説明

レンズアクチュエータの温度補償構造

【課題】
現在、携帯電話等に搭載されている撮像機能について、薄型化の点に於いて有利な伸縮部材を駆動源とするレンズアクチュエータが用いられている。しかしながら、これらのレンズアクチュエータはその構造上、温度変化によって出力が変動するという課題を有している。
【解決手段】
環状配置した梃子部を連結するレンズアクチュエータ構造とした上で、背面板にインバー材を、駆動源の両端に温度補償用ブロックをそれぞれ設けることで平坦な温度特性を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズホルダの光軸を囲むようにして、駆動源である圧電素子と、該圧電素子の変位を拡大する梃子部と、該梃子部によって拡大された変位を前記レンズホルダの光軸方向に沿った変位に変換する変換部とを配置し、前記レンズホルダの光軸に沿った移動を行うレンズアクチュエータに関する。
【0002】
現在、携帯電話等に搭載されている撮影ユニットには、撮像素子とレンズ駆動装置からなる構成のものが広く用いられている。この様なレンズ駆動装置の構成部品について、以前ではカメラに用いられてきた回転駆動型のレンズ鏡筒が用いられていたが、近年では特開2008−199826(以下特許文献1として記載)及び特表2011−501245(以下特許文献2として記載)に代表される、伸縮部材を駆動源とするレンズアクチュエータが用いられてきている。これは、搭載する機器の小型、薄型化に伴う大きさの制限とレンズ駆動時の即応性とが要求されている為である。
【0003】
より具体的には、携帯電話に代表される移動体通信機器の薄型化に対して、従来用いられてきた回転駆動型のレンズ鏡筒はその構造上、鏡筒にネジを切る必要がある。この為、前記薄型化が進むに従って鏡筒を支持するネジ部の長さが減少し、鏡筒の安定性が損なわれてしまう。これに対して、上記特許文献1及び2に記載のレンズアクチュエータは駆動源である伸縮部材の変位を拡大する構造となっている為、薄型化及び即応性という点に於いて容易に対応することが可能という利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−199826
【特許文献2】特表2011−501245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した利点を有している反面、特許文献1及び2に記載のアクチュエータには、使用温度によってレンズ位置に変化を生じてしまうと言う課題を有していた。これは、伸縮部材とアクチュエータを構成する他部材の熱膨張係数の違いが原因となっている。つまり、このアクチュエータの本来の機能は、電圧印加によって生じる伸縮部材の長さ変化を梃子部で拡大してレンズ位置を変化させるものであるが、温度変化を受けた場合には同じ機構が伸縮部材と他部材との線膨張係数の違いを拡大する機構として機能してしまう。例えば圧電素子を駆動源とする場合には、その圧電素子は分極した状態ではマイナスの熱膨張係数を持つので、温度上昇に伴う圧電素子の長さが変化し、その変化量を梃子部で拡大してレンズ位置を変化させてしまうものである。温度変化に伴う伸縮部材の長さ変化は一般には微細なものであるが、電圧印加に伴って発生する圧電素子等伸縮部材の発生する長さ変化自体が微細なものであることから、無視できないレベルの問題となる。この様な課題を避ける方法として、従来では使用可能な温度範囲を狭く設定するか、制御系でレンズの駆動距離を頻繁に補正する事が必要となっていた。
【0006】
上記課題を解決する為に本願記載のレンズアクチュエータは、小型、薄型化が容易で使用温度によるレンズ位置の変化を抑え、従来よりも広い温度範囲で安定した動作が可能なレンズアクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的のために本発明に於ける第1の態様では、レンズアクチュエータの変位拡大部について、駆動源である圧電素子の両端に温度補償用ブロックを取り付けて駆動部を構成し、該駆動部の長さ方向の両端面に取り付けた板状の梃子部端面をインバー材からなる背面板によって連結した構造を用いている。また、前記駆動部の両端に設けた各第1梃子部について、一端に背面板を、他端に第2梃子部をそれぞれ取り付けたことで、前記変位拡大部及び第2梃子部とが環状に配置された構造となっている。
【0008】
また、本発明第2の態様では、前記温度補償用ブロックについて、アルミもしくはアルミ系合金、黄銅、錫、マグネシウム合金、ガラス繊維強化樹脂で構成した構造を用いている。
【0009】
また、本発明に於ける第3の態様では、前記背面板が前記圧電素子の伸縮方向に沿った屈曲部を有する構造を用いている。
【0010】
また、本発明に於ける第4の態様では前記梃子部が固定穴以外の貫通孔を有する構造を用いている。
【発明の効果】
【0011】
この様な構造を用いた事で本発明記載のレンズアクチュエータは、温度補償用ブロックの熱膨張によって圧電素子の熱収縮を吸収しつつ、インバー材を用いた背面板によって前記梃子部1及び2が拡大する変位量を一定に保つことができる。レンズ位置に影響を与える位置変化は、温度補償用ブロックの熱膨張と圧電素子の熱膨張の和の熱膨張と、背面板の熱膨張の差より生じる。この中で、圧電素子は線膨張について負熱膨張材料、つまり温度が上がるに従って全体の長さが収縮するという性質を持っている。従って背面板についても可能であれば負熱膨張材料で構成することが望ましいが、金属では負の線膨張係数を持つ材料は一般的には存在しない。
【0012】
そこで、次善の策として背面板の材質に、可能な限り負熱膨張材料に近いものとして、ゼロ温度係数を持つインバー材を採用することとした。また、温度補償用ブロックの熱膨張と圧電素子の熱膨張の和の熱膨張をインバー材の熱膨張に合わせるために、温度補償用ブロックの温度係数は圧電素子温度係数の負を補う意味で正の大きな線膨張を採用することとした。この様にして、圧電素子の熱収縮を温度補償用ブロックにて吸収すると同時に、各第1梃子部を介して前記背面板が前記温度補償用ブロック及び圧電素子を保持することで、前記使用温度によって生じる特性変化の抑制を可能にしている。
【0013】
これは、本発明のレンズアクチュエータが駆動源である圧電素子の変位を、梃子部によって順次拡大する連結梃子型の構造を用いていることによる効果となっている。より具体的には、梃子部を用いて駆動源の変位を拡大する際に、温度変化に起因する熱膨張の影響を梃子部全体に吸収させることで前記効果を得ている。加えて、各梃子部毎の部品を個別に構成することができる為、部品毎に材料を変更し、レンズアクチュエータの使用条件に合わせた駆動特性とすることもできる。
【0014】
また、本発明の構造は上記梃子部を環状配置とした構造を用いている。この為、搭載するレンズ径を最大限確保した状態で、レンズの駆動を行うことが可能となる。より具体的には、搭載するレンズの外周に沿って駆動源である圧電素子の変位を拡大する構造となっている為に、変位拡大に使用する梃子部を長く設定することができる。従って、レンズ外周の一部でのみ変位を拡大している引用文献1及び、変位拡大機構を設けていない引用文献2に記載の構造と比較して、薄型化した際のレンズ駆動距離を大きく設定することが可能となる。
【0015】
また、本発明に於ける第2の態様を用いることで、前記温度補償用ブロックの機能をより有効に発揮することが可能となる。より具体的には、前記温度補償用ブロックの構成に本発明第2の態様を用いることによって、前記温度補償用ブロックの線膨張係数を大きく設定することが可能となり、前記第1の態様にて記載した効果を強めることができる。
【0016】
上記効果に加えて本発明に於ける第3の態様を用いることで、上記背面板の強度向上と共に、第1梃子部に於ける支点−力点間の距離短縮という効果をも得ることが出来る。より具体的には、駆動時の応力に起因する背面板の撓みを屈曲部によって抑制し、第1梃子部表面に於いて駆動部と背面板とを隣接して配置することが可能となる。この為、第1梃子部表面上での支点となる背面板結合部と、力点となる駆動部結合部との距離を縮小し、第1梃子部での駆動時に於ける拡大率を最大限に設定しつつ、背面板の強度を向上させることができる。また、背面板を薄型の構造としても強度を維持することが可能となる為、レンズアクチュエータ全体に於ける駆動部分の搭載スペースを小さく構成することができる。
【0017】
また、本発明に於ける第4の態様を用いることで、前記第1梃子部側を軽量化し、落下時の衝撃を緩和することが可能となる。より具体的には、第1梃子部に貫通孔を設けることでアクチュエータの重量を軽減すると共に、第2梃子部によって第1梃子部の変位を光軸方向の変位に変換する際、第1、第2梃子部にかかるレンズ以外の重量負荷を低減し、レンズ駆動時の即応性を高めることができる。
【0018】
以上述べたように、本発明記載の構造を用いることで、、小型、薄型化が容易で使用温度による特性の変化を抑え、広い温度範囲での安定した動作が可能なレンズアクチュエータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の最良の実施形態にて用いるレンズアクチュエータのレンズホルダを除いた斜視図
【図2】図1にて示したレンズアクチュエータの分解斜視図
【図3】図1及び図2で示した背面板の拡大図
【図4】図3で示した背面板と圧電素子の配置図
【図5】図1及び図2で示した第2梃子部の拡大図
【図6】図1及び図2で示した第2梃子部の分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図1、図2、図3、図4、図5及び図6を用いて、本発明に於ける最良の実施形態を示す。
【0021】
図1に本実施例に於いて用いるレンズアクチュエータのレンズホルダを除いた斜視図を、図2に図1にレンズホルダを加えた分解斜視図を、図3に図1及び図2で示した背面板の拡大図を、図4に図3で示した背面板と圧電素子との配置図を、図5に図1及び図2で示した第2梃子部の内側から見た斜視図を、そして図6に図1及び図2で示した第2梃子部の内側から見た分解斜視図をそれぞれ示す。
【0022】
図1から解るように、本実施例記載のレンズアクチュエータは、駆動源となる圧電素子1の両端に温度補償用ブロック2を取り付けて駆動部を構成している。尚、本実施例では背面板4の材料としてインバー材を用いている。背面板4の材料としてインバー材を用いることは単独でも有効であるが、更に温度補償用ブロック2を用いることで効果は更に大きくなる。この場合に、温度補償用ブロック2については、線膨張係数が大きい方が小さい寸法でも温度補償の効果は大きい。線膨張係数が大きい温度補償用ブロック2の材料としてアルミ材もしくはアルミ系合金、黄銅、錫、マグネシウム合金、ガラス繊維強化樹脂、が有効である。また、駆動構造としては背面板4と各第1梃子部3との固着部を支点、前記駆動部の両端と第1梃子部3との固着部を力点とし、第1梃子部3と第2梃子部5との固着部を作用点とした構造を用いており、第1梃子部3の拡大した変位によって第2梃子部5を変形させ、光軸方向Iへのレンズ駆動を行う構造となっている。また、背面板4はベース部8によって支持された構造となっている。
【0023】
このような駆動構造を用いたことで、本願記載のレンズアクチュエータは、レンズホルダ7の外周全体で圧電素子1の発生する変位を拡大し、レンズアクチュエータ全体の搭載スペースに対するレンズ径を拡大することが可能となった。また、前記レンズ径の拡大という効果に加えて、外周全体に配置した各梃子部を用いて圧電素子の変位を拡大する構造において、前記温度補償用ブロック2とインバー材からなる背面板4を用いたことで、温度変化に対するレンズ駆動距離の変動特性が平坦になり、安定したレンズ駆動を行うことができた。
【0024】
また、前記圧電素子両端部に設けた温度補償用ブロック2は、温度変化に伴う圧電素子1の変位量増減を補償すると共に、圧電素子1から第1梃子部側面への応力集中及び、該応力集中による第1梃子部3の撓みを防いでいる。この為、本実施例記載の構造では第1梃子部3の変形による機械的な損失を低減した状態で圧電素子1の変位を拡大することが可能となった。更に、温度補償用ブロック2に面取り部Aを設けたことで、アクチュエータに搭載するレンズを避ける構造となる為、レンズ径を保ったまま前記効果を付与することができた。
【0025】
また、図1及び図2から解るように、本実施例では左右の第1梃子部3について、部分的に貫通孔Cを設けて軽量化した構造を用いている。この為、駆動時に強度が必要とされる駆動部付近の強度を維持した状態で第1梃子部3の重量を減らし、全体的な即応性と耐衝撃性を高めることが可能となった。
【0026】
また、図3及び図4から解るように、本実施例記載の構造では前記温度補償用ブロック2を用いた第1梃子部3の端面をインバー材からなる背面板4で固定している。この背面板について、本実施例では圧電素子1の伸縮方向に沿った屈曲部Dを形成した構造となっている。この為、引張方向Jの力だけではなく、曲げ方向Kの応力に対しても背面板の剛性を高めことができ、前記第1梃子部3での効果に加えて、背面板4での機械的損失もまた、低減することが可能となった。
【0027】
更に、図4に示す背面板4の配置について、本実施例記載の構造では、駆動源である圧電素子と背面板端面を同一線上Lに接して配置した構造となっている。この為、第1梃子部上で力点となる圧電素子両端と、支点となる背面板4の両端との距離が最小となり、第1梃子部3に於ける変位拡大率を最大に設定することができた。加えて、屈曲部Dを用いた構造としたことで、背面板全体の厚みを薄くしつつ、駆動時の強度を維持することが可能となった。
【0028】
また、本実施例記載の構造では、図5及び図6に示した第2梃子部5を用いて、前記第1梃子部3によって拡大した駆動部の変位を光軸方向Iの変位に変えている。ここで、第2梃子部5は第1梃子部3とは異なり、一枚板に曲げ加工を加えて各梃子部を構成している。この為、第1梃子部3によって拡大された変位を光軸方向Iに変える際に梃子部の動作を滑らかにすると共に、第2梃子部5に生じる捻れ方向の応力を板材自体の弾性によって光軸方向の駆動力に加えることが可能となった。加えて、曲げ加工によって構成している為、光軸方向の寸法を変更することによって容易に小型、薄型の構造とすることができる。
【0029】
また、図5から解るように、本実施例では第2梃子部5の内側に補強用ブロック6を設けることで、第2梃子部内を部分的に補強した構造を用いている。この為、前記弾性による応力変換と、補強用ブロック6を設けたことによる剛性の向上により、滑らかな変位方向の変換と、機械的損失を低減した変位の拡大とを両立することができた。
【0030】
上記述べた効果に加えて、本実施例記載の構造では前記第2梃子部5を光軸方向Iに並べて配置した構造を用いている。この為、駆動部側だけでなく第2梃子部側についても省スペース化が可能になると共に、駆動部側と第2梃子部側の両方に於いて、搭載するレンズ径の拡大という効果を得ることができた。また、本実施例では第2梃子部自体に切り欠き部Bを設けることで当該効果を強めている。
【0031】
以上述べた様に、本実施例記載の構造を用いることで、搭載するレンズ径の拡大によって小型、薄型化が容易で、使用温度による特性の変化を抑え、広い温度範囲での安定した動作が可能なレンズアクチュエータを提供することができた。
【符号の説明】
【0032】
1 圧電素子
2 温度補償用ブロック
3 第1梃子部
4 背面板
5 第2梃子部
6 補強用ブロック
7 レンズホルダ
8 ベース部
A 面取り部
B 切り欠き部
C 貫通孔
D 屈曲部
I 光軸方向
J 引張方向
K 曲げ方向
L 圧電素子−背面板接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮方向の両端に温度補償用ブロックを取り付けた圧電素子を有する駆動部と、
前記駆動部の両端をそれぞれ力点として表面に固定した板状の第1梃子部と、
前記各第1梃子部の片側端部同士を繋ぎ、支点となる背面板とによって変位拡大部を構成し、
前記各第1梃子部の作用点となる各他端部を、該他端部間に生じる変位を前記駆動部の伸縮方向と直交する方向の変位に変える第2梃子部に連結した連結梃子型のレンズアクチュエータであって、
前記背面板をインバー材によって構成したレンズアクチュエータ。
【請求項2】
温度補償用ブロックは、アルミもしくはアルミ系合金、黄銅、錫、マグネシウム合金、ガラス繊維強化樹脂で構成された請求項1記載のレンズアクチュエータ。
【請求項3】
前記背面板が前記圧電素子の伸縮方向に沿った屈曲部を有している請求項1記載のレンズアクチュエータ。
【請求項4】
前記第1梃子部が固定穴以外の貫通孔を有している請求項1記載のレンズアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−247608(P2012−247608A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118973(P2011−118973)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000240477)並木精密宝石株式会社 (210)
【出願人】(502254796)有限会社メカノトランスフォーマ (22)
【Fターム(参考)】