説明

リン酸型燃料電池

【目的】 オンサイト型の常圧小容量燃料電池の排温水から冷水を得る。
【構成】 燃料電池からの排温水を直接吸収冷凍機の発生器に導入し、冷凍機の冷却水循環経路を凝縮温度が下がるように凝縮器系と吸収器系とに分離し、又は、従来と逆に凝縮器から吸収器へと接続すると共に、燃料電池及び冷凍機とを近接して組合せる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、燃料電池の排熱回収を吸収冷凍と組合せて行うリン酸型燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】リン酸型燃料電池の排熱回収方法には、次の3つのタイプがある。
【0003】(1) 第1の排熱分離回収型(事業用の高圧大容量の場合)
50℃程度の低温水→給湯90℃程度の中温水→空調160℃程度の蒸気→空調(2) 第2の排熱分離回収型(オンサイト型の常圧大容量の場合)
70℃程度の中温水→給湯160℃程度の蒸気→空調(3) 排熱混合回収型(オンサイト型の常圧小量の場合)
70〜80℃程度の中温水→給湯このような方法により排熱利用ができる燃料電池は、今後、コージェネレーション設備として、広く用いられると予測されている。わが国のコージェネレーション設備の実績は設置台数ベースでみると、200KW程度以下の小容量のものが圧倒的に多い。また、その設置費用は、小容量のものほど高い経済性が望まれている。したがって、燃料電池の場合も、200KW程度以下の小容量のものには、高い経済性が求められる。
【0004】燃料電池の出力特性は、熱電比がほぼ1であるので、燃料電池の経済性を高めるためには、その排熱を回収利用することが重要な課題となる。
【0005】他方、熱需要は、最近の傾向として、四季を通じ冷熱需要が増大しているので、燃料電池の経済性を高めるためには、その温排熱から冷熱を得ることが絶対的条件になる。そして、温排熱から冷水を得るには、一般には、次の三種類の冷凍機との組合せがある。
【0006】A. 吸収冷凍機との組合せa. 排熱温度が90℃未満の場合・・・ 組合せが困難。
【0007】b. 排熱温度が90℃程度以上の場合・・・単効用冷凍機との組合せ成績係数0.7程度c. 排熱温度が160℃程度の場合・・・ 二重効用冷凍機との組合せ成績係数1.1程度B. 吸着冷凍機との組合せ排熱温度が70℃程度でも組合せ可能成績係数0.4程度C. ケミカルヒートポンプとの組合せ排熱温度が70℃程度でも組合せ可能成績係数0.4程度図6及び図7を参照してオンサイト型の常圧小容量のリン酸型燃料電池1Aの排熱回収を吸収冷凍機20Aと組合せて行う従来の例を説明する。リン酸型燃料電池1Aの電池本体2は、空気極3を挟んで燃料極4と冷却板5とを配設した積層体からなり、燃料極4に原燃料(都市ガス)Gを燃料改質器6で改質して供給し、空気極3に空気Aを供給することにより、電気化学反応に基づいて発電が行われる。
【0008】燃料極4のオフガスは、改質器6の図示しないバーナに導入され、オフガスに残存する水素が燃焼され、その燃焼熱が燃料改質反応を反応熱として利用される。また、燃焼により生じた水分を含む燃焼排ガスと空気極3から発生した水分を含む空気極オフガスとは、排ガス系排熱回収熱交換器7を介して排出される。
【0009】前記冷却板5の電池冷却水は、電池冷却水系排熱回収熱交換器8と水蒸気分離器9とを介して循環され、また、分離器9で発生した水蒸気は、燃料改質用水蒸気として原燃料Gに添加される。
【0010】前記両熱交換器7、8と熱交換を行って排熱を回収する排熱管10が設けられ、この排熱管10は、冷却塔11と排熱回収熱交換器12とに導かれている。そして、熱交換器12に介装された管路L4は、ポンプ13を備え需要側熱交換器14と全体を符号20Aで示す吸収式冷凍機の凝縮器24と同一容器に収められた発生器25とに導かれている。
【0011】その吸収冷凍機20における冷却水は、冷却塔21から冷却水循環ポンプ22を介して吸収器23に送られ、更に凝縮器24を経て冷却塔21に戻されている。なお、図中の符号26は凝縮器24から吸収器23に供給される液体と、吸収器23から凝縮器24に供給される液体との間で熱交換を行うための熱交換器である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】上記燃料電池1Aの排熱回収特性は図8に示すように、回収熱量は回収温度が低い方が大きい。しかし、一般的に吸収冷凍機20Aの熱源には、90℃以上の高温水が必要である。ところで、燃料電池1Aの温排水は、排熱回収熱交換器12を介して吸収冷凍機20Aに導入されるので、4〜5℃程度の温度下落が起き、74℃程度になる。
【0013】したがって、排熱を回収するオンサイト型の常圧小容量燃料電池の90℃未満の中温水から冷水を得ることは、困難とされていた。また、90℃程度の温水が得られる場合でも、熱回収効率は悪いのものであった。
【0014】本発明は、オンサイト型の常圧小容量燃料電池の温水から冷水を得ることができるリン酸型燃料電池を提供することを目的としている。
【0015】
【発明の原理】本発明者は吸収冷凍サイクルの作動原理を再検討し、図1に示す臭化リチウム水溶液デューリング線図において、例えば凝縮温度を冷却塔21の出口温度32℃をベースに36℃に選ぶと、この温度での飽和水の凝縮圧力は、45mmHgとなる。この圧力での蒸発温度は、水溶液の濃度で決まるが、濃度60%では78℃に下げることができる。本発明は、この発明の原理に基づいてなされたものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、燃料電池の排熱回収を吸収冷凍機と組合せて行うリン酸型燃料電池において、該燃料電池の排熱管に切換弁を設け温排水を熱交換器を介さずに前記吸収冷凍機の発生器に直接導入する水路を設け、該吸収冷凍機の冷却水循環水路を冷却塔から吸収器を経て冷却塔に至る水路と冷却塔から凝縮器を経て冷却塔に至る水路とに分離すると共に、前記燃料電池及び吸収冷凍機を近接して組合せている。
【0017】また、本発明によれば、燃料電池の排熱回収を吸収冷凍と組合せて行うリン酸型燃料電池において、該燃料電池の排熱管に切換弁を設け温排水を熱交換器を介さずに前記吸収冷凍機の発生器に直接導入する水路を設け、該吸収冷凍機の冷却水循環水路を冷却塔から凝縮器を介し吸収器を経て冷却塔に接続すると共に、前記燃料電池及び吸収冷凍機を近接して組合せている。
【0018】
【作用】上記のように構成されたリン酸型燃料電池においては、排熱管の温排水は、ほとんど温度下落がなく従来よく4〜5℃高くなり、78℃程度より高く設定することができる。
【0019】また、冷却塔からの冷却水循環水を、先ず凝縮器に導いてから吸収器に供給することにより、凝縮温度を36℃以下に下げることができ、発生器の蒸発温度を78℃以下にできる。
【0020】その結果、リン酸型燃料電池中温水からの熱回収で冷水を得ることができる。また本発明は、ヘッダーを用いて、複数の燃料電池と吸収冷凍機の組合せに於いても適用できる。
【0021】
【実施例】以下図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお、図2及び図3において、図6に対応する部分については、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0022】図2及び図3において、リン酸型燃料電池1の排熱管10の冷却塔11に対向する側は、切換弁15、16を介し管路Lに接続され、その管路Lは、直接に吸収冷凍機20の発生器25に導かれている。すなわち、燃料電池1と吸収冷凍機20とは近接化又は一体化されている。
【0023】他方、冷却塔21の底部は、管路L1により凝縮器24に導かれ、冷却水循環ポンプ27を介して冷却塔21に接続されている。また、管路L2によりポンプ22を介して吸収器23に導かれたのち、冷却塔21に接続され凝縮器系管路L1と吸収器系管路L2とが分離されている。
【0024】次に作用について説明する。排熱管10の温排水は、排熱回収熱交換器12に入る前に管路Lにより直接吸収冷凍機20の発生器25に導かれるので、温排水の温度下落は、ほとんどなく、従来より4〜5℃高い。したがって、発生器25の蒸発温度を78℃程度以上に設定することができる。
【0025】この結果、図4に示す臭化リチウム水溶液デューリング線図において、吸収溶液の濃度60%、希溶液の濃度58%、凝縮温度及び吸収冷却温度を36℃とするときの諸条件を求めると、凝縮器温度36℃で、圧力45mmHg、蒸発温度78℃吸収温度36℃で、圧力6.1mmHg、蒸発温度4.1℃となり、これらの諸条件から冷凍吸収サイクルが形成されて、従来同様6〜7℃の冷水が得られる。このときのサイクルの成績係数は、0.73程度のものになり、排熱回収率も高い。
【0026】図5は本発明の別の実施例を示し、吸収冷凍機20aの冷却塔21の底部を、管路L3により凝縮器24に導いたのち、吸収器23を介して冷却塔21に接続した例である。この実施例では前記実施例と同じ作用効果が得られると共に、冷却塔21の運転動力を節約するとができる。
【0027】
【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
【0028】(1) 燃料電池の90℃未満の中温水から排熱回収する場合でも、効率的に冷水を得ることができる。これによりオンサイト型常圧小容量燃料電池の経済性を高めることができる。
【0029】(2) 燃料電池と吸収冷凍機とを近接化あるいは一体化することにより、排熱回収系統の熱容量の増大を抑え、吸収冷凍機の起動時間の遅延を防ぐことができる。
【0030】(3) 燃料電池の排熱回収運転管理が簡単になる。すなわち、燃料電池から冷水を得るための電池から蒸気を取り出す方法は、冷却水の温度が下がると発電効率が低下し、また、逆に温度が上昇すると、電池本体の寿命劣化が進行するので、冷却水の温度管理に高度の精度が要求されるのに比べ、本発明の装置の温度管理は簡単である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の作動原理を説明する臭化リチウム水溶液デューリング線図。
【図2】本発明の一実施例を示す全体構成図。
【図3】図2の要部を示す管路図。
【図4】本発明の効果を説明する臭化リチウム水溶液デューリング線図。
【図5】本発明の別の実施例を示す全体構成図。
【図6】従来のリン酸型燃料電池を示す全体構成図。
【図7】図6の要部を示す管路図。
【図8】排熱回収温度と回収熱量の関係を示す特性図。
【符号の説明】
A・・・空気
G・・・原燃料
1、1A・・・リン酸型燃料電池
2・・・燃料電池本体
3・・・空気極
4・・・燃料極
5・・・冷却板
6・・・燃料改質器
7・・・排ガス系排熱回収熱交換器
8・・・電池冷却水系排熱回収熱交換器
9・・・水蒸気分離器
10・・・排熱管
11・・・冷却塔
12・・・排熱回収熱交換器
13・・・ポンプ
14・・・需要側熱交換器
15、16・・・切換弁
20、20a、20A・・・吸収冷凍機
21・・・冷却塔
22、27・・・冷却水循環ポンプ
23・・・吸収器
24・・・凝縮器
25・・・発生器
26・・・熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃料電池の排熱回収を吸収冷凍と組合せて行うリン酸型燃料電池において、該燃料電池の排熱管に切換弁を設け温排水を熱交換器を介さずに前記吸収冷凍機の発生器に直接導入する水路を設け、該吸収冷凍機の冷却水循環水路を冷却塔から吸収器を経て冷却塔に至る水路と冷却塔から凝縮器を経て冷却塔に至る水路とに分離すると共に、前記燃料電池及び吸収冷凍機を近接して組合せたことを特徴とするリン酸型燃料電池。
【請求項2】 燃料電池の排熱回収を吸収冷凍機と組合せて行うリン酸型燃料電池において、該燃料電池の排熱管に切換弁を設け温排水を熱交換器を介さずに前記吸収冷凍機の発生器に直接導入する水路を設け、該吸収冷凍機の冷却水循環水路を冷却塔から凝縮器を介し吸収器を経て冷却塔に接続すると共に、前記燃料電池及び吸収冷凍機を近接して組合せたことを特徴とするリン酸型燃料電池。

【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図8】
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