説明

メチルシクロペンテノン類の製造方法

【課題】ジャスミン系香料の中でとりわけ有用で需要の大きいジャスモン酸エステル類を派生的に合成し得る、メチルシクロペンテノン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】 下記式(1)で表される化合物を脱炭酸することを特徴とする、メチルシクロペンテノン類の製造方法。


(式中、R1 、R2 は、水素原子又は炭素数1乃至8の置換基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャスミン系香料等として有用なメチルシクロペンテノン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルシクロペンテノン類の製造方法は数多く知られているが、その多くは、1,4−ジケトンの分子内アルドール反応によるものである。例えば、特許文献1、2や非特許文献1など数多くの例が知られている。当該方法によれば、特定のメチルシクロペンテノン類を製造することは可能であるが、専ら当該特定のメチルシクロペンテノン類を製造することに特化しているため、それ以外の有用香料を製造することは困難である。香料業界においては、多品種の香料を機動的に製造できることが不可欠であり、当該方法のように単一香料素材に特化した製法は極めて非効率的である。例えば、当該方法では、ジャスミン系香料の中でとりわけ有用で需要の大きいジャスモン酸エステル類を派生的に得ることは事実上不可能であり、当該エステルを製造するには、全く別の製造方法を採用せねばならず、製造設備や原材料の調達などにおいて不合理や不利益が生じるという難点があった。
【0003】
【特許文献1】特公昭45−24771号公報
【特許文献2】特開昭49−75555号公報
【非特許文献1】J.Org.Chem.,31,977(1966)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ジャスミン系香料の中でとりわけ有用で需要の大きいジャスモン酸エステル類を派生的に合成し得る、メチルシクロペンテノン類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ジャスモン酸エステル類製造の中間体である化合物の脱炭酸によりメチルシクロペンテノン類が生成することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
下記式(1)で表される化合物を脱炭酸することを特徴とする、下記式(2)で表されるメチルシクロペンテノン類の製造方法。
【0006】
【化1】

(式中、R1 、R2 は、水素原子又は炭素数1乃至8の置換基を表す。)
【0007】
【化2】

(式中、R1 は、前記の意味を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ジャスミン系香料の中でとりわけ有用で需要の大きいジャスモン酸エステル類を派生的に合成し得る、メチルシクロペンテノン類の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明につき、以下に具体的に説明する。
本発明は、前記式(1)で表される化合物の脱炭酸により、前記式(2)で表されるメチルシクロペンテノン類を製造するものであり、前記式(1)で表される化合物を出発物質とすることが必須要件である。当該化合物(1)は、ジャスモン酸エステル類の原料として広く知られている物質であり(例えば、特開昭54−90155号公報など)、5員環内の二重結合に水素添加を施すのみでジャスモン酸エステル類を簡便に得ることができる有用な物質である。すなわち、当該化合物(1)を出発物質とすることで、本発明によりジャスミン系香料等として有用なメチルシクロペンテノン類が得られるのみならず、やはりジャスミン系香料等として極めて有用で需要の大きいジャスモン酸エステル類を簡便に製造することができる。香料業界においては、多品種の香料を機動的に製造できることが不可欠なので、このように同一の出発物質から複数の有用香料が製造できることは、原材料や設備の調達等に関して大きなメリットである。
【0010】
本発明において、前記式(1)の化合物の脱炭酸の条件は特に制限はなく、公知の方法を用いればよい。例えば、Rが水素原子の場合には、メタノール、エタノールやTHFなど汎用の溶媒を用い、酸または塩基の存在下に加熱することで達成できるし、Rがアルキル基の場合には、ジメチルスルホキシドを溶媒とし、塩化ナトリウムの存在下に加熱することにより達成できる。加熱温度に制限はなく、通常40℃乃至200℃である。より好ましくは、50℃乃至180℃である。
【0011】
前記式(1)及び(2)において、Rは水素原子又は炭素数1〜8の置換基を表す。例えば、鎖状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基などが例示でき、それらの基はヘテロ原子を含んでも良い。Rの具体例としては、アルキル基としてはメチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、アルケニル基としてはペンテニル基、アルキニル基としてはペンチニル基などがあげられる。ペンテニル基としてはcis−2−ペンテニル基、5−ヒドロキシ−cis−2−ペンテニル基が、ペンチニル基としては2−ペンチニル基、5−ヒドロキシ−2−ペンチニル基などが挙げられる。
ジャスミン系香料への応用を考慮した場合には、ペンチル基の他、cis−2−ペンテニル基、2−ペンチニル基、5−ヒドロキシ−cis−2−ペンテニル基、5−ヒドロキシ−2−ペンチニル基などが好適である。
前記式(1)において、Rは水素原子又は炭素数1〜8の置換基を表す。例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などがあげられるが、水素原子又はメチル基が好ましい。
【実施例】
【0012】
本発明を実施例に基いて説明する。
なお、実施例におけるガスクロマトグラフによる分析条件は下記のとおりである。
ガスクロマトグラフ
カラム:J&Wサイエンティフィック社製 DB−1(0.25mm×30m、液相膜厚0.25μm)
カラム温度:100℃×2分→250℃(10℃/分)
注入部温度:250℃
検出部温度:300℃
【0013】
[実施例1]
メチル(2−ペンチル−3−ケト−1−シクロペンテニル−)アセテート(前記式(1)においてRがn−ペンチル基に、Rがメチル基に相当する化合物)1g(4.5mmol)、塩化ナトリウム0.5g(8.5mmol)、水0.2g、ジメチルスルホキシド3mlの混合物を、窒素雰囲気下、160℃で3Hr加熱した。室温に冷却後、水10mlを加え、酢酸エチル20mlで抽出した。ガスクロマトグラフ分析の結果、2−n−ペンチル−3−メチル−2−シクロペンテノンの収率は82%であった。
【0014】
[比較例1]
ウンデカン−7,10−ジオン[CHCOCHCHCOCH(CHCH]1g、エタノール7ml、および0.5N水酸化ナトリウム25mlを混合し、窒素雰囲気下で5時間加熱還流した。当該混合物を室温に冷却後、ジエチルエーテルで抽出した。ガスクロマトグラフ分析の結果、2−n−ペンチル−3−メチル−2−シクロペンテノンの収率は52%であった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明により、ジャスミン系香料の中でとりわけ有用で需要の大きいジャスモン酸エステル類を派生的に合成し得る、メチルシクロペンテノン類の製造方法を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を脱炭酸することを特徴とする、下記式(2)で表されるメチルシクロペンテノン類の製造方法。
【化1】

(式中、R1 、R2 は、水素原子又は炭素数1乃至8の置換基を表す。)
【化2】

(式中、R1 は、前記の意味を表す。)