説明

リーダークロス及びその製造方法

【課題】 抄紙機のロールにベルト本体を引き込み架設するためのリーダークロスにおいて、抄紙機への引き込み時にクリアランスが狭いロールでもロールの通過に支障をきたさず、かつリーダークロスの垂れ下がりや撓みを起こさないリーダークロスの提供。
【解決手段】 抄紙機のロールにベルト本体を引き込み架設するためのリーダークロスにおいて、基部近傍とそれより頂部寄りの位置とに、ロープまたはベルト状のスタビライザーをそれぞれ表裏両面に、幅方向に貼り付けたリーダークロス。
好ましくは、リーダークロスとして貼り合わせファスナーを用い、予め貼り合わせファスナーの一片の裏面を、リーダークロスの表面に縫合して、貼り合わせファスナーの係止部面(カギ状フックまたはループ)を表面に露出させ、ついで貼り合わせファスナーの他片の係止部面(ループまたはカギ状フック)を、幅方向に張力をかけながら2つの面を強く押し当てて貼り合せて、リーダークロスに取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機用の布やベルト(以下、ベルトという)の交換の際に、新規ベルト(以下、新ベルトという)を抄紙機上に引き込み、ロールに掛け入れるためのリーダークロスに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用の抄紙機においては、極めて広幅、長尺でかつ重量の大きいベルトがロールに掛け入れられ、これがロール上を走行して湿紙の搾水や搬送、乾燥等の工程が行なわれる。
【0003】
このベルトの機能が著しく減衰した際に、新ベルトと掛け替えをするが、その際には機械を休止させ、使用済みのベルトを取り外し、新ベルトを掛け入れる作業が必要であるが、ベルトのサイズが大きく、かつ重量も大きいため、安全に、かつ効率的に掛け替えを行なうためには、以前はロールに架設されている使用済みエンドレスベルト(以下旧ベルトという)を巾方向に切断し、その後端を新ベルトの先端と接合し、旧ベルトを先端方向に走行させることによって新規ベルトを抄紙機内に引き込み、新規ベルトがロールの全周にわたって掛けられた後、ベルトの両端を縫い合わせてエンドレスベルトをロール上で形成させるという方法がとられていた。然しこの方法では傷んだ使用済みのベルトが新ベルトとの掛け替えの際に途中で切れたり、先導する使用済みのベルトを抄紙機内に引き込みに合わせて徐々に抄紙機外に排出するための手間が掛かったり排出作業が困難であった。そのため最近では旧ベルトを取り外した後で、抄紙機のロール間にロープを掛け入れ、そのロープに新ベルトを結び付けロープを牽引して新ベルトを抄紙機のロール間に引き込んでいる。
【0004】
このようにして新ベルトをロール上にスムースに、かつ正確に誘導されるためには、ロープの後端にリーダークロス(Leader Cloth)と呼ばれる布地を接合し、これを新ベルトの端部とつないで、ロープの牽引による張力をリーダークロスを介して新ベルトに伝達してロールに引き込む方法が行なわれている。
【0005】
このような目的で、これまで各種の形状、構造のリーダークロスが提案されており、例えば、長方形の布地と、その端部に均一な間隔で設けられた複数のグロメットで固定した複数のロープを収束して掛けたリングを別のロープで引っ張る構造のもの(米国特許第5,306,393号・・特許文献1)、三角形を形成するための長方形の材料3ピースを積層した構造のもの(特表2003-502530・・特許文献2)、実質的三角形の形状で高分子コーティングがなされた基材を線条で補強したもの(特表2003-514131・・特許文献3)などが知られている。
【0006】
リーダークロスの形状は一端が抄紙機のロール間に引き込む方向に設けられた頂部があり、該頂部にはロープに連結するための接続部材が設けられている。また他端はベルトと同じ幅で、新ベルトに接続する基部となっている。リーダークロスは幅が最大十数mにも達する広幅の布地であるため、走行時に垂れ下がったり、たわみが生じ、抄紙機への引き込み時に皺が生じたり折れたりする惧れがある。このたわみをなくし、安定させるために、通常リーダークロスの先端には、スタビライザーとして、先端部の幅方向にスチールパイプや鉄板が取り付けられている。
【0007】
例えば特開平8−284092(特許文献4)においては図2に示すように、ベルト本体101と同幅の帯状布を2つ折りにしてベルト本体の先端部の上下を覆ったものがリーダークロス102として用いられ、その折曲縁103寄りを縫着部104で縫着し、開放縁側がフラップ106a,106bとなっている。ベルト本体とリーダークロスは仮止め部(図示せず)で仮止めされている。このような構造のリーダークロスにおいては折曲縁103と縫着部104との間に袋部105が形成されるので、この袋部に、木、プラスチックまたは金属からなる芯棒107を通してリーダークロスの先端部を強化させている。このようなスチールパイプを取り付けたリーダークロスは牽引用ロープ108により、ロール内に引き込まれる。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,306,393号
【特許文献2】特表2003-502530
【特許文献3】特表2003-514131
【特許文献4】特開平8-284092
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、スチールパイプや鉄板を先端部に取り付けたリーダークロスは、抄紙機への引き込みの時に、クリアランスが狭いロールを通過しにくいので、架け替作業に支障をきたす。
また、特許文献2や3に記載されたリーダークロスでは新ベルトに接続する基部において、フェルトの自重で両端が垂れ下がり、ロールへの掛入れ作業の際にベルトの位置が幅方向にずれたり、或いはねじれ、撓み等が生じてしまいロールへの掛入れ作業が阻害されていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、クリアランスが狭いロールでもベルト端部がずれたり、或いはねじれ、撓み等が生ずることなく安定して自由に通過でき、しかもリーダークロスの垂れ下がりやたわみをなくすことができるスタビライザーの構造について検討した結果、リーダークロス先端部にロープまたはベルトをバランスよく貼り付けることにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0011】
即ち本発明は、抄紙機のロールにベルト本体を引き込み架設するためのリーダークロスにおいて、基部近傍とそれより頂部寄りの位置とに、ロープまたはベルト状のスタビライザーをそれぞれ表裏両面に、幅方向に貼り付けたリーダークロスである。
【0012】
また本発明は、スタビライザーとして貼り合わせファスナーを使用して、垂れ下がりや皺の発生の少ないリーダークロスを製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リーダークロスの基部近傍と、それより頂部寄りの位置との両面にロープまたはベルト状のスタビライザーを貼り付けたことにより、スチールパイプを挿入したリーダークロスのように、抄紙機への引き込み時にロールの通過に支障をきたすことが無く、クリアランスが狭いロールでも容易に通過させることができる。
【0014】
即ち本発明でスタビライザーとして使用するロープまたはベルトはスチールパイプに比べて柔軟、かつ可撓性であるためロールの通過に対して抵抗が少ない。またこれをリーダークロス基部近傍と、それより頂部寄りの位置との両面に取り付けることにより、リーダークロスの垂れ下がりや、引き込み時に置ける皺の発生もなく、スタビライザーとしての機能も金属棒等に比べて見劣りしない。
【0015】
またリーダークロスの表裏両面に貼り付けられるロープまたはベルトは、縦方向にずらして配置されているので、スタビライザー貼り付け部の厚みは大きくないからロールのクリアランスを通過する際の困難性はない。
【0016】
本発明において、リーダークロスに貼り付ける2本のスタビライザーは、一方がリーダークロスの表面、他方が裏面になるように貼り付けることが必要である。なぜなら、リーダークロスの表面にスタビライザーを貼り付けると、バイメタルの如くに裏面に向って曲げ応力が生じるので、それを打ち消すために他方が裏面になるように貼り付け各々のバランスを取ることで、リーダークロスが湾曲することが避けられ、従って抄紙機への引き込み時にロールの通過にリーダークロスの垂れ下がりや、引き込み時に置ける皺の発生も解消できる。
【0017】
このように、本発明のスタビライザーを取り付けたリーダークロスは抄紙機への引き込み時にロールの通過が容易であり、ベルトの架け替え作業がスムースに行なわれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のリーダークロスは、前記特許文献1〜4に挙げたものや、このほか任意のタイプのリーダークロスに適用できる。
【0019】
以下、図面により本発明のリーダークロスを説明する。図1は本発明のリーダークロスの平面図である。図1のリーダークロス1は基部2、頂部3、側縁部4により形成された山形の形状である。
図1のリーダークロスには基部2の全巾に沿ってスタビライザー5が表面に貼り付けられている。そして基部2と頂部3との中間位置、すなわち頂部3から基部2に下ろした垂線の足の長さの略半分の位置に、その全巾に沿ってスタビライザー6が裏面に貼り付けられている。
リーダークロスの両面に貼り付けられたスタビライザー5と6の架設張力をバランスさせることで、リーダークロス1は基部での垂れ下がりや歪み、皺の発生を回避することができる。
【0020】
スタビライザーを取り付けたリーダークロスは、掛け入れの際は新ベルト本体の端部に接続し、掛け入れ後は取り外しができるよう、仮取り付けされる。仮取り付けの方法としては、縫い合わせる方法や、リーダークロスの基部2にファスナーの一片7aを取り付け、他の一片7bにより新ベルトの端部8に取り付ける方法等が用いられる。
【0021】
ベルトの架け替えの際、抄紙機のロールに引き込むための牽引用ロープ9が取り付けられる。ロープの取り付けにはリーダークロスの頂部近傍に複数個の穴10を設け、これにロープを引っ掛ける。
【0022】
新ベルトを抄紙機に架設するには、新ベルトの端部9をファスナーや仮止め部によりリーダークロスに取り付ける。一方リーダークロスの先端部に取り付けた牽引用ロープ9は、抄紙機に掛け入れ、ベルトの走行方向に沿ってロール間を回転することにより、新ベルトはリーダークロスに先導されて抄紙機内に引き込まれる。本発明のリーダークロスでは、両面にスタビライザーが取り付けられているため、抄紙機への引き込み時に垂れ下がりやたわみによる皺の発生や破損は起こらない。またスタビライザーに使用されているロープまたはベルトが柔軟で可撓性であり、かつ両面に取り付けられたスタビライザーが縦方向にずらして配置されているので、ロールのクリアランスを容易に通過させることができる。
新ベルトが全ロール上を走行し、その両端が近接したところで新ベルトからリーダークロスを取り外し、新ベルトの両端を縫い合わせ等の方法で接合し、これによって新ベルトの掛け入れが完了する。
【0023】
リーダークロスの材料は極めて大きい重量のベルトを引っ張る力に耐えるため、高強度の布地が必要であり、合成又は天然繊維織物、例えばポリアミドやポリエステル織物、あるいは各種材料による不織布等が用いられる。これらには水の浸透による強度低下を防ぐため撥水加工を施すこともできる。
【0024】
スタビライザーとしてのロープまたはベルトの材料としては合成繊維からなる網糸や組み紐、或いは帯状物、特に貼り合わせファスナーが好ましい。貼り合わせファスナーは「マジックテープ」(登録商標)等として市販されているファスナーであり、それぞれ表面にカギ状フックとループ状の係止部面を持つ一対のテープからなるが、先ずその一片をリーダークロスに縫い付けた後、他片を貼り合わせることにより、リーダークロス上にスタビライザーが形成される。
【0025】
またロープの太さは直径2〜20mm、特に直径5〜10mmのものが好ましい。また、ベルトや貼り合わせファスナーを用いる場合、その厚さは2〜20mm、特に5〜10mm、幅は10〜100mm、特に20〜50mmのものが好ましい。
【0026】
スタビライザーの取り付け位置は、一方が基部近傍であり、もう一方はそれより頂部寄りの位置であり、その位置でリーダークロスに対して反対の面に取り付ける。基部近傍としては、スタビライザーの下端部が基部の下端部と略一致するか、またはそれより5mm〜50mm頂部寄りの位置が好ましい。またもう一方のスタビライザーの取り付け位置は、基部近傍のスタビライザーの中心位置から100mm〜200mm頂部寄りの位置、または基部と頂部との中間位置までが好ましい。両者の間隔が狭すぎると、ローラーの通過に支障をきたし、広すぎると、スタビライザーの貼り付けにより、裏面に向って曲がる力を打ち消す効果が弱まる。
【0027】
ロープまたはベルトの布地への貼り付けは縫合等の方法により行なう。特にスタビライザーとして貼り合わせファスナーを用いる場合、先ず予め貼り合わせファスナーの一片の裏面を、リーダークロスの表面に縫合して、貼り合わせファスナーの係止部面(カギ状フックまたはループ)を表面に露出させ、ついで貼り合わせファスナーの他片の係止部面(ループまたはカギ状フック)を、幅方向に張力を掛けながら2つの面を強く押し当てて貼り合せる。この操作を表裏両面に行なうことにより、スタビライザーの貼り付けが完成する。このような貼り合せによって、リーダークロスの基部での垂れ下がりや歪み、皺の発生を回避することができる。
【0028】
またリーダークロスには強度を向上させるため、布地に1本または複数本の高分子化合物の補強線条を適宜とりつけて補強することができる。補強線条の材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等の高分子化合物が用いられ、これらを線材に成形して使用する。補強線条は縦方向、横方向あるいは側縁部に沿った方向、あるいはこれらを組み合わせた複数方向に設けることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、抄紙機において新ベルトを抄紙機に架設するための案内部材であるリーダークロスにおいて、走行時の垂れ下がりや撓みをなくすためのスタビライザーの材料、構造を改良したものである。
【0030】
本発明では、リーダークロスの基部近傍と、それより頂部寄りの位置とに、ロープまたはベルト状のスタビライザーをそれぞれ表裏両面に、幅方向に貼り付けたことにより、リーダークロスの垂れ下がりや、引き込み時に置ける皺の発生もなく、しかもベルト架け替えの際、抄紙機への引き込み時にクリアランスが狭いロールでも容易に通過させることができるので、ベルトの架け替え作業が支障なくスムースに行なわれる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のリーダークロスの平面図
【図2】従来法のリーダークロスの斜視図
【符号の説明】
【0032】
1 リーダークロス
2 基部
3 頂部
4 側縁部
5 スタビライザー
6 スタビライザー
7a ファスナーの一片(リーダークロス側)
7b ファスナーの一片(ベルト本体側)
8 ベルト端部
9 牽引用ロープ
10 穴
101 ベルト
102 従来法のリーダークロス
103 折曲縁
104 縫着部
105 袋部
106a フラップ
106b フラップ
107 芯棒
108 牽引用ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙機のロールにベルト本体を引き込み架設するためのリーダークロスにおいて、基部近傍とそれより頂部寄りの位置とに、ロープまたはベルト状のスタビライザーをそれぞれ表裏両面に、幅方向に貼り付けたリーダークロス
【請求項2】
スタビライザーが、係止部面により固着された一対の貼り合わせファスナーである請求項1記載のリーダークロス。
【請求項3】
予め貼り合わせファスナーの一片の裏面を、リーダークロスの表面に縫合して、貼り合わせファスナーの係止部面(カギ状フックまたはループ)を表面に露出させ、ついで貼り合わせファスナーの他片の係止部面(ループまたはカギ状フック)を、幅方向に張力をかけながら2つの面を強く押し当てて貼り合せることを特徴とする、請求項2に記載のリーダークロスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−219792(P2006−219792A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35790(P2005−35790)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】