説明

モールドプレス成形装置及び成形体の製造方法

【課題】 ガス置換時の成形素材の位置ずれを防ぎ、成形体の偏肉成形を防止する。
【解決手段】 成形素材を収容した成形型に、プレス圧を印加してプレス成形するモールドプレス成形装置において、気密性を保った成形型の搬入室P1と、この搬入室P1に連結した排気路7に設けられた前記搬入室内のガスを排気する排気手段13,14及び排気路7に並列に設けられた複数のバルブ11,12からなる減圧手段とを有し、搬入室P1の排気を行うときに減圧速度を段階的に変化させる構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の光学素子形状にもとづいて精密加工を施した上型、下型、胴型からなる成形型を用い、プレス成形によって成形体(例えば、高精度ガラスレンズなどの光学素子)を製造するモールドプレス成形装置及び成形体の製造方法に関し、特に、形状精度、面精度の高い光学素子を生産性高く量産するモールドプレス成形装置及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密加工された成形型を用い、軟化ガラスを融着させることなく、高精度ガラスレンズなどの光学素子をプレス成形する方法が種々開発されてきている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1は、並べて配置された加熱室、プレス室、冷却室等の処理室の中を成形型が順次移送することによって、成形素材(ガラスプリフォーム)をガラス成形体に製造する構成となっている。このような構成の装置によると、成形型の均熱性を維持し、成形体を連続的に高い処理スピードで製造することができる。
【特許文献1】特公平7−29779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常、モールドプレス成形装置によるプレスは高温で行われ、特に、成形素材がガラス素材である場合には、プレス温度は500〜800℃程度となる。このような高温下では、型素材(セラミック、超硬、金属など)や、その成形面に施された離型膜(炭素を主成分とするもの、貴金属を主成分とするものなど)を保護する目的で、プレス雰囲気は非酸化性とすることが必要である。
したがって、プレス成形の行われるプレス室等の高温となる各処理室は、大気を排気して真空とするか、又は窒素、アルゴンなどの非酸化性ガス雰囲気を維持する必要がある。このため、各処理室を気密としたり、常に上記非酸化性ガスの導入によって大気圧を維持するなどの手段が講じられる。また、処理室の雰囲気を維持するためには、成形型の取り出し、取入れに際し、外部との気体の流通を防いだ状態で行う必要がある。
【0004】
ここで、特許文献1に示す装置の構成を、図1及び2に基づいて説明する。
本装置は、チャンバー1の上部に配置された搬出入室P1と、チャンバー1内に、周方向に並べて配置された多数の処理室(第一加熱室P2,第二加熱室P3,均熱室P4,プレス室P5,第一徐冷室P6,第二徐冷室P7,急冷室P8)を有している。チャンバー1内、すなわち各処理室P2〜P8は、常時、非酸化性ガスの雰囲気下にあり、成形素材(被成形ガラス)を収容した成形型4が回転テーブル2の支持台3に載置され、各処理室P2〜P8を順次移送されるように構成されている。各処理室P2〜P8は、図示の如くシャッターS1〜S6(均熱室P4とプレス室P5の間には設けてない)によって区画されている。
【0005】
回転テーブル2は、その中央に、図示していない回転軸とインデックスマシンを備えている。支持台3は、ベース部の下部突起3aが、回転テーブル2の外周部に形成された取付孔2aに係合されている。被成形ガラスを収容する成形型4は支持台3の上に載置されている。支持台3は、成形型4がチャンバー1内の各処理室P2〜P8のほぼ中央を通過するように配置されている。
また、図2に示すように、支持台3の下方には、支持台3を昇降させるための、シリンダ5が設けられている。
なお、回転テーブル2の取付孔2aは、周方向に複数形成されており、それぞれに支持台3が係合されている。したがって、チャンバー1内には複数の成形型4が存在し、連続的に成形体の成形が行われる。
【0006】
チャンバー1の上部であって、シリンダ5のピストンロッド5aの軸線上にはシール台6とベルジャー8が固定されている。チャンバー1の、シール台6の固定してある面には、シール台6と連通する開口部1aが形成してあり、この開口部1aを介して支持台3がチャンバー1からシール台6へ出入りする。また、シール台6には、後述する排気手段と接続する排気路7が設けられている。
シール台6の上方に位置するベルジャー8は、シリンダ9によって、シール台6に対して接離可能に設けられている。
なお、支持台3のベース部3aにおける、前記開口部1aを覆う部分と、シール台6のチャンバー1上面と接する部分、及びシール台6のベルジャー8と当接する部分には、それぞれOリング3b,6b,6cが設けてある。
そして、これらシール台6とベルジャー8及びOリング3b,6b,6cによって気密状態に保った搬出入室(気密室)P1を形成する。
【0007】
次に、特許文献1に示す装置における、搬出入室P1の気体置換について説明する。
成形型4が、支持台3に載置され、回転テーブル2の回転により各処理室P2〜P8内を移送することによって成形が終了し、搬出入室P1の位置まで戻ってくると、ピストンロッド5aが上昇する。ピストンロッド5aの上昇によって支持台3も上昇し、開口部1aを介して成形型4をシール台6まで移動させる。
それによって、支持台3のフランジ部3aに設けたOリング3bが開口部1aの周縁に押しつけられ、チャンバー1内と搬出入室1とが遮断される(図2の二点鎖線参照)。この状態でピストンロッド9aによってベルジャー8を上昇させ、成形体の入った成形型4を図示していないロボット等で取り出す。取り出された成形型は、図示しない装置によって分解され、内部の成形体を取り出す工程に移される。
【0008】
成形体の入った成形型4を取り出した後は、成形素材を既に入れてある次の成形型4を、図示しないロボット等で支持台3に載置する。次いで、ベルジャー8のフランジ部8aがシール台6のOリング6cにぶつかるまでベルジャー8を下降させ、それによって形成された搬出入室P1内をいったん排気し、その後、非酸化性ガスを充填する。このとき、非酸化性ガスとしては、チャンバー内の雰囲気と連通させ、成形チャンバーと同一雰囲気としてもよい。
次いで、支持台3に成形型4が載置されると、ピストンロッド5aを下降させることにより、支持台3を下降させて、回転テーブル2上に戻す。この状態では、シール台6とベルジャー8は当接したままであるので、開口部1aが開いてもチャンバー1内のガスが外部に漏れることはない。
【0009】
このようなモールドプレス成形装置によれば、成形体は次のようにして成形される。
すなわち、成形型4を載置した支持台3が回転テーブル2上に載せられると、成形型4は、回転テーブル2の回転によって順次、各処理室P2〜P8へ移送される。成形型4は、まず、加熱室(第一加熱室P2,第二加熱室P3及び/又は均熱室P4)においてプレス成形に適切な温度に加熱され、内部に収容されている成形素材が軟化する。必要な温度上昇及び均熱に基づき、加熱室を複数とし、それぞれの温度を設定することができる。適切な温度に加熱された成形型は、プレス軸を備えるプレス室P5に移送される。
【0010】
プレス室P5では、成形型4に所定の荷重が印加され、精密に加工された上型、下型の成形面形状が成形素材に転写し、成形体を形成する。成形体は、成形型4内に収容されたまま、冷却室(第一徐冷室P6,第二徐冷室P7及び/又は急冷室P8)に移送されて、適切な冷却速度で転移点付近まで冷却される。
この後、十分に冷却された成形型4(内部に成形体を収容している)は、冷却室から搬出入室P1と対応する位置まで移送され、上記したようにして搬出入室P1へ移動される。
なお、各処理室P2〜P8へ成形型が移動するときには、各処理室に設けられているシャッターS1〜S6が開閉する。
【0011】
このようにして、成形型を順次移送しながらプレス成形を行うとともに、搬出入室P1において、順次、成形済みの成形体を収容した成形型を取り出し、新たに、成形素材を収容した成形型を導入することによって、連続的な成形を行うことができる。
しかしながら、このようにして連続的に成形した成形体に、偏肉などの形状不良の発生することがあった。本発明者は、プレス成形に先立ち、成形型内に収納された成形素材の位置がずれ、この成形素材の位置ずれに起因して偏肉等の不良が発生することを見出した。
【0012】
すなわち、図3(A)に示すように、成形素材が成形型の中心にセットされた状態でプレス成形が行われれば、偏肉は生じない。ところが、図3(B)に示すように、プレス成形の工程の前に、成形型内に収容された成形素材の位置がずれてしまうと、プレス成形時に成形体が偏肉した状態で成形されてしまい、成形された光学素子の光学有効径が不足するほか、形状不良となってしまう。
成形素材は、成形型内に収容された状態では、上下型の成形面と接触し、軽く挟まれた状態であるため、一度中心からずれてしまうと元の位置(中心位置)に戻りにくい。
【0013】
そこで、成形素材を成形型内に配置する際の位置制御を十分に行って、成形型の中心に成形素材が位置するようにした。しかしながら、成形素材を成形型の中心に配置しても、上記した偏肉が生じた。
そこでさらに、発明者等は、このような位置ずれの原因を鋭意検討し、成形型の搬出入室P1の気体置換を行う際に、搬出入室内の成形型の挙動を分析したところ、搬出入室からの急激な排気により成形型内の成形素材が移動し、又は、成形型自身が振動して内部の成形素材の位置ずれを生じていることがわかった。さらに、排気によって支持台上で成形型が傾き、これによっても成形素材の位置ずれを生じていることが判明した。
【0014】
本発明は、上記知見にもとづいてなされたもので、気密室の減圧時における成形素材の位置ずれを防ぐことによって、偏肉のない成形体を製造することのできるモールドプレス成形装置及び成形体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため本発明のモールドプレス成形装置は、成形素材を収容した成形型に、プレス圧を印加してプレス成形するモールドプレス成形装置において、気密性を保持した状態で、前記成形型が配置される少なくとも一つの気密室と、この気密室に連結した減圧手段とを有し、この減圧手段が、減圧途中における減圧速度を変化させる構成としてある。
また、本発明装置は、加熱室、プレス室、冷却室を含む複数の処理部のうち、少なくともいずれか一つの処理部を収容したチャンバーと、前記複数の処理部間において前記成形型を順次移送する移送手段と、前記成形型を前記チャンバーに搬入する搬入室とを有し、前記搬入室を前記気密室とした構成としてある。
【0016】
このようにすると、気密室(搬出入室)を減圧するために排気が行われても、減圧速度を変化させることにより、成形型内において成形素材が位置ずれを起こすことがなく、成形体に偏肉を生じない。
【0017】
また、本発明装置は、前記減圧手段が、前記搬出入室内のガスを排気するポンプと、前記気密室と前記ポンプを連結する排気路と、この排気路に並列に設けられた複数のバルブと、これらバルブの開閉を制御する制御部とを有する構成としてある。
このようにすると、複数のバルブの開閉を制御することによって、最初はゆっくりと排気し、続いて排気能力を増強させることにより減圧速度を段階的に変化させることができる。
なお、一つのバルブの開度を調整して排気量を制御することにより、減圧速度を変化させることもできる。
【0018】
上記目的を達成するため本発明の成形体の製造方法は、上型、下型、及び胴型を含む成形型に成形素材を収容し、成形素材が軟化した状態でプレス成形することにより成形体を製造する成形体の製造方法において、前記プレス成形に先立ち、成形素材を収容した成形型を気密室内に配置するとともに、前記気密室内を減圧する工程と、加熱部、プレス部、冷却部を含む複数の処理部のうち、少なくともいずれかの処理部を収容したチャンバーへ、前記気密室から前記成形型を搬入する工程とを有し、かつ、前記減圧工程における減圧速度を変化させる方法としてある。
このように、段階的に減圧すると、気密室を減圧するために排気が行われても、成形型内において成形素材が位置ずれを起こすことがなく、成形体に偏肉を生じることがない。
【0019】
本発明方法は、前記減圧工程における減圧速度の変化として、減圧速度を上昇させるようにしている。具体的には、気密室の前記減圧工程が、初期減圧と、初期減圧後に減圧速度を上昇させる二次減圧とを有し、前記初期減圧によって気密室の気圧が2000Pa以下となったときに、二次減圧を行う方法としてある。
本発明によれば、初期減圧では成形型内の成形素材がずれないように排気を行うとともに、気密室の気圧が2000Pa以下となって成形素材の位置ずれを生じるおそれがなくなった段階からは、速度を増加して効率的に減圧することができる。
【0020】
また、本発明方法は、前記成形型として、筒状の胴型と、この胴型の上部及び下部にそれぞれに係入する上型及び下型を有し、前記胴型には前記上型及び下型の成形空間と連通する少なくとも一つの通気孔を有するものを用いている。
本発明によれば、胴型に通気孔を有し、プレス形成時に成形型内の排気を容易に行うことができる成形型においても、位置ずれを生じることなく急速に排気を行うことができる。
【0021】
また、本発明方法は、前記気密室内において、前記成形型を、前記移送手段に設けられた支持台上に載置している。
本発明によれば、支持台に対する成形型の載置及び取り出しを容易に行うために、成形型を支持台上に載置してあるだけの場合であっても、減圧の際に成形型が、落下や振動あるいは傾いたりして、成形型内の成形素材の位置ずれを生じることがない。
【0022】
本発明方法は、二次減圧後、前記プレス成形を行うチャンバー内のガスを前記気密室内へ導入する方法としてある。
本発明によれば、排気した搬入室内へ、チャンバー内のガスを任意の速度で供給することができ、ガス置換を円滑に行うことができる。また、付加的な非酸化性ガスの供給源を必要としない。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、気密室(成形型の搬入室)の減圧時に、成形型内における成形素材の位置ずれを防止することができるので、成形体に偏肉を生じることがない。また、成形サイクルタイムを延長せずに、効率的に気密室の気体置換が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態について、図面を参照して説明する。
本発明のモールドプレス成形装置にかかる実施形態においては、チャンバー、及びチャンバー内の各処理室などの構成は、図1に示す特許文献1のものと同様の構成となっている。
すなわち、チャンバー1と、チャンバー1の上部に配置された搬出入室P1と、チャンバー1内に、周方向に並べて配置された複数の処理室(第一加熱室P2,第二加熱室P3,均熱室P4,プレス室P5,第一徐冷室P6,第二徐冷室P7,急冷室P8)を有している。チャンバー1内、すなわち各処理室(処理部)P2〜P8は、常時、非酸化性ガスの雰囲気下にあり、成形素材(被成形ガラス)の入った成形型4が回転テーブル2の支持台3に載置され、各処理室P2〜P8を順次移送されるように形成されている。各処理室P2〜P8は、図示の如くシャッターS1〜S6によって区画されている(均熱室P4とプレス室P5の間には設けてない)。
【0025】
成形型4は、図3に示すように下型41、上型42及び円筒状の胴型43からなっている。そして、胴型43には通気孔43a,43bが設けてある。通気孔43aは、上型42と下型41の成形空間と胴型43の外側を貫通するように、胴型43の周方向ほぼ同じ高さ位置に、一又は複数(2〜6個が好ましい)設けてある。また、通気孔43bは、上型42の移動空間と胴型43の外側を貫通するように胴型43の周方向ほぼ同じ高さ位置に、複数設けてある。
これらは、主としてプレス成形時に内部の気体を成形型外に逃がす役割を担うが、搬出入室P1の気体置換の際には成形型4内においても気体置換が行われるように寄与する。本実施形態では、成形素材を内部に収容した成形型4を、搬出入(気密)室P1において支持台3上に載置し、その上で搬出入室P1の気体置換(大気を排気し、非酸化性ガスを充填する)を行う。
【0026】
また、本実施形態のモールドプレス成形装置では、図4に示すように、成形型の搬出入室P1と連結している排気路7を並列路とし、それぞれの排気路にバルブ11,12を設けてある。排気路7には、十分な排気能力を有する排気手段、例えばロータリポンプ13及び/又はメカニカルブースタポンプ14を連結してあるが、必要に応じて排気経路を可変絞り手段15によって絞ることにより、排気能力を適切な範囲に制限することが可能である。
本実施形態においては、少なくとも、搬出入室P1と連結している排気路7と、それぞれの排気路に設けてあるバルブ11,12と、ロータリポンプ13及び/又はメカニカルブースタポンプ14からなる排気手段、及び後述する制御部によって、減圧手段を構成している。
例えば、2000Paまでは10000cm/秒の能力を有するロータリポンプ(油回転真空ポンプ)13を用い、2000Pa以下に減圧する際は、ロータリポンプを稼動させた状態で77000cm/秒の能力を有するメカニカルブースタポンプ14を併用することができる。ここで用いるメカニカルブースタポンプとは、ドライポンプ、ロータリポンプ、水封ポンプなどと組み合わせて使用することにより、減圧速度を上げることができる、補助排気ポンプである。
【0027】
なお、気体置換のために排気を必要とするのは、成形型4をチャンバー1の内部に搬入する場合であるので、成形型4の搬入と搬出をそれぞれ別個の室で行わせるときには、少なくとも搬入室における減圧(排気)を行えばよい。
【0028】
さらに、本実施形態のモールドプレス成形装置では、図4に示すように、前記複数の処理室を有するチャンバー1と前記搬出入室P1との間に、バルブ17及び可変絞り18を設けたガス通路を接続した構成としてある。
制御部16は、排気路7に設けてあるバルブ11,12、排気手段としてのロータリポンプ13及び/又はメカニカルブースタポンプ14、排気経路の開度を調整する可変絞り手段15、及び、バルブ17などの作動を制御する。
また、チャンバー1には、バルブ20を介して非酸化ガス供給源19から窒素ガス等の非酸化ガスが供給されるようになっている。
【0029】
つぎに、上記装置を用いて行う減圧動作の例を説明するが、まず、成形型4内で成形素材の位置ずれが起きる理由を説明する。
大気圧に近い範囲での粗引き時には、急激な減圧を行うと、搬出入室P1内で気流が発生する。このため、胴型43に貫設してある通気孔43a、43bからの排気にアンバランスが生じ成形型4内の成形素材が移動してしまう。また、急激な減圧によって、支持台3上において成形型4が振動したり、傾いたりして成形型4内の成形素材が位置ずれを起こす。
成形素材は、下型41と上型42によって軽く挟まれた状態にあるので、一度位置ずれを起こすと元に戻りにくい。このため、一度位置ずれが起きると、その後のプレス成形工程において、成形素材の位置がずれたままの状態で成形が行われるため、偏肉した成形体が成形されてしまう。
【0030】
そこで、本実施形態においては、排気に際し、初期排気及びそれに次ぐ二次排気を行う。これを図5のグラフに示す。図5のグラフに示すとおり、減圧速度(大気圧の搬出入室P1を減圧していったときの単位時間あたりの圧力差)は気圧が下がるとともに小さくなる。初期排気の減圧速度は、搬出入室P1の体積、形状、成形型4の配置位置等を考慮し、排気の初期状態のとき(減圧速度が最も大きいとき)に搬出入室P1に気流を生じないような範囲、すなわち、成形型4が傾いたり、成形型4内の成形素材が移動しない範囲に選択する。これによって成形型4内に収容された成形素材の位置ずれを抑止する。
【0031】
排気を開始し、搬出入室P1内の気圧が下がると排気速度は低下するため、十分な排気(例えば、搬出入室P1内の気圧を100Pa以下、好ましくは10Pa以下)を行うには、相当の長時間を要する。これは、成形工程全体のサイクルタイムに影響し、好ましくない。したがって、成形素材の位置ずれを抑止する範囲で選択した初期排気の能力によって、所望の気圧まで減圧を行うことは、好ましくない。
そこで、本実施形態では、搬出入室P1内が、2000Pa以下に減圧されたとき、減圧速度を上昇(二次排気)させる。例えば、二次排気時に、初期排気時よりも排気手段13,14の運転を増強したり、あるいは、補助的な排気手段を併用して排気能力を高めることにより、減圧速度の低下を効果的に抑止する。すなわち、低下している減圧速度を、上記手段によって所定の減圧速度まで回復させることができ、排気効率に寄与するのである。
本実施形態では、初期排気にロータリポンプ13を用い、二次排気にはメカニカルブースタポンプ14を併用している。また、同実施形態では、初期排気にあたっては、可変絞り手段15によってロータリポンプ13の能力を制限して、適切な範囲を選択している。
【0032】
なお、バルブ11,12は、制御部16からの信号によって開閉制御が行われる。具体的には、初期排気によって搬出入室P1内の気圧が2000Paになるまではバルブ11を開状態、バルブ12を閉状態にしておき、2000Pa以下になるとバルブ12も開状態とする。
【0033】
このように搬出入室P1から排気を行い、気圧が2000Pa以下、好ましくは1000Pa以下になれば、減圧速度(排気)を増加させても、成形素材の位置ずれは生じない。
したがって、搬出入室P1における気圧を図示しないセンサで測定することにより、初期排気で搬出入室P1の気圧が2000Paになったことを検知したときは、制御部16からの信号でバルブ12を開状態にするとともに、メカニカルブースタポンプ14を作動させて二次排気を開始する。
二次排気を開始した時点で、図5に示すように、減圧速度は、初期排気による減圧速度の延長線上から離れ、減圧速度を増大させる。すなわち、減圧速度のカーブに屈曲点が生じている。この場合も、搬出入室P1内の気圧が下がると減圧速度は漸次低下するので、成形時の所要時間を過大にしないよう、十分な排気能力をもつ排気手段を用いることが好ましい。
【0034】
このように、本実施形態によれば、排気の初期段階において、排気手段の排気能力を選択し、減圧速度を一定範囲とすることで、上記の弊害を除いている。そして、生産サイクルタイムの短縮を図るため、一定範囲(2000Pa以下)にまで減圧がなされたのちは、減圧速度を増加させる時点を設けている。したがって、量産効率を阻害せずに、偏肉を回避できるため、非常に有利である。
【0035】
なお、上記実施形態では、二段階の排気を行ったが、到達すべき気圧と、所要時間を考慮し、それ以上の多段階による排気を行ってもよい。この場合、例えば、排気路7を段階数に応じた並列路とし、それぞれの排気路にバルブを配置することによって実現することができる。
また、上記実施形態では、気密室を成形型の取り出しと取り入れを行う搬出入室として説明したが、取入れ室と取出し室を別個に形成してあるタイプのものにおいては、取入れ室及び取出し室に本発明を適用してもよいことは勿論である。
さらに、上記実施形態では、処理室として、第一加熱室、第二加熱室、均熱室、プレス室、第一徐冷室、第二徐冷室、急冷室を有する構成としてあるが、これら処理室の数はこの態様に限定されない。用いるガラス素材や、成形体の形状に応じて、適宜選択することができる。
【0036】
[第二実施形態]
本発明は、上記した実施形態だけでなく、いろいろな形態のモールドプレス成形装置に具現化することができる。
図6は、本発明の第二実施形態を示すものである。
第二実施形態のプレス成形装置は、チャンバー1を構成する、加熱室P2と、プレス室P5と、徐冷室P6を有する成形装置本体が架台の上に装備されている。そして、加熱室P2の入口側には成形型4の搬入室P1が、また徐冷室P6の出口側には成形型の搬出室P1'が設けてある。
搬入室P1とプレス室P5との間では、ロボット(図示せず)のアーム31が往復動するようになっており、搬出室P1'とプレス室P5との間では、ロボット(図示せず)のアーム37が往復動するようになっている。そして、これらアーム31と37の先端には、それぞれ成形型4の下部(下型41と胴型43の一部)を把持する把持部32,38が形成してある。
なお、第二実施形態において用いられる成形型4は、図示してないが、第一実施形態のものと同様に、下型41、上型42及び円筒状の胴型43からなっており、胴型43には通気孔43a,43bが設けてある。
【0037】
また、搬入室P1と加熱室P2との間には仕切り板33が開閉自在に設けられており、搬出室P1'と徐冷室P6との間には仕切り板36が開閉自在に設けられている。搬入室P1は仕切り板33が閉じると気密状態となり、排気路7からの排気により減圧される。減圧(排気)後、仕切り板33を徐々に開くことによって加熱室P2内のガスを搬入室P1に供給し、ガス置換を行う。
排気路7は、図示してないが、第一実施形態と同様に並列路とし、それぞれの排気路にバルブ11,12を設けてある。並列の排気路7には、十分な排気能力を有する排気手段、例えばロータリポンプ13及び/又はメカニカルブースタポンプ14を連結してあり、これも第一実施形態のもと同様である。
なお、搬入室P1と加熱室P2には、図示しない開閉扉が設けられている。
【0038】
加熱室P2の上下には、予備加熱用のヒータ34が設けられており、プレス室P5の内部には、ヒータ35が設けられている。また、プレス室P5内には、成形型4を載置し、ヒータ35まで昇降する支持台3と、この支持台3と同軸に対向して昇降自在に設けられ、支持台4上に載置された成形型4の上型42に対し圧力を加えプレス成形を実行するプレス軸9bを有している。
【0039】
したがって、このような構成からなる成形装置においても、搬入室P1からの排気(減圧)を急激に行うと搬入室P1内に気流が発生し、把持部32に把持されている成形型4が振動したり傾いたりするとともに、胴型43に貫設してある通気孔43aからの排気にアンバランスが生じ成形型4内の成形素材が移動してしまう。
そこで、第二実施形態の成形装置おいても、第一実施形態のものと同様に、減圧を段階的に行うことが好ましい。
【0040】
[実施例]
本発明の第一実施形態にかかるモールドプレス成形装置を用い、球形状に予備成形した光学ガラスを成形素材として、凹メニスカスレンズを成形した。
球形に予備成形したガラスプリフォームを、分解した成形型内にロボット(図示せず)によって供給し、その後成形型を組み立てた。この成形型を搬出入室P1に配置して、気体置換を行った。
排気に際しては、搬出入室P1が大気圧にあるときに、バルブ11を開く(バルブ12は閉状態)とともに、排気能力10000cm/秒のロータリポンプ14によって初期排気を行った。なお、バルブ11を設けてある排気路を、可変絞り手段15によってあらかじめ絞っておき排気の能力を低下させておいた。その結果、平均排気速度は150cm/秒となり、容積900cmの搬出入室P
1内の雰囲気を6秒で排気した。
排気のプロセスとしては、まず、初期排気を開始してから約4秒経過後、搬出入室P1の気圧が2000Pa程度まで減圧された時点で、77000cm/秒の能力をもつメカニカルブースタポンプ13を作動させて上記ロータリポンプ14と併用するとともに、バルブ12を開き、二次排気に切り替えた。この二次排気を約2秒間行うことにより、搬入室P1内の気圧が約10Paまで減圧された。
【0041】
このようにして、トータルで約6秒の間に排気を終了した。このあと、バルブ11、12を閉じるとともに、バルブ17を開くことによって、成形チャンバー1の雰囲気ガスを搬出入室P1に導入した。このときのガスの導入速度も、急激に過ぎると、成形素材の位置ずれを生じる原因となりうるので、バルブ18を適宜絞ることで、成形素材が成形型4内の中央に保持されるようにした。ただし、チャンバー1からのガス導入に際しては、所要時間が極めて短い(導入による増圧速度は、排気時の減圧速度のように低下しない)ため、段階を設ける必要はない。
次いで、搬出入室P1の気体置換後、ピストン5のロッド5aを下降させ、成形型4を載置した支持台3を下降させて回転テーブル2上に配置した。この後、成形型4を載置した支持台3を、順次、第一及び第二加熱室P2,P3、均熱室P4、プレス室P5、第一及び第二冷却室P6,P7に移送しつつ、処理し、連続的に、ガラスモールドプレスレンズを成形した。成形型を10個用い、合計1000個の成形を行ったが、偏肉による形状不良は生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、成形時の偏肉を防止することによって形状精度、面精度の高い光学素子(例えば、高精度ガラスレンズなど)の場合に適用される。また、このモールドプレス成形装置を用いた成形体(例えば、光学素子)を製造するときに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかるモールドプレス成形装置の概略平面図である。
【図2】図2は、図1の搬出入室部分の縦断面図である。
【図3】図3(A)(B)は、成形型と成形素材の位置関係及び成形体の状態を示すための成形型の断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態にかかるモールドプレス成形装置の全体を示す概略ブロック図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態にかかるモールドプレス成形装置を用いてガス置換を行ったときの、搬出入室内気圧と時間の関係の一実施例を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の一実施形態にかかるモールドプレス成形装置の概略平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 チャンバー1
2 回転テーブル
3 支持台
4 成形型
41 下型
42 上型
43 胴型
43a、43b 通気孔
6 シール台
7 排気路
8 ベルジャー
11,12,17 バルブ
13,14 排気手段
16 制御部
P1 搬出入(搬入)室
P2,P3 加熱室
P5 プレス成形室
P6,P7 徐冷室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形素材を収容した成形型にプレス圧を印加してプレス成形するモールドプレス成形装置において、
気密性を保持した状態で、前記成形型が配置される少なくとも一つの気密室と、この気密室に連結した減圧手段とを有し、この減圧手段が、減圧途中における減圧速度を変化させることを特徴としたモールドプレス成形装置。
【請求項2】
加熱部、プレス部、冷却部を含む複数の処理部のうち、少なくともいずれかの処理部を収容したチャンバーと、前記複数の処理部間において前記成形型を順次移送する移送手段と、前記成形型を前記チャンバーに搬入する搬入室とを有し、前記搬入室を前記気密室とした請求項1記載のモールドプレス成形装置。
【請求項3】
前記減圧手段が、前記気密室内のガスを排気するポンプと、前記気密室と前記ポンプを連結する排気路と、この排気路に並列に設けられた複数のバルブと、これらバルブの開閉を制御する制御部とを有する請求項1又は2記載のモールドプレス成形装置。
【請求項4】
上型、下型、及び胴型を含む成形型に成形素材を収容し、成形素材が軟化した状態でプレス成形することにより成形体を製造する成形体の製造方法において、
前記プレス成形に先立ち、成形素材を収容した成形型を気密室内に配置するとともに、前記気密室内を減圧する工程と、
加熱部、プレス部、冷却部を含む複数の処理部のうち、少なくともいずれかの処理部を収容したチャンバーへ、前記気密室から前記成形型を搬入する工程とを有し、
かつ、前記減圧工程における減圧速度を変化させることを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項5】
前記減圧工程において、減圧速度を上昇させることを特徴とする請求項4記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
気密室の減圧工程は、初期減圧と、初期減圧後に減圧速度を上昇させる二次減圧とを有し、前記初期減圧によって気密室の気圧が2000Pa以下となったときに、前記二次減圧を行う請求項4又は5記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記成形素材を収容する成形型として、筒状の胴型と、この胴型の上部及び下部にそれぞれに係入する上型及び下型を有し、前記胴型には前記上型及び下型の成形空間と連通する少なくとも一つの通気孔を有する成形型を用いる請求項4〜6のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記気密室内において、前記成形型が支持台上に載置される請求項4〜7のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
二次減圧後、前記チャンバー内のガスを前記気密室内へ導入する請求項4〜8のいずれかに記載の成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−117514(P2006−117514A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272281(P2005−272281)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)