説明

リポソーム製剤

【課題】特に、薬物が内部で強固に沈殿しているリポソームや、脂質膜透過性の低い薬物が内包されたリポソームにおいては、腫瘍に集積した後に薬物が放出しにくいため、良好な抗腫瘍効果が得られにくいが、優れた治療効果が期待される化学的手法を用いて、病巣部位に到達したリポソームから強制的に薬物を放出すること。
【解決手段】 血中に、内水相に薬剤を含有し外水相に対してpH勾配を有する(またはpH勾配法で充填された薬物を含有する)リポソームを含有する液を投与した後、低分子アミノ酸化合物を投与するために使用される前記リポソームと前記アミノ酸化合物とを有する組み合わせ製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内におけるリモートローディング法リポソームからの薬物放出を意図的に加速させる放出法に用いられる製剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物、DNA、ペプチドおよびタンパク質を目的の部位、例えば癌、肺炎、肝炎、腎炎、リンパ腫、血管内皮損傷部位などの病巣部位に確実に、効率良くかつ安全に薬物のターゲッティングが行えるドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究が盛んになってきている。例えば、リポソーム、エマルジョン、リピッドマイクロスフェア、ナノパーテイクルなどの閉鎖小胞を薬物運搬体として利用する方法、高分子合成ポリマ−ミセルや多糖体等の高分子運搬体に薬物を包含または結合させる方法、これら閉鎖小胞や高分子運搬体に抗体、蛋白質等の高分子機能性分子や、特定の糖鎖、ペプチド等の低分子機能性分子で表面を修飾して標的指向性を高める方法などの研究が挙げられる。しかしながら、これら薬物運搬体の実用化に際しては、克服すべき様々な問題点があり、中でも生体側の異物認識機構からの回避や、体内動態の制御の困難さが問題となっている。特に閉鎖小胞は、血液中のオプソニン蛋白質や血しょう蛋白質との相互作用による凝集や、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織(RES)での捕捉のため、標的とする組織や細胞への選択性の高い送達が困難な状況であった。
【0003】
この問題点を解決する手段として、これら閉鎖小胞をはじめとする高分子運搬体の表面をポリエチレングリゴ−ル(PEG)等の親水性高分子で被覆することにより、血しょう蛋白やオプソニン蛋白質などの吸着を防止して血中安定性を高め、RESでの捕捉を回避することが可能となってきた(「LIPOSOMES from Physics to Applications」、Elsevier、 D.D. Lasic著、1993)。リポソームのような閉鎖小胞は、高い血中滞留性を得られることにより、腫瘍組織や炎症部位などの血管透過性が亢進した組織に受動的に集積させられるようになった(EPR効果)。しかしながら、リポソームが含有する薬物の効能を得るためには、薬物含有リポソームが病巣部位に到達した後に、薬物がリポソームから効率的に放出されることが必要である。
これを解決する手段として、外部エネルギー(光、温度、超音波など)を用いる局所治療技術の研究が行われている。例えば、特定温度で崩壊して内包した薬物を放出できるリポソームについて研究されており、このようなリポソームに抗癌剤を内包させ癌の温熱療法と併用することにより、優れた治療効果が得られることが知られている。
特開2003−212755号公報(特許文献1)には、感熱応答性部分と疎水性部分とを有する高分子化合物を、その疎水性部分を介してリポソーム膜に保持したリポソームが開示されている。このようなリポソームは、内包した薬物を特定温度で放出することができるので、例えば薬物含有リポソームをヒトに投与し、患部を温めることによりその部分で薬物を放出させることができると考えられる。
特開2006−306794号公報(特許文献2)には、感熱応答性部分と疎水性部分とを有する高分子化合物と、ポリエチレングリコール(PEG)とがリポソーム膜に担持されてなる温度感受性リポソームが開示されている。
しかしながら、これらの従来の温度感受性リポソームは、リポソームとしての安定性や温度応答性に問題あり効果が十分ではない。また、生体内の標的病巣部位のみを正確に加温しなければならなく、技術的な面で実用化の課題は多い。
【0004】
この他に、特開2004−346163号公報(特許文献3)では、薬物を封入したリポソームが病巣部位に到達した後、電離放射線を照射することにより、薬物を一度に放出させることが試みられている。例えばリポソーム膜に重合可能な共脂質を含有させ、電離放射線に曝露することで、重合可能な共脂質を重合化し、それによりリポソーム膜を不安定にして薬物を一度に放出することが試みられている。 しかしながら、このリポソームは、リポソーム膜の構成成分として人工物質を使用しているため、生体にとっては異物であり好ましくない。また、重合性の脂質を用いているため、重合後の物質は分子量及び化学構造ともに多種多様になると予想されるため、実際に生体内に投与するリポソームとしては適当ではない。また、γ線の照射により大豆レシチンから構成されるリポソーム膜からグルコースを放出することが試みられている。しかしながら、これらの技術は、エネルギーを体内深部に集中させる必要があり、精密なエネルギー技術が求められる。場合によっては、医療用として用いられているものよりも出力が格段に上がり生体に及ぼす影響が不明確であるとった問題も考えられ、未だ解決すべき点がたくさんある。
一方、化学的に生体内におけるリポソームからの薬物放出を加速的に加速させる技術は未だ報告されていない。化学的手法で、病巣部位に到達したリポソームから強制的に薬物を放出することができれば、複雑な機器や手技を必要とせずに、病巣部位における薬物濃度を高めることができ、優れた治療効果が期待される。
【0005】
なお、特表2010−514708号公報(特許文献4)には、pH勾配法で薬物を充填したリポソームの放出性を試験するために放出試験液として塩酸アンモニウムなどで放出させていることが記載されている。しなしながら、この技術はリポソーム製剤の評価を行うものであり、治療剤としての組み合わせ製剤に関するものではなく、用いられている放出試験液に含まれる物質はアンモニア化合物であり、これを積極的に血中に投与することは考えられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−212755号公報
【特許文献2】特開2006−306794号公報
【特許文献3】特開2004−346163号公報
【特許文献4】特表2010−514708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リポソームが含有する薬物の効能を得るためには、生体内で長時間、安定に血中を循環することができ、病巣部位に集積したあと、リポソームから効率よく薬物を放出させる技術が必要である。特に、薬物が内部で強固に沈殿しているリポソームや、脂質膜透過性の低い薬物が内包されたリポソームにおいては、腫瘍に集積した後に薬物が放出しにくいため、良好な抗腫瘍効果が得られず、病巣部位での放出が課題となる。また、病巣部位での薬物放出技術はまだ十分でなく、複雑な機器や技術を用いずに、病巣部位で強制的に薬物を放出させる技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、リモートローディング法で薬物を充填したリポソームを血中に投与後、ある所定時間経過した後の血液を採取し、生体内投与可能な低分子アミンあるいはアミノ酸溶液(以下、放出加速因子試薬とする)を添加することで、リポソームからの薬物放出を強制的に加速できることを見出した。これは、低分子アミンあるいはアミノ酸がリポソーム内部に侵入することで、リポソームの内/外部で形成されたpH勾配が低下あるいは失われることになり、その結果、内部に保持されていた薬物と対イオンとの相互作用が弱まり、薬物の放出が促進されるためである。本発明によれば、特別な医療機器を用いずに簡便な方法で、生体内のリモートローディング法リポソームから薬物を加速的に放出できることを可能とする。また、放出加速因子試薬の濃度に依存して、薬物の放出量が増加すること、血中におけるリポソーム量が少ないほど、薬物の放出率は高いことを見出した。
さらに本発明は、投与後のリポソームが長期の血液滞留性を保持しているため、高い抗腫瘍効果と副作用軽減の観点から考えると、循環血液中では薬物を放出せず、EPRで病巣部位に集積した後に薬物を効率良く放出することが理想となる。従って、リポソームが病巣部位に集積した後、放出加速因子試薬を投与すれば、意図的に、患部でのリポソームからの薬物放出が加速され、病巣部位での薬物濃度が飛躍的に上昇することで、より高い抗腫瘍効果が得られることになる。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(3)に示されるものである。
(1)血中に、内水相に薬剤を含有し外水相に対してpH勾配を有するリポソーム(またはpH勾配法で充填された薬物を含有するリポソーム)を含有する液を投与した後、低分子アミノ酸化合物を投与するために使用される、前記リポソームと前記アミノ酸化合物とを有する組み合わせ製剤。
(2)低分子アミノ酸化合物が、分子量500以下のものである上記(1)に記載の組み合わせ製剤。
(3)前記低分子アミノ酸化合物は、リポソーム投与後所定時間経過後に投与される上記(1)または(2)に記載の組み合わせ製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、加温、磁場、超音波など特別な物理的刺激を加えることなく、リポソームからの薬物放出を加速することができる。具体的には、リポソームを体内に投与後、所定の時間後に放出加速因子試薬を投与することで、リポソームから薬物放出を加速させる方法である。本発明を用いることで、リポソームのEPR効果と、放出加速因子試薬を投与するタイミングを合わすことができ、病巣部位での薬物放出量が飛躍的に向上され、抗腫瘍効果を増強することが可能となる。すなわち、少ない薬物投与量で病巣部位に高濃度に分布させ、その薬物送達効果を相乗的に高めた治療効果が期待できる手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、リポソームからのDox放出における低分子アミン化合物の影響を示した図である。
【図2】図2は、放出加速因子試薬とDox放出挙動を示した図である。
【図3】図3は、フェニルアラニンエチルエステル濃度とDox放出挙動を示した図である。
【図4】図4は、マウス血漿に低分子アミン化合物を添加したときのDox放出挙動を示した図である。
【図5】図5は、Ex vivoにおける低分子アミン化合物によるDox放出への影響を示した図である。
【図6】図6は、血中Dox量(リポソーム量)とDox放出率の関係を示した図である。
【図7】図7は、低分子アミノ酸化合物による抗腫瘍効果への影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、詳細に説明する。
<リポソーム>
リポソームは、リン脂質二重膜で形成される閉鎖小胞であり、膜を隔てて、閉鎖空間内の内水相と外水相とが存在する懸濁液の状態で存在する。したがって、本明細書において、リポソームとは、このリポソーム懸濁液を含む意味で使用されることがある。リポソームの膜構造は、脂質二重膜の1枚層からなるユニラメラ小胞(Unilamellar Vesicle)および多重ラメラ小胞(Multilamellar Vesicle,MLV)、またユニラメラ小胞としてSUV(Small Unilamellar Vesicle)、LUV(Large Unilamellar Vesicle)などが知られている。本発明では、膜構造は特に制限されない。
【0013】
<EPR効果>
一般的に、炎症部位近辺では血管透過性が向上しており、約200nm以下の粒子が透過することができることが知られている(Int. J. Pharm. 1999, 190, 49-56)。この現象はEPR (Enhanced Permeability and Retention)と呼ばれており、リポソームの粒子径を200nm以下に制御することで標的細胞への移行を達成することができる。さらに、このEPR効果によりリポソームは持続的に標的臓器に送達されることになり、標的臓器中の薬物は、投与後数時間遅れて最高血中濃度に達し、標的臓器に送達される薬物量は飛躍的に向上することとなる(DD Lasic、D PapahadjopouLos著 [MEDICAL APPLICATION OF LIPOSOMES])。このためリポソームの粒子径はこのEPR効果を利用できる範囲で設定されることが望ましく、具体的には50から200nm、好ましくは70から180nmの大きさなど、EPR効果を求めないリポソーム製剤設計の場合は、この限りではなく、粒子径も特に限定されない。
【0014】
<リン脂質>
リン脂質は、一般的に、分子内に長鎖アルキル基より構成される疎水性基と、リン酸基より構成される親水性基とをもつ両親媒性物質である。リン脂質としては、ホスファチジルコリン(=レシチン)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなどのグリセロリン酸;スフィンゴミエリン(SM)などのスフィンゴリン脂質;カルジオリピンなどの天然または合成のジホスファチジルリン脂質およびこれらの誘導体;これらの水素添加物たとえば水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)などを挙げることができる。リン脂質は単一種または複数種組合せであってもよい。
本発明において、リポソームを安定的に形成できるものであれば、リン脂質以外の膜成分を含むこともできるが、リン脂質は、主膜材としての観点から、封入された薬物が、保存時に、または血液などの生体中で容易に漏出しないようにするため、相転移点が生体内温度(35から37℃)より高い主膜材を用いることが望ましい。主膜材の相転移点は、40℃以上であることが好ましい。このような相転移点をもつリン脂質として、上記のうちでも、HSPCなどの水素添加リン脂質、SMなどが好ましい。
【0015】
<脂質以外の添加物>
上記他の膜成分としては、たとえばリン酸を含まない脂質(他の膜脂質)、膜安定化剤、酸化防止剤などを必要に応じて含むことができる。他の脂質としては、脂肪酸などが挙げられる。膜安定化剤としては、たとえば膜流動性を低下させるコレステロールなどのステロール、グリセロール、スクロースなどの糖類が挙げられる。酸化防止剤としては、たとえばアスコルビン酸、尿酸あるいはトコフェロール同族体すなわちビタミンEなどが挙げられる。トコフェロールには、α、β、γ、δの4個の異性体が存在するが、本発明ではいずれも使用できる。
なお、本発明では、リポソーム膜成分の脂質とは、主膜材のリン脂質、他の膜脂質および上記膜安定化剤であるステロールなどの脂質、さらには後述の膜修飾剤に含まれる脂質など、薬物以外の脂質をすべて含む意味で用いられる。
このような膜成分の脂質全量を100mol%とするとき、リン脂質は、通常20から100mol%であり、好ましくは40から100mol%であり、他の脂質は、通常0から80mol%であり、好ましくは0から60mol%である。
また本発明では、リポソームの膜構造を保持しうるものであって、リポソーム製剤に含むことができる他の膜修飾成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含むことができる。
【0016】
<親水性高分子>
膜修飾成分としては、たとえば親水性高分子、および他の表面修飾剤が挙げられる。これら膜修飾成分の使用時期は、リポソーム調製工程であれば特に制限されないが、これらのうち、親水性高分子による膜修飾は、分布の効率ならびに親水性高分子が内水相に存在する薬物の影響を受けにくいなどの面から、親水性高分子をリポソーム膜の外表面、特に脂質二重膜の外膜から外水相側に選択的に分布させることが好ましい。このため、本発明では、本願出願人による特公平07−20857号公報に開示されているように、リポソーム外側に親水性高分子を修飾することが好ましく、具体的には、リポソームを生成させた後、特に整粒化工程後に添加して修飾することが望ましい。親水性高分子は、その脂質誘導体として用いると、疎水性部分である脂質部分が膜中に保持されることで、親水性高分子鎖を安定に外表面に分布させることができる。
親水性高分子は、特に制限されないが、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアスパルトアミド、合成ポリアミノ酸などが挙げられる。さらに、グルクロン酸、シアル酸、デキストラン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどの水溶性多糖類およびその誘導体、たとえば糖脂質が挙げられる。
これらの中でも、ポリエチレングリコール(PEG)は、血中滞留性を向上させる効果があり、好ましい。PEGの分子量は、特に限定されないが、通常、500から10,000ダルトン、好ましくは1,000から7,000ダルトン、より好ましくは2,000から5,000である。
親水性高分子脂質誘導体の脂質(疎水性部分)としては、たとえばリン脂質、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。具体的に、親水性高分子がPEGである場合には、PEGのリン脂質誘導体またはコレステロール誘導体が挙げられる。このリン脂質は、ホスファチジルエタノールアミンが好ましく挙げられ、そのアシル鎖は通常、C14−C20程度の飽和脂肪酸、たとえばジパルミトイル、ジステアロイルあるいはパルミトイルステアロイルなどが挙げられる。たとえばPEGのジステアロイルホスファチジルエタノールアミン誘導体(PEG-DSPE)などは、入手容易な汎用化合物である。
親水性高分子によるリポソーム修飾率は、膜(総脂質)に対する親水性高分子量の割合として、通常0.1から10mol%、好ましくは0.1から5mol%である。
【0017】
<リモートローディング法>
リモートローディング法とは、薬物が内封されていない空リポソームを製造し、リポソーム外液に薬物を加えることによりリポソームに薬物を導入する方法である。リモートローディング法では、外液に加えられた薬物が、能動的にリポソームへと移行し、リポソームへと取り込まれる。このドライビングフォースとしては、溶解度勾配、イオン勾配、pH勾配などが用いられている。例えば、リポソーム膜を隔てて形成されるイオン勾配を用いて薬物をリポソーム内部に導入する方法がある。例えば、Na/K濃度勾配に対するリモートローディング法により予め形成されているリポソーム中に薬物を添加する技術がある(特許第2847065号)。
イオン勾配の中でもプロトン濃度勾配が一般的に用いられ、例えばクエン酸を用いて、リポソーム膜の内側(内水相)pHが、外側(外水相)pHよりも低いpH勾配をもつ態様が挙げられる。pH勾配は、具体的に、アンモニウムイオン濃度勾配および/またはプロトン化しうるアミノ基を有する有機化合物の濃度勾配などにより形成することができる(特許第2659136号)。
また近年では、イオノファをリポソーム膜に導入することによりリモートローディングを行う方法も開示されている。(特表2001−510451号)。
本発明で使用されるリポソーム製剤は、リモートローディング法で製造されている必要がある。リモートローディング法の中でも硫酸アンモニウムを用いた方法がもっとも簡便であり好適ではあるが、リモートローディング法の方法については特に限定されるものではない。
【0018】
<封入される薬物>
本発明では好適な保持薬物はリモートローデングでリポソーム内に保持可能であればよく特に限定されないが、両親媒性弱塩基であることが好ましい。弱塩基性物質は下記の活性剤を包含する: ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、カルシノマイシン、N-アセチルアドリアマイシン、ルビダゾン、5-イミドダウノマイシン、N-アセチルダウノマイシン、全てのアントラシリン薬品、ダウノリリン、トポテカン、イリノテカン、9-アミノカンプトテシン、10,11-メチレンジオキシカンプトテシン、9-ニトロカンプトテシン、TAS103、7-(4-メチルーピペラジノーメチレン)-10,11-エチレンジオキシ-20(S)-カンプトテシン、7-(2-イソプロピルアミノ)エチル-20(S)-カンプトテシン、CKD-602、UCN-01、プロプラノロール、ペンタミジン、ジブカイン、ブピバカイン、テトラカイン、プロカイン、クロルプロマジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ビンデシン、ミトマイシンC 、ピロカルピン、フィソスチグミン、ネオスチグミン、クロロキン、アモジアキン、クロログアニド、プリマキン、メフロキン、キニン、プリジノール、プロジピン、ベンズトロピンメシレート、トリヘキシフェニジル塩酸塩、プロプラノロール、チモロール、ピンドロール、キナクリン、ベナドリル、塩酸ファチジル、プロメタジン、ドーパミン、L-DOPA、 セロトニン、エピネフリン、コデイン、メペリジン、メタドン、モルフィン、アトロピン、デシクロミン、メチキセン、プロパンテリン、イミプラミン、アミトリプチリン、ドキセピン、デシプラミン、キニジン、プロパラノロール、リドカイン、クロルプロマジン、プロメタジン、ペルフェナジン、アクリジンオレンジ、鎮痛剤、例えばモルヒネ、ブピバカインなどが挙げられる。
特に、薬物が内部で強固に沈殿し脂質膜透過性の低い薬物として、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシンが好ましく例示される。
【0019】
<リポソーム内水相溶液>
両親媒性弱塩基性薬物をリポソーム内に封入するために用いられるリポソームの内部水相は、前記塩基性薬物と共にリポソーム内に封入される対イオンの選択が重要となる。前記対イオンとしては、水酸化物、硫酸塩、燐酸塩、グルクロン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、シアン酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、臭化物、塩化物、および他の無機または有機アニオン類、またはアニオン性重合体、例えば硫酸デキストラン、燐酸デキストラン、ホウ酸デキストラン、カルボキシメチルデキストランなどを包含する非限定的例から選択することができる。
内水相のpHについては、リモートローディング法の手法に応じて異なる。例えば、クエン酸を用いた場合、あらかじめ内水相と外水相のpH勾配を形成しておく必要があり、その場合はΔpH3以上であることが好ましい。それ以外のリモートローディング法の場合は、化学平衡によってpH勾配が形成されるために特に考慮する必要はない。
【0020】
<リポソーム外水相溶液>
外水相はアンモニウムイオンを欠いた媒質が用いられ、具体的にはNaCl、グルコース、ショ糖などの糖類が用いられる。外水相のpHについては緩衝剤によって調整されていることが望ましく、脂質の分解および生体内投与時のpH格差を考慮してpH5.5から7.5の範囲で調整されることが好適である。ただし、クエン酸を用いてリポソーム内外のpH勾配を形成する場合は、先に示したようにΔpH3以上とするためにはpH7.0付近であることが望ましい。リポソームの内水相と外水相の浸透圧については、両者の浸透圧差でリポソームが破壊されることのない範囲の浸透圧で調整されていればよく特に限定はされないが、リポソームの物理的安定性を考慮して、内水相と外水相の浸透圧差は少ないほど望ましい。
【0021】
<放出加速因子試薬>
本発明で記載の放出加速因子とは、リモートローディング法で封入されたリポソーム製剤において有用である。放出加速因子試薬の及ぼす具体的な効果とは、生体内投与可能な低分子アミンあるいはアミノ酸がリポソーム内部に侵入することで、内/外部で形成されたpH勾配が失われることになり、内部に保持されていた薬物と対イオンとの相互作用が弱まり、その結果、薬物放出が加速されることになる。
本発明の放出加速因子試薬は、生体内投与可能な低分子アミン化合物あるいはアミノ酸化合物であり、膜透過性を考慮すると、分子量500以下が望ましく、その分子量は小さいほど好適である。低分子アミン化合物は特に限定されないが、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンが挙げられる。具体的にはメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、2’−ジエチルアミノエタノール、エチレンジアミン、ジエチルアミン、アンモニアなどが挙げられる。アミノ酸化合物はlogP(水/オクタノール分配係数)が−2より大きいものが好ましく、具体的には、天然アミノ酸としてはフェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシンなどの化合物が挙げられる。非天然アミノ酸では、特に限定されないが、フェニルアラニンエチルエステル、フェニルアラニンメチルエステル、トリプトファンエチルエステル、トリプトファンメチルエステルなどのアミノ酸誘導体が挙げられる。
またこれら低分子アミン化合物あるいはアミノ酸化合物を供給する手段としては対イオンの形態でもよく、前記対イオンとしては、水酸化物、硫酸塩、塩酸塩、燐酸塩、グルクロン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、シアン酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、臭化物、塩化物、および他の無機または有機アニオン類、またはアニオン性重合体、例えば硫酸デキストラン、燐酸デキストラン、ホウ酸デキストラン、カルボキシメチルデキストランなどを包含する非限定的例から選択することができる。
選択された放出加速因子試薬の濃度はその濃度によって放出速度が異なる。
【0022】
<放出加速因子の投与方法>
本発明におけるリモートローディング法リポソームは、血中滞留性に優れており、投与後、長期に血中での安定性を保つことができるため、EPR効果により、薬物を担持した状態で薬物を病巣部位へ送達することができる。薬物の病巣部位への送達性とは、薬物を担持したリポソームが病巣部位まで到達することを意味する。また、ここでいう「病巣部位」とは、腫瘍や炎症部位の細胞、組織、器官または臓器を意味する。強い坑腫瘍効果を得るためには、リポソームが病巣部位に集積したあと、リポソームからの薬物放出が、放出加速因子により意図的に加速されることが好ましい。その結果、病巣部位での薬物濃度が飛躍的に上昇し、強い抗腫瘍効果が期待される。
該放出加速因子試薬は、非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。非経口的投与の経路としては、たとえば点滴などの静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射を選択することができ、症状により適宜投与方法を選択することができる。本発明の放出加速因子試薬は、リモートローディング法リポソームからの薬物放出を意図的に加速できるために十分な量で投与され、かつ、その投与される量は、生体内に投与可能な範囲である。
投与時期は、投与したリモートローディング法リポソームが、EPRで病巣部位に集積した後、具体的にはリポソーム投与後、24〜48時間後に投与してもよいし、あるいは、病巣部位に集積しなかったリポソームの副作用予防を目的として、毒性の発症が予測される時に局所的に投与してもよい。また、投与期間は、症状により適宜選択することができる。
具体的な投与方法としては、放出加速因子をシリンジや点滴によって投与することができる。また、カテーテルを体内、たとえば管腔内、たとえば血管内に挿入して、その先端を病巣部位付近に導き、当該カテーテルを通して、処望の病巣部位またはその近傍あるいは病巣部位への血流が期待される部位から投与することも可能である。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるべきものではない。
下記に、本実施例における停止液、脂質濃度測定方法、薬物定量方法ならびに放出率の算出方法を示した。
・停止液調製方法(無機塩系)
塩化ナトリウム5.84gとリン酸二水素ナトリウム15.60gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH3.0に調整し、水を加えて1000mLとし、放出停止液とした。なお、上記調製方法に従い停止液を調製したとき、停止液の浸透圧は300mOsmであった。
・停止液調製方法(血漿系)
リン酸14.7gを正確に量り、水を加えて正確に1000mLとする。
・脂質定量(mg/mL)
リン脂質定量キット(リン脂質Cテストワコー、和光純薬工業株式会社)を用いて脂質濃度の測定を行った。
・粒子径(nm)
リポソーム分散液20μLを生理食塩水で3mLに希釈し、Zetasizer Nano ZS90で測定した平均粒子径である。
【0024】
・ドキソルビシン(Dox)定量:
本実施例で調製したDox含有リポソーム0.5mLを20mLのメタノール中に分散した。この溶液1mLにpH3.0の0.1mol/Lリン酸ニ水素ナトリウム溶液1mLを加え混合し、試料溶液とした。別に、濃度の異なるDox溶液1mLに、pH3.0の0.1mol/Lリン酸ニ水素ナトリウム溶液1mLを加え混合し、検量線用標準溶液を調製した。試料溶液および標準溶液について、下記測定条件に従いHPLC法により測定を実施した。Dox濃度は検量線式より算出した。
測定条件
ガードカラム:GLカート Inertsil ODS−2(ジーエルサイエンス社製)
カラム:Inertsil ODS−2(250x4.6mm、5μm)(ジーエルサイエンス社製)
測定波長:254nm
移動相:ギ酸5mLにRO水900mLを加え、アンモニア水でpH4.0に調整した液:アセトニトリル=700:300
流速:1mL/min
注入量:50μL
カラム温度:40℃
【0025】
・外液中Dox定量:
後述する調製例1で調製したDox含有リポソームを生理食塩水で10倍希釈した後、超遠心分離によりリポソームに含有されていない薬物を分離した。超遠心後サンプルの上清50μLを蛍光分析用メタノール2mLに分散し試料溶液とした。別に、濃度の異なるDox水溶液50μLを蛍光分析用メタノール2mLに分散し、検量線用標準溶液を調製した。試料溶液および標準溶液について、励起波長480nmならびに蛍光波長580nmでの蛍光強度を分光蛍光光度計にて定量した。
・放出したDox定量(無機塩系):
試料を停止液で10倍希釈した後、超遠心分離によりリポソームに含有されていない薬物を分離した。超遠心後サンプルの上清1mLにpH3.0の0.1mol/Lリン酸ニ水素ナトリウム溶液1mLを加え混合し、試料溶液とした。別に、濃度の異なるDox溶液1mLに、pH3.0の0.1mol/Lリン酸ニ水素ナトリウム溶液1mLを加え混合し、検量線用標準溶液を調製した。試料溶液および標準溶液について、Dox定量に示したHPLC条件に従い、定量を行った。
・放出したDox定量(血漿系)
試料を停止液で10倍希釈した後、超遠心分離によりリポソームに含有されていない薬物を分離した。超遠心後のサンプルの上清1mLにメタノール1mLを加え混合し、遠心分離し、上清を試料溶液とした。別に、濃度の異なるDox溶液1mLに、1.5Mのリン酸溶液1mLを加え混合し、検量線用標準溶液を調製した。試料溶液および標準溶液について、Dox定量に示したHPLC条件に従い、定量を行った。Dox濃度は検量線式により算出した。
測定条件
ガードカラム:GLカート Inertsil ODS−2(ジーエルサイエンス社製)
カラム:Inertsil ODS−2(250x4.6mm、5μm)(ジーエルサイエンス社製)
測定波長:254nm
移動相:ギ酸5mLにRO水900mLを加え、アンモニア水でpH4.0に調整した液:アセトニトリル=700:300
流速:1mL/min
注入量:50μL
カラム温度:40 ℃
【0026】
[放出率計算方法:放出率(%)=放出した薬物量/総薬物量×100]
【0027】
以下に使用した略称および分子量を示す。
HSPC:水素添加大豆フォスファチジルコリン(分子量790、Lipoid社製)
DMPC:ジミリストイルフォスファチジルコリン(分子量677.9、日油社製)
PEG5000−DSPE:ポリエチレングリコール(分子量5000)−フォスファチジルエタノールアミン(分子量6081、日本油脂社製)
Chol: コレステロール(分子量:386.86、Solvay社製)
Dox: 塩酸ドキソルビシン(分子量:579.99、RPG Life Science Limited社製)
エチレンジアミン(分子量;60.10、関東化学社製)
2−アミノエタノール(分子量;61.08、関東化学社製)
ジエチルアミン(分子量;73.14、関東化学社製)
トリエタノールアミン
フェニルアラニンエチルエステル
【0028】
(調製例1)Dox含有リポソームの製造
HSPC 0.70gおよびChol 0.29gをそれぞれ量りとり、エタノール1mLを加え、70℃の恒温槽で加温・溶解した。別に、250mMの硫酸アンモニウム溶液9mLを70℃の恒温槽で加温した。この液を溶解した脂質に添加し、さらに加温し、脂質分散体を得た。
脂質分散体を、約70℃に加温したエクストルーダー(The Extruder T.10、Lipexbiomembranes Inc.)に取り付けたフィルター(孔径0.2μm×3回、0.1μm×10回、Whatman社)を順次通して整粒化を行い、整粒化後リポソ−ムを得た。
秤量した総脂質量(HSPCとCholの和)に対してPEG5000−DSPEの含量が0.75mol%に相当する量の約37.7mg/mLのPEG5000−DSPE水溶液を予め65℃に設定した恒温槽中で加温しておき、このPEG5000−DSPE水溶液と整粒化後リポソームを混合した。混合後、65℃に設定した恒温槽中で30分間加温し、PEG修飾リポソームを得た。
PEG修飾リポソームを、外水相(pH7.4,10%スクロース/10mMヒスチジン溶液)にて置換したゲルカラムにて外水相置換を行った。
リン脂質定量キットを用いて測定した脂質濃度をもとに、外液置換後リポソームにDox/Lipidの比が0.16(mol/mol)となるように、薬物溶液を加えて、60℃の恒温槽中で60分間加温し、薬物導入後リポソームを得た。
薬物導入後リポソームに含まれる未封入薬物を除去するために、外水相(pH 6.5,10%スクロース/10mMヒスチジン溶液)にて置換したゲルカラムにて未封入薬物除去を行った。
未封入薬物除去工程後に得られた試料をフィルター(0.2μm)にてろ過し、その後、薬物定量および脂質濃度を定量した。
表1に調製例1で得られたDox含有リポソームの特性を示した。
【0029】

【0030】
(実施例1)低分子アミン化合物による強制放出挙動
本実施例において、リポソームからのドキソルビシンの放出に関して、低分子アミン化合物(エチレンジアミン、2−アミノエタノール、ジエチルアミン、トリエタノールアミン)による放出挙動の影響を検証した。尚、本実施例において、リポソームは調製例1を用いた。
250mMとなるように低分子アミン化合物を量り取り、リン酸緩衝液を加えてpH7.4の放出試験液を調製した。調製例1に示したDoxリポソームを上記放出試験液で10倍希釈し、37 ℃で加温した。加温開始後、0、2、4時間で試料を取り出した。なお、サンプルは使用するまで氷冷下で保存した。放出したDoxの定量は、上記に述べた無機塩系の定量法に従い実施した。その結果、図1に示すように、リポソームからのドキソルビシンの放出は、いずれの低分子アミン化合物を用いた場合も経時的に増加し、放出が加速されることが明らかとなった。また、加速するDoxの放出量は、低分子アミン化合物の種類により異なることが明らかとなった。トリエタノールアミンを用いたとき最も放出量が少なかった原因は、トリエタノールアミンのlogPおよび分子量が他の化合物と比べて大きいためだと考えられる。
【0031】
(実施例2)低分子アミン化合物濃度による強制放出への影響
本実施例において、リポソームからのDox放出に関して、低分子アミン化合物濃度による影響を検証した。
尚、本実施例において放出加速因子試薬には、エチレンジアミンと2−アミノエタノールを用い、リポソームは調製例1で得られたものを用いた。
50および250mMとなるように各低分子アミン化合物を量り取り、リン酸緩衝液を加えてpH7.4の放出試験液を調製した。調製例1に示したDoxリポソームを上記放出試験液で10倍希釈し、37℃で加温した。加温開始後、0、2、4時間で試料を取り出した。なお、サンプルは使用するまで氷冷下で保存した。放出したDoxの定量は、上記に述べた無機塩系の定量法に従い実施した。その結果、図2に示すように、Doxの放出量は、いずれの低分子アミン化合物を用いた場合も、濃度依存的に加速することが明らかとなった。
【0032】
(実施例3)フェニルアラニンエチルエステル(アミノ酸)による強制放出への影響
本実施例において、リポソームからのDox放出に関して、アミノ酸化合物(フェニルアラニンエチルエステル)による影響を検証した。各所定濃度(50、75、100、200mM)になるようにフェニルアラニンエチルエステルを量り取り、リン酸緩衝液を加えてpH7.4の放出試験液を調製した。放出試験は、実施例1および2と同様に行った。その結果を図3に示す。Doxの放出は、フェニルアラニンエチルエステル存在下において促進されることが明らかとなった。また、Dox放出量は、フェニルアラニンエチルエステル濃度に従い、依存的に増加することが明らかとなった。
【0033】
(実施例4)マウス血漿中Dox放出における低分子アミン化合物の影響
本実施例において、リポソームからのDox放出に関して、マウス血漿中Dox放出における低分子アミン化合物の影響を検証した。
尚、本実施例において放出加速因子試薬には、エチレンジアミンと2−アミノエタノール、トリエタノールアミンを用い、リポソームは調製例1で得られたものを用いた。
マウス血漿に所定濃度に調整した各低分子アミン化合物を添加後、リポソームを加え、37℃で加温した。加温開始後、0、2時間で試料を取り出した。なお、サンプルは使用するまで氷冷下で保存した。放出したDox定量は、上記に述べた血漿系の定量法に従い実施した。その結果を図4に示す。低分子アミン化合物非存在下でのマウス血漿中ではDoxは放出しなかったが、低分子アミン化合物存在下においては、Doxの放出が促進されることが明らかとなった。また、Dox放出の促進に必要な低分子アミン化合物は、5〜10mMでも十分であることが明らかとなった。
【0034】
(実施例5)Ex vivoにおける低分子アミン化合物によるDox放出への影響
本実施例では、Ex vivoにおいて、採血したDox含有リポソームを用いて、低分子アミン化合物によるDox放出への影響を検証した。放出加速因子にはエチレンジアミンを用い、リポソームはDoxil(ヤンセンファーマ)を用いた。マウスにリポソームを投与後、所定時間経過した後、採血した(3、8、24時間)。採血後の血液を、遠心機を用いて血漿のみ回収し、そこに所定濃度(5、11mM)になるようにエチレンジアミンあるいはコントロールとして生理食塩水を添加後、各試料を37℃で加温した。加温開始後、1時間で試料を取り出した。なお、サンプルは使用するまで氷冷下で保存した。放出したDoxの定量は、上記に述べた血漿系の定量法に従い実施した。その結果を図5に示す。採取後のDox含有リポソームは、エチレンジアミン非存在下では全く放出しなかったが、エチレンジアミン存在下において、著しく放出が促進されることが明らかとなった。また、投与後、採血する時間が長ければ長いほど、つまり、血中のリポソーム量が少ないほど、Doxの放出率は高いことが明らかとなった。また、図6に示すように、血中におけるリポソーム量とDoxの放出率は良好な相関関係を示すことが明らかとなった。
【0035】
(実施例6)In vivoにおける低分子アミノ酸化合物による抗腫瘍効果への影響
本実施例では、In vivoにおいて、担癌マウスに投与したDox含有リポソームを用いて、低分子アミノ酸化合物によるDox放出への影響を検証した。放出加速因子にはフェニルアラニンエチルエステルを用い、リポソームはDoxil(ヤンセンファーマ)で作成したものを用いた。4T1細胞を鼠頚部皮下に移植した。腫瘍サイズが約300mmとなった時点でマウスにリポソームを投与し、24時間経過した後、腫瘍組織量の10%容の1mol/L フェニルアラニンエチルエステルを腫瘍組織内に注入した。リポソーム投与後、13日目に腫瘍重量を測定した。その結果を図7に示す。Doxilを投与することにより腫瘍重量は生食対照群および生食+フェニルアラニンエチルエステル対照群に比較し53%抑制されたが、24時間後にフェニルアラニンエチルエステル投与したことにより、腫瘍重量は64%抑制された(表2)。低分子アミノ酸化合物を局所に投与し薬物放出を意図的に加速させることにより、抗腫瘍効果を高めることが可能であることが明らかとなった。
【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血中に、内水相に薬剤を含有し外水相に対してpH勾配を有するリポソームを含有する液を投与した後、低分子アミノ酸化合物を投与するために使用される、前記リポソームと前記アミノ酸化合物とを有する組み合わせ製剤。
【請求項2】
低分子アミノ酸化合物が、分子量500以下のものである請求項1に記載の組み合わせ製剤。
【請求項3】
前記低分子アミノ酸化合物は、リポソーム投与後所定時間経過後に投与される請求項1または2に記載の組み合わせ製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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