説明

リニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブ

【課題】射出光のスポット形状が最小の径の真円になって優れた分解能が得られ、且つ、粘膜面に押し付けた時に滑り難くて安定性の優れたリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブを提供すること。
【解決手段】可撓性シースの先端に配置された先端外装筒体2内に、低干渉性の光をフォーカスしながら側方に向けて射出してその反射光を受光する対物光学系4を配置して、対物光学系4を先端外装筒体2内で軸線方向に移動走査することにより、対物光学系4で受光された反射光に含まれる情報に基づいて生体組織の断層像を得るようにしたリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブにおいて、先端外装筒体2の少なくとも対物光学系4から射出された光が通過する部分(2a)を、その通過光の光軸に対して垂直な平面状又はそのような平面に近似した曲面状に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内視鏡の処置具挿通チャンネルを経由して体内に挿入されて、生体組織の断層像を得るために用いられるリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
オプティカルコヒーレンストモグラフィは、低干渉性の光を生体組織に照射して、その生体組織の奥行き方向の屈折率が変化する複数の境界点からの複数の反射光と参照光とを重ね合わせて得られるヘテロダインビート信号の振幅の変化から、生体組織の浅い領域の精密な断層像を得るようにしたものである(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
そして、内視鏡の処置具挿通チャンネルに通して使用することができるようにした内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブは、処置具挿通チャンネルに挿脱自在な可撓性シースの先端に配置された先端外装筒体内に、低干渉性の光をフォーカスしながら側方に向けて射出してその反射光を受光する対物光学系が配置されて、対物光学系を先端外装筒体内で軸線周り方向に回転走査(ラジアル走査)或いは軸線方向に移動走査(リニア走査)することにより、対物光学系で受光された反射光に含まれる情報に基づいて生体組織の断層像を得ることができるようになっている(例えば、特許文献3、4)。
【特許文献1】特公平6−35946
【特許文献2】特表平6−511312
【特許文献3】特開平11−56786
【特許文献4】特開平2000−321034
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3、4等に記載された従来の内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブにおいては、図6に示されるように、シングルモード光ファイバ91内を伝送されてきた低干渉性の光が、円筒状の先端外装筒体92内に配置された対物光学系93からフォーカスされながら側方に向けて射出される。
【0005】
しかし、先端外装筒体92が円筒状に形成されていることにより、図7に示されるように射出光の中心軸以外の部分(特に外縁部)が通過する面の向きが先端外装筒体92の内面側と外面側とで相違するため、図6に示されるように側方から見た場合のフォーカス位置Fまでの距離iと図7に示されるように正面から見た場合のフォーカス位置F′までの距離i′とにズレが発生し、その結果、射出光のスポット形状が真円にならないため分解能が低下していた。
【0006】
また、先端外装筒体92の軸方向断面が円形の断面形状に形成されていることにより、軸線方向にリニア走査して断層像を得る際に先端外装筒体92を生体粘膜面に押し付けたとき、先端外装筒体92が粘膜面に対し滑り易く、安定性が悪い場合があった。
【0007】
そこで本発明は、射出光のスポット形状が最小の径の真円になって優れた分解能が得られ、且つ、粘膜面に押し付けた時に滑り難くて安定性の優れたリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブは、内視鏡の処置具挿通チャンネルに挿脱自在な可撓性シースの先端に配置された先端外装筒体内に、低干渉性の光をフォーカスしながら側方に向けて射出してその反射光を受光する対物光学系を配置して、対物光学系を先端外装筒体内で軸線方向に移動走査することにより、対物光学系で受光された反射光に含まれる情報に基づいて生体組織の断層像を得るようにしたリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブにおいて、先端外装筒体の少なくとも対物光学系から射出された光が通過する部分を、その通過光の光軸に対して垂直な平面状又はそのような平面に近似した曲面状に形成したものである。
【0009】
なお、先端外装筒体の各部のうち少なくとも対物光学系から射出された光が通過する部分が、走査範囲の全範囲にわたって通過光の光軸に対して垂直な平面状又はそのような平面に近似した曲面状に形成されているとよい。
【0010】
そして、先端外装筒体が、全体として略円筒形状に形成されて、対物光学系から射出された光が通過する部分だけが、通過光の光軸に対して垂直な平面状又はそのような平面に近似した曲面状に形成されていてもよく、或いは、先端外装筒体の断面形状が多角形状に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、先端外装筒体の少なくとも対物光学系から射出された光が通過する部分を、その通過光の光軸に対して垂直な平面状又はそのような平面に近似した曲面状に形成したことにより、射出光のスポット形状が最小の径の真円になって優れた分解能が得られ、且つ、粘膜面に押し付けた時に滑り難くて優れた安定性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
内視鏡の処置具挿通チャンネルに挿脱自在な可撓性シースの先端に配置された先端外装筒体内に、低干渉性の光をフォーカスしながら側方に向けて射出してその反射光を受光する対物光学系を配置して、対物光学系を先端外装筒体内で軸線方向に移動走査することにより、対物光学系で受光された反射光に含まれる情報に基づいて生体組織の断層像を得るようにしたリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブにおいて、先端外装筒体の少なくとも対物光学系から射出された光が通過する部分を、その通過光の光軸に対して垂直な平面状又はそのような平面に近似した曲面状に形成する。
【実施例】
【0013】
図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2において、1は、内視鏡10の処置具挿通チャンネル11に挿脱自在な可撓性シースであり、その先端に先端外装筒体2が設けられている。先端外装筒体2は先端が密閉されて球面状に形成され、この実施例においては可撓性シース1をそのまま延長した状態に可撓性シース1と一体に形成されている。ただし、先端外装筒体2を、可撓性シース1と別体に形成して可撓性シース1の先端に連結した構成をとってもよい。
【0014】
可撓性シース1内には、シングルモード光ファイバ3が軸線方向に進退自在に全長にわたって挿通配置されていて、先端外装筒体2内に軸線方向に移動自在に配置された対物光学系4の後端面にシングルモード光ファイバ3の先端面が接続されている。
【0015】
シングルモード光ファイバ3の基端は、内視鏡10外に配置された光信号処理部5に接続されていて、例えば近赤外領域の波長の光を発光するスーパールミネッセントダイオード等のような光源6から射出された低干渉性の光がシングルモード光ファイバ3に入射される。
【0016】
光信号処理部5はオプティカルコヒーレンストモグラフィの光干渉処理を行うための公知のものであり、生体組織で反射されてシングルモード光ファイバ3内を通って戻されてきた低干渉性の光の反射光を受けて、光源6から射出された光に対して周波数をシフトさせた参照光と合成し、その合成された光強度を光電変換して、図示されていないアナログデジタル変換手段でデジタル信号化してからコンピュータ7に出力する。その信号に含まれる情報から、生体組織の奥行き方向の一次元の断層像が得られる。
【0017】
また、シングルモード光ファイバ3を基端部分で矢印Aに示されるように軸線方向に一定の周期で往復運動させるリニア駆動装置8が設けられており、それによって、シングルモード光ファイバ3の先端に連結されている対物光学系4が、矢印Bで示されるように軸線方向に往復運動をしていわゆるリニア走査が行われる。ただし、リニア走査の方法はその他のどのような方法で行ってもよい。
【0018】
リニア駆動装置8の動作周期はコンピュータ7から出力される同期信号によって制御されており、コンピュータ7において、光信号処理部5から入力される一次元の断層像信号をリニア駆動装置8の走査と同期制御することにより二次元の断層像が構築され、その画像がモニタ9に表示される。
【0019】
図3は、可撓性シース1の先端部分の側面断面図であり、光源6から出力された波長の光を透過する先端外装筒体2内に軸線方向に進退自在に配置された対物光学系4は、後端面にシングルモード光ファイバ3の先端面が密着する状態に固着された平行平面ブロック4Aと、その平行平面ブロック4Aの先端面に密着する状態に固着された自己収束性を有する屈折率分布型レンズ(いわゆるセルフォックレンズ)4Bと、その屈折率分布型レンズ4Bの先端に密着する状態に固着されたマイクロプリズム4Cとを含んでいる。
【0020】
その結果、シングルモード光ファイバ3の先端面から射出された光線束が平行平面ブロック4A内で拡げられた後、屈折率分布型レンズ4Bによって次第に収束させられながら、マイクロプリズム4Cで側方に向けて直角に反射されて対物光学系4から射出される。
【0021】
対物光学系4から軸線方向と直角をなす側方に向かって射出された低干渉性の光線束は、先端外装筒体2を通過した後、先端外装筒体2の外表面から距離iだけ離れたところにフォーカス位置Fを形成し、生体組織で反射された光は逆進して対物光学系4により受光され、屈折率分布型レンズ4Bで収束されてシングルモード光ファイバ3に入射する。
【0022】
図1は、そのような対物光学系4から射出される光線束の光軸位置における、先端外装筒体2の軸線に対して垂直な断面のI−I断面図であり、先端外装筒体2は、対物光学系4から射出された光が通過する部分が、通過光の光軸に対して垂直な平面状に(平面部2a)一定の肉厚で形成されている。
【0023】
その結果、図1に示されるように先端外装筒体2を正面から見た場合のフォーカス位置Fまでの距離iが図3に示される側方から見た場合のフォーカス位置Fまでの距離iと一致するので、射出光のスポット形状がフォーカス位置Fで最小の径の真円になって、優れた分解能を得ることができる。
【0024】
このような平面部2aは、対物光学系4が先端外装筒体2内で軸線方向にリニア走査される領域の全範囲にわたって形成されている。その結果、走査範囲の全範囲において優れた分解能が得られ、且つ、リニア走査をして断層像を得る際に平面部2aが粘膜面に押し付けられることにより、滑り難くて優れた安定性を得ることができる。可撓性シース1の軸線周りの断層像を得る場合には、可撓性シース1全体を軸線周りに回転させることになる。
【0025】
なお、上記実施例においては、先端外装筒体2が、全体として略円筒形状に形成されて、対物光学系4から射出された光が通過する部分だけが通過光の光軸に対して垂直な平面状に形成されているが、本発明はそれに限定されるものではなく、例えば、先端外装筒体2の断面形状を正方形、六角形その他の多角形状等に形成してもよい。
【0026】
図4は、本発明の第2の実施例のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブにおける、先端外装筒体2の軸線に対して垂直な断面図であり、対物光学系4から射出された光が通過する部分を、その通過光の光軸に対して垂直な平面に近似した曲面状に形成したものである。
【0027】
その他の構成は、前述の第1の実施例と同じであり、「平面に近似した曲面」とは、具体的には、例えば先端外装筒体2を円筒形に形成した場合に比べて曲率半径が2倍以上大きな曲面であれば円筒形の場合に比べて有意差のある効果が認められるが、10倍程度以上大きな曲面であれば平面の場合に比べて遜色のない効果が得られる。
【0028】
このように構成された第2の実施例のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブも、射出光のスポット形状がフォーカス位置Fに近づいて小さな径の円になることにより、分解能を向上させることができる。
【0029】
また、図5に示されるように、先端外装筒体2を体腔内壁に押し付けたときに体腔内壁に対する接触面積が広くなるので先端外装筒体2の横滑りがなくなり、また、体腔内壁に対してより強く押し付けることができるので、より広範囲に深部の断層像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施例のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブの先端部分の正面断面図(図3におけるI−I断面図)である。
【図2】本発明の第1の実施例のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィ装置の全体構成を示す略示図である。
【図3】本発明の第1の実施例のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブの先端部分の側面断面図である。
【図4】本発明の第2の実施例のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブの先端部分の正面断面図である。
【図5】本発明の第2の実施例のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブの体腔内での使用状態の略示断面図である。
【図6】従来のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブの先端部分の側面断面図である。
【図7】従来のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブの先端部分の正面断面図(図6におけるVII−VII断面図)である。
【符号の説明】
【0031】
1 可撓性シース
2 先端外装筒体
2a 平面部
3 シングルモード光ファイバ
4 対物光学系
10 内視鏡
11 処置具挿通チャンネル
F フォーカス位置
i フォーカス位置までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の処置具挿通チャンネルに挿脱自在な可撓性シースの先端に配置された先端外装筒体内に、低干渉性の光をフォーカスしながら側方に向けて射出してその反射光を受光する対物光学系を配置して、上記対物光学系を上記先端外装筒体内で軸線方向に移動走査することにより、上記対物光学系で受光された上記反射光に含まれる情報に基づいて生体組織の断層像を得るようにしたリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブにおいて、
上記先端外装筒体の少なくとも上記対物光学系から射出された光が通過する部分を、その通過光の光軸に対して垂直な平面状に形成したことを特徴とするリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブ。
【請求項2】
内視鏡の処置具挿通チャンネルに挿脱自在な可撓性シースの先端に配置された先端外装筒体内に、低干渉性の光をフォーカスしながら側方に向けて射出してその反射光を受光する対物光学系を配置して、上記対物光学系を上記先端外装筒体内で軸線方向に移動走査することにより、上記対物光学系で受光された上記反射光に含まれる情報に基づいて生体組織の断層像を得るようにしたリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブにおいて、
上記先端外装筒体の少なくとも上記対物光学系から射出された光が通過する部分を、その通過光の光軸に対して垂直な平面に近似した曲面状に形成したことを特徴とするリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブ。
【請求項3】
上記先端外装筒体の各部のうち少なくとも上記対物光学系から射出された光が通過する部分が、上記走査範囲の全範囲にわたって上記通過光の光軸に対して垂直な平面状又はそのような平面に近似した曲面状に形成されている請求項1又は2記載のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブ。
【請求項4】
上記先端外装筒体が、全体として略円筒形状に形成されて、上記対物光学系から射出された光が通過する部分だけが、通過光の光軸に対して垂直な平面状又はそのような平面に近似した曲面状に形成されている請求項1、2又は3記載のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブ。
【請求項5】
上記先端外装筒体の断面形状が多角形状に形成されている請求項1、3又は4記載のリニア走査式内視鏡用オプティカルコヒーレンストモグラフィプローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−67889(P2008−67889A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248891(P2006−248891)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】