説明

リウマチ治療薬

【課題】全く新しい作用機序に基づくリウマチ治療薬を提供する。
【解決手段】(A)血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞、又は(B)血管内皮細胞由来の抗原及び薬学的に許容されるアジュバントを含有するリウマチ治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチの新生血管内皮細胞を標的としたリウマチ免疫療法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチは、原因不明の自己免疫疾患であり、本疾患の進行は、まず関節腔の内面を覆っている滑膜細胞の増殖、次いで関節の血管が増加する。その後、血管内から関節滑膜組織に白血球が遊走し、関節局所で免疫応答が起こり、白血球が産生するサイトカインの作用により炎症反応がひきおこされ、軟骨・骨の破壊が進行し、最後には関節が破壊され、高度な機能障害に陥る。関節の機能障害及び変形による疼痛は極めて患者のQOLを低下させるものである(非特許文献1)。関節リウマチの治療には非ステロイド性抗炎症薬や疾患修飾抗リウマチ薬、メトトレキサート、金製剤などが使われるが(非特許文献2、3)、根本治療法は未だ確立されておらず、その新規治療薬の開発が急務とされている。
【非特許文献1】Koch A. E., Angiogenesis:implications for rheumatoid arthritis, Arthritis Rheum, 41, 951-962, 1998
【非特許文献2】今日の治療薬2006, 水島裕編集,南江堂,p285-290, 2006年版
【非特許文献3】Arthritis Research & Therapy, vol.6, No.2, p60-72(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、全く新しい作用機序に基づくリウマチ治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
血管新生は、成人において主に創傷治癒部位で観察されるが、疾患に着目した場合は、関節リウマチ時の関節滑膜部位において観察される。すなわち、滑膜組織の増大にともない、滑膜細胞への酸素や栄養の補給を行うために、血管の新生が盛んに行われる(非特許文献3)。
そこで、本発明者は、滑膜組織の増大に伴う血管の新生に着目し、種々検討した結果、血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞、又は血管内皮細胞由来の抗原とアジュバントの組み合せを用いれば、滑膜組織の増大に伴う新生血管内皮細胞を標的とした体液性免疫又は細胞性免疫が誘導され、免疫機構により滑膜組織の新生血管を破錠させることができ、滑膜組織の増殖が抑制される結果、リウマチ病巣が治癒されることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、(A)血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞、又は(B)血管内皮細胞由来の抗原及び薬学的に許容されるアジュバントを含有するリウマチ治療薬を提供するものである。
また、本発明は、(A)血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞、又は(B)血管内皮細胞由来の抗原及び薬学的に許容されるアジュバントの、リウマチ治療薬製造のための使用を提供するものである。
さらに本発明は、(A)血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞、又は(B)血管内皮細胞由来の抗原及び薬学的に許容されるアジュバントを投与することを特徴とするリウマチの治療法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明療法の特徴は、以下の2つに大別できる。本特徴により、以下に記すような、顕著な効果が得られるとともに副作用が低く、画期的なリウマチ治療薬となる。
【0007】
(1)関節滑膜部位の新生血管内皮細胞を標的:
生体内で血管新生が盛んに行われている部位は、主に創傷治癒部位に限られていることから、新生血管内皮細胞を標的とした場合、病巣組織への選択性が極めて高く、正常組織への影響が小さく、副作用が低い。もう一つは、リウマチ病巣組織を構成する細胞は、血管内皮細胞:組織細胞=1個:数十〜数百個であり、これは1つの血管内皮細胞が数十〜数百個の組織細胞を支えていることを意味しており、1つの血管内皮細胞の死は数十〜数百個の組織細胞の死を誘導する。従って、リウマチ病巣組織そのものを標的とするよりも、その組織の血管内皮細胞を標的とし、破綻させたほうが極めて効果的にリウマチ病巣組織の退縮効果が得られる。
【0008】
(2)免疫機構を利用:
体液性免疫による抗体や、細胞性免疫における細胞傷害性T細胞など、エフェクターの標的への選択性が極めて高いことが挙げられ、結果、顕著な効果が得られるとともに副作用が低い。さらに、免疫機構には免疫記憶があり、薬物療法と比較して、極めて長期間作用し、頻回投与の必要もなく、治療効果のみならず治療後の再発をも予防できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のリウマチ治療薬は、免疫を惹起し、惹起される免疫は、ヒト関節滑膜部位の新生血管内皮細胞をターゲットとする。そのため、抗原となる血管内皮細胞は、ヒト由来であれば特に制限されない。抗原を樹状細胞にパルスしたものを免疫しても良いし、抗原をアジュバントと混和して免疫しても良い。
【0010】
血管内皮細胞は、大きく2種類が使用可能であり、その一つはヒト、好ましくは患者から単離した血管内皮細胞である。例えば臍帯静脈、臍帯動脈、大動脈、肺動脈、新生児包皮、成人皮膚、脂肪組織等の血管の内皮細胞が用いられる。特に、脂肪組織は美容整形時に除去されるように、正常な生体から除去しても大きな影響は与えず、加えて、脂肪組織中の血管内皮細胞と脂肪細胞との比重が大きく異なるため、遠心操作のみで、比較的容易に血管内皮細胞を高純度に単離、培養が可能である。また、患者の皮膚の血管内皮細胞も使用可能であるが、量が少ないので、培養によりかなり増殖させる必要がある。
【0011】
他の一つは、一般の培養ヒト血管内皮細胞である。血管内皮細胞そのものを抗原として、患者の体内に接種するのではなく、血管内皮細胞からの抽出物を抗原とするわけであるから、MHC適合(Major Histcompatibility Complex:主要組織適合抗原系)の必要もない。故に、市販されているヒト培養血管内皮細胞が使用可能である。培養ヒト血管内皮細胞としては、臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)、新生児包皮・成人皮膚等由来微小血管内皮細胞(HMVEC)、肺動脈血管内皮細胞(HPAEC)、大動脈血管内皮細胞(HAEC)等が挙げられる。ヒト由来なので、ウィルス伝播の危険性がゼロではないので、ウィルス除去のしかるべき対策(加熱処理、有機溶媒及び界面活性剤処理、特別に細かいろ過等)を取る必要がある。血管内皮細胞培養のための培地は特に制限されず、例えばRPMI 1640、MEM、DMEM、ハムF12、M199等の培地、さらに血管内皮細胞増殖因子、ヘパリン、抗生物質等が添加されていてもよい。血管内皮細胞の培養条件は、特に制限されず、37℃、5%CO2、95%air、飽和水蒸気条件下で2〜4日間行うのが好ましい。
【0012】
本発明のリウマチ治療薬は、リウマチ時の関節滑膜部位の新生血管内皮細胞を標的とし、正常組織の血管内皮細胞に対しては作用しないのが望ましい。かかる観点から、新生血管内皮細胞特異的な抗原を有している増殖期にある血管内皮細胞、すなわち培養血管内皮細胞を用いるのがより好ましい。
好ましい例としては、培養血管内皮細胞で増殖期またはコンフルエント直後のもの、あるいは血管新生が行われている組織から単離した血管内皮細胞などが挙げられる。
【0013】
さらに血管内皮細胞は、TNF−α、リポ多糖(Lipopolysaccharide:LPS)、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)等で刺激するのが好ましい。このうち、TNF−α刺激培養血管内皮細胞を用いるのが、リウマチ治療効果を高めるうえで特に好ましい。培養血管内皮細胞のTNF−α刺激は、例えばTNF−α 10〜500U/mLの存在下で10〜40時間培養血管内皮細胞を培養すればよい。
【0014】
前記、血管内皮細胞由来の抗原としては、当該血管内皮細胞自体でもよいが、血管内皮細胞破砕液又は血管内皮細胞膜小胞を用いてもよい。当該細胞破砕液や膜小胞は、調製が容易であり、かつ樹状細胞に対する刺激効率が高いのでより好ましい。
【0015】
細胞破砕液は、例えば凍結(−160℃)と融解(37℃)を4〜6回繰り返したものを低速度で遠心(400rpm、10分間)することにより調製することができる。また、膜小胞は、例えばDMEMに100mMパラホルムアルデヒド、2mMジチオスレイトール、1mMCaCl2、0.5mM MgCl2を加えたもので37℃、5%CO2、95%air、飽和水蒸気条件下で一晩処理し、次に150×gで5分間遠心し、続いてその上清を4℃において30分間30,000×gの遠心により調製することができる。
【0016】
本発明リウマチ治療薬の有効成分のうち、(A)血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞は、樹状細胞に血管内皮細胞由来の抗原をパルス(刺激)することにより得られる。抗原をパルスする樹状細胞としては、ヒト由来の樹状細胞、特に投与しようとする患者自身由来の樹状細胞又は患者とMHC適合のヒト由来の樹状細胞を用いるのが好ましい。樹状細胞は、骨髄細胞、臍帯由来細胞、末梢血単核細胞などから分化誘導させることにより得ることができる。末梢血単核細胞から樹状細胞を分化誘導するには、例えばGM−CSF(10−100ng/mL)、IL−4(50−500IU/mL)を加えた培地で、5〜10日間培養するのが望ましい。
【0017】
樹状細胞を前記血管内皮細胞由来の抗原で刺激するには、例えば樹状細胞の懸濁液に当該血管内皮由来抗原を添加し、4〜24時間インキュベートすることにより行われる。また抗原刺激がより効率的に行われるよう、カチオニックリポソーム等を併用することが好ましい。さらに樹状細胞と血管内皮細胞の細胞融合法によって、樹状細胞に血管内皮細胞抗原を提示させても構わない。当該抗原の添加量は、樹状細胞1×106個あたり蛋白濃度として0.01〜100μg/mLが好ましい。
【0018】
かくして得られた樹状細胞は、生体内でリウマチ関節滑膜組織の血管内皮細胞特異抗原を提示し、リウマチ関節滑膜組織血管内皮細胞への細胞障害性T細胞(CTL)が誘導され、リウマチ関節滑膜組織の血管内皮細胞が攻撃され、リウマチ関節滑膜組織内の血管が破綻し、滑膜組織の増殖を阻害し、ひいては滑膜組織増大が抑えられ、結果、リウマチ病巣が治癒されることから、リウマチ治療薬として有用である。
【0019】
得られた樹状細胞を含む細胞懸濁液は、ヒトにリウマチ治療薬として投与することから、細胞増殖性を無くしておくのが好ましい。より安全に利用するため加熱処理、放射線処理、あるいはマイトマイシンC処理など、リウマチ治療薬としての機能を残しつつ、リウマチ関節滑膜組織細胞のタンパク質が変性する程度の条件下で処理をすることができる。
例えば、X線照射を利用する場合、X線照射器の管球の下に樹状細胞を含むフラスコを置き、総放射線量1,000〜3,300Radで照射する。マイトマイシンC処理法は、例えば、樹状細胞を1〜3×107個細胞/mLの密度で懸濁し、細胞浮遊液1mLあたりマイトマイシンC25〜50μgの比で添加して、37℃、30〜60分間保温処理する。熱による細胞処理方法は、例えば、生細胞濃度を1×107個/mLに調製した細胞懸濁液を入れた遠心管を50〜65℃で20分間加熱処理を行うことで調製しうる。
【0020】
本発明の樹状細胞は、患者本人に使用することもできるが、骨髄バンク、臍帯血バンクの発達により、MHC適合の同種の多数の患者に投与することができる。
【0021】
本発明リウマチ治療薬の有効成分のうち、(B)血管内皮細胞由来の抗原と薬学的に許容されるアジュバントは、当該抗原とアジュバントを含む単一製剤としてもよいし、当該抗原とアジュバントを別々に製剤とし、投与時に混合して用いてもよい。
【0022】
前記抗原と組み合せて用いる薬学的に許容されるアジュバントとしては、ヒトに使用可能なアジュバントであればよいが、病原微生物ワクチン製剤のアジュバントとして使用される水酸化アルミニウムゲルなどの沈降性タイプのもの、オリーブオイルなどを用いた乳剤タイプのもの、プルランなどの多糖類及びモンタナイドアジュバント等がある。前記抗原とアジュバントの比率は、アジュバントの種類によっても異なるが、水酸化アルミニウムゲルをアジュバントとした場合、ゲル中に含まれる水酸化アルミニウムの量をアジュバント量とすると、通常、抗原:アジュバント(重量比)=1:100〜100:1、特に1:50〜50:1が好ましい。
【0023】
本発明のリウマチ治療薬には、前記有効成分の他、非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイド、疾患修飾抗リウマチ薬、メトトレキサート、金属剤、抗体医薬などの生物学的製剤等を併用してもよい。
【0024】
また、本発明のリウマチ治療薬は、(A)血管内皮細胞由来の抗原とアジュバントの場合には、皮下、皮内、筋肉内等の注射剤、経口、鼻粘膜等の粘膜免疫を惹起させる製剤として投与することができる。また、(B)樹状細胞の場合には、皮下、皮内、筋肉内:静脈内等の注射剤として投与することができる。これらの製剤を調製するにあたっては、薬学的に許容される担体、例えば溶解剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、懸濁化剤、乳化剤等を配合することができる。
【0025】
本発明のリウマチ治療薬の投与量は、患者の年齢、体重、性別、リウマチの進行度、症状等により異なり、一概に決定できないが、血管内皮細胞又は樹状細胞の量として、1回あたり1μg〜100mg程度が好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0027】
実施例1
A.実験方法
(1)II型コラーゲン関節炎マウスの作製
関節炎リウマチモデルとして汎用されるII型コラーゲン誘導関節炎マウスを作製し、用いた。すなわちII型コラーゲン溶液とフロイント完全アジュバントを等量溶液ずつガラスシリンジで混和してエマルジョンを作製し、DBA/1Jマウスの尾根部皮内に免疫し、初感作から3週間後に、II型コラーゲン溶液を腹腔内に追加免疫を行った。
【0028】
(2)血管内皮細胞
血管内皮細胞としては、マウス肝類洞内皮細胞(HSE)及びヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いた。(これら血管内皮細胞は滑膜部位の血管内皮細胞ではないが、in vitro条件下、これら細胞は盛んに増殖していることから、in vivoにおいて盛んに増殖している新生血管の血管内皮細胞の性質と類似していると考えられ、新生血管の血管内皮細胞モデルとして使用した。)
【0029】
(3)抗原の調製
培養血管内皮細胞に、2.5%(v/v)1−ブタノール/PBS溶液を加え、抽出した溶液を透析、凍結乾燥したものを抗原とした。
【0030】
(4)アジュバントによる免疫
凍結乾燥した抗原を生理食塩水で溶解し、アジュバント(Titer MaxR Gold)を等量混和し、リウマチモデルマウスの頚背部に皮下注射した。免疫は、II型コラーゲン初感作1週間前とし、3週間後に再びアジュバントによる抗原の免疫を行った。
【0031】
(5)マウス骨髄由来樹状細胞(dendritic cell:DC)の調製
DBA/1Jマウスの大腿骨及び脛骨より骨髄組織を取り出し、GM−CSF(granulocyte macrophage colony-stimulating factor:顆粒球マクロファージ コロニー刺激因子)含有培地で培養することによってDC(樹状細胞)に分化させたものを用いた。
【0032】
(6)DCへの抗原パルス及びDCの免疫
凍結乾燥した各抗原を、lipofectinTMを用い、DCにパルスした。このDCをマウス後背部皮内に免疫した。DCの免疫はII型コラーゲン初感作1週間後とし、さらに1週間後にDCを免疫した。
【0033】
(7)リウマチ様関節炎スコアの採点
リウマチ様関節炎モデルマウスの四肢に対する関節炎の発症を、毎日、常法にしたがい関節炎スコアを採点し、その合計点によりリウマチ様関節炎を評価した。スコアは以下のように0〜4の5段階で採点した。
【0034】
0:変化無し
1:指の関節が1本のみ腫脹発赤
2:指の関節が2本以上、又は手首や足首などの大きな関節の腫脹発赤
3:1本の手や足全体の腫脹発赤
4:1本の手や足全体の最大限の腫脹
【0035】
採点評価は50日目を終了とした。
II型コラーゲン初感作を0日目とし、Woodらに準じて、マウス四肢のスコアをそれぞれ採点し50日目まで測定した。II型コラーゲン初感作の1週間前に抗原をアジュバントとともに免疫した。2回目の免疫はII型コラーゲン2回目感作の1週間前とした。各マウス四肢のスコア合計を、その個体のスコアとし、各群、平均スコアで示した(n=5)。
【0036】
B.実験結果
(1)アジュバントを用いて、血管内皮細胞抗原を免疫した時のリウマチ様関節炎スコアの経日変化を図1に示す。コントロール群(アジュバントを投与していない)及びアジュバントのみ群(血管内皮細胞抗原無し)ともにII型コラーゲン初感作後20日目から、リウマチ様関節炎による腫脹発赤が現れ始め、33日目にはアジュバントのみ群の全てのマウスに腫脹発赤が現れ、日数の経過に伴い関節炎スコアが増加した。コントロール群もほぼ同様の結果であり、アジュバントそのものの投与による、リウマチ様関節炎の抑制や促進効果は認められなかった。一方、HSE、HUVECを抗原として用いた両群とも、ほぼ全てのマウスにおいて、リウマチ様関節炎の腫脹発赤が現れることはなく、リウマチ様関節炎が顕著に抑制された。
アジュバントのみ群にリウマチ様関節炎抑制効果が認められなかったことから、HSE、HUVEC群におけるリウマチ様関節炎の抑制は、アジュバントそのものの作用ではなく、血管内皮細胞を抗原として免疫したことに起因することが示唆された。
【0037】
(2)血管内皮細胞抗原をDCにパルスしたものを免疫した時のリウマチ様関節炎スコアの経日変化を図2に示す。コントロール群(DCを投与していない)及びDCのみ群(抗原をパルスしていないDC群を投与)ともにII型コラーゲン初感作後20日目から、リウマチ様関節炎による腫脹発赤が現れ始め、26日目には抗原無処置群の全てのマウスに腫脹発赤が現れ、日数の経過に伴いリウマチ様関節炎スコアが増加した。コントロール群もほぼ同様の結果であり、DCの投与による、リウマチ様関節炎の抑制や促進効果は認められなかった。
一方、HSE、HUVECをパルスしたDCを投与した両群とも、ほぼ全てのマウスにおいて、リウマチ様関節炎の腫脹発赤が現れることはなく、リウマチ様関節炎は顕著に抑制された。
DCのみ群にリウマチ様関節炎抑制効果が認められなかったことから、HSE、HUVEC投与群におけるリウマチ様関節炎の抑制は、DC投与による非特異的な免疫機能の上昇による抗リウマチ効果ではなく、新生血管内皮細胞を抗原としてDCにパルスしたことにより、新生血管内皮細胞に対する免疫が惹起され、関節滑膜部位の血管新生を阻害したことに起因した抗リウマチ効果であることが推察された。
【0038】
(3)X線写真による骨破壊の観察
リウマチ様関節炎の程度は外観の「腫れ」も重要であるが、機能障害をともなう関節骨破壊の程度の評価も重要である。そこで、X線写真を撮影し、骨破壊の程度を観察した。
実験開始50日後、マウスを屠殺し、四肢を切断し、ホルマリン固定した。その後、X 線写真を撮影し、骨破壊の程度を観察した。
アジュバント処理の結果を図3に示す。リウマチ様関節炎を発症させていないマウスの骨は密であり、関節構造も明確であった。一方、リウマチ様関節炎を発症させたマウスは、骨密度が低下し、骨破壊が観察され、また関節も不明瞭であり、腫れが骨レベルでの関節破壊まで進行していることが確認できた。血管内皮細胞免疫群は、正常マウス群と同様に、骨密度の低下や、関節の破壊は観察されず、外観の関節の腫れのみならず、X線による骨の評価においても、リウマチ様関節炎の発症がほとんど認められないことが確認された。血管内皮細胞免疫群は、正常マウス群と同様に密な骨構造が観察され、リウマチ様関節炎の発症が顕著に抑制されていることが観察された。
【0039】
(4)リウマチ様関節炎発症の骨変化は、踵部位での評価が顕著であることから図4に踵部位の骨変化を示す。リウマチ様関節炎を発症させていない正常マウスの踵部の骨は密であった。一方、リウマチ様関節炎を発症させたマウスの踵は、顕著な骨密度の低下が観察され、リウマチ様関節炎が踵部位まで進行していることが確認された。血管内皮細胞免疫群では正常マウス群と同様に密な骨構造が観察され、踵部位においてもリウマチ様関節炎の発症が顕著に抑制されていることが観察された。
【0040】
実施例2
抗原である血管内皮細胞の最適化、すなわち、リウマチ様関節炎滑膜部位の血管内皮細胞により近い状態を再現し、関節炎血管内皮細胞に対する免疫を惹起することを目的として、TNF−α刺激血管内皮細胞を抗原とし、その有用性を検討した。
【0041】
(1)TNF−α刺激血管内皮細胞
リウマチの増悪にTNF−αが関与し、また関節部位においてTNF−αが高値を示すことから、TNF−α刺激(100U/mL、24時間処理)した血管内皮細胞を関節滑膜血管内皮細胞モデルとして用いた。
関節炎スコアを採点した。図5にその結果を示す。TNF−α刺激血管内皮細胞を抗原とした群は、先に見出した無処置の血管内皮細胞(HSE)を抗原とした群よりも、より顕著にリウマチ様関節炎の発症を抑制した。
【0042】
実施例3
本リウマチ効果が、血管内皮細胞に対する免疫の誘導によるものか否かをマウス血中の抗血管内皮細胞抗体価を測定することで評価した。
【0043】
(1)抗血管内皮細胞抗体価の測定
実験開始50日後、マウスより血液を採取し、得られた血清中の抗血管内皮細胞抗体価を、血管内皮細胞抗原(HSE又はHUVEC)を固相化したプレートを用いELISA法により測定した。
【0044】
結果を図6に示す。アジュバントを用いて免疫した場合、HSE(マウス血管内皮細胞)に対する抗体価が、HSEを抗原として免疫した場合、顕著に上昇していることが示されたことから、血管内皮細胞に対する免疫が誘導されていることが明らかになった。さらにHUVEC(ヒト血管内皮細胞)を抗原として免疫した場合も、HSEに対する抗体価の上昇が観察された。さらにHUVECを固相化して同様の検討を行い、HSE、HUVECを抗原として免疫したいずれの場合も抗血管内皮細胞抗体価の顕著な上昇が観察されたことから、種を問わず新生血管内皮細胞には共通の抗原が存在し、その抗原に対する免疫が惹起され、新生血管内皮細胞が標的となり、新生血管の破綻が生じ、抗リウマチ効果を示したものと推察された。
【0045】
実施例4
II型コラーゲン誘導リウマチ様関節炎では、血中での抗II型コラーゲン抗体価が高値を示し、この抗体が滑膜組織の破壊の一因となっている。リウマチ治療薬の1つである副腎ホルモンなどのステロイド薬は、免疫抑制をその作用機序として抗リウマチ作用を示す。したがって、ステロイド薬によって抗リウマチ効果が認められている際、血中の抗II型コラーゲン抗体価の低下が観察される。そこで新生血管内皮細胞を標的とした本免疫療法の作用機序を解明する目的で、血中II型コラーゲン抗体価を測定した。
【0046】
(1)抗II型コラーゲン抗体価の測定
実験開始50日後、マウスより血液を採取し、得られた血清を用いて抗II型コラーゲン抗体価をELISA法により測定した。
血中抗II型コラーゲン抗体価をELISAで測定した結果を図7に示す。HSE、HUVECを抗原としてアジュバント又はDCを用いて免疫した群は、抗原無処置群と差がなかった抗II型コラーゲン抗体が産生されていた。結果、本免疫療法の作用機序が、関節炎発症に関与する自己免疫に対する非特異的な抑制とは異なることが示唆された。本結果からも、本療法は新生血管内皮細胞を標的とすることが作用機序であることが推察された。
【0047】
実施例5
本療法で予想される副作用の有無を検討した。本検討で用いた血管内皮細胞は、正常組織の血管内皮細胞であり、培養条件下、細胞増殖期に抗原を調製することで、新生血管モデルとしている。よって、細胞の増殖期に関わらずに、正常組織血管内皮細胞が抗原として認識され、免疫動物の正常組織血管内皮細胞が破綻されれば、組織の機能障害を併発し、極めて重篤な副作用を発症する可能性を否定できない。そこで、HSEがマウス肝臓由来の血管内皮細胞由来の細胞であることから、肝臓血管の破綻により肝障害が起こっているか否かを、マウス血液中のGPT及びGOTの生化学値より評価した。
【0048】
血液生化学検査
実験開始50日後、マウスより血液を採取し、血中GPT(ALT)及びGOT(AST)活性を測定した。結果を表1に示す。
抗原投与群(HSE、HUVEC)のGPT及びGOT活性値は、アジュバントを用
いた場合、DCを用いた場合ともに、無処置及び抗原無処置群と差がなかった値を示し、肝臓障害は認められなかった。
【0049】
上記実施例1(1)において、アジュバントのみ群に関節炎抑制効果が認められなかったことから、HSE、HUVEC群における関節炎の抑制は、アジュバントそのものの作用ではなく、血管内皮細胞を抗原として免疫したことに起因することが示唆された。
【0050】
実施例1(2)において、DC(dendritic cell:樹状細胞)のみ群に関節炎抑制効果が認められなかったことから、HSE、HUVEC投与群における関節炎の抑制は、DC投与による非特異的な免疫機能の上昇による抗リウマチ効果ではなく、新生血管内皮細胞を抗原としてDCにパルスしたことにより、新生血管内皮細胞に対する免疫が惹起され、関節滑膜部位の血管新生を阻害したことに起因した抗リウマチ効果であることが推察された。
【0051】
実施例3において、種を問わず新生血管内皮細胞には共通の抗原が存在し、その抗原に対する免疫が惹起され、新生血管内皮細胞が標的となり、新生血管の破綻が生じ、抗リウマチ効果を示したものと推察された。
【0052】
実施例4において、本免疫療法の作用機序が、関節炎発症に関与する自己免疫に対する非特異的な抑制とは異なることが示唆された。本結果からも、本療法は新生血管内皮細胞を標的とすることが作用機序であることが推察された。
【0053】
本療法で予想される副作用の有無を検討した。本検討で用いた血管内皮細胞は、正常組織の血管内皮細胞であり、培養条件下、細胞増殖期に抗原を調製することで、新生血管モデルとしている。よって、細胞の増殖期に関わらずに、正常組織血管内皮細胞が抗原として認識され、免疫動物の正常組織血管内皮細胞が破綻されれば、組織の機能障害を併発し、極めて重篤な副作用を発症する可能性を否定できない。そこで、HSEがマウス肝臓由来の血管内皮細胞由来の細胞であることから、肝臓血管の破綻により肝障害が起こっているか否かを、マウス血液中のGPT及びGOTの生化学値より評価した(実施例5)。
本療法により抗リウマチ効果が認められていること(実施例1〜2)、また実施例3及び4から、新生の血管内皮細胞に対する免疫が惹起されていることが示唆されるが、肝臓障害が認められなかった実施例5の結果から、本免疫療法は、増殖停止期の定常状態にある血管内皮細胞に対しては免疫が惹起されず、免疫寛容状態にあるものと推察される。
新生血管のみを標的とした本免疫療法が、正常組織の血管内皮の破綻による機能障害を併発することなく、副作用の少ない安全な治療法であることが判明した。
故に、ここに、新生血管内皮細胞を抗原とした抗関節リウマチ免疫療法の有用性が示された。
【0054】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】血管内皮細胞抗原をアジュバントとともに免疫することによるリウマチ様関節炎の抑制効果を示す図である。
【図2】血管内皮細胞抗原をパルスした樹状細胞を免疫することによるリウマチ様関節炎の抑制効果を示す図である。
【図3】新生血管内皮細胞抗原をアジュバントとともに免疫したリウマチ様関節炎発症マウスの四肢X線写真である。
【図4】新生血管内皮細胞抗原をアジュバントとともに免疫したリウマチ様関節炎発症マウスの四肢X線写真(踵部位)である。
【図5】TNF−α刺激した血管内皮細胞を抗原とした免疫療法による関節炎スコアを示す図である。
【図6】アジュバントを用いた免疫療法における抗血管内皮細胞抗体価の測定結果を示す図である。
【図7】アジュバント、DCを用いた免疫療法におけるマウス血中抗II型コラーゲン抗体価を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞、又は(B)血管内皮細胞由来の抗原及び薬学的に許容されるアジュバントを含有するリウマチ治療薬。
【請求項2】
血管内皮細胞由来の抗原が、血管内皮細胞、その細胞破砕液又はその細胞膜小胞である請求項1記載のリウマチ治療薬。
【請求項3】
血管内皮細胞が、培養血管内皮細胞である請求項1又は2記載のリウマチ治療薬。
【請求項4】
(A)血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞、又は(B)血管内皮細胞由来の抗原及び薬学的に許容されるアジュバントの、リウマチ治療薬製造のための使用。
【請求項5】
血管内皮細胞由来の抗原が、血管内皮細胞、その細胞破砕液又はその細胞膜小胞である請求項4記載の使用。
【請求項6】
血管内皮細胞が、培養血管内皮細胞である請求項4又は5記載の使用。
【請求項7】
(A)血管内皮細胞由来の抗原で刺激された樹状細胞、又は(B)血管内皮細胞由来の抗原及び薬学的に許容されるアジュバントを投与することを特徴とするリウマチの治療法。
【請求項8】
血管内皮細胞由来の抗原が、血管内皮細胞、その細胞破砕液又はその細胞膜小胞である請求項7記載の治療法。
【請求項9】
血管内皮細胞が、培養血管内皮細胞である請求項1又は8記載の治療法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−203161(P2009−203161A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156036(P2006−156036)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(502189775)メビオファーム株式会社 (6)
【Fターム(参考)】