説明

リザーブタンクおよび同タンクを備えたエンジン冷却装置

【課題】タンク高さを抑えても、大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン側への冷却液中に空気が混入するのを防止可能な低コストのリザーブタンクの提供。
【解決手段】エンジン11内を循環する冷却液Lを冷却するラジエータ12側に水平方向一端側下部S2で配管接続し、上部S1に注入口21aを形成し、冷却液Lを上方の空気溜まりと共に貯留するタンク21と、注入口21aを密閉するタンクキャップ22とを備えた密閉型のリザーブタンクで、タンクが、その下部で水平方向一端側下部S2から離隔する方向に膨出した膨出部25と、タンクの内底面21bから上方に突出し、タンク内を水平方向一方側に位置する一方側の貯留室27と水平方向他方側に位置する他方側の貯留室28とに区画する隔壁部26とを有し、隔壁部26が、タンク内の下部S2側で一方側の貯留室27と他方側の貯留室28とを連通させる下部連通孔26aを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リザーブタンクおよび同タンクを備えたエンジン冷却装置、特に冷却液の上方に冷却液面変化に応じて体積変化する空気溜まりを形成するようにした密閉型のリザーブタンクおよびエンジン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジン冷却装置に装備されるリザーブタンクには、その上部に形成された注水口を加圧密閉式のキャップで密閉し、内部に貯留した冷却水の上方に空気溜まりを形成して、冷却水(冷却液)の温度変化に伴う液面変化を空気溜まりの体積変化により吸収するようにした密閉型のものがある。
【0003】
また、このようなリザーブタンクは、エンジンからの冷却水の戻り側であるラジエータ上部に冷却水の出入りを許容するよう配管接続されるとともに、ラジエータ下部からエンジン内への冷却水の供給路側(以下、単にエンジン側という)に冷却水を供給するよう配管接続されているものが多い。
【0004】
従来のこの種のリザーブタンクとしては、そのタンク内部を隣り合う複数の貯留室に分割するよう下端部に連通孔を有する隔壁部を設け、その一端側の貯留室に主たる空気溜めを形成するようにしたものがあり、このリザーブタンクにおいては、ラジエータ側からの冷却水を出入りさせるラジエータ側の連通孔部をタンク上部側に開口させ、エンジン側に冷却水を供給するエンジン側の連通孔部をタンク下部側に開口させている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、タンクの一端側の流入管と他端側の流出管の間に連通路を有する複数の隔壁部を設けて、長手方向に隣り合う複数の貯留室を形成したもの(例えば、特許文献2、3参照)や、タンク内に複数の平行な隔壁部を設けるとともにそれらの下端側および上端側に形成した連通孔を通して互いに隣り合う複数の貯留室を互いに連通させ、複数の貯留室に同一の液面高さで冷却水およびその上方の空気溜まりを貯留するようにしたものがある(例えば特許文献4参照)。
【0006】
さらに、上下方向に圧縮可能なようにタンク本体の上下方向中間部に蛇腹部を有し、長手方向を車両前後方向に向けて車両のフェンダーの内方に配置されるようにしたものがあり、このリザーブタンクでは取付け高さの制約から前方部の高さが後方部の高さより低くなっている(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平6−185358号公報
【特許文献2】特開2005−120906号公報
【特許文献3】特開平6−146883号公報
【特許文献4】特開平5−209522号公報
【特許文献5】実開平4−66321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来のリザーブタンクおよびこれを備えた車両の冷却装置にあっては、車両に大きな横向き加速度(いわゆる横G)が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合に、エンジン側に供給する冷却水に空気が混入してしまうためにウォーターポンプ内でキャビテーションが発生し、エンジンの冷却性能が低下してしまうという問題があった。
【0008】
すなわち、車両の急な加速や制動による短時間の液面変動であれば適当な連通孔を形成したバッフルプレート等の仕切りを入れることで回避できるが、大きな横向き加速度が比較的長い時間続くような走行状態になると、タンク内の液面が大きく傾斜してしまい、リザーブタンク内で冷却水中に開口させているエンジン側の連通孔部が液面から出て空気溜まりに通じてしまうことがあり、その場合、このエンジン側の連通孔部を通しエンジン側に供給する冷却水に空気が混入してしまうために、冷却性能の低下を招いていた。
【0009】
そのため、従来のリザーブタンクおよびこれを備えた車両の冷却装置にあっては、例えばサーキット走行時のように上述の液面傾斜が顕著になるような場合に対応できなかった。
【0010】
また、ラジエータ内の圧力上昇時にリザーブタンク内に冷却水を戻すためのラジエータ側の連通孔部をタンクの上部側に開口させていたため、ラジエータ側の連通孔部をエンジン側の連通孔部から離隔させて冷却水中への空気混入を防止する必要から、リザーブタンクの高さを低く抑えることが容易でないばかりか、リザーブタンク側からの冷却水の戻りが悪くなるためにラジエータ側の内圧上昇に耐え得るようタンク強度を高める必要があった。そのため、リザーブタンクのレイアウト面やコスト面でも問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、タンク高さを抑えても、大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン側への冷却液中に空気が混入するのを確実に防止することができる低コストのリザーブタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的達成のため、本発明は、(1)ラジエータ側に水平方向一端側の下部で配管接続されるとともに上部に冷却液を注入する注入口が形成され、前記冷却液をその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体と、前記注入口を密閉するキャップと、を備えた密閉型のリザーブタンクにおいて、前記タンク本体が、前記タンク本体の水平方向他端側の下部で前記水平方向一端側の下部から離隔する方向に膨出した膨出部と、前記タンク本体の内底面から上方に突出するとともに前記タンク本体内を前記水平方向一方側に位置する一方側の貯留室と前記水平方向他方側に位置する他方側の貯留室とに区画する隔壁部とを有し、前記隔壁部が、前記タンク本体内の下部側で前記一方側の貯留室と前記他方側の貯留室とを連通させる下部連通孔を形成していることを特徴とする。
【0013】
このリザーブタンクでは、運転時にリザーブタンク内の冷却液面が比較的長時間傾斜しても、その液面はリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部内に制限されることから、ラジエータ側に配管接続された水平方向一端側の下部が液面上に露出することなく、その水平方向一端側の下部の液中配置状態が維持されることになる。また、隔壁部がバッフルプレートともなり、比較的短時間の液面傾斜に対しては水平方向一方側の貯留室の液面高さをより高く維持するのに寄与し得る。さらに、タンク本体の水平方向一端側の下部でラジエータ側への配管接続がなされ、液面も低く抑えられることから、ラジエータの内圧上昇を抑えることができる。なお、前記水平方向一端側の下部から離隔する方向とは、前記水平方向の一端側から他端側に向かう方向のみならず、それと交差する略水平方向であってもよい。
【0014】
本発明のリザーブタンクは、好ましくは、(2)前記隔壁部が、前記タンク本体の上部内で前記一方側の貯留室と前記他方側の貯留室とを連通させる上部連通孔を形成しているものである。
【0015】
この構成により、膨出部によりタンク下部に十分な冷却液貯留量を確保することで、タンク高さを抑えても、複数の貯留室に一様な圧力の空気溜まりを形成することができ、タンク本体の上部内に所要の空気溜りを形成することができる。
【0016】
上記(1)または(2)の構成を有するリザーブタンクにおいては、(3)前記水平方向両端側を前記車両の左右方向に向けて前記車両に搭載されるのが望ましい。
【0017】
これにより、大きな横向き加速度が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合でも、ラジエータ側あるいは更にエンジン側に配管接続された水平方向一端側の下部の液中配置状態を維持することができる。
【0018】
上記(1)〜(3)の何れかの構成を有するリザーブタンクにおいては、(4)前記タンク本体の上部の前記水平方向における内幅が前記注入口の内径よりも大きいのが好ましい。
【0019】
この場合、注水作業性が良好となる。
【0020】
また、上記(1)〜(4)の何れかの構成を有するリザーブタンクにおいては、(5)前記タンク本体の内底面からの前記膨出部の内面高さが、前記タンク本体の内底面からの前記冷却液の注入時液面高さの許容範囲より上方に位置するのがよい。
【0021】
これにより、空気溜りを十分に形成することができる。なお、前記膨出部の内面高さは、ラジエータ側からの冷却液の戻りにより液面が上昇するときには、その液面近傍かあるいはその液面より下方に位置するようにすることができる。
【0022】
上記(1)〜(5)の何れかの構成を有するリザーブタンクにおいては、(6)前記タンク本体の下部で前記一方側の貯留室と前記他方側の貯留室とが前記ラジエータの冷却液の戻り側と供給側とにそれぞれ連通するよう、前記タンク本体の下部に一対の連通孔が形成されていてもよい。
【0023】
これにより、ラジエータ側からの冷却液の戻りを許容し、エンジン側に冷却液を供給することが可能となり、しかも、ラジエータ側からの冷却液に含まれる気泡がエンジン側に供給される冷却液に混入するのを隔壁部により防止することができる。
【0024】
上記(6)の構成を有するリザーブタンクにおいては、(7)前記隔壁部が、前記一方側の貯留室を一対の室に区画するよう前記タンク本体内で前記水平方向一端側に向かって突出する突出壁部を有し、前記タンク本体の前記水平方向一端側の下部に、前記一対の室を前記ラジエータの冷却液の戻り側と供給側とに連通させる一対の連通孔が形成されたものであるのがよい。
【0025】
この構成により、一対の連通孔を確実に液中に配置することができ、しかも、ラジエータ側からの冷却液に含まれる気泡がエンジン側に供給される冷却液に混入するのを隔壁部により防止することができる。
【0026】
一方、本発明のエンジン冷却装置は、(8)上記(1)〜(7)の何れかの構成を有するリザーブタンクと、前記ラジエータと、前記冷却液を前記エンジン内および前記ラジエータ内を通して循環させるウォーターポンプと、を備えている。
【0027】
この構成により、エンジンの運転時に水平方向他端側に向かう加速度がリザーブタンクに作用し、リザーブタンク内に貯留された冷却液の液面が水平方向一端側に傾斜しても、その液面はリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部内に制限され、ラジエータ側に配管接続された水平方向一端側の下部が液面上に露出することなくその液中配置状態を維持できることになる。したがって、リザーブタンクからエンジン側に供給される冷却水への空気の混入によってウォーターポンプ内でキャビテーションが発生し、エンジンの冷却性能が低下してしまうという問題が解消される。
【0028】
上記(8)の構成を有するエンジン冷却装置は、(9)前記エンジンを搭載した車両に前記リザーブタンクが前記水平方向一端部および他端部を左右に向けた装着状態で装備されていることを特徴とする。
【0029】
この構成により、大きな横向き加速度が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合でも、ラジエータ側あるいは更にエンジン側に配管接続された水平方向一端側の下部の液中配置状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、膨出部によりタンク下部に十分な冷却液貯留量を確保することで、タンク高さを抑えても所要の空気溜りを形成してエンジンの運転時におけるラジエータ側からの冷却液の戻りを確実に吸収させることができ、しかも、リザーブタンク内の冷却液面が傾斜したとしても、その液面をリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部内に制限し、かつ、隔壁部にバッフルプレート機能を持たせることで、ラジエータ側に配管接続された水平方向一端側の下部を液面上に露出させることなくその液中配置状態を確実に維持させることができる。さらに、水平方向一端側の下部でラジエータ側への配管接続がなされ、液面も低く抑えられるので、ラジエータの内圧上昇をも抑えることができる。その結果、タンク高さを抑えても、大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン側への冷却液中に空気が混入するのを確実に防止することができる低コストのリザーブタンクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜図4は本発明のリザーブタンクおよびそれを備えたエンジン冷却装置の一の実施の形態を示す図である。
【0032】
まず、その構成について説明する。
【0033】
図1に示すように、本実施形態のエンジン冷却装置1は、ラジエータ12、アッパーホース13、ロワホース14、ウォーターポンプ15、サーモスタット16および密閉式のリザーブタンク20を備えている。
【0034】
ラジエータ12は、内燃機関であるエンジン11内の冷却通路11w(ウォータージャケット;詳細は図示しない)を通った冷却液、例えば冷却水Lを冷却風として供給される空気と熱交換して冷却する熱交換器であり、エンジン11からの冷却水Lの戻り側となるアッパータンク部12aと、エンジン11への冷却水Lの供給側となるロワタンク部12bとを有している。
【0035】
アッパーホース13およびロワホース14は、エンジン11内の冷却通路11wとラジエータ12内の熱交換通路(詳細は図示していない)を連通させるようエンジン11の冷却水入口11aおよび冷却水出口11bとラジエータ12のアッパータンク部12aおよびロワタンク部12bとをそれぞれ接続する耐熱性・耐圧性のある配管である。
【0036】
ウォーターポンプ15は、エンジン11からの動力により回転するようエンジン11に内蔵され、エンジン11内からアッパーホース13を通してラジエータ12に高温の冷却水Lが流入し、ラジエータ12で熱交換により冷却された冷却水Lがロワホース14を通してエンジン11側に供給される所定の循環経路で、あるいは更にエンジン11から配管18a、18bおよび車室側ヒーター19(ヒーター用熱交換器)内を通して、冷却水Lを循環させるようになっている。また、サーモスタット16は、ウォーターポンプ15の吸入側に配置され、冷却水温度に応じて開閉する流量調節バルブとして機能するものであり、ラジエータ12を通る冷却液の流量を調節することができるようになっている。
【0037】
ラジエータ12はその上部に注水口12cを有しており、その注水口12cに加圧・密閉式ラジエータキャップ17が着脱可能に取り付けられている。
【0038】
この加圧・密閉式ラジエータキャップ17は、ラジエータ12内の内圧変化に応じて開閉するバルブ機能を有するもので、注水口12c付近に配管接続されたリザーブタンク20への冷却水L(蒸気泡を含む)の出入りを許容するようになっている。
【0039】
なお、上記ラジエータ12、アッパーホース13、ロワホース14、ウォーターポンプ15およびサーモスタット16は、それぞれ公知のものと同様である。
【0040】
一方、リザーブタンク20は、長手方向を略水平にしてその水平方向一端部および他端部を左右に向けた装着状態でエンジン冷却装置1の一部として車両の左右方向に向けた状態で車両に搭載されている。また、リザーブタンク20は、接続配管29a、29bを介してラジエータ12のアッパータンク部12a(冷却水の戻り側)と、エンジン11への冷却水供給側であるウォーターポンプ15の吸入側とに、それぞれ配管接続されている。
【0041】
図2および図3に示すように、リザーブタンク20は、その上部(図2(b)中のS1の範囲;以下、単に上部S1ともいう)に冷却水Lを注入する注水口21a(注入口)が形成され、注入された冷却水Lをその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体21と、注水口21aを加圧・密閉することができるようにタンク本体21の注水口21a付近に着脱可能に設けられた公知のタンクキャップ22とを有している。
【0042】
タンク本体21の長手方向である水平方向一端側の下部(図2(b)中のS2の範囲;以下、単に下部S2ともいう)には、ラジエータ12のアッパータンク部12a(冷却水の戻り側)に配管接続された円筒状の第1連通管部23と、この第1連通管部23に対し所定距離を隔てて平行に離間し、エンジン11への冷却水供給側であるウォーターポンプ15の吸入側に配管接続された第2連通管部24(図3参照)とが、それぞれタンク本体21と一体に固定されており、第1連通管部23および第2連通管部24内の連通路23a、24aはタンク本体21の下部S2内、特にタンク本体21の内底面21bに近接する位置で開口した連通孔となっている。
【0043】
また、タンク本体21は、その水平方向他端側(図2(a)中の右端側)の下部で水平方向一端側の下部S2から離隔する方向に膨出した膨出部25を有している。タンク本体21の内底面21bからこの膨出部25の上方側の内面25hまでの高さは、タンク本体21の内底面21bからの冷却水Lの注水時液面高さの許容範囲、すなわち図2(b)中のLOWレベルからFULLレベルまでの範囲より上方(許容液面レベルの最も高い位置であるFULLレベルより更に上方)に位置し、かつ、エンジン11の運転中にラジエータ12側からの冷却水Lの戻りによって上昇するときの液面レベルBよりはわずかに低くなるように設定されている。
【0044】
さらに、図2(a)に示すように、タンク本体21の上部S1の水平方向における内幅d2(最小内径)は、注水口21aの内径d1よりも大きくなっており、図2(b)に示すように、タンク本体21の下部S2の高さをタンク本体21の内底面21bから膨出部25の上方側の内面25hまでの高さとするとき、それを超えるタンク本体21の上部S1の容積がその水平断面積に相当する範囲外の膨出領域S3に膨出した膨出部25内の容積とほぼ等しいか、わずかに大きくなっている。
【0045】
また、タンク本体21内にはタンク本体21の内底面21bから上方に突出する隔壁部26が設けられており、タンク本体21内はこの隔壁部26によって、水平方向(左右)一方側に位置する一方側の貯留室27と、水平方向他方側に位置する他方側の貯留室28とに区画されている。隔壁部26は、さらに、一方側の貯留室27を一対の室27a、27b(図3参照)に区画するようタンク本体21内で水平方向一端側に向かって突出する突出壁部26pを有している。そして、タンク本体21の水平方向一端側の下部S2において、一方の室27aは第1連通管部23を通してラジエータ12のアッパータンク部12a側に連通し、他方の室27bはラジエータ12のロワタンク部12bからエンジン11側への冷却水供給通路14aに連通している。
【0046】
一方側の貯留室27の一対の室27a、27bはタンク本体21内で車両の前後方向に隣り合っており、隔壁部26には、図3および図4に示すように、タンク本体21内の下部S2側で一方側の貯留室27と他方側の貯留室28を互いに連通させ、他方側の貯留室28を介して一対の室27a、27bを互いに連通させるように、一対の室27a、27bをそれぞれ他方側の貯留室28に連通させる一対の下部連通孔26a、26bがそれぞれ形成されている。そして、他方側の貯留室28は、一方側の貯留室27の一対の室27a、27bおよび第1連通管部23および第2連通管部24内の連通路23a、24aを通してラジエータ12の冷却液の戻り側と供給側とに連通している。
【0047】
隔壁部26は、タンク本体21の内底面21bとの間に下部連通孔26a、26bに代わる連通孔を形成するものであってもよいし、下部連通孔26a、26bの形状は円形、楕円形、矩形、その他任意の形状であってよく、複数設けられてもよい。ただし、一対の室27a、27bに対応する一対の下部連通孔26a、26bは互いに離隔するようタンク本体21の両側壁面に近接しているのがよい。
【0048】
さらに、隔壁部26には、タンク本体21の上部S1内で一方側の貯留室27と他方側の貯留室28を互いに連通させ、タンク本体21内の上部S1側で他方側の貯留室28を介して一対の室27a、27bを互いに連通させるように、一対の室27a、27bをそれぞれ他方側の貯留室28に連通させる一対の上部連通孔26j、26kが形成されており、一方側の貯留室27と他方側の貯留室28の上部側に同一圧力の空気溜まりが形成されるようになっている。
【0049】
なお、本実施形態では、注水口21a近傍の隔壁部26は、例えば図2(b)に示すように、注水口21aから注水された冷却水Lを他方側の貯留室28側に導入するように、注水口21aよりも同図の左側、すなわち水平方向一端側に位置するように配置されているが、注入された冷却水Lを一方側の貯留室27側のみにまたは両貯留室27、28に導入するような形状としてもよい。例えば、注水口21a内に一方側の貯留室27の一対の室27a、27bの上端がそれぞれ開口してもよいし、隔壁部26の注水口21a近傍を切り欠いて、空気流通用の上部連通孔26j、26kに代わる切欠穴を形成してもよい。
【0050】
次に、その作用を説明する。
【0051】
上述のように構成された本実施形態のリザーブタンク20では、膨出部25によりタンク本体21の下部S2側に十分な冷却液貯留量が確保され、タンク本体21の上部S1では一方側の貯留室27側および他方側の貯留室28が空気流通用の上部連通孔26j、26kにより互いに連通することから、リザーブタンク20の全高を抑えても、一方側の貯留室27側および他方側の貯留室28の上部に一様な圧力の所要量の空気溜まりを形成することができ、エンジン11の運転時におけるラジエータ12側からの冷却水Lの戻りを確実に吸収することができる。
【0052】
また、エンジン11の運転時に水平方向他端側に向かう加速度、例えば横向き加速度が作用し、リザーブタンク20内に貯留された冷却水Lの液面Bが例えば図2(b)に一点鎖線で示すように水平方向一端側に傾斜しても、その液面B´はリザーブタンク20の下部S2側に比較して水平断面積の狭い上部S1内に制限される。しかも、隔壁部26がバッフルプレートとして機能し、比較的短時間の液面傾斜に対しては水平方向一方側の貯留室27の液高さB´sをより高く維持するのに寄与することになる。したがって、大きな横向き加速度が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合でも、ラジエータ12の冷却水Lの戻り側と供給側にそれぞれ配管接続された水平方向一端側の下部、すなわち、第1連通管部23および第2連通管部24の連通路23a、24a(連通孔の開口部分)が液面上に露出することはなく、それらの液中配置状態を確実に維持できることになる。
【0053】
さらに、一方側の貯留室27が一対の室27a、27bに区画・分割され、これら一対の室27a、27bを他方側の貯留室28に連通させる下部連通孔26a、26bが隔壁部26に形成されていることから、一方側の貯留室27の片方の室27aに入るラジエータ12側からの気泡含有の冷却水Lがもう片方の室27bにそのまま入ってエンジン側に供給されてしまうといったことがなく、片方の室27aから他方側の貯留室28に入って気泡が空気溜まりに抜けた後の冷却水Lがエンジン側に供給されることになる。したがって、リザーブタンク20からエンジン11側に供給される冷却水Lへの気泡の混入によってウォーターポンプ15内でキャビテーションが発生したり、そのためにエンジン11の冷却性能が低下したりするというようなことが防止され、タンク高さを抑えても、大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン11側への冷却水L中に空気が混入するのを確実に防止することができる。
【0054】
また、タンク本体21の水平方向一端側の下部S2でラジエータ12側およびエンジン11側への配管接続がなされ、冷却水Lの液面Bも低く抑えられることから、ラジエータ12の内圧上昇をも抑えることができ、タンク本体21を肉厚にせずに済む。
【0055】
加えて、タンク本体21の上部S1の内幅d2が注水口21aの内径以上に大きくなっているので、注水作業性が良好となる。
【0056】
このように、本実施形態においては、膨出部25によりタンクの下部S2に十分な冷却液貯留量を確保することで、タンク高さを抑えても、一方側および他方側の貯留室27、28に一様な圧力の空気溜まりを形成することができ、かつ、タンク本体21の上部S1内に所要量の空気溜りを形成することができ、エンジン11の運転時におけるラジエータ12側からの冷却水Lの戻りを確実に吸収させることができる。
【0057】
また、運転時にリザーブタンク20内の冷却液面が傾斜しても、その液面はタンク本体21の下部に比較して水平断面積の狭い上部S1内に制限され、更に隔壁部26のバッフルプレート機能も加わることから、水平方向一端側の下部の第1連通管部23および第2連通管部24の連通路23a、24aの液中配置状態を確実に維持することができる。本実施形態では、リザーブタンク20はその水平方向両端側を車両の左右方向に向けて車両に搭載されるので、例えばサーキット走行時のように横向き加速度により液面傾斜が顕著になるような場合にも十分に対応できる。
【0058】
さらに、タンク本体21の水平方向一端側の下部S2でラジエータ12側およびエンジン11側への配管接続がなされ、液面Bも低く抑えられることから、ラジエータ12の内圧上昇を抑えることができ、低コストのリザーブタンクを提供することができる。
【0059】
なお、上述の実施の形態では、第1連通管部23および第2連通管部24をタンク本体21の水平方向一端側の下部S2に平行に配置し、かつ、タンク本体21と一体にしていたが、その配管経路は平行でなくてもよいし、上下方向に湾曲していてもよい。
【0060】
また、第1連通管部23および第2連通管部24のうちいずれか一方、例えば第2連通管部24を他方側の貯留室28の底部側に直接開口させることもでき、そのようにすれば、突出壁部26pは必要ではなく、一方側の貯留室27を一対の室27a、27bに区画・分割する必要はない。
【0061】
以上説明したように、本発明は、膨出部によりタンク下部に十分な冷却液貯留量を確保することで、タンク高さを抑えても所要の空気溜りを形成してエンジンの運転時におけるラジエータ側からの冷却液の戻りを確実に吸収させることができ、しかも、リザーブタンク内の冷却液面が傾斜したとしても、その液面をリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部内に制限し、かつ、隔壁部にバッフルプレート機能を持たせることで、ラジエータ側に配管接続された水平方向一端側の下部を液面上に露出させることなくその液中配置状態を確実に維持させることができ、さらに、水平方向一端側の下部でラジエータ側への配管接続をなして液面を低く抑え、ラジエータの内圧上昇をも抑えることができるので、タンク高さを抑えても大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン側への冷却液中に空気が混入するのを確実に防止することができる低コストのリザーブタンクを提供することができるという効果を奏するものであり、リザーブタンクおよび同タンクを備えたエンジン冷却装置、特に冷却液の上方に冷却液面変化に応じて体積変化する空気溜まりを形成するようにした密閉型のリザーブタンクおよびエンジン冷却装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のリザーブタンクを備えたエンジン冷却装置の一の実施の形態を示すそのシステム構成図である。
【図2】(a)は一の実施の形態に係るリザーブタンクの正面図、(b)は一の実施の形態に係るリザーブタンクの正面断面図である。
【図3】図2(a)のIII-III断面図である。
【図4】一の実施の形態に係るリザーブタンクの平面断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジン冷却装置
11 エンジン
11a 冷却水入口
11b 冷却水出口
11w 冷却通路
12 ラジエータ
12a アッパータンク部
12b ロワタンク部
13 アッパーホース
14 ロワホース
15 ウォーターポンプ
16 サーモスタット
17 加圧・密閉式ラジエータキャップ
18a、18b 配管
19 車室側ヒーター
20 リザーブタンク
21 タンク本体
21a 注水口(注入口)
21b 内底面
22 タンクキャップ
23 第1連通管部
23a、24a 連通路(連通孔)
24 第2連通管部
25 膨出部
25h 内面
26 隔壁部
26a、26b 下部連通孔
26j、26k 上部連通孔
26p 突出壁部
27 一方側の貯留室
27a、27b 一対の室
28 他方側の貯留室
d1 注水口の内径
d2 タンク本体の上部の内幅
L 冷却水(冷却液)
S1 タンク本体の上部
S2 タンク本体の下部
S3 膨出領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータ側に水平方向一端側の下部で配管接続されるとともに上部に冷却液を注入する注入口が形成され、前記冷却液をその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体と、前記注入口を密閉するキャップと、を備えた密閉型のリザーブタンクにおいて、
前記タンク本体が、前記タンク本体の水平方向他端側の下部で前記水平方向一端側の下部から離隔する方向に膨出した膨出部と、前記タンク本体の内底面から上方に突出するとともに前記タンク本体内を前記水平方向一方側に位置する一方側の貯留室と前記水平方向他方側に位置する他方側の貯留室とに区画する隔壁部とを有し、
前記隔壁部が、前記タンク本体内の下部側で前記一方側の貯留室と前記他方側の貯留室とを連通させる下部連通孔を形成していることを特徴とするリザーブタンク。
【請求項2】
前記隔壁部が、前記タンク本体の上部内で前記一方側の貯留室と前記他方側の貯留室とを連通させる上部連通孔を形成していることを特徴とする請求項1に記載のリザーブタンク。
【請求項3】
前記水平方向両端側を前記車両の左右方向に向けて前記車両に搭載されることを特徴とする請求項1または2に記載のリザーブタンク。
【請求項4】
前記タンク本体の上部の前記水平方向における内幅が前記注入口の内径よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載のリザーブタンク。
【請求項5】
前記タンク本体の内底面からの前記膨出部の内面高さが、前記タンク本体の内底面からの前記冷却液の注入時液面高さの許容範囲より上方に位置することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載のリザーブタンク。
【請求項6】
前記タンク本体の下部で前記一方側の貯留室と前記他方側の貯留室とが前記ラジエータの冷却液の戻り側と供給側にそれぞれ連通するよう、前記タンク本体の下部に一対の連通孔が形成されたことを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載のリザーブタンク。
【請求項7】
前記隔壁部が、前記一方側の貯留室を一対の室に区画するよう前記タンク本体内で前記水平方向一端側に向かって突出する突出壁部を有し、
前記タンク本体の前記水平方向一端側の下部に、前記一対の室を前記ラジエータの冷却液の戻り側と供給側とに連通させる一対の連通孔が形成されたことを特徴とする請求項6に記載のリザーブタンク。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか1項に記載のリザーブタンクと、
前記ラジエータと、
前記冷却液を前記エンジン内および前記ラジエータ内を通して循環させるウォーターポンプと、を備えたエンジン冷却装置。
【請求項9】
前記エンジンを搭載した車両に前記リザーブタンクが前記水平方向一端部および他端部を左右に向けた装着状態で装備されていることを特徴とする請求項8に記載のエンジン冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−190442(P2008−190442A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26552(P2007−26552)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(591159055)トヨタテクノクラフト株式会社 (19)