータ等の制御装置によりシーケンシャルに制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明によれば、低電力で安全に、しかも効率よくMHからメタンを採取することが可能となり、天然ガス消費量の約100年分にも相当する資源量を有するとされるMHの利用促進に資することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 坑井
2 坑口装置
3 海中管
4 配管導入口
5 メタンガス回収弁
6 ケーシング
7 パーフォレーション
8 坑底ポンプ
9 送水ポンプ
10 坑井電極
11 電力供給装置
12 静水圧型コアホルダー
13 背圧制御弁
14 ラバースリーブ
15 拘束圧制御装置
16 エンドキャップ(下部)
17 エンドキャップ(上部)
18 拘束圧圧力計
19 堆積物
20 キセノンガスボンベ
21 ガス流量制御器
22 コア圧力計
23 コア熱電対
24 ジャケット型コア温度制御器
25 コア内液体圧入装置
26 差圧計
27 交流電力供給装置
28 ガス積算流量計
29 水積算記録計
30, 31a〜31c 坑井電極
32 坑井通電加熱用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンハイドレート堆積物層の周辺圧力を所定圧力に減圧する工程と、
前記メタンハイドレート堆積物層に電解質溶液を注入する工程と、
前記メタンハイドレート堆積物層に挿入した複数の電極間に通電処理を行う工程と、
前記通電処理によりメタンハイドレート堆積物の温度を上昇させ、メタンハイドレートをメタンと水分に分解する工程と、
前記メタンハイドレートを分解する工程で分解したメタンを優先的に排出し、前記メタンハイドレート堆積物の層における前記電解質溶液及びメタンハイドレートを分解する工程で発生した水分の浸透率値を維持した上で前記通電処理を継続する工程とからなるメタンハイドレートの分解方法。
【請求項2】
メタンハイドレート堆積物層に達している複数の坑井を介し、メタンハイドレート堆積物層の周辺圧力を所定圧力に減圧する減圧装置と、
前記複数の坑井を介し、前記メタンハイドレート堆積物層に電解質溶液を注入する電解質溶液注入装置と、
前記複数の坑井に連通するとともに、メタンハイドレート堆積物層の上部あるいは中間高さから、分解したメタンを排出するメタン排出通路に設けたメタンガス回収弁と、
前記複数の坑井のそれぞれを介して、前記メタンハイドレート堆積物の層に挿入した複数の坑井電極と、
前記複数の坑井電極間に所定電圧及び所定電流の電力を印加する電源装置と、
前記ポンプ、前記電解質溶液注入装置、メタンガス回収弁及び前記電源装置による電力印加を制御する制御装置とからなるメタンハイドレートの分解装置。
【請求項3】
上記複数の電極を、ひとつの坑井電極と、これを中心とした正三角形の頂点のそれぞれに配置した坑井電極とから構成し、前記中心に位置する坑井電極と、正三角形の頂点に配置した各坑井電極との間で、交互に前記所定電圧を印加するようにしたことを特徴とする請求項2に記載のメタンハイドレートの分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−12451(P2011−12451A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157437(P2009−157437)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省委託研究メタンハイドレート開発促進事業(生産手法開発に関する研究開発) 産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】