説明

ループスアンチコアグラント検出試薬キット

【課題】ループスアンチコアグラント(LA)の検出感度を高め、LA弱陽性検体であっても特異的に検出できる試薬キットを提供することにある。
【解決手段】 第1凝固時間測定試薬と第2凝固時間測定試薬を備え、第1凝固時間測定試薬がリン脂質としてのホスファチジルセリンと、カルシウムイオンと、非ヒト由来物質とを含有し、第2凝固時間測定試薬がカルシウムイオンと、第1凝固時間測定試薬より低濃度のホスファチジルセリンとを含有することを特徴とするとするLA検出試薬キットを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitroでの血液検査でループスアンチコアグラント陽性疾患を特異的に検出できる試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ループスアンチコアグラント(以下、LAと略記することがある)はSLE(Systemic Lupus Erythematosus)患者について初めて報告された抗凝血素である。SLE患者においてLAが検出される頻度は5%乃至10%である一方、他の自己免疫性疾患、腫瘍性疾患においても検出されることがある。LAは血栓症、流早産、血小板減少などの抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome;APS)において検出される頻度が高く、リン脂質依存性の凝固反応で凝固するまでの時間が延長されることから、リン脂質に対する自己抗体であると考えられている。
また、LAは不均一な抗体であり、陰性荷電リン脂質とβ2−グリコプロテインI(β2−GPI)またはプロトロンビンとの複合体に対する抗体であることが、近年明らかになった。LAの抗凝固作用は、LAがこの複合体と結合することによりプロトロンビンがトロンビンに変化することを阻害するために起こると考えられる。
【0003】
このような特徴を有するLAの検出試薬としては、 ホスファチジルセリンを含むリン脂質を含有する第1凝固時間測定試薬とホスファチジルセリンを含むリン脂質を含有する第2凝固時間測定試薬を備え、第1凝固時間測定試薬に含まれるホスファチジルセリンの全リン脂質に対する割合が、第2凝固時間測定試薬に含まれるホスファチジルセリンの全リン脂質に対する割合と異なっており、第1凝固時間測定試薬のホスファチジルセリン濃度が第2凝固時間測定試薬より高いことを特徴とするループスアンチコアグラント測定試薬が知られている(特許文献1)。この特許文献1にはヘパリン投与患者血漿やワーファリン投与患者血漿とは区別することができるLA測定試薬が開示されている。
一方、LAの検査ではLA弱陽性検体についても検出できる検出感度の高い試薬が望まれているが、特許文献1には、LA弱陽性検体に対する検出感度の向上については記載がない。
【0004】
【特許文献1】特開2004-69697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、LAの検出感度を高め、LA 弱陽性検体であっても特異的に検出できる試薬キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1凝固時間測定試薬と第2凝固時間測定試薬とを備えたループスアンチコアグラント検出試薬キットにおいて、第1凝固時間測定試薬が、リン脂質としてのホスファチジルセリンと、カルシウムイオンと、ヒトを除く脊椎動物の抗体、血清、血漿及び免疫グロブリンから成る群より選ばれる少なくとも1種の非ヒト由来物質とを含有し、第2凝固時間測定試薬が、カルシウムイオンと、第1凝固時間測定試薬より低濃度のホスファチジルセリンとを含有することを特徴とするループスアンチコアグラント検出試薬キットに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の試薬キットでは、LAに対して特異的に凝固時間の差異を認めることができ、LA陽性患者だけを高感度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施形態の検出試薬キットは、血液又は血漿検体におけるループスアンチコアグラントが弱陽性検体であっても特異的に検出できる試薬キットである。
【0009】
本発明の実施形態の検出試薬キットは、第1凝固時間測定試薬と第2凝固時間測定試薬とを備えたループスアンチコアグラント検出試薬キットにおいて、第1凝固時間測定試薬が、リン脂質としてのホスファチジルセリンと、カルシウムイオンと、ヒトを除く脊椎動物の抗体、血清、血漿及び免疫グロブリンから成る群より選ばれる少なくとも1種の非ヒト由来物質とを含有し、第2凝固時間測定試薬が、カルシウムイオンと、第1凝固時間測定試薬より低濃度のホスファチジルセリンとを含有2種類の凝固時間測定試薬の組合せである。
【0010】
上記第1凝固時間測定試薬及び第2凝固時間測定試薬にリン脂質として含有されるホスファチジルセリン(以下、PSと略記することがある)は、合成ホスファチジルセリンであってもよいし、天然由来ホスファチジルセリンであってもよい。ホスファチジルセリンは合成ホスファチジルセリンであることが好ましい。天然由来のホスファチジルセリンを用いる場合には、純度99%以上に精製されたものを用いることが好ましい。
【0011】
ホスファチジルセリン以外のリン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン(以下、PEと略記することがある)及びホスファチジルコリン(以下、PCと略記することがある)を挙げることができる。
【0012】
ループスアンチコアグラントを捕捉するために含有されるヒトを除く脊椎動物の抗体、血清、血漿又は免疫グロブリン(以下、これらを区別せず、総称して述べるときは「非ヒト由来物質」という)としては、好ましくはヒト及びブタを除くほ乳類の抗体、血清又は免疫グロブリンが用いられ、具体的には、マウスIgG、ウマIgG、ウシIgG、マウス血清、ウマ血清、ウシ血清、マウス、ウマ又はウシのα−グロブリンなどを用いることができる。市販品としては、Scantibodies社製のHBR(Heterophile Blocking Reagent) や、MAK33 (ロッシュ社製)、NM8などがある。HBRは、免疫測定方法における異好性抗体による干渉を抑制することを目的として検査系に添加される試薬であるが、本発明者により、LAに特異的に結合し、しかも、血液検体中に含まれるLA以外の血液凝固時間に関連する成分とは結合しないことが見出され、本発明の凝固時間測定試薬におけるLA抗体捕捉剤としての使用が可能となった。
【0013】
LAを捕捉するために含有される非ヒト由来物質としては、1種類の動物由来の抗体等だけを用いてもよいし、異なる2種以上の動物由来の抗体等、例えばマウスIgGとウマIgGを混合して用いてもよい。
【0014】
第2凝固時間測定試薬には、LA捕捉剤となる非ヒト由来物質が実質的に含まれず、また好ましくは非ヒト由来物質が含まれていないので、LA陽性の検体では、LAの存在により、凝固時間が延長される。一方、第1凝固時間測定試薬と検体を接触させた場合には、第1凝固時間測定試薬に含まれる非ヒト由来物質により、LAが捕捉されるので、LA陽性の検体であっても、LAの存在による凝固時間の延長が阻止される。従って、第1凝固時間測定試薬を用いたときの凝固時間(第1凝固時間)と第2凝固時間測定試薬を用いたときの凝固時間(第2凝固時間)との間で有意な差異が認められればLA陽性であり、有意な差異が認められなければ、LA陰性と判定できる。
【0015】
第1凝固時間測定試薬及び第2凝固時間測定試薬には、さらに、in vitroで血液凝固を起こすのに必要な他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、活性化剤、蛇毒、カルシウム、組織因子などが挙げられる。活性化剤としては、エラグ酸、カオリン、セライト及コロイドシリカからなる群より選択される1種以上を用いることが好ましい。蛇毒としては、ラッセル蛇毒、テキスタリン蛇毒及びエカリン蛇毒からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましい。組織因子としては、ウサギ脳、ヒト胎盤由来のもの、これらの組換え体を用いることが好ましい。
これらの他の成分は、凝固時間測定試薬の種類に応じて適宜選択される。例えば、第1凝固時間測定試薬及び第2凝固時間測定試薬がカルシウム及び活性化剤を含む場合には活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づいて凝固時間を測定する。第1凝固時間測定試薬及び第2凝固時間測定試薬がカルシウム及び蛇毒を含む場合には、蛇毒測定時間の原理に基づいて凝固時間を測定する。また、第1凝固時間測定試薬及び第2凝固時間測定試薬がカルシウム及び組織因子を含む場合には、プロトロンビン時間測定の原理に基づいて凝固時間を測定する。
【0016】
尚、第1凝固時間測定試薬及び第2凝固時間測定試薬には、さらに必要に応じて、ヘペスおよびトリス緩衝液などの緩衝液を含んでもよい。緩衝液の濃度は、一般的に臨床化学の分野で用いられている濃度であればよく、簡単な繰り返し実験により決定することができる。
【0017】
第1凝固時間測定試薬に含まれる凝固系組成物と、第2凝固時間測定試薬に含まれる凝固系組成物とは同種でなければならない。つまり、第1凝固時間測定試薬に含まれる凝固系組成物が活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づいて凝固時間を測定する場合には、第2凝固時間測定試薬に含まれる凝固系組成物も活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づいて凝固時間を測定する。
【0018】
また、検出試薬キットを第1部分試薬と第2部分試薬からなる第1凝固時間測定試薬と、第3部分試薬と第4部分試薬からなる第2凝固時間測定試薬とで構成するようにしてもよい。
このとき、活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づいて凝固時間を測定する場合には第1部分試薬および第3部分試薬にはリン脂質及び活性化剤が含有され、2部分試薬および第4部分試薬にはカルシウムイオンが含まれる。
また、蛇毒測定時間の原理に基づいて凝固時間を測定する場合には第1部分試薬および第3部分試薬にはリン脂質及び蛇毒が含有され、2部分試薬および第4部分試薬には、カルシウムイオンが含まれる。
さらに、プロトロンビン時間測定の原理に基づいて凝固時間を測定する場合には第1部分試薬および第3部分試薬にはリン脂質及び組織因子が含有され、2部分試薬および第4部分試薬には、カルシウムイオンが含まれる。
なお、上記第1部分試薬には非ヒト由来物質を含有してもよい。
【0019】
さらに、検出試薬キットを第1部分試薬、第2部分試薬及び第3部分試薬からなる第1凝固時間測定試薬と、第4部分試薬と第5部分試薬及び第6部分試薬からなる第2凝固時間測定試薬とで構成するようにしてもよい。
このとき、活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づいて凝固時間を測定する場合には第1部分試薬および第4部分試薬にはリン脂質が含有され、第2部分試薬及び第5部分試薬には活性化剤が含有され、第3部分試薬および第6部分試薬にはカルシウムイオンが含まれる。
また、蛇毒測定時間の原理に基づいて凝固時間を測定する場合には第1部分試薬および第4部分試薬にはリン脂質が含有され、第2部分試薬及び第5部分試薬には蛇毒が含有され、第3部分試薬および第6部分試薬にはカルシウムイオンが含まれる。
さらに、プロトロンビン時間測定の原理に基づいて凝固時間を測定する場合には第1部分試薬および第4部分試薬にはリン脂質が含有され、第2部分試薬及び第5部分試薬には組織因子が含有され、第3部分試薬および第6部分試薬にはカルシウムイオンが含まれる。
なお、上記第1部分試薬には非ヒト由来物質を含有してもよい。
【0020】
第1凝固時間測定試薬および第2凝固時間測定試薬のリン脂質の含有量は、検体と第1凝固時間測定試薬または第2凝固時間測定試薬を等量混合して(検体50μLと第1凝固時間測定試薬または第2凝固時間測定試薬を50μL混合する場合)、凝固時間測定する測定方法においては、第1凝固時間測定試薬中のホスファチジルセリン含有量は35〜370μM、好ましくは60〜250μMであり、ホスファチジルエタノールアミン含有量は40〜410μM、好ましくは65〜270μMであり、ホスファチジルコリン含有量は35〜385μM、好ましくは60〜255μMである。さらに、非ヒト由来物質の含有量は、被検体 1mL当たり0.1〜50mg、好ましくは0.2〜10mg、より好ましくは0.5〜6mgとなる量を含有させることが好ましい。測定試料1mLあたり、0.1mg以下では、LA陽性の検体の場合に、LAの捕捉が不十分となり、捕捉されなかったLAにより凝固時間の延長が認められるからである。
また、第2凝固時間測定試薬中のホスファチジルセリン含有量は1〜25μM、好ましくは5〜20μMであり、ホスファチジルエタノールアミン含有量は1〜30μM、好ましくは5〜20μMであり、ホスファチジルコリン含有量は10〜150μM、好ましくは25〜65μMである。
【0021】
ホスファチジルセリンは上記記載の濃度の範囲内で使用することができ、第1凝固時間測定試薬に含まれるホスファチジルセリンの全リン脂質に対する割合が、第2凝固時間測定試薬に含まれるホスファチジルセリンの全リン脂質に対する割合と異なるものが好ましく、第1凝固時間測定試薬のホスファチジルセリンの全リン脂質に対する割合が第2凝固時間測定試薬のホスファチジルセリンの全リン脂質に対する割合より大きいことが好ましい。
【0022】
上記リン脂質の濃度は検体50μLと第1凝固時間測定試薬または第2凝固時間測定試薬を50μL混合する場合の濃度を記載したが、検体と凝固時間測定試薬との混合割合が異なる場合、検体と第1凝固時間測定試薬または第2凝固時間測定試薬とを混合した後のリン脂質の終濃度が上記の場合と同様の範囲となるようにすれればよい。
【0023】
また、前記第1凝固時間測定試薬が第1部分試薬と第2部分試薬との組合せからなり、前記第2凝固時間測定試薬も第3部分試薬と第4部分試薬との組合せからなる場合、第1部分試薬および第3部分試薬のリン脂質の含有量は、検体と第1部分試薬または第3部分試薬を等量混合して、凝固時間測定する測定方法においては、第1部分試薬中のホスファチジルセリン含有量はホスファチジルセリン含有量は35〜370μM、好ましくは60〜250μMであり、ホスファチジルエタノールアミン含有量は40〜410μM、好ましくは65〜270μMであり、ホスファチジルコリン含有量は35〜385μM、好ましくは60〜255μMである。さらに、非ヒト由来物質の含有量は、被検体 1mL当たり0.1〜50mg、好ましくは0.2〜10mg、より好ましくは0.5〜6mgとなる量を含有させることが好ましい。測定試料1mLあたり、0.1mg以下では、LAの検体の場合に、LAの捕捉が不十分となり、捕捉されなかったLAにより凝固時間の延長が認められるからである。
また、第3部分試薬のホスファチジルセリン含有量は1〜25μM、好ましくは5〜20μMであり、ホスファチジルエタノールアミン含有量は1〜30μM、好ましくは5〜20μMであり、ホスファチジルコリン含有量は10〜150μM、好ましくは25〜65μMである。
【0024】
前記第1凝固時間測定試薬が第1部分試薬、第2部分試薬及び第3部分試薬との組合せからなり、前記第2凝固時間測定試薬も第4部分試薬、第5部分試薬及び第6部分試薬との組合せからなる場合、第1部分試薬および第4部分試薬のリン脂質の含有量は、検体と第1部分試薬または第4部分試薬を等量混合して、凝固時間測定する測定方法においては、第1部分試薬中のホスファチジルセリン含有量は35〜370μM、好ましくは60〜250μMであり、ホスファチジルエタノールアミン含有量は40〜410μM、好ましくは65〜270μMであり、ホスファチジルコリン含有量は35〜385μM、好ましくは60〜255μMである。さらに、非ヒト由来物質の含有量は、被検体 1mL当たり0.1〜50mg、好ましくは0.2〜10mg、より好ましくは0.5〜6mgとなる量を含有させることが好ましい。測定試料1mLあたり、0.1mg以下では、LA陽性の検体の場合に、LAの捕捉が不十分となり、捕捉されなかったLAにより凝固時間の延長が認められるからである。
また、第4部分試薬のホスファチジルセリン含有量は1〜25μM、好ましくは5〜20μMであり、ホスファチジルエタノールアミン含有量は1〜30μM、好ましくは5〜20μMであり、ホスファチジルコリン含有量は10〜150μM、好ましくは25〜65μMである。
【0025】
次に、上記構成を有する本発明の試薬キットを用いて、LAを検出する方法について説明する。
まず検体試料を2つに分け、一方には高濃度のPSを含む第1凝固時間測定試薬を添加し、もう一方の検体試料には、低濃度のPSを含む第2凝固時間測定試薬を添加する。
また、第1凝固時間測定試薬がそれぞれ第1部分試薬と第2部分試薬とに分かれている場合には、検体と第1部分試薬とを混合してから第2部分試薬を添加する。
さらに、第1凝固時間測定試薬が第1部分試薬、第2部分試薬および第3部分試薬に分かれている場合には、検体と第1部分試薬とを混合し、第2部分試薬、第3部分試薬の順に試薬を添加する。
検体に各試薬を添加した後、試料の凝固時間を測定する。凝固時間の測定は、当業者に公知の方法で行えばよく、公知の自動測定装置を用いて測定してもよい。
【0026】
ここで、LA検出に用いる試料としては、血液をそのまま用いるよりも血漿を用いることが好ましく、より好ましくは血小板除去血漿を用いることが好ましい。また、試料に、正常血漿または正常血小板除去正常血漿を混合したものを用いてもよい。正常血漿を混合しておくことにより、凝固因子欠損に基づく凝固時間の延長を防止するが可能となり、LAの感度が高まるからである。試料と正常血漿の混合する場合の混合比は、一般的に4:1乃至1:4であり、好ましくは1:1である。
【0027】
本発明の試薬キットを用いた凝固検査では、LA陽性患者、血液凝固因子欠損患者、ワーファリン投与患者、ヘパリン投与患者などの抗凝血疾患由来の試料の凝固時間は、正常血漿の凝固時間よりも長くなる。さらに、LA陽性患者検体については、第1凝固時間測定試薬と第2凝固時間測定試薬による凝固時間の差異も認められる。すなわち、LA陽性患者由来の試料では、高濃度のPSを含む第1凝固時間測定試薬を用いたときの凝固時間よりも、低濃度のPSを含む第2凝固時間測定試薬を用いたときの凝固時間の方が長くなる。一方、血液凝固因子欠損患者、ワーファリン投与患者、ヘパリン投与患者由来の試料では、第1凝固時間測定試薬と第2凝固時間測定試薬との間で、凝固時間の顕著な差異は認められない。従って、第1凝固時間測定試薬と第2凝固時間測定試薬との凝固時間の差異に基づいて、LAを特異的に検出することができる。
【0028】
LAの検出は、第1凝固時間測定試薬と第2凝固時間測定試薬の差異によって判定することができるが、より精度よく判定するためには、正常血漿の凝固時間に対する患者由来の試料の凝固時間の比、例えばRosner Index(E.Rosner,et al.,Thromb.Haemast.1987,57:144-149)またはLupus Ratio(LR)(R.Schjetlein,et al.,Thromb.Res.1993,69:239-250)、LRと同じ原理ではあるが、検体と正常血漿の混合しない凝固時間比により、判定を行うことが好ましい。
正常血漿の場合、PS含有率は凝固時間に影響を及ぼさないので、第1凝固時間試薬と第2凝固時間試薬の比に該当するLR値は1程度である。また、血液凝固因子欠損患者、ワーファリン投与患者、またはヘパリン投与患者由来の場合であっても、正常血漿と比べて凝固時間は延長されるものの、PS濃度差による凝固時間の差はほとんど認められないため、LR値は1程度となる。これに対して、LA陽性の場合には、第1凝固時間測定試薬、第2凝固時間測定試薬の各濃度、組合わせにもよるが、第2凝固時間測定試薬の方が第1凝固時間測定試薬よりも凝固時間が延びるために、LR値を比較することによりLA陽性患者由来の試料を自動的に検出することができる。
【実施例】
【0029】
以下の実施例は本発明を具体的に説明するものであるが、これによって本発明の範囲を制限するものではない。
(比較例1)
【0030】
活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づくループスアンチコアグラント測定試薬(2試薬系)を下記に示す方法により調製した。
つまり、LA-Hは第1部分試薬と第2部分試薬とからなり、LA-Lは第3部分試薬と第4部分試薬とからなり、第1部分試薬の各成分の濃度はヘペスが50mM、エラグ酸が0.1mM、トリスが25mM、PSが123μM、PEが134μM、PCが127μMであり、各成分添加後のpHは7.35ある。また、第3部分試薬の各成分の濃度はヘペスが50mM、エラグ酸が0.1mM、トリスが25mM、PSが12.3μM、PEが13.4μM、PCが38.2μMであり、各成分添加後のpHは7.35である。
また、塩化カルシウム濃度が25mMになるように精製水で調製したものを、第2部分試薬、第4部分試薬とした。
【0031】
正常血漿及び測定試料をそれぞれ50μLづつ2セット準備し、一方のセットの各試料に、第1部分試薬(又は第3部分試薬)50μLを添加し、37℃に5分間加温した後、各試料に第2部分試薬(又は第4部分試薬)を50μL添加し、凝固時間を測定した。 凝固時間の測定は全自動血液凝固分析装置コアグレックス800(島津製作所株式会社)を用いて、凝固時間を測定した。測定は2回行い、平均値を求めた。
【0032】
正常血漿としてはコアグトロールN(シスメックス社製)を使用し、測定試料としては表1に示すLA陽性患者血漿(検体番号1〜21)、また、表2に示す健常人血漿(検体番号22〜29)、ワーファリン投与患者血漿(検体番号30〜39)、第VIII因子欠乏患者血漿(検体番号40〜49)およびヘパリン投与患者血漿(検体番号50〜53)を用いた。
【0033】
また、健常人血漿はジョージキングバイオメディカル社(USA)、アルファセラピューティック社(USA)から購入した。LA陽性患者血漿、ワーファリン投与患者血漿、ヘパリン投与患者血漿、凝固因子欠乏患者血漿は、ジョージキングバイオメディカル社(USA)、医学生物学研究所、American Diagnostic Inc (USA)、サンフコ社から購入した。
【0034】
各試料について測定した凝固時間から、下式1で示す凝固時間比を算出した。
〔式1〕
凝固時間比 =(b/a)/(d/c)=bc/ad
ここで、式1中のa、b、c、およびdは、下記に示す組み合わせで得られた測定値を表す。つまり、a:LA-Hの測定試料の秒数、b;LA-Lの測定試料の秒数、c;LA-Hの正常血漿の秒数、d;LA-Lの正常血漿の秒数
各測定試料の凝固時間比を表1及び表2のHBR(-)として示した。また、凝固時間比が1.6以上のものをLA陽性(LA+)と判定した。
(比較例2)
【0035】
市販のLA測定試薬である希釈ラッセル蛇毒試薬(医学生物学研究所社製)およびSTACLOT-LA試薬(ロシュ社製)を用いて、LA陽性患者血漿(表1に示す検体番号1〜21)凝固時間の測定を行った。
希釈ラッセル蛇毒試薬を用た各LA陽性患者血漿の測定は、用法容量に従い凝固時間を測定し「凝固時間の比率」を算出することにより行った。その結果をdRVVTとして表1に示した。
また、STACLOT-LA試薬を用いた各LA陽性患者血漿の測定は、用法用量に従い凝固時間を測定し、「凝固時間の差」を算出することにより行った。
【0036】
その結果をSTACLOTとして表1に示した。希釈ラッセル蛇毒試薬を用いて算出した凝固時間の比率が1.3以上のものをLA陽性と判定し、STACLOT-LA試薬を用いて算出した凝固時間の差が8秒以上のものを陽性と判定した
【0037】
(実施例1)
上記比較例1の第1部分試薬に1mg/mLになるようにHBR(Scantibodies社製)を添加した以外は比較例1と同様に測定及び判定を行った。その結果を表1及び表2のHBR(+)として示した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】


表1に示すようにdRVVT試薬およびSTACLOT試薬とも陽性である検体(検体番号1〜13)はHBR(-)、HBR(+)とも陽性であったが、dRVVTおよびSTACLOTのいずれか一方が陽性である弱陽性検体(検体番号14〜21)につてはHBR(-)の試薬では2検体のみ陽性であったが、HBR(+)の試薬は全て陽性であり、LAが弱陽性であっても検出することが明らかとなった。また、表2に示す健常人血漿(検体番号22〜29)、ワーファリン投与患者血漿(検体番号30〜39)、第VIII因子欠乏血漿(検体番号40〜49)およびヘパリン投与患者血漿(検体番号50〜53)につてはHBR(-)、HBR(+)とも陰性と判定され特異的にLAを検出することが判明した。
【0040】
(実施例2)
活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づく凝固時間測定試薬(3試薬系)を下記に示す方法により調製し、実施例1で作成した活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づく2試薬系の試薬との相関性を検討した。
【0041】
つまり、LA-Hは第1部分試薬、第2部分試薬及び第3部分試薬からなり、LA-Lは第4部分試薬、第5部分試薬及び第6部分試薬からなる。第1部分試薬の各成分の濃度はヘペスが50mM、トリスが25mM、PSが123μM、PEが134μM、PCが127μM、HBR(Scantibodies社製) が1mg/mLであり、各成分添加後のpHは7.35である。また、第4部分試薬の各成分の濃度はヘペスが50mM、トリスが25mM、PSが12.3μM、PEが13.4μM、PCが38.2μMであり、各成分添加後のpHは7.35である。
また、エラグ酸濃度が0.1mMになるように精製水で調製したものを、第2部分試薬、第5部分試薬とした。
また、塩化カルシウム濃度が25mMになるように精製水で調製したものを、第3部分試薬、第6部分試薬とした。
【0042】
測定試料をそれぞれ50μLづつ2セット準備し、一方のセットの各試料に、第1部分試薬(又は第4部分試薬)50μLを添加し37℃で1分間加温した後、第2部分試薬(又は第5部分試薬)を50μL添加し37℃で5分間加温、さらに、第3部分試薬(又は第6部分試薬)を50μL添加し、上記と同様に全自動血液凝固分析装置コアグレックス800(島津製作所株式会社)を用いて凝固時間を測定し、凝固時間比を算出した。
相関性の検討に用いた測定試料はLA陽性患者血漿18検体、健常人血漿32検体の合計50検体を用いた。
【0043】
上記と同じ検体を実施例1で調製した2試薬系の試薬を用いて測定した、2試薬系の試薬と3試薬系の試薬のとの相関性を図1に示す。
図1に示すように2試薬系の試薬と3試薬系の試薬の相関性が認められ、3試薬系の試薬も2試薬系の試薬と同様に使用できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、LA が弱陽性検体であっても特異的に検出できる試薬キットを提供することが可能となり、臨床検査の分野に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例2の活性化部分トロンボプラスチン時間測定の測定原理に基づく3試薬系の凝固時間測定試薬と2試薬系の凝固時間測定試薬の相関性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1凝固時間測定試薬と第2凝固時間測定試薬とを備えたループスアンチコアグラント検出試薬キットにおいて、
第1凝固時間測定試薬が、リン脂質としてのホスファチジルセリンと、カルシウムイオンと、ヒトを除く脊椎動物の抗体、血清、血漿及び免疫グロブリンから成る群より選ばれる少なくとも1種の非ヒト由来物質とを含有し、
第2凝固時間測定試薬が、カルシウムイオンと、第1凝固時間測定試薬より低濃度のホスファチジルセリンとを含有することを特徴とするループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項2】
第1および第2凝固時間測定試薬が、リン脂質として、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンを含有する請求項1記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項3】
第1凝固時間測定試薬に含まれるホスファチジルセリンの全リン脂質に対する割合が、第2凝固時間測定試薬に含まれるホスファチジルセリンの全リン脂質に対する割合と異なっている請求項1または請求項2に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項4】
前記第1凝固時間測定試薬および前記第2凝固時間測定試薬が活性化剤を含有する請求項1〜3の何れか1項に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項5】
前記第1凝固時間測定試薬および前記第2凝固時間測定試薬が蛇毒を含有する請求項1〜3の何れか1項に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項6】
前記第1凝固時間測定試薬および前記第2凝固時間測定試薬が組織因子を含有する請求項1〜3の何れか1項に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項7】
前記第1凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン及び非ヒト由来物質を含有する第1部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第2部分試薬とからなり、前記第2凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリンを含有する第3部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第4部分試薬とからなる請求項1〜3の何れか1項に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項8】
前記第1凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン、活性化剤及び非ヒト由来物質を含有する第1部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第2部分試薬とからなり、前記第2凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン及び活性化剤を含有する第3部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第4部分試薬とからなる請求項4に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項9】
前記第1凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン、蛇毒及び非ヒト由来物質を含有する第1部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第2部分試薬とからなり、前記第2凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン及び蛇毒を含有する第3部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第4部分試薬とからなる請求項5に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項10】
前記第1凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン、組織因子及び非ヒト由来物質を含有する第1部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第2部分試薬とからなり、前記第2凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン及び組織因子を含有する第3部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第4部分試薬とからなる請求項6に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項11】
前記第1部分試薬及び第3部分試薬が、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルコリンを含有する請求項7〜10の何れか1項に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項12】
前記第1凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン及び非ヒト由来物質を含有する第1部分試薬と、活性化剤を含有する第2部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第3部分試薬とからなり、前記第2凝固時間測定試薬がホスファチジルセリンを含有する第4部分試薬と、活性化剤を含有する第5部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第6部分試薬とからなる請求項4に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項13】
前記第1凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン及び非ヒト由来物質を含有する第1部分試薬と、蛇毒を含有する第2部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第3部分試薬とからなり、前記第2凝固時間測定試薬がホスファチジルセリンを含有する第4部分試薬と、蛇毒を含有する第5部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第6部分試薬とからなる請求項5に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項14】
前記第1凝固時間測定試薬が、ホスファチジルセリン及び非ヒト由来物質を含有する第1部分試薬と、組織因子を含有する第2部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第3部分試薬とからなり、前記第2凝固時間測定試薬がホスファチジルセリンを含有する第4部分試薬と、組織因子を含有する第5部分試薬と、カルシウムイオンを含有する第6部分試薬とからなる請求項6に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項15】
前記第1部分試薬及び第4部分試薬が、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルコリンを含有する請求項12〜14の何れか1項に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項16】
前記活性化剤がエラグ酸、カオリン、セライト及びコロイドシリカからなる群より選択される1以上の活性化剤である請求項4、8または12に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項17】
前記蛇毒がラッセル蛇毒、テキスタリン蛇毒及びエカリン蛇毒からなる群より選択される1以上の蛇毒である請求項5、9または13に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。
【請求項18】
前記組織因子がウサギ脳由来またはヒト胎盤由来のものである請求項6、10または14に記載のループスアンチコアグラント検出試薬キット。

【図1】
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