説明

リアクトル

【課題】放熱性及び生産性に優れるリアクトルを提供する。
【解決手段】リアクトル1Aは、筒状のコイル2と、コイル2の内側に配置される内側コア部31と、コイル2の外側に配置され、内側コア部31と共に閉磁路を形成する外側コア部32Aとを有する磁性コア3Aと、コイル2と磁性コア3Aとを収納するケース4とを具える。ケース4は、アルミニウムといった非磁性金属からなり、一対の有底筒状の有底ケース片41,42により構成される。外側コア部32Aは、磁性粉末と樹脂とを含む混合物の成形体(成形硬化体)からなり、有底ケース片41,42に一体に成形されている。リアクトル1Aは、ケース4と外側コア部32Aとが一体成形されていることで、密着性に優れる結果、放熱性を高められる。また、ケース4と外側コア部32Aとが一体成形されていることで、組立作業性に優れる結果、生産性にも優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用DC-DCコンバータといった電力変換装置の構成部品などに用いられるリアクトル、リアクトルを具えるコンバータ、及びコンバータを具える電力変換装置に関するものである。特に、放熱性及び生産性に優れるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。例えば、ハイブリッド自動車などの車両に載置されるコンバータに利用されるリアクトルとして、特許文献1,2に開示されるリアクトルがある。このリアクトルは、一つの筒状のコイルと、磁性コアとを具える。磁性コアは、上記コイルの内側に配置される内側部分と、このコイルの両端面及び外周面のほぼ全面を覆い、上記内側部分と共に閉磁路を形成する外側部分とを具える所謂ポット型コアである。また、特許文献1,2は、上記外側部分の構成材料として、磁性粉末と流動性のある樹脂との混合流体を成形した後、樹脂を硬化させた成形硬化体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4692768号公報
【特許文献2】特開2009-033051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リアクトルの放熱性を高めることが望まれる。
特許文献1,2に記載されるリアクトルの放熱性を高める方法として、例えば、アルミニウムといった熱伝導性に優れる材料からなるケースに収納し、当該ケースを放熱経路に利用することが考えられる。しかし、例えば、特許文献1に記載されるようなコイルの内外に配置される磁性コアが一つの一体物である場合、硬化時における成形硬化体の収縮量が大きくなり易い。そのため、成形硬化体をケースに収納しても、寸法誤差などにより、ケースとの間に隙間が生じてケースに密着できず、放熱性を十分に高めることが難しい。ケースと成形硬化体とを密着させるために接着剤で接合することが考えられるが、この場合、工程数が多くなり、生産性の低下を招く。
【0005】
例えば、特許文献1に記載される成形用金型を上記ケースに代え、当該ケースに上記混合流体を直接流入して成形硬化体を製造する方法、いわゆる注型成形を利用すると、ケースと成形硬化体との密着性を高められる。しかし、ケースにコイルを収納した状態で上記混合流体を流入すると、樹脂が硬化するまでの間にケースに対するコイルの位置がずれる恐れがある。そのため、コイルをケースの所定の位置に固定するために、別途、固定用治具などを配置する必要があり、工程数の増加を招く。また、この形態は、コイルの内外に配置される磁性コアが一つの一体物であるため、ケースに原料を流入する時間が掛かる上に、硬化にも時間が掛かるなどして、生産性に劣る。
【0006】
そこで、本発明の目的は、放熱性及び生産性に優れるリアクトルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記リアクトルを具えるコンバータ、このコンバータを具える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ケースを分割構造とし、特定の形状の分割ケース片に磁性コアのうち、コイルの外側に配置される部分が一体成形された構成とすることで、上記目的を達成する。
【0008】
本発明のリアクトルは、筒状のコイルと、上記コイルの内側に配置される内側コア部と、上記コイルの外側に配置され、上記内側コア部と共に閉磁路を形成する外側コア部とを有する磁性コアと、上記コイルと上記磁性コアとを収納するケースとを具える。上記ケースは、非磁性金属から構成された複数の分割ケース片を組み合せて構成される。上記複数の分割ケース片のうち二つは、有底筒状の有底ケース片である。上記外側コア部は、磁性粉末と樹脂とを含む混合物の成形体からなる。そして、上記外側コア部は、各有底ケース片にそれぞれ一体に成形された一体成形部を具える。
【0009】
上記「コイルの外側」とは、コイルの端面側及びコイルの外周面側の少なくとも一方とする。
【0010】
本発明リアクトルは、外側コア部を上記混合物の成形体:成形硬化体からなるものとし、ケースを構成する少なくとも二つの分割ケース片に、外側コア部の少なくとも一部(一体成形部)が一体成形された部材、即ち、磁性コアの一部とケースの一部とが一体化されたコア-ケース一体部材を構成要素とする。コア-ケース一体部材は、外側コア部の少なくとも一部とケースとが密着性に優れるため、本発明リアクトルは、磁性コアとケースとを接着剤などで接合しなくても放熱性に優れる。接着剤の接合が不要であることで、工程数を低減でき、本発明リアクトルは、生産性にも優れる。
【0011】
また、ケースにコイルを収納した状態で外側コア部を成形する場合と異なり、本発明リアクトルは、外側コア部とコイルとを独立して製造可能であるため、外側コア部の製造時にコイルを分割ケース片に固定するための治具を配置する必要がない。更に、外側コア部は、ケースと同様に分割構造となり、各分割体を同時に製造可能であるため、磁性コアが一つの一体物である場合に比較して、磁性コアの製造時間(原料の充填時間や硬化時間)を短縮できる。特に、外側コア部の成形にあたり、射出成形などの、成形用金型(本発明では有底ケース片を含む)に混合流体を高速充填可能な製法を利用すると、製造時間の更なる短縮を図ることができる。これらの点からも、本発明リアクトルは、生産性に優れる。
【0012】
更に、本発明リアクトルは、外側コア部が成形硬化体であることで、複雑な形状であっても容易に成形でき、例えば、一体成形部をコイルの外形に沿った内周形状を有する形態などとすることができる。この形態は、コイルと磁性コアとの位置決めも容易に行えて、組立作業性に優れる。これらの点からも本発明リアクトルは、生産性に優れる。
【0013】
加えて、本発明リアクトルは、非磁性金属からなる有底ケース片を二つ具えることから、外側コア部においてケースに覆われる領域が広く、好ましくは外側コア部の実質的に全てがケース覆われる。そのため、(1)ケース外部に磁束が漏出し難く、漏れ磁束を抑制できる、(2)外側コア部に対して環境からの保護、機械的保護などを図ることができる、といった効果も奏する。
【0014】
本発明リアクトルの一形態として、上記有底ケース片が上記コイルの径方向に分離可能である形態が挙げられる。
【0015】
上記形態は、外側コア部において有底ケース片に一体成形された一体成形部も、コイルの径方向に分離される。従って、一体成形部の合わせ目がコイルの軸に平行に配置され易くなる。ここで、磁性コアを構成する分割片の合わせ目がコイルの軸に直交に配置される形態では、分割片間に不可避的な隙間が生じる。この隙間は、磁束を分断するように存在することから、この形態は、いわば不可避的なギャップが介在することになり、漏れ磁束の発生などの磁気特性の低下を招く恐れがある。上記形態は、磁束を分断するギャップを低減できる、或いは磁束を分断するギャップが実質的に存在しないため、磁気特性にも優れる。
【0016】
本発明の一形態として、筒状のコイルを一つ具え、上記一体成形部の少なくとも一つは、上記コイルの各端面の一部をそれぞれ覆う箇所と、上記コイルの外周面の一部を覆う箇所とを具える形態が挙げられる。
【0017】
上記形態は、一対のコイル素子を具える形態(特許文献1の図7)と比較して小型になり易く、車載部品などの小型・軽量が望まれる用途に好適に利用することができる。また、少なくとも一つの一体成形部がコイルの一端面からコイルの外周面を経てコイルの他端面を覆う上記特定の箇所を具える、つまり、断面がΠ状である部分を具えることで、当該一体成形部は、コイルがつくる磁束を途中で分断することなく、コイルの一端面側からコイルの外周面側を経て他端面側に通過させることができる。従って、上記形態は、磁気特性に優れる。
【0018】
本発明リアクトルの一形態として、上記外側コア部が上記一体成形部に嵌め込み可能な独立コア片を具える形態が挙げられる。
【0019】
独立コア片は任意の形状に成形可能であり、このような独立コア片と一体成形部とを組み合せることで、例えば、任意の形状のコイルに対して、その外表面を外側コア部によって確実に覆うことができる。従って、上記形態は、コイルや外側コア部の形状の自由度を高められる。
【0020】
本発明リアクトルの一形態として、一方の上記有底ケース片の底面が設置対象に接触して配置される冷却面である形態が挙げられる。
【0021】
リアクトルは、代表的には冷却台といった設置対象に取り付けられて利用される。上記形態は、有底ケース片の底面が設置対象との接触面であり、有底ケース片同士の合わせ目が設置対象に配置されない。つまり、上記形態は、継ぎ目のない面を冷却面にできるため、放熱性に優れる。
【0022】
本発明リアクトルは、コンバータの構成部品に好適に利用することができる。本発明のコンバータとして、スイッチング素子と、上記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、上記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するものであって、上記リアクトルが本発明リアクトルである形態が挙げられる。この本発明コンバータは、電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明の電力変換装置として、入力電圧を変換するコンバータと、上記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、上記コンバータが本発明コンバータである形態が挙げられる。
【0023】
本発明コンバータや本発明電力変換装置は、本発明リアクトルを具えることで、放熱性及び生産性に優れる。
【発明の効果】
【0024】
本発明リアクトルは、放熱性及び生産性に優れる。本発明コンバータや本発明電力変換装置は、生産性に優れる本発明リアクトルを具えることで、放熱性及び生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(A)は、実施形態1に係るリアクトルの概略斜視図、(B)は、(A)に示す(B)-(B)線で切断した断面図、(C)は、(A)に示す(C)-(C)線で切断した断面図である。
【図2】(A)は、実施形態1に係るリアクトルの分解斜視図、(B)はこのリアクトルに具える一方のコア-ケース一体部材を外側コア部側から見た斜視図である。
【図3】実施形態2に係るリアクトルの概略斜視図である。
【図4】実施形態2に係るリアクトルの分解斜視図である。
【図5】実施形態2に係るリアクトルに具える一方のコア-ケース一体部材を外側コア部側から見た概略斜視図及び独立コア片の斜視図である。
【図6】ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す概略構成図である。
【図7】本発明コンバータを具える本発明電力変換装置の一例を示す概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を具体的に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0027】
(実施形態1)
図1,図2を参照して、実施形態1のリアクトル1Aを説明する。リアクトル1Aは、代表的には、内部に冷媒の循環路(図示せず)などを有する金属製(代表的にはアルミニウム製)の冷却台といった設置対象に設置されて回路部品として利用される。リアクトル1Aは、巻線2wを巻回してなる一つの筒状のコイル2と、コイル2の内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コア3Aと、コイル2と磁性コア3Aとを収納するケース4とを具える。磁性コア3Aは、コイル2の内側に配置される内側コア部31と、コイル2の外側に配置される外側コア部32Aとを具える。外側コア部32Aは、磁性粉末と樹脂とを含む混合物の成形体:成形硬化体から構成されている。
【0028】
リアクトル1Aの特徴とするところは、ケース4が分割構造となっており、ケース片に外側コア部32Aを構成する混合物が一体に成形されている点にある。この構成により、外側コア部32Aも分割構造となっている。ここでは、リアクトル1Aは、外側コア部32Aとケース4とが一体となった、二つのコア-ケース一体部材11,12を構成要素とする。コア-ケース一体部材11,12はそれぞれ、有底筒状の有底ケース片41,42を具え、各有底ケース片41,42のそれぞれに、外側コア部32Aを構成する混合物(一体成形部321,322)が一体成形されている。更に、ここでは、リアクトル1Aは、コイル2と内側コア部31とが樹脂モールド部20により一体に保持されたコイル成形体2Aを具える。従って、リアクトル1Aは、一つのコイル成形体2Aと、二つのコア-ケース一体部材11,12によって構成される。以下、コイル成形体2A、及びコア-ケース一体部材11,12を詳細に説明する。
【0029】
[コイル成形体]
コイル成形体2Aは、コイル2の形状を保持すると共に、コイル2と内側コア部31とを一体に保持する絶縁性樹脂からなる樹脂モールド部20を具える。コイル成形体2Aは、リアクトル1Aを組み立てる際、コイル2が伸縮せず、取り扱い易い上に、コイル2と内側コア部31とを一つの部品として取り扱える。従って、リアクトル1Aでは、部品点数の削減、組立時における工程の削減、組立作業性の向上を図ることができる。更に、樹脂モールド部20を具えることで、コイル2と磁性コア3Aとの間の絶縁性も高められる。
【0030】
<コイル>
コイル2は、1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる筒状体である。巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被覆を具える被覆線が好適に利用できる。導体は、横断面形状が長方形状である平角線、円形状である丸線、多角形状や楕円状である異形線などの種々の形状のものを利用できる。巻線2wの厚さ(断面積)、その他巻回数などは適宜選択することができる。
【0031】
コイル2の端面形状は、例えば、円環状、楕円環状(端面における中心:楕円の中心)などの輪郭が曲線からなるもの(コイル2の外周面が曲面からなるもの)、矩形枠の角部を丸めた角丸め形状(端面における中心:対角線の交点)、半円弧と直線とを組み合せたレーストラック状(端面における中心:半円弧の弦と直線とがつくる矩形における対角線の交点)といった輪郭が曲線と直線とからなるもの(コイル2の外周面が曲面と平面とからなるもの)などが挙げられる。コイル2の外周面の少なくとも一部が曲面からなる形態は、巻線2wを巻回し易く、コイルの製造性に優れ、コイル2の外周面の一部が平面からなる形態は、この平面を設置対象側に配置される面とすると、設置対象に対向する面積を増大し易く、放熱性を高められたり、設置状態の安定性を高めたりすることができる。
【0032】
ここでは、コイル2は、横断面形状が長方形状である銅製の平角線の上に、エナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる絶縁被覆を具える被覆平角線をエッジワイズ巻きにして形成されたエッジワイズコイルである。また、コイル2は、端面形状(コイル2の軸方向に直交する平面で切断した断面形状(図1(B))に等しい)がレーストラック状である。更に、コイル2は、リアクトル1Aを設置対象に設置したとき、その軸方向が設置対象の表面に平行に配置される(以下、この配置を横型配置と呼ぶ)。
【0033】
コイル2を形成する巻線2wは、ターン形成部分から適宜引き延ばされた引出箇所を有する。巻線2wの両端部は、図1(A)に示すようにケース4の外部に引き出されて絶縁被覆が剥がされ、露出された導体部分に、銅やアルミニウムなどの導電性材料からなる端子部材(図示せず)がTIG溶接などの溶接、圧着などを利用して接続される。この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行う電源などの外部装置(図示せず)が接続される。図1に示す例では、コイル2の軸方向に直交するように巻線2wの両端部を引き出しているが、両端部の引き出し方向は適宜選択することができる。例えば、巻線2wの両端部をコイル2の軸方向に平行するように引き出してもよいし、各端部における引き出し方向やコイルの軸方向における位置などをそれぞれ異ならせることもできる。
【0034】
<内側コア部>
内側コア部31は、コイル2を励磁した際、外側コア部32Aと共に閉磁路を形成する。ここでは、内側コア部31は、コイル2の内周形状に沿ったレーストラック状の外形を有する柱状体である。また、内側コア部31は、コイル2内に挿通配置され、両端面31e及びその近傍がコイル成形体2Aの樹脂モールド部20の各端面からそれぞれ若干突出した状態で、樹脂モールド部20の構成樹脂によりコイル2に一体に保持されている。
【0035】
内側コア部31は、外側コア部32Aと同様に成形硬化体とすることができる。このとき、外側コア部32Aと同様の成分でも、異なる成分でもよい。或いは、内側コア部31は、外側コア部32Aと全く異なる構成材料とすることができる。異種の材料で構成されることで磁性コア3Aは、部分的に磁気特性を異ならせることができる。ここでは、内側コア部31は、その全体が圧粉成形体から構成され、外側コア部32Aよりも飽和磁束密度が高く、外側コア部32Aは、内側コア部31よりも透磁率が低い。
【0036】
圧粉成形体は、代表的には、表面に絶縁被膜を具える軟磁性粉末や、この軟磁性粉末に加えて適宜結合剤を混合した混合粉末を成形後、上記絶縁被膜の耐熱温度以下で焼成することにより得られる。ここでは、絶縁被覆を具える軟磁性粉末を用いている。
【0037】
上記軟磁性粉末は、Fe,Co,Niなどの鉄族金属、Fe-Si,Fe-Ni,Fe-Al,Fe-Co,Fe-Cr,Fe-Si-AlなどといったFeを主成分とするFe基合金からなる粉末、希土類金属粉末、フェライト粉末などが挙げられる。特に、鉄基材料は、フェライトよりも飽和磁束密度が高い磁性コアを得易い。軟磁性粉末に形成される絶縁被膜は、例えば、燐酸化合物、珪素化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、又は硼素化合物などが挙げられる。この絶縁被覆は、特に磁性粉末を構成する磁性粒子が鉄族金属やFe基合金といった金属からなる場合に具えると、渦電流損を効果的に低減できる。結合剤は、例えば、熱可塑性樹脂、非熱可塑性樹脂、又は高級脂肪酸が挙げられる。この結合剤は、上記焼成により消失したり、シリカなどの絶縁物に変化したりする。磁性粒子間に絶縁被膜などの絶縁物が存在する圧粉成形体は、磁性粒子同士の絶縁により渦電流を低減でき、コイルに高周波の電力が通電される場合であっても、損失を低減できる。圧粉成形体は、公知のものを利用することができる。飽和磁束密度の高い軟磁性粉末を用いたり、結合剤の配合量を低減して軟磁性材料の割合を高めたり、成形圧力を高くしたりすることで、飽和磁束密度が高い圧粉成形体が得られる。
【0038】
ここでは、内側コア部31の飽和磁束密度は、1.6T以上、かつ外側コア部32Aの飽和磁束密度の1.2倍以上、内側コア部31の比透磁率は100〜500、磁性コア3A全体の比透磁率は10〜100としている。内側コア部31の飽和磁束密度は、1.8T以上、更に2T以上が好ましく、外側コア部32Aの飽和磁束密度の1.5倍以上、更に1.8倍以上が好ましい。圧粉成形体に代えて、珪素鋼板に代表される電磁鋼板の積層体を利用すると、内側コア部の飽和磁束密度を更に高め易い。
【0039】
また、ここでは、内側コア部31は、ギャップ材やエアギャップが介在していない中実体としている。アルミナ板などの非磁性材料からなるギャップ材やエアギャップが介在した形態とすることができる。
【0040】
内側コア部31におけるコイル2の軸方向の長さ(以下、単に長さと呼ぶ)、及びコイル2の端面から突出する突出長さは、適宜選択することができる。ここでは、内側コア部31の各端面31eがそれぞれコイル2の各端面から突出し、両端面31eの突出長さが等しい形態(内側コア部31の長さ>コイル2の長さ)としている。その他、内側コア部31の各端面31eとコイル2の各端面とがそれぞれ面一である形態(内側コア部31の長さ=コイル2の長さ)、内側コア部31の一端面がコイル2の一端面に面一で、内側コア部31の他端面がコイル2の他端面から突出した形態(内側コア部31の長さ>コイル2の長さ、突出長さが異なる。)とすると、低損失にすることができる。上述のいずれの形態にしても、コイル2を励磁したときに閉磁路が形成されるように外側コア部32Aを具える。
【0041】
リアクトル1Aでは、上述のように横型配置であることから、リアクトル1Aを設置対象に固定したとき、内側コア部31もその軸方向が設置対象の表面に平行に配置される。
【0042】
<樹脂モールド部>
樹脂モールド部20の構成樹脂は、リアクトル1Aを使用した際に、コイル2や磁性コア3Aの最高到達温度に対して軟化しない程度の耐熱性を有し、トランスファー成形や射出成形が可能な絶縁性材料が好適に利用できる。例えば、エポキシなどの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。ここでは、エポキシ樹脂を利用している。上記構成樹脂として、窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ほう素、及び炭化珪素から選択される少なくとも1種のセラミックスからなるフィラーを混合したものを利用すると、放熱性に優れるリアクトルが得られる。
【0043】
樹脂モールド部20の厚さは、所望の絶縁特性を満たすように適宜選択することができ、例えば、0.1mm〜10mm程度が挙げられる。薄いほど放熱性を高められ(好ましくは0.1mm〜3mm)、厚いほど絶縁性やコイル成形体2Aの強度を高められる。ここでは、図1(B),図1(C)に示すように実質的に均一な厚さとしている。
【0044】
ここでは、樹脂モールド部20は、図2に示すように巻線2wの両端部を除くコイル2の外表面の全体を覆っていることから、引出箇所と外側コア部32Aとの間の絶縁をも確保することができる。一方、巻線2wの両端部を含む引出箇所を樹脂モールド部から露出させた形態とすると、樹脂モールド部の外形が単純になって、コイル成形体を成形し易い上に、コイル成形体を小型にし易い。この形態では、巻線2wの引出箇所において、磁性コア3A(外側コア部32A)に接触する可能性がある部分には、絶縁紙や絶縁性テープ(例えば、ポリイミドテープ)、絶縁フィルム(例えば、ポリイミドフィルム)などの絶縁材を配置したり、絶縁材をディップコーティングしたり、絶縁性チューブ(熱収縮チューブや常温収縮チューブなど)によって覆ったりすると、引出箇所と外側コア部32Aとの間の絶縁を確保することができる。内側コア部31の端面31eの少なくとも一方を樹脂モールド部20で覆った形態とすることもできる。
【0045】
樹脂モールド部20に、コイル2をその自由長よりも圧縮した状態に保持する機能を持たせると、コイル2の軸方向の長さを短くでき、コイル成形体2Aを小型にできる。
【0046】
リアクトル1Aでは、更に、ボビン21(図1(C))を具える。ボビン21は、内側コア部31の外周に配置される短い筒状体と、筒状体の周縁から外方に突出する複数の平板状のフランジ部とを具える断面L字状の環状部材である。ボビン21は、PPS樹脂、LCP、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの絶縁性樹脂により構成され、樹脂モールド部20と共に、コイル2と内側コア部31との間の絶縁性を高める絶縁部材として機能する。また、ボビン21は、コイル2に対する内側コア部31の位置決め部材、コイル2の保持部材としても機能する。ここでは、ボビン21を2個用意し、図1(C)に示すように各ボビン21をそれぞれ、内側コア部31の端面31eの近傍に配置し、各ボビン21のフランジ部をコイル2の各端面に当接している。
【0047】
<製造方法>
内側コア部31を具えるコイル成形体2Aは、例えば、特開2009-218293号公報に記載される製造方法(但し、中子を内側コア部31にする)を利用することで製造できる。具体的には、開閉可能な金型であって、この金型内に一体に具える支持棒、或いはこの金型に対して進退可能な複数の押圧棒を具えるものを用意する。この金型内にコイル2及び内側コア部31を配置した後、上記支持棒によってボビン21のフランジ部を支持し、或いは押圧棒によってフランジ部を押圧してコイル2を圧縮し、この状態で金型内に樹脂を注入した後固化する。リアクトル1Aでは、ボビン21を具えることで、コイル2と内側コア部31との間に所定の間隔(ボビン21の筒状体の厚さに応じた間隔)を保持した状態で金型に収納できる上に、この間隔を維持できる。このことから、樹脂モールド部20を均一的な厚さに容易に製造でき、コイル成形体2Aは、製造性に優れる。
【0048】
なお、コイル成形体として、内側コア部31が分離可能な形態、つまり、コイルと樹脂モールド部とにより構成された形態とすることができる。このコイル成形体は、樹脂モールド部の構成樹脂により形成される中空孔を有し、この中空孔に内側コア部が挿通配置される。このコイル成形体は、内側コア部に代わり、所定の形状の中子を上記金型に配置することで製造できる。
【0049】
[コア-ケース一体部材]
コア-ケース一体部材11,12は、組み合せたとき、図1(A)に示すように外形が直方体状となる立体であり、その外表面はケース4を構成する有底ケース片41,42により形成される。コア-ケース一体部材11,12は、上記直方体状の立体を、コイル2の軸を通る平面で切断した半割れ片であり、ここでは、コイル2の径方向に分離可能としている。つまり、外側コア部32Aを構成する一体成形部321,322、及びケース4を構成する有底ケース片41,42のいずれも、コイル2の軸を通る平面で切断した半割れ片であり、コイル2の径方向に分離可能である。また、ここでは、リアクトル1Aを設置対象に設置したとき、両有底ケース片41,42の底面(底部411,421の表面)が設置対象の表面に平行に配置され、コア-ケース一体部材11,12は、設置対象の表面に直交方向に分離する。
【0050】
<外側コア部>
まず、外側コア部32Aの形状を説明する。外側コア部32Aは、成形硬化体からなる二つの一体成形部321,322を組み合せて構成される。各一体成形部321,322はそれぞれ、コイル成形体2Aの外周面及び両端面(内側コア部31の両端面31e及び樹脂モールド部20の端面)を覆うように配置され、外側コア部32Aは、コイル成形体2Aを内包する。
【0051】
各一体成形部321,322はそれぞれ、コイル2の軸方向に直交する平面で切断した横断面(図1(B))及びコイル2の軸方向に平行な平面で切断した縦断面(図1(C))のいずれもがΠ状である有底角筒体である。一体成形部321,322において、有底ケース片41,42に覆われて露出されない領域は、有底ケース片41,42の内周形状に沿った形状(ここでは直方体状)であり、露出された領域は、図2に示すようにコイル成形体2Aとの接触面321i,322iと、対向配置される対向面321f,322fとを具える。接触面321i,322iは、コイル成形体2Aの外周面の形状、及び端面の形状に沿った形状である。対向面321f,322fは、図2に示すように実質的に平面で構成され、ここでは、一体成形部321,322を組み合せたとき接合される接合面となる。
【0052】
外側コア部32Aは、閉磁路が形成できれば、その形状は問わない。外側コア部32Aが所望の形状となるように、有底ケース片41,42の内周形状などを適宜変更することができる。例えば、コイル2の外形に相似な形状である形態やコイル2(ここではコイル成形体2A)の一部を露出させて有底ケース片41,42に接触するように形成された形態とすることができる。
【0053】
一体成形部321,322の接触面321i,322iはそれぞれ、コイル成形体2Aの外周面の一部(ここでは半周分)に接する面と、コイル成形体2Aの各端面(ここでは、内側コア部31の各端面31e及び樹脂モールド部20の各端面)の一部(ここでは、半分)に接する面とで構成される。コイル成形体2Aでは、内側コア部31が樹脂モールド部20の端面よりも突出していることから、接触面321i,322iは、突出した内側コア部31が嵌め込まれるように凹凸形状になっている。このように各一体成形部321,322はそれぞれ、コイル成形体2Aの外周面の一部を覆う箇所と、コイル成形体2Aの各端面の一部をそれぞれ覆う箇所とを具える。その他、コイル成形体2Aの外表面を凹凸形状とし、接触面321i,322iにこの凹凸に応じた凹凸部分を具える形態とすると、コア-ケース一体部材11,12に対するコイル成形体2Aの位置決めを容易に行える。
【0054】
一体成形部321,322の厚さは、所定の磁路面積を確保できれば、適宜選択することができる。ここでは、図1(B)に示すように、コイル2の外周面において平面で構成される箇所、つまりリアクトル1Aを設置対象に設置したときに設置対象側及びその対向側となる箇所を覆う部分の厚さが、コイル2の外周面において曲面で構成される箇所を覆う部分よりも薄い。そのため、リアクトル1Aを設置対象に設置すると、図1(B),図1(C)に示すように、コイル2は、設置対象までの距離が短く、設置対象に近接して配置される。従って、リアクトル1Aは、コイル2の熱を設置対象に伝達し易く、放熱性に優れる。
【0055】
一体成形部321,322の対向面321f,322fは上述のように平面で構成され、各有底ケース片41,42の開口周面(ここでは接合面でもある)に実質的に面一である。そのため、(1)有底ケース片41,42を成形用金型として一体成形部321,322を成形する場合、有底ケース片41,42から一体成形部321,322が突出せず、一体成形部321,322を容易に成形できる、(2)一体成形部321,322が単純な形状になることから成形し易い、(3)一体成形部321,322の対向面321f,322f同士、各有底ケース片41,42の開口周面同士を、接着剤などを介することなく十分に接合できる、といった利点を有する。
【0056】
対向面321f,322fが平面であることから、両一体成形部321,322の合わせ目は、図1(B),図1(C)に示すように直線で構成され、リアクトル1Aを設置対象に設置したとき、設置対象の表面に平行に配置される。特に、この合わせ目をつくる直線は、コイル2の軸を通る平面上に存在する直線(コイル2の軸方向に平行な直線、及びコイル2の径方向の直線)であることから、この合わせ目は、コイル2がつくる磁束を実質的に分断しないように配置される。
【0057】
更に、この例に示す一体成形部321,322は、互いに係合する係合部(係合突起33、係合穴34)を具える。具体的には、図2(B)に示すように、一方の一体成形部321は、その対向面321fから突出する係合突起33を具え、他方の一体成形部322は、その対向面322fに係合穴34を具える。両一体成形部321,322を組み合せると、係合突起33が係合穴34に嵌り込み、両一体成形部321,322を所定の位置に適切に組み合せられる。ここでは、図2に示すように係合突起33を円柱体、係合穴34を円穴とし、複数(4箇所)の係合部を具える形態としているが、一つの係合部のみを具える形態としてもよいし、角柱体・角穴など、形状も適宜変更することができる。或いは、両一体成形部321,322の合わせ目の一部が曲線状やジグザグ状などになるように、両一体成形部321,322の接触面を波形状、ジグザグ状などの凹凸形状とすると、この凹凸形状部分を係合部として利用することができる。この場合、有底ケース片の壁部における対応箇所をも凹凸形状とすると、一体成形部を成形し易い上に、有底ケース片と外側コア部との接触面積を増大できる。
【0058】
一方の一体成形部321及び当該一体成形部321を具える一方の有底ケース片41には、図2に示すように、コイル2の巻線2wの端部が挿通される巻線孔32h,41hが連通して設けられている。一体成形部321及び有底ケース片41において巻線2wの端部の配置位置に対応した箇所に巻線2wの端部が挿通可能なように、巻線孔32h,41hの形状・大きさを調整する。巻線2wの端部よりも十分に大きな孔とすると、巻線2wを挿通し易く、挿通作業性に優れる。
【0059】
次に、外側コア部32Aの材質を説明する。成形硬化体の製造方法には、射出成形、トランスファー成形、MIM、注型成形、磁性体粉末と粉末状の固体樹脂とを用いたプレス成形などを利用することができる。射出成形は、磁性体材料からなる粉末:磁性粉末と樹脂とを含む混合物を、所定の圧力をかけて成形用金型に充填して成形した後、上記樹脂を硬化させる。トランスファー成形やMIMも、所定の圧力をかけて原料を成形用金型に充填して成形を行う。注型成形は、磁性粉末と樹脂とを含む混合物を得た後、この混合物を、圧力をかけることなく成形用金型に注入して成形・硬化させる。射出成形、トランスファー成形、MIMは、所定の圧力を加えることで、原料の混合物を短時間で成形用金型に充填できることから、生産性に優れ、特に大量生産に好適に利用できる。そして、本発明では、上記成形用金型の一部として、有底ケース片41,42を用いる。両有底ケース片41,42は、金属で構成されることで、上述のいずれの成形方法に対しても、成形用金型として十分に使用可能である。一体成形部321,322の対向面321f,322fや接触面321i,322iが所望の形状となるように、有底ケース片41,42に合わせる凸状金型を用意しておく。
【0060】
巻線孔41hが予め形成された有底ケース片41を用いる場合、一体成形部321の成形にあたり、巻線孔41hを適宜な材料で塞いでおき、成形後に当該材料を取り除く。一体成形部321の成形後に、切削加工により巻線孔32h,41hを同時に設けてもよい。巻線孔32hのみを設ける場合には、有底ケース片41に合わせる凸状金型に孔用突起を設けることが挙げられる。
【0061】
上述のいずれの成形手法も、磁性粉末には、上述した内側コア部31に利用する軟磁性粉末と同様のものを利用できる。特に、外側コア部32Aに利用する軟磁性粉末は、純鉄粉やFe基合金粉といった鉄基材料からなるものが好適に利用できる。材質の異なる複数種の磁性粉末を混合して用いることもできる。また、金属からなる磁性粒子の表面に燐酸塩などからなる絶縁被膜を具える被覆粉末を利用でき、この場合、渦電流損を低減できる。磁性粉末は、平均粒径が1μm以上1000μm以下、更に1μm以上200μm以下の粉末が利用し易い。粒径が異なる複数種の粉末を利用でき、この場合、飽和磁束密度が高く、低損失なリアクトルが得られ易い。
【0062】
また、上述のいずれの成形手法も、バインダとなる樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂、PPS樹脂、ポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂が利用できる。エポキシ樹脂は、強度に優れる成形硬化体が得られ、シリコーン樹脂は、柔らかく、成形硬化体同士を接合し易い。熱硬化性樹脂を用いた場合は、成形体を加熱して樹脂を熱硬化させる。熱可塑性樹脂を用いた場合は、適宜な温度で固化させる。バインダとなる樹脂に常温硬化性樹脂、或いは低温硬化性樹脂を用いることができ、この場合、成形体を常温〜比較的低温にして樹脂を硬化させる。成形硬化体は、非磁性材料である樹脂を多くすることで、内側コア部31を構成する圧粉成形体と同じ軟磁性粉末を用いた場合でも、圧粉成形体よりも飽和磁束密度が低く、かつ透磁率も低いコアを形成し易い。
【0063】
成形硬化体は、磁性粉末及びバインダとなる樹脂に加えて、アルミナやシリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維といったセラミックスからなるフィラーを混合した形態とすることができる。この形態では、例えば、不飽和ポリエステルに炭酸カルシウムやガラス繊維が混合されたBMCなどの樹脂組成物を原料に利用することができる。BMCは射出成形性に優れることから、生産性の向上に寄与することができる。磁性粉末に比較して比重が小さい上記フィラーを混合することで、磁性粉末の偏在を抑制して、磁性粉末が均一的に分散した成形体を得易い。また、上記フィラーが熱伝導性に優れる材料から構成される場合、放熱性の向上に寄与することができる。その他、フィラーを含有することで、強度の向上などを図ることができる。上記フィラーを混合する場合、フィラーの含有量は、成形硬化体を100質量%とするとき、0.3質量%以上30質量%以下が挙げられ、磁性粉末とフィラーとの合計含有量は、成形硬化体を100体積%とするとき、20体積%〜70体積%が挙げられる。フィラーを磁性粉末よりも微粒とすると、フィラーを磁性粒子間に介在させ易く、磁性粉末を均一的に分散できる上に、フィラーの含有による磁性粉末の割合の低下を抑制し易い。
【0064】
特に、射出成形を利用する場合、磁性粉末の平均粒径が1μm以上200μm以下、好ましくは1μm以上100μm以下、円形度が1.0以上2.0以下、好ましくは1.0以上1.5以下、外側コア部を構成する各分割体における磁性粉末の含有量が30質量%以上70質量%以下、好ましくは40質量%以上60質量%以下である混合物を原料に用いることが好ましい。この場合、一体成形部321,322が複雑な形状であっても、有底ケース片41,42と凸状金型とでつくられるキャビティに精度よく混合物を充填可能であり、成形精度に優れる一体成形部321,322を成形できて好ましい。また、射出成形を利用すると、ボイドを低減したり、小さくしたりし易く、大量のボイドや粗大なボイドの存在による磁気特性の劣化を抑制できる。上記平均粒径、円形度を満たす磁性粉末を上述の特定の範囲で含有する原料を用いる場合、射出成形時の成形圧力は、10MPa〜100MPaが好ましい。
【0065】
なお、射出成形を含む上述のいずれの成形手法も、成形硬化体の製造時、磁性粉末が変形したり、減少したりすることが実質的に無く、原料に用いた磁性粉末の形状・大きさ・含有量が維持される。つまり、成形硬化体中の磁性粉末の形状・大きさ・含有量は、原料のときと実質的に等しい。
【0066】
成形硬化体中の磁性粉末の平均粒径を測定するには、樹脂成分を除去して磁性粉末を抽出し、得られた磁性粉末を、粒度分析計を用いて粒度(粒径)を分析することが挙げられる。粒度分析計は、市販のものを利用できる。成形硬化体が上述のフィラーを含有する場合、X線回折、エネルギー分散X線分光法:EDXなどを利用して成分分析を行って粒子を選別したり、当該フィラーが非磁性材料からなる場合には、磁石により粒子を選別したりするとよい。
【0067】
上記円形度は、磁性粉末を構成する粒子の最大径/円相当径とする。円相当径とは、磁性粉末を構成する粒子の輪郭を特定し、その輪郭で囲まれる面積Sと同一の面積を有する円の径とする。つまり、円相当径=2×{上記輪郭内の面積S/π}1/2で表される。また、最大径は、上記輪郭を有する粒子の最大長さとする。上記面積Sを測定するには、成形硬化体の断面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡:SEMなどの観察像を利用することが挙げられる。得られた断面の観察像を画像処理(例えば、二値化処理)などして粒子の輪郭を抽出し、輪郭内の面積Sを算出する。最大径を測定するには、抽出した粒子の輪郭から、粒子の最大長さを抽出することが挙げられる。SEMを利用する場合、測定条件は、断面数:50個以上(一断面につき一視野)、倍率:50倍〜1000倍、一視野あたりの測定粒子数:10個以上、合計粒子数:1000個以上が挙げられる。
【0068】
ここでは、一体成形部321,322はいずれも、磁性粉末として純鉄粉であって、平均粒径:54μm、円形度:1.9を満たすものを利用し、磁性粉末(純鉄粉)の含有量:40質量%、バインダ樹脂:シリコーン樹脂である。また、各一体成形部321,322はいずれも射出成形により形成した。
【0069】
一体成形部321,322はそれぞれ独立した部材であることから、各一体成形部321,322を構成する磁性粉末の材質、平均粒径、円形度、含有量、上述のフィラーの有無・材質・含有量、バインダ樹脂の材質などを容易に異ならせることができる。つまり、一体成形部321,322ごとに磁気特性を変化させることができる。例えば、設置対象側に配置される一体成形部322の磁性粉末やフィラーの含有量が一方の一体成形部321よりも多い形態とすると、放熱性を高められる。特に、この例に示すように横型配置では、設置対象側に磁性粉末が偏在した形態としても閉磁路を十分に形成できる。また、一方の一体成形部321の磁性粉末が少ないと、外側コア部全体として軽量化を図ることができる。
【0070】
ここでは、外側コア部32Aの比透磁率は5〜30、外側コア部32Aの飽和磁束密度は、0.5T以上内側コア部31の飽和磁束密度未満としている。また、外側コア部32Aも、ギャップ材やエアギャップが介在していない。外側コア部32Aの比透磁率が内側コア部31よりも低いことで、磁性コア3Aの漏れ磁束を低減したり、ギャップレス構造の磁性コア3Aとしたりすることができる。例えば、磁性粉末の配合量を減らすと、比透磁率が低い成形硬化体が得られる。
【0071】
内側コア部31,外側コア部32Aの飽和磁束密度や比透磁率は、各コア部31,32Aから作製した試験片を用意し、市販のB-HカーブトレーサーやVSM(試料振動型磁力計)などを用いることで測定することができる。
【0072】
<ケース>
ケース4を構成する一方の有底ケース片41は、長方形状の平板からなる底部411と、底部411から立設される矩形枠状の壁部412とを具える矩形箱体であり、他方の有底ケース片42もほぼ同様の形状であり、底部421と壁部422とを具える。両有底ケース片41,42を組み合せると、直方体状の容器になる。つまり、ケース4は、従来の箱状ケースに対して、更に蓋部までも一体に具える。両有底ケース片41,42は、上述の外側コア部32Aを構成する一体成形部321,322の支持・保護部材として機能すると共に、放熱経路に利用する。
【0073】
ケース4は、上記用途から熱伝導性に優れる材質が好ましく、一般に熱伝導率が高い金属からなるものとする。また、ケース4自身が漏れ磁束を生じないように、ケース4の材質は非磁性とする。具体的な金属は、アルミニウムやその合金、マグネシウムやその合金などが挙げられる。列挙した金属は、導電性を有することで、収容物からの磁束に対して磁気遮蔽を行えることから、ケース4外部への漏れ磁束を効果的に低減できる。また、列挙した金属は、軽量であることから、自動車部品などの軽量であることが望まれる用途に好適である。更に、金属は、一般に強度に優れることから、外側コア部32Aなどの機械的保護や環境からの保護を十分に図ることができる。
【0074】
ここでは、各有底ケース片41,42の内周面は、図1(B),図1(C)に示すように平坦であり、底部411,421の表裏、壁部412,422の表裏が実質的に平面で形成されて、その全面に一体成形部321,322が接触している。その他、例えば、コイル成形体2Aの一部を外側コア部から露出させた形態とし、コイル成形体2Aにおいてこの露出部分が有底ケース片41,42に接触する形態とすることができる。コイル成形体2Aをケース4に直接接触させた場合、コイル2とケース4との間には樹脂モールド部20の構成樹脂が介在することで、この形態は、絶縁性に優れる。この形態では、有底ケース片41,42の内周面の一部が露出されるように一体成形部321,322を成形するとよい。また、この形態においてコイル2のままの場合やコイル2の一部が樹脂モールド部20に覆われず露出されている場合などでは、コイル2とケース4(有底ケース片41,42)との間に絶縁紙や絶縁性シート、絶縁性テープ、絶縁性接着剤といった絶縁材を介在させると、絶縁性を高められる。この絶縁材の厚さ(多層構造とする場合には合計厚さ)は、所定の絶縁性を確保できれば薄いほうが放熱性を高められ、2mm未満、更に1mm以下、特に0.5mm以下とすることができる。
【0075】
上述のコイル成形体2Aをケース4(有底ケース片41,42)に接触させる形態は、コイル2からケース4までの距離が短くなることから、放熱性を高められる。この形態において有底ケース片41,42の内周面の一部にコイル成形体2Aの接触箇所に応じた凹凸部分を具える形態とすると、コイル成形体2Aにおけるケース4との接触面積を増大できて、放熱性を更に高められる。また、この形態は、コイル成形体2Aをコア-ケース一体部材11,12に位置決めし易い。
【0076】
或いは、底部411,421及び壁部412,422の内周面の少なくとも一部、好ましくは50面積%以上、より好ましくは80面積%以上の領域に微細な凹凸を有する形態とすることができる。微細な凹凸は、例えば、最大高さが1mm以下、好ましくは0.5mm以下が挙げられる。このような微細な凹凸を具えることで、外側コア部32A(一体成形部321,322)の成形にあたり、原料の混合物と有底ケース片41,42との接触面積を増大できる。そのため、原料の混合物中の樹脂の硬化時に当該樹脂が収縮しても、一体成形部321,322が有底ケース片41,42から剥離し難く、一体成形部321,322と有底ケース片41,42との密着性を高められる。上記微細な凹凸を設けるための粗面化処理は、ショットブラストやサンドブラスト、水酸化ナトリウムによる艶消し処理、ケース4がアルミニウムやその合金で構成されている場合には、アルマイト処理などを利用することができる。
【0077】
一方の有底ケース片41は、その底部411の表面(底面)が設置対象の表面に平行に配置され、ここでは設置対象から遠い側(上方)に配置される。つまり、この有底ケース片41の底部411はいわば蓋として機能し、収納物の脱落を防止できる。この底部411の適宜な位置に、その表裏を貫通する巻線孔41hを具え、コイル2の巻線2wの端部が引き出される。
【0078】
他方の有底ケース片42は、その底部421の表面が設置対象の表面に平行に配置され、ここでは設置対象に接して配置される。つまり、この有底ケース片42の底部421の表面は底面(設置面)として機能し、冷却台といった設置対象により冷却される冷却面である。また、この有底ケース片42には、設置対象にケース4を固定するための固定部46を具える。固定部46は、有底ケース片42の壁部422の外周面から外方に突設されて、ボルト(図示せず)が挿通されるボルト孔を有する。
【0079】
両有底ケース片41,42は、ここでは、ボルト400によって一体化される。各有底ケース片41,42は、各壁部412,422の開口部の周縁から外方に突出した取付部451,452を具え、取付部451,452にボルト400が貫通される。取付部451はボルト400が螺合されない貫通孔を有し、取付部452はネジ切りされ、ボルト400が螺合される貫通孔を有する。取付部451の貫通孔は、取付部452の貫通孔よりも若干大きな長孔となっており、コア-ケース一体部材11,12を厳密に位置合わせしなくても有底ケース片41,42を固定でき、作業性に優れる。取付部451,452の形状、位置、個数は特に問わない。例えば、後述する実施形態2(図4)のように、取付部の一方に貫通孔ではなく止り穴(図4の取付部451参照)を設けてもよい。また、ボルト400の取り付け方向も特に問わない。実施形態1では上方から下方に向かって取り付けるが、実施形態2では下方から上方に向かって取り付ける。
【0080】
上述した有底ケース片41,42は、鋳造や切削加工などにより、容易に製造できる。また、上述した粗面化処理を適宜施すことができる。
【0081】
[その他の収容物]
その他、温度センサや電流センサなどの物理量測定センサ(図示せず)を具える形態とすることができる。この形態では、少なくとも一方の有底ケース片41,42や外側コア部32Aには、センサに接続される配線を引き出す配線用孔(図示せず)や配線用切欠(図示せず)を設ける。
【0082】
[用途]
上記構成を具えるリアクトル1Aは、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100アンペア〜1000アンペア程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車、燃料電池自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。
【0083】
[リアクトルの製造方法]
リアクトル1Aは、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、図2に示すようにコイル2、及び圧粉成形体からなる内側コア部31を用意し、上述のようにして樹脂モールド部20によりコイル2と内側コア部31とを一体に保持したコイル成形体2Aを作製する。また、射出成形などにより、各有底ケース片41,42に外側コア部32Aを構成する一体成形部321,322を成形して、コア-ケース一体部材11,12を作製する。
【0084】
設置対象側に配置されるコア-ケース一体部材12の一体成形部322にコイル成形体2Aを収納する。この一体成形部322は、その接触面322iがコイル成形体2Aの外形に沿った形状であるため、コイル成形体2Aを容易に位置決めできる上に、コイル成形体2Aを保持することができる。
【0085】
コア-ケース一体部材12に収納されたコイル成形体2Aの上方から、巻線孔32h,41hを具える一方のコア-ケース一体部材11を配置する。このとき、巻線孔32h,41hに巻線2wの各端部を挿通させる。両一体成形部321,322は、係合部(係合突起33、係合穴34)をガイドとして、精度よく組み合せることができる。コイル成形体2Aと一体成形部321,322とを組み付けることで外側コア部32Aが形成される。また、コイル成形体2Aの各端面は、両一体成形部321,322の接触面321i,322iの一部により覆われ、コイル成形体2Aの外周面は、両一体成形部321,322の接触面321i,322iの他部により覆われる。つまり、内側コア部31の各端面31eが両一体成形部321,322の接触面321i,322iに接して、磁性コア3Aが形成される。なお、両一体成形部321,322の対向面321f,322f同士を接着剤によって接合してもよい。また、コイル成形体2A、或いは内側コア部31のみと、外側コア部32Aとを接着剤により接合してもよい。
【0086】
更に、両有底ケース片11,12の取付部451,452をボルト400によって締結することで、ケース4が形成され、リアクトル1Aが得られる。
【0087】
[効果]
リアクトル1Aは、外側コア部32Aを成形硬化体とし、かつ非磁性金属からなるケース4を具え、更に、このケース4が一対の有底ケース片41,42により構成されることで、各ケース片41,42を外側コア部32Aの成形用金型に利用でき、外側コア部32Aとケース4との密着性に優れる。そのため、リアクトル1Aは、ケース4を放熱経路に十分に利用でき、放熱性に優れる。
【0088】
かつ、リアクトル1Aは、外側コア部32Aが有底ケース片41,42に一体に成形されることで、外側コア部32Aも分割構造となっている。そのため、外側コア部32Aを構成する一つの分割体(一体成形部321,322)の製造時間を短縮できる。また、例えば、一対のコア-ケース一体部材11,12を同時に製造できる。更に、特定の仕様の原料を用いて射出成形により成形硬化体を製造することで、複雑な形状の一体成形部321,322でも容易に成形可能である上に、一体成形部321,322の製造時間を更に短縮できる。また、リアクトル1Aでは、外側コア部32A及びケース4の分割数を最小限である二つとしているため、組み合せ時間も短い。これらの点から、リアクトル1Aは、生産性にも優れる。また、リアクトル1Aは、量産に好適であると期待される。
【0089】
特に、リアクトル1Aは、設置対象に設置したとき、コイル2と設置対象との距離が短い横型配置である上に、外側コア部32Aにおいて設置対象側の領域の厚さが薄い。また、リアクトル1Aでは、コイル2の端面形状がレーストラック状、即ち、コイル2における設置対象までの距離が短い領域が多い形状である。これらのことからも、リアクトル1Aは、放熱性に優れる。
【0090】
また、リアクトル1Aは、コイル成形体2Aを利用することで、コイル2を扱い易い。特に、内側コア部31をも一体に保持されたコイル成形体2Aを利用することで、リアクトル1Aは、コイル成形体2A,コア-ケース一体部材11,12という三つの部品で構成され、組付工程数・部品点数を低減できる。このことからも、リアクトル1Aは、生産性に優れる。
【0091】
その他、リアクトル1Aでは、外側コア部32Aを分割構造とし、各一体成形部321,322を成形硬化体とすることで、(1)各一体成形部321,322の磁気特性を容易に変更可能である、(2)樹脂成分を具えることで、コイル成形体2Aや内側コア部31における外部環境から保護・機械的保護を図ることができる、といった効果も奏する。また、外側コア部32Aを分割構造することで、外側コア部32Aが一つの成形硬化体で構成される場合に比較して、各分割体が小さいため、磁性粉末の存在状態(密度)のばらつきが生じ難く、均一的な磁気特性を有することができる。従って、リアクトル1Aは、磁気特性に優れる。
【0092】
リアクトル1Aでは、外側コア部32Aの分割方向がコイル2の径方向である。特に、一体成形部321,322は、その合わせ目の一部、具体的には、合わせ目においてコイル2の端面側に配置される部分がコイル2の径方向に配置され、合わせ目の他部、具体的には、コイル2の外周面側に配置される部分がコイル2の軸方向に平行に配置されるように分割されている。そのため、リアクトル1Aは、外側コア部32Aを構成する一体成形部321,322間に磁束を分断するギャップが生じず、この点からも、磁気特性にも優れる。また、一体成形部321,322の双方が断面Π状であることで、コイルの一端面側からコイルの外周面側を経て他端面側に磁束を通過可能であることからも、磁気特性に優れる。なお、上記「コイルの径方向」とは、コイルの端面における中心(コイルの軸上の点)を通る任意の直線の方向とする。
【0093】
リアクトル1Aは、コイル2と、磁性コア3Aやケース4などとの間に、樹脂モールド部20の構成樹脂が存在することで、絶縁性にも優れる。特に、リアクトル1Aでは、コイル2を構成する巻線2wの引出箇所も樹脂モールド部20で覆った形態であるため、当該引出箇所と外側コア部32Aとの間の絶縁を確保できる。
【0094】
リアクトル1Aは、コイル2を一つとし、横型配置であることで、嵩が小さく、小型である。また、リアクトル1Aでは、コイル2が、占積率が高く小型にし易いエッジワイズコイルであることからも、小型である。更に、リアクトル1Aは、内側コア部31の飽和磁束密度が外側コア部32Aよりも高いことで、単一の材質から構成されて全体の飽和磁束密度が均一的な磁性コアと同じ磁束を得る場合、内側コア部31の断面積(磁束が通過する面)を小さくでき、この点からも小型である。加えて、リアクトル1Aでは、ギャップの省略によっても小型である上に、ギャップに起因する損失の低減を図ることができる。
【0095】
リアクトル1Aでは、内側コア部31が圧粉成形体であることから、(1)複雑な三次元形状でも容易に形成でき、生産性に優れる、(2)飽和磁束密度といった磁気特性を容易に調整可能である、といった効果も奏する。
【0096】
(実施形態2)
以下、図3〜図5を参照して、実施形態2のリアクトル1Bを説明する。リアクトル1Bの基本的構成は、実施形態1のリアクトル1Aと同様であり、内側コア部31を保持したコイル成形体2B(図4)と、一対のコア-ケース一体部材11,12とを主要構成部材とする。但し、リアクトル1Bは、外側コア部32B(図4)を構成する二つの一体成形部321,322(図4)のうち、一方の一体成形部321は有底ケース片41の全内周面に対して一部にのみ成形され、この一体成形部321に嵌め込み可能な独立コア片323を具える点、コイル2を構成する巻線2wの一端部の配置箇所が異なる点が実施形態1のリアクトル1Aと異なる。以下、この相違点を中心に説明し、実施形態1と重複する構成及び効果の詳細な説明を省略する。
【0097】
実施形態1に具えるコイル2は、巻線2wの各端部におけるコイル2の軸方向の配置位置が異なっており、各端部がそれぞれ、コイル2の各端面寄りに配置された形態である。実施形態2に具えるコイル2は、巻線2wの一端部が他端部側に折り返されて、巻線2wの両端部におけるコイルの軸方向の配置位置が等しく、両端部がコイル2の一端面寄りに並んで配置された形態である。この折り返された部分は、コイル2のターン形成面より突出している。そのため、実施形態2のリアクトル1Bに具えるコイル成形体2Bは、図4に示すようにコイル2のターン形成面から突出した部分が樹脂モールド部20の構成樹脂により覆われた庇部27を具える。
【0098】
リアクトル1Bでは、外側コア部32Bにおいて、コイル2の巻線2wの端部を引き出す巻線孔32hを具える一体成形部321が、図5に示すように、有底ケース片41における壁部412の内壁面41iの一部が露出するように成形されている。ここでは、一体形成部321は、壁部412の一つの角部を挟むL字状に切り欠かれ、この切欠部分にL字状の独立コア片323が組み付けられて、実施形態1のリアクトル1Aに具える一体成形部321と同様な形状になる。つまり、リアクトル1Bに具える磁性コア3Bは、内側コア部31と、二つの一体成形部321,322及び独立コア片323から構成される外側コア部32Bとを具える。
【0099】
独立コア片323には、図4に示すようにコイル成形体2Bの庇部27が配置される巻線用突部327を具える。この巻線用突部327により、庇部27の下方にも磁性成分(外側コア部32B)を存在させることができ、コイル成形体2Bの外表面の実質的に全てを外側コア部32Bで覆うことができる。また、有底ケース片41に成形された一体成形部321と独立コア片323とを分離可能とすることで、巻線用突部327を庇部27の下方に容易に配置することができる。
【0100】
独立コア片323は、接着剤などにより有底ケース片41に接合してもよいし、有底ケース片41,42を締結するボルト400が貫通するボルト孔が設けられた取付部323b(図5)を具える形態としてもよい。有底ケース片41の一方の取付部451は、図5に示すように独立コア片323の取付部323bが嵌め込めるように空間を有する。
【0101】
その他、ここでは、一体成形部321と独立コア片323との接触面が、図4に示すように階段状に設けられている。この階段状の面:係合段部325,326が一体成形部321と独立コア片323との係合部として機能し、一体成形部321と独立コア片323とを容易に位置決めできる。一体成形部321と独立コア片323とを組み合せると、合わせ目の一部、具体的にはコイル2の端面側に配置される部分が係合段部325,326によって階段状となる。係合部の形状などは適宜選択することができ、例えば、実施形態1で説明した係合突起33・係合穴34を利用できる。この例のように係合部が平面で構成されるた形態とすると、一体成形部321や独立コア片323の形状が簡素で成形性に優れる。或いは、係合部を具えていない形態とすることができる。
【0102】
なお、一方のコア-ケース一体部材11に具える一体成形部321、及び他方のコア-ケース一体部材12に具える一体成形部322は、実施形態1と同様に、コイル2の各端面の一部(ここでは、半分)をそれぞれ覆う箇所と、コイル2の外周面の一部(ここでは、半周分)を覆う箇所とを具える。
【0103】
実施形態2のリアクトル1Bは、以下のようにして組み立てられる。実施形態1と同様にコア-ケース一体部材12の一体成形部322にコイル成形体2Bを嵌め込み、次に、独立コア片323を組み付ける。独立コア片323は、コイル成形体2Bに掛止されると共に、一体成形部322の対向面322fに支持される。次に、実施形態1と同様に、コイル成形体2Bの上方から、一方のコア-ケース一体部材11を配置し、巻線2wの両端部を巻線孔32h,41hに挿通する。同時に、独立コア片323の取付部323bを有底ケース片41の一方の取付部451に収納する。そして、実施形態1と同様に両有底ケース片41,42の取付部451,452をボルト400によって締結することで、ケース4が形成され、リアクトル1Bが得られる。
【0104】
実施形態2のリアクトル1Bも放熱性に優れる上に、生産性よく製造できる。特に、リアクトル1Bでは、独立コア片323を具えることで、コイル成形体2Bの実質的に全表面を外側コア部32Bで覆うことができる。このように少なくとも一つの独立コア片を利用することで、任意の形状のコイルに対して、その全表面を覆うように外側コア部を配置することができる。
【0105】
その他、実施形態2のリアクトル1Bでは、外側コア部32Bを構成する一方の一体成形部321と独立コア片323との合わせ目のうち、コイル2の外周面側に配置される部分は、磁束を分断するように存在する。しかし、他方の一体成形部322は、実施形態1と同様に磁束を分断することが実質的に無い。また、両一体成形部321,322がつくる合わせ目も、実施形態1と同様に磁束を分断することが実質的に無い。従って、実施形態2のリアクトル1Bも、外側コア部32Bを構成する分割片間に磁束を分断するギャップが少なく、磁気特性に優れる。
【0106】
(変形例1)
実施形態1,2では、二つのコア-ケース一体部材11,12を具える形態としたが、三つのコア-ケース一体部材を具える形態とすることができる。この形態は、実施形態1と同様に断面]状のコア-ケース一体部材を二つ具えると共に、これら断面Π状のコア-ケース一体部材に挟まれる枠状部材(例えば、矩形枠状部材)を具える。この枠状部材は、ケースの一部を構成する分割ケース片となる枠状ケース片と、外側コア部の一部を構成し、枠状ケース片に一体成形された枠状コア片とを具える。このようにコア-ケース一体部材の個数を多くすると、各部材が小さくなるため、外側コア部を構成する各分割体の成形にあたり注型成形を利用した場合にも、製造時間の短縮を図ることができる。また、外側コア部の分割数が多い場合、各コアの磁気特性を段階的に変化させた形態などとすることができる。更に、上記枠状部材も非磁性金属で構成される分割ケース片(枠状コア片)を具えることで、成形硬化体のみの場合に比較して強度に優れ、取り扱い易い。
【0107】
(変形例2)
実施形態1,2では、コア-ケース一体部材の合わせ目(=一体成形部の合わせ目=有底ケース片の合わせ目)において、コイルの端面側に配置される部分が長径に沿って配置される形態としたが、短径に沿って配置される形態とすることができる。この形態は、横型配置とするとき、コア-ケース一体部材を長径方向に分離可能になるため、当該一体部材の合わせ目の一部は設置対象上に配置される。
【0108】
或いは、コア-ケース一体部材の合わせ目において、コイルの端面側に配置される部分が長径及び短径以外の径方向に沿って配置される形態とすることができる。この形態では、上記合わせ目の一部、具体的にはコイルの端面側に配置される部分をコイルの径方向(長径及び短径以外)に配置し、合わせ目の他部、具体的にはコイルの外周面側に配置される部分を実施形態1,2と同様にコイルの軸方向に平行に配置することで、外側コア部に磁束を分断するギャップが実質的に生じない。このリアクトルを設置対象に設置したとき、上記合わせ目の一部は、設置対象の表面に交差するように配置され、上記合わせ目の他部は、設置対象の表面に平行に配置される。
【0109】
(変形例3)
実施形態1,2では、コイル2の軸方向が設置対象の表面に平行な横型配置である形態としたが、特許文献2に記載されるような、コイルの軸方向が設置対象の表面に直交するようにコイルが配置された形態(以下、縦型配置と呼ぶ)とすることができる。縦型配置は、設置面積を小さくすることができる。縦型配置では、コア-ケース一体部材をコイル2の径方向に分離可能な形態とすると、当該一体部材の合わせ目の一部が設置対象上に配置され、コイル2の軸方向に直交する方向に分離可能な形態とすると、上記合わせ目の一部が設置対象上に配置されないようにすることができる。
【0110】
(変形例4)
実施形態1,2では、コイル成形体2A,2Bを具える形態としたが、コイル2をそのまま用いることができる。或いは、例えば、コイル2や内側コア部31の外表面に、絶縁性テープを貼り付けたり、絶縁紙や絶縁シートを配置したりして、コイル2と磁性コア3A,3Bとの間に絶縁材を介在させた形態とすることができる。或いは、内側コア部31の外周に上述したボビン21の構成材料と同様の絶縁性材料からなるインシュレータを具える形態とすると、コイル2と内側コア部31との間の絶縁性を高められる。インシュレータは、内側コア部31の外周を覆う筒状体からなる形態、この筒状体と筒状体の両縁部から外方に突出するフランジ部(例えば、環状片)とを具える形態などが挙げられる。筒状体は、コイル2の径方向に分割可能な分割片とすると、内側コア部31の外周に配置し易い。また、筒状体は、コイル2に対する内側コア部31の位置決めにも利用できる。
【0111】
(変形例5)
実施形態1,2では、筒状のコイル2を一つ具える形態としたが、一対のコイル素子を具える形態とすることができる。この形態は、一対の筒状のコイル素子がその軸が平行するように横並びに配置されたコイルと、各コイル素子の内側にそれぞれ配置される一対の内側コア部と各コイル素子の外側に配置される外側コア部とを有する磁性コアとを具える。磁性コアは、横並びされた両内側コア部を繋ぐように外側コア部が接続されて環状に構成される。例えば、実施形態1,2と同様に一対の半割れの有底ケース片を具える形態とする場合、各有底ケース片に具える一体成形部を、実施形態1,2と同様に、縦断面及び横断面のいずれもがΠ状である形態とすることができる。この形態では、外側コア部は、実施形態1,2と同様に、コイルの端面側及び外周面側の双方に配置される。或いは、各有底ケース片に具える一体成形部を直方体状などの柱状体とし、各有底ケース片において対向配置される一対の壁部の内壁面のそれぞれに、この柱状の一体成形部が成形され、この二つの一体成形部により横並びされた内側コア部を挟む形態とすることができる。この形態では、外側コア部は、コイルの端面側に少なくとも配置されて両内側コア部に接触して閉磁路を形成する。いずれの形態も、上述のように外側コア部の材質を部分的に異ならせることができる。
【0112】
(実施形態I)
上述した実施形態1,2や変形例1〜5のリアクトルは、例えば、車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを具える電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【0113】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両200は、図6に示すようにメインバッテリ210と、メインバッテリ210に接続される電力変換装置100と、メインバッテリ210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)220とを具える。モータ220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両200は、モータ220に加えてエンジンを具える。なお、図6では、車両200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを具える形態とすることができる。
【0114】
電力変換装置100は、メインバッテリ210に接続されるコンバータ110と、コンバータ110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ120とを有する。この例に示すコンバータ110は、車両200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ120に給電する。また、コンバータ110は、回生時、モータ220からインバータ120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ210に充電させている。インバータ120は、車両200の走行時、コンバータ110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ220に給電し、回生時、モータ220からの交流出力を直流に変換してコンバータ110に出力している。
【0115】
コンバータ110は、図7に示すように複数のスイッチング素子111と、スイッチング素子111の動作を制御する駆動回路112と、リアクトルLとを具え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上記実施形態1,2や変形例1〜5のリアクトルを具える。放熱性及び生産性に優れるこれらのリアクトルを具えることで、電力変換装置100やコンバータ110は、放熱性及び生産性に優れる。
【0116】
車両200は、コンバータ110の他、メインバッテリ210に接続された給電装置用コンバータ150や、補機類240の電力源となるサブバッテリ230とメインバッテリ210とに接続され、メインバッテリ210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ160を具える。コンバータ110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ150や補機電源用コンバータ160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ150や補機電源用コンバータ160のリアクトルに、上記実施形態1,2や変形例1〜5のリアクトルと同様の構成を具え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上記実施形態1,2や変形例1〜5のリアクトルを利用することもできる。
【0117】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明リアクトルは、各種のリアクトル(車載部品、発電・変電設備の部品など)に好適に利用することができる。特に、本発明リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車といった車両に搭載されるDC-DCコンバータといった電力変換装置の構成部品に利用することができる。本発明コンバータや本発明電力変換装置は、車載用、発電・変電設備用などの種々の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0119】
1A,1B リアクトル 2A,2B コイル成形体 11,12 コア-ケース一体部材
2 コイル 2w 巻線 20 樹脂モールド部 21 ボビン 27 庇部
3A,3B 磁性コア 31 内側コア部 31e 端面 32A,32B 外側コア部
321,322 一体成形部 323 独立コア片 323b 取付部
321f,322f 対向面 321i,322i 接触面 32h,41h 巻線孔
33 係合突起 34 係合穴 325,326 係合段部 327 巻線用突部
4 ケース 41,42 有底ケース片 411,421 底部 412,422 壁部
41i 内壁面 451,452 取付部 400 ボルト 46 固定部
100 電力変換装置 110 コンバータ 111 スイッチング素子
112 駆動回路
120 インバータ 150 給電装置用コンバータ 160 補機電源用コンバータ
200 車両 210 メインバッテリ 220 モータ 230 サブバッテリ
240 補機類 250 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のコイルと、
前記コイルの内側に配置される内側コア部と、前記コイルの外側に配置され、前記内側コア部と共に閉磁路を形成する外側コア部とを有する磁性コアと、
前記コイルと前記磁性コアとを収納するケースとを具えるリアクトルであって、
前記ケースは、
非磁性金属から構成された複数の分割ケース片を組み合せて構成され、
前記複数の分割ケース片のうち二つは有底筒状の有底ケース片であり、
前記外側コア部は、
磁性粉末と樹脂とを含む混合物の成形体からなり、
各有底ケース片のそれぞれに一体に成形された一体成形部を具えることを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記有底ケース片は、前記コイルの径方向に分離可能であることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
筒状のコイルを一つ具え、
前記一体成形部の少なくとも一つは、前記コイルの各端面の一部をそれぞれ覆う箇所と、前記コイルの外周面の一部を覆う箇所とを具えることを特徴とする請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記外側コア部は、前記一体成形部に嵌め込み可能な独立コア片を具えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項5】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、前記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するコンバータであって、
前記リアクトルは、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリアクトルであることを特徴とするコンバータ。
【請求項6】
入力電圧を変換するコンバータと、前記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、
前記コンバータは、請求項5に記載のコンバータであることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−26420(P2013−26420A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159348(P2011−159348)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)