説明

メチルアセチレンの精製方法

【課題】精製されたメチルアセチレンを安全かつ簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】触媒及び一酸化炭素の存在下、プロパジエンを含有する粗メチルアセチレンをアルコール化合物およびホスフィン化合物と接触させる工程および当該工程の反応生成物からメチルアセチレンを単離する工程を含む粗メチルアセチレンの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロパジエンを含有する粗メチルアセチレンを精製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メチルアセチレンは反応性に富んだ末端炭素−炭素三重結合を有しており、様々な化合物の出発原料としての応用が期待される化合物である。しかしながら沸点が低いことや、自己分解性を有することなどから、メチルアセチレン中に含まれる不純物を除去することは容易ではなく、ブタジエンやプロパジエンを不純物として含むことが知られている。
【0003】
特許文献1には抽出蒸留によって粗メチルアセチレン中のプロパジエンを分離する方法が記載されている。しかしながら、メチルアセチレンは室温であっても加圧条件下では自己分解性を有する為、純度の高いメチルアセチレンを加圧・加熱条件下で取り扱う蒸留操作は決して簡便かつ安全に行われるものではない。
【特許文献1】特開平02−290831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の問題点を克服する為になされたものであって、粗メチルアセチレン中のプロパジエン含量を低下させ、精製されたメチルアセチレンを安全かつ簡便に製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、触媒及び一酸化炭素の存在下、プロパジエンを含有する粗メチルアセチレンをアルコール化合物およびホスフィン化合物と接触させる工程および当該工程の反応生成物からメチルアセチレンを単離する工程を含む粗メチルアセチレンの精製方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、粗メチルアセチレンからプロパジエン含量が低減された精製メチルアセチレンを安全かつ簡便に取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられるプロパジエンを含有する粗メチルアセチレンは、通常、0.001重量%〜10重量%のプロパジエンを不純物として含むものであり、ホスフィン化合物とプロパジエンとの反応を著しく阻害するもので無い限りは、プロパジエンの他に不純物を含んでいてもよい。かかる不純物として具体的には、ブタジエン、プロピレン、ブテン、プロパン、一酸化炭素、二酸化炭素などがあげられる。
【0008】
一酸化炭素は、純粋な一酸化炭素のほか、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、アルゴンなどのホスフィン化合物やメチルアセチレン、プロパジエンに対して不活性なガスを含んでいても良い。
【0009】
本発明で用いられるホスフィン化合物はプロパジエンと反応するものであれば、特に限定されないが、通常は第3級ホスフィン化合物が用いられ、具体的には、トリブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ブチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(4−フルオロフェニル)ホスフィン、トリ(4−クロロフェニル)ホスフィン、トリ(4−ブロモフェニル)ホスフィン、トリ(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニル(2−ピリジル)ホスフィン、ジフェニル(6−メチル−2−ピリジル)ホスフィン、ジ(4−トリフルオロメチルフェニル)(2−ピリジル)ホスフィン及びこれらの混合物が例示される。ホスフィン化合物の使用量に制限は無いが、使用する粗メチルアセチレン中のプロパジエン1モルに対して、通常、0.5〜10モルである。
【0010】
本発明の反応で用いられる触媒とは第10族金属化合物とプロトン酸の混合物である。第10族金属化合物としては、ニッケル化合物、パラジウム化合物、白金化合物があげられ、好ましくはパラジウム化合物をあげることができる。具体的には、パラジウム アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム アセテート、酢酸パラジウム、塩化パラジウムおよびこれらの混合物をあげることができる。第10族金属化合物の使用量は限定されないが、使用する粗メチルアセチレン1モルに対して、通常、0.000001〜0.1モルである。
【0011】
次に本発明において触媒として用いられるプロトン酸として、有機もしくは無機のプロトン酸が上げられ、具体的には、オルトリン酸、ピロリン酸、硫酸、ハロゲン化水素酸、ベンゼンリン酸、さらにベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、クロロスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、あるいはトリメチルメタンスルホン酸等のスルホン酸化合物、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタイド、およびこれらの混合物が例示され。好ましくは、スルホン酸化合物、さらに好ましくはメタンスルホン酸を用いる事ができる。プロトン酸の使用量は、特に限定されないが、第10族金属化合物1モルに対して通常、3〜300モル、好ましくは、10〜150モルである。
【0012】
本発明の方法において使用されるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が例示される。これらアルコール化合物の使用は必ずしも必須ではなく、使用を省略することも可能であるが、使用する方が好適である。その使用量はメチルアセチレン1モルに対して、5モル以下が好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.9モルの範囲である。
本発明の方法において、プロパジエンを含有する粗メチルアセチレンをホスフィン化合物およびアルコール化合物と接触させる工程においては溶媒の使用は必須ではないが、安全性の観点より、メチルアセチレン・プロパジエンの分圧を低くすることが好ましく、そのため、好適には溶媒を使用するのがよい。使用できる溶媒は、特に制限はないが、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、スホキシド類、スルホン類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アミド類、アルコール類、およびこれらの混合物があげられ、具体的にはトルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、酢酸メチル、酢酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、アニソール、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム、ジブチルエーテル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、およびこれらの混合物があげられる。また、これら有機溶媒の代わりに、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートなどのイオン性流体を使用することも可能である。これら溶媒の使用量は特に限定されない。アルコールを溶媒として使用する際には、その使用量は、上記のような使用量とすることが好ましい。
【0013】
本発明のホスフィン化合物と粗メチルアセチレンとの接触は、その温度に特に制限はないが好ましくは、20〜100℃の範囲において実施される。また、反応時間は、温度条件や圧力等の条件にもよるが、通常、0.5〜24時間である。
【0014】
プロパジエンを含有する粗メチルアセチレンをホスフィン化合物と接触させる際の圧力は限定されないが、好ましくは、0.5〜10MPaGであり、さらに好ましくは1から5MPaGである。
【0015】
かくしてプロパジエンを含有する粗メチルアセチレンをホスフィン化合物と接触させて得られる反応混合物から未反応のメチルアセチレンをガスとして反応容器から取り出すことができ、取り出されたガスはそのまま冷却されて液体として捕集し、単離される。このときの冷却温度はメチルアセチレンの沸点以下であれば特に限定されないが、好ましくは−78〜−24℃の範囲において実施される。捕集された精製メチルアセチレンはそのまま使用することも可能だが、ボンベ等の適当な容器中に充填することで、プロパジエン含量の低減した精製メチルアセチレンとして安全に取り扱うことが可能となる。
【0016】
尚、本発明はバッチ方式でも連続方式でも実施可能である。
実施例
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
実施例1
窒素置換した1000mlのシュレンク管中に、酢酸パラジウム(125mg,0.550mmol)、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン(1.49g,5.50mmol)、をメタノール750mlに溶解させ、メタンスルホン酸(535μl,8.25mmol)を加え、室温でかくはんし、触媒溶液を得た。得られた触媒溶液を窒素置換した1500mlオートクレーブ中に導入し、エタノール/ドライアイス浴によって冷却した。冷却したオートクレーブ中に市販メチルアセチレン(203g,5.01mol、プロパジエン含有量3500〜3000ppm)を導入し、一酸化炭素で加圧し1.2MPaに保持した(反応中は全圧が1.2MPaとなるよう、減圧弁にて消費分の一酸化炭素を常時導入した)。50℃で3時間撹拌した後、反応液を再びエタノール/ドライアイス浴によって冷却した。未反応の一酸化炭素を抜いた後、35℃まで加熱して気化してきたメチルアセチレンガスを予めエタノール/ドライアイス浴によって冷却していたシュレンク管中に液体として捕集し、ボンベにそのまま充填することで99.3g(49%)のメチルアセチレンを得た。得られたメチルアセチレン中のプロパジエン含有量をガスクロマトグラフィー(カラム:VARIAN製、SILICAPLOT、0.25mmφ×30m)にて測定したところ、802ppmにまで減少していることが判明した。
【0018】
実施例2
市販メチルアセチレンを229g(5.68mol)、メタノールを650ml使用し、反応圧を1.5MPaに保持した以外は、実施例1と同様の操作を行った結果、メチルアセチレン収量は90.2g(39%)、得られたメチルアセチレン中のプロパジエン含有量は396ppmであり、メタクリル酸メチルの収率は41%であった。
【0019】
実施例3
市販メチルアセチレンの代わりに、実施例1で得られたメチルアセチレンを33.8g(835mmol)、酢酸パラジウムを15.0mg(0.0660mmol)、ジフェニル−2−ピリジルホスフィンを179mg(0.660mmol)、メタンスルホン酸を128μl(1.98mmol)、メタノールを20ml、反応容器として100mlのオートクレーブを使用し、反応圧を2.0MPaに保持した以外は、実施例1と同様の操作を行った結果、メチルアセチレン収量は10.7g(32%)、得られたメチルアセチレン中のプロパジエン含有量は37ppmであり、メタクリル酸メチルの収率は56%であった。
【0020】
実施例4
メチルアセチレンにプロパジエン598ppmを含むメチルアセチレン30.1g(743mmol)を使用した以外は、実施例3と同様の操作を行った結果、メチルアセチレン収量は9.05g(30%)であり、プロパジエンはガスクロマトグラフィー分析によっては検出されなかった。メタクリル酸メチルの収率は46%であった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
プロパジエンを含有する粗メチルアセチレンを安全且つ容易に精製して、プロパジエン含量の低下した精製メチルアセチレンの製造法として工業的に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒及び一酸化炭素の存在下、プロパジエンを含有する粗メチルアセチレンをアルコール化合物およびホスフィン化合物と接触させる工程および当該工程の反応生成物からメチルアセチレンを単離する工程を含む粗メチルアセチレンの精製方法。
【請求項2】
触媒が、第10族金属化合物であるパラジウム化合物とプロトン酸からなる混合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
プロトン酸がスルホン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ホスフィン化合物がジフェニル−2−ピリジルホスフィンである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−227585(P2009−227585A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71106(P2008−71106)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】