説明

リザーブタンクおよび同タンクを備えたエンジン冷却装置

【課題】タンク高さを抑えても、大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン側への冷却液中に空気が混入するのを確実に防止することができる低コストのリザーブタンクを提供する。
【解決手段】エンジン11内を循環する冷却水Lを冷却するラジエータ12側に水平方向一端側の下部で配管接続されるとともに上部に冷却水Lを注入する注入口21aが形成され、冷却水Lをその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体21と、注入口21aを密閉するタンクキャップ22とを備えた密閉型のリザーブタンクにおいて、タンク本体21が、水平方向他端側の下部で水平方向一端側の下部から離隔する方向に膨出した膨出部25を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リザーブタンクおよび同タンクを備えたエンジン冷却装置、特に冷却液の上方に冷却液面変化に応じて体積変化する空気溜まりを形成するようにした密閉型のリザーブタンクおよびエンジン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジン冷却装置に装備されるリザーブタンクには、その上部に形成された注水口を加圧密閉式のキャップで密閉し、内部に貯留した冷却水の上方に空気溜まりを形成して、冷却水の温度変化に伴う液面変化を空気溜まりの体積変化により吸収するようにした密閉型のものがある。
【0003】
また、このようなリザーブタンクは、エンジンからの冷却水の戻り側であるラジエータ上部に冷却水の出入りを許容するよう配管接続されるとともに、ラジエータ下部からエンジン内への冷却水の供給路側(以下、単にエンジン側という)に冷却水を供給するよう配管接続されているものが多い。
【0004】
従来のこの種のリザーブタンクとしては、そのタンク内部を車両前後方向に隣り合う複数の貯留室に分割するよう仕切り板を設け、その前端側の貯留室に主たる空気溜めを形成するようにしたものがあり、このリザーブタンクにおいては、ラジエータ側からの冷却水を出入りさせるラジエータ側の連通孔部をタンク上部側に開口させ、エンジン側に冷却水を供給するエンジン側の連通孔部をタンク下部側に開口させている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−98964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来のリザーブタンクおよびこれを備えた車両の冷却装置にあっては、車両に大きな横向き加速度(いわゆる横G)が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合に、エンジン側に供給する冷却水に空気が混入してしまうためにウォーターポンプ内でキャビテーションが発生し、エンジンの冷却性能が低下してしまうという問題があった。
【0006】
すなわち、車両の急な加速や制動による短時間の液面変動であれば適当な連通孔を形成したバッフルプレート等の仕切りを入れることで回避できるが、大きな横向き加速度が比較的長い時間続くような走行状態になると、タンク内の液面が大きく傾斜してしまい、リザーブタンク内で冷却液中に開口させているエンジン側の連通孔部が液面から出て空気溜まりに通じてしまうことがあり、その場合、このエンジン側の連通孔部を通しエンジン側に供給する冷却水に空気が混入してしまうために、冷却性能の低下を招いていた。
【0007】
そのため、従来のリザーブタンクおよびこれを備えた車両の冷却装置にあっては、例えばサーキット走行時のように上述の液面傾斜が顕著になるような場合に対応できなかった。
【0008】
また、ラジエータ内の圧力上昇時にリザーブタンク内に冷却水を戻すためのラジエータ側の連通孔部をタンクの上部側に開口させていたため、ラジエータ側の連通孔部をエンジン側の連通孔部から離隔させて冷却水中への空気混入を防止する必要から、リザーブタンクの高さを低く抑えることが容易でないばかりか、リザーブタンク側からの冷却水の戻りが悪くなるためにラジエータ側の内圧上昇に耐え得るようタンク強度を高める必要があった。そのため、リザーブタンクのレイアウト面やコスト面でも問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、タンク高さを抑えても、大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン側への冷却液中に空気が混入するのを確実に防止することができる低コストのリザーブタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的達成のため、本発明は、(1)ラジエータ側に水平方向一端側の下部で配管接続されるとともに上部に冷却液を注入する注入口が形成され、前記冷却液をその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体と、前記注入口を密閉するキャップと、を備えた密閉型のリザーブタンクにおいて、前記タンク本体が、水平方向他端側の下部で前記水平方向一端側の下部から離隔する方向に膨出した膨出部を有することを特徴とする。
【0011】
このリザーブタンクでは、膨出部によりタンク下部に十分な冷却液貯留量を確保することで、タンク高さを抑えても所要の空気溜りを形成することができ、エンジンの運転時におけるラジエータ側からの冷却液の戻りを確実に吸収することができる。しかも、運転時にリザーブタンク内の冷却液面が傾斜しても、その液面はリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部内に制限されることから、ラジエータ側に配管接続された水平方向一端側の下部が液面上に露出することがなく、その水平方向一端側の下部の液中配置状態が維持されることになる。また、水平方向一端側の下部でラジエータ側への配管接続がなされ、液面も低く抑えられることから、ラジエータの内圧上昇を抑えることができる。なお、前記水平方向一端側の下部から離隔する方向とは、前記水平方向の一端側から他端側に向かう方向のみならず、それと交差する略水平方向であってもよい。
【0012】
また、本発明は、(2)ラジエータの冷却液の戻り側と供給側に水平方向一端側の下部でそれぞれ配管接続されるとともに上部に冷却液を注入する注入口が形成され、前記冷却液をその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体と、前記注入口を密閉するキャップと、を備えた密閉型のリザーブタンクにおいて、前記タンク本体が、前記タンク本体の水平方向他端側の下部で前記水平方向一端側の下部から離隔する方向に膨出した膨出部と、前記タンク本体の内底面から上方に突出するとともに前記水平方向一端側から前記水平方向他端側に延在して前記タンク本体内を前記ラジエータの冷却液の戻り側と供給側の通路に連通する複数の貯留室に区画・分割する隔壁部とを有し、前記隔壁部に、前記膨出部内で前記複数の貯留室を連通させるよう連通孔が形成されたことを特徴とする。
【0013】
このリザーブタンクでは、膨出部によりタンク下部に十分な冷却液貯留量を確保することで、タンク高さを抑えても所要の空気溜りを形成することができ、エンジンの運転時におけるラジエータ側からの冷却液の戻りを確実に吸収することができる。しかも、運転時にリザーブタンク内の冷却液面が傾斜しても、その液面はリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部内に制限されることから、ラジエータの冷却液の戻り側と供給側にそれぞれ配管接続された水平方向一端側の下部が液面上に露出することがなく、その一端側の下部の液中配置状態が維持されることになる。また、貯留室同士を連通させる連通孔が膨出部内に位置することから、ラジエータ側から一方の貯留室に入る気泡含有の冷却液がすぐに他方の貯留室に入ってエンジン側に供給されるといったことがない。さらに、水平方向一端側の下部でラジエータ側およびエンジン側への配管接続がなされ、液面も低く抑えられることから、ラジエータの内圧上昇を抑えることができる。
【0014】
上記(2)の構成を有するリザーブタンクは、好ましくは、(3)前記隔壁部に、前記タンク本体の上部内で前記複数の貯留室を連通させる空気流通用の連通孔が形成されたものである。
【0015】
この構成により、複数の貯留室に一様な圧力の空気溜まりを形成することができる。
【0016】
上記(1)〜(3)の何れかの構成を有するリザーブタンクは、(4)前記水平方向両端側を前記車両の左右方向に向けて前記車両に搭載されるのが望ましい。
【0017】
これにより、大きな横向き加速度が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合でも、ラジエータ側あるいは更にエンジン側に配管接続された水平方向一端側の下部の液中配置状態を維持することができる。
【0018】
上記(1)〜(4)の何れかの構成を有するリザーブタンクにおいては、(5)前記タンク本体の上部の前記水平方向における内幅が前記注入口の内径よりも大きいことを特徴とする。
【0019】
この場合、注水作業性が良好となる。
【0020】
上記(1)〜(5)の何れかの構成を有するリザーブタンクにおいては、(6)前記タンク本体の内底面からの前記膨出部の内面高さが、前記タンク本体の内底面からの前記冷却液の注入時液面高さの許容範囲より上方に位置するのが好ましい。
【0021】
これにより、空気溜りを十分に形成することができる。
【0022】
一方、本発明のエンジン冷却装置は、(7)上記(1)〜(6)の何れかの構成を有するリザーブタンクと、前記ラジエータと、前記冷却液を前記エンジン内および前記ラジエータ内を通して循環させるウォーターポンプと、を備えている。
【0023】
この構成により、エンジンの運転時に水平方向他端側に向かう加速度がリザーブタンクに作用し、リザーブタンク内に貯留された冷却液の液面が水平方向一端側に傾斜しても、その液面はリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部内に制限され、ラジエータ側に配管接続された水平方向一端側の下部が液面上に露出することなくその液中配置状態を維持できることになる。したがって、リザーブタンクからエンジン側に供給される冷却液への空気の混入によってウォーターポンプ内でキャビテーションが発生し、エンジンの冷却性能が低下してしまうという問題が解消される。
【0024】
上記(7)の構成を有するエンジン冷却装置は、(8)前記エンジンを搭載した車両に前記リザーブタンクが前記水平方向一端部および他端部を左右に向けた装着状態で装備されていることを特徴とする。
【0025】
この構成により、大きな横向き加速度が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合でも、ラジエータ側あるいは更にエンジン側に配管接続された水平方向一端側の下部の液中配置状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、膨出部によりタンク下部に十分な冷却液貯留量を確保することで、タンク高さを抑えても所要の空気溜りを形成してエンジンの運転時におけるラジエータ側からの冷却液の戻りを確実に吸収することができ、しかも、運転時に水平方向他端側に向かう加速度が作用してリザーブタンク内の冷却液面が水平方向一端側に傾斜したとしても、その液面をリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部内に制限して、ラジエータ側に配管接続された水平方向一端側の下部を液面上に露出させることなくその液中配置状態を維持することができる。さらに、水平方向一端側の下部でラジエータ側への配管接続がなされ、液面も低く抑えられるので、ラジエータの内圧上昇をも抑えることができる。その結果、タンク高さを抑えても、大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン側への冷却液中に空気が混入するのを確実に防止することができる低コストのリザーブタンクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
(第1の実施の形態)
図1〜図3は本発明のリザーブタンクおよびそれを備えたエンジン冷却装置の第1の実施の形態を示す図である。
【0028】
まず、その構成について説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態のエンジン冷却装置1は、ラジエータ12、アッパーホース13、ロワホース14、ウォーターポンプ15、サーモスタット16および密閉式のリザーブタンク20を備えている。
【0030】
ラジエータ12は、内燃機関であるエンジン11内の冷却通路11w(ウォータージャケット;詳細は図示しない)を通った冷却液、例えば冷却水Lを冷却風として供給される空気と熱交換して冷却する熱交換器であり、エンジン11からの冷却水の戻り側となるアッパータンク部12aと、エンジン11への冷却水の供給側となるロワタンク部12bとを有している。
【0031】
アッパーホース13およびロワホース14は、エンジン11内の冷却通路11wとラジエータ12内の熱交換通路を連通させるようエンジン11の冷却水入口11aおよび冷却水出口11bとラジエータ12のアッパータンク部12aおよびロワタンク部12bとをそれぞれ接続する耐熱性・耐圧性のある配管である。
【0032】
ウォーターポンプ15は、エンジン11からの動力により回転するようエンジン11に内蔵され、エンジン11内からアッパーホース13を通してラジエータ12に高温の冷却水が流入し、ラジエータ12で熱交換により冷却された冷却水がロワホース14を通してエンジン11側に供給される所定の循環経路で、あるいは更にエンジン11から配管18a、18bおよび車室側ヒーター19(ヒーター用熱交換器)内を通して、冷却水を循環させるようになっている。また、サーモスタット16は、ウォーターポンプ15の吸入側に配置され、冷却水温度に応じて開閉する流量調節バルブとして機能するものであり、ラジエータ12を通る冷却液の流量を調節することができるようになっている。
【0033】
ラジエータ12はその上部に注水口12cを有しており、その注水口12cに加圧・密閉式ラジエータキャップ17が着脱可能に取り付けられている。
【0034】
この加圧・密閉式ラジエータキャップ17は、ラジエータ12内の内圧変化に応じて開閉するバルブ機能を有するもので、注水口12c付近に配管接続されたリザーブタンク20への前記冷却水(蒸気泡を含む)の出入りを許容するようになっている。
【0035】
なお、上記ラジエータ12、アッパーホース13、ロワホース14、ウォーターポンプ15およびサーモスタット16は、それぞれ公知のものと同様である。
【0036】
一方、リザーブタンク20は、長手方向を略水平にしてその水平方向一端部および他端部を左右に向けた装着状態でエンジン冷却装置1の一部として車両の左右方向に向けた状態で車両に搭載されている。また、リザーブタンク20は、接続配管29a、29bを介してラジエータ12のアッパータンク部12a(冷却水の戻り側)と、エンジン11への冷却水供給側であるウォーターポンプ15の吸入側とに、それぞれ配管接続されている。
【0037】
図2および図3に示すように、リザーブタンク20は、その上部(図2(b)中のS1の範囲;以下、単に上部S1ともいう)に冷却水Lを注入する注水口21a(注入口)が形成され、注入された冷却水Lをその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体21と、注水口21aを加圧・密閉することができるようにタンク本体21の注水口21a付近に着脱可能に設けられた公知のタンクキャップ22とを有している。
【0038】
タンク本体21の長手方向である水平方向一端側の下部(図2(b)中のS2の範囲;以下、単に下部S2ともいう)には、ラジエータ12のアッパータンク部12a(冷却水の戻り側)に配管接続された円筒状の第1連通管部23と、この第1連通管部23に対し所定距離を隔てて平行に離間し、エンジン11への冷却水供給側であるウォーターポンプ15の吸入側に配管接続された第2連通管部24(図3(a)参照)とが、それぞれタンク本体21と一体に固定されており、第1連通管部23および第2連通管部24内の連通路23a、24aはタンク本体21の下部S2内、特にタンク本体21の内底面21bに近接する位置で開口している。
【0039】
また、タンク本体21は、その水平方向他端側(図2(a)中の右端側)の下部で水平方向一端側の下部S2から離隔する方向に膨出した膨出部25を有している。タンク本体21の内底面21bからこの膨出部25の上方側の内面25hまでの高さは、タンク本体21の内底面21bからの冷却水Lの注水時液面高さの許容範囲、すなわち図2(b)中のLOWレベルからFULLレベルまでの範囲より上方(許容液面レベルの最も高い位置であるFULLレベルより更に上方)に位置し、かつ、エンジン11の運転中にラジエータ12側からの冷却水の戻りによって上昇するときの液面レベルBよりはわずかに低くなるように設定されている。
【0040】
さらに、図2(a)に示すように、タンク本体21の上部S1の水平方向における内幅d2(最小内径)は、注水口21aの内径d1よりも大きくなっており、図2(b)に示すように、タンク本体21の下部S2の高さをタンク本体21の内底面21bから膨出部25の上方側の内面25hまでの高さとするとき、それを超えるタンク本体21の上部S1の容積がその水平断面積に相当する範囲外の膨出領域S3に膨出した膨出部25内の容積とほぼ等しいか、わずかに大きくなっている。
【0041】
また、タンク本体21には、タンク本体21の内底面21bから上方に突出するとともに水平方向一端側(図2(b)中の左端側)から水平方向他端側に向かって左右方向に延在する隔壁部26が設けられており、この隔壁部26により、タンク本体21の内部が、第1連通管部23を通してラジエータ12のアッパータンク部12a側に連通するラジエータ側貯留室27と、ラジエータ12のロワタンク部12bからエンジン11側への冷却水供給通路14aに連通するエンジン側貯留室28とに区画・分割されている。これらラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28は、タンク本体21内で車両の前後方向に隣り合う複数の貯留室となっている。
【0042】
隔壁部26は、また、図2(b)に示すように、膨出部25内に貫通孔26h(連通孔)を有しており、ラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28がこの貫通孔26hを通して、タンク本体21の下部である膨出部25内で互いに連通している。なお、隔壁部26は膨出部25の最奥部25eから離れた端部で膨出部25の内壁面との間に貫通孔26hに代わる連通孔を形成するものであってもよい。
【0043】
隔壁部26には、更に、タンク本体21の上部S1内でラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28を連通させる空気流通用の連通孔26jが形成されており、ラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28の上部側に同一圧力の空気溜まりが形成されるようになっている。
【0044】
なお、注水口21a近傍の隔壁部26の上端部26gは、例えば図3(a)に示すように注水口21aから注水された冷却水Lをラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28のうちいずれか一方側に導入するよう傾斜および湾曲した形状をなしている。ただし、隔壁部26の注水口21a近傍を切り欠いて、注水口21aから注水された冷却水Lをラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28の双方に導入するとともに、空気流通用の連通孔26jに代わる孔を形成し、注水口21a近傍を広く開放するようにしてもよい。
【0045】
次に、その作用を説明する。
【0046】
上述のように構成された本実施形態のリザーブタンク20では、膨出部25によりタンク本体21の下部S2側に十分な冷却液貯留量が確保され、タンク本体21の上部S1ではラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28が空気流通用の連通孔26jにより互いに連通することから、リザーブタンク20の全高を抑えても、ラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28の上部に一様な圧力の所要量の空気溜まりを形成することができ、エンジン11の運転時におけるラジエータ12側からの冷却水Lの戻りを確実に吸収することができる。
【0047】
また、エンジン11の運転時に水平方向他端側に向かう加速度、すなわち横向き加速度が作用し、リザーブタンク20内に貯留された冷却水Lの液面Bが例えば図2(b)に二点鎖線で示すように水平方向一端側に傾斜しても、その液面B´はリザーブタンク20の下部S2側に比較して水平断面積の狭い上部S1内に制限されることから、ラジエータ12の冷却水の戻り側と供給側にそれぞれ配管接続された水平方向一端側の下部、すなわち、第1連通管部23および第2連通管部24の連通路23a、24a(開口部分)が液面上に露出することはなく、それらの液中配置状態を維持できることになる。
【0048】
さらに、ラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28を互いに連通させる貫通孔26hが膨出部25内に位置することから、ラジエータ側貯留室27に入る気泡含有の冷却水Lがすぐにエンジン側貯留室28に入ってエンジン側に供給されてしまうといったことがなく、気泡が空気溜まりに抜けた後の冷却水Lがエンジン側に供給されることになる。
【0049】
また、タンク本体21の水平方向一端側の下部S2でラジエータ12側およびエンジン11側への配管接続がなされ、冷却水Lの液面Bも低く抑えられることから、ラジエータ12の内圧上昇をも抑えることができる。
【0050】
加えて、タンク本体21の上部S1の内幅d2が注水口21aの内径d1以上に大きくなっているので、注水作業性が良好となる。
【0051】
このように、本実施形態においては、第1連通管部23および第2連通管部24をリザーブタンク20の一端側下部S2に配置するとともに他端側下部に膨出部25を設けてタンク高さを抑え、車両に大きな横向き加速度が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合でも、ラジエータ12側およびエンジン11側に配管接続された第1連通管部23および第2連通管部24の通路開口部分の液中配置状態を確実に維持することができるとともに、ラジエータ12の内圧が上昇するのを抑えることができ、リザーブタンク20からエンジン11側に供給される冷却水への気泡の混入によってウォーターポンプ15内でキャビテーションが発生したり、そのためにエンジン11の冷却性能が低下したりするというようなことが防止される。その結果、タンク高さを抑えても、大きな加速度が作用するような走行状態下でエンジン11側への冷却水L中に空気が混入するのを確実に防止することができる低コストのリザーブタンク20を提供することができる。
【0052】
なお、上述の実施の形態では、第1連通管部23および第2連通管部24をタンク本体21の水平方向一端側の下部S2に平行に配置し、かつ、タンク本体21と一体にしていたが、タンク本体21の水平方向一端側の下部S2内でラジエータ側貯留室27およびエンジン側貯留室28に開口するものであれば、その配管経路は平行でなくてもよいし、上下方向に湾曲していてもよい。また、膨出部25の膨出方向である水平方向一端側の下部から離隔する方向は、水平方向の一端側から他端側に向かう方向のみならず、それと交差する略水平方向であってもよい。
【0053】
(第2の実施の形態)
図4は本発明のリザーブタンクの第2の実施の形態を示す図である。
なお、本実施形態は、リザーブタンク内の隔壁部の形態が上述の第1の実施の形態とは相違するものの、それ以外は上述の第1の実施の形態と類似するものであるので、図4中において、図1に示した第1の実施の形態の構成要素と同様なものについては、図1中の対応する構成要素と同一の符号で示し、以下、相違点について説明する。
【0054】
図4に示すように、本実施形態のリザーブタンク30は、冷却水Lをその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体31が、その長手方向(水平方向)を車両左右方向(水平方向)に向けて配置されており、タンク本体31の上部には、冷却水Lを注入する注水口31a(注入口)が形成され、その注水口31aを加圧・密閉するタンクキャップ32が着脱可能に取り付けられている。
【0055】
また、タンク本体31の長手方向一端側の下部S2には、ラジエータ12のアッパータンク部12a側およびエンジン11側にそれぞれ配管接続される第1連通管部33および第2連通管部34がタンク本体31と一体にかつ互いに平行に離間して装着されている。
【0056】
さらに、タンク本体31は、長手方向他端側の下部に、その長手方向端側の下部から離隔する方向に膨出した膨出部35を有しており、この膨出部35により、タンク本体31の下部に十分な冷却液貯留量を確保するようになっている。
【0057】
一方、タンク本体31には、タンク本体31の内底面31bから上方に突出するとともに水平方向一端側(図4(a)中の左端側)から水平方向他端側に向かって左右方向に延在する複数、例えば3つの隔壁部36A、36B、36Cが設けられており、これらの隔壁部36A〜36Cによって、タンク本体31の内部は、第1連通管部33を通してラジエータ12のアッパータンク部12a側に連通するラジエータ側貯留室37と、第2連通管部34を通してラジエータ12のロワタンク部12bからエンジン11側への冷却水供給通路14aに連通するエンジン側貯留室38とに区画・分割されている。これらラジエータ側貯留室37およびエンジン側貯留室38は、タンク本体31内で車両の前後方向に隣り合う複数の貯留室となっている。
【0058】
ここで、隔壁部36A、36Cは膨出部35の最奥部の内壁面から離隔し、両隔壁部36A、36Cの間に位置する隔壁部36Bはタンク本体31の長手方向一端側の内壁面から離隔しており、これら隔壁部36A〜36Cによって、膨出部35内にU字形に折り返された貫通孔36h(連通孔)が形成されている。また、ラジエータ側貯留室37およびエンジン側貯留室38がこの貫通孔36hを通して、タンク本体31の下部である膨出部35内で互いに連通している。隔壁部36A〜36C(隔壁部36A、36Cのみでもよい)には、更に、タンク本体31の上部S1内でラジエータ側貯留室37およびエンジン側貯留室38を連通させる空気流通用の連通孔36jがそれぞれに形成されており、ラジエータ側貯留室37およびエンジン側貯留室38の上部側に同一圧力の空気溜まりが形成されるようになっている。
【0059】
なお、隔壁部36の上端側のうち注水口31a近傍は、切り欠かれていてもよく、その切欠きが連通孔36jと一体化されていてもよい。
【0060】
本実施形態においても、リザーブタンク30の一端側下部S2に第1連通管部33および第2連通管部34を配置するとともに他端側下部に膨出部35を設けてタンク高さを抑えているので、車両に大きな横向き加速度が作用するコーナリング時のような走行状態が比較的長く続くような場合でも、ラジエータ12側およびエンジン11側に配管接続された第1連通管部33および第2連通管部34の通路開口部分の液中配置状態を確実に維持することができるとともに、ラジエータ12の内圧が上昇するのを抑えることができ、リザーブタンク30からエンジン11側に供給される冷却水への気泡の混入によってウォーターポンプ15内でキャビテーションが発生したり、そのためにエンジン11の冷却性能が低下したりするというようなことが防止される。その結果、上述の第1の実施の形態と同様な効果が期待できる。
【0061】
また、本実施形態では、複数の隔壁部36A〜36Cによって第1連通管部33および第2連通管部34のタンク内開口部分の間に貫通孔36hを含む長い流通経路が設定されているので、エンジン11側への冷却水L中に気泡が混入するのがより確実に防止される。
【0062】
以上説明したように、本発明は、膨出部によりタンク下部に十分な冷却液貯留量を確保することで、タンク高さを抑えても所要の空気溜りを形成し、しかも、運転時にリザーブタンク内の冷却液面が傾斜したとしても、その液面をリザーブタンクの下部に比較して水平断面積の狭い上部S1内に制限することで、ラジエータ側に配管接続された水平方向一端側の下部を液面上に露出させることなくその液中配置状態を維持させることができ、さらに、ラジエータの内圧上昇をも抑えることができるという効果を奏するものであり、リザーブタンクおよび同タンクを備えたエンジン冷却装置、特に冷却液の上方に冷却液面変化に応じて体積変化する空気溜まりを形成するようにした密閉型のリザーブタンクおよびエンジン冷却装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のリザーブタンクを備えたエンジン冷却装置の第1の実施の形態を示すそのシステム構成図である。
【図2】(a)は第1の実施の形態に係るリザーブタンクの正面図、(b)は第1の実施の形態に係るリザーブタンクの正面断面図である。
【図3】(a)は図2のIII-III断面図、(b)は図2のIV-IV断面図である。
【図4】本発明のリザーブタンクの第2の実施の形態を示す図で、(a)はそのリザーブタンクの平面断面図、(b)はそのリザーブタンクの正面断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 エンジン冷却装置
11 エンジン
11a 冷却水入口
11b 冷却水出口
11w 冷却通路
12 ラジエータ
12a アッパータンク部(上部タンク)
12b ロワタンク部(下部タンク)
12c 注水口
13 アッパーホース
14 ロワホース
14a 冷却水供給通路
15 ウォーターポンプ
16 サーモスタット
17 加圧・密閉式ラジエータキャップ
19 車室側ヒーター
20、30 リザーブタンク
21、31 タンク本体
21a、31a 注水口(注入口)
21b、31b 内底面
22、32 タンクキャップ
23、33 第1連通管部
24、34 第2連通管部
25、35 膨出部
25h 内面
26、36A、36B、36C 隔壁部
26h、36h 貫通孔(冷却水用の連通孔)
26j、36j 連通孔(空気流通用の連通孔)
27、37 ラジエータ側貯留室(貯留室)
28、38 エンジン側貯留室(貯留室)
d1 注水口の内径
d2 タンク本体の上部の内幅
L 冷却水(冷却液)
S1 タンク本体の上部
S2 タンク本体の下部
S3 膨出領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータ側に水平方向一端側の下部で配管接続されるとともに上部に冷却液を注入する注入口が形成され、前記冷却液をその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体と、前記注入口を密閉するキャップト、を備えた密閉型のリザーブタンクにおいて、
前記タンク本体が、水平方向他端側の下部で前記水平方向一端側の下部から離隔する方向に膨出した膨出部を有することを特徴とするリザーブタンク。
【請求項2】
ラジエータの冷却液の戻り側と供給側に水平方向一端側の下部でそれぞれ配管接続されるとともに上部に冷却液を注入する注入口が形成され、前記冷却液をその上方の空気溜まりと共に貯留するタンク本体と、前記注入口を密閉するキャップと、を備えた密閉型のリザーブタンクにおいて、
前記タンク本体が、前記タンク本体の水平方向他端側の下部で前記水平方向一端側の下部から離隔する方向に膨出した膨出部と、前記タンク本体の内底面から上方に突出するとともに前記水平方向一端側から前記水平方向他端側に延在して前記タンク本体内を前記ラジエータの冷却液の戻り側と供給側の通路に連通する複数の貯留室に区画する隔壁部とを有し、
前記隔壁部に、前記膨出部内で前記複数の貯留室を連通させるよう連通孔が形成されたことを特徴とするリザーブタンク。
【請求項3】
前記隔壁部に、前記タンク本体の上部内で前記複数の貯留室を連通させる空気流通用の連通孔が形成されたことを特徴とする請求項2に記載のリザーブタンク。
【請求項4】
前記水平方向両端側を前記車両の左右方向に向けて前記車両に搭載されることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載のリザーブタンク。
【請求項5】
前記タンク本体の上部の前記水平方向における内幅が前記注入口の内径よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載のリザーブタンク。
【請求項6】
前記タンク本体の内底面からの前記膨出部の内面高さが、前記タンク本体の内底面からの前記冷却液の注入時液面高さの許容範囲より上方に位置することを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載のリザーブタンク。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか1項に記載のリザーブタンクと、
前記ラジエータと、
前記冷却液を前記エンジン内および前記ラジエータ内を通して循環させるウォーターポンプと、を備えたエンジン冷却装置。
【請求項8】
前記エンジンを搭載した車両に前記リザーブタンクが前記水平方向一端部および他端部を左右に向けた装着状態で装備されていることを特徴とする請求項7に記載のエンジン冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−190443(P2008−190443A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26554(P2007−26554)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591159055)トヨタテクノクラフト株式会社 (19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)