説明

リアルタイムPCR反応を行うための装置

反応容器のための複数個の温度調節可能な収容部を備えた反応領域を有するサーモサイクラ装置と;複数個の発光ダイオードを有する照射装置であり、且つ、該照射装置は前記反応領域に割り当てられるものであり、且つ、該照射装置により励起光は前記収容部内へ放射可能である、照射装置と;測定される光の強度に応じて測定値を発生する検知器装置と;前記照射装置から前記収容部へ、さらに其処から前記検知器装置へと通じる光路を定める光学装置と;発光ダイオードの光の強度を測定することによって対照測定値を発生する1個の対照装置と;前記対照測定値を測定値と比較する1 1の評価装置と;を備えた、リアルタイムPCR反応を行うための装置において、前記対照装置が対照発光ダイオードを有し、該対照発光ダイオードからの光が反応領域の後方で光路に結合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に規定の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置は核酸増幅プロセス(以下、PCR反応と称する)に用いられ、これらの装置において、増幅生成物(PCR生成物)の生成量がPCR反応の進行中に光学的に測定される。この特殊な形態のPCRは、リアルタイムPCR反応と呼ばれる。
【0003】
リアルタイムPCR反応においては、蛍光標識を含む試験サンプルについて測定を行うことが普通である。その蛍光標識は励起後に蛍光信号を放ち、該蛍光信号の強度は形成されたPCR生成物の量に依存する。通常、リアルタイムPCR反応の場合、反応時間の進行に伴うPCR生成物の増加は、測定される蛍光信号強度の増大を通して追跡されることができる。
【0004】
適切な蛍光標識の周知の1例は、例えば、色素Sybrgreenであって、この色素は二重鎖DNA内に非特異的に沈積し、沈積した状態で蛍光信号を放射する。その他にも適切な蛍光標識は多数存在するが、それらは当業者には周知であり、ここで詳細に述べることはしない。補足としてノイサーが『トランスクリプト・ラボールヴェルト』2000年第2号に発表している「PCR生成物を定量するためのリアルタイムPCRプロセス」(Neusser;Transkript Laborwelt Nr. 2/2000;“Echtzeit-PCR-Verfahren zur Quantifizierung von PCR-Produkten”)を参考文献として挙げておく。それらには、リアルタイムPCR反応の種々の可能性が詳細に記述されている。
【0005】
リアルタイムPCR反応の実行に使用できる装置は、反応容器のための温度調節可能な幾つかの収容部を有する反応領域を備えたサーモサイクラ装置を通常含む。さらにそこには前記反応領域に割り当てられた照射装置が備えられる。該照射装置は複数個の発光ダイオードを有し、通常、前記収容部1個あたりそれぞれ1個の発光ダイオードを有する。さらにそこには検知器が備えられており、該検知器は測定される光強度に応じた測定値を発生する。もっと詳しく言えば、検知器は、例えば、CCDチップ或いは光電子増倍管(Fotomultiplier)を含むものであっても良い。
【0006】
該装置はさらに、照射装置から反応スペースに、さらにそこから検知器に通じる光の経路を定める適切な光学装置を包含する。該光学装置には、例えば、照射装置と収容部の間に配置されたダイクロイック・ミラーが含まれており、該ダイクロイック・ミラーは照射装置から放射される励起光を収容部に向けて透過させ、反応領域から発せられる長波長の蛍光信号を、例えば、前記光の経路の横に配置された検知器に向けて反射する。例えば、該検知器の上流に多数のフィルタ及びレンズ等が備えられているのが普通である。
【0007】
既知のリアルタイムPCR反応装置が持つ一つの問題は、温度の変動、或いは電流の変動が測定に影響を及ぼし得ることである。例えば、ほんの数例を挙げるだけでも、発光ダイオードが発生する励起光が、運転時間が長くなると共に弱まったり、あるいは装置を種々異なった温度で運転する場合、光学装置はドリフトを被ることが考えられる。
【0008】
例えば、WO01/35079により、発光ダイオードを標準化するためにフォトダイオードの形態の別個の検出器を持つ対照装置 (Referenzeinrichtung)を備え、該対照装置によって発光ダイオードを測光し、得られる対照測定値を試料測定値から差し引き計算することが知られている。
【0009】
前記の公知の装置においては、検知器の検査が行われていないという点において不利である。
【0010】
DE20122266.3により、起り得る温度による影響を補償するために、装置内に対照光路を備えることが知られている。この対照光路の経路は測定光路と類似であるが、該対照光路に配属されている発光ダイオードは収容部内のPCR沈積物を照らすのではなく、例えば、1 個の収容部に載置できる対照面を照らす。この対照面で反射された光が検知器によって評価され、而してPCRの間の変化が測定値の補正のために用いられる。該装置は比較的高価である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決すべき課題は、従来技術を出発点として、時に起こり得る測定値のドリフトを簡単な方式で認識し、補償することができる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題は、請求項1に記載の特徴を有する装置によって解決される。
【0013】
それ故に本発明では、装置内に対照装置を備えており、該対照装置は対照発光ダイオードを包含し、該対照装置は照射装置から隔離されており、該対照装置の光が反応領域の後方で光路に結合される。
【0014】
本発明の有利な発展形態は、従属請求項に示されている。
【0015】
公知の装置では、実質的にPCR試料の測定に使用される発光ダイオードのテストだけが行われるのに対し、本発明では時に起こり得る温度の変動もしくは電流供給の変動に起因する測定値のドリフトを定量し、及び、補償するために、別の発光ダイオードが使用される。
【0016】
好ましくは、対照発光ダイオードとして、発光スペクトルの幅が照射装置の発光ダイオード(14)のスペクトル幅よりも広い発光ダイオードが使用される。
【0017】
照射装置には、通常、例えば、波長が検知波長よりも下方にある狭い帯域の青色の光を発生する発光ダイオードが組み込まれ、それを用いて検知装置に備えられている光電子増倍管が照射される。特に好ましくは、対照発光ダイオードとして、帯域の広い白色光を発生する発光ダイオードが備えられている。その種の対照発光ダイオードを使用すれば、検知装置のあらゆるフィルタ設定において、すべての電子増倍管(Multiplier)を直接照射することができる。
【0018】
青色発光ダイオードと白色発光ダイオードの間の温度によるドリフトの差は、温度測定を付け加えることによって良好な信頼性で補償することができる。例えば、青色発光ダイオードも、また白色発光ダイオードも、それらの種類内では、温度によるドリフトはごく僅かしか示さないことが明らかにされている。
【0019】
また、特性に関して照射装置の発光ダイオードと同一の特性の対照発光ダイオードを使用することも、当然考えられる。例えば、照射装置の発光ダイオードと仕様及び作動条件が一致する対照発光ダイオードを使用するならば、照射装置の発光ダイオードにおいて測定値のドリフトを惹き起こす諸々の影響は、対照発光ダイオードにおいても同様に働くであろうということを出発点とすることができ、測定結果の直接補償が可能である。
【0020】
好ましい別の一発展形態では、対照発光ダイオードに後置して光学フィルタ装置、特に減光ガラスフィルタが設置される。この光学フィルタ装置を使用して、対照発光ダイオードから放射される光の強度を、光路に結合される以前に所望の強度に調節することができる。通常は、例えば、検知器の感度が中程度である場合に最適な対照信号が電子増倍管に到達するような減光ガラスフィルタが選択される。該対照信号は、S/N(信号/ノイズ)比が有利になるのに十分な強度であり、同時に飽和領域内ではないものである。
【0021】
本発明では、対照発光ダイオードが発する光の光路内への結合は、反応スペースの後方で行われるように意図されている。
【0022】
本発明の枠組み内では、前記対照発光ダイオードの光を反応領域と検知器の間にある光路の任意の位置に結合させることが可能である。
【0023】
実質的に検知器の性能、または場合により設置される電子増倍管の性能を、起こり得るドリフトに関して補償したければ、前記対照発光ダイオードの光を検知器の直前に結合させるだけで十分である。
【0024】
これに対し、場合によって検知器に前置される光学装置に起因する測定値のドリフトをも考慮に入れたい場合には、それに応じて対照発光ダイオードから出る光を、光路のより前方にある位置に結合させれば良い。
【0025】
対照発光ダイオードから出る光を、1 個の鏡、または他の適切な光学装置、例えば、該対照発光ダイオードに配属されている光導体のよう光学装置、を使用して、光路に結合させることも考えられる。
【0026】
後者の光導体の使用は、特に光学装置が光導体を有し、それによって反応スペースから放射される蛍光を受け入れるような装置の場合に好都合である。その場合、光導体の光入射面は、例えば、収容部の1個ずつそれぞれ割り当てられ、一方、光射出面は互いに集束して配置される。このタイプの装置の場合には、少ない費用でもう1個の光導体を設置し、その光入射口を対照発光ダイオードに割り当て、その光射出口を特に他の光導体に囲まれるように設置することができる。
【0027】
公知の装置では、収容部は各々独立して次々と励起され、測定されるのが普通である。その場合、各PCR反応のための一連の測定作業過程が実行され、その測定において、収容部、つまり収容部内に存在する沈積物が測定される。その場合、本発明による対照発光ダイオードは測定用の複数の発光ダイオードと同一の周波数(Frequenz)及び発光時間で点灯されるので、同程度の負荷と損耗が現れる。このように作動させる場合、それぞれの測定作業過程を、起こり得るドリフトに関して補償しても良い。しかしながら、2 回だけの、すなわちPCR反応前とPCR反応後に1回ずつの参照測定で十分であることが明らかにされている。
【0028】
電力供給の変動が測定結果の狂いを引き起こすことがしばしばである。それ故、好ましい一発展形態では、すべての発光ダイオードが受ける電力供給が一致するように、対照発光ダイオード、ならびに照射装置を構成する複数個の発光ダイオードが同一の電源に接続されている。それによって、この発展形態においては、対照発光ダイオードが照射装置の発光ダイオードと同一の影響を受けるので、電力の変動は相殺される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下、本発明による実施例としての装置10を示す添付図面を基にして、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
装置10は、複数個の収容部12を備えた通常のサーモサイクラ装置11を模式的に示したものである。収容部12には図示されていない反応容器がはめ込まれ、運転中、該反応容器中にはそれぞれ前記の蛍光標識、または標識を含むPCR沈積物が入れられている。
【0031】
サーモサイクラ装置11上には、複数個の発光ダイオード14を有する照射装置を備えたカバーハウジング (Deckelgehause)13が載置される。発光ダイオード14のそれぞれに、1 個ずつの収容部12が割り当てられている。好ましくは、発光ダイオード14はアレイ状に配置されている。測定の際には、発光ダイオード14は、それぞれに割り当てられた収容部12に常にその都度毎だけ照射されるように、スイッチを入に切換えられることが好ましい。
【0032】
典型的な光の進路が15, 15’で示してある。光15は発光ダイオード14から放射された後に、まず短波長光透過フィルタ16を通り、該フィルタによって長波長部分がカットされる。それから光15はビームスプリッタ17を通過する。該ビームスプリッタは前記短波長の光をこの方向では完全に透過させる。
【0033】
前記に繰り返し述べているように、発光ダイオード14から放射された光15が収容部12内のPCR沈積物中に存在する蛍光標識を励起すると、それに基づいて該標識は蛍光信号15’を放射する。前記ビームスプリッタ17は、該蛍光信号15’を横方向に反射するような性状を持っている。
【0034】
ビームスプリッタ17としては、励起光を透過させるが、PCR沈積物から放射される長波長の蛍光信号を反射するようなダイクロイックミラーを使用することが好ましい。
【0035】
次いで、反射された蛍光信号15’は検知器27に記録される。検知器27の上流には複数個の光学装置が配置されており、それらによって蛍光信号15’は検知器27上に写され得る。検知された信号は、通常複数個の、それぞれ波長特異性を有する、図示されていない電子増倍管によって増幅される。
【0036】
詳しくは、前記光学装置には光入射面21を備えた多数の光ファイバ20が含まれており、光ファイバのそれぞれは、1個ずつの収容部12に割り当てられている。つまり光ファイバのそれぞれは、収容部12のそれぞれから放射され、ビームスプリッタ17で反射されるそれぞれの蛍光信号15’に割り当てられる。
【0037】
好ましくは、入射面21も発光ダイオード14と同様にアレイ状に配置される。
【0038】
本発明によれば、カバーハウジング内において、測定用発光ダイオード14と空間的に近接して、もう1個の発光ダイオードが対照発光ダイオード140として備えられている。対照発光ダイオード140から生ずる光は、ミラー220によって横方向に曲げられ、減光ガラスフィルタ230を通って対照光ファイバ200として利用される光ファイバの光入射面210に達する。ミラー220は、例えば、セラミックミラーであって良い。減光ガラスフィルタは、対照信号の強度を検出し易い値に調節するために用いられる。
【0039】
測定用光ファイバ20と対照光ファイバ200は、それらの光出口端で1個の束にまとめられ、その際に好ましくは横方向への放射による影響を最小化するために、対照光ファイバ200の光出口端は束23の真中に置かれる。
【0040】
光ファイバの集束により、すべての収容部12からの信号は、相互に比較的密集して出射する効果がある。先に述べたように、出射する複数本の光ビームを、その伝播方向の差異をごく僅な程度に、束状に平行調整するためには、狭く限られた出射面が必要である。このことは、後置されているフィルタが干渉フィルタであり、その分光透過特性 (spektrale Durchlascharakteristik) がフィルタへの入射角に依存する場合に、特に有利である。
【0041】
蛍光信号15’及び対照発光ダイオード140の光は、次に光ファイバの束23から、別の光学装置、例えばレンズ24、長波長透過フィルタ25及び別のレンズ26を通って、検知器27上に写される。
【0042】
ここに示されている実施形態の場合、対照発光ダイオードは構造的に比較的少ない費用で備えられ、且つ、光路に結合されることができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器のための複数個の温度調節可能な収容部を備えた反応領域を有するサーモサイクラ装置と、
複数個の発光ダイオードを有する照射装置であり、且つ、該照射装置は前記反応領域に割り当てられるものであり、且つ、該照射装置により励起光は前記収容部内へ放射可能である、照射装置と、
測定される光の強度に応じて測定値を発生する検知器装置と、
前記照射装置から前記収容部へ、さらに其処から前記検知器装置へと通じる光路を定める光学装置と、
発光ダイオードの光の強度を測定することによって対照測定値を発生する1個の対照装置と、
前記対照測定値を測定値と比較する1 1の評価装置と、
を備えた、リアルタイムPCR反応を行うための装置において、
前記対照装置が対照発光ダイオード(140)を有し、該対照発光ダイオードからの光が反応領域の後方で光路(15、15’) に結合されることを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、対照発光ダイオード(140)として、照射装置の発光ダイオード(14)よりも放射光のスペクトル幅が広い発光ダイオードが備えられていることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置において、対照発光ダイオード(140)として白色光を発生する発光ダイオードが備えられていることを特徴とする装置。
【請求項4】
前記請求項のいずれか1項に記載の装置において、対照発光ダイオード(140)の下流側に配置されたフィルタ装置(230)、特に減光ガラスフィルタが備えられていることを特徴とする装置。
【請求項5】
前記請求項のいずれか1項に記載の装置において、対照発光ダイオード(140)から出る光が、該発光ダイオードに割り当てられた光ファイバ(200)によって光路に結合されることを特徴とする装置。
【請求項6】
前記請求項のいずれか1項に記載の装置において、対照発光ダイオード(140)と、照射装置の発光ダイオード(14)とが、同一の電源に接続されていることを特徴とする装置。

【公表番号】特表2009−507501(P2009−507501A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530372(P2008−530372)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008559
【国際公開番号】WO2007/031203
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(505404725)エッペンドルフ アーゲー (16)
【Fターム(参考)】