レポーター抗体積層の増大によって改良された抗体プロファイリング感度
法医学試料を同定するためのまたは被分析体の存在を検出するための抗体プロファイリングにより、生体試料を分析する方法を開示する。本発明の態様において、被分析体は薬物、たとえばマリファナ、コカイン、メタンフェタミン、メチルテストステロン、またはメステロロンである。この方法は、抗原を固体支持体の表面に予め選択したパターンで付着させて、抗原の位置が分かっているアレイを作製し;このアレイを生体試料と接触させ、これにより試料中の抗体の一部をアレイ中の抗原と反応および結合させて、免疫複合体を形成させ;免疫複合体を形成していない抗体を洗浄除去し;そして免疫複合体を検出して抗体プロフィールを作製することを含む。法医学試料は未知の供給源からの試料を既知の供給源からの試料と比較することにより同定される。さらに、アッセイ、たとえば違法薬物使用に関する試験を、同定のための試験と組み合わせ、これによりそのアッセイ結果と対象の同一性とのプラスの相関性を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、仮出願でない米国特許出願11/691,096(2007年3月26日出願、「レポーター抗体積層の増大によって改良された抗体プロファイリング感度」)に基づく利益を主張し、その各開示内容のすべてを本明細書に援用する。
【0002】
本発明の契約由来
米国政府は、以下の本発明において、米国エネルギー省(United States Department of Energy)とBattelle Energy Alliance, LLCとの間のContract No. DE-AC07-94ID13223、Contract No. DE-AC07-99ID13727、およびDE-AC07-05ID14517に基づく権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明は、生体試料のアッセイに関する。より具体的には、本発明は抗体プロファイリングを含む、生体試料の分析方法に関する。本発明のある態様において、生体試料の分析は、生体試料中の個特異的抗体の特性付けのための抗体プロファイリングと生体試料中の被分析体の同時アッセイの組合わせを含む。
【背景技術】
【0004】
個体またはそれらの個体から得られた生体試料を同定するための多数の方法が知られている。たとえば、血液型判定は赤血球の表面にある抗原の存在に基づく。ABO方式は、2種類の抗原AおよびBに関する4種類の異なる状態に関係する。A型個体はA抗原を示し;B型個体はB抗原を示し;AB型個体はAおよびB抗原を示し;O型個体はA抗原もB抗原も示さない。ある者の血液試料を分析することにより、その血液がこれらの血液グループの1つに属するものとして分類できる。この方法は1個体を小グループの個体から識別するためには使用できるが、同じ血液グループの者の間で区別されないので、個体のグループが比較的大きい場合はこの方法には限界がある。たとえば米国でのABO血液グループの分布は、約45%がO型、約42%がA型、約10%がB型、約3%がAB型である。他の血液グループ抗原または体液中に存在するアイソザイムに基づく検査も、ABO血液型判定検査と同じ欠点がある。これらの方法はある個体を除外することができるが、同じ血液グループのメンバー間での識別ができない。
【0005】
遺伝学に基づく多様な免疫学的および生化学的検査が、親子鑑定に、ならびに移植および輸血の操作に伴うドナーとレシピエントの適合性判定のために、また時にはヒトおよび動物の識別に際しての補助として常用されている。たとえば、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子座によりコードされるタンパク質の血清検査法が周知である。HLA遺伝子座の遺伝子構成に関してかなりの情報が知られているが、大きなグループ内の個体を識別するためにHLA型の血清型判定を使用するのには多くの欠点がある。HLA抗原のそれぞれを別個のアッセイで検査しなければならず、個体を識別するためにはそのような多数の抗原をアッセイしなければならず、大きなグループ内の個体を識別する場合は困難な方法である。
【0006】
この十年間に、DNAベースの分析法、たとえば制限断片長多型(RFLP)およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が、法医学および親子鑑定において生体試料と個体の照合のために急速に受け入れられるようになった。しかしRFLP法は比較的多量の試料、特殊な装置、高度に熟練した技術者、および長い分析時間が必要であるため、問題が多い。法医学用途については、このタイプのアッセイに利用できる十分な試料のない場合が多く、また遠隔地では必要な装置が得られない場合が多い。さらに、この方法は完了するのに2〜6週間を要する可能性があり、犯罪捜査に著しい遅れが生じる可能性がある。さらに、多数の試料をスクリーニングする必要がある場合、RFLP分析の費用は実行不可能なものとなる可能性がある。PCR法は、必要な試料の量がはるかに少なく、より迅速な分析が可能であるという、RFLP分析に優る利点を有するが、それらはなお特殊な装置および熟練した技術者を必要とし、かつそれらも費用がかかる。
【0007】
特許文献1・2には、DNA分析に付随する欠点の多くを克服するとされる方法として“抗体プロファイリング”、すなわち“AbP”が開示されている。抗体プロファイリングは、それぞれの個体が自身の体液中に存在するユニーク抗体セットを有するという知見に基づく(非特許文献1)。“個特異的抗体(individual specific antibody)”、すなわち“ISA”と呼ばれるこれらの抗体は血液、血清、唾液、尿、精液、汗、涙液、および身体組織中に見いだされた(非特許文献2)。ISAは疾患に関連せず、身体の細胞成分に対して産生されるものであると考えられている。各人が母親の抗体プロフィールに一致する抗体プロフィールをもって産まれる(非特許文献3)。しかし、子供の抗体プロフィールは次第に変化し、そしてほぼ2歳までに安定なユニークプロフィールが得られる。遺伝的に同一の個体ですら異なる抗体プロフィールを有することが示された。個体のプロフィールは生涯安定であると思われ、短期の疾患により影響されることはない(非特許文献2、前掲)。長期疾患を伴う個体について行なわれた研究はほとんどない。しかし、予備的な結果により、数個の余分なバンドが現れる場合はあるが、全般的なパターンは依然として元のままであることが指摘されている。この方法は、医療の分野で患者の試料を追跡して、試料の混同を避けるために用いられている。さらに、この方法は病院で乳児の取違えまたは誘拐が申し立てられた事件に用いられている。この方法はDNA法に優る多数の利点をもち、これには低い費用、迅速な分析(試料入手時から2時間)、および単純さ(特別な装置または熟練を必要としない)が含まれる。さらに、この方法はDNAを含有しない試料についても作動する可能性がある。
【0008】
特許文献3には、診断検査結果を生体試料の抗体プロフィールと関係づけることにより診断検査に用いた生体試料の供給源を同定するための方法が開示されている。それぞれの生体試料の抗体プロフィールを作製することにより、その生体試料の供給源が同定される。
【0009】
現在、ガラス、シリコン、ポリメタクリレート、ポリマー充填剤、マイクロスフェア、樹脂などの表面に特異的核酸プローブまたは他の生体分子を付着させることを利用した多数のアッセイ法がある。表面が平坦な構造の場合、これらのアッセイは時には“バイオチップ”と呼ばれる。最初は、バイオチップはガラスまたはシリコン支持体にマイクロアレイ状に付着した核酸プローブを含んでいた。これらのDNAチップは、最初はコンピューターチップ加工に使用するために開発された微細加工技術により作製される。先端DNAチップ技術には、インサイチュー光化学合成法(非特許許文献4、特許文献4);電気化学的位置決め法(特許文献5);インクジェットプリンターに似た吹付け装置を用いるチップ上への遺伝子プローブの沈着;および溶液ベースの方法におけるゲルの使用が含まれる。他のタイプの分子、たとえばペプチドのアレイがバイオチップ上に作製されている;たとえば特許文献4。
【0010】
抗体プロファイリングを用いるための既知の方法は、一般にそれらの限定された目的には適しているが、それらは生体試料の分析、特性付け、および同定におけるそれらの全般的有用性を損なうある固有の欠点を有する。たとえば、既知の方法は電気泳動により抗原を分画し、次いで分画した抗原を膜に移すことによる。分画法毎に条件が異なるため、ロット間で膜上の抗原の位置に相異があり、したがってあるロットからの膜を用いて得た結果を他のロットからの膜を用いて得た結果と比較することができない。さらに、膜上の免疫複合体の検出に比色法を用いる場合、色彩判定が主観的になる可能性があり、したがって異なる観察者により結果が異なって解釈されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許4,880,750
【特許文献2】米国特許5,270,167
【特許文献3】WO 97/29206
【特許文献4】米国特許5,445,934
【特許文献5】米国特許5,605,662
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】R.M. Bernstein et al., Cellular Protein and RNA Antigens in Autoimmune Disease, 2 Mol. Biol. Med. 105-120 (1984)
【非特許文献2】A.M. Francoeur, Antibody Fingerprinting: A Novel Method for Identifying Individual People and Animals, 6 Bio/technology 821-825 (1988)
【非特許文献3】T.F. Unger & A. Strauss, Individual-specific Antibody Profiles as a Means of Newborn Infant Identification, 15 J Perinatology 152-155 (1995)
【非特許文献4】P. S. Fodor, 277 Science 393-395 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上に鑑み、生体試料を分析するためにロット間で試薬および主観性の相異が結果の解釈に影響を及ぼさない方法が提供されれば、当技術分野における著しい進歩である。さらに、特に分析を自動化しやすいバイオチップ方式で抗体プロファイリングにより生体試料を分析する方法を提供すれば有利である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1態様には、個特異的抗体を含有する生体材料を分析するための方法であって:多数の抗原を固体支持体の表面に多数の抗原のそれぞれの位置が分かるように予め選択した位置パターンで付着させることにより、多数の抗原のアレイを作製し;生体材料の試料を入手し、前記のアレイを試料と接触させ、これにより試料に含有される個特異的抗体の一部をアレイ中の抗原と反応および結合させて、免疫複合体を形成させ;免疫複合体を含む固体支持体を洗浄し、これにより抗原と反応および結合しない試料中の抗体を除去し;そして免疫複合体を検出し、その位置を判定し、これにより抗体プロフィールを得ること、を含む上記方法が含まれる。1態様において、免疫複合体の検出は、個特異的抗体を認識してそれに結合する第1の追加抗体に免疫複合体を曝露することにより実施できる。他の態様においては、第1の追加抗体または互いを認識する1種類以上の追加抗体を使用できる。
【0015】
本発明の態様によれば、免疫複合体の検出は、免疫複合体がそれに付着している固体支持体を、ある位置における免疫複合体の存在がその位置における免疫複合体の不存在と比較した色彩変化により特性付けられるように処理することを含む。1態様において、免疫複合体の検出法はさらに、アレイを試料と接触させる前と後の色彩パターンを比較するために、固体支持体をソリッドステート検色回路でモニターすることを含む。他の態様において、免疫複合体の検出法はさらに、アレイを試料と接触させる前および後のカラー写真機画像を得て、それから得られるピクセル情報を分析することを含む。本発明のさらに他の態様において、固体支持体は表面プラズモン共鳴チップであり、免疫複合体の検出はさらに、アレイを試料と接触させる前と後の表面プラズモン共鳴チップを走査し、それから得られたデータを比較することを含む。本発明のさらに他の態様において、免疫複合体の検出は、電荷結合素子を用いて画像を得て、蛍光発光を含む色彩変化を検出することを含む。
【0016】
本発明のさらに他の態様においては、本発明方法を薬物使用の検査法として用いる。本発明のさらに他の態様は、法医学試料から得た抗体プロフィールを分析し、犯罪容疑者または犯罪被害者からの試料から得た抗体プロフィールと比較することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の方法によって唾液試料から得た抗体プロフィールの例を示す。
【図2】実施例1の方法による6人の個体からの一対の唾液と血液の抗体プロフィールの比較を示す。
【図3】実施例1の方法によって種々の偽和物が混入した後の単一個体からの唾液試料から得た抗体プロフィールを示す。
【図4】実施例1の方法によって唾液試料中のコカインのイムノアッセイから得た結果の例を示す。
【図5】実施例1の方法によって唾液試料中のメタンフェタミンのイムノアッセイから得た結果の例を示す。
【図6】PVDF膜上でのコカインの免疫検出の結果の例を示す:ストリップ5、0μg/mlのコカイン;ストリップ6、0.1μg/mlのコカイン;ストリップ7、10μg/mlのコカイン;ストリップ8、1000μg/mlのコカイン。
【図7】PVDF膜上でのメタンフェタミンの免疫検出の結果の例を示す:ストリップ1、0μg/mlのメタンフェタミン;ストリップ2、0.1μg/mlのメタンフェタミン;ストリップ3、10μg/mlのメタンフェタミン;ストリップ4、1000μg/mlのメタンフェタミン。
【図8】3人の異なる個体からの抗体プロフィールを示す;各対のうち一方のストリップは薬物を含まず、各対のうち他方のストリップは1000μg/mlのコカインおよびメタンフェタミンを含む。
【図9】2抗体積層法を用いた種々の量の血清についての抗体プロフィールを示す。ストリップAは50マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップBは10マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップCは5マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップDは3マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップEは1マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップFは0.5マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップGは0.1マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップHは0マイクロリットルの血清に曝露した。
【図10】3抗体積層法を用いた種々の量の血清についての抗体プロフィールを示す。ストリップAは50マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップBは25マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップCは15マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップDは7.5マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップEは10マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップFは2.5マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップGは1マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップHは0.5マイクロリットルの血清に曝露され;ストリップIは0.1マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップJは0マイクロリットルの血清に曝露した。
【図11】3マイクロリットルの血清の抗体プロフィールを並べたものを示す;ストリップAは3抗体法で発色させ、ストリップBは2抗体法で発色させた。
【図12】図11のストリップAおよびBからのデンシトメトリーデータを示す。上の線はストリップAであり、下の線はストリップBである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
生体試料を分析するための本発明方法を詳細に記載する前に、本明細書に開示する特定の構造、プロセス作業、および材料はある程度変更可能であり、本発明は特定の構造、プロセス作業、および材料に限定されないことを理解すべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるので、本明細書中で用いる専門用語は特定の態様を記載する目的で用いたにすぎず、限定的でないことも理解すべきである。
【0019】
本発明の背景を記載しかつその実施に関する追加の詳細事項を提示するために本明細書中で言及する刊行物その他の参考文献を、本明細書に援用する。本明細書中で考察する参考文献は本出願の出願日以前のそれらを開示するために提示するにすぎない。本明細書中のいかなる記載も、本発明者らが先行発明によるそのような開示内容に先行する権利がないと認めたものと解釈すべきでない。
【0020】
本明細書および特許請求の範囲中で用いる単数形には、そうではないことが状況から明示されない限り、複数表示が含まれることを留意すべきである。したがって、たとえば“動物”からの生体試料を分析するための方法についての記載には2匹以上のそのような動物の記載が含まれ、“固体支持体”という記載には1以上のそのような固体支持体が含まれ、“アレイ”という記載には2以上のそのようなアレイが含まれる。
【0021】
本発明の記載および特許請求の範囲において、以下の用語は下記の定義に基づいて用いられる:
本明細書中で用いる“含む”、“含まれる”、“含有する”、“特徴とする”、およびその文法上の均等物は、引用していない追加の要素または工程を除外しない包括的または非制限的な用語(inclusive and open-ended term)である。“含む”には、より制限的な用語である“からなる”および“から本質的になる”が含まれると解釈すべきである。
【0022】
本明細書中で用いる“からなる”およびその文法上の均等物は、特許請求の範囲に特定していないいずれかの要素、工程または成分を除外する。
本明細書中で用いる“から本質的になる”およびその文法上の均等物は、特許請求の範囲を、特定した物質または工程、および特許請求された発明の基本的な新規特性(1以上)に著しい影響を及ぼさないものに限定する。
【0023】
本明細書中で用いる“固体支持体”は、全般的または実質的に平坦な支持体であって、その上に抗原のアレイを配置したものを意味する。固体支持体は、アレイを保有するのに適切ないずれかの材料または材料の組合わせを含むことができる。これらの固体支持体を構築するために用いられる材料は、幾つかの要件に適合する必要がある:たとえば(1)容易に誘導体化しうる表面基が存在すること、(2)アッセイに用いる試薬に対して不活性であること、(3)経時的に安定であること、および(4)生体試料と適合性であること。たとえば、適切な材料にはガラス、シリコン、二酸化ケイ素(すなわちシリカ)、プラスチック、ポリマー、親水性無機支持体、およびセラミック材料が含まれる。プラスチックおよびポリマーの例には、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ビニリデンジフルオリド)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、およびその組合わせが含まれる。親水性無機支持体の例には、アルミナ、ジルコニア、チタニア、および酸化ニッケルが含まれる。ガラス支持体の例は、顕微鏡スライドガラスである。コンピューターチップの作製に用いられるシリコンウェーハもバイオチップの作製に用いられている。たとえば米国特許5,605,662を参照。
【0024】
本明細書中で用いる“アレイ”は、固体支持体上の位置の配列を意味する。それらの位置は、一般に二次元アレイで配列されるが、他の方式も可能である。位置の数は、数個から少なくとも数十万にまで及ぶことができる。アレイパターンおよびスポット密度は変更できる。たとえばGenetic Microsystems(マサチュセッツ州ウーバン)から市販されているGMS 417 Arrayerを用いると、スポットのサイズおよび密度を利用者が選択できる。直径150μmおよび中心間の間隔300μmのスポットについては、1000以上のスポットを1平方センチメートル内に配置でき、標準的な顕微鏡スライドガラス上には10,000以上のスポットを配置できる。中心間の間隔200μmについては、これらの数値は平方センチメートル当たり2500、スライドガラス当たり25,000以上に増加する。
【0025】
本明細書中で用いる“発色源(colorigenic)”は、適切な酵素で消化すると有色生成物を生成する物質を表わす。そのような有色物質には蛍光性およびルミネセンス性の生成物が含まれる。
【0026】
本発明における最初の作業は、抗原を固体支持体の表面に、アレイ中の抗原の位置が分かるように予め選択したパターンで付着させることにより、抗原のアレイを作製することである。本明細書中で用いる抗原は、抗体が結合する物質である。抗原には、タンパク質、炭水化物、核酸、ホルモン、薬物、受容体、腫瘍マーカーなど、およびその混合物を含めることができる。抗原は一群の抗原、たとえばサイズ排除クロマトグラフィーカラムから溶出したタンパク質の特定の画分であってもよい。さらにまた、抗原は発現ライブラリーまたはランダムエピトープライブラリーからの指定クローンとして同定することもできる。
【0027】
本発明の1態様において、抗原はHeLa細胞から、一般にA. -M. Francoeur et al., 136 J. Immunol. 1648 (1986)の記載に基づいて単離される。要約すると、HeLa細胞を標準培地中において標準的な組織培養条件下で増殖させる。次いで周密状態のHeLa細胞培養物を、好ましくはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、界面活性剤で溶解し、遠心分離して不溶性の細胞屑を除去する。上清は、アレイ作製に適切な約10,000の免疫学的に異なる抗原を含有する。
【0028】
アレイを作製するために用いる抗原が既知のものであることは要求されない。要求されるすべては、抗原の供給源が一貫性をもち、したがって再現性のあるアレイを作製できることである。たとえば、抗原を含有するHeLa細胞上清を、当技術分野で周知のサイズ排除カラム、電気泳動ゲル、密度勾配などで分画することができる。画分を採集し、採集したそれぞれの画分はアレイ作製のためのユニーク抗原セットとなることができる。したがって、抗原が未知であっても、同じ方法および条件を用いてHeLa細胞抗原を単離および分画すれば、再現性のあるアレイを作製できる。
【0029】
他の方法、たとえばランダムペプチドライブラリーまたはエピトープライブラリーの調製は当技術分野で周知であり、再現性をもって抗原を調製するために使用できる。たとえばJ. K. Scott & G. P. Smith, Searching for Peptide Ligands with an Epitope Library, 249 Science 386 (1990); J. J. Devlin et al., Random Peptide Libraries: A Source of Specific Protein Binding Molecules, 249 Science 404-406 (1990); S. E. Cwirla et al., Peptides on Phage: A Vast Library of Peptides for Identifying Ligands, 87 Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 6378-6382 (1990); K. S. Lam et al., A New Type of Synthetic Peptide Library for Identifying Ligand-binding Activity, 354 Nature 82-84 (1991); S. Cabilly, Combinatorial Peptide Library Protocols (Humana Press, 304 pp, 1997);U.S Patent No.5,885,780。そのようなライブラリーは、合成オリゴヌクレオチドを適切な融合ファージにライゲートさせることにより構築できる。融合ファージは、外来配列をファージ遺伝子IIIにクローニングし、ビリオンの一端に遺伝子IIIタンパク質(pIII)の一部としてディスプレーさせた、糸状バクテリオファージベクターである。各ファージは単一のランダム配列をコードし、それをファージ当たり約5分子で存在する微量コートタンパク質であるpIIIとの融合複合体として発現する。たとえば、前掲のJ. K. Scott & G.P. Smithの融合ファージ技術においては、6アミノ酸残基の可変カセットを含むファージのライブラリーが構築された。バクテリオファージタンパク質に融合したこのヘキサペプチドモジュールにより、それぞれがビリオン表面に被験物質を有する>1012のファージ(または約108〜1010の異なるクローン)を一度に検査できるスクリーニング法のためのライブラリーが得られた。得られたライブラリーを用いて、特定のヘキサペプチド配列に特異的なモノクローナル抗体がスクリーニングされた。この融合ファージ系は他のグループでも用いられ、より長いペプチド挿入配列を含むライブラリーが構築された。この方法で作製された融合ファージを、抗原のアレイに含めるためにランダムまたは非ランダムに選択することができる。アレイに含めるために選択された融合ファージを標準法により増殖させて、選択した抗原を実質上無限に供給することができる。
【0030】
抗原を調製するための他の方法も当技術分野で知られている。たとえば、DNAフラグメントまたはcDNAを発現ベクター中にランダムにクローニングすることにより、発現ライブラリーを作製できる。たとえばR.A. Young & R.W. Davis, Yeast RNA Polymerase II Genes: Isolation with Antibody Probes, 222 Science 778-782 (1983); G.M. Santangelo et al., Cloning of Open Reading Frames and Promoters from the Saccharomyces cerevisiae Genome: Construction of Genomic Libraries of Random Small Fragments, 46 Gene 181-186 (1986)。そのようなライブラリーの作製に使用できる発現ベクターは、種々の業者から市販されている。たとえばHeLa細胞のDNAまたはcDNAのランダムフラグメントを発現ベクター中にクローニングし、次いでHeLa細胞タンパク質を発現しているクローンを選択することができる。次いでこれらのクローンを当技術分野で周知の方法により増殖させることができる。次いで発現したタンパク質を単離または精製し、アレイの作製に使用することができる。
【0031】
あるいは、抗原を当技術分野で周知の組換えDNA技術により合成することができる。多数のウイルス、細菌および哺乳動物のタンパク質をコードする遺伝子がクローニングされており、したがって大量の高純度タンパク質を迅速に低経費で合成することができる。たとえば、多数の真核細胞および哺乳動物の膜結合受容体、増殖因子、細胞接着分子、および調節タンパク質をコードする遺伝子がクローニングされており、抗原として有用である。そのような組換え技術により製造された多数のタンパク質、たとえば多様な種からのトランスフォーミング増殖因子、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子、インターフェロン、インスリン様増殖因子、ならびに種々のインターロイキンが市販されている。
【0032】
多くの場合、ポリペプチド全体を抗原として用いる必要はない。たとえば少なくとも1つのエピトープ、すなわち抗原決定基、または抗体と特異的に相互作用する抗原部分を含む、いかなるサイズまたは部分のポリペプチドも、アレイに使用するのに十分であろう。
【0033】
ランダムまたは非ランダムのいずれかで選択した抗原を固体支持体上に配置すると、アレイが得られる。固体支持体上の抗原のパターンは再現性を有するべきである。すなわち、固体支持体上の各抗原の位置および同一性が分かっているべきである。たとえば10×10のアレイに、当業者は抗原1〜100をそれぞれアレイの1〜100の位置に配置することができる。
【0034】
ピペッティング用の器具もしくは機器、または液体試料を固体支持体上に配置するために設計した器具を用いて、たとえば下記から市販されているマイクロアレイヤー(microarrayer)を用いて、タンパク質をアレイ状に固体支持体の表面に配置することができる:Cartesian Technologies, Inc.(カリフォルニア州アービン);Gene Machines(カリフォルニア州サンフランシスコ);Genetic MicroSystems(マサチュセッツ州ウーバン);GenePack DNA(英国ケンブリッジ);Genetix Ltd.(英国ドーセット州);およびPackard Instrument Company(コネチカット州メリディン)。
【0035】
一連のタンパク質抗原を表面にアレイ状に配置するための関連方法には、非接触型液滴オンデマンドディスペンシング(non contact drop on demand dispensing)およびインクジェット法が含まれる。両方法について市販装置を入手できる。Cartesian technologiesは数ナノリットルのディスペンシング装置を提供し、これらは20nLから250μLにまで及ぶ液体体積を96、384、1536、3456および9600ウェルマイクロタイタープレートから分取し、それらを厳密に最高400スポット/cm2の密度で表面に配置することができる。これらの装置は表面に多様なパターンでスポットする。インクジェット法はその名称が示すように、インクジェットプリンターに用いるものと同じ原理を利用する。Microfab Technologiesは、ピコリットル量の液体を多様なパターンで表面に分配することができる10流体プリントヘッドを提供する。本発明のための例示パターンは、10×10から100×100までの範囲の単純なアレイであろう。
【0036】
タンパク質または他の抗原を固体支持体の表面に付着させるために使用できる多数の方法がある。これらのうち最も簡単なものは、疎水力、イオン力およびファン-デル-ワールス力による単純な吸着である。しかし、タンパク質が経時的に表面から脱着する傾向があるので、この方法は最適ではない。適切な付着化合物のひとつは、二官能性有機シランの使用によるものである。たとえばThompson and Maragos, 44 J. Agric. Food Chem. 1041-1046 (1996)。有機シランの一端は、チップの表面に露出している−OH基と反応してシラノール結合を形成する。有機シランの他端は、タンパク質表面の多様な基、たとえば−NH2および−SH基と反応性である基を含む。タンパク質をチップに付着させるこの方法により、タンパク質とチップの間に共有結合が形成される。タンパク質を表面に付着されるために用いられている他の適切な方法には、アリールアジド、ニトロベンジル、およびジアジリン光化学的方法が含まれる。上記の化学物質をUV線に露光すると、タンパク質と反応して共有結合を形成しうる反応性基が形成される。アリールアジド化合物によればC−H結合中に侵入できる反応性ニトレン基が形成され、一方、ジアジリン化合物によれば反応性カルベン基が生成する。ニトロベンジル化合物はケージング化合物と呼ばれ、これによればケージング基が反応性分子を不活性化する。UV線に露光するとこの分子が遊離し、反応に利用しうる状態になる。タンパク質を固体支持体に付着させるためのさらに他の方法が当技術分野で周知である;たとえばS. S. Wong, Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking (CRC Press, 340 pp., 1991)。
【0037】
抗原を選択したアレイ状に固体支持体に付着させた後、固体支持体を適切な液体ですすぐことにより洗浄して、結合していない抗原を除去すべきである。洗浄に適切な液体には、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)など、すなわち比較的低いイオン強度の、中性またはほぼ中性に緩衝化された生体適合性塩類溶液が含まれる。そのような適切な洗浄液が当技術分野で多数知られており、あるいは当業者が過度の実験なしに考案できる。たとえばN. E. Good & S. Izawa, Hydrogen Ion Buffers, 24 Methods Enzymology 53-68 (1972)。
【0038】
次いで、タンパク質その他の分子が固体支持体に非特異的に結合するのを遮断するために固体支持体を処理する。この遮断工程により抗原、抗体などが固体支持体に結合するのが防止される;ここで、そのような抗原、抗体、その他の分子は結合させる予定ではないものである。遮断により、信号を圧倒する可能性のあるバックグラウンドが低下し、これにより信号対ノイズ比が向上する。遮断しなければ非特異的結合が起きる可能性のある部位に結合する不活性分子を含有する媒質中で固体支持体をインキュベートすることにより、固体支持体を遮断する。適切な遮断剤の例には、ウシ血清アルブミン、ヒトアルブミン、ゼラチン、脱脂粉乳、ポリビニルアルコール、Tween 20、ならびに多様な市販の遮断剤、たとえばSEA BLOCK(登録商標)(East Coast Biologies, Inc.の商標、メイン州ベルウッィク)およびSuperBlock(商標)(Pierce Chemical Co.の商標、イリノイ州ロックフォード)遮断用緩衝液が含まれる。
【0039】
結合していない抗原をアレイから除去するための洗浄および遮断の後、固体支持体を被験液体試料と接触させる。試料は、個特異的抗体を産生するいかなる動物からのものであってもよい。たとえば、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ウマ、ウシおよびウサギはすべてISAを有することが知られている。試料は種々の体液および固形物からのものであってもよく、これには血液、唾液、精液、血清、血漿、尿、羊水、胸水、髄液、およびその混合物が含まれる。これらの試料は当技術分野で周知の方法によって得られる。検出方法によっては、最適反応条件を達成するために生体試料を操作することが必要な場合がある。たとえば、最適な免疫複合体の形成、酵素触媒作用などを得るために、生体試料のイオン強度もしくは水素イオン濃度または濃度を調整することができる。
【0040】
米国特許5,270,167(Francoeur)に詳細に記載されているように、ISAをランダム抗原のセットと反応させると、ある数の免疫複合体が形成される。たとえば約1000のユニーク抗原のパネルを用いると、20倍希釈した生体試料中のISAとの間の約30の免疫複合体を検出できる。生体試料を希釈しない場合、形成される可能性のある検出可能な免疫複合体の総数は1023より多いであろう。多数のエピトープを有する“より大きい”抗原、すなわちペプチドの代わりにタンパク質)を選択することにより、可能性のある免疫複合体の総数を増加させることもできる。したがって、使用する抗原およびその数、生体試料の希釈度、ならびに検出方法に応じて、形成および検出される免疫複合体の数を当業者が調節できることは認識されるであろう。生体試料中のISAとアレイ中の抗原との間に形成される、および形成されないユニーク免疫複合体のセットが、抗体プロフィールを構成する。
【0041】
抗体/抗原または免疫複合体を検出するための方法は当技術分野で周知である。本発明は、当技術分野で既知の多様な検出方法に適応するように当業者が改変できる。当業者が選択する具体的な検出方法は、利用できる生体試料の量、生体試料のタイプ、生体試料の安定性、抗原の安定性、および抗体と抗原の親和性を含めた幾つかの要因に依存する。さらに、前記で考察したように、選択する検出方法に応じて生体試料を改変することが必要な場合がある。
【0042】
これらの技術は当技術分野で周知であるが、本発明を実施するために使用できる幾つかの検出方法の例を以下に簡単に記載する。
多数のタイプのイムノアッセイが当技術分野で知られている。最も一般的なタイプのイムノアッセイは、競合および非競合不均一アッセイ、たとえば酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)である。非競合ELISAにおいては、非標識抗原を固体支持体、たとえばバイオチップ表面に結合させる。生体試料をこの反応器に結合した抗原と合わせ、生体試料中の抗体(一次抗体)を抗原に結合させて、免疫複合体を形成させる。免疫複合体が形成された後、過剰の生体試料を除去し、バイオチップを洗浄して非特異的に結合した抗体を除去する。次いで免疫複合体を適切な酵素標識した抗免疫グロブリン(二次抗体)と反応させることができる。二次抗体は免疫複合体中の抗体と反応し、バイオチップに結合している他の抗原とは反応しない。ヒトを含めた多様な種の抗体の結合に対して特異的な二次抗体が当技術分野で周知であり、たとえばSigma Chemical Co.(ミズリーリ州セントルイス)およびSanta Cruz Biotechnology(カリフォルニア州サンタクルーズ)から市販されている。さらに洗浄した後、酵素基質を添加する。二次抗体に結合している酵素は、基質を生成物に変換する反応を触媒する。過剰の抗原が存在する場合、生成物の量は生体試料中に存在する一次抗体の量に正比例する。生成物は蛍光性またはルミネセンス性であってもよく、それを当技術分野で周知の技術および装置を用いて測定することができる。有色生成物を生成する反応スキームを用い、それを分光光度法により測定することもできる。
【0043】
本発明の他の態様においては、検出を容易にするために二次抗体を標識しなくてもよい。追加抗体(すなわち、三次、四次など)を、それぞれの追加抗体がその前に免疫複合体に付加された抗体を特異的に認識するように、積層することができる。本明細書の記載に基づいて免疫複合体を検出できるように、これらの追加抗体(すなわち、三次、四次など)のいずれかを標識することができる。
【0044】
サンドイッチアッセイまたは捕獲アッセイを用いて免疫複合体を同定および定量することもできる。サンドイッチアッセイは、抗体を固相に結合させ、生体試料中の抗原を測定するという点で、非競合ELISAの鏡像である。これらのアッセイは、低濃度で存在する多重エピトープを有する抗原の検出に特に有用である。この方法は過剰の抗体をバイオチップなどの固相に結合させる必要がある。次いで結合した抗体を生体試料と共にインキュベートし、試料中の抗原に結合抗体との免疫複合体を形成させる。免疫複合体を酵素結合した二次抗体と共にインキュベートする;この抗体は、抗原上の一次抗体と同じまたは異なるエピトープを認識する。したがって、酵素活性は生体試料中の抗原の量と正比例する。D.M. Kemeny & S.J. Challacombe, ELISA and Other Solid Phase Immunoassays (1988)。
【0045】
二次抗体に結合させることができる代表的な酵素には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、およびウレアーゼが含まれる。多様な酵素に結合した抗原特異的二次抗体が、たとえばSigma Chemical Co.およびAmersham Life Sciences(イリノイ州アーリントンハイツ)から市販されている。
【0046】
競合ELISAは、酵素結合した抗体が限られた抗原の結合部位に対して生体試料中の非標識抗体と競合すること以外は非競合ELISAと類似する。要約すると、限られた数の抗原を固体支持体に結合させる。生体試料および酵素標識抗体を固体支持体に添加する。生体試料中の抗原特異的抗体は、固体支持体に結合している限られた数の抗原に対して酵素標識抗体と競合する。免疫複合体が形成された後、非特異的に結合した抗体を洗浄により除去し、酵素基質を添加し、酵素活性を測定する。二次抗体は必要ない。このアッセイは競合的であるので、酵素活性は生体試料中の抗体の量に反比例する。
【0047】
他の競合ELISAも本発明の範囲に使用できる。この態様においては、生体試料からの限られた量の抗体を本明細書の記載に基づいて固体支持体の表面に結合させる。次いで標識抗原および非標識抗原を固体支持体と接触させると、これにより固体支持体の表面にある抗体への結合に対して標識抗原と非標識抗原が互いに競合する。免疫複合体が形成された後、非特異的に結合した抗原を洗浄により除去する。上述したように、酵素結合した二次抗体と共にインキュベートすることにより免疫複合体を検出する;この抗体は、一次抗体と同じまたは異なる抗原上エピトープを認識する。次いで酵素の活性を測定すると、これにより存在する抗原の量と反比例する信号が得られる。
【0048】
均一イムノアッセイも本発明方法を実施する際に使用できる。均一イムノアッセイは、低分子量化合物、たとえばホルモン、療法薬、および他の方法では分析できない違法薬物、または高濃度でみられる化合物の検出のために好ましい可能性がある。均一アッセイは分離工程が不必要であるので、特に有用である。R.C. Boguslaski et al., Clinical Immunochemistry: Principles of Methods and Applications (1984)。
【0049】
均一法においては、結合した抗原または結合していない抗原を酵素結合させる。酵素結合した抗原に生体試料中の抗体が結合すると、立体障害により酵素が不活性化される。その結果、測定可能なほどの酵素活性損失が生じる。遊離抗原(すなわち酵素結合していないもの)は、抗体の限られた結合部位に対して酵素結合した抗原と競合する。したがって、酵素活性は生体試料中の抗原の濃度に正比例する。
【0050】
均一イムノアッセイに有用な酵素には、リゾチーム、ノイラミニダーゼ、トリプシン、パパイン、ブロメライン、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、およびβ−ガラクトシダーゼが含まれる。T. Persoon, Immunochemical Assays in the Clinical Laboratory, 5 Clinical Laboratory Science 31 (1992)。酵素結合した抗原は市販されているか、あるいはグルタルアルデヒドおよびマレイミド誘導体を含めた当技術分野で周知の各種化学薬品を用いて結合させることができる。
【0051】
従来の抗体プロファイリング法は、5−ブロモ−4−クロロ−3’−インドリルホスフェートp−トルイジン塩(BCIP)およびニトロ−ブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)でアルカリホスファターゼ標識した二次抗体を用いる;両方とも種々の業者から、たとえばPierce Chemical Co.(イリノイ州ロックフォード)から市販されている。抗原−抗体複合体が生じた場所ではいずれも、酵素反応により不溶性有色生成物が形成され、これが膜ストリップの表面に沈着してバンドを形成する。この方法は定量が困難であり、かつ比色法は一般に蛍光またはルミネセンスに基づく方法より感度が低いので、バイオチップ方式に最適ではない。
【0052】
蛍光イムノアッセイも本発明方法を実施する際に使用できる。蛍光イムノアッセイは、酵素の代わりに発蛍光団または蛍光色素と呼ばれる蛍光化合物を用いる以外はELISAに類似する。これらの化合物は、入射光からエネルギーを吸収してそのエネルギーをより長い波長およびより低いエネルギーの光として放出する能力を有する。通常は容易に抗原および抗体に結合させることができるイソチオシアネートの形のフルオレセインおよびローダミンが、当技術分野で最も一般的に用いられている。D.P. Stites et al., Basic and Clinical Immunology (1994)。フルオレセインは490〜495nmの波長の光を吸収し、520nmの波長の光を放出する。テトラメチルローダミンは550nmの波長の光を吸収し、580nmの波長の光を放出する。蛍光ベースの検出方法の例には、ELF−97アルカリホスファターゼ基質(Molecular Probes Inc.、オレゴン州ユージーン);PBXL−IおよびPBXL−3(ストレプトアビジンにコンジュゲートしたフィコビリソーム類)(Martek Biosciences Corp.、メリーランド州コロンビア);FITCおよびTexas Red標識したヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.、ペンシルベニア州ウェストグローブ);ならびにストレプトアビジンにコンジュゲートしたB−フィコエリトリンおよびR−フィコエリトリン(Molecular Probes Inc.)が含まれる。ELF−97は非蛍光性化学物質であり、アルカリホスファターゼにより消化されて蛍光分子を形成する。アルカリホスファターゼの代謝回転のため、ELF−97基質を用いると信号増幅が生じる。二次抗体に結合した蛍光分子はこの増幅を示さない。
【0053】
藻類から単離したフィコビリプロテイン、ポルフィリンおよびクロロフィル(すべて約600nmで蛍光発光する)も当技術分野で用いられている。I. Hemmila, Fluoroimmunoassays and Immunofluorometric Assays, 31 Clin. Chem. 359 (1985);米国特許4,542,104。フィコビリプロテインおよびその誘導体は、R−フィコエリトリン(PE)およびQuantum Red(商標)の名称で、たとえばSigma Chemical Co.から市販されている。
【0054】
さらに、Cy−コンジュゲートした二次抗体および抗原がイムノアッセイに有用であり、市販されている。たとえばCy−3は554nmで最大励起され、568〜574nmで発光する。Cy−3は他の発蛍光団より親水性であり、したがって非特異的結合または凝集する傾向がより少ない。Cy−コンジュゲートした化合物はAmersham Life Sciencesから市販されている。
【0055】
ルミネセンスベースの検出方法の例には、CSPDおよびCDP starアルカリホスファターゼ基質(Roche Molecular Biochemicals);ならびにSuperSignal(登録商標)西洋ワサビペルオキシダーゼ基質(Pierce Chemical Co.、イリノイ州ロックフォード)が含まれる。
【0056】
化学ルミネセンス、エレクトロルミネセンスおよび電気化学ルミネセンス(ECL)検出法も、生体試料中の抗原および抗体を定量するための魅力的な手段である。ルミネセント化合物はエネルギーを吸収し、励起されるとこれを可視光線の形で放出する能力を有する。化学ルミネセンスの場合、励起源は化学反応であり;エレクトロルミネセンスの場合、励起源は電界であり;ECLの場合、電界が発光性化学反応を誘発する。
【0057】
ECL検出法に用いる分子は、一般に有機配位子および遷移金属を含む。有機配位子は1以上の遷移金属原子とキレートを形成して、有機金属錯体を形成する。多様な有機金属錯体および遷移金属−有機配位子錯体が生体試料中の被分析体を検出および定量するためのECL標識として用いられている。ルテニウム、オスミウム、レニウム、イリジウム、およびロジウム遷移金属が、それらの熱安定性、化学安定性および光化学安定性、それらの強い発光および長い発光寿命のため当技術分野で好まれている。有機配位子のタイプは多数であり、アントラセンおよびポリピリジル分子ならびに複素環式有機化合物がこれに含まれる。たとえば、ビピリジル、ビピラジル、テルピリジルおよびフェナントロリル、ならびにその誘導体が当技術分野における一般的な有機配位子である。当技術分野で用いられる一般的な有機金属錯体には、IGEN, Inc.(メリーランド州ロックビル)およびSigma Chemical Co.から市販されているトリス−ビピリジンルテニウム(II)が含まれる。
【0058】
有利なことに、ECLは水性条件下および生理的pH下で実施でき、したがって生体試料の取扱いが最小限に抑えられる。J. K. Leland et al., Electrogenerated Chemiluminescence: An Oxidative-Reduction Type ECL Reactions Sequence Using Triprophyl Amine, 137 J. Electrochemical Soc. 3127-3131 (1990);WO 90/05296;米国特許5,541,113。さらに、これらの化合物のルミネセンスは多様な補因子、たとえばアミン類の添加によって増強することができる。
【0059】
実施に際しては、たとえばトリス−ビピリジンルテニウム(II)錯体を当技術分野で周知の方法により二次抗体に結合させることができ、これにはリジンのアミノ基、システインのスルフヒドリル基、およびヒスチジンのイミダゾール基への結合が含まれる。一般的なELISAイムノアッセイにおいては、二次抗体は抗原に結合したISAを認識するが、結合していない抗原を認識しないであろう。非特異的に結合した錯体を洗浄した後、トリス−ビピリジンルテニウム(II)錯体を化学的、光化学的および電気化学的励起手段で、たとえばバイオチップに電流を付与することにより励起する。たとえばWO 86/02734。励起によりトリス−ビピリジンルテニウム(II)錯体の二重酸化反応が生じ、その結果ルミネセンスが発生し、これをたとえば光電子増倍管により検出することができる。ルミネセンスを検出するための計測器は当技術分野で周知であり、たとえばIGEN, Inc.から市販されている。
【0060】
ソリッドステート検色回路もバイオチップ上での発色反応をモニターするために使用でき、指令に応じて試料付与の前と後の色彩パターンを比較することができる。カラー写真機画像も使用でき、ピクセル情報を分析して同じ情報を得ることができる。
【0061】
さらに他の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)チップを用いる検出を伴う。チップの表面を試料付与の前と後で走査し、比較を行なう。SPRチップは目的分子が光源に露光された際の光の屈折に依存する。各分子はそれ自身の屈折率をもち、これにより分子を同定できる。この方法には、チップを精確に走査するために厳密な位置決めおよび制御回路が必要である。
【0062】
さらに他の方法は、蛍光試薬によるバイオチップの流体すすぎを伴う。生体試料と結合したマイクロロケーション(microlocation)は蛍光発光し、電荷結合素子(CCD)アレイで検出できる。そのようなCCDアレイの出力を分析して、各試料に付随するユニークパターンを決定する。この方法により走査技術に付随する問題が避けられる。試料および基準物質の化学結合は数分で行なわれるので、いずれの方法についても速度は要因ではない。
【0063】
さらに、アレイスキャナーは、たとえばGenetic MicroSystemsから市販されている。GMS 418アレイスキャナーはレーザー光学を用いて収束した光線をバイオチップ上で高速移動させる。このシステムは、高い励起エネルギーを発生する高出力ソリッドステートレーザーを含む二重波長方式を用いており、励起時間を短縮できる。30Hzの走査速度で、GMS 418は22×75−mmのスライドガラスを10−μmの解像度において約4分で走査できる。
【0064】
アレイスキャナーを用いて得た画像を分析するためのソフトウェアは容易に入手できる。入手できるソフトウェアパッケージには、ImaGene(BioDiscovery、カリフォルニア州ロスアンゼルス);ScanAlyze(無料で入手できる;スタンフォード大学のMike Eisenが開発);De−Array(国立予防衛生研究所のYidong ChenおよびJeff Trentが開発;バージニア州フェアファックス、ScanalyticsからのIP Labと共に使用);Pathways(Research Genetics、アラバマ州ハンツビル);GEM tools(Incyte Pharmaceuticals, Inc.、カリフォルニア州パロアルト);およびImaging Research(Amersham Pharmacia Biotech, Inc.、ニュージャージー州ピスカッタウェイ)が含まれる。
【0065】
抗原とISAの相互作用が同定および定量されると、信号をデジタル化することができる。デジタル化した抗体プロフィールは、その生体試料の供給源を同定する符号として役立つ。用いたバイオチップに応じて、デジタル化したデータは多数の形態をとる可能性がある。たとえば、バイオチップは10行、10列、総数100のマイクロロケーションを有するアレイを含むことができる。各マイクロロケーションは少なくとも1つの抗原を含む。ISAを含有する生体試料を各マイクロロケーションに添加してインキュベートした後、抗原と生体試料中のISAの相互作用を同定および定量する。各マイクロロケーションにおいて、そのマイクロロケーションにある抗原と生体試料中のISAの相互作用により定量可能な信号が発生し、または発生しない。1態様においては、100のマイクロロケーションのそれぞれに、定量可能な信号が得られなかった場合は“0”、定量可能な信号が得られた場合は“1”の数値を付与することにより、抗体プロフィールの結果をデジタル化する。この方法を用いると、デジタル化された抗体プロフィールは0と1のユニークなセットを含む。
【0066】
数値“0”または“1”は、もちろん内部対照マイクロロケーションにおいて得られた信号に対して規準化することができ、したがって後に得られるデジタル化された抗体プロフィールを適正に比較することができる。たとえば1または数個のマイクロロケーションは既知の抗原を含み、それは経時的に一定のままであろう。したがって、その後の生体試料がその前の生体試料より高濃度または低濃度である場合、それらの信号を既知抗原からの信号により規準化することができる。
【0067】
抗体プロフィールをデジタル化するための他の方法があり、それらを使用できることは、当業者に認識されるであろう。たとえば、各マイクロロケーションに数値“0”または“1”を付与するのではなく、数値を漸増させ、信号の強度に対して正比例させてもよい。
【0068】
抗体プロフィール信号をデジタル化することにより、生化学的結果をコンピューターに入力し、迅速にアクセスして参照することができる。抗体プロフィールをデジタル化して数秒以内に、コンピューターはそれまでにデジタル化した抗体プロフィールを比較して一致するものがあるかどうかを判定することができる。一致する抗体プロフィールがデータベース中にあれば、その生体試料の供給源のプラス同定を行なうことができる。したがって本発明方法は、生体試料の供給源の識別およびプラス同定の両方を行なうことができる。
【0069】
本発明のある態様において、本発明方法は、生体試料を犯罪容疑者と照合するための法医学分析に用いられる。犯行現場から得た法医学試料は、試料の乾燥、少ない試料量、1より多い個体からの試料との混合、化学物質の偽和などの状態であることが多い。本発明方法は、法医学試料を容疑者と照合するについての迅速な分析、単純さ、低経費、および精確さという利点をもたらす。たとえば、法医学試料および1以上の容疑者からの試料を当技術分野で周知の方法によって入手する。各試料の抗体プロフィールを本明細書の記載に基づいて作製する。次いでそれらの抗体プロフィールを比較する。抗体プロフィールの一致は、その法医学試料がその照合容疑者から得られたことを意味する。一致する抗体プロフィールが得られなければ、それらの容疑者はその法医学試料の供給源ではなかったことになる。
【0070】
本発明の他の態様において、本発明方法は個体の薬物検査に使用される。たとえば多くの職場で従業員が違法薬物を使用していない状態を確保および維持するのが条件である。ある者の血流中における違法薬物の存在は、抗体捕獲による本発明方法またはこれに類する方法で検出できる。さらに、WO 97/29206に記載されるように、薬物検査と試料の同一性を1回の検査で相関させることができる。薬物検査は特定の動物、たとえばレースに参加するウマおよびイヌにおいても重要である。
【0071】
本発明をさらに以下の実施例中に記載する。それらは説明のために提示するものであり、決して本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1
法治社会において、容疑者の薬物検査に関連する幾つかの要望があることが示されており、これには試料採集に付随するプライバシーに係わる事項、試料の保管の鎖(chain of custody)の継続、容疑者による試料の偽和の阻止、および試料分析に際してのより迅速な回転時間の促進が含まれる。現在の薬物検査プロトコルは尿試料、および時には血液試料を利用する。保管の鎖を継続し、試料の取替えまたは偽和の可能性を排除するためには、試料を提供する個体を観察する必要があるので、プライバシー侵害は尿試料について常に存在する問題である。多くの薬物代謝産物は薬物を最初に摂取した後、数日間または数週間は尿中に排出され続けるので、尿試料は中毒の現時レベルの良い指標でもない。血液試料にはこれらの問題はないが、採血は侵襲性の方法であり、特別な設備および訓練された担当者を必要とし、これらは必要が生じた場合に必ずしも得られるとはかぎらない。取扱いの間違いまたは故意の不正改ざん(竄)が起きないことを保証するために、採集したすべての試料について法執行官が厳密な保管の鎖を継続する必要がある。保管の鎖が破断すると、または破断に気づいた場合ですら、証拠が完全に却下され、またはほとんど重要性を与えられない可能性がある。
【0073】
本発明の態様はこれらの事柄を幾つかの方法で解決する。第1に、抗体プロファイリング同定アッセイを薬物検査に組み込むことにより、試料ドナーの同定が薬物検査と一体化され、複雑な保管の鎖の手続きの必要性が排除される。第2に、唾液ベースの薬物検査は以下の理由で尿検査より好都合である;唾液中の薬物レベルは直ちに血中の薬物レベルと相関させることができ(W. Schramm et al., Drugs of Abuse in Saliva: A Review, 16 J. Anal. Toxicology 1-9 (1992); E.J. Cone, Saliva Testing for Drugs of Abuse, 694 Ann. N.Y. Acad. Sci. 91-127 (1995))、現時の薬物使用のより良い指標を提供する(D. A. Kidwell et al., Testing for drugs of abuse in saliva and sweat, 713 J. Chrom. B 111-135 (1998))。法執行官からみても、容疑者からの唾液試料は、プライバシーの侵害なしに、または侵襲性の方法を用いずに容易に採集できる。最後に、本発明の検査法は使いやすく、離れた中枢試験所で数日間ないし数週間を要するのではなく、法執行官が現場で迅速に実施できる。V. S. Thompson et al., Antibody profiling as an identification tool for forensic samples, 3576 Investigation and Forensic Science Technologies 52-59 (1999)。
【0074】
この実施例には、2種類の一般的な違法薬物(コカインおよびメタンフェタミン)についての抗体ベースの検査を提示する。これらの薬物は最も一般的に乱用されているものに含まれ、それらの使用は増加している。S. B. Karch, Drug Abuse Handbook (CRC Press, 1998); L.D. Bowers, Athletic Drug Testing, 17 Sports Pharmacology 299-318 (1998)。
【0075】
材料および方法 アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgG抗体をJackson ImmunoResearch(ペンシルベニア州ウェストグローブ)から入手した。ウサギ抗ヒトIgA抗体をU.S. Biological(マサチュセッツ州スワンプスコット)から購入した。Seablock(商標)、ニトロ−ブルーテトラゾリウムクロリド/5−ブロモ−4−クロロ−3’−インドリルホスフェートp−トルイジン塩(NBT/BCIP)、p−ニトロフェニルホスフェート二ナトリウム塩(PNPP)、EZ−Link(商標)マレイミド活性化アルカリホスファターゼキット、およびFreeZyme(登録商標)コンジュゲート精製キットを、Pierce Chemical(イリノイ州ロックフォード)から入手した。ベンゾイルエクゴニン(benzoylecgonine)およびメタンフェタミンに対するモノクローナル抗体、ならびにメタンフェタミンおよびベンゾイルエクゴニンのウシ血清アルブミン(BSA)コンジュゲートを、O.E.M Concepts(ニュージャージー州トムズリバー)から購入した。コカインおよびメタンフェタミンの塩酸塩をSigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手した。抗体プロファイリングストリップをMiragen, Inc.(カリフォルニア州アービン)から購入した。組合わせ薬物−AbP試験に用いたストリップを、A.M. Francoeur, Antibody fingerprinting: a novel method for identifying individual people and animals, 6 Bio/Technology 822-825 (1988)のプロトコルに基づいて作製した。Saliva Diagnostic Systems(ワシントン州バンクーバー)、Ora Sure Technologies, Inc.(ペンシルベニア州ベツレヘム)、およびSarstedt, Inc.(ノースカロライナ州ニュートン)からの唾液試料採集器を用いて、ボランティアから唾液試料を採集した。
【0076】
唾液ベースのAbPアッセイを、血液試料の処理のために設計された以前のプロトコルの改変により開発した。T.F. Unger & A. Strauss, Individual-specific antibody profiles as a mean of newborn infant identification, 15 J. Perinatology 152-155 (1995)。要約すると、1.0mlのPBST(50mMリン酸緩衝化生理食塩水、0.2% Tween 20)で希釈した唾液試料500μlを、AbPストリップと共に一夜、最低16時間インキュベートし、過剰の試料をPBSTで洗浄除去した。次いでストリップを、順に100ng/mlのウサギ抗ヒトIgAと共に1時間、100ng/mlのヤギ抗ウサギIgG−アルカリホスファターゼコンジュゲートと共に30分間、インキュベートし、インキュベーション間に洗浄を行なった。ストリップをPBSTで再洗浄し、アルカリホスファターゼの沈殿基質NBT/BCIPを添加して、ストリップ上にバンドを発色させた。
【0077】
Saliva Sampler(商標)(Saliva Diagnostic Systems)およびSalivette(商標)(Sarstedt, Inc.)唾液採集システムをAbPアッセイとの適合性について試験した。Saliva Sampler(商標)システムは、プラスチック製の柄に取り付けた綿パッドからなる。十分な試料が採集されると、柄の窓が青色に変化する。採集後、パッドを貯蔵用緩衝液に入れる。Salivette(商標)は綿ロールであり、口内に約10分間入れ、次いでプラスチック試験管内に入れて遠心分離し、試料を採集する。両方のタイプの試料採集器を試料採集のために口の歯肉溝内に入れた。両方の試料採集器を用いて採集した試料についてAbPを実施することにより、試料の質を−20℃、4℃および25℃の温度における貯蔵時間の関数として評価した。
【0078】
血液AbPパターンを唾液試料から得たものと比較する試験に5人のボランティアが参加した。ヒト対象に使用するためのプロトコルをアイダホ国立工学環境研究所・施設審査委員会(Idaho National Engineering and Environmental Laboratory Institutional Review Board)に基づいて実施した。抗凝固剤EDTAを入れた試験管に血液試料を採集し、直ちに使用した。Saliva Sampler(商標)唾液採集システムを用いて唾液を採集した。一対の血液と唾液の試料をUnger & Strauss(前掲)の血液プロトコルおよび前記の唾液AbP試験法により分析した。
【0079】
種々の食物および飲料がAbPアッセイに及ぼす影響を評価するための唾液偽和試験にさらに4人のボランティアが参加した。これらのボランティアにバタースコッチおよびレモンハードキャンディー、砂糖添加および砂糖無添加ガム、砂糖添加および砂糖無添加コーラ、ならびにミルクチョコレートを与えた。前記のものを食べた後、彼らに提供した唾液試料採集器を用いて唾液試料を採集するように頼んだ。ボランティアに、アルコールを摂取し、コーヒーを飲み、彼らが選択した食物を食べ、そして試料採集前に歯を磨くことも頼んだ。喫煙者であった一人のボランティアは喫煙後に試料を提出した。これらのボランティアからベースライン試料も採集した。
【0080】
メタンフェタミンおよびベンゾイルエクゴニンに対するモノクローナル抗体を、EZ−Link(商標)マレイミド活性化アルカリホスファターゼキットを用いて製造業者のプロトコルに基づいて、アルカリホスファターゼにコンジュゲートさせた。コンジュゲートしなかった抗体を、抗体−酵素コンジュゲートから、FreeZyme(登録商標)コンジュゲート精製キットを用いて製造業者のプロトコルに基づいて分離した。
【0081】
コカインおよびメタンフェタミンの両方につき、競合型の酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)を開発した。メタンフェタミンまたはベンゾイルエクゴニンのBSAコンジュゲートを50mM炭酸緩衝液、pH9.6に希釈し、50μlを96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに添加した。プレートを4℃で一夜インキュベートしてコンジュゲートをウェルの表面に結合させた。次いでプレートをPBSTで洗浄して、過剰のBSAコンジュゲートを除去した。次いで0〜1000μg/mlの濃度範囲のコカイン溶液またはメタンフェタミン溶液50μlをプレートに添加し、アルカリホスファターゼとコンジュゲートしたモノクローナル抗ベンゾイルエクゴニン抗体または抗メタンフェタミン抗体50μlを添加した。この工程中に、固定化されたBSA薬物コンジュゲートが抗体上の結合部位に対して溶液中の遊離薬物と競合した。競合反応の終了後、結合しなかった抗体および遊離薬物を洗浄除去した。最後に100μlの可溶性アルカリホスファターゼ基質(PNPP)溶液をウェルに添加して、ウェルの表面に抗薬物抗体により結合しているアルカリホスファターゼと反応させた。20〜30分後に25μlの3M NaOHの添加により反応を停止し、405nmにおける各ウェルの吸光度をTecan Spectraマイクロプレートリーダーにより読み取った。
【0082】
ポリビニリデンフルオリド(PVDF)膜をMiragen AbPストリップの作製に用い、その表面へのコカイン−およびメタンフェタミン−BSAコンジュゲートの結合可能性を評価した。PVDF膜をAbPアッセイに用いたものと同じサイズのストリップに切断した。各薬物につき4つのストリップを作製し、三重分析のためにいずれかの薬物−BSAコンジュゲート10μlのスポットを各ストリップ上の3カ所に配置した。ストリップを使用前に35℃で1時間乾燥させた。ストリップ上の非特異的結合部位を、1mg/mLのBSAを含有するPBSTで1時間遮断し、次いでPBSTですすいだ。コカイン溶液およびメタンフェタミン溶液をPBST中に0、0.1、10、および1000μg/mlの濃度で調製した。次いで750μlのコカイン溶液またはメタンフェタミン溶液をストリップに添加し、さらにアルカリホスファターゼとコンジュゲートした抗ベンゾイルエクゴニン抗体または抗メタンフェタミン抗体750μlを添加し、1時間インキュベートした。この間に遊離薬物と固定化薬物の間に抗体の結合部位に対して競合反応が起きた。ストリップを洗浄して結合しなかった抗体および薬物を除去し、NBT/BCIP基質を添加した。ストリップを15分間発色させた。
【0083】
メタンフェタミンおよびベンゾイルエクゴニン−BSAコンジュゲート両方の10μlのスポットをAbPストリップのブランク下部に配置し、それらを35℃で1時間乾燥させることにより、組合わせAbP−薬物アッセイの用意をした。3人の個体からの唾液試料をOra Sure試料採集器により採集した。唾液試料の半分に1000μg/mlのコカインまたはメタンフェタミンを混入した。1.0mg/mLのBSAを含有するPBSTでストリップを1時間遮断し、次いでPBSTですすいだ。次いで500μlの混入または非混入唾液をアルカリホスファターゼコンジュゲートした抗ベンゾイルエクゴニン抗体または抗メタンフェタミン抗体と共にストリップに添加し、室温で一夜インキュベートした。ストリップをPBSTで洗浄し、上述したようにAbPアッセイを実施した。
【0084】
結果および考察 唾液ベースのAbPアッセイを、試薬濃度、試料体積、およびインキュベーション時間の変更により最適化した。唾液試料から得られた抗体プロフィールの結果の例を図1に示す。血液ベースのAbPアッセイと比較して、唾液アッセイははるかに長時間かかり(18時間対2時間)、10倍多量の試料を必要とする。これは、唾液中に存在する総抗体レベルが血液と比較して100倍低いためである。Parry, Tests for HIV and hepatitis viruses, 694 Annals N. Y. Acad. Sci. 221 (1993)。
【0085】
Saliva Sampler(商標)またはSalivette(商標)システムを用いて採集した唾液試料中に存在する抗体の安定性を、−20℃、4℃および25℃に貯蔵し、試料のAbPを1日1回、1週間にわたって試験して観察したパターンに何らかの変化があるかを調べることにより判定した。いずれの試料採集器からの唾液試料も新鮮なものが最良の結果を与えた。Saliva Sampler(商標)システムを用いて採集した試料の経時安定性は、Salivette(商標)システムを用いて採集した試料よりすべての温度において優れていた。Saliva Sampler(商標)システムに備えられた保存貯蔵用の緩衝液が細菌汚染による抗体分解を阻止すると思われ、一方、Salivette(商標)試料採集器は保存剤を含まない。
【0086】
Saliva Sampler(商標)システムを用いて採集し、室温に保持した試料は、5日間にわたってパターンの変化を示さなかった。この結果は、数時間の貯蔵後ですら顕著な劣化を示した冷蔵庫内貯蔵試料について得られた結果と対照的である。これが起きた理由は明らかでない。凍結試料も凍結融解サイクルにより起きる損傷のため若干の劣化を示したが、凍結温度で長期間貯蔵してもそれ以上の分解は生じなかった。Saliva Sampler(商標)唾液採集器は優れた貯蔵特性をもち、より使いやすいので、偽和試験にはそれらを用いた。
【0087】
血液AbPパターンを唾液AbPパターンと比較して、それらの試料中に存在するISAが同一であるかを判定した。結果は、これら2つの異なる試料から得られたパターンは顕著に異なることを示した(図2)。唾液は血液の濾液であり、唾液中に存在するISAは血液中に存在するものと同一であろうと予想されていたので、この結果は若干意外であった。異なるパターンはおそらくそれぞれの場合に調べた抗体のイソタイプから生じたのであろう。血液中ではIgG抗体が最も優勢であるので、それらが分析された。唾液中ではIgA抗体の方が優勢であるので、それらが分析された。前記の結果が得られた後、唾液試料をIgG抗体についても分析して、それらのパターンが血液パターンからのものと同じであるかを判定した。しかし、唾液中に存在するIgG抗体はきわめて低いレベルであるため、これは成功しなかった。
【0088】
唾液偽和試験により、何らかの偽和物が存在した場合にも抗体プロフィールに実質的に変化が起きないことが示された(図3)。バンドに濃淡がある場合もあったが、消失したバンドや追加のバンドは存在しないようだった。これは予備試験であったので、試験した偽和物は普通の生活において使用される可能性のある入手しやすいものであった。しかし、インターネット公表の迅速検索として、尿ベースの薬物検索を打破する多数の方法が提唱されており、これにはこれらのサイトで販売されているさまざまな物質を摂取することまたはそれらの物質を試料に偽和することが含まれる。AbP試験は唾液検査の前に一般に摂取される可能性のある食物により影響されないと思われるので、本明細書に示す偽和試験結果は有望である。
【0089】
コカインおよびメタンフェタミンの両方について、直接競合アッセイを用いるイムノアッセイ試験法を開発した。抗ベンゾイルエクゴニン抗体をコカインアッセイに用いたが、この抗体はコカインに対してベンゾイルエクゴニン(コカインの一次代謝産物)に対するものと同じ応答を与えたので、アッセイの結果に影響を及ぼさなかった。このアッセイにおいては、試料中に存在する薬物が酵素標識抗体上の結合部位に対してマイクロタイタープレートのウェルの表面に固定化したBSAコンジュゲート薬物と競合する。高い薬物濃度を有する試料においては、抗体−酵素コンジュゲートの大部分が溶液中の薬物に結合し、最終工程中に洗浄除去されるであろう。したがって、マイクロタイタープレート中に存在する酵素はごくわずかであり、発色量は低いであろう。逆に、試料中に薬物が無い場合、抗体は固定化された薬物に結合して洗浄工程後もウェル内に留まり、強い発色を生じるであろう。その結果、薬物濃度に反比例する信号が発生する(図4および5)。コカイン検出についての直線範囲は0.1から5μg/mlまで、メタンフェタミンについては0.1から10μg/mlまでであった。この範囲には、これらの薬物について薬物乱用精神保健局(Substance Abuse and Mental Health Services Administration)が設定したカットオフ値(それぞれ0.3および1.0μg/ml)が含まれる。M. Peat & A.E. Davis, Drug Abuse Handbook (CRC Press、フロリダ州ボカラートン、1998)。
【0090】
ELISA試験に際して決定したBSA−薬物コンジュゲートの最適濃度を用いて、PVDF膜上で薬物アッセイを実施した。イムノアッセイと薬物濃度が反比例するので、薬物濃度が低い場合に濃いスポットがみられ、薬物濃度が上昇するのに伴ってスポットは次第に消失した(図6および7)。
【0091】
PVDF膜上での薬物検査が有望であったので、これら2つの薬物検査法とAbPアッセイの組合わせの実施可能性を評価した。3人の個体からの抗体プロフィールパターンは、薬物の存在または不存在にかかわらず変化がなかった(図8)。この結果により、これらの薬物の存在が抗体プロファイリングアッセイを実施するために用いる試薬を妨害しなかったことが示された。
【0092】
実施例2
この実施例は、分画したHeLa細胞抗原を予め定めたパターンで二次元アレイとしてPVDF膜上に固定化した以外は、実施例1の方法に従う。さらに、コカインおよびメタンフェタミンを、アレイ上の追加のスポットとしてこの膜上に固定化する。上述したように発色させた後、結果は実質的に実施例1のものと同様である。
【0093】
実施例3
この実施例は、アレイをスライドガラス上に固定化した以外は、実施例2の方法に従う。
【0094】
実施例4
実施例1の場合と同様にアッセイストリップを作製し、PBS中で予め遮断した。次いでストリップを50μlから0.1μlまでの種々の量の血清に20分間曝露した。次いでストリップを漂白剤溶液(0.5% v/vの次亜塩素酸ナトリウム)に入れた後、PBSで4回洗浄した。
【0095】
2段階積層法を実施するストリップの場合、ストリップをウサギ抗ヒトIgGに12分間曝露した後、PBSで4回洗浄した。次いでこれらのストリップを、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgGに12分間曝露した。次いでストリップを実施例1に概説したように洗浄し、発色させた。2抗体層の結果は図9に見ることができる;その際、若干のバンドが消失した可読パターンを血清1マイクロリットルまで目視でき、完全なパターンは血清3マイクロリットルまで目視できる。
【0096】
3段階積層法を実施するストリップの場合、ストリップをウサギ抗ヒトIgGに12分間曝露した後、PBSで4回洗浄した。次いでこれらのストリップをヤギ抗ウサギIgGに12分間曝露した。次いでこれらのストリップを、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたロバ抗ヤギIgGに12分間曝露した。次いでストリップを実施例1に概説したように洗浄し、発色させた。2抗体層の結果は図10に見ることができる;その際、若干のバンドが消失した可読パターンを血清0.5マイクロリットルまで目視でき、完全なパターンは血清1マイクロリットルまで目視できる。
【0097】
図9と10の比較により、3抗体積層法は2層法より個特異的抗体の可読パターン提供における感度を増大させたことが示される。
実施例5
実施例1の場合と同様にアッセイストリップを作製し、PBS中で予め遮断した。次いでストリップを3マイクロリットルの血清に20分間曝露した。次いでストリップを漂白剤溶液(0.5% v/vの次亜塩素酸ナトリウム)に入れた後、PBSで4回洗浄した。
【0098】
2段階積層法を実施するストリップの場合、ストリップをウサギ抗ヒトIgGに12分間曝露した後、PBSで4回洗浄した。次いでこれらのストリップを、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgGに12分間曝露した。次いでストリップを実施例1に概説したように洗浄し、発色させた。
【0099】
3段階積層法を実施するストリップの場合、ストリップをヤギ抗ヒトIgGに12分間曝露した後、PBSで4回洗浄した。次いでこれらのストリップをウサギ抗ヤギIgGに12分間曝露した。次いでこれらのストリップを、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたロバ抗ウサギIgGに12分間曝露した。次いでストリップを実施例1に概説したように洗浄し、発色させた。
【0100】
この2層積層法と3層積層法の結果を図11に並べた状態で見ることができる。ストリップAは3層ストリップであり、ストリップBは2層ストリップである。分かるように、3層法を用いた場合の方がはるかに強い信号および感度が得られた。
【0101】
これら2つのストリップのデンシトメトリー試験を実施し、結果を図12に示した;その際、3層ストリップは上の線、2層ストリップは下の線である。線の高さはバンドの強度を示す。図12にみられるように、3層法は特定のバンドについて、比例したバックグラウンドノイズ増大なしに高い読取り値を有する。したがって、3層法は2層法より高い感度を有する。
【0102】
本発明を特定の態様において記載したが、本発明は本発明の開示の精神および範囲内でさらに改変することができる。したがって、本発明は本発明の一般原理を用いたいかなる変更、用途、または応用をも包含するものとする。さらに、本発明は本発明が関係する技術分野で既知のまたは一般的な実施に含まれるような、かつ特許請求の範囲の制限内に属するような、本発明からの逸脱を包含するものとする。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、仮出願でない米国特許出願11/691,096(2007年3月26日出願、「レポーター抗体積層の増大によって改良された抗体プロファイリング感度」)に基づく利益を主張し、その各開示内容のすべてを本明細書に援用する。
【0002】
本発明の契約由来
米国政府は、以下の本発明において、米国エネルギー省(United States Department of Energy)とBattelle Energy Alliance, LLCとの間のContract No. DE-AC07-94ID13223、Contract No. DE-AC07-99ID13727、およびDE-AC07-05ID14517に基づく権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明は、生体試料のアッセイに関する。より具体的には、本発明は抗体プロファイリングを含む、生体試料の分析方法に関する。本発明のある態様において、生体試料の分析は、生体試料中の個特異的抗体の特性付けのための抗体プロファイリングと生体試料中の被分析体の同時アッセイの組合わせを含む。
【背景技術】
【0004】
個体またはそれらの個体から得られた生体試料を同定するための多数の方法が知られている。たとえば、血液型判定は赤血球の表面にある抗原の存在に基づく。ABO方式は、2種類の抗原AおよびBに関する4種類の異なる状態に関係する。A型個体はA抗原を示し;B型個体はB抗原を示し;AB型個体はAおよびB抗原を示し;O型個体はA抗原もB抗原も示さない。ある者の血液試料を分析することにより、その血液がこれらの血液グループの1つに属するものとして分類できる。この方法は1個体を小グループの個体から識別するためには使用できるが、同じ血液グループの者の間で区別されないので、個体のグループが比較的大きい場合はこの方法には限界がある。たとえば米国でのABO血液グループの分布は、約45%がO型、約42%がA型、約10%がB型、約3%がAB型である。他の血液グループ抗原または体液中に存在するアイソザイムに基づく検査も、ABO血液型判定検査と同じ欠点がある。これらの方法はある個体を除外することができるが、同じ血液グループのメンバー間での識別ができない。
【0005】
遺伝学に基づく多様な免疫学的および生化学的検査が、親子鑑定に、ならびに移植および輸血の操作に伴うドナーとレシピエントの適合性判定のために、また時にはヒトおよび動物の識別に際しての補助として常用されている。たとえば、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子座によりコードされるタンパク質の血清検査法が周知である。HLA遺伝子座の遺伝子構成に関してかなりの情報が知られているが、大きなグループ内の個体を識別するためにHLA型の血清型判定を使用するのには多くの欠点がある。HLA抗原のそれぞれを別個のアッセイで検査しなければならず、個体を識別するためにはそのような多数の抗原をアッセイしなければならず、大きなグループ内の個体を識別する場合は困難な方法である。
【0006】
この十年間に、DNAベースの分析法、たとえば制限断片長多型(RFLP)およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が、法医学および親子鑑定において生体試料と個体の照合のために急速に受け入れられるようになった。しかしRFLP法は比較的多量の試料、特殊な装置、高度に熟練した技術者、および長い分析時間が必要であるため、問題が多い。法医学用途については、このタイプのアッセイに利用できる十分な試料のない場合が多く、また遠隔地では必要な装置が得られない場合が多い。さらに、この方法は完了するのに2〜6週間を要する可能性があり、犯罪捜査に著しい遅れが生じる可能性がある。さらに、多数の試料をスクリーニングする必要がある場合、RFLP分析の費用は実行不可能なものとなる可能性がある。PCR法は、必要な試料の量がはるかに少なく、より迅速な分析が可能であるという、RFLP分析に優る利点を有するが、それらはなお特殊な装置および熟練した技術者を必要とし、かつそれらも費用がかかる。
【0007】
特許文献1・2には、DNA分析に付随する欠点の多くを克服するとされる方法として“抗体プロファイリング”、すなわち“AbP”が開示されている。抗体プロファイリングは、それぞれの個体が自身の体液中に存在するユニーク抗体セットを有するという知見に基づく(非特許文献1)。“個特異的抗体(individual specific antibody)”、すなわち“ISA”と呼ばれるこれらの抗体は血液、血清、唾液、尿、精液、汗、涙液、および身体組織中に見いだされた(非特許文献2)。ISAは疾患に関連せず、身体の細胞成分に対して産生されるものであると考えられている。各人が母親の抗体プロフィールに一致する抗体プロフィールをもって産まれる(非特許文献3)。しかし、子供の抗体プロフィールは次第に変化し、そしてほぼ2歳までに安定なユニークプロフィールが得られる。遺伝的に同一の個体ですら異なる抗体プロフィールを有することが示された。個体のプロフィールは生涯安定であると思われ、短期の疾患により影響されることはない(非特許文献2、前掲)。長期疾患を伴う個体について行なわれた研究はほとんどない。しかし、予備的な結果により、数個の余分なバンドが現れる場合はあるが、全般的なパターンは依然として元のままであることが指摘されている。この方法は、医療の分野で患者の試料を追跡して、試料の混同を避けるために用いられている。さらに、この方法は病院で乳児の取違えまたは誘拐が申し立てられた事件に用いられている。この方法はDNA法に優る多数の利点をもち、これには低い費用、迅速な分析(試料入手時から2時間)、および単純さ(特別な装置または熟練を必要としない)が含まれる。さらに、この方法はDNAを含有しない試料についても作動する可能性がある。
【0008】
特許文献3には、診断検査結果を生体試料の抗体プロフィールと関係づけることにより診断検査に用いた生体試料の供給源を同定するための方法が開示されている。それぞれの生体試料の抗体プロフィールを作製することにより、その生体試料の供給源が同定される。
【0009】
現在、ガラス、シリコン、ポリメタクリレート、ポリマー充填剤、マイクロスフェア、樹脂などの表面に特異的核酸プローブまたは他の生体分子を付着させることを利用した多数のアッセイ法がある。表面が平坦な構造の場合、これらのアッセイは時には“バイオチップ”と呼ばれる。最初は、バイオチップはガラスまたはシリコン支持体にマイクロアレイ状に付着した核酸プローブを含んでいた。これらのDNAチップは、最初はコンピューターチップ加工に使用するために開発された微細加工技術により作製される。先端DNAチップ技術には、インサイチュー光化学合成法(非特許許文献4、特許文献4);電気化学的位置決め法(特許文献5);インクジェットプリンターに似た吹付け装置を用いるチップ上への遺伝子プローブの沈着;および溶液ベースの方法におけるゲルの使用が含まれる。他のタイプの分子、たとえばペプチドのアレイがバイオチップ上に作製されている;たとえば特許文献4。
【0010】
抗体プロファイリングを用いるための既知の方法は、一般にそれらの限定された目的には適しているが、それらは生体試料の分析、特性付け、および同定におけるそれらの全般的有用性を損なうある固有の欠点を有する。たとえば、既知の方法は電気泳動により抗原を分画し、次いで分画した抗原を膜に移すことによる。分画法毎に条件が異なるため、ロット間で膜上の抗原の位置に相異があり、したがってあるロットからの膜を用いて得た結果を他のロットからの膜を用いて得た結果と比較することができない。さらに、膜上の免疫複合体の検出に比色法を用いる場合、色彩判定が主観的になる可能性があり、したがって異なる観察者により結果が異なって解釈されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許4,880,750
【特許文献2】米国特許5,270,167
【特許文献3】WO 97/29206
【特許文献4】米国特許5,445,934
【特許文献5】米国特許5,605,662
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】R.M. Bernstein et al., Cellular Protein and RNA Antigens in Autoimmune Disease, 2 Mol. Biol. Med. 105-120 (1984)
【非特許文献2】A.M. Francoeur, Antibody Fingerprinting: A Novel Method for Identifying Individual People and Animals, 6 Bio/technology 821-825 (1988)
【非特許文献3】T.F. Unger & A. Strauss, Individual-specific Antibody Profiles as a Means of Newborn Infant Identification, 15 J Perinatology 152-155 (1995)
【非特許文献4】P. S. Fodor, 277 Science 393-395 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上に鑑み、生体試料を分析するためにロット間で試薬および主観性の相異が結果の解釈に影響を及ぼさない方法が提供されれば、当技術分野における著しい進歩である。さらに、特に分析を自動化しやすいバイオチップ方式で抗体プロファイリングにより生体試料を分析する方法を提供すれば有利である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1態様には、個特異的抗体を含有する生体材料を分析するための方法であって:多数の抗原を固体支持体の表面に多数の抗原のそれぞれの位置が分かるように予め選択した位置パターンで付着させることにより、多数の抗原のアレイを作製し;生体材料の試料を入手し、前記のアレイを試料と接触させ、これにより試料に含有される個特異的抗体の一部をアレイ中の抗原と反応および結合させて、免疫複合体を形成させ;免疫複合体を含む固体支持体を洗浄し、これにより抗原と反応および結合しない試料中の抗体を除去し;そして免疫複合体を検出し、その位置を判定し、これにより抗体プロフィールを得ること、を含む上記方法が含まれる。1態様において、免疫複合体の検出は、個特異的抗体を認識してそれに結合する第1の追加抗体に免疫複合体を曝露することにより実施できる。他の態様においては、第1の追加抗体または互いを認識する1種類以上の追加抗体を使用できる。
【0015】
本発明の態様によれば、免疫複合体の検出は、免疫複合体がそれに付着している固体支持体を、ある位置における免疫複合体の存在がその位置における免疫複合体の不存在と比較した色彩変化により特性付けられるように処理することを含む。1態様において、免疫複合体の検出法はさらに、アレイを試料と接触させる前と後の色彩パターンを比較するために、固体支持体をソリッドステート検色回路でモニターすることを含む。他の態様において、免疫複合体の検出法はさらに、アレイを試料と接触させる前および後のカラー写真機画像を得て、それから得られるピクセル情報を分析することを含む。本発明のさらに他の態様において、固体支持体は表面プラズモン共鳴チップであり、免疫複合体の検出はさらに、アレイを試料と接触させる前と後の表面プラズモン共鳴チップを走査し、それから得られたデータを比較することを含む。本発明のさらに他の態様において、免疫複合体の検出は、電荷結合素子を用いて画像を得て、蛍光発光を含む色彩変化を検出することを含む。
【0016】
本発明のさらに他の態様においては、本発明方法を薬物使用の検査法として用いる。本発明のさらに他の態様は、法医学試料から得た抗体プロフィールを分析し、犯罪容疑者または犯罪被害者からの試料から得た抗体プロフィールと比較することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の方法によって唾液試料から得た抗体プロフィールの例を示す。
【図2】実施例1の方法による6人の個体からの一対の唾液と血液の抗体プロフィールの比較を示す。
【図3】実施例1の方法によって種々の偽和物が混入した後の単一個体からの唾液試料から得た抗体プロフィールを示す。
【図4】実施例1の方法によって唾液試料中のコカインのイムノアッセイから得た結果の例を示す。
【図5】実施例1の方法によって唾液試料中のメタンフェタミンのイムノアッセイから得た結果の例を示す。
【図6】PVDF膜上でのコカインの免疫検出の結果の例を示す:ストリップ5、0μg/mlのコカイン;ストリップ6、0.1μg/mlのコカイン;ストリップ7、10μg/mlのコカイン;ストリップ8、1000μg/mlのコカイン。
【図7】PVDF膜上でのメタンフェタミンの免疫検出の結果の例を示す:ストリップ1、0μg/mlのメタンフェタミン;ストリップ2、0.1μg/mlのメタンフェタミン;ストリップ3、10μg/mlのメタンフェタミン;ストリップ4、1000μg/mlのメタンフェタミン。
【図8】3人の異なる個体からの抗体プロフィールを示す;各対のうち一方のストリップは薬物を含まず、各対のうち他方のストリップは1000μg/mlのコカインおよびメタンフェタミンを含む。
【図9】2抗体積層法を用いた種々の量の血清についての抗体プロフィールを示す。ストリップAは50マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップBは10マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップCは5マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップDは3マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップEは1マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップFは0.5マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップGは0.1マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップHは0マイクロリットルの血清に曝露した。
【図10】3抗体積層法を用いた種々の量の血清についての抗体プロフィールを示す。ストリップAは50マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップBは25マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップCは15マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップDは7.5マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップEは10マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップFは2.5マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップGは1マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップHは0.5マイクロリットルの血清に曝露され;ストリップIは0.1マイクロリットルの血清に曝露した;ストリップJは0マイクロリットルの血清に曝露した。
【図11】3マイクロリットルの血清の抗体プロフィールを並べたものを示す;ストリップAは3抗体法で発色させ、ストリップBは2抗体法で発色させた。
【図12】図11のストリップAおよびBからのデンシトメトリーデータを示す。上の線はストリップAであり、下の線はストリップBである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
生体試料を分析するための本発明方法を詳細に記載する前に、本明細書に開示する特定の構造、プロセス作業、および材料はある程度変更可能であり、本発明は特定の構造、プロセス作業、および材料に限定されないことを理解すべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるので、本明細書中で用いる専門用語は特定の態様を記載する目的で用いたにすぎず、限定的でないことも理解すべきである。
【0019】
本発明の背景を記載しかつその実施に関する追加の詳細事項を提示するために本明細書中で言及する刊行物その他の参考文献を、本明細書に援用する。本明細書中で考察する参考文献は本出願の出願日以前のそれらを開示するために提示するにすぎない。本明細書中のいかなる記載も、本発明者らが先行発明によるそのような開示内容に先行する権利がないと認めたものと解釈すべきでない。
【0020】
本明細書および特許請求の範囲中で用いる単数形には、そうではないことが状況から明示されない限り、複数表示が含まれることを留意すべきである。したがって、たとえば“動物”からの生体試料を分析するための方法についての記載には2匹以上のそのような動物の記載が含まれ、“固体支持体”という記載には1以上のそのような固体支持体が含まれ、“アレイ”という記載には2以上のそのようなアレイが含まれる。
【0021】
本発明の記載および特許請求の範囲において、以下の用語は下記の定義に基づいて用いられる:
本明細書中で用いる“含む”、“含まれる”、“含有する”、“特徴とする”、およびその文法上の均等物は、引用していない追加の要素または工程を除外しない包括的または非制限的な用語(inclusive and open-ended term)である。“含む”には、より制限的な用語である“からなる”および“から本質的になる”が含まれると解釈すべきである。
【0022】
本明細書中で用いる“からなる”およびその文法上の均等物は、特許請求の範囲に特定していないいずれかの要素、工程または成分を除外する。
本明細書中で用いる“から本質的になる”およびその文法上の均等物は、特許請求の範囲を、特定した物質または工程、および特許請求された発明の基本的な新規特性(1以上)に著しい影響を及ぼさないものに限定する。
【0023】
本明細書中で用いる“固体支持体”は、全般的または実質的に平坦な支持体であって、その上に抗原のアレイを配置したものを意味する。固体支持体は、アレイを保有するのに適切ないずれかの材料または材料の組合わせを含むことができる。これらの固体支持体を構築するために用いられる材料は、幾つかの要件に適合する必要がある:たとえば(1)容易に誘導体化しうる表面基が存在すること、(2)アッセイに用いる試薬に対して不活性であること、(3)経時的に安定であること、および(4)生体試料と適合性であること。たとえば、適切な材料にはガラス、シリコン、二酸化ケイ素(すなわちシリカ)、プラスチック、ポリマー、親水性無機支持体、およびセラミック材料が含まれる。プラスチックおよびポリマーの例には、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ビニリデンジフルオリド)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、およびその組合わせが含まれる。親水性無機支持体の例には、アルミナ、ジルコニア、チタニア、および酸化ニッケルが含まれる。ガラス支持体の例は、顕微鏡スライドガラスである。コンピューターチップの作製に用いられるシリコンウェーハもバイオチップの作製に用いられている。たとえば米国特許5,605,662を参照。
【0024】
本明細書中で用いる“アレイ”は、固体支持体上の位置の配列を意味する。それらの位置は、一般に二次元アレイで配列されるが、他の方式も可能である。位置の数は、数個から少なくとも数十万にまで及ぶことができる。アレイパターンおよびスポット密度は変更できる。たとえばGenetic Microsystems(マサチュセッツ州ウーバン)から市販されているGMS 417 Arrayerを用いると、スポットのサイズおよび密度を利用者が選択できる。直径150μmおよび中心間の間隔300μmのスポットについては、1000以上のスポットを1平方センチメートル内に配置でき、標準的な顕微鏡スライドガラス上には10,000以上のスポットを配置できる。中心間の間隔200μmについては、これらの数値は平方センチメートル当たり2500、スライドガラス当たり25,000以上に増加する。
【0025】
本明細書中で用いる“発色源(colorigenic)”は、適切な酵素で消化すると有色生成物を生成する物質を表わす。そのような有色物質には蛍光性およびルミネセンス性の生成物が含まれる。
【0026】
本発明における最初の作業は、抗原を固体支持体の表面に、アレイ中の抗原の位置が分かるように予め選択したパターンで付着させることにより、抗原のアレイを作製することである。本明細書中で用いる抗原は、抗体が結合する物質である。抗原には、タンパク質、炭水化物、核酸、ホルモン、薬物、受容体、腫瘍マーカーなど、およびその混合物を含めることができる。抗原は一群の抗原、たとえばサイズ排除クロマトグラフィーカラムから溶出したタンパク質の特定の画分であってもよい。さらにまた、抗原は発現ライブラリーまたはランダムエピトープライブラリーからの指定クローンとして同定することもできる。
【0027】
本発明の1態様において、抗原はHeLa細胞から、一般にA. -M. Francoeur et al., 136 J. Immunol. 1648 (1986)の記載に基づいて単離される。要約すると、HeLa細胞を標準培地中において標準的な組織培養条件下で増殖させる。次いで周密状態のHeLa細胞培養物を、好ましくはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、界面活性剤で溶解し、遠心分離して不溶性の細胞屑を除去する。上清は、アレイ作製に適切な約10,000の免疫学的に異なる抗原を含有する。
【0028】
アレイを作製するために用いる抗原が既知のものであることは要求されない。要求されるすべては、抗原の供給源が一貫性をもち、したがって再現性のあるアレイを作製できることである。たとえば、抗原を含有するHeLa細胞上清を、当技術分野で周知のサイズ排除カラム、電気泳動ゲル、密度勾配などで分画することができる。画分を採集し、採集したそれぞれの画分はアレイ作製のためのユニーク抗原セットとなることができる。したがって、抗原が未知であっても、同じ方法および条件を用いてHeLa細胞抗原を単離および分画すれば、再現性のあるアレイを作製できる。
【0029】
他の方法、たとえばランダムペプチドライブラリーまたはエピトープライブラリーの調製は当技術分野で周知であり、再現性をもって抗原を調製するために使用できる。たとえばJ. K. Scott & G. P. Smith, Searching for Peptide Ligands with an Epitope Library, 249 Science 386 (1990); J. J. Devlin et al., Random Peptide Libraries: A Source of Specific Protein Binding Molecules, 249 Science 404-406 (1990); S. E. Cwirla et al., Peptides on Phage: A Vast Library of Peptides for Identifying Ligands, 87 Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 6378-6382 (1990); K. S. Lam et al., A New Type of Synthetic Peptide Library for Identifying Ligand-binding Activity, 354 Nature 82-84 (1991); S. Cabilly, Combinatorial Peptide Library Protocols (Humana Press, 304 pp, 1997);U.S Patent No.5,885,780。そのようなライブラリーは、合成オリゴヌクレオチドを適切な融合ファージにライゲートさせることにより構築できる。融合ファージは、外来配列をファージ遺伝子IIIにクローニングし、ビリオンの一端に遺伝子IIIタンパク質(pIII)の一部としてディスプレーさせた、糸状バクテリオファージベクターである。各ファージは単一のランダム配列をコードし、それをファージ当たり約5分子で存在する微量コートタンパク質であるpIIIとの融合複合体として発現する。たとえば、前掲のJ. K. Scott & G.P. Smithの融合ファージ技術においては、6アミノ酸残基の可変カセットを含むファージのライブラリーが構築された。バクテリオファージタンパク質に融合したこのヘキサペプチドモジュールにより、それぞれがビリオン表面に被験物質を有する>1012のファージ(または約108〜1010の異なるクローン)を一度に検査できるスクリーニング法のためのライブラリーが得られた。得られたライブラリーを用いて、特定のヘキサペプチド配列に特異的なモノクローナル抗体がスクリーニングされた。この融合ファージ系は他のグループでも用いられ、より長いペプチド挿入配列を含むライブラリーが構築された。この方法で作製された融合ファージを、抗原のアレイに含めるためにランダムまたは非ランダムに選択することができる。アレイに含めるために選択された融合ファージを標準法により増殖させて、選択した抗原を実質上無限に供給することができる。
【0030】
抗原を調製するための他の方法も当技術分野で知られている。たとえば、DNAフラグメントまたはcDNAを発現ベクター中にランダムにクローニングすることにより、発現ライブラリーを作製できる。たとえばR.A. Young & R.W. Davis, Yeast RNA Polymerase II Genes: Isolation with Antibody Probes, 222 Science 778-782 (1983); G.M. Santangelo et al., Cloning of Open Reading Frames and Promoters from the Saccharomyces cerevisiae Genome: Construction of Genomic Libraries of Random Small Fragments, 46 Gene 181-186 (1986)。そのようなライブラリーの作製に使用できる発現ベクターは、種々の業者から市販されている。たとえばHeLa細胞のDNAまたはcDNAのランダムフラグメントを発現ベクター中にクローニングし、次いでHeLa細胞タンパク質を発現しているクローンを選択することができる。次いでこれらのクローンを当技術分野で周知の方法により増殖させることができる。次いで発現したタンパク質を単離または精製し、アレイの作製に使用することができる。
【0031】
あるいは、抗原を当技術分野で周知の組換えDNA技術により合成することができる。多数のウイルス、細菌および哺乳動物のタンパク質をコードする遺伝子がクローニングされており、したがって大量の高純度タンパク質を迅速に低経費で合成することができる。たとえば、多数の真核細胞および哺乳動物の膜結合受容体、増殖因子、細胞接着分子、および調節タンパク質をコードする遺伝子がクローニングされており、抗原として有用である。そのような組換え技術により製造された多数のタンパク質、たとえば多様な種からのトランスフォーミング増殖因子、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子、インターフェロン、インスリン様増殖因子、ならびに種々のインターロイキンが市販されている。
【0032】
多くの場合、ポリペプチド全体を抗原として用いる必要はない。たとえば少なくとも1つのエピトープ、すなわち抗原決定基、または抗体と特異的に相互作用する抗原部分を含む、いかなるサイズまたは部分のポリペプチドも、アレイに使用するのに十分であろう。
【0033】
ランダムまたは非ランダムのいずれかで選択した抗原を固体支持体上に配置すると、アレイが得られる。固体支持体上の抗原のパターンは再現性を有するべきである。すなわち、固体支持体上の各抗原の位置および同一性が分かっているべきである。たとえば10×10のアレイに、当業者は抗原1〜100をそれぞれアレイの1〜100の位置に配置することができる。
【0034】
ピペッティング用の器具もしくは機器、または液体試料を固体支持体上に配置するために設計した器具を用いて、たとえば下記から市販されているマイクロアレイヤー(microarrayer)を用いて、タンパク質をアレイ状に固体支持体の表面に配置することができる:Cartesian Technologies, Inc.(カリフォルニア州アービン);Gene Machines(カリフォルニア州サンフランシスコ);Genetic MicroSystems(マサチュセッツ州ウーバン);GenePack DNA(英国ケンブリッジ);Genetix Ltd.(英国ドーセット州);およびPackard Instrument Company(コネチカット州メリディン)。
【0035】
一連のタンパク質抗原を表面にアレイ状に配置するための関連方法には、非接触型液滴オンデマンドディスペンシング(non contact drop on demand dispensing)およびインクジェット法が含まれる。両方法について市販装置を入手できる。Cartesian technologiesは数ナノリットルのディスペンシング装置を提供し、これらは20nLから250μLにまで及ぶ液体体積を96、384、1536、3456および9600ウェルマイクロタイタープレートから分取し、それらを厳密に最高400スポット/cm2の密度で表面に配置することができる。これらの装置は表面に多様なパターンでスポットする。インクジェット法はその名称が示すように、インクジェットプリンターに用いるものと同じ原理を利用する。Microfab Technologiesは、ピコリットル量の液体を多様なパターンで表面に分配することができる10流体プリントヘッドを提供する。本発明のための例示パターンは、10×10から100×100までの範囲の単純なアレイであろう。
【0036】
タンパク質または他の抗原を固体支持体の表面に付着させるために使用できる多数の方法がある。これらのうち最も簡単なものは、疎水力、イオン力およびファン-デル-ワールス力による単純な吸着である。しかし、タンパク質が経時的に表面から脱着する傾向があるので、この方法は最適ではない。適切な付着化合物のひとつは、二官能性有機シランの使用によるものである。たとえばThompson and Maragos, 44 J. Agric. Food Chem. 1041-1046 (1996)。有機シランの一端は、チップの表面に露出している−OH基と反応してシラノール結合を形成する。有機シランの他端は、タンパク質表面の多様な基、たとえば−NH2および−SH基と反応性である基を含む。タンパク質をチップに付着させるこの方法により、タンパク質とチップの間に共有結合が形成される。タンパク質を表面に付着されるために用いられている他の適切な方法には、アリールアジド、ニトロベンジル、およびジアジリン光化学的方法が含まれる。上記の化学物質をUV線に露光すると、タンパク質と反応して共有結合を形成しうる反応性基が形成される。アリールアジド化合物によればC−H結合中に侵入できる反応性ニトレン基が形成され、一方、ジアジリン化合物によれば反応性カルベン基が生成する。ニトロベンジル化合物はケージング化合物と呼ばれ、これによればケージング基が反応性分子を不活性化する。UV線に露光するとこの分子が遊離し、反応に利用しうる状態になる。タンパク質を固体支持体に付着させるためのさらに他の方法が当技術分野で周知である;たとえばS. S. Wong, Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking (CRC Press, 340 pp., 1991)。
【0037】
抗原を選択したアレイ状に固体支持体に付着させた後、固体支持体を適切な液体ですすぐことにより洗浄して、結合していない抗原を除去すべきである。洗浄に適切な液体には、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)など、すなわち比較的低いイオン強度の、中性またはほぼ中性に緩衝化された生体適合性塩類溶液が含まれる。そのような適切な洗浄液が当技術分野で多数知られており、あるいは当業者が過度の実験なしに考案できる。たとえばN. E. Good & S. Izawa, Hydrogen Ion Buffers, 24 Methods Enzymology 53-68 (1972)。
【0038】
次いで、タンパク質その他の分子が固体支持体に非特異的に結合するのを遮断するために固体支持体を処理する。この遮断工程により抗原、抗体などが固体支持体に結合するのが防止される;ここで、そのような抗原、抗体、その他の分子は結合させる予定ではないものである。遮断により、信号を圧倒する可能性のあるバックグラウンドが低下し、これにより信号対ノイズ比が向上する。遮断しなければ非特異的結合が起きる可能性のある部位に結合する不活性分子を含有する媒質中で固体支持体をインキュベートすることにより、固体支持体を遮断する。適切な遮断剤の例には、ウシ血清アルブミン、ヒトアルブミン、ゼラチン、脱脂粉乳、ポリビニルアルコール、Tween 20、ならびに多様な市販の遮断剤、たとえばSEA BLOCK(登録商標)(East Coast Biologies, Inc.の商標、メイン州ベルウッィク)およびSuperBlock(商標)(Pierce Chemical Co.の商標、イリノイ州ロックフォード)遮断用緩衝液が含まれる。
【0039】
結合していない抗原をアレイから除去するための洗浄および遮断の後、固体支持体を被験液体試料と接触させる。試料は、個特異的抗体を産生するいかなる動物からのものであってもよい。たとえば、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ウマ、ウシおよびウサギはすべてISAを有することが知られている。試料は種々の体液および固形物からのものであってもよく、これには血液、唾液、精液、血清、血漿、尿、羊水、胸水、髄液、およびその混合物が含まれる。これらの試料は当技術分野で周知の方法によって得られる。検出方法によっては、最適反応条件を達成するために生体試料を操作することが必要な場合がある。たとえば、最適な免疫複合体の形成、酵素触媒作用などを得るために、生体試料のイオン強度もしくは水素イオン濃度または濃度を調整することができる。
【0040】
米国特許5,270,167(Francoeur)に詳細に記載されているように、ISAをランダム抗原のセットと反応させると、ある数の免疫複合体が形成される。たとえば約1000のユニーク抗原のパネルを用いると、20倍希釈した生体試料中のISAとの間の約30の免疫複合体を検出できる。生体試料を希釈しない場合、形成される可能性のある検出可能な免疫複合体の総数は1023より多いであろう。多数のエピトープを有する“より大きい”抗原、すなわちペプチドの代わりにタンパク質)を選択することにより、可能性のある免疫複合体の総数を増加させることもできる。したがって、使用する抗原およびその数、生体試料の希釈度、ならびに検出方法に応じて、形成および検出される免疫複合体の数を当業者が調節できることは認識されるであろう。生体試料中のISAとアレイ中の抗原との間に形成される、および形成されないユニーク免疫複合体のセットが、抗体プロフィールを構成する。
【0041】
抗体/抗原または免疫複合体を検出するための方法は当技術分野で周知である。本発明は、当技術分野で既知の多様な検出方法に適応するように当業者が改変できる。当業者が選択する具体的な検出方法は、利用できる生体試料の量、生体試料のタイプ、生体試料の安定性、抗原の安定性、および抗体と抗原の親和性を含めた幾つかの要因に依存する。さらに、前記で考察したように、選択する検出方法に応じて生体試料を改変することが必要な場合がある。
【0042】
これらの技術は当技術分野で周知であるが、本発明を実施するために使用できる幾つかの検出方法の例を以下に簡単に記載する。
多数のタイプのイムノアッセイが当技術分野で知られている。最も一般的なタイプのイムノアッセイは、競合および非競合不均一アッセイ、たとえば酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)である。非競合ELISAにおいては、非標識抗原を固体支持体、たとえばバイオチップ表面に結合させる。生体試料をこの反応器に結合した抗原と合わせ、生体試料中の抗体(一次抗体)を抗原に結合させて、免疫複合体を形成させる。免疫複合体が形成された後、過剰の生体試料を除去し、バイオチップを洗浄して非特異的に結合した抗体を除去する。次いで免疫複合体を適切な酵素標識した抗免疫グロブリン(二次抗体)と反応させることができる。二次抗体は免疫複合体中の抗体と反応し、バイオチップに結合している他の抗原とは反応しない。ヒトを含めた多様な種の抗体の結合に対して特異的な二次抗体が当技術分野で周知であり、たとえばSigma Chemical Co.(ミズリーリ州セントルイス)およびSanta Cruz Biotechnology(カリフォルニア州サンタクルーズ)から市販されている。さらに洗浄した後、酵素基質を添加する。二次抗体に結合している酵素は、基質を生成物に変換する反応を触媒する。過剰の抗原が存在する場合、生成物の量は生体試料中に存在する一次抗体の量に正比例する。生成物は蛍光性またはルミネセンス性であってもよく、それを当技術分野で周知の技術および装置を用いて測定することができる。有色生成物を生成する反応スキームを用い、それを分光光度法により測定することもできる。
【0043】
本発明の他の態様においては、検出を容易にするために二次抗体を標識しなくてもよい。追加抗体(すなわち、三次、四次など)を、それぞれの追加抗体がその前に免疫複合体に付加された抗体を特異的に認識するように、積層することができる。本明細書の記載に基づいて免疫複合体を検出できるように、これらの追加抗体(すなわち、三次、四次など)のいずれかを標識することができる。
【0044】
サンドイッチアッセイまたは捕獲アッセイを用いて免疫複合体を同定および定量することもできる。サンドイッチアッセイは、抗体を固相に結合させ、生体試料中の抗原を測定するという点で、非競合ELISAの鏡像である。これらのアッセイは、低濃度で存在する多重エピトープを有する抗原の検出に特に有用である。この方法は過剰の抗体をバイオチップなどの固相に結合させる必要がある。次いで結合した抗体を生体試料と共にインキュベートし、試料中の抗原に結合抗体との免疫複合体を形成させる。免疫複合体を酵素結合した二次抗体と共にインキュベートする;この抗体は、抗原上の一次抗体と同じまたは異なるエピトープを認識する。したがって、酵素活性は生体試料中の抗原の量と正比例する。D.M. Kemeny & S.J. Challacombe, ELISA and Other Solid Phase Immunoassays (1988)。
【0045】
二次抗体に結合させることができる代表的な酵素には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、およびウレアーゼが含まれる。多様な酵素に結合した抗原特異的二次抗体が、たとえばSigma Chemical Co.およびAmersham Life Sciences(イリノイ州アーリントンハイツ)から市販されている。
【0046】
競合ELISAは、酵素結合した抗体が限られた抗原の結合部位に対して生体試料中の非標識抗体と競合すること以外は非競合ELISAと類似する。要約すると、限られた数の抗原を固体支持体に結合させる。生体試料および酵素標識抗体を固体支持体に添加する。生体試料中の抗原特異的抗体は、固体支持体に結合している限られた数の抗原に対して酵素標識抗体と競合する。免疫複合体が形成された後、非特異的に結合した抗体を洗浄により除去し、酵素基質を添加し、酵素活性を測定する。二次抗体は必要ない。このアッセイは競合的であるので、酵素活性は生体試料中の抗体の量に反比例する。
【0047】
他の競合ELISAも本発明の範囲に使用できる。この態様においては、生体試料からの限られた量の抗体を本明細書の記載に基づいて固体支持体の表面に結合させる。次いで標識抗原および非標識抗原を固体支持体と接触させると、これにより固体支持体の表面にある抗体への結合に対して標識抗原と非標識抗原が互いに競合する。免疫複合体が形成された後、非特異的に結合した抗原を洗浄により除去する。上述したように、酵素結合した二次抗体と共にインキュベートすることにより免疫複合体を検出する;この抗体は、一次抗体と同じまたは異なる抗原上エピトープを認識する。次いで酵素の活性を測定すると、これにより存在する抗原の量と反比例する信号が得られる。
【0048】
均一イムノアッセイも本発明方法を実施する際に使用できる。均一イムノアッセイは、低分子量化合物、たとえばホルモン、療法薬、および他の方法では分析できない違法薬物、または高濃度でみられる化合物の検出のために好ましい可能性がある。均一アッセイは分離工程が不必要であるので、特に有用である。R.C. Boguslaski et al., Clinical Immunochemistry: Principles of Methods and Applications (1984)。
【0049】
均一法においては、結合した抗原または結合していない抗原を酵素結合させる。酵素結合した抗原に生体試料中の抗体が結合すると、立体障害により酵素が不活性化される。その結果、測定可能なほどの酵素活性損失が生じる。遊離抗原(すなわち酵素結合していないもの)は、抗体の限られた結合部位に対して酵素結合した抗原と競合する。したがって、酵素活性は生体試料中の抗原の濃度に正比例する。
【0050】
均一イムノアッセイに有用な酵素には、リゾチーム、ノイラミニダーゼ、トリプシン、パパイン、ブロメライン、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、およびβ−ガラクトシダーゼが含まれる。T. Persoon, Immunochemical Assays in the Clinical Laboratory, 5 Clinical Laboratory Science 31 (1992)。酵素結合した抗原は市販されているか、あるいはグルタルアルデヒドおよびマレイミド誘導体を含めた当技術分野で周知の各種化学薬品を用いて結合させることができる。
【0051】
従来の抗体プロファイリング法は、5−ブロモ−4−クロロ−3’−インドリルホスフェートp−トルイジン塩(BCIP)およびニトロ−ブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)でアルカリホスファターゼ標識した二次抗体を用いる;両方とも種々の業者から、たとえばPierce Chemical Co.(イリノイ州ロックフォード)から市販されている。抗原−抗体複合体が生じた場所ではいずれも、酵素反応により不溶性有色生成物が形成され、これが膜ストリップの表面に沈着してバンドを形成する。この方法は定量が困難であり、かつ比色法は一般に蛍光またはルミネセンスに基づく方法より感度が低いので、バイオチップ方式に最適ではない。
【0052】
蛍光イムノアッセイも本発明方法を実施する際に使用できる。蛍光イムノアッセイは、酵素の代わりに発蛍光団または蛍光色素と呼ばれる蛍光化合物を用いる以外はELISAに類似する。これらの化合物は、入射光からエネルギーを吸収してそのエネルギーをより長い波長およびより低いエネルギーの光として放出する能力を有する。通常は容易に抗原および抗体に結合させることができるイソチオシアネートの形のフルオレセインおよびローダミンが、当技術分野で最も一般的に用いられている。D.P. Stites et al., Basic and Clinical Immunology (1994)。フルオレセインは490〜495nmの波長の光を吸収し、520nmの波長の光を放出する。テトラメチルローダミンは550nmの波長の光を吸収し、580nmの波長の光を放出する。蛍光ベースの検出方法の例には、ELF−97アルカリホスファターゼ基質(Molecular Probes Inc.、オレゴン州ユージーン);PBXL−IおよびPBXL−3(ストレプトアビジンにコンジュゲートしたフィコビリソーム類)(Martek Biosciences Corp.、メリーランド州コロンビア);FITCおよびTexas Red標識したヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.、ペンシルベニア州ウェストグローブ);ならびにストレプトアビジンにコンジュゲートしたB−フィコエリトリンおよびR−フィコエリトリン(Molecular Probes Inc.)が含まれる。ELF−97は非蛍光性化学物質であり、アルカリホスファターゼにより消化されて蛍光分子を形成する。アルカリホスファターゼの代謝回転のため、ELF−97基質を用いると信号増幅が生じる。二次抗体に結合した蛍光分子はこの増幅を示さない。
【0053】
藻類から単離したフィコビリプロテイン、ポルフィリンおよびクロロフィル(すべて約600nmで蛍光発光する)も当技術分野で用いられている。I. Hemmila, Fluoroimmunoassays and Immunofluorometric Assays, 31 Clin. Chem. 359 (1985);米国特許4,542,104。フィコビリプロテインおよびその誘導体は、R−フィコエリトリン(PE)およびQuantum Red(商標)の名称で、たとえばSigma Chemical Co.から市販されている。
【0054】
さらに、Cy−コンジュゲートした二次抗体および抗原がイムノアッセイに有用であり、市販されている。たとえばCy−3は554nmで最大励起され、568〜574nmで発光する。Cy−3は他の発蛍光団より親水性であり、したがって非特異的結合または凝集する傾向がより少ない。Cy−コンジュゲートした化合物はAmersham Life Sciencesから市販されている。
【0055】
ルミネセンスベースの検出方法の例には、CSPDおよびCDP starアルカリホスファターゼ基質(Roche Molecular Biochemicals);ならびにSuperSignal(登録商標)西洋ワサビペルオキシダーゼ基質(Pierce Chemical Co.、イリノイ州ロックフォード)が含まれる。
【0056】
化学ルミネセンス、エレクトロルミネセンスおよび電気化学ルミネセンス(ECL)検出法も、生体試料中の抗原および抗体を定量するための魅力的な手段である。ルミネセント化合物はエネルギーを吸収し、励起されるとこれを可視光線の形で放出する能力を有する。化学ルミネセンスの場合、励起源は化学反応であり;エレクトロルミネセンスの場合、励起源は電界であり;ECLの場合、電界が発光性化学反応を誘発する。
【0057】
ECL検出法に用いる分子は、一般に有機配位子および遷移金属を含む。有機配位子は1以上の遷移金属原子とキレートを形成して、有機金属錯体を形成する。多様な有機金属錯体および遷移金属−有機配位子錯体が生体試料中の被分析体を検出および定量するためのECL標識として用いられている。ルテニウム、オスミウム、レニウム、イリジウム、およびロジウム遷移金属が、それらの熱安定性、化学安定性および光化学安定性、それらの強い発光および長い発光寿命のため当技術分野で好まれている。有機配位子のタイプは多数であり、アントラセンおよびポリピリジル分子ならびに複素環式有機化合物がこれに含まれる。たとえば、ビピリジル、ビピラジル、テルピリジルおよびフェナントロリル、ならびにその誘導体が当技術分野における一般的な有機配位子である。当技術分野で用いられる一般的な有機金属錯体には、IGEN, Inc.(メリーランド州ロックビル)およびSigma Chemical Co.から市販されているトリス−ビピリジンルテニウム(II)が含まれる。
【0058】
有利なことに、ECLは水性条件下および生理的pH下で実施でき、したがって生体試料の取扱いが最小限に抑えられる。J. K. Leland et al., Electrogenerated Chemiluminescence: An Oxidative-Reduction Type ECL Reactions Sequence Using Triprophyl Amine, 137 J. Electrochemical Soc. 3127-3131 (1990);WO 90/05296;米国特許5,541,113。さらに、これらの化合物のルミネセンスは多様な補因子、たとえばアミン類の添加によって増強することができる。
【0059】
実施に際しては、たとえばトリス−ビピリジンルテニウム(II)錯体を当技術分野で周知の方法により二次抗体に結合させることができ、これにはリジンのアミノ基、システインのスルフヒドリル基、およびヒスチジンのイミダゾール基への結合が含まれる。一般的なELISAイムノアッセイにおいては、二次抗体は抗原に結合したISAを認識するが、結合していない抗原を認識しないであろう。非特異的に結合した錯体を洗浄した後、トリス−ビピリジンルテニウム(II)錯体を化学的、光化学的および電気化学的励起手段で、たとえばバイオチップに電流を付与することにより励起する。たとえばWO 86/02734。励起によりトリス−ビピリジンルテニウム(II)錯体の二重酸化反応が生じ、その結果ルミネセンスが発生し、これをたとえば光電子増倍管により検出することができる。ルミネセンスを検出するための計測器は当技術分野で周知であり、たとえばIGEN, Inc.から市販されている。
【0060】
ソリッドステート検色回路もバイオチップ上での発色反応をモニターするために使用でき、指令に応じて試料付与の前と後の色彩パターンを比較することができる。カラー写真機画像も使用でき、ピクセル情報を分析して同じ情報を得ることができる。
【0061】
さらに他の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)チップを用いる検出を伴う。チップの表面を試料付与の前と後で走査し、比較を行なう。SPRチップは目的分子が光源に露光された際の光の屈折に依存する。各分子はそれ自身の屈折率をもち、これにより分子を同定できる。この方法には、チップを精確に走査するために厳密な位置決めおよび制御回路が必要である。
【0062】
さらに他の方法は、蛍光試薬によるバイオチップの流体すすぎを伴う。生体試料と結合したマイクロロケーション(microlocation)は蛍光発光し、電荷結合素子(CCD)アレイで検出できる。そのようなCCDアレイの出力を分析して、各試料に付随するユニークパターンを決定する。この方法により走査技術に付随する問題が避けられる。試料および基準物質の化学結合は数分で行なわれるので、いずれの方法についても速度は要因ではない。
【0063】
さらに、アレイスキャナーは、たとえばGenetic MicroSystemsから市販されている。GMS 418アレイスキャナーはレーザー光学を用いて収束した光線をバイオチップ上で高速移動させる。このシステムは、高い励起エネルギーを発生する高出力ソリッドステートレーザーを含む二重波長方式を用いており、励起時間を短縮できる。30Hzの走査速度で、GMS 418は22×75−mmのスライドガラスを10−μmの解像度において約4分で走査できる。
【0064】
アレイスキャナーを用いて得た画像を分析するためのソフトウェアは容易に入手できる。入手できるソフトウェアパッケージには、ImaGene(BioDiscovery、カリフォルニア州ロスアンゼルス);ScanAlyze(無料で入手できる;スタンフォード大学のMike Eisenが開発);De−Array(国立予防衛生研究所のYidong ChenおよびJeff Trentが開発;バージニア州フェアファックス、ScanalyticsからのIP Labと共に使用);Pathways(Research Genetics、アラバマ州ハンツビル);GEM tools(Incyte Pharmaceuticals, Inc.、カリフォルニア州パロアルト);およびImaging Research(Amersham Pharmacia Biotech, Inc.、ニュージャージー州ピスカッタウェイ)が含まれる。
【0065】
抗原とISAの相互作用が同定および定量されると、信号をデジタル化することができる。デジタル化した抗体プロフィールは、その生体試料の供給源を同定する符号として役立つ。用いたバイオチップに応じて、デジタル化したデータは多数の形態をとる可能性がある。たとえば、バイオチップは10行、10列、総数100のマイクロロケーションを有するアレイを含むことができる。各マイクロロケーションは少なくとも1つの抗原を含む。ISAを含有する生体試料を各マイクロロケーションに添加してインキュベートした後、抗原と生体試料中のISAの相互作用を同定および定量する。各マイクロロケーションにおいて、そのマイクロロケーションにある抗原と生体試料中のISAの相互作用により定量可能な信号が発生し、または発生しない。1態様においては、100のマイクロロケーションのそれぞれに、定量可能な信号が得られなかった場合は“0”、定量可能な信号が得られた場合は“1”の数値を付与することにより、抗体プロフィールの結果をデジタル化する。この方法を用いると、デジタル化された抗体プロフィールは0と1のユニークなセットを含む。
【0066】
数値“0”または“1”は、もちろん内部対照マイクロロケーションにおいて得られた信号に対して規準化することができ、したがって後に得られるデジタル化された抗体プロフィールを適正に比較することができる。たとえば1または数個のマイクロロケーションは既知の抗原を含み、それは経時的に一定のままであろう。したがって、その後の生体試料がその前の生体試料より高濃度または低濃度である場合、それらの信号を既知抗原からの信号により規準化することができる。
【0067】
抗体プロフィールをデジタル化するための他の方法があり、それらを使用できることは、当業者に認識されるであろう。たとえば、各マイクロロケーションに数値“0”または“1”を付与するのではなく、数値を漸増させ、信号の強度に対して正比例させてもよい。
【0068】
抗体プロフィール信号をデジタル化することにより、生化学的結果をコンピューターに入力し、迅速にアクセスして参照することができる。抗体プロフィールをデジタル化して数秒以内に、コンピューターはそれまでにデジタル化した抗体プロフィールを比較して一致するものがあるかどうかを判定することができる。一致する抗体プロフィールがデータベース中にあれば、その生体試料の供給源のプラス同定を行なうことができる。したがって本発明方法は、生体試料の供給源の識別およびプラス同定の両方を行なうことができる。
【0069】
本発明のある態様において、本発明方法は、生体試料を犯罪容疑者と照合するための法医学分析に用いられる。犯行現場から得た法医学試料は、試料の乾燥、少ない試料量、1より多い個体からの試料との混合、化学物質の偽和などの状態であることが多い。本発明方法は、法医学試料を容疑者と照合するについての迅速な分析、単純さ、低経費、および精確さという利点をもたらす。たとえば、法医学試料および1以上の容疑者からの試料を当技術分野で周知の方法によって入手する。各試料の抗体プロフィールを本明細書の記載に基づいて作製する。次いでそれらの抗体プロフィールを比較する。抗体プロフィールの一致は、その法医学試料がその照合容疑者から得られたことを意味する。一致する抗体プロフィールが得られなければ、それらの容疑者はその法医学試料の供給源ではなかったことになる。
【0070】
本発明の他の態様において、本発明方法は個体の薬物検査に使用される。たとえば多くの職場で従業員が違法薬物を使用していない状態を確保および維持するのが条件である。ある者の血流中における違法薬物の存在は、抗体捕獲による本発明方法またはこれに類する方法で検出できる。さらに、WO 97/29206に記載されるように、薬物検査と試料の同一性を1回の検査で相関させることができる。薬物検査は特定の動物、たとえばレースに参加するウマおよびイヌにおいても重要である。
【0071】
本発明をさらに以下の実施例中に記載する。それらは説明のために提示するものであり、決して本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1
法治社会において、容疑者の薬物検査に関連する幾つかの要望があることが示されており、これには試料採集に付随するプライバシーに係わる事項、試料の保管の鎖(chain of custody)の継続、容疑者による試料の偽和の阻止、および試料分析に際してのより迅速な回転時間の促進が含まれる。現在の薬物検査プロトコルは尿試料、および時には血液試料を利用する。保管の鎖を継続し、試料の取替えまたは偽和の可能性を排除するためには、試料を提供する個体を観察する必要があるので、プライバシー侵害は尿試料について常に存在する問題である。多くの薬物代謝産物は薬物を最初に摂取した後、数日間または数週間は尿中に排出され続けるので、尿試料は中毒の現時レベルの良い指標でもない。血液試料にはこれらの問題はないが、採血は侵襲性の方法であり、特別な設備および訓練された担当者を必要とし、これらは必要が生じた場合に必ずしも得られるとはかぎらない。取扱いの間違いまたは故意の不正改ざん(竄)が起きないことを保証するために、採集したすべての試料について法執行官が厳密な保管の鎖を継続する必要がある。保管の鎖が破断すると、または破断に気づいた場合ですら、証拠が完全に却下され、またはほとんど重要性を与えられない可能性がある。
【0073】
本発明の態様はこれらの事柄を幾つかの方法で解決する。第1に、抗体プロファイリング同定アッセイを薬物検査に組み込むことにより、試料ドナーの同定が薬物検査と一体化され、複雑な保管の鎖の手続きの必要性が排除される。第2に、唾液ベースの薬物検査は以下の理由で尿検査より好都合である;唾液中の薬物レベルは直ちに血中の薬物レベルと相関させることができ(W. Schramm et al., Drugs of Abuse in Saliva: A Review, 16 J. Anal. Toxicology 1-9 (1992); E.J. Cone, Saliva Testing for Drugs of Abuse, 694 Ann. N.Y. Acad. Sci. 91-127 (1995))、現時の薬物使用のより良い指標を提供する(D. A. Kidwell et al., Testing for drugs of abuse in saliva and sweat, 713 J. Chrom. B 111-135 (1998))。法執行官からみても、容疑者からの唾液試料は、プライバシーの侵害なしに、または侵襲性の方法を用いずに容易に採集できる。最後に、本発明の検査法は使いやすく、離れた中枢試験所で数日間ないし数週間を要するのではなく、法執行官が現場で迅速に実施できる。V. S. Thompson et al., Antibody profiling as an identification tool for forensic samples, 3576 Investigation and Forensic Science Technologies 52-59 (1999)。
【0074】
この実施例には、2種類の一般的な違法薬物(コカインおよびメタンフェタミン)についての抗体ベースの検査を提示する。これらの薬物は最も一般的に乱用されているものに含まれ、それらの使用は増加している。S. B. Karch, Drug Abuse Handbook (CRC Press, 1998); L.D. Bowers, Athletic Drug Testing, 17 Sports Pharmacology 299-318 (1998)。
【0075】
材料および方法 アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgG抗体をJackson ImmunoResearch(ペンシルベニア州ウェストグローブ)から入手した。ウサギ抗ヒトIgA抗体をU.S. Biological(マサチュセッツ州スワンプスコット)から購入した。Seablock(商標)、ニトロ−ブルーテトラゾリウムクロリド/5−ブロモ−4−クロロ−3’−インドリルホスフェートp−トルイジン塩(NBT/BCIP)、p−ニトロフェニルホスフェート二ナトリウム塩(PNPP)、EZ−Link(商標)マレイミド活性化アルカリホスファターゼキット、およびFreeZyme(登録商標)コンジュゲート精製キットを、Pierce Chemical(イリノイ州ロックフォード)から入手した。ベンゾイルエクゴニン(benzoylecgonine)およびメタンフェタミンに対するモノクローナル抗体、ならびにメタンフェタミンおよびベンゾイルエクゴニンのウシ血清アルブミン(BSA)コンジュゲートを、O.E.M Concepts(ニュージャージー州トムズリバー)から購入した。コカインおよびメタンフェタミンの塩酸塩をSigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手した。抗体プロファイリングストリップをMiragen, Inc.(カリフォルニア州アービン)から購入した。組合わせ薬物−AbP試験に用いたストリップを、A.M. Francoeur, Antibody fingerprinting: a novel method for identifying individual people and animals, 6 Bio/Technology 822-825 (1988)のプロトコルに基づいて作製した。Saliva Diagnostic Systems(ワシントン州バンクーバー)、Ora Sure Technologies, Inc.(ペンシルベニア州ベツレヘム)、およびSarstedt, Inc.(ノースカロライナ州ニュートン)からの唾液試料採集器を用いて、ボランティアから唾液試料を採集した。
【0076】
唾液ベースのAbPアッセイを、血液試料の処理のために設計された以前のプロトコルの改変により開発した。T.F. Unger & A. Strauss, Individual-specific antibody profiles as a mean of newborn infant identification, 15 J. Perinatology 152-155 (1995)。要約すると、1.0mlのPBST(50mMリン酸緩衝化生理食塩水、0.2% Tween 20)で希釈した唾液試料500μlを、AbPストリップと共に一夜、最低16時間インキュベートし、過剰の試料をPBSTで洗浄除去した。次いでストリップを、順に100ng/mlのウサギ抗ヒトIgAと共に1時間、100ng/mlのヤギ抗ウサギIgG−アルカリホスファターゼコンジュゲートと共に30分間、インキュベートし、インキュベーション間に洗浄を行なった。ストリップをPBSTで再洗浄し、アルカリホスファターゼの沈殿基質NBT/BCIPを添加して、ストリップ上にバンドを発色させた。
【0077】
Saliva Sampler(商標)(Saliva Diagnostic Systems)およびSalivette(商標)(Sarstedt, Inc.)唾液採集システムをAbPアッセイとの適合性について試験した。Saliva Sampler(商標)システムは、プラスチック製の柄に取り付けた綿パッドからなる。十分な試料が採集されると、柄の窓が青色に変化する。採集後、パッドを貯蔵用緩衝液に入れる。Salivette(商標)は綿ロールであり、口内に約10分間入れ、次いでプラスチック試験管内に入れて遠心分離し、試料を採集する。両方のタイプの試料採集器を試料採集のために口の歯肉溝内に入れた。両方の試料採集器を用いて採集した試料についてAbPを実施することにより、試料の質を−20℃、4℃および25℃の温度における貯蔵時間の関数として評価した。
【0078】
血液AbPパターンを唾液試料から得たものと比較する試験に5人のボランティアが参加した。ヒト対象に使用するためのプロトコルをアイダホ国立工学環境研究所・施設審査委員会(Idaho National Engineering and Environmental Laboratory Institutional Review Board)に基づいて実施した。抗凝固剤EDTAを入れた試験管に血液試料を採集し、直ちに使用した。Saliva Sampler(商標)唾液採集システムを用いて唾液を採集した。一対の血液と唾液の試料をUnger & Strauss(前掲)の血液プロトコルおよび前記の唾液AbP試験法により分析した。
【0079】
種々の食物および飲料がAbPアッセイに及ぼす影響を評価するための唾液偽和試験にさらに4人のボランティアが参加した。これらのボランティアにバタースコッチおよびレモンハードキャンディー、砂糖添加および砂糖無添加ガム、砂糖添加および砂糖無添加コーラ、ならびにミルクチョコレートを与えた。前記のものを食べた後、彼らに提供した唾液試料採集器を用いて唾液試料を採集するように頼んだ。ボランティアに、アルコールを摂取し、コーヒーを飲み、彼らが選択した食物を食べ、そして試料採集前に歯を磨くことも頼んだ。喫煙者であった一人のボランティアは喫煙後に試料を提出した。これらのボランティアからベースライン試料も採集した。
【0080】
メタンフェタミンおよびベンゾイルエクゴニンに対するモノクローナル抗体を、EZ−Link(商標)マレイミド活性化アルカリホスファターゼキットを用いて製造業者のプロトコルに基づいて、アルカリホスファターゼにコンジュゲートさせた。コンジュゲートしなかった抗体を、抗体−酵素コンジュゲートから、FreeZyme(登録商標)コンジュゲート精製キットを用いて製造業者のプロトコルに基づいて分離した。
【0081】
コカインおよびメタンフェタミンの両方につき、競合型の酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)を開発した。メタンフェタミンまたはベンゾイルエクゴニンのBSAコンジュゲートを50mM炭酸緩衝液、pH9.6に希釈し、50μlを96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに添加した。プレートを4℃で一夜インキュベートしてコンジュゲートをウェルの表面に結合させた。次いでプレートをPBSTで洗浄して、過剰のBSAコンジュゲートを除去した。次いで0〜1000μg/mlの濃度範囲のコカイン溶液またはメタンフェタミン溶液50μlをプレートに添加し、アルカリホスファターゼとコンジュゲートしたモノクローナル抗ベンゾイルエクゴニン抗体または抗メタンフェタミン抗体50μlを添加した。この工程中に、固定化されたBSA薬物コンジュゲートが抗体上の結合部位に対して溶液中の遊離薬物と競合した。競合反応の終了後、結合しなかった抗体および遊離薬物を洗浄除去した。最後に100μlの可溶性アルカリホスファターゼ基質(PNPP)溶液をウェルに添加して、ウェルの表面に抗薬物抗体により結合しているアルカリホスファターゼと反応させた。20〜30分後に25μlの3M NaOHの添加により反応を停止し、405nmにおける各ウェルの吸光度をTecan Spectraマイクロプレートリーダーにより読み取った。
【0082】
ポリビニリデンフルオリド(PVDF)膜をMiragen AbPストリップの作製に用い、その表面へのコカイン−およびメタンフェタミン−BSAコンジュゲートの結合可能性を評価した。PVDF膜をAbPアッセイに用いたものと同じサイズのストリップに切断した。各薬物につき4つのストリップを作製し、三重分析のためにいずれかの薬物−BSAコンジュゲート10μlのスポットを各ストリップ上の3カ所に配置した。ストリップを使用前に35℃で1時間乾燥させた。ストリップ上の非特異的結合部位を、1mg/mLのBSAを含有するPBSTで1時間遮断し、次いでPBSTですすいだ。コカイン溶液およびメタンフェタミン溶液をPBST中に0、0.1、10、および1000μg/mlの濃度で調製した。次いで750μlのコカイン溶液またはメタンフェタミン溶液をストリップに添加し、さらにアルカリホスファターゼとコンジュゲートした抗ベンゾイルエクゴニン抗体または抗メタンフェタミン抗体750μlを添加し、1時間インキュベートした。この間に遊離薬物と固定化薬物の間に抗体の結合部位に対して競合反応が起きた。ストリップを洗浄して結合しなかった抗体および薬物を除去し、NBT/BCIP基質を添加した。ストリップを15分間発色させた。
【0083】
メタンフェタミンおよびベンゾイルエクゴニン−BSAコンジュゲート両方の10μlのスポットをAbPストリップのブランク下部に配置し、それらを35℃で1時間乾燥させることにより、組合わせAbP−薬物アッセイの用意をした。3人の個体からの唾液試料をOra Sure試料採集器により採集した。唾液試料の半分に1000μg/mlのコカインまたはメタンフェタミンを混入した。1.0mg/mLのBSAを含有するPBSTでストリップを1時間遮断し、次いでPBSTですすいだ。次いで500μlの混入または非混入唾液をアルカリホスファターゼコンジュゲートした抗ベンゾイルエクゴニン抗体または抗メタンフェタミン抗体と共にストリップに添加し、室温で一夜インキュベートした。ストリップをPBSTで洗浄し、上述したようにAbPアッセイを実施した。
【0084】
結果および考察 唾液ベースのAbPアッセイを、試薬濃度、試料体積、およびインキュベーション時間の変更により最適化した。唾液試料から得られた抗体プロフィールの結果の例を図1に示す。血液ベースのAbPアッセイと比較して、唾液アッセイははるかに長時間かかり(18時間対2時間)、10倍多量の試料を必要とする。これは、唾液中に存在する総抗体レベルが血液と比較して100倍低いためである。Parry, Tests for HIV and hepatitis viruses, 694 Annals N. Y. Acad. Sci. 221 (1993)。
【0085】
Saliva Sampler(商標)またはSalivette(商標)システムを用いて採集した唾液試料中に存在する抗体の安定性を、−20℃、4℃および25℃に貯蔵し、試料のAbPを1日1回、1週間にわたって試験して観察したパターンに何らかの変化があるかを調べることにより判定した。いずれの試料採集器からの唾液試料も新鮮なものが最良の結果を与えた。Saliva Sampler(商標)システムを用いて採集した試料の経時安定性は、Salivette(商標)システムを用いて採集した試料よりすべての温度において優れていた。Saliva Sampler(商標)システムに備えられた保存貯蔵用の緩衝液が細菌汚染による抗体分解を阻止すると思われ、一方、Salivette(商標)試料採集器は保存剤を含まない。
【0086】
Saliva Sampler(商標)システムを用いて採集し、室温に保持した試料は、5日間にわたってパターンの変化を示さなかった。この結果は、数時間の貯蔵後ですら顕著な劣化を示した冷蔵庫内貯蔵試料について得られた結果と対照的である。これが起きた理由は明らかでない。凍結試料も凍結融解サイクルにより起きる損傷のため若干の劣化を示したが、凍結温度で長期間貯蔵してもそれ以上の分解は生じなかった。Saliva Sampler(商標)唾液採集器は優れた貯蔵特性をもち、より使いやすいので、偽和試験にはそれらを用いた。
【0087】
血液AbPパターンを唾液AbPパターンと比較して、それらの試料中に存在するISAが同一であるかを判定した。結果は、これら2つの異なる試料から得られたパターンは顕著に異なることを示した(図2)。唾液は血液の濾液であり、唾液中に存在するISAは血液中に存在するものと同一であろうと予想されていたので、この結果は若干意外であった。異なるパターンはおそらくそれぞれの場合に調べた抗体のイソタイプから生じたのであろう。血液中ではIgG抗体が最も優勢であるので、それらが分析された。唾液中ではIgA抗体の方が優勢であるので、それらが分析された。前記の結果が得られた後、唾液試料をIgG抗体についても分析して、それらのパターンが血液パターンからのものと同じであるかを判定した。しかし、唾液中に存在するIgG抗体はきわめて低いレベルであるため、これは成功しなかった。
【0088】
唾液偽和試験により、何らかの偽和物が存在した場合にも抗体プロフィールに実質的に変化が起きないことが示された(図3)。バンドに濃淡がある場合もあったが、消失したバンドや追加のバンドは存在しないようだった。これは予備試験であったので、試験した偽和物は普通の生活において使用される可能性のある入手しやすいものであった。しかし、インターネット公表の迅速検索として、尿ベースの薬物検索を打破する多数の方法が提唱されており、これにはこれらのサイトで販売されているさまざまな物質を摂取することまたはそれらの物質を試料に偽和することが含まれる。AbP試験は唾液検査の前に一般に摂取される可能性のある食物により影響されないと思われるので、本明細書に示す偽和試験結果は有望である。
【0089】
コカインおよびメタンフェタミンの両方について、直接競合アッセイを用いるイムノアッセイ試験法を開発した。抗ベンゾイルエクゴニン抗体をコカインアッセイに用いたが、この抗体はコカインに対してベンゾイルエクゴニン(コカインの一次代謝産物)に対するものと同じ応答を与えたので、アッセイの結果に影響を及ぼさなかった。このアッセイにおいては、試料中に存在する薬物が酵素標識抗体上の結合部位に対してマイクロタイタープレートのウェルの表面に固定化したBSAコンジュゲート薬物と競合する。高い薬物濃度を有する試料においては、抗体−酵素コンジュゲートの大部分が溶液中の薬物に結合し、最終工程中に洗浄除去されるであろう。したがって、マイクロタイタープレート中に存在する酵素はごくわずかであり、発色量は低いであろう。逆に、試料中に薬物が無い場合、抗体は固定化された薬物に結合して洗浄工程後もウェル内に留まり、強い発色を生じるであろう。その結果、薬物濃度に反比例する信号が発生する(図4および5)。コカイン検出についての直線範囲は0.1から5μg/mlまで、メタンフェタミンについては0.1から10μg/mlまでであった。この範囲には、これらの薬物について薬物乱用精神保健局(Substance Abuse and Mental Health Services Administration)が設定したカットオフ値(それぞれ0.3および1.0μg/ml)が含まれる。M. Peat & A.E. Davis, Drug Abuse Handbook (CRC Press、フロリダ州ボカラートン、1998)。
【0090】
ELISA試験に際して決定したBSA−薬物コンジュゲートの最適濃度を用いて、PVDF膜上で薬物アッセイを実施した。イムノアッセイと薬物濃度が反比例するので、薬物濃度が低い場合に濃いスポットがみられ、薬物濃度が上昇するのに伴ってスポットは次第に消失した(図6および7)。
【0091】
PVDF膜上での薬物検査が有望であったので、これら2つの薬物検査法とAbPアッセイの組合わせの実施可能性を評価した。3人の個体からの抗体プロフィールパターンは、薬物の存在または不存在にかかわらず変化がなかった(図8)。この結果により、これらの薬物の存在が抗体プロファイリングアッセイを実施するために用いる試薬を妨害しなかったことが示された。
【0092】
実施例2
この実施例は、分画したHeLa細胞抗原を予め定めたパターンで二次元アレイとしてPVDF膜上に固定化した以外は、実施例1の方法に従う。さらに、コカインおよびメタンフェタミンを、アレイ上の追加のスポットとしてこの膜上に固定化する。上述したように発色させた後、結果は実質的に実施例1のものと同様である。
【0093】
実施例3
この実施例は、アレイをスライドガラス上に固定化した以外は、実施例2の方法に従う。
【0094】
実施例4
実施例1の場合と同様にアッセイストリップを作製し、PBS中で予め遮断した。次いでストリップを50μlから0.1μlまでの種々の量の血清に20分間曝露した。次いでストリップを漂白剤溶液(0.5% v/vの次亜塩素酸ナトリウム)に入れた後、PBSで4回洗浄した。
【0095】
2段階積層法を実施するストリップの場合、ストリップをウサギ抗ヒトIgGに12分間曝露した後、PBSで4回洗浄した。次いでこれらのストリップを、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgGに12分間曝露した。次いでストリップを実施例1に概説したように洗浄し、発色させた。2抗体層の結果は図9に見ることができる;その際、若干のバンドが消失した可読パターンを血清1マイクロリットルまで目視でき、完全なパターンは血清3マイクロリットルまで目視できる。
【0096】
3段階積層法を実施するストリップの場合、ストリップをウサギ抗ヒトIgGに12分間曝露した後、PBSで4回洗浄した。次いでこれらのストリップをヤギ抗ウサギIgGに12分間曝露した。次いでこれらのストリップを、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたロバ抗ヤギIgGに12分間曝露した。次いでストリップを実施例1に概説したように洗浄し、発色させた。2抗体層の結果は図10に見ることができる;その際、若干のバンドが消失した可読パターンを血清0.5マイクロリットルまで目視でき、完全なパターンは血清1マイクロリットルまで目視できる。
【0097】
図9と10の比較により、3抗体積層法は2層法より個特異的抗体の可読パターン提供における感度を増大させたことが示される。
実施例5
実施例1の場合と同様にアッセイストリップを作製し、PBS中で予め遮断した。次いでストリップを3マイクロリットルの血清に20分間曝露した。次いでストリップを漂白剤溶液(0.5% v/vの次亜塩素酸ナトリウム)に入れた後、PBSで4回洗浄した。
【0098】
2段階積層法を実施するストリップの場合、ストリップをウサギ抗ヒトIgGに12分間曝露した後、PBSで4回洗浄した。次いでこれらのストリップを、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgGに12分間曝露した。次いでストリップを実施例1に概説したように洗浄し、発色させた。
【0099】
3段階積層法を実施するストリップの場合、ストリップをヤギ抗ヒトIgGに12分間曝露した後、PBSで4回洗浄した。次いでこれらのストリップをウサギ抗ヤギIgGに12分間曝露した。次いでこれらのストリップを、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたロバ抗ウサギIgGに12分間曝露した。次いでストリップを実施例1に概説したように洗浄し、発色させた。
【0100】
この2層積層法と3層積層法の結果を図11に並べた状態で見ることができる。ストリップAは3層ストリップであり、ストリップBは2層ストリップである。分かるように、3層法を用いた場合の方がはるかに強い信号および感度が得られた。
【0101】
これら2つのストリップのデンシトメトリー試験を実施し、結果を図12に示した;その際、3層ストリップは上の線、2層ストリップは下の線である。線の高さはバンドの強度を示す。図12にみられるように、3層法は特定のバンドについて、比例したバックグラウンドノイズ増大なしに高い読取り値を有する。したがって、3層法は2層法より高い感度を有する。
【0102】
本発明を特定の態様において記載したが、本発明は本発明の開示の精神および範囲内でさらに改変することができる。したがって、本発明は本発明の一般原理を用いたいかなる変更、用途、または応用をも包含するものとする。さらに、本発明は本発明が関係する技術分野で既知のまたは一般的な実施に含まれるような、かつ特許請求の範囲の制限内に属するような、本発明からの逸脱を包含するものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個特異的抗体を含む生体材料を分析するための方法であって、下記:
固体支持体の表面に予め選択した位置パターンで付着した多数の抗原を含むアレイを作製すること;
個特異的抗体を含む生体材料の試料を入手し、前記のアレイを試料と接触させ、個特異的抗体の少なくとも一部をアレイの多数の抗原に結合させて、免疫複合体を形成させること;
免疫複合体を含むアレイを洗浄すること;
アレイに少なくとも3種類の別個の抗体を適用することにより免疫複合体を検出すること;
アレイ上の免疫複合体を同定して、抗体プロフィールを得ること;
を含む上記方法。
【請求項2】
アレイの作製が、多数の抗原を共有結合により固体支持体に付着させることを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
組織、血液、唾液、尿、汗、涙液、精液、血清、血漿、羊水、胸水、髄液、およびその組合わせからなる生体材料の群から選択される生体材料の試料を入手することを含む、請求項1の方法。
【請求項4】
アレイの作製が、多数の抗原をガラスまたはシリカを含む固体支持体に付着させることを含む、請求項1の方法。
【請求項5】
免疫複合体の検出が、ある位置における色彩変化によってその位置における免疫複合体の存在が明らかになるようにアレイを処理することを含む、請求項1の方法。
【請求項6】
免疫複合体の検出が電荷結合素子を用いて出力を得ることを含み、色彩変化が蛍光またはルミネセンスの発生を含む、請求項5の方法。
【請求項7】
免疫複合体の検出が、アレイをソリッドステート検色回路でモニターし、免疫複合体検出の前と後の色彩パターンを比較することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項8】
免疫複合体の検出が、アレイを試料と接触させる前および免疫複合体検出後のカラー写真機画像を入手し、カラー写真機画像から得られたピクセル情報を分析することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項9】
免疫複合体の検出が、アレイを試料と接触させる前および後のアレイを走査することをさらに含み、その際、固体支持体が表面プラズモン共鳴チップである、請求項1の方法。
【請求項10】
アレイの作製が、抗体プロフィールを得るために構成された第1サブセットの抗原および試料中の選択した被分析体をアッセイするために構成された第2サブセットの少なくとも1種類の抗原を付着させることを含む、請求項1の方法。
【請求項11】
第2サブセットの少なくとも1種類の抗原の付着が、少なくとも1種類の薬物を付着させることを含む、請求項10の方法。
【請求項12】
少なくとも1種類の薬物の付着が、マリファナ、コカイン、メタンフェタミン、アンフェタミン、ヘロイン、メチルテストステロン、メステロロン、およびその組合わせからなる群から選択される薬物を付着させることを含む、請求項11の方法。
【請求項13】
生体材料の試料の入手が、法医学試料から生体材料を入手することを含む、請求項2の方法。
【請求項14】
法医学試料からの生体材料から得た抗体プロフィールを、犯罪容疑者から入手した生体材料から作製した抗体プロフィールと比較することをさらに含む、請求項13の方法。
【請求項15】
アレイに少なくとも3種類の別個の抗体を適用することによる免疫複合体の検出が、下記:
免疫複合体を、免疫複合体を結合することができる一次抗体と接触させること、その際、一次抗体は個特異的抗体とは異なる種からのものである;
免疫複合体に結合していない一次抗体を除去すること;
免疫複合体に結合している一次抗体を、一次抗体を結合することができる二次抗体と接触させること、その際、二次抗体は個特異的抗体および一次抗体とは異なる種からのものである;
結合していない二次抗体を除去すること;
一次抗体に結合している二次抗体を、二次抗体を結合することができる酵素コンジュゲートした三次抗体と接触させること、その際、酵素コンジュゲートした三次抗体は個特異的抗体、一次抗体、および二次抗体とは異なる種からのものである;
結合していない酵素コンジュゲートした三次抗体を除去すること;
結合している酵素コンジュゲートした三次抗体を検出して、アレイ上の免疫複合体を検出すること;
を含む、請求項1の方法。
【請求項16】
個特異的抗体を含む生体試料中の選択した薬物を検出してその生体試料の供給源を同定するための方法であって、下記:
多数の抗原を予め選択したパターンで固体支持体上に固定化すること;
検出可能な量の選択した薬物をその固体支持体上に固定化してアレイを作製すること;
選択した薬物を結合するように構成した抗体および発色源基質を有色生成物に変換できる酵素を含む、抗体−酵素コンジュゲートを用意すること;
前記のアレイを生体試料と接触させ、多数の抗原のうち少なくともあるものを生体試料中の個特異的抗体と結合させて、免疫複合体を形成すること;
前記のアレイを抗体−酵素コンジュゲートと接触させること、その際、抗体−酵素コンジュゲートは(i)アレイ上に固定化された選択した薬物に結合して、固定化された抗体−酵素コンジュゲートを形成し、かつ(ii)生体試料中に存在する可能性のあるいずれかの選択した薬物と結合して、可溶性の薬物−抗体−酵素コンジュゲートを形成する;
固体支持体を洗浄して、少なくとも可溶性の薬物−抗体−酵素複合体を除去すること;
固体支持体を発色源基質と接触させて、固定化された抗体−酵素コンジュゲートにより発色源基質を有色生成物に変換すること;
存在する有色生成物の量を測定すること、その際、有色生成物の量は生体試料中の選択した薬物の量と相関する;
固体支持体上に固定化された免疫複合体を、固体支持体に少なくとも3種類の別個の抗体を適用して生体試料の供給源を特性付ける抗体プロフィールを作製することにより検出すること;
を含む方法。
【請求項17】
抗体プロフィールを候補供給源からの1以上の候補抗体プロフィールと比較することをさらに含み、その際、抗体プロフィールと1以上の候補抗体プロフィールとの一致によりその生体試料の供給源が同定される、請求項16の方法。
【請求項18】
検出可能な量の選択した薬物を固体支持体上に固定化することが、選択した薬物をマリファナ、コカイン、メタンフェタミン、アンフェタミン、ヘロイン、メチルテストステロン、メステロロン、およびその組合わせからなる群から選択することを含む、請求項16の方法。
【請求項19】
アレイを生体試料と接触させることが、組織、血液、唾液、尿、汗、涙液、精液、血清、血漿、羊水、胸水、髄液、およびその組合わせからなる群から選択される供給源から生体試料を得ることを含む、請求項16の方法。
【請求項20】
生体試料を唾液から得ることを含む、請求項16の方法。
【請求項21】
HeLa細胞からの多数の抗原を固定化することを含む、請求項16の方法。
【請求項22】
ランダムペプチドライブラリーからの多数の抗原を固定化することを含む、請求項16の方法。
【請求項23】
エピトープライブラリーからの多数の抗原を固定化することを含む、請求項16の方法。
【請求項24】
ランダムcDNA発現ライブラリーからの多数の抗原を固定化することを含む、請求項16の方法。
【請求項25】
多数の抗原を固体支持体上に固定化することを含み、その際、固体支持体はガラス、シリコン、シリカ、ポリマー材料、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ビニリデンジフルオリド)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、セラミック材料、および親水性無機材料からなる物質の群から選択される少なくとも1種類の物質を含む、請求項16の方法。
【請求項26】
多数の抗原を固体支持体上に固定化することを含み、その際、固体支持体はアルミナ、ジルコニア、チタニア、および酸化ニッケルのうち少なくとも1種類からなる群から選択される親水性無機材料を含む、請求項16の方法。
【請求項27】
抗体−酵素コンジュゲートを用意することが、アルカリホスファターゼにコンジュゲートした抗体を含む、請求項16の方法。
【請求項28】
抗体−酵素コンジュゲートを用意することが、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートした抗体を用意することを含む、請求項16の方法。
【請求項29】
固体支持体上に固定化された免疫複合体を固体支持体に少なくとも3種類の別個の抗体を適用することにより検出することが、下記:
免疫複合体を、免疫複合体を結合することができる一次抗体と接触させること、その際、一次抗体は個特異的抗体とは異なる種からのものである;
免疫複合体に結合していない一次抗体を除去すること;
免疫複合体に結合している一次抗体を、一次抗体を結合することができる二次抗体と接触させること、その際、二次抗体は個特異的抗体および一次抗体とは異なる種からのものである;
結合していない二次抗体を除去すること;
一次抗体に結合している二次抗体を、二次抗体を結合することができる酵素コンジュゲートした三次抗体と接触させること、その際、酵素コンジュゲートした三次抗体は個特異的抗体、一次抗体、および二次抗体とは異なる種からのものである;
結合していない酵素コンジュゲートした三次抗体を除去すること;
結合している酵素コンジュゲートした三次抗体を検出して、固体支持体上の免疫複合体を検出すること;
を含む、請求項16の方法。
【請求項1】
個特異的抗体を含む生体材料を分析するための方法であって、下記:
固体支持体の表面に予め選択した位置パターンで付着した多数の抗原を含むアレイを作製すること;
個特異的抗体を含む生体材料の試料を入手し、前記のアレイを試料と接触させ、個特異的抗体の少なくとも一部をアレイの多数の抗原に結合させて、免疫複合体を形成させること;
免疫複合体を含むアレイを洗浄すること;
アレイに少なくとも3種類の別個の抗体を適用することにより免疫複合体を検出すること;
アレイ上の免疫複合体を同定して、抗体プロフィールを得ること;
を含む上記方法。
【請求項2】
アレイの作製が、多数の抗原を共有結合により固体支持体に付着させることを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
組織、血液、唾液、尿、汗、涙液、精液、血清、血漿、羊水、胸水、髄液、およびその組合わせからなる生体材料の群から選択される生体材料の試料を入手することを含む、請求項1の方法。
【請求項4】
アレイの作製が、多数の抗原をガラスまたはシリカを含む固体支持体に付着させることを含む、請求項1の方法。
【請求項5】
免疫複合体の検出が、ある位置における色彩変化によってその位置における免疫複合体の存在が明らかになるようにアレイを処理することを含む、請求項1の方法。
【請求項6】
免疫複合体の検出が電荷結合素子を用いて出力を得ることを含み、色彩変化が蛍光またはルミネセンスの発生を含む、請求項5の方法。
【請求項7】
免疫複合体の検出が、アレイをソリッドステート検色回路でモニターし、免疫複合体検出の前と後の色彩パターンを比較することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項8】
免疫複合体の検出が、アレイを試料と接触させる前および免疫複合体検出後のカラー写真機画像を入手し、カラー写真機画像から得られたピクセル情報を分析することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項9】
免疫複合体の検出が、アレイを試料と接触させる前および後のアレイを走査することをさらに含み、その際、固体支持体が表面プラズモン共鳴チップである、請求項1の方法。
【請求項10】
アレイの作製が、抗体プロフィールを得るために構成された第1サブセットの抗原および試料中の選択した被分析体をアッセイするために構成された第2サブセットの少なくとも1種類の抗原を付着させることを含む、請求項1の方法。
【請求項11】
第2サブセットの少なくとも1種類の抗原の付着が、少なくとも1種類の薬物を付着させることを含む、請求項10の方法。
【請求項12】
少なくとも1種類の薬物の付着が、マリファナ、コカイン、メタンフェタミン、アンフェタミン、ヘロイン、メチルテストステロン、メステロロン、およびその組合わせからなる群から選択される薬物を付着させることを含む、請求項11の方法。
【請求項13】
生体材料の試料の入手が、法医学試料から生体材料を入手することを含む、請求項2の方法。
【請求項14】
法医学試料からの生体材料から得た抗体プロフィールを、犯罪容疑者から入手した生体材料から作製した抗体プロフィールと比較することをさらに含む、請求項13の方法。
【請求項15】
アレイに少なくとも3種類の別個の抗体を適用することによる免疫複合体の検出が、下記:
免疫複合体を、免疫複合体を結合することができる一次抗体と接触させること、その際、一次抗体は個特異的抗体とは異なる種からのものである;
免疫複合体に結合していない一次抗体を除去すること;
免疫複合体に結合している一次抗体を、一次抗体を結合することができる二次抗体と接触させること、その際、二次抗体は個特異的抗体および一次抗体とは異なる種からのものである;
結合していない二次抗体を除去すること;
一次抗体に結合している二次抗体を、二次抗体を結合することができる酵素コンジュゲートした三次抗体と接触させること、その際、酵素コンジュゲートした三次抗体は個特異的抗体、一次抗体、および二次抗体とは異なる種からのものである;
結合していない酵素コンジュゲートした三次抗体を除去すること;
結合している酵素コンジュゲートした三次抗体を検出して、アレイ上の免疫複合体を検出すること;
を含む、請求項1の方法。
【請求項16】
個特異的抗体を含む生体試料中の選択した薬物を検出してその生体試料の供給源を同定するための方法であって、下記:
多数の抗原を予め選択したパターンで固体支持体上に固定化すること;
検出可能な量の選択した薬物をその固体支持体上に固定化してアレイを作製すること;
選択した薬物を結合するように構成した抗体および発色源基質を有色生成物に変換できる酵素を含む、抗体−酵素コンジュゲートを用意すること;
前記のアレイを生体試料と接触させ、多数の抗原のうち少なくともあるものを生体試料中の個特異的抗体と結合させて、免疫複合体を形成すること;
前記のアレイを抗体−酵素コンジュゲートと接触させること、その際、抗体−酵素コンジュゲートは(i)アレイ上に固定化された選択した薬物に結合して、固定化された抗体−酵素コンジュゲートを形成し、かつ(ii)生体試料中に存在する可能性のあるいずれかの選択した薬物と結合して、可溶性の薬物−抗体−酵素コンジュゲートを形成する;
固体支持体を洗浄して、少なくとも可溶性の薬物−抗体−酵素複合体を除去すること;
固体支持体を発色源基質と接触させて、固定化された抗体−酵素コンジュゲートにより発色源基質を有色生成物に変換すること;
存在する有色生成物の量を測定すること、その際、有色生成物の量は生体試料中の選択した薬物の量と相関する;
固体支持体上に固定化された免疫複合体を、固体支持体に少なくとも3種類の別個の抗体を適用して生体試料の供給源を特性付ける抗体プロフィールを作製することにより検出すること;
を含む方法。
【請求項17】
抗体プロフィールを候補供給源からの1以上の候補抗体プロフィールと比較することをさらに含み、その際、抗体プロフィールと1以上の候補抗体プロフィールとの一致によりその生体試料の供給源が同定される、請求項16の方法。
【請求項18】
検出可能な量の選択した薬物を固体支持体上に固定化することが、選択した薬物をマリファナ、コカイン、メタンフェタミン、アンフェタミン、ヘロイン、メチルテストステロン、メステロロン、およびその組合わせからなる群から選択することを含む、請求項16の方法。
【請求項19】
アレイを生体試料と接触させることが、組織、血液、唾液、尿、汗、涙液、精液、血清、血漿、羊水、胸水、髄液、およびその組合わせからなる群から選択される供給源から生体試料を得ることを含む、請求項16の方法。
【請求項20】
生体試料を唾液から得ることを含む、請求項16の方法。
【請求項21】
HeLa細胞からの多数の抗原を固定化することを含む、請求項16の方法。
【請求項22】
ランダムペプチドライブラリーからの多数の抗原を固定化することを含む、請求項16の方法。
【請求項23】
エピトープライブラリーからの多数の抗原を固定化することを含む、請求項16の方法。
【請求項24】
ランダムcDNA発現ライブラリーからの多数の抗原を固定化することを含む、請求項16の方法。
【請求項25】
多数の抗原を固体支持体上に固定化することを含み、その際、固体支持体はガラス、シリコン、シリカ、ポリマー材料、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ビニリデンジフルオリド)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、セラミック材料、および親水性無機材料からなる物質の群から選択される少なくとも1種類の物質を含む、請求項16の方法。
【請求項26】
多数の抗原を固体支持体上に固定化することを含み、その際、固体支持体はアルミナ、ジルコニア、チタニア、および酸化ニッケルのうち少なくとも1種類からなる群から選択される親水性無機材料を含む、請求項16の方法。
【請求項27】
抗体−酵素コンジュゲートを用意することが、アルカリホスファターゼにコンジュゲートした抗体を含む、請求項16の方法。
【請求項28】
抗体−酵素コンジュゲートを用意することが、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートした抗体を用意することを含む、請求項16の方法。
【請求項29】
固体支持体上に固定化された免疫複合体を固体支持体に少なくとも3種類の別個の抗体を適用することにより検出することが、下記:
免疫複合体を、免疫複合体を結合することができる一次抗体と接触させること、その際、一次抗体は個特異的抗体とは異なる種からのものである;
免疫複合体に結合していない一次抗体を除去すること;
免疫複合体に結合している一次抗体を、一次抗体を結合することができる二次抗体と接触させること、その際、二次抗体は個特異的抗体および一次抗体とは異なる種からのものである;
結合していない二次抗体を除去すること;
一次抗体に結合している二次抗体を、二次抗体を結合することができる酵素コンジュゲートした三次抗体と接触させること、その際、酵素コンジュゲートした三次抗体は個特異的抗体、一次抗体、および二次抗体とは異なる種からのものである;
結合していない酵素コンジュゲートした三次抗体を除去すること;
結合している酵素コンジュゲートした三次抗体を検出して、固体支持体上の免疫複合体を検出すること;
を含む、請求項16の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−522885(P2010−522885A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501029(P2010−501029)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/054011
【国際公開番号】WO2008/118558
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(501445988)バテル エナジー アライアンス,エルエルシー (14)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/054011
【国際公開番号】WO2008/118558
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(501445988)バテル エナジー アライアンス,エルエルシー (14)
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