説明

ヨットの転倒防止装置

【課題】風によるヨットの転倒を確実に防止する。
【解決手段】本発明によるヨットの転倒防止装置は、マスト(2)に対して揺動可能に取り付けらたブーム(3)と、マスト(2)とブーム(3)との間に掛け渡されたセール(4)と、ブーム(3)に接続されたロープ部材(5)と、ロープ部材(5)を船体(1)の一部に接続する接続部材(6)と、船体(1)が所定の角度に傾斜したことを検出する傾斜検出装置(11、12、13、21、22、23、24、31、32、33、34)とを具備し、船体(1)が所定の角度に傾斜したことを傾斜検出装置が検出した時に、接続部材(6)がロープ部材(5)の接続を開放してセール(4)に当たる風を逃がすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨットの転倒防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヨットは、ある程度の角度までは傾斜しても復元するように設計されているが、悪天候下で風が急に強くなった場合や、不規則な大波を受けて傾き限界を超えた場合には転覆に致ることがある。風が急に強くなってヨットが転倒しそうになる場合には、ブームを保持しているメインシートを開放して帆に当たる風を逃がす(シバーする)ことにより転倒を防止するように操船している。
【特許文献1】特開2003−26087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、風があまりにも急に強くなった場合や、操船者の判断が遅れた場合には、ヨットが転倒して転覆沈没事故や更には乗員の死亡事故に繋がることがあった。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、風によるヨットの転倒を確実に防止することを最も主要な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的を達成するために、請求項1の発明によるヨットの転倒防止装置は、マスト(2)に対して揺動可能に取り付けらたブーム(3)と、マスト(2)とブーム(3)との間に掛け渡されたセール(4)と、ブーム(3)に接続されたロープ部材(5)と、ロープ部材(5)を船体(1)の一部に接続する接続部材(6)と、船体(1)が所定の角度に傾斜したことを検出する傾斜検出装置(11、12、13、21、22、23、24、31、32、33、34)とを具備し、船体(1)が所定の角度に傾斜したことを傾斜検出装置が検出した時に、接続部材(6)がロープ部材(5)の接続を開放してセール(4)に当たる風を逃がすことを特徴とする。
請求項2の発明によるヨットの転倒防止装置は、請求項1において傾斜検出装置が、船体(1)に設けられた台座(11a)と、台座(11a)に載置された重り(12)とを具備し、船体(1)が所定の角度に傾斜したことを、重り(12)が落下することにより検出することを特徴とする。
請求項3の発明によるヨットの転倒防止装置は、請求項1において傾斜検出装置が、船体(1)に設けられたU字状円管(21)と、U字状円管(21)の中に収められた球体(22)とを具備し、船体(1)が所定の角度に傾斜したことを、球体(22)がU字状円管(21)の端部に移動することにより検出することを特徴とする。
請求項4の発明によるヨットの転倒防止装置は、請求項1において傾斜検出装置が、船体(1)に設けられたU字状円管(31)と、U字状円管(31)の端部に設けられた電極(33、34)と、U字状円管(31)の中に収められた導体(32)とを具備し、船体(1)が所定の角度に傾斜したことを、導体(32)が電極(33、34)を導通させることにより検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
以上のように、本発明のヨットの転倒防止装置によれば、船体(1)が所定の角度に傾斜したことを傾斜検出装置が検出した時に、接続部材(6)がロープ部材(5)の接続を開放してセール(4)に当たる風を逃がすので、風によるヨットの転倒を確実に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態は、本発明をレーサー・クルーザーと呼ばれているヨットに適用した場合を例にしている。
【実施例1】
【0007】
図1および図2は、本発明によるヨットの転倒防止装置の第1実施形態を示す斜視図である。図1において船体(ハル)1には、ほぼ中央部にマスト2が設けられ、マスト2にはブーム3が揺動可能に取り付けられている。マスト2とブーム3が成す三角形状の箇所には帆(セール)4が掛け渡されている。
【0008】
ブーム3は、図2に拡大して示すように、ロープ部材(メインシート)5およびスナップ・シャックル6を介して、リーダー・カー7に接続されている。リーダー・カー7はカー・レール8に摺動可能に取り付けられており、カー・レール8は船体1に固定されている。従って、ロープ部材5はスナップ・シャックル6を介して船体1の一部に接続されていることになる。操船者は、リーダー・カー7の位置と、ティラー9によりラダー10の角度とを操作することにより、帆4が風に当たる方向および船体1の進行方向をコントロールする。
【0009】
リーダー・カー7の下部には円柱部材(台座)11が取り付けられており、円柱部材11はリーダー・カー7と共にカー・レール8に沿って移動する。円柱部材11の上皿凹部11a(図4参照)には、金属製の球体12(重り)が載置されている。球体12にはケーブル13が接続されており、ケーブル13が後述するようにしてスナップ・シャックル6を開放する。
【0010】
図3(a)は平常時のスナップ・シャックル6を示す部分透視図、図3(b)は開放時のスナップ・シャックル6を示す正面図である。スナップ・シャックル6は、支持部61、回動部62、回動部63、および回動部64から構成されている。回動部62は、支持部61の回転中心61aを中心にして回動する。回動部62は、ロープ部材5に接続されて常時図3の上方向に付勢されている。支持部61の内部には回動部63が設けられており、回動部63は支持部61の回転中心61bを中心にして回動する。回動部63はバネ63bにより、矢印方向(図3の上方向)に付勢されている。また、2つの回動部62および回動部63は、先端部に爪部62aおよび爪部63aが形成されており、これらの爪部62aおよび爪部63aが係合している。これにより平常時は図3(a)に示すように、爪部62aおよび爪部63aが係合している状態であり、バネ63bの付勢力に抗して回動部63を図3の下方向に押圧すると、爪部62aおよび爪部63aの係合が解けて、図3(b)に示す開放状態となる。バネ63bの付勢力に抗して回動部63を図3の下方向に押圧するのは、球体12に接続されたケーブル13である。そのことを図4により次に説明する。
【0011】
図4に示すように、ケーブル13の一端は球体12に接続され、他端は支持部61の中心部を通して7の固定部に接続されている。後述するようにして球体12が円柱部材11の上皿凹部11aから落下すると、ケーブル13は球体12の重力により図4の下方向に引かれる。このとき、ケーブル13と係合して回動部63を図4の下方向に押圧する。回動部63を押圧することにより、図3で説明したようにして爪部62aおよび爪部63aの係合が解けて、図4(b)に示す開放状態となる。
【0012】
以下、図5〜図8により、第1実施形態の動作について説明する。図5〜図8は、船体1の背面から見た概念図である。
【0013】
図5は平常時の状態を示し、船体1はほぼ水平状態であり、球体12が円柱部材11の上皿凹部11aに載置されている。図6は、帆4が右方向からの風を受けて船体1が左側に傾斜した状態を示している。このとき、球体12は円柱部材11の上皿凹部11aから落下しそうになっている。図7は、帆4が右方向からの風を受けて船体1が左側に図6の状態から更に傾斜した状態を示している。このとき、球体12は円柱部材11の上皿凹部11aから落下してケーブル13がスナップ・シャックル6を開放する。図8は、ケーブル13がスナップ・シャックル6を開放して帆4に当たる風を逃がす(シバーする)ことにより、船体1がほぼ水平状態に復元した状態を示している。この後は、ロープ部材(メインシート)5とスナップ・シャックル6を接続して爪部62aおよび爪部63aを係合させ、球体12を円柱部材11の上皿凹部11aに戻すことにより、図5の平常状態に戻すことができる。
【実施例2】
【0014】
図9は、本発明によるヨットの転倒防止装置の第2実施形態を示す斜視図である。図中、図1〜図8と同じ構成部分には同じ参照番号を付して重複した説明を省略する。第2実施形態は、第1実施形態において必要だった球体12を上皿凹部11aに戻す作業を不要とし、自動的に元の位置に戻るようにしている。
【0015】
図9において、U字状に湾曲された円管21の中には、金属製または樹脂製の球体22が収められている。円管21は金属製または樹脂製で左右対象に形成され、船体1に固定されている。円管21が船体1に固定されているので、船体1の傾斜に合せて球体22は円管21の中を移動する。
【0016】
船体1が傾斜して球体22が円管21の左端部に致ったときには、図10に示すように、スライダー23aを左方向に移動させる。スライダー23aは、支持部材23aに支持されて図10の左右方向に摺動する。スライダー23aの移動量Lは、後述する幅Wに関連して決められる。スライダー23aにはケーブル24aが接続されており、ケーブル24aはローラー25aによって移動方向を左右方向から上下方向に変換される。ケーブル24aは、第1実施形態におけるケーブル13と同じ役割を果たし、回動部63を図9の下方向に押圧することにより、爪部62aおよび爪部63a(図3)の係合が解いて回動部62を開放状態とする。なお、図10は円管21の左側のみを代表して示しており、左右対象の部材が円管21の右側にも存在する。
【0017】
以下、図11〜図14により、第2実施形態の動作について説明する。図11〜図14は、船体1の背面から見た概念図である。
【0018】
図11は平常時の状態を示し、船体1はほぼ水平状態であり、球体22が円管21の中央底部に位置している。図12は、帆4が右方向からの風を受けて船体1が左側に傾斜した状態を示している。このとき、球体22は円管21の中央底部から左側に移動している。図13は、帆4が右方向からの風を受けて船体1が左側に図12の状態から更に傾斜した状態を示している。このとき、球体22は円管21の左端部に致り、スライダー23aを左方向に移動させ、ケーブル24aがスナップ・シャックル6を開放する。図14は、ケーブル24aがスナップ・シャックル6を開放して帆4に当たる風を逃がす(シバーする)ことにより、船体1がほぼ水平状態に復元した状態を示している。この後は、ロープ部材(メインシート)5とスナップ・シャックル6を接続して爪部62aおよび爪部63aを係合させることで、図11の平常状態に戻すことができる。球体22は、円管21の湾曲線に沿って円管21の中央底部に自動的に復帰している。
【0019】
図9で示した角度αを大きくすると、傾斜初期にスナップ・シャックル6を開放する。角度αを小さくすると、傾斜後期にスナップ・シャックル6を開放する。深さDを深くすると、感度は鈍くなるが誤作動は防止できる。深さDを浅くすると、感度は高くなるが誤作動が多くなる。幅Wを大きくすると、スライダー23aを移動する距離Lが長くできる。幅Wを小さくすると、スライダー23aを移動する距離Lが短くなる。
【実施例3】
【0020】
図15は、本発明によるヨットの転倒防止装置の第3実施形態を示す概念図である。図中、図1〜図14と同じ構成部分には同じ参照番号を付して重複した説明を省略する。第3実施形態は、船体1の傾斜を電気的に検出するようにしている。
【0021】
図15において、U字状に湾曲された円管31の中には、金属球32が収められている。金属球32は水銀で構成することもできる。円管31は密封して、内部は真空にするか不活性ガスを充填するのが好ましい。
【0022】
円管31は樹脂製で左右対象に形成されている。円管31は、図16で説明する回路と共にケース(図示せず)に収納される。円管31を収納したケースは、円管31の中心線が垂直になるようにして船体1に取り付けられる。円管31が船体1に取り付けられているので、船体1の傾斜に合せて金属球32は円管31の中を移動する。
【0023】
円管31の左端部には、電極33aおよび34aが設けられている。また、円管31の右端部には、電極33bおよび34bが設けられている。電極33a〜34aおよび電極33b〜34bは、図16に示す回路に組込まれている。即ち、金属球32、電極33a〜34aおよび電極33b〜34bはスイッチとして機能し、オン状態にしたときには、電池ボックス35または太陽電池パネル36から供給される電力をギア付モーター38に印加する。太陽電池パネル36は、電池ボックス35を充電するように、過充電防止ダイオード37と直列に接続した後に電池ボックス35と並列に接続されている。なお、金属球32を樹脂製の球体で構成し、電極33a〜34aおよび電極33b〜34bから成るプッシュスイッチを押すようにしても良い。また、過充電防止ダイオード37は、チャージコントローラであっても良い。
【0024】
図15(a)に示す状態から、船体1が左側に傾斜して金属球32が円管31の左端部に致ったときには、図15(c)に示すように電極33a〜34a間をオン状態にする。このとき、電池ボックス35または太陽電池パネル36から供給される電力がギア付モーター38に印加され、ギア付モーター38が回転する。ギア付モーター38の回転軸38aにはローラー39が取り付けられ、ローラー39にはケーブル40の一端が固定されている。なお、ローラー39の外周部に貫通孔を設けてケーブル40を通してから、貫通孔の径よりも大きな結び目40aを形成することによって、ローラー39にはケーブル40の一端が固定されている。ケーブル40は、プーリー41によって移動方向を左右方向から上下方向に変換される。ケーブル40は、第1実施形態におけるケーブル13と同じ役割を果たし、回動部63を図17の下方向に押圧することにより、爪部62aおよび爪部63a(図3)の係合が解かれて回動部62を開放状態とする。
【0025】
図18は、本発明によるヨットの転倒防止装置の第4実施形態を示す斜視図である。図中、図1〜図17と同じ構成部分には同じ参照番号を付して重複した説明を省略する。第4実施形態は第3実施形態の変形であり、リーダー・カー7の中に図16に示す回路とスナップ・シャックル6を内蔵し、太陽電池パネル36をリーダー・カー7の表面に設けている。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、艤装品メーカーおよびヨットメーカーが利用可能な技術を提示している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ヨットの転倒防止装置を示す斜視図である。(実施例1)
【図2】ヨットの転倒防止装置を示す斜視図である。(実施例1)
【図3】ヨットの転倒防止装置を示す正面図である。(実施例1)
【図4】ヨットの転倒防止装置を示す斜視図である。(実施例1)
【図5】ヨットの転倒防止装置の動作を説明する概念図である。(実施例1)
【図6】ヨットの転倒防止装置の動作を説明する概念図である。(実施例1)
【図7】ヨットの転倒防止装置の動作を説明する概念図である。(実施例1)
【図8】ヨットの転倒防止装置の動作を説明する概念図である。(実施例1)
【図9】ヨットの転倒防止装置示す斜視図である。(実施例2)
【図10】ヨットの転倒防止装置示す概念図である。(実施例2)
【図11】ヨットの転倒防止装置の動作を説明する概念図である。(実施例2)
【図12】ヨットの転倒防止装置の動作を説明する概念図である。(実施例2)
【図13】ヨットの転倒防止装置の動作を説明する概念図である。(実施例2)
【図14】ヨットの転倒防止装置の動作を説明する概念図である。(実施例2)
【図15】ヨットの転倒防止装置示す概念図である。(実施例3)
【図16】ヨットの転倒防止装置示す回路図である。(実施例3)
【図17】ヨットの転倒防止装置示す概念図である。(実施例3)
【図18】ヨットの転倒防止装置示す概念図である。(実施例4)
【符号の説明】
【0028】
1 船体(ハル)
2 マスト
3 ブーム
4 帆(セール)
5 ロープ部材(メインシート)
6 スナップ・シャックル
7 リーダー・カー
8 カー・レール
9 ティラー
10 ラダー
11 円柱部材(台座)
11a 上皿凹部
12 球体(重り)
13 ケーブル
21 円管
22 金属球
23 スライダー
24 ケーブル
31 円管
32 金属球
33 電極
34 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスト(2)に対して揺動可能に取り付けらたブーム(3)と、
マスト(2)とブーム(3)との間に掛け渡されたセール(4)と、
ブーム(3)に接続されたロープ部材(5)と、
ロープ部材(5)を船体(1)の一部に接続する接続部材(6)と、
船体(1)が所定の角度に傾斜したことを検出する傾斜検出装置(11、12、13、21、22、23、24、31、32、33、34)とを具備し、
船体(1)が所定の角度に傾斜したことを傾斜検出装置が検出した時に、接続部材(6)がロープ部材(5)の接続を開放してセール(4)に当たる風を逃がすことを特徴とするヨットの転倒防止装置。
【請求項2】
前記傾斜検出装置が、
船体(1)に設けられた台座(11a)と、
台座(11a)に載置された重り(12)とを具備し、
船体(1)が所定の角度に傾斜したことを、重り(12)が落下することにより検出することを特徴とする請求項1に記載のヨットの転倒防止装置。
【請求項3】
前記傾斜検出装置が、
船体(1)に設けられたU字状円管(21)と、
U字状円管(21)の中に収められた球体(22)とを具備し、
船体(1)が所定の角度に傾斜したことを、球体(22)がU字状円管(21)の端部に移動することにより検出することを特徴とする請求項1に記載のヨットの転倒防止装置。
【請求項4】
前記傾斜検出装置が、
船体(1)に設けられたU字状円管(31)と、
U字状円管(31)の端部に設けられた電極(33、34)と、
U字状円管(31)の中に収められた導体(32)とを具備し、
船体(1)が所定の角度に傾斜したことを、導体(32)が電極(33、34)を導通させることにより検出することを特徴とする請求項1に記載のヨットの転倒防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2006−341643(P2006−341643A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166881(P2005−166881)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(505213677)
【出願人】(505213688)
【出願人】(505212382)