説明

レンズ挟持部材及びそれを用いたレンズの製造方法

【課題】レンズの着脱が容易で、かつ、ディップコート法を用いてレンズの表面に塗布液を均一に塗布することを可能にするレンズ挟持部材を提供する。
【解決手段】レンズ挟持部材は、複数のレンズを、互いに重なり合って挟持する第1部材及び第2部材80と、重なり合った第1部材及び第2部材80を結合する結合部材とを備える。第1部材は、内表面と外表面との間に形成された複数の第1貫通孔と、内表面と外表面との間に形成された複数の第3貫通孔とを含む。第2部材80は、内表面81と外表面82との間に形成され、第1部材及び第2部材80が互いに重なり合うときに複数の第1貫通孔の各々と同軸に配置される複数の第2貫通孔84と、内表面81と外表面82との間に形成された複数の第4貫通孔88と、内表面81の第2貫通孔84の開口の周りに互いに離間して配置された複数の凸部を有し、内表面81の第2貫通孔84の開口と複数の凸部との間にレンズのフランジを収納するフランジ収納部材86とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ挟持部材及びそれを用いたレンズの製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、レンズの表面に薄膜を形成するために利用されるレンズ挟持部材、及び、それを用いたレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラなどで撮影された画像データには、ゴースト又はフレアと呼ばれる像が発生することがある。ゴースト及びフレアは、レンズ内又はレンズ間で光が反射することによって発生する。
【0003】
ゴースト及びフレアの発生を抑えるために、カメラのレンズの表面には、反射防止膜が形成される。一般的に、反射防止膜は、真空蒸着法によって形成される。しかし、真空蒸着法に用いられる装置は、大型であり、高価である。さらに、真空蒸着法による成膜処理には時間がかかる。そのため、真空蒸着法の利用は、レンズの製造コストを上昇させる要因となる。
【0004】
反射防止膜のような薄膜をレンズの表面に形成する他の方法として、ディップコート法がある。特開平7−234301号公報(特許文献1)には、眼鏡レンズにハードコート液を塗布するために用いられるディップコート用レンズ保持装置が開示されている。
【0005】
特許文献1のレンズ保持装置は、一対の支持アームと線状接触部とを備えている。一対の支持アームは、ばね性を有し、眼鏡レンズの左右の端面を保持する。線状接触部は、眼鏡レンズの下側の端面に線状に接触する。特許文献1のレンズ保持装置にセットされた眼鏡レンズは、ハードコート液などの塗布液に浸漬され、所定時間が経過した後に塗布液から引き上げられる。
【0006】
特表2001−503338号公報(特許文献2)には、ディップコート法を用いた眼鏡レンズの成形方法が開示されている。具体的には、2枚で一組の成形レンズがハンガー・タブによって保持される。ロボット装置のアームは、ハンガー・タブの上方に設けられた蹄鉄形ヘッドを保持して、成形レンズを硬化被覆剤用液に浸漬させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−234301号公報
【特許文献2】特表2001−503338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、携帯電話機や携帯情報端末などの携帯機器の多くは、カメラを備えている。携帯機器のカメラに用いられるレンズは、眼鏡レンズに比べて非常に小さい。特許文献1のレンズ保持装置は、このような小型のレンズを着脱しにくく、作業に手間がかかる。特許文献2のレンズ成形方法では、小型のレンズを保持することが困難である。
【0009】
本発明は、従来技術における前記課題を解決するためになされたものであり、レンズの着脱が容易で、かつ、ディップコート法を用いてレンズの表面に塗布液を均一に塗布することを可能にするレンズ挟持部材、及び、当該レンズ挟持部材を用いたレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明に係るレンズ挟持部材は、以下のように構成されている。
【0011】
すなわち、本発明のレンズ挟持部材は、各々がレンズ部と前記レンズ部の周りに設けられたフランジとを含む複数のレンズを、互いに重なり合って挟持する板状の第1及び第2部材と、重なり合った前記第1及び第2部材を結合する結合部材とを備えている。
【0012】
前記第1部材は、前記第1及び第2部材が互いに重なり合うときに前記第2部材と対向する第1内表面と、前記第1内表面と反対側の面である第1外表面と、前記第1内表面と前記第1外表面との間に形成された複数の第1貫通孔と、前記第1内表面と前記第1外表面との間に形成された複数の第3貫通孔とを含んでいる。
【0013】
前記第2部材は、前記第1及び第2部材が互いに重なり合うときに前記第1部材と対向する第2内表面と、前記第2内表面と反対側の面である第2外表面と、前記第2内表面の縁と前記第2外表面の縁との間に形成された第1端面と、前記第2内表面の縁と前記第2外表面の縁との間に形成され、前記第1端面と反対側に配置される第2端面と、前記第2内表面と前記第2外表面との間に形成され、前記第1及び第2部材が互いに重なり合うときに前記複数の第1貫通孔の各々と同軸に配置される複数の第2貫通孔と、前記第2内表面と前記第2外表面との間に形成された複数の第4貫通孔と、前記第2内表面の前記第2貫通孔の開口の周りに互いに離間して配置された複数の凸部を有し、前記第2内表面の前記第2貫通孔の前記開口と前記複数の凸部との間に前記レンズの前記フランジを収納するフランジ収納部材とを含んでいる。
【0014】
前記第1及び第2貫通孔の少なくともいずれか一方は、前記レンズの前記レンズ部を収納可能である。
【0015】
本発明のレンズ挟持部材は、ディップコート法を用いてレンズのレンズ部の表面に薄膜を形成するために利用される。第3及び第4貫通孔は、第1及び第2貫通孔と異なり、レンズを保持固定するものではない。従って、第1及び第2部材が互いに重なり合うとき、各第4貫通孔は必ずしも各第3貫通孔と同軸に配置される必要はない。
【0016】
本発明のレンズ挟持部材の構成によれば、複数のレンズを容易に挟持することができ、かつ、第2部材から第1部材を取り外すことにより、複数のレンズをレンズ挟持部材から容易に取り出すことができる。従って、本発明のレンズ挟持部材の構成によれば、レンズの着脱が容易となる。
【0017】
また、フランジ収納部材に流れ込んだ塗布液は、レンズ挟持部材をディップ槽から立てて引き上げる際に、フランジ収納部材の下部に位置する複数の凸部の隙間から容易に排出される。また、レンズを保持固定する第1及び第2貫通孔とは別の第3及び第4貫通孔を備えていることにより、これら第3及び第4貫通孔が塗布液の排出口や空気の取り入れ口として機能し、塗布液のレンズ挟持部材からの排出が促進される。従って、塗布液は、第1部材の第1内表面と第2部材の第2内表面との間に形成される空間に溜まりにくく、外部に排出されやすくなる。その結果、塗布液の塗布ムラが生じにくく、レンズの表面に形成される薄膜の膜厚のばらつきが効果的に抑制される。
【0018】
前記本発明のレンズ挟持部材の構成においては、前記フランジ収納部材は、前記第1端面側に配置された複数の前記凸部の間に形成される第1の隙間を有するのが好ましい。
【0019】
この好ましい例によれば、第1端面を下方に向けてレンズ挟持部材をディップ槽から立てて引き上げる際に、フランジ収納部材内に流入した塗布液が外部に排出されやすくなる。
【0020】
また、この場合には、前記フランジ収納部材は、前記第2端面側に配置された複数の前記凸部の間に形成される第2の隙間を有するのが好ましい。
【0021】
この好ましい例によれば、第2の隙間からフランジ収納部材内に空気が流入することにより、フランジ収納部材内に流入した塗布液が外部に速やかに排出されやすくなる。
【0022】
また、前記本発明のレンズ挟持部材の構成においては、前記第2内表面は、前記第1端面近傍で前記第2外表面側に傾いているのが好ましい。
【0023】
この好ましい例によれば、塗布液が、第1端面近傍の、第1部材の第1内表面と第2部材の第2内表面との間の空間に溜まりにくく、レンズ挟持部材内に流入した塗布液が外部に排出されやすくなる。
【0024】
また、前記本発明のレンズ挟持部材の構成においては、前記第2部材はさらに、前記第2外表面と反対側に設けられ、前記第2内表面との間に段差を形成し、前記第1内表面と接触する接触面と、前記接触面と前記第2内表面との間に形成された内壁面とを含み、前記接触面と、前記内壁面と、前記第1端面とによって形成される角部が、丸みを帯びているのが好ましい。
【0025】
この好ましい例によれば、角部が丸みを帯びているため、角部に塗布液の滴が接触したときに、塗布液の表面張力が破壊される。表面張力が破壊された塗布液は、レンズ挟持部材から落下しやすくなる。また、表面張力が破壊された塗布液は、他の塗布液の滴と結合しやすいため、自身の重力によってさらにレンズ挟持部材から落下しやすくなる。すなわち、この好ましい例によれば、フランジ収納部材内に流入した塗布液が外部に速やかに排出されやすくなる。
【0026】
また、前記本発明のレンズ挟持部材の構成においては、前記第1貫通孔の内径は、前記第1内表面から前記第1外表面に向かって徐々に大きくなり、前記第2貫通孔の内径は、前記第2内表面から前記第2外表面に向かって徐々に大きくなるのが好ましい。
【0027】
この好ましい例によれば、レンズを挟持するレンズ挟持部材がディップ槽から引き上げられるときに、レンズ近傍に滞留する塗布液が、第1及び第2貫通孔から排出されやすくなる。
【0028】
また、前記本発明のレンズ挟持部材の構成においては、前記第3貫通孔の内径は、前記第1内表面から前記第1外表面に向かって徐々に大きくなり、前記第4貫通孔の内径は、前記第2内表面から前記第2外表面に向かって徐々に大きくなるのが好ましい。
【0029】
この好ましい例によれば、レンズを挟持するレンズ挟持部材がディップ槽から引き上げられるときに、レンズ挟持部材内に流入した塗布液が、第3及び第4貫通孔から外部に排出されやすくなる。
【0030】
また、前記本発明のレンズ挟持部材の構成においては、前記凸部は、前記第1及び第2部材が互いに重なり合うときに前記第1内表面に接触するのが好ましい。
【0031】
この好ましい例によれば、レンズ挟持部材立てた場合であっても、レンズが第2貫通孔及びフランジ収納部材から外れることはない。
【0032】
また、本発明に係るレンズの製造方法は、前記本発明のレンズ挟持部材を準備する工程と、前記レンズ挟持部材で複数のレンズを挟持する工程と、前記複数のレンズを挟持した前記レンズ挟持部材を、塗布液を溜めたディップ槽に浸漬する工程と、前記ディップ槽から前記レンズ挟持部材を前記第1端面が下方を向くように立てて引き上げる引上工程と、引き上げられた前記レンズ挟持部材を乾燥する工程とを含む。
【0033】
本発明のレンズの製造方法によれば、フランジ収納部材に流れ込んだ塗布液が、フランジ収納部材の下部に位置する複数の凸部の隙間から容易に排出される。また、第3及び第4貫通孔が塗布液の排出口や空気の取り入れ口として機能し、塗布液のレンズ挟持部材からの排出が促進される。従って、塗布液は、第1部材の第1内表面と第2部材の第2内表面との間に形成される空間に溜まりにくく、外部に排出されやすくなる。その結果、塗布液の塗布ムラが生じにくく、表面に形成される薄膜の膜厚のばらつきが効果的に抑制されたレンズを得ることが可能となる。
【0034】
また、前記本発明のレンズの製造方法においては、前記引上工程で、前記第1端面を水平方向に対して傾けるのが好ましい。
【0035】
この好ましい例によれば、レンズ挟持部材の下端で形成される塗布液の滴を大きくすることができるため、レンズ挟持部材内に流入した塗布液が外部に排出されやすくなる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、レンズの着脱が容易で、かつ、ディップコート法を用いてレンズの表面に塗布液を均一に塗布することを可能にするレンズ挟持部材を実現することができる。そして、このレンズ挟持部材を用いれば、表面に形成される薄膜の膜厚のばらつきが効果的に抑制されたレンズを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を示す斜視図である。
【図2】図2は、ディップコートが施されるレンズを示す拡大側面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第1部材をその内表面側から見た平面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第1部材をその外表面側から見た平面図である。
【図5】図5は、図3のV−V線拡大断面図である。
【図6】図6は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材をその内表面側から見た斜視図である。
【図7】図7は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材をその内表面側から見た平面図である。
【図8】図8は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材をその外表面側から見た平面図である。
【図9】図9は、図7のIX−IX線拡大断面図である。
【図10】図10は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材のフランジ収納部材を示す拡大斜視図である。
【図11】図11は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を用いたレンズの製造方法を示すフロー図である。
【図12】図12は、本発明の一実施の形態における、レンズがレンズ挟持部材によって挟持されている状態を示す拡大断面図である。
【図13】図13は、本発明の一実施の形態のレンズの製造方法における、引き上げ工程でのレンズ挟持部材の姿勢の変化を示す図である。
【図14】図14は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材の他の例をその内表面側から見た斜視図である。
【図15】図15は、図14中の領域AR1の拡大斜視図である。
【図16】図16は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第1部材の他の例をその内表面側から見た平面図である。
【図17】図17は、図16のXVII−XVII線拡大断面図である。
【図18】図18は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材のさらなる他の例をその内表面側から見た斜視図である。
【図19】図19は、図18のXIX−XIX線拡大断面図である。
【図20】図20は、本発明の比較例3におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材をその内表面側から見た平面図である。
【図21】図21は、図20のXXI−XXI線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、好適な実施の形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記の実施の形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変形して実施することが可能である。
【0039】
尚、本発明の特徴である、第3及び第4貫通孔を含む形態については、図16〜図19を用いて後述し、図1〜図15を用いた説明では、第3及び第4貫通孔については言及しない。
【0040】
[レンズ挟持部材の全体構成]
図1は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を示す斜視図である。
【0041】
図1に示すように、本実施の形態のレンズ挟持部材1は、第1部材10と、第2部材20とを備えている。第1及び第2部材10、20は、板状の部材である。尚、本実施の形態においては、特に言及しない限り、図中の矢印Aの方向をディップコート工程における「下方向」とする。
【0042】
レンズ挟持部材1は、第1部材10と第2部材20とが互いに重なり合うことにより、複数のレンズ30を挟持する。レンズ30は、例えば、携帯機器に搭載されるカメラに用いられる小型のレンズである。レンズ挟持部材1は、ディップコート法を用いてレンズ30の表面に機能性薄膜を形成するときに用いられる。機能性薄膜は、例えば、反射防止膜である。詳細については後述するが、レンズ30を挟持したレンズ挟持部材1がディップ槽に浸漬されるとき、図1の矢印Aの方向が下方向となる。そして、矢印Aの方向と反対側の方向(上方向)が、ディップ槽からレンズ挟持部材1を引き上げる方向となる。
【0043】
第1及び第2部材10、20は、互いに重なり合った後、結合部材60によって結合される。結合部材60は円筒状の弾性体である。第1及び第2部材10、20には、その側面に複数の突起部13、23がそれぞれ対になって形成されている。突起部13、23は棒状である。そして、対になった突起部13、23に結合部材60が挿通されることにより、第1部材10が第2部材20に結合される。
【0044】
図2は、ディップコートが施されるレンズを示す拡大側面図である。
【0045】
図2に示すように、レンズ30は、平凸レンズ状のレンズ部31と、レンズ部31の周りに形成されたフランジ32とを備えている。レンズ部31は、入射面31aと出射面31bとを有している。入射面31aは、図2上側の凸面であり、半球状である。出射面31bは、図2下側の平面である。レンズ部31の外径(フランジ32の内径)はD1である。フランジ32の外径はD2であり、フランジ32の幅はW1である。また、フランジ32の厚さはT1である。
【0046】
[第1部材の形状]
図3は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第1部材をその内表面側から見た平面図、図4は、当該第1部材をその外表面側から見た平面図である。
【0047】
図3、図4に示すように、第1部材10は、端面10aと、端面10bと、内表面11と、外表面12と、複数の突起部13と、複数の第1貫通孔14とを備えている。
【0048】
内表面11は、第1部材10と第2部材20とが互いに重なり合うときに、第2部材20に対向する面である。外表面12は、内表面11と反対側の面である。端面10a、10bは、内表面11の縁と外表面12の縁との間の面である。端面10bは、レンズ挟持部材1がディップ槽から引き上げられるときに、上方に位置する端面である。端面10aは、端面10bと反対側の端面である。図3、図4に示す第1部材10において、端面10aと端面10bとは、互いに平行であり、かつ、内表面11及び外表面12に対して垂直である。但し、端面10aと端面10bとは、厳密に互いに平行である必要はなく、内表面11及び外表面12に対して厳密に垂直である必要はない。
【0049】
各突起部13は、棒状であり、第1部材10の左右の側面から外側に延出している。
【0050】
複数の第1貫通孔14は、内表面11と外表面12との間に形成され、行列状に配置されている。
【0051】
図5は、図3のV−V線拡大断面図である。
【0052】
図5に示すように、第1部材10の第1貫通孔14は、テーパ状に形成されている。第1貫通孔14の内径は、外表面12から内表面11に向かって徐々に小さくなっている。内表面11に形成された第1貫通孔14の開口の内径を、D3とする。内径D3は、レンズ30のレンズ部31の外径D1よりも大きく、かつ、レンズ30のフランジ32の外径D2よりも小さく設定されている。要するに、第1貫通孔14は、レンズ部31を収納可能な形状を有している。
【0053】
[第2部材の形状]
図6は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材をその内表面側から見た斜視図である。図7は、当該第2部材をその内表面側から見た平面図、図8は、当該第2部材をその外表面側から見た平面図である。
【0054】
図6〜図8に示すように、第2部材20は、端面20aと、端面20bと、内表面21と、外表面22と、複数の突起部23と、複数の第2貫通孔24と、複数の接触面25と、フランジ収納部材26と、複数の内壁面27とを備えている。
【0055】
内表面21は、第1部材10と第2部材20とが互いに重なり合うときに、第1部材10に対向する面である。外表面22は、内表面21と反対側の面である。端面20a、20bは、内表面21の縁と外表面22の縁との間の面である。端面20bは、レンズ挟持部材1がディップ槽から引き上げられるときに、上方に位置する端面である。端面20aは、端面20bと反対側の端面である。図6〜図8に示す第2部材20において、端面20aと端面20bとは、互いに平行であり、かつ、内表面21及び外表面22に対して垂直である。但し、端面20aと端面20bとは、厳密に互いに平行である必要はなく、内表面21及び外表面22に対して厳密に垂直である必要はない。
【0056】
接触面25は、外表面22と反対側に設けられており、図6に示すように、内表面21との間に段差を形成している。図6〜図8に示す第2部材20において、接触面25は2つ設けられており、各接触面25は、端面20aから端面20bまで延びている。但し、1つの接触面25のみが設けられていてもよく、3つ以上の接触面25が設けられていてもよい。また、各接触面25は、必ずしも端面20aから端面20bまで延びている必要はない。
【0057】
内壁面27は、接触面25と内表面21との間に形成されている。ここで、接触面25と内表面21との間の距離は、レンズ30のフランジ32の厚さT1よりも大きく設定されている。
【0058】
各突起部23は、棒状であり、第2部材20の左右の側面から外側に延出している。各突起部23は各突起部13と一対一で対応しており、第1部材10と第2部材20とが互いに重なり合うときに、各突起部23は対応する各突起部13と重なり合う。そして、重なり合った突起部13、23に結合部材60が挿通されることにより、第1及び第2部材10、20が互いに結合される。
【0059】
複数の第2貫通孔24は、内表面21と外表面22との間に形成され、行列状に配置されている。複数の第2貫通孔24は、第1部材10の各第1貫通孔14と一対一で対応している。そして、第1部材10と第2部材20とが互いに重なり合うときに、各第2貫通孔24は対応する各第1貫通孔14と同軸に配置される。内表面21に形成された第2貫通孔24の開口の内径は、レンズ30のレンズ部31の外径D1よりも大きく、かつ、レンズ30のフランジ32の外径D2よりも小さく設定されている。要するに、第2貫通孔24は、レンズ部31を収納可能な形状を有している。第2貫通孔24の開口の内径は、第1貫通孔14の開口の内径D3と同じ値であってもよく、第1貫通孔14の開口の内径D3とは異なる値であってもよい。
【0060】
図9は、図7のIX−IX線拡大断面図である。
【0061】
図9に示すように、第2部材20の第2貫通孔24は、テーパ状に形成されている。第2貫通孔24の内径は、外表面22から内表面21に向かって徐々に小さくなっている。
【0062】
図10は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材のフランジ収納部材を示す拡大斜視図である。
【0063】
図9、図10に示すように、第2部材20のフランジ収納部材26は、内表面21上に設けられ、複数の凸部26b1、26b2、26b3及び26b4を有している。複数の凸部26b1、26b2、26b3及び26b4は、内表面21の第2貫通孔24の開口の周りに配置されている。フランジ収納部材26は、複数の凸部26b1、26b2、26b3及び26b4と第2貫通孔24の開口との間(後述する円環面26a)にレンズ30のフランジ32を収納する。
【0064】
フランジ収納部材26はさらに、円環面26aを有している。円環面26aは、第2貫通孔24と同軸に配置されている。円環面26aは、リング状の面であり、内表面21の一部である。円環面26aは、内周26a1と外周26a2とを有している。円環面26aの内径D3は、レンズ30のレンズ部31の外径D1よりも大きく、かつ、レンズ30のフランジ32の外径D2よりも小さく設定されている。円環面26aの外径D4は、レンズ30のフランジ32の外径D2よりも大きく設定されている。
【0065】
凸部26b1〜26b4は、内表面21から図9、図10の矢印Bとは反対の方向に突出した突起であり、第2貫通孔24の開口の周りに、互いに離間して配置されている。より具体的には、凸部26b1〜26b4は、円環面26aの外周26a2に沿って配置され、隣り合う凸部同士の間には、隙間28a、28b、28c及び28dが形成されている。
【0066】
凸部26b1と凸部26b2は、第2部材20の端面20a側に配置されている。このため、凸部26b1と凸部26b2との間の隙間28aは、第2部材20の端面20aと対向して形成された状態となっている。すなわち、レンズ挟持部材1がディップ槽から立てて引き上げられるとき、端面20aは下方に位置するため、隙間28aはフランジ収納部材26の下部に位置することとなる。
【0067】
一方、凸部26b3と凸部26b4は、第2部材20の端面20b側に配置されている。このため、凸部26b3と凸部26b4との間の隙間28cは、第2部材20の端面20bと対向して形成された状態となっている。すなわち、レンズ挟持部材1がディップ槽から立てて引き上げられるとき、端面20bは上方に位置するため、隙間28cはフランジ収納部材26の上部に位置することとなる。
【0068】
内表面21を基準とした複数の凸部26b1〜26b4の高さは、H1であり、内表面21を基準とした接触面25の高さと同じである。要するに、複数の凸部26b1〜26b4は、第1部材10の内表面11と接触する。また、円環面26aの内周26a1から外周26a2までの距離は、R1である。
【0069】
[レンズの製造方法]
以下、レンズ挟持部材1を用いて実行される、レンズの製造方法について説明する。本実施の形態におけるレンズの製造方法においては、レンズの表面に反射防止膜が形成される。図11は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を用いたレンズの製造方法を示すフロー図である。
【0070】
図11に示すように、まず、レンズ挟持部材1を準備する(ステップS1)。次に、反射防止膜の成分が溶解された塗布液を調製する(ステップS2)。塗布液は、例えば、シリカ粒子とオルガノポリシロキサン(シリコーン)とが溶解された溶媒である。シリカ粒子とオルガノポリシロキサンとが反応すると、反射防止膜の成分である無機・有機ハイブリッド材料が得られる。シリカ粒子は、粒子表面に加水分解性のシリル基が導入された修飾シリカ粒子として溶媒中に存在する。オルガノポリシロキサンは、修飾シリカ粒子同士を結合させるためのバインダ成分である。
【0071】
溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran:THF)や、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide:DMF)などが用いられる。但し、溶媒は、これらの物質に限定されるものではない。溶媒は水であってもよい。溶媒が有機溶媒である場合、有機溶媒の沸点は、70℃〜150℃程度であるのが望ましい。有機溶媒の沸点が70℃以下である場合には、レンズ30の表面に反射防止膜を形成することが困難となる。一方、有機溶媒の沸点が150℃以上の場合には、有機溶媒が揮発しにくいため、レンズ30の表面に反射防止膜を形成することが困難となる。
【0072】
塗布液の粘度は、望ましくは10mPa・s以下であり、さらに望ましくは1mPa・sである。塗布液の表面張力は、望ましくは70mN/m以下であり、さらに望ましくは20mN/mである。塗布液の粘度や表面張力をかかる望ましい値にすると、レンズ挟持部材1を塗布液で満たされたディップ槽から引き上げるときに、レンズ挟持部材1から塗布液を速やかに排出することができる。塗布液の粘度や表面張力等の物性を制御するために、塗布液に界面活性剤などを添加してもよい。
【0073】
次に、反射防止膜が形成されていない複数のレンズ30を、レンズ挟持部材1で挟持する(ステップS3)。
【0074】
具体的には、まず、第2部材20の内表面21が上になるように、第2部材20を配置する。次いで、レンズ30のレンズ部31の入射面31aが下を向くように、各レンズ30を第2部材20の各第2貫通孔24に配置する(レンズ30を第2部材20に載せる)。このとき、レンズ部31は、第2貫通孔24内に収納される。また、レンズ30のフランジ32の外径D2は、第2部材20の第2貫通孔24の内径よりも大きく、フランジ収納部材26の円環面26aの外径D4よりも小さい。このため、フランジ32は、円環面26aと接触した状態で、フランジ収納部材26内に収納される。このため、レンズ30が第2貫通孔24から下方へ落下することはない。図1に示すレンズ挟持部材1の場合、42個のレンズ30が第2部材20に配置される。但し、第1及び第2貫通孔14、24の個数及びレンズ30の配置数は、これに限定されるものではない。
【0075】
尚、入射面31aが上を向くように、各レンズ30を第2部材20の各第2貫通孔24に配置してもよい。しかし、入射面31aが下を向くように、各レンズ30を第2部材20の各第2貫通孔24に配置するのが望ましい。この場合には、レンズ30入射面31aが第2部材20の内表面21側に突出することはない。このため、第1部材10と第2部材20とを重ね合わせたときに、第1部材10がレンズ30のレンズ部31に接触せず、レンズ部31の表面に傷が付きにくい。
【0076】
レンズ30を第2部材20に載せた後、第1部材10を第2部材20に重ね合わせる。そして、重なり合った突起部13、23に結合部材60(図1参照)を挿通することにより、第1部材10と第2部材20とを結合する。これにより、複数のレンズ30が第1部材10と第2部材20とによって容易に挟持される。
【0077】
図12は、本発明の一実施の形態における、レンズがレンズ挟持部材によって挟持されている状態を示す拡大断面図である。
【0078】
図12に示すように、レンズ30のフランジ32の外径D2は、第1部材10の内表面11に形成された第1貫通孔14の開口の内径D3よりも大きく、第2部材20の内表面21に形成された第2貫通孔24の開口の内径D3よりも大きく、かつ、フランジ収納部材26の円環面26aの外径D4よりも小さい。レンズ30のフランジ32の厚さT1(図2参照)は、第2部材20の内表面21と接触面25との間の距離H1(図9参照)よりも小さい。このため、レンズ30のフランジ32は、フランジ収納部材26の中に収納される。第1部材10の内表面11は、第2部材20の接触面25と接触し、第2部材20の内表面21とは接触しない。このため、第1部材10と第2部材20との間に、空間100が形成される。
【0079】
レンズ挟持部材1の姿勢が変化しても、レンズ30は、第1部材10の第1貫通孔14及び第2部材20の第2貫通孔24のいずれからも落下することはない。また、フランジ収納部材26を構成する凸部26b1〜26b4は、第1部材10の内表面11と接触する。このため、レンズ挟持部材1を矢印Aの方向を下方向にして立てた場合であっても、レンズ30が第2貫通孔24及びフランジ収納部材26から外れることはない。尚、レンズ30のフランジ32の幅W1(図2参照)は、フランジ収納部材26の円環面26aの内周26a1から外周26a2までの距離R1(図9参照)よりも大きいのが望ましい。この望ましい構成によれば、レンズ30のレンズ部31が円環面26aの内周26a1に接触することが防止されるので、レンズ30の表面に傷が付きにくい。
【0080】
レンズ30がレンズ挟持部材1によって挟持された状態において、レンズ部31の入射面31aは第2部材20の第2貫通孔24内に配置され、出射面31b上に第1部材10の第1貫通孔14が配置される。また、フランジ収納部材26の隙間28a〜28dは、空間100と繋がった状態になる。
【0081】
次に、図11に示すように、複数のレンズ30を挟持したレンズ挟持部材1を、塗布液で満たされたディップ槽に浸漬する(ステップS4)。具体的には、複数のレンズ30を挟持したレンズ挟持部材1を立てて、ディップ槽に溜められた塗布液に漬け込む。このとき、図7に示すように、端面20aを下方に向けて(矢印Aの方向を下方向として)、レンズ挟持部材1を塗布液に漬け込む。
【0082】
次に、浸漬されたレンズ挟持部材1を、一定の速度でディップ槽から引き上げる(ステップS5)。具体的には、浸漬されたレンズ挟持部材1を、端面20aを下方に向けて立てながら、ディップ槽から引き上げる。これにより、レンズ30の表面に塗布液が塗布される。引き上げ速度は、レンズ30の表面に形成する反射防止膜の厚さに応じて変更される。
【0083】
図12に示すように、第1部材10の第1貫通孔14及び第2部材20の第2貫通孔24がテーパ状に形成されているため、第1貫通孔14、第2貫通孔24に流れ込んだ塗布液は、レンズ挟持部材1を立てて引き上げる際に、第1貫通孔14、第2貫通孔24からレンズ挟持部材1の外へ排出される。
【0084】
さらに、フランジ収納部材26に流れ込んだ塗布液は、レンズ挟持部材1を立てて引き上げる際に、フランジ収納部材26の下部に位置する隙間28aから下方に排出される。このとき、塗布液は、フランジ収納部材26の左右に位置する隙間28b、28dからも排出される。
【0085】
また、このとき、フランジ収納部材26の上部に位置する隙間28cが空気穴として作用する。そして、隙間28cからフランジ収納部材26内に空気が流入することにより、塗布液は、フランジ収納部材26の隙間28a、28b、28dから速やかに排出され、特に、隙間28aから排出される。フランジ収納部材26内から排出された塗布液は、空間100を通ってレンズ挟持部材1の外へ排出される。
【0086】
図13は、ステップS5(引き上げ工程)でのレンズ挟持部材1の姿勢の変化を示す図である。
【0087】
図13に示すように、ステップS5(引き上げ工程)において、レンズ挟持部材1をディップ槽から引き上げた後に、当該レンズ挟持部材1の下端面(第2部材20の端面20a)を水平方向に対して傾けてもよい。また、レンズ挟持部材1の下端面(第2部材20の端面20a)を水平方向に対して傾けながら、レンズ挟持部材1を引き上げるようにしてもよい。
【0088】
レンズ挟持部材1を立てて引き上げるとき、レンズ挟持部材1内の塗布液は、第1及び第2部材10、20の表面に沿って下方へ移動する。そして、第1及び第2部材10、20の下部で塗布液が溜まり、塗布液の滴が形成される。滴が大きくなるほど、塗布液にかかる重力が塗布液の表面張力よりも大きくなり、塗布液がレンズ挟持部材1の下端(第1部材10の端面10aと第2部材20の端面20aとの間)から落下する。ステップS5(引き上げ工程)において、レンズ挟持部材1をディップ槽から引き上げるとき、又は、引き上げた後に、レンズ挟持部材1を傾ければ、当該レンズ挟持部材1の下端で形成される塗布液の滴を大きくすることができるため、空間100から塗布液が速やかに下方に排出される。
【0089】
次に、図11に示すように、レンズ30に塗布された塗布液を乾燥する(ステップS6)。ステップS6(乾燥工程)においては、引き上げられたレンズ挟持部材1を所定の温度でベークしてもよい。また、引き上げられたレンズ挟持部材1に対して、アニール処理を施してもよい。引き上げられたレンズ挟持部材1を乾燥すれば、塗布液中の修飾シリカ粒子とオルガノポリシロキサンとが反応して、反射防止膜が形成される。
【0090】
ステップS6(乾燥工程)の後、重なり合った突起部13、23に挿通された結合部材60を取り外して、レンズ挟持部材1からレンズ30を取り出す。
【0091】
以上説明したレンズ挟持部材1を用いることにより、複数のレンズ30を1つずつ固定したり、取り外したりする必要がない。レンズ挟持部材1は、複数のレンズ30を一度に挟持することができ、かつ、一度に挟持を解くこともできる。従って、以上説明したレンズ挟持部材1を用いれば、ディップコート法によってレンズ30の表面に反射防止膜を形成する作業の効率を向上させることができる。
【0092】
そして、フランジ収納部材26にレンズ30のフランジ32を収納することにより、レンズ挟持部材1は複数のレンズ30を容易に挟持することができる。さらに、フランジ収納部材26の円環面26aの内径D3と、第1部材10の内表面11に形成された第1貫通孔14の開口の内径D3とは、レンズ30のレンズ部31の外径D1よりも大きいため、レンズ部31の入射面31aと出射面31bは、レンズ挟持部材1の外部に露出される。従って、レンズ部31の入射面31aと出射面31bは、塗布液と接触しやすく、反射防止膜が形成されやすい。
【0093】
また、レンズ挟持部材1をディップ槽から引き上げるときに、フランジ収納部材26の上部に位置する隙間28cから空気が流入する。このため、フランジ収納部材26内に流入した塗布液は、隙間28a、28b、28dから速やかに排出され、特に、下部に位置する隙間28aから速やかに排出される。これにより、レンズ30の表面に塗布液が滞留することが防止される。従って、反射防止膜の厚さがレンズ30の表面上で局所的にばらつきにくくなる。
【0094】
第1部材10の端面10a及び/又は第2部材20の端面20aが、第1部材10の端面10b及び/又は第2部材20の端面20bに対して傾斜した1つ又は複数の傾斜面を有していてもよい。これによれば、上述のようにレンズ挟持部材1の下端面(第2部材20の端面20a)を水平方向に対して傾ける場合と同様の効果が得られる。
【0095】
[第2部材の形状の他の例]
図14は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材の他の例をその内表面側から見た斜視図、図15は、図14中の領域AR1の拡大斜視図である。
【0096】
図14、図15に示す第2部材40は、上述した第1部材10及び結合部材60と共にレンズ挟持部材を構成する。
【0097】
図14、図15に示すように、第2部材40は、端面40aと、端面40bと、内表面41と、外表面42と、複数の突起部23と、複数の第2貫通孔24と、複数の接触面25と、フランジ収納部材26と、複数の内壁面27とを備えている。
【0098】
内表面41は、さらに、傾斜面44を有している。傾斜面44は、端面40a側の内表面41の縁を含む部分に設けられている。傾斜面44は、矢印Aの方向に進むにしたがって接触面25を含む面からの距離が大きくなるように形成されている。要するに、内表面41は、端面40a近傍で外表面42側に傾いている。
【0099】
レンズの製造工程において、第1部材10と第2部材40とを備えるレンズ挟持部材がディップ槽から引き上げられるとき(ステップS5)、塗布液は、レンズ挟持部材内を端面40b側から端面40a側に向かって流れる。このとき、傾斜面44は、矢印Aの方向(下方向)に進むにしたがって接触面25を含む面からの距離が大きくなるように形成されているため、第1部材10と第2部材40との間に形成される空間は、下端(端面40a)に向かうにしたがって拡がっている。従って、塗布液は、第1部材10の内表面11と第2部材40の傾斜面44との間の空間に溜まりにくく、外部に排出されやすくなる。
【0100】
第2部材40は、さらに、角部43を有している。角部43は、接触面25と、内壁面27と、端面40aとによって形成されている。角部43は、尖った形状ではなく、丸みを帯びている。このように角部43が丸みを帯びているため、角部43に塗布液の滴が接触したときに、塗布液の表面張力が破壊される。表面張力が破壊された塗布液は、レンズ挟持部材から落下しやすくなる。また、表面張力が破壊された塗布液は、他の塗布液の滴と結合しやすいため、自身の重力によってさらにレンズ挟持部材から落下しやすくなる。
【0101】
このように、第2部材40を用いることにより、塗布液をレンズ挟持部材から効率的に排出することが可能となる。従って、レンズ30の表面に形成される反射防止膜の膜厚がレンズ30によってばらつくことを抑制することができる。
【0102】
[第1及び第2部材の形状のさらなる他の例]
図16は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第1部材の他の例をその内表面側から見た平面図、図17は、図16のXVII−XVII線拡大断面図、図18は、本発明の一実施の形態におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材のさらなる他の例をその内表面側から見た斜視図、図19は、図18のXIX−XIX線拡大断面図である。
【0103】
図16〜図19に示す第1部材70及び第2部材80は、上述した結合部材60と共にレンズ挟持部材を構成する。
【0104】
図16、図17に示すように、第1部材70は、端面70aと、端面70bと、内表面71と、外表面72と、複数の突起部73と、複数の第1貫通孔74と、複数の第3貫通孔78とを備えている。
【0105】
内表面71は、第1部材70と第2部材80とが互いに重なり合うときに、第2部材80に対向する面である。外表面72は、内表面71と反対側の面である。端面70a、70bは、内表面71の縁と外表面72の縁との間の面である。端面70bは、レンズ挟持部材がディップ槽から引き上げられるときに、上方に位置する端面である。端面70aは、端面70bと反対側の端面である。図16、図17に示す第1部材70において、端面70aと端面70bとは、互いに平行であり、かつ、内表面71及び外表面72に対して垂直である。但し、端面70aと端面70bとは、厳密に互いに平行である必要はなく、内表面71及び外表面72に対して厳密に垂直である必要はない。
【0106】
各突起部73は、棒状であり、第1部材70の左右の側面から外側に延出している。
【0107】
複数の第1貫通孔74は、内表面71と外表面72との間に形成され、行列状に配置されている。
【0108】
複数の第3貫通孔78は、内表面71と外表面72との間に形成され、第1貫通孔74と重ならないように配置されている。
【0109】
図17に示すように、第1部材70の第1貫通孔74は、テーパ状に形成されている。第1貫通孔74の内径は、外表面72から内表面71に向かって徐々に小さくなっている。内表面71に形成された第1貫通孔74の開口の内径を、D3とする。内径D3は、レンズ30のレンズ部31の外径D1よりも大きく、かつ、レンズ30のフランジ32の外径D2よりも小さく設定されている。要するに、第1貫通孔74は、レンズ部31を収納可能な形状を有している。
【0110】
また、第1部材70の第3貫通孔78も、テーパ状に形成されている。第3貫通孔78の内径も、外表面72から内表面71に向かって徐々に小さくなっている。内表面71に形成された第3貫通孔78の開口の内径を、D5とする。内径D5は、内表面71に形成された第1貫通孔74の開口の内径D3の3/5程度に設定されている。
【0111】
図18、図19に示すように、第2部材80は、端面80aと、端面80bと、内表面81と、外表面82と、複数の突起部83と、複数の第2貫通孔84と、複数の接触面85と、複数のフランジ収納部材86と、複数の内壁面87と、複数の第4貫通孔88とを備えている。
【0112】
内表面81は、第1部材70と第2部材80とが互いに重なり合うときに、第1部材70に対向する面である。外表面82は、内表面81と反対側の面である。端面80a、80bは、内表面81の縁と外表面82の縁との間の面である。端面80bは、レンズ挟持部材1がディップ槽から引き上げられるときに、上方に位置する端面である。端面80aは、端面80bと反対側の端面である。図18に示す第2部材80において、端面80aと端面80bとは、互いに平行であり、かつ、内表面81及び外表面82に対して垂直である。但し、端面80aと端面80bとは、厳密に互いに平行である必要はなく、内表面81及び外表面82に対して厳密に垂直である必要はない。
【0113】
接触面85は、外表面82と反対側に設けられており、図18に示すように、内表面81との間に段差を形成している。図18に示す第2部材80において、接触面85は2つ設けられており、各接触面85は、端面80aから端面80bまで延びている。但し、1つの接触面85のみが設けられていてもよく、3つ以上の接触面85が設けられていてもよい。また、各接触面85は、必ずしも端面80aから端面80bまで延びている必要はない。
【0114】
内壁面87は、接触面85と内表面81との間に形成されている。ここで、接触面85と内表面81との間の距離は、レンズ30のフランジ32の厚さT1よりも大きく設定されている。
【0115】
各突起部83は、棒状であり、第2部材80の左右の側面から外側に延出している。各突起部83は各突起部73と一対一で対応しており、第1部材70と第2部材80とが互いに重なり合うときに、各突起部83は対応する各突起部73と重なり合う。そして、重なり合った突起部73、83に結合部材60が挿通されることにより、第1及び第2部材70、80が互いに結合される。
【0116】
複数の第2貫通孔84は、内表面81と外表面82との間に形成され、行列状に配置されている。複数の第2貫通孔84は、第1部材70の各第1貫通孔74と一対一で対応している。そして、第1部材70と第2部材80とが互いに重なり合うときに、各第2貫通孔84は対応する各第1貫通孔74と同軸に配置される。内表面81に形成された第2貫通孔84の開口の内径は、レンズ30のレンズ部31の外径D1よりも大きく、かつ、レンズ30のフランジ32の外径D2よりも小さく設定されている。要するに、第2貫通孔84は、レンズ部31を収納可能な形状を有している。第2貫通孔84の開口の内径は、第1貫通孔74の開口の内径D3と同じ値であってもよく、第1貫通孔74の開口の内径D3とは異なる値であってもよい。尚、第1部材70と第2部材80とが互いに重なり合うとき、各第4貫通孔88は必ずしも各第3貫通孔78と同軸に配置される必要はない。
【0117】
図19に示すように、第2部材80の第2貫通孔84は、テーパ状に形成されている。第2貫通孔84の内径は、外表面82から内表面81に向かって徐々に小さくなっている。
【0118】
また、第2部材80の第4貫通孔88も、テーパ状に形成されている。第4貫通孔88の内径も、外表面82から内表面81に向かって徐々に小さくなっている。内表面81に形成された第4貫通孔88の開口の内径は、内表面81に形成された第2貫通孔84の開口の内径の3/5程度に設定されている。
【0119】
レンズの製造工程において、第1部材70と第2部材80とを備えるレンズ挟持部材がディップ槽から引き上げられたとき(ステップS5)、塗布液は、レンズ挟持部材内を端面80b側から端面80a側に向かって流れる。このとき、第3貫通孔78と第4貫通孔88は、塗布液の排出口となるだけでなく、空気の取り入れ口ともなる。従って、塗布液は、第1部材70の内表面71と第2部材80の内表面81との間に形成される空間に溜まりにくく、外部に排出されやすくなる。
【0120】
このように、複数の第3貫通孔78を有する第1部材70と複数の第4貫通孔88を有する第2部材80を用いることにより、塗布液をレンズ挟持部材からさらに効率的に排出することが可能となる。従って、レンズ30の表面に形成される反射防止膜の膜厚がレンズ30によってばらつくことを効果的に抑制することができる。
【0121】
また、図14に示す第2部材40と同様に、第2部材80の内表面81は、さらに、傾斜面44を有している。傾斜面44は、端面80a側の内表面81の縁を含む部分に設けられている。傾斜面44は、矢印Aの方向に進むにしたがって接触面85を含む面からの距離が大きくなるように形成されている。要するに、内表面81は、端面80a近傍で外表面82側に傾いている。
【0122】
また、図14に示す第2部材40と同様に、第2部材80は、さらに、角部83を有している。角部43は、接触面85と、内壁面87と、端面80aとによって形成されている。角部43は、尖った形状ではなく、丸みを帯びている。
【0123】
そして、これにより、図14に示す第2部材40を用いた場合と同様の作用効果が得られ、レンズ挟持部材からの塗布液の排出のさらなる高効率化を図ることが可能となる。
【0124】
尚、以上説明してきた実施の形態においては、レンズ30のレンズ部31を第2部材20、40又は80の第2貫通孔24又は84に収納するようにされている。しかし、レンズ30のレンズ部31は、第1部材10又は70の第1貫通孔14又は74に収納するようにしてもよい。第1貫通孔14又は74、第2貫通孔24又は84のうち、レンズ30のレンズ部31を収納する貫通孔は、レンズ部31を収納可能な内径を有する必要がある。要するに、第1貫通孔14又は74、第2貫通孔24又は84のいずれか一方がレンズ部31を収納可能な形状を有していればよい。
【0125】
また、以上説明してきた実施の形態において、第2部材20、40又は80は2つの接触面25又は85を含んでいる。しかし、第2部材20、40又は80は、必ずしも接触面25又は85を含んでいる必要はない。接触面25又は85が存在しない場合、フランジ収納部材26を構成する凸部26b1〜26b4が第1部材10又は70の内表面11又は71と接触する。
【0126】
また、以上説明してきた実施の形態において、フランジ収納部材26は4つの凸部26b1〜26b4を含んでいる。しかし、フランジ収納部材26の凸部の数は2つ以上であればよい。
【0127】
また、以上説明してきた実施の形態において、レンズ30のフランジ32の形状は円形状である。しかし、フランジ32の形状は、矩形状であってもよく、他の形状であってもよい。
【0128】
以下、本発明の効果を、本実施の形態の実施例と比較例とを対比することによって説明する。
【実施例】
【0129】
図16〜図19に示す構成(複数の第3貫通孔78と複数の第4貫通孔88とをさらに備えた構成)を有するレンズ挟持部材を用いて、レンズ部31の外径D1が5mmのガラスレンズ30(図2参照)の表面に反射防止膜を形成した。
【0130】
まず、塗布液を調製した。具体的には、平均粒径が20nmのシリカ微粒子と、ビニルトリエトキシシラン(vinyltriethoxysilane:VTES)とを、THFとDMFとの混合溶液に添加した。混合溶液中でシリカ微粒子とVTESとを反応させて、修飾シリカ粒子を発生させた。修飾シリカ粒子を発生させた混合溶液に、白金化合物と、ヒドリロ基で置換されたポリジメチルシロキサンとを添加した。この混合溶液を攪拌して、塗布液を調製した。ポリジメチルシロキサンは、オルガノポリシロキサンの一種である。
【0131】
次に、反射防止膜が形成されていない42個のガラスレンズ30を、レンズ挟持部材で挟持した。次に、ガラスレンズ30を挟持したレンズ挟持部材を、塗布液で満たされたディップ槽に浸漬し、当該レンズ挟持部材をその厚み方向に数回揺動した。次に、浸漬されたレンズ挟持部材を、50mm/secの速度でディップ槽から引き上げることにより、ガラスレンズ30に塗布液を塗布した。尚、浸漬されたレンズ挟持部材をディップ槽から引き上げ、ガラスレンズ30に塗布液を塗布する際に、レンズ挟持部材の下端面(第2部材80の端面80a)を水平方向に対して5度傾けた。次に、引き上げられたレンズ挟持部材を、80℃の温度環境下で1時間静置して、乾燥させた。これにより、修飾シリカ粒子と、ヒドリロ基で置換されたポリジメチルシロキサンとが反応して、無機・有機ハイブリッド材料を含む反射防止膜がガラスレンズ30の表面に形成された。
【0132】
光学顕微鏡を用いて、反射防止膜が形成されたガラスレンズ30の表面を観察した。その結果、全てのガラスレンズ30の表面に、塗布ムラ(斑)を確認することはできなった。
【0133】
反射防止膜が形成されたガラスレンズ30の、波長520nmの光に対する反射率を測定した。その結果、各ガラスレンズ30の反射率は、約0.5%であった。
【0134】
また、反射防止膜が形成されたガラスレンズ30について、入射する光の波長と反射率との関係を調べた。そして、反射率が最小となる波長に基づいて、反射防止膜の平均膜厚をガラスレンズ30ごとに求めた。その結果、反射防止膜の平均膜厚は、95nm〜103nmであり、ガラスレンズ30間でのばらつきは±5%程度であった。この値は、後述する比較例に比べて反射防止膜の平均膜厚のばらつきが効果的に抑制されていることを示している。これは、図16〜図19に示す構成(複数の第3貫通孔78と複数の第4貫通孔88とを備えた構成)を有するレンズ挟持部材用いてガラスレンズ30の表面に反射防止膜を形成するようにしたことにより、レンズ挟持部材をディップ槽から引き上げたときに(ステップS5)、後述する比較例に比べて塗布液をレンズ挟持部材からさらに効率的に(速やかに)排出することができたからであると考えられる。
【比較例1】
【0135】
図1、図3〜図10、図12、図13に示す構成を有するレンズ挟持部材1を用いて、レンズ部31の外径D1が5mmのガラスレンズ30(図2参照)の表面に反射防止膜を形成した。反射防止膜を形成する手順は、上記実施例の場合とほぼ同様であるが、上記実施例の場合と異なり、浸漬されたレンズ挟持部材1をディップ槽から引き上げる際に、レンズ挟持部材1の下端面(第2部材20の端面20a)を水平方向に対して傾けてはいない。
【0136】
光学顕微鏡を用いて、反射防止膜が形成されたガラスレンズ30の表面を観察した。その結果、ディップ方向(矢印A方向)に対して、端面20aに最も近い列のガラスレンズ30を除いたガラスレンズ30の表面に、塗布ムラ(斑)を確認することはできなった。しかし、端面20aに最も近い列のガラスレンズ30の一部に塗布ムラ(斑)が確認された。
【0137】
端面20aに最も近い列のガラスレンズ30において塗布ムラ(斑)が確認された理由としては、引き上げ工程(ステップS5)においてレンズ挟持部材1がディップ槽から引き上げられたときに、端面20a付近に塗布液が滞留したことが予想される。しかし、図1、図3〜図10、図12、図13に示す構成を有するレンズ挟持部材1を用いることにより、端面20aに最も近い列のガラスレンズ30を除いて、ガラスレンズ30の表面に均一性の高い反射防止膜を形成できることを確認することができた。
【0138】
反射防止膜が形成されたガラスレンズ30のうち、塗布ムラ(斑)が確認されなかったガラスレンズ30の、波長520nmの光に対する反射率を測定した。その結果、各ガラスレンズ30の反射率は、約0.5%であった。
【0139】
また、上記実施例と同様にして、反射防止膜の平均膜厚をガラスレンズ30ごとに求めた。その結果、反射防止膜の平均膜厚は、95nm〜110nmであり、ガラスレンズ30間で±7.5%程度のばらつきがあった。
【比較例2】
【0140】
図14、図15に示す構成を有するレンズ挟持部材を用いて、レンズ部31の外径D1が5mmのガラスレンズ30(図2参照)の表面に反射防止膜を形成した。反射防止膜を形成する手順は、上記実施例の場合と同様である。
【0141】
光学顕微鏡を用いて、反射防止膜が形成されたガラスレンズ30の表面を観察した。その結果、上記比較例1の場合と異なり、全てのガラスレンズ30の表面に、塗布ムラ(斑)を確認することはできなった。これは、第2部材40の端面40a側の内表面41の縁を含む部分に傾斜面44が設けられているために、塗布液が、第1部材10の内表面11と第2部材40の傾斜面44との間の空間に溜まりにくく、第2部材40の端面40a側に丸みを帯びた角部43が形成されているために、塗布液がレンズ挟持部材から落下しやすくなっているからであると考えられる。
【0142】
反射防止膜が形成されたガラスレンズ30の、波長520nmの光に対する反射率を測定した。その結果、各ガラスレンズ30の反射率は、約0.5%であった。
【0143】
上記実施例と同様にして、反射防止膜の平均膜厚をガラスレンズ30ごとに求めた。その結果、反射防止膜の平均膜厚は、95nm〜110nmであり、ガラスレンズ30間で±7.5%程度のばらつきがあった。
【比較例3】
【0144】
図20は、本発明の比較例3におけるレンズ挟持部材を構成する第2部材をその内表面側から見た平面図、図21は、図20のXXI−XXI線拡大断面図である。
【0145】
[第2部材の形状]
図20、図21に示すように、第2部材50は、内表面51と、外表面52と、複数の突起部23と、複数の第2貫通孔54とを備えている。
【0146】
内表面51は、第1部材10と第2部材50とが互いに重なり合うときに、第1部材10に対向すると共に、第1部材10の内表面11に接触する面である。外表面52は、内表面51と反対側の面である。
【0147】
各突起部23は、棒状であり、第2部材50の左右の側面から外側に延出している。各突起部23は第1部材10の各突起部13と一対一で対応しており、第1部材10と第2部材50とが互いに重なり合うときに、各突起部23は対応する各突起部13と重なり合う。そして、重なり合った突起部13、23に結合部材60が挿通されることにより、第1及び第2部材10、50が互いに結合される。
【0148】
複数の第2貫通孔54は、内表面51と外表面52との間に形成され、行列状に配置されている。複数の貫通孔54は、第1部材10の各第1貫通孔14と一対一で対応している。そして、第1部材10と第2部材50とが互いに重なり合うときに、各貫通孔54は対応する各第1貫通孔14と同軸に配置される。
【0149】
貫通孔54は、外側貫通部54aと、内側貫通部54bと、フランジ接触面54cとを有している。
【0150】
フランジ接触面54cは、内表面51及び外表面52に平行な円環状の平面であり、内周54c1と外周54c2とを有している。フランジ接触面54cは、内表面51側に露出している。フランジ接触面54cの内径は、円環面26aの内径(図9参照)と同じD3である。フランジ接触面54cの外径は、円環面26aの外径と同じD4である。
【0151】
外側貫通部54aは、外表面52とフランジ接触面54cの内周54c1との間に形成されている。外側貫通部54aは、テーパ状に形成されている。外側貫通部54aの内径は、外表面52からフランジ接触面54cに向かって徐々に小さくなっている。
【0152】
内側貫通部54bは、内表面51とフランジ接触面54cの外周54c2との間に形成されている。つまり、内側貫通部54bの端は、フランジ接触面54cの外周54c2と繋がっている。内側貫通部54bの内径は、フランジ接触面54cの外径と同じD4である。内側貫通部54bとフランジ接触面54cとは、円筒形の窪みを形成している。内側貫通部54bには、レンズ30のフランジ32が収納される。
【0153】
[反射防止膜の形成]
42個のガラスレンズ30を、第1部材10と第2部材50とで挟持し、挟持されたガラスレンズ30(レンズ部31の外径D1が5mm)の表面に、比較例1と同様の手順で反射防止膜を形成した。
【0154】
光学顕微鏡を用いて、反射防止膜が形成されたガラスレンズ30の表面を観察した。その結果、いくつかのガラスレンズ30の表面に、塗布ムラ(斑)が確認された。
【0155】
反射防止膜が形成されたガラスレンズ30のうち、塗布ムラ(斑)が確認されなかったガラスレンズ30の、波長520nmの光に対する反射率を測定した。その結果、各ガラスレンズ30の反射率は、約0.5%であった。
【0156】
また、上記実施例と同様にして、反射防止膜の平均膜厚をガラスレンズ30ごとに求めた。その結果、反射防止膜の平均膜厚は、92nm〜116nmであり、ガラスレンズ30間で±12%程度のばらつきがあった。
【0157】
実施例と比較例1〜3との対比から、複数の第3貫通孔78と複数の第4貫通孔88とをさらに備えた構成を有する実施例のレンズ挟持部材を用いて、ガラスレンズ30に反射防止膜を形成することにより、各ガラスレンズ30に形成される反射防止膜の厚さの局所的な変化を抑制でき、ガラスレンズ30間における反射防止膜の厚さのばらつきを抑制できることが明らかとなった。
【0158】
これは、複数の第3貫通孔78と複数の第4貫通孔88とをさらに備えた構成を有する実施例のレンズ挟持部材の場合には、比較例1〜3のレンズ挟持部材の場合に比べて塗布液をレンズ挟持部材からさらに効率的に(速やかに)排出することができたからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明によれば、レンズの着脱が容易で、かつ、ディップコート法を用いてレンズの表面に塗布液を均一に塗布することを可能にするレンズ挟持部材を実現することができ、このレンズ挟持部材を用いれば、表面に形成される薄膜の膜厚のばらつきが効果的に抑制されたレンズを製造することができる。従って、本発明は、携帯機器に搭載されるカメラに用いられる小型のレンズのコーティングに特に有用である。
【符号の説明】
【0160】
1 レンズ挟持部材
10、70 第1部材
10a、10b、20a、20b、40a、40b、70a、70b、80a、80b
端面
11、21、41、71、81 内表面
12、22、42、72、82 外表面
13、23、73、83 突起部
14、74 第1貫通孔
20、40、80 第2部材
24、84 第2貫通孔
25、85 接触面
26、86 フランジ収納部材
26a 円環面
26a1 内周
26a2 外周
26b1、26b2、26b3、26b4 凸部
27、87 内壁面
28a、28b、28c、28d 隙間
30 レンズ
31 レンズ部
31a 入射面
31b 出射面
32 フランジ
43 角部
44 傾斜面
60 結合部材
78 第3貫通孔
88 第4貫通孔
100 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がレンズ部と前記レンズ部の周りに設けられたフランジとを含む複数のレンズを、互いに重なり合って挟持する板状の第1及び第2部材と、
重なり合った前記第1及び第2部材を結合する結合部材とを備え、
前記第1部材は、
前記第1及び第2部材が互いに重なり合うときに前記第2部材と対向する第1内表面と、
前記第1内表面と反対側の面である第1外表面と、
前記第1内表面と前記第1外表面との間に形成された複数の第1貫通孔と、
前記第1内表面と前記第1外表面との間に形成された複数の第3貫通孔とを含み、
前記第2部材は、
前記第1及び第2部材が互いに重なり合うときに前記第1部材と対向する第2内表面と、
前記第2内表面と反対側の面である第2外表面と、
前記第2内表面の縁と前記第2外表面の縁との間に形成された第1端面と、
前記第2内表面の縁と前記第2外表面の縁との間に形成され、前記第1端面と反対側に配置される第2端面と、
前記第2内表面と前記第2外表面との間に形成され、前記第1及び第2部材が互いに重なり合うときに前記複数の第1貫通孔の各々と同軸に配置される複数の第2貫通孔と、
前記第2内表面と前記第2外表面との間に形成された複数の第4貫通孔と、
前記第2内表面の前記第2貫通孔の開口の周りに互いに離間して配置された複数の凸部を有し、前記第2内表面の前記第2貫通孔の前記開口と前記複数の凸部との間に前記レンズの前記フランジを収納するフランジ収納部材とを含み、
前記第1及び第2貫通孔の少なくともいずれか一方は、前記レンズの前記レンズ部を収納可能である、レンズ挟持部材。
【請求項2】
前記フランジ収納部材は、前記第1端面側に配置された複数の前記凸部の間に形成される第1の隙間を有する、請求項1に記載のレンズ挟持部材。
【請求項3】
前記フランジ収納部材は、前記第2端面側に配置された複数の前記凸部の間に形成される第2の隙間を有する、請求項2に記載のレンズ挟持部材。
【請求項4】
前記第2内表面は、前記第1端面近傍で前記第2外表面側に傾いている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレンズ挟持部材。
【請求項5】
前記第2部材はさらに、
前記第2外表面と反対側に設けられ、前記第2内表面との間に段差を形成し、前記第1内表面と接触する接触面と、
前記接触面と前記第2内表面との間に形成された内壁面とを含み、
前記接触面と、前記内壁面と、前記第1端面とによって形成される角部が、丸みを帯びている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレンズ挟持部材。
【請求項6】
前記第1貫通孔の内径は、前記第1内表面から前記第1外表面に向かって徐々に大きくなり、前記第2貫通孔の内径は、前記第2内表面から前記第2外表面に向かって徐々に大きくなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレンズ挟持部材。
【請求項7】
前記第3貫通孔の内径は、前記第1内表面から前記第1外表面に向かって徐々に大きくなり、前記第4貫通孔の内径は、前記第2内表面から前記第2外表面に向かって徐々に大きくなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレンズ挟持部材。
【請求項8】
前記凸部は、前記第1及び第2部材が互いに重なり合うときに前記第1内表面に接触する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のレンズ挟持部材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレンズ挟持部材を準備する工程と、
前記レンズ挟持部材で複数のレンズを挟持する工程と、
前記複数のレンズを挟持した前記レンズ挟持部材を、塗布液を溜めたディップ槽に浸漬する工程と、
前記ディップ槽から前記レンズ挟持部材を前記第1端面が下方を向くように立てて引き上げる引上工程と、
引き上げられた前記レンズ挟持部材を乾燥する工程とを含む、レンズの製造方法。
【請求項10】
前記引上工程で、前記第1端面を水平方向に対して傾ける、請求項9に記載のレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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