説明

モノフィラメント様製品の製造方法

本発明は、多数の連続ポリオレフィンフィラメントを含む前駆体からモノフィラメント様製品を製造する方法であって、前駆体を、ポリオレフィンの融点範囲内の温度に、隣接する繊維を少なくとも部分的に溶融するのに十分な時間にわたって暴露し、同時に前駆体を少なくとも2.8の延伸比で延伸することを含む方法に関する。本発明の方法によれば、向上した引張特性を示すモノフィラメント様製品を製造することができ、例えば、釣り糸としての用途に非常に適したものとなる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、多数の連続ポリオレフィンフィラメントを含む前駆体からモノフィラメント様製品を製造する方法であって、前駆体を、ポリオレフィンの融点範囲内の温度に、隣接する繊維を少なくとも部分的に溶融するのに十分な時間にわたって暴露し、同時に前駆体を延伸することを含む方法に関する。
【0002】
そのような方法は欧州特許第0740002 B1号明細書により知られている。この特許公報には、フィラメント材のヤーンから釣り糸を製造する方法が記載されており、そこでは、ゲル状の紡糸ポリオレフィンフィラメントを編むか、撚りをかけるか、または、撚りをかけかつ諸撚りしたヤーンから製造される糸を、1.01〜2.5、好ましくは1.35〜約2.2の延伸比の範囲内で延伸しながら、前記ポリオレフィンの融点範囲内の温度に、隣接するフィラメントを少なくとも部分的に溶融するのに十分な時間にわたって暴露する。熱的な分子緩和プロセスによって製品の強度が低下するのを防止するために、伸張力が加わった状態にフィラメントを維持するには、熱暴露中において前駆体にそのような延伸比を適用する必要があると指摘している。この方法に使用されているヤーンは、連続マルチフィラメントヤーンであり、より具体的には、超高モル質量ポリエチレン(UHMWPE)のいわゆるゲル紡糸法により製造されるヤーン、例えばスペクトラ(Spectra)(登録商標)またはダイニーマ(Dyneema)(登録商標)の商標で商業的に入手できるヤーンである。欧州特許第0740002B1号明細書で、このようにして製造されるモノフィラメント様製品は、通常、13〜32g/dの強度および1.9〜3.3%の破断伸びを示す。
【0003】
釣り糸は一般に、合成ポリマーから作られるモノフィラメントであり、ベイトキャスティング、スピニングおよびスピンキャスティングに使い勝手のよい丸くて強い構造を有している。そのようなモノフィラメントの糸は、一般に、硬い性質と滑らかな表面を有しており、これにより、釣り糸のリールからの繰り出しが良好になり、投げ込みの際の抵抗を減じるとともに、より遠くへの投げ込みを可能にする。多数のフィラメントを含む編み糸は、糸の末端でほつれる傾向があり、水を含みやすく、ほつれおよびもつれに弱い外部表面を有していて、かつ、水面下で見え過ぎる不透明な外観を有しているので、釣り糸にはあまり適していない。欧州特許第0740002 B1号明細書の方法によれば、ポリオレフィンマルチフィラメントヤーンから作られた編み糸または撚り糸からモノフィラメント様釣り糸を製造することができ、この糸は編み糸より明らかに優れた点を有している。また、そのような溶融した糸の性能は、例えば溶融押出によりポリアミドから作られた従来のモノフィラメントと比べて、引張強さ(すなわち強度(tenacity))および剛性が高い点で好ましい。しかし、その破断伸びはかなり低い(10〜20%に対して約2〜3%)。一方で、伸びの低さと弾性率の高さは、魚のルアーへの最初の食い付きでも釣り人が感じ取ることができるので、釣り糸としては有利である。他方、伸びが小さいと、魚がかかったときのような瞬間的な重荷重が加わったときに吸収される全エネルギーが比較的小さくなるため、早々と糸が切れてしまうおそれがある。伸びの小さい、または弾性の小さい糸は、また、食い付いた魚をより傷つけやすい。したがって、モノフィラメント様製品は、より大きな伸びと、公知の糸と同等の剛性および強度、特に結び目を有する糸の強さ(結節強さ)とを兼ね備えた、多数の連続ポリオレフィンフィラメントを含む前駆体から作ることが望ましい。
【0004】
このように、性能、特に引張特性の向上した釣り糸が依然として要望されている。したがって、本発明の目的は、引張特性の向上したモノフィラメント様製品を製造する方法を提供することにある。
【0005】
この目的は、本発明によれば、多数の連続ポリオレフィンフィラメントを含む前駆体からモノフィラメント様製品を製造する方法であって、前駆体を、ポリオレフィンの融点範囲内の温度に、隣接する繊維を少なくとも部分的に溶融するのに十分な時間にわたって暴露し、同時に前駆体を少なくとも2.7の延伸比で延伸することを含む方法により達成される。
【0006】
本発明の方法によれば、モノフィラメント様製品は、例えば、諸撚りまたは編み構造のポリオレフィンヤーンから作ることができ、この製品は、ASTM D885Mに規定の引張試験、より具体的には、繊維の公称ゲージ長500mm、クロスヘッド速度50%/minおよびインストロン(Instron)2714クランプを用いる引張試験での測定で、より高い破断伸びなどの良好な引張特性を示す。本発明の方法により得られるモノフィラメント様製品は、通常、少なくとも4.0%の破断伸びを示し、これにより、釣り糸や縫合糸などとしての使用に非常に適したものとなる。本発明の方法で得られるモノフィラメント様製品は、また、高い結節強さおよび結節強さ効率を示す。得られるモノフィラメント様製品は、さらに、心地よい手触りもしくは感触を有し、取り扱いやすく結ぶのも容易である。本発明の方法のさらに他の利点は、撚りまたはエアー交絡のマルチフィラメントヤーンに高効率で適用できることであり、公知の方法では編んだ前駆体に適用した場合に最も良い結果が得られている。本発明の方法は、また、より高い柔軟性を有しており、異なる線密度(繊度)を有する一連の製品を1つの前駆体から作ることができる。これは、全体の製造プロセスの簡素化、また、それによる費用効果のより高い製造を意味する。
【0007】
ポリオレフィン繊維を含む糸を熱溶融する間、より高い延伸比を適用することもまた、国際公開第2004/033774 A1号パンフレットに、事実、示唆されているが、そこに記載されている方法は、短ステープルファイバから作られた紡績ヤーンを含む前駆体に適用されており、その前駆体は、連続フィラメントを含む前駆体とは全く異なる構造を有している。さらに、国際公開第2004/033774 A1号パンフレットの実施例では、最大でも1.8の延伸比が開示されているにすぎず、そして、作られた製品の破断伸びは延伸比の増大とともに低下する傾向にある。
【0008】
さらに、比較的高い延伸比が、高強度繊維を得るいわゆるポリオレフィンのゲル紡糸法の一部を構成する(後)延伸工程で適用できることも知られており、例えばEP 0205960号明細書には、後延伸によりマルチフィラメントUHMWPEヤーンの耐クリープ性が改善されることが示されている。しかしながら、前記公報には、マルチフィラメントヤーンの熱溶融によりモノフィラメント様製品を作ることについては、記載されていない。
【0009】
本発明の方法では、モノフィラメント様製品は、多数の連続ポリオレフィンフィラメントを含む前駆体から作られる。モノフィラメント様製品は、マルチフィラメントヤーンまたはコードよりモノフィラメントに似た外観および感触を有する製品であると理解されるが、実際には、通常約50マイクロメートル未満、多くは30マイクロメートル未満の直径を有する多数の連続フィラメントから作られる。モノフィラメント様製品は、幅広い範囲、例えば約0.05〜数ミリメートル(または、より一般的な製品の繊度、例えば10〜数千dtex)で変化する直径を有することができる。ここでは、前駆体は、多数の連続ポリオレフィンフィラメント、例えば、繊度50〜2000dtexの1本またはそれ以上のマルチフィラメントヤーンを含む不定長の物品であると理解され、本発明の方法において原料または出発材料として使用される。適切な前駆体は、例えば、ポリオレフィンフィラメントを含む多数のストランドを含むもののみならず、単一ストランドのヤーンを含む、編みコード、諸撚りされかつ撚られたヤーン、コードまたはロープの形態であってもよい。前駆体は、ポリオレフィンフィラメントを主に、すなわち、フィラメント全量の50質量%以上含み、好ましくは、ポリオレフィンフィラメントを少なくとも70、80、90質量%含み、あるいは、実質的にそのようなフィラメントのみから構成されることさえある。これにより高い機械的性能を有する糸が得られる。
【0010】
本発明の方法は、前駆体を、ポリオレフィンの融点範囲内の温度に、隣接する繊維を少なくとも部分的に溶融するのに十分な時間、暴露する工程を含む。この溶融工程の条件は、暴露する温度と時間が、ポリオレフィンフィラメントをその表面で軟化させ、そしてそれらを少なくとも部分的に、特に前駆体糸の外表面で溶融させるのに十分であるように選択される。ポリオレフィンの融点範囲とは、20℃/minの走査速度を使用するDSC分析で測定される非配向ポリオレフィンの融点のピークと拘束された高配向のポリオレフィン繊維の融点のピークとの間の温度範囲をいう。UHMWPEフィラメントでは、通常、融点範囲は138〜162℃であるが、温度は約150℃〜約157℃の範囲とすることが好ましい。前駆体が溶融温度に暴露される滞留時間は広い範囲で変化させることができるが、通常は、約5秒〜約1500秒の範囲である。温度が高くなると溶融工程は加速される傾向にあるが、温度が高すぎると、例えばフィラメント内部での部分的溶融または他の分子緩和効果によって、製品強度が低下するおそれがあるため、そのような温度を適用しないよう注意する必要がある。この工程の実施に適した手段としては、正確な温度制御が可能で、延伸手段を有するオーブンが挙げられるが、これは、本発明の方法を実施するための代替手段と同様、当業者には知られている。
【0011】
溶融工程の間、前駆体の外観は、溶融の程度と前駆体材料の種類に応じて、初期の不透明な外観、例えば白色から、製品の、半透明の、乳白色の、または、実質的に透明でさえある表面外観に変化する。製品の光透過率は、繊維間の溶融の程度が高いほど大きくなる。そのような透光性または光透過率の増加は、水中の釣り糸としての用途にとって明らかな利点である。天然の白色もまた、着色剤の添加によって調節されるようになってきている。
【0012】
末端のほつれが少なく、表面のピリングが殆どないモノフィラメント様製品のためには、糸の外表面層が少なくとも部分的に溶融すれば十分であり、それは透光性の増大によってわかる。しかしながら、曲げ剛性がより大きく透明度がより高い製品、すなわち、よりモノフィラメント様の特性を有する製品を作るためには、より程度の高い溶融、例えば、前駆体またはストランドのより内部でもフィラメントを結合させることが好ましい。実質的に非多孔質の外部溶融表面層を作ることが好ましい。そのような製品は、耐摩耗性が向上し、ピリングのような表層剥離作用の傾向が殆どない、平滑な表面を示す。溶融表面層は、主にフィラメントの特性を依然として有しているコアを囲んでおり、製品により大きな柔軟性を与えている。本発明の方法においては、溶融の程度は、例えば暴露温度および/または暴露時間を変えることによって調節することができる。
【0013】
溶融の程度は、得られた製品に対して、例えば、裸眼、または、光学もしくは電子顕微鏡を使用する目視による評価、あるいは、強度または剛性のような機械的特性を測定することによって、測定することができる。その他、欧州特許第0740002 B1号明細書に記載されているように、例えばマーカーからの着色液体の吸収の量および速度を測定することによっても可能である。溶融の程度は、また、製品に荷重をかけて金属棒上で摩耗させ、モノフィラメント様製品がその構成フィラメントにばらばらになるまでの運動回数を測定する試験からも導き出すことができる。
【0014】
本発明の方法は、前駆体を少なくとも2.7の延伸比(draw ratio)(伸長比(stretch ratio)とも称する)で同時に延伸することを含む。熱暴露の間に、前駆体に1.01〜2.5の延伸比を適用することが、フィラメントに張力がかかっている状態を維持し、したがって、熱的分子緩和プロセスの結果として製品強度が低下するのを抑制するために必要であるということは、欧州特許第0740002 B1号明細書により知られている。現在、本発明者らは、より高い延伸比、特に2.7以上の高い延伸比を適用することが可能であり、引張特性を向上させることができることを見出している。ある延伸比を超えると、特性を向上させる効果は横ばいとなるか、または、繊維の部分的な損傷または破断によって、特性が低下することさえある。さらに、延伸比が大きくなればなるほど、得られる製品の繊度は低下する。このように、最大延伸比は、前駆体およびそのフィラメントのタイプに依存し、一般に、最大でも約10である。好ましくは、本発明の方法に適用される延伸比は、2.8〜10、3.0〜8であり、より好ましくは3.5〜7であり、あるいは、製品の最適な引張特性を得るには、4〜6ということさえある。
【0015】
本発明の方法では、前駆体は連続ポリオレフィンフィラメントを含み、これは種々のポリオレフィンから選択することができる。特に適したポリオレフィンは、エチレンまたはプロピレンの単独重合体および共重合体である。ポリエチレンまたはポリプロピレンの共重合体は、少量の、一般には5モル%未満の、1つもしくはそれ以上の他のモノマー、特に、それぞれプロピレンやエチレン、および、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンもしくはオクタンのような他のアルファオレフィン、または、ビニルアセテートもしくは(メタ)アクリル酸のようなビニルモノマーもしくはアクリルモノマーを含有する。ポリオレフィンとして線状ポリエチレン(PE)を選択すると、良好な結果が得られる。ここでは、線状ポリエチレンは、炭素原子100個当たり1つ未満の側鎖を有するポリエチレン、好ましくは、炭素原子300個当たり1つ未満の側鎖を有するポリエチレンであって、側鎖または分岐鎖が、通常、少なくとも10個の炭素原子を含有するものであると理解される。線状ポリエチレンは、アルケンなどのコモノマーを好ましくは1モル%未満、より好ましくは、0.5モル%未満、さらに好ましくは0.3モル%未満含有している。そのような単独重合体ポリエチレンを使用する利点は、高い延伸比を適用できることであり、引張特性のより良好な製品が得られる。
【0016】
ポリオレフィン繊維、特にポリエチレン繊維は、5dl/g超の固有粘度(IV)を有することが好ましい。そのようなIVを有するポリオレフィン繊維は、分子鎖が長いため、高引張強さ、高弾性率および破断時の高エネルギー吸収などの非常に良好な機械的特性を有する。IVは、PTC−179法(ハーキュレス・インコーポレーテッド・レビュー(Hercules Inc. Rev.)、1982年、29巻4月号)により、溶解時間16時間、酸化防止剤DBPCを2g/l−溶液の量で含有するデカリン中、135℃で測定され、異なる濃度での粘度をゼロ濃度に外挿する。固有粘度はモル質量(分子量とも称する)の尺度となり、MおよびMのような実際のモル質量パラメータよりもより容易に測定することができる。IVとMの間には、例えばM=5.37×10[IV]1.37(欧州特許出願公開第0504954 A1号明細書を参照)など、数種類の実験に基づく関係があるが、そのような関係はモル質量分布に大きく依存する。そのような高粘度のポリエチレンは、しばしば、超高モル質量ポリエチレンと呼ばれ、UHMWPEと略される。UHMWPEフィラメントヤーンは、UHMWPE溶液を紡糸によりゲル繊維とし、溶媒の部分的もしくは完全な除去の前、除去の間および/または除去の後に、その繊維を延伸することにより調製される。これは、いわゆるゲル紡糸法によるものである。UHMWPEのゲル紡糸は当業者には周知であり、欧州特許出願公開第0205960 A号明細書、欧州特許出願公開第0213208 A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、英国特許出願公開第2042414 A号明細書、欧州特許第0200547 B1号明細書、欧州特許第0472114 B1号明細書、国際公開第01/73173 A1号パンフレットおよびアドバンスト・ファイバー・スピニング・テクノロジー(Advanced Fiber Spinning Technology)、ティー・ナカジマ(T.Nakajima)編、ウッドヘッド・パブリッシング・リミテッド(Woodhead Publ.Ltd)(1994)、ISBN 1−855−73182−7、並びに、これらの中で引用されている文献など、数多くの刊行物に記載されている。ゲル紡糸は、紡糸溶媒に溶解した超高分子量ポリエチレン溶液から少なくとも1本のフィラメントを紡糸する工程、得られたフィラメントを冷却してゲルフィラメントとする工程、ゲルフィラメントから紡糸溶媒を少なくとも部分的に除去する工程、および、紡糸溶媒を除去する前、その間、または、その後に、少なくとも1回の延伸工程でフィラメントを延伸する工程、を少なくとも含むと理解される。適した紡糸溶媒としては、例えば、パラフィン類、鉱油、ケロシンまたはデカリンが挙げられる。紡糸溶媒は、蒸発、抽出、または、蒸発および抽出手段の組み合わせにより、除去することができる。
【0017】
好ましくは5〜25dl/gの範囲、より好ましくは6〜20の範囲、さらに好ましくは7〜15dl/gのIVを有するUHMWPEフィラメントを選択することが好ましい。一般には、UHMWPEのIVまたはモル質量が大きくなればなるほど、機械的強度は大きくなるが、本方法に比較的低いIVのUHMWPEフィラメントを使用すると、良好な耐摩耗性を有する製品が得られることがわかった。これはいわゆるピリング作用の低下である(釣り糸として使用中に製品表面に見られるフィラメント性の低い材料)。
【0018】
フィラメントは、ポリオレフィンポリマーに加えて、このような繊維に通常含まれる、酸化防止剤、紡糸仕上げ剤、熱安定剤、着色剤などの添加剤を、少量(例えば、5質量%未満)含有していてもよい。
【0019】
本発明の方法においては、製造段階で最大限にまで延伸されていないポリオレフィンフィラメント、特にUHMWPEフィラメントを使用することが好ましい。これによって、フィラメントを過延伸するおそれなく、すなわち、相当程度のフィラメントの破断を発生させることなく、少なくとも2.7の延伸比で溶融と延伸を行うことが可能になるからである。このようにして、優れた引張特性を有する製品が得られる。なお、製品中に破断したフィラメントが存在すると、ピリング性が増大する。
【0020】
本発明の方法は、例えば、編み構造、または、諸撚り(もしくは折り畳み)および撚り構造などの種々の構造を有する前駆体を用いて実施することができる。好ましくは、撚りもしくはエアー交絡のフィラメントを含む諸撚りおよび撚り構造の前駆体、または、撚りもしくはエアー交絡のマルチフィラメントヤーンが使用される。取り扱い中、並びに、溶融および延伸中に、ストランドに十分な稠度を与えるために、ある一定の撚りレベルが適用される。そのような稠度は、撚りまたはエアー交絡によって、前駆体中でストランドとして使用されるマルチフィラメントヤーンに与えることができる。フィラメントが編み構造でなく、むしろ、撚りまたはエアー交絡のストランドである前駆体を使用すると、前駆体およびモノフィラメント様製品をより少ない製造工程で、かつ、より高い費用効率で製造でき、得られた製品はそれにもかかわらず好ましい性能を示し、特に摩耗試験の間に意外なほど良好な耐破損性を示すという利点を有する。
【0021】
本発明の方法の溶融効率は、溶融中に前駆体を機械的に圧縮することによって、さらに向上させることができる。前駆体の表面の周りにある一定の力が加わると、フィラメントの少なくとも前駆体の外層でより均一な溶融が生ずることがわかった。この結果、表面の外観がより滑らかになり、また、例えば、釣り糸として使用しているときのピリングの発生傾向が低下するなど、モノフィラメント様製品の耐摩耗性も向上する。
【0022】
本発明の方法の好ましい実施形態では、前駆体を、表面に溝またはスリットを有する少なくとも1つのガイド部材の上を通すことによって、前駆体の全表面が溝の中で少なくとも1回はその部材に接触し、実質的に前駆体全体の周囲に圧力が加わるようにして、溶融中に前駆体を圧縮する。溝は、V字型で、幾分か広がったフィラメント前駆体が容易に入り込むような寸法の上部開口部と、モノフィラメント様製品の所望の寸法と形状を画定するような寸法と形状の溝底部とを有することが好ましい。ガイド部材は、固定された円筒状の棒であってもよいが、好ましくは、自由に回転するホイールもしくはローラ、または、駆動ローラである。糸に加える力は、例えば、糸の張力を変化させることによって、および/または、円筒状部材の直径を調節することによって、調節することができる。当業者であれば、いくらかの実験によって、望ましい組み合わせを見出すことができる。この実施形態のさらなる利点は、溝の形状を選択することにより、モノフィラメント様製品の断面形状を制御でき、かつ、非常に長尺な製品全体にわたって一定に維持できることである。例えば、底部の丸いV字型の溝を使用すると、円筒状または卵状の製品を製造することができる。しかし、他の形状もまた可能である。溝の寸法もまた、その後に来る部材では異なっていてもよく、例えば、丸い底部の半径は、糸を一層圧縮するように、段階的に減少していてもよい。2個以上の部材によって、より稠度が高い結果が得られることがわかっているが、少なくとも3、4、5またはさらにそれより多くの部材を使用することがより好ましい。また、部材の表面も、製品の溶融の程度および形状をより良く制御するために、例えば、部材を延伸および溶融のためのオーブン内に設置することによって、ポリオレフィンの融点範囲内の温度に制御することが好ましい。ある特定の実施形態では、部材を、延伸および溶融の温度設定(例えば使用するオーブン)よりもわずかに、例えば1または2度、高い温度とする。この利点は、溶融がより一層効率的になり、明確な溶融外層膜が形成されることである。
【0023】
本発明の方法の別の実施形態では、前駆体をガイドし、最も小さい部位で、最大でも前駆体の全断面積、例えば全フィラメントの断面積の合計、に等しい表面積を有する開口部を通して引っ張って、前駆体のフィラメントを同時にプレスすることによって、溶融中に前駆体を機械的に圧縮する。適切な開口部の例としては、円錐形のダイ、リングまたは開口部の大きさが減少していく一組のリングが挙げられる。上記の溝付ガイド部材の形状や温度設定などについての好ましい選択は、同様に適用される。しかしながら、開口部を通して前駆体を引っ張ると、スタートアップ、所望の製品の寸法を変えることなどに関して、製造に困難を引き起こすことがある。これらの欠点のいくつかは、少なくとも2つの可動の相補的部品によって形成される開口部を使用し、部品を重ね合わせたときに前駆体フィラメントの一部が捕捉されないよう注意しながら、延伸工程が開始されたときに、囲まれた開口部のみが形成されるようにすることによって、低減できる。
【0024】
溶融中に圧縮することを含む上記方法によって得られるモノフィラメント様製品は、光学または電子顕微鏡で見られるように、実質的に非多孔質の表面層を示し、長さ方向にわたって殆ど変化しない断面形状および断面積を有する。適用条件によって、内部のフィラメントは溶融したり溶融しなかったりする。
【0025】
本発明の方法で得られた製品は、張力をかけた状態を維持しながら冷却することが好ましい。これには、溶融および延伸過程で保持された/得られた製品の配向性が、フィラメントのレベルでも分子レベルでも、より良好に保持されるという利点がある。そのような張力は、例えば、本方法の先行工程に続き、製品を巻き取り、包装体とすることによって生じさせることができる。
【0026】
本発明の方法は、さらに、溶融工程での内部のフィラメント間結合を加速するために、前駆体、または、その中の1本以上のストランドを前処理する先行工程を含むことができる。そのような前処理工程としては、前駆体のある成分またはある組成物によるコーティング、前駆体の洗浄、すなわち紡糸仕上げ剤などの表面成分の洗い落とし、または、高圧プラズマもしくはコロナ処理の適用、あるいは、これらの組み合わせが挙げられる。前駆体は、紡糸仕上げ剤を実質的に含まない(紡糸仕上げ剤が使用されていないか、または、前処理工程で紡糸仕上げ剤が除去されていることを意味する)UHMWPE繊維を含むことが好ましい。これには、モノフィラメント様製品の耐摩耗性がさらに向上し、釣り糸として使用したときにピリングが殆ど観察されないという利点がある。
【0027】
別の実施形態においては、前駆体に、有効量の鉱油(例えば、約250〜700の平均モル質量を有する熱移動グレードの鉱油)、植物油(例えばココナッツオイル)、または、パラフィンのような、好ましくは非揮発性のポリオレフィン用溶剤を、例えばディッピングまたはウェッティングにより塗布することによって、前処理を行う。この前処理工程は、環境条件で行っても、ポリオレフィン繊維の融点範囲より低い温度にまで昇温して行ってもよく、さらに、延伸および溶融と同時に行ってもよい。そのような工程を行うことの利点は、溶融工程の効率がさらに向上すること、すなわち、同じ温度でより大きな溶融の程度、または、幾分低い温度で同程度の溶融が達成されることである。油または溶剤は、着色剤または安定剤のような他の添加剤をさらに含有していてもよい。油または溶剤の量は、幅広く、例えばUHMWPE繊維基準で0.1〜25質量%で変えることができる。医療用途では、全く使用しないか極めて僅かな量を塗布するようにすることが好ましく、釣り糸のような用途では、好ましい量は2〜20質量%であり、より好ましくは5〜15質量%である。
【0028】
さらに別の実施形態では、前処理はコーティング組成物を前駆体に塗布することを含む。その組成物は、溶融工程でより高温に暴露されている間の繊維間の結合を促進するか、他の場合には性能を高める、ポリマーの溶液または分散液であってよい。好ましい実施形態では、前駆体は、フィルム形成ポリウレタンの分散液のようなポリウレタン組成物でコーティングされる。そのような組成物は、さらに、モノフィラメント様製品の耐摩耗性または耐切断性の向上に寄与する成分を含んでいてもよい。耐切断性を向上させる成分の例には、鉱物粒子、セラミック粒子、ガラス、金属などの表面硬度の高い微粒子がある。コーティング組成物は、さらに着色剤または安定剤のような他の添加剤を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の方法は、さらに、溶融および延伸後に、製品にコーティング組成物を塗布してコーティング層を形成する工程を含むことができる。そのようなコーティング組成物は、その後の操作での製品の取り扱いや加工をより容易にするための一般的な紡糸仕上げ剤、その後にこの製品を含む複合物品を作製する過程での接着力を制御するための化合物または組成物、あるいは、製品の結着性および強度をさらに向上させるバインダー組成物を含んでいてもよい。後者の代表的な例としては、ポリウレタン、または、エチレン−アクリル共重合体のようなポリオレフィンをベースとするバインダー組成物が挙げられる。コーティング組成物は溶液または分散液の形態とすることができる。そのような組成物は、さらに、モノフィラメント様製品の耐摩耗性または耐切断性をさらに向上させる成分を含んでいてもよい。耐切断性を向上させる成分の例には、各種の鉱物粒子またはセラミック粒子のような表面硬度の高い微粒子がある。コーティング組成物は、さらに、着色剤、安定剤などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0030】
本発明は、また、少なくとも部分的に溶融したポリオレフィンフィラメントを含むモノフィラメント様製品に関するものであり、製品は本発明の方法により得ることができる。本発明のモノフィラメント様製品は、高い引張強さおよび剛性と、比較的高い破断伸びを併せ持ち、容易に結ぶことができ、結んだ製品は高い結節強さを示す。モノフィラメント様製品は、また、良好な耐摩耗性を示す。
【0031】
本発明は、具体的には、少なくとも部分的に溶融したUHMWPEフィラメントを含み、少なくとも4.0%という、少なくとも部分的に溶融したUHMWPEフィラメントを含む既知のモノフィラメント様製品より高い破断伸びを有する新規なモノフィラメント様製品に関する。そのような製品の破断伸びは少なくとも4.2%であることが好ましく、少なくとも4.5%であることがより好ましい。そのような製品は、少なくとも15cN/dtexの引張強さを有し、好ましくは少なくとも20、25、30または35cN/dtexでさえある。
【0032】
本発明の方法により得られるモノフィラメント様製品は、広い範囲、例えば10〜15000dtexで変化する、繊度とも称する線密度を有する。一般に、製品は30〜2500の繊度を有する。より低い繊度の製品は、縫合糸などとしての使用に適している。釣り糸もしくは凧糸、または、防護服および防護衣のような用途を考慮すると、繊度は100〜2000dtexが好ましく、200〜1600dtexがさらにより好ましい。
【0033】
本発明は、さらに、釣り糸、凧糸、縫合糸、種々の布、コードおよびロープ、複合ヤーンのような、各種の半製品および最終使用製品を製造するための、本発明のモノフィラメント様製品の使用、および、例えば耐切断性製品におけるそれらの使用に関する。
【0034】
本発明は、また、本発明のモノフィラメント様製品を含む半製品および最終使用製品に関する。
【0035】
ここで、以下の実験により本発明をさらに詳しく説明する。
【0036】
比較実験A
前駆体(原料)材料として、撚りレベルが時計回りの320回転/mで、引張強さが15cN/dtex、引張弾性率が174cN/dtex、および、破断伸びが4.6%の、918dtexの195フィラメントのUHMWPE撚りヤーンを使用した。このヤーンは、公知のゲル紡糸法で得たものであり、ゲルフィラメントは最大限にまで延伸されていない。
【0037】
この前駆体の延伸と溶融を欧州特許第0740002 B1号明細書に記載された手順にしたがって行い、前駆体をそれぞれ153℃と154℃の一定温度に維持した2つのオーブンを通過させる。それらのオーブンの前、間および後で、駆動ローラの速度を制御することによって、延伸比を1.36および1.4に設定し、その結果、全体としての延伸比は1.9となった。オーブンに導入する前に、前処理工程として前駆体を液体パラフィンの浴に通し、不織布の間を通すことによって過剰の油をふき取った。この工程による質量の増加を測定することによって、パラフィン含量を算出したところ、約12質量%であった。得られた糸は、モノフィラメント様の性質を示し、出発のヤーンよりもより半透明な外観を有していた。
【0038】
部分的に溶融した糸(および出発のヤーン)の引張強さ(または、強さ)、引張弾性率(モジュラスともいう)および破断伸び(eab)を、500mmの公称ゲージ長の繊維、50%/minのクロスヘッド速度およびインストロン(Instron)2714クランプを使用し、ASTM D885Mに準拠して測定した。強さは、測定した引張力を、10m(または、他の長さ)の繊維を秤量することによって求められる繊度で除すことによって算出する。伸びは、破断点で測定した伸びであり、試料を固定した後の元の長さに対する%で表示する。結節強さは、パロマーノット(Palomar−knot)を形成した試料の強さを測定することによって求める。パロマーノット(Palomar−knot)は、釣り糸を猿環、留め金具または釣り針と結ぶ場合に推奨される汎用の接続である。試料の2重にした端部を釣り針の穴に通し、単純な一つ結びを作る。その後、釣り針をループに通し、結び目をしっかりと締める。試験結果を表1にまとめる。
【0039】
実施例1および2
これらの実験は、延伸速度をほぼ同一に維持しながら、全体としての延伸比を2.7または3.7として、比較実験Aと同様に行った。パラフィン含量はそれぞれ約11質量%および約10質量%であった。他の試験結果を表1にまとめる。延伸比が大きくなると、モノフィラメント様製品の強さ、結節強さおよび結節強さ残率が高く、破断伸びが延伸比1.9で製造された試料に比べて大きいモノフィラメント様製品が得られることがわかる。耐摩耗性、特にピリング特性は3つの試料全てにおいて類似していた。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の連続ポリオレフィンフィラメントを含む前駆体からモノフィラメント様製品を製造する方法であって、前記前駆体を、前記ポリオレフィンの融点範囲内の温度に、隣接する繊維を少なくとも部分的に溶融するのに十分な時間にわたって暴露し、同時に前記前駆体を少なくとも2.7の延伸比で延伸する工程を含む方法。
【請求項2】
前記延伸比が、2.8〜10である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィンが、超高モル質量ポリエチレンである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィンが、コモノマーを1モル%未満含有する線状ポリエチレンである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリエチレンが、5〜25dl/gの範囲の固有粘度(デカリン溶液として135℃で測定)を有する請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記フィラメントが、撚りまたはエアー交絡されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−517168(P2008−517168A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536118(P2007−536118)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011173
【国際公開番号】WO2006/040191
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】