説明

レンズユニット

【課題】線膨張係数の違いにより生じる寸法ずれの発生を防止でき、レンズとレンズホルダとを精度よく溶着することが可能な溶着技術を提供する。
【解決手段】レンズ2及びレンズホルダ3を有するレンズユニット1において、レンズ2及びレンズホルダ3は共にシクロオレフィンポリマ系の樹脂材料によって構成されると共に、レンズ2とレンズホルダ3との接触部の少なくとも一方にはレーザを吸収させるレーザ吸収手段6が設けられ、レンズ2とレンズホルダ3とはレーザ吸収手段6に吸収されるレーザによって溶着される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズとレンズホルダとを有するレンズユニットの溶着技術に関し、詳しくは線膨張係数の違いにより生じる寸法ずれが大きな障害となる精密部品におけるレンズとレンズホルダとの溶着技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズを利用する一般的なレンズホルダはポリカーボネートで構成されており、このレンズホルダとプラスチックレンズとを固定する方法として、接着剤による固着や紫外線反応性接着剤を塗布後に紫外線を照射して固着する接着によるもの、熱かしめにより固着するもの、高出力のレーザによりレンズとレンズホルダの一部を溶融させ溶融部分を相溶させることによって固定するレーザ溶着によるもの等が挙げられる。そして、レーザ溶着による技術として、例えば「特許文献1」あるいは「特許文献2」に開示されたものが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、接着による固定方法では、レンズやレンズホルダの材質によっては接着剤による固着が十分に機能せず、接着力が不十分であることにより剥離してしまう場合がある。熱かしめによる固定方法では、熱で固定するためにレンズとレンズホルダとの線膨張係数の違いにより寸法ずれが生じる虞がある。レーザ溶着による固定方法では、極性樹脂であるポリカーボネートと非極性樹脂であるシクロオレフィンポリマ系材料(以下、COPと称する)のように相溶性のない材質同士では十分な接着力を得ることができない場合がある。また、これ等の問題点を解決するためにレーザ溶着と接着剤とを組み合わせること等が必要となり、工程の増加等によりコストアップが問題となる他、レンズ及びレンズホルダの材料選択が限定的とならざるを得ないという問題点がある。
【0004】
本発明は上述の問題点を解決し、線膨張係数の違いにより生じる寸法ずれの発生を防止でき、レンズとレンズホルダとを精度よく溶着することが可能な溶着技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、レンズ及び前記レンズを保持するレンズホルダを有するレンズユニットにおいて、前記レンズ及び前記レンズホルダは共にシクロオレフィンポリマ系の樹脂材料によって構成されると共に、前記レンズと前記レンズホルダとの接触部の少なくとも一方にはレーザを吸収させるレーザ吸収手段が設けられ、前記レンズと前記レンズホルダとは前記レーザ吸収手段に吸収されるレーザによって溶着されることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のレンズユニットにおいて、さらに前記レーザ吸収手段は前記レーザを透過させない非透過性を有することを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のレンズユニットにおいて、さらに前記レーザ吸収手段は前記レンズまたは前記レンズホルダの少なくとも一方を着色する着色剤であることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項2記載のレンズユニットにおいて、さらに前記レーザ吸収手段は前記レンズまたは前記レンズホルダの少なくとも一方に設けられた遮光性を有する微細粒子であることを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項2記載のレンズユニットにおいて、さらに前記レーザ吸収手段は前記レンズまたは前記レンズホルダの少なくとも一方に設けられた膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、線膨張係数の違いに起因する寸法ずれが発生せずに温度環境変化に強い精密部品を構成できると共に、レンズとレンズホルダとを所定の強度で精度よく固着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態を採用したレンズユニットの概略斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に用いられるレンズ構造体とレンズホルダとの固定を説明する概略図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に用いられるレンズ構造体とレンズホルダとの固定を説明する概略図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に用いられる微細粒子を説明する概略図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に用いられるレンズ構造体とレンズホルダとの固定を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態を採用したレンズユニットを示している。同図においてレンズユニット1は、レンズであるレンズ部2aを有するレンズ構造体2と、レンズ構造体2を保持するレンズホルダ3と、レンズ構造体2とレンズホルダ3との間に挟まれる遮光シート4と、遮光シート4とによってレンズ構造体2を挟み込む遮光シート5等を有している。
【0013】
シクロオレフィンポリマ系樹脂(例えば日本ゼオン社製ZEONEX)からなるレンズ構造体2は、図2に示すように、遮光シート4を挟んだ状態でレンズ構造体2と同じ材質であるシクロオレフィンポリマ系樹脂からなるレンズホルダ3に装着される。ここで、レンズホルダ3のレンズ構造体2の両端部と対応する位置にはそれぞれ突出した載置部3aが形成されており、各載置部3a上にレンズ構造体2の両端部がそれぞれ載置された状態でレンズ構造体2とレンズホルダ3とがレーザによって溶着されて両者が固定される。これにより、レンズ部2aを有するレンズ構造体2とこれを保持するレンズホルダ3とが同じ材質であるため、レンズ構造体2とレンズホルダ3との線膨張係数の違いに起因する寸法ずれが発生せず、温度環境変化に強い精密部品を構成することが可能となる。
【0014】
しかし、一般的にシクロオレフィンポリマ系樹脂は無色透明であるためにレーザを吸収することができず、無色透明なシクロオレフィンポリマ系樹脂同士をレーザにより溶着することはできなかった。そこで本発明では、図2に示すように各載置部3aの近傍に位置するレンズホルダ3に、シクロオレフィンポリマ系樹脂に着色を行う着色剤であるカーボンを含有させ、レーザを吸収させるレーザ吸収手段6を形成している。レンズホルダ3に含有されるカーボンは1〜3重量%程度であり、レーザの透過率が十分な溶着を行うに足りる程度となるように設定されている。
【0015】
上述の構成により、線膨張係数の違いに起因する寸法ずれが発生せずに温度環境変化に強い精密部品を構成できると共に、レンズ構造体2とレンズホルダ3とを所定の強度で精度よく固着することができる。なお、上記実施形態ではレンズホルダ3側にレーザ吸収手段6を設ける構成としたが、レンズ構造体2側にレーザ吸収手段6を設ける構成、レンズ構造体2とレンズホルダ3との双方にレーザ吸収手段6を設ける構成としてもよい。
【0016】
図3は、本発明の第2の実施形態を示している。この第2の実施形態は第1の実施形態と比較すると、載置部3aの下方にレーザ吸収手段として機能する複数の遮光性を有する微細粒子7を有する点においてのみ相違しており、他の構成は同一である。微細粒子7としては遮光性を有するものであればどんな材質のものでも使用可能であり、その配設位置は図4に示すように載置部3aの表面に近いほど吸収した際のレーザの熱が載置部3aの表面に現れやすく溶着が容易に行われるが、載置部3aの表面に限られることはない。本実施形態では微細粒子7をレンズホルダ3側に設ける構成を示したが、レンズ構造体2側に微細粒子7を設ける構成、レンズ構造体2とレンズホルダ3との双方に微細粒子7を設ける構成としてもよい。この構成により、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0017】
図5は、本発明の第3の実施形態を示している。この第3の実施形態は第1の実施形態と比較すると、載置部3aの上方にレーザ吸収手段として機能する膜8を有する点においてのみ相違しており、他の構成は同一である。なお、図5では各遮光シート4,5の図示を省略している。膜8としてはレーザを透過させない非透過性を有するものであればどのようなものでも使用可能であり、本実施形態ではクリアウェル(日本ジェネティクス(株)製)を使用してこれを載置部3a上に接着等の手段によって固着している。この構成により、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0018】
1 レンズユニット
2 レンズ構造体
2a レンズ(レンズ部)
3 レンズホルダ
3a 載置部
6 レーザ吸収手段
7 遮光性を有する微細粒子
8 膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2006−11234号公報
【特許文献2】特開2005−316044号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ及び前記レンズを保持するレンズホルダを有するレンズユニットにおいて、
前記レンズ及び前記レンズホルダは共にシクロオレフィンポリマ系の樹脂材料によって構成されると共に、前記レンズと前記レンズホルダとの接触部の少なくとも一方にはレーザを吸収させるレーザ吸収手段が設けられ、前記レンズと前記レンズホルダとは前記レーザ吸収手段に吸収されるレーザによって溶着されることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
請求項1記載のレンズユニットにおいて、
前記レーザ吸収手段は前記レーザを透過させない非透過性を有することを特徴とするレンズユニット。
【請求項3】
請求項2記載のレンズユニットにおいて、
前記レーザ吸収手段は前記レンズまたは前記レンズホルダの少なくとも一方を着色する着色剤であることを特徴とするレンズユニット。
【請求項4】
請求項2記載のレンズユニットにおいて、
前記レーザ吸収手段は前記レンズまたは前記レンズホルダの少なくとも一方に設けられた遮光性を有する微細粒子であることを特徴とするレンズユニット。
【請求項5】
請求項2記載のレンズユニットにおいて、
前記レーザ吸収手段は前記レンズまたは前記レンズホルダの少なくとも一方に設けられた膜であることを特徴とするレンズユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247609(P2012−247609A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118977(P2011−118977)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000115728)リコー光学株式会社 (134)
【Fターム(参考)】