説明

リポソームの製造方法ならびにコレステロール溶解方法

【課題】容易に粒径の揃ったリポソームを得ることができる方法を提供すること、及びコレステロールの溶解性を高める方法を提供すること。
【解決手段】 1以上の脂質と、水混和性有機溶媒を含む水溶液とを混合する第一混合工程と、上記脂質と上記水溶液とを混合した混合物を、上記脂質が上記水溶液中にて溶解する温度まで加熱する加熱工程と、上記加熱工程後に、リポソームが生成する温度まで冷却する冷却工程と、を含むリポソームの製造方法により、粒径の揃った、高い封入率のリポソームを容易に得ることができる。また、コレステロールを、リン脂質、及び、水混和性有機溶媒を含む水溶液と混合し、加熱することにより、コレステロールを当該水溶液中にて容易に溶解できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソームの製造方法ならびにコレステロール溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、脂質分子により形成される少なくとも一つの脂質二重層により囲まれた略球状の中空粒子である。当該脂質分子は、親水性を有する親水基とその反対側にあって親油性を有する親油基とを備えるので、水に接触すると、二重層を形成して、親水基が当該二重層の外側および当該二重層で囲まれた内側を向き、親油基が当該二重層の層内部を向き、表面積を最小にするように球状になる。
【0003】
リポソームを形成する二重層は、生体を構成する細胞膜と近似しているため、生体内環境に容易に受け入れられる。近年、かかる性質を利用し、リポソームは、二重層で囲まれた領域に封入した薬剤を、生体内の薬剤必要部位まで輸送するドラッグデリバリシステム(Drug Delivery System: DDS)における薬剤用ベシクルとして注目されている。その他の用途として、リポソームは、例えば、化粧料を封入する化粧料用のマイクロカプセルとしても注目されている。
【0004】
リポソームの製法には、逆相蒸発法、超音波法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法、エタノール注入法、脱水−再水和法等の種々の方法が用いられているが、典型的な製法の一つに、Bangham法(薄膜法)がある。この製法は、フラスコ等の容器内において少なくとも1種のリン脂質をクロロホルム等の有機溶媒に溶解し、当該有機溶媒を揮発させて、一旦、容器の底部に脂質膜を形成した後、そこに緩衝液等の水溶液を入れてかき混ぜ、リポソームを含む懸濁液を得る方法である(非特許文献1及び2)。
【0005】
また、典型的なリポソームの工業的製造法において、水混和性有機溶媒に溶解したリン脂質等の脂質成分を撹拌しながら水溶液に注入添加する方法がある。ここで、水混和性有機溶媒には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類を好適に採用し得るが、脂質の溶解状態を維持するため脂質溶液を加温しながら、水溶液に添加混合する必要があり、温度や添加速度あるいは撹拌速度を精密に制御する必要がある(特許文献1)。
【0006】
さらに、別のt−ブタノールを使用するプレリポソームの製法も報告されている(特許文献2)。この製法は脂質の溶解溶媒として、20%程度の低い含有量で水を含むt−ブタノールを用いることで室温付近の温度で脂質を溶解させておくことができるため、脂質のろ過滅菌と凍結乾燥を行うことができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−517594号公報
【特許文献2】特表平6−509547号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A.D.Bangham et al., J.Mol.Biol., 13, 238-252 (1965)
【非特許文献2】A.D.Bangham and R.W.Horne, J.Mol.Biol., 8, 660-668 (1964)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記従来の製法および当該製法にて得られたリポソームには、次のような問題がある。それは、リポソームの粒子径が均一ではない、あるいは均一な粒子径を持つリポソームを容易に作製することが難しいことである。粒子径が小さいもの(Small Unilameller Vesicles: SUV)、粒子径が大きいもの(Large Unilameller Vesicles: LUV)は、それぞれ利用価値があるが、両者が混在していると、利用価値が低い。従って、粒度分布をより狭くするために、粒度分布が広いリポソームを細孔を有するフィルタに通す処理が施される。しかし、かかる処理を採用すると、特定の必要粒度分布を持つリポソームの収率が低下するという問題がある。一方、脂質二重膜の膜強度を上げるため、コレステロールを脂質二重膜に組み込む方法が知られている。しかしながら、コレステロールは一般的に水混和性有機溶媒に溶解しにくい脂質であるため、コレステロールを溶解させる方法が求められている。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、容易に粒径の揃ったリポソームを得ることができる方法を提供することを目的とする。また、本発明は、コレステロールの溶解性を高める方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、1以上の脂質と、水混和性有機溶媒を含む水溶液とを混合し、その混合物を加熱してから、所定温度まで冷却することにより、粒子径の揃ったリポソームを製造できることを見い出した。また、コレステロールを、リン脂質、及び、水混和性有機溶媒を含む水溶液と混合し、加熱することにより、コレステロールを当該水溶液中にて容易に溶解できることを見い出した。このようにして、本発明者は本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のリポソーム製造方法は、1以上の脂質と、水と、有機溶媒とを含む混合物を加熱する加熱工程と、前記加熱工程後に、前記混合物を冷却する冷却工程とを含む。
【0013】
前記混合物は、例えば、前記脂質と、水混和性有機溶媒を含む水溶液とを混合した混合物である。
【0014】
前記水溶液は、全容量に対して5〜30体積%の前記水混和性有機溶媒を含むことが好ましい。
【0015】
前記水混和性有機溶媒としては、t-ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、及び2-ブトキシエタノールから選択された1又は2以上の有機溶媒などを用いることができる。
【0016】
さらに、本発明のコレステロール溶解方法は、コレステロールを、リン脂質、水、及び有機溶媒と混合した混合物を加熱する工程を含む。
【0017】
また、本発明のコレステロール溶解方法は、コレステロールを、リン脂質、及び、水混和性有機溶媒を含む水溶液と混合した混合物を加熱する工程を含む。
【0018】
前記水溶液は、全容量に対して5〜30体積%の前記水混和性有機溶媒を含むことが好ましい。
【0019】
前記水混和性有機溶媒としては、t-ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、及び2-ブトキシエタノールから選択された1又は2以上の有機溶媒などを用いることができる。
【0020】
さらに、本発明の、リポソーム製造に用いることのできる有機溶媒の選択方法は、候補となる有機溶媒を用いて上記のリポソームの製造方法によってリポソームを製造する工程と、前記リポソームが均一であるかどうか検査する工程とを含む。
【0021】
<関連出願へのクロスリファレンス>
本願は、2008年12月24日付けで出願した日本国特願2008-328724号に基づく優先権を主張する。この文献を本明細書に援用する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、容易に粒径の揃ったリポソームを得ることができる方法を提供することができる。また、本発明によれば、コレステロールの溶解性を高める方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実験例において、t-BuOH(t-ブタノール)の濃度が16vol%の条件で作製したリポソーム懸濁液の粒度分布チャートである。
【図2】本発明の一実施例において、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)、コレステロール、及びステアリルアミンを用いて各水混和性有機溶媒を含む水溶液でリポソーム懸濁液を作製した際の各粒度分布結果をそれぞれ示す。
【図3】本発明の一実施例において、DPPC、コレステロール、及びDPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール)を用いて各水混和性有機溶媒を含む水溶液でリポソーム懸濁液を作製した際の各粒度分布結果をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明のリポソームの製造方法、ならびにコレステロール溶解方法の好適な実施の形態について説明する。なお、コレステロール溶解方法の実施の形態については、リポソームの製造方法の実施の形態の中で説明する。
【0025】
(1)リポソーム
リポソームには、その小胞内部に薬剤等の生理活性物質を含まない空リポソーム(Empty-Liposome)および生理活性物質を内包するリポソームが含まれる。また、リポソームには、一重の脂質二重膜から成る比較的粒子の小さなベシクル(Small Unilameller Vesicles: SUV)、一重の脂質二重膜から成る比較的粒子の大きなベシクル(Large Unilameller Vesicles: LUV)の他、複数の膜から成るベシクル(Multi-Lameller Vesicles: MLV)も含まれる。リポソームは、いかなる大きさのものを含んでいてもよいが、平均粒径が50〜2000nmであることが好ましく、平均粒径が100〜700nmであることが特に好ましい。ここでいう「粒径」は、動的光散乱によって測定された粒子の直径を意味する。また、好ましい多分散指数(PDI)は、0.3以下である。
【0026】
リポソームの内部に封入され得る生理活性物質としては、種々の薬剤、化粧料等を採用できる。それらの一例を挙げると、シスプラチンや5−フルオロウラシル等を含む抗がん剤の他、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、老化防止剤、ホルモン剤、ビタミン剤、ヘモグロビン、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、ワクチン、発毛剤、保湿剤、色素類、美白剤、顔料、生理食塩水、水の1または2以上の組み合わせなどがある。ただし、生理活性物質は、上記例示のものに限定されない。また、リポソームの表面を官能基等で修飾しても良い。かかる官能基による修飾は、リン脂質等に予め官能基を結合させ、あるいはリポソーム形成後に官能基を結合させることにより実現できる。
【0027】
(2)リポソームの製造方法
本実施の形態に係るリポソームの製造方法は、1以上の脂質と、水混和性有機溶媒を含む水溶液を混合した混合物を加熱する加熱工程と、加熱工程後に混合物を冷却する冷却工程とを含む限り、公知の製造方法を応用しても良い。より具体的には、リポソームの粒子径を調節するために、超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法等を本発明の方法に組み合わせてもよい。
【0028】
本発明のリポソームの製造においては、大豆レシチン、水添大豆レシチン、卵黄レシチン、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファスフィンゴミエリン類、ホスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類、糖脂質類、ホスファチジルグリセロール類、ステロール類等の1または2以上の脂質を用いることができる。ホスファチジルコリン類としては、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等を例示することができる。ホスファチジルセリン類としては、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリンナトリウム、ウシ脳由来のホスファチジルセリンナトリウム等を例示することができる。ホスファチジルエタノールアミン類としては、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等を例示することができる。ホスファチジルイノシトール類としては、小麦由来のホスファチジルイノシトールナトリウム等を例示することができる。ホスファスフィンゴミエリン類としては、ウシ脳由来のスフィンゴミレリン等を例示することができる。ホスファチジン酸類や長鎖アルキルリン酸塩類としては、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸、ジセチルリン酸等を含む。ガングリオシド類は、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGT1b等を例示することができる。糖脂質類としては、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、ホスファチド、グロボシド等を例示することができる。ホスファチジルグリセロール類としては、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール等を例示することができる。ステロール類としてはコレステロール、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、エルゴステロール、及びこれらの混合物であるフィトステロール、並びに、水素添加フィトステロール、さらに、3β-[N-(ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール、N-(トリメチルアンモニオエチル)カルバモイルコレステロールのような陽性荷電を有するステロール類等を例示することができる。リポソームを構成する脂質として好ましいものは、リンを含むリン脂質と、コレステロールとの組み合わせである。特に、リン脂質の一種であるホスファチジルコリン類とコレステロールとの組み合わせが、より好ましい。リン脂質とコレステロールを用いてリポソームを製造する場合、リン脂質とコレステロールとのモル比は、1:0〜1:1.5の範囲内であることが好ましく、1:0.5〜1:1.25の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
水混和性有機溶媒は、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、アセタール類などの水に混合可能な有機溶媒をいう。水混和性有機溶媒としては、t-ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、及び2-ブトキシエタノールから選択された1又は2以上の有機溶媒を用いることが好ましい。混合方法は、手動による揺動、攪拌子、攪拌羽根を用いた攪拌の他、超音波振動機等を用いて行うことができる。
【0030】
上記水溶液における水混和性有機溶媒の濃度としては、脂質組成と脂質濃度に依存した最適な濃度領域を選ばなければならない。水混和性有機溶媒の濃度を高くすると脂質の溶解性が高くなるが、リポソームは形成されなくなるためである。また、同時に水混和性有機溶媒が残留しやすくなるので、生体内にリポソームを供給した場合に生体にとって好ましくない。したがって、水混和性有機溶媒は、1以上の脂質と水溶液を混合した混合物を加熱した際に脂質を溶解できる最低濃度であるのが好ましい。具体的には、水混和性有機溶媒は、水溶液全容量に対して5〜30体積%とするのが好ましい。水混和性有機溶媒がt-ブタノールである場合、水溶液全容量に対して12〜18体積%であることが特に好ましい。水混和性有機溶媒が1-プロパノールである場合、水溶液全容量に対して5〜19体積%であることが特に好ましい。水混和性有機溶媒が2-プロパノールである場合、水溶液全容量に対して13〜26体積%であることが特に好ましい。水混和性有機溶媒が2-ブトキシエタノールである場合、水溶液全容量に対して6〜9体積%であることが特に好ましい。
【0031】
また、上記水混和性有機溶媒はあらかじめ上記水混和性有機溶媒濃度に調製された水溶液を脂質に添加しても良く、脂質に水混和性有機溶媒を添加して一旦脂質成分を溶解させた後上記濃度になるように水溶媒を添加しても良い。
【0032】
加熱方法は、特に限定されるものではないが、例えば、容器を、温水を入れた浴槽内に入れる温浴の他、容器内に混合物を入れた状態で当該容器を直火で加熱する方法、容器を電熱器内に入れる方法などを採用できる。加熱温度は、脂質が、水混和性有機溶媒を含む水溶液に溶解する温度あるいは当該温度以上であって水溶液が白濁しない温度であれば、特定の温度に限定されるものではない。加熱温度としては、脂質の種類、脂質の濃度、水混和性有機溶媒の種類などによって異なるが、一般的に62〜80℃の範囲、特に65〜72℃の範囲が好ましい。但し、水混和性有機溶媒としてt−ブタノールを、脂質としてホスファチジルコリン及びコレステロールをそれぞれ用いた場合には、加熱温度は、62〜72℃の範囲であることが好ましい。
【0033】
冷却方法は、特に限定されるものではないが、例えば、容器を、冷水を入れた浴槽内に入れる方法の他、容器内に混合物を入れた状態で当該容器を冷蔵庫等に入れる方法などを採用できる。冷却温度は、加熱温度より低く、リポソームが生成する温度であれば限定されるものではない。一例を挙げると、脂質にホスファチジルコリンとコレステロールを用いた場合には、冷却温度としては、62℃以下にするのが好ましい。特に、72℃以上に加熱した後に、62℃以下に冷却するのが好ましい。また、冷却速度としては、0.5℃/min以上が好ましく、さらには、1℃/min以上が好ましい。
【0034】
脂質と水混和性有機溶媒を含む水溶液を混合する際に、浸透圧調整剤として、二糖類、多糖類等の糖を加えても良い。好ましい糖は、二糖類のスクロースである。スクロースは、水溶液の形態で水混和性有機溶媒を含む水溶液と混ぜて使用することもできる。その場合、スクロース水溶液の好適な濃度は5〜70wt/vol%であり、より好ましい濃度は8〜50wt/vol%である。
【0035】
本発明のリポソームの製造において、リポソーム懸濁液の粒度をさらに均一なものとするために、公知の整粒手段を併用しても良い。例えば、リポソーム懸濁液を、ガス圧にて特定孔径の膜に通し、望ましい孔径のリポソームを作製してもよい。当該特定孔径の膜を通す処理は、1回あるいは複数回行ってもよい。
【0036】
(3)コレステロール溶解方法(水混和性有機溶媒を含む水溶液に対するコレステロールの溶解量を増大させる方法)
脂質の一種であるコレステロールは、通常、水に溶けにくく、上述の水混和性有機溶媒に溶解する割合が低い。しかし、上述の水混和性有機溶媒を含む水溶液にリン脂質を共存させると、加熱によりコレステロールが溶解しやすくなる。具体的には、リン脂質とコレステロールとを、上述の水溶液に混合した混合物を加熱すると、コレステロールを水溶液中に容易に溶解させることができる。
【0037】
加熱温度は、コレステロールが、リン脂質、水混和性有機溶媒などを含む水溶液に溶解する温度あるいは当該温度以上であって水溶液が白濁しない温度であればよい。例えば、水混和性有機溶媒としてt−ブタノールを、リン脂質としてL-α-ジパルミトイルホスファチジルコリンをそれぞれ用いた場合には、62〜72℃の温度にて、コレステロールを水溶液中に十分に溶解させることができる。コレステロールは、リン脂質1モルに対して0.8〜1.5モルの範囲内であると、より溶解しやすい。62〜72℃の温度範囲では、コレステロールはt−ブタノールを含む水溶液に溶解し、液全体が透明である。その温度より冷却し、混合液の温度が62℃より低くなると、白く濁ってきて、リン脂質とコレステロールの組成を持つリポソームの懸濁液が形成される。逆に、72℃より温度が高くても、混合液は白い懸濁液となる。
【0038】
(4)使用できる有機溶媒の選択方法
以上のような製造方法によって、粒径の揃ったリポソームを得ることができる。しかしながら、有機溶媒によっては適用できないものもある。そこで、候補となる有機溶媒を用いて上記のリポソームの製造方法によってリポソームを製造し、製造されたリポソームが均一であるかどうか検査することによって、この製造方法で使用できる有機溶媒かどうかを判定し、実際に適用可能な有機溶媒を選択することができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
1.リポソームの原料
a)リン脂質
日油株式会社製のL-α-ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)を用いた。
b)コレステロール
SIGMA社製のコレステロール(Chol.)を用いた。
c)安定化剤
和光純薬工業株式会社製のスクロースを用いた。
d)水混和性有機溶媒
和光純薬工業株式会社製のt−ブタノール(t-BuOH;特級)、和光純薬工業株式会社製の1-プロパノール(特級)、和光純薬工業株式会社製の2-プロパノール(特級)、
和光純薬工業株式会社製の2-ブトキシエタノール(特級)を用いた。
e)a)及びb)以外の脂質
DPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール)、DPPE(ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン)、及びHSPC(Hydrogenated soy phosphatidylcholine)は、日油株式会社から購入した。ステアリルアミン(SA)及びDCP(ジセチルホスフェート)は、和光純薬工業株式会社及びシグマ社からそれぞれ購入した。
【0041】
2.リポソームの粒度分布測定法
リポソームの粒度分布の測定は、動的光散乱による粒度分布計(マルバーン社製、ZETA SIZER Nano-ZS)を用いて行った。後述の実験例において調製されたリポソームは、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で希釈してから測定した。希釈倍率は5000から10000倍程度とした。ZETA SIZER Nano-ZSによる測定値は、平均粒子径 Z-Average (d.nm)として算出され、同時に算出される多分散指数(PDI)の値を指標としてリポソームの粒度分布の均一性を評価した。
【0042】
また、上記粒度分布計の「Result quality」に表示される測定結果を、均一な粒度分布を持つリポソームが生成したかどうかの判断基準とした。すなわち、マルバーン社の粒子径測定の品質判定基準を満たす場合、「Result quality」は「Good」と表示される。測定結果が「Good」を示さなかった場合は動的光散乱に適さない粒度分布が不均一なサンプルであると判断した。
【0043】
3.実験例
3.1:リン脂質およびコレステロールの溶解温度範囲の検討
380mgのDPPCおよび200mgのコレステロールをガラスバイアル中に秤量し、20mLの10wt/vol%スクロースおよび4.25mLのt-BuOHの混合液を添加した。このバイアルをウオータバス中で80℃に保温しながら10分間撹拌した。80℃における溶液は白濁状態であった。次に、撹拌を継続しながらウオータバスの保温を止め、室温下にて自然冷却を行った。ウオータバスの水温は、80℃から35℃まで冷却されるのに約90分間を要した。80℃における溶液は白濁状態であったが、72℃付近から溶液はわずかに青白い透明状態となり62℃付近までその透明状態を維持した。62℃付近から溶液は白く濁り始め、58℃で完全に白濁状態となった。以上の状態変化は可逆的であり、室温から段階的に昇温した場合も同様の状態変化が観察された。
【0044】
3.2:リン脂質単独およびコレステロール単独の溶解有無の検討
75.9mgのDPPCもしくは40mgのコレステロールをそれぞれガラスバイアル中に秤量し、それぞれのガラスバイアル中に4mLの10 wt/vol%スクロースと0.85mLのt-BuOHの混合液を添加し、3.1と同様の実験を行った。DPPCのみを用いた場合には、80℃から50℃までの間、水溶液は透明状態であった。48℃付近でわずかに青白い透明液状態となり約35℃までその状態を維持し、約35℃から急激に白濁状態となった。一方、コレステロールのみを用いた場合には、いずれの温度においても、バイアル壁に付着したコレステロールの凝集塊が認められ、透明状態とはならなかった。
【0045】
3.3:t-BuOHの濃度の検討
ガラスバイアル中に、32.7mgのDPPCと17.2mgのコレステロールを加えた。この脂質混合物に、表1に示す容量比でt-BuOHと2mLの50%スクロース溶液を混合後、純水を添加して終容積10mLとすることにより、t-BuOHの濃度を種々変化させた溶液を調製した。
【0046】
【表1】

【0047】
各バイアルを90℃の温浴中で10分間攪拌後、温浴から取り出し、室温下で撹拌冷却した。冷却後、生じたリポソーム懸濁液の一部を分取してPBS(あるいは10wt/vol%スクロース)で希釈し、ZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行った。その結果を表2に示す。また、一例として、図1に、t-BuOHの濃度が16vol%の条件で作製したリポソーム懸濁液の粒度分布チャートを示す。表2中、スターマーク(*)は、マルバーン社の粒子径測定の品質判定基準を満たさない不均一な粒子であることを示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2および図1に示すように、t-BuOHの濃度12〜18vol%の範囲において、特に、粒子径が極めて均一なリポソームを作製することができた。
【0050】
3.4:1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブトキシエタノール等の濃度の検討
t-BuOHを1-プロパノール、2-プロパノール、又は2-ブトキシエタノールに変更する他は、3.3と同様の方法により、好ましい水混和性溶媒の濃度範囲を調べた。その結果を表3〜5に示す。
【表3】

【表4】

【表5】

【0051】
表3〜5に示すように、1-プロパノールは5〜19vol%の範囲内で、2-プロパノールは13〜26vol%の範囲内で、2-ブトキシエタノールは6〜9vol%の範囲内で、粒子径が極めて均一なリポソームを作製することができた。
【0052】
3.5:脂質の組成の変化による検討(1)
75.9mgのDPPC、40.0mgのコレステロール、及び、14.3mgのステアリルアミン又は0.772mgのDPPGを各バイアルに加えた。その後、各バイアルに、17vol%のt-BuOHを含む10wt/vol%スクロース溶液、17vol%の1-プロパノールを含む10wt/vol%スクロース溶液、25vol%の2-プロパノールを含む10wt/vol%スクロース溶液、又は8vol%の2-ブトキシエタノールを含む10wt/vol%スクロース溶液をそれぞれ4.85mL添加した。各バイアルを70℃の温浴中で30分間攪拌し、攪拌しながら室温下で冷却した。冷却後、リポソーム懸濁液の一部を分取し、PBSで希釈してZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行った。その結果を表6〜7及び図2〜3に示す。さらに、リポソーム懸濁液をPBSで希釈し、遠心分離によりリポソームを沈殿させて上澄み液をPBSに置換した(遠心洗浄)。遠心洗浄を3回繰り返すことにより、リポソーム分散液をPBSに置換すると共に、水混和性有機溶媒及びリポソーム外のスクロースを除去した。それから、リポソーム懸濁液のコレステロール定量を行なった後、リポソーム内に封入保持された、リポソームの調製に用いた糖(スクロース)の含量をフェノール硫酸法にて測定した。なお、表中の糖封入率は式:(遠心洗浄後の糖濃度とコレステロール濃度の比)/(遠心洗浄前の糖濃度とコレステロール濃度の比)により求めた。
【表6】

【表7】

【0053】
表6〜7及び図2〜3に示すように、t-BuOHと2-ブトキシエタノールを水混和性有機溶媒として用いた場合、リポソームは同程度の粒径で、糖封入率も同程度であった。特にt-BuOHを使用した場合は、リポソーム調製時に用いたスクロース(糖)が40%以上という極めて高い効率でリポソームに封入されていた。このことは、リポソーム調製時の溶液中に封入すべき物質を溶解させておけば、スクロースと同様に極めて高い効率でリポソーム内に物質が封入されることを強く示唆している。
【0054】
3.6:脂質の組成の変化による検討(2)
76mgのDPPC及び40mgのコレステロールをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(1)を調製した。76mgのDPPC、40mg又は30mgのコレステロール、及び0.77mgのDPPGをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(2)及び(3)を調製した。67.7mgのDPPC、40.6mgのコレステロール、9.1mgのDPPE、及び7.3mgのDCPをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(4)を調製した。76mgのDPPC、40mgのコレステロール、及び14.3mgのSAをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(5)を調製した。76mgのHSPC及び40mgのコレステロールをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(6)を調製した。各バイアルを70℃の温浴中で30分間攪拌し、攪拌しながら室温下で冷却した。冷却後、リポソーム懸濁液の一部を分取し、PBSで希釈してZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行い、リポソームの平均粒度を求めた。その結果を表8に示す。
【表8】

【0055】
その結果、脂質の組成により平均粒度が異なることが明らかになった。
【0056】
3.7:冷却速度の検討
1.75mLのt-BuOH、2mLの50%スクロース水溶液、終容量が10mLになるように純水を添加し、17.5vol%のt-BuOHを含む溶液を調製した。続いて、ガラスバイアル中に32.7mgのDPPCと17.2mgのコレステロールを加えた。この脂質混合物に、17.5vol%のt-BuOHを含む溶液を2mL添加した。当該バイアルをウオータバス中で70℃に保温しながら10分間撹拌した。その後、当該バイアルを50℃、40℃および30℃のウオータバスに移し、冷却速度:1℃/min以上にて冷却した。50℃、40℃および30℃になった時点でリポソーム懸濁液の一部をそれぞれ分取して、PBSで希釈し、ZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行った。また、比較のため、上記と同じ脂質混合物に、17.5vol%のt-BuOHを含む溶液を2mL添加したバイアルをウオータバス中で80℃に保温しながら10分間撹拌し、撹拌を継続しながらウオータバスの保温を止め、室温下で自然冷却を行った。80℃から35℃までの冷却に90分を要した(冷却速度:0.5℃/min)。35℃になった時点でリポソーム懸濁液の一部を分取して、PBSで希釈し、ZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行った。その結果を表9に示す。
【0057】
【表9】

【0058】
表9に示すように、急冷にて50℃、40℃および30℃まで冷却したリポソーム懸濁液中のリポソームは、平均粒径約500nmの非常に均一な粒径を有していた。一方、自然冷却にて処理を行ったリポソーム懸濁液中のリポソームは、上記3種のリポソームに比べると、粒径の均一性は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により製造されたリポソームは、例えば、DDS、化粧料用のマイクロカプセル等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステロールを、リン脂質、及び、水混和性有機溶媒を含む水溶液と混合した混合物を加熱する工程を含むコレステロール溶解方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−256199(P2011−256199A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183372(P2011−183372)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【分割の表示】特願2010−529170(P2010−529170)の分割
【原出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(508376591)株式会社バイオメッドコア (3)
【Fターム(参考)】