説明

モレキュラーインプリント材料および該モレキュラーインプリント材料を含むインクジェット記録要素

本発明は、時間経過における顕著な染料保持特性を有するインクジェット記録要素に関する。前記記録要素は、インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有する少なくとも1つのモレキュラーインプリントポリマーを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくはポリマーである、モレキュラーインプリント材料(molecular implinted material)、および該モレキュラーインプリント材料を含むインクジェット記録要素(recording element)に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル写真は数年間、急速に成長しており、一般人は今や、効率的で手頃な価格のデジタルカメラを入手することができる。そのため、人々は、単純なコンピュータおよびそのプリンタから、最良の品質を有する写真プリントが作成できることを求めている。
【0003】
多くのプリンタ、とりわけ個人的なオフィスオートメーションに関連するものはインクジェット印刷技術を使用する。インクジェット印刷技術には2つの主なファミリー、連続ジェット(continuous jet)およびドロップオンデマンド(drop-on-demand)、が存在する。
【0004】
連続ジェットはより単純なシステムである。加圧したインク(3.10Pa)を1つまたは複数のノズルを通すようにし、インクを液滴流に変換させるものである。液滴間のサイズおよび空間を可能な限り最も均一なものとするために、例えば、インクと接触させて圧電性結晶を用い、高周波数(1MHzまで)の交流(AC)電源により、規則的な圧力パルスを送る。そのため、単一のノズルを用いてメッセージを印刷することができ、全ての液滴は個々に制御され、誘導されなければならない。このために静電エネルギーが使用され、電極がインクジェットの周囲の、液滴が形成される場所に配置される。ジェットは誘導により帯電され、その後、全ての液滴は電荷を運び、その値は印加電圧に依存する。その後、液滴は2つの反対の符号で帯電された偏向板の間を通過し、その後一定の方向に従い、移動の大きさは各プレートにより運ばれる電荷に比例する。他の液滴が紙に到達しないように、他の液滴は帯電されていないままであり、そのため、支持体に行くのではなく、偏向されずにその経路をすすみ続け、直接容器内に入る。インクはその後濾過され、再利用することができる。
【0005】
インクジェットプリンタの別のカテゴリはドロップオンデマンド(DOD)である。これは、オフィスオートメーションで使用されるインクジェットプリンタの基礎を構成する。この方法を使用すると、インクカートリッジ内の圧力は一定に維持されないが、文字(character)が形成されなければならない時に印加される。1つの広く知られたシステムでは、12のオープンノズルの列が存在し、その各々が圧電性結晶により活性化される。ヘッドに含まれているインクにパルスが与えられ、圧電要素が電界(electric voltage)と接触し、これにより体積が減少し、ノズルから液滴が放出される。要素がその最初の形状を回復すると、新しい印刷に必要なインクをレザーバでポンピングする。このように、ノズルの列を使用して、列行列が生成され、そのため液滴の偏向は必要ない。このシステムの1つのバリエーションは、圧電性結晶を各ノズルの後ろの小さな加熱要素と置換したものである。溶媒蒸気の気泡の形成後、液滴が放出される。体積が増加すると、液滴の放出が可能となる。最後に、インクが雰囲気温度では固体である、パルスインクジェットシステムが存在する。インクが液化し、印刷することができるように、このようにプリントヘッドが加熱されなければならない。これにより、従来のシステムより広い範囲の製品上での急速乾燥が可能になる。
【0006】
優れた品質の写真画像を作成することができる新規「インクジェット」プリンタが現在存在する。しかしながら、それらのプリンタは、品質の劣った印刷紙を使用すると、良好な校正刷りを提供することができない。印刷紙の選択が、得られる画像の品質に対し基本となる。印刷紙は下記の特性を組み合わさなければならない:高品質印刷画像、印刷後の急速な乾燥、時間経過における良好な染料保持、滑らかな外観、および高光沢。
【0007】
一般に、印刷紙は、所望の特性により、1つまたは複数の層でコートされた支持体を含む。例えば支持体上に、第一付着層、吸収層、インク染料固定層および保護層または表面層を塗布し、記録要素の光沢度を提供することができる。吸収層は、画像形成後、水系インク組成物の液体部分を吸収する。液体を除去すると、インクが表面に移動する危険性が減少する。インク染料固定層は、紙基材の繊維中に染料が入り込み喪失してしまわないようにし、良好なインク飽和が得られるようにし、一方、印刷ドットのサイズの増加および画像品質の減少につながる過剰なインクを阻止する。吸収層および固定層はまた、両方の機能を確保する単一のインク受容(ink-receiving)層を構成することができる。保護層は、指紋およびプリンタ供給ローラーの圧力マークに対する保護を確保するために設計される。インク受容層は通常、バインダ、受容剤および様々な添加剤を含む。受容剤の目的は、印刷紙中で染料を固定することである。最もよく知られている無機受容物はコロイドシリカまたはベーマイトである。例えば、欧州特許出願EP−A−976,571号およびEP−A−1,162,076号は、インクジェット印刷のための材料を記述しており、この場合、インク受容層は無機受容物として、グレイスコーポレーション(Grace Corporation)から市販されているルドックス(Ludox、商標)CL(コロイドシリカ)およびサソール(Sasol)から市販されているジスパル(Dispal、商標)(コロイドベーマイト)を含む。しかしながら、そのような無機受容物を含むインク受容層を備える印刷紙では、時間経過における画像安定性がよくないことがあり、これは色密度の喪失により論証される。
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0976571号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1162076号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
写真品質、印刷速度および色安定性に関する市場の新しい要求を満たすため、上記のような特性を有する、より詳細には時間経過における良好な染料保持性を有する新規インクジェット記録要素を提供することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の新規インクジェット記録要素は、インク中で使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有する少なくとも1つのモレキュラーインプリント材料を含む、ことを特徴とする。
【0011】
本発明はまた、インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料に関する。
【0012】
本発明はまた、インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料の調製法に関し、
a)インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子の構造と類似する、または同一の構造を有する鋳型分子の存在下、モレキュラーインプリント材料を合成する工程と、
b)前記モレキュラーインプリント材料から前記鋳型分子を抽出し、前記染料分子の認識部位を形成する工程と、
を含む。
【0013】
本発明はまた、インクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料を使用する工程を含む、インクジェット記録要素の画像安定性を改善するための方法に関する。
【0014】
好ましくは、モレキュラーインプリント材料はポリマーである。
【0015】
インクに含まれる染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料を使用すると、関連するインク−印刷紙システムの作成が可能となり、その後、印刷紙は関連する印刷インクに含まれる染料に対し選択性を有する。この選択性により、染料と紙との間で強い相互作用が生じる。そのため、本発明によるインクジェット印刷要素は、時間経過において良好な染料保持特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によるインクジェット記録要素はまず、支持体を備える。この支持体は、所望の用途に従い選択される。支持体は透明または不透明な熱可塑性フィルム、特にポリエステル系フィルムとすることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレートまたはポリメチルメタクリレート;セルロース誘導体類、例えばセルロースエステル、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート;ポリアクリレート類;ポリイミド類;ポリアミド類;ポリカーボネート類;ポリスチレン類;ポリオレフィン類;ポリスルホン類;ポリエーテルイミド類;ポリ塩化ビニルなどのビニルポリマー類;ならびにこれらの混合物とすることができる。本発明で使用される支持体はまた、紙とすることができ、その両側はポリエチレン層で被覆してもよい。紙パルプを含む支持体の両側をポリエチレンでコートする場合、樹脂コート紙(Resin Coated Paper)(RC紙)と呼ばれ、様々なブランド名で市販されている。この型の支持体は、インクジェット記録要素を構成するのに特に好ましい。使用される支持体の両側はゼラチンまたは別の組成物の非常に薄い層でコートすることができ、支持体上での第1の層の接着が確保される。
【0017】
本発明によれば、インクジェット記録要素は、印刷インクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有する少なくとも1つのモレキュラーインプリント材料を含む。
【0018】
好ましくは、モレキュラーインプリント材料はモレキュラーインプリントポリマーである。
【0019】
モレキュラーインプリントポリマー(MIP)類は、機能性モノマー類を、架橋剤と共に、または架橋剤無しで、鋳型分子の存在下、重合させることにより得られる。鋳型分子はインクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子に類似する、または同一の構造を有する分子である。鋳型分子および対応する染料分子は、好ましくは等しい電子数および等しい構造を有する。鋳型分子は例えば、染料分子の構造要素の1つとすることができ、それ自体は着色されていない。
【0020】
機能性モノマー類は特異的に鋳型分子の周囲で組織化し、重合後、それらの官能基は高架橋ポリマー構造を形成する。重合後、鋳型分子はポリマーから抽出される。その後、得られたポリマーは、標的染料分子の化学的機能とサイズ、形態または位置が相補的であり、非常に優れた特異性で標的染料分子を認識することができる部位を有する。ポリマーはその後、標的染料分子の1つと接触すると、標的染料分子を選択的に吸着することができる。
【0021】
本発明において使用されるポリマー類は有機または無機ポリマー類とすることができる。ポリマー類は結晶相を含むことができる。有機ポリマー類は、ポリアクリル類、ポリメタクリル類、ポリビニル類ならびにそれらのエステル類およびコポリマー類、ポリウレタン類、ボロン酸のアミンエステル類の縮合から得られるポリマー類、ポリフェノール類、ジアミンポリフェニレン類、およびポリピロール類からなる群より選択することができる。無機ポリマー類は、シリカ、シリコンアルコキシド(silicon alkoxide)および酸化チタンからなる群より選択される機能性モノマー類から得ることができる。好ましくは、シリコンアルコキシド類の重合から得られるシリケートポリマーを使用する。
【0022】
本発明では、標的分子は、インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子である。使用する染料は一般に、水にすぐに溶解する染料である。好都合なことに、使用する染料は、イエロー、マゼンタおよびシアンの色に対応する。本発明で有益な染料は、染料、ディレクトブルー(Direct Blue)199(CAS12222−04−7)、ディレクトイエロー132(CAS10114−86−0)、ディレクトイエロー86(CAS50925−42−3)、アシッド(Acid)イエロー17(CAS6359−98−4)、アシッドイエロー23(CAS1934−21−0)、アシッドレッド52(CAS3520−42−1)、リアクティブ(Reactive)レッド180(CAS98114−32−0)、スルホローダミン(Sulforhodamine)B(CAS2609−88−3)、ローダミン(Rhodamine)B(CAS81−88−9)とすることができる。
【0023】
本発明によれば、インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーの調製法は、以下のステップ、すなわち、
a)インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子の構造と類似する、または同一の構造を有する鋳型分子の存在下、機能性モノマーを重合する工程と、
b)ポリマーから鋳型分子を抽出し、前記染料分子の認識部位を形成する工程と、
を含む。
【0024】
モレキュラーインプリントシステムを開発するためには2つの異なるアプローチが存在し、(1)モノマー類および鋳型分子は、共有結合であるが可逆的に結合される、または(2)モノマー類と鋳型分子との間の最初の相互作用は共有結合ではない。モレキュラーインプリントポリマー類に対しては異なる合成経路が存在する。それらの1つは文献、ササキ(Sasaki)、D.Y.;アラム(Alam)、T.M.アメリカンケミカルソサイアティ(American Chemical Society)2000、12、1400−1407において記述されており、ゾル−ゲル経路を使用する。
【0025】
他の合成例が下記文献で記述されている:Impression covalente de polymers organiques et de surfaces de slice、ウルフ(Wulff),G.、ハイド(Heide),B.、ヘルフマイヤー(Helfmeier),G.、(1986)JACS108、1089−1091;Impression covalente de polymers synthetiques、ウルフ,G.、シャウホフ(Schauhof),S.、(1991)J.Org.Chem.56、395−400;Impression non-covalente de polymers synthetiques、アンダーソン(Andersson),L.I.、セレーグレン(Sellergren),B.、モスバッハ(Mosbach),K.、(1984)テトラへドロン・レター(Tetrahedron Lett.)25、5211−5214;Impression covalente et non-covalente combines de polymers synthetiques、クライン(Klein),J.U.、ホウィットコウム(Whitcombe),M.J.、ムルホランド(Mulholland),F.、ブルフソン(Vulfson),E.N.(1999)アンギュー(Angew).Chem.Int.Ed.38、2057−2060;バルクシリカのキラルインプリンティングへの経路について(On Route to the Chiral Imprinting of Bulk Silica)、S.Ini、J.L.デフリース(Defreese)、N.パラ−バスケス(Parra-Vasquez)、A.カッツ(Katz)、Mat.Res.Soc.Symp.Proc.Vol.723、41−47、マテリアルズリサーチソサイアティ(Materials Research Society)。
【0026】
重合は、反応混合物を光、熱および圧力などの適当な重合パラメータ下に置くことにより、触媒無しで実施することができる。必要であれば、重合の性質によって触媒を使用することができる。反応混合物中に架橋剤を含有させることも望ましい。重合は、溶媒および/または他のポロゲン剤(porogenic agent)の存在下で実施することができる。
【0027】
重合反応および条件は当業者に公知であり、特別な注釈は必要ない。
【0028】
重合後、インプリントポリマーを破壊せずに鋳型分子を除去することができる任意の公知の方法により鋳型分子を抽出することができる。抽出は、競合剤(competitor agent)を含まない溶媒を用いて実施することができ、化学的開裂、例えば加水分解、酸加水分解、アルカリ加水分解、水素化、還元または酸化を必要とする。
【0029】
本発明による染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーの調製法を、各染料色に対し使用する。このように、インクのイエロー染料分子を選択的に認識することができるインプリントポリマー、インクのマゼンタ染料分子を選択的に認識することができるインプリントポリマー、およびインクのシアン染料分子を選択的に認識することができるインプリントポリマーが得られる。
【0030】
これらのポリマー類を様々な構造に従い、本発明による記録要素を形成する層中に導入することができる。本発明による記録要素は、イエロー染料、マゼンタ染料およびシアン染料からなる群より選択される染料分子の選択的認識部位を有する少なくとも1つのモレキュラーインプリントポリマーを含む少なくとも1つの層を備えることができる。
【0031】
例えば、本発明によるインクジェット記録要素は、イエロー染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーを含む1つの層、マゼンタ染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーを含む1つの層、およびシアン染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーを含む1つの層、を任意の順序で備えることができる。染料の特性によっては、各染料の色に対応するこれらの3つの層のうちの1つのみ、または2つを使用するように計画することができる。
【0032】
本発明によるインクジェット記録要素はまた、イエロー染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマー、シアン染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマー、およびマゼンタ染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマー、を含む1つの層を備えることができる。染料の特性によっては、各染料の色に応答するこれらの3つのインプリントポリマーのうちの1つのみ、または2つを使用するように計画することができる。
【0033】
染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーを含む層は、乾燥状態で、層の総重量に比べ、5重量%〜100重量%のモレキュラーインプリントポリマーを含むことができる。
【0034】
インプリントポリマーを含む層はまた、少なくとも1つの水溶性バインダを含むことができる。前記水溶性バインダはゼラチンまたはポリビニルアルコールとすることができる。ゼラチンは、写真分野で従来使用されているものである。そのようなゼラチンは、研究公開(Research Disclosure)、1994年9月、第36544号、パートIIAにおいて記述されている。研究公開は、ケネス・マソン・パプリケーションズ社(Kenneth Mason Publications Ltd.)、Dudley House、12 North Street、Emsworth、Hamsphire PO10 7DQ、英国の出版物である。ゼラチンはSKWから入手することができ、ポリビニルアルコールは日本合成(Nippon Gohsei)から、またはエアプロダクト(Air Product)から商品名エアボル(Airvol、登録商標)130として入手することができる。
【0035】
インプリントポリマーを含む層を形成することを目的としているコーティングの組成物は、水溶性バインダ(もし存在すれば)および前記ポリマーを混合することにより製造する。組成物はまた、そのコーティング特性を改善するために界面活性剤、およびシリカまたはベーマイトなどの無機フィラー類を含むことができる。組成物は、任意の適当なコーティング法、例えば、ブレード、ナイフまたはカーテンコーティングにより、支持体上に層形成させることができる。組成物は、湿潤状態で約100μmと500μmとの間の厚さを有するように塗布する。組成物は、支持体の両側に塗布することができる。インプリントポリマーを含む層でコートした支持体の裏側に帯電防止または屈曲防止(anti-winding)層を用いることもできる。
【0036】
本発明によるインクジェット記録要素は、少なくとも1つのインプリントポリマーを含む層の他に、少なくとも1つのインプリントポリマーを含む前記層の上または下に配列させた他の層を備えることができる。様々な層は、得られる画像の特性を改善するために、当業者に公知の任意の他の添加物、例えば、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、抗酸化剤、可塑剤などを含むことができる。
【0037】
本発明によるインクジェット記録要素は時間経過において良好な染料保持特性を有する。本発明によるインクジェット記録要素は、任意の型のインクジェットプリンタに対し、ならびにこの技術のために開発された全てのインクに対し使用することができる。
【0038】
下記実施例は、本発明を例示したものであるが、範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0039】
1)非インプリントシリケートポリマー類の調製(比較例)
a) テトラエトキシシランからゾル−ゲル経路によりシリケートポリマーを調製すると、一般式SiOのキセロゲル(xerogel)が得られた。そのような合成は、出版物、ササキ(Sasaki)、D.Y.;アラム(Alam)、T.M.アメリカンケミカルソサイアティ(American Chemical Society)2000、12、1400−1407に記述されている。
【0040】
テトラエトキシシラン28mLをエタノール33mLに添加し、撹拌し、その後、水28mLおよび1mol/L(1M)塩酸300μLを添加した。混合物を1時間半撹拌しながら75℃まで加熱し、その後、雰囲気温度まで冷却すると、均一ゾル(homogeneous sol)が生成した。このゾルに、0.1mol/L(0.1M)のNHOH3mLを添加し、75℃で12時間インキュベートさせることによりゲル化した。ゲルが得られた。このゲルを粉砕し、洗浄のためにエタノール中に懸濁させた。その後、混合物を超音波にかけ、その後遠心分離し、この2つの操作を1回繰り返し、その後50℃で乾燥させ、最後に機械的に押し潰した。キセロゲルが得られ、これをその後、数回、10%の酢酸を含む水を用い、100℃で洗浄し、本発明による実施例と同じ処理条件を有するようにした。このようにして、ポリマー1に対応する白色粉末が得られた。
【0041】
b) 別のシリケートポリマーを下記のように調製した。テトラエトキシシラン28mLをエタノール33mLに添加し、撹拌し、その後、水28mLを添加した。混合物を1時間半撹拌しながら75℃まで加熱し、その後、雰囲気温度まで冷却すると、均一ゾルが生成した。このゾルを、75℃で12時間インキュベートさせることによりゲル化させた。得られたゲルを粉砕し、エタノール中に懸濁させた。その後、混合物を超音波にかけ、その後遠心分離し、この2つの操作を1回繰り返し、その後50℃で乾燥させ、最後に機械的に押し潰した。キセロゲルが得られ、これをその後、数回、10%の酢酸を含む水を用い、100℃で洗浄し、染料分子を除去した。このようにして、ポリマー2に対応する白色粉末が得られた。
【0042】
2)インプリントシリケートポリマー類の調製(発明)
a) セクション1.a)で記述した合成を繰り返したが、テトラエトキシシランと比べ、0.1モル%のディレクトイエロー132染料の存在下、水溶液中で実施した。ディレクトイエロー132染料は下記化学式(I)を有する:
【0043】
【化1】

【0044】
キセロゲルは、本発明によるポリマー3に対応する白色粉末として得られ、これは、ディレクトイエロー132染料の分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーである。
【0045】
b) セクション1.b)で記述した合成を繰り返したが、テトラエトキシシランと比べ、0.1モル%のマゼンタ染料水溶液の存在下で実施した。マゼンタ染料は8−ヘテロシクリルアゾ−5−ヒドロキシキノリンの遷移金属の多価錯体であり、例えば、米国特許第5,997,622号および米国特許第6,001,161号において記述されている。本発明で使用されるマゼンタ染料は下記化学式(II)を有する:
【0046】
【化2】

【0047】
キセロゲルは、本発明によるポリマー4に対応する白色粉末として得られ、これは、マゼンタ染料の分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーである。
【0048】
3)ディレクトイエロー132染料の分子の選択的に認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーとディレクトイエロー132染料の分子との間の相互作用
【0049】
本発明によるインプリントポリマーであるポリマー3を様々な濃度で、水中、0.01g/Lのディレクトイエロー132(化学式I)染料の水溶液と混合した。混合物を12時間インキュベートさせた。インキュベート後、固相を遠心分離により除去した。上清の光学密度を、分光計を用い400nmで測定し、インプリントポリマーに結合していないディレクトイエロー132染料濃度を決定した。
【0050】
同じ実験を、対応する非インプリントポリマーであるポリマー1を用いて繰り返した。
【0051】
図1は、ディレクトイエロー132染料を、ディレクトイエロー132染料の分子の選択的認識部位を有するポリマー3と接触させると、上清中に残っているこのイエロー染料の濃度が低くなることを明確に示している。このことから、ディレクトイエロー132染料は、対応する非インプリントポリマーであるポリマー1よりも、ディレクトイエロー132染料の分子の選択的認識部位を有する本発明によるポリマー3に、より吸着されることが推定される。
【0052】
4)マゼンタ染料の分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーとマゼンタ染料の分子との間の相互作用
【0053】
本発明によるインプリントポリマーであるポリマー4を様々な濃度で、水中、0.01g/Lのマゼンタ(化学式II)染料の水溶液と混合した。混合物を12時間インキュベートさせた。インキュベート後、固相を遠心分離および濾過により除去した。上清の光学密度を、分光計を用い553nmで測定し、インプリントポリマーに結合していないマゼンタ染料濃度を決定した。
【0054】
同じ実験を、対応する非インプリントポリマーであるポリマー2を用いて繰り返した。
【0055】
図2は、マゼンタ染料を、マゼンタ染料の分子の選択的認識部位を有するポリマー4と接触させると、上清中に残っているマゼンタ染料濃度が低くなることを明確に示している。このことから、マゼンタ染料は、対応する非インプリントポリマー2よりも、マゼンタ染料の分子の選択的認識部位を有する本発明によるポリマー4に、より吸着されることが推定される。
【0056】
5)インプリントポリマー類の選択性
この実施例では、ディレクトイエロー132染料の分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーであるポリマー3の選択性を試験した。
【0057】
このために、本発明によるインプリントポリマーであるポリマー3を、様々な濃度で、水中、0.005g/Lのディレクトイエロー132(化学式I)染料および0.005g/Lのマゼンタ(化学式II)染料の水溶液と混合した。混合物を12時間インキュベートさせた。インキュベート後、固相を遠心分離により除去した。上清の光学密度を、分光計を用い400nmおよび553nmで測定し、インプリントポリマーに結合していないディレクトイエロー132染料およびマゼンタ染料の濃度を決定した。
【0058】
図3は、ディレクトイエロー132染料の分子の選択的認識部位を有するポリマー3により吸着されたディレクトイエロー132染料の割合が、同じポリマー3により吸着されたマゼンタ染料の割合よりも明らかに大きいことを明確に示している。これは、ディレクトイエロー132染料の分子の選択的認識部位を有する本発明によるポリマー3は、ディレクトイエロー132染料の分子を選択的に吸着することができることを意味する。
【0059】
6)インクジェット記録要素
a)支持体上にコートしたインク受容層を構成するコーティング組成物の調製
水溶性バインダとして、浸透水(osmosed water)により9重量%まで希釈したポリビニルアルコール(日本合成(Nippon Gohsei)により市販されているゴーセノール(登録商標)(Gohsenol、商標)GH23)を使用した。
【0060】
コーティング組成物1:
コーティング組成物1は下記を混合することにより得た:
脱イオン水 2.03g
(非インプリントポリマー)ポリマー2 0.4g
9%ポリビニルアルコール 0.53g
混合物を、ローラー撹拌機および5つの10mm直径ガラスビーズを用いて20時間ホモジナイズした。
【0061】
コーティング組成物2:
コーティング組成物2は下記を混合することにより得た:
脱イオン水 2.03g
(インプリントポリマー)ポリマー4 0.4g
9%ポリビニルアルコール 0.53g
混合物を、ローラー撹拌機および5つの10mm直径ガラスビーズを用いて20時間ホモジナイズした。
【0062】
b)インクジェット記録要素の調製
これをするために、樹脂コート紙型の支持体をコーティング装置上に置き、最初に、非常に薄いゼラチン層でコートし、コーティング装置上に真空により保持した。この支持体を、パラグラフ6.a)に従い調製した組成物で、ブレードを用いてコートした。湿厚(wet thickness)は125μmであった。これを雰囲気大気温度(ambient air temperature)(21℃)で12時間乾燥させた。
【0063】
得られた記録要素は、インク受容層で使用したポリマーを特定する下記表1で示した実施例に対応する。
【0064】
【表1】

【0065】
c)時間経過における染料保持特性の評価
時間経過における染料保持特性を評価するために、オゾン暴露による染料退色試験を、得られた各記録要素に対して実施した。このために、各要素上で、コダック(KODAK)PPM200プリンタおよび化学式(II)のマゼンタ染料分子を含む関連マゼンタインクを用いマゼンタ標的(magenta target)を印刷した。マゼンタインクを最大密度で印刷した。標的をグレタグマクベス・スペクトロリノ(GretagMacbeth Spectrolino)濃度計(densitometer)を用いて分析した。その後、記録要素を暗所の、オゾン雰囲気が制御された(60ppb)室内に3週間置いた。色密度の全ての劣化を、濃度計を用いてモニタした。結果を下記表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2で示した結果から、マゼンタ染料分子の選択的認識部位を有する本発明によるポリマー4を含む、本発明による記録要素上にマゼンタ染料を用いて印刷した画像は、マゼンタ染料分子の選択的認識部位を有するポリマーを含まない対照(comparison)記録要素上に印刷した画像に比べ、時間経過における安定性が高く、より良好な染料保持性を有することが示される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ポリマー濃度による、吸着されていない染料の濃度を示した図である。
【図2】ポリマー濃度による、吸着されていない染料の濃度を示した図である。
【図3】インプリントポリマー濃度による、吸着された染料の割合を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有する、モレキュラーインプリント材料。
【請求項2】
ポリマーである、請求項1記載の材料。
【請求項3】
前記ポリマーは、ポリアクリル類、ポリメタクリル類、ポリビニル類、ならびにそれらのエステル類およびコポリマー類、ポリウレタン類、ボロン酸のアミンエステル類の縮合から得られるポリマー類、ポリフェノール類、ジアミンポリフェニレン類、およびポリピロール類からなる群より選択される、請求項2記載の材料。
【請求項4】
シリカ、シリコンアルコキシドおよび酸化チタンからなる群より選択される機能性モノマー類から得られる、請求項2記載の材料。
【請求項5】
a)インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子と類似する、または同一の構造を有する鋳型分子の存在下、モレキュラーインプリント材料を合成する工程と、
b)前記材料から前記鋳型分子を抽出し、前記染料分子の認識部位を形成する工程と、
を含む、インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料を調製するための方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、
前記モレキュラーインプリント材料はポリマーであり、
a)インクジェット印刷のためのインクにおいて使用される染料分子と類似する、または同一の構造を有する鋳型分子の存在下、機能性モノマー類を重合する工程と、
b)前記ポリマーから前記鋳型分子を抽出し、前記染料分子の認識部位を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項7】
前記ポリマーは、ポリアクリル類、ポリメタクリル類、ポリビニル類、ならびにそれらのエステル類およびコポリマー類、ポリウレタン類、ボロン酸のアミンエステル類の縮合から得られるポリマー類、ポリフェノール類、ジアミンポリフェニレン類、およびポリピロール類からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーは、シリカ、シリコンアルコキシドおよび酸化チタンからなる群より選択される機能性モノマー類から得られる、請求項6記載の方法。
【請求項9】
インクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有する少なくとも1つのモレキュラーインプリント材料を含むことを特徴とする、インクジェット記録要素。
【請求項10】
イエロー染料、マゼンタ染料およびシアン染料からなる群より選択される染料分子の選択的認識部位を有する少なくとも1つのモレキュラーインプリント材料を含む少なくとも1つの層を備える、請求項9記載の記録要素。
【請求項11】
イエロー染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料を含む1つの層と、
マゼンタ染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料を含む1つの層と、
シアン染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリントポリマーを含む1つの層と、
を備える、請求項10記載の記録要素。
【請求項12】
イエロー染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料と、
シアン染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料と、
マゼンタ染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料と、
を含む1つの層を備える、請求項10記載の記録要素。
【請求項13】
前記モレキュラーインプリント材料はポリマーである、請求項9記載の記録要素。
【請求項14】
前記モレキュラーインプリントポリマーは、ポリアクリル類、ポリメタクリル類、ポリビニル類、ならびにそれらのエステル類およびコポリマー類、ポリウレタン類、ボロン酸のアミンエステル類の縮合から得られるポリマー類、ポリフェノール類、ジアミンポリフェニレン類、およびポリピロール類からなる群より選択される、請求項13記載の記録要素。
【請求項15】
前記モレキュラーインプリントポリマーは、シリカ、シリコンアルコキシドおよび酸化チタンからなる群より選択される機能性モノマー類から得られる、請求項13記載の記録要素材料。
【請求項16】
インク受容層は、乾燥受容層の総重量に対し、5重量%〜100重量%の間のモレキュラーインプリント材料を含む、請求項9記載の記録要素。
【請求項17】
インクにおいて使用される染料分子に対応する染料分子の選択的認識部位を有するモレキュラーインプリント材料を使用することによる、インクジェット記録要素の画像安定性を改善するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−512276(P2008−512276A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530629(P2007−530629)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/009471
【国際公開番号】WO2006/029727
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】