説明

リソソーム蓄積症のための脳室内酵素の輸送

リソソーム蓄積症は、病因として欠乏している酵素の脳室内輸送を用いてうまく治療され得る。投与は、ゆっくり行われることにより最大の効果が達成され得る。驚くべきことに、血液脳関門の両側で効果が観察され、これは、脳と内臓の両方に罹患したリソソーム蓄積症に対する理想的な輸送手段として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソソーム蓄積症の領域に関する。特に、酵素補充療法によるこれらの病気の治療および/または予防に関連する。
【0002】
(発明の要約)
リソソーム蓄積症(LSD)として知られる代謝性疾患のグループは、40種類以上の遺伝子疾患を含み、それらの多くは多様なリソソーム加水分解酵素における遺伝子欠損に関する。代表的なリソソーム蓄積症および関連する欠損酵素が表1に記載される。
(表1)
【表1】

【表2】

【表3】

【0003】
LSDの顕著な特徴はリソソーム代謝産物の異常な蓄積であり、核周辺部における多数の膨張したリソソームの形成を生じる。(器官特異的な酵素病、例えば肝臓特異的な酵素病の治療に対峙する)LSDを治療する主な試みには、複数の別々の組織において、リソソーム蓄積の病態を逆行させることが必要となる。いくつかのLSDは、酵素補充療法(ERT)として知られる喪失した酵素の経静脈内注入により効果的に治療され得る。例えば、ゴーシェ病1型患者が内臓疾患のみにかかっていると、組み換えグルコセレブロシダーゼ(Cerezyme(登録商標)、ジェンザイム社)を用いてERTに有利に反応する。しかし、CNSに罹患する代謝性疾患にかかっている患者(例、2または3型のゴーシェ病)は、補充酵素が血液脳関門(BBB)により脳に入ることを阻害されるため、静脈内のERTに対して部分的にしか反応しない。さらに、直接注射による脳への補充酵素を導入する試みは、一部には、局所的な高濃度による酵素の毒性および脳における限られた柔組織への拡散割合のために限定されている(Pardridge,Peptide Drug Delivery to the Brain,Raven Press,1991)。
【0004】
1つの典型的なLSDがニーマン−ピック病A型(NPA)である。UniProtKB/Swiss-Prot entry P17405によると、染色体11番目上に位置するSMPD1遺伝子(11p15.4-p15.1)の欠損は、病気の古典的な最初期の形態とも称されるニーマン−ピック病A型(NPA)の因子である。ニーマン−ピック病は、臨床的および遺伝学的にヘテロ劣性の疾患である。それは、リソソームにおけるスフィンゴミエリンおよびその他代謝関連の脂質の蓄積により引き起こされ、早い時期から始まる神経変性を生じさせる。患者は、黄色腫、色素沈着、肝脾腫、リンパ節腫および知的障害を示しうる。ニーマン−ピック病は、一般人口よりアシュケナージ系ユダヤ人の祖先の個体でより頻繁に生じる。NPAは、幼児期の非常に早い時期に発症することにより特徴付けられ、急速な進行性経過により3年までに死に至る。NPAにおいて欠損する酸スフィンゴミエリナーゼ酵素(ASM)は、スフィンゴミエリンをセラミドに変換する。ASMはまた、1,2−ジアシルグリセロールホスホコリンおよび1,2−ジアシルグリセロールホスホグリセロールに対してホスホリパーゼC活性を示す。この酵素は、
スフィンゴミエリン+HO→N−アシルスフィンゴシン+コリンリン酸塩
に変換する。
【0005】
本発明によると、上記表1で特定される病気のごときリソソーム蓄積症、例えば、ニーマン−ピック病A型またはB型は、前記病気の病因として欠乏する酵素の脳への脳室内輸送を用いて治療および/または予防される。投与は、ゆっくり行われることにより最大の効果を達成することができる。効果は血液脳関門の両側で見られ、これは、脳および/または内臓に影響を与えるリソソーム蓄積症に対する有用な送達手段とされる。それゆえに、第1の態様では、本発明は、酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の患者を治療または予防する方法であって、前記方法は、酵素を脳への脳室内輸送を通して患者に投与することを含む方法を提供する。関連の態様では、本発明は、患者の酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の患者の治療または予防のための医薬品の製造のための酵素の使用であって、前記治療または予防が酵素の脳への脳室内投与を含む、酵素の使用を提供する。酵素の欠乏は、例えば、酵素の発現における欠乏、あるいはインビボにおいて酵素の活性レベルの減少(例、不活性な酵素)またはクリアランス/分解の速度の上昇をもたらす酵素の変異により引き起こされてもよい。欠乏は酵素基質の蓄積を引き起こし、酵素の投与は脳の基質レベルの減少をもたらしうる。リソソーム蓄積症は、上記表1で同定される病気のいずれかであってもよい。酵素は、リソソーム加水分解酵素であってもよい。
【0006】
本発明の一の具体例に従って、ニーマン−ピック病A型またはB型にかかっている患者が治療される。酸スフィンゴミエリナーゼは、前記脳のスフィンゴミエリンのレベルを下げるのに十分な量で脳への脳室内輸送により患者に投与される。
【0007】
本発明の別の態様は、リソソーム蓄積症の患者を治療または予防するためのキットであって、前記病気が酵素の欠乏により引き起こされるものである。前記キットは、欠乏する酵素、ならびに酵素の1カ所以上の脳室への輸送のためのカテーテルおよび/またはポンプを含む。前記カテーテルおよび/またはポンプは、脳室内輸送用に特別に設計および/または適用されてもよい。一の具体例によると、本発明は、ニーマン−ピック病A型またはB型にかかっている患者を治療するためのキットを提供する。キットは、酸スフィンゴミエリナーゼ、および前記酸スフィンゴミエリナーゼの患者の脳室への輸送のためのカテーテルを含む。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、ニーマン−ピック病A型またはB型にかかっている患者を治療するためのキットである。キットは、酸スフィンゴミエリナーゼおよび前記スフィンゴミエリナーゼの患者の脳室への輸送のためのポンプを含む。
【0009】
本発明に従って、酵素の基質の蓄積をもたらす酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者が治療され得る。かかる病気は、ゴーシュ病、MPSI型およびII型、ポンぺ病、ならびにバッテン病(CLN2)、その他のものを含む。個々の病気における酵素の欠乏は、脳への脳室内輸送により患者に投与される。それは、側脳室および/または第四脳室に投与されてもよい。本発明に従った酵素の投与速度は、単回用量の投与がボーラスとしてであってもよく、あるいは、約1〜5分、約5〜10分、約10〜30分、約30〜60分、約1〜4時間をかけてよく、または4、5、6、7、もしくは8時間以上をかけてもよい。それにより、前記脳における基質のレベルが減少してもよい。単回用量の投与は、1分以上、2分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上、1時間以上、2時間以上、または3時間以上かけてもよい。
【0010】
本明細書を読んだ当業者に明確であるこれらとその他の具体例は、当該技術分野にリソソーム蓄積症、特にCNSと内臓の両方の病変に関連するものの治療および/または予防のための方法およびキットを提供する。
【0011】
(図面の簡単な説明)
図1は、スフィンゴミエリン用に解析される脳の切片の略図を示す。S1は脳の前部であり、S5は脳の後部である。
【0012】
図2は、rhASMの脳室内投与がASMKOマウスの脳におけるSPMレベルを下げることを示す。
【0013】
図3は、rhASMの脳室内投与がASMKOの肝臓、脾臓、および肺におけるSPMレベルを下げることを示す。
【0014】
図4は、脳室内注入後の脳のrASM染色を示す。
【0015】
図5は、6時間以上をかけたrhASMの脳室内注入がASMKOマウスの脳におけるSPMレベルを下げることを示す。
【0016】
図6は、6時間以上をかけたrhASMの脳室内注入がASMKOマウスの肝臓、血清、および肺におけるSPMレベルを下げることを示す。
【0017】
図7は、病気または酵素活性について確認されたhASM変異体とそれらの関係を示す。
【0018】
図8は、脳室が示された脳の断面図を示す。
【0019】
図9Aと図9Bは、脳室の側面図と上面図それぞれを示す。
【0020】
図10は、側脳室への注入を示す。
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施は、特に示されない限り、当業者の技術範囲内における免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学および組み換えDNAの従来技術を用いる。例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd edition (1989); CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel, et al. eds., (1987)); the series METHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.): PCR 2: A PRACTICAL APPROACH (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995)), Harlow and Lane, eds. (1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE (R.I. Freshney, ed. (1987))を参照。
【0022】
明細書と特許請求の範囲に用いられるように、単数形「a」、「an」および「the」は、内容が明白に他のことを示していなければ、複数の対照を含む。例えば、用語「細胞」は、複数の細胞の混合物を含む複数の細胞を含む。
【0023】
本明細書で用いられるように、用語「含む」は、組成物と方法が列挙された構成要素を含むが、その他のものを除かないことを意味することが意図される。「から必須としてなる」は、組成物と方法を定義することに用いられる場合、組合せに対して必須な意義のある他の構成要素を除くことを意味するものとする。それゆえ、本明細書で定義される構成要素から必須としてなる組成物は、単離や精製の方法による微量な混入物質ならびにリン酸緩衝生理食塩水、保存料、およびそれらの類似物質のごとき医薬上許容されるキャリアを除かない。「からなる」は、他の活性物質の微量な構成要素よりも多くのものを除き、本発明による組成物または医薬品を投与するための実質的な方法の工程を除くことを意味するものとする。これらの移行部用語のそれぞれにより定義される具体例は、本発明の範囲内である。
【0024】
全ての数字表示、例えば、pH、温度、時間、濃度、および分子量は範囲を含み、0.1ずつの(+)または(−)で変動する近似値である。それは、必ずしも明確に、全ての数字表示の前に用語「約」が付されて記載されていないが、全ての数字表示の前に「約」が記載されているものと理解されるものとする。それはまた、必ずしも明確に、本明細書に記載される試薬が単に例示であり、当該技術分野で公知であるものと等価物が用いられてもよいことが記載されていないが理解されるものとする。
【0025】
用語「治療上の」、「治療上有効な量」、およびそれらの関連用語は、対象の病気の1以上の症状の、発症の予防もしくは遅延、または改善、あるいは神経病理の修正のごとき望まれる生物学的効果の実現を生じる物質、例えば、酵素またはタンパク質の量を意味する。用語「治療上の修正」は、対象の1以上の症状の発症の予防もしくは遅延、または改善を生じる修正の程度を意味する。有効な量は、公知の経験的な方法により決めることができる。
【0026】
「組成物」または「医薬品」は、活性薬剤、例えば、酵素、およびキャリアもしくは他の物質、例えば、アジュバント、希釈剤、結合剤、安定剤、緩衝液、塩、親油性溶媒、保存剤、アジュバンドもしくはその類似物、またはこれらの物質の2以上の混合物のごとき不活性(例えば、検出可能な薬剤もしくはラベル)または活性のある化合物もしくは組成物の組合せを網羅することが意図される。キャリアは、好ましくは医薬上許容される。それらは、単独もしくは組合せで存在することができ、単独もしくは組合せで1〜99.99重量%または体積%を占める、医薬賦形剤と添加剤、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、および炭水化物(例、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、およびオリゴ糖類を含む糖;アルジトール、アルドン酸、エステル化された糖およびその類似物のごとき誘導体化された糖;ならびに多糖類または糖重合体)を含んでもよい。典型的なタンパク質の賦形剤は、ヒト血清アルブミン(HSA)、組み換えヒトアルブミン(rHA)、ゼラチン、カゼイン、およびそれらの類似物のごとき血清アルブミンを含む。代表的なアミノ酸/抗体の構成成分は、緩衝能中で機能することもでき、アラニン、グリシン、アルギニン、ベタイン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、リシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパルテーム、およびそれらの類似物を含む。炭水化物の賦形剤もまた、本発明の範囲内であり、その例として、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボース、およびそれらの類似物のごとき単糖類;ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオース、およびそれらの類似物のごとき二糖類;ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプン、およびそれらの類似物のごとき多糖類;ならびにマンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトールソルビトール(グルシトール)およびミオイノシトールのごときアルジトールを含むが、これらだけに限定されない。
【0027】
用語キャリアはまた、緩衝液またはpH調整剤、あるいはそれを含む組成物を包含し;典型的には、緩衝液は有機酸または塩基から調製された塩である。代表的な緩衝液は、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、炭酸、酒石酸、コハク酸、酢酸、またはフタル酸の塩のごとき有機酸塩、トリス、トロメタミン塩酸、あるいはリン酸緩衝液を含む。さらなるキャリアは、ポリビニルピロリドン、フィコール(重合体の糖)、デキストレーツ(dextrates)(例、2−ヒドロキシプロピル−クアドラチャ(quadrature)−シクロデキストリンのごときシクロデキストリン)、ポリエチレングリコール、香味料、抗菌剤、甘味料、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤(例、「TWEEN 20」および「TWEEN 80」のごときポリソルベート)、脂質(例、リン脂質、脂肪酸)、ステロイド(コレステロール)、およびキレート剤(例、EDTA)のごとき重合体の賦形剤/添加剤を含む。
【0028】
本明細書で用いられるように、用語「医薬上許容されるキャリア」は、リン酸緩衝生理食塩水溶液、水、および油/水または水/油のような乳剤、ならびに様々な型の湿潤剤のごとき一般的な医薬キャリアを含む。本発明に従って製造および/または使用され、欠乏が補充される各酵素を含む組成物および医薬品は、インビボの使用に許容可能であるというさらなる条件とともに、安定剤および保存料ならびに上記記載のキャリアを含むことができる。キャリア、安定剤およびアジュバントの例として、Martin REMINGTON'S PHARM. SCI., 15th Ed. (Mack Publ. Co., Easton (1975) and Williams & Williams, (1995), and in the ''PHYSICIAN'S DESK REFERENCE'', 52nd ed., Medical Economics, Montvale, N.J. (1998)を参照。
【0029】
「対象」、「個体」または「患者」は、本明細書ではほとんど同じ意味で用いられ、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを意味する。哺乳類は、マウス、ラット、サル、ヒト、家畜動物、娯楽動物、およびペットを含むが、これらだけに限定されない。
【0030】
本明細書で用いられるように、用語「調節する」は、例えば、増強、増大、縮小または減少させるために、効果または結果の量または強度を変動させることを意味する。
【0031】
本明細書で用いられるように、用語「改善する」は、「緩和する」と同意語であり、減少または軽減することを意味する。例えば、1つは病気または疾患の症状をより我慢させやすくすることにより改善してもよい。
【0032】
ヒトの脳構造の同定については、例えば、The Human Brain: Surface, Three Dimensional Sectional Anatomy With MRI, and Blood Supply, 2nd ed., eds. Deuteron et al., Springer Vela, 1999; Atlas of the Human Brain, eds. Mai et al., Academic Press; 1997; and Co Planar Stereotaxic Atlas of the Human Brain: 3 Dimensional Proportional System: An Approach to Cerebral Imaging, eds. Tamarack et al., Thyme Medical Pub., 1988を参照。マウスの脳構造の同定については、例えば、The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates, 2nd ed., Academic Press, 2000を参照。
【0033】
本発明者らは、リソソーム加水分解酵素のその酵素を欠乏する患者の脳への脳室内輸送が、脳および罹患した内臓(CNSではない)の改善された代謝状態を導くことを知見した。このことは、特に、ボーラス輸送と比較して輸送速度がゆっくりである場合に当てはまる。それゆえ、上記表1で同定される病気のごとき特定の酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症は、各酵素の脳室内投与により治療または予防されてもよい。ニーマン−ピック病A型またはB型を治療するための一の特に有用な酵素は、配列番号1(残基1〜46は分泌時に切り離されるシグナル配列を構成する)で示されるごとき酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM)である。ゴーシェ病を治療するための一の特に有用な酵素は、グリコセレブロシダーゼである。MPS症I型を治療するための一の特に有用な酵素は、アルファ−L−イズロニダーゼである。MPS症II型を治療するための一の特に有用な酵素は、イズロン酸−2−スルファターゼである。酸マルターゼ欠乏(AMD)とも呼ばれるポンペ病、またはグリコーゲン蓄積症II型(GSDII)を治療するための一の特に有用な酵素は、酸アルファ−グルコシダーゼである。古典的遅発乳児型バッテン病(CNL2)を治療するための一の特に有用な酵素は、トリペプチジルペプチダーゼである。本発明に従って使用および/または投与される酵素は、当該技術分野に周知である方法を用いて生成される酵素の組み換え形態であってもよい。一の具体例では、酵素は組み換えヒト酵素である。
【0034】
リソソーム酵素、より適切にはリソソーム加水分解酵素のその酵素を欠乏する患者への投与は、脳脊髄液(CSF)で満ちている1つ以上の脳の脳室内のいずれかに行われてもよい。CSFは脳室を満たす透明な液体であり、くも膜下腔に存在し、脳と脊髄の周辺に位置する。CSFは、脈絡叢により生成され、脳室への脳による組織液の浸出または透過を介して生成される。脈絡叢は、側脳室床と第三または第四脳室蓋の内側に並んだ構造である。ある研究では、これらの構造は1日で中枢神経系の空間の4倍量に相当する1日あたり400〜600ccの液を生成できることが示された。成人では、この液体の体積は、125から150ml(4〜5oz)までであることが算出されている。CSFは、連続的な形成、循環および吸収の状態にある。ある研究では、約430から450ml(2カップ近く)のCSFが毎日生成されうることが示されている。ある計算では、生成は、大人では1分あたり約0.35mlおよび幼児では1分あたり0.15mlと等価であると評価される。側脳室の脈絡叢が大半のCSFを生成する。それは、モンロー孔を通って第三脳室へと流れ、第三脳室からの生成が付加され、シルビウス水道を通過して第四脳室へと下へ続く。第四脳室はより多くのCSFを付加する。次いで、この液体は、マジャンディおよびルシュカ孔を通ってくも膜下腔へと進行する。その後、それは、脳の基底部、脊髄付近の下部および大脳半球の上部を循環する。CSFは、くも膜絨毛および頭蓋内洞様血管を通じて血液に流入し、それにより脳室に注入される酵素を脳だけでなくLSDに罹患したことが知られている内臓にも輸送する。
【0035】
特定のアミノ酸配列が配列番号1に示されているが、活性を有する配列の変異体、例えば人間の正常な変異もまた用いることができる。典型的には、これらの正常な変異体は配列番号1に示される配列とわずか1または2個の残基が異なる。本発明に従って用いられる配列番号1の変異体は、自然発生型であるかないかによらず、配列番号1に対して少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の同一性であるべきである。他の酵素の変異体が本発明に従って用いられてもよい。しかしながら、用いられる酵素にかかわらず、病気に関連するか、または活性が減少する変異体は用いるべきではない。典型的には、酵素の成熟形態が輸送される。配列番号1の場合では、成熟形態は、配列番号1で示されるように残基47から開始する。病気に関連する変異体は図7に示される。同様に、酵素活性が維持されるグルコセレブロシダーゼ、アルファ−L−イズロニダーゼ、イズロン酸−2−スルファターゼ、酸アルファグルコシダーゼ、およびトリペプチジルペプチダーゼのごときLSD酵素の、ヒト集団における正常な変異体もまた用いることができる。
【0036】
本発明によるキットは、別々の構成要素の集合体である。それらは、単一容器に包装することができる一方、別々に部分包装することもできる。単一容器であったとしても区切りで分離することができる。典型的には、1組の説明書がキットに添付され、酵素、例、リソソーム加水分解酵素を脳室内に輸送するための説明書を提供する。説明書は、印刷された形態、電子形態、インストラクションビデオまたはDVDとして、コンパクトディスク、フロッピーディスク、パッケージに付与されたアドレスのインターネット上、あるいはこれらの手段の組合せであってもよい。希釈剤、緩衝液、溶媒、テープ、ネジ、およびメンテナンス用道具のごとき他の構成成分が、酵素、1つ以上のカニューレもしくはカテーテル、および/またはポンプに加えて提供されうる。
【0037】
本発明の方法により治療される集団は、神経代謝症、例えば、特にかかる病気がCNSと内臓に罹患した場合、表1に記載される病気のごときLSDにかかっているか、またはリスクのある患者を含むが、これらだけに限定されない。例示する具体例では、前記病気はニーマン−ピック病A型である。
【0038】
ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素は、十分なレベルのリソソーム加水分解活性により特徴付けられる条件に治療、例えば、阻害、軽減、予防、または改善するのに有用な医薬組成物に組み込まれうる。医薬組成物は、リソソーム加水分解欠乏を患っている対象または前記欠乏を発生するリスクのある人に投与される。この組成物は、医薬上許容されるキャリア中に、治療量または予防量のASMまたは他のリソソーム加水分解酵素を含むべきである。医薬キャリアは、ポリペプチドを患者に輸送するのに適する、適合性無毒化物質のいずれかでありうる。滅菌された水、アルコール、脂肪、ワックスがキャリアとして用いられてもよい。医薬上許容されるアジュバンド、緩衝剤、分散剤、およびそれらの類似物はまた、医薬上許容される組成物に組み込まれてもよい。これらのキャリアは、脳室内注射または注入あるいは他の方法による投与に適するいずれかの形態(その形態はまた、静脈内または髄腔内投与に適合させることも可能である)で、ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素と結合されうる。適するキャリアは、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)(ニュージャージー州、パーシッパニーのBASF)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水ならびに石油、動物、植物、または合成由来の油(ピーナッツ油、大豆油、鉱油、またはゴマ油)と一緒に作製されたもののごとく油乳剤を含む。人工的なCSFはキャリアとして用いることができる。このキャリアは、好ましくは無菌であり、発熱物質を含まない。医薬組成物中のASMまたは他のリソソーム加水分解酵素の濃度は、広範囲、すなわち、総組成物の少なくとも約0.01重量%から0.1重量%、約1重量%、20重量%以上に変動することができる。
【0039】
ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素の脳室内投与では、組成物は無菌性でなければならず、かつ流体であるべきである。それは、製造および貯蔵の条件下で安定であり、かつ細菌や真菌のごとき微生物の夾雑作用に対して保存されなくてはならない。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール、およびそれらの類似物質により達成することができる。多くの場合、組成物中に、等張剤、例えば、糖、ならびにマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムのごときポリアルコールを含むことが好ましい。
【0040】
ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素の用量は、特定の酵素およびその特異的なインビボ活性、投与経路、患者の病状、年齢、体重もしくは性別、患者のASMもしくは他のリソソーム加水分解酵素またはビヒクルの構成成分に対する感受性、ならびに他の因子に依存して個々に多少異なっていてもよく、医師が容易に考慮することができる。用量が病気と患者に依存して変化してもよい一方で、酵素は、一般的に、1ヶ月あたり50kgの患者に対して約0.1から約1000ミリグラムまでの量で患者に投与される。一の具体例では、酵素は、1ヶ月あたり50kgの患者に対して約1から約500ミリグラムの量で患者に投与される。他の具体例では、酵素は、1ヶ月あたり50kgの患者に対して約5から約300ミリグラム、あるいは1ヶ月あたり50kgの患者に対して約10から約200ミリグラムの量で患者に投与される。
【0041】
投与速度は、単回用量の投与がボーラスとして投与されてもよいものである。単回用量はまた、約1〜5分、約5〜10分、約10〜30分、約30〜60分、約1〜4時間にわたり注入されてもよく、あるいは4、5、6、7、または8時間より長くかけてもよい。それは、1分より長く、2分より長く、5分より長く、10分より長く、20分より長く、30分より長く、1時間より長く、2時間より長く、または3時間より長くかけてもよい。出願人は、ボーラス脳室内投与が効果的でありうる一方で、ゆっくりした注入が非常に効果的であることを観察した。出願人は作用の特定の理論に拘束されたくはないが、ゆっくりした注入が脳脊髄液(CSF)の代謝回転によりより効果的であると考えている。文献上の推定値と計算は様々であるが、脳脊髄液は、ヒトでは約4、5、6、7、または8時間以内に代謝回転すると考えられている。一の具体例では、本発明のゆっくりした注入時間は、CSFの代謝回転時間とおよそ同等またはそれ以上になるように測定されるべきである。代謝回転時間は、対象の種、大きさ、および年に依存してもよいが、当該技術分野に公知の方法を用いて決定されてもよい。注入はまた、1日以上の期間にわたり連続的であってもよい。患者は、1ヶ月、例えば1週、例えば隔週に1回、2回、または3回以上治療されてもよい。注入は、脳または内臓における病気の基質の再貯蓄に影響されるように、対象の生涯をかけて繰り返されてもよい。再蓄積は、関連基質の同定および定量化における技術分野で周知である技術のいずれかにより決定されてもよく、前記技術は、脳および/または1つ以上の内臓の器官から採取された1個以上のサンプルで行われてもよい。かかる技術は、酵素アッセイおよび/または免疫アッセイ、例えば、放射性免疫アッセイまたはELISAを含む。
【0042】
CSFは、くも膜絨毛および頭蓋内洞様血管を通って血液に流入し、それによりLSDに罹患されることが知られる内臓器官に注入された酵素を輸送する。ニーマン−ピック病に高頻度で罹患される内臓は、肺、脾臓、腎臓、および肝臓である。ゆっくりした脳室内注入は、少なくとも脳および可能性のある内臓器官において、投与された酵素に対する基質の減少した量を提供する。脳、肺、脾臓、腎臓、および/または肝臓に蓄積された基質の減少は急速であってもよい。10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%より大きな減少が達せられ得る。達せられた減少は、患者によってまたは一人の患者内でも器官によって必ずしも一定ではない。減少は、当該技術分野で周知の技術のいずれか、例えば、本明細書の他の箇所に記載されるような酵素アッセイおよび/または免疫アッセイにより調べることができる。
【0043】
必要に応じて、ヒトの脳構造は、別の哺乳類の脳における同様の構造と相互に関連付けられ得る。例えば、ヒトと齧歯類を含むほとんどの哺乳類は、内側海馬の突起部において類似の解剖学的組織を示す。それは、側面と内側の両方の嗅内皮質の側面部分の神経が海馬の背側部分または中隔ポール(septal pole)に投射し、一方で、腹側の海馬への投射が嗅内皮質の内側部分の神経から始まることにある(Principles of Neural Science, 4th ed., eds Kandel et al., McGraw Hill, 1991; The Rat Nervous System, 2nd ed., ed. Paxinos, Academic Press, 1995)。さらに、嗅内皮質の層II細胞は歯状回に投射し、それらは歯状回の外側3分の2で終結する。層III細胞からの軸索は、海馬のアンモン角領域CA1とCA3の両側に投射し、網状分子層で終結する。
【0044】
例示の具体例では、投与は、対象または患者の側脳室の片側または両側へのLSD酵素の注入により行われる。側脳室へ注入することにより、最大量のCSFが生成される脳の部位に酵素が輸送される。酵素はまた、1つ以上の脳の脳室に注入されてもよい。治療は標的部位あたり単一の注入からなってもよく、または繰り返されてもよい。複数の注入/注射部位が用いられうる。例えば、酵素が投与される脳室は、側脳室および第四脳室を含んでもよい。いくつか具体例では、第一の投与部位に加えて、LSD酵素を含む組成物が第一の投与部位と同側または対側でありうる別の部位に投与される。注射/注入は、単回または複数回であり、片側または両側でありうる。
【0045】
酵素を含む溶液または他の組成物を、特に、特定の脳室、例えば、側脳室または第四脳室のごとき中枢神経系の特定領域に輸送するため、定位固定マイクロインジェクション(stereotaxic microinjection)により投与されてもよい。例えば、外科手術の日に、患者は位置を固定された定位固定フレーム基材を取り付けられる(頭蓋内にネジ止めされる)。定位固定フレーム基材(MRIにも使え、基準点マーキングがある)を取り付けた脳は、高分解能MRIを用いて画像化される。次いで、MRI画像は、定位固定ソフトウェアを作動するコンピューターに移行される。一連の冠状、矢状および軸状の画像が用いられることにより、ベクター注入の標的部位および軌道が調べられる。ソフトウェアは、定位固定フレームに合致した3次元座標へと軌道を直接翻訳する。頭蓋穿孔が入り口部位の上部に穿孔され、所定の深部に埋め込まれたニードルにて定位固定装置が設置された。次いで、医薬上許容されるキャリア中の酵素溶液が注入される。さらなる投与経路、例えば、直接の視覚化における表層皮質適用、または他の非定位固定適用が用いられてもよい。
【0046】
ゆっくりした注入で輸送するための1つの方法は、ポンプを使用することである。かかるポンプは、例えば、Alzet(カリフォルニア州のクパチーノ)またはMedtronic(ミネソタ州のミネアポリス)から市販されている。ポンプは埋め込み型であってもよい。酵素を投与する別の利便的な方法は、カニューレまたはカテーテルを使用することである。カニューレまたはカテーテルは、別々の時間で複数の投与に使用されてもよい。カニューレおよびカテーテルは、定位固定的に埋め込まれてもよい。複数の投与が用いられることにより、リソソーム蓄積症にかかっている典型的な患者が治療されることが意図される。カテーテルおよびポンプは、別々に、または組み合わせて用いることができる。
【0047】
リソソーム蓄積症(LSD)は40個以上の遺伝子疾患を含み、そのうちの多くが様々なリソソーム加水分解酵素における遺伝子欠損に関連する。代表的なリソソーム蓄積症と関連する欠損酵素が表1に記載される。
【0048】
ゴーシュ病は、リソソーム加水分解酵素グルコセレブロシダーゼ(GC)の遺伝性欠乏の結果として生じ、組織球のリソソームにおいてその基質グルコシルセラミド(GL−1)の蓄積を導く。組織マクロファージ(ゴーシェ細胞)におけるGL−1の進行性蓄積は様々な組織で起こる。蓄積の程度は一部遺伝子型に依存する。臨床的には、3つの異なるゴーシェ表現型が認定され、それぞれ、非神経病1型は、小児期の初期から大人までの範囲で発症する最も一般的なものであり、神経病2型および3型は、幼児期および小児期の初期に現れるものである。これらの表現型のいずれもが本発明に従って治療されてもよい。ゴーシェ病の全ての型に共通する主な臨床的症状は、肝脾腫、血球減少、病理学的骨折および、稀に肺不全である。ゴーシェ病の詳細な考察は、the Online Metabolic & Molecular Bases of Inherited Diseases, Part 16, Chapter 146 and 146.1 (2007)で見出されうる。重要な中枢神経系関連であるゴーシェ病2型および3型にかかっている患者において、欠損LSD酵素の脳室内輸送は、脳および罹患した可能性のある内臓(CNSではない)器官の改善された代謝状態を生じる。ゴーシェ病1型にかかっている対象における欠損LSD酵素の脳室内輸送は、罹患した内臓(CNSではない)器官の改善された代謝状態を生じる。対応するマウス遺伝子の標的破壊により作出されたマウスモデルに由来するゴーシェ病の動物モデルが存在する。例えば、マウスGC遺伝子座のD409V変異を保有するゴーシェマウスモデルが存在する(Xu, Y-H et al. (2003). Am. J. Pathol. 163:2093-2101)。ヘテロ接合型マウスgbaD409V/ヌルは、内臓において正常なGC活性の〜5%を示し、生後4ヶ月までに肝臓、脾臓、肺および骨髄において脂質がうっ帯したマクロファージを発生する。このモデルは、ゴーシェ病にかかっている対象における欠損LSDの脳室内輸送の利益を評価し、条件を調べるために適する系である。
【0049】
ニーマン−ピック病(NPD)はリソソーム蓄積症であり、酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンリン酸加水分解酵素、EC3.1.3.12)の遺伝子欠乏により特徴付けられる遺伝性神経代謝疾患である。機能的なASMタンパク質の欠如は、脳全域にわたる神経とグリアのリソソーム内のスフィンゴミエリン基質の蓄積を生じる。このことが核周辺の膨張した多数のリソソームの形成を招き、それらがNPDA型の特徴および主な細胞の表現型である。膨張したリソソームの存在は、正常な細胞の機能の喪失および進行性の神経変性と関連し、小児期の初期に罹患した個体の死を招く(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Diseases, eds. Scriver et al., McGraw-Hill, New York, 2001, pp. 3589-3610)。第2の細胞の表現型(例えば、さらなる代謝異常)はまた、この病気に付随し、リソソーム区画におけるコレステロールの著しく高いレベルの蓄積である。スフィンゴミエリンはコレステロールに対して強い結合性を示し、その結果、ASMKOマウスとヒト患者のリソソームにおいて大量のコレステロールの隔離が生じる(Leventhal et al. (2001) J. Biol. Chem., 276:44976-44983; Slotte (1997) Subcell. Biochem., 28:277-293; and Viana et al. (1990) J. Med. Genet., 27:499-504)。NPDの詳細な考察は、the Online Metabolic & Molecular Bases of Inherited Diseases, Part 16, Chapter 144 (2007)で見出されうる。そこにはNPDの動物モデルが記載される。例えば、ASMKOマウスは、A型とB型のニーマン−ピック病と認められたモデルである(Horinouchi et al. (1995) Nat. Genetics, 10:288-293; Jin et al. (2002) J. Clin. Invest., 109:1183-1191; and Otterbach (1995) Cell, 81:1053-1061)。欠損LSD酵素の脳室内輸送は、脳と罹患した内臓(CNSではない)器官の改善された代謝状態を示す。
【0050】
ムコ多糖症(MPS)は、グリコサミノグリカン(ムコ多糖類)の分解を触媒する酵素の欠乏によって引き起こされるリソソーム蓄積症の一群である。MPSI(ハーラー、シャイエ、およびハーラー−シャイエ症候群)とMPSII(ハンター症候群)を含む7種の異なるMPSを生じる11個の公知の酵素の欠乏が存在する。いずれのMPSも本発明に従って治療することができる。MPSの詳細な考察は、the Online Metabolic & Molecular Bases of Inherited Diseases, Part 16, Chapter 136 (2007)で見出されうる。MPSの多くの動物モデルが存在し、それらは、イヌ、ネコ、ラット、マウス、およびヤギの自然発生的な変異に由来し、ならびに対応するマウス遺伝子の標的破壊によるマウスも作出された。これらの動物モデルの生化学的および代謝的特徴は、一般的にはヒトで見出されたものと全く同様である。しかしながら、臨床所見はより軽度でありうる。例えば、MPSIと認められたモデルは、マウスモデル(Clark, LA et al., Hum. Mol. Genet. (1997), 6:503)とイヌモデル(Menon, KP et al., Genomics (1992), 14:763)を含む。例えば、MPSIIと認められたモデルはマウスモデル(Muenzer, J. et al., (2002), Acta Paediatr. Suppl.;91(439):98-9)を含む。MPSIとMPSIIの患者に見出されるような中枢神経系に関連するMPSでは、欠損LSD酵素の脳室内輸送は、脳および罹患した可能性のある内臓(CNSではない)器官の改善された代謝状態を導く。
【0051】
ポンペ病、またはグリコーゲン蓄積症II型(GSDII)は、酸マルターゼ欠乏(AMD)とも呼ばれ、罹患した個体の全ての組織において、リソソーム加水分解酵素アルファ−グルコシダーゼの活性の欠損を生じるグリコーゲン代謝の遺伝性疾患である。酵素の欠乏は、多くの組織における正常な構造のグリコーゲンのリソソーム内蓄積を生じる。この蓄積は、心臓と骨格筋において、および全身性の疾患にかかっている幼児の肝臓において最も顕著である。後期発症型のGSDIIでは、グリコーゲンのリソソーム内蓄積は実際には骨格筋に限られ、症状もより少ない。診察時に示唆される筋電図異常は、若年性と成人性発症の患者を除き、偽性筋緊張性の帯電と興奮性を含み、この異常は、異なる筋肉で変化しうる。CATスキャンは罹患した筋肉の部位を示すことができる。ほとんどの患者はクレアチンキナーゼ(CK)の血漿レベルの上昇を示し、肝臓の酵素における、特に成人性発症の患者における上昇が見られうる。小児性および後発性発症疾患の自然発生動物モデルが数種類存在する。ノックアウトマウスのモデルも存在する(Bijvoet AG et al., Hum. Mol. Genet. (1998); 7:53-62.)。酵素治療の改善効果は、ノックアウトマウス(Raben, N et al., Mol. Genet. Metab. (2003); 80:159-69)とウズラモデルで具現化された。欠損LSD酵素の脳室内輸送は、脳および罹患した可能性のある内臓(CNSではない)器官の改善された代謝状態を導く。
【0052】
神経セロイドリポフスチン症(NCL)は、脳と他の組織における自家蛍光物質(「老化色素」)の蓄積により他の神経変性疾患と区別される神経変性疾患の一群である。主な臨床的特徴は、発作、精神運動退行、失明、および早死を含む。NCLの異なるサブグループは、症状が始まる年齢および電子顕微鏡による蓄積物質の外見において相違することが認められている。3種の主要な群−乳児型(INCL)、古典的遅発乳児型(LINCL)および若年型(JNCL、バッテン病とも呼ばれる)は各々、CLN1、CLN2、およびCLN3遺伝子における常染色体劣性変異により引き起こされる。CLN1(パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ)およびCLN2(トリペプチジルペプチダーゼまたはペピナーゼ(pepinase))遺伝子のタンパク質産物が水溶性リソソーム酵素である一方、CLN3タンパク質(バッテニン(battenin))はリソソーム膜タンパク質であり、(暫定的には)CLN5タンパク質と同様である。NCLの数種の形態におけるリソソームタンパク質をコードする遺伝子の変異の同定は、リポフスチノース(lipofuscinose)を真のリソソーム蓄積症とする認識をもたらす。NCLのいずれのサブグループも本発明に従って治療することができる。NCL症の詳細な考察は、the Online Metabolic & Molecular Bases of Inherited Diseases, Part 16, Chapter 154 (2007)に見出されうる。自然発生するNCL症は、ヒツジ、イヌ、およびマウスモデルで具現化され、マウスモデルは対応するマウス遺伝子の標的化破壊により得られた(例えば、Katz, ML et al., J. Neurosci. Res. (1999); 57:551-6; Cho, SK et al., Glycobiology (2005); 15:637-48を参照のこと)。欠損LSD酵素の脳室内輸送は、脳と罹患した可能性のある内臓(CNSではない)器官の改善された代謝状態を生じる。
【0053】
疾患における欠損LSD酵素が脳室内輸送される表1に開示されたさらなるリソソーム蓄積症の詳細な考察は、the Online Metabolic & Molecular Bases of Inherited Diseases, Part 16 (2007)中に見出されうる。
【0054】
上記の開示は、一般的に本発明を記載する。本明細書に開示される全ての文献は参照により一体化される。例示のみの目的で明細書中に提供され、本明細書の範囲を限定することを意図していない以下の特定の実施例の参照により、より完全な理解が得られる。
【実施例1】
【0055】
(動物モデル)
ニーマン−ピック病(NPD)はリソソーム蓄積症であり、酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンリン酸加水分解酵素、EC3.1.3.12)の遺伝子欠乏により特徴付けられる遺伝性神経代謝疾患である。機能的なASMタンパク質の欠如は、脳全域にわたる神経とグリアのリソソーム内のスフィンゴミエリン基質の蓄積を生じる。このことが核周辺の膨張した多数のリソソームの形成を招き、それらがNPDA型の特徴および主な細胞の表現型である。膨張したリソソームの存在は、正常な細胞の機能の喪失および進行性の神経変性と関連し、小児期の初期に罹患した個体の死を招く(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Diseases, eds. Scriver et al., McGraw-Hill, New York, 2001, pp. 3589-3610)。第2の細胞の表現型(例えば、さらなる代謝異常)はまた、この病気に付随し、リソソーム区画におけるコレステロールの著しく高いレベルの蓄積である。スフィンゴミエリンはコレステロールに対して強い結合性を示し、その結果、ASMKOマウスとヒト患者のリソソームにおいて大量のコレステロールの隔離が生じる(Leventhal et al. (2001) J. Biol. Chem., 276:44976-44983; Slotte (1997) Subcell. Biochem., 28:277-293; and Viana et al. (1990) J. Med. Genet., 27:499-504)。NPDの詳細な考察は、the Online Metabolic & Molecular Bases of Inherited Diseases, Part 16, Chapter 144 (2007)で見出されうる。
【実施例2】
【0056】
(ASMKOマウスにおけるrhASMの連続的な脳室内注入)
目的:組み換えヒトASM(rhASM)の脳室内注入がASMKOマウス脳における蓄積病変(すなわち、スフィンゴミエリンおよびコレステロール蓄積)においてどのような効果を示すかを調べるため。
【0057】
方法:生後12〜13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢のマウスにポンプに繋がれた(ガイドカニューレ内に適合した)注入深針を用いて250mgのhASM(n=5)を4日連続(合計1mgが投与された)24時間(〜0.01mg/h)にわたり注入した。凍結乾燥されたhASMを注入前に人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させた。マウスを注入3日後に解剖した。解剖するマウスにユサゾール(euthasol)(>150mg/kg)を過剰摂取させ、次いでPBSまたは4%パラホルムアルデヒドで環流した。脳、肝臓、肺および脾臓を取り除き、スフィンゴミエリン(SPM)レベルを解析した。脳組織をSPM解析前に5つの領域に分けた(S1=脳の前部、S5=脳の後部;図1を参照)。
(表2)
【表4】

【0058】
結果の要約:連続4日間24時間あたり250mg(合計1mg)のhASMの脳室内注入は、ASMKO脳を通してhASM染色およびフィリピン(すなわち、コレステロール蓄積)クリアランスを生じた。生化学的解析は、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を導くことを示した。SPMレベルは、野生型(WT)のレベルが減少した。SPMの有意な減少を肝臓と脾臓でも観察した(減少傾向は肺でも見られた)。
【実施例3】
【0059】
(ASMKOマウスにおけるhASMの脳室内輸送II)
目的:6時間にわたる注入期間における最も低い有効な用量を調べるため。
【0060】
生後12〜13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢のマウスに以下の用量のhASMのうちの1つで6時間にわたり注入した。10mg/kg(0.250mg;n=12)、3mg/kg(0.075mg;n=7)、1mg/kg(0.025mg;n=7)、0.3mg/kg(0.0075mg;n=7)、またはaCSF(人工脳脊髄液;n=7)。各用量レベルからの2匹のマウスを6時間注入後に迅速に4%パラホルムアルデヒドで還流して脳内における酵素の分布を測定した(これらから血液を採取して血清hASMレベルを調べた)。各群からの残りのマウスを注入1週間後に解剖した。これらのマウスに由来する脳、肝臓、肺の組織を研究05−0208にあるようにSPMレベルについて解析した。
(表3)
【表5】

【0061】
結果の要約:6時間にわたる脳室内hASMは、用量にかかわらず脳を通してSPMレベルの有意な減少を生じた。用量>0.025mgで処理されたマウス脳のSPMレベルは、野生型レベルまで減少した。内蔵器官のSPMレベルはまた、用量依存的な様式で有意に減少した(野生型レベルまでではない)。この知見を裏付けることとして、hASMタンパク質はまた、hASMタンパク質を注入されたASMKOマウスの血清中で検出された。組織学的な解析は、hASMタンパク質が、hASMの脳室内投与後に脳を通して(S1からS5まで)広く分布することを示した。
【実施例4】
【0062】
(ASMKOマウスにおけるrhASMの脳室内注入III)
目的:(1)hASMの6時間注入後にSPMが脳室内に再蓄積する時間;(2)脳室内hASM投与(過去の実験では、肝臓における物質の蓄積に性差が存在することが示され、これが脳内で生じるかどうかは知られていない)に応答した性差の存在を調べるため。
【0063】
方法:生後12〜13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢でマウスに0.025mgのhASMを6時間にわたり注入した。hASMの脳室内輸送後、マウスを、注入1週間後(n=7雄、7雌)、または注入2週間後(n=7雄、7雌)もしくは注入3週間後(n=7雄、7雌)に解剖した。解剖の際、脳、脊髄、肝臓および肺をSPM解析用に取り除いた。
(表4)
【表6】

【0064】
組織サンプルをSPMのために調製した。
【実施例5】
【0065】
(ASMKOマウスの認知機能におけるrhASMの脳室内注入の効果)
目的:ASMKOにおいて、rhASMの脳室内注入が羅患して引き起こされた認知障害を緩和するかどうかを調べるため。
【0066】
方法:生後9〜10週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植する。13週齢でマウスに0.025mgのhASMを6時間にわたり注入する。14および16週齢でマウスにバーンズマーゼ(barnes maze)を用いて認知テストを受けさせる。
【実施例6】
【0067】
(脳室内注入後のASMKOのCNS内のhASMタンパク質分布)
目的:脳室内注入後のASMKOマウスの脳および脊髄内におけるhASMタンパク質の分布(時間の関数として)を調べるため。
【0068】
方法:生後12〜13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢でマウスに0.025mgのhASMを6時間にわたり注入した。注入工程後、マウスを、すぐに、1週間後、2週間後、3週間後に解剖する。
(表5.表1で示されるような欠損のある疾患の治療のための特定の酵素で用いられ得る注入時間を示す。)
【表7】

【表8】

【0069】
引用文献
引用された各文献の開示は表示することにより本明細書に一体化させる。
1)Belichenko PV, Dickson PI, Passage M, Jungles S, Mobley WC, Kakkis ED. Penetration, diffusion, and uptake of recombinant human alpha-l-iduronidase after intraventricular injection into the rat brain. Mol Genet Metab. 2005;86(1-2):141-92)Kakkis E, McEntee M, Vogler C, Le S, Levy B, Belichenko P, Mobley W, Dickson P, Hanson S, Passage M. Intrathecal enzyme replacement therapy reduces lysosomal storage in the brain and meninges of the canine model of MPS I. Mol Genet Metab. 2004;83(1-2):163-74.
3)Bembi B, Ciana G, Zanatta M, et al. Cerebrospinal-fluid infusion of alglucerase in the treatment for acute neuronopathic Gaucher's disease. Pediatr Res 1995;38:A425.
4)Lonser RR, Walbridge S, Murray GJ, Aizenberg MR, Vortmeyer AO, Aerts JM, Brady RO, Oldfield EH. Convection perfusion of glucocerebrosidase for neuronopathic Gaucher's disease. Ann Neurol. 2005 Apr;57(4):542-8.
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】スフィンゴミエリン用に解析される脳の切片の略図を示す。S1は脳の前部であり、S5は脳の後部である。
【図2】rhASMの脳室内投与がASMKOマウスの脳におけるSPMレベルを下げることを示す。
【図3】rhASMの脳室内投与がASMKOの肝臓、脾臓、および肺におけるSPMレベルを下げることを示す。
【図4】脳室内注入後の脳のrASM染色を示す。
【図5】6時間以上をかけたrhASMの脳室内注入がASMKOマウスの脳におけるSPMレベルを下げることを示す。
【図6】6時間以上をかけたrhASMの脳室内注入がASMKOマウスの肝臓、血清、および肺におけるSPMレベルを下げることを示す。
【図7】病気または酵素活性について確認されたhASM変異体とそれらの関係を示す。
【図8】脳室が示された脳の断面図を示す。
【図9】図9Aと図9Bは、脳室の側面図と上面図それぞれを示す。
【図10】側脳室への注入を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニーマン−ピック病A型またはB型にかかっている患者を治療する方法であって、
脳におけるスフィンゴミエリンのレベルを下げるのに十分な量の酸スフィンゴミエリナーゼを脳室内輸送により患者に投与すること
を含む方法。
【請求項2】
前記投与する量が、患者の肝臓におけるスフィンゴミエリンのレベルを下げるのに十分である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記投与する量が、患者の肺におけるスフィンゴミエリンのレベルを下げるのに十分である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記投与する量が、患者の脾臓におけるスフィンゴミエリンのレベルを下げるのに十分である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記投与する量が、患者の腎臓におけるスフィンゴミエリンのレベルを下げるのに十分である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記投与する量が、患者の脳におけるスフィンゴミエリンのレベルを少なくとも10%下げるのに十分である、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記投与する量が、患者の脳におけるスフィンゴミエリンのレベルを少なくとも20%下げるのに十分である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記投与する量が、患者の脳におけるスフィンゴミエリンのレベルを少なくとも30%下げるのに十分である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記投与する量が、患者の脳におけるスフィンゴミエリンのレベルを少なくとも40%下げるのに十分である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記投与する量が、患者の脳におけるスフィンゴミエリンのレベルを少なくとも50%下げるのに十分である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記投与する量が、患者の脳におけるスフィンゴミエリンのレベルを少なくとも60%下げるのに十分である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
投与の工程がポンプを用いる、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記酸スフィンゴミエリナーゼが留置カテーテルを通して投与される、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
スフィンゴミエリンのレベルが患者内でモニターされ、測定されたスフィンゴミエリンのレベルに応じてさらなる酸スフィンゴミエリナーゼが投与される、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
酸スフィンゴミエリナーゼが、ヒトの酸スフィンゴミエリナーゼである、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する酸スフィンゴミエリナーゼである、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも96%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも97%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも98%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも99%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
酸スフィンゴミエリナーゼが配列番号1に示される配列を有する、請求項20記載の方法。
【請求項22】
投与の工程が複数の注入を含む、請求項1〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
単回用量を投与する工程が、4時間よりも長くかかる速度で行われる、請求項1〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
単回用量を投与する工程が、5時間よりも長くかかる速度で行われる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
単回用量を投与する工程が、6時間よりも長くかかる速度で行われる、請求項24記載の方法。
【請求項26】
単回用量を投与する工程が、7時間よりも長くかかる速度で行われる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
単回用量を投与する工程が、8時間よりも長くかかる速度で行われる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
ニーマン−ピック病A型またはB型にかかっている患者を治療するためのキットであって、
酸スフィンゴミエリナーゼ;および
前記酸スフィンゴミエリナーゼの患者の脳室への輸送用カテーテル
を含むキット。
【請求項29】
ニーマン−ピック病A型またはB型にかかっている患者を治療するためのキットであって、
酸スフィンゴミエリナーゼ;および
前記酸スフィンゴミエリナーゼの患者の脳室への輸送用ポンプ
を含むキット。
【請求項30】
前記酸スフィンゴミエリナーゼの患者の脳室への輸送用ポンプをさらに含む、請求項28記載のキット。
【請求項31】
前記酸スフィンゴミエリナーゼがヒトの酸スフィンゴミエリナーゼである、請求項28または29記載のキット。
【請求項32】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項28または29記載のキット。
【請求項33】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも96%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項28または29記載のキット。
【請求項34】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも97%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項28または29記載のキット。
【請求項35】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも98%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項28または29記載のキット。
【請求項36】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される酸スフィンゴミエリナーゼと少なくとも99%のアミノ酸配列の同一性を有する、請求項28または29記載のキット。
【請求項37】
酸スフィンゴミエリナーゼが、配列番号1に示される配列を有する、請求項28または29記載のキット。
【請求項38】
酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療する方法であって、
前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与すること
を含む方法。
【請求項39】
酵素の欠乏が酵素の基質の蓄積を引き起こし、投与が前記脳における基質のレベルを下げる、請求項38記載の方法。
【請求項40】
リソソーム蓄積症がニーマン−ピック病A型であり、前記酵素がスフィンゴミエリナーゼである、請求項38〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
リソソーム蓄積症がニーマン−ピック病B型であり、前記酵素がスフィンゴミエリナーゼである、請求項38〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
リソソーム蓄積症がムコ多糖症I型であり、前記酵素がアルファ−L−イズロニダーゼである、請求項38〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
リソソーム蓄積症がムコ多糖症II型であり、前記酵素がイズロン酸−2−スルファターゼである、請求項38〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
リソソーム蓄積症がゴーシェ病であり、前記酵素がグルコセレブロシダーゼである、請求項38〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
リソソーム蓄積症がポンペ病であり、前記酵素がアルファ−グルコシダーゼである、請求項38〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項46】
リソソーム蓄積症が古典的遅発乳児型バッテン病(CLN2)であり、前記酵素がトリペプチジルペプチダーゼである、請求項38〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
前記酵素が、単回用量の投与に4時間よりも長くかかる速度で投与される、請求項38〜46のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
前記速度が単回用量の投与に5時間よりも長くかかるものである、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記速度が単回用量の投与に6時間よりも長くかかるものである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記速度が単回用量の投与に7時間よりも長くかかるものである、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記速度が単回用量の投与に8時間よりも長くかかるものである、請求項50記載の方法。
【請求項52】
リソソーム蓄積症の患者の予防または治療のための医薬の製造のための酵素の使用であって、前記病気が患者内の酵素の欠乏により引き起こされ、前記予防または治療が酵素の脳への脳室内投与を含む、酵素の使用。
【請求項53】
前記欠乏が酵素の基質の蓄積を引き起こし、前記酵素の投与が脳における基質のレベルの減少を生じる、請求項52記載の使用。
【請求項54】
前記欠乏が酵素の基質の蓄積を引き起こし、前記酵素の投与が脳および1つ以上の内臓における基質のレベルの減少を生じる、請求項52または53記載の使用。
【請求項55】
前記酵素がリソソーム加水分解酵素である、請求項52〜54のいずれか一項記載の使用。
【請求項56】
リソソーム蓄積症が表1で特定される病気のうちの1つである、請求項52〜55のいずれか一項記載の使用。
【請求項57】
前記病気が、ニーマン−ピック病A型、ニーマン−ピック病B型、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型、ゴーシェ病、ポンペ病および古典的遅発乳児型バッテン病(CLN2)からなる群から選択される、請求項56記載の使用。
【請求項58】
酵素の単回用量が投与に4時間よりも長く、好ましくは5時間よりも長く、より好ましくは6時間よりも長く、よりさらに好ましくは7時間よりも長く、最も好ましくは8時間よりも長くかかる速度で投与される、請求項52〜57のいずれか一項記載の使用。
【請求項59】
前記治療または予防が、酵素の脳の側脳室および/または第四脳室への投与を含む、請求項52〜58のいずれか一項記載の使用。
【請求項60】
リソソーム酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の治療または予防のためのキットであって、前記キットが、酵素ならびに酵素の脳への脳室内投与に特異的に適用されるカテーテルおよび/またはポンプを含むキット。
【請求項61】
前記酵素がリソソーム加水分解酵素である、請求項5記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−525963(P2009−525963A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551442(P2008−551442)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/001566
【国際公開番号】WO2007/084737
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(500579888)ジェンザイム・コーポレーション (34)
【Fターム(参考)】