説明

モノリス型多孔体のウィックを備えるヒートパイプ

【課題】空隙によって効率の良い毛細管作用をもたらし、さらに、ヒートパイプコンテナ内壁面との隙間を最小限に抑えることのできるヒートパイプを提供する。
【解決手段】溶液から調製されることによるコンテナ内壁面との密着度を高めた三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体をウィックとして備え、本願の多孔体を調製する際の空隙サイズのコントロールによって使用条件に対して毛細管力の最も高いウィックを調製することが可能なヒートパイプに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体などの電子機器部品の冷却などに用いられている作動流体の蒸発潜熱として熱輸送するヒートパイプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
離れた場所に高速で熱を伝える熱伝達素子としてヒートパイプが広く知られている。ヒートパイプは、冷却しにくい場所にある熱を引き出し、冷却が容易に行える所に熱伝達を行えるため、電力ケーブルの冷却やボイラーの排熱回収、半導体などの高密度化電子機器の冷却などに需要が拡大している。ヒートパイプは、管内を真空にしたヒートパイプコンテナの中に水などの作動液と作動液を運ぶウィックを封じ込めたものである。外部からの入熱により作動液が真空中で容易に蒸発し、その蒸発潜熱で高熱部が冷却される。蒸気は離れた冷却部へ真空中を音速で移動してそこで放熱して凝縮される。凝縮された液体はウィックでの毛細管現象を利用して加熱部へ戻るといった作用を繰り返している。これにより、離れた場所への多量の熱を輸送する機能を実現している。ヒートパイプのウィックは、一般的な構造として、コンテナの内壁に溝を施したものや金属粉末を焼結したもの、金属線をメッシュ状や編んだ構造にしたものを用いている。これらは、コンテナ内壁に沿うように適当な形状に成型して、コンテナ内部に挿入されている。これらのウィックは、作動液を冷却部で浸透させて毛細管圧力を生じさせるとともに、蒸発部への作動液の還流流路を形成するためのものである。そのため、効率よく作動液を移動させるには高い毛細管圧力を得る必要があり、それにはコンテナ内壁にウィックを可及的に密着させる必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ウィックを備えたヒートパイプにおいて、ウィックが多数本の極細線からなる編組体によって形成されており、コンテナの内部に挿入させた金属線のウィックよりさらに内部に中空螺旋状に巻かれたスパイラルを配置し、スパイラル部材の弾性力によってウィックをコンテナ内壁に押し付けて固定していることを特徴とするものが開示されているが、ヒートパイプの小型化によってスパイラル部材を挿入するサイズには限界が生じるうえ、非直線性のヒートパイプには利用しにくい。
【0004】
また、特許文献2には、ヒートパイプにおいて、複数の線状体がコンテナの加熱部と放熱部とに亘って、かつ相互に間隔をあけて並行にコンテナの内部に固着されており、線状体の間隔が最短となって毛細管圧力を生じさせる位置がコンテナの内部から離れた位置に存在することを特徴とするものが開示されているが、この製造方法では、溝のあるコンテナに複数本の線状体を一本ずつ挿入する作業と、吸引などによる保持と焼結による固着の作業を繰り返すため、量産的な製造方法としては機能しにくい。
【0005】
また、特許文献3には、ヒートパイプ本体の内壁にウィックを密接させるために、縮径加工を必要としない複数の金属線などのコイル巻体をコンテナ内に挿入し、スプリングバック力を作用させることによってコンテナ内壁に密接していることを特徴とするものが開示させているが、ヒートパイプは必ずしも直線状のものではなく、構成上で屈曲した形状を必要とする場合、ヒートパイプ内の空間変化によって部分的に壁面に密接していないウィックが存在している可能性が高くなる。
【0006】
また、特許文献4には、ウィックとして金属ファイバーを使用し、その金属ファイバーをコンテナ内面に一体化したことを特徴とするものであり、金属ファイバーの極細線による毛細管半径をさらに小さくして毛細管圧力を高める方法が開示されているが、必ずしもコンテナ壁面との密接方法が確立されていない上に、焼結による固着は壁面との接着はもとより、金属ファイバー同士の融着を引き起こす可能性があるため、逆に熱輸送能力を低下させる恐れがある。
【0007】
また、特許文献5には、ウィックに弾性力の大きい弾発線を用い、網状に編んだ編組体によってスパイラル部材などの内装材を使用することなく、ウィックをコンテナ内壁に密着状態に維持できるヒートパイプ、さらに網目の頂点角度が5度〜85度の鋭角な菱形編組体を用いることで流動抵抗を低減でき、熱輸送能力を向上させることのできるヒートパイプを提供しているが、特許文献3と同様に、空間変化により部分的に密接していないウィックの存在が完全には解消されない。
【0008】
さらに、非特許文献1には、ウィック構造ごとの浸透性と毛細管力の関係が示されており、また、最も高い性能を持つヒートパイプの理想的な状態として、毛細管力と浸透性の両方とも高い性能を示すことであるが、これら2つの要素はお互いに相反するものであると記述されており、より高い毛細管力を得るには、より小さい細孔半径が要求されることにあるが、より小さい細孔半径では浸透性が低下すると示されている。
【特許文献1】特開平9−170888号広報
【特許文献2】特開2000−46487号広報
【特許文献3】特開2001−289580号広報
【特許文献4】特開2002−372388号広報
【特許文献5】特開2006−300395号広報
【非特許文献1】パーソナルコンピュータ冷却用新型コンポジットウィックヒートパイプ/フジクラ技報−第108号(2005年4月発行)−株式会社フジクラ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヒートパイプの需要は年々高まり、電子機器冷却や地熱抽出、密閉型制御盤冷却などに利用されているが、特に半導体などの電子機器部品の小型化によってヒートパイプをさらに小型化することが求められている。ヒートパイプの熱輸送原理の中枢を担っているウィックの性能を向上させることがヒートパイプ全体の特性を向上させることに繋がると考えられ、近年、様々な開発がされている。ウィックに求められる特性は、第一に、熱伝達をより効率的に行うこと、第二に、毛細管作用により冷却部から加熱部に作動液を還流させることをより効率的に行うことができるか否かが高性能ヒートパイプを形成するうえで重要になってくる。
【0010】
第一の特徴である熱伝達を効率よく行うためにはウィックをいかにヒートパイプコンテナの内壁に密着させるかによる。上記、特許文献で開示させている方法によるコンテナに対する密着は、直線状や内径サイズをある程度確保できるヒートパイプコンテナに対しては有効に働くが、ヒートパイプの小型化によってコンテナ自体の径の縮小化、さらにヒートパイプを折り曲げることによる小型化には必ずしも有効に働かず、コンテナ内壁から部分的にウィックが離れ、熱輸送効率が低下する恐れがある。
【0011】
第二の特徴である毛細管作用による作動液の還流をより向上させるには、毛細管圧力を増加させる必要性がある。従来のメッシュ状と内面溝タイプのウィックは、表面張力が比較的小さく液体の揚程能力が低い。また、金属粉末を焼結したウィックはメッシュ状と内面溝タイプよりも揚程能力は高いが非常に高価である。上記、特許文献で開示されている方法による極細の金属ファイバーを使用することによって、各金属ファイバー間の隙間を小さくして毛細管圧力を高めることは、実質的に毛細管圧力を高めることになるが、ヒートパイプの屈曲によって部分的にファイバー間の間隔が異なったり、コンテナとの融着作業によってファイバー相互間でも融着が起こり閉ざされたりする可能性がある。
【0012】
これら両者の課題を同時に解決するウィック、さらには、ヒートパイプコンテナとウィックの密着度や部材のコスト高が問題となっている。これらの特性を含めて、ウィックには毛細管力と浸透力の両方が高い性能を備えることが必要となり、また安価に作製できることが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に係るヒートパイプは、三次元網目構造の骨格と空隙を有する無機系或いは有機系モノリス型多孔体を、ウィックとして使用することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項2に係るヒートパイプは、請求項1において、三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体について、その骨格内に金属或いは金属酸化物の微粒子をフィラーとして含むことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項3に係るヒートパイプは、請求項1又は2において、三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体について、骨格の表面にメッキが施されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項4に係るヒートパイプは、請求項1から3のいずれかにおいて、三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体が硬化したエポキシ樹脂からなることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の請求項5又は6に係るヒートパイプは、相分離とゾル−ゲル転移の調製による三次元網目構造の骨格と空隙を有するエポキシ樹脂又はシリカのモノリス多孔体であり、軸方向の中央部が開口された円筒形の多孔体ウィックが挿入されているコンテナであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明では、ヒートパイプ本体の内壁に三次元網目構造の均質なサイズの骨格と空隙を有するモノリス型多孔体を密着させることにより、空隙によって効率の良い毛細管作用をもたらすことが可能となる。また、これらの空隙サイズは調製条件によって容易にコントロールできることから、金属粉末の焼結ウィックより細孔サイズが小さく、かつ、空隙率の大きいウィックの調製が可能となるため、毛細管力と浸透力の両方を兼ね備えたウィックを持つヒートパイプとなる。さらに、多孔体の調製において、原料は液体を使用するため、極細のヒートパイプコンテナにも調製が可能であり、さらに場合によっては、直線状でないヒートパイプコンテナにも調製が可能である。また、原料を、重合後はウィックの中心部を中空とするための型となる線状のものを仕込んだヒートパイプコンテナの内壁面に沿って流し込み、重合の工程によって多孔体を調製することから、ウィックと内壁面との隙間が実質的にない状態とすることができるヒートパイプを提供するものであり、これまで溝付け加工が困難であった鉄系ヒートパイプの作製も可能となる。
【0019】
請求項2の発明では、骨格内に金属或いは金属酸化物製のフィラーが含まれている三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体であることから、請求項1のヒートパイプに加え、請求項1の熱伝導性を改善したウィックを備えた熱輸送能力の高いヒートパイプを提供するものである。尚、フィラーとしてメッシュ状やファイバー状のものも使用できる。
【0020】
請求項3の発明では、メッキが施された三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体であることから、請求項2よりさらに熱伝導率が高く、さらに、化学的に安定であり、ヒートパイプ内に充填された作動流体と化学反応することによる不要なガスや劣化を防いだウィックを備えた熱輸送能力の高いヒートパイプを提供するものである。
【0021】
請求項4の発明では、エポキシ樹脂硬化物から調製される三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体であることから、調製工程が著しく容易になることに加え、原料コストと加工コストを抑えた安価なヒートパイプを提供するものである。また、比較的親水性の高いポリマーを使用することで、毛細管現象はこれまでになく大きくできる。
【0022】
請求項5の発明では、相分離とゾル−ゲル転移の併用による調製方法により作成した三次元網目構造の骨格と空隙を有するエポキシ樹脂のモノリス型多孔体であって、さらに、軸方向の中央部が開口された円筒形の多孔体ウィックが挿入させているコンテナを提供するものである。これは、エポキシ樹脂のモノリス型多孔体が著しく調製容易であることから、軸方向の中央部が開口された円筒形のような形状変化にも対応可能であり、小規模な生産設備でも製造が可能であることから生産コストの削減にも繋がる。
【0023】
請求項6の発明では、相分離とゾル−ゲル転移の併用による調製方法により作成した三次元網目構造の骨格と空隙を有するシリカのモノリス型多孔体であって、さらに、軸方向の中央部が開口された円筒形の多孔体ウィックが挿入させているコンテナを提供するものである。これは、有機系モノリス多孔体では使用できない高温用として対応可能であり、無機系のウィックとして毛細管力と浸透力の高いヒートパイプを提供するものである。
【0024】
本発明により得られるウィックは、モノリス型多孔体を調製する原料の選択、例えば有機系原料を用いることによって表面に様々な官能基をもたらすことが可能となり、作動流体の種類に対して毛細管力が高く、揚程や揚水能力の高い多孔体を備えたヒートパイプの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
最初に、三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体について説明する。モノリス型多孔体とは、相分離によって骨格と空隙の三次元網目構造を形成する過程とゾル−ゲル転移によって構造を凍結する過程を併用することによって調製される多孔体であり、モノリス型多孔体は液体クロマトグラフィーのカラム用途として分離分析分野で用いられているが、ヒートパイプのウィックとしての用途展開はされていない。ここで、三次元網目構造の骨格と空隙を有する多孔体の形成については、図3のような三次元網目構造を示す多孔体であれば良く、その形成過程は相分離とゾル−ゲル転移の併用による調製方法に限らない。
【0026】
次に、本発明の実施形態における三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体(以下、単にモノリス型多孔体という)のウィックを備えたヒートパイプについて説明する。図1及び図2は、ヒートパイプの構造を説明するための図であり、図1は、モノリス型多孔体のウィックがコンテナ内に形成されたヒートパイプの斜視図であり、図2の(A)及び(B)、(C)は、その断面図である。
【0027】
具体的には、図1の1で示したようにヒートパイプコンテナは円筒形に形成されていて、2で示したようにウィックであるモノリス型多孔体は1のコンテナ内壁面に形成させている。従来のメッシュ状ウィックを用いた場合は、コンテナ内壁とウィックを密着させて生じる毛細管路を利用しているので、密着させないとメッシュワイヤーの線材だけでは充分な表面張力が得られず効果が下がるが、モノリス型多孔体を用いた場合は、多孔体自体に毛細管路が存在しているので、厳密に密着させる必要はない。また、図2に示すように、モノリス型多孔体の形状は、(A)のように単なるパイプ状か、(B)のように外面に溝を持つような形状であり、その断面形状は円形でも多角形でも良い。さらに、(C)のようにコンテナ内壁に溝を形成することで、モノリス多孔体ウィックとの併用により毛細管力の相乗効果が出る。2の中央部は作動流体の蒸気流路として開口させている。すなわち、本実施の形態に係るヒートパイプ1は中空円の筒状であり、さらにその内壁に毛細管力ならびに内壁密着性に優れたモノリス型多孔体2が形成され、またさらに、中央部には蒸気部で蒸発した作動流体の蒸気が移動する蒸気通路が開口させている構造となっており、実際にはヒートパイプ内に作動流体を封入させるとともに、両末端を密閉して使用する。ここで、モノリス型多孔体であるウィック2は、図3に示した原子顕微鏡写真のような骨格と空隙が互いに連続的に網目状に絡みあった構造をしているものである。
【0028】
上記、ヒートパイプコンテナとしては、熱伝導性が良く、さらに、化学的に安定であり、ヒートパイプ内に充填された作動流体と化学反応することによる不要なガスや劣化を防ぐために、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、ステンレス鋼など、伝熱性の高い材質が挙げられる。また、コンテナの形状は、丸管(A)及び(B)のほかに、多角管、外面溝付き管、内面溝付き管(C)などが挙げられる。
【0029】
上記、ウィックとしては、毛細管力を作動流体や使用条件によって適宜、細孔径サイズを調節したモノリス型多孔体を調製する。モノリス型多孔体は、調製段階においてスピノーダル相分離による共連続構造の発現により骨格と空隙が形成され、重合・架橋反応によって構造が固定されてモノリス型多孔体が得られる。調製方法は下記に示すが、熱伝導率や化学的安定性を高めるために、多孔体の調製過程で金属フィラーを混合して調製することや、多孔体を形成した後にメッキを施すことが挙げられる。
【0030】
モノリス型多孔体の調製には、大きく分類すると、シリカなどを主にした無機系多孔体と、有機高分子を主にした有機系多孔体に分けることができる。下記の具体的な調製方法の説明には、無機系多孔体と有機系多孔体の製造方法について詳しく説明するが、有機系多孔体については、安価でかつ調製工程が著しく容易であることから、有機高分子を主にした有機系多孔体の中で、エポキシ樹脂と硬化剤の反応によって調製される熱硬化性樹脂型有機系多孔体について記載する。ウィックとしてモノリス型多孔体を用いる場合、原料としては下記に示した種類に限られず、有機低分子とその重合開始剤によって調製される有機系多孔体も含まれる。
【0031】
第一に、本発明にかかるモノリス型多孔体の無機系多孔体の製造方法は、相分離誘起作用を有する有機高分子を含む酸性溶液中に、アルコキシシランなどの金属アルコキシドを投入して、金属アルコキシドを加水分解させたのち、金属アルコキシドを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中にメソポアを形成するメソポア形成工程により調製できる。
【0032】
上記、酸性溶液に用いる酸としては、酢酸、硝酸、塩酸、蟻酸などを用い、加水分解を行うのに最適な濃度に調節した酸水溶液が挙げられる。上記の中で好ましくは、加水分解や重合の時間を制御する上で、酢酸のような弱酸を用いることである。
【0033】
上記、金属アルコキシドとしては、シリカアルコキシドとして、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン、Si原子に1〜4つのアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、グリシジル基などの官能基を導入したシリカアルコキシドなど、チタンアルコキシドとして、チタニウムn−プロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムn−ブトキシド、チタニウムt−ブトキシドなど、ジルコニウムアルコキシドとして、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシドなど、ハフニウムアルコキシドとして、ハフニウムプロポキシド、ハフニウムイソプロポキシド、ハフニウムn−ブトキシド、ハフニウムt−ブトキシドなどが挙げられる。上記の中で好ましくは、アルコキシシランが好ましく、Si原子に1〜4つのアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタンなどである。特に好ましくは、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシランである。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。
【0034】
上記、アルカリ条件下で水熱処理して骨格中にメソポアを形成するメソポア形成工程に使用するアルカリ発生化合物としては、尿素、ヘキサメチレンテトラミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの有機アミド類が挙げられる。上記の中で好ましくは、尿素である。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。また、アルカリ発生化合物は、酸性溶液中に予め添加しておいても良いし、必要に応じてゲル化後にさらに添加するようにしても構わない。さらに、下記に記載の有機高分子などを添加してテンプレートとして骨格内にメソポアを形成する方法もある。
【0035】
上記、有機高分子としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体などが挙げられる。上記の中で好ましくは、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体である。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。有機高分子の配合割合は、得ようとする細孔径に応じて適宜調整することができる。さらに、テンプレートとして骨格内にメソポアを形成するために、溶媒を添加して有機高分子をミセル化する方法がある。その溶媒としては、特に限定されないが、たとえば、トリメチルベンゼン、メタノール、ブタノールなどが挙げられる。
【0036】
重縮合時の加熱温度は60℃以下などできるだけ低い方が良い。好ましくは、30〜60℃である。すなわち、加熱温度が高すぎると、溶液が沸騰して、ボイドが発生し、良好な骨格部が形成されない恐れがある。また、骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程おいては、尿素を用いた場合、尿素の分解温度以上が50℃程度であるので、加熱温度は50℃〜200℃が好ましく、より好ましくは80℃〜120℃である。
【0037】
ここで、無機系多孔体のより具体的な製造方法を示す。初めに、氷冷下で分子量1万のポリエチレングリコール12.4gと尿素9gに0.01mol/Lの酢酸水溶液を100mL滴下し、30分間攪拌した。次に、テトラメトキシシランを40mL滴下し、再び30分間攪拌した。後に、ヘリウムガスを用いて3分間脱気を行った後、0.45μmPTFEメンブレンフィルターで濾過した。調製した混合溶液を用意した鋳型に注入した後に密栓し、30℃の恒温槽で24時間重合反応を行い、マイクロメートルサイズの三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体を調製した。さらに、その湿潤状態のまま120℃で3時間の加熱処理を行った。この加熱処理により、尿素が分解してアンモニアが生成し、このアンモニアは形成したシリカのミクロ表面を溶解し、その結果、ナノメートルサイズの細孔を有する多孔体となった。得られた多孔体を水及びメタノールで洗浄した後、40℃で3日間乾燥させた後、40℃から330℃まで10時間かけて加熱し、330℃で24時間の熱処理を行った。この製造方法により、ヒートパイプのウィックとして用いることのできる無機系多孔体を調製することができた。尚、本発明はこの製造工程に限定されるものではない。
【0038】
第二に、本発明にかかるモノリス型多孔体のエポキシ樹脂と硬化剤の反応によって調製される有機系多孔体による製造方法は、原料に用いるエポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせ及びポロゲンの使用によって形成することができる。
【0039】
上記、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンべ−スなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、2,2,2,−トリ−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアネートなどのトリグリシジルイソシアヌレート、トリアジン環含有エポキシ樹脂、複素芳香環を含むエポキシ樹脂、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、1,3−ビス(N,N'−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。上記の中でも、好ましくは、分子内にグリシジル基が二つ以上有するエポキシ樹脂であり、特に好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、2,2,2,−トリ−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアネート、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N'−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンである。
【0040】
上記、硬化剤としては、メタフェニレンジアミンやジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなどの芳香族アミン、無水フタル酸や無水トリメット酸、無水ピロメット酸などの芳香族酸無水物、フェノール系化合物、フェノール系樹脂、フェノールホルムアルデヒド型ノボラックやフェノールアルキル型ノボラックなどのノボラック型フェノール樹脂、イソフタル酸ジヒドラジドなどの芳香族ヒドラジド類、トリアジン環などの複素芳香環を有する芳香族アミン、1,1,1',1'−テトラメチル−4,4'−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジドなどの芳香族ポリアミン類及び芳香族ポリアミンヒドラジド類、エチレンジアミンやジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなどの脂肪族アミン類、アジピン酸ジヒドラジドやセバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジドなどの脂肪族ヒドラジド類、イソホロンジアミンやメンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタンやこれらの変性品などの脂環族ポリアミン類、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)などの脂肪族ポリアミンヒドラジド類、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミン類やポリアミノアミド類、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)を主成分とするオリゴマープロピレングリコールモノメチルエーテル溶液、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)を主成分とするオリゴマーN,N−ジメチルホルムアミド溶液、スピログリコールや2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−2−メチルプロパン−1−オールなどのグリコール類、その他アミンアダクト系硬化剤などが挙げられる。上記の中でも、好ましくは、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタンや25℃における粘度が400mPa・s以上のポリアミノアミド系硬化剤を用いることである。
【0041】
上記、ポロゲンとしては、エポキシ樹脂及び硬化剤を溶かすことができ、且つエポキシ樹脂と硬化剤が重合した後、反応誘起相分離を生じさることが可能な溶剤をポロゲンとして用いることができ、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどエステル類、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類などを挙げることができる。上記の中でも、好ましくは、分子量400以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。分子量600以上のポリエチレングリコール或いはポリプロピレングリコールで室温中において蝋質(半固形)状であっても重合温度においてエポキシ樹脂や硬化剤と相溶し且つ液状であればポロゲンとして使用できる。尚、相分離をより誘起させるためにポロゲンと同等の効果をもたらす有機高分子をポロゲンに加えて添加することもできる。
【0042】
ここで、有機系多孔体のより具体的な製造方法を示す。初めに、芳香族エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)4.43gと(ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン)1.21g、分子量200のポリエチレングリコール13.4gをスクリュー管瓶中で室温において混合し、溶液とした。上記溶液を用意した鋳型に注入した後、110℃条件で3時間重合し、その後、150℃条件で3時間キュアを行い、室温まで冷却して取り出した。得られた多孔体を水及びメタノールで洗浄しモノリス型多孔体を得た。この製造方法により、ヒートパイプのウィックとして用いることのできる有機系多孔体を調製することができた。尚、本発明はこの製造工程に限定されるものではない。
【0043】
また、熱伝導率や化学的安定性を高めるために、多孔体の調製過程で混合する金属フィラーとしては、銅や銅合金、チタン、ステンレス、アルミニウム、ニッケルなど、さらに金属アルコキシドからなるゾルが挙げられる。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。エポキシ樹脂と硬化剤、ポロゲンに対する金属フィラーの比率は、目的とする空隙サイズや熱伝導率によって実験的に調節が必要となるが、出来るだけ多くの金属フィラーを添加することが好ましく、より好ましくは10〜95vol%であり、さらに好ましくは、熱伝導率と多孔体構造形成の安定性から考慮し、40〜80vol%である。
【0044】
また、本発明に関するヒートパイプの製造方法としては、ヒートパイプコンテナ内で直接に本願の多孔体を作製する鋳込み方式や、あらかじめ使用するヒートパイプコンテナと同などの鋳型によって本願の多孔体を調製した後に、実際に使用するヒートパイプコンテナ内に差し込み固定することによって、三次元網目構造の空隙を有するモノリス型多孔体からなるウィックを備えたヒートパイプを得ることもできる。
【0045】
さらに、モノリス型多孔体のウィックにおいて、熱伝導性を良くし、化学的に安定であり、ヒートパイプ内に充填された作動流体と化学反応することによる不要なガスや劣化を防ぐために、本願の多孔体にメッキをすることが好ましい。多孔体のメッキの際には、多孔体の製造時に使用したポロゲンを抽出し、空隙内に不要な溶媒を無くした状態でメッキを施す必要がある。
【0046】
本発明のモノリス型多孔体において、空隙率は20〜95%にコントロールすることが好ましい。より好ましくは40〜95%である。40%未満ではウィックとしての使用において、低空隙率のため空隙を有効に活用できないことがある。高空隙率であるほど骨格が細く空隙を有効に活用できるが、ゲル強度に問題が生じる。それに対しては、多官能エポキシ樹脂や多官能硬化剤を用いることで解決でき、必要に応じて多官能モノマーを適宜使用するのが好ましい。また、空隙サイズはサブミクロンサイズからマイクロメートルサイズにコントロール可能であるため、使用条件により毛細管力の最も高い空隙サイズに調節することが必要である。好ましくは、0.1〜150μmである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明によるヒートパイプの実施の形態を示す説明図であり、本願のヒートパイプの縦軸方向における断面図である。
【図2】本発明によるヒートパイプの実施の形態を示す説明図で本願のヒートパイプの横軸方向における断面図であり、(A)及び(B)、(C)それぞれはコンテナとモノリス型多孔体ウィックの形状の一例を示した図である。
【図3】図1及び図2における2のウィックとして用いる三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0048】
1 コンテナ
2 モノリス型多孔体ウィック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目構造の骨格と空隙を有する無機系或いは有機系モノリス型多孔体をウィックとして使用することを特徴とするヒートパイプ。
【請求項2】
三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体の骨格内に、金属或いは金属酸化物の微粒子をフィラーとして含むことを特徴とする請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項3】
三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体の骨格表面にメッキが施されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒートパイプ。
【請求項4】
三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体がエポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のヒートパイプ。
【請求項5】
相分離とゾル−ゲル転移の調製による三次元網目構造の骨格と空隙を有するエポキシ樹脂のモノリス型多孔体であり、軸方向の中央部が開口された円筒形の多孔体ウィックが挿入されているコンテナを特徴とするヒートパイプ。
【請求項6】
相分離とゾル−ゲル転移の調製による三次元網目構造の骨格と空隙を有するシリカのモノリス型多孔体であり、軸方向の中央部が開口された円筒形の多孔体ウィックが挿入されているコンテナを特徴とするヒートパイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−96405(P2010−96405A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266954(P2008−266954)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(505191803)株式会社エマオス京都 (9)