説明

リアクトル

【課題】組立作業性に優れるリアクトル及びリアクトル用インシュレータを提供する。
【解決手段】リアクトル1は、筒状のコイル素子21,22を有するコイル2と、コイル素子21,22内に配置される内側コア部31とコイル2から露出される外側コア部32とを有する磁性コア3と、コイル2と磁性コア3との間を絶縁するインシュレータ4とを具える。インシュレータ4は、ギャップ板42Aを一体に保持する枠状部41Aを具える。リアクトル1は、枠状部41Aとギャップ板42Aとがインサート成形などにより一体になった複合部材40Aを具えることで、組立作業性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の構成部品に利用されるリアクトル、リアクトルの構成部品に利用されるリアクトル用インシュレータ、リアクトルを具えるコンバータ、及びコンバータを具える電力変換装置に関するものである。特に、組立作業性に優れるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。例えば、特許文献1は、ハイブリッド自動車などの車両に載置されるコンバータの回路部品に利用されるリアクトルを開示している。このリアクトルは、一対の筒状のコイル素子が横並びに配置されたコイルと、各コイル素子内にそれぞれ配置される一対の内側コア部(内側部分コア)と上記コイル素子内に収納されず、コイルから露出された一対の外側コア部(外側部分コア)とにより閉磁路を形成する環状の磁性コアと、コイルと磁性コアとを電気的に絶縁するインシュレータとを具える。
【0003】
上記磁性コアは、複数の磁性材料からなるコア片と、複数の非磁性材料からなる板状のギャップスペーサとを組み合せて形成される。また、上記インシュレータは、内側コア部の外周に配置される一対の]状片を組み合せた内側ボビンと、コイルの端面に配置されて、コイルと外側コア部とを絶縁する枠状外側ボビンとを具える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-129149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のインシュレータを具えるリアクトルでは、組立作業性に劣る。
【0006】
従来のリアクトルでは、代表的には、コア片とギャップスペーサとを交互に積層して内側コア部を作製し、この内側コア部の外周にインシュレータの内側ボビンを配置し、更に、この内側ボビンを具える内側コア部と、インシュレータの外側ボビンと、外側コア部とを組み付けて製造する。このように従来のリアクトルでは、部品点数が多いことで工程数が多く、組立作業性に劣る。特に、ギャップスペーサは、通常、1mm程度以下といった非常に薄い板材であることから、取り扱い難く、この点からも組立作業性に劣る。
【0007】
また、コア片とギャップスペーサとをそれぞれ接着剤により接合する場合、接合箇所ごとに接着剤を硬化する必要があるため、工程が多くなる。一方、コア片とギャップスペーサとの積層体を1枚の粘着テープにより一体化すると、硬化工程を不要にできる。しかし、この場合も、上述のようにギャップスペーサが非常に薄いことから、特許文献1に記載されるように内側コア部の両端面をギャップスペーサとする場合、粘着テープによって両端に位置するギャップスペーサと、これらギャップスペーサに隣接するコア片とを接合し難い。外側コア部における内側コア部との接合面にギャップスペーサを接合することも考えられるが、上記接合面がギャップスペーサよりも大きい場合などでは、適切な位置に接合し難いことがある。この点からも、従来のリアクトルでは組立作業性に劣る。
【0008】
そこで、本発明の目的の一つは、組立作業性に優れるリアクトルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、リアクトルの組立作業性の向上に寄与することができるリアクトル用インシュレータを提供することにある。更に、本発明の他の目的は、上記リアクトルを具えるコンバータ、このコンバータを具える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インシュレータの外側ボビン(枠状部)がギャップスペーサ(ギャップ板)を一体に保持する構成とすることで上記目的を達成する。
【0010】
本発明のリアクトルは、巻線を巻回してなる筒状のコイルと、閉磁路を形成する磁性コアと、上記コイルと上記磁性コアとの間を電気的に絶縁するインシュレータとを具える。上記磁性コアは、上記コイル内に配置される内側コア部と、上記コイルから露出される外側コア部とを具える。上記インシュレータは、上記コイルの端面と上記外側コア部とを絶縁する枠状部を具える。そして、上記枠状部は、当該枠状部の構成材料とは異種の材料であって、上記磁性コアを構成する磁性材料よりも透磁率が低い材料からなるギャップ板を一体に保持する。
【0011】
本発明のリアクトル用インシュレータは、巻線を巻回してなる筒状のコイルと、上記コイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具えるリアクトルの構成部品に利用されるものであり、上記コイルと上記磁性コアとの間を電気的に絶縁するための部品である。このインシュレータは、上記磁性コアのうち、上記コイルから露出される外側コア部と、上記コイルの端面とを絶縁する枠状部を具える。そして、上記枠状部は、当該枠状部の構成材料とは異種の材料であって、上記磁性コアを構成する磁性材料よりも透磁率が低い材料からなるギャップ板を一体に保持する。
【0012】
なお、上記インシュレータにおいて「絶縁」とは、コイルと磁性コアとの間が電気的に絶縁され得る程度の耐電圧特性を有することをいう。また、上記インシュレータにおいて「外側コア部とコイルの端面とを絶縁する」とは、コイルの端面と外側コア部との間に枠状部が直接介在された形態の他、枠状部が介在されていなくても、枠状部の構成材料によりコイルの端面と外側コア部との間の沿面距離が増加された形態を含む。
【0013】
本発明リアクトルや本発明リアクトル用インシュレータは、枠状部がギャップ板を一体に保持するため、当該枠状部と当該ギャップ板とを一つの部材として取り扱うことができる。枠状部と一体になることで薄いギャップ板を取り扱い易いことから、本発明リアクトルや、本発明のインシュレータを用いてリアクトルを組み立てる際、内側コア部や外側コア部を構成するコア片間に上記ギャップ板を容易に配置でき、組立作業性に優れる。また、枠状部とギャップ板とを一つの部材として扱えることで、本発明リアクトルや本発明のインシュレータは、部品点数を低減できる。
【0014】
本発明のインシュレータは、枠状材とギャップスペーサとが分離されて独立した部材である場合と比較して、枠状部とギャップ板とを一つの部材として扱えることで薄いギャップ板を取り扱い易い上に、部品点数が少なく、リアクトルの組立工程数を低減できる。そのため、本発明のインシュレータは、リアクトルの組立作業性の向上に寄与することができる。
【0015】
本発明リアクトル及び本発明のインシュレータの一形態として、上記ギャップ板は、インサート成形により上記枠状部に一体成形されて、当該枠状部に保持された形態が挙げられる。
【0016】
上記形態は、接着剤や粘着テープなどの固定剤を用いることなく、上記枠状部と上記ギャップ板との一体物を容易に製造できる。また、上記形態は、任意の形状のギャップ板を枠状部に容易に一体成形できる。これらの点から、上記形態は、上記一体物の製造性に優れる。更に、上記形態は、枠状部の構成材料(主として樹脂)がギャップ板を強固に保持し易いことから、上記一体物を取り扱い易く、組立作業性に優れる。
【0017】
本発明リアクトル及び本発明のインシュレータの一形態として、上記枠状部と上記ギャップ板とが独立した部材であり、かつ相互に係合する係合部を有する形態が挙げられる。この形態では、上記ギャップ板は、上記枠状部に設けられた貫通孔に嵌め込まれると共に、上記係合部の係合により当該枠状部に保持される。
【0018】
上記形態は、上記枠状部と上記ギャップ板とを別個に製造できるため、一体成形用の成形装置が不要である上に、種々の材料を利用可能である。かつ、上記形態は、係合部によって、上述の固定剤を用いることなく、上記枠状部と上記ギャップ板との両者を一体にして分離し難くすることができる。従って、上記形態も、枠状部がギャップ板を強固に保持し易いことから、両者の一体物を取り扱い易く、組立作業性に優れる。
【0019】
本発明リアクトル及び本発明のインシュレータの一形態として、上記ギャップ板の厚さが上記枠状部において上記ギャップ板が嵌め込まれる箇所の厚さよりも厚い形態が挙げられる。
【0020】
上記形態では、枠状部に嵌め込まれたギャップ板の一部が枠状部から突出するため、ギャップ板がより確実にコア片に接触することができる。そのため、上記形態は、インダクタンスを精度よく調整できる。また、上記形態は、ギャップ板とコア片とが密着できることから、磁性コアの振動による騒音を抑制できる。
【0021】
本発明リアクトルは、コンバータの構成部品に好適に利用することができる。本発明のコンバータとして、スイッチング素子と、上記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、上記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するものであって、上記リアクトルが本発明リアクトルである形態が挙げられる。この本発明コンバータは、電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明の電力変換装置として、入力電圧を変換するコンバータと、上記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、上記コンバータが本発明コンバータである形態が挙げられる。
【0022】
本発明コンバータや本発明電力変換装置は、組立作業性に優れる本発明リアクトルを具えることで、組立作業性に優れる。
【発明の効果】
【0023】
本発明リアクトルは、組立作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】は、実施形態1のリアクトルの概略斜視図である。
【図2】(A)は、実施形態1のリアクトルの分解斜視図、(B)は、このリアクトルに具える内側コア部の分解斜視図である。
【図3】(A)は、実施形態1のリアクトルに具える複合部材の斜視図、(a)は、この(a)-(a)断面図、(B)は、別の形態の複合部材の斜視図、(b)は、この(b)-(b)断面図である。
【図4】(C),(D)は、別の形態の複合部材の斜視図、(c),(d)はそれぞれ、(c)-(c)断面図、(d)-(d)断面図である。
【図5】(A)は、別の形態の複合部材の製造途中の斜視図、(B)は、その分解斜視図、(C)は、(C)-(C)断面における分解図、(D)は、(C)-(C)断面図、(E)はこの形態の複合部材の断面図である。
【図6】(A)は、別の形態の複合部材の斜視図、(B)は、分解斜視図、(C)は、(C)-(C)断面図、(D)は、(C)-(C)断面における分解図である。
【図7】図7は、ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す概略構成図である。
【図8】図8は、本発明コンバータを具える本発明電力変換装置の一例を示す概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を具体的に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0026】
(実施形態1)
以下、図1〜図3を参照して、実施形態1のリアクトル1を説明する。リアクトル1は、代表的には、内部に冷媒の循環路(図示せず)などを有する金属製(代表的にはアルミニウム製)の冷却台に設置されて回路部品として利用される。このリアクトル1は、コイル2と、外周の一部にコイル2が配置される環状の磁性コア3と、コイル2と磁性コア3との間に配置されて、コイル2と磁性コア3との間を電気的に絶縁するインシュレータ4とを具える。コイル2は、一対の筒状のコイル素子21,22を具え、磁性コア3は、コイル素子21,22内にそれぞれ配置される一対の内側コア部31(図2)と、コイル素子21,22内に配置されず、コイル2から露出される一対の外側コア部32とを具える。このリアクトル1の特徴とするところは、インシュレータ4において、コイル素子21,22の端面と外側コア部32とを絶縁する部分が特定の構成である点にある。以下、各構成をより詳細に説明する。
【0027】
[コイル]
コイル2(図1,図2)は、接合部を有しない1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子21,22と、両コイル素子21,22を連結する連結部23とを具える。各コイル素子21,22は、互いに同一の巻数で、中空の筒状(ここでは角部を丸めた長方形状)である。これら両コイル素子21,22は、各軸方向が平行するように横並びに並列されており、コイル2の他端側(図1では右側)において巻線2wの一部がU字状に屈曲されて連結部23が形成されている。この構成により、両コイル素子21,22の巻回方向は同一となっている。
【0028】
巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁材料からなる絶縁被覆を具える被覆線が好適に利用できる。ここでは、巻線2wに、横断面形状が長方形状である銅製の平角線の上に、エナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる絶縁被覆を具える被覆平角線を利用している。両コイル素子21,22は、上記被覆平角線をエッジワイズ巻きにして形成されたエッジワイズコイルである。エッジワイズコイルは、占積率を高め易く、小型なコイルとすることができる。その他、巻線2wは、導体の横断面形状が円形状、楕円形状、多角形状などの種々の形状のものを利用できる。コイル素子21,22の端面形状・巻回数などは、適宜選択することができ、例えば、端面形状を円筒状などとすることができる。
【0029】
なお、各コイル素子を別々の巻線により作製し、各コイル素子を形成する巻線の端部を溶接や半田付け、圧着などにより接合されたコイルとすることができる。
【0030】
コイル2を形成する巻線2wの両端部は、コイル2の一端側(図1では左側)においてターン形成部分から適宜引き延ばされて、ターン形成部分から離される。そして、絶縁被覆が剥がされて露出された導体部分に、導電性材料からなる端子金具(図示せず)が接続される。この端子金具を介して、コイル2に電力供給を行う電源などの外部装置(図示せず)が接続される。巻線2wの導体部分と端子金具との接続には、TIG溶接などの溶接や半田付け、圧着などが利用できる。
【0031】
[磁性コア]
磁性コア3の説明は、主として図2を参照して行う。磁性コア3のうち、各コイル素子21,22内にそれぞれ挿入される内側コア部31はいずれも、コイル素子21,22の内周形状に沿った形状(角部を丸めてた直方体状)の柱状体である。磁性コア3のうち、各コイル素子21,22に挿入されず、露出されている外側コア部32はいずれも、一対の台形状面を有する柱状体である。内側コア部31及び外側コア部32の外形や大きさは、適宜選択することができ、例えば、内側コア部31を円柱状や直方体状、外側コア部32を直方体状などとすることができる。
【0032】
磁性コア3は、離間して配置される両内側コア部31を挟むように外側コア部32が配置され、各内側コア部31の端面31eと外側コア部32の内端面32eとで後述するギャップ板42Aを挟持して環状に形成され、コイル2を励磁したとき、閉磁路を形成する。
【0033】
内側コア部31は、図2(B)に示すように磁性材料からなるコア片31mと、代表的には非磁性材料からなるギャップ材31gとを交互に積層して構成された積層体(図2(A))であり、外側コア部32は、磁性材料からなるコア片である。上記積層体や、内側コア部31と外側コア部32とは、接着剤や粘着テープなどを利用して一体化することで、環状に組み合わせた状態を維持できる。その他、結束帯などを利用して、磁性コア3を環状に組み合せた状態を保持してもよい。
【0034】
各コア片には、磁性粉末を用いた成形体や、絶縁被膜を有する磁性薄板(例えば、電磁鋼板)を複数積層した積層体が利用できる。上記成形体は、例えば、Fe,Co,Niといった鉄族金属、Fe-Si,Fe-Ni,Fe-Al,Fe-Co,Fe-Cr,Fe-Si-AlなどのFeを主成分とするFe基合金、希土類金属やアモルファス磁性体といった軟磁性材料からなる粉末を用いた圧粉成形体、上記粉末をプレス成形後に焼結した焼結体、上記粉末と樹脂との混合体を射出成形や注型成形などした成形硬化体が挙げられる。その他、コア片は、金属酸化物の焼結体であるフェライトコアなどが挙げられる。成形体は、種々の立体形状のコア片を容易に形成することができる。
【0035】
圧粉成形体は、上記軟磁性材料(特に金属)からなる粉末の表面に絶縁被膜(代表的には、シリコーン樹脂やリン酸塩からなるもの)を具えるものを利用すると、渦電流損といった損失を低減できる。ここでは、各コア片は、鉄や鋼などの鉄を含有する軟磁性粉末の圧粉成形体としている。
【0036】
ギャップ材31gは、インダクタンスの調整のためにコア片間に配置される板状材であり、コア片よりも透磁率が低い材料により構成される。具体的な材料としては、アルミナといったセラミックス、ガラスエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂などが挙げられる。その他、ギャップ材31gには、セラミックスやフェノール樹脂などの非磁性材料に磁性粉末(例えば、フェライト、Fe,Fe-Si,センダスト)が分散した混合材料を用いることができる。特に、混合材料は、比透磁率が1超10以下程度が好ましい。
【0037】
コア片やギャップ材31gの形状(外形)は適宜選択することができる。ここでは、内側コア部31を構成する各コア片31mは、直方体状(周面の角部を丸めたもの)とし、各ギャップ材31gは、その端面形状がコア片31mと同形の矩形状としている。ギャップ材31gは、コア片間に所定の距離を保持できれば、その外形がコア片31mと異なっていてもよく、端面の大きさが異なっていてもよい。
【0038】
また、ここでは、各ギャップ材31gの厚さを全て均一にすると共に、コア片31mの厚さよりも薄くしている。各ギャップ材31gの厚さを異ならせてもよい。また、各ギャップ材31gの厚さが薄いほど、ギャップ部分における漏れ磁束を小さくすることができる。各ギャップ材31gの厚さは、例えば、0.2mm〜5mmが挙げられる。
【0039】
コア片31m及びギャップ材31gの個数、ギャップ材31gの厚さやギャップ材31gの配置位置は、リアクトル1が所望のインダクタンスとなるように適宜選択することができる。
【0040】
その他、この例に示す磁性コア3は、環状に組み立てた状態において内側コア部31と外側コア部32とが面一ではない。具体的には、リアクトル1を冷却台などの設置対象に設置したとき、外側コア部32において設置側となる面(以下、コア設置面と呼ぶ。図2において下面)、及びコア設置面との対向面(図2において上面)がいずれも内側コア部31よりも突出している。このような三次元形状の磁性コア3は、圧粉成形体からなるコア片を利用すると形成が容易である上に、外側コア部32において内側コア部31よりも突出した箇所も磁束の通路に利用できる。ここでは、外側コア部32の厚さ(コア設置面とその対向面間の距離)は、リアクトル1を組み立てた状態においてコイル2と面一になるように調整している。つまり、リアクトル1の設置側面は、コア設置面とコイル2において設置側となる面(以下、コイル設置面と呼ぶ。図2において下面)とで構成される。そのため、リアクトル1は、設置対象にコイル2や磁性コア3(外側コア部32)の熱を効率よく伝達できる上に、設置対象に対する安定性に優れる。
【0041】
その他、内側コア部と外側コア部とが面一である形態、外側コア部のコア設置面のみが内側コア部よりも突出して、コア設置面との対向面が内側コア部と面一である形態などとすることができる。
【0042】
[インシュレータ]
インシュレータ4の説明は、主として図2,図3を参照して行う。インシュレータ4は、内側コア部31の外周に配置される周壁部45と、各コイル素子21,22の端面・内側コア部31の端面31e・外側コア部32の内端面32eに当接される一対の板状の複合部材40Aとを具える。リアクトル1では、複数の異なる材質からなる複合部材40Aを具える点を最大の特徴とする。
【0043】
周壁部45は、コイル素子21,22と内側コア部31との間を絶縁する部材であり、ここでは、内側コア部31の軸方向と直交方向に分割された一対の断面]状の分割片451,452から構成される。周壁部45は、分割片451,452で構成されることで内側コア部31の外周に容易に配置できる。この例に示す周壁部45は、内側コア部31に配置したとき、内側コア部31の一部が露出される形状であるが、分割片を組み合せたときに内側コア部31の全周を覆う筒状体としてもよく、形状を適宜変更することができる。
【0044】
<形態A>
複合部材40Aは、各内側コア部31の端部を構成するコア片31mと外側コア部32とに挟まれる一対のギャップ板42Aと、このギャップ板42Aを支持する枠状部41Aとを具える。
【0045】
ギャップ板42Aは、上述したギャップ材31gと同様の構成材料(代表的にはアルミナなどのセラミックスなどの非磁性材料)により形成された板状材であり、ギャップ材31gと同様に、インダクタンスの調整部材として機能する。特に、実施形態1のリアクトル1に具えるギャップ板42Aは、図3(A)に示すように、その外形が長方形状であり、図3(a)に示すように、その側面は、その厚さ方向の中央部が外方に突出した凸形状の曲面によって形成されている。また、この例に示すギャップ板42Aでは、その厚さtgを、後述する枠状部41Aにおいてギャップ板42Aを保持する箇所の厚さt40よりも若干厚くしており(tg>t40)、ギャップ板42Aの表裏面の両面が枠状部41Aにおける上記保持する箇所から突出し、かつ枠状部41Aの一面からも突出している(このことは後述する形態B〜形態Fの複合部材40B〜40Fも同様である)。そのため、ギャップ板42Aはコア片31mと外側コア部32とに密着でき、(1)ギャップ板42Aの厚さtgによってインダクタンスを精度よく調整可能である、(2)磁性コア3の振動による騒音を抑制できる、といった効果を奏する。なお、ギャップ板42Aの厚さtgを枠状部41Aにおける上記保持する箇所の厚さt40と同等以下とすることもできる。
【0046】
枠状部41Aは、図3(A)に示すように上記ギャップ板42Aを取り外した状態とすると、一対の長方形状の開口部が横並びされた部材である。なお、複合部材40A、及び後述する複合部材40B〜40Dでは、インサート成形によりギャップ板42A(42B〜42D)が枠状部41A(41B〜41D)に一体に成形されており、実際には、取り外しできない。図3(A)、及び図3(B),図4(C),図4(D)では、一方(左側)のギャップ板42A(42B〜42D)を取り外した状態を仮想的に示す。
【0047】
複合部材40Aは、枠状部41Aとギャップ板42Aとがインサート成形により一体化されていることで、接着剤などを利用することなく、ギャップ板42Aを枠状部41Aに固定できる。特に、ギャップ板42Aは、枠状部41Aに保持される側面が上述のように凸形状であることで、枠状部41Aに掛止され、枠状部41Aに強固に固定される。従って、複合部材40Aは、リアクトル1の組立時などで、枠状部41Aからギャップ板42Aが脱落し難く、或いは脱落せず、取り扱い易い。また、枠状部41Aとギャップ板42Aとの両者が一体化されることで、両者において取り付けのための尤度が不要となり、両者を密着できるため、リアクトル1は、尤度に起因する振動を抑制できる。更に、リアクトル1では、組立後においても枠状部41Aからギャップ板42Aが脱落し難く、ギャップ板42Aが枠状部41Aから外れて内側コア部31と外側コア部32との間にギャップ板42Aが適切に配置されない、といった不具合が生じ難い。
【0048】
その他、この例に示す複合部材40Aでは、枠状部41Aにおいて内側コア部31(図2)側に配置される面から内側コア部31側に向かって突出する一対の筒片415及び隔壁416が枠状部41Aに一体に成形されている。筒片415は、コイル素子21,22(図2)と内側コア部31との間に挿入される短い筒状部材である。隔壁416は、枠状部41Aに対して横並びされた一対のギャップ板42Aの中間部に設けられ、複合部材40Aを上記組物に組み付けたとき、両コイル素子21,22間に介在されて、両素子21,22同士の接触を防止し、両素子21,22間の間隔を一定の大きさに保持し易い。筒片415における内側コア部31の軸方向の長さや周方向の長さ、隔壁416の形状などは適宜選択することができ、筒片415や隔壁416を省略した形態とすることができる。
【0049】
両複合部材40Aは、基本的な構成は同様であるが、一方(図2では右側)の複合部材40Aには、枠状部41Aに一体成形された台座417を具える。台座417は、枠状部41Aにおいて外側コア部32側に向かって突出し、複合部材40Aを上述の組物に組み付けたとき、コイル2の連結部23が載置されて、連結部23と外側コア部32との間を絶縁する。
【0050】
インシュレータ4の枠状部41A及び周壁部45は、コイル2と磁性コア3との間が電気的に絶縁され得る程度の耐電圧特性を有する材質から構成される。例えば、PPS樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの絶縁性材料が利用できる。ここでは、PPS樹脂を利用している。枠状部41Aの形成には、射出成形などの成形方法が好適に利用できる。
【0051】
複合部材40Aは、上記材料を用いて、上述のように一対のギャップ板42Aをインサート成形することで得られる。インサート成形を行う場合、ギャップ板42Aは、成形時の圧力や温度により変形や反応、分解されない材料(上述したセラミックス、不飽和ポリエステル、PPS樹脂など)からなるものを利用する。ギャップ板42Aがアルミナなどの絶縁性材料から構成される場合、複合部材40Aの全体が絶縁物で構成されることになり、絶縁性に優れる。
【0052】
[リアクトルの組み立て手順]
主として、図2を参照して、上記構成を具えるリアクトル1の形成手順を説明する。
【0053】
まず、コア片31mやギャップ材31gを積層し、接着剤や粘着テープなどを利用して、図2(A)に示す内側コア部31を形成する。内側コア部31の両端面をギャップ材31gではなく、ギャップ材31gの厚さよりも厚いコア片31mを利用することで、内側コア部31を構成する積層体を容易に形成できる。
【0054】
また、枠状部41Aの構成材料及びギャップ板42Aを用意して、インサート成形により、複合部材40Aを製造する。
【0055】
各内側コア部31の外周にインシュレータ4の周壁部45を配置したものをコイル2のコイル素子21,22内に挿入配置する。このコイル2と内側コア部31との組物において、コイル素子21,22の両端面及び内側コア部31の両端面31eを挟むように、複合部材40A及び両外側コア部32を配置する。複合部材40Aの配置にあたり、インシュレータ4の枠状部41Aに設けられた筒片415及び隔壁416をガイドに利用することができ、上記組物に複合部材40Aを組み付け易い。上記工程により、内側コア部31と外側コア部32とは、複合部材40Aのギャップ板42Aを介在して環状に組み付けられて、環状の磁性コア3を形成することができる。
【0056】
複合部材40Aのギャップ板42Aの両面、外側コア部32の内端面32eに例えば、接着剤を塗布しておき、この接着剤を硬化して、内側コア部31と外側コア部32とを、複合部材40Aのギャップ板42Aを介在して接合してもよい。この硬化工程によって、接着剤により一体化された環状の磁性コア3を形成することができる。
【0057】
上述のように環状の磁性コア3を形成することで、リアクトル1が得られる。得られたリアクトル1において、複合部材40Aの板状枠41Aにより、コイル2と外側コア部32とは沿面距離が長くなり、結果として絶縁される。特に、リアクトル1では、外側コア部32が内側コア部31よりも突出した形状であるため、外側コア部32とコイル素子21,22の端面との間に枠状部41Aが介在されることで、外側コア部32とコイル2とが接触せず、絶縁性を高められる。
【0058】
[その他の構成]
〔ケース〕
リアクトル1はそのまま利用することができる。その他、例えば、ケース(図示せず)に収納した形態とすることができる。ケースは、アルミニウムやその合金、マグネシウムやその合金といった、軽量で熱伝導性に優れるものを利用すると、軽量で放熱性に優れるリアクトルとすることができる。また、ケースにリアクトル1を収納することで、コイル2や磁性コア3の機械的保護や環境からの保護を図ることができる。
【0059】
〔外側樹脂部〕
更に、リアクトル1を収納したケースに樹脂を充填して、リアクトル1を当該樹脂で封止した形態とすることができる。封止樹脂(外側樹脂部)を具えることで、コイル2や磁性コア3の機械的保護や環境からの保護をより確実に図ることができる。
【0060】
或いは、ケースに収納せず、リアクトル1の外周を樹脂で覆い、リアクトル1の外周に樹脂モールド部(外側樹脂部)を具えた形態とすることができる。この形態は、ケースを具えていないことで、軽量化や部品点数の低減を図ることができる上に、樹脂モールド部を具えることで、コイル2や磁性コア3の機械的保護や環境からの保護を図ることができる。リアクトル1の一部、例えば、コア設置面やコイル設置面を樹脂モールド部から露出させた形態としてもよい。この露出させた形態は、これら設置面が設置対象に直接接触できるため、放熱性に優れるリアクトルとすることができる。
【0061】
外側樹脂部の構成樹脂には、例えば、エポキシ樹脂やウレタン樹脂、不飽和ポリエステル、PPS樹脂、PBT樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂などが利用できる。また、上記構成樹脂に、窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ほう素、及び炭化珪素から選択される少なくとも1種のセラミックスからなるフィラーを混合すると、放熱性を高められる。
【0062】
[用途]
上記構成を具えるリアクトル1は、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車、燃料電池自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。
【0063】
[効果]
リアクトル1は、コイル2と磁性コア3との間に介在されて電気的に絶縁するインシュレータ4として、ギャップ板42Aを一体に保持する複合部材40Aを具える。複合部材40Aがギャップ板42Aを具えることで、内側コア部31の構成要素を削減できて、内側コア部31を形成し易い。また、枠状部41Aに保持されることで、薄いギャップ板42Aを取り扱い易く、内側コア部31を構成するコア片31mと外側コア部32との間にギャップ板42Aを容易に配置できる。更に、枠状部41Aとギャップ板42Aとが別部材である場合と比較して、部品点数が少ない。これらのことから、リアクトル1は、組立作業性に優れる。
【0064】
特に、複合部材40Aでは、枠状部41Aとギャップ板42Aとが一体成形物になっているため、製造性に優れる上に、枠状部41Aとギャップ板42Aとの両者が分離され難く、取り扱い易い。この点からも、リアクトル1は、組立作業性に優れる。
【0065】
以下、ギャップ板を具える複合部材の別の形態(形態B〜F)の複合部材40B〜40Fを説明する。複合部材40B〜40Fの基本的な構成・材質は、実施形態1のリアクトル1に具える形態Aの複合部材40Aと同様であるため、形態Aとの相違点を中心に説明し、形態Aと重複する構成及び効果は、詳細な説明を省略する。なお、図3〜図6に示す複合部材40A〜40Fは、台座417(図1,図2)を具えていない形態を示すが、上述のように台座417を具える形態とすることができる。
【0066】
<形態B>
図3(B),図3(b)を参照して、形態Bの複合部材40Bを説明する。複合部材40Bは、形態Aの複合部材40Aと同様に、一対のギャップ板42Bと、これらギャップ板42Bを支持する枠状部41Bとを具え、ギャップ板42Bがインサート成形により枠状部41Bに一体に成形されている。
【0067】
ギャップ板42Bは、形態Aの複合部材40Aと同様に、その外形が長方形状である。但し、ギャップ板42Bは、図3(b)に示すように、その側面は、その厚さ方向の中央部が内方に向かって凹んだ凹形状の曲面によって形成されている。この凹部分に枠状部41Bの構成材料が入り込むことで、ギャップ板42Bは枠状部41Bに掛止される。従って、複合部材40Bは、形態Aの複合部材40Aと同様に、ギャップ板42Bを枠状部41Bに強固に固定でき、リアクトルの組立時などで、枠状部41Bからギャップ板42Bが脱落し難く、或いは脱落せず、取り扱い易い。
【0068】
<形態C,D>
図4を参照して、形態Cの複合部材40C、形態Dの複合部材40Dを説明する。複合部材40C(図4(C)),40D(図4(D))は、形態Aの複合部材40Aと同様に、一対のギャップ板42C,42Dと、一対のギャップ板42C,42Dを支持する枠状部41C,41Dとを具え、ギャップ板42C,42Dがインサート成形により枠状部41C,41Dに一体に成形されている。
【0069】
ギャップ板42Cは、形態Aの複合部材40A(図3(A))と同様に、その外形が長方形状で、かつ、その側面は、凸形状である。但し、ギャップ板42Cは、図4(c)に示すように、その側面は、複数の平面によって凸形状に形成されている。ギャップ板42Dは、形態Bの複合部材40B(図3(B))と同様に、その外形が長方形状で、かつ、その側面は、凹形状である。但し、ギャップ板42Dは、図4(d)に示すように、その側面は、複数の平面によって凹形状に形成されている。
【0070】
これら複合部材40C,40Dは、形態Aの複合部材40Aや形態Bの複合部材40Bと同様に、ギャップ板42C,42Dを枠状部41C,41Dに強固に固定でき、リアクトルの組立時などで、枠状部41C,41Dからギャップ板42C,42Dが脱落し難く、或いは脱落せず、取り扱い易い。
【0071】
<形態E>
図5を参照して、形態Eの複合部材40Eを説明する。なお、図5(A),図5(B)では、一対のギャップ板42Eのうち、一方のみを示すが、他方についても、同様の構成となっている。この点は、後述する図6(A),図6(B)についても同様である。
【0072】
複合部材40Eは、形態Aの複合部材40A(図3(A))と同様に、一対のギャップ板42Eと、これらギャップ板42Eを支持する枠状部41Eとを具える。但し、複合部材40Eは、図5(B),図5(C)に示すように、ギャップ板42Eが嵌め込まれる貫通孔411が設けられた枠状部41Eと、枠状部41Eとは独立したギャップ板42Eとを用意し、貫通孔411にギャップ板42Eを嵌め込んでから、図5(E)に示すように一体化した構成である。具体的には、一体化前において、枠状部41Eは、図5(B)に示すように枠状部41Eにおいて外側コア部側に配置される側(図5(B)において左側)に短い筒片を具え、図5(D)に示すように、枠状部41Eにおいて貫通孔411を形成する内周壁部分の厚さt41を、ギャップ板42Eにおいて枠状部41Eの内周壁に接触する外周縁部の厚さt42(最大厚さ)よりも厚くしている。この筒片は、後述するようにギャップ板42Eが所定の位置まで嵌め込まれる際の通路となる。
【0073】
ギャップ板42Eは、形態Cのギャップ板42C(図4(C))と同様に、その外形が長方形状で、かつ、その側面は、凸形状である。ここでは、図5(B)〜図5(E)に示すように、ギャップ板42Eはその側面の全周に亘って突条422を具える。
【0074】
枠状部41Eは、一体化前において、図5(B)に示すように表裏に貫通する一対の貫通孔411を有しており、各貫通孔411を構成する内周壁から突出する突条412を具える。ここでは、突条412は、内周壁において内側コア部側(図5(B)において右側)に、内周壁の全周に亘って設けられている。貫通孔411において、突条412が設けられた箇所は、他の箇所と比較してその断面積が小さくなっている(図5(D)参照)。つまり、貫通孔411は、その厚さ方向において断面積が異なる部分を有する。
【0075】
図5(C)に示すように、枠状部41Eの貫通孔411にギャップ板42Eを嵌め込むと、図5(D)に示すようにギャップ板42Eの一方の表面側領域(表層の厚さが薄い部分)が突条412に支持される。この枠状部41Eの突条412がギャップ板42Eの突条422の当て止めとなって、ギャップ板42Eは、枠状部41Eに掛止される。つまり、突条422は、枠状部41Eの貫通孔411の一方の側(ここでは内側コア部側)からギャップ板42Eを支持する支持突起として機能する。また、図5(D)に示すように、枠状部41Eにおいてギャップ板42Eが嵌め込まれる箇所の厚さt41がギャップ板42Eの厚さt42よりも十分に厚いことで、ギャップ板42Eは、枠状部41Eにおいて貫通孔411を形成する内周壁に保持されると共に、ギャップ板42Eの他方の側(ここでは外側コア部側)から上述の筒片が突出した状態となる。この突出部分を適宜溶融して変形させることで、図5(E)に示すように、溶融箇所と突条412とでギャップ板42Eを挟持した複合部材40Eが得られる。得られた複合部材40Eの外観は、上述した形態Dと概ね同様になる。このように複合部材40Eは、ギャップ板42Eがインサート成形されていないものの、枠状部41Eの一部を溶着し、上記溶融箇所と突条412とでギャップ板42Eを挟持することによって、リアクトルの組立時などでギャップ板42Eが枠状部41Eから脱落することを防止できる。また、複合部材40Eは、枠状部41Eとギャップ板42Eとを別個に製造できるため、製造方法の自由度が高い。
【0076】
なお、枠状部41Eの突条412は、ギャップ板42Eの当て止めとなればよく、例えば、内周壁の周方向の一部のみに突条を具える形態とすることができる。また、枠状部41Eにギャップ板42Eの一面を支持可能な突条412を具える場合、ギャップ板42Eの突条422を省略したり(平板状のギャップ材としたり)、ギャップ板42Eの側面の一部にのみ突条422を具える形態とすることができる。更に、外側コア部側に配置されていた短い筒片も、貫通孔の周方向の一部のみに設けられた突条とすることができる。
【0077】
<形態F>
図6を参照して、形態Fの複合部材40Fを説明する。複合部材40Fは、形態Aの複合部材40A(図3(A))と同様に、一対のギャップ板42Fと、これらギャップ板42Fを支持する枠状部41Fとを具える。但し、複合部材40Fは、上述した形態Eの複合部材40E(図5)と同様に、枠状部41Fとギャップ板42Fとが分離可能な独立した部材であり、枠状部41Fには、ギャップ板42Fが嵌め込まれる貫通孔411が設けられている。特に、複合部材40Fでは、枠状部41F及びギャップ板42Fの双方に、相互に係合する係合部を有する。
【0078】
ギャップ板42Fは、図6(B)に示すように、その外形が長方形状で、かつ、その側面の一部、ここでは四つの側面のそれぞれの中央部が凹凸形状である。より具体的には、ギャップ板42Fは、各側面の中央部における表層領域が切り欠かれ、当該側面における厚さ方向の中央部が残されて突条422を形成している。突条422の形状・大きさは適宜選択することができる。ここでは、突条422は、図6(D)に示すように、側面において突条422が設けられていない箇所を構成する平面に対して垂直な面と、この垂直な面に対して鋭角に交差する傾斜面とで形成された直角三角形状となっている。ギャップ板42Fは、この傾斜面が枠状部41Fに対向するように嵌め込まれる(図6(C))。また、ギャップ板42Fにおいて内側コア部側に配置される一面(図6(D)では右側面)は、周縁部分が全周に亘って切欠かれており、当該一面の対向面(ギャップ板42Fにおいて外側コア部側に配置される面(図6(D)では左側面))よりも面積が小さくなっている。そのため、図6(D)に示すようにギャップ板42Fの周縁部分の断面は、段差形状となっている。
【0079】
枠状部41Fは、図6(B)に示すように表裏に貫通する一対の貫通孔411を有しており、各貫通孔411を構成する内周壁から突出する二種類の突条412,413を具える。
【0080】
一方の突条412は、貫通孔411を構成する内周壁において、ギャップ板42Fの直角三角形状の突条422が嵌め込まれる位置に設けられており、ギャップ板42Fの直角三角形状の突条422と同様に直角三角形状であって、図6(D)に示すように、爪状となっている。具体的には、枠状部41Fの突条412は、枠状部41Fの内周壁を構成する平面に対して垂直な面と、この垂直な面に対して鋭角に交差する傾斜面とで形成された直角三角形状となっている。枠状部41Fにギャップ板42Fを取り付けるとき、枠状部41Fの傾斜面は、ギャップ板42Fの傾斜面に接するように設けられている。ここでは、枠状部41Fの傾斜面は、枠状部41Fにおいて外側コア部側に配置される側に設けられている。突条412の形成領域は、突条422に応じて適宜変更することができる。
【0081】
他方の突条413は、平板からなり、L字状の突起であり、各貫通孔411を構成する内周壁の周方向において、突条412が設けられていない箇所(ここでは、四つの角部)に設けられている。貫通孔411においてこの突条413が設けられた箇所は、他の箇所と比較してその断面積が小さくなっている(図6(D)参照)。突条413の形成領域は、適宜変更することができ、例えば、四つ角部全てではなく三つ以下の任意の角部に設けてもよいし、突条413を構成するL字の長さを短くしてもよい。
【0082】
上述の突条413,412の配置位置は、図6(D)に示すように、貫通孔411の軸方向の位置が異なっている。上述の直角三角形状の突条412が枠状部41Fにおいて外側コア部側寄りに配置され、L字状の突条413が枠状部41Fにおいて内側コア部側寄りに配置されている。
【0083】
図6(D)に示すように、ギャップ板42Fにおいて上述した断面積が小さい方(図6(D)では右方)を枠状部41Fの貫通孔411に向けて嵌め込む。すると、ギャップ板42Fに具える直角三角形状の突条422の傾斜面が枠状部41Fに具える直角三角形状の突条412の傾斜面に案内され、更に、ギャップ板42Fを押し込むと、枠状部41Fが弾性変形して、ギャップ板42Fの突条422が枠状部41Fの突条412を乗り越えて、図6(C)に示すように、両突条412,422の垂直な面同士が接触して係合する。即ち、枠状部41Fの突条412とギャップ板42Fの突条422とは、係合部として機能する。また、図6(C)に示すようにギャップ板42Fの一方の表面側領域が枠状部41Fの突条413に支持され、枠状部41Fの突条413がギャップ板42Eの突条422の当て止めとなって、ギャップ板42Fを掛止し、ギャップ板42Fは、突条412,413に挟持される。このように、複合部材40Fは、上述の係合部と、この当て止めとの双方により、ギャップ板42Fを枠状部41Fによって強固に保持できる。
【0084】
従って、複合部材40Fは、ギャップ板42Fがインサート成形されていないものの、上述の係合部などによってギャップ板42Fを十分に保持でき、リアクトルの組立時などでギャップ板42Fが枠状部41Fから脱落することを防止できる。特に、複合部材40Fは、上述のように簡単な作業で、ギャップ板42Fと枠状部41Fとを一体化することができる。また、枠状部41Fは、係合部によりギャップ板42Fを強固に保持できる上に、突条412,413によりギャップ板42Fを挟持できることから、係合状態が外れ難く、脱落をより確実に防止できる。これらの点から、複合部材40Fは、リアクトルの組立作業性の向上に寄与することができる。
【0085】
なお、複合部材40Fでは、ギャップ板42Fの厚さ(最大厚さ)を枠状部41Fにおいてギャップ板42Fが嵌め込まれる箇所(保持する箇所)の厚さをよりも若干厚くしているが、同等としてもよい。
【0086】
(実施形態2)
実施形態1では、一対のコイル素子を具える形態を説明した。その他、筒状のコイルを一つ具える形態とすることができる。この場合、磁性コアは、コイル内に配置される内側コア部と、外側コア部として、コイルの外周に配置される外周コア部及びコイルの両端面に配置される一対の端部コア部とを具える形態が挙げられる。より具体的には、E-Eコア、E-Iコア、断面E-Eとなるポットコアなどが利用できる。
【0087】
この形態では、インシュレータは、内側コア部の外周に配置される筒状の周壁部と、コイルの端面と端部コア部の内端面の少なくとも一部とに当接される一対の板状の複合部材を具えるとよい。この複合部材は、内側コア部と端部コア部とに挟まれる一つのギャップ板と、このギャップ板を支持する枠状部とを具える形態とするとよい。端的に言うと、上述した複合部材40A〜40Fにおいて、一方のギャップ板42A〜42Fのみを具える複合部材を利用するとよい。
【0088】
(変形例1)
上述した形態では、複合部材40A〜40Fと周壁部45とが独立した別部材である形態を説明したが、複合部材40A〜40Fの枠状部と周壁部を構成する]状の分割片とが一体成形され、一対の複合部材がコイル2の軸方向に分割可能な形態とすることができる。各複合部材に具える]状の分割片には、互いに係合する係合部を具えると、当該分割片の相互の位置決めを容易にできる。
【0089】
(変形例2)
或いは、周壁部45を省略して複合部材40A〜40Fのみとし、内側コア部31の外周には、例えば、熱収縮チューブなどの絶縁性チューブ、絶縁材料からなる粘着テープや絶縁紙などにより形成した被覆層といった絶縁層を具える形態とすることができる。
【0090】
(変形例3)
或いは、上記被覆層に代えて、複合部材40A〜40Fの枠状部41A〜41Fに具える筒片415の長さをより長くした形態(例えば、筒片の長さを内側コア部31の長さの1/2程度にした形態)とすることができる。
【0091】
(実施形態I)
実施形態1,2のリアクトルや形態B〜形態Fの複合部材40B〜40Fを具えるリアクトル(以下、本発明リアクトル等と呼ぶ)は、例えば、車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを具える電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【0092】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両200は、図7に示すようにメインバッテリ210と、メインバッテリ210に接続される電力変換装置100と、メインバッテリ210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)220とを具える。モータ220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両200は、モータ220に加えてエンジンを具える。なお、図7では、車両200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを具える形態とすることができる。
【0093】
電力変換装置100は、メインバッテリ210に接続されるコンバータ110と、コンバータ110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ120とを有する。この例に示すコンバータ110は、車両200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ120に給電する。また、コンバータ110は、回生時、モータ220からインバータ120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ210に充電させている。インバータ120は、車両200の走行時、コンバータ110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ220に給電し、回生時、モータ220からの交流出力を直流に変換してコンバータ110に出力している。
【0094】
コンバータ110は、図8に示すように複数のスイッチング素子111と、スイッチング素子111の動作を制御する駆動回路112と、リアクトルLとを具え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上記本発明リアクトル等を具える。組立作業性に優れる本発明リアクトル等を具えることで、電力変換装置100やコンバータ110は、組立作業性に優れる。
【0095】
なお、車両200は、コンバータ110の他、メインバッテリ210に接続された給電装置用コンバータ150や、補機類240の電力源となるサブバッテリ230とメインバッテリ210とに接続され、メインバッテリ210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ160を具える。コンバータ110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ150や補機電源用コンバータ160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ150や補機電源用コンバータ160のリアクトルに、上記本発明リアクトル等と同様の構成を具え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上記本発明リアクトル等を利用することもできる。
【0096】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、形態Fで説明した係合部の構成を変更することができる。具体的には、例えば、枠状部に突起412,413を設けておき(突起412の幅をより狭くしてもよい)、ギャップ板の側面がギャップ板の一面から他面に向かって傾斜した傾斜面で形成された形態、つまり、ギャップ板の形状が四角錘台状になった形態が挙げられる。この形態は、ギャップ板を枠状部に嵌め込み易い上に、ギャップ板の形状が簡素であり、ギャップ板の製造性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明リアクトルは、各種のリアクトル(車載部品、発電・変電設備の部品など)に好適に利用することができる。特に、本発明リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車といった車両に搭載されるDC-DCコンバータといった電力変換装置の構成部品に利用することができる。本発明コンバータや本発明電力変換装置は、車載用、発電・変電設備用などの種々の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 リアクトル
2 コイル
2w 巻線 21,22 コイル素子 23 連結部
3 磁性コア
31 内側コア部 31m コア片 31g ギャップ材 31e 端面
32 外側コア部 32e 内端面
4 インシュレータ
40A,40B,40C,40D,40E,40F 複合部材
41A,41B,41C,41D,41E,41F 枠状部
411 貫通孔 412,413 突条 415 筒片 416 隔壁 417 台座
42A,42B,42C,42D,42E,42F ギャップ板 422 突条
45 周壁部 451,452 分割片
100 電力変換装置 110 コンバータ 111 スイッチング素子
112 駆動回路
120 インバータ 150 給電装置用コンバータ 160 補機電源用コンバータ
200 車両 210 メインバッテリ 220 モータ 230 サブバッテリ
240 補機類 250 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を巻回してなる筒状のコイルと、前記コイル内に配置される内側コア部と前記コイルから露出される外側コア部とで閉磁路を形成する磁性コアと、前記コイルと前記磁性コアとの間を電気的に絶縁するインシュレータとを具えるリアクトルであって、
前記インシュレータは、前記コイルの端面と前記外側コア部とを絶縁する枠状部を具え、
前記枠状部は、当該枠状部の構成材料とは異種の材料であって、前記磁性コアを構成する磁性材料よりも透磁率が低い材料からなるギャップ板を一体に保持することを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記ギャップ板は、インサート成形により前記枠状部に一体成形されて、当該枠状部に保持されていることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記枠状部と前記ギャップ板とは、独立した部材であり、かつ相互に係合する係合部を有しており、
前記ギャップ板は、前記枠状部に設けられた貫通孔に嵌め込まれると共に、前記係合部の係合により当該枠状部に保持されることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記ギャップ板の厚さが、前記枠状部において前記ギャップ板が嵌め込まれる箇所の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項5】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、前記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するコンバータであって、
前記リアクトルは、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリアクトルであることを特徴とするコンバータ。
【請求項6】
入力電圧を変換するコンバータと、前記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、
前記コンバータは、請求項5に記載のコンバータであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
巻線を巻回してなる筒状のコイルと、前記コイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとの間を電気的に絶縁するリアクトル用インシュレータであって、
前記磁性コアのうち、前記コイルから露出される外側コア部と、前記コイルの端面とを絶縁する枠状部を具え、
前記枠状部は、当該枠状部の構成材料とは異種の材料であって、前記磁性コアを構成する磁性材料よりも透磁率が低い材料からなるギャップ板を一体に保持することを特徴とするリアクトル用インシュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−26418(P2013−26418A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159346(P2011−159346)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)