説明

ヨウ化水素製造方法およびヨウ化水素製造装置

【課題】 ヨウ化水素生成反応において水に対する二酸化硫黄の溶解度を向上させることにより、二酸化硫黄のヨウ化水素あるいは硫酸への転化率を高め、高濃度のヨウ化水素水溶液を得る。
【解決手段】 このヨウ化水素製造方法では、ヨウ素を含む水溶液と二酸化硫黄とを加圧下(ゲージ圧で0.1MPa以上)で反応させてヨウ化水素水溶液と硫酸を生成する。また、二酸化硫黄を水に加圧下で添加して二酸化硫黄または亜硫酸を含む第1の水溶液を生成し、ヨウ素を含む第2の水溶液と第1の水溶液とを加圧下で混合することにより硫酸とヨウ化水素水溶液を生成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱化学分解法(IS法)を利用した水素製造法におけるヨウ化水素製造方法およびそのための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスである二酸化炭素(CO)の排出を抑えた燃料として水素を用いることが注目されている。そして、この水素の製造方法の一つとして、IS法(Iodine-Sulfur Method)が知られている(特許文献1〜4など参照)。
【0003】
IS法の主要な反応は反応式(1)〜(3)に示す3つの反応から成り立っている。まず水とヨウ素と二酸化硫黄を70〜100℃において反応させて、水素の原料であるヨウ化水素を生成する。このときに硫酸も同時に生成するが、ヨウ素をヨウ化水素の物質量の約2〜3倍量使用して、生成したヨウ化水素を抽出することでヨウ化水素と硫酸を分離する。2番目の工程として、ヨウ化水素を400℃で熱分解し、目的の水素を得る。3番目の工程では、硫酸を900℃の高温で熱分解して二酸化硫黄に戻す。ヨウ素はヨウ化水素の熱分解で得られるので、二酸化硫黄とともに再利用する。IS法は、二酸化硫黄とヨウ素と熱エネルギーを用いて水を水素と酸素に分解するもので、熱化学分解法とも呼ばれている。
【0004】
+ SO +2HO → 2HI + HSO (1)
2HI → H + I (2)
2HSO → 2SO+ 2HO + O (3)
SO +HO → HSO (4−1)
SO +nHO → SO・nHO (4−2)
反応式(1)のヨウ化水素生成反応はブンゼン(Bunsen)反応とも呼ばれており、ヨウ化水素の生成効率が下流の反応に影響して、水素生成の効率を左右すると言ってもよい。ブンゼン反応で生成したヨウ化水素は過剰なヨウ素を用いて抽出され、その後電気透析あるいは蒸留などにより濃縮して、共沸組成を超える高濃度のヨウ化水素水溶液をつくる。共沸組成を超えたヨウ化水素水溶液は蒸留することにより容易にヨウ化水素ガスを取り出すことができる。
【0005】
ヨウ化水素ガスは、反応式(2)のヨウ化水素の分解により水素とヨウ素に分解される。ヨウ化水素の分解反応(ボーデンスタイン(Bodenstein)の反応)は均一気相反応である。ヨウ化水素分解反応は、400℃近傍において水素とヨウ素に解離し、ヨウ化水素、水素およびヨウ素の混合平衡気体として存在する。その圧平衡定数は50程度と求められており、解離度は22%である。したがって、ヨウ化水素生成反応において、ヨウ化水素生成率を高めて、共沸組成を超えるヨウ化水素水溶液を得ることは水素製造プロセスの中で重要である。
【0006】
亜硫酸とヨウ素は瞬時に定量的に反応するのに対して、二酸化硫黄はヨウ素とは化学量論的に数%しか反応しない。これは、二酸化硫黄がヨウ素と反応するときには水が必要であり、二酸化硫黄が水に溶解して亜硫酸に変化しないとヨウ素とは反応しないことによる。二酸化硫黄が水に溶解する反応の平衡定数は0.054であるが、この数値を考慮すれば、亜硫酸水とヨウ素の反応速度に比較して、二酸化硫黄が55℃では8%、80℃では4%しか反応が進まないというデータは合理的である。
【0007】
また、二酸化硫黄は直線的分子であり双極子モーメントがないのに対して、二酸化硫黄が水に溶解して亜硫酸になった場合は亜硫酸分子中の硫黄原子が正に帯電するため、ヨウ素と相互作用しやすい可能性がある。二酸化硫黄とヨウ素と水の反応で55℃で反応させた場合の方が80℃よりも速いのは、二酸化硫黄が温度の上昇に伴って水への溶解が減少することと、80℃のときにはヨウ素が昇華するため反応効率が下がってしまうことによる。
【0008】
水溶液系にヨウ化物イオンが存在する場合には、ヨウ素とヨウ化物イオンが一種の錯形成を起こし、水への溶解度が大きくなる。濃度が大きくなるに従い、分子も大きくなり、最大でIにまで到達する。
【0009】
+ I → I (5)
2I + I → I (6)
3I + I → I (7)
4I + I → I (8)
ブンゼン反応後の生成液中のヨウ化水素と硫酸は、ヨウ素を添加して、密度の違いから2相として分離する。ヨウ化物イオンとヨウ素は親和性があり、共存すると反応式(5)〜(8)に示したように会合することが知られている。その生成定数は調べられており、25℃におけるヨウ化ナトリウム水溶液中のヨウ化物イオン・ヨウ素錯体の生成定数は以下に示すとおりである。ただしβとβはデータがないのでβとβの差から見積もった。
【0010】
log(β/mol−1 dm
=log([I]/[I][I]/mol−1 dm
=2.86 (9−1)
log(β/mol−2 dm
=log([I]/[I][I/mol−2 dm
=5.27 (10−1)
log(β/mol−3 dm
=log([I]/[I][I/mol−3 dm
=7.23 (11−1)
log(β/mol−4 dm12
=log([I]/[I][I/mol−4 dm12
=8.75 (12−1)
溶液中の全ヨウ化物イオン濃度C-は式(13)で表すことができ、C-と各全平衡定数から式(14)〜(18)が求まる。
【0011】
-=[I]+[I]+[I]+[I]+[I] (13)
式(9−1)より、
[I]=[I][I]β (9−2)
式(10−1)より、
[I]=[I][Iβ (10−2)
式(11−1)より、
[I]=[I][Iβ (11−2)
式(12−1)より、
[I]=[I][Iβ (12−2)
したがって
α=[I]/C-
=1/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (14)
α=[I]/C-
=[I]β/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (15)
α=[I]/C-
=[Iβ/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (16)
α=[I]/C-
=[Iβ/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (17)
α=[I]/C-
=[Iβ/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (18)
α〜αは各ヨウ化物イオン−ヨウ素錯体の生成分布を表している。生成分布曲線からヨウ化物イオンはヨウ素と相互作用し錯形成しやすいことがわかる。遊離の[I]が大きいところではヨウ化物イオンはヨウ素と結びついて高次の錯体を形成している。したがって、2相分離したHI/Iの下相側ではヨウ化水素がヨウ素と安定に結びつく。水が少ない条件でヨウ化物イオンの回収率が高くなるのは、相対的にヨウ素濃度が高くなるため、高次の錯体を形成し、下相への移行が増えると考えられる。
【特許文献1】特公昭60−52081号公報
【特許文献2】特公昭60−48442号公報
【特許文献3】特公平4−37002号公報
【特許文献4】米国特許第4127644号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術では気体のヨウ化水素を取り出すためにはブンゼン反応終了後にヨウ化水素と硫酸とをヨウ素を用いて2相分離した後、下相液をヨウ化水素精製工程に移し、下相液中に含まれる硫酸をブンゼン反応の逆反応を起こして除去する。この段階ではヨウ化水素の重量百分率濃度(=(下相液に含まれるヨウ化水素の質量)/(下相液に含まれるヨウ化水素と水の質量の和))が共沸組成を超えることはできず、容易に無水のヨウ化水素ガスを直接取り出すことができない。そのため、ヨウ化水素を含む生成液を電気透析により濃縮して共沸組成を超えるまでヨウ化水素を濃縮する。ヨウ化水素の共沸組成は57%である。
【0013】
電気透析により共沸組成を超えて濃縮したヨウ化水素水溶液からは分離が容易であるため、次工程の蒸留により純粋なヨウ化水素ガスを取り出すことができる。ブンゼン反応終了後の反応液の2相分離により、下相液中のヨウ化水素濃度が共沸組成を超えることが可能ならば、電気透析等による濃縮工程は不要となる。
【0014】
また二酸化硫黄は常温常圧条件下では水1リットルに対して0.8モル(mol)ほどしか溶解せず、遊離の二酸化硫黄は水と反応分解して硫黄を生成する。ヨウ化水素の生成効率を落としている要因の一つに、析出硫黄による配管等の閉塞がある。二酸化硫黄を強制的に溶媒である水に混合させて、ヨウ素との接触時間を大きくすればヨウ化水素の生成効率は高くなり、水素の生成効率に反映されているが、水に対する二酸化硫黄の溶解度を超えた領域では、水に溶解せずに遊離した二酸化硫黄が水と反応して硫黄にまで分解され、ミキサー配管が閉塞してしまう。またヨウ化水素の生成反応は100℃近傍で行なうためにヨウ素の昇華による損失と配管の閉塞も課題となっている。
【0015】
ヨウ素に亜硫酸水を作用させることにより酸化還元反応を起こして容易にヨウ化水素を得ることができることから、本発明では、ヨウ化水素生成反応において水に対する二酸化硫黄の溶解度を向上させることにより、二酸化硫黄のヨウ化水素あるいは硫酸への転化率を高め、高濃度のヨウ化水素水溶液を得られるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一つの態様のヨウ化水素製造方法は、ヨウ素を含む水溶液と二酸化硫黄とを加圧下で反応させてヨウ化水素水溶液と硫酸を生成する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の他の一つの態様のヨウ化水素製造方法は、二酸化硫黄を水に加圧下で添加して二酸化硫黄または亜硫酸を含む第1の水溶液を生成し、ヨウ素を含む第2の水溶液と前記第1の水溶液とを加圧下で混合することにより硫酸とヨウ化水素水溶液を生成する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の一つの態様のヨウ化水素製造装置は、ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成するためのヨウ化水素製造装置において、前記反応を加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、を有することを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の他の一つの態様のヨウ化水素製造装置は、ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成するためのヨウ化水素製造装置において、二酸化硫黄と水を混合して二酸化硫黄水溶液を生成するための耐圧容器である二酸化硫黄溶解槽と、前記二酸化硫黄溶解槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、前記反応を加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、前記二酸化硫黄溶解槽内で生成された二酸化硫黄水溶液を前記反応槽内に供給する手段と、ヨウ素を含む水溶液を前記反応槽内に供給する手段と、前記反応槽内の圧力および前記二酸化硫黄溶解槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ヨウ化水素生成反応において、水に対する二酸化硫黄の溶解度が向上し、二酸化硫黄のヨウ化水素あるいは硫酸への転化率が高まり、高濃度のヨウ化水素水溶液を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るヨウ化水素の製造方法の実施形態を説明する。
【0022】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係るヨウ化水素製造方法のフロー図である。この製造方法のフローは次のとおりである。
【0023】
(1)加圧条件下で、ヨウ素水溶液に二酸化硫黄(SO)を供給する。
【0024】
(2)加圧条件下でヨウ素と水と二酸化硫黄を反応させる(ブンゼン反応)。
【0025】
(3)加圧条件下で生成液へヨウ素と水を添加して、上相と下相の2相に分離して、さらに二酸化硫黄を添加してブンゼン反応を起こしながら、下相へヨウ化水素を取り込み、ヨウ化水素を共沸組成以上に濃縮する。
【0026】
(4)上記(3)の濃縮工程後、上相液中の硫酸を硫酸分解工程へ移送する。
【0027】
(5)上記(3)の濃縮工程後、下相液中のヨウ化水素をヨウ化水素の蒸留工程へ移送する。
【0028】
二酸化硫黄を加圧してヨウ素水溶液に添加していくことにより、二酸化硫黄を大気圧条件下における二酸化硫黄の水に対する溶解度以上に溶解させてヨウ素と瞬時に定量的に反応させ、ヨウ化水素と硫酸を生成させる。生成液には、生成したヨウ化水素の物質量以上のヨウ素を添加して2相分離し、さらに加圧条件下で水と二酸化硫黄を添加していくことにより、ブンゼン反応で生成した硫酸は上相へ、ヨウ化水素は下相へ移行し濃縮されていく。
【0029】
図2に、二酸化硫黄をヨウ素水溶液へ通気させたときのヨウ素と反応してヨウ化水素および硫酸を生成した二酸化硫黄の転化率を圧力に対してプロットしたものを示す。二酸化硫黄の転化率は、反応式(1)に従って生成するヨウ化水素の物質量の2分の1または硫酸の物質量を添加した二酸化硫黄の物質量で割ったものであり、反応した二酸化硫黄の割合を示している。
【0030】
大気圧における二酸化硫黄の溶解度は重量百分率濃度で5〜10%程度であり、ゲージ圧力が0MPa(大気圧)では転化率は5%程度であったことは、大気圧における二酸化硫黄の溶解度とほぼ整合している。0.2MPaまでは二酸化硫黄の転化率はほぼ圧力に比例して増加し、0.2MPa以上では添加した二酸化硫黄はすべて反応し、転化率は100%に到達する。ゲージ圧力が0.1MPa以上であれば、転化率の著しい向上が見られることがわかる。
【0031】
加圧することにより二酸化硫黄は水へ溶解し、水和した状態となり、溶存しているヨウ素と瞬時に酸化還元反応を起こしてヨウ化水素と硫酸を生成する。大気圧条件では、水和した二酸化硫黄とヨウ素との酸化還元反応の割合が5%の近傍であったが、加圧して二酸化硫黄をヨウ素水溶液へ添加することにより100%反応させることができる。
【0032】
(実施形態2)
図3は本発明の実施形態2に係るヨウ化水素製造方法に用いられるヨウ化水素製造装置の構成図であり、実施形態2を説明するものである。
【0033】
反応槽10は耐圧容器であって、反応槽10内の圧力を測定するための圧力計7が設置されている。また、反応槽10内部を加熱するためのヒーター3が設けられている。反応槽10には、上部排出管14aと下部排出管14bとが設けられている。反応槽10の上方に供給槽12が配置され、配管6を通じて反応槽10内にヨウ素および水を供給できるようになっている。
【0034】
反応槽10の外側に二酸化硫黄ボンベ1と、窒素ボンベ2が配置され、二酸化硫黄と窒素がそれぞれ、質量流量計4、弁5、加圧ポンプ11および二酸化硫黄供給管25を介して反応槽10に送られるようになっている。二酸化硫黄供給管25は反応槽10の上端から反応槽10内に入り、その下端は反応槽10内の下部にまで延びている。二酸化硫黄ボンベ1にはヒーター3aが設けられている。
【0035】
反応槽10の上部には排気管20が接続され、排気管20は背圧弁8を介してアルカリベッセル9に接続されている。アルカリベッセル9内にはたとえば水酸化ナトリウム水溶液が収容され、反応槽10内から排気管20を介して出てきた過剰な酸を吸収・回収できるようになっている。アルカリベッセル9の上部には大気開放管21が接続されて大気開放されている。
【0036】
反応槽10内にはあらかじめ、供給槽12および配管6を通じて水とヨウ素を入れておく。二酸化硫黄ボンベ1内の二酸化硫黄は、ヒーター3aによって30〜50℃に加熱されて反応槽10へ注入される。このとき二酸化硫黄は加圧ポンプ11および背圧弁8を用いて、反応槽10内の圧力がゲージ圧力計7で0.1MPa以上になるように調整制御する。その後、供給槽12および配管6を介して水とヨウ素を反応槽10に補充する。
【0037】
この実施形態によれば、加圧ポンプ11あるいは背圧弁8を操作することによって反応槽10内へ二酸化硫黄を圧力0.1MPa以上で注入することにより、二酸化硫黄を反応槽10内の水溶液に溶かし込むことができる。溶け込んだ二酸化硫黄は水和することにより、ヨウ素と瞬時に定量的に反応することができ、ヨウ化水素と硫酸を生成する。このようにして生成されたヨウ化水素および硫酸はそれぞれ、下相と上相に分離するので、それぞれ下部排出管14bおよび上部排出管14aを通じて反応槽10から取り出すことができる。
【0038】
この実施形態では、二酸化硫黄を加圧して溶媒の水へ溶かし込むことにより、二酸化硫黄と水の反応による硫黄の生成を回避でき、注入した二酸化硫黄すべてをヨウ素と反応させることができる。二酸化硫黄を溶かし込むことにより、常温で瞬時に反応させることができるため反応槽10全体を保温する必要がなく、硫黄析出を回避できると同時に、加温によるヨウ素昇華による損失と配管閉塞も防止できる。
【0039】
(実施形態3)
図4は本発明の実施形態2に係るヨウ化水素製造方法に用いられるヨウ化水素製装置の構成図であり、実施形態3を説明するものである。実施形態2と同一または類似の構成には、共通の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
この実施形態では、反応槽10とは別個に二酸化硫黄溶解槽15が設けられ、二酸化硫黄溶解槽15で生成された二酸化硫黄水溶液を、供給配管6および供給弁22を介して反応槽10へ移送する構造になっている。
【0041】
二酸化硫黄溶解槽15は耐圧容器であって、二酸化硫黄溶解槽15内の圧力を測定するための圧力計7が設置されている。また、二酸化硫黄溶解槽15内部を加熱するためのヒーター3が設けられている。
【0042】
二酸化硫黄溶解槽15および反応槽10の外側に二酸化硫黄ボンベ1と、窒素ボンベ2が配置され、二酸化硫黄と窒素がそれぞれ、質量流量計4、弁5、加圧ポンプ11および二酸化硫黄供給配管25を介して二酸化硫黄溶解槽15に送られるようになっている。
【0043】
二酸化硫黄溶解槽15の上部には排気管20が接続され、排気管20は背圧弁8を介してアルカリベッセル9に接続されている。アルカリベッセル9の上部には大気開放管21が接続されて大気開放されている。
【0044】
反応槽10には、上部排出管14aと下部排出管14bとが設けられている。反応槽10の上方に供給槽12が配置され、配管6を通じて反応槽10内にヨウ素および水を供給できるようになっている。
【0045】
二酸化硫黄ボンベ1では、二酸化硫黄をヒーター3aで30〜50℃に加熱して二酸化硫黄溶解槽15へ注入する。このとき二酸化硫黄は加圧ポンプ11および背圧弁8を用いて二酸化硫黄溶解槽15内の圧力がゲージ圧力計7で0.1MPa以上になるように調整制御する。二酸化硫黄溶解槽15には水を入れておく。あるいは供給配管13から二酸化硫黄溶解槽15へ補充する。二酸化硫黄溶解槽15で生成した二酸化硫黄水溶液を加圧した状態を保持し、反応槽10へ移動する。反応槽10内にはヨウ素またはヨウ素水溶液を入れておく。反応槽10内も同様に背圧弁8aで0.1MPa以上に調整制御する。
【0046】
本実施形態によれば、加圧ポンプ11あるいは背圧弁8で二酸化硫黄溶解槽15内の圧力を0.1MPa以上に調整することにより、二酸化硫黄を二酸化硫黄溶解槽15内の水に溶かし込み、高濃度の二酸化硫黄水溶液を生成させる。さらに、加圧したまま反応槽10へ移送してヨウ素と反応させてヨウ化水素と硫酸を生成する。
【0047】
二酸化硫黄溶解槽15へ加圧しながら二酸化硫黄を水へ溶解させることにより高濃度の亜硫酸水を生成することができ、反応槽10においてヨウ素と反応させることにより、高濃度のヨウ化水素を生成させることができる。大気圧下では水に対して二酸化硫黄を重量百分率濃度で5%程度しか溶解できないが、加圧することにより80%以上の濃度の二酸化硫黄水溶液を生成でき、ヨウ素と瞬時に定量的に反応させることができる。二酸化硫黄の水への溶解およびヨウ素と二酸化硫黄水溶液の反応を加圧条件下で実施することにより、二酸化硫黄の水による分解反応を回避でき、硫黄の析出が起こらない。
【0048】
(実施形態4)
図5は本発明の実施形態4に係るヨウ化水素製造方法に用いられるヨウ化水素製装置の構成図である。実施形態1〜3と同一または類似の構成には、共通の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0049】
図5のヨウ化水素製装置は図3のヨウ化水素製装置とほぼ同様の構成であるが、反応槽10内の二酸化硫黄供給管25の下端が反応槽10内の液面のわずかに下方にあって、図3の場合よりもかなり上方に位置することが異なる。
【0050】
この実施形態で、二酸化硫黄をヒーター3aによって30〜50℃に加熱して反応槽10へ注入する。このとき二酸化硫黄は加圧ポンプ11および背圧弁8を用いて反応槽10内の圧力がゲージ圧力計7で0.1MPa以上になるように調整制御する。反応槽10内は水とヨウ素を入れておく。あるいはヨウ素と水の供給槽12から供給配管6を通じて反応槽10へ補充する。
【0051】
ブンゼン反応の結果として生成したヨウ化水素を含む水溶液に、ヨウ化水素の物質量の0.5倍以上の物質量のヨウ素を添加して、上下2相の状態にする。ヨウ素の添加量をヨウ化水素の物質量の0.5倍以上とするとヨウ素が常に過剰に存在するので好ましい。2相液へ0.1MPa以上の加圧状態で二酸化硫黄を添加し、水とヨウ素を供給配管6から補充し、2相状態を維持する。
【0052】
この実施形態では、実施形態1または実施形態2で生成したヨウ化水素を含む水溶液にヨウ素を添加して、2相液にした後に、二酸化硫黄を加圧して添加する。添加された二酸化硫黄は水を多く含む上相へ主に溶け込み水和され、2相液の界面近傍で下相に主に溶存しているヨウ素と反応してヨウ化水素と硫酸を生成する。
【0053】
2相液中に加圧状態を維持して二酸化硫黄を添加することにより、上相で二酸化硫黄の水和が起こり、2相液の界面でヨウ素と反応して生成したヨウ化水素は下相へ取り込まれ、硫酸は上相へ残留する。この2相液系へ水とヨウ素を補充し2相状態を維持することにより、ヨウ化水素はヨウ素と錯形成することにより下相に取り込まれて、ヨウ化水素に水和した水が外れることにより濃縮が進む。0.1MPa以上に加圧して二酸化硫黄を添加することにより、ブンゼン反応と2相分離を同時に実施可能であり、下相におけるヨウ化水素濃度が共沸組成の57%を超えることができる。
【0054】
圧力計7のゲージで0.4MPaを示す加圧下の状態でブンゼン反応を実施し、2相分離状態を維持したまま、ヨウ化水素の濃縮を行なったところ、ヨウ化水素と水との割合での、ヨウ化水素の重量百分率濃度は73〜94%の共沸組成を超える濃度に到達した。生成した共沸組成を超える下相のヨウ化水素水溶液を大気圧下に放置すると、ヨウ化水素濃度が減少することから、加圧下で2相分離し、加圧状態を維持することにより、濃縮した状態を維持することが可能である。
【0055】
(実施形態5)
次に本発明の実施形態5に係るヨウ化水素製造方法を説明する。この実施形態で使用するヨウ化水素製造の構成は実施形態3の場合(図4)と同じである。
【0056】
二酸化硫黄ボンベ1内の二酸化硫黄をヒーター3aで30〜50℃に加熱して、二酸化硫黄溶解槽15へ注入する。このとき二酸化硫黄は加圧ポンプ11および背圧弁8を用いて二酸化硫黄溶解槽15内の圧力がゲージ圧力計7で0.1MPa以上になるように調整制御する。二酸化硫黄溶解槽15には水を入れておく。あるいは供給配管13から二酸化硫黄溶解槽15へ補充する。
【0057】
二酸化硫黄溶解槽15で生成した二酸化硫黄水溶液を加圧したままで、供給配管6および供給弁22を介して反応槽10へ移送する。反応槽10内にはヨウ素またはヨウ素水溶液を入れておく。反応槽10内も同様に0.1MPa以上に調整制御する。反応槽10内は水とヨウ素を入れておく。ヨウ素は水の物質量の0.5倍以上入れておく。二酸化硫黄は反応槽10内のヨウ素の物質量の0.5倍以上まで添加した段階で、反応槽10内の反応液が上下2相に分かれる。生成した2相液へ0.1MPa以上の加圧状態で二酸化硫黄溶解槽15から二酸化硫黄水溶液の添加を継続し、同時に水とヨウ素を供給槽12から供給配管6を通じて補充し、2相状態を維持する。
【0058】
この実施形態によれば、ヨウ素を含む水溶液に加圧状態下で二酸化硫黄を添加することにより生成するヨウ化水素と硫酸とが過剰に存在するヨウ素のため、2相液を形成する。形成された2相液に二酸化硫黄を加圧して添加することにより、添加された二酸化硫黄は水を多く含む上相へ主に溶け込み水和され、2相液の界面近傍で下相に主に溶存しているヨウ素と反応してヨウ化水素と硫酸を生成する。
【0059】
この実施形態によれば、反応槽10に予めヨウ素を水の物質量の0.5倍以上添加しておくことにより、ブンゼン反応が進むに従って、2相液が形成される。形成された2相液中に加圧状態を維持して二酸化硫黄を添加することにより、上相で二酸化硫黄の水和が起こり、2相液の界面でヨウ素と反応して生成したヨウ化水素は下相へ取り込まれ、硫酸は上相へ残留する。この2相液系へ水とヨウ素を補充し2相状態を維持することにより、ヨウ化水素はヨウ素と錯形成することにより下相に取り込まれて、ヨウ化水素に水和した水がはずれることにより濃縮が進む。0.1MPa以上に加圧して二酸化硫黄を添加することにより、ブンゼン反応と2相分離を同時に実施可能であり、下相におけるヨウ化水素濃度が共沸組成の57%を超えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るヨウ化水素製造方法の第1の実施形態を示すフロー図。
【図2】ブンゼン反応におけるSO転化率の圧力依存性を示すグラフ。
【図3】本発明に係るヨウ化水素製造方法の第2の実施形態で使用されるヨウ化水素製造装置の一例を示す系統構成図。
【図4】本発明に係るヨウ化水素製造方法の第3および第5の実施形態で使用されるヨウ化水素製造装置の一例を示す系統構成図。
【図5】本発明に係るヨウ化水素製造方法の第4の実施形態で使用されるヨウ化水素製造装置の一例を示す系統構成図。
【符号の説明】
【0061】
1…二酸化硫黄ボンベ、2…窒素ボンベ、3,3a…ヒーター、4…質量流量計、5…弁、6…配管、7…圧力計、8,8a…背圧弁、9…アルカリベッセル、10…反応槽、11…加圧ポンプ、12…ヨウ素および水の供給槽、13…水の供給管、14a…上部排出管、14b…下部排出管、15…二酸化硫黄溶解槽.20…排気管、21…大気開放管、22…供給弁、25…二酸化硫黄供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素を含む水溶液と二酸化硫黄とを加圧下で反応させてヨウ化水素水溶液と硫酸を生成する工程を含むことを特徴とするヨウ化水素製造方法。
【請求項2】
ゲージ圧で0.1MPa以上に加圧されてヨウ素を含む水溶液と二酸化硫黄との反応がなされることを特徴とする請求項1に記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項3】
二酸化硫黄を水に加圧下で添加して二酸化硫黄または亜硫酸を含む第1の水溶液を生成し、ヨウ素を含む第2の水溶液と前記第1の水溶液とを加圧下で混合することにより硫酸とヨウ化水素水溶液を生成する工程を含むことを特徴とするヨウ化水素製造方法。
【請求項4】
二酸化硫黄を水に添加する際にゲージ圧で0.1MPa以上に加圧し、さらに前記第1の水溶液と第2の水溶液との混合の際にゲージ圧で0.1MPa以上に加圧することを特徴とする請求項3に記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項5】
前記ヨウ化水素水溶液へヨウ素を添加して、硫酸が比較的多く含まれる上相とヨウ化水素が比較的多く含まれる下相とに分離する分離工程と、
前記上相へ二酸化硫黄を加圧下で添加してヨウ化水素を生成させ、このとき生成したヨウ化水素を下相へ抽出する工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項6】
前記ヨウ化水素水溶液へのヨウ素の添加量は、ヨウ化水素の物質量の0.5倍以上であることを特徴とする請求項5に記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項7】
前記ヨウ化水素水溶液と硫酸を生成する工程は、硫酸が比較的多く含まれる上相とヨウ化水素が比較的多く含まれる下相とに分離する分離工程を含み、
前記上相に二酸化硫黄を加圧下で添加してヨウ化水素を生成させ、その生成されたヨウ化水素を前記下相に抽出する工程を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項8】
前記上相へ二酸化硫黄を添加する際にゲージ圧で0.1MPa以上に加圧することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項9】
前記ヨウ化水素水溶液を蒸留してヨウ化水素を得る工程をさらに有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項10】
ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成するためのヨウ化水素製造装置において、
前記反応を加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、
前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、
前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、
前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、
を有することを特徴とするヨウ化水素製造装置。
【請求項11】
ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成するためのヨウ化水素製造装置において、
二酸化硫黄と水を混合して二酸化硫黄水溶液を生成するための耐圧容器である二酸化硫黄溶解槽と、
前記二酸化硫黄溶解槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、
前記反応を加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、
前記二酸化硫黄溶解槽内で生成された二酸化硫黄水溶液を前記反応槽内に供給する手段と、
ヨウ素を含む水溶液を前記反応槽内に供給する手段と、
前記反応槽内の圧力および前記二酸化硫黄溶解槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、
を有することを特徴とするヨウ化水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−31173(P2007−31173A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213111(P2005−213111)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)