説明

メチオニンの製造方法

【課題】二番晶におけるメチオニン回収率を向上させることができる製造方法を提供する。
【解決手段】 次の工程(1)ないし(4);
(1)加水分解工程:塩基性カリウム化合物の存在下に5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオンを加水分解する工程、
(2)第一晶析工程:工程(1)で得られた反応液に二酸化炭素を導入することによりメチオニンを析出させ、得られたスラリーを析出物と母液とに分離する工程、
(3)加熱工程:工程(2)で得られた母液を加熱処理する工程、および
(4)第二晶析工程:工程(3)で加熱処理された母液に二酸化炭素を導入することによりメチオニン及び炭酸水素カリウムを析出させ、得られたスラリーを析出物と母液とに分離する工程、
を包含するメチオニンの製造方法であって、工程(4)に供される母液中のアラニン含有量が0.75重量%以下である、メチオニンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−(2−(メチルチオ)エチル)イミダゾリジン−2,4−ジオンの加水分解反応により、メチオニンを製造する方法に関する〔下記反応式(1)参照〕。メチオニンは、動物用飼料添加剤として有用である。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
メチオニンを製造する方法の1つとして、炭酸カリウムや炭酸水素カリウムの如き塩基性カリウム化合物を用いて、塩基性条件下に5−(2−(メチルチオ)エチル)イミダゾリジン−2,4−ジオンを加水分解する方法が知られている。この方法では、加水分解後の反応液に二酸化炭素を導入して晶析を行うことにより、メチオニンを結晶として分離、取得することができるが、このメチオニン分離後の母液には、溶解度分のメチオニンが残存しており、また上記塩基性カリウム化合物としてリサイクル可能な炭酸水素カリウムが含まれている。そのため、この母液は、上記加水分解反応にリサイクルするのがよいが、その際、全量をリサイクルすると不純物が蓄積するので、所定の割合でパージする必要がある。そして、このパージされた母液を廃水として処理することは、そこに含まれるメチオニンと炭酸水素カリウムのロスを招き、廃水処理の負担も大きいので、得策ではない。
【0004】
そこで、上記母液から、メチオニンと炭酸水素カリウムをいわゆる二番晶として回収する方法が、種々報告されている。例えば、特公昭54−9174号公報(特許文献1)には、上記母液をメチルアルコールの如きアルコールやアセトンなどの水溶性溶媒と混合し、該混合液に二酸化炭素を導入して晶析を行うことが開示されている。また、特開昭51−1415号公報(特許文献2)には、上記母液を濃縮し、該濃縮液に二酸化炭素を導入して晶析を行うことが開示されている。さらに、特開平5−320124号公報(特許文献3)には、上記母液をイソプロピルアルコールと混合し、該混合液に二酸化炭素を導入して晶析を行うことが開示されている。さらには、特開2007−63141号公報(特許文献4)には、上記一番晶分離後の母液を濃縮後、165℃で加熱処理し、その後、イソプロピルアルコールと混合し、二酸化炭素を導入して晶析を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭54−9174号公報
【特許文献2】特開昭51−1415号公報
【特許文献3】特開平5−320124号公報
【特許文献4】特開2007−63141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の方法では、一番晶分離後の母液からの二番晶のメチオニン回収率が満足できるものではなかった。
本発明の目的は、二番晶のメチオニン回収率を向上させることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、二番晶の晶析に供される一番晶母液中には、不純物として、メチオニンの分解により生じるアラニンが比較的多く存在し、予想外にも、これが二番晶のメチオニン回収率に非常に大きく影響を与えることが判明した。この知見に基づき、アラニン含有量が特定量以下に低減された一番晶母液に対して二番晶の晶析を行なうことにより、二番晶のメチオニン回収率が向上することを見出し、発明を完成するに至った。
また、本発明者らは、加水分解温度と一番晶母液の加熱処理温度が、二番晶の晶析に供される一番晶母液中のアラニン含有量に大きく影響を与えることも判明した。この知見に基づき、これらの温度を特定温度以下に精密にコントロールすることにより、二番晶の晶析に供される一番晶母液中のアラニン含有量を特定量以下に低減できることも見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]次の工程(1)ないし(4);
(1)加水分解工程:塩基性カリウム化合物の存在下に5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオンを加水分解する工程、
(2)第一晶析工程:工程(1)で得られた反応液に二酸化炭素を導入することによりメチオニンを析出させ、得られたスラリーを析出物と母液とに分離する工程、
(3)加熱工程:工程(2)で得られた母液を加熱処理する工程、および
(4)第二晶析工程:工程(3)で加熱処理された母液に二酸化炭素を導入することによりメチオニン及び炭酸水素カリウムを析出させ、得られたスラリーを析出物と母液とに分離する工程、
を包含するメチオニンの製造方法であって、工程(4)に供される母液中のアラニン含有量が0.75重量%以下である、メチオニンの製造方法;
[2]工程(1)において180.0℃以下で加水分解を実施し、かつ、工程(3)において工程(2)で得られた母液を180.0℃以下で加熱処理を実施する、[1]記載の製造方法;
[3]工程(4)で得られた母液の少なくとも一部を濃縮後、工程(3)にリサイクルする工程を包含する、[1]記載の製造方法;
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加水分解工程(1)における加水分解温度と加熱工程(3)における一番晶母液の加熱処理温度を特定温度以下に精密にコントロールして行なうので、第二晶析工程(4)に供される一番晶母液中のアラニン含有量が0.75重量%以下と低減され、これにより、当該母液から結晶成長が早くかつ均一な性状(より球形に近い結晶)のメチオニンを晶析できるので、二番晶のメチオニン回収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の反応フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオンを原料に用い、これを塩基性カリウム化合物の存在下に加水分解することにより、メチオニンをカリウム塩として含有する反応液を得る〔加水分解工程(1)〕。原料の5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオンは、例えば、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを、アンモニア及び二酸化炭素と、又は炭酸アンモニウムと反応させることにより、調製することができる〔下記反応式(2)又は(3)参照〕。
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
塩基性カリウム化合物としては、例えば、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。塩基性カリウム化合物の使用量は、5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオン1当量に対し、カリウムとして、通常2〜10当量、好ましくは3〜6当量である。また、水の使用量は、5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオンに対し、通常2〜20重量倍である。
【0015】
加水分解反応は、非攪拌型で連続型の反応槽で、ゲージ圧力で0.5〜1MPa程度の加圧下で、通常120℃以上、好ましくは173℃以上の温度で行われる。アラニンの副生(メチオニンの分解による)を低減できる点から、好ましくは180.0℃以下、より好ましくは179.8℃以下の温度で行われる。加水分解反応を上記温度で行なうことにより、後述する第二晶析工程(4)に供される一番晶母液中のアラニン含有量を低減することができる。
【0016】
上記加水分解の反応温度は、10−1℃以下のオーダーで温度コントロールされる。温度測定は、加水分解用反応槽に流入する液の温度を測定することにより行われ、10−1℃以下のオーダーで精密に測定可能な温度測定器により測定される。当該反応槽に流入する液は、予め別の反応槽でスチーム量を調整することにより10−1℃以下のオーダーで所望の温度にコントロールされ、かつ十分に攪拌された状態で、加水分解用反応槽に流入するので、その温度は均一である。また、加水分解用反応槽に流入後は加熱は行わないので、加水分解は、測定される上記温度より高い温度で行われることはない。
【0017】
反応時間は、加水分解温度にもよるが、通常10分〜24時間、好ましくは、20分〜2時間である。加熱処理時間が短すぎると、加水分解が不十分となり、逆に、加熱処理時間が長すぎると、メチオニンの熱劣化(アラニンの副生等)が生じたり、反応器等に腐蝕が生じる場合がある。
【0018】
こうして得られる加水分解反応液からメチオニンを取り出すため、該反応液に二酸化炭素を導入して晶析を行い、得られたスラリーを、濾過やデカンテーションなどで析出物と母液とに分離することにより、析出したメチオニンを一番晶として取得する〔第一晶析工程(2)〕。
【0019】
二酸化炭素の導入により反応液に二酸化炭素が吸収され、メチオニンのカリウム塩が遊離のメチオニンとなって析出する。
二酸化炭素の導入は、ゲージ圧力で通常0.1〜1MPa、好ましくは0.2〜0.5MPaの加圧下で行うのがよい。
晶析温度は、通常0〜50℃、好ましくは10〜30℃である。また、晶析時間は、二酸化炭素が加水分解反応液に飽和して、メチオニンが十分に析出するまでの時間を目安にすればよいが、通常30分〜24時間である。
【0020】
分離されたメチオニンは、必要に応じて、洗浄やpH調整などを行った後、乾燥することにより製品とすればよい。この乾燥は、微減圧下に、50〜120℃程度に加熱して行うのがよく、乾燥時間は通常10分〜24時間である。
【0021】
メチオニン分離後の母液(以下、この母液を「一番晶母液」という)には、溶解度分のメチオニンが残存しており、また上記塩基性カリウム化合物としてリサイクル可能な炭酸水素カリウムが含まれている。このため、一番晶母液は、加水分解工程(1)の加水分解反応にリサイクルするのが望ましいが、一方で、原料中の不純物や加水分解時の副反応に起因する不純物、例えば、グリシン、アラニンの如きメチオニン以外のアミノ酸や、着色成分なども含まれているので、リサイクルにより、これら不純物が加水分解反応に持ち込まれることになる。そこで、一番晶母液のリサイクルは、全量ではなく、不純物が蓄積しない範囲で行う必要があり、その割合は、一番晶母液の全量に対し通常50〜90重量%、好ましくは70〜90重量%である。
【0022】
一番晶母液のリサイクルは、該母液を濃縮し、この濃縮液をリサイクル液として行うのが望ましい。この濃縮により、一番晶母液から二酸化炭素を留去することができ、塩基性が高められた加水分解反応に有利なリサイクル液を得ることができる。また、この濃縮を100〜140℃の高温で行うことにより、一番晶母液中の炭酸水素カリウムが炭酸カリウムに変換される反応(2KHCO→KCO+HO+CO)が促進され、さらに塩基性が高められた加水分解反応に有利なリサイクル液を得ることができる。この濃縮は、常圧下、減圧下又は加圧下に行うことができるが、上記の如く高温で行うためには、加圧条件を採用するのが有効である。濃縮率は、通常1.2〜4倍、好ましくは1.5〜3.5倍であり、ここで、濃縮率とは、濃縮後の液重量に対する濃縮前の液重量の割合(濃縮前の液重量/濃縮後の液重量)を意味し、以下も同様である。
濃縮後の一番晶母液は、リサイクル用と第二晶析用に分けられるが、全量を第二晶析に付すこともできる。
【0023】
第二晶析用の一番晶母液について、さらに二番晶としてメチオニンと炭酸水素カリウムを回収すべく、一番晶母液を加熱処理する〔加熱工程(3)〕。
加熱処理により、一番晶母液中に含まれるメチオニンジペプチドがメチオニンに分解される。
【0024】
当該加熱工程は、塩基性カリウム化合物を添加した後に行なうことが好ましく、これにより、母液中のカリウム濃度が高い状態で加熱処理が行われるので、メチオニンジペプチドをメチオニンに効果的に分解することができる。
【0025】
塩基性カリウム化合物としては、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、中でも、水酸化カリウムが好ましい。
塩基性カリウム化合物の添加量は、母液中のメチオニンジペプチド濃度にもよるが、母液100重量部に対してカリウム換算で、好ましくは0.25重量部以上、より好ましくは、水酸化カリウムの場合0.25重量部以上、炭酸カリウムの場合1.5重量部以上、炭酸水素カリウムの場合1.0重量部以上である。なお、塩基性カリウム化合物の添加は、後述する第二晶析工程(4)でのメチオニンの晶析効率が良好となる点、および経済性の点から、30重量部を超えないことが好ましい。
【0026】
塩基性カリウム化合物添加後の母液のカリウム濃度(カリウム換算)は、母液中のメチオニンジペプチド濃度にもよるが、後述する第二晶析工程(4)でのメチオニンの晶析効率が良好となる点、および経済性の点から、30重量%以下、特に20重量%以下となるのが好ましい。なお、当該カリウム濃度の下限は、メチオニンジペプチドの効果的な分解の点から、0.5重量%以上となるのが好ましい。本発明では、カリウム濃度はイオン交換クロマトグラフィー(絶対検量線法)により測定される。
【0027】
加熱工程は、非攪拌型で連続型の反応槽で行われる。加熱工程における加熱温度は、母液中のメチオニンジペプチド濃度にもよるが、ゲージ圧力で0.5〜2MPa程度の加圧下に、通常150℃以上、好ましくは170℃以上の温度で行われ、アラニンの副生(メチオニンの分解による)を低減できる点から、好ましくは180.0℃以下、より好ましくは179.0℃以下の温度で行われる。加熱処理を上記温度で行なうことにより、後述する第二晶析工程(4)に供される一番晶母液中のアラニン含有量を低減することができる。
【0028】
上記加熱処理温度は、10−1℃以下のオーダーで温度コントロールされる。温度測定は、加熱処理用反応槽に流入する液の温度を測定することにより行われ、10−1℃以下のオーダーで精密に測定可能な温度測定器により測定される。当該反応槽に流入する液は、予め熱交換器により10−1℃以下のオーダーで所望の温度にコントロールされ、かつ十分に攪拌された状態で、加熱処理用反応槽に流入するので、その温度は均一である。また、加熱処理用反応槽に流入後は加熱は行わないので、加熱処理は、測定される上記温度より高い温度で行われることはない。
【0029】
加熱処理時間は、加熱温度にもよるが、好ましくは0.3〜10時間、より好ましくは1〜3時間である。加熱処理時間が短すぎると、メチオニンジペプチドの分解が遅くなり、逆に、加熱処理時間が長すぎると、メチオニンの熱劣化(アラニンの副生等)が生じたり、反応器等に腐蝕が生じる場合がある。
【0030】
この加熱処理は、メチオニンに対するメチオニンジペプチド含有量が、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは5〜18重量%まで行うのがよい。
【0031】
加熱処理後の一番晶母液に二酸化炭素を導入して晶析を行い、得られたスラリーを濾過やデカンテーションなどで析出物と母液とに分離することにより、析出したメチオニンと炭酸水素カリウムを二番晶として回収する〔第二晶析工程(4)〕。
【0032】
第二晶析工程(4)に供される一番晶母液においては、アラニン含有量が0.75重量%以下、好ましくは0.60重量%以下に低減されているので、当該母液から結晶成長が早くかつ均一な性状(より球形に近い結晶)のメチオニンを晶析でき、二番晶のメチオニン回収率を向上させることができる。
【0033】
このようなアラニン含有量が0.75重量%以下に低減された一番晶母液は、例えば、加水分解工程(1)における加水分解を180.0℃以下(好ましくは173〜179.8℃)の温度で実施し、かつ加熱工程(3)を180.0℃以下(好ましくは170〜179.0℃)の温度で実施することにより得ることができる。
【0034】
加熱処理の一番晶母液では、母液中の塩基性が上昇して、第一晶析工程で変換された遊離のメチオニンがメチオニンのカリウム塩に戻ってしまう。よって、第二晶析工程でも、加熱処理後に二酸化炭素を導入することにより、メチオニンのカリウム塩を再び遊離のメチオニンに変換する。
【0035】
二酸化炭素の導入は、第一晶析工程と同様、ゲージ圧力で通常0.1〜1MPa、好ましくは0.2〜0.5MPaの加圧下で行うのがよい。
晶析温度は通常0〜50℃、好ましくは5〜30℃である。また、晶析時間は、二酸化炭素が上記加熱処理した後の液に飽和して、メチオニンと炭酸水素カリウムが十分に析出するまでの時間を目安にすればよいが、通常10分〜24時間である。
【0036】
二酸化炭素の導入後、晶析効率を高めるため、低級アルコールと混合することが好ましい。低級アルコールとしては、通常、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアルコールが用いられるが、中でも、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールの如き、水と任意の割合で混和しうるものが好ましく、特にイソプロピルアルコールが好ましい。低級アルコールの使用量は、晶析に付される一番晶母液に対し、通常0.05〜5重量倍、好ましくは0.1〜2重量倍である。なお、一番晶母液と低級アルコールとの混合は、二酸化炭素の導入の前に行ってもよいし、二酸化炭素の導入と同時に行ってもよい。
【0037】
回収された二番晶(メチオニンと炭酸水素カリウムの混合物)は、加水分解工程(1)の加水分解反応にリサイクルするのがよく、その際、リサイクル用の一番晶母液に溶解してリサイクルすると、操作性の点で好ましい。
【0038】
二番晶分離後の母液(以下、この母液を「二番晶母液」という)には、未だメチオニンと炭酸水素カリウムが含まれている。そこで、本発明では、この二番晶母液から、さらにメチオニンと炭酸水素カリウムを回収すべく、二番晶母液を濃縮した後、加熱工程(3)にリサイクルすることにより、メチオニンと炭酸水素カリウムを三番晶として回収する。
【0039】
二番晶母液の濃縮により、メチオニンの回収率を高めることができる。この濃縮は、リサイクルされる一番晶母液の濃縮と同様の条件で行うことができる。
上記の濃縮は、二番晶母液の全部に行って加熱工程(3)にリサイクルしてもよいし、一部に行って加熱工程(3)にリサイクルしてもよい。
【0040】
以上の工程(1)〜(4)は、全てを連続式で行ってもよいし、また、少なくとも工程(1)および(3)を連続式で行い、一部を回分式で行ってもよい。
【実施例】
【0041】
次に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、濃度ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り重量基準である。
【0042】
なお、実施例1〜3中のメチオニン回収率(%)は、以下の式により求めた。
メチオニン回収率(%)=〔二番晶として回収されるメチオニン量/二番晶晶析工程に供される流入液中のメチオニン含量〕×100
メチオニンの回収率が50%以上(好ましくは55%以上)であると、効率的にメチオニンが回収されたと判断できる。
【0043】
また、実施例中のアラニンの濃度は、LC分析(OPAによる発けい光反応でのIS法)を用い、以下の条件にて測定した。
装置:液体クロマトグラフ質量分析計(SHIMADZU製)
カラム温度:40℃
UV吸光波長:340nm
流量:1.04ml/min
カラム:SUMIPAX−ODS A−202(5μm×6mmФ×15cm)
キャリア液:MeOH:水=58:42(MeOH中にTHF15ml含む)、酢酸Na、40%燐酸でPH調整
注入量:1μL
【0044】
実施例1
5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオン7.7重量部、カリウム(単体換算)8.0重量部、メチオニン3.0重量部、メチオニンジペプチド0.9重量部、アラニン0.14重量部含む液(全量で100重量部)を、滞留時間が15分間となるように反応塔に連続的に供給し、一定割合の脱ガスを行いながら、非攪拌で加水分解を行い、連続的に抜き出した。加水分解は、ゲージ圧0.93MPa、180.00℃で実施した。脱ガスは、抜き出し液量が、加水分解前の液量の75%となるように行なった。加水分解槽から連続的に抜き出される反応液にゲージ圧0.35MPa、20℃で二酸化炭素を導入することによりメチオニンを析出させ、得られたスラリーを析出物と母液とに分離した。得られた母液を加熱(135℃)により1.7倍に濃縮し、得られた濃縮液を横型多管式加熱器で180.00℃まで加熱し、滞留時間が1.2時間となるようにドラムへ連続的に供給し、ゲージ圧1.40MPaでメチオニンジペプチドを非攪拌で加熱分解した。加熱分解槽から連続的に抜き出される反応液を加熱(135℃)により1.4倍に濃縮すると、得られた濃縮液のアラニン含有量は0.74重量%であった。該母液にゲージ圧0.30MPa、12℃で二酸化炭素を導入することによりメチオニン及び炭酸水素カリウムを析出させ、得られたスラリーを析出物と母液とに分離したところ、メチオニン回収率は51%であった。反応フローを図1に示す。
【0045】
実施例2
実施例1において、加水分解温度を179.80℃、一番晶母液の加熱処理温度を179.00℃としたこと以外は、実施例1と同様の処理を行った。加熱処理後の一番晶母液中のアラニン含有量は0.58重量%であった。またメチオニン回収率は59%であった。
【0046】
比較例
実施例1において、加水分解温度を180.20℃、メチオニンジペプチドの加熱分解温度を180.50℃としたこと以外は、実施例1と同様の処理を行った。加熱処理後の一番晶母液中のアラニン含有量は1.05重量%であった。またメチオニン回収率は48%であった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、加水分解工程(1)における加水分解温度と加熱工程(3)における一番晶母液の加熱処理温度を特定温度以下に精密にコントロールして行なうので、第二晶析工程(4)に供される一番晶母液中のアラニン含有量が0.75重量%以下と低減され、これにより、当該母液から結晶成長が早くかつ均一な性状(より球形に近い結晶)のメチオニンを晶析できるので、二番晶のメチオニン回収率を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)ないし(4);
(1)加水分解工程:塩基性カリウム化合物の存在下に5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオンを加水分解する工程、
(2)第一晶析工程:工程(1)で得られた反応液に二酸化炭素を導入することによりメチオニンを析出させ、得られたスラリーを析出物と母液とに分離する工程、
(3)加熱工程:工程(2)で得られた母液を加熱処理する工程、および
(4)第二晶析工程:工程(3)で加熱処理された母液に二酸化炭素を導入することによりメチオニン及び炭酸水素カリウムを析出させ、得られたスラリーを析出物と母液とに分離する工程、
を包含するメチオニンの製造方法であって、工程(4)に供される母液中のアラニン含有量が0.75重量%以下である、メチオニンの製造方法。
【請求項2】
工程(1)において180.0℃以下で加水分解を実施し、かつ、工程(3)において工程(2)で得られた母液を180.0℃以下で加熱処理を実施する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(4)で得られた母液の少なくとも一部を濃縮後、工程(3)にリサイクルする工程を包含する、請求項1記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201672(P2012−201672A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70777(P2011−70777)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】