説明

リクライニング式介護用車椅子

【課題】座乗者の快適性及び構造の簡易さを担保しながらも、シート幅を保持しつつその全幅を狭くした介護用車椅子を提供する。
【解決手段】本発明のリクライニング式介護用車椅子は、背もたれが装着される背もたれフレーム120と、座部が装着される座部フレーム110と、背もたれフレーム120と座部フレーム110とを側方から支持する一対の外枠フレーム140とを備えるリクライニング式介護用車椅子100であって、一対の外枠フレーム140の各々は、その後部側から下方に延びた下部フレーム143を有し、一対の下部フレーム143がその上端から下端にかけて互いに接近するように湾曲し、一対の下部フレーム間の幅が狭まった部分143aで、各主車輪162が一対の下部フレーム143にそれぞれ支持されて、一対の主車輪162での横幅W2が当該車椅子の全幅W1以下になるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、座乗者(又は被介護者)が着座可能なシート幅を保持しつつ、その全幅を狭くしたリクライニング式介護用車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車椅子は、使用者の臀部ないし腰部を収容するだけの横幅を有する座部と、当該座部を支持するフレームの両外側に取り付けられた後輪とを有する構造からなるものである。例えば、特許文献1には、前部キャスター(15)と後尾に一対の主車輪(16)とを有するリクライニング式介護用車椅子が開示されている。この車椅子(100)は、下部フレーム(23)の側部に挿入された車軸を介して主車輪(16)を回転可能に支持している。すなわち、主車輪(16)は、フレームの車幅方向の外側に位置している。従って、飛行機の通路等の狭い場所を通行するときに主車輪又は車軸のでっぱりが障害物に当接して移動できなくなり、使用に際して不都合が生じるという問題があった。
【0003】
これに対して、特許文献2では、車椅子の全幅を狭めることを可能にする車椅子が開示されている。当該車椅子は、座席部材(11)とフレーム(1)とを凹凸係合によって着脱できる構造を有している。そして、横幅Wの座席部材(11)を支えるフレーム(1)を座席部材(11)の横幅W内に位置させて、このフレーム(1)に駆動輪(8)を接続することによって、当該車椅子は従来の車椅子よりも座席部材(11)側に寄せて駆動輪(8)を支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−034189号公報
【特許文献2】特開平8−3088804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら先行技術では、主車輪(後輪又は駆動輪)での幅が車椅子の全幅に相当しているので、車椅子自体の幅をさらに狭めるためには、座部の幅を一層小さくする必要があり、座乗車が座るのに必要十分な空間を確保できなくなるおそれがある。また、特許文献2の手段を特許文献1の介護用車椅子に組み合わせた場合でも、車軸が軸設されるフレームを車幅方向の内側に着脱可能に設ける必要がある。そうすると、座部の下の構造がより煩雑になり、リクライニング機能等のために設けられた構造に干渉するおそれがある。さらに、特許文献2の構造では、車輪を支持するフレームががたついたり、外れたりするおそれがあり、車椅子の走行時に生じる振動及び衝撃を十分に吸収することができず、車椅子の横幅を小さくすることによって座乗者の快適性を犠牲にしてしまうと考えられる。
【0006】
本発明は、上記欠点を解決するためになされたものであり、その目的は、座乗者の快適性及び構造の簡易さを担保しながらも、シート幅を保持しつつその全幅を狭くした介護用車椅子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のリクライニング式介護用車椅子は、背もたれが装着される背もたれフレーム120と、座部が装着される座部フレーム110と、前記背もたれフレーム120と前記座部フレーム110とを側方から支持する一対の外枠フレーム140と、前記外枠フレーム140によってそれぞれ支持された一対の前輪161及び主車輪162とを備えるリクライニング式介護用車椅子100であって、前記一対の外枠フレーム140の各々は、その後部側から下方に延びた下部フレーム143を有し、前記一対の下部フレーム143がその上端から下端にかけて互いに接近するように湾曲し、前記一対の下部フレーム143間の幅が狭まった部分143aで、前記各主車輪162が前記一対の下部フレーム143によってそれぞれ支持されて、前記一対の主車輪162での横幅W2が当該車椅子の全幅W1以下になるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載のリクライニング式介護用車椅子は、請求項1のリクライニング式介護用車椅子において、当該車椅子の全幅W1は、350mm〜410mmであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載のリクライニング式介護用車椅子は、請求項1又は2に記載のリクライニング式介護用車椅子において、前記一対の下部フレーム143は、さらに、後方に水平に延びるように直角に屈曲しており、その先端はティッピングバー145を兼ねていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載のリクライニング式介護用車椅子は、請求項1から3のいずれかに記載のリクライニング式介護用車椅子において、前記背もたれフレーム120の両側部にそれぞれ配置された一対のアームレスト124をさらに備え、前記一対のアームレスト124は、前記背もたれフレーム120の背面から略垂直に延在する支持プレート126によって、略水平方向に回動可能に支持されており、前記アームレスト124を前記背もたれフレーム120の背面側に回動させて収納可能であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載のリクライニング式介護用車椅子は、請求項1から4のいずれかに記載のリクライニング式介護用車椅子において、前記座部フレーム110の先端には、フットプレート131を有するフットレストフレーム130が設けられており、前記フットプレート131が前記フットレストフレーム130に対して回動可能に接続されていることによって、前記フットプレート131を前記フットレストフレーム130の背面側に回動させて収納形態に変形可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、主車輪が取り付けられる下部フレームが互いに接近するように車幅方向の内側に向かって湾曲し、主車輪での横幅が当該車椅子の全幅以下になるように構成されていることによって、座部の横幅を最大限に確保しつつ、全幅を狭くした車椅子を提供することができる。また、座乗者の体重を直に支える下部フレームが湾曲していることにより、座乗者が座ったときの衝撃を吸収し、且つ、移動時に路面からの衝撃を吸収することができるので、より快適な座り心地を座乗者に提供することができる。さらに、下部フレームが座部フレームの両側部から下方に延在していることにより、座部フレーム直下の構造が簡潔になって、リクライニング式介護用車椅子の全体構造の簡易化に貢献している。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、座乗者が着座した状態で、(例えば航空機のシート列間の通路などの)非常に狭い通路を通行することを可能にする。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の発明の効果に加え、下部フレームがティッピングバーを兼ねていることによって、本リクライニング式介護用車椅子は、簡易な構造のままでティッピングバーの機能を備えている。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から3のいずれかの発明の効果に加え、背もたれフレームの背面側に収容可能なアームレストを備えていることによって、狭い場所における車椅子の取り回しを制限することなく、座乗者の快適性を確保することができる。つまり、車椅子の移動時にはアームレストを収容することで狭い場所での機動性を確保することを可能とし、他方、車椅子の待機時には、アームレストを展開することで座乗者は車椅子上で快適に過ごすことができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1から4のいずれかの発明の効果に加え、フットプレートを収納可能であるので、車椅子を保管又は輸送等するときに、よりコンパクトな形態に変形させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態のリクライニング式介護用車椅子の側面図。
【図2】図1のリクライニング式介護用車椅子のリクライニング形態を示した側面図。
【図3】図1のリクライニング式介護用車椅子の背面図。
【図4】図1のリクライニング式介護用車椅子の部分拡大図であって、(a)は側面図、(b)は背面図。
【図5】図2のリクライニング形態のリクライニング式介護用車椅子の部分拡大図。
【図6】図1のリクライニング式介護用車椅子のアームレスト構造を示し、(a)はアームレスト使用時の側面図、(b)はアームレスト使用時の平面図、(c)はアームレスト収納時の平面図。
【図7】図1のリクライニング式介護用車椅子のフットレストを示す部分拡大斜視図であって、(a)は使用時の形態、(b)は収納時の形態。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0019】
図1に示すとおり、一実施形態のリクライニング式介護用車椅子100は、弾力性を有する背もたれクッション121が着設された背もたれフレーム120と、弾力性を有する座部クッション111が着設された座部フレーム110と、座部クッション111の一部が着設されたフットレストフレーム130と、を備えている。そして、外枠フレーム140が座部フレーム110及び背もたれフレーム120を両側部から挟み込んで支持しており、当該外枠フレーム140には前輪161及び主車輪162が軸着されている。
【0020】
背もたれからフットレストまで連なるように、座部クッション111及び背もたれクッション121は一体形成されている。座部フレーム110はその後端が沈み込むように水平方向から傾斜しているが、座部クッション111と座部フレーム110との間には、側面視略三角形のクッション材114が設けられており、車椅子100の直立時に座面が略水平になるように座部クッション111が支持されている。
【0021】
また、リクライニング式介護用車椅子100の背もたれフレーム120の背面からハンドル122が延び出ており、介護者はハンドル122を把持することにより車椅子100を操作(運転)することができる。介護者は、必要に応じて、ハンドル122に併設されている操作レバー123を操作することによって、背もたれをリクライニングさせて、図2に示したリクライニング状態に車椅子100を変形させることができる。さらに、リクライニング式介護用車椅子100の背もたれフレーム120の上端が前方に屈曲しており、その先端には把持部127が形成されている。介護者は、把持部127を把持されることで、リクライニング形態の車椅子100を操作することができる。
【0022】
そして、操作レバー123の下側において、一対のアームレスト124が背もたれフレーム120の両側部にそれぞれ設けられている。さらに、フットレストフレーム130の先端には、両足を乗せるための一対の平板状のフットプレート131が回動可能に設けられている。
【0023】
図3は、リクライニング式介護用車椅子100の背面図である。このリクライニング式介護用車椅子100は、(アームレスト124収納時の)全幅W1、主車輪162での横幅W2、アームレスト124を含む全幅W3、及び、全高Hを有する。ここで、これら幅の関係は、W3>W1>W2である。本実施形態では、W1=395mm、W2=385mm、W3=473mm、H=1420mmに設定されているが、本発明は上記寸法に限定されず、W1≧W2であれば各寸法を任意に設定することができる。
【0024】
特に、本実施形態のリクライニング式介護用車椅子100は、航空機で使用されることを目的として設計されている。一般に旅客機のエコノミークラスのシート列間の通路幅は500mm以下と非常に狭く、このような用途に使用する場合にはアームレスト124収納時の全幅W1を350mmから410mmとすることが好ましい。しかしながら、本発明の車椅子の使用用途は上記用途に限定されない。
【0025】
また、従来のリクライニング式車椅子は床面より座部上部までの高さが約560mm位であった。床面より座部上部までの高さが高すぎると、車椅子からベッド又は座席への移動、あるいは、ベッド又は座席から車椅子への移動に大変な体力を必要とすることから、あまりベッドよりも高すぎないように、床面から座部上部までの高さは400〜500mm位が望ましく、本実施形態のリクライニング式介護用車椅子100の高さは、床面より座部上部までの高さを460mmに設定している。
【0026】
図4(a)及び(b)は、リクライニング式介護用車椅子100の側面及び背面の部分拡大図である。説明の便宜上、主車輪162を破線で表している。
【0027】
リクライニング式介護用車椅子100の座部フレーム110後端と背もたれフレーム120下端とは軸153で回動可能に接続されている。また、背もたれフレーム120は、外枠フレーム140に対して回動可能に、軸154を介して、外枠フレーム140に支持されている。
【0028】
座部フレーム110には、長孔状のガイド孔113を有するガイドプレート112が設けられている。座部フレーム110は、当該ガイド孔113を介して、外枠フレーム140に設けられたガイドピン146によって、外枠フレーム140に両側部から支持されている。当該ガイドピン146はガイド孔113内を相対的に移動することができ、図4(a)に示す車椅子100の直立状態では、ガイドピン146はガイド孔113の前端に配置されている。後述するように、車椅子100がリクライニングすると、当該ガイドピン146はガイド孔113の後端に相対移動する。
【0029】
外枠フレーム140は、略水平方向に延びた上部フレーム141、当該上部フレーム141の前端側から下方に延びた第1下部フレーム142、上部フレーム141の後端側から下方に延びた第2下部フレーム143、及び、当該車椅子構造を強化するように第1下部フレーム142と第2下部フレーム143とを連結する第3下部フレーム144から構成されている。
【0030】
第1下部フレーム142の先端には前輪161が接続部142aを介して取り付けられており、当該接続部142aは第1下部フレーム142を軸心として回動可能である。すなわち、接続部142aを回動させて前輪161の向きを変化させ、車椅子100の進行方向を決定することができる。
【0031】
図4(a)及び(b)に示すとおり、一対の第2下部フレーム143は、その上端から下端にかけて、後方に向けて水平になるように略直角に屈曲していると共に、互いに接近するように車幅方向の内側に向けて湾曲している。この第2下部フレーム143が、水平に屈曲し、且つ、第2下部フレーム143間の幅が小さくなったところ(幅狭部143a)で、一対の主車輪162が第2下部フレーム143に車幅方向の外側からそれぞれ軸着されている。また、第2下部フレーム143の先端はティッピングバー145を兼ねており、介護者がティッピングバー145を踏むことによって、車椅子100の前方を地面から持ち上げることができ、車椅子100が階段等の段差を乗り越えることを可能にする。なお、本実施形態では、幅狭部143a及びティッピングバー145での両第2下部フレーム143間の距離は200mmであるが、本発明はこの寸法に限定されないことは言うまでもない。
【0032】
また、このリクライニング式介護用車椅子100には、背もたれフレーム120をリクライニングさせるための長筒状のリクライニング用伸縮部材151が、座部フレーム110の直下で前方から後方に亘って車幅の略中央位置に配置されている。このリクライニング用伸縮部材151は、長手方向に伸縮可能に構成されており、前端が固定端であり、後端が自由端である。図4(a)のように車椅子100が直立状態のときには、リクライニング用伸縮部材151は伸びた状態にある。なお、図示しないが、操作レバー123とリクライニング用伸縮部材151との間にはワイヤが接続されており、介護者が操作レバー123を引くと、リクライニング用伸縮部材151のロックが解除されて、リクライニング用伸縮部材151が伸長して、背もたれフレーム120がリクライニング用伸縮部材151によって直立方向に付勢される。ロック解除状態で介護者又は座乗者が背もたれフレーム120を後方に押圧することによって、リクライニング用伸縮部材151が縮退しつつ、背もたれフレーム120が後方に倒される。そして、介護者が任意の位置で操作レバー123を離すと、リクライニング用伸縮部材151にロックが掛かり、背もたれフレーム120を任意の位置(又は角度)で固定することができる。
【0033】
さらに、リクライニング式介護用車椅子100は、背もたれフレーム120を倒すと、背もたれフレーム120のリクライニング動作に連動して座部フレーム110を押し上げるティルト機構を有している。このティルト機構を機能させるように、ティルト機構フレーム152がリクライニング用伸縮部材151の後端に接続されている。ティルト機構フレーム152は、(軸153と軸154との間の位置で)背もたれフレーム120とリクライニング用伸縮部材151とを連結するものであり、図5で後述するように、当該リクライニング用伸縮部材151の後端が縮退することによって、座面を持ち上げつつ車椅子100の背もたれをリクライニングさせる。
【0034】
図4(a)に示すとおり、フットレストフレーム130には、伸縮可能なフットレスト用伸縮部材156が接続されている。下部フレーム144上に配設されたフットレスト用レバー155を操作することによって、フットレスト用伸縮部材156を伸縮させて、座部フレーム110とフットレストフレーム130との間の角度を調整することができる。本実施形態では、フットレストフレーム130の先端が上方に向いて傾斜するように、フットレストフレーム130を当初位置から最大約110°回動させることができる。なお、図示しないが、フットレスト用レバー155とフットレスト用伸縮部材156との間にはワイヤが接続されており、フットレスト用レバー155を引くと、フットレスト用伸縮部材156のロックが解除されて、フットレスト用伸縮部材156が伸長してフットレストフレーム130を押し上げる。フットレスト用レバー155を離すと、フットレスト用伸縮部材156にロックが掛かり、フットレストを任意の位置で固定することができる。
【0035】
さらに、図4(b)に示すとおり、リクライニング式介護用車椅子100には、両主車輪162間にブレーキペダル163が架設されており、介護者がブレーキペダル163を踏むことによって、主車輪162の回転を止めて、ブレーキをかけることができる。
【0036】
なお、リクライニング式介護用車椅子100の各フレームはアルミニウムパイプからなり、これらを溶接することによって、車椅子100のフレーム構造が構築される。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば、ステンレススチール、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等を採用することができるとともに、成形加工等でフレーム構造を構築することも可能である。すなわち、本発明の車椅子では材質及び製法を任意に選択可能である。
【0037】
次に、リクライニング式介護用車椅子100のリクライニング形態を示す図5を参照して、当該リクライニング式介護用車椅子100のリクライニング機構について説明する。
【0038】
図1又は4に示したリクライニング式介護用車椅子100の直立形態から、操作レバー123を操作すると、リクライニング用伸縮部材151が伸長状態から縮退状態に変化して背もたれフレーム120が後方にリクライニングし、車椅子100が図2又は5のリクライニング形態に変形する。
【0039】
図5は、リクライニングした状態の車椅子100の部分拡大図である。リクライニング用伸縮部材151が伸長状態か縮退状態に変化し、背もたれフレーム120下端が前方に引かれることによって、背もたれフレーム120が軸154を軸心として、リクライニング方向に回動する。そして、ティルト機構フレーム152が背もたれフレーム120の下端付近を押し上げることによって、背もたれフレーム120が座部フレーム110に対して軸153を軸心として回動し、座部フレーム110と背もたれフレーム120とがほぼ一直線になっている。同時に、ガイドピン146がガイド孔113内の後方に相対的に移動することによって、座部フレーム110は外枠フレーム140に対して前方及び上方にスライド移動している。
【0040】
すなわち、このリクライニング形態では、背もたれフレーム120(又はリクライニング用伸縮部材151)の動きに連動したティルト機構フレーム152の動きによって座部フレーム110が当初位置から押し上げられて、座面の後ろ側が隆起するように座面上にティルト角度が形成されている。
【0041】
図6(a)〜(c)に示すとおり、本実施形態のリクライニング式介護用車椅子100には、アームレスト構造が収納可能に設けられている。図6(a)に示すとおり、アームレスト構造は、アームレスト124、当該アームレスト124が接続されたシャフト125、及び、背もたれフレーム120の背面から垂直に延び出た、シャフト125を支持する支持プレート126からなる。支持プレート126には、調整溝126a及び4つの調整孔126bが設けられており、シャフト125を調整溝126aに沿って回動させ、調整孔126bでシャフト125を固定することによって、アームレスト124の角度を上下方向に4段階で調整することができる。なお、本実施形態では、最大36°の範囲内で調整可能である。
【0042】
図6(b)は、アームレスト124使用時のリクライニング式介護用車椅子100の平面(上面)図である。アームレスト124は、車椅子100の車幅方向の外側に湾曲し、背もたれフレーム120の背面から前面へと延び出ている。このアームレスト124を支持するシャフト125は当該シャフト自体を軸心として回動する機能を有し、この回動機能に基づいて、アームレスト124は背もたれフレーム120の前面から背面(又は背面から前面)に向けて(車椅子100の直立形態における)略水平方向に回動可能である。
【0043】
図6(c)は、当該一対のアームレスト124を背もたれフレーム120の背面に向けて回動させて収納した状態のリクライニング式介護用車椅子100を示している。アームレスト124がそれぞれ交差して、背もたれフレーム120の背面にて収納されている。このとき、アームレスト124使用時の幅W3に対して、アームレスト124収納時の車椅子100の全幅W1は小さい。
【0044】
図7(a)及び(b)に示すとおり、本実施形態のリクライニング式介護用車椅子100のフットレストフレーム130には、足を置くための平板状のフットプレート131が収納可能に設けられている。フットプレート131は、第1支持シャフト132によって支持され、第1支持シャフト132を軸心として回動可能である。そして、第1支持シャフト132は、フットレストフレーム130の先端から延びる第2支持シャフト133に連結されている。この第2支持シャフト133は、それ自体を軸心として回動可能であるように、フットレストフレーム130に接続されている。つまり、フットプレート131は2つの回動軸を有しており、図7(a)の使用時の形態から、フットプレート131が(第1支持シャフト132を軸心として)地面に対して垂直になるように回動し、そして、(第2支持シャフト133を軸心として)フットレストフレーム130の背面に向かって回動することによって、リクライニング式介護用車椅子100はフットプレート131収納時の形態(図7(b))に変形する。収納時の形態では、フットプレート131は、フットレストフレーム130の後方で地面に対して略垂直になるように配置されている。なお、使用形態及び収納形態を維持するために、各支持シャフトにはストッパーが設けられており、回動動作が所定位置(使用位置及び収納位置)で止まるように構成されている。
【0045】
以下、本発明の一実施形態のリクライニング式介護用車椅子100の作用効果について説明する。
【0046】
本実施形態では、主車輪162が取り付けられる第2下部フレーム143が湾曲し、主車輪162での横幅が当該車椅子の全幅以下になるように構成されていることによって、着座可能なシート幅を最大限に確保しつつ、その全幅を狭くしたリクライニング式介護用車椅子100を提供する。このようにした、車椅子100の全幅を狭くしたことにより、特に狭い場所で使用する場合に主車輪162や車軸のでっぱりが障害物に当接する可能性を減少させる。また、使用者の主に体重を支える第2下部フレーム143が湾曲していることにより、使用者が座ったときの衝撃を吸収することや、移動時に路面からの衝撃を吸収することができるので、より快適な座り心地を座乗者に提供することができる。そして、第2下部フレーム143の湾曲に合わせて、主車輪162の大きさを前輪161よりも大きくしているので、路面に凹凸があるときにおける走行性を損なうことを抑えている。さらに、第2下部フレーム143は外枠フレーム140から(すなわち座部フレーム110の両側部から)下方に延在していることにより、座部フレーム110直下の構造を簡潔にすることができ、リクライニング式介護用車椅子100の全体構造の簡易化に貢献している。すなわち、座部フレーム110下の空間に種々の機能を構成することができ、本実施形態のようなティルト機構やフットレスト回動機能を備えた全幅が小さい多機能車椅子を構成することを容易にしている。
【0047】
また、本実施形態のリクライニング式介護用車椅子100では、全幅W1は405mmに設定されているので、航空機などの特殊な使用環境で使用することができる。すなわち、一般に飛行機のエコノミークラスのシート列間の通路幅は50cm以下に設定されていることが多いため、先行技術の車椅子では、通路を通行することが困難であるのに対して、本実施形態のリクライニング式介護用車椅子100は、必要なシート幅を確保しつつ、全幅を小さくすることができるので、このような狭い通路でも快適に使用可能である。
【0048】
そして、第2下部フレーム143にティッピングバー145が一体的に形成されていることによって、介護者は当該ティッピングバー145を踏み、ハンドル122を後方に引くことで、車椅子の前方を持ち上げて階段等の段差を乗り越えることができる。さらに、リクライニング動作の際、後方に体重がかかるため、車椅子が後方に倒れることがある。この場合にティッピングバー145が地面に当接して、車椅子が後方に転倒することを防止することができる。すなわち、本リクライニング式介護用車椅子は、介護者及び介護者双方の使用感及び安全性を向上させるものである。
【0049】
さらに、本実施形態のリクライニング式介護用車椅子100では、アームレスト124使用時において、当該アームレスト124が湾曲していることによって、当該アームレスト124を支持するシャフト125及び支持プレート126を背もたれフレーム120の側部から車幅方向に突出しないように構成することができる。すなわち、アームレスト124が背もたれフレーム120の背後に保持されている収納形態において、当該アームレスト構造によって車椅子の全幅が大きくなることはない。従って、狭い場所を通行するときには、アームレスト124を収納することによって、車椅子100の取り回しを容易にする。他方、車椅子100の待機時には、アームレスト124を展開することによって、座乗者は車椅子100上で快適性に過ごすことができる。
【0050】
また、フットプレート131が2つの回動軸(第1支持シャフト132及び第2支持シャフト133)を軸心として回動可能に、フットレストフレーム130に設けられていることによって、車椅子100を使用しないときに図7(b)に示した収納時の形態に変形することができる。この収納時の形態では、前後長をフットプレート131分だけ短縮することができるとともに、平板状のフットプレート131が地面に対して垂直になるように保持されているので、車幅が広がることがない。したがって、車椅子を保管又は輸送等するときに、よりコンパクトな形態に変形させることができる。
【0051】
そして、このリクライニング式介護用車椅子100はティルト機構を有していることによって、リクライニング用伸縮部材151が下から座部フレーム110を押し上げて座面にティルト角度を持たせることができる。一般に臀部の褥瘡を防ぐために臀部を座面から浮かすなどして一定時間ごとに臀部の除圧を行う必要があるが、本実施形態では、背もたれを後方に倒すことにより、当該ティルト機構が連動し、臀部を効果的に浮かすことができる。すなわち、リクライニング式介護用車椅子100にティルト機構を設けたことにより、長時間座乗していても疲れず、座面の体重分布を変えられることによって褥創予防に有用である。また、フットレスト130を座部フレーム110に対して上方に傾くように位置調整することができることによって、座乗者は、車椅子100に座乗した状態で、必要に応じて膝を曲げ伸ばしすることができる。したがって、本リクライニング式介護用車椅子100は、座乗者が当該車椅子100に長時間座乗する必要がある場合であっても、座乗者に快適性を提供することができる。
【0052】
さらに、ティルト機構を有するリクライニング式介護用車椅子100にフットレストから背もたれまでが繋がった状態のクッションを装着することによって、リクライニング状態にしても座部と背もたれが離れることもなく、座乗者は安定した状態で着座することができる。
【0053】
なお、本発明は上述の一実施形態に限定されない。例えば、本発明のリクライニング式介護用車椅子は、フットレスト、アームレスト、ティルト機構などを必ずしも備えている必要はなく、これらを備えていない必要最小限の構成でも本発明の主たる目的を達成することができる。したがって、本発明は上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0054】
100 リクライニング式介護用車椅子
110 座部フレーム
111 座部クッション
112 ガイドプレート
113 ガイド孔
114 クッション部材
120 背もたれフレーム
121 背もたれクッション
122 ハンドル
123 操作レバー
124 アームレスト
125 シャフト
126 支持プレート
130 フットレストフレーム
131 フットプレート
132 第1支持シャフト
133 第2支持シャフト
140 外枠フレーム
141 上部フレーム
142 第1下部フレーム
143 第2下部フレーム(下部フレーム)
143a 幅狭部
144 第3下部フレーム
145 ティッピングバー
146 ガイドピン
151 リクライニング用伸縮部材
152 ティルト機構フレーム
153 軸
154 軸
155 フットレスト用レバー
156 フットレスト用伸縮部材
161 前輪
162 主車輪
163 ブレーキペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背もたれが装着される背もたれフレーム(120)と、座部が装着される座部フレーム(110)と、前記背もたれフレーム(120)と前記座部フレーム(110)とを側方から支持する一対の外枠フレーム(140)と、前記外枠フレーム(140)によってそれぞれ支持された一対の前輪(161)及び主車輪(162)とを備えるリクライニング式介護用車椅子(100)であって、
前記一対の外枠フレーム(140)の各々は、その後部側から下方に延びた下部フレーム(143)を有し、前記一対の下部フレーム(143)がその上端から下端にかけて互いに接近するように湾曲し、前記一対の下部フレーム(143)間の幅が狭まった部分(143a)で、前記各主車輪(162)が前記一対の下部フレーム(143)によってそれぞれ支持されて、
前記一対の主車輪(162)での横幅(W2)が当該車椅子の全幅(W1)以下になるように構成されていることを特徴とするリクライニング式介護用車椅子。
【請求項2】
当該車椅子の全幅(W1)は、350mm〜410mmであることを特徴とする請求項1に記載のリクライニング式介護用車椅子。
【請求項3】
前記一対の下部フレーム(143)は、さらに、後方に水平に延びるように直角に屈曲しており、その先端はティッピングバー(145)を兼ねていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリクライニング式介護用車椅子。
【請求項4】
前記背もたれフレーム(120)の両側部にそれぞれ配置された一対のアームレスト(124)をさらに備え、
前記一対のアームレスト(124)は、前記背もたれフレーム(120)の背面から略垂直に延在する支持プレート(126)によって、略水平方向に回動可能に支持されており、
前記アームレスト(124)を前記背もたれフレーム(120)の背面側に回動させて収納可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリクライニング式介護用車椅子。
【請求項5】
前記座部フレーム(110)の先端には、フットプレート(131)を有するフットレストフレーム(130)が設けられており、
前記フットプレート(131)が前記フットレストフレーム(130)に対して回動可能に接続されていることによって、前記フットプレート(131)を前記フットレストフレーム(130)の背面側に回動させて収納形態に変形可能であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のリクライニング式介護用車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−192032(P2012−192032A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58070(P2011−58070)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000146113)株式会社松永製作所 (59)