説明

レンダリングプログラム、レンダリング装置、及びレンダリング方法

【課題】立体モデル表面を質感がリアルに再現された布で表示することができるレンダリングプログラム、レンダリング装置、及びレンダリング方法を提供する。
【解決手段】反射特性測定装置10は、現物の糸T2の反射光を受光し、糸T2の反射光のエネルギーを示す反射特性を測定する。修正部106は現物の糸の反射特性と、反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように、パラメータフィッティングを用いて、鏡面反射係数K、光沢係数p、並びに第1及び第2の拡散反射係数Kd1,Kd2を算出する。レンダリング部107は、係数が算出された反射関数と、起毛処理された布をモデルとするテクスチャとを用いて立体モデルをレンダリングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮想3次元空間内で予め作成された立体モデルに布のテクスチャを貼り付け、前記立体モデルをレンダリングするレンダリングプログラム、レンダリング装置、及びレンダリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータグラフィックスの分野では、光線方向及び視線方向と反射光との関係を定める反射関数を用いて立体モデルをレンダリングすることが一般的になされている。ここで、毛皮等の反射関数として、カジヤ−ケイモデルが知られている。
【0003】
式(A)〜(C)は、カジヤ−ケイモデルを示している。また、図20は、カジヤ−ケイモデルを説明するための図である。
【0004】
I=I+I (A)
=K・S・cos[acos{L*(−T)}−acos(V*T)] (B)
=K・sin(acos(L*T)) (C)
I:反射光のエネルギー
:反射光のうち鏡面反射成分のエネルギー
:反射光のうち拡散反射成分のエネルギー
p:反射光の拡がりを示す係数
:鏡面反射成分のエネルギーをコントロールするための係数
:拡散反射成分のエネルギーをコントロールするための係数
L:光線方向を示す単位ベクトル
V:視点の方向を示す単位ベクトル
T:繊維方向を示す単位ベクトル
このように、カジヤ−ケイモデルにおいては、視線方向、繊維方向、及び光線方向等を設定することで、反射光のエネルギーを得ることができる。
【非特許文献1】J.Kajiya,T.Kay,"Rendering fur with three dimensional textures"(3次元テクスチャを使用した毛皮のレンダリング)、proceedings of SIGGRAPH(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カジヤ−ケイモデルにおいては、光源及び視線方向を変化させて現物の糸の反射光を測定することで得られる糸の反射特性に基づいて係数K,Kを定めることがなされていないため、糸の質感をリアルに再現することが困難であった。また、カジヤ−ケイモデルは、立毛された長い繊維から構成される毛皮のようなファブリックを対象にしており、起毛処理のなされた布の質感をリアルに再現することは困難であった。
【0006】
本発明の目的は、立体モデル表面を質感がリアルに再現された布で表示することができるレンダリングプログラム、レンダリング装置、及びレンダリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるレンダリングプログラムは、仮想3次元空間内で予め作成された立体モデルをレンダリングするレンダリングプログラムであって、前記立体モデルを取得するモデル取得手段と、布の表面形状を表す高さ情報と、布を構成する糸の繊維方向を示す繊維方向情報とを含み、前記立体モデルの表面に貼り付けられる布のテクスチャを取得するテクスチャ取得手段と、仮想3次元空間内における光線方向、視線方向、及び前記繊維方向情報により示される繊維方向に応じた糸の反射光のエネルギーを表す反射関数と前記テクスチャとを用いて前記立体モデルをレンダリングするレンダリング手段と、光線方向及び視線方向を変化させて現物の糸の反射光のエネルギーを測定することで得られる現物の糸の反射特性を取得する反射特性取得手段と、前記反射特性取得手段により取得された反射特性と、前記反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように前記反射関数を修正する修正手段としてコンピュータを機能させ、前記レンダリング手段は、前記修正手段により修正された前記反射関数を用いて前記立体モデルをレンダリングすることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明によるレンダリング装置は、仮想3次元空間内で予め作成された立体モデルをレンダリングするレンダリング装置であって、前記立体モデルを取得するモデル取得手段と、布の表面形状を表す高さ情報と、布を構成する糸の繊維方向を示す繊維方向情報とを含み、前記立体モデルの表面に貼り付けられる布のテクスチャを取得するテクスチャ取得手段と、仮想3次元空間内における光線方向、視線方向、及び前記繊維方向情報に応じた糸の反射光のエネルギーを表す反射関数と前記テクスチャとを用いて前記立体モデルをレンダリングするレンダリング手段と、光線方向及び視線方向を変化させて現物の糸の反射光のエネルギーを測定することで得られる現物の糸の反射特性を取得する反射特性取得手段と、前記反射特性取得手段により取得された反射特性と前記反射関数から得られる糸の反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように前記反射関数を修正する修正手段とを備え、前記レンダリング手段は、前記修正手段により修正された反射関数を用いて前記立体モデルをレンダリングすることを特徴とする(請求項9)。
【0009】
本発明によるレンダリング方法は、仮想3次元空間内で予め作成された立体モデルをレンダリングするレンダリング方法であって、コンピュータが、前記立体モデルを取得するステップと、コンピュータが、布の表面形状を表す高さ情報と、布を構成する糸の繊維方向を示す繊維方向情報とを含み、前記立体モデルの表面に貼り付けられる布のテクスチャを取得するステップと、コンピュータが、仮想3次元空間内における光線方向、視線方向、及び前記繊維方向情報に応じた糸の反射光のエネルギーを表す反射関数と前記テクスチャとを用いて前記立体モデルをレンダリングするステップと、コンピュータが、光線方向及び視線方向を変化させて現物の糸の反射光のエネルギーを測定することで得られる現物の糸の反射特性を取得するステップと、コンピュータが、前記反射特性取得手段により取得された反射特性と前記反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように前記反射関数を修正するステップとを備え、前記レンダリングするステップは、前記修正手段により修正された反射関数を用いて前記立体モデルをレンダリングすることを特徴とする(請求項10)。
【0010】
これらの構成によれば、光線方向及び視線方向を変化させて現物の糸の反射光を測定することで得られる糸の反射特性が取得され、取得された反射特性と糸の反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように反射関数が修正され、修正された反射関数と布のテクスチャとを用いて立体モデルがレンダリングされる。そのため、反射関数が実際の糸の反射特性をよりリアルに表すことが可能となり、質感がリアルに再現された布で立体モデル表面を表示することができる。
【0011】
また、前記反射関数は、糸の鏡面反射光のエネルギーを示す鏡面反射成分と、糸の拡散反射光のうち糸の繊維方向を考慮した拡散反射光のエネルギーを示す第1の拡散反射成分と、糸の拡散反射光のうち糸の繊維方向を考慮しない拡散反射光のエネルギーを示す第2の拡散反射成分とを含み、前記鏡面反射成分は、前記光線方向、前記視線方向、及び前記繊維方向により定められる変数部と、前記変数部にかかる鏡面反射係数と、鏡面反射光のエネルギーの分布の拡がりを示す光沢係数とを含み、前記第1の拡散反射成分は、前記光線方向及び前記繊維方向により定められる変数部と、前記変数部にかかる第1の拡散反射係数とを含み、前記第2の拡散反射成分は、前記光線方向、及び糸の法線方向により定められる変数部と、前記変数部にかかる第2の拡散反射係数とを含み、前記修正手段は、前記反射特性取得手段により取得された反射特性と、前記反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように、前記鏡面反射係数と、前記光沢係数と、前記第1の拡散反射係数と、前記第2の拡散反射係数とのうち、少なくともいずれか1つの係数を算出することが好ましい(請求項2)。
【0012】
この構成によれば、反射関数は、糸の拡散反射光のうち糸の繊維方向を考慮した拡散反射光を示す第1の拡散反射成分と、糸の繊維方向を考慮しない拡散反射光を示す第2の拡散反射成分とを含んでいるため、反射関数は、現物の糸の反射特性をよりリアルに再現することが可能となり、立体モデルの表面に表示される布をよりリアルに再現することができる。また、現物の糸の反射特性と反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように、鏡面反射成分に含まれる鏡面反射係数と、光沢係数と、第1及び第2の拡散反射成分に含まれる第1及び第2の拡散反射係数とが算出されるため、反射関数は、現物の糸の反射特性をよりリアルに再現することができる。
【0013】
また、前記修正手段は、前記反射関数から得られる反射光のエネルギーの分布の合計が、入射するエネルギーと等しくなるように、前記鏡面反射係数、前記第1の拡散反射係数、及び前記第2の拡散反射係数を規格化することが好ましい(請求項3)。
【0014】
この構成によれば、鏡面反射係数、第1及び第2の拡散反射係数が規格化されるため、反射関数に任意の色を取り込んだ場合であっても、反射関数は布の質感をリアルに表すことができる。
【0015】
また、前記テクスチャは、起毛処理された糸を構成する繊維の密度を示す繊維密度情報を含み、前記反射関数は、前記繊維密度情報に基づいて、起毛処理された糸を構成する繊維によって散乱する反射光のエネルギーを算出する立毛反射成分を更に含むことが好ましい(請求項4)。
【0016】
この構成によれば、反射関数は、立毛反射成分を含んでいるため、立体モデルの表面において、起毛処理された布をリアルに再現することができる。
【0017】
また、前記レンダリング手段は、前記繊維密度情報が低い箇所ほど、鏡面反射光のエネルギーの分布が拡がるように前記光沢係数を補正することが好ましい(請求項5)。
【0018】
この構成によれば、繊維密度情報の低い箇所ほど、鏡面反射光のエネルギーの分布が広がるように、光沢係数が補正されるため、立体モデルの表面において、起毛処理された布をよりリアルに再現することができる。
【0019】
また、前記鏡面反射成分は、糸を構成する繊維の表面において、光源からの光が到達しない遮蔽領域が存在することに起因する鏡面反射光のエネルギーの低下を再現するための遮蔽補正係数を更に含み、前記レンダリング手段は、前記遮蔽補正係数を含む鏡面反射成分を用いてレンダリングすること好ましい(請求項6)。
【0020】
この構成によれば、鏡面反射成分は遮蔽補正係数を含むため、糸を構成する繊維の表面において、光源からの光が届かないことによる鏡面反射光の低下を再現することができる。
【0021】
また、前記立体モデルの色を指定するための色情報を取得する色情取得手段を更に備え、前記レンダリング手段は、前記色情報取得手段によって取得された色情報を用いて前記立体モデルをレンダリングすることが好ましい(請求項7)。
【0022】
この構成によれば、立体モデルの表面における布の色をユーザが所望する色に変更することができる。
【0023】
また、前記起毛処理された繊維の向きに偏りを与えて繊維を摂動させるための摂動設定情報を取得する摂動設定情報取得手段を更に備え、前記レンダリング手段は、前記摂動設定情報が取得された場合、立体モデル表面の所定の領域において起毛処理された繊維の向きに所定の偏りを与えることが好ましい(請求項8)。
【0024】
この構成によれば、立体モデル表面の所定の領域において、起毛処理された繊維の向きに所定の偏りが付与されて繊維が摂動されるため、よりリアルなレンダリングを実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、反射関数が実際の糸の反射特性をよりリアルに表すことが可能となり、質感がリアルに再現された布を立体モデルの表面に表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の実施の形態によるレンダリング装置のハードウェア構成を示すブロック図である。本レンダリング装置は、通常のコンピュータ等から構成され、入力装置1、ROM(リードオンリメモリ)2、CPU(中央演算処理装置)3、RAM(ランダムアクセスメモリ)4、外部記憶装置5、表示装置6、記録媒体駆動装置7、インターフェイス部(I/F)部9、及びGPU(画像演算処理装置)11を備える。入力装置1、ROM2、CPU3、RAM4、外部記憶装置5、GPU11、記録媒体駆動装置7、及びI/F部9は内部のバスに接続され、このバスを介して種々のデータ等が入出され、CPU3の制御の下、種々の処理が実行される。
【0027】
入力装置1は、キーボード、マウス等から構成され、ユーザが種々のデータを入力するために使用される。ROM2には、BIOS(Basic Input/Output System)等のシステムプログラムが記憶される。外部記憶装置5は、ハードディスクドライブ等から構成され、所定のOS(Operating System)及びレンダリングプログラム等が記憶される。CPU3は、外部記憶装置5からOS等を読み出し、各ブロックの動作を制御する。RAM4は、CPU3の作業領域等として用いられる。
【0028】
表示装置6は、液晶表示装置等から構成され、GPU11の制御の下に種々の画像を表示する。記録媒体駆動装置7は、CD−ROMドライブ、フレキシブルディスクドライブ等から構成される。
【0029】
なお、レンダリングプログラムは、CD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体8に格納されて市場に流通される。ユーザはこの記録媒体8を記録媒体駆動装置7に読み込ませることで、レンダリングプログラムをコンピュータにインストールする。また、レンダリングプログラムをインターネット上のサーバに格納し、このサーバからダウンロードすることで、レンダリングプログラムをコンピュータにインストールしてもよい。
【0030】
I/F部9は、例えばUSBインターフェイスから構成され、反射特性測定装置10とレンダリング装置との入出力インターフェイスを行う。
【0031】
反射特性測定装置10は、例えば特開2004−152015号公報に開示されたシェーディング情報取得装置から構成され、試料を載置する試料テーブルと、試料に対して光を照射する光源と、試料の反射光を受光するカメラとを備え、光源及び試料を結ぶ光線方向と、カメラ及び試料を結ぶ視線方向とを変更しながら、試料の反射光のエネルギーを測定し、試料の反射特性を取得する装置である。GPU11は、CPU3の制御の下、本レンダリング装置における画像処理を主に実行し、処理結果を表示装置6に表示させる。
【0032】
図2は、図1に示すレンダリング装置の機能ブロック図を示している。レンダリング装置は、処理部100、記憶部200、入力部300、及び表示部400を備えている。処理部100は、GPU11から構成され、モデル取得部101、テクスチャ取得部102、色情報取得部103、摂動設定情報取得部104、反射特性取得部105、修正部106、レンダリング部107、及び表示制御部108の機能を備える。これらの機能はGPU11がレンダリングプログラムを実行することで実現される。
【0033】
モデル取得部101は、入力部300により受け付けられたユーザからの操作入力に従って、レンダリング対象となる立体モデルを取得し、モデル記憶部201に記憶させる。ここで、立体モデルは、モデリングソフトウェアを用いて仮想3次元空間内で予め作成されたある物体の立体モデルである。
【0034】
テクスチャ取得部102は、入力部300により受け付けられたユーザからの操作入力に従って、レンダリング対象となる立体モデルの表面に貼り付けられる布のテクスチャを取得し、テクスチャ記憶部202に記憶させる。図3は、本レンダリング装置が使用するテクスチャのモデルとなる現物の布を示した断面図である。図3に示すように、テクスチャのモデルとなる布は、織り又は編み構造を有する平板上の地組織部の表面において、起毛処理が施された布である。ここで、布の表面に起毛処理が施されると、起毛処理された糸の撚りがほどけ、糸を構成する繊維が地組織部の上方に向けて延び、布表面が毛羽立った状態になる。
【0035】
図4は、テクスチャのデータ構造を示す模式図である。図4に示すようにテクスチャは、布表面の位置を表す各々直交するu,v軸上に、N行、M列に配列された複数の矩形領域D1の各々の内部の所定の位置(例えば重心)に位置するサンプル点C1の座標と、各サンプル点C1に関連付けられたテクスチャ情報とから構成されている。テクスチャ情報には、高さ情報、繊維密度情報、繊維方向情報、及び法線方向情報が含まれている。ここで、矩形領域D1のサイズは、例えば起毛処理された糸T1が所定本数(例えば1本)含まれる程度のサイズ(例えば数ミクロンオーダーのサイズ)を有している。
【0036】
高さ情報は、各サンプル点C1における起毛処理された糸T1の高さ、すなわち、u−v平面に直交する高さ方向を示すw軸における糸T1の先端の位置を示す。
【0037】
繊維密度情報は、矩形領域D1内において地組織部の上方に向けて起毛処理された糸T1の密度を示す。具体的には、繊維密度情報は、矩形領域D1の面積に対する糸T1を構成する繊維f1の断面積の割合を示す。
【0038】
繊維方向情報は、矩形領域D1内における糸の方向を示す単位ベクトルである。地組織部の上方に向けて起毛処理された糸T1の繊維方向情報は、糸T1を構成する繊維f1の方向を示す単位ベクトルとなる。具体的には、糸T1の繊維方向情報は、矩形領域D1内に存在する各繊維f1の方向を示す単位ベクトルの代表値(例えば平均値)が採用される。また、起毛処理が施された糸T1が存在しない矩形領域D11においては、繊維方向情報は地組織部の縦糸TT1の長手方向を示す単位ベクトルとなる。法線方向情報は、矩形領域D1内における糸の法線方向を示す単位ベクトルである。
【0039】
色情報取得部103は、入力部300により受け付けられたユーザからの操作入力に従って、立体モデル表面の色を指定するための色情報を取得する。
【0040】
摂動設定情報取得部104は、入力部300により受け付けられたユーザからの操作入力に従って、起毛処理された糸を構成する繊維の向きに偏りを与えて繊維を摂動させるための摂動設定情報を取得する。
【0041】
反射特性取得部105は、反射特性測定装置10において測定された現物の糸の反射特性を取得し、反射特性記憶部203に記憶させる。
【0042】
修正部106は、反射特性記憶部203から現物の糸の反射特性を読み出し、読み出した現物の糸の反射特性と、反射関数記憶部204に記憶された糸の反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように、パラメータフィッティングを用いて反射関数を修正する。
【0043】
すなわち、反射関数記憶部204に記憶される反射関数は、仮想3次元空間内における光線方向、視線方向、及び繊維方向に応じた糸の反射光のエネルギーを表す関数であり、糸の鏡面反射光のエネルギーを示す鏡面反射成分と、糸の拡散反射光のうち糸の繊維方向を考慮した拡散反射光のエネルギーを示す第1の拡散反射成分と、糸の拡散反射光のうち糸の繊維方向を考慮しない拡散反射光のエネルギーを示す第2の拡散反射成分と、起毛処理された糸T1を構成する繊維f1よって散乱する反射光のエネルギーを示す立毛反射成分とを含む。
【0044】
ここで、鏡面反射成分は、光線方向、視線方向、及び繊維方向により定められる変数部と、変数部にかかる鏡面反射係数と、前記鏡面反射光のエネルギーの分布の拡がりを示す光沢係数とを含む。第1の拡散反射成分は、光線方向及び繊維方向により定められる変数部と、変数部にかかる第1の拡散反射係数とを含む。第2の拡散反射成分は、光線方向、及び糸の法線方向により定められる変数部と、前記変数部にかかる第2の拡散反射係数とを含む。
【0045】
具体的には、反射関数は式(1)によって表される。
【0046】
I=I+Id1+Id2+W (1)
ここで、Iは鏡面反射成分を示し、Id1は第1の拡散反射成分を示し、Id2は第2の拡散反射成分を示し、Wは立毛反射成分を示す。
【0047】
式(1)に示す鏡面反射成分Iは、式(2)によって表される。
【0048】
=K・S・cos[acos{L*(−T)}−acos(V*T)] (2)
式(2)に示すKは鏡面反射係数を示し、Lは光線方向を示し、Vは視線方向を示し、Tは繊維方向を示し、”*”はベクトルの内積を示す。Sは光源からの光が到達しない遮蔽領域が存在することに起因する鏡面反射光のエネルギーの低下を再現するための遮蔽補正係数であり、式(3)により表される。
【0049】
S=1−(1/π)・acos[{(L−(L*T)T)/|L−(L*T)T|}*{(V−(V*T)T)/|V−(V*T)T|}] (3)
図5は遮蔽補正係数の説明図である。繊維f1は円筒形状を有しているため、視点から繊維f1を見ることが可能な繊維f1の表面上の領域R1内において光源からの光が到達する到達領域R2と光が到達しない遮蔽領域R3が発生する結果、鏡面反射光のエネルギーが低下してしまう。そこで、本レンダリング装置では、この鏡面反射成分のエネルギーの低下を再現するために、繊維f1の断面を円形と仮定し、領域R1の大きさに対する到達領域R2の大きさの割合を表す遮蔽補正係数Sを鏡面反射成分Iに含ませている。
【0050】
式(2)に示すpは、光沢の拡がりを表す光沢係数を示し、修正部106によるパラメータフィッティングによって求められる。
【0051】
式(1)に示す第1の拡散反射成分Id1は、式(4)によって表される。
【0052】
d1=Kd1・sin(acos(L*T)) (4)
式(4)に示すKd1は第1の拡散反射係数を示す。
【0053】
式(1)に示す第2の拡散反射成分Id2は式(5)によって表される。
【0054】
d2=Kd2・(L*N) (5)
式(5)に示す、Kd2は第2の拡散反射係数を示す。また、Nは糸の法線方向を示す単位ベクトルである。
【0055】
式(1)に示す立毛反射成分Wは、式(6)によって表される。
【0056】
W=(d/N*V)・(L*N) (6)
式(6)に示すdは繊維密度を示し、テクスチャに含まれる繊維密度情報が代入される。図19は、立毛反射成分Wの説明図である。起毛処理された糸T1は、複数本の散らばった繊維f1から構成されているため、多くの箇所で光源からの光が反射され、反射光が散乱する。そこで、この反射光の散乱を再現するために、本レンダリング装置は、反射関数に立毛反射成分Wを含ませている。
【0057】
そして、修正部106は、反射関数が、現物の糸の反射特性を得るように、パラメータフィッティングを用いて、鏡面反射係数Kと、光沢係数pと、第1の拡散反射係数Kd1と、第2の拡散反射係数Kd2とを算出する。
【0058】
なお、修正部106は、鏡面反射係数Kと、光沢係数pと、第1の拡散反射係数Kd1と、第2の拡散反射係数Kd2とのうち、少なくとも1つの係数を算出するようにしてもよい。この場合、設定対象とならない係数に対しては予め定められた値を設定し、設定対象となる係数をパラメータフィッティングにより求めればよい。
【0059】
また、修正部106は、仮想3次元空間内の所定の位置にエネルギーが1の光を出力する光源を配置したときにおける反射関数から得られる反射光のエネルギーの分布の合計が1となるように、鏡面反射係数Kと、第1の拡散反射係数Kd1と、第2の拡散反射係数Kd2とを規格化し、規格化した鏡面反射係数Kと、第1の拡散反射係数Kd1と、第2の拡散反射係数Kd2とを色情報を取り込んだ反射関数の係数として設定する。
【0060】
ここで、色情報を取り込んだ反射関数は式(7)で表される。
【0061】
I=F・I+CRGB・(1−F)I+CRGB・Id1+CRGB・Id2+W (7)
式(7)に示すFはフレネルの公式を示し、式(8)によって表される。
【0062】
F=(1/2)・(tan(θ1−θ2)/tan(θ1+θ2)+sin(θ1−θ2)/sin(θ1+θ2)) (8)
式(8)に示すθ1は入射角を示し、θ2は屈折角を示し、予め定められた値が採用されている。
【0063】
式(7)に示すCRGBは立体モデルに付される色情報を示し、R,G,Bの3つ色成分からなり、立体モデルに貼り付けられるテクスチャの色情報、又は色情報取得部103により取得された色情報が採用される。CRGBは、R,G,Bの3つ色成分からなるため、式(7)のIは、R,G,Bの3つの色成分からなる。
【0064】
レンダリング部107は、修正部106により係数が算出された式(7)に示す反射関数と、色情報取得部103により取得された色情報又はデフォルトの色情報と、テクスチャ記憶部202に記憶されたテクスチャとを用いて、モデル記憶部201に記憶された立体モデルをレンダリングする。
【0065】
表示制御部108は、レンダリング部107でレンダリングされた立体モデルを表示部400に表示する。
【0066】
記憶部200は、図1に示すGPU11が備えるRAM、及び外部記憶装置5等から構成され、モデル記憶部201、テクスチャ記憶部202、反射特性記憶部203、反射関数記憶部204、及び摂動情報記憶部205を備える。モデル記憶部201は、モデル取得部101により取得された立体モデルを記憶する。テクスチャ記憶部202は、テクスチャ取得部102により取得されたテクスチャを記憶する。反射特性記憶部203は、反射特性取得部105により取得された現物の糸の反射特性を記憶する。反射関数記憶部204は、式(1)及び式(7)に示す反射関数を記憶する。
【0067】
摂動情報記憶部205は、摂動させる糸の立体モデル表面の位置(摂動位置)と、各摂動位置において起毛処理された糸の向きの修正すべき方向を示す摂動ベクトルとが関連付けられた摂動情報を記憶する。ここで、摂動位置及び摂動ベクトルは立体モデルの表面に貼り付けられるテクスチャのモデルとなる実際の布の特性に応じて予め定められた位置及び方向が採用されている。
【0068】
入力部300は、図1に示す入力装置1から構成され、立体モデル、テクスチャ、色情報、及び摂動設定情報等を設定するためのユーザからの操作入力を受け付ける。
【0069】
表示部400は、図1に示す表示装置6から構成され、レンダリング部107によりレンダリングされた立体モデルを表示する。
【0070】
図6は、本レンダリング装置による反射関数に含まれる係数を算出する処理を示すフローチャートである。まず、ステップS1において、反射特性測定装置10は、試料テーブルに載置された現物の糸に光を照射し、光線方向と視線方向とを変更しながら、糸の反射光のエネルギーを測定する。
【0071】
図7は、試料載置テーブルに載置された現物の糸T2を示した図である。図7に示すように糸T2は、円盤状のボビンに複数巻回されている。反射特性測定装置10は、この巻回された糸T2に光を照射し、反射光を受光し、糸T2のエネルギーを取得する。ここで、ボビンに巻回された糸T2の長手方向を糸縦方向とし、糸縦方向と直交する方向を糸横方向とする。
【0072】
図8は、反射特性測定装置10による糸T2の測定手法の説明図であり、(a)はカメラと光源とのなす方位角が180度の場合を示し、(b)はカメラと光源との方位角が0度の場合を示している。まず、反射特性測定装置10は、図8(a)に示すように、カメラと光源との方位角を180度に保ち、糸T2に対するカメラの仰角を30度に設定し、糸T2に対する光源の仰角0度から90度まで所定の分解能で変更し、光源の角度が変更される毎に、カメラに糸T2を撮影させる。ここで、光源とカメラとの方位角は、光源とカメラとを結ぶ直線の向きが、糸縦方向を向くように設定される。
【0073】
次に、反射特性測定装置10は、カメラの仰角を45度に設定し、光源の仰角を0度から90度まで所定の分解能で変更し、カメラに糸T2を撮影させる。次に、反射特性測定装置10は、カメラの仰角を60度に設定し、光源の仰角を0度から90度まで所定の分解能で変更し、カメラに糸T2を撮影させる。
【0074】
次に、反射特性測定装置10は、図8(b)に示すように、カメラと光源との方位角を0度に設定し、方位角が180度である場合と同様にして、光源とカメラとの仰角を変更し、カメラに糸T2を撮影させる。ここで、カメラと光源との方位角は、カメラと光源とを結ぶ直線の向きが、糸縦方向を向くように設定される。
【0075】
このように、反射特性測定装置10は、光源とカメラとの方位角、並びに光源及びカメラの仰角を変更して糸T2を撮影し、カメラが受光する糸T2の反射光を受光し、糸T2の反射光特性を測定する。
【0076】
図9は、反射特性測定装置10において測定された糸T2の反射特性を示すグラフであり、縦軸はエネルギーを示し、横軸は方位角、並びにカメラ及び光源の仰角を示している。図9に示すように、カメラと光源との方位角が180度の場合、カメラの仰角を一定にして、光源の仰角を変更していくと、反射光のエネルギーは上に凸のほぼ曲線状の急峻なカーブを描いて変化することが分かる。一方、カメラと光源との方位角が0度の場合、カメラの仰角を一定にして、光源の仰角を変更していくと、反射光のエネルギーは単調に増加することが分かる。
【0077】
図6に示すステップS2において、反射特性取得部105は、反射特性測定装置10により測定された糸T2の反射特性を取得し、反射特性記憶部203に記憶させる。次に、修正部106は、式(1)に示す反射関数から得られる反射光のエネルギーと、糸T2の反射特性との誤差が最小となるように、パラメータフィッティングを用いて、鏡面反射係数Kと、光沢係数pと、第1の拡散反射係数Kd1と、第2の拡散反射係数Kd2とを算出する(ステップS3)。
【0078】
ここで、修正部106は、繊維密度を示すdに予め定められた値を設定し、光線方向L、視線方向V、法線方向Nを変化させたときの、式(1)に示す反射関数から得られる反射光のエネルギーと、反射特性取得部105により取得された反射特性との誤差の二乗和が最小となるような鏡面反射係数Kと、光沢係数pと、第1の拡散反射係数Kd1と、第2の拡散反射係数Kd2とを算出する。
【0079】
次に、修正部106は、仮想3次元空間内の所定の位置にエネルギーが1の光を出力する光源を配置したときにおける反射関数の視線方向毎の反射光のエネルギーの合計が1となるように、鏡面反射係数Kと、第1の拡散反射係数Kd1と、第2の拡散反射係数Kd2とを規格化する(ステップS4)。図10は、係数の規格化の説明図である。図10に示すように、仮想3次元空間内の所定の位置(例えば、注目点CPの真上)に光源を設定し、注目点CPに所定レベル(例えば1)のエネルギーを入射させ、光源とカメラとの方位角を0度から360度まで変化させると共に、カメラの仰角を0度から90度まで変化させたときにおける式(1)に示す反射関数のエネルギーの分布の合計が、注目点CPに入射するエネルギーと等しくなるように鏡面反射係数Kと、第1の拡散反射係数Kd1と、第2の拡散反射係数Kd2とを規格化する。
【0080】
次に、修正部106は、ステップS4で求めた係数を式(7)に示すI、Id1、Id2に代入し、色情報を取り込んだ反射関数の係数を設定する(ステップS5)。
【0081】
次に、本レンダリング装置によるレンダリング処理について説明する。図11は、本レンダリング装置によるレンダリング処理を示すフローチャートである。まず、ステップS11において、入力部300により、ユーザから立体モデル表面の色を指定する色情報の操作入力が受け付けられた場合(ステップS11でYES)、色情報取得部103は、色情報を取得してレンダリング部107に渡し、レンダリング部107は、式(7)に示す反射関数のCRGBに取得された色情報を代入し、色情報を設定する(ステップS13)。
【0082】
一方、入力部300により、ユーザから立体モデル表面の色を指定する色情報の操作入力が受け付けられない場合(ステップS11でNO)、処理がステップS12に進められる。この場合、レンダリング部107は、式(7)のCRGBに予め設定されている色情報を設定する。
【0083】
次に、入力部300により、摂動設定情報の操作入力が受け付けられた場合(ステップS12でYES)、摂動設定情報取得部104は、摂動設定情報を取得する(ステップS14)。ここで、表示制御部108は、ユーザに摂動設定情報を入力させるための操作ボタン等を表示部400に表示させ、この操作ボタンをマウスでクリックさせる等して摂動設定情報を入力させる。
【0084】
次に、レンダリング部107は、モデル記憶部201から立体モデルを読み出し、読み出した立体モデルに、テクスチャ記憶部202に記憶されたテクスチャをバンプマッピングする(ステップS15)。図12は、レンダリング部107によりバンプマッピングされた立体モデルを示している。図12に示すように、レンダリング部107は、立体モデル表面にテクスチャを貼り付けて、立体モデル表面にサンプル点C1を設定し、サンプル点C1に、底面の中心が位置するように一定の断面積を有する円筒を糸T1として設定する。ここで、糸T1の長手方向の長さは、サンプル点C1における高さ情報から定められ、糸T1の繊維方向Tは、サンプル点C1における繊維方向情報から定められる。
【0085】
また、レンダリング部107は、摂動設定情報取得部104により摂動設定情報が取得された場合、摂動情報記憶部205から摂動情報を読み出し、読み出した摂動情報に従って、糸T1の繊維方向Tを修正する。具体的には、レンダリング部107は、起毛処理された糸T1が摂動情報により摂動位置として指定されている場合は、当該糸T1の繊維方向に、当該摂動位置に関連付けられた摂動ベクトルを合成し、当該糸T1の向きを修正する。
【0086】
図11に示すステップS16において、レンダリング部107は、表面に糸T1を設定した立体モデルの反射光のエネルギーの算出処理を実行する。図13は、エネルギーの算出処理を示すフローチャートである。まず、ステップS31において、仮想3次元空間内に仮想スクリーンを設定し、仮想スクリーンを構成する複数の画素の中から1つの画素を注目画素として設定する(ステップS31)。図14は、仮想3次元空間内に設定された仮想スクリーンを示す図である。図14に示すように、仮想スクリーンは、所定行×所定列に格子状に配列された画素から構成されている。レンダリング部107は、仮想スクリーンに含まれる複数の中から1つの画素を注目画素SCPとして、例えば仮想スクリーン上の左上の頂点の画素から右下の頂点の画素に向けて順次設定する。
【0087】
次に、レンダリング部107は、注目画素SCPと仮想3次元空間内に予め設定された視点とを結ぶ直線の延長線L21上に立体モデルが存在するか否かを判定し、延長線L21上に立体モデルが存在すると判定した場合は、立体モデル表面と延長線L21との交点を注目点CPとして設定する(ステップS32)。
【0088】
次に、レンダリング部107は、注目点CPが設定された糸T1における光沢の拡がりを算出する。図15は沢の拡がりの算出過程の説明図である。レンダリング部107は、注目点CPを設定した糸T1に対してテクスチャにより定められた繊維密度情報を式(9)のdに代入し、注目点CPにおける鏡面反射光のエネルギーの分布が、繊維密度情報が低い箇所ほど拡がるように光沢係数を補正する(ステップS33)。すなわち、p´は繊維密度が高くなるにつれて増大するため、p´を式(2)のpに代入することで、繊維密度情報が低い箇所ほど鏡面反射光のエネルギーの分布が拡がることになる。
【0089】
p´=p・d (9)
但し、p´は補正された光沢係数を示し、pは注目点CPを設定した糸T1における光沢係数を示す。
【0090】
次に、レンダリング部107は、光沢係数の修正の前後において、鏡面反射成分Iのエネルギーの分布の総量が一定に保たれるように、式(10)を用いて鏡面反射係数Kを補正する(ステップS34)。
【0091】
´=((p´+1)/(p+1))・K (10)
但し、K´は、補正後の鏡面反射係数Kを示し、Kは補正前の鏡面反射成分を示す。
【0092】
すなわち、図15に示すように、式(9)により注目点CPにおける鏡面反射光のエネルギーの分布を広げると、鏡面反射光のエネルギーの総量が増大してしまい、図6のステップS4で係数を規格化した効果が小さくなってしまう。そこで、レンダリング部107は、式(10)により鏡面反射光のエネルギーの分布の総量が、式(9)に示す光沢係数の補正の前後において、一定に保たれるように鏡面反射係数Kを補正する。
【0093】
次に、レンダリング部107は、式(7)を用いて、注目点CPにおける反射光のエネルギーを算出し(ステップS35)、算出した反射光のエネルギーを注目画素SCPにおける画素データとして算出する。ここで、レンダリング部107は、図14に示すように、仮想3次元空間内における光源及び視点の位置から、注目点CPにおける光線方向L及び視線方向Vを求める。また、レンダリング部107は、注目点CPが設定された糸T1における繊維方向Tを、注目点CPの繊維方向Tとして求める。更に、レンダリング部107は、注目点CPが設定された糸T1における法線方向Nを、注目点CPの法線方向Nとして求める。
【0094】
そして、レンダリング部107は、求めた光線方向L、視線方向V、繊維方向Tを式(2)〜(6)のL,V,Tに代入し、ステップS33で補正した光沢係数p´を式(2)のpに代入し、ステップS34で補正した鏡面反射係数K´を式(2)のKに代入し、注目点CPが設定された糸T1に対して定められた繊維密度情報を式(6)のdに代入し、式(7)の演算を行い、注目点CPにおける反射光のエネルギーを算出する。
【0095】
次に、レンダリング部107は、仮想スクリーンの最終画素に対して、ステップS31〜S35の処理を実行した場合は(ステップS36でNO)、エネルギーの算出処理を終了し、最終画素に対してステップS31〜S35の処理を実行していない場合は(ステップS36でNO)処理をステップS31に戻す。
【0096】
図11に戻り、レンダリング部107は、仮想スクリーンを表示制御部108に出力し、表示制御部108は、仮想スクリーンを表示部400に表示して、立体モデルのレンダリング結果を表示部400に表示する(ステップS17)。
【0097】
図16は、立体モデルとしてカーシートを採用した場合の本レンダリング装置によるレンダリング結果を示す画面図であり、(a)はカーシートの腰掛け部の前側部分を上側から見た場合を示し、(b)はカーシートの腰掛け部の前側部分を前方から見た場合を示している。図16(a)、(b)に示すように、カーシートの表面において、起毛処理が施された布がリアルに再現されていることが分かる。
【0098】
図17は、起毛処理された繊維を摂動させた場合におけるカーシートのレンダリング結果を示した画面図である。図17の例えば閉曲線で囲まれた領域内において、繊維が一定の方向に摂動され、カーシートの表面において、起毛処理が施された布がよりリアルに再現されていることが分かる。
【0099】
図18は、模様の付された布をテクスチャとして用いた場合のレンダリング結果を示した図であり、(a)はカーシートの腰掛け部の前側部分を上側から見た場合を示し、(b)はカーシートの腰掛け部の前側部分を前方から見た場合を示している。この場合、図18に示すような模様が付された布をテクスチャのモデルとして採用すればよい。具体的には、テクスチャの各サンプル点C1におけるテクスチャ情報に例えばR,G,Bの色成分で示す色情報を含ませ、レンダリング部107は、この色情報を式(7)のCRGBに代入してレンダリングを行えばよい。
【0100】
このように本レンダリング装置によれば、現物の糸の反射光を測定することで得られる糸の反射特性が取得され、取得された反射特性と反射関数から反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように、鏡面反射係数K、光沢係数p、第1の拡散反射係数Kd1、及び第2の拡散反射係数Kd2が算出され、これらの係数が算出された反射関数を用いて立体モデルがレンダリングされるため、反射関数が実際の糸の反射特性をよりリアルに表すことが可能となり、質感がリアルに再現された布で立体モデル表面を表示することができる。
【0101】
また、反射関数は、布の拡散反射光のうち布の糸の繊維方向を考慮した拡散反射光を示す第1の拡散反射成分Id1と、布の糸の繊維方向を考慮しない拡散反射光を示す第2の拡散反射成分Id2と、起毛処理された糸T1によって散乱する反射光のエネルギーを示す立毛反射成分Wを含んでいるため、反射関数は、起毛処理された布をよりリアルに再現することが可能となり、立体モデルの表面に表示される布をよりリアルに再現することができる。
【0102】
更に、反射関数による反射光のエネルギーの分布の合計が1となるように、鏡面反射係数K、第1及び第2の拡散反射係数Kd1,Kd2が規格化されるため、反射関数に任意の色を取り込んだ場合であっても、布の質感をリアルに表すことができる。
【0103】
更に、鏡面反射成分Iは、遮蔽補正係数Sを含むため、布を構成する糸の表面において、光源からの光が届かないことによる鏡面反射光の低下を再現することができる。
【0104】
更に、色情報取得部103を備えているため、立体モデル表面における布の色をユーザが所望する色に変更することができる。
【0105】
更に、摂動設定情報取得部104を備えているため、立体モデル表面における繊維を摂動させることができ、よりリアルなレンダリングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施の形態によるレンダリング装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すレンダリング装置の機能ブロック図である。
【図3】本レンダリング装置が使用するテクスチャのモデルとなる現物の布を示した断面図である。
【図4】テクスチャのデータ構造を示す模式図である。
【図5】遮蔽補正係数の説明図である。
【図6】本レンダリング装置による反射関数に含まれる係数を算出する処理を示すフローチャートである。
【図7】試料載置テーブルに載置された現物の糸T2を示した図である。
【図8】反射特性測定装置による糸の測定手法の説明図であり、(a)はカメラと光源とのなす方位角が180度の場合を示し、(b)はカメラと光源との方位角が0度の場合を示している。
【図9】反射特性測定装置において測定された糸の反射特性を示すグラフであり、縦軸はエネルギーを示し、横軸は方位角、並びにカメラ及び光源の仰角を示している。
【図10】係数の規格化の説明図である。
【図11】本レンダリング装置によるレンダリング処理を示すフローチャートである。
【図12】レンダリング部によりバンプマッピングされた立体モデルを示した図である。
【図13】エネルギーの算出処理を示すフローチャートである。
【図14】仮想3次元空間内に設定された仮想スクリーンを示す図である。
【図15】沢の拡がりの算出過程の説明図である。
【図16】立体モデルとしてカーシートを採用した場合の本レンダリング装置によるレンダリング結果を示す画面図であり、(a)はカーシートの腰掛け部の前側部分を上側から見た場合を示し、(b)はカーシートの腰掛け部の前側部分を前方から見た場合を示している。
【図17】起毛処理された繊維を摂動させた場合におけるカーシートのレンダリング結果を示した画面図である。
【図18】模様の付された布をテクスチャとして用いた場合のレンダリング結果を示した図であり、(a)はカーシートの腰掛け部の前側部分を上側から見た場合を示し、(b)はカーシートの腰掛け部の前側部分を前方から見た場合を示している。
【図19】立毛反射成分の説明図である。
【図20】カジヤ−ケイモデルを説明するための図である。
【符号の説明】
【0107】
10 反射特性測定装置
100 処理部
101 モデル取得部
102 テクスチャ取得部
103 色情報取得部
104 摂動設定情報取得部
105 反射特性取得部
106 修正部
107 レンダリング部
108 表示制御部
200 記憶部
201 モデル記憶部
202 テクスチャ記憶部
203 反射特性記憶部
204 反射関数記憶部
300 入力部
400 表示部
f1 繊維
鏡面反射成分
d1 第1の拡散反射成分
d2 第2の拡散反射成分
d1 第1の拡散反射係数
d2 第2の拡散反射係数
鏡面反射係数
L 光線方向
N 法線方向
p 光沢係数
S 遮蔽補正係数
V 視線方向
W 立毛反射成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想3次元空間内で予め作成された立体モデルをレンダリングするレンダリングプログラムであって、
前記立体モデルを取得するモデル取得手段と、
布の表面形状を表す高さ情報と、布を構成する糸の繊維方向を示す繊維方向情報とを含み、前記立体モデルの表面に貼り付けられる布のテクスチャを取得するテクスチャ取得手段と、
仮想3次元空間内における光線方向、視線方向、及び前記繊維方向情報により示される繊維方向に応じた糸の反射光のエネルギーを表す反射関数と前記テクスチャとを用いて前記立体モデルをレンダリングするレンダリング手段と、
光線方向及び視線方向を変化させて現物の糸の反射光のエネルギーを測定することで得られる現物の糸の反射特性を取得する反射特性取得手段と、
前記反射特性取得手段により取得された反射特性と、前記反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように前記反射関数を修正する修正手段としてコンピュータを機能させ、
前記レンダリング手段は、前記修正手段により修正された反射関数を用いて前記立体モデルをレンダリングすることを特徴とするレンダリングプログラム。
【請求項2】
前記反射関数は、糸の鏡面反射光のエネルギーを示す鏡面反射成分と、糸の拡散反射光のうち糸の繊維方向を考慮した拡散反射光のエネルギーを示す第1の拡散反射成分と、糸の拡散反射光のうち糸の繊維方向を考慮しない拡散反射光のエネルギーを示す第2の拡散反射成分とを含み、
前記鏡面反射成分は、前記光線方向、前記視線方向、及び前記繊維方向により定められる変数部と、前記変数部にかかる鏡面反射係数と、前記鏡面反射光のエネルギーの分布の拡がりを示す光沢係数とを含み、
前記第1の拡散反射成分は、前記光線方向及び前記繊維方向により定められる変数部と、前記変数部にかかる第1の拡散反射係数とを含み、
前記第2の拡散反射成分は、前記光線方向、及び糸の法線方向により定められる変数部と、前記変数部にかかる第2の拡散反射係数とを含み、
前記修正手段は、前記反射特性取得手段により取得された反射特性と、前記反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように、前記鏡面反射係数と、前記光沢係数と、前記第1の拡散反射係数と、前記第2の拡散反射係数とのうち、少なくともいずれか1つの係数を算出することを特徴とする請求項1記載のレンダリングプログラム。
【請求項3】
前記修正手段は、前記反射関数から得られる反射光のエネルギーの分布の合計が、入射するエネルギーと等しくなるように、前記鏡面反射係数、前記第1の拡散反射係数、及び前記第2の拡散反射係数を規格化することを特徴とする請求項2記載のレンダリングプログラム。
【請求項4】
前記テクスチャは、起毛処理された糸を構成する繊維の密度を示す繊維密度情報を含み、
前記反射関数は、前記繊維密度情報に基づいて、起毛処理された糸を構成する繊維によって散乱する反射光のエネルギーを算出する立毛反射成分を更に含むことを特徴とする請求項2又は3記載のレンダリングプログラム。
【請求項5】
前記レンダリング手段は、前記繊維密度情報が低い箇所ほど、前記鏡面反射光のエネルギーの分布が拡がるように前記光沢係数を補正することを特徴とする請求項4記載のレンダリングプログラム。
【請求項6】
前記鏡面反射成分は、糸を構成する繊維の表面において、光源からの光が到達しない遮蔽領域が存在することに起因する鏡面反射光のエネルギーの低下を再現するための遮蔽補正係数を更に含み、
前記レンダリング手段は、前記遮蔽補正係数を含む鏡面反射成分を用いてレンダリングすることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のレンダリングプログラム。
【請求項7】
前記立体モデルの色を指定するための色情報を取得する色情取得手段を更に備え、
前記レンダリング手段は、前記色情報取得手段によって取得された色情報を用いて前記立体モデルをレンダリングすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のレンダリングプログラム。
【請求項8】
前記起毛処理された繊維の向きに偏りを与えて繊維を摂動させるための摂動設定情報を取得する摂動設定情報取得手段を更に備え、
前記レンダリング手段は、前記摂動設定情報が取得された場合、立体モデル表面の所定の領域において起毛処理された繊維の向きに所定の偏りを与えることを特徴とする請求項4記載のレンダリングプログラム。
【請求項9】
仮想3次元空間内で予め作成された立体モデルをレンダリングするレンダリング装置であって、
前記立体モデルを取得するモデル取得手段と、
布の表面形状を表す高さ情報と、布を構成する糸の繊維方向を示す繊維方向情報とを含み、前記立体モデルの表面に貼り付けられる布のテクスチャを取得するテクスチャ取得手段と、
仮想3次元空間内における光線方向、視線方向、及び前記繊維方向情報に応じた糸の反射光のエネルギーを表す反射関数と前記テクスチャとを用いて前記立体モデルをレンダリングするレンダリング手段と、
光線方向及び視線方向を変化させて現物の糸の反射光のエネルギーを測定することで得られる現物の糸の反射特性を取得する反射特性取得手段と、
前記反射特性取得手段により取得された反射特性と前記反射関数から得られる糸の反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように前記反射関数を修正する修正手段とを備え、
前記レンダリング手段は、前記修正手段により修正された反射関数を用いて前記立体モデルをレンダリングすることを特徴とするレンダリング装置。
【請求項10】
仮想3次元空間内で予め作成された立体モデルをレンダリングするレンダリング方法であって、
コンピュータが、前記立体モデルを取得するステップと、
コンピュータが、布の表面形状を表す高さ情報と、布を構成する糸の繊維方向を示す繊維方向情報とを含み、前記立体モデルの表面に貼り付けられる布のテクスチャを取得するステップと、
コンピュータが、仮想3次元空間内における光線方向、視線方向、及び前記繊維方向情報に応じた糸の反射光のエネルギーを表す反射関数と前記テクスチャとを用いて前記立体モデルをレンダリングするステップと、
コンピュータが、光線方向及び視線方向を変化させて現物の糸の反射光のエネルギーを測定することで得られる現物の糸の反射特性を取得するステップと、
コンピュータが、前記反射特性取得手段により取得された反射特性と前記反射関数から得られる反射光のエネルギーとの誤差が最小となるように前記反射関数を修正するステップとを備え、
前記レンダリングするステップは、前記修正手段により修正された反射関数を用いて前記立体モデルをレンダリングすることを特徴とするレンダリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図19】
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【図20】
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【図3】
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【図7】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−129950(P2008−129950A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316205(P2006−316205)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(501260510)デジタルファッション株式会社 (13)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】