説明

リチウム一次電池

【課題】負極活物質にリチウム金属あるいはその合金を使用したリチウム一次電池に関し、さらに詳しくは、作動温度範囲が広いリチウム一次電池に関する。
【解決手段】負極活物質としてリチウム金属あるいはリチウム合金を含む負極と、正極と、非水電解液とを備えたリチウム一次電池において、非水電解液の溶媒として、
一般式R−COO−R
(式中、R:C2m+1、R:C2n+1、m+n≧4、1≦m≦5および1≦n≦5、X:水素およびフッ素を含む、R1、R2の少なくとも一方が2級あるいは3級アルキルである)
で表されるフッ素化鎖状エステルを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質にリチウム金属あるいはその合金を使用したリチウム一次電池に関し、さらに詳しくは、作動温度範囲が広いリチウム一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム一次電池はエネルギー密度が高く、長期信頼性に優れていることから、小型電子機器の主電源や長期バックアップ用電源として急速に需要が伸びている。
【0003】
リチウム一次電池の負極活物質にはリチウム金属あるいはその合金が使用されることから、非水電解液として耐還元性の高い有機溶媒が使用されている。
【0004】
従来、有機溶媒としては誘電率が高くリチウム塩を溶解し易いことからプロピレンカーボネイト(PC)あるいはエチレンカーボネイト(EC)、ブチレンカーボネイト(BC)、γ−ブチロラクトン(GBL)などの環状エステル系溶媒が用いられている。しかし、このような環状エステル系溶媒は、融点が−50〜40℃と有機溶媒の中では比較的高く、単独で使用すると低温時の電池の放電特性が低くなることから、融点が−120〜−60℃とより低いジメトキシエタン(DME)やジエチルエーテル(DEE)、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル系溶媒との混合が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50−136631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウム一次電池にはより広範囲の作動温度が望まれており、前述のように、低温時の放電特性向上を目的として、環状エステル系溶媒へのエーテル系溶媒の混合が提案されている。しかしながら、エーテル系溶媒は誘電率が低くリチウム塩を溶解し難いために、エーテル系溶媒の混合比率を過剰にするとリチウム塩の溶解度が低下し、低温時の放電特性が低下するという問題があった。また、エーテル系溶媒はエステル系溶媒に比べ沸点が低いため、エーテル系溶媒を混合すると高温側での作動温度範囲が制限される。
【0007】
本発明は上記のような従来のリチウム一次電池の課題を解決するものであり、具体的には、広範囲の作動温度を有するリチウム一次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するために本発明のリチウム一次電池は、負極活物質としてリチウム金属あるいはリチウム合金を含む負極と、正極と、非水電解液とを備えたリチウム一次電池において、非水電解液の溶媒として、
一般式R−COO−R
(式中、R:C2m+1、R:C2n+1、m+n≧4、1≦m≦5および1≦n≦5、X:水素およびフッ素を含む、R1、R2の少なくとも一方が2級あるいは3級アルキルである)
で表されるフッ素化鎖状エステルを含むことを特徴とするリチウム一次電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のようなフッ素化鎖状エステルを用いているため、エーテル系溶媒と同様融点が低く、且つエーテル系溶媒に比べ誘電率が高いため、本発明のフッ素化鎖状エステルを単体もしくは環状エステル系溶媒と混合して使用することにより、従来のエーテル系溶媒の混合溶媒に比べ、低温時の放電特性が向上する。さらに、従来のエーテル系溶媒の混合溶媒に比べ高温保存特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態におけるリチウム一次電池の半断面正面図
【図2】本発明の一実施の形態におけるリチウム一次電池の電極群の横断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の発明は、負極活物質としてリチウム金属あるいはリチウム合金を含む負極と、正極と、非水電解液と、を備えたリチウム一次電池において、非水電解液の溶媒として、
一般式R−COO−R
(式中、R:C2m+1、R:C2n+1、m+n≧4、1≦m≦5および1≦n≦5、X:水素およびフッ素を含む、R、Rの少なくとも一方が2級あるいは3級アルキルである)
で表されるフッ素化鎖状エステルを含むことを特徴とするリチウム一次電池である。
【0012】
上記フッ素化鎖状エステルにおいてm、nがm≦5、n≦5のとき、融点が低くなり低温時の電池の放電特性が向上する。上記フッ素化鎖状エステルにおいてm、nをm>5、n>5とすると、融点が高くなるため低温時の電池の放電特性が低下する。
【0013】
上記フッ素化鎖状エステルは誘電率が高く、環状エステル系溶媒などの溶媒に高い配合比率で混合しても、リチウム塩の溶解度低下を抑制する。従って、環状エステル系溶媒とエーテル系溶媒の混合溶媒に比べ、本発明のフッ素化鎖状エステル系溶媒を単体もしくは環状エステル系溶媒などの溶媒と混合して使用することにより低温時の電池の放電特性が向上する。
【0014】
また、上記フッ素化鎖状エステルにおいてm、nがm+n≧4のとき、沸点が高くなるため高温使用時の電池内の蒸気圧が低くなり耐漏液性が向上する。上記フッ素化鎖状エステルにおいて4>m+nとすると、沸点が低くなるため、高温使用時の電池内の蒸気圧が高くなり耐漏液性が低下する。
【0015】
また、上記鎖状エステルにおいてm、nが1≦m、1≦nのとき、加水分解等により酸性の強いギ酸が発生しにくくなるため電池の高温保存特性が安定する。
【0016】
また、上記フッ素化鎖状エステルにおいて、R、Rの少なくとも一方が2級あるいは3級アルキルである。この構成により、フッ素化鎖状エステルの加水分解が起こったとしても、R−OHがカルボン酸になりにくいため、電池の高温保存特性が安定化する。また、この構造にすることによりR1あるいはR2が構造内の−COO−を立体的に保護し高温保存特性が安定化すると考えられる。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態によるリチウム一次電池の半断面正面図である。図2は、このリチウム一次電池の電極群の横断面図である。このリチウム一次電池は正極1と負極2とセパレータ3を捲回して構成された筒状の電極群と、図示しない非水電解液とを有する。非水電解液は電解質にリチウム塩を、溶媒に有機溶媒を使用する。セパレータ3は負極
2と正極1の間に介在する。非水電解液は負極2と正極1の間に介在しセパレータ3に含浸されている。
【0019】
負極2は、金属リチウムあるいはその合金を負極活物質として含む。負極2にはニッケル等の負極集電リード5が超音波溶着により取り付けられている。
【0020】
正極1は、フッ化カーボン、二酸化マンガンなどの正極活物質と、導電剤と、結着剤からなる正極合剤を含む。導電剤としては、黒鉛粉末、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられる。結着剤としては、4フッ化エチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。正極合剤は正極芯材に充填されている。その材質としては網目状のステンレス、ニッケル、アルミニウム、チタンなどが挙げられる。正極集電リード6は、正極芯材と同様の材質からなり、正極芯材に接続されている。正極合剤は正極芯材にローラーにより加圧充填される。
【0021】
セパレータ3としては、ポリエチレンあるいはポリプロピレンなどの不織布あるいは微多孔膜が用いられる。
【0022】
電極群は負極集電体を兼ねる電池ケース4に挿入され、負極集電リード5は電池ケース4と接続されている。正極集電リード6は正極集電体を兼ねる封口板7と接続されている。非水電解液を注入後、封口板7に対し電池ケース4をかしめることにより電池ケース4の内部は密閉されている。なお封口板の周辺は樹脂ガスケット8で絶縁されている。電極群の上下にはそれぞれ上部絶縁板9、下部絶縁板10が配置されている。
【0023】
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0024】
正極活物質であるフッ化カーボン、導電剤である黒鉛粉末、結着剤であるPTFEが質量比で90:5:5の混練物をステンレス製エキスパンドメタルの正極芯材にローラー間で圧接させることで充填した。このようにして作製した正極フープを幅35mm、長さ170mmに切断し、正極合剤を一部剥離し、露出した正極芯材にステンレス製の正極集電リード6を接続して正極1を作製した。
【0025】
また、幅42mm、長さ190mmのリチウム箔にニッケルリードからなる負極集電リード5を超音波溶着し負極2を作製した。
【0026】
次に、図2に示す電極群を作製した。乾燥した正極1と負極2をセパレータ3であるポリプロピレン製微多孔膜を介し、捲回して電極群を作製した。
【0027】
次に、上記の電極群を使用して図1に示すリチウム一次電池を作製した。負極集電体を兼ねる電池ケース4に電極群を挿入し、負極集電リード5を電池ケース4に接続した。一方、正極集電体を兼ねる封口板7に正極集電リード6を接続した。この状態で環状エステル溶媒であるγ―ブチロラクトン(GBL)とフッ素化鎖状エステル溶媒である一般式R−COO−R
(式中、R:C2m+1、R:C2n+1、m+n≧4、1≦m≦5および1≦n≦5、X:水素およびフッ素を含む、R、Rの少なくとも一方が2級あるいは3級アルキルである)
としてCHFCOOCH(CH)CHCH(m=1、n=4)を体積比で1:1の割合で混合した溶媒にホウフッ化リチウム(LiBF)を1mol/l溶解させた非水電解液を電池ケース4に注入した。その後、封口板7に対し電池ケース4をかしめることにより電池ケース4を密閉し、Aサイズの円筒形のリチウム一次電池を作製した。これ
を電池A(実施例)とした。
【0028】
また、フッ素化鎖状エステル溶媒を(表1)に示す溶媒に変更した以外は、電池Aと同様に作製したものを電池B〜H(実施例)および電池I〜M(比較例)とした。また、フッ素化鎖状エステルの代わりに溶媒を1,2−ジメトキシエタン(DME)に変更した以外は、電池Aと同様に作製したものを電池N(比較例)とした。
【0029】
以上の電池A〜電池Nに対し、−40℃、100mAで1.5Vまで放電試験を行った。結果を(表1)に示す。放電容量は電池Aの20℃時の容量を100%とし指数化した。
【0030】
また、電池A〜電池Nに対し、85℃にて20日間保存した後の電池の内部抵抗(交流1kHz)を(表1)に示す。
【0031】
さらに電池A〜電池Nに対し、−40℃/30分〜85℃/30分の熱衝撃を1000サイクル加え電池の漏液有無を確認した。結果を(表1)に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(表1)より、電池Nに比較し、電池A〜Mは−40℃での放電容量が大きい。これは、上記フッ素化鎖状エステルにおいてm、nをm≦5、n≦5とすることにより、各種フッ素化鎖状エステル溶媒の融点がDMEより低く、誘電率もDMEに比べ高いことから低温時の非水電解液の粘度が低くなりイオン導電性が高くなったためと考えられる。
【0034】
電池A〜Hおよび電池L〜Mは電池Iに比べて保存後の抵抗が低い。これは、上記フッ素化鎖状エステルにおいて1≦n、および1≦mとすることによりギ酸の発生が抑制されているためと考えられる。
【0035】
また、電池Kに比べ電池Aおよび電池Bの方が保存後の抵抗が小さいが、これはフッ素化鎖状エステル構造内のRが2級あるいは3級であるために酸化されてカルボン酸になるのを抑制しているためと考えられる。
【0036】
電池Jは漏液が発生しているのに対し、それ以外の電池では漏液は発生しなかった。これは、上記フッ素化鎖状エステルにおいてm+n≧4とすることにより沸点が高くなり、高温での作動時に電池の内圧上昇が抑制されたためと考えられる。
【0037】
電池Lに比較し、電池A〜Dは−40℃での放電容量が大きい。これは、上記フッ素化鎖状エステルにおいてnをn≦5とすることにより、各種フッ素化鎖状エステル溶媒の融点が低くなり低温時の非水電解液の粘度が低くなりイオン導電性が高くなったためと考えられる。
【0038】
電池Mに比較し、電池A、E〜Hは−40℃での放電容量が大きい。これは、上記フッ素化鎖状エステルにおいてmをm≦5とすることにより、各種フッ素化鎖状エステル溶媒の融点が低くなり低温時の非水電解液の粘度が低くなりイオン導電性が高くなったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のリチウム一次電池は、作動温度範囲が広い。そのため、小型電子機器の主電源や長期バックアップ用電源として有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電池ケース
5 負極集電リード
6 正極集電リード
7 封口板
8 樹脂ガスケット
9 上部絶縁板
10 下部絶縁板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質としてリチウム金属あるいはリチウム合金を含む負極と、正極と、非水電解液と、を備えたリチウム一次電池において、前記非水電解液の溶媒として、
一般式R−COO−R
(式中、R:C2m+1、R:C2n+1、m+n≧4、1≦m≦5および1≦n≦5、X:水素およびフッ素を含む、R1、R2の少なくとも一方が2級あるいは3級アルキルである)
で表されるフッ素化鎖状エステルを含むことを特徴とするリチウム一次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−30330(P2013−30330A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164977(P2011−164977)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】