説明

リレー駆動回路

【課題】
大型化やコスト上昇を伴うことなく起動速度を迅速化し、使用方法によっては消費電流を大幅に低減することが可能なリレー駆動回路を提供することを目的としている。
【解決手段】
駆動コイルに通電して可動接点を開閉制御するリレーの駆動コイルに、駆動電源の立ち上がりエッジから所用時間前記リレーの定格値を越える電流/電圧を供給し、所要時間経過後にリレーの定格以内の電流/電圧に戻すように動作し、又は、制御する電流/電圧制御素子を備える。この電流/電圧制御素子は、定電流ダイオード、定電圧ダイオード、電圧制御機能を備えた電源回路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリレー駆動回路に関し、詳しくは電磁リレーの立ち上がり時間を短縮し、消費電流の低減制御が可能なリレー駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁コイルに通電し、その磁力によって接点を開閉する機械的なリレー回路は、半導体スイッチで代用できない種々の場面で使用されている。例えばこの例に限らないが、プレストーク方式無線送受信機の送受信回路とアンテナとの切替手段としては機械的な接点切替方式が種々の理由から好ましく、通常、リレー回路が使用されている。具体的には、無線送受信機とアンテナとの間にリレー回路を挿入し、送信・受信を繰返す毎にリレースイッチをオン・オフすることによって、送信部出力端、受信部入力端のどちらか一方にアンテナを切替えて接続するように構成されることが多い。
しかし、電磁リレーでは周知のように、電磁コイルに駆動電圧を印加した際、コイルのインダクタンスの作用により、駆動コイルに流れる電流の立ち上がりが鈍るため、リレーの起動に遅れが生じる。ここでは、この遅延時間をリレー起動時間あるいは立ち上がり時間と云う。
【0003】
以下、図10に示す従来のリレー駆動回路の一例を用いて、その起動動作について説明する。
図10において、K101は電磁リレー(以下単に「リレー」と云う)であり、その駆動コイル(リレーK101に含まれる)の一方端に電源電圧ラインVccから電圧を供給し、駆動コイルの他方端は、リレードライバトランジスタ(リレー駆動トランジスタ)TR101を介して接地(アース)するとともに、動作電流・電圧波形測定のために、リレーK101の駆動コイルとTR101との間に電流計102を挿入し、電圧観測点103を設定している。
また同図10右側のスイッチSW101は、リレーK101の可動接点で、その起動動作(接点の開・閉)を測定するために抵抗R101を介して接地するとともに、SW101と抵抗R101との接続点に電圧観測点104を設定している。
図10に図示した観測点の電圧・電流波形と、それらの関係を示す図11を用いてリレー起動の様子を説明する。
【0004】
図11(a)はリレー駆動トランジスタTR101のベースBに印加する信号で、リレーK101をオン・オフするためのトランジスタ駆動信号である。実際の無線送受信機の操作は、一般に送信時間は比較的短時間で、殆どの時間は受信に費やされるので、マイクロホン等に付加されたプレストークスイッチを操作(押圧)している送信の間に、リレー駆動トランジスタTR101のベースBに電流を流してトランジスタスイッチをオン状態にする。なお、リレー駆動方式には、リレーをオンしている状態では継続して電流を流すシングルステーブルリレーと、オン・オフ時に通電するラッチングリレーとが有り、適宜使い分けられているが、ここではシングルステーブルリレーの場合を説明する。
リレー駆動トランジスタTR101(NPNトランジスタ)のベースに「高」電圧信号が印加され、ベースBからエミッタEにベース電流が流れるとトランジスタがオン(導通)状態になり、図11(b)に示すようにリレーK101の駆動コイルに印加された電圧により、電流計102に図11(c)に示す駆動電流が流れる。既に説明したように、駆動コイルに矩形波状の電圧が印加されると、駆動コイルのインダクタンスや浮遊容量等の時定数に起因する過渡現象により、電流の立ち上がりが鈍った波形となる。この結果、リレー接点は図11(d)に示すように、駆動コイルへの印加電圧からt時間(リレー起動時間)遅れて動作する。尚、リレー駆動時間tには、メカ部分の動作時間も含まれる。
【0005】
このような動作遅延が発生するリレー駆動回路を無線送受信機等に使用すると、送信機の送信電力増幅器出力端部が完全にアンテナに接続される前に送信電力が発生することがあり、送信電力増幅器の焼損の虞がある。また、電波の送信が遅れることから、送話の最初部分が欠落した話頭切断を生じ、明瞭な通話が妨げられる場合もある。
そこで、従来、このような不具合を回避するため立ち上がりの速いリレー駆動回路を実現する対策としては、起動速度が速いリレーを選択して使用する方法や、リレーの電圧/電流値を定格値ぎりぎりまで大きくした状態で使用する方法があった。即ち、リレー駆動電圧を大きくすると、その立ち上がり時間も短縮される。通常、実際のリレー駆動電圧や電流値は、定格値の80%程度で使用されるが、定格電圧値に近いより高い電圧値に設定すれば僅かながらリレー起動時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−93530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のように起動速度が速いリレーを選択して使用する方法では、一般的に高価であるので装置のコストアップを招く。例えば、無線送信機の送信電力が大きな場合は、リレーの接点容量や耐電圧特性や高周波特性に優れたリレーが必要であるが、高価である上、適応可能な品種も少なく選択の自由度が著しく制限されていた。
また、コストアップを避けるために上述したように、リレーの駆動電流値を定格値ぎりぎりまで大きく設定する方法では、リレーの耐久性を損なう虞もあり、同時に、大きな起動電流を通電すれば、その分発熱量も大きくなり放熱手段の追加も必要となる。特に、リレーは高温度状態では電磁力による保持力が低下することが知られており、動作が不安定になる可能性が生じるので適切な使用方法とは言い難い。
なお特許文献1に、リレーの駆動コイルと直列に、所用容量のコンデンサと抵抗素子との並列回路を挿入することによって、駆動コイルに電源電圧が印加された際コンデンサが満充電状態になるまでに流れる過渡電流によりリレーを起動し、コンデンサが満充電された後は抵抗素子によりリレー駆動コイルに流れる電流を制限するものが提案されている。これは、リレー起動後の電流値を少なくすることにより駆動コイルの発熱量を低減する効果はあるが、リレーの起動促進に寄与するものではない。
本発明は、このような従来のリレー駆動回路の問題点を解決するためになされたものであって、大型化やコスト上昇を伴うことなく起動速度を迅速化し、使用方法によっては消費電流を大幅に低減することが可能なリレー駆動回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するために、本発明に係るリレー駆動回路は、少なくとも、駆動コイルに通電することによって可動接点を開閉制御するリレーと、このリレーの駆動コイルに電圧を供給する駆動電源供給手段と、駆動電源供給手段から駆動コイルに駆動電流/電圧を供給するルートに配置した電流/電圧制御手段と、を含むリレー駆動回路において、上記駆動電源供給手段がリレーの定格値を越える電圧を供給するものであり、上記電流/電圧制御手段が、第一の開閉スイッチ素子と、供給された駆動電流/電圧の立ち上がりエッジから所用時間リレーの定格値を越える電流/電圧を上記リレーの駆動コイルに供給し、上記所要時間経過後にリレーの定格以内の電流/電圧をリレーの駆動コイルに供給するように動作し、又は、制御する電流/電圧制御素子を含むものであることを特徴とする。
なお、ここで電流/電圧とは、電流又は電圧、及びその両方を意味するので、制御する対象は、電流値、電圧値、その両方の場合を含むものとする。
この構成によれば、供給された駆動電流/電圧の立ち上がりエッジから所用時間定格値を越える電流/電圧がリレーに供給されるので、定格値の電流/電圧で駆動する場合に比較して、リレーの起動時間か短縮されたものとなる。しかも、リレーの可動接点が接状態に動作後には、定格以内の駆動電流/電圧に移行するので、定格値を越える電流通電時間は瞬間的であり、発熱量は僅かである。
【0009】
また本発明のリレー駆動回路は、上記電流/電圧制御手段が、定電流ダイオードを含むものであることを特徴とする。
本発明出願人は、種々実験の結果、リレー駆動コイルに直列に定電流ダイオードを挿入し、定格値を越える駆動電圧を印加すると、駆動電流/電圧の立ち上がりエッジから所用時間は定電流作用が機能せず、定電流ダイオードは電流制限作用が無いスルー(短絡)状態になり、リレーの定格値を越える電流がリレーに供給されると云う現象を発見したものであり、更に、この現象を利用することによって、複雑な制御回路を要することなく、定電流ダイオード自体の作用により、リレー駆動電流/電圧立ち上がりエッジに定格値以上の電流/電圧を印加することによって、瞬間的にリレーを起動することができる回路を発明したものである。
【0010】
また、本発明のリレー駆動回路は、上記の定電流ダイオードに並列に、抵抗、又は、サーミスタ、又は、抵抗とサーミスタの回路網が接続されたことを特徴とする。
この構成によれば、定電流ダイオードの温度上昇に伴う電流値の変動を補償することができる。
【0011】
また本発明のリレー駆動回路は、上記電流/電圧制御手段が、定電圧ダイオードと、この定電圧ダイオードと並列に接続された第二の開閉スイッチ素子を含み、第一、第二の開閉スイッチ素子夫々を所用時間シフトした制御信号によって開閉することによって、供給された駆動電流/電圧の立ち上がりエッジから所用時間リレーに定格値を越える電流/電圧を供給し、所要時間経過後は、定格以内の駆動電流を供給するように構成したことを特徴とする。
この構成によれば、定電流ダイオードの代わりに定電圧ダイオードを使用して、同様に機能するリレー駆動回路を実現することが可能であるので、本発明を実施する際の設計の自由度が大きくなる。
【0012】
また、本発明のリレー駆動回路は、上述した定電圧ダイオードを使用する発明において、上記電流/電圧制御手段が、第一の開閉スイッチ素子の制御端と第二の開閉スイッチ素子の制御端との間に、立ち上がりエッジから所用時間リレー定格値を越える駆動電流/電圧を供給するために必要な信号遅延手段を挿入したことを特徴とする。
この構成によれば、第一の開閉スイッチの制御端子に供給したリレー制御信号が、設定した遅延時間をもって第二の開閉スイッチの制御端子に供給されるので、第一の開閉スイッチと、第二の開閉スイッチを所用の遅延時間をもって駆動することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上説明したように、リレー駆動電源供給手段に、リレーの定格値を越える電流/電圧を供給できる機能を備えるとともに、リレーに駆動電流/電圧を供給する際、その立ち上がりエッジから僅かな時間(瞬間的)にリレーの定格値を越える電流/電圧を供給することによって、リレーの起動時間を短縮し、所要時間経過後にリレー駆動電流/電圧を定格以内の値に戻すように構成したものである。
従って、大型化やコスト上昇を伴うことなく起動速度を迅速化し、使用方法によっては消費電流を大幅に低減することが可能なリレー駆動回路を提供することができる。
また、実施例において定電圧ダイオードや定電流ダイオード、あるいは同様に機能する素子を使用するものにおいては、電源電圧が変動しても安定したリレー動作を得ることができる。特に、電源電圧値の変動が大きい車載電子機器等においては、バッテリィの電圧変動が大きいのでリレーの安定動作をもたらす上でも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のリレー駆動回路の一例を示す回路図。
【図2】本発明のリレー駆動回路の動作を説明する図で(a)はTR1のベース電圧信号波形図、(b)は観測点3の電圧波形図、(c)はリレー駆動コイルに流れる電流波形図、(d)はSW1の開閉動作を示す図。
【図3】本発明のリレー駆動回路の他の例を示す回路図。
【図4】本発明のリレー駆動回路の他の例を示す回路図。
【図5】本発明によって温度補償した効果を示すリレー駆動電流/電圧特性図。
【図6】本発明のリレー駆動回路の他の例を示す回路図。
【図7】本発明のリレー駆動回路の動作を説明する図で(a)はTR1のベース電圧信号波形図、(b)は観測点4の電圧波形図、(c)はTR2のベース供給信号波形図、(d)はTR2の動作を示す図、(e)は定電流ダイオードの両端電圧波形図、(f)は観測点3の電圧波形図。
【図8】本発明のリレー駆動回路の他の例を示す回路図。
【図9】本発明のリレー駆動回路の他の例を示す回路図。
【図10】従来のリレー駆動回路の例を示す回路図。
【図11】従来のリレー駆動回路の動作を説明する図で(a)はTR101のベース電圧信号波形図、(b)は観測点103の電圧波形図、(c)はリレー駆動コイルに流れる電流波形図(電流計波形)、(d)リレーのSW101の開閉動作を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明に係るリレー駆動回路の一実施例を示す回路図である。
図1において、K1は電磁リレー(以下単に「リレー」と云う)であり、その駆動コイル(リレーK1に含まれる)の一方端に電源電圧ラインVから駆動電圧を供給し、駆動コイルの他方端は、リレードライバトランジスタ(リレー駆動トランジスタ:第一の開閉スイッチ素子)TR1を介して接地(アース)するとともに、リレーK1の駆動コイルとTR1との間に定電流電ダイオード1と補償抵抗R1の並列回路を挿入する。更に、電流値・電圧観測のために電流計2を挿入し、電圧観測点3を設定している。
この構成において特徴的な点は、上記電源電圧Vが、リレーの定格値を越える値(この例では、定格電圧Vccの2倍)に設定されていること、及び、定電流ダイオードを駆動コイルに直列に挿入した点である。常識的には、リレーの駆動電圧として定格値の80%〜90%程度に設定されるが、本発明では常識を覆して、例えば、定格値の1.5倍乃至n倍程度に設定する。ここで、n倍は、使用するリレーの許容電流/電圧値や、本発明に基づいて、起動時に定格値以上の電流/電圧を通電すべき時間(Td)に発生する熱量等を勘案して適宜設定する。即ち、許容最大電流/電圧が大きなリレーであれば、n倍値を大きく設定できるので、その分起動短縮効果が得られる。
【0017】
なお、同図1の右側のスイッチSW1は、リレーK1の可動接点で、その起動動作(接点の開・閉)を測定するために電源電圧ラインとの間に抵抗R2と電圧観測点4を設け、接地した構成としているが、実際の回路では、リレーの可動接点は、目的に応じて、他の回路の接点として使用される。また、図1に示した回路構成は、本発明の動作原理を説明するためのもので、実際のリレー回路においては、電流計2、電圧観測点3、4等は必要ないことは云うまでもない。
図1には、理解を容易にするために、各観測点の電圧波形を図示しているので、図10の従来のリレー回路説明図と比較すれば、本発明の効果が理解できるが、図2の各部信号波形図の関連を示す図2を参照しながら、図1のリレー駆動回路の動作を説明する。
【0018】
図2(a)はリレー駆動トランジスタTR1のベースBに印加する駆動信号で、リレーK1をオン・オフするためのトランジスタ駆動信号であり、立ち上がりエッジ部分を拡大表示している。なお、この例ではNPNトランジスタを使用しているが、これに限る必要はなく、PNPトランジスタやFET等であっても構わない。また、実際の無線送受信機に使用する場合は、例えば、マイクロホン等に付加されたプレストークスイッチを操作(押圧)している間に、リレー駆動トランジスタTR1のベースBに印加する電圧を「高」レベルにしてトランジスタスイッチをオン状態にするような使用方法が一般的であろう。
上述したようにリレー駆動コイルには定格値を越える電源電圧V(V=2Vcc)が印加されておりトランジスタTR1がオン(閉接)状態になると、リレーK1の駆動コイルに電流が流れるが、電流ルート中に定電流ダイオード1が挿入されているので、その作用によって図2(b)に示すような電流が流れる。即ち、定電流ダイオード1にパルス状の電圧波形が印加されると、その立ち上がりエッジ部分において、瞬間的に導通状態となり(そのとき両端電圧は小さくなる)、その後徐々に電流が減少し所用時間(t)経過すると定電流ダイオード1の特性(定電流特性)に応じた所定の電流値が流れる定常状態電圧(Vcc)となる。
【0019】
定電流ダイオードの使用例としては、発光ダイオード(LED)に一定電流を供給する目的でLEDに直列に接続するものが一般的であるが、本願出願人は、既に説明したように種々実験を繰返した結果、定電流ダイオード1のこのような現象を知見し、これをリレー駆動回路に利用したものである。このような現象を発生する理由は、駆動コイルのインダクタンス(L)、ダイオードの容量(キャパシタンス)やその他の浮遊容量、及び、駆動コイル等の抵抗(R)を総合した時定数(LCRの関数)、更には、ダイオードの接合特性によるものと考えられる。
リレーに直列に定電流ダイオード1を挿入し、定格電圧を超える駆動電源を供給すると、リレー駆動電源の立ち上がりエッジ部分では瞬間的に定格電圧を越える値、例えば定格電圧の1.5乃至3倍の電圧が印加されるので、リレー起動時間t(立ち上り時間)が大幅に短縮されたものとなる。本願出願人は、種々実験の結果、定格電圧(定格値の80%程度)で駆動させた場合に比べて、20%乃至50%程度短縮されることを確認している。
【0020】
図2(c)は電流計2に流れる駆動電流波形を示すもので、その結果、図2(d)に示すようにリレーK1の可動接点(SW1)の立ち上がり時間が短縮され、汎用品や低スペックの安価なリレーを、カタログスペック以上の高速動作をもったものとして動作させることが可能となる。なお、図2(c)の立ち上がりエッジ部分には、図示しない瞬間的に不規則な電流が発生している可能性があるが、実際の回路においては無視しても問題とならない。
このように本発明によれば、リレー駆動時に瞬間的に大きな電流を流し起動時間を短縮した後に、駆動電流を通常の定格値以内に戻すので、電流の増加やコストアップを伴うことなく、駆動電流/電圧の定格値が小さいリレーであっても迅速な立ち上げ制御が可能である。
なお、一旦起動した後の定常状態における駆動電流値は、必ずしも定格値の80%程度である必要はなく、30%乃至50%程度でも接点吸着状態維持が可能であることが知られているので、各リレーの定格(メーカから報知される値)に応じて、必要最小限の保持電流に設定することによって、更なる省電力効果を得ることも可能であろう。
また、図1の定電流ダイオード1に並列に接続した抵抗R1は、温度補償用抵抗である。即ち、高温状態において定電流ダイオード1の定電流(ピンチオフ電流)値が減少する結果、リレーの駆動力が低減するので、想定最高温度においても必要な駆動力が得られるように分流電流を通電するための抵抗であり、使用するリレーや定電圧ダイオード1の特性に応じて適宜抵抗値を設定する。
【0021】
図3は、本発明の変形実施例を示すリレー駆動回路である。この例では上述した定電流ダイオード1の温度上昇に伴う定電流値の変化を補正するために、図2において定電流ダイオード1に並列に接続した温度補償用抵抗を、サーミスタ(thermo sensitive register)に置き換えたものである。サーミスタは周知のように、マンガン、ニッケル等を主体にしたセラミックの小片に電極を取り付けた温度感知の半導体素子で、温度上昇に伴って電気抵抗が小さくなる正(PTC)/負(NTC)の温度係数をもった抵抗素子である。
図3に示す例では、定電流ダイオード1に負の温度係数を持ったNTCサーミスタ5を並列に接続し、高温になるに伴って抵抗値を小さくし、分流する電流を増加させることによって、定電流ダイオード1を介して流れる電流の減少分を補う(補償する)ものである。サーミスタの温度係数の選定は、使用するリレー、定電流ダイオード1の特性、想定する温度範囲等に応じて適宜選定すればよい。
【0022】
更に、図4は、温度補償のバリエーションの一例を示す回路図である。サーミスタを使用することによって、定電流ダイオード1の温度上昇に伴う電流減少を補償することができるが、温度が更に高温(高高温)になる場合や、電源電圧が異常に高くなると、大きな電流がサーミスタ流れ、更にサーミスタの抵抗値が小さくなって自己発熱量が大きくなる虞がある。
そこで、サーミスタ6として、複数のサーミスタを直並列接続してサーミスタ回路網を組み、サーミスタ一個あたりの電流量を分散して小さくすることによって、熱暴走状態を回避する。更に、サーミスタ回路網に直列に抵抗R3を挿入することによって、短絡状態を防止する。
このように、本発明では、電源電圧として定格値を越える値を設定するので、過大電流がリレーに流れることを防止する手段を備えることが安全設計上有用である。
【0023】
図5は、温度上昇に伴うリレー電流/電圧の上昇を、サーミスタと抵抗回路網により補償する例を示した図である。
なお、複数のサーミスタや抵抗により回路網を使用することにより、温度変化に対する定電圧ダイオード1の導通電流変化をより一層精密に補正することが可能である。また、この例に限ることなくサーミスタに並列に所用値の抵抗を接続する等、種々の構成が可能である。
以上の実施例においては、定電流ダイオードをリレー駆動コイルに直列に接続し、定格電圧以上の駆動電流/電圧を瞬間的に印加することによって、スペック以上の高速動作を行う場合を例示したが、本発明では、定電流ダイオードに換えて、定電圧ダイオードと第二の開閉素子とを組み合わせた回路によっても同様の効果を得ることが可能である。
【0024】
図6は、本発明の他のリレー駆動回路例を示すものである。既に説明したものと同一回路部品については同一符号を付し、重複する説明者省略する。この例が既に説明したものと異なる部分は、リレーK1の駆動コイルと第一の開閉素子であるリレードライバトランジスタ(リレー駆動トランジスタ)TR1のコレクタCとの間に、定電圧ダイオード7を第二の開閉素子であるトランジスタスイッチTR2のコレクタCとエミッタEに並列接続した回路を挿入した点である。
なお、定電圧ダイオードは周知のように、ツェナーダイオード(Zener diode)と呼ばれ、逆方向に電圧を印加すると、ある電圧値でツェナー降伏(なだれ降伏)が発生し、流れる電流値に拘わらず一定の電圧が得られるもので、電圧の基準として使用されることが多い。このような特性を有する定電圧ダイオードに第二の開閉素子を図示したように組み合わせたものでは、開閉素子が閉接状態では定電圧ダイオードがバイパス(短絡)され、開閉素子が開放状態においてのみ定電圧ダイオードが機能することになる。この例では電源電圧を24Vに設定し、ツェナー電圧(V)として電源電圧(V)の半分の12Vのものを選択している。
即ち、ツェナー電圧(V)=電源電圧(V)−リレーの定格電圧(Vcc)に設定する。このように設定し、図示したように第一の開閉素子TR1と第二の開閉素子TR2のベースBに所用時間遅延させた制御信号を印加することによって、リレー駆動電圧として上記遅延時間に相当する期間のみ定格を越える電圧(V)を印加し、遅延時間経過後は、定電圧ダイオードによりツェナー電圧(V)分降下させて定格値以内の電圧によりリレーを駆動するように構成する。
【0025】
図7は、図6示した回路の動作を説明するための信号波形図である。図7(a)は、第一の開閉素子TR1のベースBに印加するリレー駆動信号電圧(制御信号)であり、図7(b)に示すように、この電圧が「高」レベルの期間トランジスタTR1は導通(閉接)してリレー駆動コイルに電流を流し得る状態になる。また、図7(c)は第二の開閉素子TR2のベースBに印加する信号波形であり、この信号は、上記第一の開閉素子TR1のベースに印加する信号を所用時間(Td)遅延させ、且つ、「高」と「低」を逆転させた関係にある。この信号により第二の開閉素子TR2は図7(d)に示すように短絡(閉)、開放(開)動作を行う。第二の開閉素子TR2が図に示すように動作すると、定電圧ダイオード7の両端電圧は、図7(e)に示すようになる。
即ち、第一の開閉素子TR1が短絡(接)状態であって、且つ、第二の開閉素子TR2が開放の期間に、定電圧ダイオード7の両端電圧がツェナー電圧(この例では12V)になる。
【0026】
また、第一の開閉素子TR1が短絡(接)状態であって、且つ、第二の開閉素子TR2が短絡(閉)状態では、直接電源電圧Vがリレー駆動コイルに印加されるが、そのタイミングは、図7(f)に示す電圧観測点3(リレー駆動コイルのコールド側電圧)が0Vとなるときである。従って、図7(a)と(f)を対比すると明らかなように、第一の開閉素子TR1のベース信号波形が立ち上り部分からTdの遅延時間において、直接電源電圧V(定各値を越える電圧)がリレー駆動コイルに印加されるので、その立ち上がりが短縮されることになる。なお、図7(f)の波形と、リレー駆動コイルに印加される電圧とは大小関係は反転したものとなる。
このように、本発明は、定電流ダイオードに限らず、定電圧ダイオードを使用しても実現することができる。定電圧ダイオードは基準電位として使用されることから種類も多く、設計の自由度が高いので本発明を実現する上でも都合がよい。なお仮に、上述した図1の定電流ダイオードを定電圧ダイオードに置き換えた構成において、定電流ダイオードと同様の過渡現象を呈し、リレー駆動促進動作を行うことができるものがある場合は、並列に接続した第二の開閉スイッチ素子は不要であろう。
【0027】
図8は上記図6、図7を用いて説明した実施例を変形したもので、第一、第二開閉素子に供給する制御信号を発生する回路を付加した場合の一例を示す実施例である。
この例では、第一の開閉素子TR1のベースBと、第二の開閉素子TR2のベースBとの間に、遅延回路8とインバータ回路(極性反転回路)9とを備えることによって、第一開閉素子TR1に供給した信号を、その高・低を反転させるとともに、所用時間遅延した状態で第二の開閉素子TR2のベースに伝達するように構成したものである。
この構成によれば、第一の開閉素子にリレー起動のための駆動制御信号を供給するのみで、第二開閉素子TR2に必要な制御信号が伝達され、図6、図7を使用して説明したリレー駆動回路が実現可能である。
【0028】
図9は、本発明の他の実施例を示すもので、リレー駆動信号の立ち上がりエッジ部においてのみ瞬間的に定格電圧を超える電圧/電流を発生し、それ以降は、定格内の電圧/電流を発生するように電圧制御回路10を構成することを特徴としている。
即ち、電圧制御回路10は第一の開閉素子TR1のベースに供給するリレー駆動信号の立ち上がり部を検出し、所用時間のみ定格電圧を超える駆動電流/電圧を発生してリレー駆動コイルに供給する。詳細な説明は省略するが、デジタル回路技術を用いることによって、電圧観測点3、4等において、既に説明した例と類似する波形となるように構成すればよい。電源電圧を任意に変更する手段としては、例えば、パルス幅変調方式(PWM)を用いた電源回路によれば比較的容易に、且つ、高速に電源電圧を変更することができるので、上述した例と同様に、リレー駆動時の立ち上がり時に定格電圧の1.5倍乃至3倍、あるいはそれ以上の電圧を瞬時に発生し、リレーが起動した後に、定格値以内の電圧に変更すればよい。
【0029】
本発明は以上説明した例に限定することなく種々の変形が可能である。例えば、定電圧ダイオード、定電流ダイオードの代わりに、FET等の半導体素子を用いて同様に機能する回路を構成したものであっても、制御電圧印加時に上述したような過渡現象を呈するものがあれば、同様にリレーの起動促進に利用できる。
また、実施例ではシングルステーブルリレーについて説明したが、ラッチングリレーの駆動についても同様に起動促進効果をもった駆動回路を構成することができることは説明を要しないであろう。
【符号の説明】
【0030】
1 定電流ダイオード、2 電流計、3、4 観測点、5、6 サーミスタ、7 定電圧ダイオード、8 遅延回路、9 インバータ回路、10 電圧制御回路(リレー駆動電流/電圧発生回路)、K1 リレー、SW1 リレー可動接点(スイッチ)、TR1、TR2 開閉素子、R1、R2、R3 抵抗、V 定格値を越える電源電圧、V ツェナー電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動コイルに通電することによって可動接点を開閉制御するリレーと、該リレーの駆動コイルに電圧を供給する駆動電源供給手段と、前記駆動電源供給手段から前記駆動コイルに駆動電流/電圧を供給するルートに配置した電流/電圧制御手段と、を含むリレー駆動回路において、
前記駆動電源供給手段がリレーの定格値を越える電圧を供給するものであり、前記電流/電圧制御手段が、第一の開閉スイッチ素子と、供給された駆動電流/電圧の立ち上がりエッジから所用時間前記リレーの定格値を越える電流/電圧を前記リレーの駆動コイルに供給し、前記所要時間経過後にリレーの定格以内の電流/電圧を前記リレーの駆動コイルに供給するように動作し、又は、制御する電流/電圧制御素子とを備えたものであることを特徴とするリレー駆動回路。
【請求項2】
請求項1記載のリレー駆動回路において、前記電流/電圧制御手段が、定電流ダイオードにより構成されていることを特徴とするリレー駆動回路。
【請求項3】
請求項2記載のリレー駆動回路において、前記定電流ダイオードに並列に、抵抗、又は、サーミスタ、又は、抵抗とサーミスタの回路網が接続されたことを特徴とするリレー駆動回路。
【請求項4】
請求項1記載のリレー駆動回路において、前記電流/電圧制御手段が、定電圧ダイオードと、該定電圧ダイオードと並列に接続された第二の開閉スイッチ素子を含み、前記第一、第二の開閉スイッチ素子を時間的にシフトした信号で制御することによって、供給された駆動電流/電圧の立ち上がりエッジから所用時間前記リレーの定格値を越える電流/電圧を前記リレーの駆動コイルに供給し、前記所要時間経過後にリレーの定格以内の電流/電圧を前記リレーの駆動コイルに供給するように動作し、又は、制御するように構成したことを特徴とするリレー駆動回路。
【請求項5】
請求項4記載のリレー駆動回路において、前記電流/電圧制御手段が、第一の開閉スイッチ素子の制御端と第二の開閉スイッチ素子の制御端との間に、前記立ち上がりエッジから所用時間前記リレー定格値を越える駆動電流/電圧を供給するために必要な信号遅延手段を挿入したことを特徴とするリレー駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−249212(P2011−249212A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122784(P2010−122784)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(396007982)株式会社ネットコムセック (13)