説明

リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置

【課題】リグノセルロース系バイオマスを糖化する際の前処理に用いるアンモニア水を容易に回収して再利用できるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置を提供する。
【解決手段】リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置は、リグノセルロース系バイオマスとアンモニアとを混合する混合手段2と、バイオマス−アンモニア混合物を加熱する加熱手段3と、バイオマス−アンモニア混合物からアンモニアガスを分離してバイオマス−水混合物を得る分離手段4と、バイオマス−水混合物を後工程5に移送する移送手段6とを備える。混合手段2にアンモニア水を供給するアンモニア水供給手段8と、アンモニアガスをアンモニア水として回収するアンモニア回収手段20と、アンモニアガスを水に溶解させるときに生成する溶解熱を回収する溶解熱回収手段24と、少なくとも該溶解熱を熱源として加熱手段3に供給される熱を生成するヒートポンプ手段30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを糖化してバイオエタノール製造の原料とする際に用いられる糖化前処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の一因と考えられている二酸化炭素排出量の削減が求められており、ガソリン等の液体炭化水素とエタノールとの混合燃料を自動車燃料に用いることが検討されている。前記エタノールとしては、植物性物質、例えばサトウキビ、トウモロコシ等の農作物の発酵により得られたバイオエタノール用いることができる。前記植物性物質は、原料となる植物自体が既に光合成により二酸化炭素を吸収しているので、かかる植物性物質から得られたエタノールを燃焼させたとしても、排出される二酸化炭素の量は前記植物自体が吸収した二酸化炭素の量に等しい。即ち、総計としての二酸化炭素の排出量は理論的にはゼロになるという所謂カーボンニュートラル効果を得ることができる。従って、前記ガソリン等の液体炭化水素に代えて前記バイオエタノールを用いた分だけ、二酸化炭素排出量を削減することができる。
【0003】
ところが、前記サトウキビ、トウモロコシ等は、本来食糧とされるものであるので、バイオエタノールの原料として大量に消費されると、食糧として供給される量が減少するという問題がある。
【0004】
そこで、前記植物性物質として、サトウキビ、トウモロコシ等に代えて、食用ではないリグノセルロース系バイオマスを用いてエタノールを製造する技術が検討されている。前記リグノセルロース系バイオマスはセルロースを含んでおり、該セルロースを酵素糖化によりグルコースに分解し、得られたグルコースを発酵させることによりバイオエタノールを得ることができる。前記リグノセルロース系バイオマスとしては、例えば、木材、イナワラ、ムギワラ、バガス、竹、パルプ及びこれらから生じる廃棄物、例えば古紙等を挙げることができる。
【0005】
ところが、前記リグノセルロースは、セルロースの他にヘミセルロース及びリグニンを主な構成成分としており、通常該セルロース及び該ヘミセルロースは、該リグニンに強固に結合しているため、そのままでは該セルロースに対する酵素糖化反応を行うことが難しい。従って、前記セルロースを酵素糖化反応させるに際しては、予め前記リグニンを取り除いておくことが望ましい。
【0006】
前記リグノセルロースから予め前記リグニンを取り除くために、前記リグノセルロース系バイオマスを液体アンモニアと混合した後、急激に圧力を低下させることにより、該リグノセルロース系バイオマスからリグニンを除去する糖化前処理装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
前記従来の糖化前処理装置では、まず、混合手段により前記リグノセルロース系バイオマスを液体アンモニアと混合し、得られたバイオマス−アンモニア混合物を加熱手段により加熱する。次に、加熱されたバイオマス−アンモニア混合物を、加圧手段によりアンモニアが気化しないように加圧圧縮し、排出手段により排出する。
【0008】
このようにすると、前記排出に伴って前記バイオマス−アンモニア混合物が急激に減圧され、液体アンモニアが気化すると共に爆発的に膨張する。この結果、前記バイオマスも急激に膨張させられ、該バイオマスのセルロース及びヘミセルロースに結合しているリグニンが除去される。
【0009】
しかしながら、前記従来の糖化前処理装置は、前記バイオマス−アンモニア混合物を高温かつ高圧で処理する必要があるため連続処理が難しいという不都合がある。また、前記従来の糖化前処理装置では、前記バイオマス−アンモニア混合物から分離したアンモニアガスを回収し、液体アンモニアとして再利用するために、約2MPaに加圧しなければならず、コストの増大が避けられないという不都合がある。
【0010】
前記不都合を解決するために、液体アンモニアに代えてアンモニア水を用いることが考えられる。前記アンモニア水を用いる場合、前記リグノセルロース系バイオマスは、該アンモニア水と混合されて、バイオマス−アンモニア混合物となる。そして、前記バイオマス−アンモニア混合物を加熱して煮沸すると、前記バイオマスは、煮沸による前記アンモニア水の膨潤効果により膨張されると共に、該アンモニア水によりアルカリ処理されてリグニンが除去される。
【0011】
従って、前記アンモニア水を用いる場合には、加圧圧縮することなく煮沸処理することによりリグニンを除去することができるので前記バイオマスを容易に連続処理することができ、該バイオマスのセルロースをリグニンにより阻害されることなく前記酵素糖化反応に供することができる。
【0012】
また、前記アンモニア水を用いる場合には、煮沸された前記バイオマス−アンモニア混合物から気化するアンモニアガスを、水に溶解してアンモニア水として回収し、再利用することができる。
【0013】
しかしながら、前記アンモニアガスを水に溶解するときには溶解熱が発生し、該溶解熱によりアンモニア水の温度が上昇すると、アンモニアの溶解度が低下するとの問題があり、改良が望まれる。
【特許文献1】特開2005−232453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑み、リグノセルロース系バイオマスを糖化する際の前処理にアンモニア水を用いるときに、該アンモニア水を容易に回収して再利用することができるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するために、本発明は、リグノセルロース系バイオマスとアンモニアとを混合する混合手段と、該混合手段により得られたバイオマス−アンモニア混合物を加熱する加熱手段と、該加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物からアンモニアガスを分離してバイオマス−水混合物を得る分離手段と、該分離手段で分離されたバイオマス−水混合物を後工程に移送する移送手段とを備えるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置において、該混合手段にアンモニア水を供給するアンモニア水供給手段と、該分離手段で分離されたアンモニアガスを水に溶解させてアンモニア水として回収するアンモニア回収手段と、該アンモニア回収手段でアンモニアガスを水に溶解させるときに生成する溶解熱を回収する溶解熱回収手段と、少なくとも該溶解熱回収手段で回収された該溶解熱を熱源として該加熱手段に供給される熱を生成するヒートポンプ手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、前記リグノセルロース系バイオマスは、まず、前記アンモニア水供給手段により供給されるアンモニア水と、前記混合手段において混合されて、バイオマス−アンモニア混合物となる。次に、前記バイオマス−アンモニア混合物は、前記加熱手段により加熱され、煮沸される。このとき、前記バイオマスは、前記アンモニア水により膨潤されると共に、アルカリ処理されてリグニンが除去される。
【0017】
次に、前記バイオマス−アンモニア混合物は、前記分離手段に供給されることにより、該バイオマス−アンモニア混合物の煮沸により気化したアンモニアガスが分離されて、バイオマス−水混合物となる。そして、前記バイオマス−水混合物は、前記移送手段により、後工程に移送される。
【0018】
一方、前記分離手段で分離されたアンモニアガスは、前記アンモニア回収手段で水に溶解されることによりアンモニア水として回収されるが、該アンモニアガスは水に溶解される際に溶解熱を発生する。このため、前記アンモニア水の温度が上昇して、アンモニアの溶解度が低下し、前記アンモニアガスの回収が困難になることが懸念される。
【0019】
そこで、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、溶解熱回収手段を設け、前記溶解熱を回収する。前記溶解熱は、前記ヒートポンプの熱源として用いられ、該ヒートポンプにより生成された熱は、前記加熱手段に供給される。
【0020】
従って、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、前記バイオマスをアンモニア水で煮沸処理することにより加圧圧縮を必要とすることなく、前記バイオマスを容易に連続処理して、リグニンを除去することができる。
【0021】
また、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、前記バイオマス−アンモニア混合物の煮沸処理の結果として気化するアンモニアガスを水に溶解し、アンモニア水とするので、アンモニアガスを高圧圧縮して液化する装置等が不要となる。
【0022】
さらに、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、前記溶解熱回収手段により前記アンモニアガスが水に溶解する際の溶解熱を回収するので、前記アンモニア水の温度の上昇を防止して該アンモニウムアガスを容易に回収することができると共に、該溶解熱を熱源として前記ヒートポンプにより生成される熱を前記加熱手段に供給することにより、エネルギー効率を高くすることができる。
【0023】
前記移送手段により後工程に移送される前記バイオマス−水混合物にアンモニアが残存していると、アンモニアはアルカリ性であるので、後工程におけるセルロースの酵素糖化が阻害される虞がある。そこで、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置は、前記加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物を再加熱する再加熱手段と、該加熱手段と前記分離手段との間で、該再加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物からアンモニアガスを気化させる気化手段とを備えることが好ましい。前記再加熱手段により、前記バイオマス−アンモニア混合物を再加熱し、前記気化手段において該バイオマス−アンモニア混合物からアンモニアガスを気化させておくことにより、前記分離手段において、確実にアンモニアガスを分離することができ、前記バイオマス−水混合物にアンモニアが残存することを阻止することができる。
【0024】
また、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置は、さらに前記分離手段で分離されたアンモニアガスから熱を回収する第1の熱回収手段と、該分離手段で分離されたバイオマス−水混合物から熱を回収する第2の熱回収手段とを備え、前記ヒートポンプ手段は、前記溶解熱回収手段により回収された溶解熱と、該第1及び第2の熱回収手段により回収された熱とを熱源として、前記加熱手段及び前記再加熱手段に供給される熱を生成することが好ましい。
【0025】
このようにすることにより、前記アンモニアガス及び前記バイオマス−水混合物の余熱を回収することができ、装置のエネルギー効率をさらに高くすることができる。また、前記第1の熱回収手段によれば前記アンモニアガスから余熱を回収することにより、該アンモニアガスの水への溶解を容易にすることができ、前記第2の熱回収手段によれば前記バイオマス−水混合物から余熱を回収することにより、該バイオマス−水混合物の温度を前記酵素糖化処理に適した温度とすることができる。
【0026】
また、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置は、さらに大気中の熱を回収する第3の熱回収手段を備え、前記ヒートポンプ手段は、前記溶解熱回収手段により回収された溶解熱と、該第3の熱回収手段により回収された熱とを熱源として、前記加熱手段に供給される熱を生成する第1のヒートポンプと、該第1のヒートポンプにより生成された熱を熱源として、前記再加熱手段に供給される熱を生成する第2のヒートポンプとを備えることが好ましい。
【0027】
このようにすることにより、前記加熱手段に対する熱の供給と、前記再加熱手段に対する熱の供給とをそれぞれ独立に行うことができ、それぞれに適切な熱量を供給することができる。
【0028】
また、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置は、前記加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物を貯留する貯留手段を備えることが好ましい。前記貯留手段によれば、前記加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物に対してアンモニアを十分に膨潤させることができ、アルカリ処理によりリグニンを確実に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置のシステム構成図であり、図2は図1に示すヒートポンプのラインの一例を概略的に示す説明図、図3は図1に示すヒートポンプのラインの変形例を概略的に示す説明図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態ののリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置1は、リグノセルロース系バイオマス(以下、バイオマスと略記することがある)とアンモニアとを混合してバイオマスとアンモニアとの混合されたスラリーを得るミキサー2と、ミキサー2で得られた前記スラリーを加熱する第1多管式熱交換器3と、第1多管式熱交換器3で加熱された前記スラリーからアンモニアガスを分離してバイオマス−水混合物を得る分離塔4と、分離塔4で分離されたバイオマス−水混合物を導出して後工程5に移送する移送導管6とを備えている。
【0031】
ミキサー2は、上部に、前記バイオマスが投入される投入口7を備えると共に、該バイオマスに混合されるアンモニア水を供給するアンモニア水供給導管8が接続されている。アンモニア水供給導管8は、上流側端部がアンモニアタンク9に接続されており、途中にポンプ10を備えている。
【0032】
ミキサー2の下部には、前記スラリーを導出するスラリー導管11が取り付けられており、スラリー導管11は第1多管式熱交換器3を介して分離塔4に接続されている。スラリー導管11は、第1多管式熱交換器3の上流側に、該スラリーを第1多管式熱交換器3に送入するスラリーポンプ12を備えると共に、第1多管式熱交換器3の下流側に、該スラリーを貯留するホールドタンク13を備えている。また、スラリー導管11は、第1多管式熱交換器3の出口で前記スラリーの温度を検出する第1温度センサ14と、ホールドタンク13の下流側に接続されている蒸気導管15と、分離塔4の入口で該スラリーの温度を検出する第2温度センサ16とを備えている。蒸気導管15は、開閉バルブ15aを介してスラリー導管11に接続されている。
【0033】
分離塔4は、上部にスラリー導管11が接続されていると共に、底部に移送導管6が取り付けられている。また、頂部には、分離塔4内の圧力を検出する圧力センサ17と、分離されたアンモニアガスを導出するアンモニアガス導管18とが取り付けられている。アンモニアガス導管18は、第1熱交換器19を介して吸収塔20に接続されている。
【0034】
吸収塔20は、アンモニアガス導管18の接続部の上方にシャワリング装置21を備え、アンモニアガス導管18により導入されたアンモニアガスを、シャワリング装置20によりシャワリングされた水に吸収させてアンモニア水とし、該アンモニア水を底部に貯留するようになっている。吸収塔20は、頂部に空気抜き導管22を備えると共に、底部に前記アンモニア水を導出するアンモニア水導出導管23が取り付けられている。アンモニア水導出導管23は、第2熱交換器24を介して、その下流側端部がアンモニアタンク9に接続されている。
【0035】
アンモニアタンク9は、貯留されるアンモニア水の濃度を検出するアンモニア濃度センサ25と、アンモニア濃度センサ25により検知されるアンモニア水の濃度に応じて、アンモニアタンク9に濃アンモニア水を供給する濃アンモニア水供給装置26とを備えている。
【0036】
移送導管6は、第2多管式熱交換器27を介して後工程5に接続されている。移送導管6は、第2多管式熱交換器27の上流側に、前記バイオマス−水混合物を第2多管式熱交換器27に送入するスラリーポンプ28を備えている。
【0037】
アンモニアガス導管18の途中に設けられた第1熱交換器19は、第1熱媒体導管29a、第2熱媒体導管29bにより、ヒートポンプ30に接続されている。第1熱媒体導管29aは、ヒートポンプ30の二次側と第1熱交換器19の一次側とを接続し、第2熱媒体導管29bは、第1熱交換器19の二次側とヒートポンプ30の一次側とを接続している。尚、第1熱媒体導管29a、第2熱媒体導管29bには同一の熱媒体、例えば水、エチレングリコール等が流通される。
【0038】
また、第1熱媒体導管29aは、熱媒体ポンプ31を備えると共に、熱媒体ポンプ31の下流側から、第2多管式熱交換器27の一次側に接続される第3熱媒体導管29cを分岐し、第3熱媒体導管29cの分岐点の下流側に、流量調整弁32を備えている。第2多管式熱交換器27の二次側には、第4熱媒体導管29dが取り付けられており、第4熱媒体導管29dは第2熱媒体導管29bの途中に合流している。
【0039】
ヒートポンプ30は、例えば二酸化炭素等の熱媒体が循環する循環導管33を備え、循環導管33の途中に、膨張弁34、第2熱交換器24、第3熱交換器35、圧縮機36、第4熱交換器37、第5熱交換器38を備えている。そして、アンモニアガス導管17の途中に設けられた第1熱交換器19は、第1熱媒体導管29a、第2熱媒体導管29bにより第3熱交換器35と接続されている。
【0040】
一方、第1多管式熱交換器3は、第1水導管39a、第2水導管39bにより、ヒートポンプ30の第5熱交換器38と接続されている。第1水導管39aは、第5熱交換器38の二次側と第1多管式熱交換器3の一次側とを接続し、第2水導管39bは、第1多管式熱交換器3の二次側と第5熱交換器38の一次側とを接続している。
【0041】
第1水導管39aは、第3水導管39cを分岐しており、第3水導管49cは第4熱交換器37の一次側に接続されている。第4熱交換器37の二次側には蒸気導管15が接続されている。
【0042】
第1水導管39a、第2水導管39bにより第1多管式熱交換器3に循環される水は、第3水導管39cに分流される量だけ減少するので、第2水導管39bの途中には、第3水導管39cに分流される水を補給する水タンク40が設けられている。水タンク40は、外部から所要の水を補給する補給水導管41を備え、第2水導管39bは水タンク40の下流側にポンプ42を備えている。
【0043】
尚、ヒートポンプ30のラインの概略を図2に示す。
【0044】
次に、図1及び図2を参照して、本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置1の作動について説明する。
【0045】
本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置1では、まず、投入口7からミキサー2に前記バイオマスが投入される。前記バイオマスは、例えば、含水率約10%の自然乾燥イナワラであり、図示しないカッターミルにより約3mmの長さに粉砕された後、さらに図示しない乾式のブレードミルにより累積50%粒子径140μmの粉末とされている。前記バイオマスは、例えば、図示しないスクリュー型フィーダーにより、投入口7に供給される。
【0046】
次に、アンモニアタンク9内のアンモニア水が、ポンプ10により、アンモニア水供給導管8を介してミキサー2内に供給される。このとき、ミキサー2内に供給されるアンモニア水の濃度は、例えば、28.6重量%とされている。前記バイオマスと前記アンモニア水は、例えば1:4の重量比となるように、例えば該バイオマスが12kg/時、該アンモニア水が48kg/時の流量でミキサー2に供給される。
【0047】
次に、ミキサー2に供給された前記バイオマスは、ミキサー2により前記アンモニア水と混合され、スラリーが形成される。ミキサー2内で形成された前記スラリーは、スラリーポンプ12により例えば60kg/時の流量でスラリー導管11を介して第1多管式熱交換器3に送入される。第1多管式熱交換器3は、第1水導管39aを介して供給される約85℃の温度の熱水により、前記スラリーを加熱する。前記熱水は、ヒートポンプ30の第5熱交換器38で前記温度に加熱されている。このとき、第1多管式熱交換器3の出口において、第1温度センサ14により検出される前記スラリーの温度は、約65℃である。
【0048】
次に、第1多管式熱交換器3により加熱された前記スラリーは、ホールドタンク13に所定時間貯留される。前記貯留の間に、前記バイオマスが前記アンモニア水により膨潤されると共にアルカリ処理され、該バイオマスにおいてセルロース及びヘミセルロースと結合しているリグニンが除去される。
【0049】
次に、前記スラリーは、スラリー導管11を介して分離塔4に供給される。このとき、前記スラリーは、蒸気導管15から開閉バルブ15aを介して供給される約135℃に加熱された水蒸気により、スラリー導管11の末端部で第2温度センサ16により検出される温度が約100℃となるように、再加熱される。前記水蒸気は、ヒートポンプ30の第4熱交換器37で前記温度に加熱されている。
【0050】
この結果、前記スラリーは、開閉バルブ15aと分離塔4との間のスラリー導管11内で該スラリー中のアンモニアが気化せしめられる。そして、前記スラリーが分離塔5に供給されると、気化したアンモニアガスが該スラリーから分離する。
【0051】
前記アンモニアガスは、アンモニアガス導管18を介し、第1熱交換器19を経由して吸収塔20に供給される。吸収塔20に供給されたアンモニアガスは、シャワリング装置21からシャワリングされる水に吸収され、アンモニア水として吸収塔20の底部に貯留される。シャワリング装置21による水のシャワリングは、例えば、35.2kg/時の水量で行われる。このとき、前記アンモニアガスは、第1熱交換器19により余剰の熱が回収されているので、シャワリング装置21からシャワリングされる水に吸収されやすくなっている。しかし、前記アンモニアガスが水に溶解するときには溶解熱が発生するので、該溶解熱により前記アンモニア水の温度が上昇すると、該アンモニアが前記水に十分に溶解しなくなることが懸念される。
【0052】
そこで、本実施形態では、吸収塔20の底部に貯留されているアンモニア水がアンモニア水導出導管22を介してアンモニアタンク9に還流される際に、アンモニア水導出導管22に設けられた第2熱交換器24により前記溶解熱を回収するようにされている。この結果、吸収塔20では、十分な量の前記アンモニアガスがシャワリング装置21からシャワリングされる水に吸収され、アンモニア水として回収される。
【0053】
また、アンモニアタンク9では、アンモニア濃度センサ24により貯留されているアンモニア水中のアンモニア濃度が検知され、該検知されたアンモニア濃度に応じて、濃アンモニア水供給装置24により濃アンモニア水が供給される。この結果、アンモニアタンク9内のアンモニア水は、例えば、26.8重量%のアンモニア濃度に調整され、アンモニア水供給導管8を介してミキサー2に供給される。
【0054】
ここで、第1熱交換器19、第2熱交換器24により回収された熱は、後述のヒートポンプ30の熱源に用いられる。
一方、分離塔4でアンモニアガスが分離した前記スラリーは、バイオマス−水混合液となって、スラリーポンプ26により、移送導管6を介して、後工程5に移送される。このとき、前記スラリー中のアンモニアは、該スラリーが前記水蒸気により加熱されることによりスラリー導管11内で気化しているので、分離塔4でアンモニアガスとなることにより該スラリーからほとんど完全に分離している。この結果、前記バイオマス−水混合液は実質的にアンモニアを含まないものとなっている。
【0055】
後工程5は、例えば、前記バイオマス−水混合物に、所定量の水と糖化酵素とを投入することにより、該バイオマスに含まれるセルロースを酵素糖化処理する工程である。前記バイオマス−水混合物は、移送導管6に設けられた第2多管式熱交換器27により余剰の熱が回収される。第2多管式熱交換器27により回収された熱は、後述のヒートポンプ30の熱源に用いられる。
【0056】
ヒートポンプ30は、例えば二酸化炭素を熱媒体として用いる場合には、循環導管33を循環する二酸化炭素を、まず膨張弁34で膨張させることにより、圧力3MPa、温度−5.5℃として、第2熱交換器24に供給する。この結果、前記二酸化炭素は、第2熱交換器24において前記アンモニアガスの溶解熱を吸収して温度が+5℃程度に上昇する。
【0057】
次に、第2熱交換器24を通過した前記二酸化炭素はさらに、第3熱交換器35に供給される。第3熱交換器35には、第1熱媒体導管29a、第2熱媒体導管29bに循環されている水、エチレングリコール等の熱媒体が供給されており、前記二酸化炭素は該熱媒体と熱交換することにより、さらに圧力3MPaで+15℃程度の温度に加熱される。
【0058】
次に、第3熱交換器35を通過した前記二酸化炭素は、次に圧縮機36に供給されて圧縮されることにより、圧力130MPa、温度138℃の超臨界状態となる。次に、前記二酸化炭素は、第4熱交換器37で第3水導管39cから供給される熱水と熱交換して該水を130℃の温度の水蒸気とした後、さらに下流の第5熱交換器38で第1水導管39bから供給される水と熱交換して該水を80℃の温度の熱水とする。
【0059】
そして、前記二酸化炭素は、圧力13MPa、温度40℃の状態で、膨張弁34に循環される。
【0060】
このとき、第3熱交換器35の二次側から導出された前記水、エチレングリコール等の熱媒体は、熱媒体ポンプ31により、第1熱媒体導管29aを介して第1熱交換器19の一次側に導入されると共に、第1熱媒体導管29aから分岐する第3熱媒体導管29cを介して第2多管式熱交換器27の一次側に導入される。このとき、第1熱媒体導管29aと第3熱媒体導管29cとに分流される前記熱媒体の分配率は、流量調整弁32により調整される。次に、前記熱媒体は、前記アンモニアガス及び前記バイオマス−水混合物の余熱を回収した後、第1熱交換器19及び第2多管式熱交換器27の二次側から導出され、第2熱媒体導管29b及び第4熱媒体導管29dを介して第3熱交換器35の一次側に導入される。
【0061】
また、第4熱交換器37で得られた前記130℃の温度の水蒸気は、蒸気導管15を介してスラリー導管11に供給されて前記スラリーの再加熱に用いられ、第5熱交換器38で得られた前記80℃の温度の熱水は、第1水導管39aを介して第1多管式熱交換器3の一次側に供給されて前記スラリーの加熱に用いられる。前記熱水は、前記スラリーの加熱後、第1多管式熱交換器3の二次側から第2水導管29bにより導出され、水タンク40で減量分を補充した後、ポンプ42を介して第5熱交換器38に供給される。
【0062】
尚、第3水導管39cは第1水導管39aから分岐しており、第3水導管39cから第4熱交換器37に供給される熱水は、第5熱交換器38で予め加熱されている。また、第2水導管29bにおいて水タンク40で補充される前記減量分は、第3水導管39cから第4熱交換器37に供給される量に相当する。
【0063】
次に、図3を参照して、ヒートポンプ30の変形例について説明する。図3に示すヒートポンプ30は、第1循環導管33と、第2循環導管43との2種類の熱媒体の循環系を備えている。
【0064】
第2循環導管43は、例えばトリフルオロエタノール(以下TFEと略記する)を熱媒体して循環させるものであり、途中に、膨張弁46、第4熱交換器37、圧縮機44、第6熱交換器45を備えている。
【0065】
一方、第1循環導管33は、例えば二酸化炭素を熱媒体して循環させるものであり、図1及び図2の構成における第3熱交換器35に代えて、大気中の熱を回収する第3熱交換器35aを備えると共に、圧縮機36の下流側に切替弁48、膨張弁34の上流側に切替弁49を備え、切替弁48,49をつなぐバイパス導管33aとバイパス導管33aの途中に設けられた第7熱交換器50を備えること以外は、図1及び図2の第1循環導管33と同一の構成を備えている。
【0066】
尚、第7熱交換器50には、第1水導管39a及び第2水導管39bが接続されており、第1水導管39aの途中には図示しない保温タンクが設けられている。また、第5熱交換器38の二次側からは熱水導管47が導出されて、第6熱交換器45に接続されており、第6熱交換器45の二次側からは蒸気導管15が導出されている。
【0067】
次に、図3に示すヒートポンプ30の作動について説明する。
【0068】
図3に示すヒートポンプ30は、第1循環導管33の切替弁48,49を切り替えることにより、第1多管式熱交換器3における前記スラリーの加熱と、蒸気導管15により供給される該スラリーの再加熱に用いる水蒸気の生成とを、それぞれ独立に行う。
【0069】
まず、第1多管式熱交換器3における前記スラリーの加熱を行うときには、切替弁48,49を切り替えて、熱媒体である二酸化炭素がバイパス導管33aに流通し、第4熱交換器37、第5熱交換器38には流通しないようにする。このとき、ヒートポンプ30は、循環導管33を循環する二酸化炭素を、まず膨張弁34で膨張させることにより、圧力3MPa、温度−5.5℃として、第2熱交換器24に供給する。この結果、前記二酸化炭素は、第2熱交換器24において前記アンモニアガスの溶解熱を吸収して温度が+5℃程度に上昇する。
【0070】
次に、第2熱交換器24を通過した前記二酸化炭素はさらに、第3熱交換器35aに供給される。第3熱交換器35aにおいて、前記二酸化炭素は大気と熱交換することにより、さらに圧力3MPaで+15℃程度の温度に加熱される。
【0071】
次に、第3熱交換器35を通過した前記二酸化炭素は、次に圧縮機36に供給されて圧縮されることにより、圧力130MPa、温度138℃の超臨界状態となり、バイパス導管33aに流通されることにより、第7熱交換器50で第2水導管39bから供給される水と熱交換して該水を80℃の温度の熱水とする。
【0072】
そして、前記二酸化炭素は、圧力13MPa、温度40℃の状態で、膨張弁34に循環される。
【0073】
前記第7熱交換器50で得られた前記80℃の温度の熱水は、第1水導管39aを介して第1多管式熱交換器3の一次側に供給されて前記スラリーの加熱に用いられる。このとき、第1水導管39aは途中に図示しない保温タンクを備えており、前記熱水を貯留することができる。
【0074】
図3に示すヒートポンプ30は、前述のようにして、前記スラリーの加熱を行い、ホールドタンク13が該スラリーで満たされたならば、切替弁48,49を切り替えて、蒸気導管15により供給される該スラリーの再加熱に用いる水蒸気の生成を行うようにする。このとき、熱媒体である二酸化炭素は、第4熱交換器37、第5熱交換器38に流通され、バイパス導管33aには流通されない。
【0075】
前記水蒸気の生成を行うときには、ヒートポンプ30は、前述のようにして圧縮機36で得られた圧力130MPa、温度138℃の超臨界状態の二酸化炭素を、まず第4熱交換器37に供給し、循環導管43に循環されているTFEと熱交換させる。次に、第4熱交換器37を通過した前記二酸化炭素は、さらに下流の第5熱交換器38に供給され、第2水導管39bから供給される水と熱交換して該水を80℃の温度の熱水とする。前記第5熱交換器38を通過した前記二酸化炭素は、圧力13MPa、温度40℃の状態で、膨張弁34に循環される。
【0076】
一方、循環導管43では、熱媒体であるTFEを、まず膨張弁46で膨張させることにより、圧力0.1MPa、温度74℃として、第4熱交換器37に供給する。この結果、前記TFEは、第4熱交換器37において循環導管33に循環されている前記二酸化炭素と熱交換して温度が100℃程度に上昇する。
【0077】
次に、第4熱交換器37を通過した前記TFEは、圧縮機44に供給されて圧縮されることにより、圧力0.83MPa、温度165℃となり、第6熱交換器45に供給される。そして、第6熱交換器45で、第5熱交換器38の二次側から取出され熱水導管47により供給される前記80℃の温度の熱水と熱交換して該熱水を130℃の温度の水蒸気とする。前記第6熱交換器45を通過した前記TFEは、圧力0.83MPa、温度100℃の状態で、膨張弁46に循環される。
【0078】
前記第6熱交換器45で得られた前記180℃の温度の水蒸気は、蒸気導管15を介してスラリー導管11に供給されて前記スラリーの再加熱に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置のシステム構成図。
【図2】図1に示すヒートポンプのラインの一例を概略的に示す説明図。
【図3】図1に示すヒートポンプのラインの変形例を概略的に示す説明図。
【符号の説明】
【0080】
1…リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置、 2…ミキサー、 3…第1多管式熱交換器、 4…分離塔、 5…後工程、 6…移送導管、 8…アンモニア水供給導管、 11…スラリー導管、 13…ホールドタンク、 15…蒸気導管、 19…第1熱交換器、 20…回収塔、 24…第2熱交換器、 27…第2多管式熱交換器、 30…ヒートポンプ、 33…循環導管、 35,35a…第3熱交換器、 43…循環導管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系バイオマスとアンモニアとを混合する混合手段と、
該混合手段により得られたバイオマス−アンモニア混合物を加熱する加熱手段と、
該加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物からアンモニアガスを分離してバイオマス−水混合物を得る分離手段と、
該分離手段で分離されたバイオマス−水混合物を後工程に移送する移送手段とを備えるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置において、
該混合手段にアンモニア水を供給するアンモニア水供給手段と、
該分離手段で分離されたアンモニアガスを水に溶解させてアンモニア水として回収するアンモニア回収手段と、
該アンモニア回収手段でアンモニアガスを水に溶解させるときに生成する溶解熱を回収する溶解熱回収手段と、
少なくとも該溶解熱回収手段で回収された該溶解熱を熱源として該加熱手段に供給される熱を生成するヒートポンプ手段とを備えることを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項2】
前記加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物を再加熱する再加熱手段と、該加熱手段と前記分離手段との間で、該再加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物からアンモニアガスを気化させる気化手段とを備えることを特徴とする請求項1記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項3】
前記分離手段で分離されたアンモニアガスから熱を回収する第1の熱回収手段と、該分離手段で分離されたバイオマス−水混合物から熱を回収する第2の熱回収手段とを備え、
前記ヒートポンプ手段は、前記溶解熱回収手段により回収された溶解熱と、該第1及び第2の熱回収手段により回収された熱とを熱源として、前記加熱手段及び前記再加熱手段に供給される熱を生成することを特徴とする請求項2記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項4】
大気中の熱を回収する第3の熱回収手段を備え、
前記ヒートポンプ手段は、前記溶解熱回収手段により回収された溶解熱と、該第3の熱回収手段により回収された熱とを熱源として、前記加熱手段に供給される熱を生成する第1のヒートポンプと、該第1のヒートポンプにより生成された熱を熱源として、前記再加熱手段に供給される熱を生成する第2のヒートポンプとを備えることを特徴とする請求項2記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項5】
前記加熱手段により加熱されたバイオマス−アンモニア混合物を貯留する貯留手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−142680(P2010−142680A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319429(P2008−319429)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】