説明

リボザイムを用いたRNA転写機能を有するベクターとそれを用いたRNA製造法

【目的】 余分な塩基配列が付加していない1種または2種以上のRNA転写産物を、優れた転写効率で製造すること。
【構成】 DNA配列の5'末端と3'末端とに各々、セルフプロセッシングにより当該5'末端と3'末端を各々切断するリボザイムを有するRNAを1単位として、当該RNA単位を1個又は2個以上連結したRNAをコードするDNA配列を含む加してなるリボザイムRNAをコードするDNA配列を含むベクター。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、リボザイムを用いたRNA転写機能を有するベクターとそれを用いたRNA製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、すべての酵素はタンパク質から構成されていると確信されていたが、1981年に酵素活性を有するRNA分子、すなわちリボザイムが発見され、従来の酵素に関する概念は打ち破られた。この画期的発見はコロラド大学のチェック(T.Cech)らによってもたらされた。すなわち、原生動物のテトラヒメナのリボソームRNA(rRNA)前駆体においては、機能上不必要なイントロン(IVS)がタンパク質酵素の力を借りずに、セルフスプライシングにより取り除かれることが証明された(Cell,Vol.31,p.147-157(1982);Nature Vol.308, p.820-825 (1984))。
【0003】その後、例えばホスホジエステル結合をセルフスプライシングする触媒機能を有するRNA分子が次々と発見された。また、他のRNA分子を切断するRNA分子(リボザイム)も見出されている。最近このような中で、ハセロフ(J.Haseloff)と ジャーラック(W.L. Gerlach)は、数種の植物病原性ウイルスのサテライトウイルスのリボザイムの間で共通に保持されている塩基配列に着目し、わずか24塩基で構成された短鎖リボザイムを遺伝子操作技術を用いて構築し、人工リボザイムの作出に成功した(NatureVol.334, p.585-591 (1988);特願平3-502638号) 。
【0004】また、大塚らは非自己のRNA分子の切断を触媒する短鎖リボザイムを化学合成で調製した(特願平2-195883号)。図1はこの短鎖リボザイムの構造と作用部位を示すもので、当該人工リボザイムは、基質となるRNA分子の塩基配列を認識して塩基対を形成する結合部位Cと、24個の特定の塩基配列を有するB(触媒活性部位を含む)から構成されており、基質として示された標的RNAはA(GUC)部分に隣接する位置で切断を受ける(図中、矢印で示す)。
【0005】なお、このA部分のRNA配列は、GUCのみに限定されるものではなく、他の配列に変更することも可能である。そして、このハセロフ(J.Haseloff)らの人工リボザイムの構築において用いられた手法は、上記のリボザイムの設計に基づいてリボザイムRNAと相補塩基配列を有し、リボザイムRNAをコードするDNAを合成してプラスミドに挿入し、さらにこの組み換えプラスミドを形質転換して得られたクローンを適当な制限酵素で切断して、リボザイムRNAをコードするDNA断片を得、これを鋳型としてインビトロ(in vitro)で転写することにより人工リボザイムを得るものであった。かかる手法の実施においては標的RNAの結合部位の塩基配列が異なる3種のリボザイムを合成し、この3種のリボザイムがクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼに対応するmRNAを各々異なる位置で切断することを明らかにしている。
【0006】リボザイムは基質特異性が高く、標的部位の数塩基の違いも認識することができる。ベネット(M.J.Bennett)らは、リボザイムを用いて4つのアイソザイム遺伝子より構成されるマメのグルタミンシンセテースmRNAの切断実験を行い、4つのうち1つの遺伝子由来のmRNAを標的とするよう設計したリボザイムが、塩基配列がよく似た他のアイソザイム遺伝子由来のmRNAは切断しないことを報告している(Nucleic Acids Research,Vol.20,p.831-837(1992))。
【0007】リボザイムのこれらの性質を利用して、リボザイムを薬剤、特に、抗RNAウイルス剤として応用しようという試みがなされている。ロッシー(J.J.Rossi)らは、リボザイムを用いてヒト免疫不全症ウイルス(HIV-1)を切断をすることに成功した(Science Vol.247, p.1222-1224(1990)) 。彼らはHIV-1のgag遺伝子中のGUCの3'側を切断するリボザイムを設計し、これをコードするDNAをヒトβ−アクチンプロモーターの下流に連結し、CD4を有するヒーラ細胞に形質転換した。この形質転換体にHIV-1を感染させ、ポリメラーゼ伸長反応により正常なgagRNAが顕著に減少していることを確認した。
【0008】ところが、リボザイムの基質特異性が高いということは、逆の見方をすると、リボザイムの認識部位に塩基置換や欠損等の変異が生じると、もはや当該リボザイムはこれを基質とすることができずに、切断できないことになってしまう。そのため、塩基配列が頻繁に変化する微生物由来のRNA、例えば、前述の塩基配列の変化速度が早いことが知られているHIV-1では、永続的に作用するリボザイムを設計することは困難である。
【0009】これを解決する方法の一つとして、標的RNAの多数の作用部位に多種類のリボザイムを同時に作用させることが考えられ得る。一ヵ所の標的部位が変異を起こしたとしても、他の標的部位が同時に変異を起こす確率はかなり低いであろうし、標的部位として、そのRNAが機能するのに重要な部位を選択しておけば、変異を起こした場合そのRNAは、もはや機能することができなくなってしまう。
【0010】一方、リボザイムと同様のものにアンチセンスRNAがある。これは、標的RNAを相補する塩基配列を有するRNAで、標的RNAあるいは標的RNAをコードするDNA鎖と2本鎖を形成することで標的RNAの転写あるいは、標的RNAが機能することを阻止するものである。その作用機構は、非常に複雑で、標的RNAの転写阻害、スプライシング阻害、翻訳阻害、あるいは標的RNAと2本鎖を形成することにより、RNase による分解を誘導する等が報告されている(Antisense Nucleic Acids and Proteins(Eds. J.N.M.Hol and A.R.van der Krol)Marcel Dekker,New York(1991))。
【0011】アンチセンスRNAもリボザイム同様、抗RNAウイルス剤等の薬剤としての応用が試みられている。ハン(L.Han)らは、マウス白血病ウイルスのパッケージングに必須なウイルス遺伝子の配列に相補的なアンチセンスRNAを発現するトランスジェニックマウスを作成し、これが白血病ウイルスに曝されても全く発病しないことを示した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.88 ,p.4313-4317(1992))。
【0012】アンチセンスRNAの場合も、リボザイム同様基質特異性が高い。そのため、前述のリボザイムと同様に、標的RNAにかかわる問題をはらんでいることが当該分野で知られている。リボザイムあるいはアンチセンスRNAを生体内に供給する方法として、化学的方法;酵素法;また、あるいは遺伝子組み換え法で合成したものを生体外部から入れる方法;遺伝子組み換え法、すなわちリボザイムあるいはアンチセンスRNAをコードするDNAを適当なプロモーターの下流につないだものを、適当なベクターに挿入し、これを生体内に導入することにより、生体内でリボザイムあるいはアンチセンスRNAを産生する方法が知られている。前者の化学的方法は、リボザイムあるいはアンチセンスRNAの効果を持続させるためには、頻繁にリボザイムあるいはアンチセンスRNAを生体内に注入し、十分な濃度を維持する必要がある。
【0013】これに対して、後者の遺伝子組み換え法は生体内で絶えずリボザイムあるいはアンチセンスRNAを産生し続けることができるため、リボザイムあるいはアンチセンスRNAを注入し続ける等の問題点を解決することができる。ところで、多種類のリボザイムあるいはアンチセンスRNAを生体内に供給する場合、それぞれのリボザイムあるいはアンチセンスRNAを生体外で前述のように合成し、生体外から供給することは可能であるが、組み換え遺伝子法によりこれを行うことは、多種の遺伝子を生体内に導入するのと同じことであり、この技術は非常に困難であることが当該分野で知られている。
【0014】リボザイムに関しては、唯一、チェン(Chen) らは多種のリボザイムを一度に作用させるものとして、一つのプロモーターの下流に多種のリボザイムを幾つも連結し、一分子中に多種のリボザイム活性部位をもつものとして考案した(Nucleic Acids Res.Vol.20,p4581-4589(1992)) 。しかし、このような構築物は一分子中に相補的な配列を多く含み、それらの干渉作用により必ずしもリボザイム活性が高いとはいえない。このことは、連結するリボザイム活性部位が多くなるほど顕著であると考えられる。
【0015】さらに、リボザイムあるいはアンチセンスRNAの様な特定のRNA転写物をインビトロ(in vitro) で得ようとする場合、従来法においては、目的とするRNAをコードするDNAを鋳型として、RNAに転写する際に、当該DNAにより組み換えられたプラスミドを制限酵素で切断してから転写するという余分の手間を要するものであった(ラン・オフ法と呼ばれている)。
【0016】この理由は、当該プラスミドに挿入されたDNA断片を鋳型としてRNAを転写する場合に必然的に生ずる、5'末端側と3'末端側における余分な塩基配列を可能な限り転写させないようにするためである。すなわち、5'末端側は、プロモータのすぐ下流に上記DNAを連結させることによって処理されていたが、3'末端側の処理は、RNAの転写において未だユニバーサルなターミネータが見い出されておらず、当該3'末端側の処理に際して制限酵素を使用するいわゆるランオフ法を採らざるを得なかった(図2)。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】上記の制限酵素を使用する従来の方法は、制限酵素を使用するという余分の手間に加えて、転写において切断された線状のDNAを使用する必要があるため、インビトロ(in vitro)では、RNAを合成することが可能であるが、生体内において、RNAをコードするDNA断片を含む組み換えベクターを保持、増殖せしめつつRNA転写物を産生させることができないという欠点を有していた。さらに、5'末端側の処理においてプロモーターのすぐ下流に目的とするRNAに対応するDNAを連結したとしても、転写開始点から目的とするRNAに対応するDNAまでの間の余分な塩基配列が付加してしまうということを避けることができなかった。まして、余分な塩基配列が付加されていない複数個のRNAを同時に産生させるベクターは、存在しなかった。
【0018】本発明の課題は、上記のin vitroでの制限酵素による切断を行わずに、目的とするRNA転写物をコードするDNAにより組み換えられた環状のベクターをそのまま鋳型として用いることができるとともに余分な塩基配列を有しないRNA、あるいは、余分な塩基配列を有しない多種類のRNAを同時に転写することが可能であり、かつ生体内においても当該組み換えベクターを保持増殖させながら目的とするRNA転写物を高い転写効率で産生することが可能な、リボザイムを用いたRNAの新規な転写システムを提供しようとするものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意研究の結果、ベクターの構築において、目的とするRNA転写物の5'末端と3'末端とを各々セルフプロセッシングにより切断するリボザイムRNAをコードするDNAを一単位とし、当該1単位又は2単位以上を直列に連結し、特定の配列のプロモーターの下流に、あるいは特定の配列のプロモーター及びターミネーターの間に配置することにより、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0020】すなわち、本発明は次の(1)から(4)を要旨とするものである。
(1) DNA配列の5'末端と3'末端とに各々、セルフプロセッシングにより当該5'末端と3'末端を各々切断するリボザイムを有するRNAを1単位として、当該RNA単位を1個又は2個以上連結したRNAをコードするDNA配列を含むベクター。
【0021】(2) 前記(1)に記載したRNA単位を、1乃至10単位連結したRNAをコードするDNA配列を含むベクター。
(3) 前記(1)に記載したRNA単位をn個(nは1以上の整数)連結したRNAをコードするDNA配列を含むベクターにおいて、5'末端側から1番目の上記RNA単位の5'末端の近傍にプロモーターが付加されており、かつ当該プロモーターに対応するターミネーターが、5'末端側からn番目の上記RNA単位の3'末端の近傍に付加されていることを特徴とする、RNAをコードするDNA配列を含むベクター。
【0022】(4) 前記(1)〜(3)に記載されたベクターを鋳型として、当該ベクターDNAをRNAに転写することを特徴とする、5'末端側と3'末端側がセルフプロセッシングされたRNA転写物の製造方法。
(5) 前記(1)〜(3)に記載されたベクターにより形質転換された、微生物、又は動物細胞若しくは植物細胞。
【0023】以下、本発明を更に詳述する。本発明のベクターは、調製したRNA1単位をセルフプロセッシングにより切断する、又は2単位以上を直列に連結することにより構築することができる。本発明のベクターの構築は、まずDNA配列の5'末端と3'末端とに各々、セルフプロセッシングにより当該5'末端と3'末端を各々切断するリボザイムを有するRNA単位を調製することにより行うことができる。
【0024】すなわち、目的とするRNA転写物の5'末端側と3'末端側を処理するため2つのリボザイムRNAをコードするDNA断片を連結する。このうち、第1のDNA配列は、RNA転写物の5'末端側を処理するためのもので、リボザイムRNAの触媒活性部位をコードする部分と、その両端の基質となる転写されるRNAの切断部位(5'末端側)を認識する結合部位をコードする部分を含む。このリボザイムRNAとコードするDNAは目的とするRNA転写物をコードするDNAの5'上流側に連結する。
【0025】また、同じく挿入される第2のDNA配列は、転写されたRNAの3'末端側を処理するためのもので前記目的とするRNA転写物をコードするDNAの3'下流側に連結され、リボザイムRNAの触媒活性部位をコードする部分とその両端の基質となる転写されるRNAの切断部位(3'末端側)を認識する結合部位をコードする部分より成る。
【0026】そして、複数個のRNA単位を連結するベクターの構築においては、上記において調製したRNA単位の5'末端と3'末端とを各々、セルフプロセッシングにより切断するリボザイムを有するRNAをコードするDNAを1単位又は2単位以上を直列に連結することによりなる。次に、RNA転写物の製造においては、上記のベクターを用いてRNA転写物を製造する。かかる場合は、当該組み換えベクターを試験管内あるいは微生物(細菌、酵母、カビを含む)、植物、動物等の生体中に保持せしめてRNAの転写を行う。
【0027】なお、上記RNA単位を単数個コードするベクターに関しては、プロモーターの3'の下流側の転写開始点から開始され、目的とするRNA転写物の領域をすぎても終了せず、目的とするRNA転写物の3'側のプロセッシングリボザイムの領域をも通過し転写が続けられる。この時、生成したRNAの5'末端及び3'端末は、すでにリボザイムによるセルフプロセッシングにより切断されて余分な塩基配列は付加されない。
【0028】上記RNA単位を複数個連結してコードするベクターに関しては、前記(1)のベクターと同じく、プロモーターの3'の下流側の転写開始点から開始され、目的のRNA転写物群の領域を過ぎても転写が続けられる。同時に、各目的RNAの5'末端及び3'端末のプロセッシングリボザイムの作用により、余分な塩基配列が付加されない各目的RNAが切り出される。
【0029】なお、本発明において上記RNA単位を連結可能な単位数は100単位程度までであるが、好ましくは1〜10単位程度である。以上の点を更に具体的に説明する。例えば、図3は酵母の凝集性に関する遺伝子由来mRNA(以下、SFL1mRNAという。)を切断し得るリボザイムを産生する本発明の組み換えプラスミドpGENE 8459v3の構造を表すものである。すなわち、pGENE 8459(多比良ら、特願平1-329831及び、K.Taira et.al., Protein Engineering,3, 733-737(1990)) のEcoRI/SacI断片を取り除き、この代わりに、常法により化学合成した新たなオリゴヌクレオチドEcoRI/SacI断片を挿入することを示している。
【0030】挿入する塩基配列は図3のpGENE 8459v3のEcoRIサイトからSacIサイトに相当し、両鎖とも化学合成した後、それぞれの5'末端をリン酸化してリガーゼを用いて連結する。当該プラスミドは、 T7 RNAポリメラーゼのためのプロモータの下流側にSFL1mRNAの切断部位を認識する結合部位をコードする部分とループ状の触媒活性部位をコードする部分からなるリボザイムRNAに対応するDNA部分を有しており、更にその5'上流側と3'下流側において転写されたRNAがセルフプロセッシングにより切断される切断部位(Cleavage site)と、この切断を行うループ状の触媒活性部位、及び上記セルフプロセッシングの切断部位を認識する結合部位からなるリボザイムRNAをコードする2つのDNA配列を有している。
【0031】そして、上記結合部位をコードするDNA配列は、切断部位直前にある一つの塩基部分を除いてその両側の塩基配列と相補の関係にあり塩基対を形成する。当該プラスミドにおいては、転写は T7 プロモータの下流+1から始まり、SFL1用のリボザイム部分、及びその下流側の塩基配列部分が順次RNAに転写される。そして、転写されたRNAは前記した5'末端及び3'末端の切断部位において2つのリボザイムによりセルフプロセッシングされることにより、余分な塩基配列は得られるリボザイムには付加されない。
【0032】従って、この図3の組み換えプラスミドを鋳型として転写することにより得られるリボザイムRNAは図4の塩基配列を有するものとなる。このリボザイムRNAは5'及び3'末端側に相補の塩基配列を有し、塩基対を形成してヘアピン構造となっており、このため生体内におけるエキソヌクレアーゼによる分解に対し、安定性を有するものである。
【0033】また、例えば、図5及び図6は、HIV-1遺伝子あるいは、これに由来するmRNAの5'側Long terminal repeat配列(以下、LTRという。)と、HIV-1のtat遺伝子あるいは、これ由来のmRNAを切断し得るリボザイムをそれぞれ産生する本発明の組み換えプラスミドpV3TA-LTR-tatの構造を表すもので、以下にその構築の概要を述べる。
【0034】前述のpGENE8459(多比良ら、特願平1-329831及び、K.Taira etal. Protein Engineering,3, 733-737(1990)) のEcoR/SacI断片を取り除き、常法により化学合成した新たなオリゴヌクレオチドEcoRI/SacI断片を代わりに挿入した。挿入した塩基配列は図7に示す、pV3TA-LTRのEcoRIサイトからSacIサイトに相当し、両鎖とも化学合成した後、それぞれの5'末端をリン酸化してリガーゼを用いて連結した。
【0035】次に、得られたプラスミドのXhoI/SalI断片を取り除き、常法により化学合成した2種の合成リンカー(図9B,Cに塩基配列を示す。)の5'末端をリン酸化してリガーゼを用いて連結したものを代わりに挿入した。挿入後、リガーゼを用いて連結した。更に、得られたプラスミドのSalI/HindIII 断片を取り除き、常法により化学合成した新たなオリゴヌクレオチド(図9Dに塩基配列を示す。)を代わりに挿入し、リガーゼを用いて連結した。こうして得られた、図7の組み換えプラスミドpV3TA-LTRのApaI/EcoRV 断片を取り除き、常法により化学合成したオリゴヌクレオチドApaI/EcoRV 断片(図9Eに塩基配列を示す)を代わりに挿入し、リガーゼを用いて連結した。こうして得られた図8に示す、組み換えプラスミドpV3TA-tatを鋳型に、図10に示した2種の化学合成プライマーを用いて、PCR(ポリメラーゼチェイン反応)法により増幅し、制限酵素KpnI及びHindIIIで処理後、図7のpV3TA-LTRのKpnI-HindIII間に挿入し、リガーゼを用いて連結し、図5及び図6の組み換えプラスミドpV3TA-LTR-tatを構築した。
【0036】当該プラスミドは T7RNAポリメラーゼのためのプロモーターの下流側に以下の構造体を有している。すなわち、生体内での安定性を計るため3'末端部分に少なくとも20個以上最大100個のアデニン残基よりなるポリAテイルとそれに続くGUCの塩基配列を付加したメチオニンtRNAのアンチコドン部位に挿入された状態(Cotten and Birnstiel,EMBO J.,8,3861-3866(1989))で、LTRmRNA結合部位およびループ状の触媒活性部位を有するリボザイムRNAをコードするDNA配列と、その5'上流側と3'下流側において転写されたRNAがセルフプロセッシングにより切断される切断部分(Cleavage site)と、この切断を行うループ状の触媒活性部位及び上記セルフプロセッシングの切断部位を認識する結合部位からなるリボザイムRNAをコードする2つのDNA配列、これらに続く形で上記構造体中のLTRmRNA結合部位をtatmRNA結合部位に変更したものである。
【0037】これら結合部位をコードするDNA配列もまた、切断部位直前にある1つの塩基部分を除いてその両側の塩基配列と相補の関係にあり塩基対を形成する。該プラスミドは、転写を T7プロモータの下流+1から始め、LTR用のリボザイム部分、その3'側セルフプロセッシングリボザイム部分、tat用のリボザイム部分の5'側セルフプロセッシングリボザイム部分に続いてtat用のリボザイム部分およびその下流側の塩基配列部分を順次RNAに転写していくが、転写されたRNAは前記した4つのリボザイムによりセルフプロセッシングされることにより、余分な塩基配列が付加していないLTR用およびtat用リボザイムに切り分けられる。
【0038】また、例えば図11は、図8のpV3TA-tat にT7プロモーターに対するターミネーターを付加した構造を表すもので、以下にかかる構築の概要を述べる。前述のpV3TA-tat のKpnI/HindIII 断片を取り除き、常法により化学合成したT7ターミネーター配列を含むKpnI/HindIII 断片を代わりに挿入した。このようにして、図11に示す組み換えプラスミドpV3TA-tat-Term1 を得た。
【0039】当該プラスミドは、前述のpGENE8459v3 やpV3TA-LTR-tat と同様にプロセッシングリボザイムの作用によりtat 切断用のリボザイムが切り出される。この際、T7ターミネーターを付加することにより、tat 用リボザイムの転写量がT7ターミネーターを付加しないものの約2倍に増加することが判明した(図17) 。すなわち、特定のプロモーターにあったターミネーターを付加することにより、リボザイムの生産量を上げることが可能になる。
【0040】かかる図5、図6、及び図11の組み換えプラスミドを鋳型として転写することにより得られる2種のリボザイムRNAは、それぞれ図16に示す塩基配列を有するものとなる。当該リボザイムは、t-RNA構造を形成するようになっており、さらに3'側には30個のアデニン残基によりなる、ポリAテイルを有している。これらの構造は、生体内におけるエキソヌクレアーゼによる分解に際し、安定性を保持することが当該技術分野で知られている。
【0041】この図3、図5、図6、及び図11の組み換えプラスミドは、リボザイムRNAを製造するリボザイムとして、SFL1切断用のリボザイム、LTR 切断用のリボザイム、tat 切断用のリボザイム、プロモーターとして T7 RNAポリメラーゼのためのターミネーター及びベクターとしてpUC119を用いているが、本発明は特にこれらの要素に限定されるものではない。
【0042】すなわち、上記の図3の組み換えプラスミドは、リボザイムRNAを生産するものであるが、2種に限らず、5'末端と3'末端とを各々、セルフプロセッシングにより切断するリボザイムを有する異なるリボザイムをコードするDNA断片を連結することで、所望する種のリボザイムRNAを生産させることが可能である。また、両プロセッシングリボザイムの間のリボザイムを全て同じものにすることにより、プラスミド当たりの同一種のリボザイムの生産量を上げることも可能となる。さらに、製造するRNAはリボザイムに限らず、例えばRNAウイルスのRNA、アンチセンスRNA、種々のmRNA等、広くRNA転写産物の製造に適用可能である。
【0043】用いるプロモーターも、例えばSP6 ,GAL7,SV40,CaMV35S等、種々のものを使用することが可能であり、用いるターミネーターも上記プロモーターに対応するものを選択することが可能である。さらに本発明においては、組み換えベクターは、特に環状のままであっても、RNAを転写できるための種々の生体中においても機能を発揮するものであって、リボザイム機能を発揮させようとする生体、例えば植物、動物等の種類に応じて適切なベクターを選択することができる。
【0044】
【実施例】以下に、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、これらの実施例により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
〔実施例1〕 組み換えベクターpGENE 8459v3の構築先に述べた方法(多比良ら、特願平1-329831号;Taira, K., Oda, M., Shinshi, H., Maeda, H., and Furukawa, K. Protein Engineering,3, 733-737(1990))で図3のEcoR/SacI断片を化学合成し、これを含む溶液 3.3μl(100pmol)を制限酵素EcoRIとSacIで前もって切断しておいた組み換えプラスミドpGENE8459(多比良ら、特願平1-329831号;Taira K., Oda, M., Shinshi, H., Maeda, H., andFurukawa, K. Protein Engineering,3, 733-737(1990))に林等の方法(1)Hayasi,K.,Nakazawa,M.,Ishizaki,Y. and Obayashi,A.Nucleic Acids Res.,13,3261-3271(1985), 2)Hayashi,K.,Nakazawa,M.,Ishizaki,Y.,Hiraoka,N. and Obayashi,A.Nucleic Acids Res.,13,7979-7992(1985)) により連結した。
【0045】この溶液を用いて大腸菌MV1184株を形質転換し、コロニーを形成させた後プラスミドを取り出し、挿入された断片中のXhoIサイトを利用してポジティブなクローンを選択した。また、塩基配列はDNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社製370A)を用いて確認した。
〔実施例2〕 組み換えベクターpV3TA-LTRの構築先に述べた方法(多比良ら、特願平1-329831号;Taira K., Oda, M., Shinshi, H., Maeda, H., and Furukawa, K. Protein Engineering,3, 733-737(1990))で図8AのEcoRI/SacI断片を化学合成し、前述の林等の方法で、制限酵素EcoRIとSacIで前もって切断しておいた図3R>3の組み換えプラスミドpGENE 8459v3に連結し、大腸菌MV1184に形質転換した。コロニーを形成させた後プラスミドを取り出し、断片が挿入されたことによりKpnIサイトが消失したことを利用してポジティブなクローンを選択した。
【0046】得られた組み換えプラスミド0.5μgを制限酵素XhoIとSalIで処理したものに、先に述べた方法(多比良ら、特願平1-329831号;Taira K., Oda, M., Shinshi,H., Maeda, H., and Furukawa, K. Protein Engineering,3, 733-737(1990))で化学合成し、リン酸化し、連結した図8の合成リンカー(B,C)を2μg 加え、前述の林らの方法で連結した。これを大腸菌MV1184に形質転換し、コロニーを形成させた後プラスミドを取り出し、断片が挿入されたことによりば BamHIサイトが消失したことと、ApaIサイト、EcoRV サイトが生じたことを利用してポジティブなクローンを選択した。
【0047】さらに、こうして得られた組み換えプラスミド 0.5μgを制限酵素SalIとHindIII で処理し、先に述べた方法(多比良ら、特願平1-329831号;Taira K., Oda,M., Shinshi, H., Maeda, H., and Furukawa, K. Protein Engineering,3, 733-737(1990))で化学合成した図9Dの合成リンカーを前述の林等の方法で連結した。これを大腸菌MV1184に形質転換し、コロニーを形成させた後プラスミドを取り出し、断片が挿入されたことによりSalIサイトが消失したことを利用してポジティブなクローンを選択した。この組み換えプラスミドの塩基配列をDNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社製370A)を用いて確認した。
〔実施例3〕 組み換えプラスミドpV3TA-LTR-tatの構先に述べた方法(多比良ら、特願平1-329831号;Taira K., Oda, M., Shinshi,H., Maeda, H., and Furukawa, K. Protein Engineering,3, 733-737(1990) )で化学合成した図8EのApaI/EcoRV断片を、制限酵素ApaIとEcoRVで処理した図7の組み換えベクターpV3TA-LTRに前述の林らの方法で連結し、これを大腸菌MV1184に形質転換し、コロニーを形成させた後プラスミドを取り出し、断片が挿入されたことをDNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社製370A)を用いて塩基配列を確認することによりポジティブなクローンを選択した。
【0048】こうして得られたプラスミド(以下、pV3TA-tat と呼ぶ)(図8)を鋳型に、図10に示した2種のプライマーを用い、ゲルファンド(D.H.Gelfand)等の方法(PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications. Academic Press, Inc., San Diego,CA, p.129-141(1990))に従い、PCR(ポリメラーゼチェイン反応)法により増幅反応をおこなった。増幅反応は、92℃で1分30秒、50℃で2分、72℃で4分、これを1サイクルとして25サイクル行った。なお、この反応はパーキンエルマーシータスインストルメンツ社製DNAサーマルサイクラー480を用いた。得られたDNA断片を、常法に従いクロロホルム抽出、エタノール沈澱を行った後、制限酵素KpnIとHindIIIで処理し、制限酵素KpnIとHindIIIで処理した組み換えプラスミドpV3TA-LTRに連結し、大腸菌MV1184に形質転換し、コロニーを形成させた後、プラスミドを取り出し断片が挿入されたことを制限酵素EcoRIとHindIIIで切断することにより確認した。
〔実施例4〕組み換えプラスミドpV3TA-tat-term 1及びpV3TA-tat-term2の構築次に前記のようにして構築した組み換えプラスミドpV3TA-tatの3' 末端にT7ターミネーターを付加した。先に述べた方法によりT7ターミネーター配列(METHOD IN ENZYMOLOGY,VOL185,p.60-89(1990))を含むKpnI/HindIIIリンカー2.0μgを合成し、制限酵素KpnI/Hind IIIで切断しておいたpV3TA-tat0.5μgに前述の方法で連結し、大腸菌MV1184に形質転換した。コロニーを形成させた後、プラスミドを取り出し、制限酵素KpnI/Hind IIIで処理し、アガローズゲル電気泳動することにより、この合成リンカーが挿入されていることを確認した。このプラスミドをpV3TA-tat-term 1(図11)と称する。なお、このプラスミドpV3TA-tat-term1 は、Escherichia coli MV1184 に導入されて、E.coli TERM 1 として通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所に寄託されており、その寄託番号は微工研菌寄第13143 号である。
【0049】次に組み換えベクターpV3TA-tat-term1の改変を行った。先に述べた方法により、図11のXho1サイトからApa1サイトの配列を有するXhoI/ApaIリンカー2.0μgを合成し、制限酵素XhoIとApaI1 で理したpV3TA-tat-term10.5μgに前述の方法で連結し、大腸菌MV1184に形質転換した。コロニーを形成させた後プラスミドを取り出し、制限酵素XhoIとApaIとで処理し、アガロースゲル電気泳動法により、この合成リンカーがが挿入されていることを確認した。このプラスミドをpV3TA-tat-term 2( 図12)と称する。なお、このプラスミドpV3TA-tat-term 2は、Escherichia coliMV1184に導入されて、E.coli TERM 2 として通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所に寄託されており、その寄託番号は微工研菌寄第13144 号である。
〔実施例5〕組み換えプラスミドpV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型の構築pV3TA-tat のSmaIサイトにBglII リンカー(5'-GGGAGATCTCCC-3') を、KpnIサイトにBamHI リンカー(5'-CGGATCCGGTAC-3') を挿入した。このようにして得たプラスミドを、制限酵素BglII とBamHI で処理し、tat 用リボザイム配列を含むBglII BamHI DNA断片及びtat 用リボザイム配列を含まないBglII BamHI DNA断片(以下、BglII BamHI ベクターと呼ぶ)をアガロースゲル電気泳動により分離回収した。回収したDNA断片をT4リガーゼを用いて連結後、再度、制限酵素BglII と BamHIで処理した。当該反応物をBglII-BamHIベクターに連結し、当該ベクターを用いてE.coli MV1184 を形質転換し、コロニーを形成させた後でプラスミドを取り出し、これを制限酵素BglII と BamHIで処理することにより、tat 用リボザイム配列を含むBglII- BamHI DNA断片を1〜5個、及び10個含むものを選択した。以後、この種のプラスミドをpV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型と呼ぶ(図13−B)(ここでnは、tat 用リボザイムを含むBglII-BamHI DNA断片が何個入ったかを意味する。例えば、1 個ではpV3TA-(tat)1、2 個ではpV3TA-(tat)2
〔実施例6〕直列連結型リボザイム発現プラスミドの構pV3TA-tat を制限酵素XhoIで処理し、Klenow flagment で平滑化したのち、制限酵素HindIII で処理し、tat 用リボザイム配列を含むXhoI-HindIII DNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離回収した。当該DNA断片を、pV3TA-tat を制限酵素XbaIで処理し、Klenow flagment で平滑化した後、制限酵素HindIII で処理したものに連結した。さらにこれを制限酵素XbaIで処理し、Klenow flagment で平滑化したのち、制限酵素HindIII で処理し、先のDNA断片を連結した。以下、この操作を繰り返し、T7プロモーターの下流にtat 用リボザイム配列が直列に1個〜5個、及び10個含むものを構築した。ただし、この構築方法では、1個あるいはそれ以上連なったtat 用リボザイム配列の5'端と3'端に自分自身を切断するプロセッシングリボザイムが付加される。以下、この種のプラスミドを直列連結型リボザイム発現プラスミド(n-1〜5,10) と呼ぶ(図13−B)。
〔実施例7〕リボザイムの製造前述の方法(多比良ら、特願平1-329831号;Taira K., Oda, M., Shinshi, H., Maeda, H., and Furukawa, K. Protein Engineering,3, 733-737(1990))でRNAの転写を行った。
【0050】図14において、(A)から(D)は、鋳型DNAとして環状のpGENE 8459v3を用いた場合を、また、(E)から(H)は鋳型DNAとして制限酵素HindIIIにより切断した線状pGENE 8459v3を用いた場合をそれぞれ示している。転写反応時間は、(A)と(E)の場合30分;(B)と(F)の場合1時間;(C)と(G)の場合2時間30分;(D)と(H)の場合6時間であった。
【0051】32Pでラベル化された上記(A)〜(H)の各転写産物は8.3%尿素を含む6%ポリアクリルアミドゲルを用いて解析した。図16には約50塩基から130塩基までの領域を示す。図15において、(A)から(E)は、鋳型DNAとして環状のpV3TA-LTR-tatを用いた場合を示しており、(A)は0分;(B)は30分;(C)は1時間;(D)は2時間;(E)は4時間転写反応をさせた。
【0052】32Pでラベル化された上記(A)〜(E)の各転写産物は8.3%尿素を含む6%ポリアクリルアミドゲルを用いて解析した。図15には約50塩基から300 塩基までの領域を示す。更にpV3TA-tat、pV3TA-tat-term1及びpV3TA-tat-term2を鋳型として用いたInvitroにおける転写反応を行った。塩化セシュウム密度勾配遠心法で精製したプラスミドpV3TA-tat、pV3TA-tat-term1及びpV3TA-tat-term2の各々2μgを、40mMTris-HCl(pH7.5),6mM MgCl2,2mMスペルミジン、0.01% bovine serum alubumin,0.375mM ATP,CTP,GTP,UTP, 0.74MBq α-32P〔CTP〕20unitsT7 RNA ポリメラーゼを含む反応溶液50μl中37℃で反応させ、0、1、3、6、12、24時間ごとに7μlずつ回収した。これらに0.02%ブロモフェノールブルー、0.02%キシレンシアノール、50mM EDTA、9M尿素を含む水溶液を等容量加え、90℃で2分間加熱した後オートラジオグラフィーにかけた。なお、各々のオートラジオグラムの強度はフジ写真フイルム社製のバイオイメージアナライザーBA100により測定した。
【0053】オートラジオグラフィーの結果を図17に示す。(A)から(F)はpV3TA-tatを鋳型に用いた場合、(G)から(L)はpV3TAtat-term1を鋳型に用いた場合、(M)から(R)はpV3TA-tat-term2を鋳型に用いた場合の各々の結果を示す。反応時間は(A)、(G)、(M)が0時間;(B)、(H)、(N)が1時間;(C)、(I)、(O)が3時間;(D)、(J)、(P)が6時間;(E)、(K)、(Q)が12時間;(F)、(L)、(R)が24時間であった。また、これらのオートラジオグラムの内、tat 用リボザイムの部分の強度の相対値(レーン(B)の値を1とした場合)をグラフ化して表したのが図18である。
【0054】図18の結果より転写されたtat用リボザイムの転写量はT7ターミネーターを3'末端に付加したpV3TA-tat-term1では付加しないpV3TA-tatの2倍であった。更にSac1サイトを除去したpV3TA-tat-term2はpV3TA-tat-term1の約2倍、pV3TA-tatの約4倍であった。また、図17の結果より、ターミネーターを3'末端に付加することにより高分子量域側の非特異的な転写物の生産が抑制されており、さらにSacIサイトを除去したことにより、5'端処理用のリボザイムが付加したtat用リボザイム転写量が劇減していた。以上の結果をまとめると、pV3TA-tat-term2をリボザイムの転写、発現プラスミドとして用いれば、従来のリボザイム発現プラスミドであるpV3TA-tatに比較して目的とするリボザイムの生産量を少なくとも4倍にすることができ、さらに高分子領域側の非特異的な転写物の生産を抑制することか可能となり、リボザイムによるRNAの生産方法の著しい進歩をもたらしたことになる。
【0055】図19において、(A)はpV3TA-(tat)1、(B)はpV3TA-(tat)2、(C)はpV3TA-(tat)3、(D)はpV3TA-(tat)4、(E)はpV3TA-(tat)5、(F)はpV3TA-(tat)10をそれぞれ等量鋳型に用い、6時間転写反応させたものを、7M尿素を含む5%ポリアクリドアミノゲル電気泳動により解析した結果である。ここで5'CAR は、5'端にある5'端処理用リボザイム、5'CAR+3'CAR は各tat 用リボザイムの間に位置する5'端処理用リボザイムと3'端処理用リボザイムが連結したもの、5'CAR+3'CAR+tatRは、5'端処理用リボザイムと3'端処理用リボザイムとtat 用リボザイムが連結したものである。5'CAR 及び 5'CAR+3'CAR+tatR は、添加した鋳型の種類に関係なく一定であるが、その他のものは鋳型のn数に比例して増加した。すなわち、tat 用リボザイムとその5'側及び3'側に位置する端処理用リボザイムを一単位として、当該単位数に比例してtat 用リボザイムの生産量が増加した。
【0056】図20は、tat 用リボザイムの生産量を経時的に調べたものである。ここで、pV3TA-(tat)1を鋳型とした場合の反応6時間後のtat 用リボザイム量を相対的に示したものである。これより明らかなように、tat 用リボザイム量は鋳型のn数に比例して増加しており、n=10 の場合いずれの時間においてもn=1の場合のほぼ10倍のtat 用リボザイム量が生産された。
【0057】以上のことにより、両プロセッシングリボザイムの間のリボザイムを全て同じものにすることにより、プラスミド当りのリボザイムの生産量を上げることができることが判明した。
〔実施例8〕リボザイム反応A)pGENE 8459v3を用いて製造したリボザイム反応図16の「SFL1用リボザイム」及び線状pAM19SFL1ac(PstI)を鋳型として同様に転写及び電気泳動された「SFL1mRNA」をそれぞれポリアクリルアミドゲルより切り出し、400μlの0.3M酢酸ナトリウム/0.1mM EDTA/20mM Tris・HCl(pH8)を含む緩衝液を用いてそれぞれのRNAを抽出した。常法によりエタノール沈澱を行い、単離した基質(SFL1mRNA)が酵素(SFL1用リボザイム)より過剰な条件で混合し、50mM Tris・HCl(pH8)/10mM MgCl2を含む緩衝液中37℃で切断反応を追った。
【0058】図5及び図6と同じ組成のゲルで解析した結果を図21に示す。(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の反応時間は、それぞれ0.1、2.5、5.5、9.5時間である。時間と共にSFL1mRNAが図4のような複合体をリボザイムと形成し、SFL1mRNAが二つに切断される。図14及び図21の結果より明らかなように、a. 環状のpGENE 8459v3を鋳型とした場合、61塩基で構成されるSFL1用リボザイムが放出された。これは5'端処理用及び3'端処理用のリボザイムが効率よく作用したためである。また、5'端処理用リボザイムとSFL1用リボザイムが連結した断片も徐々に切断を受け二つに別れる(図14、A〜D)。b. 3'端処理用リボザイムのすぐ下流にあるHindIIIサイトを切断した線状pGENE 8495v3を鋳型とした場合、まず5'端処理用リボザイム、SFL1用リボザイム、及び3'端処理用リボザイムが連結された状態で産生され、徐々に切断を受けるが、環状のpGENE 8459v3を鋳型とした場合と比べて転写効率が悪く、また副産物も多かった(図14、E〜H)。T7 RNAポリメラーゼを用いてSFL1遺伝子の転写産物を作成し、その後、単離したSFL1用リボザイムと混ぜた場合においては、SFL1用リボザイムがうまく作用すると76塩基のSFL1転写産物が切り出されるように結合部位を設計したものであり(図4)、実際予想どおり76塩基の断片が確認できた(図21) 。
【0059】以上の結果をまとめると、5'端処理用リボザイムと3'端処理用リボザイムは分子内で設計どおりに切断反応を起こした。また、SFL1用リボザイムも設計どおりに分子間で切断反応を起こした。また環状DNAを鋳型とする方が転写効率および純度の面で優れており、またpGENE 8459v3の「SFL1用リボザイム」領域はカセット式になっており他の配列と置き換えることができるので、特に短いRNA転写産物を単離する場合、pGENE 8459v3の方が従来のラン・オフ法より優れている(制限酵素を用いて切断する手間もはぶける)ことが明らかになった。
B)pV3TA-tat、pV3TA-LTRおよびpV3TA-LTR-tat用いて製造したリボザイム反応pV3TA-tat、pV3TA-LTR、pV3TA-LTR-tatおよびT7-LTR(T7 プロモーターの下流にHIV-1のgag遺伝子のcDNA(転写開始点から422塩基対下流を含む)を有するDNA断片)、T7-tat(T7 プロモーターの下流にHIV-1のtat遺伝子のcDNA(翻訳開始点から149塩基対下流を含む)を有するDNA断片)を鋳型として同様に転写および電気泳動されたtat用リボザイム、LTR用リボザイム、tat用リボザイム+LTR用リボザイムおよびLTRRNA、tatRNAをそれぞれポリアクリルアミドゲルより切り出し、前述と同様にゲルからRNAを抽出した。エタノール沈澱後、tat用リボザイムとtatRNA、LTR用リボザイムとLTRRNA、tat用リボザイム+LTR用リボザイムとLTRRNAとtatRNAをそれぞれ前述の条件で切断反応を行った。
【0060】図14と同じ組成のゲルで解析した結果を図22に示す。(A)〜(F)は、tat用リボザイムとtatRNA、(G)〜(L)は、tat用リボザイム+LTR用リボザイムとLTRRNAとtatRNA、(M)〜(R)はLTR用リボザイムとLTRRNAの切断反応の結果である。反応時間は(A)、(G)、(M)が0時間;(B)、(H)、(N)が0.5時間、(C)、(I)、(O)が1時間;(D)、(J)、(P)が2時間;(E)、(K)、(Q)が4時間;(F)、(L)、(R)が6時間である。
【0061】図15及び図22の結果より、pV3TA-LTR-tatを鋳型とした場合、163 塩基で構成されるtat用リボザイムおよびLTR用リボザイムの両方が産生されていることが明らかである。すなわち、pV3TA-tatより産生されたtat用リボザイムは、tat RNA(149塩基)を、49塩基と100塩基のRNA断片に切断し、pv3TA-LTRより産生されたtat用リボザイムは、LTRRNA(422塩基)を、70塩基と352塩基のRNA断片に切断しているが、pV3TA-LTR-tatより産生されたリボザイムは、tatRNAとLTRRNAをそれぞれ同じパターンで切断している。
【0062】これらのことからをまとめると、2個の5'端 処理用リボザイムと2個の3'端処理用リボザイムは分子内で設計通りに切断反応を起こし、2種のリボザイムすなわちLTR用リボザイム、tat用リボザイムが産生された。また、産生された両リボザイムは余分な塩基配列を含まず、さらに、それぞれの標的RNAを設計通りに切断した。両端にシスに作用するリボザイムを有するRNAをコードするDNAをつなげていくことで、複数種のリボザイムのようなRNAを一度に産生することが可能である。
C)組み換えプラスミドpV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型を鋳型として用いたin vitro転写切断反応組み換えプラスミドpV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型を鋳型として用い、これにより転写されるリボザイムによるHIV-1tatRNAの切断を、転写反応と切断反応を同時に行う転写切断反応を用いて検討した。
【0063】反応は、以下の条件で行った。すなわち、40mM Tris-HCl(pH8.0),20mM MgCl2,2mM スペルミジン,1mM ジチオスレイトール,1mM NTP,2 units/μl ヒト胎盤リボヌクレアーゼインヒビター,20nM tat RNA(32Pで放射ラベルしたもの),2nM 鋳型プラスミドの混合物を37℃で保温し、各時間ごとに採取した。
【0064】採取した反応物を7M尿素を含む5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により解析した結果を図23に示す。(A)はpV3TA-(tat)1、(B)はpV3TA-(tat)2、(C)はpV3TA-(tat)3、(D)はpV3TA-(tat)4、(E)はpV3TA-(tat)5、(F)はpV3TA-(tat)10を鋳型として用いたもので、反応時間は0,1,3,6,12時間で行った。これより明らかなように、切断効率は鋳型のn数に比例して増加していた。また、切断効率を直列連結型リボザイム発現プラスミドを鋳型として用いた場合と比較したのが図24である。これは、反応開始6時間後の添加したtat RNAの切断された割合を示したものである。
【0065】n数が3個までは両方ともにほぼ同じ切断効率を示したが、直列連結型ではそれ以上のn数においては飽和状態に達したのに対して、pV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型では直線的に増加していた。以上のことにより、pV3TA-(tat)n(n-1〜5,10)型を用いた場合のほうが、単にリボザイムを直列に連結したものに比べて、切断効率の点で有利であることが示された。
【0066】
【発明の効果】本発明のリボザイムRNAをコードするDNA断片を含むベクターは、環状のままでも制限酵素を用いることなく5'末端及び3'末端側において余分な塩基配列が付加されていないRNA転写物を製造することが可能なものであり、従来のように制限酵素を用いる場合に比べて簡便な操作でRNA転写物の製造を行うことができるほか、試験管内のみでなく、生体内においても該組み換えベクターを保持増殖せしめながら、RNA転写物の産生を図ることができる。特に、3'末端にターミネーターを付加することにより、本発明のベクターは、それらを含まないリボザイムRNAをコードするDNA断片を含むベクターに比して転写効率が飛躍的に高めることが可能になる。
【0067】また、本発明のリボザイムRNAをコードするDNA断片を複数個連結させたものを含むベクターは、5'末端及び3'末端側において余分な塩基配列が付加されていない複数種のRNA転写物を一度に製造することが可能なものであり、また、同一のRNA転写物の生産性を向上させることが可能となる。この場合も、試験管内のみでなく、生体内においても該組み換えベクターを保持増殖せしめながら、RNA転写物の産生を図ることができる。
【0068】これらのことは、例えば、余分な塩基配列を付加されていないリボザイムRNAあるいはアンチセンスRNAを生体内で一度に多種製造することが可能であることを意味し、特にこれらを塩基配列が変化しやすい、例えば前述のHIV-1に効果的に作用させることが可能となる。さらに、一度に多種のRNAに、リボザイムRNAあるいはアンチセンスRNAを作用させることも可能となる。
【0069】本発明のベクターは、医薬、動物薬、農薬或いは試薬等、又はそれらの製造に有効に利用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ハセロフ(J.Haseloff)等が示した短鎖人工リボザイムの構造を示す図である。
【図2】 従来の転写手段であるラン・オフ法を示す模式図である。
【図3】 組み換えプラスミドpGENE 8459v3の構造を示す図である。
【図4】 SFL1用リボザイムの塩基配列とその5'端および3'端におけるステム構造、さらにSFL1mRNAとの複合体を示す図である。
【図5】 組み換えプラスミドpV3TA-LTR-tatの構造を示す図である。
【図6】 組み換えプラスミドpV3TA-LTR-tatの構造を示す図である。
【図7】 組み換えプラスミドpV3TA-LTRの構造を示す図である。
【図8】 組み換えプラスミドpV3TA-tatの構造を示す図である。
【図9】 組み換えプラスミドpV3TA-LTR、pV3TA-tatの構築に用いた合成リンカ−の塩基配列を示す図である。
【図10】 組み換えプラスミドpV3TA-LTR-tatの構築に用いたPCR反応用の合成オリゴヌクレオチドプライマーの塩基配列を示す。
【図11】 組み換えプラスミドpV3TA-tat-term1の構造を示す図である。
【図12】 組み換えプラスミドpV3TA-tat-term2の構造を示す図である。
【図13】 pV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型プラスミドの概念図である。
【図14】 環状および線状のpGENE 8459v3を鋳型として転写して得られた各種転写産物の電気泳動図である。
【図15】 pV3TA-LTR-tatを鋳型として転写して得られた各種転写産物の電気泳動図である。
【図16】 LTR用及びtat用リボザイムの塩基配列とそのtRNA構造およびポリAテイル構造を示す図である。
【図17】 pV3TA-tat, pV3TA-tat-term1及び pV3TA-tat-term2を鋳型として転写して得られたそれぞれの転写産物の電気泳動図である。
【図18】 pV3TA-tat, pV3TA-tat-term1及び pV3TA-tat-term2を鋳型として転写して得られた転写産物-tatリボザイムRNAの、pV3TA-tat で転写された生産物を1とした場合の転写効率の反応時間に対する変化を示した図である。
【図19】 pV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型プラスミドをそれぞれ等量鋳型に用い、転写反応させたものの電気泳動図である。
【図20】 pV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型プラスミドをそれぞれ鋳型として転写して得られた転写産物-tatリボザイムRNAの、pV3TA-tat で転写された生産物を1とした場合の転写効率の反応時間に対する変化を示した図である。
【図21】 SFL1用リボザイムによるSFL1-mRNAの切断を示す電気泳動図である。
【図22】 LTR用リボザイム及びtat用リボザイムによるLTRRNAおよびtatRNAの切断を示す電気泳動図である。
【図23】 プラスミドpV3TA-(tat)n(n-1〜5,10) 型を鋳型として用いたin vitro転写切断反応の結果物の電気泳動図である。
【図24】 切断効率を連結するリボザイムの単位数との関連において検討を行った図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 DNA配列の5'末端と3'末端とに各々、セルフプロセッシングにより当該5'末端と3'末端を各々切断するリボザイムを有するRNAを1単位として、当該RNA単位を1個又は2個以上連結したRNAをコードするDNA配列を含むベクター。
【請求項2】 請求項1に記載したRNA単位を、1乃至10単位連結したRNAをコードするDNA配列を含むベクター。
【請求項3】 請求項1に記載したRNA単位をn個(nは1以上の整数)連結したRNAをコードするDNA配列を含むベクターにおいて、5'末端側から1番目の上記RNA単位の5'末端の近傍にプロモーターが付加されており、かつ当該プロモーターに対応するターミネーターが、5'末端側からn番目の上記RNA単位の3'末端の近傍に付加されていることを特徴とする、RNAをコードするDNA配列を含むベクター。
【請求項4】 請求項1乃至請求項3に記載されたベクターを鋳型として、当該ベクターDNAをRNAに転写することを特徴とする、5'末端側と3'末端側がセルフプロセッシングされたRNA転写物の製造方法。
【請求項5】 請求項1乃至請求項3に記載されたベクターにより形質転換された、微生物、又は動物細胞若しくは植物細胞。

【図1】
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【図2】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図20】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図21】
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【図24】
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【図16】
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【図19】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開平6−125778
【公開日】平成6年(1994)5月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−107097
【出願日】平成5年(1993)5月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1993年4月1日 財団法人バイオインダストリー協会発行の「バイオサイエンスとインダストリーVol.51 No.4」に発表
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔 (外3名)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【上記2名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔 (外2名)