説明

ヨウ素化剤の製造方法

本発明はヨウ素化剤の合成方法を記述するものであって、該ヨウ素化剤は特に塩化ヨウ素 (ICl)である。特に、本発明は、造影剤またはその合成前駆体として用いられるヨウ素化有機化合物の製造において有用なヨウ素化剤としてのIClの電気化学的製造方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にヨウ素化剤の製造方法に関する。より具体的には、この発明は塩化ヨウ素 (ICl)の電気化学的製造方法に関し、ICIは造影剤またはその合成における前駆体として採用可能な2,4,6-トリヨード誘導体のようなヨウ素化有機化合物の合成における有用なヨウ素化剤である。
【背景技術】
【0002】
造影剤および診断分野におけるその使用は文献に広く記載されている。
特に、ヨウ素化された芳香族誘導体は、組織または器官によるX線の吸収に依存する診断技術(即ち、X線写真法、断層写真法)における造影剤としての応用を見いだす化合物の部類に属する。
芳香族ヨウ素化誘導体の中で、言及する価値のあるものは、とりわけ、イオヘキソル (GB 1,548,594 - Nyegaard & Co. A / S)、イオベルソル(EP 83964 - Mallinckrodt Inc.)、イオパミドル(GB 1,472,050 - Bracco)およびイオメプロル(EP 365541 - Bracco)である。これらのヨウ素化造影剤は文献中に記載された種々の合成ルートで製造されるが、その様な合成ルートの幾つかは、芳香族中間体、特にフェノールまたはアニリン誘導体中間体の、異なるヨウ素化剤によるポリヨウ素化を含んでなる。さらに具体的には、EP773923 (Bracco)は、塩化ヨウ素 (ICl) による塩酸存在下での5-アミノ-1,3-ベンゼンジカルボン酸のヨウ素化を記述しており、次の反応式によって対応するトリヨウ素誘導体を与える:
【0003】
【化1】

【0004】
実質的に同様なアプローチが5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボン酸のヨウ素化に対してもまた、例えば、EP 782562 (Bracco)に報告されているように、記述されている。IClは当業者に知られた方法で製造することができ、その幾つかはI (III)の塩素化された種、典型的には、ICl3、の形成および以下の反応式に示すように、かくして得られた中間体の分子状I2 の添加による引き続く転化を意図している:
【0005】
【化2】

【0006】
ICl3 を発生させる可能のある方法の中で、例えば、塩酸の存在化、I2での反応によるKClO3 の使用 (Acta Chim. Slovo. 2000, 47, 89-90)、または、開始剤として気相塩素の使用を必要とするJP 1141803 (Mitsui Toatsu Chemicals)による製造をあげることができる:
【0007】
【化3】

【0008】
この後者のルートは高純度のIClの製造を可能とするが、気相塩素の使用は、特に、工業規模での適用においては、塩素ガスの毒性と危険性故に、厳格な注意および安全手配の必要性を含む。
【0009】
有利な事には、我々は今や、IClを高収率および高純度で製造する方法を見いだした。この方法は気相塩素の使用を必要とせず、そのために典型的には大容量の塩素の使用に関連する上述の欠点を回避できる。
【発明の概要】
【0010】
発明の要約
本発明は、第1の側面である以下の工程:
a. 1モルの出発IClを酸性の水溶液中で電気化学的に酸化して、(III)価に等しいヨウ素の酸化状態を持った中間誘導体を与える工程、
b. 該中間誘導体をヨウ素と反応させる工程および
c. 3 モルのIClを得る工程、
を含んでなる方法である。
【0011】
電気化学的酸化は、陽極(アノード)および陰極(カソード)室がイオン透過性セパレータで仕切られている電解槽中で実施される。
好ましいセパレータはアニオンまたはカチオンのいずれかに透過性の膜であり、ここで、好ましいアニオン性膜は、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリビニルベンゼン等のポリマーコアからできている。好ましいカチオン性膜は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロプロピレン・コポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシ・コポリマー(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン・コポリマー(ETFE)およびポリビニリデンフルオリド(PVDF)等の様なフッ化炭化水素ポリマー膜である。
【0012】
陽極室は好ましくは、白金、グラファイト、またはより好ましくは修飾されたグラファイト、または更により好ましくはガラス状もしくはガラス質炭素で作られるが、一方、陰極室の電極は、当分野で一般的に知られている電極、典型的にはグラファイト電極、から選択さる。
【0013】
本発明の好ましい態様において、本方法は、陽極および陰極室がグラファイトまたは修飾されたグラファイトまたはガラス状炭素の様な同一の物質で作られている電解槽を用いて実施される。
【0014】
陽極では溶液が通常、塩酸溶液として約5%〜約50%、好ましくは約18〜約36%で含む濃度で存在する出発量のIClを含んでなる。
【0015】
陰極では溶液が水または鎖状もしくは分岐状の(C1-C4)アルコールを無機強酸との混合物として含んで成り、無機酸の濃度は酸および水の合計に対して重量基準で5%〜50%の範囲である。特に好ましいのは、10%〜45%の範囲の濃度である。好ましい無機酸は塩酸および硫酸である一方、水および塩酸を含んでなる陰極溶液が好ましく、特に重量で約5%〜約40%の範囲の塩酸濃度を持ったものが好ましい。前述のように、本発明によれば、IClの出発モルの陽極酸化は優先的にヨウ素の形式的酸化状態が(III)価である中間誘導体の溶液形成へと導き、引続いての分子状ヨウ素との反応によ、3モルのIClの製造が可能となる。分子状ヨウ素との該引続く反応は固体ヨウ素を中間体溶液へ添加することで実施してよく、この後者(中間体溶液)を第2反応器へ移してもよく、または同じ反応器中に残しておいてもよい。
【0016】
好ましくは、形式上の酸化状態 (III)価にあるヨウ素を含む溶液が、分子状ヨウ素の添加を実行する前に別の反応器に移される。
【0017】
更なる態様によれば、本発明はICIの出発量を含む溶液の電気化学的酸化によるIClの製造方法にも言及するが、ここでは、IClの分割量が出発原料として陽極室に再導入される。
【0018】
更に、および更なる目的によれば、本発明は以下の工程を含んでなる方法を開示する:
a. 酸性水溶液中において、1モルのIClの電気化学的酸化により、ヨウ素の酸化状態が(III)価である中間誘導体を与える工程、
b. 工程aで得られたI(III)価の中間誘導体を分子状ヨウ素と反応させる工程、
c. 3モルのIClを得る工程;および
d. 式(I)
【0019】
【化4】

【0020】
〈式(I)中:
Rは-N(R')2 または-OH;
R1はそれぞれ独立に-COOR'、-CON(R')2であり;および
R'はそれぞれ独立に水素または1以上の水酸基それ自体もしくは保護された形態で随意に置換されていてよい(C1-C4)の鎖状もしくは分岐のアルキル基である。〉の化合物を更にヨウ素化して、
式(II)
【0021】
【化5】

の化合物を得る工程。
【0022】
他の態様において本発明は、製造されたIClの一部が出発原料として陽極室に再導入されて、IClの一部がヨウ素化剤として用いられる方法についても言及する
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は電気化学的セルの陽極室に仕込んだ溶液の滴定曲線を示す。x軸はミリボルトで表示された電圧値を表す;y軸は滴定中に添加されたKI (mL)の量を表す(反応開始前の実施例1を参照のこと)。
【図2】図2は電気化学的セルの陽極室中の酸化された溶液の滴定曲線を示す。x軸はミリボルトで表示された電圧値を表す;y軸は滴定中に添加されたKI (mL)の量を表す(反応完了時の実施例1を参照のこと)。
【図3】図3は、電気化学的に酸化された溶液中にI2 を溶解して、過剰のヨウ素をデカンテーションした後に得られた溶液の滴定曲線を示す。x軸はミリボルトで表示された電圧値を表す;y軸は滴定中に添加されたKI (mL)の量を表す(反応完了時の実施例3を参照のこと)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<発明の詳細な説明>
本発明は、ヨウ素の形式的な酸化状態が(III)価であり、以後、“I(III)−誘導体”と定義される適切な誘導体の、分子状ヨウ素との反応によるIClの製造方法と一般的に関係する。ここで、I(III)-誘導体は、出発量のIClの酸性水溶液中での電気化学的酸化によって得られる。中間体I(III)-誘導体は、例えばICl3、ICl4- 等の様なハロゲン間ヨウ素-塩素化合物またはそれらの可能な混合物でさえある。
【0025】
本発明をより良く説明するために、ここで反応の化学量論および一般合成式(1)を報告する。合成式(1)は、
工程-a、即ち、出発量のIClの陽極酸化により中間体I(III)-誘導体(以後、一般的にICl3として示される)を与える工程、および引き続き、
工程-b:
【0026】
【化6】

に従って固体ヨウ素との反応が生起する工程を含んで成る。
【0027】
注目すべきは、および上記の合成式(1)の化学量論から明白なように、本発明の方法は、実質的にガス状塩素の添加なしに、当初のICl単一モルから3モルのIClを有利に得ることを可能にする。
【0028】
上述の通り、本発明の最初の工程-aは、電解槽中でのIClの陽極酸化を含んで成る。この電解槽中では、陽極室および陰極室は適切なセパレータ、例えば、ダイヤフラム、多孔質または半透過性の膜等の当該分野で知られたものから選択されたセパレータで便利に仕切られている。セパレータは酸性状態に対して抵抗性を有すべきであり、およびイオン種に対して透過性であるべきであって、好ましくは、アニオンまたはカチオンのいずれかに透過性であり、例えば、塩素イオンの様なアニオンに対してのみ透過性であるべきである。この程度において好ましい膜は、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリビニルベンゼン等の様なポリマーコアで形成される。これらの膜の多くは、例えば、特に、Neosepta(登録商標)AHA、Selemion(登録商標)AMV、FUMASEP(登録商標)またはIONAC MA(登録商標)の様な市販品が入手可能である。
【0029】
また、Nafion(登録商標)PSFA N115膜(Du Pont SpAから入手可能)またはSelemion(登録商標)HSFおよびSelemion(登録商標)CMF(Asahi Glass Coから入手可能)の様なフッ素化炭化水素ポリマーコアで構成された膜も好ましい。
【0030】
他の好ましいセパレータは、立体障害という点でイオンの通過に選択的な膜であり、立体障害イオン寸法を意図している。
【0031】
好ましくは、電気化学的酸化が、陽極/陰極の2つの室がFumasep FTAM-E(登録商標)タイプの膜で仕切られた電解槽中で実施される。
【0032】
本製造方法で採用可能な電極の例は、工業的応用で従来から採用されている電極である。
【0033】
陰極室において、グラファイトで作られた電極が特に好ましいが、電極は、例えば、グラファイト、パラジウム、鉛、銅または鋼鉄、またはそれらの混合物で作られる。
【0034】
陽極部分では、電極は同様な電気化学的系で典型的に用いられる金属、例えば白金または周期表第VIII族の他の元素、好ましくは網状の金属で作られる。更に、陽極の電極もまた、腐食に対して抵抗性のある金属で適切に被覆された物質、例えば、典型的には、周期表の第8族から選ばれた金属(白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム)またはそれらの混合物の適切な厚みのフィルムで被覆された物質で作られる。
【0035】
グラファイトで作られた陽極が好ましくはあるが、グラファイト、伝導性セラミックスまたはガラス状(もしくは、ガラス質)炭素の様な、電極として採用可能な非金属の伝導性物質で陽極が作られている態様もまた本発明の範囲内である。
【0036】
あるいは、陽極の電極は“修飾されたグラファイト”で作られ、“修飾されたグラファイト”とは、強酸条件下におけるその機能および耐性が増強されるように適切に加工され処理されたグラファイトを意味する。本発明によれば、該修飾されたグラファイトの例は、ポリマーマトリックス被覆または担持されたグラファイト、または特別に製造されたグラファイトである。
【0037】
この点では、適切なポリマーマトリックスは例えば、メタクリル樹脂、フェノール樹脂等である。かくして、および更に好ましい態様に従えば、陽極の電極はポリマーマトリックス担持グラファイトで作られる。メタクリル樹脂またはフェノール樹脂から構成されたポリマーマトリックスも同様に好ましい。
【0038】
同様に、およびより一層好ましい態様は、陽極の電極がガラス状の(または、ガラス質の)炭素でできているものであり、この炭素は、ガラス状およびセラミック状の特性をグラファイトの特性と合わせて示す物質である(一般的参考として、Analytical Chemistry; Vol 37, No2, 1965, pag 200-202を参照せよ)。
【0039】
本発明の態様によれば、陰極および陽極は異なる物質で作られており、より好ましくは、電解槽はグラファイトで作られた陰極および白金で作られた陽極を含んで成り、より一層好ましくはこの白金は網形状である。
【0040】
それに代えて、およびこれは本発明の同じく好ましい態様であるが、陰極および陽極共に、グラファイト、修飾グラファイトまたはガラス状炭素から選択された同一物質で作られる。
【0041】
先に述べたように、本発明によるI(III)-誘導体発生のための電気化学的反応は、適切な溶媒中で実施され、酸性条件下、好ましくは4未満のpHで、より好ましくは2未満のpHで、更に好ましくは 1未満のpHで操作される。
【0042】
典型的には、該操作条件は陰極において、水、(C1-C4) 低級アルコールまたはそれらの混合物を含んで成る溶媒系中で、酸および溶媒の合計に対して重量で5%〜 50%の範囲の塩酸または硫酸の様な無機強酸の存在下に操作することによって得ることができる。特に好ましいのは、約10%から約45%の範囲の濃度である。
【0043】
用語“(C1-C4) 低級アルコール”は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1〜4個の炭素原子を持つ鎖状または分岐状のいかなるアルコールをも意味する。より好ましくは、陰極での電気化学的反応は、塩酸および水の存在下に重量で5%〜40%の範囲の塩酸濃度で実施される。
【0044】
電気化学の基本原理によれば、もし陽極で、IClからI(III)-誘導体の生成を伴って電気化学的酸化が生起するなら、陰極では対応する還元が観察されるであろうことが認められるであろう;詳細には、この場合、H+ イオンの還元により水素(H2)の生成が生ずるであろう。かくして生成した気体水素(H2)は次に、電気化学的工業プロセスで通常用いられる方法、例えば、膜回収等を用いて回収することができる。
【0045】
従って、および実験の部に詳細に記載したように、陰極室には塩化水素の濃度が重量で5%〜50%の範囲にある様な水および塩化水素の溶液である最適な酸性水溶液が適切に仕込まれるであろう。一方、陽極室には、IClの当初量が適切に仕込まれ、通常、重量で約5%から50%、好ましくは重量で15%〜40%の濃度の塩酸溶液として存在するであろう。
【0046】
本発明の電気化学的セルは一般的に定電流または定電圧様式で働く。好ましい様式は定電流様式であり、約50〜500 mA/cm-2 、好ましくは約50〜約150 mA/cm-2を含んで成る電流密度値で作動する。従って、電圧値は、陽極溶液の所望の酸化の程度を達成するために十分な時間、電気化学的セル中の電流密度を保つような値であろう。酸化の所望の程度は80%より大きな、好ましくは90%より大きな程度であり、槽の大きさおよび電極表面の寸法に依存して、数時間(40時間より大きな)〜数日(2日以上)で変化し得る反応時間で達成可能である。反応経過は、例えば、Ag/AgCl電極を標準電極とした白金組合せ電極を用いる電圧変化の検出を含む適当な従来の分析法で追跡することができる。
【0047】
先に示したように、本発明は中間体I(III)-誘導体の生成を含み、この中間体は更に分子状ヨウ素との反応に付されて3モルのIClを生産する。該中間体生成の検出は当分野における従来法によって、例えば、電気分解反応の終了時点で、酸性雰囲気中などでヨウ化カリウム (KI) を用いる陽極溶液の滴定によって、行うことができる。
【0048】
より詳細に、および本発明の好ましい態様によれば、陽極溶液は固体ヨウ素(好ましくは、若干過剰モルで)と第2の反応器中で、またはそれに代えて“その場で”(同一反応器内で、を意味する)反応される。反応は、室温で及び攪拌下に実施されて、デカンテーション、ろ過または遠心分離によって除去される固体ヨウ素の残渣を伴いつつ、溶液中でIClの高収率(ほぼ、定量的)な生成に導く。
【0049】
本発明の実用的で好ましい態様は、以下のように実施される:即ち、適切なイオン透過性膜で仕切られた、陰極および陽極室を有して成る電気化学的セル中に、陰極試剤としてHClの水溶液を仕込み、ならびに、陽極試剤として塩化ヨウ素、HClおよび水の出発溶液を仕込む。約100 mA/cm-2 の電流密度、または、採用する操作様式に応じて選択される電流電圧で作動するDC電流をセルに供給する。電気分解工程の終了時に、この様にして存在するヨウ素化合物の特定のために、陽極溶液を滴定する。前述した様に、存在するヨウ素の少なくとも一部に対する形式的酸化状態は(III)価である。こうして得た、ヨウ素を形式的な酸化状態(III)価で含有する溶液を、次に第2反応器へ移送し、適切な量の固体ヨウ素を添加し、室温で(例えば、15 ℃-30 ℃)攪拌下に操作する。固体残渣をデカンテーションによって溶液から分離し、および、固体ヨウ素を溶解する間、陽極溶液の電圧を、先に示したように組合せ電極で追跡する。溶液中に存在する実質的に全てのヨウ素の酸化状態は(I)価である。
【0050】
この様にして得た、または、以下に特定した塩化水素溶液中の塩化ヨウ素は、その一部が当初の電気化学的セルにリサイクルされるべきときは、その塩化ヨウ素の一部は、有機分子のヨウ素化、例えば、芳香族基質のポリヨウ素化に有利に用いることができる。
【0051】
特に有利な態様によれば、および方法全体を特徴付ける反応の化学量論を考慮に入れれば、IClの該当初原料は、製品として得られたIClの一部によって構成することができる。それによって、場合に応じて、製品として得られたIClの酸性水溶液の適切な量をリサイクルして、陽極室に仕込むことができる。
【0052】
従って、本発明の更なる側面は、実質的に前述したようにIClの電気化学的製造方法であって、製造されたIClの適当な部分が陽極室へ出発原料として再導入される。明らかに、陽極原料の低下又は過飽和を防ぐために、例えば、幾度かの工程サイクル又はICl再使用の後に、水または最適な酸、例えば塩酸、または出発原料ICl自身の一部さえも仕込むことが適切であり得る。
【0053】
本製法において出発化合物として意図している塩化ヨウ素は、通常、文献にも記載されている様に、塩酸溶液として用いられる。
【0054】
前述したように、本製法によって得られたIClはヨウ素化剤として、特に、非イオン性ヨウ素化造影剤の製造用の芳香族物質のポリヨウ素化に、従来通りに用いられてよい。
【0055】
この点において、本発明の更なる目的は、以下の工程を含んで成る方法である:
a. 酸性水溶液中において、1モルのIClの電気化学的酸化によって、ヨウ素の酸化状態が(III)価である中間誘導体を与える工程、
b. 工程aで得られたI(III)価中間誘導体を分子状ヨウ素と反応させる工程、
c. 3モルのIClを得る工程;および
d. 式(I)
【0056】
【化7】

【0057】
〈式(I)中:
Rは-N(R')2 または-OH;
R1はそれぞれ独立に-COOR'、-CON(R')2であり;および
R'はそれぞれ独立に水素または1以上の水酸基それ自体もしくは保護された形態で随意に置換されていてよい(C1-C4)の鎖状もしくは分岐のアルキル基である。〉の化合物を更にヨウ素化して、
式(II)
【0058】
【化8】

の化合物を得る工程。
【0059】
好ましくは、本方法は式Iの化合物から出発して実行され、ここでRはヒドロキシル(-OH)またはアミノ基(-NH2)であり、基R1は同一であって、-COOHまたは-CONHR'から選択され、R'は-CH(CH2OH)2 又は-CH2(CHOH)CH2OHから選択される。
【0060】
より詳細には、本発明の更なる側面は、上記で広範囲に説明した様に、IClの製造、および、引続きそのヨウ素化剤として化合物(I)の水性溶液への置換的付加反応を含んで成る方法であり、該付加反応では後者(化合物(I))が僅かに過剰で存在し、撹拌下および約80-90℃の温度である。pH は、随意に適当な塩基バッファー(例えば、US 5013865を参照のこと)の存在下に、0〜約2を含んで成る値に設定される。こうして得られた粗反応混合物は、その後、ろ過またはクロマトグラフィ精製の様な既知の技術を用いて処理されて、所望のトリヨウ素化誘導体の純粋な形に導かれる。
【0061】
上記の代替的態様によれば、IClの一部が上記の様にヨウ素化剤として用いられる一方、製造されたIClの一部を陽極室での出発試剤として再導入することを本法は可能にする。式Iの化合物群におけるヒドロキシル基は無保護で存在してもよいが、または、それに代えて、望ましからざる副反応を回避するために、当分野で既知の従来の方法および保護基(一般的参照として: T. W. Green, Protective Groups in Organic Synthesis (Wiley, N.Y. 1981))、を用いて適切に保護されていてよい。
【0062】
式Iの基質および対応する式IIの化合物を与える、対応するIClでのヨウ素化反応は当分野ではよく知られており、文献にも広く記載されている。例えば、既に引用したように、イオパミドールまたはイオメプロールの製造用である。
【0063】
以下の実施例は本発明をより良く説明するために提供されるが、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0064】
<実験の部>
実施例1.<白金陽極の存在下でのIClの電気化学的酸化>
陰極として6 cm2の表面積を持つグラファイトの筒状の棒を含む陰極室、および陽極として24 cm2の幾何学的表面積を持つ白金格子を含む陽極室を有して成り、その2つの室はFumasep(登録商標) FTAM-Eタイプのアニオン伝導膜によって仕切られている電気化学的セル中に、陰極試剤としてHCl 33%の水溶液69.7 g、および、陽極試剤として以下の組成を持つ塩化ヨウ素溶液134.7 g:

を仕込んだ。
【0065】
610 mAの連続電流を21時間にわたり約6.5ボルトの電圧下で、セルに供給した。
【0066】
電気分解の間、陽極溶液の電圧をPt組合せ電極(参照電極Ag/AgCl)にて検出した。電気分解前の溶液の出発電圧は691 mVであると分かったが、一方、電気分解の終わりには、電圧は975 mVまで増加した。
【0067】
電気分解の終了後に、ヨウ素誘導体の種形成(speciation)のために陽極溶液を酸性条件下、KIで滴定した。Pt 組合せ電極と比較して、780 mVの電圧において変曲点を得るためにKI溶液の1.73 mEq/g が消費され、次いで、493 mVの電圧に於いて第二の変曲点を得るためにKI溶液の5.30 mEq/g が消費された。
従って、この様にして得られたヨウ素の形式的酸化状態は(III)価であることが確認された。測定された電流収率は90%であった。
【0068】
実施例2.<グラファイト陽極の存在下でのIClの電気化学的酸化>
陰極として6 cm2の表面積を持つグラファイトの筒状の棒を含む陰極室、および陽極として8.5 cm2の表面積を持つグラファイトの筒状の棒を含む陽極室を有して成り、その2つの室はFumasep(登録商標) FTAM-Eタイプのアニオン伝導膜によって仕切られている電気化学的セル中に、陰極試剤としてHCl 33%の水溶液67.2 g、および、陽極試剤として以下の組成を持つ塩化ヨウ素溶液124.6 g:

を仕込んだ。
【0069】
500 mAの電流を17時間にわたり約6ボルトの電圧下で、セルに供給した。
電気分解の間、陽極溶液の電圧をPt組合せ電極(参照電極Ag/AgCl)にて検出した。電気分解前の溶液の出発電圧は680 mVであると分かったが、一方、電気分解の終わりには、電圧は932 mVまで増加した。
【0070】
一端電気分解反応が終わると、ヨウ素誘導体の種形成のために陽極溶液を酸性条件下、KIで滴定した。Pt 組合せ電極と比較して、668 mVの電圧で変曲点を得るためにKI溶液の1.12 mEq/g が消費され、次いで、405 mVの電圧で第二の変曲点を得るためにKI溶液の3.40 mEq/g が消費された。得られたヨウ素の形式的酸化状態はIII価に等しかった。測定された電流収率は90%であった。
【0071】
実施例3.<電気化学的に酸化されたICl溶液との接触によるI2 のIClへの酸化>
IClの酸化された溶液、それはヨウ素を形式的酸化状態(III)価で含み、実施例2に従って製造されたものであるが、その溶液に34.3 gの固体I2を添加し、室温で撹拌下に保ちつつ操作した。固体の大部分は390分以内に消費され、残渣をデカンテーションにより溶液から分離する。固体ヨウ素の溶解する間、Pt組合せ電極(参照電極Ag/AgCl)を用いて陽極溶液の電圧を監視する。固体ヨウ素(I2)添加前の溶液の出発電圧は930 mV であると分かったが、一端ヨウ素の溶解が起こると、電圧は701 Mvに低下した。デカンテーションした溶液をKIで滴定すると、KI (酸化された溶液の2.64 meq/gram)の添加後、Pt組合せ電極と比較して381 mVの電圧で単一の変曲点を与える。
実質的に存在する全てのヨウ素の酸化状態は (I)価であると分かった。
【0072】
実施例4.<IClの電気化学的酸化(ワンポット法)>
ICl (0.284 mol)およびHCl (35.99 g, 0.99 mol) を含有する水性塩酸 (147.2 g)中のICl溶液を、実施例1に記載の様に約5ボルトの電圧下、630mAの電流をセルに供給して23時間、電気分解に付す。電気分解の終了後、0.005 モルのI(I)価および0.26 モルの I (III)価 を含有する溶液141 gをセルの陽極室から取り出す。次に、その溶液にI2 (0.27 mol)を添加すると、滴定で測定して0.80 モルのI(I)価を含有する溶液209 g を得る。続いて、この溶液の 69 gに33% HCl溶液68 g を添加する。0.26 モルの I(I)価を含有するこの溶液を電気分解に再利用した結果、滴定によって計算された0.03 モルのI(I)価および 0.23 モルの I(III)価を含有する酸化された溶液138 gを得た。
【0073】
実施例5.<修飾グラファイト陽極を用いたIClの電気化学的酸化>
コンパクトなグラファイト陰極を備えた陰極室、メタクリル樹脂が担持されたSGL炭素 特殊グラファイトR7510 陽極を備えた陽極室で作られ、FuMA-Tech社からのアニオン膜タイプのFumasep(登録商標) FTAM-Eを有して成る平板およびフレーム状(plate-and-frame)電気化学的セル中に、以下の化合物を供給した:陰極液としての1294.5グラムの32.8% HCl水溶液、および塩化ヨウ素溶液で作られた1301.5 グラムの陽極液;
ここで、塩化ヨウ素溶液は以下の組成を有していた:

【0074】
セルには約3.2 ボルトの電圧下、6.4アンペアの電流を20時間供給した。電気分解に沿って、電解質の流れは、陽極液に対して2.1 l/minおよび陰極液に対して0.5 l/minであった。電気分解終了後、ヨウ素イオン種特定のために、酸性条件下に陽極溶液をKIで滴定した。滴定は1.51 meq のKIを1グラム当たりの陽極溶液について消費して、組合せPt電極と比べて697 Mvの電圧の変曲点を与え、次いで、4.83 meq のKIを1グラム当たりの陽極溶液について消費して、439 mVの電圧の第2の変曲点を与えた。結果としてのヨウ素の形式上の酸化状態は+3価であった。電流収率は86%であった。
【0075】
実施例6.<グラファイト陽極を用いたIClの電気化学的酸化>
Carbone Lorraine社からのグラファイト(高密度、超微細粒子、空孔率<3% および作動温度(酸素中<600 ℃)で作られた陰極および陽極を備え、FuMA-Tech社からのアニオン膜タイプのFumasep(登録商標) FTAM-Eで仕切られた陰極室および陽極室で作られた平板およびフレーム状電気化学的セル中に、以下の化合物を供給した:陰極液として1203.6グラムの32.7% HCl 水溶液、および以下の組成を持つ塩化ヨウ素で作られた2348.8グラムの陽極液:

【0076】
セルには約2.8 ボルトの電圧下、6.4アンペアの電流を42時間供給した。電気分解に沿って、電解質の流れは、陽極液に対して0.5 l/minおよび陰極液に対して0.5 l/minであった。電気分解終了後、ヨウ素イオン種特定のために、酸性条件下に陽極溶液をKIで滴定した。滴定は1.73 meq のKIを1グラム当たりの陽極溶液について消費して、組合せPt電極と比べて659 Mvの電圧の変曲点を与え、次いで、5.51 meq のKIを1グラム当たりの陽極溶液について消費して、441 mVの電圧の第2の変曲点を与えた。結果としてのヨウ素の形式上の酸化状態は+3価であった。電流収率は91%であった。
【0077】
実施例7.<ガラス状炭素陽極を用いたIClの電気化学的酸化>
HTW Gmbh社からのガラス状炭素Sigradur(登録商標)で作られた陰極および陽極を備え、FuMA-Tech社からのアニオン膜タイプのFumasep(登録商標) FTAM-Eで仕切られた陰極室および陽極室で作られた平板およびフレーム状電気化学的セル中に、以下の化合物: 陰極液として、33.0 % HCl 水溶液1888.0 グラム、および以下の組成を持つ塩化ヨウ素溶液で作られた陽極液1885.0 グラム、を供給した:陽極液の組成は、

である。
【0078】
セルには約6.5 ボルトの電圧下、10.0アンペアの電流を18時間供給した。電気分解に沿って、電解質の流れは、陽極液に対して5.0 l/minおよび陰極液に対して0.5 l/minであった。電気分解終了後、ヨウ素イオン種特定のために、酸性条件下に陽極溶液をKIで滴定した。滴定は1.59 meq のKIを1グラム当たりの陽極溶液について消費して、組合せPt電極と比べて711 Mvの電圧の変曲点を与え、次いで、5.07 meq のKIを1グラム当たりの陽極溶液について消費して、440 mVの電圧の第2の変曲点を与えた。結果としてのヨウ素の形式上の酸化状態は+3価であった。電流収率は91%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造方法であって、以下の工程:
a. 1モルの出発IClを酸性の水溶液中で電気化学的に酸化して、(III)価に等しいヨウ素の酸化状態を持った中間誘導体を与える工程、
b. 該中間誘導体をヨウ素と反応させる工程および
c. 3 モルのIClを得る工程、
を含んでなる方法。
【請求項2】
該電気化学的酸化は、陽極および陰極室がイオン透過性膜によって仕切られている電解槽中で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
膜がアニオンまたはカチオンに対して選択的に透過性である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
陰極室の電極がグラファイトで作られている、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
陽極室の電極が、白金、グラファイト、修飾グラファイトまたはガラス状炭素で作られている、請求項2〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
水と混合された強酸、C1〜C4 アルコールまたはそれらの混合物を含有する陰極溶媒系の存在下に実施される、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
該強酸が塩酸または硫酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該陰極溶媒系が水および塩酸の混合物を含んでなる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
該塩酸が重量で5%〜40%からなる濃度を持つ、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水性酸性溶液中の出発IClが重量で15%〜40%を含んでなる濃度を持つ、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
製造されたIClの一部が陽極室中の出発試剤として再導入される、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
電気化学的酸化が、50〜150 mA/cm-2を含んでなる電流密度値で操作される、定電流または定電圧方式下に実施される、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
次の工程-bを実施する前に、分離した反応器に工程-aで得られた溶液を移送する工程を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
製造方法であって、式(I):
【化1】

<式(I)中:
Rは-N(R')2 または-OH;
R1はそれぞれ独立に-COOR'、-CON(R')2であり;および
R'はそれぞれ独立に水素または1以上の水酸基それ自体もしくは保護された形態で随意に置換されていてよい(C1-C4)の鎖状もしくは分岐のアルキル基である。>の化合物をヨウ素化して、式(II)
【化2】

の化合物を得る工程をさらに含んでなる、請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−532983(P2012−532983A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518962(P2012−518962)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059619
【国際公開番号】WO2011/003894
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(504448162)ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
【Fターム(参考)】