ラケットフレーム
【課題】打球感の向上を図るとともに、打球のコントロール性を向上させることが可能なラケットフレームを提供する。
【解決手段】ラケットフレーム1は、打球部4と、シャフト部6と、グリップ部7とから構成されるラケットフレーム1であって、打球部4は、高剛性部2と低剛性部3と中剛性部(高剛性部2および低剛性部3以外の領域)とを有する。高剛性部2は、打球部4にねじれ振動が起きたときの面外方向での最大振幅を示す部位を含む複数の腹部のうち、打球部4においてラケットフレーム1の先端側に位置する先端側腹部に配置された、相対的に剛性が高くなっている部分である。低剛性部3は、高剛性部2から見てグリップ部7側に位置し、高剛性部2より相対的に剛性が低くなっている部分である。中剛性部は、低剛性部3から見てグリップ部7側に位置する、低剛性部3より相対的に剛性が高く、かつ高剛性部2より相対的に剛性が低くなっている部分である。
【解決手段】ラケットフレーム1は、打球部4と、シャフト部6と、グリップ部7とから構成されるラケットフレーム1であって、打球部4は、高剛性部2と低剛性部3と中剛性部(高剛性部2および低剛性部3以外の領域)とを有する。高剛性部2は、打球部4にねじれ振動が起きたときの面外方向での最大振幅を示す部位を含む複数の腹部のうち、打球部4においてラケットフレーム1の先端側に位置する先端側腹部に配置された、相対的に剛性が高くなっている部分である。低剛性部3は、高剛性部2から見てグリップ部7側に位置し、高剛性部2より相対的に剛性が低くなっている部分である。中剛性部は、低剛性部3から見てグリップ部7側に位置する、低剛性部3より相対的に剛性が高く、かつ高剛性部2より相対的に剛性が低くなっている部分である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラケットフレームに関し、より特定的には、打球のコントロール性と打球感の向上を図ることが可能なラケットフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テニスなどのラケットフレームに関して、打球時の振動を抑制するためにラケットフレームの打球部において局所的に厚みを厚くする、あるいは防振部材を付加する、といった構成が提案されている(たとえば、特開平9−122278号公報(特許文献1)や特開平8−280847号公報(特許文献2)参照)。
【0003】
上記特開平9−122278号公報では、打球部(フェース部)とシャフト部との連結部付近のラケットフレームの厚さが、当該連結部に向かって徐々に大きくなっているラケットフレームが開示されている。また、上記特開平8−280847号公報では、ラケットフレームの曲げ振動の節の位置に高弾性部材からなる防振部材を付加する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−122278号公報
【特許文献2】特開平8−280847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般的なプレイヤーの場合、ラケットの打球時には、打球部のほぼ中央部よりも先端側で、かつ打球部の幅方向のサイド側にずれた位置でボールを打つ場合がある。このような場合、ラケットフレームの曲げ振動やねじれ振動が起き、打球感の悪化や打球のコントロール性の劣化などの問題が発生する。そして、上述のような従来のラケットフレームでは、上記のような打球感の悪化と打球のコントロール性の劣化の両者を効果的に抑制することは難しかった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、打球感の向上を図るとともに、打球のコントロール性を向上させることが可能なラケットフレームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従ったラケットフレームは、打球部と、シャフト部と、グリップ部とから構成されるラケットフレームであって、打球部は、高剛性部と低剛性部と中剛性部とを有する。高剛性部は、打球部にねじれ振動が起きたときの面外方向での最大振幅を示す部位を含む複数の腹部のうち、打球部においてラケットフレームの先端側に位置する先端側腹部に配置された、相対的に剛性が高くなっている部分である。低剛性部は、高剛性部から見てグリップ部側に位置し、高剛性部および中剛性部より相対的に剛性が低くなっている部分である。中剛性部は、低剛性部から見てグリップ部側に位置する、低剛性部より相対的に剛性が高く、かつ高剛性部より相対的に剛性が低くなっている部分である。
【0008】
このようにすれば、ラケットフレームのねじれ振動の腹部(先端側腹部)についてラケットフレームの剛性を高めることによって、当該ねじれ振動の振動数が増加し、結果的にねじれに対するラケットフレームの剛性を高めることができる。そのため、ラケットフレームでの打球時のねじれを抑制することができるので、結果的に打球のコントロール性を向上させることができる。
【0009】
また、上記のように低剛性部を形成することにより、ラケットフレームの打球部における(面外方向での)1次曲げ振動の節の位置が先端側へシフトする。この結果、打球部のいわゆるスイートスポットが先端側へシフトするので、プレイヤーが打球部の先端側でボールを打った場合にも、ラケットフレームの曲げ振動の発生が抑制される。このため、打球部の先端側でボールを打った場合でも、振動により打球感が悪化するという問題の発生を抑制できる。この結果、打球部の先端側、かつ幅方向のサイド側にずれた位置でボールを打った場合であっても、ラケットフレームの曲げ振動による振動を抑制し、かつ、打球のコントロール性を向上させることができる。
【0010】
なお、ここで剛性とは曲げなどの外力に対して寸法変化の小さいことを言い、たとえば材料として弾性率の大きい材料を用いることで剛性を高くすることができる。また、同じ材料であれば、断面積を大きくする(厚みを厚くする)ことで剛性を高めることができる。そのため、ラケットフレームにおいては、当該ラケットフレームの断面積や用いられている材料の種類(その材料の弾性率)を確認することで、高剛性部や低剛性部を判別することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、打球部において所定の位置に高剛性部と低剛性部とを形成することで、打球部の先端側かつサイド側にずれた位置でボールを打った場合であっても、ラケットフレームの振動を抑制し、かつ、打球のコントロール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるラケットフレームの実施の形態1を示す平面模式図である。
【図2】図1に示したラケットフレームの側面模式図である。
【図3】図1の線分III−IIIにおけるラケットフレームの断面模式図である。
【図4】図1の線分IV−IVにおけるラケットフレームの断面模式図である。
【図5】図1の線分V−Vにおけるラケットフレームの断面模式図である。
【図6】図1および図2に示したラケットフレームについて、面外方向での一次ねじれ振動の状態を示す模式図である。
【図7】図1および図2に示したラケットフレームについて、面外方向での一次ねじれ振動の状態を示す模式図である。
【図8】図1および図2に示したラケットフレームの変形例を示す平面模式図である。
【図9】図3に示した高剛性部のラケットフレームの断面構造の変形例を示す断面模式図である。
【図10】図3に示した高剛性部のラケットフレームの断面構造の変形例を示す断面模式図である。
【図11】図3に示した高剛性部のラケットフレームの断面構造の変形例を示す断面模式図である。
【図12】図1および図2に示したラケットフレームの他の変形例を示す平面模式図である。
【図13】図12に示したラケットフレームに用いられる補強部材の形状を示す模式図である。
【図14】本発明によるラケットフレームの実施の形態2を示す平面模式図である。
【図15】高剛性部と低剛性部との配置を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0014】
(実施の形態1)
図1および図2を参照して、本発明によるラケットフレームの実施の形態1を説明する。
【0015】
図1および図2に示すように、ラケットフレーム1は、打球部4と、シャフト部6と、グリップ部7とを備える硬式テニス用のラケットフレームであって、打球部4において相対的に剛性が高くなっている高剛性部2と、相対的に剛性が低くなっている低剛性部3とが形成されている。なお、この高剛性部2および低剛性部3以外の領域は、低剛性部3よりも剛性が高く、かつ高剛性部2よりも剛性が低くなっている中剛性部である。高剛性部2は、打球部4においてねじれ振動が発生したときの面外方向における振幅が大きくなっている領域(腹部)のうち、ラケットフレーム1の先端側における2つの腹部(先端側腹部)に形成されている。そして、高剛性部2よりもグリップ側に位置する部分には、相対的に剛性が低くなっている低剛性部3が2箇所形成されている。図2に示すように、ラケットフレーム1の側面から見た打球部4の高さはその全体に亘ってほぼ均一になっている。なお、図2は、図1の矢印14に示す方向から見た側面模式図である。
【0016】
次に、図3〜図5を参照して、ラケットフレームの断面構造を説明する。
図3に示したラケットフレームの断面は、図1からもわかるように高剛性部2を構成するラケットフレーム1の部分の断面模式図となっている。また、図4に示す断面模式図は、図1からもわかるように低剛性部3を構成するラケットフレーム1の部分の断面模式図となっている。また、図5に示す断面模式図は、図1からもわかるように高剛性部2および低剛性部3以外の領域、すなわち中剛性部を構成するラケットフレーム1の部分の断面模式図になっている。図2〜図5から分かるように、ラケットフレームの面外方向(打球部の面内方向に対して垂直な方向であり、打球部での打球面(ガットを張った場合のガット面)に対して垂直な方向)における高さTは高剛性部2、低剛性部3およびそれ以外の領域においても一定となっている。また、打球部4においては、図2〜図5に示すように外周側の側面には凹部10が形成されている。この凹部10の底部には、図示していないがガットを通すための孔が複数個形成されている。
【0017】
図3〜図5からわかるように、高剛性部2におけるラケットフレームの(面内方向での)幅W1は、低剛性部3におけるラケットフレームの幅W2および他の領域におけるラケットフレームの幅W3よりも大きくなっている。また、高剛性部2においては、図3に示すようにラケットフレーム1を構成するベース体9の内部に補強部材11が埋設されている。この補強部材11は、たとえば図3に示すようにラケットフレームの面外方向の端面近傍に、面内方向に沿って延びるように(ラケットフレームの外周面に沿って延びるように)配置されている。補強部材11の材料としては、たとえば金属や高弾性の繊維、硬度の高い樹脂など任意の材料を用いることができる。
【0018】
また、図4に示すように、低剛性部3におけるラケットフレームの(面内方向での)幅W2は、高剛性部2におけるラケットフレームの当該幅W1および図5に示した他の領域におけるラケットフレームの当該幅W3よりも小さくなっている。そして、図5に示したいわゆる中剛性部を構成するラケットフレーム1の幅W3は、図3に示した高剛性部2におけるラケットフレームの幅W1よりも小さく、かつ図4に示した低剛性部3のラケットフレームの幅W2よりも大きくなっている。つまり、ラケットフレーム1の断面積を考えると、高剛性部2での断面積が最も大きく、図5に示したいわゆる中剛性部での断面積が次に大きく、低剛性部3での断面積が最も小さくなっている。このように、ラケットフレーム1の断面積を変更することで、ラケットフレームの各部分の剛性を調整することができる。また、図3に示したように、補強部材11をベース体9の内部に埋設する、あるいはベース体9の外周面に補強部材11を貼り付ける、といった方法により剛性を調整することができる。
【0019】
ここで、上述の高剛性部2の位置は、以下のようにして決定される。図6は、ラケットフレームの面外方向から見た平面模式図であり、図7はラケットフレームの面内方向から見た側面模式図である。なお、図6および図7は図1および図2に対応する。なお、図6および図7に示した解析結果は、アルテアエンジニアリング株式会社製のHYPERMESH(バージョン10)を用いて固有値解析を行なったものである。計算条件としては、ラケットフレームの全長を694mm、打球部4の長さを341mm、シャフト部6の長さを155mm、グリップ部7の長さを198mm、打球部4の面内方向での最大幅(グリップ部7の延在方向に対して垂直な方向での面内方向における打球部4の最大幅)を263mm、打球部4のラケットフレームの面外方向高さTを22mm、面内方向幅を11.5mm、グリップ部7の幅を25mmとし、シェル要素のメッシュサイズを2mm、肉厚を1mmという条件を用いた。
【0020】
図6および図7に示すように、ラケットフレームの面外一次ねじれ振動において、面外方向での振幅の大きい領域を腹部と呼び、振幅の最も小さい部分を節と呼ぶ。そして、図6および図7においては、最大振幅に対して60%以上の振幅を示す領域をハッチングで示している。当該領域を腹部8として示しているが、この腹部8のうち先端側の腹部8となる領域に、図1に示した高剛性部2を配置している。このような構成により、打球部4において打球部先端側かつサイド側(たとえば面外一次ねじれ振動の腹位置付近)での打球時に発生するねじれ振動を抑制する効果を得ることができる。
【0021】
また、図1に示した低剛性部3を形成することにより、ラケットフレーム1の面外方向における一次曲げ振動に関して、振動の節の位置がラケットフレーム1の先端側に移動することができる。そして、ラケットフレーム1を使用するプレイヤーがラケットフレームのより先端側に近い領域でボールを打つ場合に、ラケットフレーム1のいわゆるスイートスポットにより近い部分で実際にボールの打撃を行なうことができる。このため、打球によりラケットフレームに発生する面外一次曲げ振動を抑制することができる。
【0022】
次に、図8を参照して、図1および図2に示したラケットフレーム1の変形例を説明する。
【0023】
図8に示したラケットフレーム1は、基本的には図1および図2に示したラケットフレーム1と同様の構造を備えるが、低剛性部3よりもグリップ部7側にさらに他の高剛性部2が形成されている点が異なる。打球部4において先端側に位置する高剛性部2は、ラケットフレーム1の先端からグリップ部の延在方向に沿った方向において距離L1だけ離れた位置から、当該ラケットフレームの先端部から距離(L1+L2)だけ離れた位置まで延在するように形成されている。また、低剛性部3は、ラケットフレーム1の先端部から距離L3だけ離れた位置から、グリップ部7の延在方向において所定の距離だけ延びるように形成されている。打球部4において、面内方向における最大幅を示す位置である最大幅部分5は、ラケットフレーム1の先端部から距離L4だけ離れた位置になっている。低剛性部3は、当該最大幅部分5よりも先端側であって、当該最大幅部分5と高剛性部2との間に配置されている。
【0024】
そして、低剛性部3よりもグリップ部側に位置する他の高剛性部2は、ラケットフレーム1の先端から距離L6だけ離れた位置から、当該先端部から距離(L6+L5)だけ離れた位置にまで延びるように形成されている。図8に示したラケットフレーム1では、このグリップ部7側の高剛性部2は、先端から距離L6の位置から、シャフト部6の一部も含むように形成されている。また、異なる観点から言えば、当該他の高剛性部2は、打球部4の最大幅部分5よりもグリップ部7側の位置から、グリップ部7側に配置された打球部4の部分全体と、シャフト部6の一部とにより構成されている。グリップ部7の延在方向に沿った方向における打球部4の長さL7を基準として考えた場合、打球部4における先端側の高剛性部2の長さL2は当該打球部4の長さL7のたとえば10%以上30%以下とすることができる。
【0025】
また、図3〜図5に示した各領域の断面積について、図5に示した中剛性部のラケットフレームの断面積を基準にした場合に、図3に示した高剛性部2のラケットフレームの断面積は図5に示したラケットフレームの断面積に対して約6%以上12%以下増加しており、より好ましくは7%以上10%以下増加しており、さらに好ましくは約8%増加している。また、図4に示した低剛性部3のラケットフレームの断面積は、図5に示したいわゆる中剛性部のラケットフレームの断面積に対して約3%以上約8%以下減少し、さらに好ましくは4%以上7%以下減少し、さらに好ましくは約5%減少している。また、異なる観点から言えば、図4に示した低剛性部3のラケットフレームの断面積は、図3に示した高剛性部2のラケットフレームの断面積に対して約10%以上20%以下減少し、より好ましくは12%以上18%以下減少し、さらに好ましくは約14%減少していてもよい。
【0026】
次に、図9〜図11を参照して、本発明によるラケットフレームのさらなる変形例を説明する。
【0027】
図9に示したラケットフレーム1の高剛性部2の断面構造は、ベース体9に補強部材11が埋設されている点に関しては図3に示したラケットフレームの断面構造と同様であるが、補強部材11の形状が図3に示した断面構造とは異なっている。すなわち、図9に示したラケットフレームの断面においては、補強部材11がラケットフレーム1の外周側に位置する凹部10の側壁からラケットフレームの外周に沿って打球部4の内面側にまで延在するように形成されている。このように図3に比べてより大きな補強部材11を用いることで、高剛性部2の剛性をさらに高めることができる。
【0028】
図10に示したラケットフレーム1の高剛性部2の断面構造においては、ラケットフレーム1の表面に沿った形状である、環状の補強部材11がベース体9の内部に埋設されている。なお、図10に示した断面においては、ガットを通すための孔が記載されていないが、当該ガットを通すための孔が形成される部分については、補強部材11においてもガットを通すための孔が形成されている。図10に示したような構造によっても、高剛性部2の剛性を高めることができる。また、このように補強部材11を用いることで、ラケットフレーム1の面内方向での幅(すなわちラケットフレームの断面積)を変更するといった手法を用いずに高剛性部の剛性を高めることも可能である。
【0029】
図11に示したラケットフレームの高剛性部2の断面においては、ラケットフレーム1の打球部4における面外方向での端部のみに補強部材11が配置されている。高剛性部2において求められる剛性の程度によっては、図11に示したように補強部材11のサイズを、図3に示した断面構造での補強部材11のサイズよりも小さくすることで、高剛性部2における剛性を調整することができる。
【0030】
次に、図12を参照して、本発明によるラケットフレームの他の変形例を説明する。
図12に示したラケットフレーム1は、基本的に図1および図2に示したラケットフレーム1と同様の構成を備えるが、低剛性部3が高剛性部2に隣接するように配置されている(つまり、低剛性部3と高剛性部2とが連続するように形成されている)点が図1および図2に示したラケットフレーム1と異なっている。ここで、図12では、ラケットフレーム1の低剛性部3と高剛性部2との剛性変化を説明するため、ラケットフレーム1の右側に剛性変化を模式的に示すグラフを記載している。図12の当該グラフにおいて、横軸はラケットフレーム1の剛性を示し、縦軸はラケット先端部からの距離を示している。図12から分かるように、高剛性部2ではその中央部において剛性値が一定となった領域(高原状に剛性が高く設定されている領域)が形成されている。また、低剛性部3は高剛性部2から見てグリップ側であって、高剛性部2に隣接して設けられている。また、低剛性部3では、剛性値がもっとも小さくなる領域が、ラケットフレーム1の延在方向におけるほぼ中央部に形成されている。つまり、低剛性部3では剛性のもっとも小さくなった部分が点状となっている。また、異なる観点から言えば、低剛性部3では、剛性変化が下に凸の滑らかな曲線状となっている。
【0031】
さらに、高剛性部2から低剛性部3にかけて、その境界部では剛性は滑らかに変化しており、剛性が一定に保たれた領域は存在していない。また、高剛性部2と低剛性部3との境界部における剛性変化率(図12のグラフの縦軸(位置)における単位距離あたりの剛性変化量)は、低剛性部3と中剛性部との境界部(つまり、低剛性部3においてグリップ側に位置する端部)での剛性変化率より大きくなっている。
【0032】
ここで、高剛性部2の相対的に高い剛性は、図13に示すような補強部材11をラケットフレーム1の当該部分に配置することで実現できる。たとえばラケットフレーム1の内部に補強部材11を埋設する、あるいはラケットフレーム1の外周表面に補強部材11を設置する、など任意の方法を採用できる。また、高剛性部2における剛性変化率は、たとえば図13の補強部材11における両端部の端面の傾斜角度(補強部材11の外周の長辺に対する端面のなす角度)を調整することで、任意に調整できる。
【0033】
また、低剛性部3は、ラケットフレーム1の延在方向に垂直な方向における断面での面積(断面積)を、高剛性部2および中剛性部より小さくすることで剛性を低くしている。断面積の調整方法としては、図4に示した高さTおよび/または幅W2を他の部分における高さや幅より小さくするといった方法を用いることができる。
【0034】
上記のような構成のラケットフレーム1によれば、図1および図2に示したラケットフレーム1と同様の効果を得ることができる。さらに、ねじれ振動を抑制するため、当該捩れ振動の腹部に高剛性部2を配置しているが、このようにすることで1次曲げ振動の節がラケットフレーム1の先端から離れる傾向がある。そこで、上記のように低剛性部3を設けることにより、1次曲げ振動の節の位置を先端側へシフトさせている。また、発明者が検討したところ、低剛性部3の位置が高剛性部2に近いほど、つまり理想的には高剛性部2に隣接するように低剛性部3が配置されていれば、最も効果的に1次曲げ振動の節の位置を先端側へシフトさせることができ、結果的にスイートスポットの位置もラケットフレームの先端側へシフトさせることができる。
【0035】
また、ねじれ振動の節以外の位置(たとえば腹の位置)に配置された高剛性部2の剛性が高くなるほど、ねじれ振動を抑制する効果は高くなるが、一方でスイートスポットの位置が打球面のセンターからグリップ寄りに移動することになる。そのため、ねじれ振動を抑制しながら、スイートスポットの移動もある程度抑制するという観点から、高剛性部2の剛性は図12や図13に示すように、その中央部が一定の値となっている(高原状になっている)ことが好ましい。
【0036】
また、低剛性部3については、当該低剛性部3における打球時の変形量が相対的に大きくなるため、ラケットフレーム1の耐久性の観点から高剛性部2より低剛性部3の長さ(ラケットフレーム1の延在方向における長さ)を小さくすることが好ましい。さらに、低剛性部3はスポット状に設けることがより好ましい。
【0037】
また、低剛性部3のグリップ側での端部では、低剛性部3から中剛性部に向けて剛性変化率を(高剛性部2と低剛性部3との境界部より)小さくしている。このように剛性の変化をなだらかにすることで、低剛性部3と中剛性部との境界部における応力集中を抑制できる。
【0038】
(実施の形態2)
図14を参照して、本発明の実施の形態2のラケットフレームを説明する。なお、図14は図8に対応する。
【0039】
図14に示したラケットフレームは、基本的には図8に示したラケットフレームと同様の構造を備える。ただし、上述した実施の形態1に示したラケットフレーム1は硬式用であるのに対して、図14に示したラケットフレーム1はソフトテニス用のラケットフレーム1である。したがって、シャフト部6および打球部4の形状が若干図8に示したラケットフレーム1とは異なっている。そして、上述した以外の点においては、図8に示したラケットフレーム1と同様の構造を備えている。このようなラケットフレーム1においても、図8に示したラケットフレームと同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、図14に示したラケットフレーム1では、高剛性部2がラケットフレーム1の先端側に2つ、そして低剛性部3よりもグリップ部7側に1つ形成されているが、当該グリップ部7側の高剛性部2を形成せずに、先端側の2つの高剛性部2および低剛性部3のみを形成してもよい。
【0041】
ここで、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本願発明の特徴的な構成を以下に列挙する。
【0042】
この発明に従ったラケットフレーム1は、打球部4と、シャフト部6と、グリップ部7とから構成されるラケットフレーム1であって、打球部4は、高剛性部2と低剛性部3と中剛性部(高剛性部2および低剛性部3以外の領域)とを有する。高剛性部2は、打球部4にねじれ振動が起きたときの面外方向での最大振幅を示す部位を含む複数の腹部8のうち、打球部4においてラケットフレーム1の先端側に位置する先端側腹部(図6および図7のラケットフレーム1における先端側に位置する腹部8)に配置された、相対的に剛性が高くなっている部分である。低剛性部3は、高剛性部2から見てグリップ部7側に位置し、高剛性部2より相対的に剛性が低くなっている部分である。中剛性部は、低剛性部3から見てグリップ部7側に位置する、低剛性部3より相対的に剛性が高く、かつ高剛性部2より相対的に剛性が低くなっている部分である。
【0043】
このようにすれば、ラケットフレーム1のねじれ振動の腹部8(図6および図7のラケットフレーム1における先端側に位置する腹部8)についてラケットフレーム1の剛性を高めることによって、当該ねじれ振動の振動数が増加し、結果的にねじれに対するラケットフレーム1の剛性を高めることができる。そのため、ラケットフレーム1での打球時のねじれを抑制することができるので、結果的に打球のコントロール性を向上させることができる。
【0044】
また、上記のように低剛性部3を形成することにより、ラケットフレーム1の打球部4における(面外方向での)1次曲げ振動の節の位置が先端側へシフトする。この結果、打球部4のいわゆるスイートスポットが先端側へシフトするので、プレイヤーが打球部4の先端側でボールを打った場合にも、ラケットフレーム1の面外方向での曲げ振動の発生が抑制される。このため、打球部4の先端側でボールを打った場合でも、振動により打球感が悪化するという問題の発生を抑制できる。この結果、打球部4の先端側、かつ幅方向のサイド側にずれた位置でボールを打った場合であっても、ラケットフレームの曲げ振動による振動を抑制し、かつ、打球部のねじれを抑制することで打球のコントロール性を向上させることができる。
【0045】
上記ラケットフレーム1では、図12に示すように、低剛性部3は高剛性部2に隣接して位置していてもよく、中剛性部は、低剛性部3に隣接して位置していてもよい。この場合、より効果的にスイートスポットをラケットフレーム1の先端側へ移動させることができる。
【0046】
上記ラケットフレーム1では、図3〜図5に示すように、高剛性部2におけるラケットフレーム1の断面積は、中剛性部および低剛性部3でのラケットフレーム1の断面積(図4および図5参照)より大きくてもよく、中剛性部におけるラケットフレーム1の断面積(図5参照)は、低剛性部3でのラケットフレーム1の断面積(図4参照)より大きくてもよい。この場合、ラケットフレーム1の断面積を調整することで、高剛性部2、低剛性部3、中剛性部を容易に形成することができる。
【0047】
上記ラケットフレーム1において、図3、図9〜図11に示すように、高剛性部2には補強部材11が配置されていてもよい。この場合、補強部材11を配置することで高剛性部2の剛性をより高めることができる。
【0048】
上記ラケットフレーム1において、図8に示すように、打球部4は、腹部8(図6および図7参照)のうち打球部4において低剛性部3よりグリップ部7側に位置するグリップ部側腹部(図6および図7においてグリップ部7に近い腹部8)に配置された、中剛性部より相対的に剛性が高くなっている他の高剛性部2をさらに有していてもよい。
【0049】
この場合、グリップ部7に近い腹部8の剛性をさらに高めることで、ねじれ振動の発生をより確実に抑制することができる。このため、打球のコントロール性をより向上させることができる。
【0050】
上記ラケットフレーム1において、他の高剛性部2におけるラケットフレーム1の断面積は、中剛性部(高剛性部2および低剛性部3以外の領域)および低剛性部3でのラケットフレーム1の断面積より大きくてもよい。この場合、ラケットフレーム1の断面積を調整することで、他の高剛性部2を容易に形成することができる。
【0051】
上記ラケットフレーム1において、他の高剛性部2には補強部材11が配置されていてもよい。この場合、補強部材11を配置することで他の高剛性部2の剛性をより高めることができる。
【0052】
上記ラケットフレーム1において、図1、図8、図12、図14に示すように、低剛性部3は、グリップ部7の延在方向と直交する方向における面内方向での最大幅部分5より、打球部4の先端側に位置してもよい。この場合、最大幅部分5に低剛性部3が配置されることで、打球部4全体の剛性が低下してラケットフレーム1の耐久性が低下するという問題の発生を避けることができる。
【0053】
(実施例1)
本発明の効果を確認するべく、以下のようなシミュレーション実験を行なった。
【0054】
(実験条件)
アルテアエンジニアリング株式会社製のHYPERMESH(バージョン10)を用いて、低剛性部における剛性を変化させたときの、面外一次振動の節の位置の変位を算出した。計算条件としては、計算対象のラケットフレームとして図8に示した形状のラケットフレームを用い、当該ラケットフレームの寸法については、ラケットフレームの全長を694mm、打球部4の長さを341mm、シャフト部6の長さを155mm、グリップ部7の長さを198mm、打球部4の面内方向での最大幅を263mm、打球部4のラケットフレームの面外方向高さTを22mm、面内方向幅を11.5mm、グリップ部7の幅を25mmとした。低剛性部3の位置については、図8においてラケットフレームの先端部からの距離L3を114mmとし、グリップ部7の延在方向に沿った方向での低剛性部3の長さを13mmとした。また、シェル要素のメッシュサイズを2mm、肉厚を1mmとした。なお、シミュレーションの対象としたラケットフレームでは、高剛性部は形成しなかった。
【0055】
そして、低剛性部3での剛性を変化させて、面外一次振動での節の位置をシミュレーションにより求めた。なお、低剛性部3での剛性については、条件1:他の部分と同じ(剛性の低下率0%)、条件2:他の部分の20%(剛性の低下率80%)、条件3:他の部分の10%(剛性の低下率90%)、条件4:他の部分の5%(剛性の低下率95%)、条件5:他の部分の2%(剛性の低下率98%)、という5つの条件でシミュレーションを行なった。
【0056】
(結果)
条件1の場合、振動の節の位置はラケットフレームの先端部から119mmの位置であった。一方、条件2の場合には、当該節の位置は先端部から118mm、条件3の場合には115mm、条件4の場合には110mm、条件5の場合には105mmとなった。すなわち、低剛性部3での剛性を低下させるほど、面外一次振動の節の位置はラケットフレーム1の先端部側へシフトしていた。
【0057】
(実施例2)
本発明の効果を確認するべく、高剛性部での剛性を変化させたときの、ねじれ振動の振動数の変化について、以下のようなシミュレーション実験をさらに行なった。
【0058】
(実験条件)
上述した実施例1と同じ解析ソフトを用い、また、シミュレーションの対象としたラケットフレームのサイズも上述した実施例1と同様とした。ただし、ラケットフレームには低剛性部3は形成せず、図8においてラケットフレーム1の先端側に位置する2つの高剛性部2のみを形成した。高剛性部2の位置については、当該先端部から高剛性部2の端部までの距離L1を22mmとし、図8における距離L2を78mmとした。
【0059】
そして、高剛性部2での剛性を変化させて、ねじれ振動の振動数をシミュレーションにより求めた。なお、高剛性部2での剛性については、条件1:他の部分と同じ(剛性の向上率0%)、条件2:他の部分の5倍(剛性の向上率500%)、条件3:他の部分の10倍(剛性の向上率1000%)、という3つの条件でシミュレーションを行なった。
【0060】
(結果)
条件1の場合の振動数を1とした場合、条件2の振動数は1.11、条件3の振動数は1.13となった。このように振動数が大きくなることは、すなわちねじれ剛性が高くなった(ねじれ難くなった)ことを意味する。
【0061】
(実施例3)
本発明の効果を確認するべく、高剛性部と低剛性部とを両方形成した場合について、面外一次曲げ振動の節の位置とねじれ振動の振動数をシミュレーションにより求めた。
【0062】
(実験条件)
上述した実施例1と同じ解析ソフトを用い、また、シミュレーションの対象としたラケットフレームのサイズも上述した実施例1と同様とした。ただし、この実施例3においてシミュレーションの対象としたラケットフレームでは、実施例1で形成した低剛性部と実施例2で形成した高剛性部の両方を形成した。低剛性部および高剛性部の配置やサイズは、基本的に実施例1および実施例2におけるラケットフレームと同様とした。そして、低剛性部と高剛性部との剛性を変化させて、上述した曲げ振動の節の位置とねじれ振動の振動数をシミュレーションにより求めた。
【0063】
なお、剛性の条件としては、条件1:高剛性部および低剛性部とも、他の部分と同じ剛性、条件2:高剛性部での剛性を他の部分の剛性の5倍(剛性の向上率500%)とし、低剛性部での剛性を他の部分での剛性の10%(剛性の低下率90%)とする、という2つの条件でシミュレーションを行なった。
【0064】
(結果)
条件1での曲げ振動の節の位置はラケットフレームの先端部から119mmの位置であった。一方、条件2での曲げ振動の節の位置は、ラケットフレームの先端部から118mmであった。また、条件2でのねじれ振動の振動数は、条件1での当該振動数を1とした場合に、1.02と大きくなっていた。
【0065】
このことから、本発明の実施例に対応する条件2では、条件1より節の位置が先端側にシフトするとともに、ねじれ振動の振動数が大きくなっている(ねじれにくくなっている)ことがわかる。
【0066】
(実施例4)
本発明の効果を確認するべく、低剛性部の位置を変化させたときの、面外一次曲げ振動の節の位置の変化について、以下のようなシミュレーション実験をさらに行なった。
【0067】
(実験条件)
上述した実施例1と同じ解析ソフトを用い、また、シミュレーションの対象としたラケットフレームのサイズも上述した実施例1と同様とした。ただし、この実施例4においてシミュレーションの対象としたラケットフレームでは、実施例1で形成した低剛性部と実施例2で形成した高剛性部の両方を形成した。高剛性部の配置やサイズ、および低剛性部のサイズは、基本的に実施例1および実施例2におけるラケットフレームと同様とした。そして、低剛性部の位置(つまり高剛性部と低剛性部との間の距離)を変化させて、上述した曲げ振動の節の位置をシミュレーションにより求めた。
【0068】
なお、低剛性部の位置条件は、条件1:図15(A)に示すように低剛性部が高剛性部に隣接した状態(図8における距離L3を113mmとした場合)、条件2:図15(B)に示すように、低剛性部3が高剛性部2からある程度はなれた状態(図8における距離L3を131mmとした場合)、条件3:図15(C)に示すように、低剛性部3が高剛性部2から条件2の構成より離れた場合(図8における距離L3を163mmとした場合)、条件4:図15(D)に示すように、低剛性部を形成せずに、高剛性部2においてグリップ部側に相対的に剛性の低い領域を形成した場合、という4条件について検討した。また、条件4は参考例である。
【0069】
なお、条件4において高剛性部2中の相対的に剛性の低い領域の剛性は、他の高剛性部2における剛性の0.4倍とし、また、当該相対的に剛性の低い領域の長さは、高剛性部2の全体に対して18%とした。ここで、上述した図15の各グラフは剛性分布を模式的に示したものである。
【0070】
また、上述した各条件の高剛性部の剛性および低剛性部の剛性については、上記実施例3の条件2と同様の条件を採用した。
【0071】
(結果)
条件1〜条件4での曲げ振動の節の位置は、それぞれラケットフレームの先端部から118mm、120mm、121mm、122mmの位置であった。なお、高剛性部および低剛性部を形成しない場合(剛性変化がない場合)の当該節の位置は、実施例3で示したようにラケットフレームの先端部から119mmであった。
【0072】
このように、図15(A)で示したように高剛性部に隣接して低剛性部を形成することによって、一次曲げ振動の節の位置をラケットフレームのより先端側へ移動させることができた。このようにすれば、スイートスポットの位置をラケットフレームの先端側へ確実に移動させることができる。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
この発明は、テニスのラケットフレームに対して特に有効に適用される。
【符号の説明】
【0075】
1 ラケットフレーム、2 高剛性部、3 低剛性部、4 打球部、5 最大幅部分、6 シャフト部、7 グリップ部、8 腹部、9 ベース体、10 凹部、11 補強部材、14 矢印。
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラケットフレームに関し、より特定的には、打球のコントロール性と打球感の向上を図ることが可能なラケットフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テニスなどのラケットフレームに関して、打球時の振動を抑制するためにラケットフレームの打球部において局所的に厚みを厚くする、あるいは防振部材を付加する、といった構成が提案されている(たとえば、特開平9−122278号公報(特許文献1)や特開平8−280847号公報(特許文献2)参照)。
【0003】
上記特開平9−122278号公報では、打球部(フェース部)とシャフト部との連結部付近のラケットフレームの厚さが、当該連結部に向かって徐々に大きくなっているラケットフレームが開示されている。また、上記特開平8−280847号公報では、ラケットフレームの曲げ振動の節の位置に高弾性部材からなる防振部材を付加する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−122278号公報
【特許文献2】特開平8−280847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般的なプレイヤーの場合、ラケットの打球時には、打球部のほぼ中央部よりも先端側で、かつ打球部の幅方向のサイド側にずれた位置でボールを打つ場合がある。このような場合、ラケットフレームの曲げ振動やねじれ振動が起き、打球感の悪化や打球のコントロール性の劣化などの問題が発生する。そして、上述のような従来のラケットフレームでは、上記のような打球感の悪化と打球のコントロール性の劣化の両者を効果的に抑制することは難しかった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、打球感の向上を図るとともに、打球のコントロール性を向上させることが可能なラケットフレームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従ったラケットフレームは、打球部と、シャフト部と、グリップ部とから構成されるラケットフレームであって、打球部は、高剛性部と低剛性部と中剛性部とを有する。高剛性部は、打球部にねじれ振動が起きたときの面外方向での最大振幅を示す部位を含む複数の腹部のうち、打球部においてラケットフレームの先端側に位置する先端側腹部に配置された、相対的に剛性が高くなっている部分である。低剛性部は、高剛性部から見てグリップ部側に位置し、高剛性部および中剛性部より相対的に剛性が低くなっている部分である。中剛性部は、低剛性部から見てグリップ部側に位置する、低剛性部より相対的に剛性が高く、かつ高剛性部より相対的に剛性が低くなっている部分である。
【0008】
このようにすれば、ラケットフレームのねじれ振動の腹部(先端側腹部)についてラケットフレームの剛性を高めることによって、当該ねじれ振動の振動数が増加し、結果的にねじれに対するラケットフレームの剛性を高めることができる。そのため、ラケットフレームでの打球時のねじれを抑制することができるので、結果的に打球のコントロール性を向上させることができる。
【0009】
また、上記のように低剛性部を形成することにより、ラケットフレームの打球部における(面外方向での)1次曲げ振動の節の位置が先端側へシフトする。この結果、打球部のいわゆるスイートスポットが先端側へシフトするので、プレイヤーが打球部の先端側でボールを打った場合にも、ラケットフレームの曲げ振動の発生が抑制される。このため、打球部の先端側でボールを打った場合でも、振動により打球感が悪化するという問題の発生を抑制できる。この結果、打球部の先端側、かつ幅方向のサイド側にずれた位置でボールを打った場合であっても、ラケットフレームの曲げ振動による振動を抑制し、かつ、打球のコントロール性を向上させることができる。
【0010】
なお、ここで剛性とは曲げなどの外力に対して寸法変化の小さいことを言い、たとえば材料として弾性率の大きい材料を用いることで剛性を高くすることができる。また、同じ材料であれば、断面積を大きくする(厚みを厚くする)ことで剛性を高めることができる。そのため、ラケットフレームにおいては、当該ラケットフレームの断面積や用いられている材料の種類(その材料の弾性率)を確認することで、高剛性部や低剛性部を判別することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、打球部において所定の位置に高剛性部と低剛性部とを形成することで、打球部の先端側かつサイド側にずれた位置でボールを打った場合であっても、ラケットフレームの振動を抑制し、かつ、打球のコントロール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるラケットフレームの実施の形態1を示す平面模式図である。
【図2】図1に示したラケットフレームの側面模式図である。
【図3】図1の線分III−IIIにおけるラケットフレームの断面模式図である。
【図4】図1の線分IV−IVにおけるラケットフレームの断面模式図である。
【図5】図1の線分V−Vにおけるラケットフレームの断面模式図である。
【図6】図1および図2に示したラケットフレームについて、面外方向での一次ねじれ振動の状態を示す模式図である。
【図7】図1および図2に示したラケットフレームについて、面外方向での一次ねじれ振動の状態を示す模式図である。
【図8】図1および図2に示したラケットフレームの変形例を示す平面模式図である。
【図9】図3に示した高剛性部のラケットフレームの断面構造の変形例を示す断面模式図である。
【図10】図3に示した高剛性部のラケットフレームの断面構造の変形例を示す断面模式図である。
【図11】図3に示した高剛性部のラケットフレームの断面構造の変形例を示す断面模式図である。
【図12】図1および図2に示したラケットフレームの他の変形例を示す平面模式図である。
【図13】図12に示したラケットフレームに用いられる補強部材の形状を示す模式図である。
【図14】本発明によるラケットフレームの実施の形態2を示す平面模式図である。
【図15】高剛性部と低剛性部との配置を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0014】
(実施の形態1)
図1および図2を参照して、本発明によるラケットフレームの実施の形態1を説明する。
【0015】
図1および図2に示すように、ラケットフレーム1は、打球部4と、シャフト部6と、グリップ部7とを備える硬式テニス用のラケットフレームであって、打球部4において相対的に剛性が高くなっている高剛性部2と、相対的に剛性が低くなっている低剛性部3とが形成されている。なお、この高剛性部2および低剛性部3以外の領域は、低剛性部3よりも剛性が高く、かつ高剛性部2よりも剛性が低くなっている中剛性部である。高剛性部2は、打球部4においてねじれ振動が発生したときの面外方向における振幅が大きくなっている領域(腹部)のうち、ラケットフレーム1の先端側における2つの腹部(先端側腹部)に形成されている。そして、高剛性部2よりもグリップ側に位置する部分には、相対的に剛性が低くなっている低剛性部3が2箇所形成されている。図2に示すように、ラケットフレーム1の側面から見た打球部4の高さはその全体に亘ってほぼ均一になっている。なお、図2は、図1の矢印14に示す方向から見た側面模式図である。
【0016】
次に、図3〜図5を参照して、ラケットフレームの断面構造を説明する。
図3に示したラケットフレームの断面は、図1からもわかるように高剛性部2を構成するラケットフレーム1の部分の断面模式図となっている。また、図4に示す断面模式図は、図1からもわかるように低剛性部3を構成するラケットフレーム1の部分の断面模式図となっている。また、図5に示す断面模式図は、図1からもわかるように高剛性部2および低剛性部3以外の領域、すなわち中剛性部を構成するラケットフレーム1の部分の断面模式図になっている。図2〜図5から分かるように、ラケットフレームの面外方向(打球部の面内方向に対して垂直な方向であり、打球部での打球面(ガットを張った場合のガット面)に対して垂直な方向)における高さTは高剛性部2、低剛性部3およびそれ以外の領域においても一定となっている。また、打球部4においては、図2〜図5に示すように外周側の側面には凹部10が形成されている。この凹部10の底部には、図示していないがガットを通すための孔が複数個形成されている。
【0017】
図3〜図5からわかるように、高剛性部2におけるラケットフレームの(面内方向での)幅W1は、低剛性部3におけるラケットフレームの幅W2および他の領域におけるラケットフレームの幅W3よりも大きくなっている。また、高剛性部2においては、図3に示すようにラケットフレーム1を構成するベース体9の内部に補強部材11が埋設されている。この補強部材11は、たとえば図3に示すようにラケットフレームの面外方向の端面近傍に、面内方向に沿って延びるように(ラケットフレームの外周面に沿って延びるように)配置されている。補強部材11の材料としては、たとえば金属や高弾性の繊維、硬度の高い樹脂など任意の材料を用いることができる。
【0018】
また、図4に示すように、低剛性部3におけるラケットフレームの(面内方向での)幅W2は、高剛性部2におけるラケットフレームの当該幅W1および図5に示した他の領域におけるラケットフレームの当該幅W3よりも小さくなっている。そして、図5に示したいわゆる中剛性部を構成するラケットフレーム1の幅W3は、図3に示した高剛性部2におけるラケットフレームの幅W1よりも小さく、かつ図4に示した低剛性部3のラケットフレームの幅W2よりも大きくなっている。つまり、ラケットフレーム1の断面積を考えると、高剛性部2での断面積が最も大きく、図5に示したいわゆる中剛性部での断面積が次に大きく、低剛性部3での断面積が最も小さくなっている。このように、ラケットフレーム1の断面積を変更することで、ラケットフレームの各部分の剛性を調整することができる。また、図3に示したように、補強部材11をベース体9の内部に埋設する、あるいはベース体9の外周面に補強部材11を貼り付ける、といった方法により剛性を調整することができる。
【0019】
ここで、上述の高剛性部2の位置は、以下のようにして決定される。図6は、ラケットフレームの面外方向から見た平面模式図であり、図7はラケットフレームの面内方向から見た側面模式図である。なお、図6および図7は図1および図2に対応する。なお、図6および図7に示した解析結果は、アルテアエンジニアリング株式会社製のHYPERMESH(バージョン10)を用いて固有値解析を行なったものである。計算条件としては、ラケットフレームの全長を694mm、打球部4の長さを341mm、シャフト部6の長さを155mm、グリップ部7の長さを198mm、打球部4の面内方向での最大幅(グリップ部7の延在方向に対して垂直な方向での面内方向における打球部4の最大幅)を263mm、打球部4のラケットフレームの面外方向高さTを22mm、面内方向幅を11.5mm、グリップ部7の幅を25mmとし、シェル要素のメッシュサイズを2mm、肉厚を1mmという条件を用いた。
【0020】
図6および図7に示すように、ラケットフレームの面外一次ねじれ振動において、面外方向での振幅の大きい領域を腹部と呼び、振幅の最も小さい部分を節と呼ぶ。そして、図6および図7においては、最大振幅に対して60%以上の振幅を示す領域をハッチングで示している。当該領域を腹部8として示しているが、この腹部8のうち先端側の腹部8となる領域に、図1に示した高剛性部2を配置している。このような構成により、打球部4において打球部先端側かつサイド側(たとえば面外一次ねじれ振動の腹位置付近)での打球時に発生するねじれ振動を抑制する効果を得ることができる。
【0021】
また、図1に示した低剛性部3を形成することにより、ラケットフレーム1の面外方向における一次曲げ振動に関して、振動の節の位置がラケットフレーム1の先端側に移動することができる。そして、ラケットフレーム1を使用するプレイヤーがラケットフレームのより先端側に近い領域でボールを打つ場合に、ラケットフレーム1のいわゆるスイートスポットにより近い部分で実際にボールの打撃を行なうことができる。このため、打球によりラケットフレームに発生する面外一次曲げ振動を抑制することができる。
【0022】
次に、図8を参照して、図1および図2に示したラケットフレーム1の変形例を説明する。
【0023】
図8に示したラケットフレーム1は、基本的には図1および図2に示したラケットフレーム1と同様の構造を備えるが、低剛性部3よりもグリップ部7側にさらに他の高剛性部2が形成されている点が異なる。打球部4において先端側に位置する高剛性部2は、ラケットフレーム1の先端からグリップ部の延在方向に沿った方向において距離L1だけ離れた位置から、当該ラケットフレームの先端部から距離(L1+L2)だけ離れた位置まで延在するように形成されている。また、低剛性部3は、ラケットフレーム1の先端部から距離L3だけ離れた位置から、グリップ部7の延在方向において所定の距離だけ延びるように形成されている。打球部4において、面内方向における最大幅を示す位置である最大幅部分5は、ラケットフレーム1の先端部から距離L4だけ離れた位置になっている。低剛性部3は、当該最大幅部分5よりも先端側であって、当該最大幅部分5と高剛性部2との間に配置されている。
【0024】
そして、低剛性部3よりもグリップ部側に位置する他の高剛性部2は、ラケットフレーム1の先端から距離L6だけ離れた位置から、当該先端部から距離(L6+L5)だけ離れた位置にまで延びるように形成されている。図8に示したラケットフレーム1では、このグリップ部7側の高剛性部2は、先端から距離L6の位置から、シャフト部6の一部も含むように形成されている。また、異なる観点から言えば、当該他の高剛性部2は、打球部4の最大幅部分5よりもグリップ部7側の位置から、グリップ部7側に配置された打球部4の部分全体と、シャフト部6の一部とにより構成されている。グリップ部7の延在方向に沿った方向における打球部4の長さL7を基準として考えた場合、打球部4における先端側の高剛性部2の長さL2は当該打球部4の長さL7のたとえば10%以上30%以下とすることができる。
【0025】
また、図3〜図5に示した各領域の断面積について、図5に示した中剛性部のラケットフレームの断面積を基準にした場合に、図3に示した高剛性部2のラケットフレームの断面積は図5に示したラケットフレームの断面積に対して約6%以上12%以下増加しており、より好ましくは7%以上10%以下増加しており、さらに好ましくは約8%増加している。また、図4に示した低剛性部3のラケットフレームの断面積は、図5に示したいわゆる中剛性部のラケットフレームの断面積に対して約3%以上約8%以下減少し、さらに好ましくは4%以上7%以下減少し、さらに好ましくは約5%減少している。また、異なる観点から言えば、図4に示した低剛性部3のラケットフレームの断面積は、図3に示した高剛性部2のラケットフレームの断面積に対して約10%以上20%以下減少し、より好ましくは12%以上18%以下減少し、さらに好ましくは約14%減少していてもよい。
【0026】
次に、図9〜図11を参照して、本発明によるラケットフレームのさらなる変形例を説明する。
【0027】
図9に示したラケットフレーム1の高剛性部2の断面構造は、ベース体9に補強部材11が埋設されている点に関しては図3に示したラケットフレームの断面構造と同様であるが、補強部材11の形状が図3に示した断面構造とは異なっている。すなわち、図9に示したラケットフレームの断面においては、補強部材11がラケットフレーム1の外周側に位置する凹部10の側壁からラケットフレームの外周に沿って打球部4の内面側にまで延在するように形成されている。このように図3に比べてより大きな補強部材11を用いることで、高剛性部2の剛性をさらに高めることができる。
【0028】
図10に示したラケットフレーム1の高剛性部2の断面構造においては、ラケットフレーム1の表面に沿った形状である、環状の補強部材11がベース体9の内部に埋設されている。なお、図10に示した断面においては、ガットを通すための孔が記載されていないが、当該ガットを通すための孔が形成される部分については、補強部材11においてもガットを通すための孔が形成されている。図10に示したような構造によっても、高剛性部2の剛性を高めることができる。また、このように補強部材11を用いることで、ラケットフレーム1の面内方向での幅(すなわちラケットフレームの断面積)を変更するといった手法を用いずに高剛性部の剛性を高めることも可能である。
【0029】
図11に示したラケットフレームの高剛性部2の断面においては、ラケットフレーム1の打球部4における面外方向での端部のみに補強部材11が配置されている。高剛性部2において求められる剛性の程度によっては、図11に示したように補強部材11のサイズを、図3に示した断面構造での補強部材11のサイズよりも小さくすることで、高剛性部2における剛性を調整することができる。
【0030】
次に、図12を参照して、本発明によるラケットフレームの他の変形例を説明する。
図12に示したラケットフレーム1は、基本的に図1および図2に示したラケットフレーム1と同様の構成を備えるが、低剛性部3が高剛性部2に隣接するように配置されている(つまり、低剛性部3と高剛性部2とが連続するように形成されている)点が図1および図2に示したラケットフレーム1と異なっている。ここで、図12では、ラケットフレーム1の低剛性部3と高剛性部2との剛性変化を説明するため、ラケットフレーム1の右側に剛性変化を模式的に示すグラフを記載している。図12の当該グラフにおいて、横軸はラケットフレーム1の剛性を示し、縦軸はラケット先端部からの距離を示している。図12から分かるように、高剛性部2ではその中央部において剛性値が一定となった領域(高原状に剛性が高く設定されている領域)が形成されている。また、低剛性部3は高剛性部2から見てグリップ側であって、高剛性部2に隣接して設けられている。また、低剛性部3では、剛性値がもっとも小さくなる領域が、ラケットフレーム1の延在方向におけるほぼ中央部に形成されている。つまり、低剛性部3では剛性のもっとも小さくなった部分が点状となっている。また、異なる観点から言えば、低剛性部3では、剛性変化が下に凸の滑らかな曲線状となっている。
【0031】
さらに、高剛性部2から低剛性部3にかけて、その境界部では剛性は滑らかに変化しており、剛性が一定に保たれた領域は存在していない。また、高剛性部2と低剛性部3との境界部における剛性変化率(図12のグラフの縦軸(位置)における単位距離あたりの剛性変化量)は、低剛性部3と中剛性部との境界部(つまり、低剛性部3においてグリップ側に位置する端部)での剛性変化率より大きくなっている。
【0032】
ここで、高剛性部2の相対的に高い剛性は、図13に示すような補強部材11をラケットフレーム1の当該部分に配置することで実現できる。たとえばラケットフレーム1の内部に補強部材11を埋設する、あるいはラケットフレーム1の外周表面に補強部材11を設置する、など任意の方法を採用できる。また、高剛性部2における剛性変化率は、たとえば図13の補強部材11における両端部の端面の傾斜角度(補強部材11の外周の長辺に対する端面のなす角度)を調整することで、任意に調整できる。
【0033】
また、低剛性部3は、ラケットフレーム1の延在方向に垂直な方向における断面での面積(断面積)を、高剛性部2および中剛性部より小さくすることで剛性を低くしている。断面積の調整方法としては、図4に示した高さTおよび/または幅W2を他の部分における高さや幅より小さくするといった方法を用いることができる。
【0034】
上記のような構成のラケットフレーム1によれば、図1および図2に示したラケットフレーム1と同様の効果を得ることができる。さらに、ねじれ振動を抑制するため、当該捩れ振動の腹部に高剛性部2を配置しているが、このようにすることで1次曲げ振動の節がラケットフレーム1の先端から離れる傾向がある。そこで、上記のように低剛性部3を設けることにより、1次曲げ振動の節の位置を先端側へシフトさせている。また、発明者が検討したところ、低剛性部3の位置が高剛性部2に近いほど、つまり理想的には高剛性部2に隣接するように低剛性部3が配置されていれば、最も効果的に1次曲げ振動の節の位置を先端側へシフトさせることができ、結果的にスイートスポットの位置もラケットフレームの先端側へシフトさせることができる。
【0035】
また、ねじれ振動の節以外の位置(たとえば腹の位置)に配置された高剛性部2の剛性が高くなるほど、ねじれ振動を抑制する効果は高くなるが、一方でスイートスポットの位置が打球面のセンターからグリップ寄りに移動することになる。そのため、ねじれ振動を抑制しながら、スイートスポットの移動もある程度抑制するという観点から、高剛性部2の剛性は図12や図13に示すように、その中央部が一定の値となっている(高原状になっている)ことが好ましい。
【0036】
また、低剛性部3については、当該低剛性部3における打球時の変形量が相対的に大きくなるため、ラケットフレーム1の耐久性の観点から高剛性部2より低剛性部3の長さ(ラケットフレーム1の延在方向における長さ)を小さくすることが好ましい。さらに、低剛性部3はスポット状に設けることがより好ましい。
【0037】
また、低剛性部3のグリップ側での端部では、低剛性部3から中剛性部に向けて剛性変化率を(高剛性部2と低剛性部3との境界部より)小さくしている。このように剛性の変化をなだらかにすることで、低剛性部3と中剛性部との境界部における応力集中を抑制できる。
【0038】
(実施の形態2)
図14を参照して、本発明の実施の形態2のラケットフレームを説明する。なお、図14は図8に対応する。
【0039】
図14に示したラケットフレームは、基本的には図8に示したラケットフレームと同様の構造を備える。ただし、上述した実施の形態1に示したラケットフレーム1は硬式用であるのに対して、図14に示したラケットフレーム1はソフトテニス用のラケットフレーム1である。したがって、シャフト部6および打球部4の形状が若干図8に示したラケットフレーム1とは異なっている。そして、上述した以外の点においては、図8に示したラケットフレーム1と同様の構造を備えている。このようなラケットフレーム1においても、図8に示したラケットフレームと同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、図14に示したラケットフレーム1では、高剛性部2がラケットフレーム1の先端側に2つ、そして低剛性部3よりもグリップ部7側に1つ形成されているが、当該グリップ部7側の高剛性部2を形成せずに、先端側の2つの高剛性部2および低剛性部3のみを形成してもよい。
【0041】
ここで、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本願発明の特徴的な構成を以下に列挙する。
【0042】
この発明に従ったラケットフレーム1は、打球部4と、シャフト部6と、グリップ部7とから構成されるラケットフレーム1であって、打球部4は、高剛性部2と低剛性部3と中剛性部(高剛性部2および低剛性部3以外の領域)とを有する。高剛性部2は、打球部4にねじれ振動が起きたときの面外方向での最大振幅を示す部位を含む複数の腹部8のうち、打球部4においてラケットフレーム1の先端側に位置する先端側腹部(図6および図7のラケットフレーム1における先端側に位置する腹部8)に配置された、相対的に剛性が高くなっている部分である。低剛性部3は、高剛性部2から見てグリップ部7側に位置し、高剛性部2より相対的に剛性が低くなっている部分である。中剛性部は、低剛性部3から見てグリップ部7側に位置する、低剛性部3より相対的に剛性が高く、かつ高剛性部2より相対的に剛性が低くなっている部分である。
【0043】
このようにすれば、ラケットフレーム1のねじれ振動の腹部8(図6および図7のラケットフレーム1における先端側に位置する腹部8)についてラケットフレーム1の剛性を高めることによって、当該ねじれ振動の振動数が増加し、結果的にねじれに対するラケットフレーム1の剛性を高めることができる。そのため、ラケットフレーム1での打球時のねじれを抑制することができるので、結果的に打球のコントロール性を向上させることができる。
【0044】
また、上記のように低剛性部3を形成することにより、ラケットフレーム1の打球部4における(面外方向での)1次曲げ振動の節の位置が先端側へシフトする。この結果、打球部4のいわゆるスイートスポットが先端側へシフトするので、プレイヤーが打球部4の先端側でボールを打った場合にも、ラケットフレーム1の面外方向での曲げ振動の発生が抑制される。このため、打球部4の先端側でボールを打った場合でも、振動により打球感が悪化するという問題の発生を抑制できる。この結果、打球部4の先端側、かつ幅方向のサイド側にずれた位置でボールを打った場合であっても、ラケットフレームの曲げ振動による振動を抑制し、かつ、打球部のねじれを抑制することで打球のコントロール性を向上させることができる。
【0045】
上記ラケットフレーム1では、図12に示すように、低剛性部3は高剛性部2に隣接して位置していてもよく、中剛性部は、低剛性部3に隣接して位置していてもよい。この場合、より効果的にスイートスポットをラケットフレーム1の先端側へ移動させることができる。
【0046】
上記ラケットフレーム1では、図3〜図5に示すように、高剛性部2におけるラケットフレーム1の断面積は、中剛性部および低剛性部3でのラケットフレーム1の断面積(図4および図5参照)より大きくてもよく、中剛性部におけるラケットフレーム1の断面積(図5参照)は、低剛性部3でのラケットフレーム1の断面積(図4参照)より大きくてもよい。この場合、ラケットフレーム1の断面積を調整することで、高剛性部2、低剛性部3、中剛性部を容易に形成することができる。
【0047】
上記ラケットフレーム1において、図3、図9〜図11に示すように、高剛性部2には補強部材11が配置されていてもよい。この場合、補強部材11を配置することで高剛性部2の剛性をより高めることができる。
【0048】
上記ラケットフレーム1において、図8に示すように、打球部4は、腹部8(図6および図7参照)のうち打球部4において低剛性部3よりグリップ部7側に位置するグリップ部側腹部(図6および図7においてグリップ部7に近い腹部8)に配置された、中剛性部より相対的に剛性が高くなっている他の高剛性部2をさらに有していてもよい。
【0049】
この場合、グリップ部7に近い腹部8の剛性をさらに高めることで、ねじれ振動の発生をより確実に抑制することができる。このため、打球のコントロール性をより向上させることができる。
【0050】
上記ラケットフレーム1において、他の高剛性部2におけるラケットフレーム1の断面積は、中剛性部(高剛性部2および低剛性部3以外の領域)および低剛性部3でのラケットフレーム1の断面積より大きくてもよい。この場合、ラケットフレーム1の断面積を調整することで、他の高剛性部2を容易に形成することができる。
【0051】
上記ラケットフレーム1において、他の高剛性部2には補強部材11が配置されていてもよい。この場合、補強部材11を配置することで他の高剛性部2の剛性をより高めることができる。
【0052】
上記ラケットフレーム1において、図1、図8、図12、図14に示すように、低剛性部3は、グリップ部7の延在方向と直交する方向における面内方向での最大幅部分5より、打球部4の先端側に位置してもよい。この場合、最大幅部分5に低剛性部3が配置されることで、打球部4全体の剛性が低下してラケットフレーム1の耐久性が低下するという問題の発生を避けることができる。
【0053】
(実施例1)
本発明の効果を確認するべく、以下のようなシミュレーション実験を行なった。
【0054】
(実験条件)
アルテアエンジニアリング株式会社製のHYPERMESH(バージョン10)を用いて、低剛性部における剛性を変化させたときの、面外一次振動の節の位置の変位を算出した。計算条件としては、計算対象のラケットフレームとして図8に示した形状のラケットフレームを用い、当該ラケットフレームの寸法については、ラケットフレームの全長を694mm、打球部4の長さを341mm、シャフト部6の長さを155mm、グリップ部7の長さを198mm、打球部4の面内方向での最大幅を263mm、打球部4のラケットフレームの面外方向高さTを22mm、面内方向幅を11.5mm、グリップ部7の幅を25mmとした。低剛性部3の位置については、図8においてラケットフレームの先端部からの距離L3を114mmとし、グリップ部7の延在方向に沿った方向での低剛性部3の長さを13mmとした。また、シェル要素のメッシュサイズを2mm、肉厚を1mmとした。なお、シミュレーションの対象としたラケットフレームでは、高剛性部は形成しなかった。
【0055】
そして、低剛性部3での剛性を変化させて、面外一次振動での節の位置をシミュレーションにより求めた。なお、低剛性部3での剛性については、条件1:他の部分と同じ(剛性の低下率0%)、条件2:他の部分の20%(剛性の低下率80%)、条件3:他の部分の10%(剛性の低下率90%)、条件4:他の部分の5%(剛性の低下率95%)、条件5:他の部分の2%(剛性の低下率98%)、という5つの条件でシミュレーションを行なった。
【0056】
(結果)
条件1の場合、振動の節の位置はラケットフレームの先端部から119mmの位置であった。一方、条件2の場合には、当該節の位置は先端部から118mm、条件3の場合には115mm、条件4の場合には110mm、条件5の場合には105mmとなった。すなわち、低剛性部3での剛性を低下させるほど、面外一次振動の節の位置はラケットフレーム1の先端部側へシフトしていた。
【0057】
(実施例2)
本発明の効果を確認するべく、高剛性部での剛性を変化させたときの、ねじれ振動の振動数の変化について、以下のようなシミュレーション実験をさらに行なった。
【0058】
(実験条件)
上述した実施例1と同じ解析ソフトを用い、また、シミュレーションの対象としたラケットフレームのサイズも上述した実施例1と同様とした。ただし、ラケットフレームには低剛性部3は形成せず、図8においてラケットフレーム1の先端側に位置する2つの高剛性部2のみを形成した。高剛性部2の位置については、当該先端部から高剛性部2の端部までの距離L1を22mmとし、図8における距離L2を78mmとした。
【0059】
そして、高剛性部2での剛性を変化させて、ねじれ振動の振動数をシミュレーションにより求めた。なお、高剛性部2での剛性については、条件1:他の部分と同じ(剛性の向上率0%)、条件2:他の部分の5倍(剛性の向上率500%)、条件3:他の部分の10倍(剛性の向上率1000%)、という3つの条件でシミュレーションを行なった。
【0060】
(結果)
条件1の場合の振動数を1とした場合、条件2の振動数は1.11、条件3の振動数は1.13となった。このように振動数が大きくなることは、すなわちねじれ剛性が高くなった(ねじれ難くなった)ことを意味する。
【0061】
(実施例3)
本発明の効果を確認するべく、高剛性部と低剛性部とを両方形成した場合について、面外一次曲げ振動の節の位置とねじれ振動の振動数をシミュレーションにより求めた。
【0062】
(実験条件)
上述した実施例1と同じ解析ソフトを用い、また、シミュレーションの対象としたラケットフレームのサイズも上述した実施例1と同様とした。ただし、この実施例3においてシミュレーションの対象としたラケットフレームでは、実施例1で形成した低剛性部と実施例2で形成した高剛性部の両方を形成した。低剛性部および高剛性部の配置やサイズは、基本的に実施例1および実施例2におけるラケットフレームと同様とした。そして、低剛性部と高剛性部との剛性を変化させて、上述した曲げ振動の節の位置とねじれ振動の振動数をシミュレーションにより求めた。
【0063】
なお、剛性の条件としては、条件1:高剛性部および低剛性部とも、他の部分と同じ剛性、条件2:高剛性部での剛性を他の部分の剛性の5倍(剛性の向上率500%)とし、低剛性部での剛性を他の部分での剛性の10%(剛性の低下率90%)とする、という2つの条件でシミュレーションを行なった。
【0064】
(結果)
条件1での曲げ振動の節の位置はラケットフレームの先端部から119mmの位置であった。一方、条件2での曲げ振動の節の位置は、ラケットフレームの先端部から118mmであった。また、条件2でのねじれ振動の振動数は、条件1での当該振動数を1とした場合に、1.02と大きくなっていた。
【0065】
このことから、本発明の実施例に対応する条件2では、条件1より節の位置が先端側にシフトするとともに、ねじれ振動の振動数が大きくなっている(ねじれにくくなっている)ことがわかる。
【0066】
(実施例4)
本発明の効果を確認するべく、低剛性部の位置を変化させたときの、面外一次曲げ振動の節の位置の変化について、以下のようなシミュレーション実験をさらに行なった。
【0067】
(実験条件)
上述した実施例1と同じ解析ソフトを用い、また、シミュレーションの対象としたラケットフレームのサイズも上述した実施例1と同様とした。ただし、この実施例4においてシミュレーションの対象としたラケットフレームでは、実施例1で形成した低剛性部と実施例2で形成した高剛性部の両方を形成した。高剛性部の配置やサイズ、および低剛性部のサイズは、基本的に実施例1および実施例2におけるラケットフレームと同様とした。そして、低剛性部の位置(つまり高剛性部と低剛性部との間の距離)を変化させて、上述した曲げ振動の節の位置をシミュレーションにより求めた。
【0068】
なお、低剛性部の位置条件は、条件1:図15(A)に示すように低剛性部が高剛性部に隣接した状態(図8における距離L3を113mmとした場合)、条件2:図15(B)に示すように、低剛性部3が高剛性部2からある程度はなれた状態(図8における距離L3を131mmとした場合)、条件3:図15(C)に示すように、低剛性部3が高剛性部2から条件2の構成より離れた場合(図8における距離L3を163mmとした場合)、条件4:図15(D)に示すように、低剛性部を形成せずに、高剛性部2においてグリップ部側に相対的に剛性の低い領域を形成した場合、という4条件について検討した。また、条件4は参考例である。
【0069】
なお、条件4において高剛性部2中の相対的に剛性の低い領域の剛性は、他の高剛性部2における剛性の0.4倍とし、また、当該相対的に剛性の低い領域の長さは、高剛性部2の全体に対して18%とした。ここで、上述した図15の各グラフは剛性分布を模式的に示したものである。
【0070】
また、上述した各条件の高剛性部の剛性および低剛性部の剛性については、上記実施例3の条件2と同様の条件を採用した。
【0071】
(結果)
条件1〜条件4での曲げ振動の節の位置は、それぞれラケットフレームの先端部から118mm、120mm、121mm、122mmの位置であった。なお、高剛性部および低剛性部を形成しない場合(剛性変化がない場合)の当該節の位置は、実施例3で示したようにラケットフレームの先端部から119mmであった。
【0072】
このように、図15(A)で示したように高剛性部に隣接して低剛性部を形成することによって、一次曲げ振動の節の位置をラケットフレームのより先端側へ移動させることができた。このようにすれば、スイートスポットの位置をラケットフレームの先端側へ確実に移動させることができる。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
この発明は、テニスのラケットフレームに対して特に有効に適用される。
【符号の説明】
【0075】
1 ラケットフレーム、2 高剛性部、3 低剛性部、4 打球部、5 最大幅部分、6 シャフト部、7 グリップ部、8 腹部、9 ベース体、10 凹部、11 補強部材、14 矢印。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打球部と、シャフト部と、グリップ部とから構成されるラケットフレームにおいて、
前記打球部は、
前記打球部にねじれ振動が起きたときの面外方向での最大振幅を示す部位を含む複数の腹部のうち、前記打球部において前記ラケットフレームの先端側に位置する先端側腹部に配置された、相対的に剛性が高くなっている高剛性部と、
前記高剛性部から見て前記グリップ部側に位置する、前記高剛性部より相対的に剛性が低くなっている低剛性部と、
前記低剛性部から見て前記グリップ部側に位置する、前記低剛性部より相対的に剛性が高く、かつ前記高剛性部より相対的に剛性が低くなっている中剛性部とを有する、ラケットフレーム。
【請求項2】
前記低剛性部は、前記高剛性部に隣接して位置し、
前記中剛性部は、前記低剛性部に隣接して位置する、請求項1に記載のラケットフレーム。
【請求項3】
前記高剛性部における前記ラケットフレームの断面積は、前記中剛性部および前記低剛性部での前記ラケットフレームの断面積より大きく、
前記中剛性部における前記ラケットフレームの断面積は、前記低剛性部での前記ラケットフレームの断面積より大きい、請求項1または2に記載のラケットフレーム。
【請求項4】
前記高剛性部には補強部材が配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のラケットフレーム。
【請求項5】
前記打球部は、前記腹部のうち前記打球部において前記低剛性部より前記グリップ部側に位置するグリップ部側腹部に配置された、前記中剛性部より相対的に剛性が高くなっている他の高剛性部をさらに有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のラケットフレーム。
【請求項6】
前記低剛性部は、前記グリップ部の延在方向と直交する方向における面内方向での最大幅部分より、前記打球部の先端側に位置する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のラケットフレーム。
【請求項1】
打球部と、シャフト部と、グリップ部とから構成されるラケットフレームにおいて、
前記打球部は、
前記打球部にねじれ振動が起きたときの面外方向での最大振幅を示す部位を含む複数の腹部のうち、前記打球部において前記ラケットフレームの先端側に位置する先端側腹部に配置された、相対的に剛性が高くなっている高剛性部と、
前記高剛性部から見て前記グリップ部側に位置する、前記高剛性部より相対的に剛性が低くなっている低剛性部と、
前記低剛性部から見て前記グリップ部側に位置する、前記低剛性部より相対的に剛性が高く、かつ前記高剛性部より相対的に剛性が低くなっている中剛性部とを有する、ラケットフレーム。
【請求項2】
前記低剛性部は、前記高剛性部に隣接して位置し、
前記中剛性部は、前記低剛性部に隣接して位置する、請求項1に記載のラケットフレーム。
【請求項3】
前記高剛性部における前記ラケットフレームの断面積は、前記中剛性部および前記低剛性部での前記ラケットフレームの断面積より大きく、
前記中剛性部における前記ラケットフレームの断面積は、前記低剛性部での前記ラケットフレームの断面積より大きい、請求項1または2に記載のラケットフレーム。
【請求項4】
前記高剛性部には補強部材が配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のラケットフレーム。
【請求項5】
前記打球部は、前記腹部のうち前記打球部において前記低剛性部より前記グリップ部側に位置するグリップ部側腹部に配置された、前記中剛性部より相対的に剛性が高くなっている他の高剛性部をさらに有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のラケットフレーム。
【請求項6】
前記低剛性部は、前記グリップ部の延在方向と直交する方向における面内方向での最大幅部分より、前記打球部の先端側に位置する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のラケットフレーム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−161221(P2011−161221A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3230(P2011−3230)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
[ Back to top ]