説明

ループ型ヒートパイプ及び電子機器

【課題】配置状態にかかわらず確実に動作を開始できるループ型ヒートパイプ及びそのループ型ヒートパイプを用いた電子機器を提供する。
【解決手段】ループ型ヒートパイプ100は、蒸発器1と、凝縮器8と、蒸発器1と凝縮器8との間を連絡して環状の主ループ10を形成する蒸気管12及び液管13と、蒸発器1と凝縮器8との間を連絡して環状の補助ループ20を形成する蒸気管22及び液管23とを有する。また、蒸発器1は、液管13,23から流入する液相の作動流体を貯留する液溜部5と、蒸気管12に連絡する蒸気集合部6aと、蒸気集合部6aよりも凝縮器8に近い位置に配置されて蒸気管22に連絡する蒸気集合部6bと、蒸気集合部6aと蒸気集合部6bとを分離する分離壁7と、多孔質体により形成されて液溜部5と蒸気集合部6a,6bとの間に配置されたウィック4a,4bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループ型ヒートパイプ及びそのループ型ヒートパイプを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ループ型ヒートパイプは作動流体の相変化を利用して熱を輸送する装置であり、CPU(Central Processing Unit)やその他の電子部品の冷却に使用されている。ループ型ヒートパイプは、蒸発器及び凝縮器と、それらの蒸発器及び凝縮器の間を連絡して環状の流路を形成する蒸気管及び液管とを有し、内部には水又はエタノール等の作動流体が封入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−190976号公報
【特許文献2】特開2011−27321号公報
【特許文献3】特開2009−115396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配置状態にかかわらず確実に動作を開始できるループ型ヒートパイプ及びそのループ型ヒートパイプを用いた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
開示の技術の一観点によれは、液相の作動流体を気相の作動流体に変化させる蒸発器と、気相の作動流体を液相の作動流体に変化させる凝縮器と、前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の主ループを形成する第1の蒸気管及び第1の液管と、前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の補助ループを形成する第2の蒸気管及び第2の液管とを有し、前記蒸発器が、前記第1の液管及び前記第2の液管から流入する液相の作動流体を一時的に貯留する液溜部と、前記第1の蒸気管に連絡する第1の蒸気集合部と、前記第1の蒸気集合部よりも前記凝縮器に近い位置に配置されて前記第2の蒸気管に連絡する第2の蒸気集合部と、前記第1の蒸気集合部と前記第2の蒸気集合部とを分離する分離壁と、多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第1の蒸気集合部との間に配置された第1のウィックと、多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第2の蒸気集合部との間に配置された第2のウィックとを有するループ型ヒートパイプが提供される。
【0006】
また、開示の技術の他の一観点によれば、電子部品を搭載した回路基板と、ループ型ヒートパイプとを具備し、前記ループ型ヒートパイプは、前記電子部品で発生する熱により液相の作動流体を気相の作動流体に変化させる蒸発器と、気相の作動流体を液相の作動流体に変化させる凝縮器と、前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の主ループを形成する第1の蒸気管及び第1の液管と、前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の補助ループを形成する第2の蒸気管及び第2の液管とを有し、前記蒸発器が、前記第1の液管及び前記第2の液管から流入する液相の作動流体を一時的に貯留する液溜部と、前記第1の蒸気管に連絡する第1の蒸気集合部と、前記第1の蒸気集合部よりも前記凝縮器に近い位置に配置されて前記第2の蒸気管に連絡する第2の蒸気集合部と、前記第1の蒸気集合部と前記第2の蒸気集合部とを分離する分離壁と、多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第1の蒸気集合部との間に配置された第1のウィックと、多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第2の蒸気集合部との間に配置された第2のウィックとを有する電子機器が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記一観点に係るループ型ヒートパイプは、配置状態にかかわらず確実に動作を開始できる。また、上記一観点に係るループ型ヒートパイプを搭載した電子機器は、配置状態にかかわらず電子部品を冷却することができ、誤動作や故障の発生を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)はループ型ヒートパイプの一例を表した模式図であり、図1(b)は同じくそのループ型ヒートパイプの断面図である。
【図2】図2は、図1に例示したループ型ヒートパイプの問題点を説明する断面図である。
【図3】図3は、実施形態に係るループ型ヒートパイプの平面図である。
【図4】図4(a)は、図3のループ型ヒートパイプの蒸発器の分解斜視図であり、図4(b)は同じくその蒸発器の断面図である。
【図5】図5は、実施形態に係るループ型ヒートパイプをトップヒートの状態に配置したときの動作を説明する模式図(その1)である。
【図6】図6は、実施形態に係るループ型ヒートパイプをトップヒートの状態に配置したときの動作を説明する模式図(その2)である。
【図7】図7は、実施例及び比較例のループ型ヒートパイプの熱輸送抵抗を調べた結果を示す図である。
【図8】図8は、実施形態に係るループ型ヒートパイプを搭載した電子機器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について説明する前に、実施形態の理解を容易にするための予備的事項について説明する。
【0010】
図1(a)はループ型ヒートパイプの一例を表した模式図であり、図1(b)は同じくそのループ型ヒートパイプの断面図である。
【0011】
図1(a)のように、ループ型ヒートパイプ60は、蒸発器61及び凝縮器62と、それらの蒸発器61及び凝縮器62間を連絡して環状の流路を形成する蒸気管63及び液管64とを有し、内部には作動流体として水又はエタノール等が封入されている。
【0012】
蒸発器61はCPU(Central Processing Unit)等の電子部品と熱的に接触され、電子部品で発生した熱が伝達されて温度が上昇する。一方、凝縮器62にはフィン65が取り付けられており、凝縮器62の近傍に配置された送風ファン66により冷風が供給される。
【0013】
図1(b)のように、蒸発器61内は、液管64側の液溜部61aと、蒸気管63側の蒸気集合部61bと、それらの間のウィック配置部との3つの空間に分割されている。液溜部61aには、液管64から移動してきた液相の作動流体が一時的に貯留される。
【0014】
ウィック配置部には伝熱ブロック61cが配置されており、この伝熱ブロック61cに設けられた複数の孔内にはそれぞれウィック67が挿入されている。ウィック67は多孔質体により形成されており、一端側が閉塞された円筒形の形状を有する。そして、各ウィック67は、閉塞端側を蒸気集合部61bに向け、開放端側を液溜部61aに向けて配置されている。また、ウィック67の外周面には、ウィック67の中心軸方向に延びて蒸気集合部61bに連絡する複数のグルーブ(蒸気排出溝)が設けられている。
【0015】
ウィック67が多孔質体により形成されているため、液溜部61a内の液相の作動流体はウィック67内に浸透し、毛細管力によりウィック67の外周部に移動する。そして、この液相の作動流体は、ウィック67の外周部で電子部品から伝熱ブロック61cを介して伝達される熱により加熱されて、気相(蒸気)に変化する。
【0016】
作動流体は、液相から気相への変化にともなって体積が増大する。このとき、ウィック67の孔内には液相の作動流体が充填されているため、ウィック67の外周部で気相となった作動流体(蒸気)はウィック67内に進入することができず、蒸気集合部61bから蒸気管63を通って凝縮部62に移動する。
【0017】
凝縮器62に移動した気相の作動流体は、送風ファン66から供給される冷風により冷却されて液相に変化する。そして、この液相の作動流体は、蒸気管61から移動してくる蒸気により凝縮器62から押し出され、液管64を通って蒸発器61の液溜部61aに移動する。
【0018】
このようにして、ループ型ヒートパイプ60内を作動流体が気相と液相とに変化しながら循環することで蒸発器61から凝縮器62に熱が輸送され、蒸発器61に接続された電子部品が冷却される。図1(a),(b)中の矢印Aは、作動流体の移動方向を示している。ループ型ヒートパイプ60は、電子部品から伝達される熱により蒸発器61の温度が所定温度以上になると動作を開始し、蒸発器61の温度が所定温度よりも低くなると動作を停止する。
【0019】
以下、上述のループ型ヒートパイプ60の問題点を説明する。ループ型ヒートパイプ60を水平に配置する場合や、蒸発器61が凝縮器62よりも下となるいわゆるボトムヒートの状態で配置する場合は、ループ型ヒートパイプ60が動作を停止しても蒸発器61の液溜部61a内に液相の作動流体が残る。この液相の作動流体は毛細管力により各ウィック67の孔内に進入し、ウィック67の孔内は液相の作動流体で充填された状態となる。このため、蒸発器61の温度が所定温度以上になれば、ループ型ヒートパイプ60は正常に動作を開始する。
【0020】
しかし、蒸発器61が凝縮器63よりも上となるいわゆるトップヒートの状態でループ型ヒートパイプ60を配置とすると、図2のようにループ型ヒートパイプ60が停止したときに液相の作動流体が重力によって蒸発器61の下側に集まる。このため、蒸発器61内の上側に配置されたウィック67では液相の作動流体が失われて乾いた状態になる。
【0021】
この状態で蒸発器61に電子部品から熱が伝達されると、蒸発器61の下側のウィック67の外周部で気相の作動流体が発生するものの、その気相の作動流体は図2中に矢印Bで示すように上側のウィック67の孔内を通って液溜部61a側に逆流してしまう。
【0022】
このため、蒸発器61から凝縮器62に向けて作動流体を押し出す駆動力が発生せず、ループ型ヒートパイプ60が動作を開始できなくなる。その結果、蒸発器61に接続された電子機器を冷却できなくなり、電子機器の誤動作や故障を招いてしまう。
【0023】
以下の実施形態では、配置状態にかかわらず確実に動作を開始できるループ型ヒートパイプ及びそのループ型ヒートパイプを用いた電子機器について説明する。
【0024】
(実施形態)
図3は、実施形態に係るループ型ヒートパイプの平面図である。図3中の矢印Cは、作動流体の移動方向を示している。
【0025】
本実施形態に係るループ型ヒートパイプ100は、蒸発器1と、凝縮器8と、第1の蒸気管12及び第2の蒸気管22と、第1の液管13及び第2の液管23とを有する。また、ループ型ヒートパイプ100内には、作動流体としてエタノールが封入されている。なお、作動流体として、水、アセトン、ブタン、アンモニア、ペンタン又はR141B等を使用してもよい。
【0026】
蒸発器1は平板状の外観を有し、CPU等の電子部品と熱的に接続される。この蒸発器1の一方の端面(図3では左側の面)には気相の作動流体(蒸気)が排出される第1の出口部及び第2の出口部が設けられており、反対側の端面(図3では右側の面)には液相の作動流体が流入する第1の入口部及び第2の入口部が設けられている。第1の蒸気管12は第1の出口部に接続され、第2の蒸気管22は第2の出口部に接続され、第1の液管13は第1の入口部に接続され、第2の液管23は第2の入口部に接続されている。
【0027】
凝縮器8は、第1の蒸気管12と第2の液管13との間を連絡する第1の凝縮管8aと、第2の蒸気管22と第2の液管23との間を連絡する第2の凝縮管8bとを有する。また、第1の凝縮管8a及び第2の凝縮管8bには放熱用のフィン15が設けられており、フィン15に送風ファン16から冷風が供給されて、第1の凝縮管8a及び第2の凝縮管8bを通る作動流体が冷却される。本実施形態では、図3のように、送風ファン16は第1の凝縮管8aを挟んで第2の凝縮管8bの反対側に配置されている。
【0028】
なお、本実施形態ではフィン15と送風ファン16とにより凝縮器8を冷却しているが、凝縮器8を室温以下に冷却した液中に浸すなどの方法により冷却してもよい。
【0029】
蒸発器1、蒸気管12、凝縮器8(凝縮管8a)及び液管13により作動流体が循環する主ループ10が形成されており、蒸発器1、蒸気管22、凝縮器8(凝縮管8b)及び液管23により作動流体が循環する補助ループ20が形成されている。図3のように、補助ループ20は主ループ10の内側に位置している。
【0030】
図4(a)は、図3のループ型ヒートパイプ100の蒸発器1の分解斜視図であり、図4(b)は同じくその蒸発器1の断面図である。なお、図4(b)は、電子部品との接続面に平行に切断した断面を示している。
【0031】
図4(b)のように、蒸発器1は、伝熱ブロック2と複数の第1のウィック4a及び第2のウィック4bとを有し、ウィック4a,4bは伝熱ブロック2に一列に並んで設けられた貫通孔内に挿入されている。ウィック4a,4bはいずれも多孔質体により形成されており、一端側が閉塞された円筒形の形状を有する。そして、ウィック4a,4bは、閉塞端側を蒸気管12,22側に向け、開放端側を液管13,23側に向けて配置されている。また、ウィック4a,4bの外周面には、ウィック4の中心軸方向に延びる複数のグルーブが設けられている。
【0032】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、蒸発器1内に配置された複数のウィックのうち凝縮器8に最も近い位置に配置されたウィックを第2のウィック4bと記載し、他のウィックを第1のウィック4aと記載している。本実施形態では第1のウィック4aと第2のウィック4bとは同一のものであるが、例えば第1のウィック4aと第2のウィック4bとは大きさ又は形状が異なっていてもよい。
【0033】
伝熱ブロック2は、銅又はアルミニウムなどの熱伝導性に優れた金属により形成されており、CPU等の電子部品に熱的に接続される。図4(b)のように、伝熱ブロック2の一方の側にはウィック4a,4bの外周部で発生した気相の作動流体が集まる蒸気集合部6が設けられおり、他方の側には液管13,23から移動してきた液相の作動流体が一次的に貯留される液溜部5が設けられている。
【0034】
蒸気集合部6内には仕切壁7が設けられており、この仕切壁7により蒸気集合部6が第1の蒸気集合部6aと第2の蒸気集合部6bとに分割されている。第1の蒸気集合部6aは蒸気管12に連絡しており、第1のウィック4aで発生した気相の作動流体が集合する領域である。第1の蒸気集合部6a及び第1のウィック4aは、主ループ10の一部を形成している。
【0035】
また、第2の蒸気集合部6bは蒸気管22に連絡し、第2のウィック4bで発生した気相の作動流体が集合する領域である。第2の蒸気集合部6b及び第2のウィック4bは、補助ループ20の一部を形成している。
【0036】
液溜部5には仕切壁は設けられていないが、液管13は液溜部5のうち第1の蒸気集合部6aに対応する領域に接続され、液管23は液溜部5のうち第2の蒸気集合部6bに対応する領域に接続されている。
【0037】
なお、本実施形態では補助ループ20内のウィック(第2のウィック4b)の数を1個としているが、補助ループ20内のウィックの数を2個又はそれ以上としてもよい。但し、トップヒートの状態で配置したときの起動しやすさを考慮すると、補助ループ20内のウィックの数は少ないほうが好ましい。また、本実施形態では主ループ10内のウィック(第1のウィック4a)の数を4個としているが、主ループ10内のウィックの数は任意に変更してもよい。
【0038】
以下、上述の構造のループ型ヒートパイプ100をトップヒートの状態に配置したときの動作について、図5〜図6の模式断面図を参照して説明する。ループ型ヒートパイプ100をトップヒートの状態で配置すると、図5〜図6のように第2のウィック4bが下、第1のウィック4aが上となる。
【0039】
図5(a)はループ型ヒートパイプ100が停止した状態を示している。この図5(a)のように、ループ型ヒートパイプ100が停止すると、液相の作動流体は重力により下方に移動し、蒸気管12,22、液管13,23及び凝縮器8内に貯留される。この場合、液溜部5内の液相の作動流体の大部分が蒸発器1の下部に接続された液管23内に進入するため、補助ループ20内には比較的多くの作動流体が貯留される。
【0040】
また、蒸発器1の下部にも、少量の液相の作動流体が残留する。このため、蒸発器1の下部に配置されたウィック4b内には毛細管現象により液相の作動流体が浸透し、ウィック4bの孔内は液相の作動流体が満たされた状態となる。
【0041】
一方、蒸発器1の上部に配置されたウィック4aは、ウィック4a内に浸透していた液相の作動流体が重力により下方に移動してしまうため、乾いた状態になる。
【0042】
電子部品から蒸発器1に熱が伝達されて蒸発器1の温度が所定温度以上になると、蒸発器1の下部に配置されたウィック4bの外周部で蒸気(気相の作動流体)が発生する。この蒸気により、図5(b)のように、第2の蒸気集合部6b内及び蒸気管22内の液相の作動流体が液管23側に押し出され、その結果液管23から蒸気管1内の液溜部5に液相の作動流体が流入する。そして、液溜部5内の作動流体の液面が上昇し、ウィック4aにも液相の作動流体が浸透するようになる。
【0043】
但し、全てのウィック4a内に液相の作動流体が十分浸透するまでの間は、下側のウィック4aの外周部で気相の作動流体が発生しても、その気相作動流体は蒸気集合部6aから上側のウィック4aを透過して液溜部5側に逆流してしまう。このため、主ループ10では作動流体の循環が開始されない。
【0044】
その後、時間が経過すると、図6(a)のように補助ループ20内の液相の作動流体が更に液溜部5内に押し出され、液溜部5内の作動流体の液面が上昇して、全てのウィック4a内に液相の作動流体が浸透するようになる。これにより、ウィック4aで発生した気相の作動流体が蒸気管12に流れ、蒸気管12内の液相の作動流体が液管13側に押し出される。その結果、図6(b)のように液溜部5内が液相の作動流体で満たされた状態になり、主ループ10で安定した作動流体の循環が開始される。
【0045】
このようにして主ループ10で安定した作動流体の循環が開始されると、蒸発器1から凝縮器8に熱を大量に輸送できるようになり、蒸発器1に接続された電子部品を十分に冷却することが可能になる。
【0046】
上述したように、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ100は、主ループ10と補助ループ20とを有することにより、トップヒートの状態で配置しても蒸発器1の温度が所定温度以上になれば確実に動作を開始する。
【0047】
また、図1に示すループ型ヒートパイプ60では、何らかの原因によりウィック67内に気泡が侵入し、蒸気集合部61bから液溜部61aに蒸気が逆流して作動流体を循環させるための駆動力が極端に低下する現象(ドライアウト)が発生することがある。これに対し、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ100では、ウィック4a内に気泡が侵入して主ループ20の駆動力が低下しても、補助ループ10により作動流体は循環し続ける。このため、液溜部5内の液相の作動流体には液管23から流入する作動流体の圧力が印加され、時間の経過とともにウィック4a内の気泡は蒸気集合部6a側に押し出される。これにより、ドライアウトが回避される。
【0048】
なお、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ100を水平に配置した場合、及びボトムヒートの状態で配置した場合は、停止状態においても蒸発器1の液溜部5内に十分な量の液相の作動流体が残り、ウィック4a,4bの孔内に作動流体が充填される。このため、蒸発器1の温度が所定温度以上になれば、補助ループ20だけでなく主ループ10もすぐに動作を開始する。
【0049】
ところで、本実施形態では、図3のように、送風ファン16を、凝縮器8の凝縮管8aを挟んで凝縮管8bの反対側に配置している。これは、以下の理由による。
【0050】
すなわち、補助ループ20内の気相の作動流体の温度を過度に冷却すると、気相から液相に変化する作動流体の量が多くなり、液相の作動流体を液溜部5に押し出す蒸気の量が少なくなって、液溜部5内の液面の上昇速度が低下する。また、ループ型ヒートパイプ100が正常に動作を開始した後は主に主ループ10が熱の輸送を行うので、第2の凝縮管8bよりも第1の凝縮管8aをより強力に冷却するほうが熱輸送効率の向上にもつながる。
【0051】
このようなことから、送風ファン16は、図3のように第2の凝縮管8bよりも第1の凝縮管8aに近い位置に配置することが好ましい。
【0052】
(実験)
以下、上述した構造のループ型ヒートパイプを実際に製造し、その熱輸送抵抗を測定した結果について、比較例と比較して説明する。
【0053】
実施例として、図3〜図6に示す構造のループ型ヒートパイプを製造した。
【0054】
蒸発器1の大きさは50mm(幅)×50mm(長さ)×10mm(高さ)であり、伝熱ブロック2は無酸素銅により形成した。伝熱ブロック2には直径が8mmの貫通孔を5個並列に形成し、それらの貫通孔内に多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により形成されたウィック4a,4bを挿入した。
【0055】
ウィック4a,4bは一端側が閉塞された円筒状の形状を有し、外径が8mm、内径が4mm、長さが30mmである。ウィック4a,4bの外周面には、幅が1mm、深さが1mmの複数のブルーブが形成されている。また、ウィック4a,4bの平均ポーラス径は約10μmであり、空孔率は約50%である。
【0056】
ウィック4a,4bを配置した伝熱ブロック2に金属ケースに取り付け、液溜部5及び蒸気集合部6を有する蒸発器1を形成した。液溜部5の内側には、金属ケースから作動流体に直接熱が伝わることを防ぐために、断熱材として厚さが1mmのPTFE板を張り付けた。液溜部5の寸法は6mm×46mm×10mmであり、容積は約3ccである。また、蒸気集合部6には仕切壁7を設け、蒸気集合部6を第1の蒸気集合部6aと第2の蒸気集合部6bとに分割した。
【0057】
主ループ10を形成する蒸気管12、凝縮管8a及び液管13として、外径が6mm、内径が4mmの銅パイプを用意した。また、補助ループ20を形成する蒸気管22、凝縮管8b及び液管13として、外径が4mm、内径が3mmの銅パイプを用意した。
【0058】
そして、蒸発器1と銅パイプとをろう付けし、更に凝縮管8a,8bにフィンを取り付けて、図3のように主ループ10及び補助ループ20を有する実施例のループ型ヒートパイプを完成した。
【0059】
蒸気管12の長さは250mm、凝縮管8aの長さは150mm、液管13の長さは550mmとした。また、蒸気管22の長さは200mm、凝縮管8bの長さは150mm、液管23の長さは500mmとした。更に、ループ型ヒートパイプ内には、作動液としてエタノールを封入した。
【0060】
一方、比較例として、図1に示す構造のループ型ヒートパイプを作製した。蒸発器61の大きさは、実施例と同様に50mm(幅)×50mm(長さ)×10mm(高さ)であり、蒸気管63、液管62及び凝縮器64は銅パイプにより形成した。
【0061】
これらの実施例及び比較例のループ型ヒートパイプを、CPUが搭載されたコンピュータ基板(回路基板)に取り付けた。なお、CPUの上にはサーマルグリースを塗布した。
【0062】
そして、実施例及び比較例のループ型ヒートパイプを取り付けた各コンピュータ基板をトップヒートの状態となるように垂直に配置し、CPUの発熱量とループ型ヒートパイプの熱輸送抵抗との関係を調べた。
【0063】
図7は、横軸にCPUの発熱量をとり、縦軸に熱輸送抵抗をとって、実施例及び比較例のループ型ヒートパイプの熱輸送抵抗を調べた結果を示す図である。
【0064】
この図7に示すように、比較例のループ型ヒートパイプでは、CPUの発熱量が10Wのときに熱輸送抵抗が0.4℃/Wと高い値を示した。また、CPUの発熱量を10Wよりも高くするとCPUの温度が急激に上昇し、熱輸送抵抗を測定することができなかった。この結果から、比較例のループ型ヒートパイプではドライアウトが発生し、作動流体を循環させることができなくなったものと考えられる。
【0065】
一方、実施例のループ型ヒートパイプでは、CPUの発熱量が50Wのときに熱抵抗が0.4℃/Wであり、CPUの発熱量の増加にともなって熱輸送抵抗が低下することが確認された。また、ドライアウトの発生はなかった。これらのことから、実施例のループ型ヒートパイプは、CPUの発熱量にかかわらず、CPUを安定して冷却できることがわかる。
【0066】
(電子機器)
図8は、実施形態に係るループ型ヒートパイプを搭載した電子機器の斜視図である。
【0067】
電子機器80は、例えばブレードサーバや、タワー型のパーソナルコンピュータであり、図8のように、筺体86内にはCPU82及びメモリ84等が実装された回路基板81と、筺体86内に冷風を取り入れるための冷却ファン16と、ハードディスクドライブ(記憶装置)83とが配置されている。また、CPU82には、実施形態に係るループ型ヒートパイプ100(図3参照)の蒸発器1が接続されている。ループ型ヒートパイプ100の凝縮器8は送風ファン16の近傍に配置されており、送風ファン16から冷風が供給されるようになっている。また、蒸発器1と凝縮器8との間には、蒸気管12,22及び液管13,23が接続されており、主ループ10及び補助ループ20を形成している。
【0068】
本実施形態に係る電子機器80は、蒸発器1が凝縮器8よりも上に位置するトップヒートの状態でループ型ヒートパイプ100を配置している。このループ型ヒートパイプ100は、前述したように主ループ10及び補助ループ20を有し、蒸発器1の温度が所定温度以上になると確実に動作を開始し、CPU82を十分に冷却することができる。これにより、CPU82の誤動作や故障の発生を防止でき、電子機器80の信頼性を確保することができる。
【0069】
以上の諸実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0070】
(付記1)液相の作動流体を気相の作動流体に変化させる蒸発器と、
気相の作動流体を液相の作動流体に変化させる凝縮器と、
前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の主ループを形成する第1の蒸気管及び第1の液管と、
前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の補助ループを形成する第2の蒸気管及び第2の液管とを有し、
前記蒸発器が、
前記第1の液管及び前記第2の液管から流入する液相の作動流体を一時的に貯留する液溜部と、
前記第1の蒸気管に連絡する第1の蒸気集合部と、
前記第1の蒸気集合部よりも前記凝縮器に近い位置に配置されて前記第2の蒸気管に連絡する第2の蒸気集合部と、
前記第1の蒸気集合部と前記第2の蒸気集合部とを分離する分離壁と、
多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第1の蒸気集合部との間に配置された第1のウィックと、
多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第2の蒸気集合部との間に配置された第2のウィックとを有することを特徴とするループ型ヒートパイプ。
【0071】
(付記2)前記補助ループが、前記主ループの内側に配置されていることを特徴とする付記1に記載のループ型ヒートパイプ。
【0072】
(付記3)前記蒸発器が平板状の外観を有し、前記第1のウィック及び前記第2のウィックは前記蒸発器内に一列に並んで配置されていることを特徴とする付記1又は2に記載のループ型ヒートパイプ。
【0073】
(付記4)前記第1のウィックの数が、前記第2のウィックの数よりも多いことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【0074】
(付記5)前記凝縮器には放熱用のフィンが設けられていることを特徴とする付記1乃至4のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【0075】
(付記6)電子部品を搭載した回路基板と、
ループ型ヒートパイプとを具備し、
前記ループ型ヒートパイプは、
前記電子部品で発生する熱により液相の作動流体を気相の作動流体に変化させる蒸発器と、
気相の作動流体を液相の作動流体に変化させる凝縮器と、
前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の主ループを形成する第1の蒸気管及び第1の液管と、
前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の補助ループを形成する第2の蒸気管及び第2の液管とを有し、
前記蒸発器が、
前記第1の液管及び前記第2の液管から流入する液相の作動流体を一時的に貯留する液溜部と、
前記第1の蒸気管に連絡する第1の蒸気集合部と、
前記第1の蒸気集合部よりも前記凝縮器に近い位置に配置されて前記第2の蒸気管に連絡する第2の蒸気集合部と、
前記第1の蒸気集合部と前記第2の蒸気集合部とを分離する分離壁と、
多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第1の蒸気集合部との間に配置された第1のウィックと、
多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第2の蒸気集合部との間に配置された第2のウィックとを有する
ことを特徴とする電子機器。
【0076】
(付記7)前記蒸発器が前記凝縮器よりも上に配置されていることを特徴とする付記6に記載の電子機器。
【0077】
(付記8)前記凝縮器にエアーを供給する送風ファンを有し、該送風ファンは前記補助ループよりも前記主ループに近い位置に配置されていることを特徴とする付記6又は7に記載の電子機器。
【0078】
(付記9)前記補助ループが、前記主ループの内側に配置されていることを特徴とする付記6乃至8のいずれか1項に記載の電子機器。
【0079】
(付記10)前記蒸発器が平板状の外観を有し、前記第1のウィック及び前記第2のウィックは前記蒸発器内に一列に並んで配置されていることを特徴とする付記6乃至9のいずれか1項に記載の電子機器。
【符号の説明】
【0080】
1…蒸発器、4a,4b…ウィック、5…液溜部、6,6a,6b…蒸気集合部、7…仕切壁、8…凝縮器、8a,8b…凝縮管、10…主ループ、12,22…蒸気管、13,23…液管、15…フィン、16…送風ファン、20…補助ループ、60,100…ループ型ヒートパイプ、61…蒸発器、61a…液溜部、61b…蒸気集合部、61c…伝熱ブロック、62…凝縮器、63…蒸気管、64…液管、65…フィン、66…送風ファン、67…ウィック、80…電子機器、81…回路基板、82…CPU、83…記録装置、84…メモリ、86…筺体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相の作動流体を気相の作動流体に変化させる蒸発器と、
気相の作動流体を液相の作動流体に変化させる凝縮器と、
前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の主ループを形成する第1の蒸気管及び第1の液管と、
前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の補助ループを形成する第2の蒸気管及び第2の液管とを有し、
前記蒸発器が、
前記第1の液管及び前記第2の液管から流入する液相の作動流体を一時的に貯留する液溜部と、
前記第1の蒸気管に連絡する第1の蒸気集合部と、
前記第1の蒸気集合部よりも前記凝縮器に近い位置に配置されて前記第2の蒸気管に連絡する第2の蒸気集合部と、
前記第1の蒸気集合部と前記第2の蒸気集合部とを分離する分離壁と、
多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第1の蒸気集合部との間に配置された第1のウィックと、
多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第2の蒸気集合部との間に配置された第2のウィックとを有することを特徴とするループ型ヒートパイプ。
【請求項2】
前記補助ループが、前記主ループの内側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項3】
前記蒸発器が平板状の外観を有し、前記第1のウィック及び前記第2のウィックは前記蒸発器内に一列に並んで配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項4】
電子部品を搭載した回路基板と、
ループ型ヒートパイプとを具備し、
前記ループ型ヒートパイプは、
前記電子部品で発生する熱により液相の作動流体を気相の作動流体に変化させる蒸発器と、
気相の作動流体を液相の作動流体に変化させる凝縮器と、
前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の主ループを形成する第1の蒸気管及び第1の液管と、
前記蒸発器と前記凝縮器との間を連絡して環状の補助ループを形成する第2の蒸気管及び第2の液管とを有し、
前記蒸発器が、
前記第1の液管及び前記第2の液管から流入する液相の作動流体を一時的に貯留する液溜部と、
前記第1の蒸気管に連絡する第1の蒸気集合部と、
前記第1の蒸気集合部よりも前記凝縮器に近い位置に配置されて前記第2の蒸気管に連絡する第2の蒸気集合部と、
前記第1の蒸気集合部と前記第2の蒸気集合部とを分離する分離壁と、
多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第1の蒸気集合部との間に配置された第1のウィックと、
多孔質体により形成され、前記液溜部と前記第2の蒸気集合部との間に配置された第2のウィックとを有する
ことを特徴とする電子機器。
【請求項5】
前記蒸発器が前記凝縮器よりも上に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72627(P2013−72627A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214168(P2011−214168)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)