説明

ランセット固定機構

【課題】ランセットを確実に固定してランセットキャップの取り外しをスムーズに行うことを可能にするランセット固定機構を提供すること。
【解決手段】外筒、および、外筒に対して相対的に可動するように外筒の内側に設けられる内筒を有して成るランセット固定機構(またはランセット固定ユニット)が提供される。かかるランセット固定機構では、内筒胴部の外面には周方向凸部が設けられており、また外筒胴部の内面には外筒の開口端から内部の方向に向かって外筒内径が小さくなるテーパー部が設けられ、テーパー部によって狭まった外筒胴部の内面に周方向凹部(または周方向溝)が設けられている。そのため、ランセットが内筒に挿入され、ランセットによって外筒の内部へと内筒が押圧されると、周方向凸部がテーパー部上を摺動して周方向凹部に嵌り込むまで移動することになり、その結果、ランセットが内筒胴部によって締め付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺デバイスに用いられる固定機構に関する。より詳細には、本発明は、「血液採取に供されるランセット」を固定するための機構に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の血糖値の測定には、糖尿病患者の血液を採取する必要がある。微少量の血液を採取するために種々の穿刺デバイスが使用されている。そのようなデバイスは、身体の所定箇所を穿刺するための穿刺部材が設けられたランセット(例えば特許文献1)およびインジェクターから一般に構成されている。インジェクターは、ランセットを所定箇所に向かって発射させる機能を有している。使用に際しては、ランセットをインジェクターに装填した後、インジェクター内のプランジャーを用いてランセットを発射させ、所定箇所を穿刺している。
【0003】
穿刺デバイスを用いて採血する場合、ランセットの取り扱いには注意が必要である。特に穿刺した後では、被採血者の血液が付着した穿刺部材(特に穿刺部材の先端部)がランセット本体から露出している。従って、この穿刺部材の先端部に、被採血者以外の人、例えば採血作業を実施する看護師および医師等の医療従事者の身体が誤って触れてしまった場合、先端部により身体が傷付けられる可能性があり、その結果、傷口から被採血者の血液が医療従事者の体内に入り込み、感染症に罹ってしまうという危険が存在する。
【特許文献1】米国特許明細書第5385571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人は、これまでに以下で説明する穿刺デバイスについて発明を為しており、その発明に関する出願を行っている(国際特許公開第2007/018215号公報、出願日:2006年8月8日、発明の名称:「穿刺デバイスならびにそれを構成するランセットアッセンブリおよびインジェクターアッセンブリ」)。図面を参照しながら、この発明に係るランセットアッセンブリおよびインジェクターアッセンブリを簡潔に説明する(以後では、「インジェクターアッセンブリ」を「インジェクター」とも称して説明する)。図31にランセットアッセンブリ100’の外観を示すと共に、図32にインジェクター200’の外観を示す。図31に示すように、ランセットアッセンブリ100’は、ランセット101’および保護カバー102’から構成されている。図33および図34に示すように、ランセット101’は、ランセットボディ104’、ランセットキャップ106’および穿刺部材105’を有して成る。金属製の穿刺部材105’は、樹脂製のランセットボディ104’およびランセットキャップ106’にまたがって存在している。穿刺部材105’の先端部は、ランセットキャップ106’によってカバーされていると共に、ランセットキャップ106’とランセットボディ104’とが弱化部材108’を介して一体に結合している。図31および図34に示すように、保護カバー102’は、ランセットボディ104’の一部を包囲するように設けられている。このようなランセットアッセンブリ100’は、インジェクター200’に装填された後でランセットキャップ106’が取り外される。これにより、穿刺部材105’の先端部が露出するので、ランセットを穿刺に供すことができる。
【0005】
図32に示すインジェクター200’は、ランセットアッセンブリ100’と組み合わせて用いて、穿刺部材105’の先端が露出した状態のランセットボディを発射することができるデバイスである。インジェクター200’は、「ランセットボディの後端部と係合でき、ランセットボディを穿刺方向に発射させるプランジャー204’」を有して成る(図35参照)。インジェクター200’に装填するに際しては、図35に示すように、ランセットアッセンブリ100’をインジェクター200’の前端開口部214’から挿入する。ある程度挿入すると、図36に示すように、ランセットアッセンブリ100’の後方部分116’が、プランジャー204’の先端部264’, 266’によって把持される。引き続いて挿入を継続すると、プランジャー204’が後退して発射エネルギーが蓄積される。つまり、プランジャー204’の後退により、プランジャー204’に設けられたバネ(図示せず)が圧縮する(従って、その圧縮状態を解放すると、プランジャーが前方へと瞬時に移動し、ランセットが発射されることになる)。プランジャーが後退して発射エネルギーが蓄積された状態のインジェクター200’を図37に示す。
【0006】
ランセットアッセンブリ100’のインジェクター200’への装填が完了すると、ランセットキャップ106’を取り外して穿刺部材105’の先端を露出させる。ランセットキャップ106’の取外しについて詳述すると次のようになる。図33および図34に示すように、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とは、その間に位置する弱化部分108’によって一体に結合されている。かかる弱化部材108’は、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とを穿刺部材の周囲で相対的に反対方向に回すことによって破壊させることができ(図37にはG方向に回す態様が示されている)、それによって、ランセットキャップ106’を取り外すことができる。即ち、いわゆる“ツイストオフ”によって、穿刺部材105’の先端を露出させる。
【0007】
穿刺に際しては、穿刺すべき所定の部位(例えば指先)にインジェクター200’の前端開口部214’をあてがった後、トリガー部材514’のプレス部分542’を押す(図38参照)。かかるプレス部分542’の押し込みによって、プランジャー204’が前方へと発射され(つまり、圧縮されていたバネが解放され)、穿刺部材によって穿刺が行われることになる。
【0008】
ここで、ランセットキャップ106’を取外す際、ランセット101’がしっかりと固定されていないと、ランセットキャップ106’の取外しがスムーズに行えないということが懸念される。具体的には、ランセットボディ104’がプランジャー204’の先端部において十分に固定されていないと、ランセットキャップを摘んでその中心軸周りで回転させるに際して、ランセットボディ104’も回転してしまう可能性がある。この場合、ランセットキャップ106’をランセットボディ104’から“もぎ取る”ことができない。
つまり、“ツイストオフ”などのランセットキャップの取外しをスムーズに行うにはランセットの確実な固定が求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、ランセットを確実に固定してランセットキャップの取外しをスムーズに行うことを可能にするランセット固定機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、
外筒、および
外筒に対して相対的に可動するように外筒の内側に設けられる内筒
を有して成るランセット固定機構(またはランセット固定ユニット)が提供される。
かかるランセット固定機構では、
内筒胴部の外面には周方向凸部が設けられており、また
外筒胴部の内面には外筒の開口端から内部の方向に向かって外筒内径が小さくなるテーパー部が設けられ、テーパー部によって狭まった外筒胴部の内面に周方向凹部(または周方向溝)が設けられている。そのため、ランセットが内筒に挿入され、ランセットによって外筒の更に内部へと内筒が押圧されると、周方向凸部がテーパー部上を摺動して周方向凹部に嵌り込むまで移動することになり、その結果、ランセットが内筒胴部によって締め付けられる。
【0011】
かかるランセット固定機構は、インジェクターに設けられている。特に、穿刺に際してランセットを発射させる機能を有するプランジャーに設けられていることが好ましい。
【0012】
本発明に係るランセット固定機構は、外筒と内筒との係わり合いの変化に起因して内筒胴部を半径方向内側に撓ませ、内筒胴部によってランセットを締め付けて固定することを特徴の1つとしている。具体的には、内筒が外筒内部へと押し込まれると、外筒内径がより狭くなった位置に存在する「外筒の周方向凹部」へと「内筒の周方向凸部」が嵌り込むことになり、それによって、内筒胴部がより半径方向内側へと撓んで内筒胴部がランセットを締め付けることができる。
【0013】
本明細書において「周方向」という用語は、外筒または内筒の中央軸線(長手方向に沿った線)周りの環状方向を実質的に意味している。従って、「周方向凸部」は内筒の外面に沿って環状方向に隆起する形態を有する一方、「周方向凹部」は外筒の内面に沿って環状方向に窪んだ形態を有している。
【0014】
また、本明細書では、“外筒”および“内筒”という用語における「筒」は、一方の端部に開口部を有する一方(本明細書では「開口端」と称す)、他方の開口端に底部・底面を有する部材を実質的に意味している。
【0015】
本発明に係るランセット固定機構の好ましい態様では、「外筒の周方向凹部」は、ランセットが挿入される前の状態の「内筒の周方向凸部」が接する又は位置する「外筒胴部の内面」よりも半径方向内側に設けられている。つまり、テーパー部が設けられていることに起因して外筒胴部の内面には「外筒内径が減じられた内面A」と「外筒内径が減じられていない内面B」とが存在するが、内面Aに存在する周方向凹部(より具体的には、「周方向凹部の底部分」)が、内面Bよりも外筒の半径方向内側に位置している。
【0016】
ランセットの固定に際して内筒胴部が半径方向内側へと容易に撓むことができるように、内筒胴部は部分的に切り取られている形態が好ましい。具体的には、内筒胴部が、内筒の開口端からスリット状に切り取られた形態の切欠き部を有していることが好ましい。この場合、内筒胴部が少なくとも2つの区画(領域)に分かれるように、内筒の開口端からスリット状に内筒胴部が切り取られていることが好ましい。
【0017】
また、内筒の周方向凸部は、その少なくとも一部が部分的に切り取られている形態を有していることが好ましい。換言すれば、内筒の周方向凸部の高さは内筒胴部の周方向に沿って異なっていることが好ましい(ここでいう「高さ」とは、内筒の外面表面から内筒の半径方向外側に向かって突出する長さを実質的に意味している)。これにより、内筒胴部による締付け力をランセットに効果的に作用させることができる。特に、周方向凸部に楕円形状の平坦面が形成され、周方向凸部の高さが切欠き部の周囲にて最も高くなっていることが好ましい。なぜなら、特に切欠き部の周囲において締付け力を作用させることができ、ランセットをより確実に固定できるからである。
【0018】
内筒の内面には、内筒の開口端から内部の方向に向かって延在する長尺状凸部(「長尺状凸部a」と称す)が少なくとも1つ設けられていることが好ましい。この場合、ランセットの外面(より具体的には「ランセットボディの外面」)にも、同様の長尺状凸部(「長尺状凸部b」と称す)が設けられていることが好ましい。このような場合、固定機構にランセットが取り付けられると、長尺状凸部aと長尺状凸部bとが相互に係り合うことができ、より確実にランセットが固定される。換言すれば、長尺状凸部aと長尺状凸部bとの係合によって、ランセットキャップの取外し操作時のランセットの回転が効果的に防止される。
【0019】
ある好適な態様として、内筒胴部の外面に突起部が形成されている一方、外筒胴部の一部に長尺切欠き部が形成されており、突起部が長尺切欠き部に嵌り込むように内筒と外筒とが組み合わされている。これにより、内筒と外筒との相対的な回転が防止される。また、内筒が外筒のより内部に向かって移動する際には、突起部が長尺切欠き部に沿って移動する。
【0020】
内筒の底部外面と外筒の底部内面との間にはスプリングが設けられることが好ましい。これにより、スプリングに起因して内筒に前向きの力が掛かることなる。この場合、ランセットが内筒に挿入されて内筒が外筒のより内部へと押し込まれる際、かかる「前向きの力」に抗して内筒が押し込まれることなる。尚、ランセット挿入前においては、「内筒胴部の突起部」と「外筒の長尺切欠き部の前方エッジ」との相互の当接によって、前向きに力が掛かっている内筒が外筒から出ていくことなく外筒内において一定の位置に保持される。
【0021】
ある好適な態様として、外筒胴部には、外筒の開口端から切り込みが長手方向に入れられており、外筒胴部の外面にリング部材が設けられている。かかる態様では、外筒の更に内部へと内筒が押圧されると、「切り込み」を起点として外筒胴部が半径方向外側へと撓むことになる。つまり、後述するように、より少ない押込み力でランセットを軽く挿入・固定することができる。ここで、「外筒胴部が半径方向外側へと撓む」ということは、“ランセットの締付け力”が減じられることになるが、それを補うために、外筒胴部の外面にリング部材(より好ましくは「金属製リング部材」)を設けている。つまり、金属製リング部材が「外筒胴部の半径方向外側への撓み」を一定の範囲内に制限している。それゆえ、内筒の周方向凸部が外筒の周方向凹部に嵌り込むと、リング部材に起因して、ランセットが内筒胴部により締め付けられることになる。
【0022】
固定されたランセットを取外す際には、固定機構の外側からランセットに外力を作用させてランセットを前方へと押し出すことが好ましい。具体的には、外筒および内筒の底壁に設けられた開口部を介して棒状部材を外側から挿入することによって、固定機構に固定されているランセットを棒状部材で押圧することが好ましく、それによって、内筒からランセットを取り外すことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のランセット固定機構(ランセット固定ユニット)では、インジェクターに装填されるランセットが確実に固定されるので、ランセットキャップの取り外し(別の表現を用いるならば「ランセットキャップのもぎ取り」)をスムーズに行うことができる。つまり、インジェクターに装填されたランセットが回転することなく、穿刺部材を露出させる際に行う“ツイストオフ”などの取外し操作を確実に行うことができる。
【0024】
また、本発明のランセット固定機構では、内筒に挿入されたランセットを内筒の締め付けによって固定しているので、内筒に対して適度に挿入できるものであれば固定できる。換言すれば、サイズ・形状の点で内筒に適度に嵌り込むものであれば、ランセットを固定できるといえる。つまり、ランセットの種類が変わったとしてもサイズ・形状の点で大きく異なるものでない限り固定できることを意味しており、インジェクターの汎用性が向上する。
【0025】
また、周方向凸部が周方向凹部に嵌り込む瞬間は、テーパー部またはそこを乗り越えた直後の周方向凸部が瞬時に半径方向に若干広がることになるので(即ち、周方向凹部の深さの分だけ広がることになるので)、操作者はパチンと嵌る“クリック感”を感じることになる。従って、この“クリック感”によって、操作者はランセットの固定操作の完了を感覚的に把握することができ、スムーズな穿刺操作が助力される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
添付図面を参照して本発明のランセット固定機構について詳細に説明する。
【0027】
本明細書で用いる“方向”については次の通り規定する。内筒の中央軸または長手方向に沿って内筒底部から内筒開口端へと向かう方向、あるいは、外筒の中央軸または長手方向に沿って外筒底部から外筒開口端へと向かう方向を「前」方向とし、その反対の方向を「後」方向とする。これらの方向は図面に示している。また、「半径方向」は、内筒または外筒の中央軸または長手方向に対して直交する方向とする。尚、「前方向」は、ランセットが発射される「穿刺方向」(即ち、穿刺に際して穿刺部材が移動する方向)に実質的に相当するものである。
【0028】
《ランセット固定機構の構成・態様》
図1は、本発明に係るランセット固定機構300の外観を示しており、図2は、本発明に係るランセット固定機構300の分解図を示している。図示するように、本発明に係るランセット固定機構300は、外筒400と内筒500とから構成されている。
【0029】
内筒500は、図3および図4に示すように、内部に中空部を有するドラム形状を有している。図示するように、内筒500の胴部550には、周方向凸部570が形成されている。また、内筒500の胴部550には、半径方向外側に突出する楔形状の突起部520も形成されている。
【0030】
外筒400は、図5および図6に示すように、内部に中空部を有するドラム形状を有している。ここで、図7および図8の断面図から分かるように、外筒の胴部450の内面455には、外筒の開口端から内部に向かって(図示するP方向)次第に外筒内径が小さくなるテーパー部470が形成されている。つまり、図7に示すように、テーパー部470に起因して外筒胴部450の内面には「外筒内径が減じられた内面A」と「外筒内径が減じられていない内面B」とが存在している。また、テーパー部470によって狭まった外筒胴部の内面には周方向凹部480が設けられている。尚、外筒400の胴部450には、スリット状に部分的に切り取られた形態の長尺切欠き部490が形成されている(図5および図8参照)。このような外筒400は、図9に示すように、インジェクターのプランジャー204の先端部に設けられていることが好ましい。
【0031】
内筒500は、外筒400の内側、即ち外筒内部に設けられている。特に、内筒500は外筒400に対して相対的に可動するように設けられており、内筒はその中央軸(図1参照)に沿って外筒内部で前方または後方へと可動できる。具体的には、内筒500の突起部520が外筒400の長尺切欠き部490内に嵌るようにして内筒500と外筒400とが組み合わされている。この場合、突起部520が長尺切欠き部490内で動ける範囲内において、内筒500が外筒400に対して相対的に可動できる。また、この場合、「外筒400の長尺切欠き部490」に嵌り込んでいることに起因して「内筒500の突起部520」が周方向に動くことができないので、内筒500が外筒400に対して回転できないようになっている。つまり、「内筒500の突起部520」と「外筒400の長尺切欠き部490の側方エッジ490a」との当接に起因して、内筒500と外筒400との相対的な回転が防止されている(図1および図2参照)。尚、「突起部520と長尺切欠き部490の関係」に代えて、「凹凸関係」を形成してもよく、あるいは「谷と溝(うね状)の関係」を形成してもよい。
【0032】
内筒500および外筒400のサイズについて詳述する。「内筒500の周方向凸部570」と「外筒400のテーパー部470および周方向凹部480」とは、後で詳細に説明するように、ランセット固定機構の使用時にて相互に接触・当接するものである。従って、そのような接触・当接が確保されるようなサイズを内筒および外筒が有していることが求められる。例えば、内筒の外径D内筒-外径(図3参照)は、好ましくは6〜10mm(例えば8.0mm)である一方、外筒の内径D外筒-内径(図5参照:後述する「内面Bにおける内径」)は、好ましくは6.5〜10.5mm(例えば8.5mm)である。ちなみに、内筒の長手方向長さL内筒(図3参照)は好ましくは6〜15mmである一方、外筒の長手方向長さL外筒(図1参照)は好ましくは15〜25mmである。また、内筒胴部の厚さは、平均すると0.1〜0.5mm程度であるのに対して、外筒胴部の厚さは、平均すると0.6〜1.5mm程度である。
【0033】
内筒500の底部外面555(図4参照)と外筒400の底部内面455a(図7参照)との間には、スプリング600が設けられることが好ましい(図1および図10参照)。特に、内筒500の底部のボス565に嵌め込むようにコイルバネ形状スプリング600を設けることが好ましい。この場合、ボス565に設けたスプリング600は外筒の底部の中空部455b(図7参照)に配置されることが好ましい(換言すれば、内筒のボス565と外筒の底部中空部455bとの間にスプリング600が設けられることが好ましい)。スプリング600が設けられることによって、内筒500には前方向の力が掛かかることになる。従って、スプリング600に起因して内筒500には外筒400内で前方向へと移動する力が加えられているが、「内筒500の突起部520」が「外筒400の長尺切欠き部490の前方エッジ部490b(図1および図5参照)」に当接することによって、かかる移動が阻止された状態となっている。つまり、本発明の固定機構では、内筒500に対して特に他の外力が加わらない限り、突起部520と「長尺切欠き部490の前方エッジ部490b」とが当接する位置関係において内筒500と外筒400とが相対的に設けられている。換言するならば、ランセット固定機構にランセットが取り付けられていない状態では、突起部520と「長尺切欠き部490の前方エッジ部490b」とが当接した状態に維持されるといえる(図1参照)。かかる状態では、内筒500の周方向凸部570は、外筒胴部450の内面455の前方側領域(即ち「内面B」)に位置している又は接している(図23参照)。かかる前方側領域は、テーパー部470よりも前方側に位置する領域であって、テーパー部470より後方側に位置する後方側領域(即ち「内面A」)よりも外筒内径がより大きい領域であることに留意されたい。後で詳述するが、ランセットが挿入されて内筒500が外筒400の内部にて後退する際には、内筒500の周方向凸部570は、外筒の前方側領域(即ち「内面B」)からテーパー部470上を摺動した後、後方側領域(即ち「内面A」)へと移動して周方向凹部480に嵌り込むことになる。
【0034】
尚、スプリング600は、ある程度のバネ力が求められるものの、過度に大きいバネ力は必要とされない。換言すれば、スプリング600のバネ力は、「ランセットが取り付けられていない状態において内筒500の周方向凸部570が外筒胴部450の内面455の前方側領域に位置する」ことを可能にする程度の“バネ力F”が必要であるものの、バネ力が大きすぎると、ランセットの固定に際して「内筒内部へとランセットを押し込む力」が増してしまう。従って、“ランセットの押込み力の低減”の観点からは、スプリング600は“バネ力F以上”を条件にできるだけ小さいバネ力を有することが好ましい。
【0035】
ランセット固定機構300は、その名の通り、ランセットを固定するものであるために、インジェクター200に備えられる(図11および図12参照)。具体的には、ランセット固定機構300は、穿刺に際してランセットを発射させる機能を有するプランジャーに設けられることが好ましい。特に、図13に示すように、プランジャー204の先端部分にランセット固定機構300が設けられることが好ましい。これによって、ランセット100の固定機構300への取付けに際して、プランジャー204が後退して穿刺に必要な力がプランジャー204に蓄積されることになる(具体的には、プランジャーに設けたスプリングが圧縮されることで穿刺に必要な力が蓄積される)。そして、ランセットの取付けが完成して発射準備となった段階において、プランジャー先端部に固定されたランセットからランセットキャップを外すことによって穿刺部材を露出させ、穿刺を行うことができる。
【0036】
ランセットおよびその取付・固定について詳述する。ランセットの取付・固定に際しては、内筒500の中空部分510(図1参照)に対して、ランセット(またはランセットアッセンブリ)が挿入される。例えば、挿入されるランセットは、図14〜16に示すようなランセット101であってもよいし、あるいは、図17および18に示すようなランセット101であってよい。更には、図31に示すようなランセット101’(ランセットアッセンブリ100’)であってもよい。図14〜16または図17・18に示すランセット101を例にとって説明すると、ランセット101は、ランセットボディ104、ランセットキャップ106および穿刺部材105を有して成る。金属製の穿刺部材105は、樹脂製のランセットボディ104およびランセットキャップ106にまたがってこれらの中に存在している。穿刺に際しては、ランセットキャップ106をランセットボディ104に対して相対的に引き離すか、あるいは、その中心軸周りで回転させる(あるいは“もぎ取る”/“ツイストオフ”)ことによって、ランセットキャップ106を取り外し、穿刺部材105を露出させる(図15または図18参照)。
【0037】
《固定機構》
ランセット固定機構300の使用に際しては、上述したように、外筒400内に組み込まれた内筒500に対して、ランセット(またはランセットアッセンブリ)が挿入される。より具体的には、図19に示すように、ランセット101のランセットボディ104が内筒500の中空部分に対して挿入される。ランセットボディ104の後端部104aが内筒500の底部内面に接するまでランセット101が内筒500に対して挿入されると、その後、挿入されるランセット101によって内筒500が後方へと押圧されることになる。これにより、外筒400のより内部に向かって内筒500が相対的に移動することになる。尚、内筒500と外筒400との間にはスプリング600が設けられているので、かかるスプリング600のバネ力(圧縮力)に抗する形態で、内筒500が外筒400に対して相対的に移動することになる。
【0038】
内筒500が外筒400の内部で後退すると、外筒胴部の前方側領域(「内面B」)に位置または接していた内筒500の周方向凸部570が、かかる内面Bからテーパー部470上を摺動することになる。かかるテーパー部470は、外筒の開口端から内部に向かって外筒内径が次第に小さくなるように形成されているので(即ち、図7および図8に示すように、前方から後方へと向かうP方向に向かって外筒内径が次第に小さくなっているので)、周方向凸部570が、テーパー部470上を摺動するに際しては、内筒胴部550が半径方向内側へと撓むことになる。周方向凸部570が、かかる内面Bからテーパー部470上を摺動した後は、周方向凸部570は、外筒胴部の後方側領域(「内面A」)に存在する周方向凹部480に嵌り込む。ここで、図7に示すように、周方向凹部480の底面(図7に示す“S”の部分)は、内面Bよりも半径方向内側に位置している。つまり、内筒の周方向凸部570が内面Bに位置する又は接している場合よりも、周方向凹部480に嵌り込んでいる場合の方が、内筒胴部がより内側に撓んだ状態に付されることになる。これにより、内筒に挿入されたランセットが内筒胴部によって締め付けられることになり、ランセットが内筒胴部で固定される。図20には、ランセット101が固定機構300によって固定された状態が示されている。
【0039】
ここでテーパー部470の角度は、好ましくは0.1〜10°であり、より好ましくは0.1〜5°であり、更には0.1〜1°である。尚、ここでいう「テーパー部の角度」とは、外筒の中央軸(または外筒の長手方向接線)に対して成す角度であり、例えば図7に示すような角度αである。また、周方向凹部480(より具体的には周方向凹部の底面S)における外筒内径は、内面Bにおける外筒内径よりも2〜10%減じられていることが好ましく、より好ましくは3〜7%減じられている。例えば、内面Bにおける外筒内径(即ち、「内径D外筒-内径」)が6.5〜10.5mm程度であるのに対して、周方向凹部480の底面における外筒内径が6.0〜10.2mm程度となっている。
【0040】
内筒胴部がより内側へと撓むことによって、内筒内に設けられたランセットが内筒胴部によって締め付けられて固定されるが、ここで、内筒500が撓むことを確実ならしめるために、図3および図4に示すように、内筒胴部550が、内筒500の開口端からスリット状に切り取られた形態の切欠き部560を有していることが好ましい。例えば、内筒胴部550が少なくとも2つの区画(一例として、図示するような4つの区画)に分かれるように切り取られていることが好ましい。切欠き部560を有する場合、内筒500が外筒400の内部で後退すると、切欠き部560によって分けられていた区画が相互に密接するような形態で内筒胴部が半径方向の内側へと撓むことになる(即ち、“花のつぼみ”が萎むように、隣接する2つの区画が互いに接すべく内側へと撓むことになる)。
【0041】
本発明のランセット固定機構では、内筒胴部の内面がランセットのボディに密接することによってランセットが固定される。典型的には、内筒胴部の内面の一部(特に前方領域)がランセットボディに対して周方向に面接触してランセットボディに締付け力を作用させる。かかる締付け力を周方向に局所的に分散させるために又は締付け力を局所的に作用させるために、内筒胴部550の周方向凸部570の高さが周方向に沿って異なっていることが好ましい。例えば、周方向凸部570に複数の隆起部分または突起部材を設けてよく、あるいは、図3および図4に示すように、内筒の周方向凸部570の表面部分を複数の箇所で切り欠いてもよい。一例を挙げるとすると、隣接する2つのスリット状切欠き部560の中間に位置する凸部表面が切り欠かれた形態が考えられる(図示するように、周方向凸部570の表面に楕円状平面570aが形成されている)。この場合、切欠き部560の周囲に存在する部分(図4に示す“T”の部分)において周方向凸部570の高さが最も高くなることになる(換言すれば、楕円形状の平坦面“S”の部分よりも“T”の部分の方がより半径方向外側に突出している)。これにより、周方向凸部570の“T”の部分において締付け力を局所的に作用させることができるので、ランセットのより確実な固定が助力される。
【0042】
尚、ランセットの締付け力を効果的に作用させるために、ランセットの内面には凸部を少なくとも1つ設けてもよい。特に、図26に示すように、内筒の開口端から内筒内部の方向に向かって延在する長尺状凸部590を設けることが好ましい。この場合、例えば図17に示すように、ランセットボディ104にも凸部104bを設けることが好ましい。かかる場合、固定機構300に取り付けられたランセット101の凸部104bが、内筒内面の長尺状凸部590と接することによって(より具体的には凸部104bと長尺状凸部590とが相互に隣り合うように当接することによって)、ランセットの回転がより効果的に防止されることになる。
【0043】
次に、本発明のランセット固定機構300に固定されたランセット101(より具体的にはランセットボディ104)の取り外しについて説明する。取り外しには、図21にて符号700で示すような棒状部材を用いる。かかる棒状部材700を外筒および内筒の底壁に設けられた開口部を介して外側から固定機構300内に挿入する。これにより、ランセット固定機構に固定されているランセットを棒状部材700で前方へと押圧することができる。押圧力が内筒胴部の締め付け力よりも大きくなると、ランセットが内筒から前方へと押し出されて排出される。図4および図6を参照すると、外筒および内筒の底壁には、それぞれ開口部が設けられており、かかる開口部を介して外側からランセットを押圧できることが理解されよう(内筒の開口部について“557”として図示されている一方、外筒の開口部については“457”として図示されている)。
【0044】
ここで、棒状部材700は、図22に示すように、インジェクターのエジェクター機構250に設けられていることが好ましい。この場合、インジェクターのエジェクターを操作すると、棒状部材700が前方へと動き、外筒および内筒の底壁の開口部へと挿入される。より具体的には、図22に示すエジェクター部255aを前方へとスライドさせることによって、それと連動して棒状部材700を前方へと動かす。
【0045】
《使用態様》
以下では、図23〜25を参照しながら、ランセット固定機構の原理を経時的に説明していく。図23〜25は、その番号順に内筒500および外筒400の経時変化を示している。尚、図面では、内部の構造が見えやすいように、外筒胴部を一部切り欠いた状態で示している。
【0046】
図23に示す固定機構300は、ランセットが内筒500に挿入される前の状態である。かかる状態では、内筒500の周方向凸部570は、外筒400の内面Bに接している又は位置している。この状態のランセット固定機構300に対して、ランセットが挿入されると、内筒500が後方へと移動することになる。具体的には、内筒500の内部にランセットが挿入され、挿入されたランセットに突かれる形で内筒が後方へと移動することになる。
【0047】
ここで、外筒400はプランジャーと一体的に形成されているものであり(図9または図12参照)、発射可能状態においてはプランジャーの後退が阻止された状態となっている(具体的には、発射可能状態にまでプランジャーが後退すると、プランジャーの最後端部がインジェクターの内部の後端内壁に当接することになり、プランジャーが更には後退できないようになっている)。従って、この状態では、外筒400はその位置を変えることなく維持されるので、押圧された内筒500が外筒400のより内部へと移動できるようになる。
【0048】
内筒500が外筒400の内部にて後退すると、外筒胴部の前方側領域の内面Bに接していた内筒500の周方向凸部570(図23参照)が、かかる内面Bから外筒胴部の内面のテーパー部470上を摺動することになる。そして、内筒500が更に後退すると、内筒500の周方向凸部570がテーパー部470を越えて、外筒内部が狭まった前方側領域の内面Bへと移動することになる。周方向凸部570がテーパー部470を越えた後の状態を図24に示す。
【0049】
後方側領域の内面Aには、周方向凹部480が設けられている。従って、テーパー部470を越えた周方向凸部570は周方向凹部480に嵌り込むことになる。図25には、周方向凸部570が周方向凹部480に嵌り込んだ状態が示されている。図23と図25とを比べると分かるように、図25に示す内筒の周方向凸部570は、図23に示す態様よりも外筒の半径方向内側に位置しており、その結果、内筒胴部550が半径方向内側に撓んでいる。このように内筒胴部550が半径方向内側に撓むことによって、ランセットが内筒胴部550によって締め付けられてランセットが固定される。尚、周方向凸部570が周方向凹部480に嵌り込む瞬間は、テーパー部またはそこを乗り越えた直後の周方向凸部570が瞬時に半径方向に若干広がることになるので(即ち、周方向凹部480の深さの分だけ広がることになるので)、操作者はパチンと嵌るクリック感を得ることになる。
【0050】
ランセットが固定機構に対して固定された後は、ランセットキャップを指で摘むなどして取り外し、穿刺部材をランセットボディの先端から露出させる。そして、インジェクターの発射機構を作動させることによって、プランジャーを発射させて固定機構に固定された「穿刺部材が露出したランセットボディ」を穿刺に供する。
【0051】
穿刺を実施した後では、固定機構に固定されたランセットの取外しを行うことになる。かかる取外しに際しては、インジェクターのエジェクター機構を作動させる。エジェクター機構250には、図22に示すように、ランセットを後方から前方に向かって押し出すことができる棒状部材700が設けられている。この場合、インジェクターのエジェクターを操作すると(具体的には、図22に示すエジェクター部255aを前方へとスライドさせることによって)、棒状部材700が前方へと動き、外筒および内筒の底壁の開口部へと挿入され、棒状部材700がランセットの後端部に当接することになる。そして、棒状部材によって及ぼされる押圧力が内筒胴部の締め付け力よりも大きくなると、ランセットが前方へと押し出されて内筒から排出されることになる。
【0052】
《ランセット固定機構の好適な態様》
次に、本発明のランセット固定機構の好適な態様について説明する。かかる態様は、ランセットの固定に際して「内筒内部へとランセットを押し込む力」がより減じられた態様である(つまり、「操作者がより軽い力でもってランセットを固定できる」態様である)。かかる好適な態様に寄与する部分・部材は、主として、「外筒胴部に形成された切り込み」および「外筒胴部の外面に設けられたリング部材」である。
【0053】
図27および図28には「切り込み」が符号497で示されている。図示するように、「切り込み497」は、外筒の開口端から底部に向かって長手方向に設けられている。切り込み497が設けられていることに起因して、外筒胴部450の前方領域は外力に応じて半径方向外側に撓むことができる。
【0054】
「リング部材」は、図27および図28において符号800で示されている。図示するように、リング部材800は、外筒胴部の外面459に直接的に接するように設けられている。リング部材800が外筒胴部から外れないように、外面459には周方向凸部460を少なくとも1つ設けてよい(この場合、リング部材800の前後の移動が周方向凸部460によって制限されることになる)。
【0055】
このような好適な態様を有するランセット固定機構では、ランセットの挿入時において内筒が外筒の更に内部へと移動する際、外筒胴部が半径方向外側へと撓むことができる(より具体的には、図29に示すように、切り込み497を起点にして半径方向外側へと開くように外筒の前方領域が撓むことができる)。つまり、外筒の前方領域が外側へと撓むことによって「内筒内部へとランセットを押し込む力」がより少なくて済むことになる。尚、外筒胴部が外側へと撓みすぎると、内筒胴部の半径方向内側への撓みが減るので、ランセットの締付け力が減じられることになる。これを補うために、本発明では、外筒胴部にリング部材を設けている。つまり、リング部材によって、「外筒胴部の半径方向外側への撓み」を一定の範囲内に制限し、“ランセットの締付け力の低下”を防止している。それゆえ、リング部材自体は、「撓み前の外筒胴部の外面に実質的に接するようなサイズ」あるいは「撓み前の外筒胴部の外面よりもごく僅かに大きい内径」を有していることが好ましい。尚、「外筒胴部の撓み」を一定の範囲内に制限する点で、リング部材は丈夫なものが好ましく、例えば金属製が好ましい。また、リング部材は、図示するように棒状金属をコイル状に巻いた形態を有していることが好ましいが、図27に符号800’で示されるように、巻き数を増した形態であってもかまわない。
【0056】
ちなみに、“ランセットの押し込み力の低減”の観点からは、外筒のテーパー部470の長さを長手方向に延ばしてもよい。つまり、外筒の長手方向(軸方向)においてテーパー部470が延在する長さを長くしてもよい。特に、テーパー部によって狭まる大きさ(=「半径方向長さ」)が同じである場合、テーパー部470の長さ(=「外筒の長手方向長さ」)が長いと、単位時間あたりに必要とされる押し込み力が減じられることになるので、操作者にとってみれば“押し込み力”が全体的に減ったように感じるという効果が期待される。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されない。本発明では種々の形態が考えられるだけでなく、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0058】
例えば、「外筒内径が減じられていない内面B」は、外筒の開口端まで同一の外筒内径であってもよいものの、図示するように(例えば図8に示すように)、外筒の開口端に向かって外筒内径が次第に小さくなるテーパー部475を部分的に備えていてもよい。この場合、図示するように、内面Bには周方向凹部485が形成されることになる。つまり、外筒胴部の内面には、テーパー部470を挟む形態で2つの周方向溝(即ち、図8に示すような周方向凹部480および周方向凹部485)が存在することになる。このように、テーパー部475が設けられると、外筒内における内筒の収納性が向上することになる。
【0059】
ランセットの固定をより確実にするために、外筒400の胴部450には、図示するように(例えば、図2に示すように)、周方向にスリット状に切り取られた形態の周方向切欠き部495を形成してもよい。
【0060】
内筒の周方向凸部570の形状は、図示したような全体的に“やや丸みを帯びた形状”に限定されるものではなく、角張った形状など種々の形状が考えられる。外筒の周方向凹部480の形状も、図示したような形状に限定されず、周方向凸部570が嵌り込むのであれば、どのような形状であってもよい。同様に、ランセットの取外しに用いる棒状部材700の形状も、図21に示すような“棒状”に限定されるものではなく、ランセットを後方から押圧できるものであれば、どのような形状であってもよい。
【0061】
更には、上述の実施形態では、「内筒に周方向凸部が設けられている一方、外筒に周方向凹部が設けられている固定機構」について説明してきたが、本発明の概念に基づくと、必ずしもかかる態様に限定されることはない。つまり、図30に示すように、「内筒500に周方向凹部597が設けられている一方、外筒400に周方向凸部498が設けられている固定機構」であっても、本発明の効果の点では特に変わりはない。この場合、ランセット固定機構300は、以下のような構成要素を有することになる:
外筒400、および
外筒400に対して相対的に可動するように外筒の内側に設けられる内筒500
を有して成り、
外筒胴部450の内面には周方向凸部498が設けられており、
内筒胴部550の外面には内筒の内部から開口端の方向に向かって外面径が大きくなるテーパー部595が設けられ、テーパー部595によって拡がった内筒胴部の外面に周方向凹部597が設けられている。
かかるランセット固定機構300は、ランセットが内筒500に挿入され、ランセットによって外筒の更に内部へと内筒が押圧されると、周方向凸部498がテーパー部595を摺動して周方向凹部597に嵌り込むまで移動し、ランセットが内筒胴部550によって締め付けられることを特徴としている。このようなランセット固定機構であっても、これまで説明してきたランセット固定機構と同様の種々の特徴・機能を有し得ることは当業者に容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0062】
使用に際してランセットを簡易かつ確実に固定できるので、本発明の固定機構は、ランセットを使用する種々の採血器具に用いることができる。また、そのような採血器具の分野だけでなく、本発明の固定機構は、対象物を簡易かつ確実に固定できるので、そのような対象物を固定する用途に対しても同様に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、ランセット固定機構の斜視図である。
【図2】図2は、ランセット固定機構の分解斜視図である。
【図3】図3は、内筒の斜視図である。
【図4】図4は、内筒の後方側からの斜視図である。
【図5】図5は、外筒の斜視図である。
【図6】図6は、外筒の後方側からの斜視図である。
【図7】図7は、外筒胴部の内側を示した斜視図(外筒をその長手方向に半分割した図面)である。
【図8】図8は、図7を部分的に拡大した図である。
【図9】図9は、プランジャーに設けられた外筒の態様を示した斜視図である。
【図10】図10は、プランジャーに設けられるランセット固定機構の分解斜視図である。
【図11】図11は、インジェクターの外観を示した斜視図である。
【図12】図12は、インジェクター内におけるランセット固定機構の態様を示した斜視図である。
【図13】図13は、プランジャーに設けられたランセット固定機構の態様を示した斜視図である。
【図14】図14は、ランセットの外観を示した斜視図である。
【図15】図15は、ランセットキャップを外した状態のランセットの斜視図である。
【図16】図16は、ランセットの内部が分かるように、図14のランセットを半分割した斜視図である。
【図17】図17は、ランセットの外観を示した斜視図である。
【図18】図18は、ランセットキャップを外した状態のランセットの斜視図である。
【図19】図19は、固定機構に対してランセットを挿入する前の状態を示した斜視図である。
【図20】図20は、固定機構に対してランセットを挿入した後の状態を示した斜視図である。
【図21】図21は、固定機構に固定されたランセットを取り外す原理を模式的に表した斜視図である。
【図22】図22は、エジェクター機構および固定機構を表した斜視図である。
【図23】図23は、ランセット挿入前の内筒と外筒との関係を模式的に表した斜視図である。
【図24】図24は、ランセット挿入中の内筒と外筒との関係を模式的に表した斜視図である。
【図25】図25は、ランセット固定時の内筒と外筒との関係を模式的に表した斜視図である。
【図26】図26は、内筒胴部の内面にランセット回転防止用凸部が設けられた態様を示した斜視図である。
【図27】図27は、「外筒胴部に切り込み」および「外筒胴部の外面にリング部材」が設けられた好適な固定機構の態様を示した斜視図である。
【図28】図28は、図27に示す固定機構の分解斜視図である。
【図29】図29は、図27に示す固定機構にランセットが取り付けられた態様を表した斜視図である。
【図30】図30は、「内筒に周方向凹部が設けられている一方、外筒に周方向凸部が設けられている固定機構」の態様を概念的に表した模式図である。
【図31】図31は、ランセットアッセンブリの外観を表した斜視図である。
【図32】図32は、インジェクターの外観を表した斜視図である。
【図33】図33は、ランセットの外観を表した斜視図である。
【図34】図34は、ランセットの内部が分かるように、図33のランセットを半分割した場合の斜視図である。
【図35】図35は、ランセットアッセンブリがインジェクターに装填される前の態様を示した斜視図である。
【図36】図36は、ランセットアッセンブリの装填によりランセットがプランジャー先端部に把持された態様を示した斜視図である。
【図37】図37は、ランセットアッセンブリの装填が完了し、プランジャーが後退できない状態となった態様を示した斜視図である。
【図38】図38は、ランセットキャップが外されて穿刺可能状態となった態様を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
101 ランセット
104 ランセットボディ
104a ランセットボディの後端部
104b ランセットボディに設けられた凸部
105 穿刺部材
106 ランセットキャップ
200 インジェクター
204 インジェクターに設けられるプランジャー
250 エジェクター機構
255a エジェクター部
300 ランセット固定機構
400 外筒
450 外筒胴部
455 外筒胴部の内面
455a 外筒の底部内面
455b 外筒の底部中空部
457 外筒底部に設けられた開口部
459 外筒胴部の外面
470 テーパー部
475 テーパー部(任意)
480 周方向凹部
490 外筒の長尺切欠き部
490a 長尺切欠き部の側方エッジ部
490b 長尺切欠き部の前方エッジ部
495 周方向切欠き部
497 外筒胴部に形成された切り込み
498 外筒胴部の内面に設けられた周方向凸部
500 内筒
510 内筒内部の中空部分
520 突起部
550 内筒胴部
555 内筒の底部外面
557 内筒底部に設けられた開口部
560 内筒胴部の切欠き部
565 内筒底部の外側に設けられたボス
570 周方向凸部
570a 周方向凸部の表面を部分的に切り取ることによって形成された楕円状平面
590 内筒胴部の内面に設けられた凸部(ランセット回転防止用凸部)
595 内筒胴部の外面に設けられたテーパー部
597 内筒胴部の外面に設けられた周方向凸部
600 スプリング
700 棒状部材
800 リング部材
800’ リング部材
100’ ランセットアッセンブリ
101’ ランセット
102’ 保護カバー
104’ ランセットボディ
105’ 穿刺部材
106’ ランセットキャップ
108’ 弱化部材
114’ ランセットボディの前方部分
116’ ランセットボディの後方部分
200’ インジェクター
204’ プランジャー
214’ インジェクターの前端開口部
264’,266’ プランジャーの先端部
514’ トリガー部材
524’ プランジャーに設けられた突起
526’ トリガー部材の後方部分端部
542’ トリガー部材のプレス部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒、および
該外筒に対して相対的に可動するように該外筒の内側に設けられる内筒
を有して成るランセット固定機構であって、
内筒胴部の外面には周方向凸部が設けられており、
外筒胴部の内面には該外筒の開口端から内部の方向に向かって外筒内径が小さくなるテーパー部が設けられ、該テーパー部によって狭まった外筒胴部の内面に周方向凹部が設けられており、
ランセットが該内筒に挿入され、該ランセットによって該外筒の内部へと該内筒が押圧されると、該周方向凸部が該テーパー部上を摺動して該周方向凹部に嵌り込むまで移動し、該ランセットが該内筒胴部によって締め付けられることを特徴とする、ランセット固定機構。
【請求項2】
前記周方向凹部は、前記ランセットが挿入される前の状態の前記周方向凸部が接する又は位置する前記外筒胴部の内面よりも半径方向内側に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のランセット固定機構。
【請求項3】
前記内筒胴部が、該内筒の開口端からスリット状に切り取られた形態の切欠き部を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載のランセット固定機構。
【請求項4】
前記内筒胴部が少なくとも2つの区画に分かれるように、該内筒胴部が前記内筒の開口端からスリット状に切り取られていることを特徴とする、請求項3に記載のランセット固定機構。
【請求項5】
前記内筒胴部の周方向に沿って前記周方向凸部の高さが異なっている、請求項1〜4のいずれかに記載のランセット固定機構。
【請求項6】
前記内筒胴部の外面に突起部が形成されている一方、前記外筒胴部の一部に長尺切欠き部が形成されており、
該突起部が該長尺切欠き部に嵌り込むように該内筒と該外筒とが組み合わされ、該内筒と該外筒とが相対的に回転しないようになっており、
該内筒が該外筒の内部に向かって移動する際、該突起部が該長尺切欠き部に沿って移動することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のランセット固定機構。
【請求項7】
前記外筒胴部には、前記外筒の開口端から切り込みが入れられており、前記外筒胴部の外面にリング部材が設けられていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のランセット固定機構。
【請求項8】
前記外筒の内部に向かって前記内筒が押圧されるに際して、前記外筒胴部の少なくとも一部が半径方向外側へと撓むことを特徴とする、請求項7に記載のランセット固定機構。
【請求項9】
前記周方向凸部が前記周方向凹部に嵌り込むと、前記リング部材に起因して、ランセットが前記内筒胴部により締め付けられることを特徴とする、請求項7または8に記載のランセット固定機構。
【請求項10】
前記内筒の内面には、開口端から内部の方向に向かって延在する凸部が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のランセット固定機構。
【請求項11】
前記内筒の底部外面と前記外筒の底部内面との間にスプリングが設けられており、該スプリングに起因して該内筒に前向きの力が掛かっていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のランセット固定機構。
【請求項12】
前記外筒および前記内筒の底壁に設けられた開口部を介して棒状部材を外側から挿入することによって、前記ランセット固定機構に固定されている前記ランセットを該棒状部材で押圧し、それによって、該内筒から該ランセットを取り外すことができることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のランセット固定機構。
【請求項13】
穿刺に際してランセットを発射させる機能を有するインジェクターのプランジャーに対して設けられていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載のランセット固定機構。
【請求項14】
外筒、および
該外筒に対して相対的に可動するように該外筒の内側に設けられる内筒
を有して成るランセット固定機構であって、
外筒胴部の内面には周方向凸部が設けられており、
内筒胴部の外面には該内筒の内部から開口端の方向に向かって外面径が大きくなるテーパー部が設けられ、該テーパー部によって拡がった内筒胴部の外面に周方向凹部が設けられており、
ランセットが該内筒に挿入され、該ランセットによって該外筒の内部へと該内筒が押圧されると、該周方向凸部が該テーパー部上を摺動して該周方向凹部に嵌り込むまで移動し、該ランセットが該内筒胴部によって締め付けられることを特徴とする、ランセット固定機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2010−35687(P2010−35687A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199628(P2008−199628)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000200666)泉株式会社 (24)
【Fターム(参考)】