説明

リチウムイオン二次電池

【課題】電極活物質層の剥離強度を向上させ、かつ、反応抵抗を低く抑えうるリチウムイオン二次電池の提案
【解決手段】
このリチウムイオン二次電池は、集電体と、集電体に保持され、電極活物質とゴム系バインダとを含む電極活物質層とを有している。ここで、ゴム系バインダには、ガラス転移温度が−40℃以上−10℃以下のスチレンブタジエンゴムが重量割合で90%以上含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池に関する。
【0002】
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいう。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」は、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電子の移動によって充放電が実現される二次電池をいう。
【背景技術】
【0003】
かかるリチウムイオン二次電池について、例えば、特開2003−151555号公報には、ガラス転移温度が0〜120℃のゴム系バインダ(結着材)を負極活物質層のバインダに用いた非水電解液二次電池が提案されている。同公報には、ガラス転移温度が0〜120℃のゴム系バインダを負極活物質層のバインダに用いることによって、可撓性および集電体との密着性に優れるとともに、プレス加工時に活物質層がプレス機にくっ付いて剥がれるのを防止し得る負極活物質層を形成できることが記載されている。また同公報には、ゴム系バインダとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)が例示されている。本明細書で、「SBR」は適宜にスチレンブタジエンゴムを意味する。
【0004】
また、特開2003−151556号公報には、ガラス転移温度が0℃〜120℃のゴム系バインダの中から選ばれる2種類以上のゴム系バインダを含有した負極活物質層が設けられた非水電解液二次電池が提案されている。また同公報には、ゴム系バインダとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)が例示されている。
【0005】
また、特開2003−007304号公報には、負極のバインダとして、ガラス転移温度が7℃〜40℃のフッ素を含まない有機化合物を用いることが提案されている。かかるバインダとして、スチレンブタジエンゴムが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−151555号公報
【特許文献2】特開2003−151556号公報
【特許文献3】特開2003−007304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えば、充放電によって電極活物質層が集電体から剥離されると、電池の性能が低下する要因になる。電池の性能を長期間安定して維持するという観点において、電極活物質層が集電体から剥離され難いことが望ましい。電極活物質層が集電体から剥離されないようにするためには、電極活物質層に含まれるバインダの量を多くすれば、電極活物質層と集電体との結着力が上がる。しかしながら、電極活物質層のバインダとしてスチレンブタジエンゴムのようなゴム系バインダが用いられている場合、電極活物質層に含まれるバインダの量が多ければ多いほど、ゴム系バインダによって電極活物質層中のリチウムイオンの移動が阻害される。このため、リチウムイオン二次電池の反応抵抗が大きくなる傾向がある。このように、電極活物質層の剥離強度を高くすることと、リチウムイオン二次電池の反応抵抗を低く抑えることとは、電極活物質層に使用するゴム系バインダの使用量に対して相反する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、集電体と、集電体に保持され、電極活物質とゴム系バインダとを含む電極活物質層とを有している。ここで、ゴム系バインダには、ガラス転移温度が−40℃以上−10℃以下のスチレンブタジエンゴムが重量割合で90%以上含まれている。これにより、電極活物質層の剥離強度を向上させ、かつ、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗を低く抑えることができる。
【0009】
この場合、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)は100nm以下であってもよい。また、電極活物質層に含まれるゴム系バインダの量は、重量比において0.7%〜1.2%であるとよい。また、スチレンブタジエンゴムは、OH基を有していてもよい。また、スチレンブタジエンゴムのエチレンカーボネートに対する膨潤度が150%以上であってもよい。また、電極活物質層は、負極活物質層であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、リチウムイオン二次電池の構造の一例を示す図である。
【図2】図2は、リチウムイオン二次電池の捲回電極体を示す図である。
【図3】図3は、図2中のIII−III断面を示す断面図である。
【図4】図4は、正極活物質層の構造を示す断面図である。
【図5】図5は、負極活物質層の構造を示す断面図である。
【図6】図6は、図1中のVI−VI断面であり、捲回電極体の未塗工部と電極端子との溶接箇所を示す側面図である。
【図7】図7は、リチウムイオン二次電池の充電時の状態を模式的に示す図である。
【図8】図8は、リチウムイオン二次電池の放電時の状態を模式的に示す図である。
【図9】図9は、負極活物質層の断面SEM画像の一例を示す図である。
【図10】図10は、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度と、負極活物質層の剥離強度との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)と、負極活物質層の剥離強度との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度と、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗との関係を示すグラフである。
【図13】図13は、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)と、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗との関係を示すグラフである。
【図14】図14は、負極活物質層の剥離強度の測定方法を示す図である。
【図15】図15は、スチレンブタジエンゴムのOH基の有無と、負極活物質層の剥離強度との関係を示すグラフである。
【図16】図16は、スチレンブタジエンゴムのOH基の有無と、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗との関係を示すグラフである。
【図17】図17は、スチレンブタジエンゴムのOH基がある場合の作用を説明するための図である。
【図18】図18は、スチレンブタジエンゴムのエチレンカーボネートに対する膨潤度と、負極活物質層の剥離強度との関係を示すグラフである。
【図19】図19は、スチレンブタジエンゴムのエチレンカーボネートに対する膨潤度と、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗との関係を示すグラフである。
【図20】図20は、二次電池を搭載した車両を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここではまず、リチウムイオン二次電池の一構造例を説明する。その後、かかる構造例を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明する。なお、同じ作用を奏する部材、部位には適宜に同じ符号を付している。また、各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。
【0012】
図1は、リチウムイオン二次電池100を示している。このリチウムイオン二次電池100は、図1に示すように、捲回電極体200と電池ケース300とを備えている。図2は、捲回電極体200を示す図である。図3は、図2中のIII−III断面を示している。
【0013】
捲回電極体200は、図2に示すように、正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264を有している。正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264は、それぞれ帯状のシート材である。
【0014】
≪正極シート220≫
正極シート220は、帯状の正極集電体221と正極活物質層223とを備えている。正極集電体221には、正極に適する金属箔が好適に使用され得る。正極集電体221としては、例えば、所定の幅を有し、厚さが凡そ15μmの帯状のアルミニウム箔を用いることができる。正極集電体221の幅方向片側の縁部に沿って未塗工部222が設定されている。図示例では、正極活物質層223は、図3に示すように、正極集電体221に設定された未塗工部222を除いて、正極集電体221の両面に保持されている。正極活物質層223には、正極活物質が含まれている。正極活物質層223は、正極活物質を含む正極合剤を正極集電体221に塗工することによって形成されている。
【0015】
≪正極活物質層223および正極活物質粒子610≫
ここで、図4は、正極シート220の断面図である。なお、図4において、正極活物質層223の構造が明確になるように、正極活物質層223中の正極活物質粒子610と導電材620とバインダ630とを大きく模式的に表している。正極活物質層223には、図4に示すように、正極活物質粒子610と導電材620とバインダ630とが含まれている。
【0016】
正極活物質粒子610には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることができる物質を使用することができる。正極活物質の例を挙げると、LiNiCoMnO(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiMn(マンガン酸リチウム)、LiFePO(リン酸鉄リチウム)などのリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。ここで、LiMnは、例えば、スピネル構造を有している。また、LiNiO或いはLiCoOは層状の岩塩構造を有している。また、LiFePOは、例えば、オリビン構造を有している。オリビン構造のLiFePOには、例えば、ナノメートルオーダーの粒子がある。また、オリビン構造のLiFePOは、さらにカーボン膜で被覆することができる。
【0017】
≪導電材620≫
導電材620としては、例えば、カーボン粉末、カーボンファイバーなどのカーボン材料が例示される。このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末などのカーボン粉末を用いることができる。
【0018】
≪バインダ630≫
また、バインダ630は、正極活物質層223に含まれる正極活物質粒子610と導電材620の各粒子を結着させたり、これらの粒子と正極集電体221とを結着させたりする。かかるバインダ630としては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。例えば、水性溶媒を用いた正極合剤組成物においては、セルロース系ポリマー(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)など)、フッ素系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)など)、ゴム類(酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)など)などの水溶性または水分散性ポリマーを好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極合剤組成物においては、ポリマー(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)など)を好ましく採用することができる。
【0019】
≪増粘剤、溶媒≫
正極活物質層223は、例えば、上述した正極活物質粒子610と導電材620を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた正極合剤を作製し、正極集電体221に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、正極合剤の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。上記バインダ630として例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0020】
正極合剤全体に占める正極活物質の質量割合は、凡そ50wt%以上(典型的には50〜95wt%)であることが好ましく、通常は凡そ70〜95wt%(例えば75〜90wt%)であることがより好ましい。また、正極合剤全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20wt%とすることができ、通常は凡そ2〜15wt%とすることが好ましい。正極合剤全体に占めるバインダの割合は、例えば、凡そ1〜10wt%とすることができ、通常は凡そ2〜5wt%とすることが好ましい。
【0021】
≪負極シート240≫
負極シート240は、図2に示すように、帯状の負極集電体241と、負極活物質層243とを備えている。負極集電体241には、負極に適する金属箔が好適に使用され得る。この負極集電体241には、所定の幅を有し、厚さが凡そ10μmの帯状の銅箔が用いられている。負極集電体241の幅方向片側には、縁部に沿って未塗工部242が設定されている。負極活物質層243は、負極集電体241に設定された未塗工部242を除いて、負極集電体241の両面に形成されている。負極活物質層243は、負極集電体241に保持され、少なくとも負極活物質が含まれている。負極活物質層243は、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体241に塗工されている。
【0022】
≪負極活物質層243≫
図5は、リチウムイオン二次電池100の負極シート240の断面図である。負極活物質層243には、図5に示すように、負極活物質710、増粘剤(図示省略)、バインダ730などが含まれている。図5では、負極活物質層243の構造が明確になるように、負極活物質層243中の負極活物質710とバインダ730とを大きく模式的に表している。
【0023】
≪負極活物質≫
負極活物質710としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。より具体的には、負極活物質は、例えば、天然黒鉛、非晶質の炭素材料でコートした天然黒鉛、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、または、これらを組み合わせた炭素材料でもよい。なお、ここでは、負極活物質710は、いわゆる鱗片状黒鉛が用いられた場合を図示しているが、負極活物質710は、図示例に限定されない。
【0024】
≪増粘剤、溶媒≫
負極活物質層243は、例えば、上述した負極活物質710とバインダ730を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた負極合剤を作製し、負極集電体241に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、負極合剤の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。バインダ730には、上記正極活物質層223(図4参照)のバインダ630として例示したポリマー材料を用いることができる。また、上記正極活物質層223のバインダ630として例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0025】
≪セパレータ262、264≫
セパレータ262、264は、図1または図2に示すように、正極シート220と負極シート240とを隔てる部材である。この例では、セパレータ262、264は、微小な孔を複数有する所定幅の帯状のシート材で構成されている。セパレータ262、264には、例えば、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成された単層構造のセパレータ或いは積層構造のセパレータを用いることができる。この例では、図2および図3に示すように、負極活物質層243の幅b1は、正極活物質層223の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータ262、264の幅c1、c2は、負極活物質層243の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。
【0026】
なお、図1および図2に示す例では、セパレータ262、264は、シート状の部材で構成されている。セパレータ262、264は、正極活物質層223と負極活物質層243とを絶縁するとともに、電解質の移動を許容する部材であればよい。従って、シート状の部材に限定されない。セパレータ262、264は、シート状の部材に代えて、例えば、正極活物質層223または負極活物質層243の表面に形成された絶縁性を有する粒子の層で構成してもよい。ここで、絶縁性を有する粒子としては、絶縁性を有する無機フィラー(例えば、金属酸化物、金属水酸化物などのフィラー)、或いは、絶縁性を有する樹脂粒子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの粒子)で構成してもよい。
【0027】
≪電池ケース300≫
また、この例では、電池ケース300は、図1に示すように、いわゆる角型の電池ケースであり、容器本体320と、蓋体340とを備えている。容器本体320は、有底四角筒状を有しており、一側面(上面)が開口した扁平な箱型の容器である。蓋体340は、当該容器本体320の開口(上面の開口)に取り付けられて当該開口を塞ぐ部材である。
【0028】
車載用の二次電池では、車両の燃費を向上させるため、重量エネルギー効率(単位重量当りの電池の容量)を向上させることが望まれる。このため、この実施形態では、電池ケース300を構成する容器本体320と蓋体340は、アルミニウム、アルミニウム合金などの軽量金属が採用されている。これにより重量エネルギー効率を向上させることができる。
【0029】
電池ケース300は、捲回電極体200を収容する空間として、扁平な矩形の内部空間を有している。また、図1に示すように、電池ケース300の扁平な内部空間は、捲回電極体200よりも横幅が少し広い。この実施形態では、電池ケース300は、有底四角筒状の容器本体320と、容器本体320の開口を塞ぐ蓋体340とを備えている。また、電池ケース300の蓋体340には、電極端子420、440が取り付けられている。電極端子420、440は、電池ケース300(蓋体340)を貫通して電池ケース300の外部に出ている。また、蓋体340には注液孔350と安全弁360とが設けられている。
【0030】
捲回電極体200は、図2に示すように、捲回軸WLに直交する一の方向において扁平に押し曲げられている。図2に示す例では、正極集電体221の未塗工部222と負極集電体241の未塗工部242は、それぞれセパレータ262、264の両側において、らせん状に露出している。図6に示すように、この実施形態では、未塗工部222、242の中間部分224、244を寄せ集め、電極端子420、440の先端部420a、440aに溶接している。この際、それぞれの材質の違いから、電極端子420と正極集電体221の溶接には、例えば、超音波溶接が用いられる。また、電極端子440と負極集電体241の溶接には、例えば、抵抗溶接が用いられる。ここで、図6は、捲回電極体200の未塗工部222(242)の中間部分224(244)と電極端子420(440)との溶接箇所を示す側面図であり、図1のVI−VI断面図である。
【0031】
捲回電極体200は、扁平に押し曲げられた状態で、蓋体340に固定された電極端子420、440に取り付けられる。かかる捲回電極体200は、図1に示すように、容器本体320の扁平な内部空間に収容される。容器本体320は、捲回電極体200が収容された後、蓋体340によって塞がれる。蓋体340と容器本体320の合わせ目322(図1参照)は、例えば、レーザ溶接によって溶接されて封止されている。このように、この例では、捲回電極体200は、蓋体340(電池ケース300)に固定された電極端子420、440によって、電池ケース300内に位置決めされている。
【0032】
≪電解液≫
その後、蓋体340に設けられた注液孔350から電池ケース300内に電解液が注入される。電解液は、水を溶媒としていない、いわゆる非水電解液が用いられている。この例では、電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば、体積比1:1程度の混合溶媒)にLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液が用いられている。その後、注液孔350に金属製の封止キャップ352を取り付けて(例えば溶接して)電池ケース300を封止する。なお、電解液は、ここで例示された電解液に限定されない。例えば、従来からリチウムイオン二次電池に用いられている非水電解液は適宜に使用することができる。
【0033】
≪空孔≫
ここで、正極活物質層223は、例えば、正極活物質粒子610と導電材620の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間225を有している(図4参照)。かかる正極活物質層223の微小な隙間には電解液(図示省略)が浸み込み得る。また、負極活物質層243は、例えば、負極活物質710の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間245を有している(図5参照)。ここでは、かかる隙間225、245(空洞)を適宜に「空孔」と称する。また、捲回電極体200は、図2に示すように、捲回軸WLに沿った両側において、未塗工部222、242が螺旋状に巻かれている。かかる捲回軸WLに沿った両側252、254において、未塗工部222、242の隙間から、電解液が浸み込みうる。このため、リチウムイオン二次電池100の内部では、正極活物質層223と負極活物質層243に電解液が浸み渡っている。
【0034】
≪ガス抜け経路≫
また、この例では、当該電池ケース300の扁平な内部空間は、扁平に変形した捲回電極体200よりも少し広い。捲回電極体200の両側には、捲回電極体200と電池ケース300との間に隙間310、312が設けられている。当該隙間310、312は、ガス抜け経路になる。例えば、過充電が生じた場合などにおいて、リチウムイオン二次電池100の温度が異常に高くなると、電解液が分解されてガスが異常に発生する場合がある。この実施形態では、異常に発生したガスは、捲回電極体200の両側における捲回電極体200と電池ケース300との隙間310、312を通して安全弁360の方へ移動し、安全弁360から電池ケース300の外に排気される。
【0035】
かかるリチウムイオン二次電池100では、正極集電体221と負極集電体241は、電池ケース300を貫通した電極端子420、440を通じて外部の装置に電気的に接続されている。以下、充電時と放電時のリチウムイオン二次電池100の動作を説明する。
【0036】
≪充電時の動作≫
図7は、かかるリチウムイオン二次電池100の充電時の状態を模式的に示している。充電時においては、図7に示すように、リチウムイオン二次電池100の電極端子420、440(図1参照)は、充電器290に接続される。充電器290の作用によって、充電時には、正極活物質層223中の正極活物質からリチウムイオン(Li)が電解液280に放出される。また、正極活物質層223からは電荷が放出される。放出された電荷は、導電材(図示省略)を通じて正極集電体221に送られ、さらに、充電器290を通じて負極シート240へ送られる。また、負極シート240では電荷が蓄えられるとともに、電解液280中のリチウムイオン(Li)が、負極活物質層243中の負極活物質に吸収され、かつ、貯蔵される。
【0037】
≪放電時の動作≫
図8は、かかるリチウムイオン二次電池100の放電時の状態を模式的に示している。放電時には、図8に示すように、負極シート240から正極シート220に電荷が送られるとともに、負極活物質層243に貯蔵されたリチウムイオンが、電解液280に放出される。また、正極では、正極活物質層223中の正極活物質に電解液280中のリチウムイオンが取り込まれる。
【0038】
このようにリチウムイオン二次電池100の充放電において、電解液280を介して、正極活物質層223と負極活物質層243との間でリチウムイオンが行き来する。また、充電時においては、正極活物質から導電材を通じて正極集電体221に電荷が送られる。これに対して、放電時においては、正極集電体221から導電材を通じて正極活物質に電荷が戻される。
【0039】
充電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、効率的で急速な充電が可能になると考えられる。放電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、電池の抵抗が低下し、放電量が増加し、電池の出力が向上すると考えられる。
【0040】
≪他の電池形態≫
なお、上記はリチウムイオン二次電池の一例を示すものである。リチウムイオン二次電池は上記形態に限定されない。また、同様に金属箔に電極合剤が塗工された電極シートは、他にも種々の電池形態に用いられる。例えば、他の電池形態として、円筒型電池或いはラミネート型電池などが知られている。円筒型電池は、円筒型の電池ケースに捲回電極体を収容した電池である。また、ラミネート型電池は、正極シートと負極シートとをセパレータを介在させて積層した電池である。
【0041】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明する。
【0042】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、図1に示すリチウムイオン二次電池100と基本構造が概ね同じである。このため、適宜に、図1に示すリチウムイオン二次電池100の図面を参照するとともに、リチウムイオン二次電池100に付された符号を用いて説明する。ここでは、まずリチウムイオン二次電池100の負極活物質層243を例に挙げて説明する。
【0043】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100では、図1および図2に示すように、負極集電体241に負極活物質層243が保持されている。負極活物質層243は、図5に示すように、負極活物質710と、ゴム系バインダ730が含まれている。
【0044】
この実施形態では、ゴム系バインダ730には、ガラス転移温度が凡そ−40℃以上−10℃以下で、かつ、平均粒子径(D50)が凡そ100nm以下のスチレンブタジエンゴムが重量割合で凡そ90%以上含まれている。
【0045】
≪スチレンブタジエンゴム≫
ここで、スチレンブタジエンゴムは、スチレンとブタジエンの共重合体からなるゴムであり、負極活物質層のゴム系バインダとして用いられ得る。
【0046】
≪ガラス転移温度≫
ここで、「ガラス転移温度」は、分子鎖がある程度変形したり移動したりできるゴム状態と、分子鎖の部分的な運動性が失われるガラス状態との転移点であるガラス転移点(Tg)を意味する。
【0047】
≪平均粒子径(D50)≫
ここで、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)は、エマルジョン状態では動的光散乱法によって測定されるスチレンブタジエンゴムの粒度分布から求めるとよい。また、負極活物質層243中のスチレンブタジエンゴムの粒子径は、負極活物質層243の断面のSEM画像を基に特定されるスチレンブタジエンゴムの粒度分布から求めるとよい。図9は、負極活物質層の断面SEM画像の一例である。スチレンブタジエンゴムは、図9中、SBで示すように、断面SEM画像を基に特定することができる。そして、断面SEM画像を基に、スチレンブタジエンゴムの凡その粒子径を測るとよい。
【0048】
本発明者の得た知見によれば、負極活物質層243にスチレンブタジエンゴムが用いられている場合において、負極集電体241と負極活物質層243との剥離強度(以下、適宜、「負極活物質層の剥離強度」という。)は、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度および平均粒子径(D50)と相関関係がある。また、リチウムイオン二次電池100の反応抵抗についても、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度および平均粒子径(D50)と相関関係がある。
【0049】
図10は、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度と、負極活物質層の剥離強度との相関関係を示している。図11は、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)と、負極活物質層の剥離強度との相関関係を示している。また、図12は、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度と、リチウムイオン二次電池の反応抵抗との相関関係を示している。また、図13は、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)と、リチウムイオン二次電池の反応抵抗との相関関係を示している。図14は、剥離強度の試験方法を示す図である。
【0050】
ここでは、ガラス転移温度および平均粒子径(D50)が異なるスチレンブタジエンゴムを用意した。ここで、用意されたスチレンブタジエンゴムは、概ね−40℃から20℃の範囲においてガラス転移温度が異なる。かかるガラス転移温度および平均粒子径(D50)が異なるスチレンブタジエンゴムを負極活物質層243のバインダに用いて負極シート240(図2参照)を作製し、負極集電体241と負極活物質層243の剥離強度を測定した。また、当該負極シート240を用いて作製した評価用セルの反応抵抗を測定した。
【0051】
≪スチレンブタジエンゴムのサンプル≫
表1は、ここで用意されたスチレンブタジエンゴムの各サンプルを示している。スチレンブタジエンゴムのブタジエンとスチレンの比率は、赤外分光分析法(IR)によって定量した。ここで用意されたスチレンブタジエンゴムは、例えば、表1に示すように、ブタジエンとスチレンの比率、ガラス転移温度、官能基が調整されている。
【0052】
【表1】

【0053】
サンプル1は、ブタジエンとスチレンの凡その比率が、ブタジエン:スチレン=51:49であった。ガラス転移温度は、−30℃、平均粒子径(D50)は170nm、官能基としてカルボキシル基(−COOH)を有している。
【0054】
サンプル2は、ブタジエンとスチレンの凡その比率が、ブタジエン:スチレン=44:56であった。ガラス転移温度は、−10℃、平均粒子径(D50)は170nm、官能基としてカルボキシル基(−COOH)を有している。
【0055】
サンプル3は、ブタジエンとスチレンの凡その比率が、ブタジエン:スチレン=25:75であった。ガラス転移温度は、25℃、平均粒子径(D50)は170nm、官能基としてカルボキシル基(−COOH)を有している。
【0056】
サンプル4は、ブタジエンとスチレンの凡その比率が、ブタジエン:スチレン=30:70であった。ガラス転移温度は、−10℃、平均粒子径(D50)は90nm、官能基としてカルボキシル基(−COOH)を有している。
【0057】
サンプル5は、ブタジエンとスチレンの凡その比率が、ブタジエン:スチレン=22:78であった。ガラス転移温度は、25℃、平均粒子径(D50)は170nm、官能基としてカルボキシル基(−COOH)とヒドロキシル基(−OH)を有している。
【0058】
サンプル6は、ブタジエンとスチレンの凡その比率が、ブタジエン:スチレン=39:61であった。ガラス転移温度は、−10℃、平均粒子径(D50)は80nm、官能基としてカルボキシル基(−COOH)とヒドロキシル基(−OH)を有している。
【0059】
サンプル7は、ブタジエンとスチレンの凡その比率が、ブタジエン:スチレン=42:58であった。ガラス転移温度は、−10℃、平均粒子径(D50)は130nm、官能基としてカルボキシル基(−COOH)とヒドロキシル基(−OH)を有している。
【0060】
サンプル8は、ブタジエンとスチレンの凡その比率が、ブタジエン:スチレン=44:56であった。ガラス転移温度は、−10℃、平均粒子径(D50)は180nm、官能基としてカルボキシル基(−COOH)とヒドロキシル基(−OH)を有している。
【0061】
ここで、サンプル5は、ガラス転移温度、平均粒子径(D50)およびブタジエンとスチレンの比率を、サンプル3と概ね同じとしつつ、官能基として、ヒドロキシル基(−OH)を追加した。
【0062】
≪負極シートの作製≫
上述したように、負極活物質層243のバインダとして用いられるスチレンブタジエンゴムが異なる点を除いて、特に言及されない限りにおいて概ね同じ条件で負極シートを作製した。また、かかる負極シートを用いて、評価用セルを作製した。
【0063】
ここでは、負極シート240(図2参照)として10μm厚の銅箔、負極活物質として平均粒子径(D50)が10μm〜30μmの黒鉛、増粘剤としてのCMCを用意した。そして、固形分の重量比が、負極活物質:SBR:CMC=98:1:1になるように、水を溶媒として負極活物質とSBRとCMCとを混練し、負極活物質層243を形成するペースト状の合剤を得た。そして、当該ペースト状の合剤を負極集電体241に塗布し、乾燥した後、圧延した。この実施形態では、負極活物質層243は、負極集電体241の両面に塗工されており、両面を合わせて乾燥後の目付量を概ね10mg/cmとした。また、圧延後の負極活物質層243の密度を概ね2g/cmにした。
【0064】
≪剥離強度≫
ここで、負極活物質層の剥離強度は、負極集電体と負極活物質層とが剥離されるのに要する力、および/または、負極合剤層が厚さ方向において破断するのに要する力を意味する。ここでは、上述したように作製された負極シートの負極活物質層が形成された部分から120mm×15mmの矩形のシート110を切り出す。そして、図14に示すように、矩形のシート110を片方の端から80mm×15mmの部分110Aの負極活物質層に両面テープ112を貼り、水平に設置された台114に固定する。残った40mmの部分110Bを、器具116で掴み、垂直方向に引き上げる。その際、器具116を引き上げ、負極集電体と負極活物質層とが剥離した、或いは、負極合剤層が厚さ方向において破断した際の力を負極活物質層の剥離強度として測定した。
【0065】
≪負極活物質層の剥離強度の評価≫
かかる負極活物質層の剥離強度の測定では、例えば、図10に示すように、ガラス転移温度が凡そ25℃のスチレンブタジエンゴムを用いて形成された負極活物質層の剥離強度を1とした場合、ガラス転移温度が凡そ−10℃のスチレンブタジエンゴムを用いて形成された負極活物質層の剥離強度は、概ね1.12であった。さらに、ガラス転移温度が凡そ−40℃のスチレンブタジエンゴムを用いて形成された負極活物質層の剥離強度は、概ね1.3であった。
【0066】
すなわち、ガラス転移温度が凡そ−10℃のスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、ガラス転移温度が凡そ25℃のスチレンブタジエンゴムを用いた場合に比べて、負極活物質層の剥離強度は1.12倍程度に強くなり得る。さらに、ガラス転移温度が凡そ−40℃のスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、ガラス転移温度が25℃のスチレンブタジエンゴムを用いた場合に比べて、負極活物質層の剥離強度は1.3倍程度に強くなり得る。
【0067】
このように、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度と、かかる剥離強度(負極集電体と負極活物質層との剥離強度)との関係では、ガラス転移温度が低いほど剥離強度が強くなり、ガラス転移温度が高いほど剥離強度が弱くなる傾向が得られた。
【0068】
また、負極活物質層の剥離強度の測定では、例えば、図11に示すように、平均粒子径(D50)が凡そ180nmのスチレンブタジエンゴムを用いて形成された負極活物質層の剥離強度を1とした場合、平均粒子径(D50)が凡そ130nmのスチレンブタジエンゴムを用いて形成された負極活物質層の剥離強度は、概ね1.08であった。さらに、平均粒子径(D50)が凡そ80nmのスチレンブタジエンゴムを用いて形成された負極活物質層の剥離強度は、概ね1.2であった。
【0069】
すなわち、平均粒子径(D50)が凡そ130nmのスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、平均粒子径(D50)が凡そ180nmのスチレンブタジエンゴムを用いた場合に比べて、負極活物質層の剥離強度は1.08倍程度に強くなり得る。さらに、平均粒子径(D50)が凡そ80nmのスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、平均粒子径(D50)が凡そ180nmのスチレンブタジエンゴムを用いた場合に比べて、負極活物質層の剥離強度は1.2倍程度に強くなり得る。
【0070】
このように、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)と剥離強度との関係では、平均粒子径(D50)が小さいほど剥離硬度が強くなり、平均粒子径(D50)が大きいほど剥離強度が弱くなる傾向が得られた。
【0071】
≪試験用のリチウムイオン二次電池≫
次に、ガラス転移温度と平均粒子径(D50)が異なるスチレンブタジエンゴムを複数用意し、各スチレンブタジエンゴムを負極活物質層のバインダに用いた負極シートを用いて、評価用セルを作製して反応抵抗を評価した。ここでは、評価用セルとして18650型のリチウムイオン二次電池を作製し、反応抵抗を測定した。
【0072】
≪評価用セルの正極シート≫
評価用セルの正極は、正極集電体221(図2参照)として厚さ15μmのアルミニウム箔、正極活物質としてLiNiCoMnO(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)の粒子、導電材としてアセチレンブラック、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をそれぞれ用意した。そして、固形分の重量比において正極活物質粒子:導電材:結着材=87:10:3になるように、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒として正極活物質粒子と導電材と結着材とを混練し、正極活物質層223を形成するペースト状の合剤を得た。そして、当該ペースト状の合剤を、正極集電体221に塗布し、乾燥した後、圧延した。ここでは、正極活物質層223は、正極集電体221の両面に塗工されており、両面を合わせて乾燥後の目付量を概ね20mg/cmとした。また、圧延後の正極活物質層223の密度を概ね3g/cmにした。
【0073】
≪評価用セルの正極≫
評価用セルの正極は、かかる圧延後の正極シートを50mm×700mmに切り出し、正極集電体の未塗工部にアルミリード線を超音波溶接した。
【0074】
≪評価用セルの負極≫
評価用セルの負極は、上述した負極シートを50mm×850mmに切り出し、負極集電体の未塗工部にニッケルリード線をスポット溶接した。
【0075】
≪評価用セルのセパレータ、電解液≫
評価用セルのセパレータには、ポリエチレン(PE)の両側をポリプロピレン(PP)で挟んだ3層構造(PP/PE/PP)の多孔質のセパレータが用いられている。当該セパレータの厚さは20μmである。また、電解液には、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、EC:DMC:EMC=3:4:3の体積比で混合した混合溶媒に、LiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液を用いた。
【0076】
正極シートと負極シートとは、上記正極シートと負極シートとの間にセパレータを介在させた状態で重ねられ、いわゆる18560電池の所定の電池ケースに収められるように、捲回されて、捲回電極体を構成する。評価用セルは、かかる捲回電極体を18560電池の所定の電池ケースに収めるとともに、正極および負極のリード線を予め定められた配線構成に接続する。その後、電池ケースに電解液(ここでは、約5mL)を注入し、電池ケースに蓋を取り付けて電池ケースを密閉する。
【0077】
≪反応抵抗の測定≫
次に、かかる評価用セルの反応抵抗を測定する。
【0078】
リチウムイオン二次電池は、特に低温環境での抵抗増加が問題になりやすい。また、車載される車両駆動用電池への適用を考慮すると、凡そ−30℃程度の低温の温度環境で適切に駆動することが要求される。このため、ここでは−30℃程度の低温環境での評価用セルの反応抵抗を評価している。
【0079】
反応抵抗の測定では、上記のように構築した評価用セルに適当なコンディショニング処理を行った後、所定の温度環境において、SOC60%(定格容量の60%の充電状態)として、測定周波数範囲0.001〜10000Hz、振幅5mVの条件で交流インピーダンス測定を行う。そして、かかる交流インピーダンス測定によって得られるナイキストプロットにおける半円の直径の大きさを反応抵抗の値とする。ここでは、−30℃程度の低温環境での評価用セルの反応抵抗を評価するべく、評価用セルを−30℃の温度環境に一定時間(例えば、10時間)放置した状態で、−30℃の温度環境において、反応抵抗を測定した。
【0080】
≪−30℃の反応抵抗の評価≫
図12に示すように、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度と、−30℃の反応抵抗との関係では、ガラス転移温度が低いほど反応抵抗が低くなり、ガラス転移温度が高いほど反応抵抗が高くなる傾向が得られた。
【0081】
例えば、図12に示すように、ガラス転移温度が凡そ25℃のスチレンブタジエンゴムを負極活物質層のバインダに用いたリチウムイオン二次電池の反応抵抗を1とした場合、ガラス転移温度が凡そ10℃のスチレンブタジエンゴムを負極活物質層のバインダに用いたリチウムイオン二次電池の反応抵抗は、概ね0.94であった。さらに、ガラス転移温度が凡そ−40℃のスチレンブタジエンゴムを負極活物質層のバインダに用いたリチウムイオン二次電池の反応抵抗のスチレンブタジエンゴムを用いて形成された負極活物質層の剥離強度は、概ね0.9であった。
【0082】
すなわち、ガラス転移温度が凡そ−10℃のスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、ガラス転移温度が凡そ25℃のスチレンブタジエンゴムを用いた場合に比べて、−30℃の反応抵抗は0.94程度に低く抑えられ得る。さらに、ガラス転移温度が凡そ−40℃のスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、ガラス転移温度が凡そ25℃のスチレンブタジエンゴムを用いた場合に比べて、−30℃の反応抵抗は0.9程度に低く抑えられ得る。
【0083】
また、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)と、−30℃の反応抵抗との関係では、平均粒子径(D50)が小さいほど−30℃の反応抵抗が低くなり、平均粒子径(D50)が大きいほど−30℃の反応抵抗が高くなる傾向が得られた。
【0084】
例えば、図13に示すように、平均粒子径(D50)が凡そ180nmのスチレンブタジエンゴムを用いて形成された−30℃の反応抵抗を1とした場合、平均粒子径(D50)が凡そ130nmのスチレンブタジエンゴムを用いて形成された−30℃の反応抵抗は、概ね0.9であった。さらに、平均粒子径(D50)が凡そ80nmのスチレンブタジエンゴムを用いて形成された−30℃の反応抵抗は、概ね0.85であった。
【0085】
すなわち、平均粒子径(D50)が凡そ130nmのスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、平均粒子径(D50)が凡そ180nmのスチレンブタジエンゴムを用いた場合に比べて、−30℃の反応抵抗は0.9倍程度に低く抑えられ得る。さらに、平均粒子径(D50)が凡そ80nmのスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、平均粒子径(D50)が凡そ180nmのスチレンブタジエンゴムを用いた場合に比べて、−30℃の反応抵抗は0.85倍程度に低く抑えられ得る。
【0086】
このように、負極活物質層の剥離強度および−30℃の反応抵抗を考慮すると、負極活物質層のバインダとして用いられるスチレンブタジエンゴムは、ガラス転移温度が低く、また、平均粒子径(D50)が小さい方がよいとの傾向が得られる。
【0087】
また、かかるスチレンブタジエンゴムを用いた場合には、より少ない量で負極活物質層の剥離強度を確保できるので、ゴム系バインダの使用量を少なく抑えることができる。負極活物質層中のゴム系バインダは、リチウムイオン二次電池の反応抵抗を高くする要因にもなる。ゴム系バインダの使用量を少なく抑えることによって、リチウムイオン二次電池の反応抵抗を低く抑えることができる。
【0088】
このように、負極活物質とゴム系バインダとを含む負極活物質層を備えた、リチウムイオン二次電池においては、ゴム系バインダには、上述したガラス転移温度が−40℃以上−10℃以下のスチレンブタジエンゴムが一定以上含まれているとよい。例えば、ゴム系バインダには、かかるスチレンブタジエンゴムが重量割合で概ね90%以上含まれているとよい。これにより、例えばゴム系バインダの使用量を同程度にして比較した場合、負極活物質層の剥離強度を向上させ、かつ、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗を低く抑えることができる。
【0089】
この場合、ゴム系バインダは、上述したスチレンブタジエンゴムが重量割合で概ね90%以上であればよく、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であればよい。すなわち、ゴム系バインダは、例えば、ガラス転移温度が−10℃よりも高い、スチレンブタジエンゴムが含まれていてもよいし、スチレンブタジエンゴム以外のゴム系バインダが含まれていてもよい。また、ゴム系バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴムが重量割合で100%であってもよい。
【0090】
また、かかるスチレンブタジエンゴムは、好ましくは平均粒子径(D50)が100nm以下であるとよい。スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)は、小さければ小さいほどよいと考えられるが、入手の容易性や作業性を考慮すると、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)は、概ね30nm以上(より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは80nm以上)であるとよい。このように、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)の好適な範囲は、概ね30nm以上100nm以下であるとよい。
【0091】
これにより、ゴム系バインダが同程度含まれるリチウムイオン二次電池において、相対的に負極活物質層の剥離強度が高く、かつ、相対的に−30℃の反応抵抗が低く抑えられるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0092】
また、負極活物質層に含まれるゴム系バインダの量は、多すぎると抵抗を増加させ、少なすぎると必要な剥離強度が得られない。上述したように、負極活物質層のゴム系バインダとして、ガラス転移温度が−40℃以上−10℃以下のスチレンブタジエンゴムが重量割合で概ね90%以上含まれている場合では、当該負極活物質層に含まれるゴム系バインダの量は重量比において凡そ0.7%以上1.2%以下であるとよい。これにより、抵抗の増加を低く抑えつつ、適当な剥離強度を得ることができる。より好ましくは、負極活物質層に含まれるゴム系バインダの量は、重量比において1.0%以下であるとよい。
【0093】
≪OH基の有無≫
さらに、ゴム系バインダとしてのスチレンブタジエンゴムは、官能基としてOH基を有しているとよい。これにより、特に、−30℃程度の低温環境における反応抵抗を低く抑えることができる。また、スチレンブタジエンゴムが官能基としてOH基を有している場合には、負極活物質層の剥離強度が高くなる。かかる事象は、上述したのと同様に、負極活物質層の剥離強度およびリチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗を測定することによって確認することができる。
【0094】
本発明者の知見では、図15に示すように、負極活物質層のゴム系バインダとしてのスチレンブタジエンゴムにOH基がない場合を1とすると、OH基がある場合には、凡そ1.2倍程度、負極活物質層の剥離強度が向上し得る。また、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗は、図16に示すように、負極活物質層のゴム系バインダとしてのスチレンブタジエンゴムにOH基がない場合を1とすると、OH基がある場合には、凡そ0.88程度に低く抑えられ得る。
【0095】
かかる事象のメカニズムは、具体的には不明である。本発明者は、例えば、図17に示すように考えている。すなわち、負極活物質層243A中で、負極活物質710A(図示例では、黒鉛)の周りに、スチレンブタジエンゴム730Aが付着している。かかるスチレンブタジエンゴムがOH基を備えていると、OH基の作用によって、電解液280A中のリチウムイオン(Li)が溶媒(図示例では、エチレンカーボネート(EC))から離される。この場合、負極活物質の近くにて、電解液280A中のリチウムイオン(Li)が溶媒(図示例では、エチレンカーボネート(EC))から離される。このため、溶媒から離れたリチウムイオン(Li)は負極活物質710A中に取り込まれ易くなる。また、特に、−30℃の温度環境では、充電時の反応が負極活物質層243中へリチウムイオン(Li)が取り込まれる反応に律速する。このため、スチレンブタジエンゴムがOH基を有していることは、特に、−30℃の温度環境における反応抵抗が低く抑えられる効果に寄与する。また、スチレンブタジエンゴムがOH基を備えていることによって結着力が向上するので、スチレンブタジエンゴムのバインダとしての機能が向上するものと考えられる。
【0096】
≪膨潤度≫
さらに、本発明者が得た知見では、ゴム系バインダとしてのスチレンブタジエンゴムは、電解液に対する膨潤度がある程度高い方がよい。ここで、電解液に対する膨潤度は、例えば、電解液の主溶媒の一つであるエチレンカーボネート(EC)に対するスチレンブタジエンゴムの膨潤度で評価するとよい。エチレンカーボネートに対するスチレンブタジエンゴムの膨潤度は、スチレンブタジエンゴムをエチレンカーボネートに浸漬させた後の重量を、スチレンブタジエンゴムをエチレンカーボネートに浸漬させる前の重量で割るとよい。すなわち、スチレンブタジエンゴムは、エチレンカーボネートに対する膨潤度が高いほど電解液を吸収し得る性質が強い。
【0097】
この場合、エチレンカーボネートに対する膨潤度が高いほど、負極活物質層の剥離強度が強くなり、かつ、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗が低く抑えられ得る。かかる事象は、上述したのと同様に、負極活物質層の剥離強度およびリチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗を測定することによって確認することができる。
【0098】
本発明者の知見では、図18に示すように、スチレンブタジエンゴムのエチレンカーボネートに対する膨潤度が150%程度である場合を1とすると、当該膨潤度が200%程度の場合には、凡そ1.2倍程度、負極活物質層の剥離強度が向上し得る。また、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗は、図19に示すように、スチレンブタジエンゴムのエチレンカーボネートに対する膨潤度が150%程度である場合を1とすると、当該膨潤度が200%程度の場合には、凡そ0.96程度に低く抑えられ得る。このように、スチレンブタジエンゴムのエチレンカーボネートに対する膨潤度は、凡そ150%以上(より好ましくは180%以上、さらに好ましくは200%以上)であるとよい。
【0099】
以上、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を種々説明したが、本発明に係るリチウムイオン二次電池は上記に限定されない。
【0100】
例えば、上述した実施形態では、負極活物質層のゴム系バインダとして、スチレンブタジエンゴムが用いられている場合を例示した。かかるゴム系バインダは、負極活物質層243(図1参照)のバインダとしてだけでなく、電極活物質とゴム系バインダとを含む電極活物質層に適用され得る。この場合、電極活物質層には、正極活物質層223(図1参照)が含まれる。
【0101】
すなわち、スチレンブタジエンゴムは、正極活物質層223(図1参照)のゴム系バインダとしても用いられ得る。この場合、正極活物質層223のゴム系バインダに、ガラス転移温度が−40℃以上−10℃以下のスチレンブタジエンゴムが重量割合で90%以上含まれていてもよい。また、この場合、スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)は、100nm以下であってもよい。また、スチレンブタジエンゴムは、OH基を有していてもよい。さらにスチレンブタジエンゴムのエチレンカーボネートに対する膨潤度は150%以上であってもよい。
【0102】
また、上述したように、本発明は、電極活物質層の剥離強度を向上させることができ、リチウムイオン二次電池の長寿命化に寄与する。また、本発明は、リチウムイオン二次電池の−30℃の反応抵抗を低く抑えるのに寄与する。このため、特に、安全について要求されるレベルが高く、かつ、低温環境においても安定して高い出力性能が要求されるハイブリッド車(例えば、プラグインハイブリッド車)若しくは電気自動車の駆動用電池など車両駆動電源用の二次電池に好適である。
【0103】
この場合、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば、図20に示すように、二次電池の複数個を接続して組み合わせた組電池の形態で、自動車などの車両1のモータ(電動機)を駆動させる車両駆動用電池1000として好適に利用され得る。特に、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、例えば、ハイブリッド車(特に、プラグインハイブリッド車)若しくは電気自動車の駆動用電池として、高容量(例えば、定格容量が3.0Ah以上)のリチウムイオン二次電池に好適である。
【符号の説明】
【0104】
1 車両
100 リチウムイオン二次電池
200 捲回電極体
220 正極シート
221 正極集電体
222 未塗工部
223 正極活物質層
224 中間部分
225 隙間
240 負極シート
241 負極集電体
242 未塗工部
243、243A 負極活物質層
245 隙間
252、254 捲回電極体の捲回軸に沿った両側両側
262、264 セパレータ
280、280A 電解液
290 充電器
300 電池ケース
310、312 隙間
320 容器本体
322 蓋体と容器本体の合わせ目
340 蓋体
350 注液孔
352 封止キャップ
360 安全弁
420、440 電極端子
420a、440a 電極端子の先端部
610 正極活物質粒子
620 導電材
630 バインダ
710、710A 負極活物質
730 バインダ(ゴム系バインダ)
730A スチレンブタジエンゴム
1000 車両駆動用電池
WL 捲回軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体に保持され、電極活物質とゴム系バインダとを含む電極活物質層と、
を有し、
前記ゴム系バインダには、ガラス転移温度が−40℃以上−10℃以下のスチレンブタジエンゴムが重量割合で90%以上含まれているリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記スチレンブタジエンゴムの平均粒子径(D50)が100nm以下である、請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記電極活物質層に含まれる前記ゴム系バインダの量は、重量比において0.7%〜1.2%である、請求項1または2に記載されたリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記スチレンブタジエンゴムは、OH基を有する、請求項1から3までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記スチレンブタジエンゴムのエチレンカーボネートに対する膨潤度が150%以上である、請求項1から4までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記電極活物質層は、負極活物質層である、請求項1から5までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池を備えた車両駆動用電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−4241(P2013−4241A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132645(P2011−132645)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】