説明

ユーカリ属植物の生産方法

【課題】ユーカリ・グロブルスの植林事業を事業的に投資価値あるものにならしめる技術の開発。
【解決手段】樹齢を同一にしたユーカリ・グロブルスの一斉林を造林し一次検定林とし、これより選抜した優勢樹を挿し木により苗を作製し採穂園を造成しこれからの苗群にて二次検定林を造成し精英樹を選抜し、この精英樹を事業対象の苗とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事業的規模の植林に適したユーカリ属植物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーカリ属植物、特にユーカリ・グロブルスは、高い成長率、優れたパルプ化適性などから、今日パルプ化用のチップ材料として好適との評価を受けている。商業用として事業的規模の植林が行われているが、成長率やパルプ化適性に優れた精英樹を得ることが必要とされている。精英樹とは、事業的規模の植林という目的に合う成長が期待できる遺伝子を有したユーカリ属植物の特定の個体のことをいう。従来一般的である種子を使用した植林方法では、遺伝子の有する本質的なばらつきにより、成長率やパルプ化適性において期待の効果が得られず、ユーカリ・グロブルス本来の植林効果を得ることが困難であった。種子による植林方法で精英樹を増産しようとすると、種子の交配や純系種の選抜によって精英樹を決定する。この方法では、種子採取に最低10年の期間を要する上に、純系種の確認作業に更なる期間を要するため、事業的規模の植林には不向きである。そのため、精英樹を選抜し、この精英樹のクローン苗を生産して商業植林に利用する方法が行われている。
【0003】
精英樹を選抜する方法として、野生林や種子林からの精英樹の集団選抜といった統計的な手法が実施されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、ユーカリ属植物は、オーストラリア原産でその種600以上といわれる大品種群である。複数の品種が混在している野生林から精英樹を選抜することは著しく非効率であった。また、種子林からの選抜であっても、土壌、土地の緩急斜面の影響、病害虫の影響といった植林地の環境による成長のばらつきがあるため、種子林から選抜した精英樹を増殖させても、成長率やパルプ化適性に優れた個体となるとは限らないのが現状である。
【0004】
また、精英樹選抜後のクローン苗の生産方法としては、挿し木法、接ぎ木法、取り木法、組織培養などの方法がある。組織培養によるクローン苗の生産方法としては、例えば、ユーカリ属植物の各器官を無菌的に培養することにより得られた多芽体から得られた茎葉を、無機塩類等を含む人工液体培地で湿潤させた多孔性培地支持体に移植し、非無菌状態で照明下、湿度及び炭酸ガス存在下にて発根・順化を行うことを特徴とするユーカリ属植物クローン苗の大量生産方法がある(例えば、特許文献1〜5)。しかし、この組織培養法は、研究的な立場からのクローン苗生産技術であり、特殊な生産用設備や高度な技術が必要となるため、商業的に合理的なクローン苗の生産方法とはいえないものである。
【0005】
操作が簡便で、かつ商業的に合理的なクローン苗の生産方法として、挿し木法が多く研究されている。挿し木法では、ブラジル・欧州・東南アジアではユーカリ属植物及びアカシア属植物の挿し木苗が事業的に植林されている。ユーカリ属植物の挿し木法では、根本で伐木し、この伐根から成長してくる萌芽で挿し木を行う方法が一般的である。つまり、台切りなどによって切り株から萌芽した枝から、1〜4節、2〜8枚の葉を含む穂木を切り出し、一般的には葉の一部を切除して挿し穂を調製する。挿し穂は、殺菌剤溶液に浸漬したのち、基部に発根促進剤であるインドール酪酸などのホルモン粉剤をつけるかあるいはホルモン溶液に基部を浸す。その後、挿しつけ穴を開けた挿し木培土に挿し穂を挿し付ける。挿し木培土には、バーク、砂、木屑、ピートモス、バーミキュライト、パーライトなどとその混合物などの適度な透水性と保水性を有する素材が用いられる。この際、培土の通気と保湿のバランスが発根の成否を左右する。特に、ユーカリ属植物の中でも、ユーカリ・グロブルスは発根の成功率が低く、クローン苗の大量生産には不向きな種として知られている。従来は、ミストスプレー、細霧、プラスチックシートなどでの覆い、日覆、ボトムヒートなどの技法が組み合わされて用いられ、発根のために必要な温度、湿度、空気の循環を適正化して、発根を促す方法がとられていた(例えば、非特許文献2)。
【0006】
また、発根を促すために、オーキシン類含有溶液またはタルク希釈のオーキシン類含有粉体で処理した挿し穂を高湿度下で発根させる挿し木法が提案されている。しかし、高湿度を得るためには、ミストスプレー、加湿器などの技法が必要となるために、商業的に合理的な生産方法とはいえない。また、水を培地にして挿し木によりクローン苗を生産する方法が提案されている(例えば、特許文献6)
【0007】
さらに、ユーカリ属植物又はアカシア属植物の挿し穂を採取する採穂母樹を、予め植物成長調節剤であるパクロブトラゾール或いはそれに類縁するジベレリン生合成経路の阻害剤により処理して発根能力を促しておき、これから得られた挿し穂を挿し木培土に挿し付けて育成することにより、挿し穂を採取した後に植物成長調節剤で処理しなくても十分発根が行われるように挿し穂の生理状態を予め改変しておき、従来の挿し木技術を用いても生産が困難とされていたユーカリ属植物及びアカシア属植物の樹種・系統の挿し木苗生産を可能に、安価なクローン苗を大量に生産する技術が開示されている。しかし、この方法では、ジベレリン本来の矮性化が促進され肝心の母樹の樹勢がそがれ健全な挿し穂用の枝葉が病弱となり、かつ枝葉の繁茂が極端に衰えてしまい増殖の目的が達成できない(例えば、特許文献7)。
【0008】
以上に記したような精英樹の選抜方法、クローン苗の生産方法の技術群では商業的に合理的な植林に耐えるユーカリ属植物の生産は不可能である。
【非特許文献1】文永堂出版「林木育種学」大庭喜八郎著、1〜156頁
【非特許文献2】Eucalyptus Domestication and Breeding (Oxford University Press Inc.,New York,1993.) 、237−246頁
【特許文献1】特開平8−252038号公報
【特許文献2】特開平6−133657号公報
【特許文献3】特開平7−31309号公報
【特許文献4】特開平8−228621号公報
【特許文献5】特開平9−172892号公報
【特許文献6】特開平6−98630号公報
【特許文献7】特開2001−231355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、商業的植林に適した高い成長率、優れたパルプ化適性を維持したユーカリ属植物を生産する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明により解決することができる。
(1)(a)樹齢が同一であるユーカリ属植物の一斉林を造成して一次検定林とする工程、(b)該一次検定林より優勢樹を選抜する工程、(c)優勢樹から挿し穂を採取する工程、(d)優勢樹の挿し穂から挿し木法によりクローン苗を作製する工程、(e)該優勢樹のクローン苗を利用して二次検定林を造成する工程、(f)二次検定林から精英樹を選抜する工程、(g)該精英樹から挿し穂を採取する工程、(h)該精英樹の挿し穂から挿し木法によりクローン苗を作製する工程、(i)該精英樹のクローン苗を利用して植林地を造成する工程、を含むユーカリ属植物の生産方法。
(2)(c)工程が、(c1)遮光率40〜60%の密閉式発根温室内で挿し穂から発根させる工程を含むことを特徴とする上記(1)記載のユーカリ属植物の生産方法。
(3)(j)工程が、(h)工程で得られた精英樹のクローン苗から母樹を生産して採穂園を造林し、該母樹から採取した挿し穂から挿し木法によって得られたクローン苗を利用して、さらに採穂園及び/又は植林地を造成する工程を含む上記(1)に記載のユーカリ属植物の生産方法。
(4)(j)工程において、採穂園の母樹の樹齢が1〜3年である上記(3)記載のユーカリ属植物の生産方法。
(5)(f)工程において、樹齢が5〜8年である二次検定林から精英樹を選抜する上記(1)記載のユーカリ属植物の生産方法。
【発明の効果】
【0011】
商業的な植林に耐えるユーカリ属植物の生産方法は、まず、植林事業として投資価値のある高い成長率、優れたパルプ化適性等を有する高成長の材を産生する遺伝子を有する苗をクローン化し、これを大量増殖することによって初めて達成することができる。この為には、この目的を達成する遺伝子を有する精英樹を選抜することと、それを商業的に見合うコストで大量増殖して、これをもとに植林を事業化することが必要である。本発明は、高成長の材を産生する遺伝子を有する精英樹の選抜方法と、そのクローン苗を商業的に大量増殖させる方法との総合的な技術を提供したものである。
【0012】
本発明のユーカリ属植物の生産方法(1)の第1の効果は、短期間で高い確率で精英樹を選抜できることである。本発明では、(a)樹齢が同一であるユーカリ属植物の一斉林を造成して一次検定林とする工程、(b)該一次検定林より優勢樹を選抜する工程、(c)優勢樹から挿し穂を採取する工程、(d)優勢樹の挿し穂から挿し木法によりクローン苗を作製する工程、(e)該優勢樹のクローン苗を利用して二次検定林を造成する工程、(f)二次検定林から精英樹を選抜する工程を経て精英樹を選抜する。従来行われていた野生から優勢樹を探索し、これを検定林にて検定し遺伝形質を確定する方法では、樹齢の差によって正確に優勢樹を選抜することができないばかりでなく、600種あるといわれるユーカリ属植物群から野生の優勢樹を選抜することは著しく非効率で不可能に近い。本発明では、樹齢が同一である一斉林の植林地から優勢樹を選抜することによって、樹齢によるばらつきを無視することができる。
【0013】
また、同一樹齢の一斉林から精英樹を選抜しても、その優勢樹から作製したクローン苗を植林すると、その植林地環境によって成長にはばらつきがあることを本発明者は初めて確認した。つまり、同一樹齢の一斉林から選抜した高成長樹木つまり優勢樹が必ずしも精英樹とは限らない。このことから、一次検定林、つまり最初に実生で植林した同一樹齢の一斉林から選抜した優勢樹から得られたクローン苗を利用して、さらに二次検定林を造成し、この二次検定林から精英樹を選抜することによって、精英樹を正確に生産することができることを見出した。
【0014】
本発明のユーカリ属植物の生産方法(1)の第2の効果は、精英樹の選抜およびそのクローン苗を利用したユーカリ属植物の生産が短期間で行えることである。一般的な育種である種子の交配や純系種の選抜などによって精英樹を決定する場合、には、結果として10年以上の超長期の時間が必要であったが、本願発明の樹齢同一のユーカリ・グロブルスの一斉林を造成して一次検定林とし、これより選抜した優勢樹をもとに挿し木によりクローン苗を作製し、さらにこのクローン苗から二次検定林を造成し精英樹を選抜する方法では、樹齢同一の一斉林の造成から二次検定林における精英樹の選抜まで、短期間で行うことができるため、事業的な植林に適した植林方法といえる。
【0015】
本発明のユーカリ属植物の生産方法(2)の効果は、挿し木法において、簡易な手段で発根率を高めたことである。すなわち、(c)工程において、(c1)遮光率40〜60%の密閉式発根温室内で挿し穂から発根させる工程を含むことで、発根の成功率が低いユーカリ・グロブルス種等のユーカリ属植物であっても、高い発根率を得ることができる。この方法では、遮光を調整しただけで、温度および湿度の両方のファクタをユーカリ属植物の発根に最適な範囲に管理可能とすることができ、発根率を劇的に上昇させることが可能となる。
【0016】
本発明のユーカリ属植物の生産方法(3)及び(4)の効果は、精英樹クローンを永年保持して、精英樹の増殖の基盤を保持して事業的植林を永続可能とすることである。一般的に、採穂園造成という手法で行うが、ユーカリ・グロブルス種に代表されるユーカリ属植物には、この種特有の課題があり永続的な採穂園の維持は困難であった。つまり、挿し木法により発根を得たクローン苗は、採穂園に定植し大量増殖の基盤とするが、ユーカリ・グロブルス種等では定植した母樹は、繰り返し行われる採穂により樹勢を落とし、挿し木の発根率が著しく低下するため、永続的な維持が困難であった。本発明のユーカリ属植物の生産方法(4)のように、採穂園の挿し穂採取用の母樹の樹齢を3年を限度とし更新することによって、常に良好な発根率が得られた。これによって、大量増殖を常に確実にすることができた。
【0017】
本発明のユーカリ属植物の生産方法(5)は、二次検定林での精英樹の選抜を樹齢5年を最低年として行うものである。植林事業を商業的に可能ならしめるには、時間の制約が重要である。精英樹であることを確認するためには、実際に事業地において植林し、それが精英樹であることを確認する必要があるが、これまでは何年間観察すればよいか、何年間で精英樹であることが確認できるかが理解されていなかった。一次検定林から選抜された優勢樹から得られたクローン苗を利用して造際された二次検定林において、最初の4年間は成長のばらつきが認められて精英樹を決定することができないが、5年以上の育成期間経ることによってその成長性が固定されることが確認された。この現象をもとに、二次検定林において樹齢5年以降では精英樹を正確に選抜することが可能であることが確認された。本発明のユーカリ属植物の生産方法(5)では、短期間で精英樹を決定できるため、この精英樹のクローンを商業的な大規模植林事業に早期に適用することが可能となる。
【0018】
商業的な植林に耐える苗の作製には、植林事業として投資価値のある高成長の材を産生する遺伝子を有する苗をクローン化しこれの大量増殖によって初めて達成することができる。この為にはこの目的を達成する遺伝子を有する精英樹を選抜しそれを商業的に見合うコストで大量増殖しこれをもとに植林を事業化することによって初めて目的が達成できる。本発明では、投資価値のある高成長の材を産生する遺伝子の選抜方法とその苗の商業的な大量増殖する総合的な技術を提供することができる。加えて、このような植林が一般的に普及することにより二酸化炭素固定能力が増加し地球環境温暖化に寄与することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明について詳細に説明する。
(a)樹齢が同一であるユーカリ属植物の一斉林を造成して一次検定林とする工程
本発明では、まず、同一樹齢での一斉林を一次検定林として造成する。まず苗を作製する。市販の種子を利用する。市販の種子は当該地域に一般的に販売されているものであり、これを播種する。一般的に知られている培地は全て適用できる。例えばバーミキュライト、ピートモス、松皮などである。播種後灌水を繰り返すことにより2週間程で発芽するのでこれを略7ヶ月ほど培養し植林可能な山出し苗とする。この間の施肥、灌水は一般的な方法による。
【0020】
作製できた苗を植え付ける。植林地は均一な生育条件が得られるように土壌の分布が均一で平坦な土地を選択する。植え付けに当たって通常の植林効果が得られるように除草、異物除去、耕耘などの地拵えを行う。植え付けは十分な土壌水分が確保される雨期に行う。植え付け後、窒素、燐、カリウムの3要素肥料を施肥する。施肥の時期、量は一般的な植林法に適用される方法でよい。
【0021】
植え付け後の作業は除草のみとする。これは雑草の様子を観察し、適宜実施する。かくして候補木を選抜する同一樹齢での一斉林植林地を一次検定林として造成する。
【0022】
(b)一次検定林より優勢樹を選抜する工程
一次検定林からの優勢樹を選抜する場合の選抜基準としては、胸高直径基準にて行う。胸高直径基準以外にも、一般的な選抜基準として、通直性、分枝性、完満度といった要素も加味する。優勢樹は、胸高直径を基準に周辺の5優勢木と比較することにより、周辺5優勢木より特に秀でているものを選抜する。具体的には、一次検定林である樹齢が同一である山林を検索し、特に太いもの、形の優れたもの、つまり真っ直ぐな幹立ちでねじれのないもの、枝分れの少ないもの、枝はなるべく細く、密にあるもの、根本と末口の幹の直径差の少ないものを選択し、これを候補木とする。
【0023】
次に、その20m周辺にある候補木の次に太いものを5本(=周辺5優勢木)選抜する。この胸高直径を計測し、候補木と周辺5優勢木の平均値を比較し、その乖離の大きいものほどより優れた候補木、つまり優勢樹として位置づける。この作業は、優れた成長性が環境による結果ではなく、その個体固有のものであることを確認するために行う。
【0024】
(c)優勢樹から挿し穂を採取する工程
一次検定林にて選抜した優勢樹の伐採を秋季から春季にかけて行う。伐木は地表より15cm程のところで行う。切断面はフラットに整えておく。その際やや傾きを持たせ、切り株面に雨露が滞留して腐れなどが起きないようにする。加えて、優勢樹の切り株周辺の不要な草木を整理して、日照を確保する。これらの作業は、すべて切り株面の保全、旺盛な萌芽育成のために必要である。以後、春季から夏季の萌芽発生成長を待つ。翌春季の萌芽発生が早くかつ旺盛な挿し穂を得るためには、秋季に伐木したもののほうが好ましいことを、秋季、冬季、春季の3季の伐木実験によって確認した。
【0025】
春になり萌芽が出て来始めたら、これの整理を行う。これは、好ましい挿し穂をより多く採取するために必要な操作である。整理の主眼は徒長の防止である。萌芽してきた主幹枝が略1mになったところで、頂芽を切り落として側枝の繁茂を助ける。挿し穂の採取は、基本的にこの側枝が主となる。側枝は挿し穂に必要な条件を備えているからである。つまり、挿し木には数量が必要だが、側枝ならば相当量が期待できることによる。
【0026】
挿し穂としては、適度なリグニン化を起こした適度な堅さが必要である。伐木からの萌芽、つまり挿し穂材料はユーカリ属植物に特有の葉柄の無い幼形葉である。適度な堅さは、以後2ヶ月に及ぶ発根培養期間中挿し穂を支えるために必要である。一方で堅過ぎるもの、太すぎるものは、成長が進展しすぎており発根には不適である。
【0027】
挿し穂材料として3〜4節の枝葉を切り出す。挿し穂材料を切り出す場合には、その枝葉の健全度、充実度、特に軸の堅さに留意する。この他に軸の太さなども同時に判断し、加えて次回の収穫についても考慮しながら剪定も含めて枝の切り出し作業を行う。特に、発根可能性の高いと見られる根基部になるべく近いものを選定する。採取した枝葉は日照を避け、水分補給、保冷し速やかに移送する。
【0028】
(d)優勢樹の挿し穂から挿し木法によりクローン苗を作製する工程
一次検定林より持ち帰った挿し穂材料は、1節に対葉は半分になるように切除する。挿し穂軸の下部の両面2mmほどを切り開いて、形成層を露出する。このようにして作製した挿し穂は、纏めて1秒ほど殺菌剤にて殺菌する。ついで、挿し穂の挿し軸にホルモンを付与し、順次培地に挿して行く。
【0029】
発根を得るための挿し木後、温度25〜30℃、相対湿度75〜85%にて、日照を1.5〜2ヶ月付与する。この為の温室を発根温室と表記する。発根温室は遮光ネットを用いて日照を調整することが好ましい。日中の環境条件は、常時、人為的に遮光ネットの開閉で調節する。夜間はほぼ外部環境に依存する。遮光ネットの開口率は40〜60%にすると、上記温度湿度の範囲に管理可能である。
【0030】
発根温室内の作業として、対葉の処理がある。挿し穂作製時に付いていた対葉は、発根が開始されて、腋から新芽が伸長してくる時期には、その光合成役割を終了して枯れていく。この枯れた対葉(旧葉)を除去する。挿し木の一般的な成長プロセスは、(i)切削軸部のカルス形成、(ii)発根、(iii)新芽形成−地表部の伸長である。
【0031】
発根温室における発根には、約2ヶ月を要する。発根後、温室より出して、クローン苗を作製する苗化プロセスに移行する。挿し穂後1.5ヶ月を経過したクローン苗は、地表部の高さが約10cmとなる。苗化プロセスでは、施肥と灌水を行いながら、外気馴化と苗撫育を進める。この期間は、総合で約10ヶ月である。この苗化プロセスの期間を、以下に示す3期間に分割して、施肥の内容を変えて苗を育成する。
【0032】
(発根促進期間)挿し木をしてから発根する迄の期間は一切の施肥を行わない。温度・湿度・日照等の環境整備のみである。この間に施肥を行わない理由は、施肥により無用な雑菌が繁殖し、切削部にダメージを与えることを避けるためである。
【0033】
(発芽後出芽期間)発根した上で挿し木は自らの出芽を開始する。この時期に初期の施肥を行う。この間は、更に十分な根の伸長を考慮する上で、燐値の高い肥料(窒素:燐:カリウム=9:45:15)を施す。
【0034】
(母樹と山出し苗培養期間)植物体として完成したら、母樹あるいは山出し苗に仕立て上げるための培養期間を設ける。この期間は葉、幹の生育を充実させるために、窒素値の高い肥料を与えていく。以上で一次検定林よりの挿し木法によるクローン苗が完成する。
【0035】
(e)優勢樹のクローン苗を利用して二次検定林を造成する工程
クローン苗の完成はほぼ冬季末となる。次に、このクローン苗を利用して二次検定林を造成する。
二次検定林の造成においては、通常の事業植林と同様に、クローン苗の植え付け、植栽間隔、施肥、除草などを行う。これらの方法により所定の期間育成を行って、二次検定林とする。検定は一定の期間間隔で成長性を計測し、精英樹決定のデータを得る。
【0036】
成長性の評価は、樹高と胸高直径の両者を計測し、材積を算出して行う。このようにして算出された材積の成長順位はほぼ5年で決定される。この順位は、その後伐期に至るまで変化することはないので、5年までの材積を評価して順位を評価することによって、精英樹の決定が可能である。植林地の立地を変えて同様な植林を行っても、いずれの植林地にても高い順位を獲得するクローンを精英樹として確認及び決定することができる。
【0037】
(f)二次検定林から精英樹を選抜する工程、(g)精英樹から挿し穂を採取する工程、(h)精英樹の挿し穂から挿し木法によりクローン苗を作製する工程
(f)工程は、(b)に準じて行い、精英樹を選抜する。また、この精英樹から挿し穂を採取する工程は(c)工程と、精英樹の挿し穂からクローン苗を作製する工程は(d)工程と同様の方法で行う。
【0038】
(i)精英樹のクローン苗を利用して植林地を造成する工程
精英樹のクローン苗を所定の植林地に定植して成長させる。二次検定林を経て精英樹を選抜した場合、植林地の環境に左右されずに、高い成長率、パルプ化適性を有するユーカリ属植物を生産することができる。
【0039】
(j)工程:(h)工程で得られた精英樹のクローン苗から母樹を生産して採穂園を造林し、該母樹から採取した挿し穂から挿し木法によって得られたクローン苗を利用して、さらに採穂園及び/又は植林地を造成する工程
(h)工程で得られた精英樹のクローン苗は、(i)工程以外に、採穂園に定植する。採穂園の管理運用が継続的な精英樹クローン苗生産の鍵となる。上記のように、挿し木作業は夏季に行われるため、これらを発根させて苗化するためには半年ほどの期間が必要になる。つまり、クローン苗は同年には挿し穂の材料にはならず、これを肥育、成長させる必要がある。これには採穂園、鉢植えなどへの定植が必要で、これを冬季間に実施する。採穂園には、約70cm前後の間隔でクローン苗を定植する。定植後は灌水施肥を行う。灌水は気象を観察しながら、地表の乾燥工合をみて行う。施肥は苗の生長工合を観察しながら、窒素、燐、カリウムの3大肥料を調節して散布する。かくして、精英樹のクローン苗は採穂園定植により肥大育成され、翌年の夏季には枝の繁茂、育成が完成する。定植後更に1年撫育したものを母樹として使用する。この1年間の撫育により樹体は十分大きくなり採穂に耐える大きさになるため、採穂を開始する。この母樹の新枝を翌年の挿し穂材料として利用する。切削方法、発根方法など挿し木の手法は前記したと同様である。この材料は十分な発根能力を有しており、挿し木材料として好適なものである。更に、一度挿し穂を採取した母樹は撫育を行えば、翌年も挿し穂を得ることが可能である。しかし、逐次樹勢が衰え撫育を継続しても、そこから得られた枝葉は発根能力が衰え挿し穂の材料としては不適である。この母樹は所定の期間利用した後は新たなクローン苗にて更新するようにする。母樹の樹齢は1〜3年であることが挿し穂の発根能力を維持するために好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0041】
まずユーカリ・グロブルスの苗を作製する。作製に当たっては、市販の種子を播種する。一般的に知られている培地は全て適用できる。例えばバーミキュライト、ピートモス、松皮などである。播種後灌水を繰り返すことにより2週間程で発芽するのでこれを略7ヶ月ほど培養し植林可能な山出し苗とする。この間の施肥、灌水は一般的な方法による。次に作製できた苗を、土壌の分布が均一で平坦な土地に植え付ける。植え付けに当たって通常の植林効果が得られるように除草、異物除去、耕耘などの地拵えを行う。植え付けは十分な土壌水分が確保される雨期に行う。植え付け後、窒素、燐、カリウムの3要素肥料を施肥する。施肥の時期、量は一般的な植林法に適用される方法でよい。
植え付け後の作業は除草のみとなるが、場合により除菌、除虫などの作業も付加的に行われる。雑草の様子を観察し、適宜実施する。かくして候補木を選抜する同一樹齢での一斉林植林地を一次検定林として造成する。
【0042】
以上のようにして造成した一次検定林、つまり樹齢の等しいユーカリ・グロブルス一斉林より採取した優勢樹を選抜し、これを台切りし、そこから得られた萌芽を材料とした優勢樹のクローン苗により、二次検定林を造成した。表1は、この二次検定林に定植された3種のクローンの12年撫育育成後の成長比較である。
【0043】
非選抜種子苗に対する材積倍率とは以下のように説明される。つまり、二次検定林の造成に当たっては、市販の種子から作製したユーカリ・グロブルス実生苗と、一次検定林より作製した優勢樹からの3種のクローン苗とを12年撫育し、その材積を比較した。また、異なる植林地にて植林して、再現する結果であるかどうかも観た。比較は同時に植林した通常の実生苗の材積を1とした場合の各クローンの比率で表現している。表1からクローンNo1は異なる植林地のいずれでも通常の実生苗に比較してほぼ2倍前後の成長を示すことが理解できる。しかし、クローンNo3は通常の実生苗と比較して同等の成長しか示していない。一次検定林の優勢樹のクローン苗では全てが高い成長率を示すとはいえなかった。
【0044】
【表1】

【0045】
一次検定林の優勢樹の挿し穂から挿し木法によってクローン苗を作製するには、まず母樹より切り出した枝葉は1節に、対葉は半分に切除する。挿し穂軸の下部の両面2mm程切り開き形成層を露出する。このようにして作製した挿し穂は纏めて1秒ほど殺菌剤にて殺菌する。ついで挿し穂の挿し軸にホルモンを付着添加して順次挿して行く。96穴のスタイロブロックを使用し、挿し木の培地としてはピートモスとバーミキュライトの2種等量混合とした。これらの培地は挿し木に先だって十分灌水を施しておく。挿し木時添付する発根促進ホルモンにはインドール酪酸8000ppm混合したタルクパウダーを使用した。
【0046】
発根を得るために挿し木後、温度25度、相対湿度85%にて所望の日照を1.5〜2ヶ月付与する。この為にビニールハウスを発根温室とした。この温室の上部には、開閉式の遮光ネットを設置する。日中の環境条件は常時、人為的に遮光ネットの開閉で調節する。夜間はほぼ外部環境に依存する。このようにしてほぼ1.5ヶ月温室下で挿し木の管理を行った。この発根温室に設置した遮光ネットの開口率を0%〜100%(無蓋)まで変えて発根率への効果を調査した。この結果0,100%では温度、湿度の管理が不可能で挿し木発根を得ることができなかった。20%、80%では温度、湿度の調節結果の振れが大きすぎ発根は得られるものの不十分な結果であり、事業的な発根装置としては利用できないことが分かった。40%、60%の開口率での結果は十分な発根率で事業用の発根装置として適切なことが理解できた。この結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
一次検定林で選抜した候補木から作製したクローン苗から二次検定林を造成した。検定は一定の期間間隔で材積成長量を計測し、精英樹決定のデータを得た。表3は5クローンの各年毎の成長の様子を示している。各々のクローン苗において樹齢4年目まではその材積成長順位は変動するが、5年目以降の順位は固定されて順位の変動がない。つまり5年目の結果を観察することにより、より高成長のクローン、つまり精英樹の決定を行える。
【0049】
【表3】

【0050】
精英樹のクローン苗により採穂園を造成した。採穂園にはほぼ70cm前後の間隔で苗の定植を行う。定植後は灌水施肥を行う。灌水は気象を観察しながら地表の乾燥工合をみて行う。施肥は苗の生長工合を観察しながら窒素、燐、カリウムの3大肥料を調節して散布する。このようにして定植後更に1年撫育したものを母樹として使用する。この1年間の撫育により樹体は十分大きくなり採穂に耐える大きさになるため採穂を開始する。挿し木の時期は枝葉が十分に伸張した盛夏に行う。挿し木の方法は前記した。以降この母樹から各年挿し木を行いその発根率において表4のような結果を得た。母樹の樹齢が上がるに従って発根率は低減し4年以降からは事業的な増殖に耐える発根率を下回るようになる。このことから母樹は3年毎に更新することにより常に十分な発根率を確保することができることを確認した。
【0051】
【表4】

【0052】
以上の結果から、一次検定林の造成から精英樹のクローン苗からの植林地の造成までには10年も必要とせず、従来の種子を利用した植林地の造成によって精英樹を増殖する生産方法よりも短期間で、ユーカリ属植物の精英樹を生産することができた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
商業的な植林に耐える苗の作製には、まず、植林事業として投資価値のある高成長で高品質の材を産生する遺伝子を有する苗をクローン化しこれの大量増殖によって初めて達成することができる。この為にはこの目的を達成する遺伝子を有する精英樹を選抜することとその商業的に見合うコストで大量増殖しこれをもとに植林を事業化することによって初めて目的が達成できる。本発明では投資価値のある高成長で高品質の材を産生する遺伝子の選抜方法とその苗の商業的な大量増殖する総合的な技術を提供することができる。本発明はこのような商業的な事業として行う植林分野に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)樹齢が同一であるユーカリ属植物の一斉林を造成して一次検定林とする工程、(b)該一次検定林より優勢樹を選抜する工程、(c)優勢樹から挿し穂を採取する工程、(d)優勢樹の挿し穂から挿し木法によりクローン苗を作製する工程、(e)該優勢樹のクローン苗を利用して二次検定林を造成する工程、(f)二次検定林から精英樹を選抜する工程、(g)該精英樹から挿し穂を採取する工程、(h)該精英樹の挿し穂から挿し木法によりクローン苗を作製する工程、(i)該精英樹のクローン苗を利用して植林地を造成する工程、を含むユーカリ属植物の生産方法。
【請求項2】
(c)工程が、(c1)遮光率40〜60%の密閉式発根温室内で挿し穂から発根させる工程を含むことを特徴とする請求項1記載のユーカリ属植物の生産方法。
【請求項3】
(j)工程が、(h)工程で得られた精英樹のクローン苗から母樹を生産して採穂園を造林し、該母樹から採取した挿し穂から挿し木法によって得られたクローン苗を利用して、さらに採穂園及び/又は植林地を造成する工程を含む請求項1に記載のユーカリ属植物の生産方法。
【請求項4】
(j)工程において、採穂園の母樹の樹齢が1〜3年である請求項3記載のユーカリ属植物の生産方法。
【請求項5】
(f)工程において、樹齢が5〜8年である二次検定林から精英樹を選抜する請求項1記載のユーカリ属植物の生産方法。