説明

レオロジー改質剤

【課題】幅広い温度領域で安定してレオロジー改質効果が発現するレオロジー改質剤を提供する。
【解決手段】4級カチオン基と芳香族アニオン基とを含む特定の4級塩型化合物と、アニオン性芳香族化合物とを、特定のカチオン基/(アニオン基+アニオン性芳香族化合物)モル比で含有するレオロジー改質剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レオロジー改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液やスラリーのレオロジーを改質するために、粘度を目的や用途に応じて適正に調整されることが望まれる。従来、水溶液やスラリーの粘度を調整するためには、増粘剤や減粘剤の添加、加熱や冷却操作、電解質濃度の調整などの方策が採られている。なかでも、水溶性高分子は、安価かつ容易に増粘させることができるため、非常に広範囲に用いられている。しかしながら、水溶性高分子を水に溶解させることは一般に容易でなく、ママコを形成したり、溶解に長時間を要したりするという課題があった。また、溶解時間短縮を目的に予め濃厚な水溶性高分子の水溶液を調整しても、水溶液の粘度が非常に高くなり、添加操作等の作業性に問題があった。また、高電解質濃度系の水溶液やスラリーでは、高分子の凝集等により高い粘度にすることが困難な場合もあった。
【0003】
このような背景から、特許文献1には、4級カチオン基を有する化合物と芳香族アニオン基を有する化合物とを混合することで、会合体を形成させ、スラリーを増粘させる技術が提案されている。また、4級カチオン基を有する化合物の少なくとも2種と、芳香族アニオン基を有する化合物とを用いたレオロジー改質剤が特許文献2に開示されている。
【0004】
また、より簡便な操作で使用できる1剤型のレオロジー改質剤として、特許文献3には、4級カチオン基と芳香族アニオン基とを含む4級塩型化合物を含有するレオロジー改質剤が開示されている。
【特許文献1】特開2003−313536号公報
【特許文献2】特開2003−261860号公報
【特許文献3】特開2004−124007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3のようなハロゲン元素を含まない化合物を用いることは、鉄などの腐食性のある金属に接触する部分に増粘した水溶液やスラリーを使用する場合は、金属腐食を抑制できる観点からも望ましい。このようなレオロジー改質剤において、幅広い温度領域で安定してレオロジー改質効果が発現することが望まれる。
【0006】
本発明は、幅広い温度領域で安定してレオロジー改質効果が発現し、1剤型の製剤として入手可能なレオロジー改質剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般式(1)
【0008】
【化3】

【0009】
(式中、R1は炭素数10〜26のアルキル基、R2は炭素数1〜22のアルキル基又は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基、R3及びR4は、それぞれ、炭素数2〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基である。Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1の数、X-はアニオン性芳香族化合物残基を表す。)
で表される化合物(A)〔化合物(A)〕とアニオン性芳香族化合物(B)〔化合物(B)〕とを含有するレオロジー改質剤であって、
化合物(A)における下記
【0010】
【化4】

【0011】
(式中、R1、R2、R3、R4、Y、及びnは、それぞれ、前記の通り。)
のカチオン基部分のモル数(MC)と、化合物(A)におけるX-部分のモル数と化合物(B)のモル数の合計モル数(MA)との比が、MC/MA=1/1.05〜1/1.9である、レオロジー改質剤に関する。
【0012】
また、本発明は、水溶液又はスラリーの水相中における化合物(A)と化合物(B)の合計の濃度が0.01〜20重量%となるように、上記本発明のレオロジー改質剤を、前記水溶液又はスラリーに添加する、レオロジーが制御された水溶液又はスラリーの製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、水溶液又はスラリーの水相中における化合物(A)と化合物(B)の合計の濃度が0.01〜20重量%となるように、上記本発明のレオロジー改質剤を、前記水溶液又はスラリーに添加する、水溶液又はスラリーのレオロジー制御方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハロゲンフリーかつ1剤型で、容易かつ安定的に水溶液やスラリーの粘度を高めるレオロジー改質効果が幅広い温度領域で安定して発現するレオロジー改質剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、アニオン性芳香族化合物残基を対イオンに持つ4級塩型化合物〔化合物(A)〕に、更に特定割合のアニオン性芳香族化合物〔化合物(B)〕を併用することにより、幅広い温度範囲において高い粘性が得られ、増粘効果等のレオロジー改質剤としての機能に優れるレオロジー改質剤が得られること見出した。
【0016】
化合物(A)は、4級カチオン基と芳香族アニオン基とを有する4級塩型化合物であり、その構造上、ハロゲン元素が含まれないため、使用する場所に金属が存在していた場合でも、その腐食を促進する恐れがなくなる。
【0017】
化合物(A)の4級カチオン基〔R1−(CONH−Y)n−N+(R2)(R3)(R4)〕は、4級塩型化合物に由来することができ、当該化合物としては、具体的には、テトラデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、ヘキサデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、オクタデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、オレイルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、ベヘニルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、ヘキサデシルジヒドキシエチルメチルアンモニウム、オクタデシルジヒドキシエチルメチルアンモニウム、オレイルジヒドキシエチルメチルアンモニウム等が挙げられる。これらのうち、テトラデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、ヘキサデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、オクタデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、オレイルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、ベヘニルヒドロキシエチルジメチルアンモニウムが好ましく、更に、ヘキサデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、オクタデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウムが好ましい。
【0018】
また、化合物(A)のアニオン性芳香族化合物残基(X-)は、スルホン酸基やカルボキシル基等のアニオン基とベンゼン環等の芳香族基とを有する化合物に由来することができ、当該化合物としては、具体的には、芳香族アニオン性化合物としては、スルホン酸基やカルボキシル基等のアニオン基と、ベンゼン環等の芳香族基とを有する化合物が挙げられる。アニオン性芳香族化合物としては、具体的には、パラトルエンスルホン酸、サリチル酸、安息香酸、メタキシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらのうち、パラトルエンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸が好ましい。
【0019】
化合物(A)の製造方法としては、(1)3級アミンをアニオン性芳香族化合物の酸型で中和しそこにエポキシ化合物を反応させる方法、(2)4級塩型化合物とアニオン性芳香族化合物の混合物を脱塩する方法、(3)4級塩型化合物の対イオンを芳香族アニオン基で対イオン交換する方法、(4)3級アミンを、p−トルエンスルホン酸アルキルエステル等のアニオン性芳香族化合物で4級化する方法、などが挙げられる。これらの製造方法では、製造工程において、ハロゲン元素は元々含まれないか、または系外に除去されるので、得られるレオロジー改質剤を金属が存在する部分に使用しても腐食を起こさないことから、好ましい。更に、原料アミンにアニオン性芳香族化合物の存在下でエポキシ化合物を付加させる工程(I)と、工程(I)で得られた反応生成物にアニオン性芳香族化合物を添加する工程(II)を有する方法が、生産性が高く好ましい。
【0020】
化合物(A)において、一般式(1)中のR3及びR4のヒドロキシアルキル基とは、例えば、原料アミンへのエポキシ化合物の付加により生成する置換基である。なお、エポキシ化合物1分子の付加の後、連続して付加が行われ、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコールのような連鎖を有している化合物が含まれていても良い。
【0021】
化合物(A)は、増粘する温度領域を広くできる観点から、一般式(1)中のR1の炭素数が異なる4級カチオン基が2種以上存在することが好ましい。更に、水への溶解性とレオロジー改質の効果の観点から、4級カチオン基のアルキル基(R1)の長さが異なる化合物(A)を2種以上併用することが好ましい。
【0022】
本発明のレオロジー改質剤において、化合物(A)は、一般式(1)中のR1が炭素数16以上のアルキル基である化合物を75モル%以上含有することが好ましく、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上である。また、本発明のレオロジー改質剤において、化合物(A)は、一般式(1)中のR1が炭素数18以上のアルキル基である化合物を50モル%以上含有することが好ましく、更に好ましくは60モル%以上、より更に好ましくは70モル%以上である。
【0023】
化合物(B)としては、スルホン酸基やカルボキシル基等のアニオン基と、ベンゼン環等の芳香族基とを有する化合物が挙げられる。化合物(B)としては、具体的には、パラトルエンスルホン酸、サリチル酸、安息香酸、メタキシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらのうち、パラトルエンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸が好ましい。また、これらの化合物(B)は塩の形態であってもよい。
【0024】
本発明のレオロジー改質剤は、化合物(A)のR1−(CONH−Y)n−N+(R2)(R3)(R4)のカチオン基部分のモル数(MC)と、化合物(A)におけるX-部分のモル数と化合物(B)のモル数の合計モル数(MA)との比(モル比)が、MC/MA=1/1.05〜1/1.9、好ましくは1/1.075〜1/1.5、より好ましくは1/1.1〜1/1.3のモル比で含有する。高い増粘性を得るためには、MAのモル比を高め、会合体の形成を促進するのが効果的であるが、MAのモル比が高すぎると高温において増粘性が低下するため、この範囲のモル比において、幅広い温度領域で安定してレオロジー改質効果が発現するレオロジー改質剤が得られる。
【0025】
化合物(A)と化合物(B)の併用において、低温、低添加量では、MC/MAのうちMA比率が小さ過ぎると一定の増粘作用が得られなくなるので、MCに対するMAの下限は1.05にすることが必要でである。一方、高温、高添加量では、MAの添加がむしろ負の要因として働くため、経済性も考慮するとMCに対するMAの上限は1.9となる。
【0026】
なお、上記の通り化合物(B)は塩の形態であってもよいが、MC/MAモル比の算出にあたっては、酸型に換算して行うものとする。従って、MC/MAモル比は、化合物(A)と化合物(B)におけるカチオン性基とアニオン性基のモル比に近似する。
【0027】
また、本発明のレオロジー改質剤は、化合物基準では、化合物(A)と化合物(B)とを、好ましくは化合物(A)/化合物(B)=1/0.05〜1/0.9、より好ましくは1/0.075〜1/0.5、更に好ましくは1/0.1〜1/0.3のモル比で含有することもできる。
【0028】
本発明のレオロジー改質剤中の化合物(A)及び化合物(B)の合計含有量は、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜100重量%である。本発明のレオロジー改質剤の固形分中の化合物(A)及び化合物(B)の合計の固形分の比率は50重量%以上が好ましく、更に75重量%以上が好ましい。本発明のレオロジー改質剤は、液体状(水溶液等)、固体状(粉末状等)の何れでもよい。
【0029】
本発明のレオロジー改質剤は、必要に応じて、化合物(A)及び化合物(B)以外の有機化合物を含有することが好ましい。有機化合物として例えば、レオロジー特性の観点から、4級カチオン性化合物が挙げられる。具体的には、4級カチオン性化合物としてヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩、タロートリメチルアンモニウム塩、水素化タロートリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。また、カチオン性ポリマー(例えばポリジアリルジメチルアンモニウム塩、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化グアーガム等)を含有することもできる。
【0030】
本発明のレオロジー改質剤は、化合物(A)及び化合物(B)を含有する1剤型の製剤(液体状、粉末状等)とすることができる。
【0031】
化合物(A)は、元々会合体を形成する組成となっているため、液体組成物の場合、濃厚化した製品を調製しようとすれば非常に高粘度になるが、そこに化合物(A)以外の有機化合物として溶剤や界面活性剤を添加することで減粘させ、ハンドリングを改善させることができる。溶剤としてメタノール、エタノール、2−プロパノール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられ、界面活性剤としてノニオン性界面活性剤等が挙げられる。また、ジエチルグルタル酸、グルタル酸、イタコン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等のジカルボン酸を配合することも出来る。
【0032】
本発明のレオロジー改質剤は、粉末状で入手、使用することが可能である。粉末化により取り扱いを容易にすることができ、その場合、各種粉体や粉末状の添加剤と予め混合して使用することも可能となる。粉末状のレオロジー改質剤は、ドラムドライヤー、ベヌレート乾燥機、コニカルドライヤー、熱風乾燥機、真空乾燥機等の装置を用いて揮発分を除き、必要であれば更に粉砕するなどして得ることができる。
【0033】
本発明のレオロジー改質剤を増粘させたい水溶液に添加することで当該水溶液の粘度を上げ、水と粉体を含有する増粘させたいスラリーに添加することで当該スラリーの粘度を上げることができる。本発明のレオロジー改質剤の水溶液又はスラリーへの添加量は、水溶液又はスラリーの水相中での化合物(A)と(B)の合計の濃度が0.01〜20重量%であることが好ましく、0.1〜10重量%がより好ましく、1〜5重量%がより更に好ましい。すなわち、水溶液又はスラリーの水相中における化合物(A)と化合物(B)の合計の濃度が0.01〜20重量%となるように、本発明のレオロジー改質剤を、前記水溶液又はスラリーに添加する、レオロジーが制御された水溶液又はスラリーの製造方法が提供される。また、水溶液又はスラリーの水相中における化合物(A)と化合物(B)の合計の濃度が0.01〜20重量%となるように、本発明のレオロジー改質剤を、前記水溶液又はスラリーに添加する、水溶液又はスラリーのレオロジー制御方法が提供される。この場合、水溶液又はスラリーの制御は、増粘を目的とすることが好ましい。
【0034】
本発明のレオロジー改質剤は、水溶液やスラリー中でレオロジー改質剤自体が会合体を形成し増粘させる機能を有するので、スラリー中に存在する粉体の種類の影響を受けにくく、また、イオン強度の高い水溶液でも増粘できる点から、スラリー系に適用することが有用であり、特に水硬性粉体と水とを含有するスラリーに好適である。
【0035】
本発明のレオロジー改質剤は、水粉体比(水/粉体、重量比)10〜1000%のスラリーに適用できる。このスラリーを製造する際の粉体としては、水和反応により硬化する物性を有するセメントや石こうといった水硬性粉体を用いることができる。例えばセメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、対硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、ビーライトセメント(例えば低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント製)ハイフローセメント(太平洋セメント製))、各種混合セメント(高炉セメント、シリカフュームセメント、フライアッシュセメント)、エコセメント(太平洋セメント製)などのセメントが挙げられる。また、フィラーも用いることができ、例えば炭酸カルシウム(石粉)、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、ベントナイト、クレー(含水珪酸アルミニウムを主成分とする天然鉱物:カオリナイト、ハロサイト等)が挙げられる。これらの粉体は単独でも、混合されたものでもよい。更に、必要に応じてこれらの粉体に骨材として砂や砂利、及びこれらの混合物が添加されてもよい。また、酸化チタン等の上記以外の無機酸化物系粉体のスラリーや土に適用することもできる。
【0036】
本発明のレオロジー改質剤と、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性スラリーでは、スラリーの水相に対する化合物(A)と(B)の合計の有効分濃度が0.01〜20重量%、更に0.1〜10重量%を満たした上で、化合物(A)と(B)の合計と水硬性粉体の重量比は、水硬性粉体/〔化合物(A)+化合物(B)〕=100000/1〜1/2、更に10000/1〜1/1であることが好ましい。
【0037】
本発明のレオロジー改質剤を水硬性スラリーに適用しても、粉体の硬化を妨げず良好な硬化体が得られる。本発明のレオロジー改質剤はコンクリート構造体やコンクリート製品等に適用できる。水硬性スラリーとしては、水硬性粉体と水とを含有する水硬性組成物、例えばコンクリート、モルタル、セメントミルク等が挙げられる。なかでも、本発明のレオロジー改質剤は、地盤改良工法、柱列式連続壁、注入工法などのグラウチングに使用されるグラウト材、ボーリング用セメントミルク、セルフレベリング材、軽量盛土、ひび割れ補修材、軽量モルタル、高流動コンクリート、繊維補強コンクリート、杭周固定液、水中盛土、空隙充填材、ポーラスコンクリート、エアーグラウト材、ECL用コンクリート、PCグラウト、コンクリート流動化剤、リバウンド低減剤、押出成形用増粘剤等に好適に使用できる。
【実施例】
【0038】
製造例1〔化合物(A)の製造〕
フラスコにヘキサデシルジメチルアミン147g(0.55モル)、オクタデシルジメチルアミン377g(1.27モル)を仕込み、65℃に昇温した(原料アミン中、炭素数18のアルキル基を有する化合物が70モル%)。イオン交換水1400g、p−トルエンスルホン酸の62%水溶液475g(p−トルエンスルホン酸として1.71モル、原料アミンに対するモル比0.94)を仕込み、攪拌した後、更にイオン交換水500gを仕込み、1時間攪拌し均一化させた。得られた混合水溶液の全量をオートクレーブに仕込み、65℃まで昇温し、攪拌後、系内を窒素置換した。エチレンオキサイド103gを仕込み、3時間65℃で反応させた〔工程(I)〕。その後、反応器内の残圧を系外にブローし、65℃で200torr(26.7kPa)、30分間の脱気を行った。さらに、p−トルエンスルホン酸の62%水溶液125g(p−トルエンスルホン酸として0.45モル、原料アミンに対するモル比0.25)を仕込み〔工程(II)〕、48%NaOH水溶液で中和し、目的とするジメチルヒドロキシエチルアルキルアンモニウムp−トルエンスルホネート混合水溶液を得た。混合水溶液の分析値は、pH7.2、水分68.8%、原料アミン反応率99%であった。
【0039】
実施例1
製造例1で得られた混合水溶液に、p−トルエンスルホン酸ナトリウム(100%)〔化合物(B)〕を添加して、化合物(A)と化合物(B)におけるMC/MAモル比が表2に示す通りのレオロジー改質剤を得た。得られたレオロジー改質剤を用いて、下記表1の配合によるセメントスラリーに対するレオロジー改質効果(増粘効果)を評価した。結果を表2に示す。
【0040】
(1)セメントスラリー配合
【0041】
【表1】

【0042】
表中、セメントは太平洋セメント株式会社製普通セメント、水は水道水を用いた。また、水/セメント比の算出において、レオロジー改質剤の量は水の量に算入した。
【0043】
(2)セメントスラリーの製造
ポリプロピレン製カップに所定の温度にしたセメントと水を入れ、ケーキ用ハンドミキサーで30秒練り混ぜた。更にレオロジー改質剤(混合水溶液)を加え、均一になるまで練り混ぜ、セメントスラリーを調製した。
【0044】
(3)レオロジー改質効果の評価
レオロジー改質剤を添加した後のセメントスラリーの粘度を、リオン製ビスコテスターVT−04E、ローターNo.1を用いて測定した。粘度が高いほど増粘効果に優れることを示す。セメントスラリー温度10℃では、用いたレオロジー改質剤の量が7gと少ないが、この系では粘度が1000mPa・s以上であることが増粘を目的としたレオロジー改質剤として好ましい。また、セメントスラリー温度35℃では、用いたレオロジー改質剤の量が30gと多いので、更なる増粘効果が発現するが、添加量に見合った効果が発現して経済的にも有利であるという観点から、粘度が6000mPa・s以上であることが好ましい。従って、セメントスラリー温度10℃で1000mPa・s以上、且つセメントスラリー温度35℃で6000mPa・s以上の粘度を達成できることが好ましい。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例2
実施例1の本発明品1で得られた水溶液(水溶液状のレオロジー改質剤)を、ステンレス製平バットに深さ5mmに入れ、105℃の乾燥機で一昼夜乾燥させた後に冷却し、ステンレス製へらで掻き取った。更に乳鉢で粉砕し、粉末状のレオロジー改質剤を得た。この粉末状のレオロジー改質剤2.5gを予めセメント400gと混合し、397.5gの水を加えて攪拌してセメントスラリーを調製した。セメントスラリーの粘度は1800mPa・s(20℃)となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


(式中、R1は炭素数10〜26のアルキル基、R2は炭素数1〜22のアルキル基又は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基、R3及びR4は、それぞれ、炭素数2〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基である。Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1の数、X-はアニオン性芳香族化合物残基を表す。)
で表される化合物(A)〔化合物(A)〕とアニオン性芳香族化合物(B)〔化合物(B)〕とを含有するレオロジー改質剤であって、
化合物(A)における下記
【化2】


(式中、R1、R2、R3、R4、Y、及びnは、それぞれ、前記の通り。)
のカチオン基部分のモル数(MC)と、化合物(A)におけるX-部分のモル数と化合物(B)のモル数の合計モル数(MA)との比が、MC/MA=1/1.05〜1/1.9である、レオロジー改質剤。
【請求項2】
粉末状である、請求項1記載のレオロジー改質剤。
【請求項3】
化合物(A)が、一般式(1)中のR1が炭素数18以上のアルキル基である化合物を50モル%以上含有する、請求項1又は2記載のレオロジー改質剤。
【請求項4】
水溶液又はスラリーの水相中における化合物(A)と化合物(B)の合計の濃度が0.01〜20重量%となるように、請求項1〜3の何れか1項記載のレオロジー改質剤を、前記水溶液又はスラリーに添加する、レオロジーが制御された水溶液又はスラリーの製造方法。
【請求項5】
水溶液又はスラリーの水相中における化合物(A)と化合物(B)の合計の濃度が0.01〜20重量%となるように、請求項1〜3の何れか1項記載のレオロジー改質剤を、前記水溶液又はスラリーに添加する、水溶液又はスラリーのレオロジー制御方法。

【公開番号】特開2010−65189(P2010−65189A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234883(P2008−234883)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】