説明

レンズ用治具

【課題】ストレート側面を有するレンズの位置決めを簡易かつ確実に、レンズ表面を傷つけることなく行えるレンズ用治具を提供すること。
【解決手段】レンズ用治具100は、一対の第1ガイド部分101a、101b及び一対の第2ガイド部分102a、102bによって、2次元平面内での並進移動による修正を可能とするのみならず、第1乃至第6テーパ面から形成される第1乃至第4エッジ部EG1〜EG4により、カットレンズ10に対してレンズ側面11a、11bから光軸AZまわりの回転モーメントを与えることで回転ずれについても修正を可能とし、カットレンズ10をレンズ用治具100中の所定位置に正確に導くことを可能としている。この場合、搬送用ロボット等である機械機構を用いて、自動的に収納動作を行うことも容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレート側面を有するレンズを搬送・保管等のために保持するレンズ用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の平行なストレート側面を有するレンズであるダブルDカットレンズを収容するレンズ鏡筒として、レンズ鏡筒の隅に凹部を設けレンズのストレート側面をレンズ鏡筒のストレート部に当て付けながら挿入することで、レンズの角部に傷をつけないようにするものが知られている(特許文献1参照)。また、レンズ保持構造として、ストレート側面を有するレンズの側面に係合する押え部を有するものも知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−227404号公報
【特許文献2】特開平7−5353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1のように、レンズの挿入に際して、当該レンズをレンズ鏡筒のストレート部に当て付けながら挿入することは、例えばレンズ鏡筒に対して、レンズを斜めに挿入する必要が生じるといったことから、挿入動作を機械的に自動化することが困難となる可能性がある。また、特許文献2のように、レンズの側面に押え部が係合するためには、押え部とレンズとの間に位置ずれがないことが前提となる。しかし、レンズの装着の際の位置ずれは、不回避的に生じることが多く、このような位置ずれが生じているにもかかわらず、挿入・装着を行えば、レンズの光学面や角部等に傷をつけてしまう場合がある。
【0004】
そこで、本発明は、ストレート側面を有するレンズの位置決めを簡易かつ確実に、レンズ表面を傷つけることなく行えるレンズ用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係るレンズ用治具は、(a)保持の対象であるカットレンズの一対の平行なレンズ側面に対応する第1及び第2側平面を有し、当該第1及び第2側平面の間にカットレンズを保持する保持部と、(b)保持部の外方側であって上方側に配置され、カットレンズの光軸まわりの回転モーメントをレンズ側面に与えてカットレンズを第1及び第2側平面の間に導く回転付与部を有するガイド部とを備えることを特徴とする。ここで、上方とは、保持部においてカットレンズを支持する奥側からカットレンズを挿入する入り口側に向かう方向を言う。つまり、自重に従ってカットレンズをレンズ用治具に挿入して位置決めをする場合、重力の方向と反対の方向を言う。なお、上方と逆方向側(重力方向)を下方とする。
【0006】
上記レンズ用治具では、回転付与部が回転モーメントをレンズ側面に与えることで、レンズ用治具にカットレンズを挿入するにあたって、カットレンズの光軸まわりの回転等を含む位置ずれを修正して保持部内の所定位置である第1及び第2側平面の間にカットレンズを導くことができる。これにより、カットレンズの位置決めを、簡易かつ確実にレンズ表面をほとんど傷つけることなく行うことができる。
【0007】
本発明の具体的な態様によれば、(a)回転付与部が、第1及び第2側平面の外側にそれぞれ近接して形成される凸状の第1及び第2エッジ部を有し、(b1)当該第1エッジ部が、対応する第1側平面の中央位置から一方の端部までの間に設けられた所定の起点を基準として、上方に向かう方向成分と、中央位置側に向かう方向成分と、外方に向かう方向成分とを有するエッジ方向に延び、(b2)当該第2エッジ部が、対応する第2側平面の中央位置から第1側平面の一方の端部とは反対側に位置する他方の端部までの間に設けられた所定の起点を基準として、上方に向かう方向成分と、中央位置側に向かう方向成分と、外方に向かう方向成分とを有するエッジ方向に延びることを特徴とする。この場合、凸状の第1及び第2エッジ部により、回転による位置ずれが生じたカットレンズに対して適切な方向に回転モーメントを与えることができる。
【0008】
本発明の別の具体的な態様によれば、回転付与部が、第1側平面の中央位置を挟んで第1エッジ部の反対側において第1側平面の外側に近接して配置され第1エッジ部とは反対の回転モーメントをレンズ側面に与える第3エッジ部と、第2側平面の中央位置を挟んで第2エッジ部の反対側において第2側平面の外側に近接して配置され第2エッジ部とは反対の回転モーメントをレンズ側面に与える第4エッジ部とを有することを特徴とする。この場合、回転ずれを生じたカットレンズに対して、当該回転ずれの方向に応じて、適切な回転モーメントを与えることができる。具体的には、第1及び第2エッジ部によって例えば反時計方向の回転モーメントを与え、第3及び第4エッジ部によって例えば時計方向の回転モーメントを与えることができる。
【0009】
本発明の別の具体的な態様によれば、(a)第1エッジ部が、第1傾斜面と第2傾斜面との交差部分により形成され、(b)第1傾斜面が、第1及び第2側平面の延びる方向に平行な第1基準軸の軸方向に垂直な面を第1及び第2側平面の法線方向に延びる第2基準軸のまわりに軸回転させることで所定角度傾斜して配置され、第2傾斜面が、第2基準軸の軸方向に垂直な面を第1基準軸のまわりに軸回転させることで所定角度傾斜して配置され、(c)第2エッジ部が、第3傾斜面と第4傾斜面との交差部分により形成され、(d)第3傾斜面が、第1基準軸の軸方向に垂直な面を第2基準軸のまわりに軸回転させることで所定角度傾斜して配置され、第4傾斜面が、第2基準軸の軸方向に垂直な面を第1基準軸のまわりに軸回転させることで所定角度傾斜して配置されることを特徴とする。この場合、各傾斜面の角度設定により、適切な回転モーメントを与えるために所望の方向を有する第1及び第2エッジ部の形成が可能となる。
【0010】
本発明の別の具体的な態様によれば、第1乃至第4傾斜面の傾斜角度が、いずれも20°以下であることを特徴とする。この場合、カットレンズの位置決めにおいて、回転付与部によりレンズ表面を傷つける可能性を低減して円滑にアライメントすることができる。
【0011】
本発明の別の具体的な態様によれば、回転付与部が、保持部の中心位置を通って上下方向に延びる中心軸を中心としカットレンズの光軸を通る中心位置からカットレンズのストレート終点までの長さを半径とする円柱領域内に存在することを特徴とする。この場合、回転ずれの角度の大きさに依らず一定の力でカットレンズに回転モーメントを与えることができる。
【0012】
本発明の別の具体的な態様によれば、ガイド部が、保持部に保持されたカットレンズの一対のレンズ側面間をつなぐ曲側面に沿って上方に延びるすり鉢状曲面を有することを特徴とする。この場合、保持部のすり鉢状曲面により、カットレンズの曲側面の方向に関する位置ずれを修正することができる。
【0013】
本発明の別の具体的な態様によれば、回転付与部が、保持部の中心位置を通って上下方向に延びる中心軸を中心として回転対称に配置されることを特徴とする。この場合、カットレンズに適切な位置を回転軸とする回転モーメントを与えることができる。
【0014】
本発明の別の具体的な態様によれば、保持部が、レンズ側面の下方側においてカットレンズを支持する支持面を有することを特徴とする。この場合、支持面により、カットレンズを上下方向に関して適切な位置に支持・固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1(A)は、本実施形態に係るレンズ用治具及びこれに収納されるレンズについて説明する斜視図である。また、図1(B)は、レンズ用治具にレンズを収納した状態を示す図である。
【0016】
本実施形態において収納・保護の対象となるカットレンズ10は、図示のように、集光作用等を有するレンズ本体CBと、フランジ部CBの周囲に設けられたフランジ部FBとを有し、全体として、Iカット形状を有するレンズ(いわゆるダブルDカットレンズ、以下Iカットレンズと呼ぶ。)である。このカットレンズ10は、カットレンズ10の中心位置に対して対称で、互いに平行に延びる一対のストレートな面であるレンズ側面11a、11bを有することを特徴とする。カットレンズ10は、原材料であるプラスチックを型内に射出する射出成形により、或いは、ガラスを溶融して直接プレスする加圧成形により、または、さらに必要に応じて当該加圧成形等の後に適所を除去することにより、上記のようなレンズ側面11a、11b等を有する形状で形成される。より詳細に説明すると、カットレンズ10は、外形として、レンズ本体CBに第1及び第2光学面S1、S2を有しており、フランジ部FBにレンズ側面11a、11bと、角部CRと、円筒状の曲線を持つ曲側面12a、12bとを有している。また、カットレンズ10の下面及び上面は、レンズ本体CBの第1及び第2光学面S1、S2の周囲に、フランジ部FBによるフランジ部下面F1及びフランジ部上面F2をそれぞれ有するものとなっている。また、図示のように、カットレンズ10は、Iカットレンズであるがゆえに、レンズ側面11a、11bに垂直に延びる軸AXと、レンズ側面11a、11bと平行に延びる軸AYとをアライメントのための基準軸とすることになる。これら軸AX及び軸AYは、互いに直交し、その交点AOは、レンズ本体CBの中心位置COに対応している。つまり、軸AX、AYは、いずれも交点AOでカットレンズ10の光軸AZと垂直に交わっている。
【0017】
レンズ用治具100は、カットレンズ10の保管等のために用いられる治具であり、カットレンズ10を装着した状態となることで、カットレンズ10の移動や保管のほか、種々の光学装置への組み付けを行うことを可能にし、例えばレンズ鏡筒等として機能することも可能となっている。レンズ用治具100は、カットレンズ10を保持する保持部110と、カットレンズ10を保持部110に導くためのガイド部101と、これらを担持する基部としての枠体120とを備える。保持部110及びガイド部101は、枠体120の表面120a上に凹部を設けることにより形成されている。レンズ用治具100は、枠体120にレンズ本体CBに対応して開口を形成することで、レンズ鏡筒として使用することができる。
【0018】
保持部110は、カットレンズ10の各レンズ側面11a、11b、フランジ部下面F1等に対応した面を有することにより、カットレンズ10をレンズ用治具100内の所定位置に正確にアライメントさせた状態で収納する。具体的に説明すると、保持部110は、一対のレンズ側面11a、11bに対応する一対の側平面111a、111bと、曲側面12a、12bに対応する曲面112a、112bと、側平面111a、111b等の下方に位置して第1光学面S1及びフランジ部下面F1側からカットレンズ10全体を支持する支持面(基準面)SSとを備える。これにより、保持部110は、レンズ側面11a、11bとこれらを角部CRを介してつなぐ曲側面12a、12bとを含むカットレンズ10の側面側を、側平面111a、111bと曲面112a、112bとにより取り囲むとともに、カットレンズ10下面側を支持面SSにより下方から支えることで、カットレンズ10を安定した状態でアライメントして保持部110内に固定する。ここで、支持面SS上において、両側平面111a、111bの延びる方向に平行である第1基準軸BXと、両側平面111a、111bに対して垂直である第2基準軸BYとは、保持部110の中心位置である交点BOで垂直に交わることで、カットレンズ10の位置合せの基準となっている。つまり、上記のような保持部110において、これに収納されるべきカットレンズ10の各側面11a、11b等と保持部110の各側平面111a、111b等とを一致させてアライメントすることになるが、この際、両基準軸BX、BY及び交点BOが、それぞれ、カットレンズ10の両軸AX、AY及び交点AOに合致することで、カットレンズ10が正確な位置にアライメントされて設置される。なお、図示のように、レンズ用治具100の基準軸BX及び基準軸BYの延びる方向をそれぞれx方向、y方向としている。また、重力の方向に対応するz方向を上下方向とする。つまり、+z側を上方、−z側を下方としている。
【0019】
ガイド部101は、保持部110の上方側即ち+z方向側であって、保持部110の外方側即ち枠体120に設けた表面120aの外縁側において、この保持部110に隣接して配置されている。ガイド部101は、カットレンズ10の一対のレンズ側面11a、11bに対応して保持部110の各側平面111a、111bの上方かつ外側に設けられた一対の第1ガイド部分101a、101bと、カットレンズ10の曲側面12a、12bに対応して曲面112a、112bの上方に形成される第2ガイド部分102a、102bとを備える。ここで、一対の第1ガイド部分101a、101bは、第1乃至第6傾斜面である第1乃至第6テーパ面T1〜T6をそれぞれ有している。これらのテーパ面T1〜T6の交差部分として、第1乃至第4エッジ部EG1〜EG4が形成されている。これらのエッジ部EG1〜EG4は、一対のレンズ側面11a、11bを介してカットレンズ10に対して光軸AZまわりの回転モーメントを与えることにより、カットレンズ10を保持部110に導く回転付与部として機能する(詳しくは後述する)。なお、第2ガイド部分102a、102bは、カットレンズ10をスライド移動させつつ保持部110に導くため、上方に向かって広がるすり鉢状曲面で構成されている。
【0020】
カットレンズ10は、搬送ロボット等である不図示の機械機構の動作によって、レンズ用治具100のガイド部101上に、即ちレンズ用治具100上の支持面SSに対して直近真上付近に載置される。カットレンズ10は、重力等に従って降下する際に、ガイド部101に導かれて自転またはスライド移動し、図1(B)に示すように、保持部110内にアライメントされて収納または挿入された状態となる。カットレンズ10の挿入の方法として、搬送ロボット等である機械機構により自動化することで、より効率的にカットレンズ10の収納を行うことができる。
【0021】
図2(A)は、レンズ用治具100において、カットレンズ10が挿入された状態でのカットレンズ10とガイド部101の主要部分との様子を模式的に示す平面図であり、図2(B)及び2(C)は、カットレンズ10とその周辺部についての断面図である。なお、以上の図において、図1(A)及び1(B)に示すカットレンズ10のレンズ本体CBについては、簡略のため図示を省略している。
【0022】
先ず、ガイド部101のうち、一方の第1ガイド部分101aは、第1基準軸BXの軸方向に垂直な面(yz平面)を第2基準軸BYのまわりに軸回転させることで角度αだけ傾斜して配置される第1テーパ面T1と、第2基準軸BYの軸方向に垂直な面(xz平面)を第1基準軸BXのまわりに軸回転させることで角度βだけ傾斜して配置される第2テーパ面T2とを有している。第1テーパ面T1と第2テーパ面T2との交差部分において、回転付与部である第1エッジ部EG1が凸状に形成されている。同様に、第1ガイド部分101bは、第3テーパ面T3と第4テーパ面T4とを有しており、両テーパ面T3、T4により第2エッジ部EG2が凸状に形成されている。第1及び第2エッジ部EG1、EG2は、保持部110の中心位置である交点BOを通る中心軸を回転軸として回転対称に配置されており、協働してカットレンズ10を紙面上時計回りの方向に回転させるための回転モーメントをレンズ側面11a、11bに対して均等に付与可能なものとなっている。なお、第1及び第2エッジ部EG1、EG2は、各テーパ面T1〜T4の交差部分として形成されるエッジであるが、わずかに曲面仕上げがなされている。
【0023】
また、他方の第1ガイド部分101aは、共有のテーパ面T2のほかに、第2基準軸BYを挟んで第1テーパ面T1とは反対側に配置されyz平面を第1テーパ面T1とは逆方向に角度αだけ軸回転させた第5テーパ面T5を有している。この第5テーパ面T5と、第2テーパ面T2との交差部分により、回転付与部である第3エッジ部EG3が凸状に形成されている。同様に、第1ガイド部分101bは、共有のテーパ面T4のほかに、第3テーパ面T3とは反対側に位置する第6テーパ面T6を有している。この第6テーパ面T6と、第4テーパ面T4との交差部分により、回転付与部である第4エッジ部EG4が凸状に形成されている。第3及び第4エッジ部EG3、EG4は、保持部110の中心位置である交点BOを通る中心軸を回転軸として回転対称に配置されており、協働してカットレンズ10を紙面上反時計回りの方向に回転させるための回転モーメントをレンズ側面11a、11bに付与可能なものとなっている。なお、第3及び第4エッジ部EG3、EG4についても、第1及び第2エッジ部EG1、EG2と同様に、わずかに曲面仕上げがなされている。
【0024】
ガイド部101により、保持部110の側平面111a、111b間に導かれたカットレンズ10は、フランジ部FBのフランジ部下面F1上の四隅に形成された位置決め部APを基準面SSに接触させた状態、つまり基準面SS上にフランジ部FBが支持された状態となるので、上下方向に関するアライメントが達成される。
【0025】
なお、以上のレンズ用治具100において、第2テーパ面T2及び第4テーパ面T4と、それぞれの両端部分である第1乃至第4エッジ部EG1〜EG4は、いずれも、保持部110の中心位置である交点BOを通る光軸AZを中心とし、カットレンズ10の中心位置AO(即ち交点BO)からカットレンズ10のストレート終点SDまでの長さを半径Rとする円柱領域内に存在する。つまり、図2(A)において、交点AO(BO)から半径Rの円CI内に、各テーパ面T2、T4及び1乃至第4エッジ部EG1〜EG4が収まっている。また、角度α、βの値は、20°以下の一定値となっている。これにより、各テーパ面T1〜T6や各エッジ部EG1〜EG4によりカットレンズ10の回転動作が妨げられることを低減してレンズ用治具100への収納が円滑に行われるものとなる。
【0026】
カットレンズ10を、図示のレンズ用治具100に収納するにあたっては、既述のように、例えば搬送ロボット等による機械機構(不図示)を用いて、自動的に収納動作を行うことが考えられる。しかしながら、このように自動化した場合であっても、収納時にカットレンズ10をレンズ用治具100の保持部110上方の所定位置に正確に配置または載置させることは難しく、カットレンズ10は、図2(A)等に示すxy平面に平行な2次元平面内について位置ずれした状態で載置されることが多い。このような位置ずれは、当該2次元平面内における並進に関するシフトずれと、回転に関する回転ずれとを含んでいる。カットレンズ10の搬送・載置時の位置ずれを修正するには、これらシフトずれと回転ずれとの双方を修正する必要がある。つまり、カットレンズ10は、x方向及びy方向についての並進移動により交点AOと交点BOとを一致させてシフトずれを修正するだけでなく、回転移動によって両軸AX、AYの延びる方向と両基準軸BX、BYの延びる方向とを一致させて回転ずれを修正する必要がある。本実施形態に係るレンズ用治具100は、カットレンズ10をx方向及びy方向について並進移動させる配置修正ができるだけでなく、さらにカットレンズ10を回転移動させる姿勢修正ができ、カットレンズ10をレンズ用治具100内の所定位置に正確に収納させることができるものとなっている。
【0027】
まず、レンズ用治具100は、第2ガイド部分102a、102bを有していることと、第1ガイド部分101a、101bにテーパ面T2、T4を有していることとにより、上述のように、x方向及びy方向に生じたシフトずれを修正すべくカットレンズ10を並進移動させることが可能になっている。より具体的に説明すると、レンズ用治具100は、カットレンズ10の曲側面12a、12bに対応して、これらに沿うように延びる第2ガイド部分102a、102bを有している。これにより、レンズ用治具100は、カットレンズ10のx方向についてのシフトずれに対処可能なものとなっている。つまり、カットレンズ10の載置の際、交点AOの位置がレンズ用治具100の交点BOの位置に対してx方向について負側または正側のいずれにずれていたとしても、カットレンズ10が下方(−z方向)に移動するに従って、すり鉢状に形成された一対の第2ガイド部分102a、102bによってx方向について位置の修正がされて保持部110内の所定位置に導かれる。また、レンズ用治具100は、カットレンズ10のレンズ側面11a、11bに対応して、これらに沿うように延びるテーパ面T2、T4を有している。これにより、カットレンズ10の交点AOの位置がレンズ用治具100の交点BOの位置に対してy方向について負側または正側のいずれにずれていたとしても、カットレンズ10が下方(−z方向)に移動するに従って、傾斜面であるテーパ面T2、T4によってy方向について位置の修正がされる。
【0028】
さらに、本実施形態に係るレンズ用治具100は、上述した並進移動によるシフトずれの修正に加え、第1乃至第6テーパ面によって形成される第1乃至第4エッジ部EG1〜EG4により、カットレンズ10に対してレンズ側面11a、11bから光軸AZまわりの回転モーメントを与えることで、回転ずれを修正し保持部110に導くことが可能となっている。
【0029】
以下、図3(A)を用いて、回転ずれの修正について詳しく説明する。なお、図3(B)は、比較のための図である。また、回転ずれに加え、x方向及びy方向についてのシフトずれが併発している可能性もあるが、シフトずれに関しては、既述のように、第2ガイド部分102a、102b及びテーパ面T2、T4により対処可能であるので説明を省略し、ここでは、図3(A)に示すように回転ずれのみが生じているものとして当該回転ずれの修正について説明する。
【0030】
図3(A)の例では、カットレンズ10が収納されるべき位置から角度θだけ反時計まわりの方向に回転ずれした状態となっているものを示している。つまり、図3(A)では、カットレンズ10の軸AX、AYは、保持部110の両基準軸BX、BYから角度θずれている状態となっている。なお、交点AOと交点BOとは一致しているものとする。
【0031】
図3(A)に示すようにカットレンズ10が回転ずれしている場合、ガイド部101に導かれるカットレンズ10の各レンズ側面11a、11bは、それぞれ、第1及び第2エッジ部EG1、EG2に接触した状態となる。ここで、第1エッジ部EG1は、上記したように第1及び第2テーパ面T1、T2によって形成され、対応する第1側平面111aの中央位置MAから一方の端部EAまでの間に設けられている。第1エッジ部EG1は、第1側平面111aとの境界部分上の点を起点P1として、端部EAから上方に向かう方向成分(+z方向)と、中央位置MA側に向かう方向成分(+x方向)と、外方に向かう方向成分(−y方向)とを有するエッジ方向に延びている。第2エッジ部EG2は、対応する第2側平面111bの中央位置MAから第1側平面11aの一方の端部EAとは交点BOに関して反対側に位置する他方の端部EBまでの間に設けられている。第2エッジ部EG2は、第2側平面111bとの境界部分上の点を起点P2として、端部EBから上方に向かう方向成分(+z方向)と、中央位置MA側に向かう方向成分(−x方向)と、外方に向かう方向成分(+y方向)とを有するエッジ方向に延びている。従って、第1及び第2エッジ部EG1、EG2は、カットレンズ10の自重や機械機構による−z方向への付勢力に応じて、レンズ側面11a、11bに対して矢印A1、B1で示す方向に力または回転モーメントを生じさせることができる。なお、カットレンズ10の載置時において、角度θの値が大きい場合、レンズ側面11a、11bは、エッジ部EG1、EG2の上端側に接した状態となり、角度θの値が小さい場合、レンズ側面11a、11bは、エッジ部EG1、EG2の下端側に接した状態となる。
【0032】
以上のように、第1及び第2エッジ部EG1、EG2は、カットレンズ10の光軸AZまわりであって時計回りに回転モーメントをレンズ側面11a、11bに与えてカットレンズ10を保持部110の第1及び第2側平面111a、111bの間に導く。なお、図3(A)の例では、カットレンズ10が紙面上反時計まわりの方向に回転ずれした状態となっているものとして説明しているが、カットレンズ10が紙面上時計まわりの方向に回転ずれしている場合には、第1及び第2側平面111a、111bの中央位置MAを挟んで第1及び第2エッジ部EG1、EG2とは反対側に位置する第3及び第4エッジ部EG3、EG4が、同様の作用を反対の回転方向に付与することで、反時計回りの回転モーメントをレンズ側面11a、11bに与えてカットレンズ10を保持部110の第1及び第2側平面111a、111bの間に導く。
【0033】
以上説明したように、レンズ用治具100は、カットレンズ10を2次元平面内で並進移動させてシフトずれの修正をするだけでなく、一対の第1ガイド部分101a、101b等によって、カットレンズ10を2次元平面内で回転移動させて回転ずれの修正をすることも可能である。これにより、レンズ用治具100は、カットレンズ10をレンズ用治具100中の保持部110内に正確に導き、収納することができる(図1(B)参照)。つまり、図1(A)等の両軸AX、AY及び交点AOが両基準軸BX、BY及び交点BOに一致するようにカットレンズ10を挿入させることができる。このため、カットレンズ10は、レンズ用治具100に装着された状態で、種々の光学装置へ組み付けることができるものとなる。
【0034】
また、上記のように、図2(A)または図3(A)において平面視した場合、第1乃至第4エッジ部EG1〜EG4は、いずれも、交点AO(BO)から半径Rの円CI内に収まっており、しかも、各エッジ部EG1〜EG4の延びる方向は、円CIに略沿っている。これにより、図3(A)に示すように、ガイド部101は、角度θの値に依らず矢印A1、B1に示す方向に一定の回転モーメントを与えることができる。例えば、図3(B)に示すように、第1乃至第4エッジ部EG1〜EG4が円CIの外側にある場合、カットレンズ10のうち、ストレートな側面であるレンズ側面11a、11b以外の部分である角部CRが第2及び第4テーパ面T2、T4上に接触してしまう可能性がある。この場合、矢印A1、B1で示す方向にはたらく力の方向は、角部CRの曲面形状や角度θの値に依存するため、一定とならない。従って、カットレンズ10の回転動作が円滑に行われず、位置合せを正確に行うことができない場合がある。さらに、この場合、カットレンズ10の角部CR等の表面に余分な力が掛かってこれを傷つけてしまう可能性もある。これに対して、本実施形態では、既述のように、レンズ側面11a、11bに一定の回転モーメントを与えることができるため、そのようなことが生じないものとなっている。
【0035】
以上のように、本実施形態に係るカットレンズ10用のレンズ用治具100は、特殊な器具等を用いる必要のない簡易な構造でありながらも、カットレンズ10の光学面等を傷つけることなくカットレンズ10の挿入時の位置ずれを的確に修正して、所定箇所に確実に収納させることができる。また、カットレンズ10のアライメントにおいて、斜め方向から挿入するといった特殊な動作を必要とせず、機械機構を用いて、自動的に収納動作を行うことも容易である。
【0036】
図4は、本実施形態に係るレンズ用治具100の変形例について示すものであり、図2(A)に対応する平面図である。なお、本変形例のレンズ用治具100は、一対の第1ガイド部分101a、101bの形状を除いて、図2(A)等に示すレンズ用治具100と同様であるので、その他の部分については説明を省略する。
【0037】
本変形例では、一対の第1ガイド部分101a、101bにおいて、図示のように、第1ガイド部分101a、101bの第2及び第4テーパ面T2´、T4´の中央部分CPが、中央側に向かってせり出した形状となっている。これにより、第2及び第4テーパ面T2´、T4´の形状は、いずれも中央部分CPでくびれた曲面となっている。この場合にも、各エッジ部分EG1〜EG4により、また、場合によってはこれらに加えて第2及び第4テーパ面T2´、T4´がさらに作用することより、カットレンズ10に回転モーメントが付与されて、載置時の回転ずれを的確に修正して、カットレンズ10を所定箇所である保持部110内に確実に収納することができる。
【0038】
以上、本実施形態に係るレンズ用治具100について説明したが、本発明に係るガラスレンズ用治具は上記のものには限られない。
【0039】
先ず、本実施形態では、合計4つのエッジ部EG1〜EG4を有するものとしているが、例えば、第1及び第2エッジ部EG1、EG2の2つのみで構成されていてもよい。この場合、カットレンズ10を載置する際に、予め反時計回りの方向に回転ずれする傾向を持たせ、カットレンズ10が時計回りの方向に回転ずれしないようにすればよい。
【0040】
また、逆に、エッジ部について、対称性を保つこと等により適切なモーメント付与が維持できれば、エッジ部の数については、4つに限らずこれ以上あってもよい。
【0041】
また、本実施形態では、回転付与部として機能する1つのエッジ部を、2つのテーパ面の交差部分にわずかな曲面をもたせた凸形状のものとして形成しているが、テーパ面を前提としないさらになだらかな曲面によって回転付与部としてのエッジ部を形成してもよい。
【0042】
また、本実施形態では、Iカットレンズであるカットレンズ10に対応するレンズ用治具100としているが、レンズ用治具100に保持する対象は、Iカットレンズに限らず、一対のストレート側面を有する種々の光学素子とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(A)、(B)は、本実施形態に係るレンズ用治具及びこれに対応するレンズについて説明する斜視図である。
【図2】(A)〜(C)は、レンズ用治具に収納された状態のカットレンズの様子を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図3】(A)、(B)は、カットレンズの収納動作について説明するための模式的な平面図とその比較図である。
【図4】レンズ用治具の変形例について模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0044】
10…カットレンズ、 11a、11b…レンズ側面、 AX、AY…軸、 AO…交点、 AZ…光軸、 100…レンズ用治具、 110…保持部、 111a、111b…側平面、 SS…支持面(基準面)、 101…ガイド部、 101a、101b…第1ガイド部分、 102a、102b…第2ガイド部分、 T1〜T6…テーパ面、 EG1〜EG4…エッジ部、 120…枠体、 BX、BY…基準軸、 BO…交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持の対象であるカットレンズの一対の平行なレンズ側面に対応する第1及び第2側平面を有し、当該第1及び第2側平面の間に前記カットレンズを保持する保持部と、
前記保持部の外方側であって上方側に配置され、前記カットレンズの光軸まわりの回転モーメントを前記レンズ側面に与えて前記カットレンズを前記第1及び第2側平面の間に導く回転付与部を有するガイド部と
を備えることを特徴とするレンズ用治具。
【請求項2】
前記回転付与部は、前記第1及び第2側平面の外側にそれぞれ近接して形成される凸状の第1及び第2エッジ部を有し、
前記第1エッジ部は、対応する前記第1側平面の中央位置から一方の端部までの間に設けられた所定の起点を基準として、上方に向かう方向成分と、中央位置側に向かう方向成分と、外方に向かう方向成分とを有するエッジ方向に延び、
前記第2エッジ部は、対応する前記第2側平面の中央位置から前記第1側平面の一方の端部とは反対側に位置する他方の端部までの間に設けられた所定の起点を基準として、上方に向かう方向成分と、中央位置側に向かう方向成分と、外方に向かう方向成分とを有するエッジ方向に延びることを特徴とする請求項1に記載のレンズ用治具。
【請求項3】
前記回転付与部は、前記第1側平面の中央位置を挟んで前記第1エッジ部の反対側において前記第1側平面の外側に近接して配置され前記第1エッジ部とは反対の回転モーメントを前記レンズ側面に与える第3エッジ部と、前記第2側平面の中央位置を挟んで前記第2エッジ部の反対側において前記第2側平面の外側に近接して配置され前記第2エッジ部とは反対の回転モーメントを前記レンズ側面に与える第4エッジ部とを有することを特徴とする請求項2に記載のレンズ用治具。
【請求項4】
前記第1エッジ部は、第1傾斜面と第2傾斜面との交差部分により形成され、
前記第1傾斜面は、前記第1及び第2側平面の延びる方向に平行な第1基準軸の軸方向に垂直な面を前記第1及び第2側平面の法線方向に延びる第2基準軸のまわりに軸回転させることで所定角度傾斜して配置され、前記第2傾斜面は、前記第2基準軸の軸方向に垂直な面を前記第1基準軸のまわりに軸回転させることで所定角度傾斜して配置され、
前記第2エッジ部は、第3傾斜面と第4傾斜面との交差部分により形成され、
前記第3傾斜面は、前記第1基準軸の軸方向に垂直な面を前記第2基準軸のまわりに軸回転させることで所定角度傾斜して配置され、前記第4傾斜面は、前記第2基準軸の軸方向に垂直な面を前記第1基準軸のまわりに軸回転させることで所定角度傾斜して配置されることを特徴とする請求項2及び請求項3のいずれか一項記載のレンズ用治具。
【請求項5】
前記第1乃至第4傾斜面の傾斜角度は、いずれも20°以下であることを特徴とする請求項4に記載のレンズ用治具。
【請求項6】
前記回転付与部は、前記保持部の中心位置を通って上下方向に延びる中心軸を中心とし前記カットレンズの光軸を通る中心位置から前記カットレンズのストレート終点までの長さを半径とする円柱領域内に存在することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のレンズ用治具。
【請求項7】
前記ガイド部は、前記保持部に保持された前記カットレンズの一対の前記レンズ側面間をつなぐ曲側面に沿って上方に延びるすり鉢状曲面を有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のレンズ用治具。
【請求項8】
前記回転付与部は、前記保持部の中心位置を通って上下方向に延びる中心軸を中心として回転対称に配置されることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のレンズ用治具。
【請求項9】
前記保持部は、前記レンズ側面の下方側において前記カットレンズを支持する支持面を有することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のレンズ用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−156788(P2010−156788A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334349(P2008−334349)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】