説明

リチウム電池用のマンガン酸化物複合電極

化学式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yで表されるリチウム金属酸化物の前駆体であって、0<x<1および0≦y<1であり、LiMnO成分およびLiMn2−y成分が、それぞれ、層状およびスピネル型の構造を有し、Mが1以上の金属カチオンである前駆体を備えた非水電荷質電気化学セル用の活性電極を開示する。電極は、酸化リチウム、または、リチウムおよび酸化リチウムを前駆体から除去することにより活性化する。開示した陽極を備えたセルおよび電池も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国エネルギー省とアルゴンヌ国立研究所を代表するシカゴ大学との間の契約第W−31−109−ENG−38号に従って、米国政府は、本発明に関する権利を有する。
【0002】
本発明は、米国特許法施行規則1.78条(c)項に従い、2004年9月3日出願の米国仮出願特許出願第60/607,125号に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、非水性(または、非水電解質、non-aqueous)リチウムセルまたは電池用のリチウム金属酸化物電極に関する。リチウムセルおよびリチウム電池は、電子装置、医療機器、輸送機器、航空宇宙用機器および防衛システムのような多くの装置に電力を供給するのに幅広く用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、非水性リチウムセルおよび非水性リチウム電池用の金属酸化物電極に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
とりわけ、本発明は、電極前駆体として、化学式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yで表され、0<x<1および0≦y<1であり、成分LiMnOと成分Mn2−yとが、それぞれ、層状とスピネル型の構造を有し、Mが1以上の金属カチオンであるマンガン含有リチウム金属酸化物を有する活性電極(activated electrode)に関し、該活性電極は該前駆体より酸化リチウム(LiO)、または、リチウムと酸化リチウムを取り除くことにより活性化し、Mカチオンは1価、2価、3価または4価のカチオンより選ばれ1以上のカチオンであり、好ましくはLi、Mg2+、Ni2+、Ni3+、Co2+、Co3+、Al3+、Ti4+、およびZr4+イオンより選ばれる1以上のカチオンである。複合電極(または複合材料電極、composite electrode)の電荷の中立性(charge neutrality)を維持しながら、成分の化学量論組成(stoichiometry)を変える合成の間に、層状の成分LiMnOのMカチオンによる、マンガンイオン、またはマンガンイオンとリチウムイオンの部分的な置換が起こり得る。電極前駆体(precursor electrode)は、層状のLiMnO成分およびスピネル構造のLiMn2−y成分から酸化リチウムおよびリチウムを取り除くか、または、成分が例えばLiMnO(またはLiO・MnO)とLi1.33Mn1.67(y=0.33、またはLiO・2.5MnO)である場合は、酸化リチウムのみを取り除くことにより化学的または電気化学的に活性化できる。本発明は、層状LiMnO成分が複合構造を有する層状のxLiMnO・(1−x)LiM’O(0<x<1)成分で置換された活性電極であって、層状のサブコンポーネント(subcomponent)LiM’OのM’イオンは1以上の第1遷移金属(first-row transition metal)であり、随意的にM’イオンの10%以下はLiイオン、Mgイオンおよび/またはAlイオンに置換されていてよい電極をも含むように広がりを有する。
【0006】
本発明の原理は、電極の前駆体xLiMnO・(1−x)LiMn2−yのLiMnO成分またはLiMn2−y成分が、サブコンポーネントとしての酸化リチウムを含むLiO・zMnO成分に置換された他の活性電極であって、リチウム化(またはリチウムを含有させる、lithiate)したアルファ型のMnO構造またはリチウム化したガンマ型のMnO構造を有することが可能な、0.15LiO・MnO(またはLiO・6.67MnO、z=6.67)のような、層状またはスピネル型の構造を有しない活性電極をも含むように広がりを有する。この電極前駆体は、その構造から化学的または電気化学的に酸化リチウム、または酸化リチウムとリチウムとを取り除くことで活性化する。
【0007】
本発明の電極は、個々の成分LiMnO、LiMn2−y、xLiMnO・(1−x)LiM’O、およびLiO・zMnOが「複合」電極を構成するように、互いに構造的に原子レベルで一体化(または、結合)する、または個々の成分の物理的な混合物およびブレンドを含むことができる構造を有している。他の態様では、個々の成分は、区分けされた電極内で互いに分離してよい。本発明は、電極前駆体を合成する方法および電極前駆体を活性化する方法を含む。
【0008】
本発明の電極は、リチウム1次セルおよびリチウム1次電池、または、リチウム2次セルおよびリチウム2次(または、リチャージャブル、rechargeable)電池に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、添付の図面により示され、説明される新しい特徴および部分の組合せよりなる。本発明の精神から逸脱することなく、または本発明のいかなる利点を犠牲にすることなく、細部の各種の変更ができることが理解されよう。
【0010】
従来のリチウムイオンセルは、LiCoOの陽極と、通常はグラファイトである炭素の陰極と、非水電解質(または非水電解液)とを含む。1)LiCoOは、比較的高価である。 2)実用的な容量が制限される(≦140mAh/g)。 3)充電状態で、脱リチウム化(または、リチウムを除去、delithiate)したLi1−XCoO電極は、リチウムセルの使用環境において本質的に不安定で、安全ではない。 これらにより、電極材料であるLiCoOを置き換えようとする懸命な努力がリチウム電池の関係者により行われている。ニッケルによりコバルトの一部を置換することで、電極の電気化学特性の著しい改善がなされているが、LiCo1−XNi電極(およびLiCo1−XNiの他の組成変更物)は、上述の制限を、十分には克服できていない。金属酸化物系の電気化学的電位、コスト、容量、安全性および毒性を考慮すると、リチウムイオンセルの陽極のコバルトを置き換えるに、マンガンは最も魅力的な第1遷移金属元素であると思われる。さらに、例えば、アルファMnO、ベータMnOおよびガンマMnOのような1次元のトンネル構造、2次元の層状(例えば、バーネス石(birnessite)型)構造、および3次元骨格(framework)(例えばスピネル型)構造のような、幅広い範囲のマンガン酸化物およびリチウムマンガン酸化物の構造が存在する。多くの場合、マンガン酸化物の母体骨格構造(host framework)を破壊することなしに、リチウムをマンガン酸化物の母体骨格構造に加えるおよび母体骨格構造から取り除くことができる。層状のLiMnOおよび置換されたLiMn1−y(MはCo、NiおよびLiのような1以上の金属イオン)電極材料が例えばBruceらにより文献で示されている。これらの例として、それより電極が(Liのイオン交換により)形成される前駆体は、層状のNaMnOまたは置換されたNaMn1−y化合物であり、例えば、Journal of Materials Chemistry, Volume 13, page 2367 (2003)に示さている。この層状のLiMnOおよび置換されたLiMn1−yの電極材料は、常にいくらかの残留Naイオンを含み、本発明の電極とは異なる。リチウム化されたマンガン酸化物構造は、また、酸化リチウム(またはリチア、LiO)成分を各種のMnO化合物に加えること(通常LiO・zMnOと表すことができる)で形成および安定化できる。このような化合物の例は、リチア安定化ホランダイト型MnOトンネル構造物(LiO・6.67MnO、または0.15LiO・MnO)、リチア安定化ガンマ型MnOトンネル構造物(LiO・6.67MnO、または0.15LiO・MnO)、リチア安定化層状構造物(LiO・MnO、またはLiMnO)およびリチア安定化スピネル型構造物(LiO・2.5MnO、またはLiMn12)である。Journal of Power Sources, Volumes 43-44, page 289 (1993)およびProgress in Solid State Chemistry, Volume 25, page 1 (1997)に強調されているように、マンガン系の多様性は、従って、1次および2次リチウムセルならびに1次および2次リチウム電池の電極への利用にとって特に魅力的である。
【0011】
本発明は、概して、非水性リチウムセルおよび電池用のマンガンを含む金属酸化物電極に関する。より詳細には、本発明は、電極前駆体として式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yで表される、マンガンを含むリチウム金属酸化物を含む活性電極であって、0<x<1および0≦y<1であり、LiMnO成分とLiMn2−y成分とが、それぞれ、層状構造とスピネル型構造を有し、Mは1以上の金属カチオンであり、該活性電極はリチウム酸化物、またはリチウムとリチウム酸化物を該前駆体から取り除くことにより活性化し、Mカチオンが1価、2価、3価または4価のカチオンから選択された1以上のカチオンであり、好ましくはLi、Mg2+、Ni2+、Ni3+、Co2+、Co3+、Al3+、Ti4+、およびZr4+イオンより選ばれる1以上のカチオンである活性化電極に関する。複合電極の電荷の中立性を維持しながら、成分の化学量論組成を変える合成の間に、層状の成分LiMnOのMカチオンによる、マンガンイオン、またはマンガンイオンとリチウムイオンの部分的な置換が起こり得る。電極前駆体は、層状のLiMnO成分およびスピネル型のLiMn2−y成分より酸化リチウムとリチウムとを取り除くか、または、成分が例えばLiMnO(またはLiO・MnO)とLi1.33Mn1.67(y=0.33、またはLiO・2.5MnO)である場合は、酸化リチウムのみを取り除くことにより化学的または電気化学的に活性化できる。xLiMnO・(1−x)LiMn2−yのような電極前駆体は、リチウムと酸化リチウムの両方を取り除くことにより電気化学的に活性化する場合、通常、酸化リチウムの除去の前にリチウムの除去が起こり電極構造体のLiMn2−yスピネル成分のMnおよび/またはMイオンが同時酸化する。
【0012】
本発明は、層状のLiMnO成分が、「複合」構造を有する層状のxLiMnO・(1−x)LiM’O(0<x<1)成分によって置換された活性電極であって、層状のサブコンポーネント(subcomponent)LiM’OのM’イオンは1以上の第1遷移金属であり、随意的にM’イオンの10%以下はLiイオン、Mgイオンおよび/またはAlイオンに置換されていてよい電極をも含むように広がりを有する。
【0013】
本発明の原理は、電極前駆体xLiMnO・(1−x)LiMn2−yのLiMnO成分またはLiMn2−y成分が、サブコンポーネントとして酸化リチウムを含み、リチウム化されたアルファ型のMnO構造またはリチウム化されたガンマ型のMnO構造を有する0.15LiO・MnO(またはLiO・6.67MnO、z=6.67)のように、層状またはスピネル型の構造を有しないLiO・zMnO成分によって置換された活性電極であって、電極前駆体のその構造から化学的または電気化学的に、酸化リチウムまたはリチウムと酸化リチウムとを取り除くことで活性化する他の電極をも含むように広がりを有する。本発明の電極前駆体のそれぞれの成分は、従って、1次元のトンネル構造、2次元の層状構造、または、3次元の骨格構造を有することが可能である。
【0014】
本発明の電極は、個々の成分LiMnO、LiMn2−y、xLiMnO・(1−x)LiM’O、およびLiO・zMnOが互いに構造的に原子レベルで一体化する、または、個々の成分の物理的な混合物もしくはブレンドを含むことができる構造を有する。また、別の態様では、個々の成分は、区分けされた電極内で互いに分離している。本発明は、電極前駆体を合成する方法および電極前駆体を活性化する方法を含む。電極前駆体は、高温での固相反応により、および/または電極のそれぞれの成分の物理的混合もしくはブレンドにより、合成または形成することができる。電極前駆体の電気化学的な活性化は、通常、4.4V vs.金属リチウム、または4.6V vs.金属リチウムよりも高い電位で、リチウムセル内で直接起こる。一方、前駆体の化学的な活性化は、例えば、セルの組立の前に、電極前駆体の複合体を硫酸、塩酸または硝酸のような酸と反応させることで起こる。
【0015】
本発明にかかる電極は、1次リチウムセルおよび電池、または、2次リチウムセルおよび電池に用いることが可能である。
【0016】
リチウムイオンおよびマンガンイオンが全ての八面体位置(octahedral site)を占める層状の岩塩型(rocksalt-type)構造を有するLiMnO(LiO・MnO)について言及することにより本発明の原理を最初に示す。このようなLiMnOはリチウムセルの挿入電極として用いることができない。隣接する8面体と表面を共有する4面体よりなる格子間の空隙(または、侵入位置、interstitial space)が、付加的なリチウムを取り込む(または収容する)のにエネルギー的に好ましくないからである。さらに、リチウムの抽出も不可能である。マンガンイオンは4価であり、実用的な電位では容易に酸化できないからである。しかしながら、Rossouwらによる、Materials Research Bulletin, Volume 26, page 463 (1991)には、化学的処理でLiMnO構造からLiOを取り除きLi2−xMnO3−x/2にすることにより、LiMnOは電気化学的に活性化できることが示されている。このプロセルはH−Liのイオン交換を伴う。KalyaniらによるJournal of Power Sources, Volume 80, page 103 (1999)およびRobertsonらによるChemistry of Materials, Volume 15, page 1984 (2003)に示されるように、リチウムセル内で、LiOを除去することによりLiMnOは、また、活性化できるが、しかし、これらの活性化した電極は、リチウムセル内で不十分にしか機能しない。Li2−xMnO3−x/2電極を単独で用いた場合、リチウムセルを繰り返し使用すると容量が減少する傾向があるけれども、しかしながら、例えば、米国特許第6,677,082号公報、および米国特許第6,680,143号公報に概略を示すように、LiMnO成分とLiMnO成分の両方が層状の構造を有するxLiMnO・(1−x)LiMO(M=Mn、NiおよびCo)の2成分電極のように、複合電極の1成分として用いた場合、Li2−xMnO3−x/2電極の電気化学特性を極めて効率的に改善できる。2つの層状の成分LiMnOとLiMnOdとの間に強い構造上の関係を有する複合電極(通常はx≦0.5)を構成するというアプローチは、MがMnイオンとNiイオンの両方から選ばれ、随意的にCoイオンのような1以上の他のMイオンを含む場合、とりわけ効果的である。例えば、0.3LiMnO・0.7LiMn0.5Ni0.5電極は、通常900〜1000℃の高温で合成した場合、KimらによるChemistry of Materials, Volume 16, page 1996 (2004)に示されるように、LiMnO成分とLiMn0.5Ni0.5成分は、簡単かつ便利なように「複合」構造と呼ばれている、高度に複雑な構造を形成するように原子レベルで一体化する。
【0017】
0.3LiMnO・0.7LiMn0.5Ni0.5複合電極は、リチウムセルで電気化学的に活性化することが可能である。初期充電の間に、より詳細は上述のKimらによる引用文献に示されている以下の過程の電気化学反応が主に起きていると信じられている。Ni2+からNi4+への同時酸化により、初期にリチウムイオンがLiMn0.5Ni0.5成分より抽出される。この処理の間、マンガンイオンは、4価のまま残る。その後、通常は4.4V vs.金属リチウム(Li)または4.6V vs.金属リチウム(Li)よりも高い電位で、構造からの酸素の同時損失とともに、LiMnO成分からリチウムが抽出される。最終的には、LiMnO成分からのLiOの損失が起こる。0.3LiMnO・0.7LiMn0.5Ni0.5から充分にリチウムが抽出されると、充分に充電された電極は0.3MnO・0.7Mn0.5Ni0.5の組成、またはMn0.65Ni0.35の組成を有する。原理上は、従って、このアプローチは層状の金属の二酸化物の生成、および構造における特定の種類の金属原子、とりわけマンガンの濃度調整を可能にする。
【0018】
2つの成分が、構造的に適合した稠密充填配置された酸素(close-packed oxygen array)によって接続されている複合電極を形成するようにLiMnOおよびLiMn0.5Ni0.5のような2つの層状構造を一体化(または、結合)するというコンセプトは、異なる構造のタイプよりなる、層状−スピネルの組合せであるxLiMnO・(1−x)LiMn2−y複合体のような、より複雑な系に拡大可能であることを見出した。層状−スピネル構造複合体は、既に知られている。Shao−HornらによるJournal of the Electrochemical Society, Volume 146, page 2404, 1999に示されるように、電気化学的なサイクルの間で、層状のLiMnO電極がスピネルに変態(または転移)した場合に層状−スピネル構造複合体を形成する。しかしながら、1成分LiMnO電極と比べ、2成分xLiMnO・(1−x)LiMn2−y電極前駆体、または、定義を上述した「複合」構造を有する層状のxLiMnO・(1−x)LiM’O成分により層状のLiMnO成分を置換した、より複雑な系(system)を使用することの重要な違いおよび利点は、単一のLiMnO電極または従来のLiCoO電極と比べて、より高い容量、より高い出力(または、速度能力(充電放電速度)、rate capability)、および、より優れた繰り返し安定性(cycling stability)を提供できる電極を構成するように、層状−スピネル電極前駆体の成分および初期充電反応中の傍観イオン(spectator ion)Mn4+の濃度を調整できることである。
【0019】
さらに、層状のxLiMnO・(1−x)LiMO(M=Mn、NiおよびCo)電極は、通常200mAh/gを超える極めて高い電極容量の提供が可能であることが知られている。一方、Li1+yMn2−y(0<y<0.33)系より得たようなスピネル電極は、高い出力を提供できる。単一の電極内で、構造的に一体化、または物理的に混合もしくはブレンドされた、あるいは単一の電極内の電極コンパートメント内で分離した、層状成分とスピネル成分の両方を有する組合せは、従って、従来の電極と比べ高い容量と高い出力を有する新しい電極を構成する可能性がある。
【0020】
例として、LiMnO−MnO−LiMn系層状−スピネル複合電極用の状態図を図1に示す。母体電極の例として図1のLiMnO−LiMnタイライン(tie-line)上に位置する0.5LiMnO・0.5LiMn(x=0.5)を取り上げる。初期充電中のLiMn成分からのリチウムの抽出は、図1の点線(ルート1)に沿って、0.5LiMnO・0.5MnO組成がLiMnO−MnOタイラインに達するまで電極の組成を変化させる。この過程は概ね4V vs.Liで進行する。その後、通常、4.4V vs.金属リチウムより高い電位でLiOが取り除かれ、これにより電極の組成は、対応する状態図の三角形(tie-triangle)のMnO頂点に向かう。充分に脱リチウム化された電極の放電は、ルート1に沿ってマンガンの平均酸化状態が3.5であるLiMnに向かう。0.5LiMnO・0.5MnO電極より取り除かれる酸化リチウムの量が充電された電極にLiOが20%残存するように制限されている場合、電極の組成は図1のルート2に従って変化する。このような状況では、充分に充電された電極は、0.2LiMnO・0.8MnOまたは0.2LiMnO・0.4Mnの組成を有する。ルート2に従い、マンガンの平均酸化状態が3.6であるLiMnO−LiMn(層状−スピネル)タイラインまで放電した場合、この電極の組成は0.2LiMnO・0.4LiMnである。xLiMnO・(1−x)LiMn複合電極の構造は、その層状−層状類似体(analogues)と同様に、従って、非水電荷質リチウムセルの層状およびスピネル両方のLi−Mn−O電極構造の電気化学的安定性に重要な、充電および放電中のMnイオンの酸化状態の変化を制御するためのメカニズムを備える。層状−スピネル電極の組成およびカチオンの配列ならびに放電した電極のマンガン酸化状態を調整するこのアプローチは、さらに広く、スピネル成分の組成およびLiO量をLi−Mn−O状態図のLiMn−LiMn12タイライン上の位置に従ってyの関数として調整できるxLiMnO・(1−x)Li1+yMn2−y系に拡大できる。
【0021】
Li〔Mn1.8Li0.2〕Oのような複合電極前駆体のLi1+yMn2−yスピネル成分は、Mn3+イオンとMn4+イオンの両方を含む。y=0.2であるLi〔Mn1.8Li0.2〕Oは、サブコンポーネント複合電極として、構造内のLiO成分を強調して0.67LiMn・0.33LiMn12または0.67LiMn・0.67LiO・1.67MnOと化学式を表すことができる。上述した0.5LiMnO・0.5LiMn電極の反応過程より類推すると、最初、Mn3+のMn4+への同時酸化に伴って、サブコンポーネントLiMnからリチウムが取り除かれ、その後、より高い電位でサブコンポ−ネントLiMn12よりLiOが取り除かれることにより、0.67LiMn・0.33LiMn12〔Li〔Mn1.8Li0.2〕O〕電極の組成は変化するであろう。
【0022】
さらに、Li−Mn−O状態図でLiMn12(Li:Mn=0.8:1)とLiMnO(Li:Mn=2:1)との間のタイライン上の成分を有する電極前駆体を使用することが可能である。xLiMnO・(1−x)LiMnで表されるこのような前駆体は、層状構造の特徴とスピネル型構造の特徴の両方を有する。例えば、Li:Mn比が1.2:1である複合電極は、化学式5/7LiMnO・2/7LiMn12、あるいは概算の小数を用いた化学式0.7LiMnO・0.3LiMn12で表されるであろう。これらの電極前駆体を高電位まで充電すると、リチウムが完全に抽出され、層状構造の特徴とスピネル型構造の特徴との両方を有するMnO型構造の複合構造が生じると予測できる。またガンマMnO電極がラムスデライト(ramsdellite) MnOドメインよりなる内部成長(または交互成長、intergrown)構造を含み、パイロールサイト(pyrolusite)ドメインを安定化するのと同様に、複雑に内部成長したMnO構造は、個々の層状およびスピネルMnOに対し安定性を向上するのに寄与すると、出願人は考える。
【0023】
本発明の原理は、例えばxLiMnO・(1−x)LiMn2−yNi、xLiMnO・(1−x)LiMn2−yCoおよびxLiMnO・(1−x)LiMn2−y−zNiCoのような、層状−スピネル複合体より得られた電極のような1種以上の遷移金属イオン、特にNiおよび/またはCoを含むより複雑な電極前駆体に拡大することが可能である。0<x<1、0≦y<1である、これらの置換された電極は、置換した金属元素量よりも多いマンガン量を有する。例えば、層状−スピネル複合電極0.7LiMnO・0.3LiMn1.5Ni0.5におけるマンガン量は、全ての遷移金属量の88%である。
【0024】
化学式0.7LiMnO・0.3LiMn1.5Ni0.5は便宜上、単に2つの成分系として示されているが、しかしながら実際は層状のLiMnO成分がMnおよび/またはLi層にいくらかのNiを含み、これにより電極構造の化学量論比および電極構造内部の電荷バランスを維持するように層状成分およびスピネル成分の組成が変わることは、大いにあり得るということを認識しておくべきである。例えば、LiMnO成分が、例えば特徴的な複合構造を有する上述した0.7LiMnO・0.3LiMn0.5Ni0.5のような、xLiMnO・(1−x)LiM’O成分に置き換えられた場合のように、さらに複雑な電極前駆体が存在する。
【0025】
LiMn1.5Ni0.5のようなLiMn2−yNiにスピネル成分を有する複合電極を用いる顕著な利点は、この成分が、通常2.5〜5V vs.リチウムの高い電位(vs.金属リチウム)でその容量を有することである。xLiMnO・(1−x)LiMn2−yNi、xLiMnO・(1−x)LiMn2−yCoおよびxLiMnO・(1−x)LiMn2−y−zNiCo電極前駆体の組成は、好ましくは、リチウムセルで電気化学的に活性化した後、マンガンの平均酸化状態が放電時の成分で3.5+に近く、またはより好ましくは3.5+を上回り、これにより、マンガンの平均酸化状態が3.5未満の場合に、リチウムマンガン酸化物電極で通常発生する結晶学的なヤーンテラー歪(Jahn-Teller distortion)または、Mn3+イオンがMn2+イオンとMn4+イオンとに不均一反応(disproportionation)することにより、とりわけ高い電位で起こる電極の溶解のような、電極の損傷の影響を排除または最小にする。
【0026】
出願人は、ほとんどの場合、初期充電の間に、本発明の電極前駆体の複合構造から全てのリチウムを除去し、完全に脱リチウム化した(活性化した)生成物を形成することは容易でなく、また、構造中のいくらかの残留リチウムは充電された電極を安定化するのを助け得ると考える。従って、本発明は、充分に充電した(すなわち充分に脱リチウム化した、または、充分に活性化した)電極前駆体同様に、部分的に充電した電極前駆体をも含む。さらに、出願人は、初期の充電過程での酸素の損失は、電解質と反応することにより、充電した電極の表面に保護層を形成するのに重要な役割を果たし得ると考える。
【0027】
本発明にかかる電極前駆体の成分LiMnO、LiMn2−y、xLiMnO・(1−x)LiM’OおよびLiO・MnOは、合成された時に、理想的な化学量論組成でないかもしれない。例えば、LiMn12(または、LiO・2.5MnO)のようなスピネル成分では、マンガンイオンは、部分的に還元されMn4+/3+混合原子価を初期の電極内に有してもよい。還元の度合いは、合成時の温度と関係する。例えば、電気化学データによると、0.7LiMnO・0.3LiMn12電極前駆体(すなわち、スタート材のLi:Mn比=1.2:1)が400℃で合成された場合、マンガンイオンは主に3価であり、一方、750℃で合成された場合、電気化学的なプロファイルは、電極前駆体が部分的に還元され、0.7LiMnO・0.3LiMn11に近い化学式、または他の態様では0.6LiMnO・0.4LiMnに近い化学式で表されることを示している。
【0028】
本発明は、一般的なゾルゲル法、高温固相反応、または、他の態様では、例えば、層状構造を有するLiMnO成分と、ホランダイト型(hollandite-type)構造を有する0.15LiO・MnO(Li0.3MnO2.15)成分とを混合またはブレンドし、xLiMnO・(1−x)Li0.3MnO2.15電極を形成すること、または、LiMn12スピネル成分と0.15LiO・MnO(Li0.3MnO2.15)成分とを混合またはブレンドし、xLiMn12・(1−x)Li0.3MnO2.15電極を形成するような個々の成分の物理的混合もしくブレンドのような電極前駆体の実験的な製造方法を含む。本発明は、また、リチウムセルで通常4.4 vs.Liもしくは4.6V vs.Liより大きい電位で電気化学的に、または、例えば、硫酸、塩酸もしくは硝酸のような酸を用いた化学反応により化学的に、酸化リチウム(LiO)、または、リチウムおよび酸化リチウムを電極前駆体から取り除くことにより電極前駆体を活性化する実験的方法をも含む。LiMnOまたは他のLiO・zMnOからLiOを酸処理により取り除く能力は、本発明の電極とりわけxLiMnO・(1−x)LiMn2−y電極の第1サイクルの不可逆的な容量の損失を低減するのに本方法を用いることができることを暗示している。LiMnOからLiOを完全に取り除くとMnOが残る。従って、各々のLiMnOユニットから除去された全ての2つのLiイオンのうち1つのLiイオンのみが再び取り込まれ放電した岩塩型成分LiMnOを形成するのは当然である。Huterにより、Journal of Solid State Chemistry, Volume 39, page 142 (1981)に示された、LiMn単一相(y=0)についてのメカニズムに従うと、酸処理は、また、LiMn2−y成分より、LiOを取り除き得る。酸処理したxLiMnO・(1−x)LiMn2−y電極をもたらすHイオンおよび/または水の量は、セルの組立の前に電極を300℃以下で焼鈍することで減少させることができる。原理上は、従って、グラファイトのような、リチウムイオンセルの陰極(アノード)を充分に充電し、同時にアノードおよびカソードの両方で発生する最初のサイクルの不可逆的な容量の損失を均衡(balance)させるために必要な、陽極(カソード)のリチウム量を調整する方法として、xLiMnO・(1−x)LiMn2−y電極の酸処理を用いることが可能である。
【0029】
本発明の原理は、層状成分とスピネル成分を互いに均一に、物理的に混合もしくはブレンドした、または、電極を区分けし互いを分離した、それぞれの層状成分とスピネル成分の組合せよりなる電極前駆体から生成した活性電極を含む。例えば高い容量を有する層状電極と高い出力を有するスピネル成分とから、最大限の利点を得ることで、本明細書で規定する「複合」構造を有する電極に亘る電極全体の容量および出力を最適化するのに、このような成分の組合せを、用いてもよい。このような場合、層状成分はLiMnOのみである、または複合成分xLiMnO・(1−x)LiM’O(0<x<1)からなることが可能である。ここでM’は、通常、1以上の第1遷移金属イオンであり、好ましくはMn、CoおよびNiより選ばれた1以上のイオンであり、また、随意的にLiイオン、MgイオンまたはAlイオンのような非遷移金属イオンをも含んでもよい。
【実施例】
【0030】
以下の実施例は、本発明者により検討された本発明の原理を示すものであり、実施例の制限の解釈を意図したものではない。
【0031】
・実施例1
LiOH・HOとMn(OH)(y≦2)とを1.2:1.0のモル比で反応させ、2成分複合系xLiMnO・(1−x)LiMn12に一致したLi:Mn比を有するリチウムマンガン酸化物の電極前駆体パウダーがx=5/7(以下、「0.7」と記す)で合成された。均一に粉砕(intimate grinding)した後、LiOH・HOとMn(OH)との混合物は、ペレットにプレスされ400℃、600℃および750℃の範囲のいくつの温度で空気中にて5時間焼成した。得られたサンプルは、室温まで炉内で冷却した。
【0032】
400℃、600℃および750℃で作製した0.3LiMnO・0.7LiMn12サンプルのX線回折パターンをそれぞれ図2a、図2bおよび図2cに示す。図2bおよび図2cのX線回折データは、約22°のブロードなピークと約65°のより分解能のよい(better resolved)2重ピーク(doublet peak)(図2bと図2cに矢印で示す)により、明確に示されているように層状成分とスピネル成分は、複合構造内で互いに、より容易に区別される。サンプルを400℃から750℃まで加熱すると生成物は酸素を放出する。スピネル成分の格子定数の増加、すなわち400℃で合成したサンプルの8.134オングストロームから750℃で合成したサンプルの8.219オングストロームに変化することによりモニターされるように、この酸素の放出によりスピネル成分の組成がLiMn12からLiMnに変わる。従って、複合電極の所定のLi:Mn比を維持するようにLiMnOの濃度が増加する。これらのデータは、400℃で合成したサンプルは、0.3LiMnO・0.7LiMn12に近い組成を有し、一方、700℃合成した酸素欠乏(oxygen deficient)サンプルは、おおよそ0.7LiMnO・0.3LiMn11、または、代わりにおおよそ0.6LiMnO・0.4LiMnの組成を有する。
【0033】
400℃で合成した0.7LiMnO・0.3LiMn12サンプルの高分解能透過電顕像は、層状領域とスピネル型領域の共存を示しており、これらの構造の複合的特徴を裏付けている(図3aおよび図3b)。
【0034】
・実施例2
実施例1の400℃で合成した0.3LiMnO・0.7LiMn12電極前駆体を、室温で20時間0.1モルのHNO水溶液を用いた処理により活性化した。酸の固形分に対するml/g比率は60であった。この処理の間、反応溶液のpHは、1.0から約4.0に変化し、これは、いくらかのリチウムおよび/または酸化リチウム(LiO)が0.3LiMnO・0.7LiMn12構造から抽出され、あわせて、その構造内でおそらくHイオンがLiイオンと交換したことを示している。ろ過水が略中性になるまでサンプルを蒸留水で洗浄した後、得られた酸抽出(acid leach)したサンプルは、オーブンで、空気中にて120℃で16時間以下の間乾燥した。この化学的に活性化した電極サンプルのX線回折パターンを図2dに示す。電気化学的な評価のために、サンプルを、空気中で6時間、300℃で加熱した。この処理の間、サンプル重量が約3.4%減少した。これは、電極構造の表面および内部からの水分の除去および/または酸素の損失(マンガンの同時還元による)に起因する。
【0035】
・実施例3
M(OH)(M=Mn、Ni;Y≦2)およびLiOH・HO試薬ならびに所望のx値のための所定量のMn、NiおよびLiを使用して、化学式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yNiで表される電極前駆体を得た。M(OH)試薬は、所定の量の硝酸塩M(NOの共沈により得た。均質に粉砕後、M(OH)とLiOH・HOとの混合物を、ペレットにプレスし、400℃から600℃の間のいくつかの温度で、空気中で5時間焼成した。サンプルは、室温まで炉内で冷却した。x=0.5、y=0.5で、400℃で作製したxLiMnO・(1−x)LiMn2−yNiサンプルのX線回折パターンを図4aに示す。
【0036】
・実施例4
M(OH)(M=Mn、Ni;Y≦2)およびLiOH・HO試薬ならびに所望のx値のための所定量のMn、CoおよびLiを使用して、化学式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yCoで表される電極前駆体を得た。M(OH)試薬は、所定の量の硝酸塩M(NOの共沈により得た。均質に粉砕した後、M(OH)とLiOH・HOとの混合物を、ペレットにプレスし、400℃から600℃の間のいくつかの温度で、空気中で5時間焼成した。サンプルは、室温まで炉内で冷却した。x=0.7、y=0.2で、400℃で作製したxLiMnO・(1−x)LiMn2−yCoサンプルのX線回折パターンを図4bに示す。
【0037】
・実施例5
電極前駆体を活性化し、直径20mmm、リチウムのカウンター電極(または対極、counter electrode)に対する高さ3.2mmのコインセル(2032サイズ)で評価を行った。セルの構成は、Li/1モル(M)のLiPFを含むエチレンカーボネイト(EC)とジエチルカーボネイト(DEC)(1:1)/電極前駆体である。積層された電極は、約7mg〜約10mgの電極前駆体パウダーを含む。即ち、約82重量%の積層電極(laminate electrode)、均一に混合された約10重量%のポリビニリデンジフロライド(Kynar PVDF ポリマーバインダー)および約8重量%カーボン(Timcal SFG−6のようなグラファイトまたはChevron XG−72のようなアセチレンブラック)を含む。アルミニウムホイル基材(substrate)のカレントコレクタにドクターブレードにより、スラリーをコートした。積層電極を真空中、70℃で乾燥した。直径約1.4cm電極ディスクを積層板より打ち抜いた。金属リチウムホイルをカウンター電極として用いた。セルは、通常は上限値4.95Vと下限値2.0Vの間の電圧限界(voltage limit)間を一定の電流(通常は、0.1mA/cm〜0.25mA/cm)で放電および充電を行った。
【0038】
図5aは、400℃で作製した0.7LiMnO・0.3LiMn12(x=0.7)電極前駆体を含むリチウムセルの5Vと2Vとの間の初期充電/放電の電位プロファイルを示す。初期充電の間に3Vと4Vとの間で引き出される(withdrawn)少量の容量は、電極中のLiMn12成分が理想的な化学量論組成でなく、LiMn12成分が低濃度のMn3+イオンを含むことを示している。その後、2つの電位のプラトーによりLiOの層状およびスピネル成分からの除去が識別できる。4.5Vと4.7Vとの間の第1プラトーはLiMnO成分からのLiO抽出に起因する。なぜなら、この電位は、KimらによりChemistry of Materials, Volume 16, page 1996 (2004)に示されているxLiMnO・(1−x)LiMn0.5Ni0.5電極のLiMnO成分からのLiOの除去と一致するからである。より高い電位(4.7V〜5.0V)での過程は、DahnらによるSolid State Ionics, Volume 73, page 81 (1994)およびManthiramらによるElectrochemical and Solid State Letters, Volume 6, page A249 (2003)に示される5V以下におけるLiMn12からのリチウムの抽出と一致する。
【0039】
初期サイクルの間に0.7LiMnO・0.3LiMn12電極前駆体から引き出される容量(252mAh/g、図5)は、0.7LiMnO・0.3LiMn12(または、1.3LiO・2.2MnO)のLiO量の83%が除去されることと対応する。このような状況で、充電した電極の組成は、0.22LiO・2.2MnOであり、充分に放電した電極の組成は、0.22LiO・2.2LiMnO)である。この電極により供給可能な理論容量は256mAh/g(母体化合物0.7LiMnO・0.3LiMn12の質量に基づく)であり、セルが2.0Vまで放電した場合(図5a)の実験値(270mAh/g)とよく一致している。最初の放電の約2.7V(232mAh/g)の第2プラトーの終わりまでの間に、活性化した0.7LiMnO・0.3LiMn12電極により得られる高い容量は、従って、LiMn12成分およびLiMnO成分を活性化する初期充電の間に、LiOが電極から除去されていることを明らかに示している。図5a放電曲線の形態は、スピネル型および層状構造の両方の特徴を有する複合電極に特有のものであり、図3aおよび図3bに示す電極の高分解能透過電顕像と一致する。5Vと3Vの間で起こる初期の2つの過程はスピネル型と層状型それぞれ別々の特徴を有するが、一方3V以下での電位プラトーは、スピネル型リチウムマンガン酸化物電極の特徴的な2相反応(スピネルから岩塩への相転移)である。図5bは、Li/0.7LiMnO・0.3LiMn12セルの容量vsサイクル数のプロットであり、早期のサイクルの間で本発明にかかる複合電極により高い容量(>250mAh/g)を得ることが可能なことを示す。初期放電容量(270mAh/g)は、とりわけ1次リチウムセルおよび電池にとって魅力的である。
【0040】
層状−スピネル複合電極の使用の原理について、他の電極組成を用いたセルの充電/放電電位プロファイルにより、図6〜図8にさらに示す。図6は、化学式が概ね0.6LiMnO・0.4LiMnで表される750℃で合成した実施例1の電極前駆体を含むリチウムセル(4.95V〜2.0V)の初期充電/放電電位プロファイルを示す。このセルの初期充電は、図5のLi/0.7LiMnO・0.3LiMn12セルの初期充電よりも明らかに低い電位(4.0V〜4.2V)で起こり、これは通常4.5V〜4.95Vの間で起こるLiMn12成分からのLiOの抽出ではなく、LiMnに類似のスピネル成分からのリチウムの抽出と一致する。さらに、放電プロファイルは、高い合成温度(750℃)に起因する、複合構造の層状LiMnO成分の濃度の減少と一致する顕著なスピネル型の特徴を示す。0.7LiMnO・0.3LiMn12電極(図5a)と比べ0.6LiMnO・0.4LiMn電極(図6)により得られる容量が低いことは、合成温度および電極前駆体中の層状成分とスピネル成分の相対的な量の制御および最適化が必要なことを表している。
【0041】
図7は、Li/0.5LiMnO・0.5LiMn1.5Ni0.512セル(x=0.5、y=0.5)の初期充電/放電電位プロファイルを示す。図8は、Li/0.7LiMnO・0.3LiMn1.8Co0.212セル(x=0.7、y=0.2)の対応する初期充電/放電電位プロファイルを示す。両方のセルの電位プロファイルは、スピネルおよび層状の両方の特徴を示しており、本発明の原理と一致している。これらセルの初期充電/放電サイクルはクーロン力的に非効率的なことが明確である。これは、充電(活性化)過程で、電極前駆体のLi2MnO3成分からのLiOの損失に、主として起因する。電極構造がLiO成分を有することの利点は、(i)カーボン(例えばグラファイト)、金属、または金属間化合物の電極のような、リチウムイオンセルの陰極(アノード)で通常発生する第1サイクルの不可逆的な容量の損失を相殺(または、オフセット、offset)するのに、LiOのリチウムを用いることが可能である。および(ii)陽極からのLiOの除去を介して損失する酸素が、高いセル電位での電極の酸化を抑制する保護不導体膜を形成するのに寄与し得ることである。
【0042】
図9は、a)400℃で作製した0.7LiMnO・0.3LiMn12(x=0.7)電極前駆体を含むセル、およびb)酸で処理した0.7LiMnO・0.3LiMn12電極を含むセルを5Vまで充電した場合のセルの初期充電電位プロファイルの比較を示す。LiMn成分からのLiOの抽出に起因する、図5aにも示される、a)のプロファイルの4.5V〜4.7V間の第1のプラトーは、実質的にb)のプロファイルと異なっており、b)のプロファイルではプラトーの長さが短くなっている。さらに、酸で処理した0.7LiMnO・0.3LiMn12電極前駆体から得られた初期容量(192mAh/g)は、母材の(または、酸処理をしていない)0.7LiMnO・0.3LiMn12電極前駆体より得られた初期容量(252mAh/g)よりも明らかに小さく、本発明の原理による0.7LiMnO・0.3LiMn12からのLiOの化学的抽出および電極の化学的活性化と一致する。
【0043】
一方、一般式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yで表され、MがLi、Co,および/またはNiであり、0<x<1および0≦y<1である、層状成分とスピネル成分を有する複合電極前駆体の実施例ならびに電気化学的または化学的方法によるこれらの活性体の実施例は、本発明の原理を示す。これより、本発明は、本発明の新規性を損なうことなく、本明細書に示す、他の置換Mイオンおよび他のxLiMnO・(1−x)LiM’OまたはLiO・zMnO成分を含むことが可能で、1次および2次リチウムセルならびに1次および2次電池の容量、電力量および電気化学的なサイクル安定性を最適化するように電極成分をさらに調整可能であることが容易に理解できる。
【0044】
従って、本発明は、非水性電気化学的なリチウムセルおよび電池用のリチウム金属酸化物の電極前駆体に関する。リチウムセルの概略図を図10に示す。数字10で表されるセルは、電解質14により陽極16から分離された陰極12を有する。これら全ては、陰極12および陽極16と電気的なコンタクト(または接続を)を与える適切なターミナル(図示せず)を備えた絶縁ハウジング18の内部に含まれる。電解質ならびに正極および負極と通常関係するバインダーおよび他の材料は、当該技術分野で既知のものであり、本明細書には示さないが、当業者にとって理解されるものとして含まれる。図11は、2列の上述の電気化学的なリチウムセルを並列に配置した電池の1例の概略図を示す。各列は、直列に配置された3つのセルを含む。
【0045】
本発明の好ましいと思われる実施形態を開示したが、本発明の精神から逸脱することなく、あるいは本発明のいかなる利点も犠牲にすることなく、細部の各種の変更が可能なこと、ならびに、リチウム金属酸化物の電極前駆体構造の組成および電気化学セルを形成する前に酸により化学的に、もしくは電気化学的に、またはその両方により電極が活性化され処理技術を改良および最適化することにより、将来、電極の容量および安定性のさらなる改良がなされることが期待できることが理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】LiMnO−MnO−LiMn2O状態図の概略図を示す。
【図2】(a)400℃で合成した、(b)600℃で合成した、(c)750℃で合成した、および(d)(a)の電極前駆体を酸抽出した、x=0.7およびy=0.33であるxLiMnO・(1−x)LiMn2−y電極前駆体のX線回折パターンを示す。
【図3】400℃で合成されたx=0.7およびy=0.33であるxLiMnO・(1−x)LiMn2−y電極前駆体の高分解能透過電子顕微鏡像を示す。
【図4】(a)400℃で合成され、x=0.5およびy=0.5であるxLiMnO・(1−x)LiMn2−yNi電極前駆体、および(b)400℃で合成され、x=0.7およびy=0.2であるxLiMnO・(1−x)LiMn2−yCo電極前駆体のX線回折パターンを示す。
【図5a】陽極(またはカソード)前駆体がxLiMnO・(1−x)LiMn2−yLi、x=0.7、y=0.33である、室温で動作させたリチウムセルの初期充電/放電プロファイルを示す。
【図5b】図5aに初期充電/放電プロファイルを示すセルの1〜10サイクルでの容量vsサイクル数のプロットを示す。
【図6】陽極前駆体がxLiMnO・(1−x)LiMn、x=0.6である、室温で動作させたリチウムセルの初期充電/放電プロファイルを示す。
【図7】陽極前駆体がxLiMnO・(1−x)LiMn2−yNi、x=0.5、y=0.5である、室温で動作させたリチウムセルの初期充電/放電プロファイルを示す。
【図8】陽極前駆体がxLiMnO・(1−x)LiMn2−yCo、x=0.7、y=0.2である、室温で動作させたリチウムセルの初期充電/放電プロファイルを示す。
【図9】(a)陽極前駆体がxLiMnO・(1−x)LiMn2−yLi、x=0.7、y=0.33である、室温で動作させたリチウムセルの初期充電プロファイル、および(b)xLiMnO・(1−x)LiMn2−yLi陽極前駆体を酸で活性化した同様のリチウムセルの初期充電プロファイルを示す。
【図10】電気化学セルの概略図を示す。
【図11】並列および直列に電気的に接続された複数のセルよりなる電池の概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水性電気化学セル用の活性電極であって、
該活性電極の前駆体として、化学式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yで示され、0<x<1および0≦y<1であり、LiMnO成分とMn2−y成分とが、層状とスピネル型の構造とをそれぞれ有し、Mが1以上の金属カチオンであるリチウム金属酸化物を有し、
該活性電極は該前駆体より酸化リチウム、または、リチウムと酸化リチウムとを取り除くことで活性化されることを特徴とする活性電極。
【請求項2】
Mが1以上の1価、2価、3価または4価のカチオンであることを特徴とする請求項1に記載の活性電極。
【請求項3】
MがLi、Mg2+、Ni2+、Ni3+、Co2+、Co3+、Al3+、Ti4+、およびZr4+よりなる群から選択される1以上のイオンであることを特徴とする請求項2に記載の活性電極。
【請求項4】
MがLi、Ni2+、Ni3+、Co2+、Co3+よりなる群から選択される1以上のイオンであることを特徴とする請求項3に記載の活性電極。
【請求項5】
MがLiであることを特徴とする請求項4に記載の活性電極。
【請求項6】
LiMnO成分のマンガンイオン、または、リチウムイオンとマンガンイオンとがMカチオンによって部分的に置換されていることを特徴とする請求項1に記載の活性電極。
【請求項7】
LiMnO成分が、層状のxLiMnO・(1−x)LiM’O成分であって、M’が第1遷移金属イオンから選択される1以上のイオンであり、xが0<x<1である層状の成分によって置換されていることを特徴とする請求項1に記載の活性電極。
【請求項8】
M’がMnイオン、CoイオンおよびNiイオンよりなる群から選択されたイオンであることを特徴とする請求項7に記載の活性電極。
【請求項9】
Mの10%以下が、Liイオン、Mgイオン、および/またはAlイオンによって置換されていることを特徴とする請求項7に記載の活性電極。
【請求項10】
電極のそれぞれの成分が、互いに物理的に混合されている、または区分けされた電極内で互いに分離していることを特徴とする請求項7に記載の活性電極。
【請求項11】
電極前駆体のLiMnO成分またはLiMn2−y成分が、層状構造またはスピネル型構造を有しないLiO・zMnO成分によって置換されていることを特徴とする請求項1に記載の活性電極。
【請求項12】
LiO・zMnO成分がアルファ型MnO構造またはガンマ型MnO構造を有することを特徴とする請求項11に記載の活性電極。
【請求項13】
電極のそれぞれの成分が、互いに物理的に混合されている、または区分けされた電極内で互いに分離していることを特徴とする請求項11に記載の活性電極。
【請求項14】
成分が部分的に還元され、電極前駆体がMn4+/3+混合原子価を有することを特徴とする請求項1に記載の活性電極。
【請求項15】
xLiMnO・(1−x)LiMnO成分が部分的に還元され、電極前駆体がMn4+/3+混合原子価を有することを特徴とする請求項7に記載の活性電極。
【請求項16】
LiO・zMnO成分が部分的に還元され、電極前駆体がMn4+/3+混合原子価を有することを特徴とする請求項11に記載の活性電極。
【請求項17】
高温固相反応、および/または、それぞれの成分の物理的な混合もしくはブレンドにより請求項1に記載の電極前駆体を製造する方法。
【請求項18】
請求項1に記載の電極前駆体を電気化学的に活性化する方法。
【請求項19】
4.4V vs.Liを超える電位で電極を電気化学的に活性化することを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
4.6V vs.Liを超える電位で電極を電気化学的に活性化することを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法で作られる電極。
【請求項22】
酸により化学的に請求項1に記載の電極前駆体を活性化する方法。
【請求項23】
硫酸反応、塩酸反応、硝酸反応により化学的に電極を活性化する請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法で作られる電極。
【請求項25】
陰極と、電解質と、活性化する陽極とを含む非水性リチウム電気化学セルであって、
活性化する陽極は、陽極前駆体として、化学式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yで示され、0<x<1および0≦y<1であり、LiMnO成分とLiMn2−y成分とが、層状とスピネル型の構造とをそれぞれ有し、Mが1以上の金属カチオンであるリチウム金属酸化物を有し、
該活性化する陽極は、該前駆体より酸化リチウム、または、逐次的にリチウムと酸化リチウムとを取り除くことにより活性化されることを特徴とする電気化学セル。
【請求項26】
陽極前駆体のLiMnO成分が、層状のxLiMnO・(1−x)LiM’O成分であって、M’が第1遷移金属イオンから選択される1以上のイオンであり、xが0<x<1である層状の成分によって置換されていることを特徴とする請求項25に記載のセル。
【請求項27】
陽極前駆体のLiMnO成分またはLiMn2−y成分が、層状構造またはスピネル型構造を有しないLiO・zMnO成分によって置換されていることを特徴とする請求項25に記載のセル。
【請求項28】
電気的に接続される複数の電気化学セルを含む非水性リチウム電池であって、それぞれのセルが、陰極と、電解質と、活性化する陽極とを有し、活性化する陽極は、陽極前駆体として、化学式xLiMnO・(1−x)LiMn2−yで示され、0<x<1および0≦y<1であり、LiMnO成分とLiMn2−y成分とが、層状とスピネル型の構造とをそれぞれ有し、Mが1以上の金属カチオンであるリチウム金属酸化物を有し、
陽極前駆体は、該電極前駆体より酸化リチウムとリチウム、または、リチウムを取り除くことにより活性化されることを特徴とする電池。
【請求項29】
陽極前駆体のLiMnO成分が、層状のxLiMnO・(1−x)LiM’O成分であって、M’が第1遷移金属イオンから選択される1以上のイオンであり、xが0<x<1である層状の成分によって置換されていることを特徴とする請求項28に記載の電池。
【請求項30】
陽極前駆体のLiMnO成分またはLiMn2−y成分が、層状構造またはスピネル型構造を有しないLiO・zMnO成分によって置換されていることを特徴とする請求項28に記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−511960(P2008−511960A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529807(P2007−529807)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/038377
【国際公開番号】WO2006/028476
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(507369039)ユーシカゴ・アーゴン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】UChicago Argonne, LLC
【Fターム(参考)】