説明

モズク養殖網

【課題】
本発明により、モズクの遊走子の付着が良好で、漁場での成長も良好となり、安定して高収量のモズクを生産することができるモズク養殖網を提供すること。
【解決手段】
本発明のモズク養殖用網は、ラッセル網をアクリル樹脂・ウレタン樹脂・酢酸ビニル樹脂・メラミン樹脂からなる群の中の1種以上を用いて樹脂加工したモズク用の養殖網である。本発明のモズク網を使用することにより、モズクの遊走子の付着が良好で、漁場での成長も良好となり、安定して高収量のモズクを生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モズクの遊走子の付着が良好で、モズクの成長が早い、モズク専用の養殖網に関する。
【背景技術】
【0002】
モズク養殖は下記のようにして行われている。
まず、9〜10月に、藻体や種板を入れた容器の中に、モズク養殖用網を投入すると、7〜10日でモズクの遊走子が付着し盤状体を形成する。その後、深さ約1mの海中にモズク網を4〜12枚に重ねた状態で沈め、2〜5cmの長さの幼体まで成長させる(中間育成)。
次に、沖合の漁場(水深5m前後の海底)に移動させ、1枚ずつ固定し張り込む。その後、80〜90日後に収穫できる30cmのサイズまで成長する。この間、これらの網を1ヶ月に1回のペースで育苗場所を移動させるという作業が行なわれる(この作業を行わないと、低土でモズクが覆われてしまい成長しなくなってしまう)。収穫は、採苗から5〜6ヶ月後の翌年の3月〜6月に行われ、吸水ポンプを用いて収穫される。
【0003】
モズク養殖に使用される網は、専用の網が開発されておらず、海苔養殖用に製造される網(蛙又網・無結節網)が使用されている。この網は、ビニロンを主体としており(ビニロン素材にしか海苔の種が付着しないから)、通常の網のように、原糸を撚り糸にした後、網としている。
この代用網では、遊走子が部分的にしか付着しなかったり、成長が止まったりして使用できない網が発生するため、生産者は平均1000枚の種網を製造しても、最終的に収穫に結びつく網は全体の約半分に低下してしまうのである。これらの生産できる網も完璧なものではないため、生産量は不安定となっている。
【0004】
特許文献1は、養殖用網本体にラッセル網を使用する養殖網という記載があるが、ラッセル網をそのまま使用するもので、本発明の特殊な樹脂加工したラッセル網とは、ことなるものである。
特許文献2は、ポバールのような水溶性の樹脂に栄養成分を配合したもので、海藻養殖網を加工し、栄養成分を徐々に溶出させるものである。本発明のラッセル網を樹脂加工したものとは、本質的にことなるものである。
モズク養殖においては、専用のモズク網がないため、非効率的な作業を行っているのが現実であり、生産性の高いモズク養殖網の開発が切望されている。
【特許文献1】特開2000−324968号公報
【特許文献2】特開2003−158929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、モズクの遊走子の付着が良好で、その後の生育も良好なモズク専用の網を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、樹脂加工したラッセル網を、モズク養殖に使用することにより、モズクの成長が良好な網を提供できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は次の通りである。
(1)樹脂加工したラッセル網であることを特徴とするモズク養殖網。
(2)アクリル樹脂・ウレタン樹脂・酢酸ビニル樹脂・メラミン樹脂からなる群の中の1種以上を使用することを特徴とする(1)記載のモズク養殖網。
(3)原糸がポリエステルであることを特徴とする(1)・(2)記載のモズク養殖網。
【発明の効果】
【0008】
本発明のモズク養殖用網は、ラッセル網をアクリル樹脂・ウレタン樹脂・酢酸ビニル樹脂・メラミン樹脂からなる郡の中の1種以上を用いて樹脂加工したモズク用の養殖網である。本発明のモズク網を使用することにより、モズクの遊走子の付着が良好で、漁場での成長も良好となり、安定して高収量のモズクを生産することができる。
ラッセル網は、原糸を用いそのまま網にしてしまう製造法であるため、安価に製造できる利点があるが、一方、原糸のケバが発生しやすいという欠点もある。そのため、モズクの遊走子の付着が脱落したり、収穫時に異物として混入する可能性が高い。
本発明のように、アクリル樹脂のような特殊な樹脂を用いて樹脂加工することにより、ラッセル網製造時に発生するケバを防止することができ、かつ遊走子の脱落も防止し、その後のモズクの成長を良好にすることができる。本発明により、安価でかつ収穫量の高くなるモズク養殖網を提供することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、養殖用網本体が、樹脂加工したラッセル網であることを特徴とするモズク養殖用網である。
【0010】
ラッセル網を製造する時の、原糸の種類としては、ポリエステル・ポリエチレン・ポリプロピレン・ナイロン・ビニロン・塩化ビニル等の素材が使用できる。
モズク養殖の場合は、海底で養殖されるため、海水中で沈む素材が最適であり、比重の高いポリエステル・ナイロン・ビニロン・塩化ビニルが好ましい。この中で一番安価に入手可能なポリエステルが最も好ましいと言える。
【0011】
樹脂加工に使用する樹脂としては、アクリル樹脂・ウレタン樹脂・酢酸ビニル樹脂・メラミン樹脂等が使用することができる。特に好ましいのはアクリル樹脂であり、アクリル樹脂以外はアクリル樹脂と混溶する方が好ましいと言える。樹脂液には栄養分として、硝安・硝酸ナトリウム・塩化アンモニウム・アミノ酸・リン酸塩・ビタミン等の栄養成分を添加使用することもできる。
【0012】
本発明のモズク養殖網は、色の限定は特にしないが、好ましいのは透明もしくは白・ピンク・薄い黄色等である。モズク養殖は海底で行われるため、海水が少しでも濁ると、光が当たりにくくなるため、成長が止まりやすくなる。特に網の下の部分には光が当たりにくいため、透明もしくは白・ピンク・薄い黄色等の淡い色であれば、網の下の部分にも十分な光が照射され、モズクの生産増が見込まれる。赤・紫・黒等の濃い色はモズク養殖には不適である。
【実施例】
【0013】
(試験例1:実施例1〜6、比較例1〜5)
表1に示す網(長さ20m、幅2m、白色)を製造し、モズクの種を採苗した後、モズク漁場に張り込み、網1枚当たりのモズクの収穫量を調査した。
結果を表2に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
以上の結果より、海苔養殖用の蛙又網を用いた場合、網1枚当たり30〜40kgのモズクしか生産できない(比較例1〜3)。
ラッセル網を使用した場合、樹脂加工しないもしくはポバール樹脂加工では、海苔網使用時よりも生産量は若干高くなっているが、顕著な増加は認められない(比較例4及び5)。ラッセル網をアクリル・ウレタン樹脂等の加工をしたものに関しては、生産量が80kg以上となり収穫量が大幅に上昇していることがわかる(実施例1〜6)。ポリエステル原糸を用いてラッセル網とし、アクリル樹脂加工したものが、最も収穫量が高くなっており、最適なモズク専用網ということができる(実施例5)。
【0017】
(試験例2:実施例5、7〜10)
表3に示す網(長さ20m、幅2m)を製造し、モズクの種を採苗した後、モズク漁場に張り込み、網1枚当たりのモズクの収穫量を調査した。
結果を表4に示す。
【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
以上より、網の色は白・透明の方が収穫量が高いことを示している(実施例5及び7)。これは、網の下まで光が当たりやすいために、下部のモズクの成長も良好となるからだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のモズク養殖網を使用することにより、モズクの遊走子の付着が良好で、漁場での成長も良好となり、安定して高収量のモズクを生産することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂加工したラッセル網であることを特徴とするモズク養殖網。
【請求項2】
アクリル樹脂・ウレタン樹脂・酢酸ビニル樹脂・メラミン樹脂からなる群の中の1種以上を使用することを特徴とする請求項1記載のモズク養殖網。
【請求項3】
原糸がポリエステルであることを特徴とする請求項1・2記載のモズク養殖網。

【公開番号】特開2007−53965(P2007−53965A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243236(P2005−243236)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000208787)第一製網株式会社 (24)
【Fターム(参考)】