説明

リポソーム、並びに診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物

【課題】中性付近の生理的条件下における分散安定性に優れ、診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物として利用可能なリポソーム、並びに該リポソームを用いた診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物の提供。
【解決手段】内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームであって、前記気体の含有容量(μL)(A)と、前記金属酸化物微粒子の質量(mg)(B)との比(B/A)が、0.01〜5であるリポソームである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソーム、並びに該リポソームを用いた診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒として知られている酸化チタンを利用して、環境ホルモンなどの有害化学物質の分解処理、有害微生物の殺菌・抗菌処理、更にがん治療の検討が進められている。これは、酸化チタンに、380nm以下の紫外光を照射することにより、又は、超音波を照射することにより、生成するヒドロキシラジカルや一重項酸素などの活性酸素種の酸化力を利用するものである。特に超音波照射法は、紫外光照射法と比較して水相中の浸透(作用)距離が大きい、正常細胞への影響が小さいなどの特長を有しており、さまざまな分野への適用が期待されている(例えば、非特許文献1、及び特許文献1〜3参照)。更に、酸化チタン以外に、酸化スズや酸化亜鉛などの半導体粒子でも効果があることが報告されている(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
また、超音波を利用したがんなどの治療には、生体組織の超音波吸収による加熱作用を用いたものや、超音波振動による機械作用を用いたもの、超音波が引き起こすキャビテーション効果を利用して生体に投与した物質に化学反応を起こさせる音響化学療法などがあり、がん細胞に超音波を照射すると、アポトーシスを誘導してがん細胞の増殖を抑制するという報告がされている(例えば、非特許文献2〜3、特許文献5参照)。
【0004】
無機微粒子を医療材料として生体において適用する場合、中性付近の生理的条件下における分散安定性が不十分なため、粒子が凝集を生じ、血液中での流動性を確保することが困難であるという問題がある。そのため、無機微粒子分散液を注射液として直接血管内に投与するという行為は不可能であるのが現状である。
【0005】
一方、細胞内への粒子取込み方法としてリポソームを利用する試みがなされている。リポソームとは、生体膜の構成成分であるリン脂質により形成される、生体適合性に優れた小胞であり、その小胞内に様々な薬物を封入できることから、薬剤のキャリアーとして広く利用されている。更に、リポソームの荷電、粒子径、脂質成分を変えたり、リポソーム表面に抗原、抗体、糖などの特異的リガンドを結合させたりすることで、細胞あるいは組織に対して特異性を持たせることが出来ることから、ターゲティング可能な薬剤キャリアーとして注目を集め、抗ガン剤をはじめとした副作用が強い化学療法剤の運び屋として臨床応用されている(例えば、特許文献6〜8参照)。
しかしながら、リポソームに微粒子を封入することにより、超音波を照射した際の治療効果が小さくなることが予想される。
【0006】
また、近年、リポソームに不活性ガスであるペルフルブタンを内包したものが超音波造影剤(製品名:ソナゾイド、第一三共(株)製)として上市されたが、治療目的としては認可されていないのが現状である。
【0007】
また、リポソームに温度により活性化される気体プレカーサーを含有させ、超音波照射による温度上昇を利用して画像診断や温熱療法を行うことが提案されている(例えば、特許文献9参照)。
この方法は簡便ではあるが、急激な加熱により組織全体に損傷を与える危険性があるという問題がある。
【0008】
したがって、中性付近の生理的条件下における分散安定性に優れ、診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物として利用可能なリポソームの速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−195653号公報
【特許文献2】特開2006−150345号公報
【特許文献3】特許第4169078号公報
【特許文献4】特許第4103929号公報
【特許文献5】特開平11−92360号公報
【特許文献6】特開平5−58879号公報
【特許文献7】特開2000−319165号公報
【特許文献8】特開2006−273740号公報
【特許文献9】米国特許7,078,015号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R.Cai, Y.Kubota, T.Shuin, et al., Cancer Res. 52 (1992) 2346−2348.
【非特許文献2】Q.Liu, X.Wang, P.Wang, et al., Ultrasonics 2006; 45, 56−60
【非特許文献3】H.Honda, Q.L.Zhao, T.Kondo, Ultrasound in Med. & Biol. 28 (2002) 673−682.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、中性付近の生理的条件下における分散安定性に優れ、診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物として利用可能なリポソーム、並びに該リポソームを用いた診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームであって、前記気体の含有容量(μL)(A)と、前記金属酸化物微粒子の質量(mg)(B)との比(B/A)が0.01〜5であることにより、中性付近の生理的条件下における分散安定性に優れ、診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物として利用可能であるという知見である。
【0013】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームであって、
前記気体の含有容量(μL)(A)と、前記金属酸化物微粒子の質量(mg)(B)との比(B/A)が、0.01〜5であることを特徴とするリポソームである。
<2> 体積平均分散粒径が、20nm〜20μmである前記<1>に記載のリポソームである。
<3> 気体が、酸素、窒素、二酸化炭素、キセノン、クリプトン、アルゴン、ハイドロフルオロカーボン類、及びパーフルオロカーボン類から選択される少なくとも1種である前記<1>から<2>のいずれかに記載のリポソームである。
<4> 金属酸化物微粒子の体積平均粒子径が、1nm〜50nmである前記<1>から<3>のいずれかに記載のリポソームである。
<5> 金属酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化スズ、及び酸化ジルコニウムから選択される少なくとも1種である前記<1>から<4>のいずれかに記載のリポソームである。
<6> 更に、特定の組織を特異的に認識するレセプターを結合乃至含有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のリポソームである。
<7> 超音波感受性である前記<1>から<6>のいずれかに記載のリポソームである。
<8> 医療用である前記<1>から<7>のいずれかに記載のリポソームである。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のリポソームを含有することを特徴とする診断用造影剤である。
<10> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のリポソームを含有することを特徴とする治療促進剤である。
<11> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のリポソームを含有することを特徴とする医薬組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、中性付近の生理的条件下における分散安定性に優れ、診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物として利用可能なリポソーム、並びに該リポソームを用いた診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である、内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を吸着したリポソームの模式図である。
【図2】図2は、本発明の他の一実施形態である、内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包したリポソームの模式図である。
【図3A】図3Aは、本発明のリポソームにおけるリポソーム、金属酸化物微粒子、及び気体の位置関係の一例を示す模式図である。
【図3B】図3Bは、本発明のリポソームにおけるリポソーム、金属酸化物微粒子、及び気体の位置関係の一例を示す模式図である。
【図3C】図3Cは、本発明のリポソームにおけるリポソーム、金属酸化物微粒子、及び気体の位置関係の一例を示す模式図である。
【図3D】図3Dは、本発明のリポソームにおけるリポソーム、金属酸化物微粒子、及び気体の位置関係の一例を示す模式図である。
【図3E】図3Eは、本発明のリポソームにおけるリポソーム、金属酸化物微粒子、及び気体の位置関係の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(リポソーム)
本発明のリポソームは、少なくとも内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させてなり、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0017】
前記リポソームの形態について、図1〜図3Eを参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である、内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を吸着したリポソームの模式図である。図1では、リポソームの中央部の空間に気体が保持され、カチオン性の親水部に金属酸化物微粒子が吸着している。更に、リポソームにはレセプターが結合している。
図2は、本発明の他の一実施形態である、内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包したリポソームの模式図である。図2では、リポソームの中央部の空間に気体が保持され、金属酸化物微粒子が内包されている。更に、リポソームにはレセプターが結合している。
図3A〜図3Eは、本発明のリポソームにおけるリポソーム、金属酸化物微粒子、及び気体の位置関係の一例を示す模式図である。図3Aでは、リポソームの中央部に、脂質で被覆されたガス(気体)、金属酸化物微粒子が保持され、前記中央部の残部は水溶液で満たされている。図3B〜図3Dでは、リポソームの中央部の空間に気体が保持され、金属酸化物微粒子が内包されている。図3Eでは、リポソームの中央部の空間に気体が保持され、金属酸化物微粒子が、内包及び吸着されている。
前記気体は、脂質で被覆されていてもよい。また、前記気体は、リポソームの疎水部に存在していてもよい。
前記金属酸化物微粒子は、リポソームの中央部の空間に内包されていてもよい。また、前記金属酸化物微粒子の大きさは、それぞれ異なっていてもよい。
なお、本発明のリポソームは、単層膜であってもよいし、2層以上の多層膜であってもよい。また、気体(ガス)を被覆する脂質は、リポソーム本体の脂質と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
本発明のリポソームでは、内部に気体を含有したリポソームと、金属酸化物微粒子とが超音波の照射により相互作用を及ぼす距離に位置している。
前記相互作用とは、例えば、超音波吸収により気体がキャビテーション効果を発揮する領域と、金属酸化物微粒子が発生させる活性酸素の存在領域が重なり、相乗効果を及ぼすことをいう。
【0018】
<比(B/A)>
本発明の内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームは、生体内での中性な生理的条件下において安定に分散することが必要である。気体を含有したのみのリポソームでは、血液などの体液中で浮きやすく、また、金属酸化物微粒子のみでは、血液などの体液中で沈降気味であり、癌細胞などの患部にうまく到達するには、浮力と重力のバランスをとることが必要である。
そのために、前記リポソームにおける気体の含有容量(μL)(A)と、金属酸化物微粒子の質量(mg)(B)との比(B/A)としては、気体、及び金属酸化物の密度などに依存するが、0.01〜5であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05〜3が好ましく、0.5〜2がより好ましい。前記比(B/A)が、0.01未満であると、気体と金属酸化物微粒子とを併用したことによるがん細胞などの殺傷効果が低下することがあり、5を超えると、リポソームの安定性が悪く、生理的条件下で分離、沈降しやすいことがある。一方、前記比(B/A)が前記より好ましい範囲内であると、血液などの体液中で安定に存在することに加えて、癌細胞などの殺傷効果が著しく高まる点で、有利である。また、血液中で安定であることは、血流に運搬されやすく、がんにリポソームが到達しやすくなるので、抗がん作用が増す。また、造影効果が増すため、診断もしやすくなる。
また、リポソームにおける前記気体の含有量が多いほど、前記金属酸化物の量も多い方が望ましい。
なお、ここでいう生理的条件下とは、25℃、1気圧でpH7.2〜7.4のリン酸緩衝食塩水(組成:137mM−NaCl、9.0mM−NaHPO、2.9mM−NaHPO)中のことをいう。
前記気体と、前記金属酸化物微粒子とを併用することにより、それぞれ単独で使用した場合と比べて、診断や治療で効果が大きくなる理由は明らかではないが、リポソームという閉じた空間の中で、例えば、超音波を照射することにより、気体からの浮力を受けて金属酸化物微粒子がより激しく運動することに起因するのではないかと推測する。また、金属酸化物とリポソームの密度差がバブル(気体)の固有共振周波数を変化させる効果があると推定され、リポソームのみや気体含有のバブルリポソームと比較して、画像のコントラストが大きくなり超音波診断がより有用となる。更に、金属酸化物微粒子が超音波照射によりリポソームを物理的に破壊し、気体が直接患部の細胞に作用することで何らかの効果を引き出しているのかもしれない。
リポソームと金属酸化物微粒子と気体との位置関係としては、例えば、図3A〜図3Eに示した。前記金属酸化物微粒子を大サイズ(例えば、約20nm)と小サイズ(例えば、約5nm)の2種類を用意して、大サイズの金属酸化物微粒子はリポソームに吸着させ、小サイズの金属酸化物微粒子はリポソームに内包させる態様も好ましい。上記のような技術で超音波感受性を高めることができる。
【0019】
<体積平均分散粒径>
本発明の内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームの体積平均分散粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20nm〜20μmが好ましく、50nm〜10μmが特に好ましい。前記体積平均分散粒径が、20nm未満であると、リポソームそのものの合成が困難であることに加え、気体や金属酸化物微粒子を安定に内包させることが困難であり、20μmを超えると、毛細血管や血流が遅い部位での血管の閉塞、血行障害につながり、また、癌細胞などの患部にもうまく到達できないことがある。一方、前記体積平均分散粒径が前記好ましい範囲内であると、血流などの水溶液中で十分な分散安定性、及び流動性を確保することができ、診断、及び治療の医療用に用いることができる点で、有利である。
また、前記リポソームを診断用造影剤として用いる場合のリポソームの体積平均分散粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100nm〜20μmが好ましく、1μm〜10μmが特に好ましい。前記特に好ましい範囲内であると、画像にコントラストが着き易い点で、有利である。
また、前記リポソームを治療促進剤として用いる場合のリポソームの体積平均分散粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば癌治療の場合には、50nm〜500nmが好ましく、60nm〜300nmが特に好ましい。前記特に好ましい範囲内であると、EPR効果(Enhanced permeation and retention effect)によりがん組織に優先的に集積することが可能となり、がんの治療促進に有効である。
前記リポソームの体積平均分散粒径は、動的光散乱法による測定で求めることができ、例えば、マイクロトラック UPA−UT151粒度分布測定装置(日機装(株)製)により測定することができる。
【0020】
<超音波感受性>
前記リポソームは、超音波感受性であることが、癌などの治療効果や診断効果を発揮できる点で、好ましい。
前記超音波感受性であるとは、超音波照射により、リポソームが加熱されたり、機械的振動を受けたり、キャビテーション効果などを発現することをいう。
前記気体と金属酸化物微粒子とが共存するリポソームに超音波照射すると、例えば、歯科治療領域の殺菌効果やがん細胞などの殺傷効果が著しく向上する。
【0021】
<気体>
前記気体としては、リポソーム内部に保持されるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、生理的条件下において気体状態で存在するものが好ましい。
なお、ここでいう生理的条件下とは、上述と同様である。
前記好ましい気体としては、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、キセノン、クリプトン、アルゴン、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、キセノン、クリプトン、アルゴン、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類が、水に不溶で、分子サイズ、及び密度が大きいため、リポソーム内に安定に保持され、かつ高感度で診断でき、さらに高い治療効果が得られる点で、有利である。
前記ハイドロフルオロカーボン類としては、例えば、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンなどが挙げられる。
前記パーフルオロカーボン類としては、例えば、超音波造影剤として公知である、パーフルオロエタン、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロペンタン、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。
【0022】
前記気体のリポソームにおける含有容量としては、特に制限はなく、空孔の容積以下で適宜選択することができるが、容積に対し、10%〜100%が好ましく、20%〜95%がより好ましく、25%〜90%が特に好ましい。前記気体のリポソームにおける含有容量が、10%未満であると、診断および治療効果が小さく、100%を超えると、リポソームが不安定になる。一方、前記気体のリポソームにおける含有容量が前記特に好ましい範囲内であると、診断の感度が上がり、また、大きな治療促進効果が得られる点で、有利である。
前記気体のリポソームにおける含有容量は、例えば、気体の含有量をガスクロマトグラフ分析などで求め、光学顕微鏡や電子顕微鏡などで測定されるリポソームのサイズと比較することにより推定することができる。
【0023】
また、本発明のリポソームを含有する分散液中の気体の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1mL当り0.1μL〜100μLが好ましい。前記リポソームを含有する分散液中の気体の含有量が、0.1μL未満であると、診断及び治療促進の効果がなく、また、金属酸化物入りのリポソームが保管容器内で沈殿し均一な薬物濃度の投与ができず重大な事故につながることがある。100μLを超えると、分散液が不安定でリポソームが容器内で浮いてしまい均一な薬物濃度の投与ができず重大な事故につながることがある。一方、前記リポソームを含有する分散液中の気体の含有量が、前記好ましい範囲内であると、リポソームは安定で、診断の感度が上がり、また、大きな治療促進効果が得られる点で、有利である。
【0024】
前記気体は、脂質で被覆されていてもよい。
また、前記気体は、リポソームの疎水部に存在していてもよい。
【0025】
<金属酸化物微粒子>
前記金属酸化物微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、生体内において毒性が低いものが好ましい。本発明のリポソームは、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着しているので、超音波を照射したときに生じる種々の作用機構が利用できる。
前記好ましい金属酸化物微粒子としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化鉄(マグネタイト、Feなど)、フェライト(亜鉛フェライト、マグネシウムフェライト、バリウムフェライト、マンガンフェライト等)、酸化ジルコニウム(ZrO)、WO、MoO、Al、Y、Laなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化ジルコニウムが好ましい。また、アナターゼ型若しくはルチル型の酸化チタンは、活性酸素生成能が大きく、がん細胞の殺傷効果に優れている点で、より好ましい。また、酸化亜鉛、及び酸化鉄は、生体での必須元素を含有する点で、より好ましい。
【0026】
前記金属酸化物微粒子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、球状、立方体状、楕円形状が好ましい。
前記金属酸化物微粒子の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、気相法、液相法、その他公知のナノ粒子形成法が挙げられる。これらの中でも、液相法が量産性に優れる点で、好ましい。
前記液相法で用いられる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機溶剤、水、有機溶剤と水の混合液などが挙げられる。これらの中でも、水、親水性溶媒が好ましい。
【0027】
前記金属酸化物微粒子の体積平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜50nmが好ましく、2nm〜20nmがより好ましい。前記金属酸化物微粒子の平均粒子径が1nm未満であると、粒子そのものが不安定となることがあり、50nmを超えると、沈降しやすくリポソーム内に入りにくいことがある。一方、前記金属酸化物微粒子の体積平均粒子径が前記より好ましい範囲内であると、治療促進効果が大きい点で、有利である。
前記体積平均粒径の判断には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。
前記体積平均粒径とは、金属酸化物微粒子の電子顕微鏡写真画像を同面積の円とした時の直径を意味する。
【0028】
通常金属酸化物微粒子は、等電点付近では凝集しやすく、リポソームへの導入が困難であるため、分散液のpHを調整して粒子表面のゼータ電位を正又は負側にずらして安定化させて導入する。また、金属酸化物微粒子の表面に界面活性剤などを吸着させることにより親水化処理してリポソームに導入してもよい。
【0029】
リポソームの全脂質の質量に対する前記金属酸化物微粒子の添加量としては、特に制限はなく、使用目的や金属酸化物種に応じて適宜選択することができるが、質量比{(金属酸化物微粒子/リポソームの全脂質)×100}で0.1%〜50,000%が好ましく、1%〜10,000%がより好ましい。前記添加量が、0.1%未満であると、前記気体と前記金属酸化物微粒子との併用効果が得られないことがあり、50,000%を超えると、リポソームの安定性が悪く、生理的条件下で沈降しやすいことがある。一方、前記添加量が前記より好ましい範囲内であると、生理的条件下で安定で、かつ、十分な治療促進効果が得られる点で、有利である。
【0030】
前記金属酸化物微粒子は、リポソームに内包されていてもよいし、吸着されていてもよいし、内包及び吸着されていてもよい。
特に、治療促進剤や医薬組成物としてリポソームを用いる場合において、例えば、発生するヒドロキシラジカルや一重項酸素を利用する場合には、発生するヒドロキシラジカルや一重項酸素がリポソームの壁面で遮蔽されるので、リポソームの外側に金属酸化物微粒子を吸着させる態様が、超音波照射によりこれらの活性酸素が患部に直接作用しやすいことで治療促進効果が出やすい点で、好ましい。
また、例えば、キャビテーション効果や機械的作用を期待する場合には、前記金属酸化物微粒子は、リポソームに内包されている態様が、ソノポレーションによりリポソームの開孔が期待でき、治療促進効果も出やすい点で、好ましい。
【0031】
<リポソーム>
本発明の内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させるリポソームに用いるリポソームとは、中性脂質、及び、負荷電脂質及び/又は正荷電化合物を含有する閉鎖小胞である。前記脂質には、更に非イオン性水溶性高分子やタンパク質が結合していてもよい。
【0032】
前記中性脂質とは、生理的pH、即ち約pH6.5〜7.5の水性媒体中において等しい正電荷数と負電荷数を有する脂質を意味する。
前記中性脂質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのホスファチド酸誘導体;ジガラクトシルグリセリド、ガラクトシルグリセリドなどの糖脂質;スフィンゴミエリンなどのスフィンゴシン誘導体;コレステロール、エルゴステロール、ラノステロールなどのステロール類;が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ホスファチド酸誘導体、糖脂質、ステロール類が好ましく、ホスファチド酸誘導体、ステロール類がより好ましく、ホスファチド酸誘導体が更に好ましい。
前記ホスファチド酸誘導体の中でも、ジ(炭素数10〜22のアルカノイル又はアルケノイル)ホスファチジルコリン誘導体が好ましく、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイル−sn−グリセロ−ホスファチジルコリンが特に好ましい。
前記「炭素数10〜22のアルカノイル又はアルケノイル」基としては、例えば、デシリル、ウンデシリル、ドデシル、トリデシリル、テトラデシリル、ペンタデシリル、ヘキサデシリル、へプタデシリル、オクタデシリル、ノナデシリル、イコシル、へニコシル、ドコシル、デセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニル、イコセニル、ドコセニル基などが挙げられる。
前記「ジ(炭素数10〜22のアルカノイルまたはアルケノイル)」とは、ホスファチジルコリンの2つの水酸基に、それぞれ炭素数10〜22のアルキル基及び/又はアルケニル基を有するカルボン酸がエステル結合していることを意味する。
コレステロールなどのステロール類は、それ自体リポソームの構成成分として使用されるが、他の中性脂質に加えて必要に応じて使用することができる。
【0033】
前記負荷電脂質とは、生理的pHの水性媒体中において正荷電より多くの負荷電を有する脂質を意味する。
前記負荷電脂質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水素添加卵黄ホスファチジルセリンナトリウム;ジパルミトイルホスファチジルグリセロールなどのホスファチジルグリセロール類;ジパルミトイルホスファチジルセリンなどのホスファチジルセリン類;ジパルミトイルホスファチジルイノシトールなどのホスファチジルイノシトール類が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ホスファチジルグリセロール類が好ましく、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールが特に好ましい。
【0034】
前記正荷電化合物とは、生理的pHの水性媒体中において負荷電より多くの正荷電を有する化合物を意味する。
前記正荷電化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正荷電脂質、カチオン性界面活性剤、カチオン性水溶性高分子が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記正荷電脂質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミンのような鎖状炭化水素系アミン類;3−β−[N−(N’、N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロールのようなコレステロールのアミン誘導体;N−α−トリメチルアンモニオアセチルジドデシル−D−グルタメートクロライドのようなN−α−トリメチルアンモニオアセチルジ(炭素数10〜20のアルキル又はアルケニル)−D−グルタメートクロライド類;N−[1−(2、3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N、N、N−トリメチルアンモニウムクロライドのようなN−[1−(2、3−ジ(炭素数10〜20のアルキル又はアルケニル)オキシ)プロピル]−N、N、N−トリメチルアンモニウムクロライド類などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、ペンチル、へキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、ヘキサコシル、オクタコシル、トリアコンタシル基などが挙げられる。これらのアルキル基の中でも、炭素数5〜30のアルキル基が好ましく、炭素数10〜20のアルキル基がより好ましい。
前記「炭素数10〜20のアルキル又はアルケニル」基としては、例えば、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシリル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、デセニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、トリデシニル基などが挙げられる。
これらの正荷電脂質の中でも、アルキルアミン、N−α−トリメチルアンモニオアセチルジ(炭素数10〜20のアルキル又はアルケニル)−D−グルタメートクロライドが好ましく、N−α−トリメチルアンモニオアセチルジドデシル−D−グルタメートクロライドがより好ましい。
【0036】
前記カチオン性界面活性剤としては、特に制限はなく、公知のカチオン性界面活性剤を適宜選択することができ、例えば、M.J.Rosen(著)、坪根および坂本(監訳)「界面活性剤と界面現象」、pp.16−20、フレグランスジャーナル社(1995)に記載のカチオン性界面活性剤を挙げることができる。前記カチオン性界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記カチオン性界面活性剤の中でも、長鎖アルキルアミン又はその塩、長鎖アルキル又は長鎖アラルキル第4級アンモニウム塩、ポリオキシエチレン付加長鎖アルキルアミン又はその塩、ポリオキシエチレン付加長鎖アルキル第4級アンモニウム塩、長鎖アルキルアミンオキシドが好ましく、長鎖アルキルアミン又はその塩、長鎖アルキル又は長鎖アルケニル第4級アンモニウム塩、ポリオキシエチレン付加長鎖アルキルアミン又はその塩がより好ましく、長鎖アルキルアミン又はその塩が特に好ましい。
これらのカチオン性界面活性剤は高濃度においてリポソームを崩壊させるが、少量であればリポソームに包含され構成成分とすることができる(Urbanejaら、Biochem.J,270、305−308(1990)参照)。従って、リポソームの形成を阻害しない量のカチオン性界面活性剤を配合するか、又は形成されたリポソームを崩壊させない量のカチオン性界面活性剤を配合するか、あらかじめ製造されたリポソームの分散液中にカチオン性界面活性剤を添加しリポソーム表面に吸着させることによって、該リポソームの構成成分のひとつとし、高分子修飾リポソームの負の帯電状態を小さくすることができ、生体の毒性が軽減されるので好ましい。
【0037】
前記カチオン性水溶性高分子としては、特に制限はなく、公知のカチオン性水溶性高分子を適宜選択することができ、例えば、G.Allenら(編)、「Comprehensive polymer science」vol.6、PergamonPress(1989)に記載のカチオン性水溶性高分子を挙げることができる。前記カチオン性水溶性高分子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記カチオン性水溶性高分子の中でも、カチオン性水溶性ビニル系合成高分子、カチオン性水溶性ポリアミノ酸、カチオン性水溶性合成ポリペプチド、カチオン性水溶性天然高分子、カチオン性水溶性改変天然高分子が好ましく、カチオン性水溶性ビニル系合成高分子、カチオン性水溶性ポリアミノ酸、カチオン性水溶性合成ポリペプチドがより好ましく、カチオン性水溶性ビニル系合成高分子が特に好ましい。
これらカチオン性水溶性高分子の吸着は、低分子化合物の吸着とは異なり、高分子の固体表面への吸着は安定であり不可逆である(G.Allenら(編)、「Comprehensive polymer science」vol.2、pp.733−754、Pergamon Press(1989)参照)。従って、カチオン性水溶性高分子は負に帯電したリポソームに吸着することによって該リポソームの負の帯電状態を小さくすることができ、生体の毒性が軽減されるので好ましい。
【0038】
本発明において、前記各脂質には非イオン性水溶性高分子を結合させてもよい。
前記非イオン性水溶性高分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレングリコールなどの非イオン性ポリエーテル、モノメトキシポリエチレングリコール、モノエトキシポリエチレングリコールなどの非イオン性モノアルコキシポリエーテル、非イオン性ポリアミノ酸、非イオン性合成ポリペプチドなどが好ましい。
前記非イオン性水溶性高分子の重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000〜12,000が好ましく、1,000〜5,000がより好ましい。
【0039】
前記リポソーム(気体を含有する前のリポソーム)の直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記直径は、そのサイズ調節法の種類により異なるが、体積平均粒子径として10nm〜500nmが好ましく、20nm〜200nmがより好ましく、20nm〜100nmが特に好ましい。
ここで、前記体積平均粒子径とは、複数の粒子の平均体積から算定される粒子径の平均値を意味し、粒子径測定機を使用して当業者周知の方法(例えば、R.R.C.New、「Liposomes:a practical approach」、pp.154−160、IRL Press(1989))によって算定することができる。
【0040】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レセプターが挙げられる。
【0041】
−レセプター−
本発明のリポソームは、更に、特定の組織を特異的に認識するレセプターを結合乃至含有することが、超音波による腫瘍の診断又は治療に有益であり、キラー細胞誘導効果をもたらす可能性がある点で、好ましい。
前記レセプターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、腫瘍などの異常細胞への集積特異性を有する種々のレセプターが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記レセプターの具体例としては、種々のモノクロナール抗体、種々の蛋白質、ペプチド、ステロイド、免疫関連剤(免疫細胞賦活、活性化材料)などが挙げられる。
【0042】
前記レセプターは、前述の脂質、水溶性高分子若しくは界面活性剤の末端のアミノ基、ヒドロキシル基又はカルボキシル基を介してリポソームに結合乃至含有される。
前記レセプターは、リポソームの表面全体を被覆していてもよいし、その一部を被覆していてもよい。
【0043】
<製造方法>
本発明の内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
以下に前記製造方法の一実施形態を示す。
(1) 平均粒子径が1nm〜50nmの金属酸化物微粒子分散液を調製する。
(2) 2種以上の脂質の組み合わせによりリポソーム粒子を作製する。これによりリポソーム膜の柔らかさを変えたり(相転移点の差の利用)、二次元的に膜面内に柔らかさの異なる島状形態を形成する(相分離現象の利用)。これらの性質は、外部からの電磁気的刺激、音波的刺激により、温度変化を与えることによりコントロールできる。
(3) 脂質の他に必要により荷電調整剤やタンパク質、非イオン性水溶性高分子などを組み合わせたリポソーム粒子を作製する。これによりリポソーム膜の表面電荷や分子透過性を制御すると同時に付着性や凝集性をなくし分散安定性を向上させることができる。
(4) 種々のイオンによる静電気的引力やタンパク質による接着力を利用して、金属酸化物微粒子とリポソーム粒子との粒子間接合を促進して金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームを作製する。
(5) 気体を充満した容器に前記金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームを入れ、加圧状態で超音波を照射することによりリポソーム内に気体を内包させる。
以上により、本発明のリポソームを作製することができる。
【0044】
前記本発明のリポソームは、医療用として、好適に用いることができる。
例えば、酸化鉄などの超常磁性微粒子の場合には、超音波診断のみならず、MRI診断にも用いることができる。
【0045】
また、例えば、本発明のリポソームは、超音波照射により惹起される機械的作用や一重項酸素、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素の発生を利用して、がんを含む各種疾患の治療に使用することができる。
前記照射する超音波の周波数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、約20KHz〜20MHzが好ましく、約600KHz〜3MHzが特に好ましい。
前記照射の出力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、約0.1W/cm〜100W/cmが好ましく、約0.5W/cm〜10W/cmがより好ましい。
前記超音波のDuty cycleとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、約1%〜100%が好ましく、約10%〜50%がより好ましい。
前記超音波の照射時間としては、特に制限はなく、用いる周波数、照射出力により適宜選択することができるが、約5秒間〜600秒間が好ましく、約30秒間〜300秒間がより好ましい。
【0046】
前記本発明のリポソームは、あらゆる種類のがん、ウイルス感染症、細胞内寄生性感染症、肺線維症、肝硬変、慢性腎炎、動脈硬化、白血病、及び血管狭窄病変などの治療に有効に用いることができる。
前記がんとしては、例えば、肺がん、肝がん、膵がん、胃腸がん、膀胱がん、腎がん、脳腫瘍のような臓器の表層及びその内部に発生するあらゆる固形がんを挙げることができる。これらの中でも、光線力学的治療などが不可能である身体深部のがんの治療に有効に用いることができる。
また、その他の疾病については、その病巣又は感染細胞(罹患細胞)が臓器内部に位置しているので、本発明のリポソームをその部位に適当な方法によって集積させた後、そこに外部より超音波照射することによって治療を行うことができる。
【0047】
(診断用造影剤、治療促進剤、医薬組成物)
<診断用造影剤>
本発明の診断用造影剤は、少なくとも本発明のリポソームを含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0048】
前記診断用造影剤中の本発明のリポソームの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記診断用造影剤は、本発明のリポソームそのものであってもよい。
【0049】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプン、糖類、デキストランなどが挙げられる。前記診断用造影剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、リポソームの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記診断用造影剤は、単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用されてもよい。また、前記診断用造影剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用されてもよい。
【0050】
<治療促進剤>
本発明の治療促進剤は、少なくとも本発明のリポソームを含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
前記治療促進とは、本発明のリポソームのように単独では治療薬としての効果はない乃至非常に弱いが、例えば、超音波や電場や磁場などの物理的エネルギーを加えることにより治療効果を発現すること、または、超音波や電場や磁場などの物理的エネルギーのみでは治療効果はない乃至非常に弱いが本発明のリポソームのような薬剤を併用することにより大きな治療効果が得られることをいう。
【0051】
前記治療促進剤中の本発明のリポソームの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記治療促進剤は、本発明のリポソームそのものであってもよい。
【0052】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプン、糖類、デキストランなどが挙げられる。前記治療促進剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、リポソームの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記治療促進剤は、単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用されてもよい。また、前記治療促進剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用されてもよい。
【0053】
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、少なくとも本発明のリポソームを含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0054】
前記医薬組成物中の本発明のリポソームの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記医薬組成物は、本発明のリポソームそのものであってもよい。
【0055】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプン、糖類、デキストランなどが挙げられる。前記医薬組成物中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、リポソームの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記医薬組成物は、単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用されてもよい。また、前記医薬組成物は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用されてもよい。
【0056】
−剤型−
前記診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、注射剤(静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、皮内など)、分散剤、流動性剤とすることができる。これらの剤型の前記診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物は、常法に従い製造することができる。例えば、注射剤として投与する場合には、本発明のリポソームを、注射剤に一般に用いられる緩衝剤、生理食塩水、保存剤、注射用蒸留水などの各種添加剤と配合して注射剤とすることができる。
【0057】
−投与−
前記診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物の投与方法としては、特に制限はなく、前記剤型などに応じて適宜選択することができる。
前記診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物の投与量としては、特に制限はなく、投与経路、患者の年齢、性別、疾患の種類及び状態など、様々な要因を考慮して適宜選択することができ、例えば、成人1日当たり約0.01mg/kg〜10mg/kgを1回〜数回に分けて投与することができる。
前記診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物の投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられる。
【0058】
本発明のリポソームは、内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたことにより、中性のpH領域における水系溶媒中での分散安定性が極めて良好であり、かつ、超音波などによる高い診断、及び治療効果を有する。更に、超音波診断装置で金属酸化物微粒子の分布を正確に視覚化することができるため、がんなどの病変部を高精度で検出(超音波診断)しながら、治療を同時に行うことが可能であるため、患者のQOL向上に貢献することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全ての本発明の技術的範囲に包含される。
【0060】
(比較例1−1)
水85mLをよく攪拌しながら、この中にチタンテトライソプロポキシド14.2gに酢酸3mLを加えた溶液を添加し、室温で1時間攪拌し加水分解した。その後、硝酸1.3mLを添加して80℃に加熱して6時間攪拌した。室温に冷却後、0.45μmのフィルターでろ過し、さらに限外ろ過により脱塩した。以上により、4質量%、pH3.5のアナターゼ型TiOナノ粒子(体積平均粒子径6nm)分散物を得た。なお、前記体積平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製、JEM−2000FX)を用い、TEM像を観察することにより、測定した。
次いで、日油(株)製コートソーム EL−01−N(L−α−ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)54μmol、コレステロール(CHOL)40μmol、L−α−ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)6μmol含有)に、前記TiOナノ粒子分散物を0.24質量%に純水で希釈した液を2mL添加、振とうして弱負荷電型リポソーム分散液(TiOの含有量は、2.4mg/mL)を調製し、比較例1−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル1A」と称することがある。)とした。
前記サンプル1Aの体積平均分散粒径を、マイクロトラック UPA−UT151粒度分布測定装置(日機装(株)製)を用いて測定したところ、240nmであった。
前記サンプル1Aは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中(生理的条件下)で安定であった。なお、前記安定とは、25℃の生理的条件下に24時間静置した時に、凝集や沈殿を生じない状態をいう。
【0061】
(実施例1−1)
前記比較例1−1で得られたサンプル1Aをバイアル瓶に入れパーフルオロプロパン(PFP)ガスを充満させ、さらにバイアル瓶に対して1.5倍容量のガスを加圧充填した後、20kHz、50Wの超音波を15分照射した。その後、更に800kHz、30Wの超音波を60分照射し、実施例1−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル1B」と称することがある。)を得た。
前記サンプル1Bの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、270nmであった。
また、前記サンプル1B中のパーフルオロプロパンガスの濃度を、ガスクロマトグラフGC−2014型(島津製作所社製)により分析したところ、2.5μL/mLであった。
前記サンプル1Bは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0062】
(比較例1−2)
日油(株)製コートソーム EL−01−Nに純水2mLを添加、振とうして弱負荷電型リポソーム(サンプル1Cとする)分散液を調製し、比較例1−2のリポソーム分散液(以下、「サンプル1C」と称することがある。)とした。
前記サンプル1Cの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、270nmであった。
前記サンプル1Cは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0063】
(比較例1−3)
前記比較例1−2で得られたサンプル1Cをバイアル瓶に入れパーフルオロプロパン(PFP)ガスを充満させ、さらにバイアル瓶に対して1.5倍容量のガスを加圧充填した後、20kHz、50Wの超音波を15分照射した。その後、更に800kHz、30Wの超音波を60分照射し、比較例1−3のリポソーム分散液(以下、「サンプル1D」と称することがある。)を得た。
前記サンプル1Dの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、300nmであった。
また、前記サンプル1D中のパーフルオロプロパンガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、2.6μL/mLであった。
前記サンプル1Dは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0064】
(比較例2−1)
酢酸亜鉛3.7gをメタノール200mLおよび水1.1mLに溶解し、60℃に加熱した。次いで、KOH2.2gをメタノール100mLに溶かした溶液を添加し、1時間還流した後、メタノールを250mL留去した。更に1時間還流した後、室温まで冷却した。その後、エタノールを加えてデカンテーションにより精製した後、沈殿物を水に分散して、質量濃度2.5%、ZnOナノ粒子(体積平均粒子径7nm)分散物を得た。なお、前記平均粒子径は、前記比較例1−1と同様にして、測定した。
次いで、日油(株)製コートソーム EL−01−Nに、前記ZnOナノ粒子分散物を0.30質量%に純水で希釈した液を2mL添加、振とうして弱負荷電型リポソーム分散液(ZnOの含有量は、3.0mg/mL)を調製し、比較例2−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル2A」と称することがある。)とした。
前記サンプル2Aの体積平均分散粒径を、前記比較例1−1と同様にして測定したところ、250nmであった。
前記サンプル2Aは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0065】
(実施例2−1)
前記比較例2−1で得られたサンプル2Aをバイアル瓶に入れパーフルオロプロパン(PFP)ガスを充満させ、さらにバイアル瓶に対して1.5倍容量のガスを加圧充填した後、20kHz、50Wの超音波を15分照射した。その後、更に800kHz、30Wの超音波を60分照射し、実施例2−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル2B」と称することがある。)を得た。
前記サンプル2Bの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、280nmであった。
また、前記サンプル1B中のパーフルオロプロパンガスの濃度を、前記実施例1−1と同様にして分析したところ、2.8μL/mLであった。
前記サンプル2Bは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0066】
(比較例3−1)
塩化鉄(III)6水和物1.62gにデキストラン(分子量15,000〜20,000)の20質量%水溶液100mLを加えて80℃で加熱溶解した。これに、塩化鉄(II)4水和物0.63gを水2.5mLに溶解して添加した。この溶液を攪拌しながらこの中に14質量%のアンモニア水6.5mLを滴々添加して中和した。添加終了後、80℃にて2時間加熱攪拌した。室温まで冷却して限外ろ過により脱塩精製、過剰のデキストランを除去することにより、質量濃度0.65%、マグネタイトナノ粒子(体積平均粒子径4nm)分散物を得た。なお、前記平均粒子径は、前記比較例1−1と同様にして、測定した。
次いで、日油(株)製コートソーム EL−01−Nに、前記マグネタイトナノ粒子分散物を0.26質量%に純水で希釈した液を2mL添加、振とうして弱負荷電型リポソーム分散液(マグネタイトの含有量は、2.6mg/mL)を調製し、比較例3−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル3A」と称することがある。)とした。
前記サンプル3Aの体積平均分散粒径を、前記比較例1−1と同様にして測定したところ、280nmであった。
前記サンプル2Aは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0067】
(実施例3−1)
前記比較例3−1で得られたサンプル3Aをバイアル瓶に入れパーフルオロプロパン(PFP)ガスを充満させ、さらにバイアル瓶に対して1.5倍容量のガスを加圧充填した後、20kHz、50Wの超音波を15分照射した。その後、更に800kHz、30Wの超音波を60分照射し、実施例3−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル3B」と称することがある。)を得た。
前記サンプル3Bの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、350nmであった。
また、前記サンプル3B中のパーフルオロプロパンガスの濃度を、前記実施例1−1と同様にして分析したところ、2.4μL/mLであった。
前記サンプル3Bは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0068】
(比較例4−1)
多木化学(株)製SnO水性ゾル(セラメースC−10、平均粒子径2nm)を脱塩カラム(PD10;アマシャム・ファルマシア・バイオサイエンス社製)を用いてゲルろ過し、純水で希釈して0.4質量%、のSnOナノ粒子分散物を得た。
次いで、日油(株)製コートソーム EL−01−Nに、前記SnOナノ粒子分散物を2mL添加、振とうして弱負荷電型リポソーム分散液(SnOの含有量は、4.0mg/mL)を調製し、比較例4−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル4A」と称することがある。)とした。
前記サンプル4Aの体積平均分散粒径を、前記比較例1−1と同様にして測定したところ、230nmであった。
前記サンプル4Aは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0069】
(実施例4−1)
前記比較例4−1で得られたサンプル4Aをバイアル瓶に入れパーフルオロプロパン(PFP)ガスを充満させ、さらにバイアル瓶に対して1.5倍容量のガスを加圧充填した後、20kHz、50Wの超音波を15分照射した。その後、更に800kHz、30Wの超音波を60分照射し、実施例4−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル4B」と称することがある。)を得た。
前記サンプル4Bの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、260nmであった。
また、前記サンプル4B中のパーフルオロプロパンガスの濃度を、前記実施例1−1と同様にして分析したところ、2.5μL/mLであった。
前記サンプル4Bは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0070】
(比較例5−1)
住友大阪セメント(株)製ZrO水性ゾル(平均粒子径3nm)を脱塩カラム(PD10;アマシャム・ファルマシア・バイオサイエンス社製)を用いてゲルろ過し、純水で希釈して0.4質量%、のZrOナノ粒子分散物を得た。
次いで、日油(株)製コートソーム EL−01−Nに、前記ZrOナノ粒子分散物を2mL添加、振とうして弱負荷電型リポソーム分散液(ZrOの含有量は、4.0mg/mL)を調製し、比較例5−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル5A」と称することがある。)とした。
前記サンプル5Aの体積平均分散粒径を、前記比較例1−1と同様にして測定したところ、240nmであった。
前記サンプル5Aは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0071】
(実施例5−1)
前記比較例5−1で得られたサンプル5Aをバイアル瓶に入れパーフルオロプロパン(PFP)ガスを充満させ、さらにバイアル瓶に対して1.5倍容量のガスを加圧充填した後、20kHz、50Wの超音波を15分照射した。その後、更に800kHz、30Wの超音波を60分照射し、実施例5−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル5B」と称することがある。)を得た。
前記サンプル5Bの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、290nmであった。
また、前記サンプル5B中のパーフルオロプロパンガスの濃度を、前記実施例1−1と同様にして分析したところ、2.6μL/mLであった。
前記サンプル5Bは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0072】
(比較例6−1)
特開2005−298486の実施例1において、250mMの硫酸アンモニウム含有水溶液6.0mLを用いていた点を、前記サンプル1A(0.24質量%TiOナノ粒子分散液)6.0mLに変更した以外は、特開2005−298486の実施例1の記載に従って、DTP(3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニトリル)−DOPE(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン)含有PEG(ポリエチレングリコール)修飾リポソームにTiOナノ粒子を含ませた。
前記TiOナノ粒子を含むDTP−DOPE含有PEG修飾リポソームに、該特開2005−298486の実施例1に従って、rHSA(遺伝子組換え型ヒト血清アルブミン)をリポソームと結合させて、比較例6−1のTiOナノ粒子を含むPEG・rHSA修飾リポソーム(以下、「サンプル6A」と称することがある。)を得た。
前記サンプル6Aの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、120nmであった。
前記サンプル5Aは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0073】
(実施例6−1)
前記実施例1−1において、サンプル1Aを用いていた点を、サンプル6Aに代えた以外は、実施例1−1と同様にして、実施例6−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル6B」と称することがある。)を得た。
前記サンプル6Bの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、150nmであった。
また、前記サンプル6B中のパーフルオロプロパンガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、2.8μL/mLであった。
前記サンプル6Bは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0074】
前記実施例1−1〜6−1、及び比較例1−1〜6−1で得られたリポソームの構成を表1にまとめて示す。
【0075】
【表1】

【0076】
(試験例1:超音波照射による癌細胞殺傷試験I)
ヒトリンパ腫細胞株U937を用いて、上記サンプル1A〜5Bに超音波を照射し、殺細胞効果について検討した。
培養液は10%FBSを添加したRPMI1640を使用し、細胞濃度を1×10cells/mLに調節した。96wellの細胞培養用プレートに1wellあたり細胞浮遊液180μLに、上記各サンプルをそれぞれ20μL加えた。超音波発生装置SP−100(SONIDEL社製)を用いて、超音波強度0.5W/cm、Duty rate:50%にて10秒間超音波照射した。照射後、37℃、COインキュベータ中で2時間培養し、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験法で評価した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表2の結果から、内部に気体を含有し、金属酸化物を内包乃至吸着させた本発明のリポソームでは、著しい癌細胞殺傷効果が見られた。
【0079】
(比較例7−1)
前記比較例1−1において、コートソーム EL−01−Nを用いていた点を、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−ホスファチジルコリン(DSPC)94μmolと1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジル−エタノールアミン−メトキシ−ポリエチレングリコール(DSPE−PEG)6μmolとを混合して作製したリポソームを用いた以外は、比較例1−1と同様にして、比較例7−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル7A」と称することがある。)を得た。
前記サンプル7Aの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、330nmであった。
前記サンプル7Aは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0080】
(実施例7−1)
前記比較例7−1で得られたサンプル7Aをバイアル瓶に入れパーフルオロプロパン(PFP)ガスを充満させ、さらにバイアル瓶に対して1.5倍容量のガスを加圧充填した後、20kHz、50Wの超音波を15分照射した。その後、更に800kHz、30Wの超音波を60分照射し、実施例7−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル7B」と称することがある。)を得た。
前記サンプル7Bの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、390nmであった。
また、前記サンプル7B中のパーフルオロプロパンガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、2.7μL/mLであった。
前記サンプル7Bは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0081】
(実施例7−2)
前記実施例7−1において、パーフルオロプロパン(PFP)ガスを用いていた点を、空気に代えた以外は、実施例7−1と同様にして、実施例7−2のリポソーム分散液(以下、「サンプル7C」と称することがある。)を得た。
前記サンプル7Cの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、360nmであった。
また、前記サンプル7C中の空気の濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、2.0μL/mLであった。
前記サンプル7Cは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0082】
(実施例7−3)
前記実施例7−1において、パーフルオロプロパン(PFP)ガスを用いていた点を、キセノン(Xe)ガスに代えた以外は、実施例7−1と同様にして、実施例7−3のリポソーム分散液(以下、「サンプル7D」と称することがある。)を得た。
前記サンプル7Dの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、380nmであった。
また、前記サンプル7D中のキセノン(Xe)ガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、2.3μL/mLであった。
前記サンプル7Dは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0083】
(実施例7−4)
前記実施例7−1において、パーフルオロプロパン(PFP)ガスを用いていた点を、クリプトン(Kr)ガスに代えた以外は、実施例7−1と同様にして、実施例7−4のリポソーム分散液(以下、「サンプル7E」と称することがある。)を得た。
前記サンプル7Eの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、390nmであった。
また、前記サンプル7E中のクリプトン(Kr)ガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、2.5μL/mLであった。
前記サンプル7Eは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0084】
(実施例7−5)
前記実施例7−1において、パーフルオロプロパン(PFP)ガスを用いていた点を、アルゴン(Ar)ガスに代えた以外は、実施例7−1と同様にして、実施例7−5のリポソーム分散液(以下、「サンプル7F」と称することがある。)を得た。
前記サンプル7Fの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、400nmであった。
また、前記サンプル7E中のアルゴン(Ar)ガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、2.3μL/mLであった。
前記サンプル7Fは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0085】
(実施例7−6)
前記実施例7−1において、パーフルオロプロパン(PFP)ガスを用いていた点を、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンに代えた以外は、実施例7−1と同様にして、実施例7−6のリポソーム分散液(以下、「サンプル7G」と称することがある。)を得た。
前記サンプル7Gの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、350nmであった。
また、前記サンプル7G中の1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、2.6μL/mLであった。
前記サンプル7Gは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0086】
前記実施例7−1〜7−6、及び比較例7−1で得られたリポソームの構成を表3にまとめて示す。
【0087】
【表3】

【0088】
(試験例2:超音波照射による癌細胞殺傷試験II)
ヒト子宮頸癌細胞株Hela細胞を用いて、上記サンプル7A〜7Dに超音波を照射し、殺細胞効果について検討した。
培養液は10%FBSと1%NEAAを添加したMENを使用し、細胞濃度を1×10cells/mLに調節した。96wellの細胞培養用プレートに1wellあたり細胞浮遊液180μLに、上記各サンプルをそれぞれ20μL加えた。超音波発生装置SP−100(SONIDEL社製)を用いて、超音波強度1W/cm、Duty rate:50%にて30秒間超音波照射した。照射後、37℃、COインキュベータ中で2時間培養し、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験法で評価した。結果を表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
表4の結果からも、内部に気体を含有し、金属酸化物を内包乃至吸着させた本発明のリポソームでは、著しい癌細胞殺傷効果が見られた。
【0091】
(比較例8−1)
市販の超音波診断用造影剤ソナゾイド注射用16μL(第一三共製)の調製において、添付の注射用水2mLの代わりに、前記比較例1−1で調製したTiOナノ粒子分散物を純水で0.003質量%に希釈した液を2mL添加、振とうしてリポソーム分散液(TiOの含有量は0.03mg/mL)を調製し、比較例8−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル8A」と称することがある。)を得た。
前記サンプル8Aの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、3.8μmであった。
また、前記サンプル8A中のパーフルオロブタンガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、7.9μL/mLであった。
前記サンプル8Aは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0092】
(実施例8−1)
前記比較例8−1において、TiOナノ粒子分散物を純水で0.003質量%に希釈した液を2mL添加、振とうしていた点を、TiOナノ粒子分散物を純水で0.008質量%に希釈した液を2mL添加、振とうした以外は、比較例8−1と同様にしてリポソーム分散液(TiOの含有量は0.08mg/mL)を調製し、実施例8−1のリポソーム分散液(以下、「サンプル8B」と称することがある。)を得た。
前記サンプル8Bの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、3.8μmであった。
また、前記サンプル8B中のパーフルオロブタンガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、7.9μL/mLであった。
前記サンプル8Bは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0093】
(実施例8−2)
前記比較例8−1において、TiOナノ粒子分散物を純水で0.003質量%に希釈した液を2mL添加、振とうしていた点を、TiOナノ粒子分散物を純水で0.46質量%に希釈した液を2mL添加、振とうした以外は、比較例8−1と同様にしてリポソーム分散液(TiOの含有量は4.6mg/mL)を調製し、実施例8−2のリポソーム分散液(以下、「サンプル8C」と称することがある。)を得た。
前記サンプル8Cの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、3.8μmであった。
また、前記サンプル8C中のパーフルオロブタンガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、7.9μL/mLであった。
前記サンプル8Cは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0094】
(実施例8−3)
前記比較例8−1において、TiOナノ粒子分散物を純水で0.003質量%に希釈した液を2mL添加、振とうしていた点を、TiOナノ粒子分散物を純水で3.9質量%に希釈した液を2mL添加、振とうした以外は、比較例8−1と同様にしてリポソーム分散液(TiOの含有量は39mg/mL)を調製し、実施例8−3のリポソーム分散液(以下、「サンプル8D」と称することがある。)を得た。
前記サンプル8Dの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、3.6μmであった。
また、前記サンプル8D中のパーフルオロブタンガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、7.9μL/mLであった。
前記サンプル8Dは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で安定であった。
【0095】
(比較例8−2)
前記比較例8−1において、TiOナノ粒子分散物を純水で0.003質量%に希釈した液を2mL添加、振とうしていた点を、TiOナノ粒子分散物を濃縮して4.6質量%にした液を2mL添加、振とうした以外は、比較例8−1と同様にしてリポソーム分散液(TiOの含有量は46mg/mL)を調製し、比較例8−2のリポソーム分散液(以下、「サンプル8E」と称することがある。)を得た。
前記サンプル8Eの体積平均分散粒径を、比較例1−1と同様にして測定したところ、3.3μmであった。
また、前記サンプル8E中のパーフルオロブタンガスの濃度を、実施例1−1と同様にして分析したところ、7.8μL/mLであった。
前記サンプル8Eは、PBS緩衝溶液(pH7.2)中で沈降しやすかった。
【0096】
前記実施例8−1〜8−3、及び比較例8−1と8−2で得られたリポソームの構成を表5にまとめて示す。
【0097】
【表5】

【0098】
(試験例3:超音波照射によるマウスのメラノーマ増殖抑制試験)
5週齢メスのヌードマウスを使用し、2×10cell(cell viability≧98%)に調整したメラノーマ細胞(C32細胞)を100μL皮下注射した。腫瘍の直径が約5mmになったところで、超音波のみ、ソナゾイド及びサンプル8A〜8Eの7グループにランダムに分け(各グループ5匹ずつ)、治療開始とした。ジエチルエーテル吸入麻酔下に、各グループごとにサンプル10μLを局所注射し、超音波発生装置Sonitron1000(Sonitron社製)を用い、周波数:1MHz、強度:1W/cm、Duty比:50%の超音波を2分間照射した。また、比較のために処置を施さない腫瘍マウスも5匹用意した。
サンプル注射、超音波照射を隔日に計5回行い、さらに2週間経過後、腫瘍の大きさ(腫瘍の長径と短径を測定しその積で示す)を測定した。結果を表6に示す。なお、サンプル8Eは血液中で沈降しやすく十分な流動性を確保することはできないことがわかった。
【0099】
【表6】

【0100】
表5及び表6の結果から、内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させた本発明のリポソームにおいて、気体の含有容量(μL)(A)に対する金属酸化物微粒子の質量(mg)(B)の比(B/A)が0.01〜5である場合に、生理的条件下でリポソームが安定に分散され、かつ、マウスのメラノーマの増殖を抑制する効果が見られ、治療促進剤として有用であることが示された。
【0101】
(試験例4:超音波照射によるラットの肝臓ガン造影試験)
予め癌細胞を移植したラットに、ソナゾイド及び上記サンプル8A〜8Dをそれぞれ10μL尾静脈から投与した。一定時間後、ハーモニック法(TOSHIBA Ultrasound Aplio 80(東芝メディカルシステムズ社製))にて超音波検査を行ったところ、いずれのサンプルでもソナゾイドと同等以上の精度、コントラストで肝腫瘍が造影できた。なお、サンプル8Eは、血液中での流動性を確保することができず、造影することができなかった。
したがって、内部に気体を含有し、TiOを内包乃至吸着させた本発明のリポソームは、診断用造影剤として有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させた本発明のリポソームは、中性のpH領域における水系溶媒中での分散安定性が極めて良好であり、例えば、超音波を主体とした診断及び治療に用いる、診断用造影剤、治療促進剤、医薬組成物として好適に利用することができる。
また、本発明のリポソームを含有する診断用造影剤、治療促進剤、及び医薬組成物は、がんなどの病変部を高精度で検出(超音波診断)しながら、治療を同時に行うことが可能であるため、患者のQOL向上に貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気体を含有し、金属酸化物微粒子を内包乃至吸着させたリポソームであって、
前記気体の含有容量(μL)(A)と、前記金属酸化物微粒子の質量(mg)(B)との比(B/A)が、0.01〜5であることを特徴とするリポソーム。
【請求項2】
体積平均分散粒径が、20nm〜20μmである請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
気体が、酸素、窒素、二酸化炭素、キセノン、クリプトン、アルゴン、ハイドロフルオロカーボン類、及びパーフルオロカーボン類から選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項4】
金属酸化物微粒子の体積平均粒子径が、1nm〜50nmである請求項1から3のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項5】
金属酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化スズ、及び酸化ジルコニウムから選択される少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項6】
更に、特定の組織を特異的に認識するレセプターを結合乃至含有する請求項1から5のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項7】
超音波感受性である請求項1から6のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項8】
医療用である請求項1から7のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のリポソームを含有することを特徴とする診断用造影剤。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のリポソームを含有することを特徴とする治療促進剤。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載のリポソームを含有することを特徴とする医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【公開番号】特開2011−57592(P2011−57592A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207279(P2009−207279)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】