説明

リチウム二次電池の製造方法

【課題】より電池性能の良い(例えば、より高い容量が得られる)リチウム二次電池を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明によって提供される方法は、正極活物質としてオリビン型リン酸化合物を含む正極と、負極と、非水電解液とを備えるリチウム二次電池を製造する方法である。この方法は、正極と負極と非水電解液とを備えるリチウム二次電池を組み立てる工程と、組み立てたリチウム二次電池に対して初期充電を行う工程とを包含する。そして、上記初期充電工程では、前記正極活物質におけるリチウムの脱離率が10%〜85%となるように充電する過程を含む予備充放電を少なくとも1サイクル行い、その後、満充電することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。かかるリチウム二次電池は、正極と負極との間にセパレータを介在させた状態で構成される電極体を備えており、該正負極間におけるリチウム(Li)イオンの移動によって充放電が行われる。この種のリチウム二次電池に関する従来技術としては特許文献1〜3が挙げられる。
【0003】
この種のリチウム二次電池においては、Liイオンを可逆的に吸蔵・放出し得る正極活物質が正極集電体上に保持された構成の正極を備えている。例えば、正極に用いられる正極活物質の一つとして、リチウムと遷移金属元素とを含み、いわゆるオリビン型の構造を有するリン酸化合物(例えば、LiFePOやLiMnPO等のオリビン型リン酸塩)が挙げられる。かかるオリビン型リン酸化合物は、理論容量が高く(例えば、LiFePOでは170mAh/g)、低コストで充電時の熱安定性に優れることから、有望な正極活物質として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−325988号公報
【特許文献2】特開2008−504662号公報
【特許文献3】特開2003−109662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなリチウム二次電池では、電池として組み立てられた後、最初の充電処理(すなわち、正極、負極、電解液等の電池構成要素を組み立てた後に初めて行う充電処理。以下「初期充電」という。)が行われる(特許文献1〜3)。上述のようなオリビン型リン酸化合物を正極活物質として用いた電池では、リン酸化合物のレドックス電位が高いため、初期充電における正極電位の上限を比較的高電位に設定することが望ましい。しかしながら、正極の上限電位を高電位に設定すると、正極活物質から多量のリチウムが脱離するため、正極活物質の結晶構造が不安定となり、正極活物質と非水電解液との反応性が増大する。その結果、正極活物質表面において非水電解液との不可逆反応が起こり易くなり、不可逆容量が発生し、電池の容量が大幅に低下するという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、より電池性能の良い(例えばより高い容量が得られる)リチウム二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により提供される方法は、正極活物質としてオリビン型リン酸化合物を含む正極と、負極と、非水電解液とを備えるリチウム二次電池を製造する方法である。この製造方法は、正極と負極と非水電解液とを備えるリチウム二次電池を組み立てる工程と、組み立てたリチウム二次電池に対して初期充電を行う工程とを包含する。そして、上記初期充電工程では、上記正極活物質におけるリチウムの脱離率が10%〜85%となるように充電する過程を含む予備充放電を少なくとも1サイクル行い、その後、満充電することを特徴とする。
【0008】
本発明の方法によれば、正極活物質に含まれるリチウムの10%〜85%が脱離するように充電する過程を含む予備充放電を少なくとも1サイクル行い、その後、満充電状態(即ち正極活物質に含まれるほぼ全てのリチウムが抜けた状態)にするので、最初から満充電する従来の態様に比べて、不可逆容量が発生しにくくなる。そのため、より理論容量に近い放電容量を得ることができる。
【0009】
上記予備放電におけるリチウムの脱離率は、概ね10%〜85%程度であればよく、通常は30%〜80%程度が好ましく、例えば50%〜80%の範囲であることが好ましい。この範囲から外れると、予備充電時のリチウムの脱離量が多すぎたり少なすぎたりするため、予備充電を行うことによる効果が十分に得られない場合がある。なお、リチウムの脱離率は、例えば、予備充電後のリン酸化合物(正極活物質)の組成分析を誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP−AES)で行い、リン酸化合物中に含まれるLiと他の金属元素との組成比を決定し、この組成比からリチウムの脱離率を見積もるとよい。例えば、リチウム二次電池の組み立てに使用したリン酸化合物がLiMnPO(LiとMnとの組成比が1:1)であり、充電後に得られたLiとMnとの組成比(原子数比)が0.3:1の場合、リチウムの脱離率は凡そ70%と見積もることができる。
【0010】
ここに開示されるリチウム二次電池製造方法の好ましい一態様では、上記予備充放電を2サイクル以上繰り返す。予備充放電を2サイクル以上繰り返すことによって、不可逆容量の発生が抑制され、より高い放電容量が得られる。予備充放電のサイクル数は特に限定されないが、通常は2サイクル〜10サイクルにするのが適当であり、概ね3サイクル〜5サイクルにすることが好ましい。この範囲内でサイクル数を増やすほど、より好適な結果が実現され得る。
【0011】
ここに開示されるリチウム二次電池製造方法の好ましい一態様では、上記リチウムの脱離率をサイクルごとに変えながら、上記予備充放電を繰り返す。リチウムの脱離率(即ち、電池の充電状態)を各サイクルで段階的に変化させることによって、不可逆容量の発生が効果的に抑制され、より高い放電容量が得られる。
【0012】
ここに開示されるリチウム二次電池製造方法の好ましい一態様では、上記リチウムの脱離率をサイクル順に大きくしながら、上記予備充放電を繰り返す。この場合、予備充放電の初回では10%〜60%まで充電し、最終回では60%〜85%まで充電し、且つ初回から最終回に至る間のリチウムの脱離率を順次大きくすることが好ましい。例えば、予備充放電を3サイクル行う場合には、予備充放電の1サイクル目(初回)では30%〜50%まで充電し、2サイクル目では50%〜70%まで充電し、3サイクル目(最終回)では70%〜85%まで充電するとよい。このように、初回から最終回に至る間のリチウムの脱離率を順次大きくしながら満充電に近づけることによって、不可逆容量の発生がより効果的に抑制され、高い放電容量が得られる。
【0013】
ここに開示される技術は、上記オリビン型リン酸化合物がLiMnPOである場合に好ましく適用され得る。LiMnPOは、理論容量が高く、熱安定性に優れることから正極活物質として好ましい性質を有する一方で、初期充電における正極電位の上限を高電位に設定する必要があるため、不可逆容量が発生しやすい。したがって、オリビン型リン酸化合物がLiMnPOである場合には、ここに開示される技術を適用する意義が特に大きい。
【0014】
また、本発明は、ここに開示される製造方法により製造されたリチウム二次電池を提供する。このリチウム二次電池は、ここに開示される初期充電工程を経て製造されているため、初期充電後の電池性能(例えば充放電特性)が良好となる。
【0015】
このようなリチウム二次電池は、上記のとおり良好な電池性能を示すことから、例えば自動車等の車両に搭載される電池として好適である。したがって本発明によると、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、良好な負荷特性が得られることから、該リチウムイオン二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る捲回電極体の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る製造工程フローを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る予備充放電工程フローを示す図である。
【図5】性能評価用に作製したコインセルを模式的に示す部分断面図である。
【図6】実施例および比較例の各サイクルのリチウム脱離率を示すグラフである。
【図7】実施例および比較例の放電容量の測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池を備える車両の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、セパレータや電解質の構成および製法、リチウム二次電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0018】
特に限定することを意図したものではないが、以下では扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と非水電解液とを扁平な箱型(直方体形状)の電池ケースに収容した形態のリチウムイオン二次電池を例としてさらに本実施形態を説明する。
【0019】
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成を図1〜2に示す。このリチウム二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20が長尺状のセパレータ40を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(扁平な箱型)の電池ケース50に収容された構成を有する。
【0020】
電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。電池ケース50を構成する材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましく用いられる(本実施形態ではアルミニウム)。あるいは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなる電池ケース50であってもよい。電池ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する正極端子70と、電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72とが設けられている。電池ケース50の内部には、扁平形状の捲回電極体80が図示しない非水電解液とともに収容される。
【0021】
捲回電極体80を構成する構成要素は、従来のリチウムイオン二次電池の捲回電極体と同様でよく、特に制限はない。
【0022】
正極シート10は、図2に示すように、長尺状の正極集電体12の上に上述した正極活物質を主成分とする正極合材層14が付与されて形成されている。正極集電体12にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。
【0023】
正極に用いられる正極活物質としては、リチウムと遷移金属元素とを含み、いわゆるオリビン型の構造を有するリン酸化合物(例えば、LiFePOやLiMnPO等のオリビン型リン酸塩)が挙げられる。オリビン型リン酸化合物は、一般式LiMPOで表される。式中のMは、少なくとも一種の遷移金属元素からなり、例えば、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、Cr、Ti、Vから選択される一種または二種以上の元素を含んでいる。このようなリチウム含有リン酸化合物(典型的には粒子状)としては、例えば、従来公知の方法で調製されるリン酸化合物粉末をそのまま使用することができる。
【0024】
正極合材層14は、一般的なリチウム二次電池において正極合材層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電材が挙げられる。該導電材としてはカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。その他、正極合材層の成分として使用され得る材料としては、上記構成材料の結着剤(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。
【0025】
負極シート20は、長尺状の負極集電体22の上にリチウムイオン電池用負極活物質を主成分とする負極合材層24が付与されて形成されている。負極集電体22には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム含有遷移金属酸化物や遷移金属窒化物等が挙げられる。
【0026】
正負極シート10、20間に使用される好適なセパレータシート40としては多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。例えば、厚さ5〜30μm(例えば25μm)程度の合成樹脂製(例えばポリエチレン等のポリオレフィン製)多孔質セパレータシートが好適に使用し得る。
【0027】
ケース本体52内に上記捲回電極体80と共に収容される非水電解液としては、従来のリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に電解質(支持塩)を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等を用いることができる。また、上記電解質(支持塩)としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。非水電解液中における電解質濃度は、例えば0.05mol/L〜10mol/L程度であり、好ましくは0.1mol/L〜5mol/L程度であり、通常は1mol/L程度にするとよい。
【0028】
続いて、上記構造を有するリチウム二次電池100を例として、本実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法について説明する。本実施形態の方法は、正極活物質としてオリビン型リン酸化合物を含む正極と、負極と、非水電解液とを備えるリチウム二次電池を製造する方法である。この製造方法は、図3に示すように、正極と負極と非水電解液とを備えるリチウム二次電池を組み立てる工程(電池組み立て工程)と、組み立てたリチウム二次電池に対して初期充電を行う工程(初期充電工程)とを包含する。以下、電池組み立て工程、初期充電工程の順に説明する。
【0029】
電池組み立て工程は、正極10と負極20と非水電解液とを備えるリチウム二次電池100を組み立てる工程である。この実施形態では、まず、捲回電極体80を構築する。捲回電極体80を構築する際には、図2に示すように、正極シート10と負極シート20とをセパレータシート40を介して積層したシート状電極体を用意する。このとき、セパレータシート40は正極シート10の正極合材層非形成部(正極集電体12の露出部分)が外方にはみ出るように(即ち正極合材層14とセパレータシート40とが対向するように)重ね合せられる。負極シート20も正極シート10と同様に積層され、負極合材層非形成部(負極集電体22の露出部分)がセパレータシート40から外方にはみ出るように(即ち負極合材層24とセパレータシート40とが対向するように)重ね合せられる。かかるシート状電極体を捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体80が得られる。
【0030】
かかる構成の捲回電極体80をケース本体52に収容し、そのケース本体52内に適当な非水電解液を配置(注液)し、そして、ケース本体52の開口部を蓋体54との溶接等により封止することにより、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立て工程が完成する。なお、ケース本体52と蓋体54との溶接プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。
【0031】
初期充電工程では、上記組み立てたリチウム二次電池100に対して初期充電を行う。この初期充電工程では、図3に示すように、正極活物質におけるリチウムの脱離率が10%〜85%となるように充電する過程を含む予備充放電を少なくとも1サイクル行い、その後、満充電する。すなわち、正極活物質に含まれるリチウムの10%〜85%が脱離するように充電する過程を含む予備充放電を行った後、さらにリチウムの脱離率が100%となるまで満充電を実行する。
【0032】
本実施形態の方法によれば、正極活物質に含まれるリチウムの10%〜85%が脱離するように充電する過程を含む予備充放電を少なくとも1サイクル行い、その後、満充電状態(即ち正極活物質に含まれるほぼ全てのリチウムが抜けた状態)にするので、最初から満充電する従来の態様に比べて、不可逆容量が発生しにくくなる。そのため、より理論容量に近い放電容量を得ることができる。
【0033】
上記予備放電におけるリチウムの脱離率は、概ね10%〜85%程度であればよく、通常は30%〜80%程度が好ましく、例えば50%〜80%の範囲であることが好ましい。この範囲から外れると、予備充電時のリチウムの脱離量が多すぎたり少なすぎたりするため、予備充電を行うことによる効果が十分に得られない場合がある。
【0034】
ここに開示される一態様では、図4に示すように、予備充放電を2サイクル以上繰り返すことが好ましい。予備充放電を2サイクル以上繰り返すことによって、不可逆容量の発生が抑制され、より高い放電容量が得られる。予備充放電のサイクル数は特に限定されないが、通常は2サイクル〜10サイクルにするのが適当であり、概ね3サイクル〜5サイクルにすることが好ましい。この範囲内でサイクル数を増やすほど、より好適な結果が実現され得る(図4では3サイクル)。
【0035】
ここに開示される技術では、上記リチウムの脱離率をサイクルごとに変えながら、予備充放電を繰り返すことが好ましい。リチウムの脱離率(即ち、電池の充電状態)を各サイクルで段階的に変化させることによって、不可逆容量の発生が効果的に抑制され、より高い放電容量が実現され得る。
【0036】
ここに開示される好ましい一態様では、リチウムの脱離率をサイクル順に大きくしながら、予備充放電を繰り返す。この場合、予備充放電の初回では10%〜60%まで充電し、最終回では60%〜85%まで充電し、且つ初回から最終回に至る間のリチウムの脱離率を順次大きくすることが好ましい。例えば、図4に示すように、予備充放電を3サイクル行う場合には、予備充放電の1サイクル目(初回)では50%まで充電し、2サイクル目では70%まで充電し、3サイクル目(最終回)では80%まで充電するとよい。このように、初回から最終回に至る間のリチウムの脱離率を順次大きくしながら満充電状態に近づけることによって、不可逆容量の発生がより効果的に抑制され、高い放電容量が得られる。
【0037】
なお、ここに開示される技術を実施するにあたり、リチウムの脱離率が10%〜85%となるように予備充放電を行うことによって高い放電容量が得られる理由を明らかにする必要はないが、例えば以下のように考えられる。
【0038】
すなわち、最初から満充電する従来の態様では、最初の充電において正極活物質から100%近いリチウムが一気に脱離するため、正極活物質の結晶構造が不安定となり、正極活物質と非水電解液との反応性が増大する。その結果、正極活物質表面において非水電解液との不可逆反応(電解液の分解)が起こり易くなり、不可逆容量が発生し、電池の容量が大幅に低下する。これに対し、本実施形態では、リチウムの脱離率を段階的に変えていくので、正極活物質の結晶構造が安定に保たれ、非水電解液との不可逆反応が起こりにくくなる。これにより、不可逆容量の発生が抑制され、高い放電容量が得られたと考えられる。また、段階的な予備充放電を行うことで、正極活物質表面にリチウムの拡散に有用な被膜が形成され、この被膜によって高い放電容量が得られたと考えられる。
【0039】
また、正極活物質内のリチウムの拡散パスは、最初の充電時に形成されると考えられているが、最初から満充電する従来の態様では、最初の充電において正極活物質から全てのリチウムが抜けるため、正極活物質の構造が崩れ、正極活物質内にきちんとした拡散パスを形成することができない。これに対し、本実施形態では、最初の充電時に10%〜85%のリチウムしか脱離しないため、正極活物質の結晶構造を安定に保ちつつ拡散パスを形成できる。ここで生じたリチウムの拡散パスによって、スムーズに放電を行えるようになり、満充電以降も高い放電容量が得られたと考えられる。
【0040】
このようにして初期充電処理を行った後、電池ケース50の内部で発生したガスを適当なガス抜き処理によってケース外に排出し、電池ケース50を気密に封止することによって、本実施形態に係るリチウム二次電池100の製造が完了する。なお、電池ケース50内のガス抜きプロセスや、電池ケース50の封止プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。
【0041】
以下、本発明に関する実施例1〜4を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0042】
<リチウム二次電池の組み立て>
正極活物質としてのLiMnPO粉末とカーボンブラック(導電材)とポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これらの材料の質量比が75:20:5となるようにN−メチルピロリドン(NMP)中で混合して、ペースト状の正極合材層用組成物を調製した。このペースト状正極合材層用組成物をアルミニウム箔(正極集電体)の片面に層状に塗布して乾燥することにより、該正極集電体の片面に正極合材層が設けられた正極シートを得た。
【0043】
上記正極シートを直径16mmの円形に打ち抜いて、正極を作製した。この正極(作用極)と、負極(対極)としての金属リチウム(直径19mm、厚さ0.02mmの金属Li箔を使用した。)と、セパレータ(直径22mm、厚さ0.02mmの多孔質ポリオレフィンシートを使用した。)とを、非水電解液とともにステンレス製容器に組み込んで、直径20mm、厚さ3.2mm(2032型)の図5に示すコインセル60(充放電性能評価用のハーフセル)を構築した。図5中、符号61は正極(作用極)を、符号62は負極(対極)を、符号63は電解液の含浸したセパレータを、符号64はガスケットを、符号65は容器(負極端子)を、符号66は蓋(正極端子)をそれぞれ示す。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを用いた。
【0044】
<初期充電および性能評価>
以上のようにして作製したコインセルに対し、下記の表1に示す条件により、初期充電を行った。ここでは予備充放電後に満充電を行うところまでを含めて「初期充電工程」としている。実施例1について説明すると、組み立て後のセルを20℃の温度環境下におき、下記の(1)〜(3)の条件で予備充放電を3サイクル行い、その後、下記の(4)の条件で満充電を行い、初期充電工程を完了した。そして、満充電後の放電容量(即ち、4サイクル目の放電容量)を測定して評価した。なお、リチウムの脱離率は、充電操作後のLiMnPOの組成分析を誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP−AES)で行い、LiMnPO中に含まれるLiとMnとの組成比を決定し、この組成比からリチウムの脱離率を見積もった。例えば、充電後に得られたLiとMnとの組成比が0.3:1の場合、リチウムの脱離率は70%と見積もった。
【0045】
(1)0.05Cの定電流にてリチウムの脱離率が50%(極間電圧が4.18V)となるまで充電を行い、次いで、0.05の定電流にて極間電圧が2.0V(下限電圧)になるまで放電を行った。
(2)0.05Cの定電流にてリチウムの脱離率が70%(極間電圧が4.22V)となるまで充電を行い、次いで、0.05の定電流にて極間電圧が2.0V(下限電圧)になるまで放電を行った。
(3)0.05Cの定電流にてリチウムの脱離率が80%(極間電圧が4.33V)となるまで充電を行い、次いで、0.05の定電流にて極間電圧が2.0V(下限電圧)になるまで放電を行った。
(4)0.05Cの定電流にてリチウムの脱離率が100%(極間電圧が4.80V)となるまで充電を行い、次いで、0.05の定電流にて極間電圧が2.0V(下限電圧)になるまで放電を行った。
【0046】
【表1】

【0047】
他の実施例2〜4についても、上記(1)〜(4)のリチウムの脱離率を表1のように変えたこと以外は実施例1と同様にして初期充電を行った。実施例4について説明すると、組み立て後のセルに対し、リチウムの脱離率が80%になるように予備充放電を1サイクル行い、その後、リチウムの脱離率が100%になるように満充電を行い、初期充電工程を完了した。放電後、さらに満充放電を2サイクル行い、全体で4サイクル目の放電容量を測定した。また、比較のため、組み立て後のセルに対し、リチウムの脱離率が100%になるように満充放電を4サイクル行い、4サイクル目の放電容量を測定した。実施例1〜4および比較例の各サイクルのリチウムの脱離率を図6に示す。また、4サイクル目の放電容量の測定結果を図7に示す。
【0048】
図7から分かるように、予備充放電を行った実施例1〜4のセルは、予備充放電を行わなかった比較例のセルに比べて、放電容量が明らかに向上した。このことから、予備充放電を行うことによって高容量が得られることが確認された。また、予備充放電を2サイクル以上行った実施例1〜3のセルは、1サイクルの実施例4のセルに比べて、放電容量がさらに向上した。このことから、予備充放電を2サイクル以上(好ましくは3サイクル)繰り返すことで、より高容量が得られることが確認された。さらに、実施例1、2と実施例3の比較から、予備充放電の初回を30〜50%まで充電することによって、より高い放電容量が得られることが確認された。特に予備充放電の初回を50%まで充電した実施例1のセルは、放電容量が145mAh/gとなり、理論容量に近い容量が実現された。
【0049】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0050】
本発明に係るリチウム二次電池は、上記のとおり高い放電容量が得られ、より良好な電池性能を示すことから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。したがって本発明は、図8に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池100(典型的には複数直列接続してなる組電池)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供する。
【符号の説明】
【0051】
10 正極シート
12 正極集電体
14 正極合材層
20 負極シート
22 負極集電体
24 負極合材層
40 セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
80 捲回電極体
100 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質としてオリビン型リン酸化合物を含む正極と、負極と、非水電解液とを備えるリチウム二次電池を製造する方法であって、
以下の工程:
正極と負極と非水電解液とを備えるリチウム二次電池を組み立てる工程;および、
前記組み立てたリチウム二次電池に対して初期充電を行う工程;
を包含し、
前記初期充電工程では、前記正極活物質におけるリチウムの脱離率が10%〜85%となるように充電する過程を含む予備充放電を少なくとも1サイクル行い、その後、満充電することを特徴とする、リチウム二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記予備充放電を2サイクル以上繰り返す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記リチウムの脱離率をサイクルごとに変えながら、前記予備充放電を繰り返す、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記リチウムの脱離率をサイクル順に大きくしながら、前記予備充放電を繰り返す、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記予備充放電の初回では10%〜60%まで充電し、最終回では60%〜85%まで充電し、且つ初回から最終回に至る間のリチウムの脱離率を順次大きくする、請求項2から4の何れか一つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記オリビン型リン酸化合物がLiMnPOである、請求項1から5の何れか一つに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一つに記載の方法により製造されたリチウム二次電池を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−44333(P2011−44333A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191757(P2009−191757)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】